特許異議申立
2025-700719
軟質ポリウレタンフォーム
- 審判番号
- 2025-700719
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-039593
- 登録番号
- 7612912
- 請求日
- 2025年07月11日
- 審決日
- 2025年10月01日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社東洋クオリティワン
- 【権利者代理人】弁理士法人真明センチュリー
- 【異議申立人】田中 志帆
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 加藤 幹
- 審判官 辰己 雅夫
- 分類
- P1651.121-Y (C08G) / P1651.536-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7612912号発明「軟質ポリウレタンフォーム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7612912号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7612912号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許は、令和6年3月14日を出願日とする特願2024-39593号に係る特許であって、令和6年12月27日に特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、令和7年1月14日に特許掲載公報が発行されたものである。その後、本件特許に対し、令和7年7月11日に特許異議申立人 田中 志帆(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~3)がされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明3」といい、これらを総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
植物由来ポリオールを含むポリオールとイソシアネートとを含む組成物から得られる軟質ポリウレタンフォームであって、
バイオマス度は25%以上であり、
JIS K6400-5:2012に準拠した伸びは100%以上であり、
JIS K6400-3:2011に準拠した反発弾性は30%以上であり、
JIS K6400-5:2012のB法に準拠した引裂強さは4.0N/cm以上であり、
前記植物由来ポリオールは、1級水酸基を有する第1のポリオールを含み、
前記第1のポリオールは、ひまし油を原料として作られたポリオールであって、官能基数が2.0以上3.5未満であり水酸基価が60mgKOH/g未満である軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項2】
前記植物由来ポリオールは、2級水酸基を有する第2のポリオールを含み、
前記ポリオールの質量に占める前記植物由来ポリオールの質量の割合は40%以上である請求項1記載の軟質ポリウレタンフォーム。
【請求項3】
前記植物由来ポリオールは前記第1のポリオールからなり、
バイオマス度は30%以上である請求項1記載の軟質ポリウレタンフォーム。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法
令和7年7月11日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1~3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、第1のポリオールとして、ひまし油由来でバイオマス95.7%、平均分子量3000、ヒドロキシ基が全て1級水酸基のもののみが記載されているものの、その製造方法や入手方法については記載されておらず、当業者に期待を超える試行錯誤を強いるものとなっている。
3 申立理由3(明確性)
本件特許の請求項1~3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書の0049段落には、ポリオールに該当する化合物であるにもかかわらず、連通化剤として用いたためポリオールに含めない旨の記載がある。そうすると、本件発明の「ポリオール」「植物由来ポリオール」にいかなる化学構造のものが包含され、いかなる化学構造のものであれば包含されないのかが明確でない。
4 申立人が提出した証拠方法
・甲第1号証:特開2019-163441号公報
・甲第2号証:国際公開第2012/009008号
・甲第3号証:特開2011-252039号公報
・甲第4号証:国際公開第2008/123323号
・甲第5号証:特開2006-104404号公報
