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特許異議申立

2023-700628

電極活物質の製造方法

審判番号
2023-700628
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-501561
登録番号
7191489
請求日
2023年06月13日
審決日
2023年10月12日
公報発行日
2023年11月24日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
  • 【権利者代理人】江藤 聡明
  • 【異議申立人】竹下 瑞恵
審判長/審判官
  • 審判長 山田 正文
  • 審判官 畑中 博幸
  • 審判官 須原 宏光
分類
P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7191489号発明「電極活物質の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7191489号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7191489号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)7月5日(優先日 2017年7月14日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和4年12月9日にその特許権の設定登録がされ、令和4年12月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年6月13日に特許異議申立人竹下 瑞恵により、請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。 第2 本件特許発明 特許第7191489号の請求項1ないし11の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質の製造方法であって、以下の工程: (a) (A)Mn、Co及びNiの混合酸化物又は混合オキシ水酸化物であって、前記Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物は、0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する、混合酸化物又は混合オキシ水酸化物、及び (B)水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択された少なくとも1種のリチウム化合物、及び (C)Al及び/又はTiの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物 を混合する工程と (b)工程(a)で得られた混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程であって、この熱処理が、ガスの流れ下で行われ、及び持続時間が、1~24時間の範囲である工程と を含む、方法。 【請求項2】 金属MがTiであり、及び成分(C)が、Tiの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記電極活物質におけるTMが、一般式(I) (NiaCobMnc)1-dMd (I) (式中、aは、0.6~0.85の範囲であり、 bは、0.05~0.2の範囲であり、 cは、0.05~0.2の範囲であり、 dは、0.005~0.1の範囲であり、 MはAlであり、 a+b+c=1である) による金属の組合せである、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 工程(a)における前記混合が乾燥状態で実行される、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。 【請求項5】 工程(b)がロータリーキルン又はローラーハースキルンで実行される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 (C)がAl2O3である、請求項1に記載の方法。 【請求項7】 (A)がMn、Co及びNiの酸化物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 (A)が、前駆体(A)は、検出可能な量の残留水分を含まない酸化物である、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前駆体(A)が、ニッケル、コバルト及びマンガンの混合水酸化物を共沈させ、次に空気下で乾燥して脱水することにより得られる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。 【請求項10】 前記電極活物質が、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された0.1~0.8m2/gの範囲の表面(BET)を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。 【請求項11】 金属MがTi又はTiとAlであり、及び成分(C)が、Ti又はTiとAlの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物である、請求項1に記載の方法。」 第3 特許異議申立理由の概要 請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1 特許法第29条第1項(新規性)について 請求項1、3、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、請求項1、3、4、7ないし10に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、請求項1ないし4、7ないし11に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし4、6ないし11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2 申立理由2 特許法第29条第2項(進歩性)について 請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、又は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [証拠] 甲第1号証:特開平9-237631号公報 甲第2号証:特開2011-23121号公報 甲第3号証:特開2012-113823号公報 甲第4号証:特開2017-100893号公報 第4 甲各号証の記載事項、引用発明 1 甲第1号証 (1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。 「【請求項3】 LiNi1-X-Y-ZCoxMnyAlzO2において、 0<y≦0.3、0≦x≦0.25、0<z≦0.15、x+y≦0.4としたことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。 【請求項4】 共沈合成したβ-Ni1-X-Y-ZCoXMnY(OH)2又はβ-Ni1-X-YCoXMnYOOH(0≦x≦0.25、0≦y≦0.3)と、 LiOH、Li2CO3又は/及びLiNO3等のLi化合物であって、Li・Ni・Co・Mn・Al複合酸化物形成時におけるLi供給源物質と、 Al(OH)3又は/及びAl2O3等のAl化合物であって、Li・Ni・Co・Mn・Al複合酸化物形成時におけるAl供給源物質とを混合した後、焼成することを特徴とする請求項3記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。」 「【0011】 本願発明において銘記されるべきことは、 LiNi1-X-Y-ZCoXMnYAlZO2において、y=0のとき、0.15≦x≦0.25、0<z≦0.15としたことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質、又は0<y≦0.3のとき、0≦x≦0.25、0<z≦0.15、x+y≦0.4としたことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質において、NiとCoとMnとAlの量をある数値範囲、0.≦x≦0.25、0≦y≦0.3、0<z≦0.15、x+y≦0.4に限定することにより、安全性及びサイクル特性の改善に顕著な効果を奏することが達成できたことである。」 【0016】 【発明の実施の形態】以下、本発明を一実施の形態に基づいて詳細に説明するが、下記実施の形態により何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。 【0017】[正極活物質の調整]LiNi1-x-y-zCoxMnyAlzO2において、xを0、0.10、0.15、0.20、及び0.25とし、yを0、0.1、0.2、0.3及び0.4とし、zを0、0.5、1、1.5及び2.0としたLi、Ni、Co、Mn、Al複合酸化物を調整した。 (当審注:「zを0、0.5、1、1.5及び2.0」は、【請求項3】、【0011】の「0<z≦0.15」との記載及び表2の「z」の欄から、「zを0、0.05、0.1、0.15及び0.2」の誤記と認める。) 【0018】調整方法としては、共沈合成したβ-Ni1-x-yCoxMny(OH)2とAl(OH)3とLiOHとを所定割合で混合した後、酸素分圧0.5気圧の雰囲気下において720℃で40時間かけて焼成合成した。焼成後、これらをボールミルで平均3.5μmに粉砕して、リチウム二次電池用正極活物質を得た。」 「【0029】[リチウム二次電池の製作]上記正負両極、セパレータ、電解液を角型の電池容器に収納し、正極活物質処方のみが異なる250種類((xが5種)×(yが5種)×(zが5種)×(出発原料2種))の非水電解液電池を作製した。この電池の概略図を図1に示す。この電池の主な構成要素は、正極1、負極2、セパレータ3、正極端子4、負極端子を兼ねるケース5、電解液(図示せず)等である。 