特許異議申立
2022-701225
リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
- 審判番号
- 2022-701225
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-549122
- 登録番号
- 7083248
- 請求日
- 2022年12月12日
- 審決日
- 2023年07月13日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】佐藤 彰雄
- 【権利者代理人】加藤 広之
- 【権利者代理人】▲高▼梨 航
- 【権利者】株式会社田中化学研究所
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】佐藤 彰雄
- 【権利者代理人】加藤 広之
- 【権利者代理人】▲高▼梨 航
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】鈴木 慎吾
- 【異議申立人】竹下 瑞恵
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.121-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7083248号発明「リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7083248号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7、〔1-6、8、9〕について訂正することを認める。
特許第7083248号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許7083248号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る発明についての出願は、2016年11月4日(優先権主張 平成27年11月5日)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月2日にその特許権が設定登録され、令和4年6月10日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次のとおりである。
令和4年12月12日 :特許異議申立人竹下瑞恵による請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年2月22日付け:取消理由通知書
令和5年4月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年6月13日 :特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年4月26日の訂正請求の趣旨は、特許第7083248号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項7に「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法」とあるのを「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0268】~【0274】を削除する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0296】に
「【表1】
[図:0001403669000001.jpg]
」とあるのを、
「【表1】
[図:0001403669000002.jpg]
」
に訂正する。
(4)明細書の段落【0298】に「評価の結果、実施例1~13のリチウム二次電池用正極活物質では、いずれも、比較例1~5のリチウム二次電池用正極活物質よりも吸着水が低減されていた。」とあるのを、「評価の結果、実施例1~10、12、及び13のリチウム二次電池用正極活物質では、いずれも、比較例1~5のリチウム二次電池用正極活物質よりも吸着水が低減されていた。」に訂正する。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし6、8、9は、請求項1を引用しているものであるから、請求項1ないし6、8、9は一群の請求項を構成する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6、8、9〕及び請求項7に対して請求されたものである。
2 訂正の適否についての判断
訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項7に記載された「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法」を、「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
願書に添付した明細書の段落【0022】には「本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、・・・前記正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と前記正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下であるリチウム二次電池用正極活物質である。」と記載されているので、訂正事項は、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2ないし4
ア 訂正の目的
訂正前の明細書に記載された実施例10及び実施例11は、同じ組成及び同じ製造条件で正極活物質を製造するものであることから、発明の詳細な説明の記載が不明確になっていたものを、実施例11に関連する記載を削除することにより、発明の詳細な説明の記載を明確にするものである。
したがって、訂正事項2ないし4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2ないし4は、明細書から実施例11に関連する記載を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6、8、9〕、7について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下であり、
以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Lix(NiaCobMncMd)1-x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【請求項2】
一次粒子が凝集してなる二次粒子を含む請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)が、0.01以上2.5以下である請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズα(Å)が400以上1200以下であり、α-NaFeO2型の結晶構造を有する請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