以下、「甲第1号証」~「甲第5号証」を、それぞれ、「甲1」~「甲5」という。
5 職権により採用する証拠方法
・引用文献1:特開2023-44020号公報
・引用文献2:国際公開第2018/235515号
・引用文献3:特開2023-177774号公報
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、申立書に記載した申立ての理由によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の請求項1には、
「少なくともポリオール成分とイソシアネート成分とを反応させて得られる密度が50~70kg/m3、硬度が170~300N(25%ILD)の軟質ポリウレタンフォームからなる椅子用ウレタンフォームであって、該ポリオール成分は、精製して水酸基を有しない成分の少ないひまし油脂肪酸を多官能ポリオールと重縮合反応させたバイオポリオールと、ポリエーテルポリオールを主とする石油系ポリオールの混合物であり、該椅子用ウレタンフォームのバイオマス度が15~25重量%であり、かつ反発弾性率が35~70%であることを特徴とする椅子用ウレタンフォーム。」
と記載されており、その実施形態について、以下のとおり記載されている。
「【0021】
請求項1の発明の椅子用ウレタンフォームの実施の形態について、表1および表2を参照して説明する。
まず、原料として、バイオポリオール、石油系ポリオール、イソシアネート、架橋剤、整泡剤、触媒、水、その他添加物を表1に示す割合で用意する。
【0022】
バイオポリオールとしては、三井化学SKCポリウレタン株式会社製の
商品名:エコニコールEBT-320i(ポリオール混合物)
化学構造式の主成分がRO(COC17H32O)nHを使用した。
【0023】
石油系ポリオールとしては、三井化学SKCポリウレタン株式会社製の商品名:アクトコールMP-1912を使用した。これは、ポリエーテルポリオール65~75%、ポリマーポリオール20~30%、水2~6%、エチレングリコール0.1~0.2%、ジエタノールアミン0.5~1.5%、鉱油0.4~0.8%、その他添加物0.5~4.5%の混合物である。
【0024】
また、イソシアネート成分としては、ジイソシアネートとポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ウレタン樹脂を混合した三井化学SKCポリウレタン株式会社製の商品名:コスモネートMC-74を使用した。
【0025】
触媒としては、触媒Aとして、アミン系の(エアープロダクツジャパン株式会社の商品名:DABCO33LV)を、触媒Bとして、アミン系の(花王株式会社製の商品名:カオライザーNO.25)を、触媒Cとしてエチレングリコール系の(東ソー株式会社の商品名:TOYOCAT-SPF2)を、触媒Dとして、ジブチルスズジラウレートを含む(日東化成株式会社の商品名:ネオスタンU-100)を、触媒Eとして、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテルを含む(東ソー株式会社の商品名:TOYOCAT-ET)を使用した。
また、架橋剤としては、DEOA(ジエタノールアミン:三井化学社製)を、整泡剤としては、NIAX L-3610j(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、セルオープナーとしては、アクトコールEP-505S(三井武田ケミカル社製)を使用した。
【0026】
【表1】
[図:0001428035000001.jpg]
【0027】
バイオマス度(非石油系の原料の割合)は、バイオポリオール中のバイオ%/全原料であるから、42.32×98.4/163.1×100=25.5%である。
【0028】
実施例(NO.1,NO.2,NO.3)で造られたものは、表2に示すように、バイオマス度が25.5重量%、密度が60~70kg/m3で、硬度が170~300N(25%ILD)あり、引張強度も150kpa以上あり、そして、このときの反発弾性率は、3回とも42%であった。
さらに、圧縮永久歪み率(50%dry、50%wet)は、ポリオールにバイオポリオールを使用しない場合に比べて小さくなっており、耐久性が良くなっている。
以上の物性をみると、バイオポリオールを25.5%ブレンドしても、十分椅子用ウレタンフォームとして使用できることが確認された。
【0029】
【表2】
[図:0001428035000002.jpg]
」
以上より、[表2]のNo.3に示された椅子用ウレタンフォームに着目すると、以下の発明が記載されていると認める。
「原料として、バイオポリオール、石油系ポリオール、イソシアネート、架橋剤、整泡剤、触媒、水、その他添加物を表1に示す割合で使用して得られた表2に示す物性を有する椅子用ウレタンフォーム。
[表1]
