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特許異議申立

2024-700337

転がり軸受及びその製造方法

審判番号
2024-700337
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-080616
登録番号
7363663
請求日
2024年04月12日
審決日
2026年05月11日
公報発行日
2026年08月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日本精工株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
  • 【異議申立人】鶴谷 裕二
審判長/審判官
  • 審判長 石井 孝明
  • 審判官 中屋 裕一郎
  • 審判官 山田 由希子
分類
P1651.113-YAA(F16C) / P1651.121-YAA(F16C) / P1651.537-YAA(F16C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7363663号発明「転がり軸受及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7363663号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4について訂正することを認める。 特許第7363663号の請求項3、4に係る特許を維持する。 特許第7363663号の請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7363663号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和2年4月30日に出願され、令和5年10月10日にその特許権の設定登録がされ、同年10月18日に特許掲載公報が発行された。 そして、本件特許の請求項1~3に対して、令和6年4月12日に特許異議申立人 鶴谷裕二(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 その後の手続の経緯は、次のとおりである。 令和 6年10月 2日付け:取消理由通知 同年12月 6日 :特許権者による訂正請求書・意見書の提出 同年12月25日付け:手続補正指令 令和 7年 1月17日 :特許権者による手続補正書の提出 同年 3月28日付け:訂正請求があった旨の通知 同年 7月 4日付け:訂正拒絶理由通知 同年10月10日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年12月15日 :特許権者による訂正請求書・意見書の提出 令和 8年 1月 7日付け:手続補正指令 同年 1月27日 :特許権者による手続補正書の提出 同年 2月 6日付け:訂正請求があった旨の通知 なお、令和7年12月15日に訂正請求がなされたため、令和6年12月6日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、令和8年2月6日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、申立人からの意見書の提出はなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和8年1月27日に提出された手続補正書により補正された令和7年12月15日に提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項3に記載された発明が、訂正前の請求項1又は2に記載された発明を択一的に引用するものであったところ、訂正前の請求項1に記載された発明を引用するもののみに限定するとともに、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へと改める。訂正事項3による訂正後の請求項3は、次のとおりである 「内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる転がり軸受において、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面における、機械加工の影響を受けておらず、残留オーステナイト量が10%以上である領域を第1領域とし、前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量より少なく、かつ、硬さが、前記第1領域の硬さより高い領域を第2領域とする、転がり軸受の製造方法であって、前記内輪及び外輪に対し、焼入れ焼戻し処理を施した後、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面に対し、弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧8.2GPa以上とした条件で機械加工を施すことを特徴とする転がり軸受の製造方法。」 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3に「残留オーステナイト量が10%以上である領域を第1領域とし」と記載されているのを(より正確に言えば、「残留オーステナイト量が10%以上である領域を第1領域とし」は、請求項3が引用する請求項1に記載されている事項であるが、実質的に請求項3に記載されているものとみてこのように記載した。訂正事項9についても同様。)、訂正後の請求項3において、「残留オーステナイト量が13%以上である領域を第1領域とし」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項3に「転がり軸受の製造方法であって」と記載されているのを、訂正後の請求項3において、「特殊熱処理又はサブゼロ処理のいずれをも施さない、転がり軸受の製造方法であって」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項3に「前記内輪及び外輪に対し、焼入れ焼戻し処理を施した後」と記載されているのを、訂正後の請求項3において、「前記内輪及び外輪に対し、バニシング加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で焼入れ焼戻し処理を施した後」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項3に「加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件で機械加工を施すことを特徴とする」と記載されているのを、訂正後の請求項3において、「加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施すことを特徴とする」に訂正する。 (8)訂正事項8 訂正前の請求項3に記載された発明が、訂正前の請求項1又は2に記載された発明を択一的に引用するものであったところ、訂正前の請求項2に記載された発明を引用するもののみに限定するとともに、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へと改め、新たに請求項4とする。訂正事項8による訂正後の請求項4は、次のとおりである。 「内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる転がり軸受において、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面における、機械加工の影響を受けておらず、残留オーステナイト量が10%以上である領域を第1領域とし、前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量より少なく、かつ、硬さが、前記第1領域の硬さより高い領域を第2領域とし、前記第2領域が、(a)残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量の78%以下であり、(b)硬さが、前記第1領域の硬さよりも104%以上である、転がり軸受の製造方法であって、前記内輪及び外輪に対し、焼入れ焼戻し処理を施した後、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面に対し、弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧8.2GPa以上とした条件で機械加工を施すことを特徴とする転がり軸受の製造方法。」 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項3に「残留オーステナイト量が10%以上である領域を第1領域とし」と記載されているのを、訂正後の請求項4において、「残留オーステナイト量が13%以上である領域を第1領域とし」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項3に「転がり軸受の製造方法であって」と記載されているのを、訂正後の請求項4において、「特殊熱処理又はサブゼロ処理のいずれをも施さない、転がり軸受の製造方法であって」に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項3に「前記内輪及び外輪に対し、焼入れ焼戻し処理を施した後」と記載されているのを、訂正後の請求項4において、「前記内輪及び外輪に対し、バニシング加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で焼入れ焼戻し処理を施した後」に訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項3に「加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件で機械加工を施すことを特徴とする」と記載されているのを、訂正後の請求項4において、「加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施すことを特徴とする」に訂正する。 2 一群の請求項について 訂正前の請求項1~3について、請求項2~3は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、請求項2~3は訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 別の訂正単位とする求め 訂正後の請求項4については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。 4 訂正の適否 (1)訂正後の請求項1に係る訂正事項について 訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 そして、訂正事項1は、請求項1を削除するものにすぎないから、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲、及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (2)訂正後の請求項2に係る訂正事項について 訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 そして、訂正事項2は、請求項2を削除するものにすぎないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (3)訂正後の請求項3に係る訂正事項について ア 訂正事項3について 訂正前の請求項3が、請求項1、又は請求項2を引用するものであり、訂正前の請求項2が請求項1を引用するものであるところ、訂正事項3は、訂正前の請求項3を請求項1を引用するものに限定し、請求項間の引用関係のない独立形式にするものである。しかし、訂正事項3は、訂正事項8とあわせてみれば、訂正前の請求項3が含む全ての請求項間の引用関係を余すことなく請求項間の引用関係のない独立形式にするものとなるから、単に特許法120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正といえる。 