50%累積体積粒度D50(μm)が1以上20以下であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズα(Å)と50%累積体積粒度D50(μm)との比α/D50(Å/μm)が10以上400以下である請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
BET比表面積(m2/g)が0.1以上4以下である請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、チウム二次電池用正極活物質の製造方法。
(1)反応槽内に、酸素含有雰囲気中または酸化剤存在下において、少なくともNiを含む金属塩水溶液、錯化剤、及びアルカリ水溶液を連続供給し、連続結晶成長させ、連続的に共沈物スラリーを得る工程。ただし、前記酸素含有雰囲気は反応槽内の気相中の酸素濃度(体積%)が2.0以上6.0以下である。
(2)前記共沈物スラリーをアルカリが含まれる洗浄液で洗浄して、脱水し、硫黄原子を含む金属複合化合物を単離する工程。
(3)前記金属複合化合物とリチウム化合物とを混合して得られる混合物を650℃以上1000℃以下の温度で焼成してリチウム複合金属酸化物を得る工程。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を有するリチウム二次電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して、当審が令和5年2月22日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1.(実施可能要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2.(サポート要件)本件特許は,明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
●理由1(実施可能要件)について
・請求項1ないし9
実施例10の「リチウム二次電池用正極活物質15」と実施例11の「リチウム二次電池用正極活物質16」は、ともに共通する「ニッケルコバルトマンガンアルミニウムタングステン複合水酸化物15」に、同じ量の水酸化リチウム粉末を混合した後に同じ条件で焼成したものであるが、「リチウム二次電池用正極活物質15」(実施例10)と「リチウム二次電池用正極活物質16」(実施例11)は、「正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)」、「P/Q(原子%/質量%)」及び「吸着水分量」などの値が異なっている。
そうすると、同じ組成及び同じ製造条件で正極活物質を製造しても、正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)などの特性は異なるものとなり、どのようにして請求項1ないし6に係る発明の「リチウム二次電池用正極活物質」、請求項8に係る発明の「リチウム二次電池用正極」及び請求項9に係る発明の「リチウム二次電池」を作成することができるか不明である。
また、同じ組成及び同じ製造条件で正極活物質を製造しても、正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)などの特性は異なるものとなるので、請求項7に係る発明の製造方法で作成したリチウム二次電池用正極活物質が、どのような特性を示すものか不明である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
●理由2(サポート要件)について
・請求項7
発明の詳細な説明には、リチウム二次電池用正極活物の保存安定性を良好なものとするためには、正極活物質の水分吸着を抑制すること(【0023】)、及び、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度を特定の範囲にし、かつ、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度を特定の範囲にすることで、リチウム二次電池用正極活物質の吸水量の低減が達成できることが記載されている(【0054】)。
しかしながら、請求項7には、正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)を0.8より大きく5.0未満として、Q(質量%)を0.01以上2.0以下とすることは特定されていない。
そうすると、請求項7に記載の製造方法で作成されたものは上記の課題を解決できず、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段が反映されていない。
よって、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
2 当審の判断
(1)理由1(実施可能要件)について
令和5年4月26日の訂正請求により、実施例11に関連する記載を削除することにより、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとなった。
(2)理由2(サポート要件)について
令和5年4月26日の訂正請求により、請求項7を「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法」に訂正することにより、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1
請求項1ないし9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2
請求項1ないし6、8、9に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないめ、請求項1ないし6、8、9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3
請求項1ないし6、8、9に係る発明は明確でないため、請求項1ないし6、8、9係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
証拠方法
甲第1号証:特開2015-26455号公報
甲第2号証:特開2004-273451号公報
甲第3号証:特開2015-72801号公報
2 各号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。以下同様。)
