特許異議申立
2025-700651
アンギュラ玉軸受
- 審判番号
- 2025-700651
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-551924
- 登録番号
- 7605215
- 請求日
- 2025年06月20日
- 審決日
- 2025年10月27日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本精工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】岡本 拓郎
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 石井 孝明
- 審判官 岩瀬 昌治
- 分類
- P1651.121-Y (F16C) / P1651.537-Y (F16C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7605215号発明「アンギュラ玉軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7605215号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7605215号の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和3年9月15日(優先権主張 令和2年9月28日)を国際出願日とする出願であって、令和6年12月16日にその特許権の設定登録がされ、令和6年12月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年6月20日に特許異議申立人岡本拓郎(以下「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
特許第7605215号の請求項1~9の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
外周面に断面円弧状の内輪軌道溝を有する内輪と、
内周面に断面円弧状の外輪軌道溝を有する外輪と、
前記内輪軌道溝と前記外輪軌道溝との間に転動自在に設けられた複数の玉と、を備えるアンギュラ玉軸受であって、
玉径に対する前記内輪軌道溝の溝曲率半径比(Ri)が54~58%、前記玉径に対する前記外輪軌道溝の溝曲率半径比(Ro)が51~58%、且つ、Ri-Ro≧0ポイントであるとともに、
少なくとも前記内輪軌道溝は、前記玉と前記内輪軌道溝との接触部中央における前記玉及び前記内輪軌道溝の永久変形量の和が、前記玉径の1万分の1となる際の最大面圧が4.7~6.0GPaであることを特徴とするアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
Ri-Ro≧1ポイントである、請求項1に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項3】
少なくとも前記内輪軌道溝には、機械加工による表面硬化層が形成される、請求項1又は2に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項4】
前記内輪軌道溝と前記外輪軌道溝のうち、前記内輪軌道溝のみに、機械加工による表面硬化層が形成される、請求項1又は2に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項5】
前記玉の材質がセラミックである、請求項1~4のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項6】
玉径/断面高さ比が0.39~0.65倍である、請求項1~5のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項7】
前記玉径/断面高さ比が0.55~0.65倍である、請求項6に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項8】
dmn80万以上の工作機械主軸に用いられ、予圧が付与されるアンギュラ玉軸受である、請求項1~7のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項9】
前記内輪および前記外輪の少なくとも一方が、C:0.2~1.2質量%、Si:0.7~1.5質量%、Mo:0.5~1.5質量%、Cr:0.5~2.0質量%、残部Feおよび不可避的不純物元素を含有する鋼からなり、かつ、
表面炭素濃度が0.8~1.3質量%、表面窒素濃度が0.2~0.8質量%である、
請求項1~8のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。」
3 申立理由の概要
(1)特許法第29条第2項について
