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特許異議申立

2024-700569

金属粉およびその製造方法

審判番号
2024-700569
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-094863
登録番号
7400021
請求日
2024年06月13日
審決日
2024年09月30日
公報発行日
2024年11月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】JFEミネラル株式会社
  • 【権利者代理人】落合 憲一郎
  • 【異議申立人】竹下 瑞恵
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 佐藤 陽一
  • 審判官 相澤 啓祐
分類
P1651.113-Y (B22F) / P1651.121-Y (B22F) / P1651.537-Y (B22F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7400021号発明「金属粉およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7400021号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7400021号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和 4年 6月13日の出願であって、令和 5年12月 8日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月18日にその特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和 6年 6月13日に、請求項1~6(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である竹下 瑞恵(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~6に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~6に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)。 「【請求項1】 質量基準で金属成分の99.5%以上がニッケルであり、残部が不可避的不純物である金属粉であって、 前記金属粉を構成する金属粒子の最大長径を長径(L)とし、該長径(L)の対角幅を短径(S)とし、前記短径(S)と前記金属粒子の等体積球相当径(DPV)との比(S/DPV)が0.92以下で、前記等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)が1.8以上である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下であり、 前記金属粒子の前記体積基準中位径(DPV50)が0.08μm~0.35μmである ことを特徴とする積層セラミックコンデンサ用金属粉。 【請求項2】 前記金属粉の比表面積1m2/gあたりのS(硫黄)含有量が70ppm~600ppmであることを特徴とする請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ用金属粉。 【請求項3】 前記金属粉の比表面積1m2/gあたりのO(酸素)含有量が1200ppm~7000ppmであることを特徴とする請求項1または2に記載の積層セラミックコンデンサ用金属粉。 【請求項4】 金属粉の製造方法であって、 金属化合物を蒸発または気化させて金属化合物気体とする気化工程と、 前記金属化合物気体と還元性気体とを反応させて金属粉を生成する反応工程と、 前記生成した金属粉を冷却する冷却工程とが連続しており、 前記冷却工程において冷却された気体が、前記反応工程に逆流しないようにオリフィスを設け、 前記オリフィスの中心の開口部の開口面積が反応部の断面積の25%~75%とし、 前記冷却工程において、反応に必要な不活性気体および前記還元性気体の総量の0.5倍mol量~5.0倍mol量の冷却用気体を使用し、 前記金属粉が、質量基準で金属成分の99.5%以上がニッケルであり、残部が不可避的不純物であって、 前記金属粉を構成する金属粒子の最大長径を長径(L)とし、該長径(L)の対角幅を短径(S)とし、前記短径(S)と前記金属粒子の等体積球相当径(DPV)との比(S/DPV)が0.92以下で、前記等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)が1.8以上である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下であり、 前記金属粒子の前記体積基準中位径(DPV50)が0.08μm~0.35μmである ことを特徴とする積層セラミックコンデンサ用金属粉の製造方法。 【請求項5】 前記金属粉の比表面積1m2/gあたりのS(硫黄)含有量が70ppm~600ppmであることを特徴とする請求項4に記載の積層セラミックコンデンサ用金属粉の製造方法。 【請求項6】 前記金属粉の比表面積1m2/gあたりのO(酸素)含有量が1200ppm~7000ppmであることを特徴とする請求項4または5に記載の積層セラミックコンデンサ用金属粉の製造方法。」 第3 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第8号証を提出し、以下の申立理由1~3により、本件特許の請求項1~6に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。 