特許異議申立
2024-700546
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2024-700546
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-534392
- 登録番号
- 7395794
- 請求日
- 2024年06月10日
- 審決日
- 2025年03月31日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】古橋 伸茂
- 【権利者代理人】石原 俊秀
- 【権利者代理人】末広 尚也
- 【異議申立人】中川 雅貴
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 柴田 昌弘
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C12G) / P1651.121-YAA(C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7395794号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7395794号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-7〕及び8について訂正することを認める。
特許第7395794号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7395794号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2022年(令和4年)12月26日(優先権主張 令和3年12月27日)を国際出願日とする出願であって、令和5年12月1日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年6月10日に特許異議申立人 中川 雅貴(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:全請求項)がされ、同年9月27日付けで取消理由が通知され、同年11月29日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年12月23日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、令和7年1月24日に特許異議申立人より意見書の提出があったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7395794号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容等
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(4)のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、
アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満であり、
外観発酵度が5%以上65%未満であり、
ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lである、ビールテイスト飲料。」
と記載されているのを、
「麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、
アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下であり、
外観発酵度が5%以上65%未満であり、
ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lである、ビールテイスト飲料。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2ないし4も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に
「容器詰め飲料である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。」
と記載されているのを、
「麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、
アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満であり、
外観発酵度が5%以上65%未満であり、
ピログルタミン酸の含有量が1~250mg/Lであり、
容器詰め飲料である、ビールテイスト飲料。」
に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に
「麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満のビールテイスト飲料の製造方法であって、外観発酵度を5%以上65%未満に調整する工程、ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lとなるようにピログルタミン酸の含有量を調整する工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。」
と記載されているのを、
「麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下のビールテイスト飲料の製造方法であって、外観発酵度を5%以上65%未満に調整する工程、ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lとなるようにピログルタミン酸の含有量を調整する工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。」
に訂正する。
請求項6の記載を引用して特定する請求項7も同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に
「麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満のビールテイスト飲料の呈味改善方法であって、外観発酵度を5%以上65%未満に調整すること、ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lとなるようにピログルタミン酸の含有量を調整することを含む、ビールテイスト飲料の呈味改善方法。」
と記載されているのを、
「麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下のビールテイスト飲料の呈味改善方法であって、外観発酵度を5%以上65%未満に調整すること、ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lとなるようにピログルタミン酸の含有量を調整することを含む、ビールテイスト飲料の呈味改善方法。」
に訂正する。