異議申立人は、主たる証拠として特開2004-316816号公報(甲第1号証、以下「甲1」という。)、及び従たる証拠として特開2008-267402号公報(甲第2号証、以下「甲2」という。)、特開2008-291341号公報(甲第3号証、以下「甲3」という。)、特開2005-76679号公報(甲第4号証、以下「甲4」という。)、特開2005-240881号公報(甲第5号証、以下「甲5」という。)、特開平9-177795号公報(甲第6号証、以下「甲6」という。)、特開2003-329048号公報(甲第7号証、以下「甲7」という。)を提出し、請求項1~9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~9に係る特許を取り消すべきである旨主張する。
(2)特許法第36条第2項について
異議申立人は、請求項3、4に係る特許について「機械加工による」との記載(製造方法の記載)が、物のどのような構造または特性を特定するかが不明であるため請求項3、4に係る特許は不明確であることから、請求項3、4に係る特許は、同法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、請求項3、4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
4 各甲号証の記載
(1)甲1について
ア 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審合議体にて付した。以下同様。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種の工作機械などに用いられる玉軸受及び工作機械用主軸装置に関する。」
「【0021】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、グリース潤滑で高速回転に伴う発熱量を抑制しかつ高剛性で焼付きを防止し、転がり疲労寿命を長くすることができると共に工作機械主軸用軸受として用いる場合の静的アキシアル負荷容量を確保し、さらに環境面、コスト面で有利な玉軸受及び工作機械用主軸装置を提供しようとするものである。」
「【0038】
表2に示される計算結果から、工作機械主軸支持用として最も適している玉軸受は玉の直径をDaとすると内側軌道溝の幅方向断面の曲率半径RiがRi=0.54Daであり、また外側軌道溝の幅方向断面の曲率半径RoがRo=0.52Daもしくは0.54Daであることがわかる。しかし、軸受を実際に製作する際には製作誤差も含まれるため、内側軌道溝の幅方向断面の曲率半径RiをRi=0.535Da~0.545Da、外側軌道溝の幅方向断面の曲率半径RoをRo=0.515Da~0.545Daの範囲とするのが望ましい。」
「【0046】
図11は、本発明の第1実施形態に係るグリース潤滑される玉軸受の部分断面図である。本実施形態の玉軸受(アンギュラ玉軸受)10は、工作機械の主軸支持用の外輪カウンタボア軸受である。同図に示すように、本発明の一実施形態に係る玉軸受10は、リング状に形成された内輪11と、この内輪11の外周に同心円状に配置された外輪12とを備えており、内輪11及び外輪12のうち少なくとも一方は、重量比でCを0.2~1.2%、Siを0.4~1.5%、Moを0.5~1.5%、Crを0.5~2.0%、残部Fe及び不可避的不純物元素を含有する鉄鋼材料からなり、表面炭素濃度が0.3~1.3%、表面窒素濃度が0.2~0.8%となるように、浸炭窒化処理が施されている。また、玉軸受10は内輪11と外輪12との間に転動自在に組み込まれた複数の玉13と、これらの玉13を保持する保持器14とを備えており、内輪11の外周面には内側軌道溝11aが形成されている。この内側軌道溝11aは外輪12の内周面に形成された外側軌道溝12aと対向しており、これらの軌道溝11a,12aは幅方向断面が円弧状に形成されている。」
(ア) 【0046】から、外周面に幅方向断面を円弧状に形成した内側軌道溝11aを有する内輪11と、内周面に幅方向断面を円弧状に形成した外側軌道溝12aを有する外輪12と、内側軌道溝11aと外側軌道溝12aとの間に転動自在に組み込まれた複数の玉13を備えるアンギュラ玉軸受10であることがわかる。
(イ) 【0038】から、玉13の直径をDaとすると内側軌道溝11aの幅方向断面の曲率半径RiがRi=0.54Daであり、外側軌道溝の幅方向断面の曲率半径RoがRo=0.52Daもしくは0.54Daであり、Ri-Ro=0もしくはRi-Ro=0.02Daであることがわかる。
(ウ) 甲1発明
前記(ア)、(イ)の内容を総合すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「外周面に幅方向断面を円弧状に形成した内側軌道溝11aを有する内輪11と、
内周面に幅方向断面を円弧状に形成した外側軌道溝12aを有する外輪12と、
前記内側軌道溝11aと前記外側軌道溝12aとの間に転動自在に組み込まれた複数の玉13と、を備えるアンギュラ玉軸受10であって、
