特許異議申立
2024-700985
床材
- 審判番号
- 2024-700985
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-170446
- 登録番号
- 7465621
- 請求日
- 2024年10月09日
- 審決日
- 2026年04月20日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東リ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人藤本パートナーズ
- 【異議申立人】齋藤 聡子
- 【異議申立人】三和 優子
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 西田 秀彦
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.121-YAA(E04F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7465621号発明「コンポジション床材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7465621号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7465621号の請求項1、3、5及び6に係る特許を維持する。
特許第7465621号の請求項2及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7465621号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和5年9月29日(優先権主張 令和4年10月25日)に出願され、令和6年4月3日にその特許権の設定登録がされ、同月11日に特許掲載公報が発行された。
その後の本件特許異議の申立ての概要は、次のとおりである。
令和6年10月 9日 :特許異議申立人齋藤 聡子(以下「申立人
A」という。)による請求項1~6に係る特
許に対する特許異議の申立て
同日 :特許異議申立人三和 優子(以下「申立人
B」という。)による請求項1~6に係る特
許に対する特許異議の申立て
同年12月26日付け:取消理由通知書
令和7年 3月10日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 3月24日付け:手続補正指令書(方式)
同年 4月18日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年 5月12日付け:訂正拒絶理由通知書
同年 6月10日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出
同年 6月27日付け:手続補正指令書(方式)
同年 7月11日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年 9月 5日 :申立人Aによる意見書の提出
同日 :申立人Bによる意見書の提出
同年10月 6日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年12月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和8年 2月 5日 :申立人Aによる意見書の提出
同日 :申立人Bによる意見書の提出
なお、令和7年3月10日にされた訂正の請求は、同年12月5日に新たな訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす(特許法120条の5第7項)。
第2 訂正の適否
1 令和7年12月5日提出の訂正請求書による訂正の内容
令和7年12月5日提出の訂正請求書による訂正の内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「樹脂層を有する床材本体を備える床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記樹脂層は、前記卵殻粉末を5質量%以上含有し、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成している、
床材。」と記載されているのを、
「樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであり、
前記樹脂層は、前記卵殻粉末を25質量%以上含有し、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており、
加熱混練後の前記熱可塑性樹脂組成物により構成された樹脂シートから切り出されたタイル状であるコンポジション床材。」に訂正する(請求項1の記載を直接的に引用する請求項5及び6も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「樹脂層を有する床材本体を備える床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成している、
床材(ただし、床材が木質材料であるセルロース系成分を含む場合を除く)。」と記載されているのを、
「樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであり、
前記樹脂層は、前記卵殻粉末を25質量%以上含有し、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており、
加熱混練後の前記熱可塑性樹脂組成物により構成された樹脂シートから切り出されたタイル状であるコンポジション床材(ただし、床材が木質材料であるセルロース系成分を含む場合を除く)。」に訂正する(請求項3の記載を直接的に引用する請求項5及び6も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「安定剤をさらに含む
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の床材。」と記載されているのを、
「安定剤をさらに含む
請求項1又は請求項3に記載のコンポジション床材。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「180℃で40分間加熱する前において、L *a *b *表色系で規定されるL *値をL1*とし、a *値をa1*とし、b *値をb1*とし、
180℃で40分間加熱した後において、L *a *b *表色系で規定されるL *値をL2*とし、a *値をa2*とし、b *値をb2*としたときに、
下記式(1)で算出される前記樹脂層の色差ΔE 40minの値が8以下である
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の床材。
【数1】
[図:0001437354000001.jpg]
」
と記載されているのを、
「180℃で40分間加熱する前において、L *a *b *表色系で規定されるL *値をL1*とし、a *値をa1*とし、b *値をb1*とし、
180℃で40分間加熱した後において、L *a *b *表色系で規定されるL *値をL2*とし、a *値をa2*とし、b *値をb2*としたときに、
下記式(1)で算出される前記樹脂層の色差ΔE 40minの値が8以下である
請求項1又は請求項3に記載のコンポジション床材。
【数1】
[図:0001437354000002.jpg]
」
に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の発明の名称に「床材」と記載されているのを、
「コンポジション床材」に訂正する。
(8)訂正事項8
(訂正事項8-1)
明細書の段落0011に「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例10」、「実施例11」、「実施例12」、「実施例20」、「実施例21」、「実施例22」、「実施例23」、「実施例24」、「実施例25」、「実施例26」、「実施例27」及び「実施例28」と記載されているのを、この順で、「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」、「参考例10」、「参考例11」、「参考例12」、「参考例20」、「参考例21」、「参考例22」、「参考例23」、「参考例24」、「参考例25」、「参考例26」、「参考例27」及び「参考例28」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-2)
明細書の段落0064に「実施例および比較例」と記載されているのを、「実施例、参考例および比較例」に訂正する。
(訂正事項8-3)
明細書の段落0065に「実施例1」と八箇所記載されているのを、「参考例1」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-4)
明細書の段落0066に「実施例2乃至9」と三箇所記載されているのを、「参考例2、参考例3及び実施例4乃至9」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-5)
