特許異議申立
2022-701132
リチウム複合酸化物およびこれを含むリチウム二次電池
- 審判番号
- 2022-701132
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-187922
- 登録番号
- 7100102
- 請求日
- 2022年11月17日
- 審決日
- 2023年10月10日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】岡部 讓
- 【権利者代理人】本田 亜希
- 【権利者代理人】齋藤 正巳
- 【権利者代理人】田村 修
- 【異議申立人】竹下 瑞恵
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 原 賢一
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.113-YAA(C01G) / P1651.121-YAA(C01G) / P1651.537-YAA(C01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法29条2項特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7100102号発明「リチウム複合酸化物およびこれを含むリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7100102号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7100102号の請求項1、4~8、10に係る特許を維持する。
特許第7100102号の請求項2、3、9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7100102号の請求項1~10に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)11月11日(パリ条約による優先権主張 2019年11月29日、2020年4月28日、共に(KR)大韓民国)を出願日とする出願であり、令和4年7月4日にその特許権の設定登録がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月17日に、その請求項1~10に係る特許を対象として特許異議申立人竹下瑞恵(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、令和5年3月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月28日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年8月24日に異議申立人から意見書及び意見書に添付された参考資料1が提出されたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
上記令和5年6月28日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記一次粒子は、下記の化学式1
LiwNi1-(x+y+z+z’)CoxM1yM2zNbz’O2 (化学式1)
(化学式1中、M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Mn、Al、W、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なる元素であり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦z’≦0.20であり、
x+y+z+z’≦40である。)で表され」とあるのを、「前記一次粒子は、下記の化学式1
LiwNi1-(x+y+z+z’)CoxMnyM2zNbz’O2 (化学式1)
(化学式1中、M2は、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Al、W、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、
0.5≦w≦1.5、0<x<0.40、0<y≦0.20、0≦z≦0.20、0<z’≦0.20であり、
x+y+z+z’≦0.40である。)で表され」に訂正する。
(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4~8、10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在し、
前記一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)と前記一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離(d2)は、」とあるのを、「前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在し、
X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である、
前記一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)と前記一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離(d2)は、」に訂正する。
(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4~8、10も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「下記の関係式1を満たす、リチウム複合酸化物。 d1>d2 (関係式1)」とあるのを、「下記の関係式1を満たし、
前記一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)は、0.40nm以上であり、(400)面の面間距離(d2)は、0.30nm以下である、
リチウム複合酸化物。
d1>d2 (関係式1)」に訂正する。
(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4~8、10も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項76に記載のリチウム複合酸化物」とあるのを、「請求項6に記載のリチウム複合酸化物」に訂正する。
(請求項7を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「LiaM3bOc (化学式2)
(化学式2中、M3は、Ni、Mn、Co、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Mn、Al、W、Nb、Fe、Cu、Mo、Cr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Eu、Sm、Ce、V、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である。)」とあるのを、「LiaM3bOc (化学式2)
(化学式2中、M3は、Ni、Mn、Co、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Al、W、Nb、Fe、Cu、Mo、Cr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Eu、Sm、Ce、V、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である。)」に訂正する。
(請求項7を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する。)
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「LiaM4bOc (化学式3)
(化学式3中、M4は、Ni、Mn、Co、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Mn、Al、W、Nb、Fe、Cu、Mo、Cr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Eu、Sm、Ce、V、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である)」とあるのを、「LiaM4bOc (化学式3)
(化学式3中、M4は、Ni、Mn、Co、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Al、W、Nb、Fe、Cu、Mo、Cr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Eu、Sm、Ce、V、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である)」に訂正する。
(請求項7を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウム複合酸化物」とあるのを、「請求項1、4~8のいずれか1項に記載のリチウム複合酸化物」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
(ア)訂正事項1の内、「LiwNi1-(x+y+z+z’)CoxM1yM2zNbz’O2 (化学式1)
(化学式1中、M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、M2は、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Mn、Al、W、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なる元素であり」とあるのを「LiwNi1-(x+y+z+z’)CoxMnyM2zNbz’O2 (化学式1)
(化学式1中、M2は、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Al、W、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり」とする訂正(以下、「訂正事項1-1」とする。)は、化学式1のM1を「Mn」に限定し、それに整合するように、M1の元素の選択肢を特定していた「M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり」を削除し、M2の元素の選択肢から、M1と同じ元素である「Mn」を削除し、これによりM1とM2が同じ元素となることはないのであるから、「M1とM2は、互いに異なる元素であり」の記載を削除したものである。
そうすると、訂正事項1-1は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)訂正事項1の内、「0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦z’≦0.20であり、
x+y+z+z’≦40である。」とあるのを、「0.5≦w≦1.5、0<x<0.40、0<y≦0.20、0≦z≦0.20、0<z’≦0.20であり、
x+y+z+z’≦0.40である。」とする訂正(以下、「訂正事項1-2」とする。)は、xの範囲から0の場合と0.40以上0.50以下の範囲を除き、yの範囲から0の場合を除き、z’の範囲から0の場合を除くものである。また、x+y+z+z’の上限について、化学式1の「Ni1-(x+y+z+z’)」で表されるNiの含有量を考慮するとx+y+z+z’の合計が1以上となることはなく、訂正前の「40」との上限はあり得ず、モル比をモル百分率で表した誤記であることが明らかであったものを、本来のモル比の値に正したものである。
そうすると、訂正事項1-2は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1-1は、化学式1のM1を訂正前の選択肢に含まれていた「Mn」に限定し、それに整合するように、「M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり」の記載を削除し、M2の元素の選択肢から、M1と同じ元素である「Mn」を削除し、「M1とM2は、互いに異なる元素であり」の記載を削除したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(イ)訂正事項1-2の内、x、y及びz’に関する訂正は、訂正前に記載されていた数値範囲を狭めるものであり、新たな技術的事項を追加しているものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項1-2の内、「x+y+z+z’≦0.40である。」とする訂正は、上記ア(イ)で述べたとおり、誤記の訂正を目的とするものであり、x+y+z+z’の上限が「0.40」であったことが明らかな記載を、本来の内容に訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、リチウム複合酸化物について、「X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項1を引用する請求項9には、請求項1の「リチウム複合酸化物」に対する限定として、「X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さが14.177Å超過14.218Å未満である」との記載があり、さらに、請求項1の「リチウム複合酸化物」の具体的な態様である実施例1~5における上記c軸長さが、【0148】の【表2】によれば、最小の実施例5の「14.189」から最大の実施例1の「14.211」の間にあることが記載されている。