前記玉13の直径をDaとすると前記内側軌道溝11aの幅方向断面の曲率半径RiがRi=0.54Daであり、前記外側軌道溝12aの幅方向断面の曲率半径RoがRo=0.52Daもしくは0.54Daであり、且つ、Ri-Ro=0もしくはRi-Ro=0.02Daであるアンギュラ玉軸受10。」
(2)甲2について
ア 甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0003】
特許文献1にも記載されているように、異物混入潤滑環境下で転がり軸受を使用した際に生じる早期剥離は、転動体と軌道輪との間に異物が噛み込まれることによって形成された圧痕を起点として生じており、圧痕縁に生じる応力集中がその原因であると言われている。」
「【0006】
(中略)
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、圧痕起点型剥離が生じにくく長寿命な転がり軸受を提供することを課題とする。」
「【0023】
〔転動面に形成された表層部の窒素濃度及びSi-Mn系窒化物の量について〕
本発明においては、転動体の表層部に窒素を富化させるために浸炭窒化処理又は窒化処理を施す。窒素は炭素と同様にマルテンサイトの固溶強化及び残留オーステナイトの安定化に作用するだけでなく、窒化物又は炭窒化物を形成して耐圧痕性,耐摩耗性を向上させる作用がある。
図2,3に、耐圧痕性と耐摩耗性とに及ぼす窒素の影響を示す。図2は、表層部の窒素濃度と表層部に生じた圧痕の深さとの関係を示すグラフであり、図3は、表層部の窒素濃度と摩耗量との関係を示すグラフである。
図2のグラフの圧痕の深さは、図4に示すような耐圧痕性試験により求め、図3のグラフの摩耗量は、図5に示すような二円筒摩耗試験により求めた。耐圧痕性試験は、表層部が形成された試料の上に直径2mmの鋼球を載置し、この鋼球に5GPaの荷重を上方から負荷した際に試料に生じた圧痕の深さを測定することにより行った(図4を参照)。」
「【0026】
図2,3のグラフから、表層部の窒素濃度が高いほど耐摩耗性,耐圧痕性が優れていることが分かる。そして、窒素濃度が0.2質量%以上であれば効果が顕著であるが、0.45質量%以上がより好ましいことが分かる。
一方、窒素濃度が高すぎると靭性や静的強度が低下してしまうおそれがある。転がり軸受の転動体にとって靭性や静的強度は必要な性能であるため、窒素濃度が高すぎることは好ましくない。図6に示すシャルピー衝撃試験の結果から分かるように、窒素濃度が2質量%を超えると急激に靱性が低下する。したがって、表層部の窒素濃度の上限値は2質量%とした。」
「図2
[図:0001429039000001.jpg]
」
「図4
[図:0001429039000002.jpg]
」
イ 甲2に記載された技術的事項
前記アの内容を総合すると、甲2には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「異物混入潤滑環境下で転がり軸受を使用した際に、異物が噛み込まれることによって形成された圧痕を起点とした剥離が生じにくく、長寿命な転がり軸受を提供するために、転動体の転動面に、浸炭窒化処理又は窒化処理を含む熱処理により硬化されてなる表層部を形成したものであって、窒素を富化させるために浸炭窒化処理又は窒化処理を施した表層部が形成された試料の上に直径2mmの鋼球を載置し、この鋼球に5GPaの荷重を上方から負荷した際に試料に生じた圧痕の深さを測定すると、表層部の窒素濃度を0.45質量%以上にした場合に、圧痕の深さが200nm以下になったこと。」
(3)甲3について
ア 甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0031】
上記の繰返し焼入れ材の表面に生じた表面異常層を研磨して除去した材料からなる、図1に示す、試験片1の圧痕箇所2に3.8インチのボール3を介して上方から荷重4を掛ける試験手段により、試験片1に掛けた荷重4の負荷により生じた、図2のグラフに示す、縦軸の高低差を耐圧痕性の指標とし、これらの値を表2および表3により試験結果として示す。ところで、表2および表3において、平均旧オーステナイト結晶粒度番号については、混粒が発生した場合を網掛けしている。さらに、耐圧痕性について、面圧4.3GPaでは0.40μm以上、4.9GPaでは0.50μm以上を従来レベルとして網掛けして示している。」
「【0034】
表2および表3の実施例において、ズブ焼入れを2回以上、またはズブ焼入1回でも高周波焼入れを1回以上行なうと、平均旧オーステナイト結晶粒度番号が11以上となり、かつ混粒が発生しない。その結果、耐圧痕性すなわち圧痕の高低差は、面圧4.3GPaでは0.40μm未満、面圧4.9GPaでは0.50μm未満となり、耐圧痕性において優れた鋼部品を得ることができた。」
イ 甲3に記載された技術的事項
