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特許異議申立

2024-700672

車輪用軸受装置

審判番号
2024-700672
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-114842
登録番号
7417370
請求日
2024年07月18日
審決日
2024年10月30日
公報発行日
2024年11月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】NTN株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人矢野内外国特許事務所
  • 【異議申立人】細江 進
審判長/審判官
  • 審判長 平城 俊雅
  • 審判官 中屋 裕一郎
  • 審判官 横山 幸弘
分類
P1651.121-Y (F16C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7417370号発明「車輪用軸受装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7417370号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7417370号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、令和元年6月20日の出願であって、令和6年1月10日にその特許権の設定登録がされ、令和6年1月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和6年7月18日に特許異議申立人 細江 進(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第7417370号の請求項1に係る特許に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、 外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、 前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、 前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、 前記密封装置は、前記外方部材と前記内方部材の一方に設けられ、前記外方部材と前記内方部材の他方に設けられる摺動面に摺動可能に接触するシールリップを有し、 前記シールリップの先端部において、当該シールリップの先端縁から当該シールリップの根元部に向かって1.0mmの範囲内には、前記摺動面側の側面から当該摺動面に向かって突出する複数の環状突起が設けられ、 前記複数の環状突起は、 前記シールリップの先端縁に配置され、前記摺動面と常に接触している第1の環状突起と、 前記第1の環状突起に対して径方向内側に位置し、前記摺動面と接触可能に設けられる第2の環状突起とからなり、 各々の前記環状突起は周方向に連続して形成されていることを特徴とする車輪用軸受装置。 第3 特許異議申立理由の概要 申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 本件発明は、甲第1号証記載の発明、甲第2号証記載の発明から当業者が容易に発明することができたものであり、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきでものある。 (証拠方法) 甲第1号証:特開2004-132519号公報 甲第2号証:特開2013-50179号公報 (以下、甲第1号証、甲第2号証をそれぞれ「甲1」、「甲2」という。) 第4 甲各号証の記載 1.甲1 (1)甲1には、次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は、例えば車両(自動車)の車輪を懸架装置に支持する為の転がり軸受ユニットの開口端部を塞ぐシールリングの改良に関する。具体的には、シール性能、即ち、転動体を設置した内部空間内への泥水等の異物の侵入、並びに、この内部空間内に封入したグリースが外部に漏出するのを防止する性能を向上させると共に、低摩擦化、低摩耗化を図るものである。そして、燃費性能や加速性能を中心とする車両の走行性能を向上させると共に、上記転がり軸受ユニットの保守・管理の簡略化を図る事を目的とするものである。 【0002】 【従来の技術】 各種機械装置の回転支持部に、玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受等の転がり軸受が組み込まれている。この様な転がり軸受にはシールリングを組み込んで、この転がり軸受の内部空間に封入したグリースが外部に漏洩する事を防止すると共に、外部に存在する雨水、泥、塵等の各種異物が転がり軸受の内部に入り込む事を防止している。図20は、この様なシールリングを備えた、シールリング付転がり軸受ユニットの1例として、車両の駆動輪を懸架装置に回転自在に支持する為の構造を示している。 