(5) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし4は請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項6及び7について、請求項7は請求項6を引用して特定するものであるから、訂正前の請求項6及び7に対応する訂正後の請求項6及び7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、アルコール度数が「1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満」であったところ、「1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0011】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2ないし4についても同様である。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項5の訂正は、訂正前の請求項5が請求項1を引用する形式で記載されていたところ、請求項間の引用関係を解消して独立形式での記載に改めるとともに、ピログルタミン酸の含有量が「1~300mg/L」であったところ、「1~250mg/L」に限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項5の訂正は、本件特許の明細書の【0021】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項6の訂正は、アルコール度数が「1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満」であったところ、「1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項6の訂正は、本件特許の明細書の【0011】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項6の記載を引用して特定する請求項7についても同様である。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4に係る請求項8の訂正は、アルコール度数が「1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満」であったところ、「1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る請求項8の訂正は、本件特許の明細書の【0011】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-7〕及び8について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-7〕及び8について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和6年11月29日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、
アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下であり、
外観発酵度が5%以上65%未満であり、
ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lである、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
プロリンの含有量が1~80mg/100mLである、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
全窒素量が1~200mg/100mLである、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
糖質含有量が0.5g/100mL超である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、
アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満であり、
外観発酵度が5%以上65%未満であり、
ピログルタミン酸の含有量が1~250mg/Lであり、
容器詰め飲料である、ビールテイスト飲料。
【請求項6】
麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下のビールテイスト飲料の製造方法であって、外観発酵度を5%以上65%未満に調整する工程、ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lとなるようにピログルタミン酸の含有量を調整する工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
脱アルコールの工程を含まない、請求項6に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項8】
麦芽比率が5質量%以上100質量%未満であり、アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下のビールテイスト飲料の呈味改善方法であって、外観発酵度を5%以上65%未満に調整すること、ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lとなるようにピログルタミン酸の含有量を調整することを含む、ビールテイスト飲料の呈味改善方法。」
第4 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1及び6ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1及び6ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 証拠方法
・甲第1号証:特開2002-199873号公報
・甲第2号証:特開2015-133924号公報
・甲第3号証:Y.H.Hui et al.,“FOOD BIOCHEMISTRY and FOOD PROCESSING”, Blackwell Publishing, 2006, Pages 670-672
・甲第4号証:尾関正彦、「麦汁中の糖組成、及び醸造工程中の有機酸量変化とビール品質との関連」、日本発酵工学会大会講演要旨集、平成3年度、1991年10月、第26頁
・甲第5号証:特開2021-97630号公報
・甲第6号証:上田隆蔵ら、「ビール中の有機酸に関する研究(第1報)」、発酵工学雑誌、1963年、Vol.41、No.1、第10-14頁
・甲第7号証:Joon-Kwan Moon et al.,“Development and Application of HPLC/Post-Column Method for Analysis of Low Molecular Weight Organic Acids in Beers, Wines and Fruit Juices”, Scholarly Journal of Food and Nutrition, Volume 1-Issue 4, Page 121-126(2018)
・甲第8号証:N.Coote et al.,“THE CONTENT OF SOME ORGANIC ACIDS IN BEER AND OTHER FERMENTED MEDIA”, J.Inst.Brew., Vol 80, No 5, Page 474-483(1974)
・甲第9号証:特開2020-195318号公報
・甲第10号証:意見書、異議2020-700742号、令和3年1月18日提出、サントリーホールディングス株式会社