[図:0001428035000003.jpg]
石油系ポリオール:三井化学SKCポリウレタン株式会社製の商品名:アクトコールMP-1912
バイオポリオール:三井化学SKCポリウレタン株式会社製の商品名:エコニコールEBT-320i(ポリオール混合物)
架橋剤:DEOA(ジエタノールアミン:三井化学社製)
整泡剤:NIAX L-3610j(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製
触媒:エアープロダクツジャパン株式会社の商品名:DABCO33LV、花王株式会社製の商品名:カオライザーNO.25、東ソー株式会社の商品名:TOYOCAT-SPF2、日東化成株式会社の商品名:ネオスタンU-100東ソー株式会社の商品名:TOYOCAT-ETの混合物
イソシアネート:三井化学SKCポリウレタン株式会社製の商品名:コスモネートMC-74
[表2]
[図:0001428035000004.jpg]
」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「石油系ポリオール」、「バイオポリオール」は、本件発明1の「ポリオール」に相当する。
また、甲1には、
「【0009】
バイオポリオールは、ひまし油脂肪酸を分子蒸留することにより精製したひまし油脂肪酸の純度の高いものと、水酸基価および平均官能基数が異なる多官能ポリオールとを重縮合することにより造られたものを使用する。
ひまし油脂肪酸は、ひまし油をケン化分解して得られる脂肪酸(CO-FA)で、二重結合(C=C)、ヒドロキシ基(-OH)をもつ脂肪酸で構成されており、純度を高めたものほど水酸基を含まない脂肪酸が少なくできると考えられる。バイオポリオールは、近年、かなり純度の高いものが販売されており、請求項2に示す、商品名がエコニコールEBT-320i(三井化学SKCポリウレタン株式会社製)を使用するのが望ましい。なお、化学構造式は、主成分がRO(COC17H32O)nHである。」
と記載されており、甲1発明の「バイオポリオール:三井化学SKCポリウレタン株式会社製の商品名:エコニコールEBT-320i(ポリオール混合物)」はひまし油由来のポリオールであることから、本件発明1の「植物由来ポリオール」に相当する。
甲1発明の「イソシアネート」は、本件発明1の「イソシアネート」に相当する。
その上で、甲1発明の「バイオポリオール、石油系ポリオール、イソシアネート、架橋剤、整泡剤、触媒、水、その他添加物を表1に示す割合で使用して得られた」は、本件発明1の「ポリオールとイソシアネートとを含む組成物から得られる」に相当する。
本件特許の出願時の技術常識や、甲1に
「【0002】
軟質ポリウレタンフォームは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応および発泡させることにより製造されている。・・・」
と記載されていることから、甲1発明の「椅子用ウレタンフォーム」は、本件発明1の「軟質ポリウレタンフォーム」に相当する。
甲1の段落0027の記載より、甲1発明の「バイオマス度25.5」は、単位が「%」であると認められ、本件発明の「バイオマス度は25%以上」に相当する。
さらに、甲1の発明の詳細な説明には、椅子用ウレタンフォームの伸び、反発弾性率、引き裂き強度の測定条件は開示されていないものの、甲1が日本における特許出願の公開公報であることを勘案すれば、これらの物性は日本国内において軟質発泡材料の試験方法として制定されたJIS K6400に従って測定され、それぞれ、伸びはJIS K6400-5に、反発弾性率はJIS K6400-3に、引き裂き強度はJIS K6400-5のB法に準拠したものであると解されるから、甲1発明の「伸び115%」、「引き裂き強度6.8N/cm」、「反発弾性率42%」は、それぞれ、本件発明1の「JIS K6400-5:2012に準拠した伸びは100%以上」、「JIS K6400-5:2012のB法に準拠した引裂強さは4.0N/cm以上」、「JIS K6400-3:2011に準拠した反発弾性は30%以上」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「植物由来ポリオールを含むポリオールとイソシアネートとを含む組成物から得られる軟質ポリウレタンフォームであって、
バイオマス度は25%以上であり、
JIS K6400-5:2012に準拠した伸びは100%以上であり、
JIS K6400-3:2011に準拠した反発弾性は30%以上であり、
JIS K6400-5:2012のB法に準拠した引裂強さは4.0N/cm以上である軟質ポリウレタンフォーム。」
そして、両者は次の点で相違する。
・相違点1
本件発明1は、「植物由来ポリオールは、1級水酸基を有する第1のポリオールを含み、前記第1のポリオールは、ひまし油を原料として作られたポリオールであって、官能基数が2.0以上3.5未満であり水酸基価が60mgKOH/g未満」であるのに対し、甲1発明にはそのような植物由来ポリオールが含まれていない点