【0003】 上記シールリング付転がり軸受ユニットは、外輪1と、ハブ2と、複数個の転動体3、3とから成る。このうちのハブ2は、ハブ本体4と内輪素子5とを組み合わせて成る。又、上記各転動体3、3は、上記外輪1の内周面に形成した複列の外輪軌道6、6と、上記ハブ2の外周面に形成した複列の内輪軌道7、7との間に、それぞれ複数個ずつ、転動自在に設けている。使用時、即ち車両の懸架装置に車輪を回転自在に支持する際には、上記外輪1を懸架装置を構成するナックル8に固定すると共に、上記ハブ本体4に設けた取付フランジ9に車輪を結合固定する。又、このハブ本体4の中心部に設けたスプライン孔10に、等速ジョイント11に付属のスプライン軸12を係合させる。 【0004】 上述の様なシールリング付転がり軸受ユニットのうちで、上記各転動体3、3を設置した内部空間13にはグリースを封入して、これら各転動体3、3の転動面と、上記各外輪軌道6、6及び内輪軌道7、7との転がり接触部を潤滑する様にしている。又、上記外輪1の両端部内周面と、上記内輪素子5の内端部外周面及び上記ハブ本体4の中間部外周面との間には、それぞれシールリング14a、14bを設けて、上記内部空間13の両端開口部を塞いでいる。 【0005】 上記両シールリング14a、14bのうち、上記内部空間13の内端(軸方向に関して内とは、車両への組み付け状態で幅方向中寄りとなる側を言う。これに対して、幅方向外寄りとなる側を外と言う。本明細書全体で同じ。)開口部を塞ぐシールリング14aは、図21に示す様に構成している。このシールリング14aは、組み合わせシールリングと呼ばれるもので、芯金15と、スリンガ16と、シール材17とから成る。このうちの芯金15は、上記外輪1の端部内周面に内嵌固定自在な外径側円筒部18と、この外径側円筒部18の軸方向外端縁から直径方向内方に折れ曲がった外側円輪部19を備えた、断面L字形で全体を円環状としている。 【0006】 又、上記スリンガ16は、前記内輪素子5の端部外周面に外嵌固定自在な内径側円筒部20と、この内径側円筒部20の軸方向内端縁から直径方向外方に折れ曲がった内側円輪部21とを備えた、断面L字形で円環状としている。又、上記シール材17は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材により造られて、3本のシールリップ22~24を備え、上記芯金15にその基端部を結合固定している。そして、サイドリップと呼ばれる、最も外径側に、軸方向内方に突出する状態で設けられたシールリップ22の先端縁を、上記スリンガ16を構成する内側円輪部21の外側面に全周に亙って摺接させ、残り2本のシールリップ23、24の先端縁を、上記スリンガ16を構成する内径側円筒部20の外周面に全周に亙って摺接させている。 【0007】 一方、上記内部空間13の外端側開口を塞ぐシールリング14bは、図22に示す様に、芯金25とシール材26とから成る。このシール材26は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材により造られて、3本のシールリップ27~29を備え、上記芯金25にその基端部を結合固定している。そして、サイドリップと呼ばれる、最も外径側に、軸方向外方に突出する状態で設けられたシールリップ27の先端縁を、前記取付フランジ9の基端部内側面に全周に亙って摺接させ、残り2本のシールリップ28、29の先端縁を、この基端部内側面と前記ハブ本体4の中間部外周面との連続部乃至この中間部外周面に、全周に亙って摺接させている。」 「【0017】 【課題を解決するための手段】 本発明のシールリング及びシールリング付転がり軸受ユニットのうち、請求項1に記載したシールリングは、前述した従来から知られているシールリングと同様に、弾性材により全体を円環状に造られて、先端縁を側方に存在する相手面に全周に亙り摺接させるシールリップを備える。 特に、本発明のシールリングに於いては、上記シールリップは、その先端縁部に設けられて相手面と全周に亙って摺接する主シール部に加えて、副シール部を備えたものである。この副シール部は、この主シール部よりも上記シールリップの基端寄り部分に設けられて、少なくとも未使用状態で上記相手面に対し、摺接せずに近接対向する。 【0018】 更に、請求項5に記載したシールリング付転がり軸受ユニットは、やはり前述した従来から知られているシールリング付転がり軸受ユニットと同様に、内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、上記外輪の内周面と上記内輪の外周面との間に存在する空間の端部開口を塞ぐシールリングとを備える。 特に、上記請求項5に記載したシールリング付転がり軸受ユニットに於いては、上記シールリングが、上述したシールリングである。 尚、上記シールリング付転がり軸受ユニットには、外輪と内輪とのうちの一方の軌道輪で使用時に回転する軌道輪が、使用時に車輪を結合固定するハブであり、上記外輪と内輪とのうちの他方の軌道輪で使用時にも回転しない軌道輪が、懸架装置に支持される静止輪である、所謂ハブユニットを含む。 【0019】 【作用】 前述の様に構成する本発明のシールリングは、次の様に作用するので、摩擦抵抗の増大を抑えつつ、良好なシール性能の確保と耐久性向上とを図れる。