・甲第11号証:8.11最終発酵度、改訂BCOJビール分析法、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編 2013年増補改訂、公益財団法人日本醸造協会、第1/2~2/2頁
・甲第12号証:拒絶理由通知書、特願2023-534392号、令和5年8月10日起案
・甲第13号証:特開2018-64502号公報
・甲第14号証:特開2017-118824号公報
・甲第15号証:国際公開第2014/156735号
・甲第16号証:日本食品標準成分表2015年版(七訂)、JFRLニュース、Vol.5、No.25、2016年10月、第1/4~4/4頁
・甲第17号証:「第IV章 窒素化合物」、醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日発行、第196~201頁
・甲第18号証:吉田重厚、「醸造成分 第1章 ビールの一般成分」、日本醸造協會雑誌、1976年第71巻第7号、第505~510頁
また、特許異議申立人は、令和7年1月24日に提出した意見書(以下、「意見書」という。)に添付して、次の甲第19号証を提出している。
・甲第19号証:特開平5-68529号公報
なお、証拠の表記については、特許異議申立書及び意見書における記載におおむね従った。
第5 令和6年9月27日付けで通知した取消理由の概要
令和6年9月27日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由2-1が包含される。
取消理由(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、以下のとおり、取消理由及び申立理由の理由では、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
なお、以下の判断では、取消理由及び申立理由について、主たる証拠ごとにまとめて検討を進める。
1 取消理由及び申立理由1-1及び申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には「発酵麦芽飲料の製造方法」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】 発酵麦芽飲料の製造過程において、仕込工程における熱処理前にトランスグルコシダーゼを添加する、ことを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法。
【請求項2】 前記熱処理は煮沸処理である、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】 前記トランスグルコシダーゼは、粉砕麦芽と同時に添加される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】 前記トランスグルコシダーゼは、仕込工程における前記熱処理前の糖化液に添加される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】 前記トランスグルコシダーゼは、製麦工程において添加される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】 原料として麦芽のみを使用する、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】 糖質原料として麦芽及び副原料を使用する、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ビールや発泡酒などの発酵麦芽飲料の製造方法に関し、詳しくは、製造過程でトランスグルコシダーゼを添加することにより、コク味やボディ感が増強される発酵麦芽飲料の製造方法に関する。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、従来においては、通常のアルコール度数を有する発酵麦芽飲料の製造においてコク味やボディー感を増強させる有効な方法がなかった。即ち、上記のイソマルトオリゴ糖を添加する製造方法では、副原料としてイソマルトオリゴ糖を用いることが必要となるため、100%麦芽ビール(副原料を使用しないビール)の製造には応用できず、また、米、スターチ等の副原料を使用する場合には、副原料の種類や添加量が制限されるといった問題があった。また、上記のトランスグルコシダーゼを添加する製造方法は、低アルコールビールに関するものであって、通常のアルコール度数の発酵麦芽飲料に適用できるものではない。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、これらの課題に鑑み鋭意検討した結果、仕込工程における熱処理前にトランスグルコシダーゼを添加することにより、イソマルトオリゴ糖を生成せしめることで、コク味やボディー感を増強した新規な発酵麦芽飲料を製造できることを見出し、本発明に想到した。即ち、本発明は、(1)発酵麦芽飲料の製造過程において、仕込工程における熱処理前にトランスグルコシダーゼを添加する、ことを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法である。また、(2)前記熱処理は煮沸処理である、ことを特徴とする(1)に記載の製造方法である。また、(3)前記トランスグルコシダーゼは、粉砕麦芽と同時に添加される、ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の製造方法である。また、(4)前記トランスグルコシダーゼは、仕込工程における熱処理前の糖化液に添加される、ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の製造方法である。また、(5)前記トランスグルコシダーゼは、製麦工程において添加される、ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の製造方法である。また、(6)原料として麦芽のみを使用する、ことを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載の製造方法である。また、(7)糖質原料として麦芽及び副原料を使用する、ことを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載の製造方法である。さらに、(1)ないし(7)のいずれかの方法により製造される発酵麦芽飲料である。
【0007】本発明の製造方法によれば、トランスグルコシダーゼの作用によりイソマルトオリゴ糖が生じ、生成したイソマルトオリゴ糖は、仕込工程に続く発酵工程において酵母により資化されることなく最終製品中に残存する。トランスグルコシダーゼの添加時期を仕込工程の熱処理前とすることにより、当該熱処理において添加されたトランスグルコシダーゼは完全に失活するので、仕込工程中に当該酵素の糖転移反応によりいったん生成したイソマルトオリゴ糖が、その後の工程(発酵、熟成等)で同酵素の加水分解反応によりグルコースに分解されることもない。これにより、トランスグルコシダーゼにより生成したイソマルトオリゴ糖を効率よく、最終製品中に残存させることが可能となる。以上のように、本発明の製造方法においてイソマルトオリゴ糖がリッチな発酵麦芽飲料を製造することが可能である。
【0008】また、本発明の製造方法では、原料として麦芽のみを使用するいわゆる100%麦芽ビールにコク味を付与することができる。また、通常のビールの製造においてもイソマルトオリゴ糖液を使用する必要はないため、目的に応じた副原料の選択が可能となる。