1 申立理由1(新規性、進歩性) (1)本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)本件発明2は、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)本件発明3は、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(新規性、進歩性) (1)本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)本件発明3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)本件発明4は、甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (6)本件発明5は、甲第2号証に記載された発明、技術常識及び甲第4号証に記載された事項又は甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (7)本件発明6は、甲第2号証に記載された発明、技術常識及び甲第4号証に記載された事項又は甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(新規性、進歩性) (1)本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)本件発明1は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)本件発明2は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)本件発明3は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 4 申立理由4(サポート要件) 本件発明1~6について、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 5 証拠方法 ・甲第1号証:特開2017-179551号公報 ・甲第2号証:国際公開第2019/009136号 ・甲第3号証:特開2017-150073号公報 ・甲第4号証:特開2016-156093号公報 ・甲第5号証:特開2020-100858号公報 ・甲第6号証:特開2005-248198号公報 ・甲第7号証:荒川正文、“粒度測定入門”、粉体工学会誌、1980年、第17巻、第6号、p.299-307 ・甲第8号証:久保輝一郎、外4名、“粉体 理論と応用”、改訂二版、丸善株式会社、昭和54年 5月12日、p.446-453 第4 当審の判断 以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(新規性、進歩性) (1)甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証には、「金属元素成分の含有量が85~99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1~12質量%であるニッケル粒子であって、走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm~150nmであり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下であるニッケル粒子。」に関する発明が記載されている(請求項1)。 イ また、甲第1号証には、上記アのニッケル粒子を、積層セラミックコンデンサに用いることも記載されている(請求項10、11)。 ウ そして、甲第1号証には、上記アの発明の具体例と解される実施例1として、ニッケルの含有量が97.65質量%、銅の含有量が0.10質量%、金属元素以外の成分の含有量が2.25質量%、一次粒子の平均粒子径D50が83nm、一次粒子径の変動係数が0.14、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.01%未満であるニッケル粒子Aが記載されている(段落【0084】、表1及び表2)。 エ そうすると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明> ニッケルの含有量が97.65質量%、銅の含有量が0.10質量%であり、金属元素以外の成分の含有量が2.25質量%であるニッケル粒子であって、走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が83nmであり、一次粒子径の変動係数が0.14であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.01%未満である、積層セラミックコンデンサ用ニッケル粒子。 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明において、ニッケルが金属成分(ニッケル+銅)に占める割合は、略99.9質量%(97.65/(97.65+0.10)=99.898%)であるから、「ニッケルの含有量が97.65質量%」であることは、本件発明1おいて、「質量基準で金属成分の99.5%以上がニッケルであ」ることに相当する。 (イ)甲1発明において、「ニッケル粒子」が、「金属粉」であることは明らかであるから、甲1発明における、「積層セラミックコンデンサ用ニッケル粒子」は、本件発明1における、「積層セラミックコンデンサ用金属粉」に相当する。 (ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「質量基準で金属成分の99.5%以上がニッケルである金属粉である、積層セラミックコンデンサ用金属粉。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-1> 本件発明1の金属粉は、金属成分におけるニッケル以外の残部が不可避的不純物であるのに対し、甲1発明のニッケル粒子は、金属成分におけるニッケル以外の残部が、銅:0.10質量%である点。 <相違点1-2> 本件発明1は、「前記金属粉を構成する金属粒子の最大長径を長径(L)とし、該長径(L)の対角幅を短径(S)とし、前記短径(S)と前記金属粒子の等体積球相当径(DPV)との比(S/DPV)が0.92以下で、前記等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)が1.8以上である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下」であるのに対し、甲1発明は、「ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が83nmであり、一次粒子径の変動係数が0.14であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.01%未満」である点。 <相違点1-3> 本件発明1は、「前記金属粒子の前記体積基準中位径(DPV50)が0.08μm~0.35μm」であるのに対し、甲1発明は、「ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が83nm」である点。 イ 判断 (ア)相違点1-1について a 相違点1-1が実質的な相違点であるかについて (a)甲第1号証において、銅は、粗大粒子が極めて少なく、粒度分布のシャープな粒子を合成しやすいなどという理由から、ニッケル粒子に添加される元素であり、また、凝集の原因となるニッケル粒子の磁性を弱め、分散性の向上に寄与する元素でもある(段落【0023】)。 (b)そして、ニッケル元素に対する銅元素の含有割合が0.01質量%未満であると、分散性の改善効果が得られず、一方、20質量%を超えると、加熱還元による粒子成長の効率が悪くなり、マイクロ波による加熱還元をする場合は、マイクロ波を吸収し難くなるため、効率の悪化が特に顕著であるから(段落【0023】)、甲第1号証のニッケル粒子においては、「金属元素成分において、ニッケル及び銅の質量比(ニッケル:銅)が、99.99~80.00:0.01~20.00」に設定されている(請求項3)。 (c)ここで、甲1発明のニッケル粒子は、ニッケルの含有量が97.65質量%、銅の含有量が0.10質量%であるから、金属元素成分において、ニッケル及び銅の質量比は、上記ア(ア)で述べたとおり、97.65:0.10=99:898:0.102となり、上記(b)の請求項3の条件を満たすことから、甲1発明のニッケル粒子における銅は、上記(a)の作用効果を得るために意図的に添加された必須成分であると解される。 そうすると、甲1発明のニッケル粒子において、金属成分におけるニッケル以外の残部である銅は、不可避的不純物ではないから、相違点1-1は実質的な相違点である。 b 相違点1-1の容易想到性について 上記a(c)で述べたとおり、甲1発明のニッケル粒子において、銅は、上記a(a)の作用効果を得るために意図的に添加された必須成分であると解されるから、銅の含有量を、不可避的不純物相当量である0.01質量%未満とすると、その作用効果が消失することになる。 そうすると、甲1発明のニッケル粒子において、金属成分におけるニッケル以外の残部を不可避的不純物とすることには、阻害要因があると認められる。 したがって、甲1発明のニッケル粒子において、上記相違点1-1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。このことは、甲第4号証に、ニッケル粉末の比表面積と硫黄(S)、酸素(O)の含有量、甲第5号証に、ニッケル粉末における硫黄(S)の作用効果、甲第6号証に、ニッケル粉末の比表面積と酸素(O)の含有量、甲第7、8号証に、下記エ(イ)aの事項が記載されていても変わるものではない。 よって、上記相違点1-2、相違点1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 申立人の主張について (ア)a 申立人は、特許異議申立書の第26ページ下から第13行~第28ページ第8行において、甲第1号証の図1(実施例1で得たニッケル粒子のSEM写真)の画像解析結果に基づいて、以下のように主張する。 「図1に示されたニッケル粒子のうち、輪郭が明瞭であるニッケル粒子486個(下記の図面で赤で囲まれたもの)それぞれについて、画像解析ソフトウェア(株式会社ライトストーン製、MIPAR)を用いて、画像解析により等体積球相当径(DPV)を求め、これらのニッケル粒子の体積基準中位径(DPV50)を算出した。その結果、DPV50は0.08μmであった。」 しかしながら、どのような手順で等体積球相当径(DPV)を求めたのかは明らかにされていない。 b 一方、本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。 (a)「本発明においては、その最大長径を金属粒子の長径(L)と定義する。次に、その絶対最大長に平行な2本の直線で図形(物体画像)を挟んだときの2直線間の最短距離を対角幅というが、本発明においては、その対角幅を金属粒子の短径(S)と定義する。」(段落【0020】) (b)「金属粒子の等体積球相当径とは、同じ体積を持つ球形粒子の場合の直径に相当する。例えば、ある粒子の体積がVだとすると、等体積球相当径(DPV)は、次の式(1)で求められる。 DPV=(V÷π×6)1/3 ・・・・・(1)」(段落【0021】) (c)「〔粒子体積〕 走査電子顕微鏡で観察される連結粒子10は、そのほとんどが球形もしくはカプセル状となっている。図2に示すように、連結粒子10の最大長径を長径(L)としたときに、両端部が短径(S)を直径とする球体と、短径(S)を直径とし、〔長径(L)-短径(S)〕の長さを有する円柱部分とするとよく近似ができる。また、長径=短径の場合は、円柱の部分の体積が0となり球体となる。」(段落【0072】) c 上記bの記載によれば、本件発明においては、金属粒子の最大長径を金属粒子の長径(L)と定義し、該長径(L)の対角幅を金属粒子の短径(S)と定義する。そして、金属粒子の体積(V)は、短径(S)を直径とする球体と、短径(S)を直径とし、〔長径(L)-短径(S)〕の長さを有する円柱部分の体積の和で近似され、等体積球相当径(DPV)は、上記b(b)の式から算出されるものである。 d 上記aのとおり、甲第1号証の図1の画像解析において、どのような手順で等体積球相当径(DPV)が求められたのかが明らかでない以上、本件発明1の等体積球相当径(DPV)と、甲1発明の等体積球相当径(DPV)とが等値であるかは不明である。 そうすると、等体積球相当径(DPV)と関連する、「短径(S)と等体積球相当径(DPV)との比(S/DPV)」、「等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)」及び「体積基準中位径(DPV50)」についても、本件発明1の値と、甲1発明の値とが等値であるかは不明であるから、申立人の上記aの主張は採用しない。 (イ)a 申立人は、特許異議申立書の第28ページ第9行~第31ページ第4行において、概ね、以下のように主張する。 甲第7号証には、粉末の粒度分布に関し、「重量基準では正規分布に適合することが分かる」との記載があり、甲第8号証には、粒度分布において、密度が一定であれば、体積基準と重量基準は実質的に同じものとなる旨が記載され、本件発明1の金属粉の体積基準による粒度分布は、上記甲第7、8号証の記載によれば、実質的に正規分布となる、あるいはそれに近似する分布となることを前提とすると、正規分布の基本的な性質の1つとして、「平均値と最頻値と中央値が一致する」ことがあるのは周知の事実であるから、本件発明1の体積基準中位径(DPV50)は、本件発明1の金属粉の粒子径の平均値と実質的に近似しているといえる。 一方、甲第1号証の実施例1のニッケル粒子は、DMAXが130nmであり、D50:83nmの1.6倍程度(130/83=1.56)にすぎず、D50あるいはDPV50から求められるDPV99である150nm(83×1.8=149)以上の粒子は存在していない。また、甲第1号証の実施例1のニッケル粒子は、実質的に連結粒子を有していないから、比(S/DPV)が0.92以下の粒子が存在していない。 b しかしながら、甲第7号証に記載された粉体を重量基準で表したときに正規分布を示すからといって、甲1発明のニッケル粒子が正規分布を示すかどうかは不明であるから、申立人の上記aの主張は、前提において誤りであり採用しない。 (ウ)a 申立人は、特許異議申立書の第31ページ第5~16行において、概ね、以下のように主張する。 