特許異議申立
2024-700499
主剤及び硬化剤のセット、防水材並びにその施工方法
- 審判番号
- 2024-700499
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-165663
- 登録番号
- 7398228
- 請求日
- 2024年05月28日
- 審決日
- 2024年09月26日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】保土谷化学工業株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者】保土谷建材株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【異議申立人】三和 優子
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 近野 光知
- 分類
- P1651.121-Y (C08G) / P1651.536-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7398228号発明「主剤及び硬化剤のセット、防水材並びにその施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7398228号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7398228号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和1年9月11日(優先権主張 平成30年9月19日)の出願であって、令和5年12月6日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、令和6年5月28日に特許異議申立人 三和 優子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~4)がされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤(但し、水を含有するものを除く。)と、硬化剤とを備えるセットであって、
前記イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリプロピレングリコール及び下記式(1)で表される構造単位のみからなるポリエーテルグリコールからなるポリオールと、脂環式ポリイソシアネートとの反応生成物であり、
前記ポリプロピレングリコールの含有量は、前記ポリオール全量を基準として、25当量%以上95当量%以下であり、
前記ポリエーテルグリコールの含有量は、前記ポリオール全量を基準として、5当量%以上75当量%以下であり、
前記ポリプロピレングリコールの数平均分子量が1500未満であり、
前記ポリエーテルグリコールの数平均分子量が2000未満である、セット。
【化1】
[図:0001415327000001.jpg]
【請求項2】
前記脂環式ポリイソシアネートがイソホロンジイソシアネートである、請求項1に記載のセット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセットにおける前記主剤及び前記硬化剤の混合物の硬化物を含む、防水材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のセットにおける前記主剤及び前記硬化剤の混合物を得る工程と、
前記混合物を被塗物上に塗布する工程と、を備える、防水材の施工方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法
1 令和6年5月28日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要
申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1~4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 請求項1には「脂環式ポリイソシアネート」と記載されているが、実施例にはイソホロンジイソシアネート(以下「IPDI」という。)を使用した例しかない。
明細書の発明の詳細な説明には、IPDIの他に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式ポリイソシアネートが記載されている(段落0032)が、IPDI以外のすべての脂環式ポリイソシアネートで、本件発明の課題(引張強さ、引裂強さ及び抗張積に優れた防水材を得ることができ、且つ、施工時に十分な可使時間を得ることができる、主剤及び硬化剤を備えるセットの提供(段落0005))を解決できるとは言い切れない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ 請求項1では主剤のNCO含量及びNCO/OH比が特定されていない。
実施例における主剤のNCO含量は4質量%のみ(段落0056)、NCO/OH比は1.76、1.84、1.86の非常に狭い範囲のみ(段落0059の表1)である。一般的に主剤のNCO含量及びNCO/OH比は可使時間、硬化性、引張強さ・引裂強さ・抗張積等の塗膜物性に大きな影響を与える。特に本件発明の課題を解決するためにはNCO含量及びNCO/OH比を特定の範囲とすることは重要な因子であると考えられる。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、主剤のNCO含量及びNCO/OH比が特定されていない請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
ウ 請求項1には硬化剤の成分に関する記載は全くない。
実施例において、硬化剤に関してはジエチルトルエンジアミンを含むとの記載があるのみである(段落0057)。