イ 判断
(ア)ここで、本件特許の発明の詳細な説明には
「【0015】
本発明によれば植物由来ポリオールである第1のポリオールは、ヒドロキシ基が結合している炭素原子に1個の炭素原子が結合しているヒドロキシ基(1級水酸基)を含む。1級水酸基にはヒドロキシ基が結合している炭素原子に結合している炭化水素基が1つしかなく、立体障害が小さいため、第1のポリオールはイソシアネートとの樹脂化反応性に富む。そのため軟質ポリウレタンフォームの反発弾性と伸びを両立できる。」
と記載されており、本件発明は、1級水酸基を有するポリオールを使用することにより、軟質ポリウレタンフォームの反発弾性と伸びを両立できることを技術的意義とするものである。
(イ)これに対し、甲1には
「【0006】
そこで、本発明は、椅子用ウレタンフォームとして従来の品質を落とすことなく、バイオマス度を向上させた椅子用ウレタンフォームを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明の椅子用ウレタンフォームは、少なくともポリオール成分とイソシアネート成分とを反応させて得られる密度が50~70kg/m3、硬度が170~300N(25%ILD)の軟質ポリウレタンフォームからなる椅子用ウレタンフォームであって、該ポリオール成分は、精製して水酸基を有しない成分の少ないひまし油脂肪酸を多官能ポリオールと重縮合反応させたバイオポリオールと、ポリエーテルポリオールを主とする石油系ポリオールの混合物であり、該椅子用ウレタンフォームのバイオマス度が15~25重量%であり、かつ反発弾性率が35~70%であることを特徴としている。」
と記載されており、従来の品質を落とすことなく、バイオマス度を向上させた椅子用ウレタンフォームを提供することを目的とするものであり、他の記載を参酌しても1級水酸基を有するポリオールに着目する旨の記載は存在せず、まして、1級水酸基を有するポリオールを使用することにより、軟質ポリウレタンフォームの反発弾性と伸びを両立することは記載も示唆もされていない。
(ウ)さらに、甲1発明において、すでにバイオポリオールが使用されているのであるから、多種多様に存在するバイオポリオールのうち、当該バイオポリオールとは異なる、本件発明1で使用される特定の植物由来ポリオールを敢えて選択し、使用する動機付けが存在したとも認められない。
(エ)その上で、本件発明1で使用される特定の植物由来ポリオールと同種のポリオールが開示されている甲2~甲5にも、1級水酸基を有するポリオールを選択し、使用することにより、軟質ポリウレタンフォームの反発弾性と伸びを両立することは記載されていない。
(オ)以上をまとめると、甲1には、甲1発明において、本件発明1で使用される特定の植物由来ポリオールを使用する動機付けとなる記載はない。
また、甲1発明において、本件発明1で使用される特定の植物由来ポリオールを使用することが、技術常識であったとも認められない。
その他、本件特許の出願時前に、甲1発明において、本件発明1で使用される特定の植物由来ポリオールを使用する動機付けが存在したとはいえない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は申立書の43~44頁において、「カーボンニュートラル等の環境問題に配慮して、石油系ポリオールの一部を、ひまし油などの植物系のポリオールに代替することは、当業者であれば当然に検討することであった」こと、「甲第2号証~甲第5号証に具体的に記載されているとおり、ひまし油を原料としており、1級水酸基を有し、官能基数が2.7~3.0程度であり、水酸基価が60mg/KOH/g未満であるポリオール、すなわち相違点1にかかるポリオールは、本件出願当時の当業者にとり、周知のものであった」こと、「甲第2号証~甲第5号証に具体的に記載されている相違点1にかかるポリオールは石油系ポリオールの代替品であること、かつ、石油系ポリオールの代替品として採用した場合に優れた物性(伸び、反発弾性、引裂強さ)のポリウレタンフォームを製造し得ることが、これらの文献の記載から明らか」であることを根拠として、「石油系ポリオールを使用する甲1発明において、石油系ポリオールの一部または全部を、甲第2号証~甲第5号証に具体的に記載されている相違点1にかかるポリオールに代替してみることは、これらの文献に接した当業者であれば容易に想到する」旨を主張する。
しかしながら、申立人が主張するように「石油系ポリオールの一部を、ひまし油などの植物系のポリオールに代替することは、当業者であれば当然に検討すること」であり、「ひまし油を原料としており、1級水酸基を有し、官能基数が2.7~3.0程度であり、水酸基価が60mg/KOH/g未満であるポリオール、すなわち相違点1にかかるポリオールは、本件出願当時の当業者にとり、周知のものであった」としても、甲1には
