特許異議申立
2024-700349
シール用樹脂組成物およびシール
- 審判番号
- 2024-700349
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-021929
- 登録番号
- 7364812
- 請求日
- 2024年04月16日
- 審決日
- 2024年05月31日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】NTN株式会社
- 【権利者代理人】和気 光
- 【権利者代理人】和気 操
- 【権利者代理人】寺本 諭史
- 【異議申立人】田村 恭佑
- 審判長/審判官
- 審判長 平城 俊雅
- 審判官 内田 博之
- 審判官 尾崎 和寛
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7364812号発明「シール用樹脂組成物およびシール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7364812号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概略
特許第7364812号の請求項1~9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は、概ね、次のとおりである。
令和 5年 2月15日 出願(優先権主張 令和4年2月17日)
令和 5年10月10日 特許権の設定登録
令和 5年10月18日 特許掲載公報の発行
令和 6年 4月16日 特許異議申立人田村恭佑(以下「異議申立人」という。)による特許異議の申立て
第2 本件発明
特許第7364812号の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明9」とし、まとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりである。
「【請求項1】
ガスを密封するためのシールに用いられるシール用樹脂組成物であって、
前記シール用樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃の前記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下であり、
前記シール用樹脂組成物には硫黄原子の含有量が200ppm以下の炭素材料が配合され、該炭素材料が炭素繊維、黒鉛、およびコークス粉からなる群から選択される少なくとも1種以上であって、前記シール用樹脂組成物全体に対して前記炭素材料が合計で5体積%~50体積%含まれることを特徴とするシール用樹脂組成物。
【請求項2】
前記シール用樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃の前記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前の引張強さを100%としたときの保持率が80%以上であることを特徴とする請求項1記載のシール用樹脂組成物。
【請求項3】
前記シール用樹脂組成物の成形体の引張強さが、ASTM D638準拠の測定方法で100MPa以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。
【請求項4】
前記シール用樹脂組成物の主成分であるベース樹脂のガス透過度が、JIS K7126-1準拠の測定方法で4.0×10-12mol/(m2・s・Pa)以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ベース樹脂が、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、またはポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする請求項4記載のシール用樹脂組成物。
【請求項6】
前記シール用樹脂組成物の成形体は、硫黄原子の含有量が250ppm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。
【請求項7】
前記ガスが水素ガスであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物の成形体からなることを特徴とするシール。
【請求項9】
上記シールが、水素ガスを圧縮する往復式圧縮機のピストンリングであることを特徴とする請求項8記載のシール。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
異議申立人は、証拠方法として、下記の甲第1号証及び甲第2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。)を提出し、概略次の特許異議の申立ての理由を主張している。
記
甲1:再公表特許第2017/169482号
甲2:榎本三男 外4名、「炭素繊維の熱リン酸中における耐食性評価」、DENKI KAGAKU 65、No.4(1997)、320~325頁
理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1~9は、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
理由2(同法第36条第4項第1号)
本件発明1~9は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
理由3(同法第36条第6項第1号)
本件発明1~9は、その特許請求の範囲の記載が明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
1 甲1の記載について
甲1には以下の記載がある(下線は当審において付したものである。以下同様。)。
(1)「【0100】
熱可塑性樹脂組成物は、高温において流動しない領域を有するため、例えば、地中で高温に曝される石油探査機用又は化学プラント用のパッキン、摺動部材等に適用することができる。」