明細書の発明の詳細な説明には、硬化剤に使用される架橋剤として多価アルコール等のヒドロキシル化合物、ポリアミンを含有してよいと記載されている(段落0040)。一般的に多価アルコール等のヒドロキシル化合物は主剤との反応が遅く、本件発明の課題を解決できるとは考え難い。一方、ポリアミンに関してはジエチルトルエンジアミン以外にも多くの具体的化合物が記載されている(段落0040)が、ポリアミンの種類は可使時間、硬化性、引張強さ・引裂強さ・抗張積等の塗膜物性に大きな影響を与えると考えられ、特に本件発明の課題を解決するためにはポリアミンの種類(少なくともジエチルトルエンジアミンは必須)とその使用量(主剤NCO/硬化剤活性水素当量比)を限定することは重要な因子であると考えられる。なお、実施例の主剤中のNCO基と硬化剤中のNH2基の当量比は1.1との記載がある(段落0057)。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、硬化剤の成分及びその使用量が特定されていない請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
エ すべての実施例における主剤中のNCO基含有量が4質量%(段落0056)、主剤と硬化剤の混合比が質量比で1:1(段落0057)、主剤中のNCO基と硬化剤中のNH2基の当量比が1.1(段落0057)であることから、主剤100gと硬化剤100gを混合するとした場合、硬化剤中のジエチルトルエンジアミン配合量は7.71gとなる。すなわち、残りの硬化剤成分92.29gが何であるか不明である。
ところが、請求項1及び実施例には、ウレタン防水塗膜に於いて一般的に硬化剤に用いられる可塑剤、無機充填剤等に関する記載が一切ない。少なくともジエチルトルエンジアミン以外の可塑剤、無機充填剤等の種類と使用量の記載がなければ、実施例を具体的に実施することもできない。
可塑剤、無機充填剤の種類や使用量は可使時間、硬化性、引張強さ・引裂強さ・抗張積等の塗膜物性に大きな影響を与えると考えられ、特に本件発明の課題を解決するためには可塑剤、無機充填剤の種類や使用量を限定することは重要な因子であると考えられる。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、硬化剤の成分及びその使用量が特定されていない請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(3)申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1~4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
すべての実施例における主剤中のNCO基含有量が4質量%(段落0056)、主剤と硬化剤の混合比が質量比で1:1(段落0057)、主剤中のNCO基と硬化剤中のNH2基の当量比が1.1(段落0057)であることから、主剤100gと硬化剤100gを混合するとした場合、硬化剤中のジエチルトルエンジアミン配合量は7.71gとなる。すなわち、残りの硬化剤成分92.29gが何であるか不明である。
ところが、請求項1及び実施例には、ウレタン防水塗膜に於いて一般的に硬化剤に用いられる可塑剤、無機充填剤等に関する記載が一切ない。少なくともジエチルトルエンジアミン以外の可塑剤、無機充填剤等の種類と使用量の記載がなければ、実施例を具体的に実施することもできない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
2 証拠方法
・甲第1号証:特開2016-98309号公報
・甲第2号証:特開2017-43740号公報
・甲第3号証:特開平10-17819公報
以下、「甲第1号証」~「甲第3号証」を、「甲1」~「甲3」という。
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、申立書に記載した申立ての理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性について)
(1)甲1に記載された発明
甲1には、その請求項1を引用する請求項2に記載された常温硬化型ポリウレタン塗膜材用組成物に着目すると、以下の発明が記載されていると認める。
「トリレンジイソシアネートとポリオールとの反応によって得られるイソシアネート基末端プレポリマーを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミン架橋剤および可塑剤を含有する硬化剤からなる、手塗り塗工に適する常温硬化型ポリウレタン塗膜材用組成物において、a)前記トリレンジイソシアネートと反応させるポリオールの主成分であるポリオキシアルキレンポリオールは、一般式(I)
【化1】
[図:0001415327000002.jpg]
(式中、R1、R2、は水素原子または直鎖もしくは分枝のアルキル基(炭素数1~3)を表し、R1、R2、は相互に異なっており、nは正の整数を表し、pは0または正の整数を表す)で示されるポリオールから選択される一種または二種以上で、その数平均分子量は700~4000のポリオールであって、前記ポリオキシアルキレンポリオールは上記一般式(I)で示される、nが正の整数でpが0である、テトラヒドロフランが開環重合反応により生成するポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTG)であり、b)前記トリレンジイソシアネート中の2,4-トリレンジイソシアネート含有量を80質量%以上とし、c)前記硬化剤中の芳香族ポリアミン架橋剤の主成分はジエチルトルエンジアミンであり、d)前記硬化剤中の可塑剤の使用量は、イソシアネート基末端プレポリマー100質量部に対して30~110質量部とし、e)前記主剤と前記硬化剤とを施工現場で混合する際に、主剤中のプレポリマーのイソシアネート基(NCO基)と硬化剤中の芳香族ポリアミンのアミノ基(NH2基)との当量比(NCO基/NH2基)が1.0~2.8となる、手塗り塗工に適する常温硬化型ポリウレタン塗膜材用組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「イソシアネート基末端プレポリマーを主成分とする主剤」及び「芳香族ポリアミン架橋剤および可塑剤を含有する硬化剤」は、本件発明1の「イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤」及び「硬化剤」に相当する。