そして、訂正事項3は、訂正前の請求項1を引用する請求項3を請求項間の引用関係のない独立形式にするものにすぎないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 イ 訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項3が引用する訂正前の請求項1の「第1領域」を特定するための「残留オーステナイト量」に係る「10%以上」という数値範囲を、「13%以上」へと限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 そして、本件特許明細書等には「第1領域の残留オーステナイト量を10%以上、好ましくは13%以上にし、機械加工する前の残留オーステナイトを多く存在させるのがよい」(【0027】)との記載があるところ、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。 さらに、訂正事項4は、発明特定事項を限定するものに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 訂正事項5について 訂正事項5は、訂正前の請求項3の「転がり軸受の製造方法であって」という発明特定事項を、「特殊熱処理又はサプゼロ処理のいずれをも施さない」という発明特定事項を直列的に付加することにより限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 そして、本件特許に係る発明が解決しようとする課題が、「浸炭窒化処理のような特殊熱処理は、長時間を要するとともに、そのための工程が別途必要にもなり、製造コストが増加する。また、サブゼロ処理は、靱性を低下させる懸念があるとともに、そのための工程が別途必要になり製造コストも増加する」ことに鑑み、「低コストで耐圧痕性を向上させた転がり軸受及びその製造方法を提供する」ことであり(【0006】、【0007】。下線は当審合議体が付したもの。以下同様。)、本件特許に係る発明が「浸炭窒化処理やサブゼロ処理のような別工程が不要であり、製造コストの増加を招くこともない」(【0016】)という効果を奏するという、本件特許明細書等の記載に照らせば、訂正前の請求項3の「転がり軸受の製造方法」が、「特殊熱処理又はサプゼロ処理のいずれをも施さない、転がり軸受の製造方法」であることは、本件特許明細書等の記載から自明な事項といえる。したがって、訂正事項5は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。 さらに、訂正事項5は、発明特定事項を限定するものに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 エ 訂正事項6について 訂正事項6は訂正前の請求項3の「焼入れ焼戻し処理を施し」という発明特定事項を、「バニシング加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で」という発明特定事項を直列的に付加することにより限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 そして、本件特許明細書には、「このような残留オーステナイト量にするには、焼入れ焼戻し処理により、第1領域の残留オーステナイト量を10%以上、好ましくは13%以上にし、機械加工する前の残留オーステナイトを多く存在させるのがよい」(【0027】)とあり、「機械加工をする前」の「残留オーステナイト量を13%以上」にするように焼入れ焼戻し処理を行うという事項は記載されている。また、本件特許明細書等には「機械加工としては、圧縮応力を付与する加工方法であれば制限はないが、バニシング加工やショットピーニング加工が好ましい」(【0022】)、「本実施例においては、機械加工としてバニシング加工を採用し、その加工条件を検討した」(【0029】)」とあり、機械加工として、バニシング加工をするという事項が記載されている。そうすると、「焼入れ焼戻し処理」が、「バニシング加工する前」の「残留オーステナイト量が13%以上」となるような条件で行われる焼入れ焼戻し処理であることは、本件特許明細書等に記載されている事項といえる。したがって、訂正事項6は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。 さらに、訂正事項6は、発明特定事項を限定するものに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 オ 訂正事項7について 訂正事項7は、訂正前の請求項3の「加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件で」施す「機械加工」を、「バニシング加工」へと限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 そして、本件特許明細書には、「機械加工としては、圧縮応力を付与する加工方法であれば制限はないが、バニシング加工やショットピーニング加工が好ましい」(【0022】)、「本実施例においては、機械加工としてバニシング加工を採用し、その加工条件を検討した」(【0029】)、「バニシング荷重、すなわち最大接触面圧(P)が大きいほど、加工領域の残留オーステナイトが、加工誘起マルテンサイト変態して減少しており、最大接触面圧が8.2GPa以上であれば、加工領域(第2領域)である軌道面表層の残留オーステナイト量を少なくとも78%以下に減少できることがわかる。」(【0033】)と記載されており、「加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件で」施す「機械加工」として、「バニシング加工」を採用するという事項は、本件特許明細書等に記載されている事項といえる。したがって、訂正事項7は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。 さらに、訂正事項7は、発明特定事項をさらに限定するものに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (4)訂正後の請求項4に係る訂正事項について ア 訂正事項8について 訂正前の請求項3が、請求項1、又は請求項2を引用するものであり、訂正前の請求項2が請求項1を引用するものであるところ、訂正事項3は、訂正前の請求項3を請求項2を引用するものに限定し、請求項間の引用関係のない独立形式にするものである。しかし、訂正事項8は、訂正事項3とあわせてみれば、上記(3)アと同様に、単に特許法120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正といえる。 そして、訂正事項8は、訂正前の請求項2を引用する請求項3を請求項間の引用関係のない独立形式にするものにすぎないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 イ 訂正事項9~12について 訂正事項9~12は、訂正前の請求項3が間接的に引用している請求項1の記載、及び訂正前の請求項3の記載を、訂正事項4~7と同様に訂正するものである。よって、訂正事項9~12は、上記(3)イ~オと同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 そして、訂正事項9~12は、上記(3)イ~オと同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (5)訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 そして、請求項間の引用関係のない独立形式にされた訂正後の請求項4に係る訂正は、上記(4)とおり訂正が認められるので、訂正後の請求項4を別の訂正単位とすることを認める。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる転がり軸受において、 前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面における、機械加工の影響を受けておらず、残留オーステナイト量が13%以上である領域を第1領域とし、 前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量より少なく、かつ、硬さが、前記第1領域域の硬さより高い領域を第2領域とする、特殊熱処理又はサブゼロ処理のいずれをも施さない、転がり軸受の製造方法であって、 前記内輪及び外輪に対し、バニシング加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で焼入れ焼戻し処理を施した後、 前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面に対し、弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施すことを特徴とする転がり軸受の製造方法。 【請求項4】 内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる転がり軸受において、 前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面における、機械加工の影響を受けておらず、残留オーステナイト量が13%以上である域を第1領域とし、 前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量より少なく、かつ、硬さが、前記第1領域の硬さより高い領域を第2領域とし、 前記第2領域が、 (a)残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量の78%以下であり、 (b)硬さが、前記第1領域の硬さよりも104%以上である、特殊熱処理又はサブゼロ処理のいずれをも施さない、転がり軸受の製造方法であって、 前記内輪及び外輪に対し、バニシング加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で焼入れ焼戻し処理を施した後、 前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面に対し、弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施すことを特徴とする転がり軸受の製造方法。」 第4 取消理由(決定の予告)の概要 訂正前の請求項1~3に係る特許に対して、当審合議体が令和7年10月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 取消理由1 (進歩性)本件訂正前の本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の本件特許の請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきである。 取消理由2 (サポート要件)本件訂正前の本件特許の請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、本件訂正前の本件特許の請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。 記 (刊行物) 甲第1号証:特開平5-195070号公報 甲第2号証:特開2004-116569号公報 甲第3号証:特開2019-206986号公報 甲第4号証:特開平5-163526号公報 甲第5号証:特開2011-208751号公報 甲第6号証:特開2011-208752号公報 甲第7号証:特開平5-195069号公報 甲第8号証:定森友也、外2名、「ショットピーニングを施した軸受鋼の異物混入潤滑下における転がり疲労挙動評価」、日本機械学会論文集、83巻、851号、2017年 甲第9号証:中尾航、外3名、「残留オーステナイトの相変態が及ぼす残留応力への影響」、ばね論文集、第53号、2008年、p.9~12 甲第10号証:小林祐次、外3名、「ショットピーニング特性に及ぼす機械的性質と残留オーステナイトの影響」、ばね論文集、第57号、2012年、p.9~15 甲第11号証:藤木栄、50事例でわかる表面硬化処理鋼の疲労強度と破壊・破断面の見方、日刊工業新聞社、2008年5月30日発行、p.181 なお、上記甲第1~11号証は、それぞれ申立人が提出した甲第1~11号証である。以下「甲第1号証」~「甲第11号証」をそれぞれ「甲1」~「甲11」という。 第5 取消理由についての当審合議体の判断 1 甲各号証について (1)甲1について ア 甲1の記載 甲1には次の記載がある(下線は当審合議体が付したもの。)。 