「【0018】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、一般式(1):Li1+uNixMnyCozMtO2(0≦u≦0.20、x+y+z+t=1、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.55、0≦z≦0.40、0≦t≦0.10、Mは、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、さらに、Na、Mg、CaおよびSO4を含有する、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子からなり、前記Na、MgおよびCaの含有量が合計で0.01質量%~0.1質量%であり、前記SO4の含有量が0.1質量%~1.0質量%であり、CuKα線を用いた粉末X線回折測定により得られる(104)面の回折ピークの積分強度に対する、(003)面の回折ピークの積分強度の比が、1.20以上であることを特徴とする。」
「【0047】
(SO4について)
正極活物質中に、所定量のSO4を含有させることにより、焼成工程におけるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(以下、「リチウム複合酸化物」という)のa軸方向の結晶成長を抑制することができるため、後述する結晶面の回折ピークの積分強度比Ii(003)/Ii(104)の制御が容易となる。」
「【0050】
本発明の正極活物質のような六方晶系層状酸化物では、充放電に伴うLiの挿入および脱離は、a面で起こることが知られている。このため、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性を改善するためには、リチウムイオンの拡散距離を短くするか、または、結晶の反応面であるa面の面積を大きくすることが有利となる。これらのうち、低SOC状態におけるDCIRの改善をするためには、a面の面積を大きくすることが特に効果的である。」
「【0153】
(実施例1)
[晶析工程]
最初に、反応槽(5L)内に水を入れて撹拌しながら、槽内温度を45℃に調整した後、25質量%アンモニア溶液と24質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、槽内のアンモニア濃度が10g/L、液温25℃基準におけるpH値が11.6になるように調整した。
・・・
【0160】
[正極活物質の評価]
この正極活物質について、X線回折装置(パナリティカル社製、X’Pert PRO)を用いて、CuKα線による粉末X線回折で分析したところ、結晶構造が、六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物単相からなることが確認された。また、(104)面の回折ピークの積分強度Ii(104)に対する、(003)面の回折ピークの積分強度Ii(003)の比、すなわち、積分強度比Ii(003)/Ii(104)は1.24であった。さらに、X線回折パターンの回折ピークの広がりを除き、各回折ピークからシェラーの式を用いて、(003)面の結晶子径を算出したところ、102mmであった。なお、(104)面の回折ピークの強度I(104)に対する、(003)面の回折ピークの強度I(003)の比、すなわち、ピーク強度比I(003)/I(104)は2.21であった。
【0161】
次に、ICP発光分光分析装置を用いた分析により、この正極活物質は、Liを7.51質量%、Niを19.1質量%、Coを19.1質量%、Mnを17.9質量%、Wを0.91質量%含有し、一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表されるリチウム複合酸化物からなるものであることが確認された。また、この正極活物質には、SO4が0.57質量%、Naが0.036質量%、Mgが0.021質量%およびCaが0.012質量%(Na、MgおよびCaの合計で0.069質量%)含有されていることが確認された。」
ここで、実施例1の正極活物質に着目すると、甲第1号証には、次の事項が記載されている。
・【0018】によれば、甲第1号証に記載の正極活物質は、非水電解質二次電池用正極活物質である。
そうすると、【0153】、【0160】及び【0161】より、実施例1の正極活物質は、
一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、
ICP発光分光分析装置を用いた分析により、Liを7.51質量%、Niを19.1質量%、Coを19.1質量%、Mnを17.9質量%、Wを0.91質量%含有するものである。
・【0050】及び【0160】によれば、リチウム複合酸化物は、Liの挿入および脱離を行う。
・【0018】によれば、非水電解質二次電池用正極活物質は、一般式(1):Li1+uNixMnyCozMtO2で表され、さらに、Na、Mg、CaおよびSO4を含有するのであるから、実施例1の正極活物質は、さらに、SO4が0.57質量%、Naが0.036質量%、Mgが0.021質量%およびCaが0.012質量%含有されている(【0161】)。
イ 引用発明
したがって、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、
リチウム複合酸化物は、Liの挿入および脱離を行い、
ICP発光分光分析装置を用いた分析により、Liを7.51質量%、Niを19.1質量%、Coを19.1質量%、Mnを17.9質量%、Wを0.91質量%含有し、
さらに、SO4が0.57質量%、Naが0.036質量%、Mgが0.021質量%およびCaが0.012質量%含有されている、
非水電解質二次電池用正極活物質。」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
一般式Lix(Ni1-yCoy)1-zMzO2(0.98≦x≦1.10、0.05≦y≦0.4、0.01≦z≦0.2、但し、MはAl、Mg、Mn、Ti、Fe、Cu、ZnおよびGaからなる群から選ばれた1種以上の金属元素)で表されるリチウム金属複合酸化物であって、SO4イオンを0.4質量%以上、2.5質量%以下含有し、X線回折チャートからリートベルト解析を用いて求められるリチウム席占有率が、98%以上であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。」
「【0051】
SO4イオンは、硫酸リチウムとして存在していると考えられるが、前記反応過程を効率良く行うためには、硫酸リチウムは、そのほとんどがリチウム金属複合酸化物粒子表面に存在することが好ましい。硫酸リチウムのリチウム金属複合酸化物粒子表面に存在する量は、含有される硫酸リチウム全量の60%以上が好ましい。さらには、80%以上であることがより好ましく、90%以上であればさらに好ましい。」
「【0059】
(実施例1)
反応槽中に、硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合溶液(ニッケル濃度1.45モル/リットル、コバルト濃度0.27モル/リットル)、150g/リットル苛性ソーダ溶液、および25%アンモニア水溶液を、撹拌しつつ同時に滴下し、複合水酸化ニッケルを作成した。この複合水酸化ニッケルを吸引濾過後、水酸化物質量1kgに対して0.5kgの苛性ソーダを加え、5時間、撹拌し、アルカリ洗浄を行い、その後、吸引濾過して、掛水洗浄により、濾過水pHが9.0以下になるまで、洗浄して、サンプルAを得た。また、苛性ソーダを0.2kgにして、サンプルBを得、苛性ソーダを0.1kgにして、サンプルCを得た。