前記アの内容を総合すると、甲3には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「試験片1の圧痕箇所2に3.8インチのボール3を介して上方から荷重4を掛ける試験手段により、試験片1に掛けた荷重4の負荷により生じた、圧痕の高低差が、面圧4.3GPaでは0.40μm未満、4.9GPaでは0.50μm未満であること。」
(4)甲4について
ア 甲4には、以下の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、外側軌道輪及び内側軌道輪のうちの少なくとも一方の軌道輪を、硬度がHRC65以上の粉末高速度鋼で形成しているため、転がり軸受の製造コストが高いという問題があった。また、溝半径Rと転動体半径rとの比率ρ(R/r)を大きくした場合の一般的な問題点として、軌道輪と転動体との接触面圧が増大するため、転がり軌道面に塑性変形が生じやすく、多少の衝撃荷重が加わった際の耐圧痕性が劣るという問題があった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高速回転下においても好適に使用可能とするために軌道溝の曲率半径Rと転動体の半径rとの比率ρ(R/r)を大きくした場合でも、軌道面に塑性変形が生じにくく十分な耐圧痕性を有する転がり軸受を提供することを課題とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪,前記外輪,及び前記転動体のうち少なくとも1つは、炭素を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロムを0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデンを0.5質量%以上3.0質量%以下、酸素を10ppm以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼で構成され、浸炭窒化処理,焼入れ,深冷処理,240℃以上400℃以下の焼戻しの順の処理により、表面の窒素濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、表面の残留オーステナイト量が5体積%以下とされていることを特徴とする。」
「【0021】
本発明に係る転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態であるアンギュラ玉軸受の構成を示す部分縦断面図である。
このアンギュラ玉軸受10は、工作機械のスピンドル支持用として好適な転がり軸受であり、内輪11と、外輪12と、内輪11及び外輪12の間に転動自在に配設された複数の玉13と、内輪11及び外輪12の間に玉13を保持する保持器14と、で構成されている。そして、このアンギュラ玉軸受10の内径は65mm、外径は100mm、幅は18mm、玉13の直径は7.144mm、玉数は28個、接触角は18°、内輪11及び外輪12に形成されている軌道溝の曲率半径は、それぞれ玉13の直径の52%及び56%である。」
イ 甲4に記載された技術的事項
前記アの内容を総合すると、甲4には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「軌道溝の曲率半径Rと転動体の半径rとの比率ρ(R/r)を大きくした場合でも、軌道面に塑性変形が生じにくく十分な耐圧痕性を有する転がり軸受を提供するため、炭素を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロムを0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデンを0.5質量%以上3.0質量%以下、酸素を10ppm以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼で構成され、浸炭窒化処理,焼入れ,深冷処理,240℃以上400℃以下の焼戻しの順の処理により、表面の窒素濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、表面の残留オーステナイト量が5体積%以下とされているアンギュラ玉軸受。」
(5)甲5について
ア 甲5には、以下の事項が記載されている。
「【0012】
本発明の工作機械用アンギュラ玉軸受は、内外輪曲率半径を従来の玉の直径の51%、52%から内外輪共に54~57%に変更したことによって、発熱量の低減を図り高速性能を向上させることができる。」
「図3
[図:0001429039000003.jpg]
」
イ 甲5に記載された技術的事項
前記アの内容を総合すると、甲5には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「内外輪曲率半径を内外輪共に54%にしたことによって、発熱量の低減を図り高速性能を向上させた工作機械用アンギュラ玉軸受。」
(6)甲6について