「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、転がり軸受の軸受部品の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】潤滑油中での軸受の転がり接触疲労の破損形態としては軸受軌道輪の軌道部表面の剥離があり、軸受寿命を伸ばすためには軌道輪材料に硬さと靭性が要求される。一方、最近の軸受に対するニーズとしては、たとえば自動車のトランスミッション用軸受のように潤滑油中に異物が混入している場合で長寿命を要求されるものが多くなってきている。一般的に、清浄な潤滑油中での転がり接触疲労寿命は、軌道部の剪断応力位置からの内部起点による剥離に支配されるが、潤滑油中に異物が混入している場合は、寿命は軌道部表面の圧痕を起点とした剥離や表面の磨耗などに支配され、上記の清浄油中での疲労寿命の数分の1~数十分の1に低下する。したがって、潤滑油中に異物が混入している場合の軸受寿命を伸ばすには、軌道部表面の耐圧痕、耐摩耗性に優れた軌道輪を作ることが必要である。 【0003】ところで、上記のような汚れ油中での軸受寿命向上手段として、従来、種々のものが提案されている。たとえば、異物による圧痕や摩耗に対して有効な手段として、軌道部の表面硬さを高くすることが考えられている。また、軸受として必要な靭性を確保する手段として、残留オーステナイトをある程度残すことが考えられている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】汚れ油中で使用される軸受に対しては、靭性が高いことと、異物による圧痕や摩耗が生じにくいことがともに重要であるが、たとえば、靭性を高くすることと硬さを高くすることは一般的には相反することとなり、両方の性能が優れている軸受軌道輪を作ることは非常に困難である。 【0005】軌道輪だけでなく、玉、ころなどの転動体についても同様の問題がある。 【0006】この発明の目的は、上記の問題を解決し、靭性が高く、しかも表面の耐圧痕、耐摩耗性に優れ、よつて異物が混入した潤滑油中での軸受寿命の向上が可能な軸受部品の製造方法を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】第1の発明による軸受部品の製造方法は、鋼からなる軸受部品素材を浸炭または浸炭窒化する硬化工程、上記素材を焼戻しする焼戻し工程、上記素材の所望部分にショットピーニングを施して、残留圧縮応力を付与し、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させ、硬さを高めるショットピーニング工程、および上記素材を研磨する仕上工程を含み、上記所望部分の表層部の残留オーステナイトを10~30%とするとともに、最大残留圧縮応力を-800~-1800MPaとし、硬さをビッカース硬さで850以上にすることを特徴とするものである。」 「【0010】 【作用】ショットピーニング工程によって軸受部品素材の表層部の残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させて硬さを高めるので、異物による圧痕や摩耗が生じにくい。しかも、ショットピーニング工程によって表層部に残留圧縮応力を付与するので、圧痕がついた場合でも、これを起点とする亀裂の伸展がおさえられる。また、ショットピーニングによって表層部の残留オーステナイトだけをマルテンサイトに変態させるので、表層部より内側の部分には残留オーステナイトがあり、軸受として必要な靭性が得られる。」 「【0014】 【実施例】以下、図面を参照して、この発明の実施例について説明する。 【0015】図1は、軸受部品の製造方法の第1実施例を示す工程図である。次に、この図1の工程図を参照して、軸受軌道輪の製造方法の1例を説明する。 【0016】図1において、まず、たとえばSAE5120などの肌焼鋼またはJIS SUJ2などの高炭素クロム軸受鋼などを用いて、通常の鍛造工程(工程1)および旋削工程(工程2)により、軌道輪素材を作る。 【0017】次に、この素材を浸炭または浸炭窒化する硬化工程(工程3)を行なう。 【0018】次に、この素材を通常の条件で焼戻しする焼戻し工程(工程4)を行なう。 【0019】次に、この素材の軌道部にショットピーニングを施して、残留圧縮応力を付与し、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させ、硬さを高めるショットピーニング工程(工程5)を行なう。ショットピーニングは、ビッカース硬さ(HV)650以上の鋼球を使用し、アークハイト1mmA以上、カバレッジ200%以上の条件で行なうのが好ましい。 【0020】最後に、この素材を研磨する仕上工程(工程6)を行なう。 【0021】そして、最終的に、少なくとも軌道部の表面から深さ0.05mm程度の範囲の表層部に800~1800MPaの残留圧縮応力を付与し、表層部の残留オーステナイトを10~30%とし、表層部の硬さをHV850以上にする。 【0022】玉、ころなどの転動体も、上記と同様にして製造される。なお、玉の場合は全表面にショットピーニングを施し、ころの場合は少なくとも転動面にショットピーニングを施す。 【0023】 次に、表1および表2を参照して、実施例1、2および比較例1、2の軸受部品すなわち軌道輪および玉を使用した玉軸受について行なった比較試験の結果について説明する。 【0024】 【表1】(省略) 【表2】(省略) 表1に示すように、実施例1、2および比較例1、2の材料はSAE5120であり、これに浸炭処理を施す硬化工程と普通焼戻し工程を行なった。この焼戻し工程後のショットピーニング工程前の表層部の硬さHVと残留オーステナイト量γRが表1に示されている。比較例1については、焼戻し工程の後にショットピーニング工程を行なわずに仕上工程を行ない、実施例1、2と比較例2については、焼戻し工程の後にショットピーニング工程を行ない、この後に仕上工程を行なった。なお、実施例1はアークハイト1.1mmA、実施例2はアークハイト1mmA、比較例2はアークハイト0.5mmAの条件でショットピーニングを行なった。ショットピーニング工程と仕上工程後の表層部の硬さHV、残留オーステナイト量γRおよび最大残留圧縮応力ならびに各軸受部品を使用した玉軸受の寿命比が表2に示されている。寿命比は、汚れ油中での寿命試験の結果を比較例1の軸受部品を使用した玉軸受を1として示している。」(なお、【0024】の表1と表2は当審合議体が省略した。) 「【0028】次に、表3および表4を参照して、実施例3、4および比較例3、4の軸受部品を使用した玉軸受について行なった比較試験の結果について説明する。 【0029】 【表3】 [図:0001438253000001.jpg] 【表4】 [図:0001438253000002.jpg] 表3に示すように、実施例3、4および比較例3、4の材料はSUJ2であり、これに浸炭窒化処理を施す硬化工程と普通焼戻し工程を行なった。この焼戻し工程後のショットピーニング工程前の表層部の硬さHVと残留オーステナイト量γRが表3に示されている。焼戻し工程後の処理については、実施例3は実施例1と、実施例4は実施例2と、比較例3は比較例1と、比較例4は比較例2とそれぞれ同じにした。ショットピーニング工程と仕上工程後の表層部の硬さHV、残留オーステナイト量γRおよび最大残留圧縮応力ならびに各軸受部品を使用した玉軸受の寿命比が表4に示されている。寿命比は、前記同様の寿命試験の結果を比較例3の軸受部品を使用した玉軸受を1として示している。 【0030】図4は実施例3の軸受部品の表面からの深さに対する残留圧縮応力(MPa)の測定値を示し、図5は同軸受部品の表面からの深さに対する硬さ(HV)の測定値を示している。 【0031】実施例3の軸受部品の残留圧縮応力と硬さも図2および図3で説明した実施例1のそれと同じ傾向を示し、実施例3の軸受部品も実施例1の軸受部品と同等の作用効果を奏する。 【0032】表4から明らかなように、実施例3、4の軸受部品は、表層部の硬さおよび最大残留圧縮応力が高く、寿命比が比較例3の5.6倍以上になっている。比較例4については、寿命比が比較例3の2.4倍になっているが、実施例3、4に比べて、表層部の硬さおよび最大残留圧縮応力が低く、寿命の向上の度合も小さい。」 「【図4】 [図:0001438253000003.jpg] 【図5】 [図:0001438253000004.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 上記アから次の事項がいえる。 a 甲1には、【0015】~【0022】記載の製造方法により製造された軸受部品の実施例3(表3及び4)を使用した「玉軸受」(【0028】)が記載されている。その「玉軸受」に使用される軸受部品の実施例3は「軌道輪」であり、「玉」でもある(【0022】、【0023】)。 b 表3及び表4における硬さ(HV)及び残留オーステナイト量γR(%)はそれぞれ「表層部」の値であり(【0029】、【0032】)、その「表層部」とは、「少なくとも軌道部の表面から深さ0.05mm程度の範囲」である(【0021】)。 そうすると、表3から、実施例3の軌道輪は、その軌道部の表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量が25~29%、硬さが780~800(HV)であるといえる。 また、表4から、実施例3の軌道輪は、その軌道部の表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト量が15~18%、硬さが900~910(HV)であるといえる。 c 【0015】~【0022】記載の軸受部品の製造方法におけるショットピーニングは、素材に残留圧縮応力を付与する工程(【0007】、【0010】、【0019】)であることに鑑みれば、甲1の【図4】から、実施例3は、表面からの深さが0.3mm以上深い領域では負の残留応力がほぼ0となっており、この表面からの深さが0.3mm以上深い領域は、ショットピーニングの影響を受けていない領域であると認められる。 d 実施例3は、浸炭窒化処理を施す硬化工程と普通焼戻し工程を行なって、ショットピーニング工程前の表層部の残留オーステナイト量を25~29%としている(【0029】、表3)。 【0015】~【0022】記載の軸受部品の製造方法においては、軌道輪の軌道部に、650(HV)以上の鋼球を使用し、アークハイト1mmA以上、カバレッジ200%以上の条件でショットピーニングを行う(【0019】)が、実施例3について、焼戻し工程後の処理については、実施例3は実施例1と同じ(【0029】)であるから、実施例3のショットピーニング工程のアークハイトは1.1mmAである(【0024】)。 上記ア及び上記a~dから、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 [甲1発明] 「 軌道輪、玉を使用した玉軸受において、 軌道輪の軌道部の表面から深さが少なくとも0.05mm程度の範囲の表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量が25~29%、硬さが780~800(HV)であり、 軌道輪の軌道部の前記表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト量が15~18%、硬さが900~910(HV)であり、 軌道輪の軌道部の表面から深さが少なくとも0.3mm以上深い領域は、ショットピーニングの影響を受けていない領域である、玉軸受の製造方法であって、 軌道輪に対し、浸炭窒化処理を施す硬化工程と普通焼戻し工程を行って、軌道輪の前記表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量を25~29%とし、 軌道輪の軌道部に、650(HV)以上の鋼球を使用し、アークハイト1.1mmA、カバレッジ200%以上の条件でショットピーニングを行う、 玉軸受の製造方法。」 (2)甲2について 甲2には、図面とともに次の記載がある(下線は当審合議体が付したもの。)。 「【0004】 【課題を解決するための手段】 前記目的を達成するためのこの発明の転がり軸受は、軌道輪としての内輪と外輪との間に複数の転動体を介在している転がり軸受において、前記内輪と外輪の少なくとも一方が、熱処理硬化された軸受用鋼からなり、前記軸受用鋼からなる軌道輪の軌道部にローラバニシング加工を施して、その表面の硬さをHRC65以上とし、その表面の中心線平均粗さRaを0.1μm以下としたことを特徴としている(請求項1)。 