「【0003】
バイオポリオールは、非可食で水酸基を数多く含有しているヒマシ油が経済的にも最適と考えられ、広く使用されている。しかしながら、石油系ポリオールにバイオポリオールを混合しても石油系ポリオールのみのものと同等の物性を得るのは難しく、バイオマス度(非石油系の原料の割合)が15%を超えると、反発弾性率が30%以上のものは、得られなかった。」
と記載されているなど、石油系ポリオールにバイオポリオールを代替しても石油系と同等の物性を得ることが困難であったという、本件特許出願時の技術常識を踏まえると、たとえ相違点1に係るポリオールが公知あるいは周知なものであったとしても代替した際に、石油系と同等の物性が得られるのか定かではない。
そうすると、甲1発明において、石油系ポリオールの一部または全部を相違点1に係るポリオールに代替した際に、甲1発明が有する物性(伸び、引き裂き強度、反発弾性率)を、本件発明1と同程度に維持し得るか否か不明であるから、代替する動機付けはない。
したがって、上記主張は採用できない。
エ 本件発明1についてのまとめ
上記ア~ウのとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ないし甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、それぞれ、本件発明1を直接引用して、さらに特定するものであるから、上記(2)で本件発明1について検討したのと同様の理由により、甲1発明ないし甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由1についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件違反の判断基準
本件発明1~3は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、以下この考え方に基づいて検討する。
(2)本件発明1~3について
本件特許の発明の詳細な説明には、以下のとおり記載されている。
「【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。軟質ポリウレタンフォームは、植物由来ポリオールを含むポリオール及びイソシアネートを含む組成物から得られる。ポリオールは、1つの分子内に水酸基を2つ以上もつ化合物である。植物由来ポリオールは、植物由来の油脂を原料として作られたポリオールが例示される。植物由来の油脂は、ひまし油、ひまわり油、菜種油、亜麻仁油、綿実油、きり油、やし油、けし油、とうもろこし油、大豆油が例示される。
【0017】
植物由来ポリオールは、1級水酸基を有する第1のポリオールを含む。第1のポリオールはヒドロキシ基が結合している炭素原子に結合している炭化水素基が1つしかなく、立体障害が小さいため、ポリオールの反応性を向上できる。
【0018】
第1のポリオールは、官能基数が2.0以上3.5未満であり、水酸基価が60mgKOH/g未満であることが好ましい。適度な架橋密度と架橋点分岐数を有する架橋構造を形成することができ、第1のポリオールを含む組成物から得られる軟質ポリウレタンフォームの反発弾性などの機械的特性が向上するためである。
【0019】
第1のポリオールは、組成物におけるポリオールの質量に対して10wt%以上100wt%以下の範囲で含まれて良い。植物由来ポリオールの反応性を確保するためである。
【0020】
植物由来ポリオールは、第1のポリオールからなる(植物由来ポリオールの全てが第1のポリオールである)ことが望ましいが、第2のポリオールを含むものでも良い。第2のポリオールは、ヒドロキシ基が結合している炭素原子に2個の炭素原子が結合しているヒドロキシ基(2級水酸基)を含む。第2のポリオールは、ヒドロキシ基が結合している炭素原子に結合している炭化水素基が2つあり、立体障害が大きいため、ポリオールの反応性は低下するが、植物由来材料を補うことができる。炭素13核磁気共鳴スペクトルにより1級水酸基および2級水酸基の分析ができる。
【0021】
植物由来ポリオールが第2のポリオールを含む場合、組成物におけるポリオールの質量に占める植物由来ポリオールの質量の割合は40%以上であることが好ましい。軟質ポリウレタンフォームのバイオマス度を確保するためである。」
「【0022】
バイオマス度は以下の式(1)を用いて求めることができる。バイオマス度=植物由来ポリオールの質量×各ポリオールのバイオマス度/(組成物を構成する全ての原料の質量の合計-ガス化による質量減少)・・・式(1)
【0023】
式(1)の中の「ガス化による質量減少」は、原料に含まれる水の質量を水の分子量(18)で除した値に二酸化炭素の分子量(44)を乗じた値である。
【0024】