以下、その理由に就いて説明する。 本発明のシールリングの場合、使用開始直後の状態では、シールリップに設けた主シール部と副シール部とのうちの主シール部のみが、金属製の相手面と摺接する。この状態では、上記シールリップに関する摺接部は、上記主シール部の1個所のみである為、摩擦抵抗を低く抑えて、上記シールリングを組み込んだシールリング付転がり軸受ユニットの回転トルクが増大するのを抑えられる。しかも、次述する様に、上記主シール部に関する摺接部が摩耗した場合には、上記副シール部がシール性の確保に寄与するので、上記主シール部に関する締め代を、摩耗時の事を考慮して大きめに設定する必要はない。この為、上記主シール部と相手面との摺接部の面圧を低減して、上記摩擦抵抗をより一層低減できる。更には、副シール部を設けたシールリップに関するシール性能を、この副シール部の存在に基づいて確保できる。この為、この副シール部を設けたシールリップ以外のシールリップの数を減らしたり、その締め代を低減する事が可能となり、摩擦部分を減らしたり、摩擦力を低く抑える事により、更なる摩擦抵抗の低減を図れる。 【0020】 上記相手面と副シール部とは、上記主シール部が泥塩水環境に曝される事で、これら相手面と主シール部とが摩耗し、この主シール部の締め代が低下した状態で、始めて摺接する。即ち、この主シール部と相手面との摺接部が泥塩水環境に曝されると、前述の様なアブレッシブ摩耗に基づき、上記主シール部と相手面とが摩耗して、この主シール部に関する締め代が低下しつつ、上記シールリップが、その先端部を上記相手面に近づける方向に変位する。 そして、上記主シール部及び相手面の摩耗が或る程度進行した状態で、この主シール部だけでなく副シール部も相手面に摺接し始める。この様に副シール部と相手面とが摺接し始めた状態で、これら副シール部及び相手面は、何れも摩耗していない。即ち、この状態では、副シール部はシールリップを形成した直後のままの形状(性状)であり、相手面は加工直後の平滑面のままである。従って、新たに摺接し始めた、上記副シール部と相手面との摺接状態は良好であり、当該部分のシール性能が良好になって、それ以上の泥塩水侵入を阻止する。 【0021】 【発明の実施の形態】 図1は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、複数の転動体3、3を設けた内部空間13(図20参照)の内端開口部を塞ぐシールリング14aを構成するシールリップ22aの形状を工夫する事により、このシールリップ22aによるシール性並びにこのシールリップ22aの耐久性の向上を図る点にある。その他の部分の構成及び作用は、前述の図21に示した従来構造と同様であるから、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分、並びに前述した従来構造と異なる部分を中心に説明する。 【0022】 組み合わせシールリングであるシールリング14aを構成するシール材17には、3本のシールリップ22a、23、24を設け、これら各シールリップ22a、23、24の先端縁部を、スリンガ16に摺接させている。これら各シールリップ22a、23、24のうち、サイドリップと呼ばれる、最も外径側に、軸方向内方に突出する状態で設けられたシールリップ22aの先端部に、主シール部30と副シール部31とを、互いに同心に、それぞれ全周に亙って設けている。そして、新品の状態、即ち、上記主シール部30と上記スリンガ16とが何れも摩耗していない状態で、この主シール部30の先端縁を、このスリンガ16を構成する内側円輪部21の外側面に全周に亙って摺接させると共に、上記副シール部31の先端縁をこの内側円輪部21の外側面に、全周に亙って微小隙間を介して対向させている。言い換えれば、新品時の状態では、上記副シール部31の先端縁と上記内側円輪部21の外側面とは非接触である。 【0023】 上述の様に構成する本例のシールリング14aの場合、使用開始直後の状態では、図1(A)に示す様に、上記シールリップ22aに設けた上記主シール部30と副シール部31とのうちの主シール部30のみが、金属製の相手面である、上記内側円輪部21の外側面と摺接する。言い換えれば、上記副シール部31の先端縁は、この外側面とは擦れ合わない。この様に、使用開始直後の状態では、上記シールリップ22aに関する摺接部は、上記主シール部30の1個所のみである。この為、摩擦抵抗を低く抑えて、上記シールリング14aを組み込んだ、例えば前述の図20に示す様なシールリング付転がり軸受ユニットの回転トルクが増大する事を抑えられる。 【0024】 しかも本例の場合には、上記主シール部30に関する締め代を、摩耗時の事を考慮して大きめに設定する必要はない。この理由は、図1(B)に示す様に、上記主シール部30に関する摺接部、即ち、この主シール部30の先端縁とこの先端縁が対向する上記内側円輪部21の外側面とが摩耗した場合には、上記副シール部31がシール性の確保に寄与する為である。即ち、上記主シール部30の先端縁と上記内側円輪部21の外側面との摩耗時には、上記副シール部31が、上記シールリング14aとしてのシール性能を確保する。従って、上記主シール部30に関する締め代を、上記摩耗時にもこの主シール部30のみで必要とするシール性能を確保できる程に大きくする必要はない。