このような構成の転がり軸受によれば、前記軌道部の表面の硬さをHRC65以上とし、その表面の中心線平均粗さRaを0.1μm以下としているので、前記ローラバニシング加工によって軌道部に残留圧縮応力が生じる点と相まって、軌道部の疲労強度を高めることができる。」 「【0006】 【発明の実施の形態】 以下、この発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。 図1は、この発明の一実施形態にかかる転がり軸受を示す断面図である。この転がり軸受は、同芯に配置された軌道輪としての内輪1及び外輪2の相互間に、転動体としての玉3を複数個介在し、各玉3を保持器4によって等間隔に保持している。 【0007】 前記内輪1及び外輪2は、焼入硬化されたSUJ-2等の軸受鋼からなり、その軌道部1c,2cは、表面の硬さがHRC65以上、表面の中心線平均粗さRaが0.1μm以下である。また、前記軌道部1c,2cの表面から少なくとも0.15mmの深さの残留圧縮応力が1000MPa以上であり、当該表面から少なくとも0.2mmの深さの硬さがHRC60以上である。 【0008】 図2は前記内輪1の製造方法の一例を示す工程図である。この製造方法は、まず、環状素材A(図1(a)参照)に旋削加工を施して、端面1a、外周1b、軌道部1c及び内周1d等を所定形状に加工する(図1(b)参照)。次に、この旋削加工されたブランクBを熱処理して、例えばHRC60~63の硬さに硬化させる(図1(c)参照)。その後、熱処理が完了したブランク3の端面1a、軌道部1c及び内周1dを、研磨加工によって所定精度に仕上げる(図1(d)参照)。 【0009】 研磨加工が完了すると、前記軌道部1cの表面にローラバニシング加工を施す(図1(e)参照)。このローラバニシング加工は、油圧で保持されたセラミックス製の鏡面ボールCを、軌道部1cに強圧で押し付けて転がり接触させながら、軌道部1cの軸方向断面に沿って移動させるものである。このローラバニシング加工は、軌道部1cの硬さがHRC65以上、表面の中心線平均粗さRaが0.1μm以下、軌道部1cの表面から少なくとも0.15mmの深さの残留圧縮応力が1000MPa以上、当該表面から少なくとも0.2mmの深さの硬さがHRC60以上となるように、そのバニシング量や加圧力等の加工条件を選択する。」 「【0011】 図4は記ローラバニシング加工後における軌道部1cの表面からの各深さにおける残留圧縮応力を測定した結果を示すグラフ図である。比較のためにローラバニシング加工を施す前のもの、及び研磨仕上げされた軌道部にショットピーニングを施したものの測定結果も同図に併せて記載している。 図4より明らかなように、ローラバニシング加工後の軌道部1cは、その表面から0.1mm~0.2mmの深さにおいて、1000MPa以上の残留圧縮応力が生じており、しかも、ショットピーニング品に比べて約2倍の深さまで加工硬化が生じている。 【0012】 外輪2の製造方法についても前記した内輪1の製造方法と基本的に同じであり、その軌道部2cのローラバニシング加工についても、ブランクBを熱処理し、その軌道部2cを研磨した後において、内輪1の場合と同様にして行う。 【0013】 以上により得られた内輪1及び外輪2は、軌道部1c,2cのローラバニシング加工によって、軌道部に残留圧縮応力を生じさせることができるとともに、当該軌道部1c,2cの表面の硬さをHRC65以上とし、その表面の中心線平均粗さRaを0.1μm以下としているので、当該軌道部1c,2cの疲労強度を高めることができる。特に、前記実施の形態においては、軌道部1c,2cの表面から少なくとも0.15mmの深さの残留圧縮応力が1000MPa以上であるので、当該軌道部1c,2cの疲労強度をさらに効果的に高めることができる。さらに、軌道部1cの表面から少なくとも0.2mmの深さの硬さがHRC60以上であるので、当該軌道部1c,2cの疲労強度をより一層効果的に高めることができる。したがって、前記内輪1及び外輪2を組み込んだ玉軸受の寿命を従来品に比べて大幅に延ばすことができる。具体的には、前記内輪1及び外輪2を軸受型番6206に適用し、清浄油中及び異物油中において下記の条件でそれぞれ寿命試験を行った結果、軸受鋼からなる従来品と比べて清浄油中で3倍、異物油中で2倍の寿命を発揮できることが確認されている。しかも、軌道部1c,2cにローラバニシング加工を施すだけであるので、そのコスト負担も僅かで済む。 【0014】 <寿命試験条件> (1)試験機 KSラジアル寿命試験機 (2)ラジアル荷重 9709N/brg (3)回転数 1800rpm (4)潤滑 タービン油#10 油浴 (5)油温 自然昇温(約85℃) (6)試験方法 2セット×5回 サドンデス試験 【0015】 なお、前記実施の形態の形態においては、内輪1及び外輪2の素材として軸受鋼を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば浸炭鋼等の他の軸受用鋼を用いて実施してもよい。また、この発明の転がり軸受は、その使用条件に応じて前記内輪1及び外輪2の少なくとも一方の軌道部にローラバニシング加工を施して実施することもできる。」 (3)甲3について 甲3には、図面とともに次の記載がある(下線は当審合議体が付したもの。)。 「【0011】 <転がり軸受> 本発明の一実施形態に係る転がり軸受について、図1及び図2を参照して説明する。本実施形態に係る転がり軸受は、内輪と外輪との間に転動体を転動自在に保持してなる転がり軸受であり、種類や構成に制限はない。例えば、転がり軸受としては、ラジアル玉軸受やラジアル円すいころ軸受を対象とすることができる。図1には、転がり軸受の一例として、ラジアル玉軸受1を示す。ラジアル玉軸受1は、内周面に外輪軌道21を有する外輪2と、外周面に内輪軌道31を有する内輪3と、これら外輪軌道21と内輪軌道31との間に、円環状の冠型の保持器4に保持された状態で転動自在に設けられ、それぞれが転動体である複数の玉5とを備える。」 「【0016】 <転がり軸受の製造方法> 次に、本実施形態に係る転がり軸受の製造方法について説明する。本実施形態では、まず、素材である鋼材を、製品形状に応じた所定の形状に加工し、焼入れ焼戻し処理を施すことで、内輪、外輪及び転動体とする。鋼材としては、例えばSUJ2やSUJ3などの汎用の軸受鋼を用いることができる。なお、後述する本実施形態の処理によって導入される残留応力の大きさは、一般的な熱処理によって導入される値より大きく、浸炭や浸炭窒化などの表面硬化型の熱処理を用いた場合にでも有用であり、一般的に軸受に用いられる鋼材や熱処理であれば適用が可能である。とくに浸炭鋼では母材の炭素量が低いことから、軸受鋼に比べて鋼材の介在物が大きくなる傾向があり、本手法の効果が期待できる。 【0017】 次いで、内輪及び外輪(総称して「軌道輪」とも称する。)の軌道面表層に、圧縮残留応力を付与する。圧縮残留応力の付与は、最終的に製造される軌道輪の軌道面表層に、付与する深さや分布などの上述の条件の圧縮残留応力が付与可能であれば、どのような方法が用いられてもよい。圧縮残留応力の付与方法としては、例えば、ショットピーニングやローラバニシングを用いることができる。ショットピーニングを用いる場合、目的とする圧縮残留応力の条件となるように、衝突させる投射材の大きさや材質、速度などの処理条件が適宜設定される。また、ローラバニシングを用いる場合、軌道輪の軌道面の形状に合わせたローラを、軌道輪の軌道面に圧縮回転接触させ、軌道面に微小な塑性変形与える。この場合、目的とする圧縮残留応力の条件となるように、用いるローラの素材や転圧などのローラバニシングの処理条件が適宜設定される。図3には、ローラバニシングの一例として、高硬度の球状のボール61が先端に設けられたローラバニシング装置6を用いて、ラジアル玉軸受1の外輪2の外輪軌道21に残留応力を付与する模式図を示す。図3に示す例では、外輪2を自身の軸心を中心に回転させながら、外輪2の内周面である外輪軌道21にボール61を押し当て、外輪軌道21にボール61を圧縮接触させた状態で、ローラバニシング装置6を外輪2の内周面の形状に応じて、この内周面の母線方向に沿って移動させることで、ローラバニシング装置6による圧縮残留応力の付与が行われる。 【0018】 圧縮残留応力の付与が行われた後、必要に応じて軌道輪の仕上げ加工が行われる。仕上げ加工では、圧縮残留応力を付与した軌道面を滑らかにするため、切削加工や研磨加工が行われる。特に、ショットピーニングを用いて圧縮残留応力を付与した場合には、軌道面に凹凸があるため、例えば、軌道面を30μm~40μm程度切削する仕上げ加工が行われる。また、ローラバニシングを用いて圧縮残留応力を付与して、軌道面が十分に滑らかな場合には、仕上げ加工が行われなくてもよい。さらに、必要に応じて、仕上げ加工の前に、軌道輪に対して焼戻しなどの熱処理が施されてもよい。 そして、上述の方法で製造された軌道輪及び転動体、並びに別に作成された汎用的な保持器を組み合わせることで、製品となる転がり軸受が製造される。」 (4)甲4について 甲4には、図面とともに次の記載がある(下線は当審合議体が付したもの。)。 「【請求項1】鋼の表層部の残留オーステナイト量を10~30%、硬さをロックウェルC硬さで60~65にする熱処理工程、および鋼に機械加工により残留圧縮応力を付与し、表層部のうち最表層の残留オーステナイトの一部をマルテンサイトに変態させる加工工程を含むことを特徴とする軸受用鋼の製造方法。」 「【0006】 【作用】 最表層の残留オーステナイトの一部をマルテンサイトに変態させるので、表面の硬さが非常に高くなり、潤滑油中に混入した異物に強く、表面を起点とする亀裂の発生がおさえられる。また、最表層以外の内部は残留オーステナイトが比較的多いため、亀裂の進展がおさえられる。さらに、残留圧縮応力を付与するので、疲労寿命が向上する。」 「【0010】次に、玉軸受の軌道輪を例にとり、図1の工程図を参照して、この発明による製造方法の1例を説明する。 【0011】図1において、まず、軸受鋼よりなる軌道輪素材の焼入れ焼戻しあるいははだ焼き鋼よりなる軌道輪素材の浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻しにより、表面から深さ1mm程度の範囲の表層部の残留オーステナイトを10~30%、硬さをロックウェルC硬さ(HRC)で60~65にする熱処理を行なう(工程1)。 【0012】次に、軌道輪素材の軌道部に研削、旋削、ショットピーニングなどの機械加工を施すことにより、100kgf/mm2以上の残留圧縮応力を付与し、表面から深さ0.05mm程度の範囲の最表層の残留オーステナイトの一部をマルテンサイトに変態させる加工工程を行なう(工程2)。 【0013】第1の例では、加工工程(工程2)において、HRC60以上の鋼球を使用し、アークハイト0.9mmA、カバレッジ200%の条件でショットピーニングを行なった。 【0014】図2はこのようにして製造した軌道輪の表面からの深さに対する残留圧縮応力(kgf/mm2)の測定値を示し、図3は同軌道輪の表面からの深さに対する硬さ(HRC)の測定値を示している。なお、図3において、比較のため、ずぶ焼入れを行なったときの硬さを破線で示している。 【0015】上記のようにして製造した軌道輪の軸受用鋼は、最表層の残留オーステナイトの一部がマルテンサイトに変態しているので、図3からも明らかなように、表面の硬さが非常に高くなり、潤滑油中に混入した異物に強く、表面を起点とする亀裂の発生がおさえられる。また、最表層以外の内部は残留オーステナイトが比較的多いため、亀裂の進展がおさえられる。さらに、図2からも明らかなように、表層部に残留圧縮応力が付与されているので、疲労寿命が向上する。」 (5)甲5について 甲5には、図面とともに次の記載がある(下線は当審合議体が付したもの。)。 「【0035】 ここで、上記外輪11、内輪12および円筒ころ13は、たとえばJIS規格に規定された高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2からなっている。なお、上記外輪11、内輪12および円筒ころ13を構成する鋼は高炭素クロム軸受鋼に限られず、JIS規格に規定された機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼など他の鋼であってもよい。ただし、熱処理変形を抑制し、後述する塑性加工の後の仕上げ加工における取り代を抑制あるいは省略する観点から、円筒ころ13を構成する鋼はずぶ焼入により転動体として使用可能な硬度を達成できる程度の炭素量、たとえば0.5質量%以上の炭素を含む鋼であることが好ましい。 【0036】 そして、円筒ころ13の接触面13Aは、焼入硬化処理後に塑性加工が施されており、外輪転走面11Aおよび内輪転走面12Aよりも2HRC以上高い硬度を有している。」 