【0030】[試験方法]上記電池を各々10個づつ、下記条件でのサイクル試験に供した。 【0031】充電:200mA定電流/4.1V定電圧×5h(25℃) 放電:400mA定電流 終止定電圧(25℃)[試験結果]表1~5に、各電池の50サイクル目における放電容量の平均値を示す。 【0032】 ・・・中略・・・ [図:0001403685000001.jpg] 」 「【0039】この実施例では、共沈合成したβ-Ni1-xCoxMny(OH)2とAl(OH)3とLiOHとを正極活物質調整原料として用いたが、共沈合成したβ-Ni1-xCoxMnyOOH(0≦x≦0.25、0≦y≦0.3)を用いた場合にも同様な結果が得られた。さらに、LiOH以外のものとして、Li2CO3や又は/及びLiNO3等のLi化合物であって、Li・Ni・Co・Al複合酸化物形成時におけるLi供給源となるものを使用し、Al(OH)3以外のものとして、Al2O3等のAl化合物であって、Li・Ni・Co・Mn・Al複合酸化物形成時におけるAl供給源となるものを使用した場合にも同様の結果が得られた。」 (2)上記(1)から、段落【0017】及び表2に記載されたX=0.1、Y=0.1、Z=0.05である実施例に着目すると、次のことがいえる。 ア 段落【0017】、【0018】によれば、式LiNi0.75Co0.1Mn0.1Al0.05O2で表される正極活物質の調整方法が記載されているといえる。 イ 【請求項3】の「LiNi1-X-Y-ZCoxMnyAlzO2において、・・・リチウム二次電池用正極活物質。」、【請求項4】の「共沈合成したβ-Ni1-X-Y-ZCoXMnY(OH)2又はβ-Ni1-X-YCoXMnYOOH(0≦x≦0.25、0≦y≦0.3)と、LiOH・・・と、Al(OH)3・・・を混合した後、焼成する・・・リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。」、段落【0018】の「調整方法としては、共沈合成したβ-Ni1-x-yCoxMny(OH)2とAl(OH)3とLiOHとを所定割合で混合した後、酸素分圧0.5気圧の雰囲気下において720℃で40時間かけて焼成合成した。焼成後、これらをボールミルで平均3.5μmに粉砕して、リチウム二次電池用正極活物質を得た。」、段落【0039】の「この実施例では、共沈合成したβ-Ni1-xCoxMny(OH)2とAl(OH)3とLiOHとを正極活物質調整原料として用いたが、共沈合成したβ-Ni1-xCoxMnyOOH(0≦x≦0.25、0≦y≦0.3)を用いた場合にも同様な結果が得られた。」との各記載からすれば、引用文献1には、X=0.1、Y=0.1、Z=0.05の場合における調整方法として、共沈合成したβ-Ni0.8Co0.1Mn0.1OOHとAl(OH)3とLiOHとを混合した後、酸素分圧0.5気圧の雰囲気下において720℃で40時間かけて焼成合成し、焼成後、これらをボールミルで粉砕して、リチウム二次電池用正極活物質を得たことが記載されているといえる。 (3)よって、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「式LiNi0.75Co0.1Mn0.1Al0.05O2で表される正極活物質の調整方法であって、 共沈合成したβ-Ni0.8Co0.1Mn0.1OOHとAl(OH)3とLiOHとを混合した後、酸素分圧0.5気圧の雰囲気下において720℃で40時間かけて焼成合成し、焼成後、これらをボールミルで粉砕して、リチウム二次電池用正極活物質を得る、 正極活物質の調整方法。」 2 甲第2号証 (1)甲第2号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。 「【0023】 本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を原子比でニッケル原子1モルに対してコバルト原子0.1~1.0、マンガン原子0.1~1.0含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムとを、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子の原子比(Li/{Ni+Co+Mn+Al})で0.95以上で混合物する第1工程、次いで、得られる混合物を焼成して前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物と、α-LiAlO2を含有する正極活物質を得る第2工程を有することにより工業的に有利に製造することができる。 ・・・中略・・・。 【0025】 第1工程に係る(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物は、例えば、これらの複合水酸化物、複合オキシ水酸化物、複合炭酸塩又は複合酸化物が好ましく用いられる。前記の複合水酸化物は、例えば共沈法によって調製することができる。具体的には、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液と、アルカリの水溶液とを混合することで、複合水酸化物を共沈させることができる(特開平10-81521号公報、特開平10-81520号公報、特開平10-29820号公報、2002-201028号公報等参照。)。また、複合オキシ水酸化物を用いる場合には、前述の共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、反応液に空気を吹き込み酸化を行えばよい。また、複合酸化物を用いる場合には、共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、これを例えば200~500℃で加熱処理することにより複合酸化物を得ることができる。また、複合炭酸塩を用いる場合には、前述の共沈操作と同様に前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液を調製し、前記アルカリ水溶液を炭酸アルカリ又は炭酸水素アルカリの水溶液としてこれを混合することで複合炭酸塩を得ることができる。本発明において、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物は、これらの各原子を含む複合水酸化物であることが(a)リチウム化合物との反応性が高い観点から好ましい。」 「【0062】{参考実験1} 炭酸リチウム(平均粒子;7μm)、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物及び燐酸アルミニウム(平均粒径;16.2μm、純正化学社製)とを表1に示す量添加し、十分乾式で混合して、これら原料の均一混合物を得た。次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成した。焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、正極活物質試料を得た。 ・・・中略・・・。 【0063】{参考実験2} 燐酸アルミニウムを水酸化アルミニウム(平均粒径;1.4μm)とした以外は参考実験1と同じ条件で反応を行って正極活物質試料を得た。 【表2】 [図:0001403685000002.jpg] 参考実験2で得られた正極活物質試料をCuKα線によるX線回折分析を行った。その結果、LiNi0.60Co0.20Mn0.20Al0.10O2であることが確認された(図3参照)。」 「【0070】 {比較例3} <第1工程・第2工程> 炭酸リチウム(平均粒子;7μm)、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物及び水酸化アルミニウム(平均粒径;1.4μm)とを表3に示す量添加し、十分乾式で混合して、これら原料の均一混合物を得た。次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成した。焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、正極活物質(a3)を得た。 <第3工程・第4工程> 得られた正極活物質(a3)を18重量部及び純水45重量部をビーカーに仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌を行って洗浄処理を行った。 洗浄終了後、常法により固液分離して正極活物質試料(b3)をウェト状態で回収した。 次いで、ウェト状態の正極活物質(b3)をウェト状態のまま、600℃で5時間、大気雰囲気で加熱処理し、加熱処理品を粉砕、次いで分級して正極活物質試料(c3)を得た。 【表3】 [図:0001403685000003.jpg] 」 (2)上記(1)から、比較例3に着目すると、次のことがいえる。 ア 段落【0070】によれば、甲第2号証には、原料混合物の原子であるLi原子、Ni原子、Co原子、Mn原子、Al原子のそれぞれのモル比が、1.00、0.6、0.2、0.2、0.01である正極活物質の製造方法が記載されているといえる。 イ 段落【0070】によれば、上記正極活物質の製造方法は、炭酸リチウム、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物及び水酸化アルミニウムとを混合して混合物を得て、次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成し、焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、洗浄処理を行い、終了後、常法により固液分離してウェト状態で回収し、ウェト状態のまま大気雰囲気で加熱処理し、加熱処理品を粉砕、次いで分級して正極活物質を得たことが記載されているといえる。 (3)よって、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「原料混合物の原子であるLi原子、Ni原子、Co原子、Mn原子、Al原子のそれぞれのモル比が、1.00、0.6、0.2、0.2、0.01である正極活物質の製造方法であって、 炭酸リチウム、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物及び水酸化アルミニウムとを混合して混合物を得て、次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成し、焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、洗浄処理を行い、終了後、常法により固液分離してウェト状態で回収し、ウェト状態のまま大気雰囲気で加熱処理し、加熱処理品を粉砕、次いで分級して正極活物質を得る、 正極活物質の製造方法。」 3 甲第3号証 (1)甲第3号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。 「【0033】 本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法に係る第1工程は、(a)リチウム化合物と、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む化合物と、(c)チタン化合物とを混合して、焼成原料混合物を得る工程である。 ・・・中略・・・。 【0035】 第1工程に係る(b)ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む化合物は、化合物中にニッケル原子、コバルト原子及びM原子のいずれもを含む化合物であり、例えば、ニッケル、コバルト及びMの複合水酸化物、複合オキシ水酸化物、複合炭酸塩又は複合酸化物等が挙げられる。(b)ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む化合物のMは、Li、Ni及びCo以外の1種又は2種以上の元素である。そして、Mとしては、リチウム二次電池の低コスト化を可能とし、更には、リチウム二次電池に、優れた安全性及びサイクル特性を付与することができる点で、Mn、Al、Mg、Sn、Cr、Zr、Bi及びMoから選ばれる1種以上であることが好ましく、Mnであることが特に好ましい。 【0036】 ニッケル、コバルト及びMの複合水酸化物は、例えば、共沈法によって調製される。具体的には、ニッケル、コバルト及びMの複合水酸化物は、ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液と、アルカリの水溶液とを混合して、複合水酸化物を共沈させる共沈操作を行うことにより得られる(特開平10-81521号公報、特開平10-81520号公報、特開平10-29820号公報、特開2002-201028号公報等参照)。ニッケル、コバルト及びMの複合オキシ水酸化物は、前述の共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、反応液に空気を吹き込み酸化させることにより得られる。ニッケル、コバルト及びMの複合酸化物は、前述の共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、これを例えば200~500℃で加熱して酸化させることにより得られる。ニッケル、コバルト及びMの複合炭酸塩は、前述の共沈操作において、アルカリの水溶液として、炭酸アルカリ又は炭酸水素アルカリの水溶液を混合することで得られる。」 「【0085】 (比較例2) 各原子のモル比が表1に示す値となるように、炭酸リチウム(レーザー法粒度分布測定方法による平均粒子径:7μm)と、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物(b1)と、水酸化アルミニウム(レーザー法粒度分布測定方法による平均粒子径:1.4μm)とを、乾式で混合して、焼成原料混合物を得た。次いで、室温(25℃)から600℃まで1時間で昇温し、次いで、925℃まで3時間で昇温し、次いで、925℃で10時間保持するという条件で、焼成原料混合物を、大気中で焼成した。焼成終了後、冷却し、得られた焼成物を粉砕して、焼成物を得た。 次いで、得られた焼成物を18質量部と、純水45質量部とを、ビーカーに仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌した。 洗浄終了後、常法により固液分離して洗浄物をウェト状態で回収した。 次いで、ウェト状態の洗浄物をウェト状態のまま、600℃で5時間、大気雰囲気で加熱してアニール処理し、アニール処理物を粉砕、次いで、分級してリチウム二次電池用正極活物質(q)を得た。 得られたリチウム二次電池用正極活物質(q)について、CuKα線によるX線回折分析を行った。その結果、LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2の回折ピークのみが確認された(図7参照)。また、得られたリチウム二次電池用正極活物質(q)のSEM写真を図8に示す。 【0086】 【表1】 [図:0001403685000004.jpg] 」 (2)上記(1)から、比較例2に着目すると、次のことがいえる。 ア 段落【0085】によれば、式LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2で表される正極活物質の製造方法が記載されているといえる。 イ 段落【0085】によれば、該正極活物質の製造方法として、炭酸リチウムと、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物と、水酸化アルミニウムとを、混合して混合物を得て、次いで、室温(25℃)から600℃まで1時間で昇温し、次いで、925℃まで3時間で昇温し、次いで、925℃で10時間保持するという条件で、大気中で焼成し、焼成終了後冷却し粉砕して、焼成物を得て、得られた焼成物と純水とをビーカーに仕込み、攪拌し洗浄後、固液分離してウェト状態で回収し、ウェト状態のまま大気雰囲気で加熱してアニール処理し、粉砕、分級して正極活物質を得たことが記載されているといえる。」 (3)よって、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。 「式LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2で表される正極活物質の製造方法であって、 炭酸リチウムと、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物と、水酸化アルミニウムとを、混合して混合物を得て、次いで、室温(25℃)から600℃まで1時間で昇温し、次いで、925℃まで3時間で昇温し、次いで、925℃で10時間保持するという条件で、大気中で焼成し、焼成終了後冷却し粉砕して、焼成物を得て、得られた焼成物と純水とをビーカーに仕込み、攪拌し洗浄後、固液分離してウェト状態で回収し、ウェト状態のまま大気雰囲気で加熱してアニール処理し、粉砕、分級して正極活物質を得る、 正極活物質の製造方法。」 4 甲第4号証 (1)甲第4号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。 「【請求項1】 リチウム原料として炭酸リチウムを使用し、 以下の工程1及び/又は工程1’と、工程2とを含む、 以下の式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。 (工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。 (工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。 (工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃~850℃の温度域で3~40時間焼成することにより、焼成物を得る工程。ただし工程2において、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設されており、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出される。 【化1】 LiaNi1-x-yCoxMyOb・・・(1) (式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。) ・・・中略・・・。 【請求項4】 工程2でロータリーキルン、ローラーハースキルン、マッフル炉から選ばれる焼成炉を用いる、請求項1~3のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。」 「【0019】 すなわち、リチウム源として炭酸リチウムを使用して比較的大量の原料を焼成する場合でも、正極活物質としての性能に優れるニッケルリチウム金属複合酸化物を高収率で製造する方法を求めて鋭意検討した。 【課題を解決するための手段】 【0020】 その結果、焼成工程における焼成雰囲気ガスの流れと組成を制御することによって、小スケールに限らず比較的大スケールでも正極活物質としての性能に優れるニッケルリチウム金属複合酸化物を高収率で製造することに成功した。」 「【0053】 工程2で用いる焼成炉は、上述のような焼成雰囲気ガスの流入と排出が可能な構造であれば制限されない。好ましい焼成炉は商業生産を想定した比較的大量の原料混合物を焼成することができる連続式あるいはバッチ式炉である。例えば、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、マッフル炉などを使用することができる。効率よく酸化性ガスを導入するためには焼成雰囲気ガスの供給口と排出口が容器開口部に接近した構造のものが好ましい。容器内の混合物を攪拌しながら焼成できる構造のものは、混合物が均一に焼成できるという点で好ましい。」 (2)上記(1)によれば、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲第4号証に記載された技術」という。)が記載されている。 「式LiaNi1-x-yCoxMyOb(式中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)で表される正極活物質の製造方法において、ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより得られた混合物を焼成することにより、焼成物を得て、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設され、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出されること。」 