これらの記載に基づけば、リチウム複合酸化物について、「X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である」ことを限定する訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項2は、リチウム複合酸化物について、「X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さ」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、リチウム複合酸化物について、「一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)は、0.40nm以上であり、(400)面の面間距離(d2)は、0.30nm以下である」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項1を引用する請求項2には、請求項1の「リチウム複合酸化物」に対する限定として、「前記一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)は、0.40nm以上である」こと、訂正前の請求項1を引用する請求項3には、「前記一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離(d2)は、0.30nm以下である」ことが記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項3は、リチウム複合酸化物について、「一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)」及び「(400)面の面間距離(d2)」の範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4、5、9について
訂正事項4、5、9は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項6について
ア 請求項7が引用する請求項として、請求項76はあり得ず、また、請求項7が引用している「前記第1コーティング層」は、請求項6にしか記載されていないのであるから、請求項7が引用しているのは請求項6であることは明らかである。
そうすると、上記訂正事項6は、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 訂正事項6は、上記アで述べたとおり、誤記の訂正を目的とするものであり、請求項6を引用していることが明らかな記載を、本来の内容に訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(6)訂正事項7、8
ア 訂正事項7、8は、化学式2の「LiaM3bOc」のM3又は化学式3の「LiaM4bOc」のM4の元素の選択肢の中で、「Mn」と「Ce」が、2カ所に記載され重複していたのをその一方を削除することにより、記載の重複を解消したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項7、8は、化学式2の「LiaM3bOc」のM3又は化学式3の「LiaM4bOc」のM4の元素の選択肢の中で、「Mn」と「Ce」が、2カ所に記載され重複していたのをその一方を削除することにより、記載の重複を解消したものであり、上記訂正により、記載の内容自体は変わるものではないから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項10が、請求項1~9を引用していたのを、訂正事項4、5、9により請求項2、3、9が削除されたことに伴い、これに整合させるため引用する請求項から請求項2、3、9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項10は、訂正前の請求項10が、引用していた請求項2、3、9を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
3 小括
本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~10〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~10に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
リチウムの吸蔵および放出が可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム複合酸化物であって、
前記一次粒子は、下記の化学式1
LiwNi1-(x+y+z+z’)CoxMnyM2zNbz’O2 (化学式1)
(化学式1中、M2は、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Al、W、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、
0.5≦w≦1.5、0<x<0.40、0<y≦0.20、0≦z≦0.20、0<z’≦0.20であり、
x+y+z+z’≦0.40である。)で表され
前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在し、
X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である、
前記一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)と前記一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離(d2)は、下記の関係式1を満たし、
前記一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)は、0.40nm以上であり、(400)面の面間距離(d2)は、0.30nm以下である、
リチウム複合酸化物。
d1>d2 (関係式1)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記一次粒子内にニオビウム(Nb)がドープされた、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項5】
前記一次粒子内ニオビウム(Nb)は、前記一次粒子の表面部から前記一次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示す、請求項4に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項6】
前記一次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーする第1コーティング層を含み、かつ
前記第1コーティング層は、ニオビウム(Nb)含有酸化物を含む、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項7】
前記第1コーティング層は、下記の化学式2で表される酸化物をさらに含む、請求項6に記載のリチウム複合酸化物。
LiaM3bOc (化学式2)
(化学式2中、M3は、Ni、Mn、Co、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Al、W、Nb、Fe、Cu、Mo、Cr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Eu、Sm、Ce、V、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である。)
【請求項8】
前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーする第2コーティング層を含み、かつ
前記第2コーティング層は、下記の化学式3で表される酸化物を含む、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
LiaM4bOc (化学式3)
(化学式3中、M4は、Ni、Mn、Co、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Al、W、Nb、Fe、Cu、Mo、Cr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Eu、Sm、Ce、V、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である)
【請求項9】(削除)
【請求項10】
請求項1、4~8のいずれか1項に記載のリチウム複合酸化物を含む正極が使用されたリチウム二次電池。」
第4 令和5年3月27日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和5年3月27日付けで通知した取消理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
ア 訂正前の請求項1~8、10に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1~8、10に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由1」とする。)。
イ 訂正前の請求項1~8、10に係る発明は、下記甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1~8、10に係る発明は、下記甲第2号証に記載された発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由2」とする。)。
上記取消理由1及び2の進歩性欠如の判断においては、異議申立人から令和5年8月24日に提出された意見書に添付された参考資料1も含めて判断を行う。
記
甲第1号証:国際公開第2018/043669号
甲第2号証:特開2019-46716号公報
参考資料1:国際公開第2017/221554号
(以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。)
(2)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「取消理由3」とする。)
本件特許は、特許請求の範囲の訂正前の請求項1~10の記載が後記第5の2(1)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「取消理由4」とする。)
本件特許は、特許請求の範囲の訂正前の請求項1~10の記載が後記第5の3(1)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
なお、特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について、異議申立人による申立の内、訂正前の請求項9に対するものは、取消理由において採用しなかったが、本件訂正により請求項9は削除された。
(1)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由1」とする。)
本件特許は、特許請求の範囲の訂正前の請求項1~10の記載が後記第5の3(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由2」とする。)
本件特許は、特許請求の範囲の訂正前の請求項1~10の記載が後記第5の2(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1及び2(新規性欠如及び進歩性欠如)について
(1)甲1、甲2、参考資料1に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
(ア)「請求の範囲
[請求項1] 複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+γ(前記一般式(1)中、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.60、0≦b≦0.60、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.20、0≦γ≦0.5である。)で表され、前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物中のニオブの少なくとも一部が、前記一次粒子に固溶し、かつ、前記一次粒子内の平均ニオブ濃度に対して、前記一次粒子内の最大ニオブ濃度が1倍以上3倍以下である、非水系電解質二次電池用活物質。
・・・
[請求項3] 前記一次粒子表面の少なくとも一部に、リチウムとニオブとを含む化合物が存在する、請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。」
(イ)「発明が解決しようとする課題
[0016] しかしながら、上記提案は、いずれも出力特性、エネルギー密度、耐久性に対して改善はみられるものの、熱安定性の改善については十分ではなく、これらの特性を高次元に両立させる正極活物質の開発が望まれている。
[0017] 非水系電解質二次電池は、上述のようにエネルギー密度、出力特性、耐久性を有しているが、電池材料として、非水系電解質を用いるため、高い熱安全性が求められている。例えば、リチウムイオン二次電池は、電池内部で短絡した際には急激な電流による発熱が生じることから、より高い熱安定性が要求される。また、短絡による急激な電流を抑制する方法の一つとして、正極活物質の導電性を低くすることが有効であると考えられる。しかしながら、通常、正極活物質の導電率は高いほど充放電容量や出力特性といった電池特性が良化する傾向にあるため、高い電池特性と低い導電性の両立は困難である。
[0018] 本発明は、これら事情を鑑みてなされたものであり、エネルギー密度及び出力特性と、短絡時の熱安定性とを高い次元で両立させた非水系電解質二次電池が得られる正極活物質を提供することを目的とするものである。また、本発明は、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0019] 本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、特定量のマンガンを含むリチウムニッケルマンガン複合酸化物に、特定量のニオブを添加することにより、電池特性の向上と、導電率の低下による短絡時の高い熱安定性との両立が可能であるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。」
(ウ)「[0037] 上記一般式(1)において、Nbの含有量を示すcの範囲は、0.0003≦c≦0.03である。cの範囲が上記範囲である場合、十分な導電率の低減効果が得られるとともに、二次電池の正極に用いた際に正極抵抗が低下して高い電池容量を得ることができる。一方、cの値が0.0003未満である場合、導電率の低減効果が得られない。また、cの値が0.03を超える場合、ニオブ化合物の偏析が起こり、出力特性と電池容量が低下する。さらに、より高い導電率の低減効果と出力特性の向上を得るという観点から、cの範囲は、0.0005≦c≦0.025であることが好ましく、0.001≦c≦0.02であることがより好ましい。なお、リチウム金属複合酸化物の組成は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法による定量分析により測定することができる。」