ア 甲6には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、産業機械用、特に工作機械用の玉軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】深溝玉軸受およびアンギュラ玉軸受の内外輪における円弧溝状の転走面の曲率半径は、一般的に鋼球径をdwとすると、
(内輪転走面曲率半径)=0.51dw
(外輪転走面曲率半径)=0.52dw
と転走面幅の全体にわたって一定である。また、高速用としては、
(内輪転走面曲率半径)=0.54dw
(外輪転走面曲率半径)=0.54dw
の一定値が用いられている。」
イ 甲6に記載された技術的事項
前記アの内容を総合すると、甲6には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「内外輪における円弧溝状の転走面の曲率半径が、鋼球径をdwとすると、内輪転走面曲率半径=0.54dw、外輪転走面曲率半径=0.54dwであるアンギュラ玉軸受。」
(7)甲7について
ア 甲7には、以下の事項が記載されている。
「【0011】図3は前記ローラバニシング加工後における軌道部1cの表面からの各深さにおける硬さを測定した結果を示すグラフ図である。比較のためにローラバニシング加工を施す前のもの、及び旋削仕上げされた軌道部にショットピーニングを施したものの測定結果も同図に併せて記載している。図3より明らかなように、ローラバニシング加工された軌道部1cは、その表面から少なくとも0.2mmの深さにおいて、Hv700以上の硬さが確保されており、ローラバニシング加工を施す前のもの及びショットピーニングを施したものよりも大幅に硬くなっている。したがって、軌道部1cの疲労強度を効果的に高めることができる。」
「【0014】前記実施の形態の形態においては、軌道部材の素材として浸炭鋼を用いているが、これに限定されるものではなく、SUJ-2等の軸受鋼を用いて実施してもよい。また、ブランクの焼入は高周波焼入で行ってもよく、この場合には、少なくとも軌道部を焼入硬化させればよい。また、前記の実施の形態においては、接触条件が厳しく短寿命となり易い内輪のみについてローラバニシングを施した場合について示したが、この発明の製造方法は、転がり軸受の内輪だけでなく、外輪の製造方法としても勿論適用して実施することができる。さらに、この発明は、例えば鉄鋼機械用のドライブシャフトに用いられる十字継手の内輪としての十字軸や外輪としてのカップのような、高圧条件で使用される軌道部を備える種々の軸受軌道部材の製造方法として好適に用いられる。」
「図1
[図:0001429039000004.jpg]
」
「図3
[図:0001429039000005.jpg]
」
イ 甲7に記載された技術的事項
前記アの内容を総合すると、甲7には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「接触条件が厳しく短寿命となり易い内輪の軌道部にローラバニシング加工を施し、軌道部の表面から少なくとも0.2mmの深さにおいて、Hv700以上の硬さが確保され、疲労強度を高めた転がり軸受。」
5 当審における判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と甲1発明とを対比する。
後者の「外周面に幅方向断面を円弧状に形成した内側軌道溝11aを有する内輪11」は、前者の「外周面に断面円弧状の内輪軌道溝を有する内輪」に相当する。
後者の「内周面に幅方向断面を円弧状に形成した外側軌道溝12aを有する外輪12」は、前者の「内周面に断面円弧状の外輪軌道溝を有する外輪」に相当する。
後者の「前記内側軌道溝11aと前記外側軌道溝12aとの間に転動自在に組み込まれた複数の玉13」は、前者の「内輪軌道溝と前記外輪軌道溝との間に転動自在に設けられた複数の玉」に相当する。
後者における「Ri=0.54Da」は、Ri/Da=0.54と変形でき、0.54は百分率に換算すると54%である。同様に、「Ro=0.52Daもしくは0.54Da」は、Ro/Da=0.52もしくは0.54と変形でき、百分率に換算すると52%もしくは54%である。また、「Ri-Ro=0もしくはRi-Ro=0.02Da」は、Ri/Da-Ro/Da=0もしくは0.02と変形でき、百分率に換算すると0%もしくは2%である。
そして、後者の「Ri/Da」が前者の「玉径に対する前記内輪軌道溝の溝曲率半径比(Ri)」に相当し、「Ro/Da」が「前記玉径に対する前記外輪軌道溝の溝曲率半径比(Ro)」に相当するから、
後者の「前記玉13の直径をDaとすると前記内側軌道溝11aの幅方向断面の曲率半径RiがRi=0.54Daであり」という事項は、前者の「玉径に対する前記内輪軌道溝の溝曲率半径比(Ri)が54~58%」という事項に相当し、以下同様に、
「前記外側軌道溝12aの幅方向断面の曲率半径RoがRo=0.52Daもしくは0.54Daであり」という事項は、「前記玉径に対する前記外輪軌道溝の溝曲率半径比(Ro)が51~58%」という事項に、