「【実施例2】 【0067】 図5に基づいて説明した上記実施の形態の加工装置を用いて円筒ころの外周面をバニシング加工し、最大加工面圧とバニシング加工による硬度上昇値との関係を調査する実験を行なった。 【0068】 まず、JIS規格SUJ2からなる直径φ12mmの円筒ころを準備し、焼入硬化により硬度を62HRCとした。次に、上記実施の形態において説明した外周面塑性加工工程(S50)と同様の手順で円筒ころの外周面をバニシング加工した。このとき、加工ヘッドの圧子部の半径Rと圧子部の押し付け荷重とを変化させ、得られた円筒ころの硬度上昇値を測定した。圧子部の半径Rは、4mm(R4mm)、5mm(R5mm)、8mm(R8mm)の3水準とした。また、圧子は天然ダイヤモンド製とした。調査結果を図9に示す。図9おいて、横軸は最大加工面圧、縦軸は加工前後における硬度の差である硬度上昇値を示している。 【0069】 図9参照して、圧子部の半径Rに関係なく、最大加工面圧と硬度上昇値とは直線的な関係にあり、最大加工面圧が上昇するに従って硬度上昇値が大きくなることが分かった。」 (6)甲6について 甲6には、図面とともに次の記載がある(下線は当審合議体が付したもの。)。 「【0073】 試験条件を表1に示す。表1の条件で、試験開始時の油膜パラメータΛは約0.20となる。また、相手部材の仕上面(外周面)は軌道部材の転走面、試験片の仕上面(外周面)はころの接触面の粗さを想定したものとなっている。表1を参照して、試験片はSUJ2を素材として、浸炭窒化処理した後、焼入硬化することにより作製した。そして、試験片の外周面に対しては、表2に示す加工面圧にてバニシング加工を実施した。その結果、外周面の硬度(表面硬度)および表面窒素濃度は表2に示す通りとなった。なお、表2のNo.1の試験片については、浸炭窒化処理およびバニシング加工を省略した。また、表2のNo.2およびNo.3の試験片については、バニシング加工を省略した。一方、相手部材は、SUJ2を素材として、焼入硬化することにより作製した。また、試験片の外周面に多数のピット(平面形状の外接円の平均径が5μm以上50μm以下のピット、総面積率20%)を形成した試験片も同様に作製した。そして、上記2円筒試験機を用いて試験を実施し、試験終了後の試験片表面に生じている表面損傷部の面積率を画像解析により測定した(耐表面損傷試験)。なお、表2に示す表面損傷部の面積率(表面損傷率)は、試験片の外周面全体のうち損傷が最も進行した部位を5箇所選び、その面積率の平均値を算出した結果を示している。 【0074】 【表1】 [図:0001438253000005.jpg] 【0075】 【表2】 [図:0001438253000006.jpg] 」 「【0079】 図10を参照して、試験片にバニシング加工による硬化処理および窒素富化層の形成を実施しなかった場合でも、時間の経過とともに金属接触率が低下していく。一方、図11を参照して、窒素富化層を形成することにより、図10の場合に比べて早期に金属接触率が低下し、かつ金属接触率の低下がほぼ完了した状態における金属接触率の値も図10の場合よりも小さくなっている。このことから、窒素富化層の形成は潤滑性能の向上に有効であることが確認される。さらに、図12を参照して、表面窒素濃度が0.2質量%を超えるようにすることにより、潤滑性能が一層向上している。これは、表面窒素濃度の上昇により、試験片の耐摩耗性が向上するとともに相手部材の表面粗さを小さくする効果が大きくなるため、接触面の合成粗さが小さくなったからであると考えられる。」 (7)甲7について ア 甲7の記載 甲7には次の記載がある(下線は当審合議体が付したもの。)。 「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、転がり軸受の軸受部品の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】潤滑油中での軸受の転がり接触疲労の破損形態としては軸受軌道輪の軌道部表面の剥離があり、軸受寿命を伸ばすためには軌道輪材料に硬さと靭性が要求される。一方、最近の軸受に対するニーズとしては、たとえば自動車のトランスミッション用軸受のように潤滑油中に異物が混入している場合で長寿命を要求されるものが多くなってきている。一般的に、清浄な潤滑油中での転がり接触疲労寿命は、軌道部の剪断応力位置からの内部起点による剥離に支配されるが、潤滑油中に異物が混入している場合は、寿命は軌道部表面の圧痕を起点とした剥離や表面の磨耗などに支配され、上記の清浄油中での疲労寿命の数分の1~数十分の1に低下する。したがって、潤滑油中に異物が混入している場合の軸受寿命を伸ばすには、軌道部表面の耐圧痕、耐摩耗性に優れた軌道輪を作ることが必要である。 【0003】ところで、上記のような汚れ油中での軸受寿命向上手段として、従来、種々のものが提案されている。たとえば、異物による圧痕や摩耗に対して有効な手段として、軌道部の表面硬さを高くすることが考えられている。また、軸受として必要な靭性を確保する手段として、残留オーステナイトをある程度残すことが考えられている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】汚れ油中で使用される軸受に対しては、靭性が高いことと、異物による圧痕や摩耗が生じにくいことがともに重要であるが、たとえば、靭性を高くすることと硬さを高くすることは一般的には相反することとなり、両方の性能が優れている軸受軌道輪を作ることは非常に困難である。 【0005】軌道輪だけでなく、玉、ころなどの転動体についても同様の問題がある。 【0006】この発明の目的は、上記の問題を解決し、靭性が高く、しかも表面の耐圧痕、耐摩耗性に優れ、よつて異物が混入した潤滑油中での軸受寿命の向上が可能な軸受部品の製造方法を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】第1の発明による軸受部品の製造方法は、高炭素クロム軸受鋼からなる軸受部品素材を焼入れ硬化する硬化工程、上記素材を焼戻しする焼戻し工程、上記素材の所望部分にショットピーニングを施して、残留圧縮応力を付与し、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させ、硬さを高めるショットピーニング工程、および上記素材を研磨する仕上工程を含み、上記所望部分の表層部の残留オーステナイトを実質的に0を含む10%以下とするとともに、最大残留圧縮応力を-500~-1500MPaとし、硬さをビッカース硬さで850~950にすることを特徴とするものである。 【0008】第2の発明による軸受部品の製造方法は、高炭素クロム軸受鋼からなる軸受部品素材を焼入れ硬化する硬化工程、上記素材の所望部分にショットピーニングを施して、残留圧縮応力を付与し、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させ、硬さを高めるショットピーニング工程、上記素材を焼戻しする焼戻し工程、および上記素材を研磨する仕上工程を含み、上記所望部分の表層部の残留オーステナイトを実質的に0を含む10%以下とするとともに、最大残留圧縮応力を-500~-1500MPaとし、硬さをビッカース硬さで850~950にすることを特徴とするものである。」 「【0010】 【作用】ショットピーニング工程によって軸受部品素材の表層部の残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させて硬さを高めるので、異物による圧痕や摩耗が生じにくい。しかも、ショットピーニング工程によって表層部に残留圧縮応力を付与するので、圧痕がついた場合でも、これを起点とする亀裂の伸展がおさえられる。また、ショットピーニングによって表層部の残留オーステナイトだけをマルテンサイトに変態させるので、表層部より内側の部分には残留オーステナイトがあり、軸受として必要な靭性が得られる。 【0011】なお、残留オーステナイトを実質的に0を含む10%以下にした理由は、10%を越えると十分な表面硬さや残留圧縮応力が得られないからである。 【0012】最大残留圧縮応力を-500~-1500MPaの範囲内にした理由は、-500MPaを下まわると十分な軸受寿命向上が得られないためであり、また、-1500MPaを上まわると、ショットピーニング工程の際に鋼球の消耗が激しく、処理時間も長くなりコストアップとなるからである。 【0013】さらに、硬さをビッカース硬さで850~950の範囲内にした理由は、850を下まわると、表層部での圧痕の発生抑止効果が十分でなく、軸受寿命の向上がみられないからであり、また、950を上まわると靭性が低下するためである。 【0014】 【実施例】以下、図面を参照して、この発明の実施例について説明する。 【0015】図1は、軸受部品の製造方法の第1実施例を示す工程図である。次に、この図1の工程図を参照して、軸受軌道輪の製造方法の1例を説明する。 【0016】図1において、まず、たとえばJIS SUJ2などの高炭素クロム軸受鋼を用いて、通常の鍛造工程(工程1)および旋削工程(工程2)により、軌道輪素材を作る。 【0017】次に、この素材を通常の条件で焼入れ硬化する硬化工程(工程3)を行なう。 【0018】次に、この素材を通常の条件で焼戻しする焼戻し工程(工程4)を行なう。 【0019】次に、この素材の軌道部にショットピーニングを施して、残留圧縮応力を付与し、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させ、硬さを高めるショットピーニング工程(工程5)を行なう。ショットピーニングは、ビッカース硬さ(HV)650以上の鋼球を使用し、アークハイト1mmA以上、カバレッジ200%以上の条件で行なうのが好ましい。 【0020】最後に、この素材を研磨する仕上工程(工程6)を行なう。 【0021】そして、最終的に、少なくとも軌道部の表面から深さ0.05mm程度の範囲の表層部に500~1500MPaの残留圧縮応力を付与し、表層部の残留オーステナイトを実質的に0を含む10%以下とし、表層部の硬さをHV850~950にする。 【0022】玉、ころなどの転動体も、上記と同様にして製造される。なお、玉の場合は全表面にショットピーニングを施し、ころの場合は少なくとも転動面にショットピーニングを施す。 【0023】次に、表1および表2を参照して、実施例1、2、3および比較例1、2の軸受部品すなわち軌道輪および玉を使用した玉軸受について行なった比較試験の結果について説明する。 【0024】 【表1】 [図:0001438253000007.jpg] 【表2】 [図:0001438253000008.jpg] 表1に示すように、実施例および比較例の材料はいずれもSUJ2であり、これに普通焼入を施す硬化工程と普通焼戻し工程を行なった。この焼戻し工程後のショットピーニング工程前の表層部の硬さHVと残留オーステナイト量γRが表1に示されている。比較例1については、焼戻し工程の後にショットピーニング工程を行なわずに仕上工程を行ない、実施例1~3と比較例2については、焼戻し工程の後にショットピーニング工程を行ない、この後に仕上工程を行なった。なお、実施例1と2はアークハイト1mmA、実施例3はアークハイト1.1mmA、比較例2はアークハイト0.5mmAの条件でショットピーニングを行なった。ショットピーニング工程と仕上工程後の表層部の硬さHV、残留オーステナイト量γRおよび最大残留圧縮応力ならびに各軸受部品を使用した玉軸受の寿命比が表2に示されている。寿命比は、汚れ油中での寿命試験の結果を比較例1の軸受部品を使用した玉軸受を1として示している。 【0025】図2は実施例1の軸受部品の表面からの深さに対する残留圧縮応力(MPa)の測定値を示し、図3は同軸受部品の表面からの深さに対する硬さ(HV)の測定値を示している。 【0026】実施例1の軸受部品は、図3からも明らかなように、表面の硬さが非常に高くなり、潤滑油中に混入した異物に対して強く、異物による表面の圧痕の発生がおさえられ、その結果、表面の傷や圧痕を起点とする亀裂の発生がおさえられる。しかも、図2からも明らかなように、表層部に残留圧縮応力が付与されているので、表面に圧痕がついた場合でも、これを起点とする亀裂の伸展がおさえられる。このため、汚れ油中における疲労寿命が向上する。また、ショットピーニングによって表層部の残留オーステナイトだけをマルテンサイトに変態させるので、表層部より内側の部分には残留オーステナイトがあり、軸受として必要な靭性が得られる。 