甲1発明の「手塗り塗工に適する常温硬化型ポリウレタン塗膜材用組成物」は、「主剤」及び「硬化剤」からなるものであり、甲1の【0002】に記載されているように「主剤と、該主剤の硬化剤とから成り、これを撹拌混合して施工現場で塗工」することが技術常識であるから、主剤と硬化剤が混ぜられずに組になっている本件発明1の「セット」に相当する。
甲1発明の「ポリオキシアルキレンポリオールは、一般式(I)(当審注:化学構造式は省略。以下同様。)で示されるポリオールから選択される一種または二種以上で、その数平均分子量は700~4000のポリオールであって、前記ポリオキシアルキレンポリオールは上記一般式(I)で示される、nが正の整数でpが0である、テトラヒドロフランが開環重合反応により生成するポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTG)」は、本件発明1の「下記式(1)で表される構造単位のみからなるポリエーテルグリコール」に相当する。
甲1発明の「ポリオール」は、主成分がポリオキシアルキレンポリオールであるから、本件発明1の「ポリプロピレングリコール及び下記式(1)で表される構造単位のみからなるポリエーテルグリコールからなるポリオール」と、「下記式(1)で表される構造単位のみからなるポリエーテルグリコールを含有するポリオール」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「トリレンジイソシアネート」は、本件発明1の「脂環式ポリイソシアネート」と、「ポリイソシアネート」である限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤と、硬化剤とを備えるセットであって、
前記イソシアネート基末端プレポリマーは、下記式(1)で表される構造単位のみからなるポリエーテルグリコールを含有するポリオールと、ポリイソシアネートとの反応生成物である、セット。
【化1】
[図:0001415327000003.jpg]
」
そして、両者は次の点で相違する。
・相違点1
ポリイソシアネートに関して、本件発明1は「脂環式ポリイソシアネート」であるのに対し、甲1発明は「トリレンジイソシアネート」である点
・相違点2
ポリオールに関して、本件発明1は「ポリプロピレングリコール及び下記式(1)で表される構造単位のみからなるポリエーテルグリコールからな」り、「前記ポリプロピレングリコール」は、「前記ポリオール全量を基準として、25当量%以上95当量%以下であり」「数平均分子量が1500未満であり」、「前記ポリエーテルグリコール」は、「前記ポリオール全量を基準として、5当量%以上75当量%以下であり」「数平均分子量が2000未満である」のに対し、甲1発明はそのような特定がない点
・相違点3
主剤に関して、本件発明は「水を含有するものを除く」のに対し、甲1発明はそのような特定はない点。
そこで、相違点1について検討する。
まず、甲1発明のトリレンジイソシアネートに代えて、脂環式ポリイソシアネートを適用することが容易に想到し得るか否かについて検討する。
甲1発明は、トリレンジイソシアネートを用いることを前提とした請求項1を引用する請求項2に記載の組成物であり、トリレンジイソシアネートを用いた従来技術を改良したものであるから、甲1発明において、上記課題を解決するために必要な成分であるトリレンジイソシアネートを代える動機付けがあるとはいえず、むしろ阻害要因があるといえる。
したがって、甲1発明のトリレンジイソシアネートに代えて、脂環式ポリイソシアネートを適用することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
次に、甲1発明のトリレンジイソシアネートに加えて、脂環式ポリイソシアネートを適用することが容易に想到し得るか否かについて検討する。
甲1には、「イソシアネート基末端プレポリマーの製造に使用する前記TDI(当審注:トリレンジイソシアネートの略称である。)は、市販品として入手可能な2,4-異性体含有率が80~100質量%のTDIを用いることができる。また本発明の効果を損なわない範囲内において、他のジイソシアネート化合物を併用できる。他のジイソシアネート化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIともいう)、1,5-ナフタレンジイソシアネート等の一般的にポリウレタン樹脂の合成に用いられるポリイソシアネート化合物が挙げられる。」(【0041】)と記載されているが、他のジイソシアネート化合物として、「脂環式ポリイソシアネート」を用いることは記載されていない。
一方、甲2には、「ポリイソシアナートとポリオールからなるイソシアナート基末端プレポリマーを含む主剤と、芳香族ポリアミン、可塑剤および無機充填剤を含む硬化剤とからなり、JISA 6021(建築用塗膜防水材)のウレタンゴム系高強度形に該当し、施工性が良好でかつ汎用性のある2液型環境対応手塗り用ウレタン防水材」であること(【0018】)を発明が解決しようとする課題とすることが記載されており、「主剤にはポリイソシアナート成分として、従来ウレタン防水材用としてはあまり使用されてこなかった低反応性のIPDI(当審注:イソホロンジイソシアネートの略称である。)を、ポリオール成分としては低粘性で耐加水分解性に優れた汎用のポリオキシアルキレンポリオールを用い、一方の硬化剤側には高反応性の芳香族ポリアミンであるDETDAと、汎用性の可塑剤および充填剤を用い、主剤のイソシアナート基と硬化剤の芳香族アミノ基とを特定の当量比に配合すること」(【0018】)で上記課題を解決することが記載されていると解される。
しかしながら、甲2には、「本発明では、ポリイソシアナートとしてIPDI以外のポリイソシアナートを併用することもできる。」(【0049】)と記載されているが、「トリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナートといった芳香族ポリイソシアナートも一部使用することができるが、トリレンジイソシアナートは労働安全衛生法の特定化学物質であり、環境的な面より好ましくない。」(【0049】)ことも記載されている。