(2)「【0103】
(1)サンプルの作製(PEEK)
(1-1)実施例1~12のサンプルの作製
混合工程:熱可塑性樹脂をXplore Instruments社製の卓上二軸混練機MC15(図2)に投入し溶融させた。次いで、多層カーボンナノチューブ及び炭素繊維を卓上二軸混練機に投入して第1温度で混練し、第1混合物を得た。実施例1~8の卓上二軸混練機の設定温度、実測樹脂温度、スクリュウ回転数、及び混練時間は表1に示し、実施例9~12の設定温度、実測樹脂温度、及びスクリュウ回転数は表2に示した。又、各実施例の配合量(単位は「wt%」及び「phr」)は、表3,5,7に示した。」
(3)「【0109】
なお、各表において、
・「熱可塑性樹脂(A)」:Victrex社製ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)450G、融点343℃(ISO11357)、溶融粘度350Pa・s(ISO 11443,400℃)、
・「熱可塑性樹脂(B)」:Victrex社製ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)90G、融点343℃(ISO11357)、溶融粘度90Pa・s(ISO 11443,400℃)、
・「CNT」:Kumho社製の多層カーボンナノチューブ(MWNT)K-Nanos-100T、平均繊維径が10.5nm、
・「CF」:東レ社製の炭素繊維、トレカ(東レ社の登録商標)カットファイバーT010-006、平均繊維径が7μm、繊維長6mm、サイジング剤無し、原糸の比重1760kg/m3であった。」
(4)「【0116】
この試験結果から、測定温度が50℃、200℃、250℃における貯蔵弾性率(E’)を測定し、表3~表8に示した。表3~表8において、貯蔵弾性率は「E’(50℃)(MPa)」、「E’(200℃)(MPa)」、「E’(250℃)(MPa)」として示した。また、DMA試験において250℃まで流動しなかったサンプルについては「なし」と記載した。」
(5)「【0118】
【表3】
[図:0001411371000001.jpg]
」
(6)上記【表3】の実施例2の配合割合は、熱可塑性樹脂A87.5重量%、炭素繊維(CF)10重量%、多層カーボンナノチューブ2.5重量%である。
2 甲1発明
上記(1)~(5)の記載事項及び(6)の認定事項によれば、甲1には実施例2に関して、以下の甲1発明が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「化学プラント用のパッキンに適用される熱可塑性樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂組成物の成形体を動的粘弾性測定したとき、温度50℃における貯蔵弾性率をE’(50℃)、温度200℃における貯蔵弾性率をE’(200℃)とすると、E’(50℃)が6140MPa、E’(200℃)が972MPaであり、
PEEKと多層カーボンナノチューブと炭素繊維が配合され、
PEEKはVictrex社製ポリエーテルエーテルケトン 450Gであり、
炭素繊維は東レ社製のトレカ カットファイバーT010-006であり、
配合割合がPEEK87.5重量%、炭素繊維(CF)10重量%、多層カーボンナノチューブ2.5重量%である熱可塑性樹脂組成物。」
3 甲2の記載について
甲2には、PAN系炭素繊維A及びBが例示され、表3(Table3)の記載から、PAN系炭素繊維A及びBの硫黄(S)の含有量はそれぞれ28ppm及び46ppmであることが読み取れる。
そして、PAN系炭素繊維A及びBの例を見れば、炭素繊維がPAN系炭素繊維であれば、炭素繊維中の硫黄原子の含有量は微量であるといえる。
4 理由1(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
後者の「パッキンに適用される熱可塑性樹脂組成物」は前者の「シールに用いられるシール用樹脂組成物」に相当する。
後者の「熱可塑性樹脂組成物」に「炭素繊維」として「東レ社製のトレカ カットファイバーT010-006」が配合された構成と、前者の「前記シール用樹脂組成物には硫黄原子の含有量が200ppm以下の炭素材料が配合され、該炭素材料が炭素繊維、黒鉛、およびコークス粉からなる群から選択される少なくとも1種以上」である構成とは、「前記シール用樹脂組成物には炭素材料が配合され、該炭素材料が炭素繊維、黒鉛、およびコークス粉からなる群から選択される少なくとも1種以上」の限りで共通する。
したがって、前者と後者は、次の一致点1で一致し、相違点1~4で相違する。
[一致点1]
「シールに用いられるシール用樹脂組成物であって、
前記シール用樹脂組成物には炭素材料が配合され、該炭素材料が炭素繊維、黒鉛、およびコークス粉からなる群から選択される少なくとも1種以上であるシール用樹脂組成物。」
[相違点1]
本件発明1の「シールに用いられるシール用樹脂組成物」は、「ガスを密封するためのシールに用いられる」ものであるのに対し、甲1発明の「パッキンに適用される熱可塑性樹脂組成物」は「化学プラント用のパッキンに適用される」ものである点。
[相違点2]
本件発明1は「前記シール用樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃の前記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下」であるのに対し、甲1発明に、このような構成は特定されていない点。
[相違点3]
本件発明1は「前記シール用樹脂組成物には硫黄原子の含有量が200ppm以下の炭素材料が配合され、」ているのに対し、甲1発明は「東レ社製のトレカ カットファイバーT010-006」が配合された構成である点。
[相違点4]
本件発明1は「前記シール用樹脂組成物全体に対して前記炭素材料が合計で5体積%~50体積%含まれる」のに対し、甲1発明は「配合割合がPEEK87.5重量%、炭素繊維(CF)10重量%、多層カーボンナノチューブ2.5重量%である」点。
イ 検討
事案にかんがみ、先に相違点2について検討する。