明細書の段落0067の表1Aに「実施例1」、「実施例2」及び「実施例3」と記載されているのを、この順で、「参考例1」、「参考例2」及び「参考例3」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-6)
明細書の段落0069に「実施例10乃至18」と三箇所記載され、「実施例1」と記載されているのを、この順で、「参考例10乃至12及び実施例13乃至18」、「参考例1」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-7)
明細書の段落0070の表1Bに「実施例10」、「実施例11」及び「実施例12」と記載されているのを、この順で、「参考例10」、「参考例11」及び「参考例12」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-8)
明細書の段落0071に「実施例1」と記載されているのを、「参考例1」に訂正する。
(訂正事項8-9)
明細書の段落0073に「実施例1乃至18」と記載されているのを、「参考例1乃至3、実施例4乃至9、参考例10乃至12、実施例13乃至18」に訂正する。
(訂正事項8-10)
明細書の段落0074の表2Aに「実施例1」、「実施例2」及び「実施例3」と記載されているのを、この順で、「参考例1」、「参考例2」及び「参考例3」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-11)
明細書の段落0075の表2Bに「実施例10」、「実施例11」及び「実施例12」と記載されているのを、この順で、「参考例10」、「参考例11」及び「参考例12」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-12)
明細書の段落0078に「実施例1乃至18」と二箇所記載されているのを、「参考例1乃至3、実施例4乃至9、参考例10乃至12、実施例13乃至18」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-13)
明細書の段落0079に「実施例1」と記載されているのを、「参考例1」に訂正する。
(訂正事項8-14)
明細書の段落0081において、「実施例20乃至28」と五箇所記載されているのを「参考例20乃至28」にそれぞれ訂正し、且つ、「実施例1と同様」及び「実施例1乃至9」と記載されているのをこの順で「参考例1と同様」及び「参考例1乃至3及び実施例4乃至9」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-15)
明細書の段落0082の表4に「実施例20」、「実施例21」、「実施例22」、「実施例23」、「実施例24」、「実施例25」、「実施例26」、「実施例27」及び「実施例28」と記載されているのを、この順で、「参考例20」、「参考例21」、「参考例22」、「参考例23」、「参考例24」、「参考例25」、「参考例26」、「参考例27」及び「参考例28」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-16)
明細書の段落0083に「実施例20乃至28」と記載されているのを、「参考例20乃至28」に訂正する。
(訂正事項8-17)
明細書の段落0084の表5 に「実施例20」、「実施例21」、「実施例22」、「実施例23」、「実施例24」、「実施例25」、「実施例26」、「実施例27」及び「実施例28」と記載されているのを、この順で、「参考例20」、「参考例21」、「参考例22」、「参考例23」、「参考例24」、「参考例25」、「参考例26」、「参考例27」及び「参考例28」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-18)
明細書の段落0085に「実施例20乃至28」、「実施例20乃至25」及び「実施例1乃至6」と記載されているのを、この順で、「参考例20乃至28」、「参考例20乃至25」及び「参考例1乃至3及び実施例4乃至6」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-19)
明細書の段落0086に「図27乃至35には、実施例20乃至28の各例に係る樹脂シート」及び「実施例27乃至35の各例に係る樹脂シート(図27乃至図35)」と記載されているのを、この順で、「図27乃至35には、参考例20乃至28の各例に係る樹脂シート」及び「参考例20乃至28の各例に係る樹脂シート(図27乃至図35)」」にそれぞれ訂正する。
(訂正事項8-20)
明細書の段落0073に「色差ΔE10min、色差ΔE20min、色差ΔE30min、及び、色差ΔE40minは、実施例の項で説明した手順にしたがって求めた。」と記載されているのを、「色差ΔE10min、色差ΔE20min、色差ΔE30min、及び、色差ΔE40minは、発明を実施するための形態の項で説明した手順にしたがって求めた。」に訂正する。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「床材」を「コンポジション床材」に限定するとともに、さらに、コンポジション床材が「加熱混練後の前記熱可塑性樹脂組成物により構成された樹脂シートから切り出されたタイル状であるコンポジション床材」であることを特定して限定し、「卵殻粉末」について、訂正前の請求項1においては卵殻粉末の大きさ及び質量割合について特定されていなかったものを、「前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むもの」に特定して限定し、樹脂層が含有する卵殻粉末の量について、訂正前の請求項1においては「5質量%以上」であったものを、「25質量%以上」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
イ 新規事項の有無
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲、図面とあわせて「本件明細書等」という。)の段落【0014】には、床材について、「床材10は、樹脂層2で構成された床材本体1のみを備える単層構造であり、いわゆる、コンポジション床材と呼ばれるものである。」と記載され、段落【0016】には、「床材10は、樹脂層2として、混練機(バンバリーミキサーやミルロールなど)を用いて前記熱可塑性樹脂組成物を混練した後、圧延装置(カレンダーロールなど)を用いて混練後の前記熱可塑性樹脂組成物を圧延することにより製造される樹脂シートを備えるものであってもよい。樹脂層2は、一枚の樹脂シートから所定の寸法を有するように切り出された小片のシート体であってもよい。・・・樹脂層2は、平面視において正方形状を有するものであってもよい・・・床材10が平面視において正方形状を有する樹脂層2で構成された床材本体1を備える場合、このような床材10は、通常、タイル状床材と称される」と記載され、また、段落【0049】には、「・・・バンバリーミキサー110に供給された熱可塑性樹脂組成物Pは、混練室111内で所定の温度で加熱されながら、一対のローラ112a,112bによって混練される(加熱混練される)。」と記載されている。
卵殻粉末の大きさについて、本件明細書の段落【0025】には、「前記卵殻粉末は、目開き840μmの篩を通過し、目開き420μmの篩の上に残存する粉末を、前記卵殻粉末の全体の質量に対して、・・・50質量%以上の質量割合で含んでいてもよい。・・・」と記載され、本件明細書の段落【0026】には、「前記卵殻粉末は、目開き1410μmの篩を通過し、目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を、前記卵殻粉末の全体の質量に対して、・・・30質量%以上の質量割合で含んでいてもよい。・・・」と記載されている。
樹脂層が含有する卵殻粉末の量について、本件明細書の段落【0024】には、「樹脂層2の変色を抑える観点では、本実施形態に係る床材10において、樹脂層2は、前記卵殻粉末を5質量%以上含有していることが好ましく、・・・25質量%以上含有していることがより好ましく、・・・」と記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記アのとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。また、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正と同様の訂正であり、上記(1)において検討したのと同様、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新たな技術的事項を導入しないものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。また、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項5が請求項1から請求項3のいずれか一項を引用していたものを、請求項2を引用しないものとするとともに、訂正前の請求項5の「床材」を「コンポジション床材」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0014】には、床材について、「床材10は、樹脂層2で構成された床材本体1のみを備える単層構造であり、いわゆる、コンポジション床材と呼ばれるものである。」と記載されている。