甲第1号証は、本件発明1の発明特定事項のすべてを具備する実施例を開示するとともに、連結粒子を含む粗大粒子の数を低減させ、かつ、粒度分布がきわめて狭いニッケル粒子について開示している。よって、当業者は、甲第1号証に基づいて、連結粒子を含む粗大粒子を低減させ、かつ、粒度分布を向上させて、発明特定事項Bに規定する「比(S/DPV)が0.92以下」で、かつ、「比(DPV/DPV50)が1.8以上」である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下であるとの特性を実現することは、当業者が容易に想到できることであったといえる。 b しかしながら、本件発明1が新規性を有しないことは、上記イ(ア)aで述べたとおりであるから、申立人の上記aの主張は、その前提を欠くものであり採用しない。 (3)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記(2)イ(ア)bの甲第4~6号証の記載を考慮しても、本件発明2は、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明3は、甲第1号証(補助的に甲第7、8号証)に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)申立理由1(新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、申立理由1(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(新規性、進歩性) (1)甲第2号証に記載された発明 ア 甲第2号証の記載(請求の範囲、段落[0001]、[0054]~[0085])、特に、実施例1に係る記載に着目し、本件発明1の記載に倣って整理すると、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲2発明> 塩化ニッケルガスを水素ガスで還元して得た金属粉末であって、 前記金属粉末を構成する金属粒子の個数50%径が76nmである 積層セラミックコンデンサ用金属粉末。 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明の金属粉末は、塩化ニッケルガスを水素ガスで還元して得た金属粉末であり、ニッケルを含むことは明らかであるから、本件発明1の金属粉と、ニッケルを含む粉である限りにおいて共通する。 (イ)甲2発明における、「積層セラミックコンデンサ用金属粉末」は、本件発明1における、「積層セラミックコンデンサ用金属粉」に相当する。 (ウ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、「ニッケルを含む金属粉である、積層セラミックコンデンサ用金属粉。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2-1> 本件発明1の金属粉は、「質量基準で金属成分の99.5%以上がニッケルであり、残部が不可避的不純物」であるのに対し、甲2発明の金属粉末は、ニッケルを含むものの、他の金属成分の種類や含有量が不明である点。 <相違点2-2> 本件発明1は、「前記金属粉を構成する金属粒子の最大長径を長径(L)とし、該長径(L)の対角幅を短径(S)とし、前記短径(S)と前記金属粒子の等体積球相当径(DPV)との比(S/DPV)が0.92以下で、前記等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)が1.8以上である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下」であるのに対し、甲2発明は、「金属粉末を構成する金属粒子の個数50%径が76nm」である点。 <相違点2-3> 本件発明1は、「前記金属粒子の前記体積基準中位径(DPV50)が0.08μm~0.35μm」であるのに対し、甲2発明は、「金属粉末を構成する金属粒子の個数50%径が76nm」である点。 イ 判断 (ア)相違点2-3について a 相違点2-3が実質的な相違点であるかについて 甲2発明の金属粉末において、金属粉末を構成する金属粒子の「「粒径」とは、金属粒子の画像解析で求められる投影像に外接する最小円の直径である」(段落[0016])。 金属粒子と当該金属粒子と外接する最小円との接点のうち、接点間距離が最長となる2点を結んだ直線が必ずしも直径となるとはいえないから、金属粒子の粒径は、当該金属粒子の最大長径(L)であるとは必ずしもいえない。 したがって、甲2発明の金属粉末において、金属粉末を構成する金属粒子の長径(L)は不明である。 そして、金属粒子における前記接点間距離が最長となる2点を結んだ直線の対角幅である長さは、金属粒子と当該金属粒子と外接する最小円の直径とは限らないから、甲2発明の金属粉末において、金属粉末を構成する金属粒子の短径(S)も不明である。 そうすると、甲2発明の金属粉末を構成する金属粒子の長径(L)と短径(S)とが不明である以上、長径(L)と短径(S)とを用いて、等体積球相当径(DPV)を算出することができないから、等体積球相当径(DPV)は不明であり、等体積球相当径(DPV)が不明である以上、体積基準中位径(DPV50)も不明である。 以上のとおりであるから、「金属粉末を構成する金属粒子の個数50%径が76nm」であるからといって、甲2発明の金属粉末を構成する金属粒子の体積基準中位径(DPV50)が0.08μm~0.35μmであるかは不明である。 したがって、相違点2-3は実質的な相違点である。 b 相違点2-3の容易想到性について 甲第2号証には、金属粉末を構成する金属粒子の最大長径(L)及び該長径(L)の対角幅である短径(S)に係る事項が何ら記載されていないから、金属粉末を構成する金属粒子の体積基準中位径(DPV50)を0.08μm~0.35μmとすることが、当業者が容易に想到できることであるとはいえない。 したがって、甲2発明のニッケル粉末において、上記相違点2-3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。このことは、甲第4~6号証に、上記1(2)イ(ア)bの事項が記載され、また、甲第2号証に記載の装置に、逆流防止手段としてのオリフィスを設けること及びその開口面積を規定することが技術常識であったとしても変わるものではない。 よって、上記相違点2-1、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 申立人の主張について (ア)a 申立人は、特許異議申立書の第31ページ下から第12行~第33ページ第6行において、概ね、以下のように主張する。 甲第2号証の実施例1~3には、個数50%径が、76nm~192nmのニッケル粉末が記載されている。