第5 申立理由に対する当審の判断 1 申立理由1(新規性)について (1)甲1発明に基づく新規性について ア 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 a 本件発明1の「Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し」との記載に関し、本件特許明細書の段落【0026】に「本発明の好ましい実施態様において、いずれの場合にもNi、Co及びMnの合計に基づいて、少なくとも60モル%、・・・のTMはNiであり、それぞれの場合のパーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指す。具体例は、N0.5Co0.2Mn0.3、Ni0.6Co0.2Mn0.2、Ni0.8Co0.1Mn0.1、及びNi0.7Co0.2Mn0.1である。」と記載されている。 ここで、甲1発明の式から、Ni、Co及びMnの合計に対するNiのモル%は、78モル%(=(0.75/(0.75+0.1+0.1))×100)である。 そして、本件発明1の「一般式Li1+xTM1-xO2」における「x」は「0~0.2」の範囲であるから、本件発明1はx=0の場合を含み、その場合、該一般式の「TM」及び「Li」のモル比は1.0である。 してみれば、甲1発明の「LiNi0.75Co0.1Mn0.1Al0.05O2で表される正極活物質の調整方法」は、本件発明1の「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質の製造方法」に含まれる。 b 甲1発明の「共沈合成したβ-Ni0.8Co0.1Mn0.1OOH」は、本件発明1の「Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物」に相当する。 そして、甲1発明の「Al(OH)3」は、本件発明1の「Alの水酸化物」に、甲1発明の「LiOH」は、本件発明1の「水酸化リチウムのリチウム化合物」に、それぞれ相当する。 してみれば、甲1発明の「共沈合成したβ-Ni0.8Co0.1Mn0.1OOHとAl(OH)3とLiOHとを混合」することは、本件発明1の「工程(a)(A)Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物」「及び(B)水酸化リチウムのリチウム化合物、及び(C)Alの水酸化物を混合する工程」に対応する。 ただし、Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物に関し、本件発明1は「0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。 c 甲1発明における「共沈合成したβ-Ni0.8Co0.1Mn0.1OOHとAl(OH)3とLiOHとを混合した後」の混合物を焼成する温度は「720℃」であり、「700~1000℃」の範囲内である。 してみると、「共沈合成したβ-Ni0.8Co0.1Mn0.1OOHとAl(OH)3とLiOHとを混合した後」の混合物を「酸素分圧0.5気圧の雰囲気下において720℃で焼成合成」することは、本件発明1の「工程(a)で得られた混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程」に含まれる。 ただし、熱処理する工程に関し、本件発明1は「熱処理が、ガスの流れ下で行われ、及び持続時間が、1~24時間の範囲である」のに対し、甲1発明は、その旨特定されていない点で相違する。 d よって、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質の製造方法であって、以下の工程: (a) (A)Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物、及び (B)水酸化リチウムのリチウム化合物、及び (C)Alの水酸化物 を混合する工程と (b)工程(a)で得られた混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程と を含む、方法。」 (相違点1) Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物に関し、本件発明1は「0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。 (相違点2) 熱処理する工程に関し、本件発明1は「熱処理が、ガスの流れ下で行われ、及び持続時間が、1~24時間の範囲である」のに対し、甲1発明は、その旨特定されていない点。 してみると、本件発明1と甲1発明とは相違点1、2を有するので、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。 (イ)特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、異議申立書において、概略以下のように主張する。 (a)甲第2号証の段落0025および甲第3号証の段落0036の記載によれば、共沈法で得られた混合水酸化物を酸化および乾燥することにより、混合オキシ水酸化物あるいは混合酸化物に転換することは、本件特許の優先日においては当業者に常法であったといえる。また、混合オキシ水酸化物への転換時に乾燥により水分が除去されることも自明である。したがって、甲第1号証は、「Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物は、0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する」ことを実質的に開示している。(30頁20行ないし31頁2行) (b)酸素分圧0.5気圧の雰囲気を維持するためには、ガスの流れが必要とされることは、当業者に自明である。また、甲第1号証では、焼成時間は40時間であるが、焼成時間は、原材料の組成、最終的に得られる正極活物質に要求される特性、焼成温度などに応じて適宜設定されるものであるから、熱処理(焼成)時間を1~24時間に規制することは、当業者が任意に設定する設計事項である。したがって、甲第1号証は、「熱処理が、ガスの流れ下で行われ、及び持続時間が、1~24時間の範囲である」ことを実施的に開示している。(31頁23行ないし32頁15行) b 上記主張について検討する。 (a)甲第2号証段落【0025】に「複合オキシ水酸化物を用いる場合には、前述の共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、反応液に空気を吹き込み酸化を行えばよい。」、甲第3号証段落【0036】に「ニッケル、コバルト及びMの複合オキシ水酸化物は、前述の共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、反応液に空気を吹き込み酸化させることにより得られる。」と、それぞれ記載されているものの、「複合オキシ水酸化物」を調整する際に「乾燥」することは記載されておらず、さらに、Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物の残留水分を「0.1~5質量%」程度の低い範囲とすることが自明であることを裏付ける証拠も提出されていない。 してみれば、特許異議申立人の「甲第1号証は、『Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物は、0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する』ことを実質的に開示している」との主張は採用できない。 (b)正極活物質の製造方法において、「焼成」する場合「酸素分圧0.5気圧の雰囲気」を維持するためにガスの流れが必要であることを裏付ける証拠は提出されていない。 また、甲第1号証の段落【0018】には、正極活物質の調整方法において「40時間かけて焼成合成する」ことが記載されているものの、該「40時間」以外の焼成時間について全く記載されておらず、また、該「焼成時間」を適宜変更することの記載や示唆も見当たらない。 してみれば、特許異議申立人の「甲第1号証は、『熱処理が、ガスの流れ下で行われ、及び持続時間が、1~24時間の範囲である』ことを実施的に開示している。」との主張は採用できない。 イ 本件発明3、6 本件発明3、6は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、甲第1号証に記載された発明ではない。 ウ まとめ 以上から、請求項1、3、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1、3、6に係る特許は特許法第29条第1項に違反してされたものでない。 (2)甲2発明に基づく新規性について ア 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 a 本件発明1の「電極活物質」は「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)」で表されるから、「Li」のモル比は、「Mn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せ」である「TM」のモル比以上である。 ここで、甲2発明の「正極活物質」は「原料混合物の原子であるLi原子、Ni原子、Co原子、Mn原子、Al原子のそれぞれのモル比が、1.00、0.6、0.2、0.2、0.01であ」り、各モル比は、「原料混合物の原子」のモル比、即ち、混合物を焼成する前のモル比である。 