(エ)「[0045] さらに、本実施形態の正極活物質は、一次粒子の表面にリチウムとニオブとを含む化合物(以下、「リチウムニオブ化合物」ともいう。)が存在してもよい。リチウムニオブ化合物は、一次粒子表面の少なくとも一部に存在してもよく、一次粒子表面全体を被覆してもよい。リチウムニオブ化合物は、一次粒子表面の少なくとも一部に存在していれば、得られる二次電池の正極抵抗を低減させることができる。さらに、リチウムニオブ化合物は、一次粒子表面に固着していることが好ましい。
[0046] リチウムニオブ化合物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果があるため、一次粒子表面に形成されたリチウムニオブ化合物は、電解液と一次粒子との界面でLiの伝導パスを形成することができる。これにより、得られる二次電池の正極抵抗を低減して、出力特性を向上させると考えられる。リチウムニオブ化合物としては、LiNbO3、LiNb3O8、Li3NbO4から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、Li3NbO4であることがより好ましい。
[0047] リチウムニオブ化合物が存在する一次粒子表面は、電解液との接触が可能な一次粒子表面であることが好ましい。電解液との接触が可能な一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子の表面を含むだけでなく、二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍の一次粒子表面、 及び、二次粒子内部の空隙に露出している一次粒子の表面などを含む。さらに、電解液との接触が可能な一次粒子表面は、一次粒子間の粒界であっても、一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態であれば含まれる。
[0048] 上記のような電解液との接触が可能な一次粒子表面に形成されたリチウムニオブ化合物は、二次電池の正極において、リチウムイオンの移動を促すことができる。したがって、電解液との接触が可能な複数の一次粒子表面にリチウムニオブ化合物を形成させることにより、リチウム金属複合酸化物の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。また、リチウムニオブ化合物は、上記範囲内でニオブの含有量を増やすことにより形成させることができる。上記範囲内でニオブ含有量を増やした場合、後述する二次粒子の平均円形度を向上させ、高いエネルギー密度を得られるとともに、一次粒子表面にリチウムニオブ化合物を形成させて、正極抵抗を低減して良好な正極抵抗を維持することができる。」
(オ)「[0055] 図1に示すように、本実施形態の製造方法は、特定の組成を有するニッケルマンガン複合水酸化物粒子と、ニオブ化合物と、リチウム化合物と、を含むリチウムニオブ混合物を調製するニオブ混合工程(ステップS10)と、該リチウムニオブ混合物を酸化雰囲気中750℃以上1000℃以下で焼成することによりリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得る焼成工程(ステップS20)と、を含む。以下、本実施形態の正極活物質の製造方法について、図1を参照して説明する。なお、以下の説明は、製造方法の一例であって、製造方法を限定するものではない。
[0056] [ニオブ混合工程]
まず、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」ともいう。)と、ニオブ化合物と、リチウム化合物と、を含むリチウムニオブ混合物を調製する(ステップS10)。リチウムニオブ混合物は、例えば、複合水酸化物粒子に、ニオブ化合物を、リチウム化合物とともに、粉末(固相)で添加し、混合して得ることができる(図2参照)。また、リチウムニオブ混合物は、例えば、複合水酸化物粒子と水と混合して得られたスラリーに、ニオブ塩溶液と酸とを同時に添加して、ニオブ化合物で被覆された複合酸化物粒子を得た後、リチウム化合物を混合して得ることができる(図3参照)。以下、図1~3を参照して、ニオブ混合工程(ステップS10)の詳細について説明する。
[0057] リチウムニオブ混合物中に含まれる複合水酸化物粒子は、一般式(2):Ni1-a-bMnaMb(OH)2+α(上記式(2)中、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.60、0≦b≦0.60、0≦α≦0.4)で表される。複合水酸化粒子中の金属(Ni、Mn、M)の含有量(組成)は、リチウム金属複合酸化物中でもほぼ維持されるため、各金属(Ni、Mn、M)の含有量は、上述のリチウム金属複合酸化物中の含有量と同様の範囲であることが好ましい。
[0058] 複合水酸化物粒子は、少なくともマンガンを上記範囲で含むニッケル複合水酸化物粒子を用いる。これにより、得られる正極活物質の複数の一次粒子内で、マンガンを均一に分布させることができる。複数の一次粒子内にマンガンとニオブとが含有(固溶)された正極活物質は、高い熱安定性を有し、かつ、導電率が低下する。また、一次粒子内にマンガンが含有されることにより、リチウムニオブ混合物を比較的高い温度で焼成することが可能となる。そして、高い温度で焼成することにより、ニオブ化合物中のニオブを、一次粒子に、より均一に固溶させることができる。複合水酸化物粒子の製造方法は、特に限定されないが、図2、3に示すように、晶析工程(ステップS11)により、得られた複合水酸化物粒子を用いることが好ましい。
・・・
[0082](ニオブ被覆工程)
ニオブ被覆工程(ステップS13)は、晶析工程(ステップS11)で得られた複合水酸化物粒子にニオブ化合物を被覆してする工程である。ニオブ化合物の被覆は、例えば、複合水酸化物粒子と、水とを混合して得られたスラリーに、ニオブ塩溶液と酸とを添加して、複合水酸化粒子の表面にニオブ化合物(例えば、ニオブ水酸化物など)を晶析させることにより行う。なお、このようなニオブ被覆複合水酸化物粒子の製造方法については、例えば、国際公開2014/034430号などに記載されており、詳細な条件については、これらの文献などを参照して、適宜調整することができる。
・・・
[0095][焼成工程]
焼成工程(ステップS20)は、リチウムニオブ混合物を酸化雰囲気中750℃以上1000℃以下で焼成する工程である。リチウムニオブ混合物を焼成すると、複合水酸化物粒子、又は、後述するニオブ被覆複合水酸化物粒子にリチウム化合物中のリチウムが拡散するので、多結晶構造の粒子からなるリチウム金属複合酸化物が形成される。リチウム化合物は、焼成時の温度で溶融し、複合水酸化物粒子内に浸透してリチウム金属複合酸化物を形成する。この際、ニオブ化合物は溶融したリチウム化合物とともに二次粒子内部まで浸透する。また一次粒子においても結晶粒界などがあれば浸透する。浸透することで一次粒子内部における拡散が促進されニオブが一次粒子内で均一に固溶する。
[0096] 焼成温度は、酸化雰囲気中750℃以上1000℃以下であり、好ましくは750℃以上950℃以下である。上記温度で焼成する場合、リチウム化合物の溶融が生じ、ニオブ化合物の浸透と拡散が促進される。また、リチウムニオブ混合物は、マンガンを含むことにより、焼成温度を高くすることができる。焼成温度を高くすることで、ニオブの拡散が促進されるとともに、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の結晶性が高くなり、出力特性やエネルギー密度をより向上させることができる。
[0097] 一方、焼成温度が750℃未満である場合、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子中へのリチウムおよびニオブの拡散が十分に行われなくなり、余剰のリチウムや未反応の粒子が残ったり、結晶構造が十分整わなくなったりして、十分な電池特性が得られないという問題が生じる。また、焼成温度が1000℃を超えると、形成されたリチウム遷移金属複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性がある。異常粒成長が生じると、焼成後の粒子が粗大となってしまい粒子形態を保持できなくなる可能性があり、正極活物質を形成したときに、比表面積が低下して正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる。」
(カ)「[0127](実施例8)
(晶析工程)
反応槽(60L)に純水を所定量入れ、攪拌しながら槽内温度を45℃に設定した。このとき反応槽内に、反応槽液中の溶存酸素濃度が1.5mg/LとなるようにN2ガスを流した。この反応槽内にニッケル:コバルト:マンガンのモル比が80:10:10となるように、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンの2.0Mの混合水溶液と、アルカリ溶液である25質量%水酸化ナトリウム溶液、錯化剤として25質量%アンモニア水を反応槽に同時に連続的に添加した。このとき混合水溶液の滞留時間は8時間となるように流量を制御し、反応槽内のpHを11.8~12.1に、アンモニア濃度を12~13g/Lに調整した。反応槽が安定した後、オーバーフロー口からニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を含むスラリーを回収した後、濾過を行いニッケルコバルトマンガン複合水酸化物のケーキを得た(晶析工程)。濾過を行ったデンバー内にあるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物140gに対して1Lの純水を通液することで、不純物の洗浄を行った。濾過後の粉を乾燥し、Ni0.80Co0.10Mn0.10(OH)2+α(0≦α≦0.4)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。
[0128](リチウム混合工程)
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子と、水酸化リチウムと、平均粒径が1.0μmのニオブ酸(Nb2O5・nH2O)とを、ニッケル:コバルト:マンガン:ニオブのモル比が79.7:10.0:9.8:0.50になるように、かつ、リチウム量(Li)とニッケル、コバルト、マンガン及びニオブの合計メタル量(Me)との原子比(以下、Li/Meと表す)が1.02になるように、秤量した後、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、リチウム混合物を得た。
[0129](焼成工程)
得られたリチウム混合物を酸素気流中にて870℃で10時間保持して焼成し、その後、解砕してリチウムニッケルコバルトマンガンニオブ複合酸化物からなる正極活物質を得た。評価結果を表1および2に示す。
・・・
[0134](実施例11)
実施例8で得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子と、水酸化リチウム、平均粒径が1.0μmのニオブ酸(Nb2O5・nH2O)をニッケル:コバルト:マンガン:ニオブのモル比が78.3:9.8:9.4:2.5になるように秤量したこと以外は実施例8と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および2に示す。」
(キ)「[0141]
[表1]
[図:0001405798000001.jpg]
」
イ 甲2に記載された事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する、非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記正極活物質は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表され、
前記被覆層は、ニオブとリチウムとを含む化合物を含有する、非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記被覆層に含まれるニオブの量が、前記非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下である、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車をはじめとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発も強く望まれている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
このリチウムイオン二次電池は、負極および正極の活物質に、リチウムが脱離および挿入できる材料が用いられている。リチウムイオン二次電池については、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0016】
本発明は係る問題点に鑑み、正極に用いられた場合に、高出力とともに高い耐久性を有する非水系電解質二次電池が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質と、その製造方法を提供することを目的とする。」
(エ)「【0026】
本発明者らは、正極活物質の粉体特性および二次電池の正極抵抗に対する影響について鋭意研究したところ、上記の正極活物質PAにおいて、後述するように、ニオブとリチウムとを含む化合物を含有する被覆層20のリチウムイオン伝導性及び誘電体としての性質が、正極(電極)におけるリチウムイオン伝導性や、被覆層20とリチウム金属複合酸化物粉末10との界面でのリチウム挿入脱離を向上させ、得られる二次電池の正極抵抗を大幅に低減して、出力特性を向上させるとともに、二次電池の耐久性を向上させることが可能であることを見出した。以下、正極活物質PAに含まれる各構成について説明する。」
(オ)「【0027】
(1)被覆層
被覆層20は、二オブとリチウムとを含む化合物を含有し、ニオブとリチウムとを含む化合物から形成されてもよい。ニオブとリチウムとを含む化合物は、誘電体を含むリチウムイオン伝導体であることが好ましい。
【0028】