したがって、訂正事項5に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、上記アのとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項5に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6が請求項1から請求項3のいずれか一項を引用していたものを、請求項2を引用しないものとするとともに、訂正前の請求項6の「床材」を「コンポジション床材」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0014】には、床材について、「床材10は、樹脂層2で構成された床材本体1のみを備える単層構造であり、いわゆる、コンポジション床材と呼ばれるものである。」と記載されている。
したがって、訂正事項6に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、上記アのとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項6に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(7)訂正事項7について
訂正事項7に係る訂正は、訂正事項1、3、5及び6に係る訂正によって特許請求の範囲の請求項1~6の「床材」が「コンポジション床材」と訂正されたことに伴って、明細書の発明の名称の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(8)訂正事項8について
訂正事項8に係る訂正のうち、訂正事項8-1~訂正事項8-18、訂正事項8-20に係る訂正は、訂正事項1~6に係る訂正によって、訂正後の特許請求の範囲において請求項2、4が削除され、請求項1、3が独立請求項として訂正され、請求項4及び6が、それぞれ、請求項1または3を引用する請求項とされるとともに、訂正後の請求項1及び3において、樹脂層における卵殻粉末の含有量が25質量%以上と特定され、また、卵殻粉末の大きさについて、所定の目開きの篩を通過し、残存する粉末の割合によって特定されたことにより、本件明細書の実施例1~3、10~12、20~28の卵殻粉末が請求項1、3によって特定される床材の卵殻粉末とはならないものとなったことと整合させるために、実施例1~3、10~12、20~28を、それぞれ、参考例1~3、10~12、20~28とし、本件明細書の段落0064に「実施例および比較例」と記載されているのを、「実施例、参考例および比較例」とし、本件明細書の段落0073に「・・・実施例の項で説明した手順にしたがって求めた。」と記載されているのを、「・・・発明を実施するための形態の項で説明した手順にしたがって求めた。」とするものであり、訂正事項8-19に係る訂正は、訂正事項8-1~訂正事項8-18、訂正事項8-20に係る訂正と同様、「実施例」と記載されていたのを「参考例」とするとともに、段落0086内の「図27乃至35には、実施例20乃至28の各例に係る樹脂シート」との記載や段落0011の図面の簡単な説明における図27~35の記載と整合をとるために、訂正前において「実施例27乃至35」と記載されていたのを「参考例20乃至28」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、当該明細書の訂正が、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(9)訂正の単位(一群の請求項)について
訂正前の請求項1~6について、請求項1~4は、それぞれ、訂正事項1~4に係る訂正により訂正されているところ、特許法120条の5第4項で規定される引用関係の規定から、請求項1と5、請求項1と6、請求項2と4、請求項2と5、請求項2と6、請求項3と4、請求項3と5、請求項3と6は、それぞれ「一群の請求項」である。
そして、これらの「一群の請求項」は、共通する請求項を介して特許法施行規則45条の4に規定する連関している関係を有し、全体として特許請求の範囲の全部を形成するように連関している関係にあるから、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項〔1-6〕は一群の請求項である。
3 訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で示したとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ、請求項番号により「本件発明1」等といい、これらを併せて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであり、
前記樹脂層は、前記卵殻粉末を25質量%以上含有し、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており、
加熱混練後の前記熱可塑性樹脂組成物により構成された樹脂シートから切り出されたタイル状であるコンポジション床材。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであり、
前記樹脂層は、前記卵殻粉末を25質量%以上含有し、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており、
加熱混練後の前記熱可塑性樹脂組成物により構成された樹脂シートから切り出されたタイル状であるコンポジション床材(ただし、床材が木質材料であるセルロース系成分を含む場合を除く)。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
安定剤をさらに含む
請求項1又は請求項3に記載のコンポジション床材。
【請求項6】
180℃で40分間加熱する前において、L*a*b*表色系で規定されるL*値をL1*とし、a*値をa1*とし、b*値をb1*とし、
180℃で40分間加熱した後において、L*a*b*表色系で規定されるL*値をL2*とし、a*値をa2*とし、b*値をb2*としたときに、
下記式(1)で算出される前記樹脂層の色差ΔE40minの値が8以下である
請求項1又は請求項3に記載のコンポジション床材。
【数1】
[図:0001437354000003.jpg]
第4 特許異議申立理由の概要、取消理由の概要及び証拠
1 特許異議申立理由の概要
(1)申立人Aによる特許異議の申立て
申立人Aが特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
ア 甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如
本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 証拠
申立人Aが提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開昭59-220555号公報
甲第2号証 K. Ganesan et.al. “Assessment on hybrid jute/coir fibers reinforced polyester composite with hybrid fillers under different environmental conditions”,Construction and Building Materials,ELSEVIER,2021年7月6日オンライン公開
以下、申立人Aが提出した甲第1号証、甲第2号証を、それぞれ、甲A1、甲A2という。
(2)申立人Bによる特許異議の申立て
申立人Bが特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
ア 甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如
本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如
本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 証拠
申立人Bが提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証 小坂田史雄、「解説 塩ビ系プラスチック建材のリサイクル」、成形加工 第24巻第12号、692~697頁、2012年11月20日
甲第2号証 国際公開第2021/059252号
甲第3号証 「自然由来の素材を用いた高意匠の単層タイル LCT(Luxury Calcium carbonate Tile)シリーズ 新発売のご案内」、[online]URL: https://kyodonewsprwire.jp/release/202206102384
以下、申立人Bが提出した甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証を、それぞれ、甲B1、甲B2、甲B3という。