そして、甲第2号証の段落【0062】、【0063】及び表2には、「参照実験2」として、炭酸リチウム、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物及び水酸化アルミニウムとを、Li原子のモル比が「1.05」、Ni原子のモル比が「0.60」、Co原子のモル比が「0.20」、Mn原子のモル比が「0.20」、Al原子のモル比が「0.10」である量添加し、混合して、次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成し、焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、正極活物質試料を得て、X線回折分析を行った結果、LiNi0.60Co0.20Mn0.20Al0.10O2であることが確認されたことが記載されており、表2のモル比に基づく焼成物である正極活物質のLi原子のモル比とNi原子、Co原子、Mn原子及びAl原子の組み合わせのモル比ですら、Li原子のモル比が小さいのだから、それよりLi原子のモル比が小さい原料に基づく甲2発明の正極活物質においても、Ni原子、Co原子、Mn原子及びAl原子の組み合わせのモル比よりLi原子のモル比は小さいと解される。 してみると、甲2発明の「原料混合物の原子であるLi原子、Ni原子、Co原子、Mn原子、Al原子のそれぞれのモル比が、1.00、0.6、0.2、0.2、0.01であ」る「正極活物質」は、本件発明1の「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質」に相当するとはいえない。 よって、甲2発明の「正極活物質の製造方法」は、本件発明1の「電極活物質の製造方法」に対応するものの、電極活物質に関し、本件発明1は「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)」によるものであるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。 b 甲2発明の「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物」は、本件発明1の「Mn、Co及びNiの混合酸化物」である「混合酸化物」に、甲2発明の「炭酸リチウム」は、本件発明1の「炭酸リチウム」「のリチウム化合物」に、甲2発明の「水酸化アルミニウム」は、本件発明1の「Al」「の水酸化物」に、それぞれ相当する。 してみると、甲2発明の「炭酸リチウム、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物及び水酸化アルミニウムとを混合して混合物を得」ることは、本件発明1の「(a)(A)Mn、Co及びNiの混合酸化物である混合酸化物、及び、(B)炭酸リチウムのリチウム化合物、及び(C)Alの水酸化物を混合する工程」に相当する。 c 甲2発明では、「600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成」することから、焼成温度及び焼成時間のそれぞれは、「700~1000℃」及び「1~24時間」の範囲内であるといえる。 してみると、甲2発明の「次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成」することは、本件発明1の「(b)工程(a)で得られた混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程であって、この熱処理」の「持続時間が、1~24時間の範囲である工程」に対応する。 ただし、熱処理する工程に関し、本件発明1は「熱処理が、ガスの流れ下で行われ」るのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。 d よって、本件発明1と甲2発明とは以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「電極活物質の製造方法であって、以下の工程: (a) (A)Mn、Co及びNiの混合酸化物である混合酸化物、及び (B)炭酸リチウムのリチウム化合物、及び (C)Alの水酸化物 を混合する工程と、 (b)工程(a)で得られた混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程であって、持続時間が、1~24時間の範囲である工程と を含む、方法。」 (相違点3) 電極活物質に関し、本件発明1は「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)」によるものであるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。 (相違点4) 熱処理する工程に関し、本件発明1は「熱処理が、ガスの流れ下で行われ」るのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。 してみると、本件発明1と甲2発明とは相違点3、4を有するので、本件発明1は甲第2号証に記載された発明ではない。 (イ)特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、異議申立書において、概略以下のように主張する。 甲第2号証の参考実験2および比較例3では、炭酸リチウム、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物、および、水酸化アルミニウムを乾式で混合して、得られた混合物を925℃で10時間保持し大気中で焼成したことが記載されている(段落0062、0063、0070)。原料混合物のモル比は、Li:1.05(比較例3では1.00)、Ni:0.60、Co:0.20、Mn:0.20、Al:0.10(比較例3では0.1)である(段落0063の表2、段落0070の表3参照)。 このように、甲第2号証は、発明特定事項のすべてを実質的に開示する。なお、甲第2号証において、熱処理(焼成)工程を、「ガスの流れ下」で行うことの明示はないが、甲第4号証に記載の通り、当該事項は周知技術であるといえる。 以上から、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明と同一である。よって、本件特許発明1は新規性を具備しない。(32頁下から5行ないし33頁11行) b 上記主張について検討する。 上記「(ア)a」で述べたように、本件発明1の「正極活物質」では、「Li」のモル比は、「Mn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せ」である「TM」のモル比以上であるのに対し、甲2発明の「正極活物質」において、焼成後の「Ni」、「Co」、「Mn」及び「Al」の組み合わせのモル比より「Li」のモル比は小さいと解されるから、甲2発明は、上記相違点3を有するといえる。 なお、上記「(ア)c」で述べたように、甲2発明に「熱処理が、ガスの流れ下で行われ」ることは記載されておらず、また、上記「第4 4(2)」によれば、「甲第4号証に記載された技術」は、正極活物質の製造方法において、焼成前の混合物を焼成雰囲気に敷設し、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスを導入し、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射し、焼成雰囲気内のガスを焼成雰囲気外に排出するものであるものの、当該技術が甲第2号証に実質的に記載されているとはいえないから、甲2発明は、上記相違点4を有するといえる。 る。 以上から、特許異議申立人の主張は採用できない。 イ 本件発明3、4、7ないし10 本件発明3、4、7ないし10は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1に対する理由と同様な理由により、本件発明3、4、7ないし10は、甲第2号証に記載された発明ではない。 ウ まとめ 以上から、請求項1、3、4、7ないし10に係る発明は、甲第2号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1、3、4、7ないし10に係る特許は特許法第29条第1項に違反してされたものでない。 (3)甲3発明に基づく新規性について ア 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 a 上記「(2)ア(ア)a」で述べたように、本件発明1の電極活物質において、「Li」のモル比は、「Mn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せ」である「TM」のモル比以上である。 ここで、甲3発明の「正極活物質」は「式LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2」で表されることから、「Ni」、「Co」、「Mn」及び「Al」の組み合わせのモル比は「Li」のモル比を越えることは明らかである。(「Ni」、「Co」、「Mn」及び「Al」の組み合わせのモル比1.1(=0.6+0.2+0.2+0.1)) してみると、甲3発明の「式LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2で表される正極活物質」は、本件発明1の「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質」に相当するとはいえない。 よって、甲3発明の「正極活物質の製造方法」は、本件発明1の「電極活物質の製造方法」に対応するものの、電極活物質に関し、本件発明1が「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)」によるものであるのに対し、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。 b 甲3発明の「炭酸リチウム」は、本件発明1の「(B)炭酸リチウム」「のリチウム化合物」に、甲3発明の「水酸化アルミニウム」は、本件発明1の「Al」「の水酸化物」に、それぞれ相当する。 してみれば、甲3発明の「炭酸リチウムと、」「水酸化アルミニウムとを、混合して混合物を得」ることは、本件発明1の「(a)」「(B)炭酸リチウムのリチウム化合物、及び(C)Alの水酸化物を混合する工程」である点で一致する。 