【0009】さらに、仕込工程における熱処理前にトランスグルコシダーゼを添加すること以外は従来の発酵麦芽飲料の製造方法と同様の方法で製造できるため、製造設備の増設、仕様変更などを行うことなく、従来の発酵麦芽飲料と比較してコク味がありボディ感の豊かなビールの製造が可能となる。また、仕込工程における熱処理前に添加されたトランスグルコシダーゼの作用によりイソマルトオリゴ糖が生成されるため、別途イソマルトオリゴ糖糖液を製造し、これを添加する方法に比較してエネルギー的にも効率的な製造が可能となる。」
「【0010】
【発明の実施の形態】本発明は、発酵麦芽飲料の製造過程において、仕込工程における熱処理前にトランスグルコシダーゼを添加する、ことを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法である。発酵麦芽飲料とは、麦芽のみを糖質原料として用いたいわゆる麦芽100%ビール(ピュアモルトビール)、麦芽の他に米、スターチ等の副原料を所望量用いるビール、及び麦芽の使用量を一定量以下に抑えたいわゆる発泡酒を含む概念である。本発明における発酵麦芽飲料には、アルコール度数約4.1重量%~約15.0重量%を有するものが含まれる。好ましくは、約4.1重量%~約8.0重量%のものが含まれる。仕込工程において、エキス分を適宜調整することにより所望のアルコール度数を有する最終製品とすることができる。」
「【0019】[実施例2] トランスグルコシダーゼを使用した100%麦芽ビールの製造
副原料を用いない麦芽100%ビールの製造を試みた。麦芽重量に対し1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して糖化し、エキス分を約13重量%に調製した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させビールを製造した。発酵前後の糖組成を図2に示す。トランスグルコシダーゼの添加により生成したイソマルトース、パノースといったイソマルトオリゴ糖はビール製品中に残存していた。また、対照区と比べG4以上のイソマルトオリゴ糖も増加した。製造したビールの成分分析値を図3の表に示す。トランスグルコシダーゼの添加によりイソマルトオリゴ糖が生成し発酵性糖量が減少するためアルコール濃度が低くなった。また発酵後もイソマルトオリゴ糖がビール内に残存するため外観エキスが高くなった。pH、酸度、アミノ酸、炭酸ガス、苦味価などにトランスグルコシダーゼの添加は影響を及ぼさなかった。
【0020】[実施例3] 官能評価
ビール製造に熟練した11名をパネラーとして官能試験を行った。トランスグルコシダーゼ添加では酵素剤無添加と比べ、温和、ボディ感ありとする傾向があった。コメントも、まるい、ボディあり、なめらかといった評価であった。これに対し無添加区では爽快、すっきりの傾向がある一方で、だれる、雑味といった負の評価もみられた。5点法(とても良い1,良い2,普通3,悪い4,とても悪い5)による総合評価の結果、TG添加区2.45点、無添加区2.91点となり、TG添加区が対照より良い評価を得た。
【0021】[実施例4] トランスグルコシダーゼを利用した副原料使用ビールの製造
麦芽70重量%及び大麦30重量%からなる原料を使用して副原料使用ビールを製造した。原料重量に対し1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して糖化し、エキス分を約13重量%に調製した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させた。発酵前の麦汁の糖組成を図5に示す。実施例2における100%麦芽ビール同様、製品中にイソマルトース、パノースなどのイソマルトオリゴ糖が残存し、こく味のあるビールの製造が可能であった。
【0022】[実施例5] トランスグルコシダーゼを利用した発泡酒の製造麦芽25重量%及び大麦75重量%からなる原料を使用して副原料使用ビールを製造した。原料重量に対し1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して糖化し、エキス分を約13重量%に調製した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させた。発酵前の麦汁の糖組成を図6に示す。実施例2における100%麦芽ビール同様、製品中にイソマルトース、パノースなどのイソマルトオリゴ糖が残存し、こく味のある発泡酒の製造が可能であった。」
「【図面の簡単な説明】
・・・
【図3】図3は、実施例2において製造されたビールの成分分析の結果を示す表である。TGはトランスグルコシダーゼを表す。
【図4】図4は、実施例3における官能評価の結果をまとめた表である。」
「
[図:0001424582000001.jpg]
[図:0001424582000002.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に実施例2の記載について整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。
「副原料を用いない麦芽100%ビールであって、
前記ビールは、麦芽重量に対し1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して糖化し、エキス分を約13重量%に調製した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させ製造したものであり、
得られたビールのアルコール濃度が4.41%、外観発酵度が62.8%、ピログルタミン酸濃度が273ppmである、ビール。」(以下、「甲1ビール発明」という。)
「副原料を用いない麦芽100%ビールの製造方法であって、
前記ビールは、麦芽重量に対し1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して糖化し、エキス分を約13重量%に調製した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させ製造したものであり、
得られたビールのアルコール濃度が4.41%、外観発酵度が62.8%、ピログルタミン酸濃度が273ppmである、ビールの製造方法。」(以下、「甲1ビール製法発明」という。)
「副原料を用いない麦芽100%ビールのコク味やボディー感を増強させる方法
であって、
前記ビールは、麦芽重量に対し1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して糖化し、エキス分を約13重量%に調製した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させ製造したものであり、
得られたビールのアルコール濃度が4.41%、外観発酵度が62.8%、ピログルタミン酸濃度が273ppmである、ビールのコク味やボディー感を増強させる方法。」(以下、「甲1ビール方法発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1ビール発明とを対比する。
甲1ビール発明の「ビール」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1ビール発明の外観発酵度は62.8%、ピログルタミン酸濃度は273ppm(273mg/L)であるから、本件特許発明1の「外観発酵度が5%以上65%未満であり、」「ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lである」との特定事項を満たす。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「外観発酵度が5%以上65%未満であり、
ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lである、ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1-1
アルコール度数に関して、本件特許発明1は「1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下」であるのに対して、甲1ビール発明は4.41%である点。
・相違点1-2
麦芽比率に関して、本件特許発明1は「5質量%以上100質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲1ビール発明は「100%」である点。
上記相違点について検討する。
・相違点1-1について
甲1ビール発明のアルコール濃度は「4.41%」であるから、相違点1-1は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1ビール発明ではない。
また、甲第1号証には、「本発明における発酵麦芽飲料には、アルコール度数約4.1重量%~約15.0重量%を有するものが含まれる。好ましくは、約4.1重量%~約8.0重量%のものが含まれる。」(【0010】)と記載されており、アルコール度数として約4.1重量%を超えるものが指向されている。
してみると、甲1ビール発明において、アルコール濃度を低減し「4.0(v/v)%以下」とすること、すなわち、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けがないから、甲1ビール発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1ビール発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
なお、この点に関し、特許異議申立人は意見書において、甲第19号証を提出するとともに、「低アルコールビールのコク味やボディー感の増強を目的とした場合に、甲1のビールに対し、従来技術として甲1に記載されている通り原麦汁エキスを10重量%以下に調整し、α-グルコシターゼを添加して、アルコール度数を4.0(v/v%)以下に低減することは、当業者が容易になし得たことといえる」(意見書第5頁)旨主張する。
しかしながら、甲第1号証は上記のとおり、アルコール度数として約4.1重量%を超えるものが指向されているのであるから、アルコール度数を低減する動機付けがあるとはいえない。
よって、特許異議申立人の当該主張は採用できない。
イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての発明特定事項を有するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲1ビール発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし4もまた甲1ビール発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1ビール発明とを対比する。
甲1ビール発明の「ビール」は、本件特許発明5の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1ビール発明のアルコール濃度は4.41%、外観発酵度は62.8%であるから、本件特許発明1の「アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満であり、」「外観発酵度が5%以上65%未満であり、」との特定事項を満たす。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%未満であり、
外観発酵度が5%以上65%未満である、ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1-3
ピログルタミン酸の含有量に関して、本件特許発明5は「1~250mg/L」であるのに対して、甲1ビール発明は「273ppm」である点。
・相違点1-4
麦芽比率に関して、本件特許発明5は「5質量%以上100質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲1ビール発明は「100%」である点。
・相違点1-5
本件特許発明5は「容器詰め飲料」と特定するのに対し、甲1ビール発明にはそのような特定がない点。
上記相違点1-3について検討する。
甲1ビール発明のピログルタミン酸の割合は「273ppm」、即ち「273mg/L」であるから、相違点1-3は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲1ビール発明ではない。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1ビール発明においてピログルタミン酸の含有量に着目し、ピログルタミン酸の含有量を低減する動機付けがあるとはいえない。
してみると、甲1ビール発明において、ピログルタミン酸の含有量を低減し「1~250mg/L」とすること、すなわち、相違点1-3に係る本件特許発明5の発明特定事項を満たすものとする動機付けがないから、甲1ビール発明において、相違点1-3に係る本件特許発明5の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲1ビール発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
この点について、特許異議申立人は意見書において、甲第3号証ないし甲第19号証などを引用しつつ、甲第1号証の従来技術の項に挙げられている甲第19号証の実施例2にはピログルタミン酸の含有量が199.5ppmの低アルコールビールが記載されているから、甲1ビール発明においてピログルタミン酸の含有量を調整することは容易である旨主張する(意見書第6頁ないし第8頁)が、甲第19号証の「ビール」と甲第1号証の「ビール」が、ピログルタミン酸の含有量の点で同等であると解釈することはできないし、また、甲第19号証の記載が甲1ビール発明においてピログルタミン酸の含有量を調整する動機を与えるものともいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
エ 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲1ビール製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえる。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「ビールテイスト飲料の製造方法であって、外観発酵度を5%以上65%未満に調整する工程、ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lとなるようにピログルタミン酸の含有量を調整する工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点1-6
アルコール度数に関して、本件特許発明6は「1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下」であるのに対して、甲1ビール製法発明は4.41%である点。