従って、上記主シール部30と上記内側円輪部21の外側面との摺接部の面圧を低減して、上記摩擦抵抗をより一層低減できる。」 「【図1】 [図:0001416520000001.jpg] 」 「【図20】 【図21】 [図:0001416520000002.jpg] 」 (2)図1に示された態様のシールリング14aは、図20に示された態様の車輪を懸架装置に支持する為のシールリング付転がり軸受ユニットの内部空間13の内端開口部を塞ぐためのものである(段落【0003】、【0021】)。また、図21は、図20のシールリング14aの構成を示したものであり(段落【0005】)、図1との同等部分には同一符号を付してある(段落【0021】)。これらの事項も踏まえると、上記(1)の記載から、図1に示された態様のシールリング14aを備えた車輪を懸架装置に支持する為のシールリング付転がり軸受ユニットに関し、次の技術的事項が記載されていると認められる。 ア.車輪を懸架装置に支持する為のシールリング付転がり軸受ユニットは、外輪1と、ハブ2と、転動体3と、シールリング14aを備えている(段落【0003】、段落【0021】)。 イ.外輪1には、内周面に複列の外輪軌道6が形成されている(段落【0003】、図20)。 ウ.ハブ2は、ハブ本体4と内輪素子5とを組合せて成る(段落【0003】、図20)。そして、図20から、ハブ本体4が“外周に軸方向に延びる段部を有する”点、及び、内輪素子5が“ハブ本体4の段部に取り付けられる”点が、看て取れる。 また、ハブ2に複列の外輪軌道7が形成されている(段落【0003】、図20)。そして、図20から、複列の内輪軌道7が“複列の外輪軌道6に対向している”点が、看て取れる。 エ.転動体3は、複列の外輪軌道6と複列の内輪軌道7との間に転動自在に設けられている(段落【0003】、図20)。 オ.シールリング14aは“内部空間13の開口部を塞ぐ”ものである(段落【0021】、図20)。そして、内部空間13は“外輪1とハブ2との間”の空間であるが(図20)、車輪を懸架装置に支持する為のシールリング付転がり軸受ユニットが有する通常の構造を踏まえれば、その内部空間13は、外輪1とハブ2との間の“環状”の空間であることは、当業者には明らかである。 カ.シールリング14aは、相手面に摺接するシールリップ22aを有する(段落【0017】、【0021】、図1)。シールリップ22aは、図1と同等部分には同一符号を付してある図21も参酌すると、その基端部を芯金15に結合固定され(段落【0006】)、その芯金15が外輪1の端部内周面に内嵌固定される(段落【0005】)のであるから、外輪1に設けられているといえる。また、相手面は、図1と同等部分には同一符号を付してある図21も参酌すると、スリンガ16に設けられ、そのスリンガ16は内輪素子5の端部外周面に外嵌固定される(段落【0006】)のであるから、内輪素子5に設けられているといえる。 キ.シールリップ22aの先端部に、それぞれ全周に亙って主シール部30と副シール部31が設けられている(段落【0022】、図1)。図1から、副シール部30が、シールリップ22aの相手面側の側面から相手面に向かって突出する点が看て取れる。 ク.図1から、主シール部30がシールリップ22の先端の角部に設けられている点が看て取れる。そして、主シール部30は、使用開始直後から相手面に摺接するものである(段落【0019】、【0023】)。 また、図1から、副シール部31が主シール部30の径方向内側に位置する点が看て取れる。そして、副シール部31は、使用開始直後は相手面に摺接しないが(段落【0019】、【0023】)、主シール部30と相手面の摩耗がある程度進行したときに相手面に摺接するものである(段落【0020】、【0024】)。 以上を総合すると、甲1には、車輪を懸架装置に支持する為のシールリング付転がり軸受ユニットに係る次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲1発明] 内周面に複列の外輪軌道6が形成された外輪1と、 外周に軸方向に延びる段部を有するハブ本体4と、ハブ本体4の段部に取り付けられた内輪素子5とを組み合わせて成り、複列の外輪軌道6に対向する複列の内輪軌道7が形成された、ハブ2と、 複列の外輪軌道6と複列の内輪軌道7との間に転動自在に設けられた転動体3と、 外輪1とハブ2との間の環状の内部空間13の開口部を塞ぐシールリング14aとを備える、車輪を懸架装置に支持する為のシールリング付転がり軸受ユニットであって、 シールリング14aは、外輪1に設けられ、内輪素子5に設けられる相手面に摺接するシールリップ22aを有し、 シールリップ22aの先端部に、それぞれ全周に亙って、主シール部30と、シールリップ22aの相手面側の側面から相手面に向かって突出する副シール部31とが設けられ、 主シール部30はシールリップ22aの先端の角部に設けられ、使用開始直後から相手面に摺接し、 副シール部31は主シール部の径方向内側に位置し、使用開始直後は相手面に摺接しないが、主シール部30と相手面の摩耗がある程度進行したときに相手面に摺接する、 車輪を懸架装置に支持する為のシールリング付転がり軸受ユニット。 2.