「Ri-Ro=0もしくはRi-Ro=0.02Daである」という事項は「Ri-Ro≧0ポイントである」という事項に、それぞれ相当する。
そうすると、両発明は、次の一致点で一致し、相違点1で相違する。
<一致点>
「外周面に断面円弧状の内輪軌道溝を有する内輪と、
内周面に断面円弧状の外輪軌道溝を有する外輪と、
前記内輪軌道溝と前記外輪軌道溝との間に転動自在に設けられた複数の玉と、を備えるアンギュラ玉軸受であって、
玉径に対する前記内輪軌道溝の溝曲率半径比(Ri)が54~58%、前記玉径に対する前記外輪軌道溝の溝曲率半径比(Ro)が51~58%、且つ、Ri-Ro≧0ポイントである、
アンギュラ玉軸受。」
<相違点1>
本件発明が「少なくとも前記内輪軌道溝は、前記玉と前記内輪軌道溝との接触部中央における前記玉及び前記内輪軌道溝の永久変形量の和が、前記玉径の1万分の1となる際の最大面圧が4.7~6.0GPaである」のに対し、甲1発明は、このような構成を有しない点。
相違点1について検討する。
上記「4(4)」で検討した通り、甲4には「軌道溝の曲率半径Rと転動体の半径rとの比率ρ(R/r)を大きくした場合でも、軌道面に塑性変形が生じにくく十分な耐圧痕性を有する転がり軸受を提供する」こと課題とした技術的事項が記載されているが、甲4における当該課題を解決するための手段は、「炭素を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロムを0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデンを0.5質量%以上3.0質量%以下、酸素を10ppm以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼で構成され、浸炭窒化処理,焼入れ,深冷処理,240℃以上400℃以下の焼戻しの順の処理により、表面の窒素濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、表面の残留オーステナイト量が5体積%以下」とすることである。したがって、甲4に記載されている上記課題に着目して、甲1発明に適用する動機付けとするのであれば、課題解決手段も甲4に記載された技術的事項を適用することになるが、甲4には「前記玉と前記内輪軌道溝との接触部中央における前記玉及び前記内輪軌道溝の永久変形量の和が、前記玉径の1万分の1となる際の最大面圧が4.7~6.0GPaであること」は記載されていない。したがって、甲1発明及び甲4に記載された技術的事項に基いて、本件発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。
また、上記「4(2)」で検討した通り甲2に記載された技術的事項は、「異物混入潤滑環境下で転がり軸受を使用した際に、異物が噛み込まれることによって形成された圧痕を起点とした剥離が生じにくく」することを課題としており、甲4に記載された技術的事項とは課題が異なるから、甲4に記載されている上記課題が軸受の技術分野において周知の課題であるとしても、甲2に記載された技術的事項を適用する動機付けにはならない。
そもそも、甲2に記載された技術的事項において、圧力は5GPa、試料に生じた圧痕の深さは200nm以下、直径2mmの鋼球であることから、試料の生じた圧痕の深さが鋼球の直径の1万分の1であるときの圧力は5GPaであることはわかるが、甲2に記載された技術的事項は、試料に生じた圧痕の深さのみを測定したものであって、鋼球の圧痕の深さについては測定していないため、甲2に記載された技術的事項は、試料に生じた圧痕の深さと鋼球の圧痕の深さの和(本件発明の「前記玉及び前記内輪軌道溝の永久変形量の和」)を測定したものではない。
この点について、甲3に記載された技術的事項は上記「4(3)」で検討した通り、面圧4.9GPa、圧痕の高低差が0.50μm未満、3.8インチ(96520μm)のボールであることから、圧痕の高低差が、ボールの直径の0.00000518倍であることはわかるが、玉及び内輪軌道溝の永久変形量の和が玉径の1万分の1となる際の面圧を測定したものではない。同様に面圧4.3GPa、圧痕の高低差が0.40μm未満、3.8インチ(96520μm)のボールであることから、圧痕の高低差が、ボールの直径の0.000004144倍であることはわかるが、玉及び内輪軌道溝の永久変形量の和が玉径の1万分の1となる際の面圧を測定したものではない。
また、甲5~甲7にも、「前記玉と前記内輪軌道溝との接触部中央における前記玉及び前記内輪軌道溝の永久変形量の和」について考慮する技術思想は記載されていない。
そうすると、甲2~甲7のいずれにも、「前記玉と前記内輪軌道溝との接触部中央における前記玉及び前記内輪軌道溝の永久変形量の和が、前記玉径の1万分の1となる際の最大面圧が4.7~6.0GPaであること」は記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明は、甲1発明及び甲2~甲7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。