通常、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面が異種化合物により完全に被覆される場合、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウム金属複合酸化物粉末10の持つ高容量という長所が損なわれてしまう。また、リチウム複合酸化物粉末10中に異種元素を固溶させることは、容量の低下を招きやすい。
【0029】
一方、二オブとリチウムとを含む化合物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果があるため、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面を、二オブとリチウムとを含む化合物で被覆することにより正極活物質PAの表面におけるインターカレーションの促進が可能である。
【0030】
(ニオブとリチウムとを含む化合物)
ニオブとリチウムとを含む化合物は、ニオブ酸リチウムを含むことが好ましく、LiNbO3及びLi3NbO4の少なくとも一種を含むことがより好ましく、LiNbO3を含むことがさらに好ましい。また、二オブとリチウムとを含む化合物は、ニオブ酸リチウムからなってもよい。なお、ニオブとリチウムとを含む化合物は、粉末X線回折(XRD)などにより確認することができる。
【0031】
ニオブ酸リチウムは、イオン伝導体としての性質を有するとともに、良好な誘電性を示すことが報告されている(非特許文献3、4参照)。すなわち、ニオブ酸リチウムは、上記リチウムイオン伝導体としての性質だけでなく、誘電体としての性質も有するため、被覆層20(誘電体)の持つ分極効果によって、リチウム金属複合酸化物粉末10と被覆層20との界面でのリチウム挿入脱離が促進され、正極活物質PAを用いた二次電池の出力特性が大幅に向上すると考えられる。」
(カ)「【0035】
(2)リチウム金属複合酸化物粉末
(粒子形状)
リチウム金属複合酸化物粉末10は、図1に示すように、一次粒子1および複数の一次粒子1が凝集して形成される二次粒子2の少なくとも一方からなる。このような粒子形状を有する場合、電解液との接触面積が多くなり、出力特性の向上に有利である。リチウム金属複合酸化物粉末10は、二次粒子2のみから構成されてもよく、単独の一次粒子1のみから構成されてもよく、二次粒子2と単独の一次粒子1の両方から構成されてもよい。また、リチウム金属複合酸化物粉末10は、二次粒子2を主成分として含み、少量の単独の一次粒子1を含んでもよい。
・・・
【0037】
(組成式)
リチウム金属複合酸化物粉末10は、層状の結晶構造を有することができ、例えば、一般式(1):LizNi1-x-y-tCoxAlyMtO2+α(ただし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素であり、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0≦t≦0.1、0.97≦z≦1.20、-0.1≦α≦0.1を満たす。)で表され、一般式(2):LizNi1-x-yCoxAlyO2(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表されることが好ましい。」
(キ)「【0050】
正極活物質の製造方法は、図2に示すように、撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、ニオブアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧すること(ステップS10)と、加熱処理すること(ステップS20)とを備える。以下、各ステップについて、説明する。
【0051】
(ステップS10)
まず、撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、ニオブアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧する(ステップS10)。
・・・
【0059】
(加熱処理:ステップS20)
次いで、アルコキシド溶液を噴霧した後のリチウム金属複合酸化物粉末を加熱処理する(ステップS20)。ニオブとリチウムとを含むアルコキシド溶液をリチウム金属複合酸化物粉末に噴霧したのみの状態では、リチウム金属複合酸化物粉末の表面にカーボンが残り易くなり、正極の界面抵抗を増大させる要因となり得る。そのため、加熱処理をしてアルコキシド溶液中の金属アルコキシドを熱分解させる。
【0060】
加熱処理の温度は、例えば、250℃以上450℃以下の範囲とすることができ、300℃以上400℃以下の範囲が好ましく、350℃以上400℃以下の範囲がより好ましい。加熱処理の温度が上記範囲である場合、二次電池に用いられたときに、正極の界面抵抗が低減され、かつ、耐久性に優れる正極活物質を得ることができる。
【0061】
加熱処理の時間は、例えば、0.5時間以上とすることができ、1時間以上であることが好ましい。加熱時間の上限は特に限定されないが、例えば、12時間以下である。」
(ク)「【0091】
(実施例1)
母材として、ニッケルを主成分とする酸化物と水酸化リチウムを混合して焼成する公知の技術で得られたLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウム金属複合酸化物粉末を用いた。母材の比表面積は、0.3m2/gであった。なお、リチウム金属複合酸化物粉末の組成はICP法により評価した。
【0092】
2.1gのLiと、99gのニオブペンタエトキシド(Nb(OC2H5)5)とを、977gの無水エタノールに溶解して、アルコキシド溶液を作製した。上記リチウム金属複合酸化物粉末1.5kgを、転動流動装置を用いて、十分に撹拌しながら、作製したアルコキシド溶液を、リチウム金属複合酸化物粉末表面に噴霧し表面処理を行なった。その後、酸素雰囲気下で、400℃で1時間加熱処理を行ない、正極活物質を得た。
【0093】
得られた正極活物質中の組成、及び、Nbの含有量をICP法により分析したところ、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムの原子数の合計に対して2.0原子%の組成であることを確認した。正極活物質の表面に被覆されたNbを含む化合物の形態をXRDで分析したところ、LiNbO3が形成されていることを確認した。また、得られた正極活物質を用いて、電池特性を評価した。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。」
ウ 参考資料1に記載された事項
(ア)「請求の範囲
[請求項1] リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
炭酸リチウムと下記式(1)中のLi以外の金属元素をそれぞれ含む化合物とを下記式(1)の組成式の金属成分比になるように秤量し混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を焼成して下記式(1)で表されるリチウム複合化合物を得る焼成工程と、を有し、
前記焼成工程は、
前記混合物を200℃以上かつ400℃以下の熱処理温度で0.5時間以上かつ5時間以下に亘って熱処理することで第1前駆体を得る第1前駆体形成工程と、
前記第1前駆体を450℃以上かつ800℃以下の熱処理温度で0.5時間以上かつ50時間以下に亘って酸化性雰囲気下で熱処理して炭酸リチウムの92質量%以上を反応させて第2前駆体を得る第2前駆体形成工程と、
前記第2前駆体を755℃以上かつ900℃以下の熱処理温度で0.5時間以上かつ50時間以下に亘って酸化性雰囲気下で熱処理することで前記リチウム複合化合物を得る仕上熱処理工程と、を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
LiαNixCoyM11-x-y-zM2zO2+β …(1)
ただし、前記式(1)中、0.97≦α≦1.08、-0.1≦β≦0.1、0.7<x≦0.9、0.03≦y≦0.3、0≦z≦0.1、0<1-x-y-zを満たす数であり、M1は、Mn、Alより選択される少なくとも1種の元素であり、M2は、Mg、Ti、Zr、Mo、Nbより選択される少なくとも1種の元素である。」
(イ)「[0035] さらに、M1がMnである場合に、Mnの含有率を示す1-x-y-zを0.04以上とすることで、正極活物質の結晶子径及び一次粒子径が大きくても充放電反応が可能になり、仕上熱処理工程での熱処理温度を高温にすることができる。その結果、仕上熱処理工程におけるNi酸化反応が促進されて、表面に残留するリチウム化合物を抑制することができ、かつ、層状構造内のリチウムイオンも安定となる。
・・・
[0137] 以下の表1に、実施例1から実施例18、及び、比較例1から比較例3の正極活物質の組成式、第2前駆体形成工程の熱処理温度、仕上熱処理工程の熱処理温度、及び水洗-乾燥工程の有無を示す。なお、XRD測定の結果、実施例1から実施例18、及び、比較例1から比較例3では、α-NaFeO2型層状構造に対応した回折パターンが得られた。
[0138]
[表1]
[図:0001405798000002.jpg]
・・・
[0148] また、以下の表4に、実施例1から実施例18、及び、比較例1から比較例3の正極活物質の結晶子径、a軸の格子定数、及びc軸の格子定数を示す。
[0149]
[表4]
[図:0001405798000003.jpg]
[0150] 表4において、結晶子径は、正極活物質における粒成長の度合いを示している。前記式(1)で示される正極活物質の組成中のMnの比率(1-x-y-z)が0より大、より好ましくは0.05≦(1-x-y-z)≦0.18であれば、正極活物質中の結晶粒が粒成長しても、充放電することができる。また、格子定数は、正極活物質が正しく製造されていることを示している。」
(2)甲1及び甲2に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1の上記(1)ア(ア)の、非水系電解質二次電池用正極活物質に係る[請求項1]を引用する[請求項3]の記載を、リチウムニッケルマンガン複合酸化物に着目して整理すると共に、同(イ)の[0017]の記載によれば、甲1の「非水系電解質二次電池」は、「リチウム二次電池」であるといえるものであることを考慮すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「リチウム二次電池用正極活物質に用いられる、複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物であって、
前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+γ(前記一般式(1)中、Mは、Co、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.60、0≦b≦0.60、0.0003≦c≦0.03、0.95≦d≦1.20、0≦γ≦0.5である。)で表され、前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物中のニオブの少なくとも一部が、前記一次粒子に固溶し、かつ、前記一次粒子内の平均ニオブ濃度に対して、前記一次粒子内の最大ニオブ濃度が1倍以上3倍以下であり、前記一次粒子表面の少なくとも一部に、リチウムとニオブとを含む化合物が存在する、リチウムニッケルマンガン複合酸化物。」
イ 甲2に記載された発明
甲2の上記(1)イ(ア)には、【請求項1】を引用する【請求項2】として、「一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する、非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
前記正極活物質は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表され、
前記被覆層は、ニオブとリチウムとを含む化合物を含有し、
前記被覆層に含まれるニオブの量が、前記非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下である、非水系電解質二次電池用正極活物質。」が記載されているといえる。
ここで、上記正極活物質は、「LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1-x-y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表され」るものとされているが、同(カ)の【0037】の記載を参照すれば、より具体的には、上記正極活物質は、リチウム金属複合酸化物粉末で構成され、その組成が、「一般式(1):LizNi1-x-y-tCoxAlyMtO2+α(ただし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素であり、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0≦t≦0.1、0.97≦z≦1.20、-0.1≦α≦0.1を満たす。)で表され」るものである。そして、被覆層に含まれる主要な元素であるニオブの量が、非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下であることを考慮すると、被覆層を考慮したとしても、非水系電解質二次電池用正極活物質全体としての材料は、リチウム金属複合酸化物として把握することができるものであるといえる。また、同(イ)の記載によれば、甲2の「非水系電解質二次電池」は、「リチウム二次電池」であるといえる。
これらを考慮し、上述の請求項1を引用する請求項2の記載を、リチウム金属複合酸化物に着目して記載を整理すると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する、リチウム二次電池用正極活物質に用いられるリチウム金属複合酸化物であって、
前記リチウム金属複合酸化物粉末の組成は、一般式(1):LizNi1-x-y-tCoxAlyMtO2+α(ただし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素であり、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0≦t≦0.1、0.97≦z≦1.20、-0.1≦α≦0.1を満たす。)で表され、
前記被覆層は、ニオブとリチウムとを含む化合物を含有し、
前記被覆層に含まれるニオブの量が、前記非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下である、リチウム二次電池用正極活物質に用いられるリチウム金属複合酸化物。」