甲2 (1)甲2には、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、密封装置に係り、更に詳しくは、相手部材に摺動可能に密接するシールリップを備えるとともに前記シールリップの摺動面に複数の環状突起よりなる平行突起形状を備える密封装置に関する。本発明の密封装置は例えば、自動車関連の分野で用いられ、または汎用機械の分野などで用いられる。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は以上の点に鑑みて、相手部材に摺動可能に密接するシールリップを備えるとともに前記シールリップの摺動面に複数の環状突起よりなる平行突起形状を備える密封装置において、リップ摺動時に発生する摩擦トルクを十分に低減させることができる密封装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 上記目的を達成するため、本発明の密封装置は、相手部材に摺動可能に密接するシールリップを備えるとともに前記シールリップの摺動面に複数の環状突起よりなる平行突起形状を備える密封装置において、前記複数の環状突起を互いに隣り合う環状突起間に平坦部が設けられるように間隔をあけて設け、かつ前記複数の環状突起のうちの1つの環状突起を前記シールリップの最先端部に設けたことを特徴とする。 【発明の効果】 【0009】 上記構成を備える本発明の密封装置においては、互いに隣り合う環状突起間に平坦部が設けられるように複数の環状突起が所定の間隔をあけて設けられているために、互いに隣り合う環状突起間に従来対比で比較的大きな断面積の溝部が形成され、よってこの溝部に比較的多量の潤滑剤を貯留することが可能とされている。潤滑剤は貯留量が多いほど潤滑効果が大きいものである。 【0010】 また、本発明の密封装置においては、複数の環状突起のうちの1つの環状突起がシールリップの最先端部に設けられているために、シールリップの最先端部には上記従来技術における面接触領域に相当する構成が設けられておらず、よって摺動トルク低減の阻害要因が1つ解消されている。 【0011】 したがって、これらのことから本発明によれば所期の目的どおり、リップ摺動時に発生する摩擦トルクを十分に低減させることができる。」 「【発明を実施するための形態】 【0013】 本発明には、以下の実施形態が含まれる。 (1)本発明は、シール性を維持しながら摩擦の低減効果を得るための平行突起形状に関する改良発明である。図2に示すように本発明では、上記先行技術と異なり、突起は非常に細かくリップ先端から連続ではなく一定の間隔をあけて付与している。突起による接触面積の低減および突起間の溝による潤滑剤の保持力の向上から摩擦が低減する。リップの角度は上記先行技術と同様にα>βとする。シール性は、突起を環状に複数設けることで維持している。 (2)尚、突起のピッチ間隔Pが大き過ぎると、摺動領域内で相手部材に接触する突起が1個だけとなりシール性が低下するので、留意する必要がある。トルク低減効果を得ながらシール性を維持するには、突起のピッチ間隔Pを例えば0.04mm<P<0.40mmとするのが望ましい。本発明では突起を細かく付与しているため、接触状態に与える影響はほとんどなく、リップの摺動範囲が小さいシールや、しめ代変動により接触幅が小さくなるシールに対しても適用可能である。」 「【0020】 図2に拡大して示すように、平行突起形状11は、複数の環状突起12によって構成されている。シールリップ8の摺動面8aに設けられる突起としては、いわゆるポンピング作用をなすためのネジ突起が知られているが、本発明ではこのようなネジ状の突起ではなく、環状エンドレス状の突起12が設けられている。環状突起12の本数は特に制限されないが、3~7本程度が好適である。複数の環状突起12の断面形状は同形同大に成形されている。 【0021】 環状突起12はそれぞれ断面三角形状に成形されている。金属環2のフランジ部2bの軸方向端面2cに対する大気側斜面12aの傾斜角度αは軸側斜面12bの傾斜角度βよりも大きく設定されている(α>β)。互いに隣り合う環状突起12同士の間には、傾斜角度をほとんど持たない環状の平坦部13が設けられている。したがって互いに隣り合う環状突起12同士は平坦部13の幅寸法w1に相当する間隔をあけて設けられている。また、平坦部13が設けられるのに伴って環状突起12間の溝部14は断面台形状に形成されている。 【0022】 尚、互いに隣り合う環状突起12同士が間隔をあけて設けられていると云うことは、これを換言すると、環状突起12の幅寸法よりも環状突起12のピッチ寸法のほうが大きく設定されていることになる。 【0023】 また、複数の環状突起12のうち、シールリップ8の最も先端側に配置される環状突起12はシールリップ8の最先端部8bに設けられており、すなわち総じて平行突起形状11はシールリップ8の最先端部8bに設けられている。したがってシールリップ8の最先端部8bには上記従来技術における面接触領域57に相当する構成は設けられていない。」 「【0025】 上記構成の密封装置1においては、互いに隣り合う環状突起12間に平坦部13が設けられるように複数の環状突起12が所定の間隔をあけて設けられているために、互いに隣り合う環状突起12間に従来対比で比較的大きな断面積の溝部14が形成され、よってこの溝部14に比較的多量の潤滑剤を貯留することが可能とされている。