ただし、混合する工程に関し、本件発明1は「(A)Mn、Co及びNiの混合酸化物又は混合オキシ水酸化物であって、前記Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物は、0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する、混合酸化物又は混合オキシ水酸化物」を混合するのに対し、甲3発明は、「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物」を混合する点で相違する。 c 甲3発明では「混合物を得て、次いで、室温(25℃)から600℃まで1時間で昇温し、次いで、925℃まで3時間で昇温し、次いで、925℃で10時間保持するという条件で、大気中で焼成」するから、焼成温度及び焼成時間のそれぞれは、「700~1000℃」及び「1~24時間」の範囲内であるといえる。 してみると、甲3発明の「混合物を得て、次いで、室温(25℃)から600℃まで1時間で昇温し、次いで、925℃まで3時間で昇温し、次いで、925℃で10時間保持するという条件で、大気中で焼成」することは、本件発明1の「(b)工程(a)で得られた混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程であって、この熱処理」の「持続時間が、1~24時間の範囲である工程」に対応する。 ただし、熱処理する工程に関し、本件発明1は「熱処理が、ガスの流れ下で行われ」るのに対し、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。 d よって、本件発明1と甲3発明とは以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「電極活物質の製造方法であって、以下の工程: (a) (B)炭酸リチウムのリチウム化合物、及び (C)Alの水酸化物 を混合する工程と (b)工程(a)で得られた混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程であって、持続時間が、1~24時間の範囲である工程と を含む、方法。」 (相違点5) 電極活物質に関し、本件発明1が「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)」によるものであるのに対し、甲3発明はその旨特定されていない点。 (相違点6) 混合する工程に関し、本件発明1は「(A)Mn、Co及びNiの混合酸化物又は混合オキシ水酸化物であって、前記Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物は、0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する、混合酸化物又は混合オキシ水酸化物」を混合するのに対し、甲3発明は、「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物」を混合する点。 (相違点7) 熱処理する工程に関し、本件発明1は「熱処理が、ガスの流れ下で行われ」るのに対し、甲3発明はその旨特定されていない点。 してみると、本件発明1と甲3発明とは相違点5ないし7を有するので、本件発明1は甲第3号証に記載された発明ではない。 (イ)特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、異議申立書において、概略以下のように主張する。 甲第3号証の実施例1および比較例2では、炭酸リチウム、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物、および、酸化チタンあるいは水酸化アルミニウムを乾式で混合して、得られた混合物を925℃で10時間保持し大気中で焼成したことが記載されている(段落0081、0085)。 原料混合物のモル比は、Li:1.00(比較例2では1.05)、Ni:0.60、Co:0.20、Mn:0.20、Ti:0.01またはAl:0.10である(段落0086の表1参照)。 甲第3号証の実施例1および比較例2では、「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物」を使用している。しかしながら、甲第3号証には、「ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む化合物」として、「ニッケル、コバルト及びMの複合水酸化物」のほか、「複合オキシ水酸化物、複合炭酸塩又は複合酸化物等が挙げられる」旨の記載がある(段落0035)。したがって、甲第3号証の実施例1および比較例2において、「複合水酸化物」に代替して、「複合オキシ水酸化物」あるいは「複合酸化物」を適用することが記載されているといえる。 このように、甲第3号証は、発明特定事項のすべてを実質的に開示する。なお、甲第3号証において、熱処理(焼成)工程を、「ガスの流れ下」で行うことの明示はないが、甲第4号証に記載の通り、当該事項は周知技術であるといえる。 以上から、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明と同一である。よって、本件特許発明1は新規性を具備しない。(33頁16行ないし34頁10行) b 上記主張について検討する。 上記「(ア)a」で述べたように、甲3発明の「正極活物質」は「式LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2」で表され、「Ni」、「Co」、「Mn」及び「Al」の組み合わせのモル比は「Li」のモル比を越えるから、甲3発明は、上記相違点5を有する。 また、上記「(ア)b」で述べたように、甲3発明は、「混合酸化物又は混合オキシ水酸化物」を混合することは記載されておらず、甲第3号証には、比較例2における「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物」を「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む「複合オキシ水酸化物」あるいは「複合酸化物」を用いることの示唆や記載はないから、相違点6を有する。 さらに、上記「(ア)c」で述べたように、甲3発明には「熱処理が、ガスの流れ下で行われ」ることは記載されておらず、上記「第4 4(2)」によれば、「甲第4号証に記載された技術」は、正極活物質の製造方法において、焼成前の混合物を焼成雰囲気に敷設し、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスを導入し、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射し、焼成雰囲気内のガスを焼成雰囲気外に排出するものであるものの、甲第3号証に実質的に記載されているとはいえないから、甲3発明は上記相違点7を有する。 以上から、特許異議申立人の主張は採用できない。 イ 本件発明2ないし4、7ないし11 本件発明2ないし4、7ないし11は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1に対する理由と同様な理由により、本件発明2ないし4、7ないし11は、甲第3号証に記載された発明ではない。 ウ まとめ 以上から、請求項1ないし4、7ないし11に係る発明は、甲第2号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1ないし4、7ないし11に係る特許は特許法第29条第1項に違反してされたものでない。 2 申立理由2(進歩性)について (1)甲1発明に基づく進歩性について ア 本件発明1 (ア)対比 上記「1(1)ア(ア)」によれば、本件発明1と甲1発明とは上記相違点1、2を有する。 (イ)相違点に対する判断 事案に鑑み、相違点1について判断する。 上記「第4 2(1)」に摘記した段落【0025】によれば、甲第2号証には「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む複合オキシ水酸化物の調整であって、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液と、アルカリの水溶液とを混合することで、複合水酸化物を共沈させた後、反応液に空気を吹き込み酸化を行う」技術が、上記「第4 3(1)」に摘記した段落【0036】によれば、甲第3号証には「ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液と、アルカリの水溶液とを混合して、複合水酸化物を共沈させる共沈操作を行った後、反応液に空気を吹き込み酸化させることによりニッケル、コバルト及びMの複合オキシ水酸化物を得る」技術が、それぞれ記載されているといえるものの、甲第2号証及び甲第3号証には、複合オキシ水酸化物の「残留水分」についての記載や示唆はなく、ましてや、「残留水分」を「0.1~5質量%」程度の範囲とすることも何ら記載されていない。 また、甲第4号証には、「Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物」について何ら記載されていない。 してみれば、甲1発明に甲第2号証に記載された技術、甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術を採用したとしても、甲1発明の「共沈合成したβ-Ni0.8Co0.1Mn0.1OOH」の残留水分を0.1~5質量%程度の低い範囲とすることを導き出すことはできない。 よって、相違点1に係る構成は、甲1発明に基づいて、または、甲1発明、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。 (ウ)特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、異議申立書において、概略以下のように主張する。 甲第2号証の段落0025と甲第3号証の段落0036に、「ニッケル、コバルト及びMの複合オキシ水酸化物は、前述の共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、反応液に空気を吹き込み酸化させることにより得られる。ニッケル、コバルト及びMの複合酸化物は、前述の共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、これを例えば200~500℃で加熱して酸化させることにより得られる。」