2 取消理由について
(1)取消理由の概要
当審において、令和7年7月11日提出の手続補正書(方式)により補正された令和7年6月10日提出の手続補正書(方式)により補正された令和7年3月10日提出の訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項1、2、5及び6に対して、令和7年10月6日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(進歩性)本件特許の請求項1、2、5及び6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当するから、取り消されるべきものである。
(2)証拠
取消理由(決定の予告)において引用した証拠は以下のとおりである。
甲A1 特開昭59-220555号公報
甲A2 K. Ganesan et.al. “Assessment on hybrid jute/coir fibers reinforced polyester composite with hybrid fillers under different environmental conditions”,Construction and Building Materials,ELSEVIER,2021年7月6日オンライン公開
甲B1 小坂田史雄、「解説 塩ビ系プラスチック建材のリサイクル」、成形加工 第24巻第12号、692~697頁、2012年11月20日
甲B2 国際公開第2021/059252号
甲B3 「自然由来の素材を用いた高意匠の単層タイル LCT(Luxury Calcium carbonate Tile)シリーズ 新発売のご案内」、[online]URL: https://kyodonewsprwire.jp/release/202206102384
乙第4号証 O.J.Gbadeyan et.al, “Studies on the mechanical and absorption properties of achatina fulica snail and eggshells reinforced composite materials” Composite Structures 2020年2月5日公開
第5 当審の判断
1 証拠の記載
(1)甲A1
ア 記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に頒布された甲1には、以下の記載がある(下線は、当審において付した。以下、同様。)。
(ア)「本発明は充填剤として、アスベストを含まず、樹脂酸で処理された炭酸カルシウムをポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して4~440重量部含有したことを特徴とするビニル床タイルに係る。
本発明に使用するポリ塩化ビニル樹脂(PVC)は塩化ビニルのホモポリマーでも良く、また塩化ビニルとエチレン、プロピレン、酢酸ビニル、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはこれらのエステル等の他のモノマーとのコポリマーでも良い。
・・・
上記で用いられる炭酸カルシウムは通常その粒度が約0.02~350μ、好ましくは約0.02~10μ、更に好ましくは約0.04~0.2μのものが使用される。」(1頁右下欄最下行~2頁右上欄14行)
(イ)「本発明では他の添加剤として従来のPVC系床材に使用されている1次可塑剤、安定剤、着色剤等を配合することも任意である。」(2頁左下欄15~17行)
(ウ)「本発明床タイルの製造方法は前記の如く、PVCに可塑剤、安定剤、着色剤等と共に前記本発明の効果を発揮すべく処理炭カルと他の充填剤を配合した配合組成物を例えばリボンブレンダー等により混合し、次いでバンバリーミキサ-等によつて加熱混練し、更に所定温度に保たれたミキシングロールで捏練し、続いて所定温度に保持されたカレンダーロールを通過させて所定厚みのシート素材を製造する。ここでミキシングロール、カレンダーロールの加熱温度は原料の塩化ビニル系樹脂の種類や原料各成分の配合割合等によつて適宜定められるものであるが、一般にこの温度は150~180℃の間に定められる場合が多い。
このシート素材は一定寸法例えば 303mm×303mm等に切抜けばこのままでも床または壁用被覆材料となるものである。」(2頁右下欄3行~最下行)
(エ)「以下に実施例、比較例を挙げて説明する。
実施例1~5及び比較例1~3
第1表の配合組成物を180℃のバンバリーミキサーにて粗混練し、160℃のミキシングロールで仕上げ混練し、次いでカレンダーロールで圧延して2mm厚のシートを得た。このシートを130℃の炉中でアニーリングを行い、室温に冷却後、1辺が303mmの正方形に打抜いて床タイルを得た。得られた床タイルの諸物性をJIS A 5705及びFS (Federal Specifications 、LF-001641、GSA-FSS)規格に基づいて測定し、その結果を第2表に示した。」(3頁左上欄17行~右上欄9行)
(オ)第1表(3頁左下欄)
「
[図:0001437354000004.jpg]
」
(カ)第2表(3頁右下欄)
「
[図:0001437354000005.jpg]
」
(キ)上記(エ)の「第1表の配合組成物」に関し、上記(オ)の第1表からは、配合組成物は、PVC、可塑剤(DOP)、安定剤(メラミン系)または安定剤(Ba-Zn系)、処理炭カル、未処理炭酸カルシウムを含むことが読み取れる。
イ 甲A1発明
上記アより、甲A1には、以下の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲A1発明)
PVC、可塑剤(DOP)、安定剤(メラミン系)または安定剤(Ba-Zn系)、処理炭カル、未処理炭酸カルシウムを含む配合組成物を180℃のバンバリーミキサーにて粗混練し、160℃のミキシングロールで仕上げ混練し、次いでカレンダーロールで圧延して2mm厚のシートを得、このシートを130℃の炉中でアニーリングを行い、室温に冷却後、1辺が303mmの正方形に打抜いて得た床タイルであって、
炭酸カルシウムは通常その粒度が約0.02~350μのものが使用される、床タイル。
(2)甲A2
ア 記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A2には、次の記載がある。なお、括弧内は、申立人Aが提出した抄訳文を参考にして作成した当審訳である。
(ア)「eggshell powder (ESP)is an inorganic bio-filler and suitable reinforcement in plastic/polymer composites. ESP can be a suitable alternative for CaCO3 due to its characteristics, such as good tensile, compressive strengths and low water-uptake.
(訳:卵殻粉末(ESP)は無機バイオ充填材であり、プラスチック/ポリマー複合材料の補強に適している。ESPは、優れた引張強度、圧縮強度、低吸水性などの特性により、CaCO3の適切な代替品となる。)」
(2頁左欄下から2行~右欄3行)
イ 甲A2記載事項
上記アより、甲A2には、以下の事項(以下「甲A2記載事項」という、)が記載されている。
(甲A2記載事項)
卵殻粉末(ESP)は、プラスチックの補強に適しており、優れた引張強度、圧縮強度、低吸水性などの特性により、CaCO3の適切な代替品となること。
(3)甲B1
ア 記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に頒布された甲B1には、次の記載がある。
(ア)「3.塩ビの特質
塩ビは極性の強い塩素原子を有し分子間力が強いため硬い樹脂となり,汎用プラスチックの中では機械強度が最も大きい.また,塩素原子を含む化合物に共通にみられる,化学的に安定で種々の薬品に耐える,空気中の酸素による酸化劣化を受けにくく耐久性に優れる,特に難燃剤を加えなくても燃え難く自己消火性がある,など長期に使用する建材用途に好ましい特質を備えている.さらに,塩ビは,大きい塩素原子により非結晶性で分極し易い構造となるため,有機物から無機物まで幅広い物質と良く混ざり合うようになる.この相溶性の良さは塩ビの最大の長所である.この特性を利用し様々な配合剤を加える事で硬質を軟質へと変化させたり,安定性に係わる塩ビ自身の欠点を克服することができる.表1に塩ビの長所と短所をまとめた.
可塑剤は塩ビの硬度を変化させることができる代表的な配合剤である.可塑剤の添加により分子の滑りを良くし,柔軟性が増す.これはポリマーの分子間に可塑剤が入り込み分子間を広げた構造となり,分子間力が相対的に弱くなるためと考えられている.可塑剤の配合量を調整する事で,硬度を任意に変えることができる.可塑剤が入っていない製品は硬質塩ビ製品,可塑剤が入った製品は軟質塩ビ製品と呼ばれる.硬質塩ビ製品は耐薬品性,耐候性,クリープ特性,機械的強度などに優れるため,排水・下水管,工場配管,窓枠,雨樋などに使用されている。軟質塩ビ製品は,耐久性,難燃性,印刷性,彩色性などに優れるため多様なデザインの壁紙や床材に使用されている.