軟質ポリウレタンフォームのバイオマス度は25%以上であることが好ましい。軟質ポリウレタンフォームの環境負荷の低減のためである。
【0025】
植物由来ポリオールが第1のポリオールからなる場合、軟質ポリウレタンフォームのバイオマス度は30%以上であることが好ましい。軟質ポリウレタンフォームの環境負荷をさらに低減するためである。」
「【0038】
軟質ポリウレタンフォームは、組成物を攪拌混合してポリオールとイソシアネートとを反応させる公知の発泡方法によって製造できる。発泡方法はスラブ発泡やモールド発泡がある。スラブ発泡は混合した組成物をベルトコンベア上に吐出し、大気圧下、常温で発泡させる方法である。モールド発泡は、混合した組成物をモールド(成形型)に充填してモールド内で発泡させる方法である。」
「【0039】
軟質ポリウレタンフォームの用途は、寝具、椅子のクッションや背もたれ、ソファ、緩衝材、吸音材、建材、洗浄用スポンジ、水耕栽培用培地が例示される。寝具はマットレス、掛け布団、敷き布団、枕が例示される。」
「【0040】
JIS K6400-3:2011に準拠した軟質ポリウレタンフォームの反発弾性は20%以上であること、特に30%以上であることが好ましい。反発弾性は通常90%以下である。
【0041】
JIS K6400-5:2012(試験片は2号形)に準拠した軟質ポリウレタンフォームの伸びは100%以上であること、特に130%以上であることが好ましい。伸びは通常500%以下である。
【0042】
JIS K6400-5:2012のB法に準拠した軟質ポリウレタンフォームの引裂強さは4.0N/cm以上であることが好ましい。引裂強さは通常10N/cm以下である。」
さらに、これらの記載に加えて、本件発明1の実施例として実施例1~6が、本件発明1、2の実施例として実施例7~9、17、18、21~23が、本件発明1、3の実施例として実施例10~16が記載されている。
以上より、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明に用いられる各成分について、化学構造上の特徴や使用する意義、各物性の測定方法、フォームを形成するための方法が十分に開示されていると認められ、得られたフォームの用途も十分に開示されており、かつ、本件発明を生産した具体的な実施態様も開示されていると認められる。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~3に係る物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記第3の2のとおり主張する。
ここで、例えば、甲4には以下のとおり記載されている。
「[0042][開始剤]
ひまし油縮合物としては、小倉合成工業社製のKG-001(水酸基数2.8、塩酸中和滴定によるアルカリ度はKOH換算で277ppm、水酸基価66.1mgKOH/g)を中和処理して用いた。残存するアルカリを中和するための中和処理としては、5%硫酸水溶液を、KOH中和当量の10%過剰量添加して、60℃で2時間加熱した後、80℃で2時間減圧脱水した。中和処理して得られたひまし油縮合物(水分含有量(質量割合)は60ppm)を使用した。
また、ひまし油としては、伊藤製油社製のURIC-H-30(水酸基数2.7、水酸基価162KOHmg/g)を使用した。ひまし油の水分含有量は80ppmであった。
[ヘテロ環状化合物]
以下の例では、ヘテロ環状化合物としてエチレンオキシド(以下、単にEOと省略する。)のみを用いた。EOの水分含有量は5ppm以下であった。
[0043][実施例1]
パドル翼(撹拌翼径は反応器内径の50%)撹拌装置を備えた5L反応容器内に、開始剤である上記のひまし油縮合物(KG-001の縮合物)495gと、カチオン重合触媒であるトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB)60mgとを投入した。 反応容器内を窒素置換した後、反応容器内温度を65℃まで昇温した。30分後、EOの添加を開始した。EO添加と共に発熱が始まるので、冷却水により反応容器内温度を70℃に保ち、撹拌(220rpm(毎分220回転))を行いながら、EOを35g添加した。EOの添加後、さらに70℃で60分間反応を行い、未反応のEOをできるだけ少なくした後、減圧脱気を1時間行い、ポリオールAを得た。
製造したポリオールAと原料のひまし油縮合物のGPCによる分子量分布曲線を図1に示す。」
「[0051]
・・・実施例および比較例における開始剤、カチオン重合触媒、エチレンオキシドの使用量を表1に示す。また、製造したポリオールの分析結果を表2に示す。
[0052][表1]
[図:0001428035000005.jpg]
[0053][表2]
[図:0001428035000006.jpg]
」