また、複数の環状突起12のうちの1つの環状突起12がシールリップ8の最先端部8bに設けられているために、シールリップ8の最先端部8bには上記従来技術における面接触領域57に相当する構成が設けられておらず、よって摺動トルク低減の阻害要因が1つ解消されている。したがってこれらのことからリップ摺動時に発生する摩擦トルクを十分に低減させることができる。」 「【図1】 【図2】 [図:0001416520000003.jpg] 」 (2)上記(1)の記載から、甲2には次の事項が記載されていると認められる。 ア.密封装置が、相手部材に摺動可能に密接するシールリップの摺動面に複数の環状突起を備えている(段落【0008】)。 イ.複数の環状突起のうちの一つをシールリップの最先端部に設けている(段落【0008】、【0023】)。突起のピッチ間隔Pは0.04mm<P<0.40mmとされ(段落【0013】)、環状突起の幅寸法よりも環状突起のピッチ寸法のほうが大きく設定されている(段落【0022】)。 ウ.複数の突起は、突起間の溝に潤滑油を貯留するもの(段落【0009】及び段落【0013】中の(1))であるところ、常に複数の突起が相手部材に接触しているものと解される。また、「突起のピッチ間隔Pが大き過ぎると、摺動領域内で相手部材に接触する突起が1個だけとなりシール性が低下するので、留意する必要がある。トルク低減効果を得ながらシール性を維持するには、突起のピッチ間隔Pを例えば0.04mm<P<0.40mmとするのが望ましい。」との記載(段落【0013】中の(2))からすれば、甲2記載の複数の突起は、その突起のピッチ間隔Pを調整することで、常に、1個ではなく複数の突起を相手部材に接触させることで、シール性を維持するものといえる。また、図2からは、複数の突起が相手部材に接触している点が看て取れる。 以上を総合すると、甲2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 [甲2記載の技術的事項] 密封装置において、相手部材に摺動可能に密接するシールリップの摺動面に複数の環状突起を設けるあたり、 複数の環状突起のうちの一つをシールリップの最先端部に設け、環状突起のピッチ間隔Pを0.04mm<P<0.40mm、かつ、環状突起の幅寸法よりも大きく設定し、常に複数の環状突起を相手部材に接触させる点。 第5 当審の判断 1.対比 本件発明と甲1発明とを対比する。 (1)甲1発明の「内周面に複列の外輪軌道6が形成された外輪1」が、それぞれ本件発明の「内周に複列の外側軌道面を有する外方部材」に相当する。 (2)甲1発明の「段部」及び「ハブ本体4」が、それぞれ本件発明の「小径段部」及び「ハブ輪」に相当する。甲1発明の「内輪素子5」は本件発明の「内輪」に相当し、甲1発明の「ハブ本体4の段部に取り付けられた内輪素子5」は、本件発明の「前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪」との対比において、「前記ハブ輪の小径段部に取り付けられた少なくとも一つの内輪」である限りにおいて一致する。 甲1発明の「複列の外輪軌道6に対向する複列の内輪軌道7が形成され」ることは、本件発明の「前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する」ことに相当する。 そうすると、甲1発明の「外周に軸方向に延びる段部を有するハブ本体4と、」「内輪素子5とを組み合わせて成り、複列の外輪軌道6に対向する複列の内輪軌道7が形成された、ハブ2」は、本件発明1の「外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および」「少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材」に相当する。 (3)甲1発明の「複列の外輪軌道6」と「複列の内輪軌道7」とは、それぞれ「外輪1」と「ハブ2」に設けられているから、甲1発明の「複列の外輪軌道6と複列の内輪軌道7との間」は本件発明の「前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間」に相当する。甲1発明の「転動自在に設けられた転動体3」は本件発明の「転動自在に収容された複列の転動体」に相当する。 (4)甲1発明において、空間が「外輪1とハブ2との間」にあることが、本件発明において空間が「前記外方部材と前記内方部材とによって形成され」ることに相当し、甲1発明の「環状の内部空間13」が本件発明の「環状空間」に相当する。甲1発明の環状の内部空間13の「開口部」及び「シールリング14a」が、本件発明の環状空間の「開口端」及び「密封装置」に相当する。 甲1発明の「車輪を懸架装置に支持する為のシールリング付転がり軸受ユニット」が本件発明の「車輪用軸受装置」に相当する。 (5)甲1発明の「シールリップ22a」及び「相手面」がそれぞれ、本件発明の「シールリップ」及び「摺動面」に相当し、甲1発明の「シールリップ22a」が「外輪1に設けられ」ること、「相手面」が「内輪素子5に設けられる」ことがそれぞれ、本件発明の「シールリップ」が「前記外方部材と前記内方部材の一方に設けられ」ること、「摺動面」が「前記外方部材と前記内方部材の他方に設けられる」ことに相当する。