塩ビの欠点は,熱や光に不安定で分解が生じることである.成形加工時の加熱,混練などの処理で170~180℃程度の温度になると脱塩化水素反応を連鎖的に起こし分解に至る。しかし,相溶性を利用し熱安定剤をポリマー重量の3%程度あらかじめ配合することにより,これを防止できる.安定剤には主に金属有機酸化合物(カルシウム-亜鉛系,バリウム-亜鉛系,鉛系等)が用途により必ず使用されている.また,塩ビは製品の使用段階でもわずかであるが光(紫外線)や空気中の酸素により脱塩化水素が生じ着色や劣化を起こす。これを防ぐために,紫外線吸収剤や酸化防止剤が安定剤と共に使用されている.これらの添加は,熱安定性,耐候性を得るための基本的な配含となる.これに製品ごとの要求物性,例えば,弾性,耐衝撃性,防炎性等を,それらの目的に合った様々な添加剤,改質剤の配合あるいはポリマーアロイ化により付与できる。他のプラスチックでも配合剤により多少の品質調整はできるが,相溶牲の制限から塩ビほど自由ではない.」(693頁左欄2~30行)
(イ)表1
「
[図:0001437354000006.jpg]
」
(ウ)「6.塩ビ建材製品ごとの特徴とリサイクル状況
・・・
6.2 ビニル系床材・タイルカーペット
・・・ビニル系床材は表面に塩ビの透明層,印刷層,中間に発泡塩ビ層,下地にガラス等の基布からなる多層構造を有している.
・・・
もう一つの主要な床材であるタイルカーペットは,一般にポリエステルなどの基布にパイル(糸の束)を刺繍し,塩ビのパッキング層で裏打ちした複層構造のため・・・」(694頁右欄1行~695頁左欄17行)
イ 甲B1発明
上記アより、甲B1には、以下の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲B1発明)
可塑剤が入った製品である軟質塩ビ製品が使用されている床材であって、
熱や光に不安定で分解が生じることである塩ビの欠点は、熱安定剤をポリマー重量の3%程度あらかじめ配合することにより、これを防止でき、
ビニル系床材は表面に塩ビの透明層,印刷層,中間に発泡塩ビ層,下地にガラス等の基布からなる多層構造を有しており、タイルカーペットは,一般にポリエステルなどの基布にパイル(糸の束)を刺繍し,塩ビのパッキング層で裏打ちした複層構造である、床材。
(4)甲B2
ア 記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に発行された甲B2には、次の記載がある。なお、括弧内は、申立人Bが提出した抄訳文を参考にして作成した当審訳である。
(ア)「[0001] The present disclosure relates to the use of eggshell particles as a polymer thermal stabilizer, preferably as a poly(vinyl chloride) (PVC) thermal stabilizer; also to a flexible material comprising a multi-layered PVC-based material, method of obtaining and uses thereof.(訳:
[0001]本開示は、ポリマー熱安定剤として、好ましくはポリ(塩化ビニル)(PVC)熱安定剤としての卵殻粒子の使用、多層PVC系材料を含む可撓性材料、その取得の方法及びそれらの使用に関する。)」
(イ)「[0011] Moreover, the present subject-matter describes a technical solution to prevent PVC yellowing by using a natural-origin solvent-free thermal stabilizer. Furthermore, this natural-origin solvent-free additive also proved to reduce VOC emissions from the multi layered PVC-based composites.
[0012] The material of the present disclosure surprisingly shows an improved PVC thermal stability, as well as reduces VOC emissions; and also maintaining the aging resistance of the material.
・・・
[0014] The material of the present disclosure has the advantage of using an industrial food waste, namely eggshell particles, as a surprisingly efficient thermal stabilizer, reduces VOC and FOG emissions, maintaining the colour fastness and improves the aging resistance of the material.
(訳:
[0011]また、本発明の主題は、天然由来の溶剤を含まない熱安定剤を用いてPVCの黄変を防止するための技術的解決策を提示する。更に、天然由来の溶剤不含の添加剤は、多層PVC系複合物からのVOCの放出を減少させることが証明された。
[0012]また、本発明の材料は、驚くべきことに、改良されたPVCの熱安定性を示し、且つ、VOC放出を低減すると、材料の耐老化性も維持する。
・・・
[0014]また、本発明の材料は、食品産業廃棄物、即ち、卵殻粒子を驚くほど効率的な熱安定剤として、VOC及びFOG放出を低減させ、耐変色性を維持し、材料の耐老化性を改善するのに使用するという利点を有する。)」
(ウ)「[0015] In an embodiment, for better results, the amount of eggshell particles of the PVC layer is up to 20% (wt eggshell /wt pvc iayer),preferably is up to 10 % (wt eggshell/wt PVC layer).
(訳:
[0015]一態様において、良好な結果を得るために、PVC層の卵殻粒子の量は、最大20%(卵殻重量/PVC層重量)であることが好ましく、10%(卵殻重量/PVC層重量)以下である。)」
(エ)「[0017] In an embodiment, for better results, the heat aging is graded as 4-5, using grey scale according ISO 105-A02:1993/Cor 2:2005. In an embodiment, the heat aging of PVC films (3 x 2) cm can be measured by different methods; in the present, the measurement of the heat aging of PVC films was performed using a ventilated oven at 100 °C for 240 h and 500 hand evaluated through periodic colour measurements. Colour measurement swere performed using a Colour Spectrophotometer: film specimenswere placed on a white standard plate and the lightness (L) and chromaticity parameters "a" (red-green) and "b"(yellow-blue) were measured. Greyscale result is the evaluation of differences in colour shading of a material's appearance. Grey scale is used in the assessment of change in colour, occurring in both heat aging testing, as described in ISO 105-A02:1993/Cor 2:2005. A tool, known as a grey scale, is used to visually assess and compare the change of colour of a specimen by identifying a half-step rating from 5 to 1, corresponding 5 to small colour change and 1 to a strong colour change. This grey scale includes also half-step values. Using the Spectrophotometer, three measurements were taken on different locations of each sample (3 x 2) cm and the averages were used for data analysis. DL, Da, and Db are the difference from initial and final values of "L", "a", and "b" during heat aging experiments.