以上より、甲4の実施例1として記載されたポリオールは、ひまし油縮合物KG-001(水酸基数2.8)を開始剤として使用し、エチレンオキシドを開環付加したポリオールであり、分子量2940を有し、一級化率は86%であり、これから計算される水酸基価は、申立書の36頁に記載されるとおり53であり、バイオマス度が93.4%のものであるから、本件特許の出願時には、すでに本件の発明の詳細な説明の実施例で使用されている「第1のポリオール1」と同程度のバイオマス度、官能基数、水酸基価を有するポリオールは製造されていたと認められ、本件発明の詳細な説明の実施例で使用されている「第1のポリオール1」についても、本件特許の出願時における技術常識に従って、当業者が製造できたものと認められる。
(4)申立理由2についてのまとめ
そうすると、申立理由2はその理由がない。
3 申立理由3(明確性)について
(1)明確性に関する判断基準
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)本件発明1~3について
ア 本件発明1~3において「ポリオール」は必須の構成要件であり、特に、本件発明2は、ポリオールの質量に占める植物由来ポリオールの質量の割合が40%以上であることを要件とするものである。
イ ここで、本件特許の出願前に頒布され、軟質ポリウレタンフォームについて記載された引用文献1~3には、以下のとおり記載されている。
引用文献1「【0026】
(1.6)その他の成分
その他に組成物に適宜配合される成分として、例えば連通化剤、難燃剤、酸化防止剤等を挙げることができる。連通化剤としては、EO付加比率の高いポリエーテルポリオール、ポリエチレングリコール、通気性を高くする(破泡性を有する)シリコーン整泡剤等を挙げることができる。連通化剤の量は、ポリオール100質量部に対して0.5質量部以上15.0質量部以下が好ましい。EO付加比率の高いポリエーテルポリオールとしては、例えば、EO比率が60モル%以上、70モル%以上であり、100モル%以下のポリエーテルポリオールが挙げられる。」
引用文献2「[0034]
〔連通化剤〕
発泡原液は、連通化剤を含有する。
連通化剤は、エチレンオキシドの含有率が50モル%超のポリオールであり、エチレンオキシドの含有率は、70~100モル%であることが好ましい。
更に、連通化剤として用いる上記のポリオールは、水酸基価が20~110mgKOH/gであることが好ましく、官能基数が3~7であることが好ましく、重量平均分子量が3000~12000であることが好ましい。
連通化剤の含有量は、クッション性と高振動吸収性を両立させる観点から、上記ポリオール成分と連通化剤の合計100質量部に対し、1~10質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましく、3~8質量部が更に好ましい。」
引用文献3「【0043】
ここで、上記のポリウレタンフォーム製造用の触媒組成物と前記のポリオール類を混合したものは、ポリオール原料配合液として利用することができる。前記のポリオール原料配合液については、前記の追加の触媒、発泡剤(水を含む)、界面活性剤、難燃剤、架橋剤、鎖延長剤、着色剤、老化防止剤、連通化剤、その他従来公知の添加剤等を含んでいてもよい。」
ウ これらの記載を参酌すれば、本件特許の出願時において、「連通化剤」は、軟質ポリウレタンフォームを製造する際、汎用の原料として使用され、用語の概念も当業者に認識され、理解可能なものであったと認められる。特に、引用文献1や引用文献2には、本件特許の発明の詳細な説明中の記載と同様、連通化剤と他のポリオール成分とを区別して配合量を特定する旨が記載されている。
エ 以上の事情を勘案すると、本件特許の出願時において、当業者は、軟質ポリウレタンフォームの原料組成物に配合される成分の種類やその配合量から、重合原料として配合されるポリオールと、連通化剤として配合されるポリオールを区別し得たものである。
オ そうすると、本件特許の発明の詳細な説明に
「【0049】
アクトコール(登録商標)EP-505Sは、ポリエーテルポリオール(エチレンオキサイドを70-75wt%含むプロピレンオキサイド-エチレンオキサイドのランダム共重合体)であるため石油由来ポリオールの1種といえるが、連通化剤として用いたため、ポリオールに含めない。」
と記載されているからといって、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記第3の3のとおり主張する。
しかしながら、上記(2)に示したとおり、申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのまとめ
そうすると、申立理由3はその理由がない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1~3に係る特許は、申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700719