甲第2号証では、「長径が金属粉末の個数50%径の3倍以上である連結粒子」(請求項1)の排除を企図しているので、長径Lが0.228μm(0.076×3)以上から0.576μm(0.192×3)以上が粗大連結粒子といえる。また、連結粒子の定義として、アスペクト比が1.2未満であることを要求していることから、アスペクト比が1.2(「S=0.19μm(0.228/1.2)、L=0.228μm」~「S=0.48μm(0.576/1.2)、L=0.576μm」)の粒子のDPVは0.207μm(0.19/0.92)~0.522(0.48/0.92)μmとなる。かかるDPVの数値は必ずしも99%点ではないが、99%点であると仮定した場合には、その体積基準中位径(DPV50)は0.115μm(0.207/1.8)~0.29μm(0.552/1.8)程度となる。 一方、本件発明1では、「体積基準中位径(DPV50)」が0.35μm(DPV99=0.63μm(0.35×1.8))まで包含されるから、個数50%径が0.076μm~0.192μmである甲第2号証の実施例1~3のニッケル粉末は、体積基準中位径(DPV50)が0.08μm~0.35μmの範囲内にある蓋然性が高い。 b しかしながら、甲第2号証において、アスペクト比を求める際の長径は、「金属粒子投影像に外接する最小面積の長方形の長辺の長さ」であり、金属粉末の個数50%径(金属粒子投影像に外接する最小円の直径)ではないから、実施例1の個数50%径(76nm)から、甲2発明の短径(S)を求めることはできない。 そうすると、上記aの計算結果は、その導出過程に誤りを含むことが明らかであるから、申立人の上記aの主張は採用しない。 (イ)a 申立人は、特許異議申立書の第33ページ第7行~第36ページ最下行において、概ね、以下のように主張する。 甲第2号証の実施例1~3では冷却されたガスの逆流はなく、反応に必要な不活性気体および還元性気体の総量の0.5倍mol量~5.0倍mol量の冷却用気体が使用される蓋然性が高いから、甲第2号証の実施例1~3のニッケル粉末は、発明特定事項Bに規定される特性を具備している蓋然性が高い。 b しかしながら、甲2発明において、短径(S)、等体積球相当径(DPV)及び体積基準中位径(DPV50)が不明であることは、上記イ(ア)aで述べたとおりであり、甲第2号証の実施例2、3も同様に判断できるから、甲第2号証の実施例1~3のニッケル粉末が、発明特定事項Bに規定される特性を具備しているとはいえない。 したがって、申立人の上記aの主張は採用しない。 (ウ)a 申立人は、特許異議申立書の第37ページ第1行~第38ページ第4行において、以下のように主張する。 「甲第2号証のアスペクト比は、短径Sと長径Lのアスペクト比である「S/L」が0.833以下であることと同義であり、本件発明1の発明特定事項Bにおける「比(S/DPV)が0.92以下」の範囲に含まれる。」 「個数(基準)50%径と体積基準中位径(DPV50)との相違を考慮した場合でも、「長径が金属粉末の個数50%径の3倍以上である連結粒子が上記金属粉末に含まれる割合が、個数基準で500ppm以下である」との規定は、「等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)が1.8以上である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下」と同様のパラメータである蓋然性が高いといえる。」 b しかしながら、甲2発明において、短径(S)、等体積球相当径(DPV)及び体積基準中位径(DPV50)が不明であることは、上記イ(ア)aで述べたとおりであるから、申立人の上記aの主張は採用しない。 (エ)a 申立人は、特許異議申立書の第38ページ第5~23行において、以下のように主張する。 「甲第2号証に基づいて、粗大連結粒子を低減させ、発明特定事項Bに規定する「比(S/DPV)が0.92以下」で、かつ、「比(DPV/DPV50)が1.8以上」である金属粒子の割合が1.0%以下であるとの特性を実現することは、当業者が容易に想到できることであったといえる。」 b しかしながら、甲第2号証には、金属粉末を構成する金属粒子の最大長径(L)及び該長径(L)の対角幅である短径(S)に係る事項が何ら記載されていないから、「比(S/DPV)が0.92以下」で、かつ、「比(DPV/DPV50)が1.8以上」である金属粒子の割合が1.0%以下であるとの特性を実現することは、当業者が容易に想到できることであるとはいえない。 したがって、申立人の上記aの主張は採用しない。 (3)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記1(2)イ(ア)bの甲第4~6号証の記載を考慮しても、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件発明3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明4~6について ア 本件発明4は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1の発明特定事項を備えることが、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記(2)イ(ア)bの甲第2号証に記載の技術常識を考慮しても、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明5、6は、本件発明4を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明4の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記アで述べたとおり、本件発明4が、甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記1(2)イ(ア)bの甲第4~6号証の記載を考慮しても、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明、技術常識及び甲第4号証に記載された事項又は甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件発明6は、甲第2号証に記載された発明、技術常識及び甲第4号証に記載された事項又は甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)申立理由2(新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、申立理由2(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(新規性、進歩性) (1)甲第3号証に記載された発明 ア 甲第3号証には、「粗大粒子が少なくて充填性に優れたニッケル粉末の製造方法であって、 少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、および水酸化アルカリと水とを混合した反応液中において還元反応を開始させ、該還元反応の開始後にスルフィド化合物を前記反応液に添加してニッケル晶析粉を得る晶析工程を有し、 前記還元剤はヒドラジン(N2H4)であり、 前記スルフィド化合物は、分子内にスルフィド基(-S-)を1個以上含有しており、 前記反応液中の前記スルフィド化合物とニッケルの割合である (前記スルフィド化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100 が0.01モル%~5モル%の範囲であるニッケル粉末の製造方法。」