(3)取消理由1について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
a 甲1発明の「リチウム二次電池用正極活物質に用いられる」「リチウムニッケルマンガン複合酸化物」について、甲1発明の「リチウムニッケルマンガン複合酸化物」は、本件発明1の「リチウム複合酸化物」に相当する。また、例えば、甲2の上記(1)イ(イ)の【0003】に「リチウムイオン二次電池は、負極および正極の活物質に、リチウムが脱離および挿入できる材料が用いられている。」との記載があり、ここでのリチウムの「脱離および挿入」は、リチウムの「放出および吸蔵」といえることが明らかであるように、リチウムイオン二次電池の正極活物質がリチウムを吸蔵および放出するものであることは技術的な常識であるから、甲1発明の「リチウム二次電池用正極活物質に用いられる、複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物」は、本件発明1の「リチウムの吸蔵および放出が可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム複合酸化物」に相当する。
b 甲1発明の「一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+γ」で表される「リチウムニッケルマンガン複合酸化物」である「一次粒子」として、甲1の上記(1)ア(カ)の[0134]及び同(キ)の[0141]の[表1]に、例えば実施例11として、一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+γであって、MがCoであり、d:1.02、1-a-b-c:0.783、a:0.094、b:0.098、c:0:025であるものが記載されているところ、この「リチウムニッケルマンガン複合酸化物」は、本件発明1の化学式1で表されるリチウム複合酸化物に含まれるものであるから、甲1発明の「一般式(1):LidNi1-a-b-cMnaMbNbcO2+γ」で表される「リチウムニッケルマンガン複合酸化物」である「一次粒子」は、本件発明1の「下記の化学式1 LiwNi1-(x+y+z+z+z’)CoxM1yM2zNbz’O2(化学式1)(化学式1中、M1は・・・である。)で表され」る「一次粒子」に相当する。
c 甲1発明において、「一次粒子表面の少なくとも一部に、リチウムとニオブとを含む化合物が存在する」との記載において、このリチウムとニオブとを含む化合物は、甲1の上記(1)ア(キ)の[0141]の[表1]の記載によれば、「Li3NbO4」、「LiNbO3」として表されるものであり、これらは「ニオビウム(Nb)含有酸化物」に相当する。また、「一次粒子表面の少なくとも一部に、リチウムとニオブとを含む化合物が存在」すれば、この化合物は、一次粒子間の界面や二次粒子の表面に存在することになるといえるから、甲1発明において、「一次粒子表面の少なくとも一部に、リチウムとニオブとを含む化合物が存在する」ことは、本件発明1において、「前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在」することに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「リチウムの吸蔵および放出が可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム複合酸化物であって、前記一次粒子は、下記の化学式1 LiwNi1-(x+y+z+z+z’)CoxM1yM2zNbz’O2(化学式1)(化学式1中、M1は・・・である。)で表され、前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在する、リチウム複合酸化物。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
リチウム複合酸化物において、本件発明1では、X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さ(以下、単に「c軸の長さ」ということがある。)が14.189Å以上14.211Å以下であるのに対し、甲1発明では、「c軸の長さ」が明らかでない点。
<相違点2>
本件発明1では、一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)は、0.40nm以上であり、(400)面の面間距離(d2)は、0.30nm以下であり、d1>d2 (関係式1)を満たしているのに対し、甲1発明では、それらの点が明らかでない点。
(イ)判断
まず、上記相違点1について、以下検討する。
a 甲1には、「c軸の長さ」に関し何らの記載もないし、甲1の記載から「c軸の長さ」を想起し得るような示唆もない。
ここで、本件明細書の【0086】の「前記リチウム複合酸化物ニオビウム(Nb)ドープ量が不十分な場合、前記リチウム複合酸化物のX線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さは、14.177Å以下になり得る。この場合、前記リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果が不足することがあり、ひいては、正極活物質のリチウムイオン伝導性の増加効果が極めて少ないことがある。」との記載、【0087】の「反面、前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部にニオビウムが存在する代わりに、前記リチウム複合酸化物内ニオビウム(Nb)ドープ量のみが増加する場合、X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さは、14.218Åを超過することができる。この場合、前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部に存在するニオビウム酸化物またはリチウムニオビウム酸化物により副反応を抑制させる効果が不足なことがある。」との記載によれば、「c軸の長さ」が14.189Å以上14.211Å以下であることは、一次粒子間の界面および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にニオビウム酸化物またはリチウムニオビウム酸化物が存在することに加え、リチウム複合酸化物(一次粒子)にニオビウムが、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果、ひいては、正極活物質のリチウムイオン伝導性の増加効果を得るのに十分な量ドープされていることを規定しているといえる。
一方、甲1発明は、甲1の上記(1)(イ)及び同(ウ)の記載によれば、非水系電解質二次電池の電池材料は、例えば、電池内部が短絡した際には急激な電流による発熱が生じることから、より高い熱安定性が要求されるところ、短絡による急激な電流を抑制する方法の一つとして、正極活物質の導電性を低くすることが有効であると考えられるが、通常、正極活物質の導電率は高いほど充放電容量や出力特性といった電池特性が良化する傾向にあるため、高い電池特性と低い導電性の両立は困難であった([0017])。このような事情のもと、甲1発明は、エネルギー密度及び出力特性と、短絡時の熱安定性とを高い次元で両立させた非水系電解質二次電池が得られる正極活物質を提供することを目的とし([0018])、この目的を、特定量のマンガンを含むリチウムニッケルマンガン複合酸化物に、特定量のニオブを添加することにより、電池特性の向上と、導電率の低下による短絡時の高い熱安定性との両立を図ったものである([0019])。そして、一般式(1)において、Nbの含有量を示すcの範囲は、0.0003≦c≦0.03とすることにより、十分な導電率の低減効果が得られるとともに、二次電池の正極に用いた際に正極抵抗が低下して高い電池容量を得ることができるものである([0037])。
以上によれば、甲1発明は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物へのニオブの添加について、十分な導電率の低減効果と正極抵抗の低下を求めるものであって、本件発明1のように、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果を求めるものではないから、甲1発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物に対するニオブの添加量(ドープ量)は、本願発明1のリチウム複合酸化物へのニオビウムのドープ量と同じであるとはいえないし、甲1発明において、リチウムニッケルマンガン複合酸化物に対するニオブの添加目的が、本件発明1と異なる以上、その添加量を本願発明1のリチウム複合酸化物へのニオビウムのドープ量と同じにする動機付けが甲1にあるとはいえない。
そうすると、甲1発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物に対するニオブの添加量(ドープ量)は、本件発明1のリチウム複合酸化物へのニオビウムのドープ量と同じであるとはいえないし、また、本願発明1のリチウム複合酸化物へのニオビウムのドープ量と同じにする動機付けもないのであるから、一次粒子間の界面および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にニオビウム酸化物またはリチウムニオビウム酸化物が存在することに加え、リチウム複合酸化物(一次粒子)内にニオビウムが、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果、ひいては、正極活物質のリチウムイオン伝導性の増加効果を得るのに十分な量ドープされていること規定しているといえる、本件発明1の「c軸の長さ」の範囲について、甲1発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物の「c軸の長さ」がその範囲内にあるということはできないし、またその範囲にすることが当業者にとり容易に想到し得るものであるということもできない。
b 参考資料1には、同資料の上記(1)ウ(ア)、同(イ)の記載によれば、下記式(1)
「LiαNixCoyM11-x-y-zM2zO2+β …(1) ただし、前記式(1)中、0.97≦α≦1.08、-0.1≦β≦0.1、0.7<x≦0.9、0.03≦y≦0.3、0≦z≦0.1、0<1-x-y-zを満たす数であり、M1は、Mn、Alより選択される少なくとも1種の元素であり、M2は、Mg、Ti、Zr、Mo、Nbより選択される少なくとも1種の元素である」で表されるリチウム複合化合物([請求項1])に含まれる、実施例1~18の正極活物質([0138][表1])について、c軸の格子定数が示され、その数値が、本件発明1の「c軸の長さの」範囲内にあるものが記載されている([0149][表4])。
しかしながら、c軸の格子定数が示されている化合物([0138][表1])は、いずれもNbを含むものではなく、Nbをどの程度含有した場合「c軸の長さ」がどのような値になるのかを示すものではないから、そもそも、甲1発明に、一次粒子間の界面および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にニオビウム酸化物またはリチウムニオビウム酸化物が存在することに加え、リチウム複合酸化物(一次粒子)内にニオビウムが、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果、ひいては、正極活物質のリチウムイオン伝導性の増加効果を得るのに十分な量ドープされていること規定しているといえる「c軸の長さ」の範囲を適用しようとする動機付けはないのであるが、仮に、甲1発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物の「c軸の長さ」について当業者が着目したとしても、何ら参考となるものではない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、上記相違点1は、実質的な相違点であると共に、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、また甲1発明及び参考資料1に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
イ 本件発明4~8、10について
本件発明4~8、10は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明4~8、10は、甲1発明ではないし、甲1発明及び参考資料1に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(4)取消理由2について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
a 甲2発明の「リチウム二次電池用正極活物質に用いられるリチウム金属複合酸化物」について、甲2発明の「リチウム金属複合酸化物」は、本件発明1の「リチウム複合酸化物」に相当する。そして、例えば、甲2の上記(1)イ(イ)の【0003】に「リチウムイオン二次電池は、負極および正極の活物質に、リチウムが脱離および挿入できる材料が用いられている。」との記載があり、ここでのリチウムの「脱離および挿入」は、リチウムの「放出および吸蔵」といえることが明らかであるように、リチウム二次電池の正極活物質がリチウムを吸蔵および放出するものであることは技術的な常識である。また、甲2発明の「一次粒子」及び「二次粒子」は、それぞれ被覆層を含めたとしても、「一次粒子」及び「二次粒子」と見ることができるものであるから、甲2発明の「一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する、リチウム二次電池用正極活物質に用いられるリチウム金属複合酸化物」は、本件発明1の「リチウムの吸蔵および放出が可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム複合酸化物」に相当する。