(訳:
[0017]一態様において、良好な結果を得るために、熱老化は4-5と等級付けされ、ISO規格105A02:1993/Cor1-2:2005に従ったグレースケールを使用している。一実施形態では、PVCフィルム(3 x 2)cmの熱老化は、異なる方法によって測定することができ、本発明には、PVCフィルムの熱老化の測定は、換気式オーブンを用いて100℃で240時間および500時間で実施され、周期的な色測定を介して評価した。色の測定は分光光度計を用いて行った:フィルム試料は、白色標準板と明度(L)および色度パラメータ「a」の上に置いた(赤-緑)、「b」(黄-青)を測定した。グレースケールの結果は、材料の外観の色シェーディング差の評価である。グレースケールは色、熱老化試験中に生じる変化の評価に使用される、105-A02-1993/Cor.2:2005に記載されている。また、グレースケールとして知られ、この工具は、5~1、5および1からの強い色変化のハーフステップへ定格を特定することにより、試料の色の変化を評価し、視覚的に比較するために使用される。このグレースケールは、半ステップ値を含む。分光光度計を使用して、各試料(3 x 2)cmの異なる場所で行った3回の測定の平均を、データ分析のために使用した。DL,Da,Dbは、熱老化実験の間「L」、「a」、及び「b」の初期値と最終値との差である。)」
(オ)「[0052] The present disclosure relates to the use of eggshell particles as a polymer thermal stabilizer, preferably as a poly(vinyl chloride) (PVC) thermal stabilizer; also to a flexible material comprising a multi-layered PVC-based material, method of obtaining and uses thereof.
・・・
[0054] The degradation of PVC can occur when it is exposed to radiation and/or high temperature due to dehydrochlorination, auto-oxidation, mechanical-chemical chain scission, crosslinking and condensation reactions that may cause the release of hydrogen chloride (HCI),accompanied by the formation of polyenic sequences and cross-links in PVC chains, resulting in a rapid degradation process, usually revealed by a change in PVC colour from white to yellow or dark brown. Thermal stabilizers are used to
control PVC thermal degradation. An aspect of the present subject matter disclosed the use of natural-origin thermal stabilizers to produce a thermally stable multi-layered PVC-based material replacing commercial solvent-based stabilizers. Also, the combination with expanding microspheres allows a material which is ADCA free. In an embodiment, the PVC foamed layer is preferably ADCA free and can be produced by the incorporation
of chemical or physical blowing agents, more specifically microspheres.
(訳:
[0052]本開示は、卵殻粒子をポリマーの熱安定剤として、好ましくはポリ塩化ビニル(PVC)の熱安定剤として用いることに関するものである。また、多層構造のPVC系柔軟材料、それを得る方法およびその用途にも関するものである。
・・・
[0054]PVCの分解は、白色から黄色または暗褐色に急速な劣化プロセスに生じるポリエン配列の生成およびPVC鎖のクロスリンクを伴って、塩化水素(HCL)の放出を引き起こす可能性がある脱塩化水素化、酸化、機械化学的鎖切断、架橋及び縮合反応による放射及び/又は高温に晒されることから、通常のPVCの色の変化によって明らかになる場合に生じ得る。熱安定剤は、PVCの熱分解を制御するために使用される。市販の溶媒ベースの安定剤を熱的に安定な多層PVCベースの材料を製造するために天然由来の熱安定剤を使用することが開示されている本発明の態様である。また、微小球を膨張させると組み合わせられるADCAを含まない材料を可能にする。一実施形態では、PVC発泡体層は、好ましくは、遊離の、ADCAを化学的または物理的発泡剤、より具体的には、微小球を添加することにより製造することができる。)」
(カ)「[0055] In an embodiment, the proposed thermal stabilizer was prepared as follows:
Eggshell particles/powder.
[0056] In an embodiment, eggshells were treated using a process involving four stages: washing, drying, milling and purification. The raw material was first washed several times under warm water. The washed eggshells were milled into smaller pieces using a porcelain mortar and pestle, and then dried in a vacuum oven at 100 °C for 24 h. Dried eggshells were later milled to a fine powder and passed through a sieve (size from 0.1 and 150 pm) and kept in a desiccator at room temperature. The organic biological matter was removed from eggshells using different approaches, including an acidic treatment, a thermal treatment at different temperatures, and combinations of these approaches. For the acidic treatment, the eggshell powder was immersed in an aqueous solution of acetic acid (0.5 M) until all the organic matter was removed. For the thermal treatment, eggshell powders, previously treated or not with the acidic treatment, were heated from 200°C to 350°C.
[0057] Surprisingly the properties of eggshell particles, namely a high porosity and high surface area, allows an efficient stabilization capacity as an HCI scavenger, and consequently, high efficiency as a thermal stabilizer.
(訳:
[0055]一態様において、熱安定剤は、以下のように調製した。
卵殻粒子/粉末。
[0056]実施形態において、卵殻は洗浄、乾燥、粉砕および精製の4段階の工程を用いて処理された。原料はまず温水で数回洗浄された。洗浄された卵殻は磁器製の乳鉢と乳棒を用いて小片に粉砕され、その後真空オーブンにて100℃で24時間乾燥された。乾燥した卵殻はさらに細かい粉末に粉砕され、篩(0.1~150μm)を通して分級され、室温の乾燥器内で保管された。有機生物由来物質は、酸処理、異なる温度での熱処理、およびこれらの組み合わせを含む複数の方法により卵殻から除去された。酸処理では、卵殻粉末を酢酸水溶液(0.5 M)に浸漬し、有機物がすべて除去されるまで処理した。熱処理では、酸処理の有無にかかわらず卵殻粉末を200℃から350℃の範囲で加熱した。
[0057]驚くべきことに、卵殻粒子の特性、すなわち、高い多孔性および、広い表面積は、HCL捕捉剤として有効な安定化能、およびその結果として熱安定剤としての高い効率を可能にする。)」
(キ)「CLAIMS
1. A material comprising a poly(vinyl chloride), PVC, layer comprising eggshell particles, wherein the eggshell particle size is up to 200 pm, an intermediate layer or a plurality of intermediate layers; a support layer selected from the following list: fabric, knitted fabric, nonwoven, foam, or mixtures thereof; wherein the layers are bounded.