に関する発明が記載されている(請求項1)。 イ また、甲第3号証には、上記アの製造方法で得られたニッケル粉末が、積層セラミックコンデンサに用いられることが記載されている(段落【0082】~【0086】)。 ウ さらに、甲第3号証には、上記アの発明の具体例と解される実施例1として、水溶性ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物、ニッケルよりも貴な金属の塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム、還元剤として抱水ヒドラジン、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウム、スルフィド化合物としてL-メチオニンを用いること(段落【0089】~【0092】)、反応液中のスルフィド化合物とニッケルの割合が、1.0モル%であること(表1)、得られたニッケル粉末に、塩素(Cl):0.004質量%、ナトリウム(Na):0.008質量%、硫黄(S):0.18質量%が含まれること(表2)、平均粒径が0.28μm、粗大粒子の含有量が0.05%であること(表2)が記載されている。ここで、ニッケルよりも貴な金属の塩は、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用するものであるから、実施例1のニッケル粉末にパラジウムが含まれていることは明らかである。 エ そうすると、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲3発明> 塩化ニッケル6水和物、塩化パラジウム(II)アンモニウム、還元剤、および水酸化ナトリウムと水とを混合した反応液中において還元反応を開始させ、該還元反応の開始後にスルフィド化合物を前記反応液に添加してニッケル晶析粉を得る晶析工程を有し、 前記還元剤は抱水ヒドラジン(N2H4・H2O)であり、 前記スルフィド化合物は、L-メチオニンであり、 前記反応液中の前記スルフィド化合物とニッケルの割合である (前記スルフィド化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100 が1.0モル%であるニッケル粉末の製造方法で得られたニッケル粉末であって、 前記ニッケル粉末は、パラジウム(Pd)、塩素(Cl):0.004質量%、ナトリウム(Na):0.008質量%、硫黄(S):0.18質量%を含み、平均粒径が0.28μm、粗大粒子の含有量が0.05%である、積層セラミックコンデンサ用ニッケル粉末。 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 (ア)甲3発明において、パラジウム(Pd)の含有量は不明であるから、金属成分に占めるニッケルの割合も不明である。そうすると、甲3発明と本件発明1とは、ニッケルを含む粉である限りにおいて共通する。 (イ)甲3発明において、「ニッケル粉末」が、「金属粉」であることは明らかであるから、甲3発明における、「積層セラミックコンデンサ用ニッケル粉末」は、本件発明1における、「積層セラミックコンデンサ用金属粉」に相当する。 (ウ)そうすると、本件発明1と甲3発明とは、「ニッケルを含む金属粉である、積層セラミックコンデンサ用金属粉。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3-1> 本件発明1の金属粉は、質量基準で金属成分の99.5%以上がニッケルであり、残部が不可避的不純物であるのに対し、甲3発明のニッケル粉末は、金属成分に占めるニッケルの割合が不明であり、ニッケル以外の金属成分として、パラジウム(Pd)を含むものの、これが不可避的不純物であるのか不明である点。 <相違点3-2> 本件発明1は、「前記金属粉を構成する金属粒子の最大長径を長径(L)とし、該長径(L)の対角幅を短径(S)とし、前記短径(S)と前記金属粒子の等体積球相当径(DPV)との比(S/DPV)が0.92以下で、前記等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)が1.8以上である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下」であるのに対し、甲3発明は、「平均粒径が0.28μm、粗大粒子の含有量が0.05%」である点。 <相違点3-3> 本件発明1は、「前記金属粒子の前記体積基準中位径(DPV50)が0.08μm~0.35μm」であるのに対し、甲3発明は、「ニッケル粉末の平均粒径が0.28μm」である点。 イ 判断 (ア)相違点3-1について a 相違点3-1が実質的な相違点であるかについて (a)甲第3号証において、「ニッケルよりも貴な金属の金属塩」は、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用しており、核発生促進剤である特定のスルフィド化合物の効果で、この初期核が多く生じ、その後に粒子成長することで微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を作製することができるという、作用効果を得るために添加される化合物である(段落【0044】)。 (b)上記(a)の記載からすると、甲3発明における塩化パラジウム(II)アンモニウムは、ニッケル粉末の製造方法における必須成分であるから、甲3発明のニッケル粉末に含まれるパラジウム(Pd)も、必須成分であると解される。 そうすると、甲3発明のニッケル粉末において、金属成分におけるニッケル以外の金属成分は、必ずしも不可避的不純物ではないから、相違点3-1は実質的な相違点である。 b 相違点3-1の容易想到性について 上記a(b)で述べたとおり、甲3発明のニッケル粉末において、パラジウム(Pd)は、その製造の際に、上記a(a)の作用効果を得るために意図的に添加された必須成分である。そして、甲3発明のニッケル粉末において、その製造の際に、パラジウム(Pd)を使用しないことは、甲3発明の前提を欠くものであるから、金属成分におけるニッケル以外の残部を不可避的不純物とすることには、阻害要因があると認められる。 