b 甲2発明の「一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末」は、少なくとも「一次粒子」を含むものであるといえると共に、この「一次粒子」は、被覆層を考慮しなければ、「一般式(1):LizNi1-x-y-tCoxAlyMtO2+α(ただし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素であり、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0≦t≦0.1、0.97≦z≦1.20、-0.1≦α≦0.1を満たす。)で表され」るものである。そして、被覆層を含めた一次粒子を考慮すると、被覆層に含まれるニオブの量は、非水系電解質二次電池用正極活物質(リチウム金属複合酸化物)に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下である。また、被覆層に含まれるリチウムは、甲2の上記(1)イ(オ)の【0030】及び【0031】の記載によれば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3、Li3NbO4)として含まれるものであるといえるところ、ニオブの量が、Ni、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下程度であることを考慮すると、被覆層に含まれるリチウムの量は、一次粒子に含まれるリチウムの量に対して、それほどの影響を与えるものではないといえる。
そうすると、甲2発明の「ニオブとリチウムとを含む化合物を含有し、前記被覆層に含まれるニオブの量が、前記非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下である」被覆層と、「一般式(1):LizNi1-x-y-tCoxAlyMtO2+α(ただし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素であり、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0≦t≦0.1、0.97≦z≦1.20、-0.1≦α≦0.1を満たす。)で表され」るリチウム金属酸化物粉末を含む「一次粒子」は、本件発明1の「下記の化学式1 LiwNi1-(x+y+z+z+z’)CoxM1yM2zNbz’O2(化学式1)(化学式1中、M1は・・・である。)で表され」る「一次粒子」に相当する。
c 甲2発明において、「前記被覆層は、ニオブとリチウムとを含む化合物を含有し」との記載において、ニオブとリチウムとを含む化合物は、甲2の(1)イ(オ)の【0030】及び【0031】の記載によれば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3、Li3NbO4)で表されるものであるといえるから、本件発明1の「ニオビウム(Nb)含有酸化物」に相当する。
そうすると、甲2発明において、「一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なくとも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層」が「ニオブとリチウムとを含む化合物を含有」することは、本件発明1において、「前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在」することに相当する。
以上によれば、本件発明1と甲2発明は、「リチウムの吸蔵および放出が可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム複合酸化物であって、前記一次粒子は、下記の化学式1 LiwNi1-(x+y+z+z+z’)CoxM1yM2zNbz’O2(化学式1)(化学式1中、M1は・・・である。)で表され、前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在する、リチウム複合酸化物。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点3>
リチウム複合酸化物において、本件発明1では、c軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下であるのに対し、甲2発明では、c軸の長さが明らかでない点。
<相違点4>
本件発明1では、一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)は、0.40nm以上であり、(400)面の面間距離(d2)は、0.30nm以下であり、d1>d2 (関係式1)を満たしているのに対し、甲2発明では、それらの点が明らかでない点。
(イ)判断
まず、上記相違点3について、以下検討する。
a 甲2には、「c軸の長さ」に関し何らの記載もないし、甲2の記載から「c軸の長さ」を想起し得るような示唆もない。
ここで、上記(3)ア(イ)aで述べたように、本件発明1において、「c軸の長さ」が14.189Å以上14.211Å以下であることは、一次粒子間の界面および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にニオビウム酸化物またはリチウムニオビウム酸化物が存在することに加え、リチウム複合酸化物(一次粒子)内にニオビウムが、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果、ひいては、正極活物質のリチウムイオン伝導性の増加効果を得るのに十分な量ドープされていることを規定しているといえる。
一方、甲2発明は、「前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有」し、「前記被覆層は、ニオブとリチウムとを含む化合物を含有し、前記被覆層に含まれるニオブの量が、前記非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下であ」ることにより、甲2の上記(1)イ(エ)の【0026】の記載によれば、「正極(電極)におけるリチウムイオン伝導性や、被覆層20とリチウム金属複合酸化物粉末10との界面でのリチウム挿入脱離を向上させ、得られる二次電池の正極抵抗を大幅に低減して、出力特性を向上させるとともに、二次電池の耐久性を向上させることが可能である」ものの、リチウム金属複合酸化物粉末自体の組成は、「一般式(1):LizNi1-x-y-tCoxAlyMtO2+α(ただし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素であり、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0≦t≦0.1、0.97≦z≦1.20、-0.1≦α≦0.1を満たす。)で表され」とされるように、Nbの存在は多数の選択肢の一つにとどまるとともに、甲2の同(ク)の(実施例1)等の記載を見ても、リチウム金属複合酸化物粉末(被覆層の内部)におけるNbのドープ量については何ら着目されていない。
以上によれば、甲2発明には、リチウム金属複合酸化物粉末(被覆層の内部)でのNbのドープ量を所定の値にしようとする意図がないのであるから、Nbの添加量を本件発明1のリチウム複合酸化物へのニオビウムのドープ量と同じであるとはいえないし、さらには、一次粒子間の界面および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にニオビウム酸化物またはリチウムニオビウム酸化物が存在することに加え、リチウム複合酸化物(一次粒子)内にニオビウムが、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果、ひいては、正極活物質のリチウムイオン伝導性の増加効果を得るのに十分な量ドープされていることを規定しているといえる、本件発明1の「c軸の長さ」の範囲について、甲2発明のリチウム金属複合酸化物の「c軸の長さ」がその範囲内にあるということはできないし、またその範囲にすることが当業者にとり容易に想到し得るものであるということもできない。
b 参考資料1について、上記(3)ア(イ)bで述べたのと同様に、そもそも、甲2発明に、「c軸の長さ」の範囲を適用しようとする動機付けはないのであるが、仮に、甲2発明のリチウム金属複合酸化物の「c軸の長さ」について当業者が着目したとしても、参考資料1は、何ら参考となるものではない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、上記相違点3は、実質的な相違点であると共に、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点4を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではないし、また甲2発明及び参考資料1に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
イ 本件発明4~8、10について
本件発明4~8、10は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明4~8、10は、甲2発明ではないし、甲2発明及び参考資料1に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(5)令和5年8月24日に提出された意見書における異議申立人の主張について
ア 上記意見書における異議申立人の主張の内容(意見書3(1))
異議申立人は、「「X線回折のリートベルト(Rietvelt)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である」という事項は、「一次粒子の粒界および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にNbが存在することを確認することができ、特に一次粒子の内部にもNbが一部ドープされたことを確認することができる」(同段落0144)という粒子構造を表現している」ということを前提とした上で、
参考資料1の上記(1)ウ(ア)に記載される「LiαNixCoyM11-x-y-zM2zO2+β …(1)」において、同(イ)の[0035]の「M1がMnである場合に、Mnの含有率を示す1-x-y-zを0.04以上とすることで、正極活物質の結晶子径及び一次粒子径が大きくても充放電反応が可能になり、仕上熱処理工程での熱処理温度を高温にすることができる。」との記載、及び同(イ)の[0138][表1]、[0149][表4]において、Nbを含まないものの、Mn量が0.05~0.10と比較的大きい系では、熱処理温度を755℃~880℃と高くした場合でも、c軸の格子定数が14.17Å~14.23Å程度となり、多くの実施例(実施例2、7、10~14、16~18)において、「14.189Å以上14.211Å以下」となっていること、同(ウ)の[0150]の「格子定数は、正極活物質が正しく製造されていることを示している」との記載を参照すると、
Mn量が0,094と比較的多い系に属しており、焼成温度も870℃であり、かつ、「一次粒子の粒界および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にNbが存在することを確認することができ、特に一次粒子の内部にもNbが一部ドープされたことを確認することができる」という条件も具備している甲1発明の実施例11のリチウム複合酸化物は、「X線回折のリートベルト(Rietvelt)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である」蓋然性が高いというべきである。
また、甲1発明において、参考文献1を参照して、「X線回折のリートベルト(Rietvelt)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下」程度とすることは、当業者が容易になし得ることであるといえる。
イ 上記アの主張に対する判断
上記(3)ア(イ)aで述べたように、「c軸の長さ」が14.189Å以上14.211Å以下であることは、一次粒子間の界面および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にニオビウム酸化物またはリチウムニオビウム酸化物が存在することに加え、リチウム複合酸化物(一次粒子)内にニオビウムが、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果、ひいては、正極活物質のリチウムイオン伝導性の増加効果を得るのに十分な量ドープされていることを規定しているといえる。すなわち、一次粒子内に単にニオビウムがドープされているということだけでなく、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果を発揮する範囲の量でドープされていることを意味しているといえる。
そうすると、上記アの主張の前提となる、本件発明1の「c軸の長さ」の範囲は、「一次粒子の粒界および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にNbが存在することを確認することができ、特に一次粒子の内部にもNbが一部ドープされたことを確認することができるという粒子構造を表現している」との主張が正しいとはいえない。
また、上記(3)ア(イ)bで述べたように、参考資料1に記載され、c軸の格子定数が示されている化合物([0138][表1])は、いずれもNbを含むものではなく、化合物が甲1発明のものと異なるのであるから、参考資料1のc軸の格子定数が示されている化合物を参照しても、甲1発明のリチウムニッケルマンガン複合酸化物の「c軸の長さ」等の物性を同定することはできないし、同bで述べたように、仮に、甲1発明のリチウム金属複合酸化物の「c軸の長さ」に当業者が着目したとしても、参考資料1は、何ら参考となるものではないから、当業者が参考資料1に記載の事項に接したとしても、甲1発明において、「c軸の長さ」を「14.189Å以上14.211Å以下」程度とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
以上のとおりであるから、上記アの異議申立人の主張は、採用することができない。
(6)取消理由1及び2に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1、4~8、10は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものではないから、取消理由1及び2には、理由がない。
2 取消理由3及び申立理由2(明確性要件違反)について
(1)取消理由3について
ア 取消理由3の内容
(ア)請求項1について