【0027】表2から明らかなように、実施例1、2、3の軸受部品は、表層部の硬さおよび最大残留圧縮応力が高く、寿命比が比較例1の5.6倍以上になっている。比較例2については、寿命比が比較例1の2.2倍になっているが、実施例1、2、3に比べて、表層部の硬さおよび最大残留圧縮応力が低く、寿命の向上の度合も小さい。」 「【図2】 [図:0001438253000009.jpg] 」 「【図3】 [図:0001438253000010.jpg] 」 イ 甲7に記載された発明 上記アから次の事項がいえる。 a 甲1には、【0015】~【0022】記載の製造方法により製造された軸受部品の実施例2(表1及び表2)を使用した「玉軸受」(【0023】)が記載されているといえる。その「玉軸受」に使用される軸受部分の実施例2は「軌道輪」であり、「玉」でもある(【0022】、【0023】)。 b 表1及び表2における硬さ(HV)及び残留オーステナイト量γR(%)はそれぞれ「表層部」の値であり(【0024】、【0027】)、その「表層部」とは、「少なくとも軌道部の表面から深さ0.05mm程度の範囲」である(【0021】)。 そうすると、表1から、実施例2の軌道輪は、その軌道部の表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量が12~15%、硬さが750~760(HV)であるといえる。 また、表2から、実施例2の軌道輪は、その軌道部の表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト量が5~8%、硬さが885~900(HV)であるといえる。 c 【0015】~【0022】記載の軸受部品の製造方法におけるショットピーニングは、素材に残留圧縮応力を付与する工程(【0007】、【0010】、【0019】)であることに鑑みれば、甲7の【図2】から、実施例1は、表面からの深さが0.3mm以上深い領域では負の残留応力がほぼ0となっており、この表面からの深さが0.3mm以上深い領域は、ショットピーニングの影響を受けていない領域であると認められる。そして、実施例1と実施例2とは、焼入れ焼き戻し後の表層部の硬さ(HV)と残留オーステナイト量γR(%)に違いはあるものの材料は同じであり、ショットピーニング工程の条件も同じ(【0024】)であることに鑑みれば、実施例2についても、甲7の【図2】と同様の残留圧縮応力が測定されると考えられる。そうすると、実施例2についても、表面からの所定深さ以上の深い領域は、ショットピーニングの影響を受けていない領域であると理解できる。 d 実施例2は、普通焼入を施す硬化工程と普通焼戻し工程を行なって、ショットピーニング工程前の表層部の残留オーステナイト量が12~15%となっている(【0024】、表1)。 【0015】~【0022】記載の軸受部品の製造方法においては、軌道輪の軌道部に、650(HV)以上の鋼球を使用し、アークハイト1mmA以上、カバレッジ200%以上の条件でショットピーニングを行う(【0019】)が、実施例2のショットピーニング工程のアークハイトは1mmAである(【0024】)。 実施例2は、かかる条件でのジョットピーニング工程後の残留オーステナイト量が5~8%となっている(【0024】、表2)。 上記ア及び上記a~dから、甲7には、以下の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているといえる。 [甲7発明] 「 軌道輪、玉を使用した玉軸受において、 軌道輪の軌道部の表面から深さが少なくとも0.05mm程度の範囲の表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量が12~15%、硬さが750~760(HV)であり、 軌道輪の軌道部の前記表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト量が5~8%、硬さが885~900(HV)であり、 軌道輪の軌道部の表面から所定深さ以上の深い領域は、ショットピーニングの影響を受けていない領域である、玉軸受の製造方法であって、 軌道輪に対し、普通焼き入れを施す硬化工程と普通焼戻し工程を行って、軌道輪の前記表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量を12~15%とし、 軌道輪の軌道部に、650(HV)以上の鋼球を使用し、アークハイト1mmA、カバレッジ200%以上の条件でショットピーニングを行い、 軌道輪の前記表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト量を5~8%とした、 玉軸受の製造方法。」 (8)甲8について ア 甲8の記載 甲8には次の記載がある(四角囲みは申立人が付したもの。下線は当審合議体が付したもの。)。 (ア)「 [図:0001438253000011.jpg] [図:0001438253000012.jpg] 」 (第1頁下段~第2頁上段) (イ)「 [図:0001438253000013.jpg] 」 (第2頁下段) (ウ)「 [図:0001438253000014.jpg] [図:0001438253000015.jpg] 」 (第4頁上~中段) イ 甲8に記載された発明 上記アから次のことがいえる。 a 甲8には、転がり疲労試験を実施するための単式スラスト玉軸受の軌道盤を用いたSP材試験片(以下、単に「試験片」という。上記ア(イ)「2・1 試験片」欄の第1~2行)、及び当該試験片の実験結果が記載されている。 b Fig.3(上記ア(ウ))から、試験片の表面から300μmの深さまでの領域では、ショットピーニングによってビッカース硬度が750以上に上昇され、試験片の表面から300μmより深い領域では、ショットピーニングによるビッカース硬度の上昇が見られず、概ね750程度であることが看取できる。 c 試験片を製造するにあたり、市販の単式スラスト玉軸受の軌道盤裏側の平滑面を研磨したものを試験片として用い、試験片表面に、粒径φ180μm、硬さ1150HVのイットリア安定化ジルコニアビーズを用い、投射圧0.2MPaとしてショットピーニングを行っている(上記ア(イ)「2・1 試験片」欄の第4~6行)。 上記ア及び上記a~cから、甲8には、以下の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているといえる。 [甲8発明] 「 転がり疲労試験を実施するための単式スラスト玉軸受の軌道盤を用いた試験片において、 試験片の表面から300μmの深さまでの領域では、ショットピーニングによってビッカース硬度が750以上に上昇され、 試験片の表面から300μmより深い領域では、ショットピーニングによるビッカース硬度の上昇が見られず、ビッカース硬度が概ね750程度である、試験片の製造方法であって、 市販の単式スラスト玉軸受の軌道盤裏側の平滑面を研磨したものを試験片として用い、試験片の表面に、粒径φ180μm、硬さ1150HVのイットリア安定化ジルコニアビーズを用い、投射圧0.2MPaとしてショットピーニングを行う、 試験片の製造方法。」 (9)甲9について 甲9には次の記載がある(下線は当審合議体が付したもの。)。 「 [図:0001438253000016.jpg] 」 (第10頁左欄) (10)甲10について 甲10には次の記載がある(四角囲みは申立人が付したもの。下線は当審合議体が付したもの。)。 「 [図:0001438253000017.jpg] 」 (第10頁左欄下~同頁右欄) (11)甲11について 甲11には次の記載がある。 「 [図:0001438253000018.jpg] 」 (第181頁第7~10行) 「 [図:0001438253000019.jpg] 」 (第181頁下部) 2 取消理由1(進歩性)について (1)甲1を主引用文献として ア 本件発明3について (ア)対比 本件発明3と甲1発明とを対比する。 a 後者の「軌道輪」と、前者の「内輪」及び「外輪」とは、「輪状の軌道部材」である限りで一致する。後者の「玉」は前者の「転動体」に相当する。そうすると、後者の「軌道輪、玉を使用した」という事項と、前者の「内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる」という事項とは、「輪状の軌道部材と転動体を用いた」という限りで一致する。 後者の「玉軸受」は、前者の「転がり軸受」に相当する。 b 後者の「軌道部」は、前者の「軌道面」又は「転動体と接触する前記軌道面」に相当し、後者の「ショットピーニング」は、前者の「機械加工」に相当する。 後者の「軌道部の表面から深さが少なくとも0.3mm以上深い領域」であって、「ショットピーニングの影響を受けていない領域」は、前者の「軌道面における、機械加工の影響を受けていない」「領域」に相当し、ショットピーニング後においても、ショットピーニング前とほぼ同じの25~29%の残留オーステナイト量が存在する領域であると認められる。 したがって、後者の「軌道輪の軌道部の表面から深さが少なくとも0.05mm程度の範囲の表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量が25~29%」「であり、」「軌道輪の軌道部の表面から深さが少なくとも0.3mm以上深い領域は、ショットピーニングの影響を受けていない領域である」ことは、前者の「軌道面における、機械加工の影響を受けておらず、残留オーステナイト量が13%以上である領域を第1領域と」することに相当する。 c 後者において、「軌道輪の軌道部の前記表層部」は「ショットピーニング後の残留オーステナイト量が15~18%」と、ショットピーニング前の残留オーステナイト量、25~29%から減少し、「硬さが900~910(HV)」と、ショットピーニング前の硬さ、780~800(HV)から増加している。 したがって、上記bを踏まえると、後者の「軌道輪の軌道部の表面から深さが少なくとも0.05mm程度の範囲の表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量が25~29%、硬さが780~800(HV)であり、軌道輪の軌道部の前記表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト量が15~18%、硬さが900~910(HV)であ」ることは、前者の「前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量よりも少なく、かつ、硬さが、前記第1領域の硬さよりも高い領域を第2領域とする」ことに相当する。 d 前者の「特殊熱処理」に関し、本件特許明細書には「浸炭窒化処理のような特殊熱処理」(【0006】)との記載がある。そうすると、後者の「浸炭窒化処理」は前者の「特殊熱処理」に相当する。 e 後者の「ショットピーニング」と前者の「バニシング加工」とは、「機械加工」である限りで一致する。後者の「浸炭窒化処理を施す硬化工程と普通焼戻し工程を行」うこと、前者の「焼入れ焼戻し処理を施」すことは、「熱処理を施」すことの限りで一致する。後者の「軌道輪の前記表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量を25~29%とし」との事項は、前者の「残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で」との事項に相当する。 f 後者の「650(HV)以上の鋼球を使用し、アークハイト1.1mmA、カバレッジ200%以上の条件でショットピーニングを行う」ことと、前者の「弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施す」こととは、「所定条件で機械加工を施す」ことの限りで一致する。 以上より、本件発明3と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「 輪状の軌道部材と転動体を用いた転がり軸受において、 前記輪状の軌道部材の軌道面における、機械加工の影響を受けておらず、残留オーステナイト量が13%以上である領域を第1領域とし、 前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量より少なく、かつ、硬さが、前記第1領域の硬さより高い領域を第2領域とする、転がり軸受の製造方法であって、 前記輪状の軌道部材に対し、機械加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で熱処理を施した後、 前記輪状の軌道部材の軌道面に対し、所定条件で機械加工を施す転がり軸受の製造方法。」 [相違点1-1] 「輪状の軌道部材」、及び「輪状の軌道部材と転動体を用いた」「転がり軸受」に関し、本件発明3は、「輪状の軌道部材」が「内輪」と「外輪」であり、軸受が「内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる」転がり軸受であるのに対し、甲1発明は、「輪状の軌道部材」が「軌道輪」ではあるが、それが内輪と外輪であるかは明らかでなく、軸受が「軌道輪、玉を使用した」玉軸受である点。 [相違点1-2] 「熱処理を施」すことに関し、本件発明3は、それが「焼入れ焼戻し処理を施」すことであり、転がり軸受の製造方法が、「特殊熱処理又はサプゼロ処理のいずれをも施さない」ものとなっているのに対し、甲1発明は、それが、「浸炭窒化処理を施す硬化工程と普通焼戻し工程を行」うことであり、玉軸受の製造方法が、「浸炭窒化処理を施す硬化工程」を含むものとなっている点。 [相違点1-3] 「機械加工」、及び「所定条件で機械加工を施す」ことに関し、本件発明3は、「バニシング加工」、及び「弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施す」ことであるのに対し、甲1発明は、「ショットピーニング」、及び「650(HV)以上の鋼球を使用し、アークハイト1.1mmA、カバレッジ200%以上の条件でショットピーニングを行う」ことである点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1-2について検討する。 甲1発明において、「浸炭窒化処理」は「硬化工程」として行われており、軸受分野において、硬化のための熱処理として、焼入れは周知技術である(甲3【0016】、甲4【0011】、甲5【0035】、甲6【0073】、甲7【0024】、甲10参照)。 しかしながら、甲1発明は、「浸炭窒化処理を施す硬化工程」を前提として、「靭性が高く、しかも表面の耐圧痕、耐摩耗性に優れ、よつて異物が混入した潤滑油中での軸受寿命の向上が可能な軸受部品の製造方法を提供する」(【0006】)という課題の解決を図るものであり、甲1発明おいて、「硬化工程」として、「浸炭窒化処理を施す」ことに代えて、周知技術である焼入れを施すようにすることには、阻害要因があるといえる。 したがって、甲1発明及び甲各号証に記載された技術的事項から、相違点1-2に係る本件発明3の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲各号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 本件発明4について 本件発明4は、本件発明3の発明特定事項を全て含むものである。 よって、上記アから明らかなとおり、本件発明4は、甲1発明及び甲各号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 ウ 甲1を主引用文献とした取消理由1についてのまとめ 上記ア、イのとおりであるから、甲1を主引用文献とした取消理由1により、本件発明3、4に係る特許を取消すことはできない。 (2)甲7を主引用文献として ア 本件発明3について (ア)対比 本件発明3と甲7発明とを対比する。 a 後者の「軌道輪」と、前者の「内輪」及び「外輪」とは、「輪状の軌道部材」である限りで一致する。後者の「玉」は前者の「転動体」に相当する。そうすると、後者の「軌道輪、玉を使用した」という事項と、前者の「内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる」という事項とは、「輪状の軌道部材と転動体を用いた」という限りで一致する。 後者の「玉軸受」は、前者の「転がり軸受」に相当する。 b 後者の「軌道部」は、前者の「軌道面」又は「転動体と接触する前記軌道面」に相当し、後者の「ショットピーニング」は、前者の「機械加工」に相当する。後者の「軌道部の表面から所定深さ以上の深い領域」であって、「ショットピーニングの影響を受けていない領域」は、前者の「軌道面における、機械加工の影響を受けて」いない「領域」に相当する。そうすると、後者の「軌道部の表面から所定深さ以上の深い領域は、ショットピーニングの影響を受けていない領域である」ということは、前者の「軌道面における、機械加工の影響を受けて」いない「領域を第1領域と」することに相当する。 c 後者において、「軌道輪の軌道部の前記表層部」は「ショットピーニング後の残留オーステナイト量が5~8%」と、ショットピーニング前の残留オーステナイト量、12~15%から減少し、「硬さが885~900(HV)」と、ショットピーニング前の硬さ、750~760(HV)から増加している。 したがって、上記bを踏まえると、後者の「軌道部の表面から深さが少なくとも0.05mm程度の範囲の表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量が12~15%、硬さが750~760(HV)であり、軌道輪の軌道部の前記表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト量が5~8%、硬さが855~900(HV)であ」ることは、前者の「前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量よりも少なく、かつ、硬さが、前記第1領域の硬さよりも高い領域を第2領域とする」ことに相当する。 d 後者においては、軌道輪に対する熱処理は、「普通焼き入れを施す硬化工程と普通焼戻し工程」であり、その他の熱処理工程はない。したがって、後者の「軌道輪に対し、普通焼き入れを施す硬化工程と普通焼戻し工程を行」うことは、前者の「特殊熱処理又はサプゼロ処理のいずれをも施さない」ことに相当する。 e 後者の「普通焼き入れを施す硬化工程と普通焼戻し工程を行」うことは、前者の「焼入れ焼戻し処理を施す」ことに相当する。 f 後者の「650(HV)以上の鋼球を使用し、アークハイト1mmA、カバレッジ200%以上の条件でショットピーニングを行う」ことと、前者の「弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施す」こととは、「所定条件で機械加工を施す」との限りで一致する。 以上より、本件発明3と甲7発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「 輪状の軌道部材と転動体を用いた転がり軸受において、 輪状の軌道部材の軌道面における、機械加工の影響を受けていない領域を第1領域とし、 前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量より少なく、かつ、硬さが、前記第1領域域の硬さより高い領域を第2領域とする、特殊熱処理又はサプゼロ処理のいずれをも施さない、転がり軸受の製造方法であって、 輪状の軌道部材に対し、焼入れ焼戻し処理を施した後、 輪状の軌道部材の軌道面に対し、所定条件で機械加工を施す転がり軸受の製造方法。」 [相違点7-1] 「輪状の軌道部材」、及び「輪状の軌道部材と転動体を用いた」「転がり軸受」に関し、本件発明3は、「輪状の軌道部材」が「内輪」と「外輪」であり、軸受が「内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる」転がり軸受であるのに対し、甲7発明は、「輪状の軌道部材」が「軌道輪」ではあるが、それが内輪と外輪であるかは明らかでなく、軸受が「軌道輪、玉を使用した」玉軸受である点。 [相違点7-2] 本件発明3は、「軌道面」における、「機械加工の影響を受けていない領域」が「残留オーステナイト量が13%以上」であり、また、「内輪及び外輪に対」する「焼入れ焼戻し処理」を「バニシング加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で」施すのに対し、甲7発明は、表層部の「ショットピーニング前の残留オーステナイト量が12~15%」で、軌道部の表面から所定深さ以上の深い領域がショットピーニングの影響を受けていない領域となっており、また、軌道輪に対し、「軌道輪の前記表層部のショットピーニング前の残留オーステナイト量を12~15%と」するよう普通焼き入れを施す硬化工程と普通焼戻し工程を行うものである点。 [相違点7-3] 「機械加工」、及び「所定条件で機械加工を施す」ことに関し、本件発明3は、「バニシング加工」、及び「弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施す」ことであるのに対し、甲7発明は、「ショットピーニング」、及び「650(HV)以上の鋼球を使用し、アークハイト1mmA、カバレッジ200%以上の条件でショットピーニングを行う」ことである点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点7-2について検討する。 甲7発明において、ショットピーニング前の軌道輪の軌道部の表層部は、その残留オーステナイト量に「12~15%」という幅があり、残留オーステナイト量が13%未満の部分も含んでおり、この残留オーステナイト量は、軌道輪の軌道部の表面から所定深さ以上の、ショットピーニングの影響を受けていない領域においても、同様といえる。 そして、甲7発明は、「靭性が高く、しかも表面の耐圧痕、耐摩耗性に優れ、よつて異物が混入した潤滑油中での軸受寿命の向上が可能な軸受部品の製造方法を提供する」(【0006】)という課題を解決するものであり、「十分な表面硬さや残留圧縮応力が得」(【0011】)るべく、ショットピーニング後の「表層部の残留オーステナイトを実質的に0を含む10%以下とする」(【0008】)という発明の一つの実施例にあたるものである。 そうすると、甲7発明には、そもそも、ショットピーニング前の軌道輪の表層部の残留オーステナイト量に下限値を設けるという技術思想は存在しない。また、甲7発明のショットピーニング後の残留オーステナイト量は5~8%であり、10%という上限値に対して余裕はあるものの、仮に、甲7発明のショットピーニング前の残留オーステナイト量を増加させつつ、そのショットピーニング前の残留オーステナイト量に13%という下限値を定めるようとすると、ショットピーニング後の残留オーステナイト量も増加し、10%という上限値を超える可能性がある。このような点に鑑みれば、甲7発明のショットピーニング前の残留オーステナイト量を13%以上と定めることには阻害要因があるといわざるをえない。 加えて、甲7発明のショットピーニング前の残留オーステナイト量のみに着目して、それを調整することが設計的事項であるといえたとしても、最終的なショットピーニング後の残留オーステナイト量を10%以下に抑えるという前提を考慮すれば、ショットピーニング前の残留オーステナイト量も抑えるべく、その上限値を定めるのが自然な発想であり、ショットピーニング前の残留オーステナイト量を増加させてその下限値を設定することが設計的事項とはいえない。 したがって、甲7発明及び甲各号証に記載された技術的事項から、相違点7-2に係る本件発明3の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明3は、甲7発明及び甲各号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 本件発明4について 本件発明4は、本件発明3の発明特定事項を全て含むものである。 よって、上記アから明らかなとおり、本件発明4は、甲7発明及び甲各号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 ウ 甲7を主引用文献とした取消理由1についてのまとめ 上記ア、イのとおりであるから、甲7を主引用文献とした取消理由1により、本件発明3、4に係る特許を取消すことはできない。 (3)甲8を主引用文献として ア 本件発明3について (ア)対比 本件発明3と甲8発明とを対比する。 a 後者の「単式スラスト玉軸受の軌道盤を用いた試験片」と前者の「内輪」と「外輪」とは、「部材」という限りで一致する。後者の「試験片の表面」と前者の「前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面」又は「転動体と接触する軌道面」とは、「部材の表面」という限りで一致する。後者の「ショットピーニング」は、前者の「機械加工」に相当する。 後者の「試験片の表面から300μmより深い領域」は、「ショットピーニングによるビッカース硬度の上昇が見られ」ない領域であり、ショットピーニングの影響を受けていない領域であるといえる。 