(訳:請求項
1.卵殻粒子を含有し、当該卵殻粒子の粒径は最大200μmであるポリ塩化ビニル(PVC)層、中間層または複数の中間層、支持層を有し、支持層は布帛、ニット生地、不織布、フォーム、またはそれらの混合物から選択され、前記各層は接合されていることを特徴とする材料。」
(5)甲B3
ア 記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B3には、次の記載がある。
(ア)「自然由来の素材を用いた高意匠の単層タイル
LCT(Luxury Calcium carbonate Tile)シリーズ
新発売のご案内」
(イ)「東リ株式会社(本社:兵庫県伊丹市 代表取締役社長:永嶋元博)は、ビニル床タイルの新たなブランドLCT(Luxury Calcium carbonate Tile)シリーズを立ち上げ、2022年7月28日より発売を開始いたします。」
(ウ)「東リは1963年に自然由来である炭酸カルシウムを主成分とした単層構造のタイル「マチコV」を発売して以来、様々な単層タイルを展開してまいりました。この度、その中からデザインに特長のある5商品がワックスメンテナンス不要なNW(ノーワックス)仕様に進化し、新ブランド「LCTシリーズ」としてリニューアルしました。」
(エ)「■LCTシリーズの特長
○1(当審注:○1は○数字の1を表す)自然由来の素材 : 自然由来の炭酸カルシウムを主成分とし、その素材感を活かした高い意匠性を持つ単層タイル
・・・
○3環境への配慮 : 製造時にでる端材等を再利用し、環境負荷への低減に貢献」
(オ)「■LCTシリーズの商品概要
商品名:ダイナミックストーン
全厚 :3.0mm厚
寸法 :600mm×600mm
イ 甲B3発明
上記アより、甲B3には、以下の発明(以下「甲B3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲B3発明)
自然由来の炭酸カルシウムを主成分とし、その素材感を活かした高い意匠性を持つ、寸法が600mm×600mmの単層ビニル床タイル。
(6)乙第4号証
O.J.Gbadeyan et.al, “Studies on the mechanical and absorption properties of achatina fulica snail and eggshells reinforced composite materials” Composite Structures 2020年2月5日公開
本件特許出願の優先権主張の日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった乙第4号証には、次の記載がある。なお、括弧内は、特許権者が提出した翻訳文を参考にして作成した当審訳である。
ア 記載事項
「
[図:0001437354000007.jpg]
(訳:
その結果、ここ数十年でより環境に優しい補強材を製造する必要性が高まっている。炭酸カルシウム(CaCO3)の濃度が高いより適切な材料の探索により、いくつかの殻や動物の骨が発見された。これらには、卵殻、軟体動物の殻、ツルニチニチソウなどが含まれるが、これらに限定されない。
これらの殻、特に卵殻が調査され、炭酸カルシウムの含有量が高い(CaCO3が約95%)ため、充填材として使用できる潜在的な特性があることが判明した。これらは、前述の市販のCaCO3充填材の代替品として使用できることが示唆された[28-30]。軟体動物の殻、動物の骨、卵殻の材料を対象に、これらの天然由来の材料に含まれるCaCO3の含有量を決定するための研究が行われてきた。これらの研究の結果、これらの天然由来の材料は、さまざまな用途に適した充填材特性を備えていることが確認された[21,31]。)」(2頁左欄14~29行)
2 進歩性の判断(甲A1発明を主引用発明とする場合)
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比する。
(ア)甲A1発明の「PVC、可塑剤(DOP)、安定剤(メラミン系)または安定剤(Ba-Zn系)、処理炭カル、未処理炭酸カルシウムを含む配合組成物」から、混練、圧延して得た「シート」から「1辺が303mmの正方形に打抜いて得た床タイル」は、床タイルは単層であるから、本件発明1の「樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材」に相当する。
(イ)甲A1発明の「床タイル」が「PVC、可塑剤(DOP)、安定剤(メラミン系)または安定剤(Ba-Zn系)、処理炭カル、未処理炭酸カルシウムを含む配合組成物」から得たシートから得られるものであることは、本件発明1の「前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されて」いることに相当する。
(ウ)甲A1発明の「配合組成物」が「PVC」を含むことは、本件発明1の「前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であ」ることに相当する。
(エ)甲A1発明が「配合組成物」から「180°Cのバンバリーミキサー」及び「160℃のミキシングロール」にて混練し、圧延して得た「シート」から「1辺が303mmの正方形に打抜いて得た床タイル」は、床タイルは単層であってその上面は、床材の上面意匠を構成しているといえるから、本件発明1の「前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており、
加熱混練後の前記熱可塑性樹脂組成物により構成された樹脂シートから切り出されたタイル状であるコンポジション床材」に相当する。
(オ)そうすると、本件発明1と甲A1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており、
加熱混練後の前記熱可塑性樹脂組成物により構成された樹脂シートから切り出されたタイル状であるコンポジション床材。
(相違点1)
本件発明1は「前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであ」るのに対し、甲A1発明は、充填材は、炭酸カルシウムである点。
(相違点2)
本件発明1は「前記樹脂層は、前記卵殻粉末を25質量%以上含有」するのに対し、甲A1発明は、そのように特定されていない点。
イ 判断
(ア)相違点1について
上記相違点1について検討する。
乙第4号証(上記1(6))に、「ここ数十年でより環境に優しい補強材を製造する必要性が高まっている。炭酸カルシウム(CaCO3)の濃度が高いより適切な材料の探索により、いくつかの殻や動物の骨が発見された。これらには、卵殻・・・などが含まれる・・・これらの殻、特に卵殻が調査され、炭酸カルシウムの含有量が高い(CaCO3が約95%)ため、充填材として使用できる潜在的な特性があることが判明した。これらは、前述の市販のCaCO3充填材の代替品として使用できることが示唆された・・・卵殻の材料を対象に、これらの天然由来の材料に含まれるCaCO3の含有量を決定するための研究が行われてきた。これらの研究の結果、これらの天然由来の材料は、さまざまな用途に適した充填材特性を備えていることが確認された」と記載されるように、環境に優しい充填材の製造ないし使用は、周知の課題といえる。
そして、甲A2記載事項には、卵殻粉末(ESP)は、「プラスチックの補強に適しており」、「CaCO3(炭酸カルシウム)の適切な代替品となる」ことが記載されている。
甲A1発明は、充填材として、炭酸カルシウムを使用するものであるから、上記周知の課題を認識し得たものであるところ、甲A2記載事項を参酌し、充填材として、炭酸カルシウムの一部または全部を卵殻粉末に代替することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、材料の選択にあたって、材料の粒径等の物性を決定することは、技術の具体的適用に伴って当業者が適宜なすべき事項である。
しかし、甲A1は、ビニル床タイルの充填剤として用いられる炭酸カルシウムに関し、「炭酸カルシウムは通常その粒度が約0.02~350μ、好ましくは約0.02~10μ、更に好ましくは約0.04~0.2μのものが使用される」(上記1(1)ア(ア))と記載するものであり、「350μ」が「350μm」を意味することは明らかである。そうすると、甲A1発明において、炭酸カルシウムの一部または全部を卵殻粉末に代替する際に、卵殻粉末を約0.02~350μm程度とすることまでは当業者が容易に想到し得るとしても、「更に好まし」い値として「約0.04~0.2μm」が提示され、すなわち、最大値として350μmの1000分の1以下の大きさの粉末が指向される甲A1から、「卵殻粉末を約0.02~350μm程度」を超える、目開き420μmないし1190μmの篩の上に残存する粉末が卵殻粉末の全体の質量に対して50質量%以上ないし30質量%以上という質量割合で含まれるものとし、「前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むもの」とすることが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