訂正前の請求項1には、「LiwNi1-(x+y+z+z’)CoxM1yM2zNbz’O2」で表される化学式1について、「化学式1中、M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、M2は、P・・・Cuから選ばれる少なくとも1つであり、M1とM2は、互いに異なる元素であり、0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦z’≦0.20であり、x+y+z+z’≦40である。)で表され」と記載されているが、Niの含有量を考慮すると、x、y、z及びz’の合計が1以上となることはないから、請求項1の「x+y+z+z’≦40である」との記載は、不明確である。
訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~10の記載も同様である。
(イ)請求項7について
訂正前の請求項7には、「前記第1コーティング層は、下記の化学式2で表される酸化物をさらに含む、請求項76に記載のリチウム複合酸化物。」との記載があるが、請求項76はないから、請求項7の上記の記載は、不明確である。
請求項7を直接的に引用する請求項10の記載も同様である。
イ 取消理由3に対する判断
(ア)上記ア(ア)及び(イ)について
本件訂正により、訂正前の請求項1の「x+y+z+z’≦40」は、「x+y+z+z’≦0.40」と訂正されることにより、x+y+z+z’の合計がモル比を表す1未満の数値となり、化学式1の「Ni1-(x+y+z+z’)」で表されるNiの含有量とも整合するものとなったから、訂正後の請求項1の記載には、上記ア(ア)の点での不明確な点はない。
訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4~8、10の記載も同様である。
また、同じく本件訂正により、訂正前の請求項7の「請求項76に記載のリチウム複合酸化物」は、「請求項6に記載のリチウム複合酸化物」と訂正されることにより、訂正前の請求項7が引用している「前記第1コーティング層」が唯一記載されている請求項6を引用することが明確になったから、訂正後の請求項7の記載には、上記ア(イ)の点での不明確な点はない。
訂正前の請求項7を直接的に引用する請求項10の記載も同様である。
(2)申立理由2について
ア 申立理由2の内容
本件明細書の表1における比較例1~4のd2の値は、それぞれ0.4785、0.4805、0.4780、0.4804である。そして、比較例2を除き、比較例1、3及び4において、d1<d2となっていることの対比において、d1>d2という訂正前の本件発明1の特徴である発明特定事項が導かれたものと考えられる。
しかしながら、比較例1~4においては、一次粒子間の界面に結晶が存在しないにもかかわらず、「一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離(d2)」が導き出されていることになる。
したがって、訂正前の本件発明1の発明特定事項は、本来得られるはずのない比較例1~4におけるd2の誤った値との比較により得られたものであるから、その誤った値との比較により得られた訂正前の本件発明1の「前記一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)と前記一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離(d2)は、下記の関係式1を満たす、リチウム複合酸化物。d1>d2 (関係式1)」には、技術的な欠陥があるため、訂正前の本件発明1及び訂正前の本件発明1を引用する本件発明2~10は、不明確である(特許異議申立書28頁21行~31頁7行)。
イ 申立理由2に対する判断
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるところ、異議申立人が主張するように、本件明細書の【0142】【表1】における比較例1~4のd2の数値が不明確であるとしても、本件訂正後の請求項1及び本件訂正後の請求項1を引用する請求項4~8、10の記載自体に不明確なところはなく、また上記アの内容も、請求項1の記載における不明確な点を述べるものではないから、本件訂正後の請求項1及び本件訂正後の請求項1を引用する請求項4~8、10の記載を明確ではないとすることはできない。
そうすると、上記アの内容は、本件訂正後の請求項1及び本件訂正後の請求項1を引用する請求項4~8、10の明確性の判断を左右するものではないが、異議申立人の主張する理由を以下、一応検討する。
異議申立人が、特許異議申立書16頁22行~18頁13行で述べているように、本件発明1における「d1>d2(関係式1)」において、一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)を考える際に、一次粒子内の結晶構造として、本件発明1の化学式1が属するといえるリチウムニッケル酸化物(LiNiO2:六方晶系)における(003)面の面間距離を考慮すると共に、本件発明1で特定されているように、一次粒子間に、本件明細書の【0047】に記載されるLi3NbO4(立方晶系)、LiNbO3(三方晶系)等のニオビウム(Nb)含有酸化物が存在するものとして、これらの化合物の(400)面の面間距離を考えれば「d1>d2」の関係があることが理解できる。逆にいえば、「d1>d2」の関係式1により、少なくとも、本件発明1における化学式1によって表され、六方晶系であるリチウムニッケル酸化物の一次粒子が存在すると共に、一次粒子間の界面内結晶として、ニオビウム(Nb)含有酸化物の存在を理解できるといえる。
そうすると、「d1>d2 (関係式1)」に、異議申立人が主張するような技術的な欠陥があるとはいえない。
(3)取消理由3及び申立理由2に関するまとめ
以上のとおり、本件特許は、請求項1、4~8、10の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、取消理由3及び申立理由2には、理由がない。
3 取消理由4及び申立理由1(サポート要件違反)について
(1)取消理由4について
ア 取消理由4の内容
(ア)サポート要件に適合しているか否かの判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(イ)本件発明の課題
本件発明の課題は、【発明が解決しようとする課題】の後の【0013】に本発明の目的として記載されている「リチウム二次電池用正極活物質としての安定性と電気的特性を同時に向上させることが可能な正極活物質用リチウム複合酸化物を提供すること」であるといえる。
(ウ)本件発明の課題に対応する本件明細書の記載
上記(イ)の発明の課題に対応して、本件明細書の【0032】、【0033】の記載では、正極活物質としてリチウム複合酸化物に含まれた一次粒子間の界面および二次粒子の表面等のように電解液に露出する領域は、正極活物質と電解液の副反応が起こり得る領域であり、正極活物質と電解液の副反応が起こる場合、正極活物質に起因したガス発生によってリチウム二次電池の電気的特性が低下すると共に、安定性が急激に低下し得る(【0032】)のに対し、本発明によるリチウム複合酸化物は、一次粒子間の界面および二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在し、一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)が、一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離(d2)より大きい(関係式(1)で表される。)ように形成されることによって、リチウム複合酸化物の結晶構造を安定化させることが可能であり、また、これを通じて、リチウム複合酸化物に含まれた一次粒子の間における副反応を抑制することが可能であるとされている(【0033】)。ここで、d1とd2については、同【0054】では、d1は、0.40nm以上、好ましくは、0.45nm以上であり、d2は、0.30nm以下、好ましくは、0.25nm以下でありうるとされている。
そして、同【0121】~【0166】には、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、ニオブ及び他の特定の金属を含むリチウム複合酸化物である実施例1~6(【0121】~【0130】)が、同様の組成を有する比較例1~4(【0131】~【0134】)との違いでいえば、d1-d2が、0.2753~0.2757で、一次粒子のc軸長さが、14.189~14.211Åの場合には、上記(イ)の発明の課題におけるリチウム二次電池用正極活物質としての「安定性」及び「電気的特性」にそれぞれ対応する指標である「容量維持率(%)」や「寿命後の抵抗(Ω)」(【表4】)及び「充放電効率(%)」(【表3】)が、比較例1~4に対して良好な結果を示すことが記載され、これによれば、少なくとも、実施例1~6は、上記(イ)の発明の課題を解決するものであることが実証されている。
一方で、d1とd2の関係と上記(イ)の発明の課題におけるリチウム二次電池用正極活物質としての安定性及び電気的特性との間の関係は、上述の同【0033】等に、一次粒子間の界面および二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在し、d1が、d2より大きい(関係式(1)で表される。)ように形成されることによって、リチウム複合酸化物の結晶構造を安定化させることが可能であり、また、これを通じて、リチウム複合酸化物に含まれた一次粒子の間における副反応を抑制することが可能であるとの記載はあるものの、d1がd2より大きければ、何故、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化され、リチウム二次電池用正極活物質としての安定性及び電気的特性が向上するのかを示す作用機序、及び一次粒子間の界面および二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在することと、d1及びd2との間の関係が本件明細書で明らかにされておらず、一次粒子間の界面および二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在しさえさえすれば、リチウム二次電池用正極活物質としての安定性及び電気的特性が向上するのかも明らかでない。
さらに、同【0149】の「比較例1および比較例4の場合、一次粒子のc軸長さが実施例1に比べて短いことを確認することができる。このようなc軸長さの差異は、比較例1および比較例4によるリチウム複合酸化物の一次粒子内ニオビウム(Nb)のドープ量が、実施例1によるリチウム複合酸化物の一次粒子より不足していることを示す。」との記載によれば、上記(1)の発明の課題を解決するには、リチウム複合酸化物の一次粒子にも所定量のニオブが含まれている必要があることが理解できる。
加えて、同【0132】に記載される比較例2は、d1-d2が0.0005であり(【表1】)、本件発明1の関係式1を満たすにもかかわらず、「比較例」とされると共に、【表3】及び【表4】における、「容量維持率(%)」や「寿命後の抵抗(Ω)」(【表4】)及び「充放電効率(%)(【表3】)」の評価も、実施例1~6に比べて劣ったものといる。また、d1及びd2の値は、リチウム複合酸化物の組成により変化するものであり、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、ニオブを少なくとも含むリチウム複合酸化物以外のリチウム複合酸化物であっても、d1及びd2の関係が成立すれば、リチウム二次電池用正極活物質としての安定性及び電気的特性が向上するのかも、本件明細書では明らかでない。
以上を踏まえると、上記(イ)の発明の課題を解決するには、d1及びd2が関係式1を満たすだけでは十分ではなく、まず、d1及びd2の関係を導く前提として、リチウム複合酸化物が、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、ニオブを少なくとも含むものであること、実施例と比較例(特に比較例2)の差異を考慮すると、d1は、0.40nm以上、d2は、0.30nm以下であること、ニオブが一次粒子内部に存在することを定量的に特定しているといえる一次粒子のc軸長さが、14.189~14.211Åであることが肝要であるといえる。
(エ)特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比
上記(ウ)で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記(イ)の発明の課題を解決するには、リチウム複合酸化物が、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、ニオブを少なくとも含むものであること、d1は、0.40nm以上、d2は、0.30nm以下であること、一次粒子のc軸長さが、14.189~14.211Åであることが肝要であると理解されるところ、訂正前の本件発明では、化学式1において、マンガンが必須の元素として特定されていない(ニオブについても、「0≦z’≦0.20」とされ0を含むものとなっている。)し、d1が、0.40nm以上、d2が、0.30nm以下であること、一次粒子の(X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られる)c軸長さが、14.189~14.211Åであることは特定されていない。
そうすると、訂正前の本件発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
イ 取消理由4に対する判断
上記ア(エ)で述べたように、上記ア(イ)で述べた本件発明の課題を解決するには、訂正前の本件発明1の特定に加えて、リチウム複合酸化物が、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、ニオブを少なくとも含むものであること、d1は、0.40nm以上、d2は、0.30nm以下であること、一次粒子のc軸長さが、14.189~14.211Åであることが必要であるところ、訂正前の本件発明(本件発明1)には、これらの事項が特定されていなかったため、特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合していなかった。
これに対し、本件訂正により、請求項1の記載が、上記第3に記載した【請求項1】のように訂正されることにより、本件発明がサポート要件に適合する上で必要であった事項が、本件発明1に特定されることとなった。
そうすると、本件発明は、サポート要件に適合するものであるといえる。
(2)申立理由1について
ア 申立理由1の内容