甲1には、成形体としたときに、「圧力82MPa、温度200℃の前記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下」となる熱可塑性樹脂組成物は記載ないし示唆されていない。また、上記3で記載したとおり、甲2はPAN系炭素繊維の硫黄(S)の含有量が微量であることを示す証拠であって、上記のような熱可塑性樹脂組成物を示すものではない。
そして、パッキン用の熱可塑性樹脂組成物を成形体としたときに、「圧力82MPa、温度200℃の前記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下」とすることが周知技術であったとはいえない。
したがって、甲1発明及び周知技術に基づいて、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たこととは認められない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る本件発明1の構成によって、「高温かつ高圧の水素ガス中においても寸法変化および物性変化が極めて小さく、安定してシール性を発揮することができる」(本件特許明細書の段落【0092】参照。)という格別顕著な作用・効果を奏するものである。
そうすると、相違点1、3及び4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも本件発明1を引用し、さらに構成を特定するものであって、本件発明1の一部を置き換えるものではない。
そして、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、上記(2)~(5)で示した結論と同様、本件発明2~9も、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)理由1についての小括
以上のとおりであるから、本件発明1~9は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 理由2について
本件発明1~9を実施するための発明の詳細な説明及び図面の記載について検討する。
本件の発明の詳細な説明には、ベース樹脂として段落【0086】に
「(1)PEEK樹脂〔PEEK〕
ビクトレックスジャパン株式会社:PEEK 450P(溶融粘度350Pa・s)
(2)熱可塑性PI樹脂〔TPI〕
三井化学株式会社:PD400」が記載されており、配合する炭素材料として明細書の段落【0086】に
「(5)炭素繊維〔CF-1〕
株式会社クレハ:クレカM-107T(平均繊維長400μm)
(6)炭素繊維〔CF-2〕
帝人株式会社:HT M100 40MU(平均繊維長40μm)
(7)黒鉛〔GRP〕
イメリス・ジーシー・ジャパン株式会社:TIMREX KS25(D50:10μm)」が記載されている。
そして、段落【0087】に
「原材料を乾式混合した粉末を用いて二軸混練押し出し機によりペレットを作製し、射出成形」することでシール用樹脂組成物の成形体を得ることが記載されている。
すなわち、発明の詳細な説明には、本件発明のシール用樹脂組成物について、市販品の材料とこれを使用した製造方法が記載されているから、当業者は本件発明のシール用樹脂組成物を実施することは十分に可能であり、当業者が実施する上で、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるとは認められない。そして、発明の詳細な説明市販品以外の、すべてのベース樹脂及び充填剤の組み合わせが実施例として記載されていなくとも、本件発明を当業者が実施することができないとまではいえない。
よって、当該理由2は採用できない。
6 理由2又は3について
本件発明は、「高圧のガス中で使用され、ガスを密封するためのシールに用いられるシール用樹脂組成物およびシール」、特に「水素ガス用往復式圧縮機のピストンリングに用いられる樹脂組成物およびピストンリング」(段落【0001】参照。)を対象とし、「高温かつ高圧のガス中、特に水素ガス中で使用可能なシール用樹脂組成物およびシールを提供することを目的とする」(段落【0009】参照。)発明である。
当該目的に対し、本件の発明の詳細な説明では、課題を解決するための手段として、次の記載がある。(下線は強調のため当審で付加した。)
「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシール用樹脂組成物は、ガスを密封するためのシールに用いられる樹脂組成物であって、上記シール用樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃の上記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下であることを特徴とする。」
「【発明の効果】
【0018】
本発明のシール用樹脂組成物は、該樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃のガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下である(さらに好ましくは、曝露前の引張強さを100%としたときの保持率が80%以上である)ので、高温かつ高圧のガス中でシールとして長時間使用することができ、特に水素ガスを圧縮する往復式圧縮機のピストンリングとして好適である。」
「【0020】
例えば、往復式圧縮機で圧縮した水素ガスをFCVに充填する場合、水素ガス中に硫黄成分が混入されると、燃料電池の性能低下を引き起こすおそれがあるところ、上記シール用樹脂組成物の成形体は、硫黄原子の含有量が250ppm以下であるので、水素ガス中への硫黄成分の混入を低減でき、FCVにおける燃料電池の性能低下を抑制できる。」
「【0023】
本発明のシール用樹脂組成物は、その樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃のガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下である。寸法変化率が±1.0%を超えると、上記シール用樹脂組成物からなるシールを高温かつ高圧のガス中で使用した場合に、所定のシール性を満足できないおそれがある。」