したがって、甲3発明のニッケル粒子において、上記相違点3-1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。このことは、甲第4~6号証に、上記1(2)イ(ア)bの事項が記載されていても変わるものではない。 よって、上記相違点3-2、相違点3-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 申立人の主張について (ア)a 申立人は、特許異議申立書の第38ページ下から第5行~第39ページ第14行において、以下のように主張する。 「甲第3号証の実施例1および2のニッケル粒子の平均粒径は0.28μmおよび0.30μmである(段落0133、表2)。かかる平均粒径は、「ニッケル粉末の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径である」(段落0083)。長さ基準(個数基準)と体積基準との相違はあるものの、上記各平均粒径と粒子径の平均値と近似する体積基準中位径(DPV50)は近似値を採るものと考えられる。」 b しかしながら、甲3発明の平均粒径は、「ニッケル粉末の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径」ではあるものの、ニッケル粉末を構成するニッケル粒子の粒径の求め方が不明であるから、当該粒径が等体積球相当径(DPV)と等しいかは不明であり、両者が近似値を取るかも不明である。 また、甲第7号証の第301ページ左欄には、「1)は個数基準分布,2)は長さ基準分布,3)は面積基準分布,4)が重量基準分布ある。同じ試料でもどの“大きさ”を基準にして粒度分布を表示するかで“見掛け粒度”は当然,異なってくる。」と記載されているから、甲3発明の平均粒径が長さ基準であったとしても、これを体積基準で表示すれば、両者の値は当然異なってくるから、両者が近似値を取るとは必ずしもいえない。 したがって、申立人の上記aの主張は採用しない。 (イ)a 申立人は、特許異議申立書の第39ページ第15行~第40ページ第10行において、以下のように主張する。 「比(S/DPV)が0.92以下」とは粗大粒子が連結粒子であることを規定するものであり、短径Sと長径Lのアスペクト比である「S/Lが0.84以下」に相当するものである。少なくとも連結粒子は、上記アスペクト比が0.84以下となることは明らかであるので、甲第3号証の粗大粒子は、「比(S/DPV)が0.92以下」を具備するといえる。」 「甲第3号証の実施例1および2のニッケル粒子は、発明特定事項Bのうちの「比(DPV/DPV50)が1.8以上である」粗大連結粒子の割合が体積基準で1.0%以下である」という要件を具備するといえる。」 b しかしながら、甲3発明の平均粒径は、「ニッケル粉末の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径」ではあるものの、ニッケル粉末を構成するニッケル粒子の粒径の求め方が不明であるから、ニッケル粒子の最大長径(L)及び該長径(L)の対角幅である短径(S)も不明である。そうである以上、短径(S)と長径(L)のアスペクト比である「S/L」の値は不明であるから、アスペクト比が0.84以下となるかは不明であるので、甲3発明の粗大粒子が、「比(S/DPV)が0.92以下」を具備するかも不明である。また、ニッケル粒子の最大長径(L)及び該長径(L)の対角幅である短径(S)が不明であれば、ニッケル粒子の等体積球相当径(DPV)も不明であるから、甲3発明の粗大粒子が、「比(DPV/DPV50)が1.8以上である」かも不明である。 したがって、申立人の上記aの主張は採用しない。 (ウ)a 申立人は、特許異議申立書の第40ページ第11行~第41ページ第1行において、以下のように主張する。 「甲第3号証は、本件特許発明1の発明特定事項A~Dのすべてを具備する実施例を開示するとともに、粗大連結粒子の数を低減させ、かつ、粒度分布が狭いニッケル粒子について開示している。よって、当業者は、甲第3号証に基づいて、従来の気相法により得られるニッケル粒子に関して、粗大連結粒子を低減させ、かつ、粒度分布を向上させることにより、発明特定事項Bに規定する「比(S/DPV)が0.92以下」で、かつ、「比(DPV/DPV50)が1.8以上」である金属粒子の割合が1.0%以下であるとの特性を実現することは、当業者が容易に想到できることであったといえる。」 b しかしながら、上記(ア)、(イ)で述べたとおり、甲第3号証には、ニッケル粒子の最大長径(L)及び該長径(L)の対角幅である短径(S)に係る事項が何ら記載されていないから、「比(S/DPV)が0.92以下」で、かつ、「比(DPV/DPV50)が1.8以上」である金属粒子の割合が1.0%以下であるとの特性を実現することは、当業者が容易に想到できることであったとはいえない。 したがって、申立人の上記aの主張は採用しない。 (3)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記1(2)イ(ア)bの甲第4~6号証の記載を考慮しても、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明3は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項又は甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)申立理由3(新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、申立理由3(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由4(サポート要件)について (1)ア 本件明細書の段落【0007】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、電極層および誘電体層が薄層化しても信頼性に優れたMLCCを高歩留りで製造するための内部電極に好適な金属粉およびその製造方法を提供することであると認められる。 イ そして、本件明細書の段落【0017】~【0029】、【0056】~【0093】の記載によれば、積層セラミックコンデンサ用金属粉として、金属粉の化学成分を、質量基準で金属成分の99.5%以上がニッケルであり、残部が不可避的不純物とし、金属粒子の形状と分布を、金属粉を構成する金属粒子の最大長径を長径(L)とし、該長径(L)の対角幅を短径(S)とし、前記短径(S)と前記金属粒子の等体積球相当径(DPV)との比(S/DPV)が0.92以下で、前記等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)が1.8以上である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下とすることで、過焼結の原因となる粗大な連結粒子を低減し、金属粒子の前記体積基準中位径(DPV50)を0.08μm~0.35μmとすることで、MLCCの品質を保ちつつ電極を薄肉化し、これらによって、電極層および誘電体層が薄層化しても信頼性に優れたMLCCを高歩留りで製造するための内部電極に好適な金属粉を提供でき、上記アの課題が解決できることを当業者が認識できるといえる。 