(ア)実施例において、d1は、0.48近傍の数値のみが例示されており、それ以外において訂正前の本件発明1の作用効果が得られるとの実証は何らされておらず、d2も、0.21近傍の数値のみが例示されており、それ以外において訂正前の本件発明1の作用効果が得られるとの実証は何らされていない。
したがって、d1およびd2の関係がd1>d2を満たすだけで、d1およびd2が任意の数値であることを許容する実証はなされておらず、かつ、訂正前の本件発明1には、その作用効果を発揮しない比較例2を含むといえる。
(イ)訂正前の本件発明1は、Nb量について、「0≦z’≦0.20」と規定するのみであるが、実施例では、Nb量が3mol%の場合にのみ、本件発明1の作用効果が得られることを示しており、Nb量が1mol%の場合には、訂正前の本件発明1の作用効果は得られないとされている(比較例1、比較例4)。
したがって、z’が0.01以下の場合、また、z’が0.20と最大値とした場合を含めて、Nb量が比較的多い場合にまで、訂正前の本件発明1の作用効果を得られることについては何ら実証されていない。
よって、訂正前の本件発明1及び訂正前の本件発明1に従属する本件発明4~10は、いずれも発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、サポート要件を具備しない。
(ウ)訂正前の本件発明2及び訂正前の本件発明3は、それぞれd1の下限値及びd2の上限値を定めている。しかしながら、いずれの数値も、実施例における実証値である0.48nm及び0.21nmと乖離している。
よって、訂正前の本件発明2及び訂正前の本件発明3は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、サポート要件を具備しない。
(エ)訂正前の本件発明5は、「前記一次粒子内ニオビウム(Nb)は、前記一次粒子の表面部から前記一次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示す」ことを示すが、実施例において、その実証が何らなされていない。
よって、訂正前の本件発明5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、サポート要件を具備しない(特許異議申立書26頁23行~28頁20行)
イ 申立理由1に対する判断
上記(1)で述べたように本件発明は、サポート要件に適合するのであるから、上記ア(ア)~(エ)の主張は、本件発明がサポート要件に適合するか否かの判断を左右するものではないが、念のため以下、検討する。
(ア)上記ア(ア)及び(ウ)について
本件発明1の一次粒子は化学式1(LiwNi1-(x+y+z+z’)CoxMnyM2zNbz’O2)で表されるとおり、LiNiO2の結晶構造を前提とするものであり、Niに対する置換元素の存在等により、一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離であるd1に多少の範囲はあるとしても、任意の値をとるという数値ではない。同じく、一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離であるd2も、本件発明1では、一次粒子間の界面にニオビウム(Nb)含有酸化物が存在すること、さらには、本件明細書の【0047】には、ニオビウム(Nb)含有酸化物の具体的な構造も記載されているのであるから、任意の値をとるという数値ではない。
そうすると、実施例において、d1は、0.48近傍の数値のみが例示されており、d2も、0.21近傍の数値のみが例示されているからといって、本件発明1の作用効果が得られるとの実証が何らされていないということはない。
さらに、上記ア(ウ)では、これらの値が、訂正前の本件発明2で特定されるd1の下限値である0.40及び訂正前の本件発明3で特定されるd2の上限値である0.30と乖離していることを主張しているが、何をもって値が乖離しているといえるのか根拠が不明であるし、仮に、実施例での数値が、d1の下限値及びd2の上限値から乖離しているといえるとしても、d1及びd2が下限値又は上限値に達しない値で、本件発明の課題を解決することができないといった事情があるのであれば別であるが、単に、実施例での数値が、d1の下限値及びd2の上限値から乖離しているというだけでは、d1及びd2の範囲が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるとはいえない。
さらには、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決できる範囲と本件発明1の対比においては、本件発明1における個々の限定要素ごと対比するのではなく、本件発明1における全ての限定要素によって限定された範囲と対比すべきである。
本件発明1では、d1の下限値及びd2の上限値の限定の他に、「X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である」等の限定もあり、d1及びd2の範囲だけを考えれば、文言上ではd1及びd2の値は、d1の下限値及びd2の上限値までの値をとり得るが、例えば、「c軸の長さ」の条件を満たさない場合のd1及びd2の値は、実質的には本件発明1に含まれないことになるのであるから、異議申立人の主張は、この点での検討を欠いており、採用することはできない。
(イ)上記ア(イ)について
上記(ア)で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決できる範囲と本件発明1の対比においては、本件発明1における個々の限定要素ごと対比するのではなく、本件発明1における全ての限定要素によって限定された範囲と対比すべきである。
本件発明1では、Nb量についての「0<z’≦0.20」の限定の他に、「X線回折のリートベルト(Rietveld)解析から得られるc軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である」等の限定もあり、Nb量について、「0<z’≦0.20」の範囲だけを考えれば、文言上Nb量は、0超0.20以下の範囲をとり得るが、例えば、「c軸の長さ」の条件を満たさない場合のNbの値は、実質的に本件発明1に含まれないことになるのであるから、異議申立人の主張は、この点での検討を欠いており、採用することはできない。
また、この「c軸の長さ」は、上記1(3)ア(イ)aで述べたように、一次粒子間の界面および二次粒子の表面のうち少なくとも一部にニオビウム酸化物またはリチウムニオビウム酸化物が存在することに加え、リチウム複合酸化物(一次粒子)内にニオビウムが、リチウム複合酸化物の結晶構造の安定化効果、ひいては、正極活物質のリチウムイオン伝導性の増加効果を得るのに十分である量ドープされていること規定しているといえ、実施例の範囲に基づいて規定されたものである。
そうすると、この「c軸の長さ」は、リチウム複合酸化物のNb量に関連するものであるが、「c軸の長さ」によって比較例は、排除されているから、Nb量の「0<z’≦0.20」の限定と共に、「c軸の長さ」等の限定によって、発明の課題を解決できない場合のNb量は、本件発明1の範囲に含まれていないといえる。
(ウ)上記ア(エ)について
本件発明のリチウム複合酸化物について、例えば、本件明細書の【0121】~【0123】に記載される実施例1のリチウム複合酸化物は、以下のとおり製造されている。
「共沈法(co-precipitation method)により球形のNi0.91Co0.08Mn0.01(OH)2水酸化物前駆体を合成した(【0121】)。次に、合成された前駆体にLiOHおよびNb含有原料物質(Nb2O5)を添加した後、焼成して、リチウム複合酸化物を製造した。具体的に、前駆体にLiOHおよびNb含有原料物質(Nb2O5)を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、700℃まで分当たり1℃で昇温して10時間熱処理した後、自然冷却して、リチウム複合酸化物を得た(【0122】)。次に、得られたリチウム複合酸化物を焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、700℃まで分当たり1℃で昇温して4時間の間熱処理した後、自然冷却した(【0123】)。」
以上の製造方法によれば、球形のNi0.91Co0.08Mn0.01(OH)2水酸化物前駆体の表面に、LiOH及びNb含有原料物質(Nb2O5)が接触した状態のもとでO2雰囲気での焼成が行われるのであるから、球形のNi0.91Co0.08Mn0.01(OH)2が酸化すると共に、その過程で表面から内部に向けてLi及びNbの拡散し、リチウム複合酸化物が形成されているといえる。そして、当業者であれば、球形のNi0.91Co0.08Mn0.01(OH)2に対して、その表面からNbが拡散するのであるから、一次粒子内でNbは、一次粒子の表面部から一次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことが容易に理解できるといえる。
そうすると、本件明細書の実施例等の記載により、本件発明5における「前記一次粒子内ニオビウム(Nb)は、前記一次粒子の表面部から前記一次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示す」ことが理解できるのであるから、その状態が具体的な測定等により実証されていないとしても、本件発明5が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるということはできない。
(3)令和5年8月24日に提出された意見書における異議申立人の主張について
ア 上記意見書における異議申立人の主張の内容(意見書3(2))
(ア)訂正後の請求項1におけるLi量を示すwの値は0.5以上1.5以下と広く規定されている。しかしながら、wの全範囲において、「c軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下である」という要件を具備できるとはいえない。
(イ)訂正後の請求項1におけるMn量を示す、yの値は0を超えて0.20以下と広く規定されている。参考資料1より明らかなように、Mnの量が0.04を超える場合には、高い温度で焼成できるといえるが、同時に「正極活物質が正しく製造」されるためには、より高い焼成温度が必要とされることは当業者に周知の事項であるといえる。たとえば、Mnの量に応じで焼成温度を向上させるのみだけで、c軸の長さを上記範囲に規制できるとすれば、甲1発明も同様のc軸の長さを備えているというべきである。逆に、Mnの量が0.04を超える場合に、容易に上記c軸の長さを達成できないのであれば、当業者はc軸の長さを上記範囲とするためには試行錯誤がさらに要求されるといえる。
(ウ)訂正後の請求項1におけるNb量を示す、z’の値は0を超えて0.20以下と広く規定されている。これに対して、実施例では、Nb含有原料物質(Nb2O5)の添加量が全体組成物のうちの3mol%とした場合と、1mol%とした場合の比較のみがなされている。たとえば、z’の値が0を近傍とした場合や、z’の値が0.20近傍と多い場合にまで、本件発明の作用機序が適用可能であるということはできない。
(エ)訂正後の請求項1において、「前記一次粒子内の結晶構造中の(003)面の面間距離(d1)は、0.40nm以上であり、前記一次粒子間の界面内結晶構造中の(400)面の面間距離(d2)は、0.30nm以下である」旨が規定されているが、実施例1~6によって「c軸の長さが14,189Å以上14.211Å以下である」という要件を具備することが実証されているのは、d1が0.4804~0.4807であって、d2が0.2049~0.2051の場合だけである。したがって、d1およびd2が上記範囲を超える場合にまで、本件発明の作用機序が適用可能であるということはできない。
イ 上記アの主張に対する判断
上記アの(ア)~(エ)の主張は、本件発明1のLi量、Mn量、d1及びd2の範囲の全ての場合に「c軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下」とならなければならない((ア)、(イ)、(エ))、また、本件発明1のNb量の全ての範囲で本件発明の作用機序が適用可能でなければならない((ウ))ことを前提とするものである。
しかしながら、上記(2)イ(ア)で述べたように、サポート要件の判断における、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決できる範囲と本件発明1の対比においては、本件発明1における全ての限定要素によって相乗的に限定された本件発明1の範囲と対比することになり、ある限定要素の範囲が、他の限定要素の範囲と一致していなければならない(例えば、Li量、Mn量、d1及びd2の範囲に、「c軸の長さが14.189Å以上14.211Å以下」とならないものが含まれてはならない。)又は、本件発明1における個々の限定要素ごとに発明の課題を解決できる範囲となっていなければならない(例えば、d1が0.4804~0.4807であって、d2が0.2049~0.2051の場合でなければならない。)というものではない。仮に、本件発明1のLi量、Mn量、Nb量、d1及びd2の範囲の中で、「c軸の長さ」の条件を満たさない場合があるとしても、これらの場合は、本件発明1に含まれないだけである。
そうすると、異議申立人の上記の主張の前提が正しいとはいえないのであるから、異議申立人の上記の主張は、採用することはできない。
(4)取消理由4及び申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件特許は、請求項1、4~8、10の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、取消理由4及び申立理由1には、理由がない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1、4~8、10は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1~4及び申立理由1、2では、本件特許1、4~8、10を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、4~8、10を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許2、3、9は、本件訂正により削除され、これらの特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701132