イ 請求項2~9に係る発明について
請求項2~9に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに技術的事項を追加したものである。よって、上記アに示した理由と同様の理由により、請求項2~9に係る発明は、甲1発明、甲2~甲7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 異議申立人の主張について
異議申立人は、甲2には、直径2mmの鋼球を載置し、この鋼球に5GPaの荷重を負荷した際に生じる圧痕の深さが200nm以下(=鋼球の直径の1万分の1以下)に低減される点が記載され、甲3には、3.8インチ(「3/8インチ」(9.525mm)の誤記と思われる)のボールを介して4.9GPaの面圧を掛けたときに生じる圧痕が0.50μm未満となる点が記載されているから、引用発明において、内輪軌道溝の表面を硬化してその耐圧痕性を高めることは、当業者が適宜なしえる設計的事項に過ぎず、その際、耐圧痕性の程度を示す具体的な数値を、本件発明の「前記玉及び前記内輪軌道溝の永久変形量の和が、前記玉径の1万分の1となる際の最大面圧が4.7~6.7GPa」とすることは単なる数値範囲の最適化又は好適化に過ぎないと主張し、本件発明の課題は、甲4に記載されているとおり公知であると主張し、甲1に、甲2~4の記載事項を適用し、本件発明は、当業者が容易になし得たことであると主張する。
しかし、上記「ア」で検討した通り、甲4に記載されている「軌道溝の曲率半径Rと転動体の半径rとの比率ρ(R/r)を大きくした場合でも、軌道面に塑性変形が生じにくく十分な耐圧痕性を有する転がり軸受を提供する」ことが公知であるとしても、甲2に記載された技術的事項は、「異物混入潤滑環境下で転がり軸受を使用した際に、異物が噛み込まれることによって形成された圧痕を起点とした剥離が生じにくく」することを課題としており、甲4に記載された技術的事項とは課題が異なるから、甲4に記載されている課題を動機付けとして、甲2に記載された技術的事項を甲1発明に適用することはできない。
また、甲2~甲7には、「前記玉と前記内輪軌道溝との接触部中央における前記玉及び前記内輪軌道溝の永久変形量の和」を測定するという技術思想が記載も示唆もされていないから、甲2~甲7に記載された技術的事項の数値範囲を最適化又は好適化しても、相違点1に係る構成には至らない。
したがって、異議申立人の上記主張を採用することはできない。
また、異議申立人は、甲3における「3.8インチ」の記載が誤記であり、正しくは「3/8インチ」であるとの主張もしているが、当該主張の根拠を示していないため、異議申立人の当該主張も採用することはできない。
(2)特許法第36条第6項第2号について
ア 当審合議体の判断
請求項3、4における「機械加工による」表面硬化層」という記載について検討する。
本件の明細書の【0027】には「尚、特許文献1に示される軌道表面に厚さ0.05~8μmの硬質皮膜を形成させる技術は、機械加工後の軌道輪に対して化学処理によって硬化層のコーティングを行い、耐摩耗性の向上や摩擦係数の低減を図ったものである。一方、本実施形態の表面加工層10は、機械加工によって表面を硬化させ、耐圧痕性を向上させるものである。」と記載されている。
また、「機械加工」とは「手仕上または手加工によらないで、機械を用いて加工すること。」(マグローヒル科学技術用語大辞典第2版)である。
したがって、請求項3、4における「機械加工による」表面硬化層とは、化学処理による表面硬化層ではなく、機械を用いて加工した表面硬化層であって、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すれば、機械を用いて加工した表面硬化層の構造や性質等の特徴を当業者が理解できるといえる。
よって、請求項3、4に係る発明は明確である。
イ 異議申立人の主張について
異議申立人は、「例えば、従来、転がり軸受の内輪および外輪の軌道面を研削加工によって仕上げることが広く一般に行なわれているところ、機械加工による表面硬化は、この研削加工(機械加工)によっても生じる場合があり、請求項3,4に記載の「機械加工による表面硬化層」が、かかる研削加工(機械加工)によって生じる表面硬化層をも含むものであるのか否かが不明である。」(特許異議申立書32頁下から9行~下から4行)と主張している。
当該主張について検討すると、研削加工は機械加工であるから、研削加工による表面硬化層が、請求項3、4に記載されている「機械加工による表面硬化層」に含まれることは明らかである。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~9にかかる特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700651