「【0048】
本発明のシール用樹脂組成物は、強度、弾性率、摩擦摩耗特性などを向上させる目的で、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性PI樹脂、PAI樹脂などのベース樹脂に、炭素材料を配合することが好ましい。本明細書における「炭素材料」は、結晶性の有無およびその度合いは限定されず、非意図的であれば硫黄原子を含有していてもよい。炭素材料としては、炭素繊維、黒鉛、コークス粉などが挙げられ、これらの中から1種類の炭素材料を単独で配合しても、複数の種類を組み合わせて配合してもよい。当該炭素材料に含まれる硫黄原子の含有量は200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。」
「【0055】
上記シール用樹脂組成物は、炭素繊維、黒鉛、コークス粉などの炭素材料を少なくとも1種類以上含み、樹脂組成物全体に対して炭素材料を合計で5体積%~50体積%含むことが好ましく、5体積%~35体積%含むことがより好ましく、5体積%~25体積%含むことがさらに好ましい。炭素材料の合計の配合量が5体積%未満であると耐摩耗性向上の効果が得られにくく、35体積%を超えると樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、薄肉部がある成形品の場合には射出成形しにくくなる。50体積%を超えると、溶融粘度が極めて高くなり、射出成形そのものが困難になる。炭素材料として、例えば、炭素繊維および黒鉛を組み合わせて用いることができる。」
「【0092】
表2に示すように、PEEK樹脂組成物(実施例1および実施例2)、熱可塑性PI樹脂組成物(実施例3)の4号ダンベル試験片は、水素ガス中における曝露前後の寸法変化率(厚さ)が±0.1%以下であり、さらに、引張強さの保持率が90%以上であった。このように、実施例1~3の樹脂組成物からなる成形体は、高温かつ高圧の水素ガス中においても寸法変化および物性変化が極めて小さく、安定してシール性を発揮することができる。また、上記のようにして製造された実施例1~3の樹脂組成物からなる成形体は、硫黄原子の含有量が200ppm以下であり、特に実施例3は100ppm以下であった。」
以上の記載から、本件発明の課題は「高圧のガス中で使用され、ガスを密封するためのシールに用いられるシール用樹脂組成物」であり、このような課題をを解決するために、シール用樹脂組成物として「シール用樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃の上記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下」のものであって、「硫黄原子の含有量が200ppm以下の炭素材料が配合され、該炭素材料が炭素繊維、黒鉛、およびコークス粉からなる群から選択される少なくとも1種以上」を含み「シール用樹脂組成物全体に対して前記炭素材料が合計で5体積%~50体積%含まれる」ように構成したものであり、これらの構成は、本件発明として特定されている。また、本件発明の「シール用樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃の上記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下」とすることに関して、段落【0092】には、「高温かつ高圧の」「ガス中においても寸法変化および物性変化が極めて小さく、安定してシール性を発揮することができる。」と記載されているから、寸法変化とシール性との関係も把握できる。そして、「寸法変化率が±1.0%以下」とすることで安定したシール性を発揮することは、ガスの種類に依存するものではないことは当業者であれば十分に認識できるものである。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。また、発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、当該理由2又は3は採用できない。
7 異議申立人の主張(進歩性に関する主張)について
異議申立人は異議申立書において、当業者であれば、広く知られたPEEK樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、及びPAI樹脂のいずれかを用いることに何ら困難性がないから、4(1)の相違点1は設計事項に過ぎない旨主張している(8頁下から7行~9頁9行)。
しかしながら、広く知られたPEEK樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、及びPAI樹脂のいずれかであることと、「圧力82MPa、温度200℃の前記ガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準とした寸法変化率が±1.0%以下」の条件を必ず満足することとの関係を示す証拠は示されていないから、この異議申立人の主張は採用できない。
また、異議申立人は異議申立書において、射出成形は圧力82MPaよりも高圧、温度200℃よりも高温の条件で実施されるため、射出成形によって得られた成形体が圧力82MPa、温度200℃の環境に曝されたところで体積変化を伴う土1.0%より大きい寸法変化が生じるとは考えにくい旨主張する(9頁10~19行)。
しかしながら、合成樹脂の射出成型時の圧力及び温度と、シール対象となる「ガス中」での「圧力82MPa、温度200℃」での「192時間」後の体積変化との間に因果関係があることを示す証拠は示されていないから、この異議申立人の主張は採用しない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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