・相違点1-7
麦芽比率に関して、本件特許発明6は「5質量%以上100質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲1ビール製法発明は「100%」である点。
上記相違点について検討する。
・相違点1-6について
相違点1-6は、相違点1-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲1ビール製法発明ではなく、甲1ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明6の全ての発明特定事項を有するものである。
そして、上記エのとおり、本件特許発明6は甲1ビール製法発明ではなく、甲1ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明7もまた甲1ビール製法発明ではなく、甲1ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ 本件特許発明8について
本件特許発明8と甲1ビール方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえる。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「ビールテイスト飲料の呈味改善方法であって、外観発酵度を5%以上65%未満に調整すること、ピログルタミン酸の含有量が1~300mg/Lとなるようにピログルタミン酸の含有量を調整することを含む、ビールテイスト飲料の呈味改善方法。」
(相違点)
・相違点1-8
アルコール度数に関して、本件特許発明8は「1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下」であるのに対して、甲1ビール方法発明は4.41%である点。
・相違点1-9
麦芽比率に関して、本件特許発明8は「5質量%以上100質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲1ビール方法発明は「100%」である点。
上記相違点について検討する。
・相違点1-8について
相違点1-8は、相違点1-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲1ビール方法発明ではなく、甲1ビール方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由、申立理由1-1及び申立理由2-1についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由、申立理由1-1及び申立理由2-1の理由では、本件特許発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2及び申立理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第2号証の記載事項等
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「低アルコールビールテイスト飲料の製造方法」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】
仕込工程において、α-グルコシダーゼを添加する工程を含む、
最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、かつ真性発酵度が30%以上70%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法において、
製造工程のいずれかの時点で、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整すること
を特徴とする低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
仕込工程において、α-グルコシダーゼを添加する工程を含む、
最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、かつ真性発酵度が30%以上70%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法において、
製造工程のいずれかの時点で、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.4以上4.9以下になるように調整すること
を特徴とする低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
前記苦味価がホップ又は/及びホップエキス由来であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
最終製品中のアルコール濃度が4v/v%以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、真性発酵度が30%以上70%以下であり、かつ最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.4以上4.9以下であること
を特徴とする低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項6】
仕込工程において、α-グルコシダーゼを添加する工程を含む、
最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、かつ真性発酵度が30%以上70%以下である低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法であって、
製造工程のいずれかの時点で、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように苦味物質を添加すること
を特徴とする低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、低アルコールビールテイスト飲料の製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、充分なコク味を有しつつ、優れた香味を有し、かつドリンカビリティが高められた低アルコールビールテイスト飲料を製造する方法を提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、充分なコク味を有しつつ、優れた香味を有し、かつドリンカビリティが高められた低アルコールビールテイスト飲料を製造する方法を提供することができる。」
「【0036】
非発酵性糖質は発酵には利用されないため、アルコール生成量を抑制することができる。その上、低アルコールビールテイスト飲料の短所である淡泊さ、旨味不足、コク不足等を解消し、通常のビールと同様の旨味、コク味を付与することができる。従って、最終製品の真性発酵度(%)は、30%以上70%以下であることが必要である。真性発酵度(%)が30%未満である場合には、甘味が過大となってしまう。一方、真性発酵度(%)が70%より高い場合には、低アルコールビールテイスト飲料を製造することが困難になる。なお、真性最終発酵度とは、発酵前液に含まれる糖質のうち発酵性糖質の占める割合を示している。」
「【実施例1】
【0045】
まず、大麦、大麦麦芽に50℃の湯を加え、混合液を得た。得られた混合液に、α‐グルコシダーゼ(「アマノ」天野エンザイム社製)を、発行前液全量の0.1w/v%添加し、65℃で維持することにより、糖化を行った。糖化後の混合液から大麦麦芽の殻皮を除去し、ホップを添加し、煮沸を行った。煮沸終了後、濾過を行い、発酵前液を得た。