甲1発明の「シールリップ22a」が「相手面に摺接する」ことは、本件発明の「シールリップ」が「摺動面に摺動可能に接触する」ことに相当する。 (6)甲1発明において、「主シール部30」と「副シール部31」とは「全周に亙って」「設けられ」ているから、“環状”をなすといえる。そうすると、甲1発明の「主シール部30」及び「副シール部31」は、本件発明の「複数の環状突起」との対比において、「複数の環状シール部」である限りにおいて一致する、 (7)甲1発明の「シールリップ22aの先端の角部に設けられ」ることは、本件発明の「シールリップの先端縁に配置され」ることに相当し、甲1発明の「使用開始直後から相手面に摺接」することは、本件発明の「前記摺動面と常に接触している」ことに相当する。甲1発明の「主シール部30」は本件発明の「第1の環状突起」との対比において、「第1の環状シール部」である限りにおいて一致する。 (8)甲1発明の「主シール部の径方向内側に位置」することは、本件発明の「前記第1の環状突起に対して径方向内側に位置」することとの対比において、「第1の環状シール部に対して径方向内側に位置」するという限りにおいて一致する。そして、甲1発明の「副シール部31」は「シールリップ22aの相手面の側面から相手側面に向かって突出する」から、本願発明の「第2の環状突起」と対比において、「第2の環状シール部」である限りにおいて一致する。 本件発明において、「第2の環状突起」は「前記摺動面と接触可能に設けられる」と特定されているが、本件特許の明細書には、図3(a)の状態では「第2の環状突起」にあたる「環状突起123b」が摺動面とは接触していないものの、図3(b)のように「吸着が発生した場合」には「第2の環状突起」にあたる「環状突起123b」が摺動面と接触するようになっている旨が記載されている(本件特許の明細書段落【0035】参照)。かかる記載を踏まえれば、本件発明における「前記摺動面と接触可能に設けられる」とは、ある状況下で摺動面と接触し得るようにされていることを意味すると解釈できるところ、甲1発明において、「使用開始直後は相手面に摺接しないが、主シール部30と相手面の摩耗がある程度進行したときに相手面に摺接する」ことは、本件発明の「前記摺動面と接触可能に設けられる」ことに相当するといえる。 (9)甲1発明の「主シール部30」と「副シール部31」の各々は、本件発明の「各々の前記環状突起」との対比において、「各々の前記環状シール部」である限りにおいて一致する。また、甲1発明において、主シール部30と副シール部31が「全周に亙って」「設けられ」ていることは、本件発明において、各々の前記環状シール部が、「周方向に連続して形成されている」ことに相当する。 以上を総合すると、甲1発明1と本件発明とは以下の一致点で一致し、また以下の相違点で相違する。 [一致点] 内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、 外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に取り付けられた少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、 前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、 前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、 前記密封装置は、前記外方部材と前記内方部材の一方に設けられ、前記外方部材と前記内方部材の他方に設けられる摺動面に摺動可能に接触するシールリップを有し、 前記シールリップの先端部において、複数の環状シール部が設けられ、 前記複数の環状シール部は、 前記シールリップの先端縁に配置され、前記摺動面と常に接触している第1の環状シール部と、 前記第1の環状シール部に対して径方向内側に位置し、前記摺動面と接触可能に設けられる第2の環状シール部とからなり、 各々の前記環状シール部は周方向に連続して形成されている、車輪用軸受装置。 [相違点1] 本件発明においては、内輪がハブ輪の小径段部に「圧入された」ものであるのに対し、甲1発明においては、内輪素子5が、ハブ本体4の段部に圧入されたものか否か明らかでない点。 [相違点2] 「第1の環状シール部」と「第2の環状シール部」とからなる「複数の環状シール部」に関し、本件発明は、それらが「第1の環状突起」と「第2の環状突起」とからなる、「前記摺動面側の側面から当該摺動面に向かって突出する複数の環状突起」であるのに対して、甲1発明は、それらが「主シール部30」と「副シール部31」であり、「副シール部31」は「シールリップ22aの相手面側の側面から相手面に向かって突出する」ものであるが、「主シール部30」はシールリップ22aの相手面側の側面から相手面に向かって突出するものではない点。 [相違点3] 「複数の環状シール部」に関し、本件発明は、「当該シールリップの先端縁から当該シールリップの根元部に向かって1.0mmの範囲内に」「複数の環状突起が設けられ」ているのに対し、甲1発明は、「主シール部30」と「副シール部31」とが、シールリップ22aの先端縁に対してどの程度の範囲内に設けられるのか、明らかでない点。 