【0060】
さらに、サンプルA、B、Cのそれぞれに、水酸化ニッケル質量の4質量%のアルミン酸ソーダと純水を加えて、0.5kg/リットルのスラリーにした後、希硫酸にてpH=9.5まで中和して、水酸化アルミニウムを水酸化ニッケル表面に被覆せしめた。その後、100℃で48時間乾燥させ、リチウム金属複合酸化物原料となる複合水酸化ニッケルを作成した。
【0061】
作成した複合水酸化ニッケルの化学組成は、表1に示すようなものであった。」
「【0063】
それぞれの複合水酸化ニッケル170gに、市販の水酸化リチウム一水塩の粉末80gを混合し、酸素気流中にて250℃で4時間、450℃で9時間、および730℃で22時間焼成したのち、室温まで冷却した。」
(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
一般式Li1+zNi1-x-yCoxNbyO2(但し、0.05≦x≦0.35、0.02≦y≦0.08、-0.05≦z≦0.10)で表されるリチウム金属複合酸化物粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
酸素濃度5容量%以下の雰囲気中において、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液と、ニオブ塩溶液と、を含む反応液に、前記反応液の温度を40~60℃に維持しながら、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を加え、アルカリ溶液により反応液のpHを液温25℃基準で11.1~13.0に制御して、ニッケルコバルトニオブ複合水酸化物粒子を共沈殿させる晶析工程と、
ニッケルコバルトニオブ複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合してリチウム混合物を得る混合工程と、
リチウム混合物を650~850℃の温度で焼成してリチウム金属複合酸化物の焼成粒子を得る焼成工程と、
前記焼成粒子を水洗し、乾燥することにより非水系電解質二次電池用正極活物質を得る水洗工程と、
を含むことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」
「【0033】
さらに、酸素濃度5容量%以下、好ましくは4容量%以下の雰囲気中において晶析する。これにより、得られる複合水酸化物粒子は、一次粒子が緻密に凝集した二次粒子からなるものとなる。このような複合水酸化物粒子をリチウム化合物と混合して焼成することにより、粒子中の空隙率が低く高密度で充填性の高いリチウム金属複合酸化物粒子となる。」
3 当審の判断
(1)申立理由1(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
a 引用発明の「リチウム複合酸化物は、Liの挿入および脱離を行」うのであるから、「Niを19.1質量%」含有する「リチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質」は、本件発明1の「リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質」に相当する。
b 引用発明は、「ICP発光分光分析装置を用いた分析により、」「SO4が0.57質量%」「含有されている」から、本件発明1とは、「誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を用いた分析により、硫酸根の濃度Q(質量%)が0.01以上2.0以下であ」る点で共通する。
但し、硫酸根の濃度Q(質量%)が、本件発明1は「前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)」であるのに対して、引用発明は「ICP発光分光分析装置を用いた分析により」求めた濃度であるが、そのような特定がない点で相違する。
また、本件発明1は「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であ」るのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
c 引用発明は、「一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、」「さらに、」「Mgが0.021質量%」「含有されている」から、本件発明1とは、「以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。 Li[Lix(NiaCobMncMd)1-x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」である点で共通するといえる。
しかしながら、本件発明1は「以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。 Li[Lix(NiaCobMncMd)1-x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」であるのに対して、引用発明は「一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、」「さらに、」「Naが0.036質量%」「およびCaが0.012質量%含有されている」点で相違する。
上記aないしcによれば、本件発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行いた分析により、硫酸根の濃度Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、
リチウム二次電池用正極活物質。」
(相違点1)
硫酸根の濃度Q(質量%)が、本件発明1は「前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)」であるのに対して、引用発明は「ICP発光分光分析装置を用いた分析により」求めた濃度であるが、そのような特定がない点。
(相違点2)
本件発明1は「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であ」るのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点3)
本件発明1は「以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。 Li[Lix(NiaCobMncMd)1-x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」であるのに対して、引用発明は「一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、」「さらに、」「Naが0.036質量%」「およびCaが0.012質量%含有されている」点。
(イ)判断
事案に鑑み、先ず、上記相違点2について検討する。