次に、得られた発酵前液に、酵母として下面ビール酵母を添加して、アルコール発酵を行った。アルコール発酵後、さらに貯酒、濾過を行うことにより、低アルコールビールテイスト飲料を得た。
得られた低アルコールビールテイスト飲料に、ホップエキスを所定の苦味価になるように添加した後、缶に充填し、「1-1」~「1-4」の各サンプルを調製した。」
「【実施例3】
【0051】
実施例1と同様にして、「3-1」~「3-3」の各サンプルを調製した。
各サンプルについて、実施例1と同様に官能検査を実施した。図3に、サンプルの成分組成と、官能検査の結果を示す。」
「
[図:0001424582000003.jpg]
」
イ 甲第2号証に記載された発明
上記アの記載、特に実施例3におけるサンプル3-1に着目して整理すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。
「大麦、大麦麦芽に50℃の湯を加え、混合液を得て、得られた混合液に、α‐グルコシダーゼ(「アマノ」天野エンザイム社製)を、発行前液全量の0.1w/v%添加し、65℃で維持することにより、糖化を行い、糖化後の混合液から大麦麦芽の殻皮を除去し、ホップを添加し、煮沸を行い、煮沸終了後、濾過を行い、発酵前液を得て、
次に、得られた発酵前液に、酵母として下面ビール酵母を添加して、アルコール発酵を行い、アルコール発酵後、さらに貯酒、濾過を行うことにより製造するものであり、
得られたビールのエキス分が8.0(w/v%)、真性発酵度が35.8(%)、アルコール濃度が3.2(v/v%)である、低アルコールビールテイスト飲料。」(以下、甲2飲料発明)という。)
「大麦、大麦麦芽に50℃の湯を加え、混合液を得て、得られた混合液に、α‐グルコシダーゼ(「アマノ」天野エンザイム社製)を、発行前液全量の0.1w/v%添加し、65℃で維持することにより、糖化を行い、糖化後の混合液から大麦麦芽の殻皮を除去し、ホップを添加し、煮沸を行い、煮沸終了後、濾過を行い、発酵前液を得て、
次に、得られた発酵前液に、酵母として下面ビール酵母を添加して、アルコール発酵を行い、アルコール発酵後、さらに貯酒、濾過を行うことにより製造する方法であり、
得られたビールのエキス分が8.0(w/v%)、真性発酵度が35.8(%)、アルコール濃度が3.2(v/v%)である、低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。」(以下、甲2製法発明)という。)
「大麦、大麦麦芽に50℃の湯を加え、混合液を得て、得られた混合液に、α‐グルコシダーゼ(「アマノ」天野エンザイム社製)を、発行前液全量の0.1w/v%添加し、65℃で維持することにより、糖化を行い、糖化後の混合液から大麦麦芽の殻皮を除去し、ホップを添加し、煮沸を行い、煮沸終了後、濾過を行い、発酵前液を得て、
次に、得られた発酵前液に、酵母として下面ビール酵母を添加して、アルコール発酵を行い、アルコール発酵後、さらに貯酒、濾過を行うことにより製造する方法であり、
得られたビールのエキス分が8.0(w/v%)、真性発酵度が35.8(%)、アルコール濃度が3.2(v/v%)である、低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法。」(以下、甲2方法発明)という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2飲料発明とを対比する。
甲2飲料発明の「低アルコールビールテイスト飲料」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲2飲料発明のアルコール濃度は「3.2(v/v%)」であるから、本件特許発明1の「1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下」との特定事項を満たす。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下である、ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点2-1
麦芽比率に関して、本件特許発明1は「5質量%以上100質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲2飲料発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-2
外観発酵度に関して、本件特許発明1は「5%以上65%未満であり、」と特定するのに対して、甲2飲料発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-3
ピログルタミン酸の含有量に関し、本件特許発明1は「1~300mg/Lである、」と特定するのに対して、甲2飲料発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-3について検討する。
甲第2号証には、甲2飲料発明のピログルタミン酸の含有量について何ら記載されておらず、甲第2号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2飲料発明におけるピログルタミン酸の含有量は明らかではないし、さらに、「ビールテイスト飲料」であればピログルタミン酸の含有量が「1~300mg/L」であるとする技術常識もない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2飲料発明ではない。
また、甲第2号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2飲料発明においてピログルタミン酸の含有量を調整する動機付けがないから、甲2飲料発明において、相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に相当し得たものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2飲料発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
なお、この点に関し、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第3号証ないし甲第8号証を参照しつつ、甲2飲料発明のピログルタミン酸の含有量は「甲6及び7に記載のごとく、86.4~484.7mg/Lまたは105.5mg/L~264.9mg/L程度であるものと、合理的に推認される。」(特許異議申立書第23頁)と主張する。
しかしながら、特許異議申立人も、甲2飲料発明のピログルタミン酸の含有量は「甲6及び7に記載のごとく、86.4~484.7mg/Lまたは105.5mg/L~264.9mg/L程度であるものと、合理的に推認される。」と主張するように、「ビールテイスト飲料」の全てにおいて、ピログルタミン酸の含有量が「1~300mg/L」であるとはいえないことは明らか(甲第6号証)である。
そして、甲2飲料発明におけるピログルタミン酸の含有量を決定づける証拠の提示もないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての発明特定事項を有するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲2飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし4もまた甲2飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲2飲料発明とを対比する。