ウ 一方、上記第2のとおり、本件発明1、4は、上記イに記載した事項を発明特定事項として含むものであるから、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえる。同様に、本件発明1、4を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5、6も、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえる。 (2)ア 申立人は、特許異議申立書の第49ページ第5行~下から第6行において、概ね、以下のように主張する。 本件発明1、4は、「前記金属粉を構成する金属粒子の最大長径を長径(L)とし、該長径(L)の対角幅を短径(S)とし、前記短径(S)と前記金属粒子の等体積球相当径(DPV)との比(S/DPV)が0.92以下で、前記等体積球相当径(DPV)と体積基準中位径(DPV50)との比(DPV/DPV50)が1.8以上である金属粒子の割合が体積基準で1.0%以下」であることを規定する。すなわち、ニッケル粒子における粗大連結粒子の存在割合が0から1.0%の範囲にあるとし、粗大連結粒子の存在割合が0であることを含むものである。 一方、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例では、粗大連結粒子の存在割合の下限値は、試料3-8の0.3体積%である。そして、これらの微量の粗大連結粒子は、分級処理によっては除去されず、最終的なニッケル粉末に残留するといえるから、本件発明4の製造方法においては、粗大連結粒子の存在割合を0とすることができないことは明らかである。 したがって、本件発明1~6は、出願時の技術常識を照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合に相当し、サポート要件を具備していない。 イ 上記(1)で述べたとおり、粗大連結粒子の存在割合が体積基準で1.0%以下であれば、本件発明の課題を解決できると認識できるから、粗大連結粒子の存在割合を0とすることができるか否かにかかわらず、本件発明1~6は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえる。 したがって、申立人の上記アの主張は採用しない。 (3)ア 申立人は、特許異議申立書の第49ページ下から第5行~第50ページ第10行において、概ね、以下のように主張する。 本件発明1の発明特定事項Bは、あくまでも気相法で得られたニッケル粒子の特性といえるが、本件発明1ではニッケル粒子が気相法で得られたものであるか、湿式法で得られたものであるかの限定がない。また、本件発明1の説明において、湿式法に関しては何らの記述もなされていない。 したがって、湿式法において得られたニッケル粒子を包含する本件発明1~3は、出願時の技術常識を照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合に相当し、サポート要件を具備していない。 イ 上記(1)で述べたとおり、本件発明1~3は、本件発明の課題が解決できるものと認められるから、湿式法において得られたニッケル粒子が、本件発明1~3の発明特定事項を有するのであれば、気相法と同様に、本件発明の課題が解決できることは明らかである。 したがって、申立人の上記アの主張は採用しない。 (4)ア 申立人は、特許異議申立書の第50ページ第11行~最下行において、概ね、以下のように主張する。 本件発明4には、ガイド円筒に関する規定がないが、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例の記載を踏まえると、オリフィスの下流側にガイド円筒を存在させることが必須となっている。さらには、オリフィスの開口面積に応じて、ガイド円筒の長さもそれに応じて規定する必要があると考えられる。 しかしながら、本件発明4では、ガイド円筒およびその長さの規定については設けられていない。 したがって、本件発明4~6は、出願時の技術常識を照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合に相当し、サポート要件を具備していない。 イ 上記(1)で述べたとおり、本件発明1、4は、本件発明の課題が解決できるものと認められる。 そうすると、本件発明4~6は、オリフィスの下流側にガイド円筒を存在するか否か、オリフィスの開口面積に応じて、ガイド円筒の長さもそれに応じて規定するか否かにかかわらず、本件発明1の金属粉を製造できるものである以上、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえる。 したがって、申立人の上記アの主張は採用しない。 (5)ア 申立人は、特許異議申立書の第51ページ第1~15行において、概ね、以下のように主張する。 本件発明4には、「オリフィス」を設けること及びその開口面積を限定することに特徴があるが、当該特徴は、本願の願書に添付した図面の図1に示す装置において、オリフィスのない構造の装置を前提として検証がなされたものであって、かかるオリフィスの設置とその開口面積の規定が、例えば、甲第2号証の図2等に示す他の装置にそのまま適用できるか否かについて説明およびその実証は、本件明細書において何ら説明されていない。 しかしながら、本件発明4では、装置の構造についての規定は設けられていないから、本件発明4~6は、出願時の技術常識を照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合に相当し、サポート要件を具備していない。 イ 上記(1)で述べたとおり、本件発明1、4は、本件発明の課題が解決できるものと認められる。 そうすると、本件発明4~6は、金属粉の製造装置の構造にかかわらず、本件発明1の金属粉を製造できるものである以上、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえる。 したがって、申立人の上記アの主張は採用しない。 (6)申立理由4(サポート要件)についてのまとめ 以上のとおり、申立理由4(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700569

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