2.判断 事案にかんがみ、まず、上記相違点2及び3について検討する。 甲2には、上記第4の2.のとおりの技術的事項が記載されている。また、この甲2記載の技術的事項のように「複数の環状突起のうの一つをシールリップの最先端部に設け、環状突起のピッチ間隔Pを0.04mm<P<0.40mm、かつ、環状突起の幅寸法よりも大きく設定」すれば、最先端部の環状突起の幅寸法を加味したとしても、シールリップの先端縁からシールリップの根元部に向かって1.0mmの範囲内に複数の環状突起が存在することとなる。 しかし、甲1発明と甲2記載の技術的事項とは、シール部に複数の環状シール部を設けている点において共通するものの、その複数の環状シール部の使い方は異なっている。甲1発明においては、「主シール部30は」「使用開始直後から相手面に摺接し」、「副シール部31は」「使用開始直後は相手面に摺接しないが、主シール部30と相手面の摩耗がある程度進行したときに相手面に摺接する」というように、状況に応じて複数のシール部の接触態様を変化させる使い方をしているのに対し、甲2記載の技術的事項においては、突起間の溝に潤滑油を貯留し、かつ、シール性を確保するために「常に複数の環状突起を相手部材に接触」させており、複数のシール部の接触態様を意図的に変化させるような使い方をしていない。このような甲1発明と甲2記載の技術的事項との間での、複数の環状シール部の接触態様の違いにかんがみれば、たとえ甲1発明と甲2記載の技術的事項とが技術分野が共通し、シールリップの摺動における低摩擦化という点で共通しているとしても、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。 そして、本件発明は、相違点2及び3に係る構成を備えることにより、シールリップの先端部の摺動面に対する吸着が発生した場合に、シールリップの先端部が全体的に摺動面に接触するのではなく、複数の環状突起が接触することとなり、接触面積を小さくできるため、車輪用軸受装置における回転トルクの増加、ならびにシールリップの磨耗を抑制できるという、甲1及び甲2からは予測し得ない格別な効果を奏するものである(段落【0035】、【0036】参照)。 申立人は、上記相違点2及び3に関連し、「かかる引用発明2は引用発明1と同様にシールリップを備えた密封装置に関する点で技術分野を共通にしている。また、シールリップの摺動における低摩擦化という共通の課題を有していることから、明らかに引用発明1に引用発明2を適用する動機づけがある。」と主張する(令和6年7月18日に提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)の第11頁第9~12行(行数には、空白の行は含んでいない。))。 しかし、既に説示したとおり、甲1発明と甲2記載の技術的事項との間での複数の環状シール部の接触態様の違いにかんがみれば、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機付けがあるとは言えず、申立人の主張は採用できない。 また、申立人は「引用発明1の1gに代えて、引用発明2を適用し、副シール部31のみらならず主シール部30を摺動面側の側面から当該摺動面に向かって突出させること、そして、複数の環状突起を先端から1.0mm以内に配置して特許発明のように構成することは当業者が容易に想到することができるものである。」(申立書の第11頁第13~16行)とし、甲2記載の技術的事項から、複数の環状突起を設ける点(言い換えれば、複数の環状突起のうちのシールリップの最先端部のものも突起とする点)と、複数の環状突起を先端から1.0mm以内に配置する点を甲1発明に適用することを主張している。 しかし、甲2記載の技術事項は、複数の環状突起を設けるという構成、及びその複数の環状突起を所定のピッチ間隔P及び所定の幅寸法で設けるという構成に加え、「常に複数の環状突起を相手部材に接触」という構成も備えており、これらの3つの構成は、突起間の溝に潤滑油を貯留し、かつ、シール性を確保する上で、一体不可分の構成であるといえるところ(上記第4の2.ウ.を参照)、甲2記載の技術的事項から、「常に複数の環状突起を相手部材に接触」という構成を除いて、複数の環状突起を設けるという構成、及びその複数の環状突起を所定のピッチ間隔P及び所定の幅寸法で設けるという構成だけを取り出して、甲1発明に適用することに、合理的な理由は見いだせない。 以上のことから、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用して、本件発明の相違点2及び3に係る構成とすることが、当業者にとって容易であるとはいえない。 したがって、本件発明は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明、甲2記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700672

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