したがって、後者の「試験片の表面から300μmより深い領域では、ショットピーニングによるビッカース硬度の上昇が見られず、ビッカース硬度が概ね750程度である」ことと、前者の「前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面における、機械加工の影響を受けておらず、残留オーステナイト量が13%以上である領域を第1の領域と」することとは、「部材の表面における、機械加工の影響を受けていない領域を第1領域と」するという限りで一致する。 b 後者の「試験片の表面から300μmの深さまでの領域」は、「ショットピーニングによってビッカース硬度が750以上に上昇され」た領域であり、その硬さが、ショットピーニングによるビッカース硬度の上昇が見られない領域、すなわち、ショットピーニングの影響を受けていない領域の硬さよりも高い領域であるといえる。 したがって、上記aを踏まえると、後者の「試験片の表面から300μmの深さまでの領域では、ショットピーニングによってビッカース硬度が750以上に上昇され」ることと、前者の「前記転動体と接触する前記軌道面において、残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量より少なく、かつ、硬さが、前記第1領域の硬さより高い領域を第2領域とする」こととは、「部材の表面において、硬さが、前記第1領域より高い領域を第2領域とする」という限りで一致する。 c 後者の「試験片の表面に、粒径φ180μm、硬さ1150HVのイットリア安定化ジルコニアビーズを用い、投射圧0.2MPaとしてショットピーニングを行う」ことと、前者の「前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面に対し、弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件で機械加工を施す」こととは、「部材の表面に機械加工を施す」ことの限度で一致する。 以上より、本件発明3と甲8発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「 部材の表面における、機械加工の影響を受けていない領域を第1領域とし、 部材の表面において、硬さが、前記第1領域より高い領域を第2領域とする、製造方法であって、 部材の表面に機械加工を施す、 製造方法。」 [相違点8-1] 本件発明3は、「内輪と外輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持してなる転がり軸受」の製造方法であるのに対して、甲8発明は、「転がり疲労試験を実施するための単式スラスト玉軸受の軌道盤を用いた試験片」の製造方法である点。 [相違点8-2] 「部材」、及び「部材の表面」がそれぞれに関し、本件発明3は、「内輪」と「外輪」、及び「前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面」又は「前記転動体と接触する前記軌道面」であるのに対し、甲8発明1は、「試験片」、及び「試験片の表面」である点。 [相違点8-3] 「部材の表面における、機械加工の影響を受けていない領域を第1領域と」すること及び「硬さが、前記第1領域より高い領域を第2領域とする」ことに関し、本件発明1は、「部材の表面において、機械加工の影響を受けていない領域」である「第1領域」が「残留オーステナイト量が13%以上である」とされ、「硬さが、前記第1領域より高い領域」である「第2領域」が、「残留オーステナイト量が、前記第1領域の残留オーステナイト量より少な」いとされているのに対し、甲8発明は、「試験片の表面から300μmより深い領域」と「試験片の表面から300μmの深さまでの領域」について、それぞれの領域での残留オーステナイト量が明らかでない点。 [相違点8-4] 本件発明3は、「特殊熱処理又はサプゼロ処理のいずれをも施さない」製造方法であって、「前記内輪及び外輪に対し、バニシング加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で焼入れ焼戻し処理を施」すのに対し、甲8発明は、ショットピーニングを行う試験片は、「市販の単式スラスト玉軸受の軌道盤裏側の平滑面を研磨したものを試験片として用い」る点。 [相違点8-5] 「部材の表面に機械加工を施す」ことに関し、本件発明3は、「前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面に対し、弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施す」ものであるのに対し、甲8発明は、「試験片の表面に、粒径φ180μm、硬さ1150HVのイットリア安定化ジルコニアビーズを用い、投射圧0.2MPaとしてショットピーニングを行う」ものである点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点8-4について検討する。 甲8は、ショットピーニングを施した軸受鋼に対し、異物として高速度鋼の粉末を混入した潤滑油中でのスラスト型転がり疲労試験を実施した結果をまとめた文献であり(第5の1(8)ア(ア))、その疲労試験における試験片として、「市販の単式スラスト玉軸受の軌道盤」が用いられている。そして、甲8に記載された疲労試験は、ショットピーニングの有無の影響を調査するもの(第5の1(8)ア(ウ)のFig.3)であり、市販の単式スラスト玉軸受の軌道盤が市販前に受け熱処理にも着目した調査とはなっておらず、甲8には、試験片としての市販の単式スラスト玉軸受の軌道盤に対する市販前の熱処理について、記載も示唆もない。 また、甲8発明において、「市販の単式スラスト玉軸受の軌道盤」の市販前の熱処理として、残留オーステナイト量が13%以上となるよう、特殊熱処理やサブゼロ処理を排除しつつ、焼入れ焼戻しを採用することが設計的事項であるといえる証拠もない。 そして、単式スラスト玉軸受の軌道盤を、特殊熱処理やサプゼロ処理を施さず、残留オーステナイト量が13%以上となるように焼入れ焼戻した状態で市販することが、周知技術であるといえる証拠もない。 したがって、甲8発明及び甲各号証に記載された技術的事項から、相違点8-4に係る本件発明3の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明3は、甲8発明及び甲各号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 本件発明4について 本件発明4は、本件発明3の発明特定事項を全て含むものである。 よって、上記アから明らかなとおり、本件発明4は、甲8発明及び甲各号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 ウ 甲8を主引用文献とした取消理由1についてのまとめ 上記ア、イのとおりであるから、甲8を主引用文献とした取消理由1により、本件発明3、4に係る特許を取消すことはできない。 3 取消理由2(サポート要件)について 本件発明3、4が解決しようとする課題は、「従来、転がり軸受の塑性変形抵抗性の向上には、転がり軸受の外輪軌道輪及び内輪軌道輪の硬さと残留オーステナイト量とのバランスが重要であり、転がり軸受の軌道輪の硬さを上昇させたり、鋼の軟質な組織である残留オーステナイトを減少させたりすることで永久変形抵抗性を向上させて、耐圧痕性を向上させる取り組みが実施されている」ところ(【0003】)、「浸炭窒化処理のような特殊熱処理は、長時間を要するとともに、そのための工程が別途必要にもなり、製造コストが増加する」こと、「また、サブゼロ処理は、靱性を低下させる懸念があるとともに、そのための工程が別途必要になり製造コストも増加する」こと(【0006】)に鑑み、「低コストで耐圧痕性を向上させた転がり軸受及びその製造方法を提供すること」(【0007】)である。 そして、発明の詳細な説明に上記課題を解決するための手段として記載されているものは、「前記内輪及び外輪に対し、焼入れ焼戻し処理を施した後、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面に対し、弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件で機械加工を施」し(【0015】)、「浸炭窒化処理やサブゼロ処理のような別工程が不要」(【0016】)な製造方法である。 これに対し、本件発明3、4は、「特殊熱処理又はサブゼロ処理のいずれをも施さない、転がり軸受の製造方法であって、前記内輪及び外輪に対し、バニシング加工する前の残留オーステナイト量が13%以上となるような条件で焼入れ焼戻し処理を施した後、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方の軌道面に対し、弾性変形のみが生じると仮定して算出した、加工治具との最大接触面圧を8.2GPa以上とした条件でバニシング加工を施すことを特徴とする転がり軸受の製造方法」であり、発明の詳細な説明に記載された課題解決手段が反映されたものとのとなっている。 したがって、本件発明3、4は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、取消理由2によって、本件発明3、4に係る特許を取消すことはできない。 第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人は、特許異議申立理由として、訂正前の本件特許の請求項1~3に係る発明に対し、本件特許明細書等には、「深さ250μm以上の領域を未加工領域(第1領域)とし、当該領域はバニシング加工の影響を受けていない領域である。また、表面(深さ0μm)から深さ250μm未満の領域を加工領域(第2領域)とし、当該領域はバニシング加工の影響を受けている領域である。」(【0031】)と記載されているが、本件特許明細書等の表2、表3からは、深さ250μm以上の領域全体を機械加工の影響を受けていない領域と見倣すことはできないため、訂正前の本件特許の請求項1に係る発明の「機械加工の影響を受けて」いない「第1領域」の定義が不明であり、訂正前の本件特許の請求項1~3に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する明確性要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである旨、主張する(特許異議申立書第26頁下から7行目~第27頁下から1行目)。 しかしながら、当業者が本件特許明細書【0033】の記載をみれば、訂正前の本件特許の請求項3に対応する本件発明3、4における「機械加工」としての「バニシング加工」によって、軌道面表層の残留オーステナイトを加工誘起マルテンサイト変態させることで、その量を減少させるという影響、及び、軌道面表層が、残留オーステナイト量が減少することで、硬さが向上するという影響がもたらされることは理解できる。また、当業者であれば、そのような軌道面表層の深さに応じた残留オーステナイト量及び硬度を計測することとで、軌道面表層のどこまでが「機械加工」としての「バニシング加工」の影響を受けた領域であるかを特定することとは可能である。 さらに、本件特許明細書等中に申立人が主張するような齟齬があるからといって、軌道面表層の深さに応じた残留オーステナイト量及び硬度が計測できなくなり、それにより「機械加工」としての「バニシング加工」の影響を受けた領域であるかを特定できなくなる訳でもない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 以上のとおりであるから、本件発明3、4は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する明確性要件を満たすものである。 よって、本件発明3、4に係る特許は、上記特許異議申立理由により取消すことはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明3、4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正により請求項1、2は削除されたから、請求項1、2に係る特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しなくなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700337

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