引用発明の「非水電解質二次電池用正極活物質」はSO4を0.57質量%含有するが、その理由は、焼成工程におけるリチウムニッケルマンガン複合酸化物のa軸方向の結晶成長を抑制するためである(【0047】)。
そうすると、引用発明においては、結晶成長の抑制に関係する非水電解質二次電池用正極活物質全体に存在するSO4が重要であり、非水電解質二次電池用正極活物質の表面に存在するSO4の濃度に着目する必要性はなく、表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)を0.8より大きく5.0未満にする理由はない。
また、特許異議申立人は上記相違点2(発明特定事項B)は、甲第1号証に記載の発明と甲第2号証に記載の発明との組み合わせ、又は、甲第1号証に記載の発明と甲第3号証に記載の発明との組み合わせから、当業者が容易に想到することができた旨を主張するので検討する。(特許異議申立書21頁16行-23頁17行)。
a 甲第2号証について
甲第2号証には、SO4イオンを0.4質量%以上、2.5質量%以下含有するリチウム金属複合酸化物であって、SO4イオンは硫酸リチウムとして存在しており、硫酸リチウムのリチウム金属複合酸化物粒子表面に存在する量は、含有される硫酸リチウム全量の60%以上が好ましいことが記載されている。(【請求項1】、【0051】)
ここで、上記記載事項によると、甲第2号証のリチウム金属複合酸化物は、SO4イオンを0.4質量%以上、2.5質量%以下含有し、粒子表面に硫酸リチウム全量の60%以上が存在するものであるが、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム金属複合酸化物粒子の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、リチウム金属複合酸化物粒子の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められるリチウム金属複合酸化物粒子全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であることは記載されていない。
また、リチウム金属複合酸化物がSO4イオンを0.4質量%以上、2.5質量%以下含有し、粒子表面に硫酸リチウム全量の60%以上が存在することに基づいて、リチウム金属複合酸化物粒子表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)を推定することは困難である。さらに、甲第2号証の実施例は、本件特許の実施例と異なりMnを含有せず(【0059】-【0063】)、その製造方法も反応槽内に酸素含有ガスを導入することが無いなど(【0059】)、本件特許の実施例と組成及び製造方法が異なることから、表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であることの蓋然性は低い。
以上のことより、甲第2号証にはリチウム金属複合酸化物の比P/Q(原子%/質量%)が0.8より大きく5.0未満であることは記載されておらず、さらに、甲第2号証に記載のリチウム金属複合酸化物の比P/Q(原子%/質量%)が0.8より大きく5.0未満である蓋然性は低いといえる。
したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
b 甲第3号証について
甲第3号証には、酸素濃度5容量%以下の雰囲気中において、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液と、ニオブ塩溶液と、を含む反応液に、反応液の温度を40~60℃に維持しながら、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を加え、アルカリ溶液により反応液のpHを液温25℃基準で11.1~13.0に制御して、ニッケルコバルトニオブ複合水酸化物粒子を共沈殿させる晶析工程が記載されている(【請求項1】)。
そして、酸素濃度5容量%以下の雰囲気中において晶析することにより、得られる複合水酸化物粒子は、一次粒子が緻密に凝集した二次粒子からなるものとなり、このような複合水酸化物粒子をリチウム化合物と混合して焼成することにより、粒子中の空隙率が低く高密度で充填性の高いリチウム金属複合酸化物粒子となることが記載されている(【0033】)。
そうすると、たとえ、引用発明に甲第3号証に記載の技術を適用しても、上記相違点2に係る構成を得ることはできない。
したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2ないし6、8、9について
本件発明2ないし6、8、9は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明7について
本件発明7は、上記相違点2に係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由2(特許法第36条第4項第1号)、及び、申立理由3(許法第36条第6項第2号)について
ア 特許異議申立人の主張は、概略、次のとおりである。
(ア)特許法第36条第4項第1号について
本件発明1は「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)」を測定することを要求している。
しかしながら、XPSにより硫黄原子由来のピークの強度が得られることは当業者に理解できるものの、硫黄原子の濃度P(原子%)を求める対象が不明である。すなわち、硫黄原子の濃度P(原子%)が、正極活物質の二次粒子の表面に存在する元素の総モル数に対する濃度であるか、正極活物質全体に含まれる全ての元素の総モル数に対する濃度であるかが不明である。
また、総モル数を求める手法も不明である。(特許異議申立書28頁7行-29頁3行)
(イ)特許法第36条第6項第2号について
本件発明1は「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)」を規定するが、硫黄原子の濃度P(原子%)を求める対象が不明であり、かつ、その対象である総モル数を求める手法も不明である。(特許異議申立書30頁1-13行)
イ 当審の判断
X線光電子分光法(XPS)で測定できる範囲は、表面から5nm程度までの範囲であることは周知(例えば、特開2012-74467号公報(【0048】)等参照)である。
そうすると、本件発明1に記載された「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)」において、硫黄原子の濃度P(原子%)を求める対象は、正極活物質の表面から5nm程度までの範囲であることは明らかである。
また、求めるのは硫黄原子の濃度P(原子%)であり、総モル数は求められていない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。
(3)まとめ
したがって、特許異議申立人の申立理由1ないし3にかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701225