と記載があるように、共沈法で得られた混合水酸化物を酸化および乾燥することにより、混合オキシ水酸化物あるいは混合酸化物に転換することは、本件特許の優先日においては当業者に常法であったといえる。また、混合オキシ水酸化物への転換時に乾燥により水分が除去されることも自明である。さらに、本件特許明細書には、特に残留水分を規制することによる作用効果についての実証はなされていない。したがって、「前記Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物は、0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する」との発明特定事項は、甲第1号証の記載と、周知技術、甲第2号証の記載、または甲第3号証の記載とに基づいて、当業者が容易に相当し得る事項である。(30頁20行ないし31頁5行) b 上記主張について検討する。 上記「1(1)ア(イ)b(a)」で述べたように、甲第2号証及び甲第3号証には、「複合オキシ水酸化物」を調整する際に「乾燥」することは記載されておらず、さらに、Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物の残留水分を「0.1~5質量%」程度の範囲とすることが自明であることを裏付ける証拠も提出されていない。 また、本件特許明細書の段落【0028】には「0.1~50質量%の範囲の残留水分含有量を有するオキシ水酸化物は、前駆体(A)として特に適している。前駆体(A)において、水分含有量は100gの前駆体(A)当たりのgのH2Oとして計算される。この場合、H2Oは、ヒドロキシル基として化学的に結合されてもよいか、又は物理吸着により結合されてもよい。好ましくは、前駆体(A)における残留水分は低く、例えば0.1~5質量%である。さらにより好ましくは、前駆体(A)は、検出可能な量の残留水分を含まないTMの酸化物である。」と記載されており、「オキシ水酸化物」の残留水分が「0.1~5質量%」程度の範囲であれば、前駆体(A)として特に適していることが記載されている。 以上から、特許異議申立人の主張は採用できない。 (エ)小括 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、または、甲1発明、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし11 本件発明2ないし11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明2ないし11を限定したものであるから、本件発明2ないし11は、上記本件発明1に対する理由と同様に、甲1発明に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ まとめ 以上から、本件発明1ないし11は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 (2)甲2発明に基づく進歩性について ア 本件発明1 (ア)対比 上記「1(2)ア(ア)」によれば、本件発明1と甲2発明とは上記相違点3、4を有する。 (イ)相違点に対する判断 a 相違点3について 上記「第4 1(2)ア」によれば、甲第1号証には「正極活物質を式LiNi0.75Co0.1Mn0.1Al0.05O2で表されるものとする」技術が記載されているといえ、上記「第4 4(2)」によれば、「甲第4号証に記載された技術」は、式LiaNi1-x-yCoxMyOb(式中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)で表される正極活物質の製造方法に関するものである。 しかしながら、甲第2号証には、「比較例3」に基づく甲2発明について甲2発明の原料混合物の「Li」、「Ni」、「Co」、「Mn」及び「Al」の各モル比の変更を示唆する記載は見当たらず、また、該原料混合物の各原子のモル比を変更する動機もない。 してみると、甲2発明に、甲第1号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、上記「1(3)ア(ア)a」で検討したように、甲第3号証に記載された「式LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2」で表される「正極活物質」は、本件発明1の「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質」に相当するとはいえない。 よって、相違点3に係る構成は、甲2発明に基づいて、または、甲2発明、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。 b 相違点4について 甲第1号証、及び、甲第3号証を参酌しても、正極活物質の製造方法において、「焼成」を「ガスの流れ下」で行うことの記載や示唆はない。 また、上記「第4 4(2)」によれば、「甲第4号証に記載された技術」は、正極活物質の製造方法において、焼成前の混合物を焼成雰囲気に敷設し、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスを導入し、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスを噴射し、焼成雰囲気内のガスを焼成雰囲気外に排出するものである。 しかしながら、甲第2号証に記載された「比較例3」に基づく甲2発明は、「大気中で焼成」することは特定されているものの、甲第2号証には、比較例3の製造について、「焼成」における条件の変更を示唆する記載は見当たらず、また、該条件を変更する動機も認められないことから、甲2発明に、甲第4号証に記載された技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、相違点4に係る構成は、甲2発明に基づいて、または、甲2発明、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。 (ウ)特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、異議申立書において概略以下のように主張する。 原料混合物のモル比は、Li:1.05(比較例3では1.00)、Ni:0.60、Co:0.20、Mn:0.20、Al:0.10(比較例3では0.01)である(段落0063の表2、段落0070の表3参照)。 このように、甲第2号証は、発明特定事項すべてを開示する。なお、甲第2号証において、熱処理(焼成)工程を、「ガスの流れ下」で行うことの明示はないが、甲第4号証に記載の通り、当該事項は周知技術であるといえる。 以上から、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明、または、甲第2号証に記載された発明と甲第4号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に想到できたものである。(33頁1ないし14行) b 上記主張について検討する。 上記「(ア)」でも述べたように、本件発明1と甲2発明とは上記相違点3を有し、上記「(イ)a」で述べたように、甲2発明の原料混合物の「Li」、「Ni」、「Co」、「Mn」及び「Al」の各モル比の変更を示唆する記載は見当たらず、また、該原料混合物の各原子のモル比を変更する動機もない。よって、「甲第4号証に記載された技術」が、式LiaNi1-x-yCoxMyOb(式中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)で表される正極活物質の製造方法に関するものであるとしても、相違点3に係る構成は、甲2発明に基づいて、又は、甲2発明に甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、上記「(イ)b」で述べたように、甲2発明には、「焼成」における条件を変更を示唆する記載は見当たらず、また、該条件を変更する理由もないことから、甲2発明に、甲第4号証に記載された技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (エ)小括 よって、本件発明1は、甲2発明に基づいて、または、甲2発明、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし11 本件発明2ないし11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明2ないし11を限定したものであるから、本件発明2ないし11は、上記本件発明1に対する理由と同様に、甲2発明に基づいて、または、甲2発明、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ まとめ 以上から、本件発明1ないし11は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、または、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 (3)甲3発明に基づく進歩性について ア 本件発明1 (ア)対比 上記「1(3)ア(ア)」によれば、本件発明1と甲3発明とは上記相違点5ないし7を有する。 (イ)相違点に対する判断 a 相違点5について 上記「第4 1(2)ア」によれば、甲第1号証には「正極活物質を式LiNi0.75Co0.1Mn0.1Al0.05O2で表されるものとする」技術が記載されているといえ、上記「第4 4(2)」によれば、「甲第4号証に記載された技術」は、式LiaNi1-x-yCoxMyOb(式中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)で表される正極活物質の製造方法に関するものである。 しかしながら、甲第3号証には、「比較例2」に基づく甲3発明について、「LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2」における「Li」、「Ni」、「Co」、「Mn」及び「Al」の各モル比の変更を示唆する記載は見当たらず、また、該各モル比を変更する動機もない。 