そうすると、甲1発明において、トリレンジイソシアネート以外の他のジイソシアネート化合物として、甲1に記載されていない「脂環式ポリイソシアネート」を積極的に用いる動機付けがあるとはいえないし、甲2には、IPDIと併用するポリイソシアネートとしてトリレンジイソシアネートが好ましくないと記載されていることから、甲2の記載を参酌しても、甲1発明において、トリレンジイソシアネート以外の他のジイソシアネート化合物として、IPDIを選択する動機付けがあるともいえない。
したがって、甲1発明のトリレンジイソシアネートに加えて、脂環式ポリイソシアネートを適用することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
以上のとおりであるから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
次に、上記相違点2について検討する。
甲1には、「イソシアネート基末端プレポリマーの製造に使用する前記ポリオキシアルキレンポリオールの含有量は、ポリオール全量基準で、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上が最も好ましい。」(【0032】)ことが記載されているが、甲1には、甲1発明のポリオキシアルキレンポリオール以外のポリオールについては、何ら記載も示唆もない。
そうすると、甲1には、甲1発明のポリオールとして、ポリオキシアルキレンポリオール及びポリプロピレングリコールを併用する動機付けとなる記載はないし、甲2及び甲3にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
なお、申立人は申立書の4ページ下から10行~5ページ11行において、甲1の段落【0002】及び【0032】の記載を根拠として、「甲第1号証には、ポリオールがポリプロピレングリコール30質量%以下及び一般式(I)で示されるポリオキシアルキレンポリオール70質量%以上を含む態様が記載又は示唆されている。」と主張している。
しかしながら、甲1の【0002】の記載は、従来技術の2液型ポリウレタン塗膜材用組成物の主剤であるイソシアネート基末端プレポリマーのポリオール成分として、ポリオキシプロピレングリコールが記載されているに過ぎず、当該記載をもって直ちに甲1発明のポリオールとして、ポリオキシアルキレンポリオールに加えて、ポリオキシプロピレングリコールを併用することが記載又は示唆されているとはいえないことから、当該主張は採用できない。
そして、本件発明1は、相違点1~3の発明特定事項を有することにより、「引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に優れた防水材を得ることができ、且つ、施工時に十分な可使時間を得ることができる」(【0010】)という効果を奏する。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4について
本件発明2~4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件発明2~4は、甲1発明及び甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由1についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】によると、本件発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に優れた防水材を得ることができ、且つ、施工時に十分な可使時間を得ることができる、主剤及び硬化剤を備えるセットを提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0015】及び【0016】には、「施工時の可使時間をより長くする観点、及び防水材の破断時の伸び率を向上させる観点」から、ポリプロピレングリコールの数平均分子量及び含有量を規定することが記載され、同【0017】~【0021】には、「引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に更に優れた防水材を得る観点」から、ポリエーテルグリコールの数平均分子量及び含有量を規定することが記載され、同【0032】には、「ポリイソシアネートとして脂環式ポリイソシアネートを用いることにより、施工時の可使時間を十分に長くすることができる。」と記載されており、ポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールを特定の割合で含有すること、特定の数平均分子量を有するポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールを用いること、並びに、脂環式ポリイソシアネートを用いることの技術的意味が具体的に記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0052】~【0062】には、ポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールを特定の割合で含有し、特定の数平均分子量を有するポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールを用い、脂環式ポリイソシアネートを用いた本件発明1に係る実施例1~4及び9のセットが、粘度が6万mPa・sに達するまでの時間が45分以上、10万mPa・sに達するまでの時間が55分以上、塗膜の引張強さ(Tb)が10N/mm2以上、引裂強さ(Tt)が30N/mm以上、及び抗張積(Tp)が700N/mm以上であり、上記発明の課題を解決するのに対し、ポリエーテルグリコールを含まないセットである比較例1が、Tbが10N/mm2以上を満足せず、ポリプロピレングリコールを含まないセットである比較例2、数平均分子量が1500以上のポリプロピレングリコールを含むセットである比較例3及び4、並びに、数平均分子量が2000以上のポリエーテルグリコールを含むセットである比較例5及び6、脂環式ポリイソシアネートを含まないセットである比較例7~11が、粘度が6万mPa・sに達するまでの時間が45分以上及び10万mPa・sに達するまでの時間が55分以上の両方を満足せず、上記発明の課題を解決しないことを確認できる記載もある。