甲2飲料発明の「低アルコールビールテイスト飲料」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲2飲料発明のアルコール濃度は「3.2(v/v%)」であるから、本件特許発明1の「1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%以下」との特定事項を満たす。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.5(v/v)%以下である、ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点2-4
麦芽比率に関して、本件特許発明5は「5質量%以上100質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲2飲料発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-5
外観発酵度に関して、本件特許発明5は「5%以上65%未満であり、」と特定するのに対して、甲2飲料発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-6
ピログルタミン酸の含有量に関し、本件特許発明5は「1~250mg/Lである、」と特定するのに対して、甲2飲料発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-7
本件特許発明5は「容器詰め飲料」と特定するのに対し、甲2飲料発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-6について検討する。
相違点2-6は、相違点2-3とピログルタミン酸の含有量の上限が異なる(相違点2-3では300mg/L、相違点2-6では250mg/L)ものの、いずれもピログルタミン酸の含有量が検討点となるものであり、相違点2-3と実質的に同旨である。
そして、この点は上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲2飲料発明ではなく、甲2飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲2製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえる。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下のビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点2-8
麦芽比率に関して、本件特許発明6は「5質量%以上100質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲2製法発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-9
外観発酵度に関して、本件特許発明6は「5%以上65%未満であり、」と特定するのに対して、甲2製法発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-10
ピログルタミン酸の含有量に関し、本件特許発明6は「1~300mg/Lである、」と特定するのに対して、甲2製法発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-10について検討する。
相違点2-10は、相違点2-3と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲2製法発明ではなく、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明6の全ての発明特定事項を有するものである。
そして、上記エのとおり、本件特許発明6は甲2製法発明ではなく、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明7もまた甲2製法発明ではなく、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ 本件特許発明8について
甲2方法発明における「ドリンカビリティ向上方法」は、「充分なコク味を有し、優れた香味を有す」(【0007】)るものでもあることから見て、本件特許発明8の「呈味改善方法」に相当する。
この点を踏まえ、本件特許発明8と甲2方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえる。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「アルコール度数が1.0(v/v)%以上4.0(v/v)%以下のビールテイスト飲料の呈味改善方法。」
(相違点)
・相違点2-11
麦芽比率に関して、本件特許発明8は「5質量%以上100質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲2方法発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-12
外観発酵度に関して、本件特許発明8は「5%以上65%未満であり、」と特定するのに対して、甲2方法発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-13
ピログルタミン酸の含有量に関し、本件特許発明8は「1~300mg/Lである、」と特定するのに対して、甲2方法発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-13について検討する。
相違点2-13は、相違点2-3と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲2方法発明ではなく、甲2方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 申立理由1-2及び申立理由2-2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1-2及び申立理由2-2の理由では、本件特許発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
3 意見書におけるその他の主張について
特許異議申立人は意見書の第8頁ないし第9頁において「実施可能要件違反など」として、本件特許発明に関し実施可能要件違反の主張をする。
しかしながら、当該主張は特許異議申立時において主張できたものであるから、時期に失した主張であるといわざるを得ない。
また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、調整方法についての記載があり、具体的な実施例の記載もあることからみて、本件特許発明が実施可能要件を満たすものであることは明らかである。
さらに、特許異議申立人は意見書の第10頁において、麦芽比率に関する主張をする(「(4)訂正発明5、麦芽比率」)が、当該主張は上記1及び2の判断に何ら影響しない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700546