してみると、甲3発明に、甲第1号証及び甲第4号証に記載された技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、上記「1(2)ア(ア)a」で検討したように、甲第2号証に記載された「原料混合物の原子であるLi原子、Ni原子、Co原子、Mn原子、Al原子のそれぞれのモル比が、1.00、0.6、0.2、0.2、0.01であ」る「正極活物質」は、本件発明1の「一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びTiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-xO2中、少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質」に相当するとはいえない。 よって、相違点5に係る構成は、甲3発明に基づいて、または、甲3発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。 b 相違点6について 上記「第4 3(1)」に摘記した甲第3号証の段落【0033】に「本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法に係る第1工程は、(a)リチウム化合物と、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む化合物と、(c)チタン化合物とを混合して、焼成原料混合物を得る工程である。」、同段落【0035】に「第1工程に係る(b)ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む化合物は、・・・、例えば、ニッケル、コバルト及びMの・・・複合オキシ水酸化物、・・・複合酸化物等が挙げられる。」とそれぞれ記載されている。 また、上記「第4 1(1)」に摘記した段落【0039】によれば、甲第1号証には「正極活物質調整原料として共沈合成したβ-Ni1-xCoxMnyOOH(0≦x≦0.25、0≦y≦0.3)を用いる」技術が、上記「第4 2(1)」に摘記した段落【0070】によれば、甲第2号証には「正極活物質の製造方法において、炭酸リチウム、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物及び水酸化アルミニウムとを混合して混合物を得る」技術が、それぞれ記載されている。そして、上記「第4 4(2)」によれば、「甲第4号証に記載された技術」は、正極活物質の製造方法において、ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合するものである。 しかしながら、甲第3号証に記載された「比較例2」に基づく甲3発明において、混合される材料の一つである「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物」を「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子」を含む他の化合物に変更する記載や示唆は甲第3号証にはなく、また、他の化合物に変更する動機も見当たらない。 してみると、甲3発明に、甲第1号証、甲第2号証および甲第4号証に記載された技術を採用し、「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物」に代えて、「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む複合オキシ水酸化物又は複合酸化物」を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 よって、相違点6に係る構成は、甲3発明に基づいて、または、甲3発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たことではない。 c 相違点7について 甲第1号証、及び、甲第2号証を参酌しても、正極活物質の製造方法において、「焼成」を「ガスの流れ下」で行うことの記載や示唆は見当たらない。 また、上記「第4 4(2)」によれば、「甲第4号証に記載された技術」は、正極活物質の製造方法において、混合物を焼成雰囲気に敷設し、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスを導入し、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスを噴射し、焼成雰囲気内のガスを焼成雰囲気外に排出するものである。 しかしながら、甲第3号証に記載された「比較例2」に基づく甲3発明は、「大気中で焼成」することは特定されているものの、甲第3号証には比較例2の製造について「焼成」における条件の変更を示唆する記載はなく、また、該条件を変更する動機もないことから、甲3発明に、甲第4号証に記載された技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、相違点7に係る構成は、甲3発明に基づいて、または、甲3発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。 (ウ)特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、異議申立書において概略以下のように主張する。 甲第3号証の実施例1および比較例2では、炭酸リチウム、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物、および、酸化チタンあるいは水酸化アルミニウムを乾式で混合して、得られた混合物を925℃で10時間保持し大気中で焼成したことが記載されている(段落0081、0085)。原料混合物のモル比は、Li:1.00(比較例2では1.05)、Ni:0.60、Co:0.20、Mn:0.20、Ti:0.01またはAl:0.10である(段落0086の表1参照)。 甲第3号証の実施例1および比較例2では、「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物」を使用している。しかしながら、甲第3号証には、「ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む化合物」として、「ニッケル、コバルト及びMの複合水酸化物」のほか、「複合オキシ水酸化物、複合炭酸塩又は複合酸化物等が挙げられる」旨の記載がある(段落0035)。 したがって、甲第3号証の実施例1および比較例2において、「複合水酸化物」に代替して、「複合オキシ水酸化物」あるいは「複合酸化物」を適用することが記載されているといえる。 このように、甲第3号証は、発明特定事項のすべてを開示する。 なお、甲第3号証において、熱処理(焼成)工程を、「ガスの流れ下」で行うことの明示はないが、甲第4号証に記載の通り、当該事項は周知技術であるといえる。 以上から、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、または、甲第3号証に記載された発明と甲第4号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に想到できたものである。(33頁16行ないし34頁13行) b 上記主張について検討する。 上記「(ア)」でも述べたように、本件発明1と甲3発明とは上記相違点5を有し、上記「(イ)a」で述べたように、甲3発明において「LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.1O2」における「Li」、「Ni」、「Co」、「Mn」及び「Al」の各モル比の変更を示唆する記載は甲第3号証にはなく、また、該モル比を変更する動機もないため、甲3発明に、甲第1号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、上記「(イ)b」で述べたように、甲第3号証には、ニッケル原子、コバルト原子及びM原子を含む化合物として「ニッケル、コバルト及びMの複合オキシ水酸化物又は複合酸化物」が記載されているものの、甲3発明において、混合される材料の一つである「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物」を「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子」を含む他の化合物に変更する記載や示唆は甲第3号証にはなく、また、他の化合物に変更する動機も見当たらないから、甲3発明において、「凝集状複合水酸化物」に代えて「ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む複合オキシ水酸化物又は複合酸化物」を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 さらに、上記「(イ)c」で述べたように、甲第3号証には、甲3発明の「焼成」における条件の変更を示唆する記載はなく、また、該条件を変更する動機もないことから、甲3発明に、甲第4号証に記載された技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (エ)小括 よって、本件発明1は、甲3発明に基づいて、または、甲3発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし11 本件発明2ないし11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明2ないし11を限定したものであるから、本件発明2ないし11は、上記本件発明1に対する理由と同様に、甲3発明に基づいて、または、甲3発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ まとめ 以上から、本件発明1ないし11は、甲第3号証に記載された発明、又は、甲第3号証に記載された発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700628

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