また、申立人Bが提出した甲B2は、卵殻粉末を熱安定剤として使用するものであるが、甲B2において、「卵殻粒子の粒径は最大200μm」とされており、200μmよりも小さい粉末が指向されるのであるから、炭酸カルシウムの一部または全部を卵殻粉末に代替する際に甲B2を参酌しても、本件発明1の相違点1に係る上記構成の粒径とすることが当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
申立人A、Bが提出した証拠及び特許権者が提出した証拠のいずれも、コンポジション床材が充填材として含む卵殻粉末について、「前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むもの」とすることを記載ないし示唆するものではない。
したがって、請求項1に係る発明は、甲A1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1は、「熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成され」る「樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材」であって、「熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂」であるものにおいて、「樹脂層」が「卵殻粉末を25質量%以上含有」し、「前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むもの」であり、「床材の上面意匠を構成して」いることにより、卵殻による「樹脂層」の「ポリ塩化ビニル樹脂」の黄変の抑制とともに、卵殻粉末が肉眼でも視認可能であり、上面意匠の一部となるとの効果を奏する。
ウ 申立人の主張について
申立人Aは、本件発明1の進歩性に対する特許権者の主張に関し、概略以下の主張をする。
特許権者は、甲A2記載の複合材料の本件発明1のコンポジション床材への適用には技術分野の相違による阻害要因があること及び充填材の量について主張しているが、適用に阻害要因はなく、また、充填材の量は設計事項程度のことである。
しかし、申立人Aは、相違点1に係る「前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであ」ることについては、何ら主張をしておらず、申立人Aの主張を検討しても、上記イの判断は左右されない。
また、申立人Bは、甲A1発明を主引用発明とする進歩性の判断について、特段意見を述べていない。
以上のとおりであるから、申立人の主張は、上記イの判断を左右するものではない。
エ 小括
本件発明1は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明3、5及び6
本件発明3は、本件発明1と同様、「樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであり、
前記樹脂層は、前記卵殻粉末を25質量%以上含有し、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており」との構成を備える。
また、本件発明5及び6は、本件発明1の従属項であり、本件発明1の構成をすべて備える。
そうすると、上記(1)イと同様の理由により、本件発明3、5及び6は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 進歩性の判断(甲B3発明を主引用発明とする場合)
(1)本件発明1
ア 対比、判断
本件発明1と甲B3発明とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明1と甲A1発明との相違点である相違点1と同様の点で相違する。
そして、当該相違点については、上記2(1)イにおいて検討したとおりであり、同様に、甲B3発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
イ 申立人の主張
申立人Bは、特許権者の、甲B3記載の発明は、鉱物由来の炭酸カルシウムの素材感を活かした高級感ある意匠性の具備を目的とするものであると読み取れ、鉱物由来の炭酸カルシウムを、鉱物とは意匠性が全く異なる卵殻粉末に置き換えることは、甲B3記載の発明の記載から、その目的に反するものとなるため阻害要因がある旨の主張に対し、意匠上の要求に応じて適宜選択し得る設計変更に過ぎず、進歩性の根拠とはならない旨主張する。
しかし、申立人Bは、相違点1に係る「前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであ」ることについては、何ら主張をしておらず、申立人Bの主張を検討しても、上記アの判断(上記2(1)イの判断)は左右されない。
また、申立人Aは、甲B3発明を主引用発明とする進歩性の判断について、特段意見を述べていない。
以上のとおりであるから、申立人の主張は、上記アの判断を左右するものではない。
ウ 小括
本件発明1は、甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明3、5及び6
本件発明3は、本件発明1と同様、「樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであり、
前記樹脂層は、前記卵殻粉末を25質量%以上含有し、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており」との構成を備える。
また、本件発明5及び6は、本件発明1の従属項であり、本件発明1の構成をすべて備える。
そうすると、本件発明3、5及び6と甲B3発明とは、少なくとも、本件発明1と甲A1発明である相違点1と同様の点で相違する。
そして、当該相違点については、上記2(1)イにおいて検討したとおりであり、同様に、甲B3発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件発明3、5及び6は、甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 進歩性の判断(甲B1発明を主引用発明とする場合)
甲B1発明を主引用発明とする理由は、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由であるが、上記2、3と同様、進歩性に関するものであるので、ここで判断する。
(1)本件発明1
ア 対比、判断
本件発明1と甲B1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明1と甲A1発明である相違点1と同様の点で相違する。
そして、当該相違点については、上記2(1)イにおいて検討したとおりであり、同様に、甲B1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
イ 小括
本件発明1は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明3、5及び6
本件発明3は、本件発明1と同様、「樹脂層を有する床材本体を備えるコンポジション床材であって、
前記樹脂層が、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物で構成されており、
前記熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂であり、
前記充填材は、卵殻粉末を含み、
前記卵殻粉末は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き840μmの篩を通過し且つ目開き420μmの篩の上に残存する粉末を50質量%以上の質量割合で含むもの、又は、前記卵殻粉末の全体の質量に対して目開き1410μmの篩を通過し且つ目開き1190μmの篩の上に残存する粉末を30質量%以上の質量割合で含むものであり、
前記樹脂層は、前記卵殻粉末を25質量%以上含有し、
前記樹脂層が前記床材の上面意匠を構成しており」との構成を備える。
また、本件発明5及び6は、本件発明1の従属項であり、本件発明1の構成をすべて備える。
そうすると、本件発明3、5及び6と甲B1発明とは、少なくとも、本件発明1と甲A1発明である相違点1と同様の点で相違する。
そして、当該相違点については、上記2(1)イにおいて検討したとおりであり、同様に、甲B3発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件発明3、5及び6は、甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明1、3、5及び6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1、3、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件発明2及び4に係る特許は訂正により削除され、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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