そうすると、当業者は、ポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールを特定の割合で含有し、特定の数平均分子量を有するポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールを用い、脂環式ポリイソシアネートを用いるセットである本件発明1により、上記発明の課題を解決できると認識でき、本件発明2~4は、当該セット、防水材及び防水材の施工方法としてさらに限定したものである。
よって、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件発明1~4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)申立人の主張について
ア 上記第3の1(2)アの主張について
申立人は、上記第3の1(2)アのとおり主張するが、上記(2)で述べたとおり、本件特許の発明の詳細な説明の【0032】には、脂環式ポリイソシアネートを選択することによる技術的意味が具体的に記載されているところ、イソホロンジイソシアネート以外の脂環式ポリイソシアネートを用いた場合であっても上記発明の課題が解決しないことについて、何ら具体的な証拠を示していないことから、上記主張は上記(2)の判断に影響するものではない。
イ 上記第3の1(2)イ、ウ及びエの主張について
申立人は、上記第3の1(2)イ、ウ及びエのとおり主張するが、上記(2)で述べたとおり、ポリプロピレングリコールやポリエーテルグリコールの数平均分子量及び含有量、脂環式ポリイソシアネートを用いることにより課題を解決できることが発明の詳細な説明に記載されているところ、ポリアミンの種類、主剤のNCO含量及びNCO/OH比、並びに、硬化剤の成分によっては、ポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールを特定の割合で含有し、特定の数平均分子量を有するポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールを用い、脂環式ポリイソシアネートを用いた場合であっても、上記発明の課題が解決しないことについて、何ら具体的な証拠を示していないことから、上記主張は上記(2)の判断に影響するものではない。
(4)申立理由2についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由2はその理由がない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件発明1~3は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が発明の詳細な説明の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。また、本件発明4は方法の発明であるところ、方法の発明にあっては、過度の試行錯誤を要することなく、 その方法を使用できる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1~3の物について、セットを構成する主剤及び硬化剤の成分がその製造方法を含めて具体的に記載され(【0014】~【0021】、【0029】~【0041】)、ここで、硬化剤として、架橋剤の他に、可塑剤等の添加剤を使用する場合は技術常識にしたがって行えばよく、可塑剤等の添加剤について明細書に具体的な記載がないから当業者が実施できないとはいえず、さらに、防水材についてもその物性及びその製造方法を含めて具体的に記載されている(【0042】~【0045】)。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明4の方法について、防水材の施工方法が具体的に記載されている(【0045】~【0049】)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例である実施例1~4及び9についても、セットの製造方法、防水材の製造方法及び防水材の施工方法を含め具体的に記載されている(【0052】~【0062】)。
したがって、本件発明1~3について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえるし、本件発明4について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できる程度の記載があるといえる。
よって、本件発明1~4に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記第3の1(3)のとおり主張するが、上記(2)で述べたとおり、当業者であれば、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1及び2のセット並びに本件発明3の防水材が得られるものと理解でき、また、本件発明4の防水材の施工方法を実施できるものと理解できる。
そして、「請求項1及び実施例には、ウレタン防水塗膜に於いて一般的に硬化剤に用いられる可塑剤、無機充填剤等に関する記載が一切ない。」としても、一般的に硬化剤に用いられる可塑剤、無機充填剤等の成分は本件出願時に知られたものであり、本件出願時の技術常識を考慮すれば、当業者であれば実施できると理解できることから、上記主張は上記(2)の判断には影響しない。
(4)申立理由3についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3はその理由がない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1~4に係る特許は、申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700499