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特許異議申立

2024-700484

可撓性積層体、その製造方法、およびそれを用いた防水性製品

審判番号
2024-700484
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-166245
登録番号
7389004
請求日
2024年05月22日
審決日
2025年10月24日
公報発行日
2026年01月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】大和紡績株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人池内アンドパートナーズ
  • 【異議申立人】藤井 正剛
審判長/審判官
  • 審判長 岩谷 一臣
  • 審判官 神山 茂樹
  • 審判官 稲葉 大紀
分類
P1651.121-YAA(D06M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7389004号発明「可撓性積層体、その製造方法、およびそれを用いた防水性製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7389004号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕、11について訂正することを認める。 特許第7389004号の請求項1、3、5~11に係る特許を維持する。 特許第7389004号の請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7389004号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和2年9月30日に出願され、令和5年11月20日に特許権の設定登録がされ、令和5年11月29日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和6年 5月22日 :特許異議申立人藤井正剛(以下「申立人」という。)による請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て 令和6年 9月24日付け:取消理由通知書 令和6年11月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和7年 2月 3日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出 令和7年 3月19日 :申立人による意見書の提出 令和7年 4月21日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和7年 6月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和7年 7月10日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出 なお、令和6年11月22日にされ手続補正書により補正された訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、令和7年7月24日付けで当審から申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行い、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、当該期間内に申立人から応答はなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和7年7月10日の手続補正書(方式)により補正された訂正請求書による訂正の請求は、「特許第7389004号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は当審において訂正箇所に付したものである。 (1)訂正事項1 ア 訂正事項1-1 特許請求の範囲の請求項1に「前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、」とあるのを、 「前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、前記繊維布帛において、経糸は紡績糸を80質量%以上含み、緯糸はマルチフィラメント糸を80質量%以上含み、」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項3、5~10も同様に訂正する。) イ 訂正事項1-2 特許請求の範囲の請求項1に「前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が55質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上45質量%以下であり、」とあるのを、 「前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が65質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上35質量%以下であり、」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項3、5~10も同様に訂正する。) ウ 訂正事項1-3 特許請求の範囲の請求項1に「前記可撓性積層体の目付が300g/m2以上450g/m2未満である」とあるのを、 「前記可撓性積層体の目付が300g/m2以上450g/m2未満であり、樹脂層/基布の質量比が0.5倍以上0.9倍以下である」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項3、5~10も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の可撓性積層体。」とあるのを、 「請求項1に記載の可撓性積層体。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれかに記載の可撓性積層体。」とあるのを、 「請求項1又は3のいずれかに記載の可撓性積層体。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれかに記載の可撓性積層体。」とあるのを、 「請求項1、3、5のいずれかに記載の可撓性積層体。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか1項に記載の可撓性積層体。」とあるのを、 「請求項1、3、5、6のいずれか1項に記載の可撓性積層体。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれかに記載の可撓性積層体。」とあるのを、 「請求項1、3、5~8のいずれかに記載の可撓性積層体。」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9のいずれかに記載の可撓性積層体を含む防水性製品であり、」とあるのを、 「請求項1、3、5~9のいずれかに記載の可撓性積層体を含む防水性製品であり、」に訂正する。 (10)訂正事項10 ア 訂正事項10-1 特許請求の範囲の請求項11に「前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、」とあるのを、 「前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、前記繊維布帛において、経糸は紡績糸を80質量%以上含み、緯糸はマルチフィラメント糸を80質量%以上含み、」に訂正する。 イ 訂正事項10-2 特許請求の範囲の請求項11に「前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が55質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上45質量%以下である繊維布帛に対し、」とあるのを、 「前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が65質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上35質量%以下である繊維布帛に対し、」に訂正する。 ウ 訂正事項10-3 特許請求の範囲の請求項11に「目付が300g/m2以上450g/m2未満である可撓性積層体」とあるのを、 「目付が300g/m2以上450g/m2未満、樹脂層/基布の質量比が0.5倍以上0.9倍以下である可撓性積層体」に訂正する。 (11)一群の請求項について 訂正前の請求項1~10は、請求項2~10が、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~10〕、11について請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1-1は、請求項1に記載の経糸における紡績糸及び緯糸におけるマルチフィラメント糸の含有量を限定するものであり、訂正事項1-2は、繊維布帛における紡績糸及びマルチフィラメント糸の含有量の範囲を限定するものであり、訂正事項1-3は、可撓性積層体の樹脂層と基布の質量比を限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項2、明細書の【0029】、実施例1、3、4の記載に基づくものであり、訂正事項1-2は、明細書の【0029】の記載に基づくものであり、訂正事項1-3は、本件訂正前の請求項4、明細書の【0077】【表2】の実施例1の記載に基づくものであるから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。 さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。 (2)訂正事項2、4 訂正事項2、4は、請求項2、4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。 (3)訂正事項3、5、6~9 訂正事項3、5、6~9は、請求項3、5~7、9、10について、請求項2、4が削除されたことに伴い引用する請求項の数を減少させるものであり、また、削除された請求項2又は4を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。 (4)訂正事項10について 訂正事項10-1は、請求項11に記載の経糸における紡績糸及び緯糸におけるマルチフィラメント糸の含有量を限定するものであり、訂正事項10-2は、請求項11に記載の繊維布帛における紡績糸及びマルチフィラメント糸の含有量の範囲を限定するものであり、訂正事項10-3は、可撓性積層体の樹脂層と基布の質量比を限定するものであるから、訂正事項10は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項10-1は、本件訂正前の請求項2、明細書の【0029】、実施例1、3、4の記載に基づくものであり、訂正事項10-2は、明細書の【0029】の記載に基づくものであり、訂正事項10-3は、本件訂正前の請求項4、明細書の【0077】【表2】の実施例1の記載に基づくものであるから、訂正事項10は、新規事項の追加に該当しない。 さらに、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕、11について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1、3、5~11に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3、5~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体であって、 前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、 前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、前記繊維布帛において、経糸は紡績糸を80質量%以上含み、緯糸はマルチフィラメント糸を80質量%以上含み、 前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が65質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上35質量%以下であり、 前記可撓性積層体の目付が300g/m2以上450g/m2未満であり、樹脂層/基布の質量比が0.5倍以上0.9倍以下であることを特徴とする、可撓性積層体。」 「【請求項3】 前記繊維布帛は、単位面積あたりの質量が140g/m2以上250g/m2以下である、請求項1に記載の可撓性積層体。」 「【請求項5】 前記紡績糸およびマルチフィラメント糸は、セルロース系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル繊維およびビニロン繊維からなる群から選ばれる1つ以上の繊維を含む、請求項1又は3に記載の可撓性積層体。 【請求項6】 前記紡績糸は、英式綿番手で5番手以上40番手以下であり、 前記マルチフィラメント糸は、単糸繊度が1.0dtex以上10dtex以下、フィラメント数が20本以上250本以下、総繊度が100dtex以上2000dtex以下である、請求項1、3、5のいずれかに記載の可撓性積層体。 【請求項7】 前記繊維布帛において、経糸の打ち込み密度が25.4mmあたり30本以上120本以下であり、緯糸の打ち込み密度が25.4mmあたり30本以上90本以下である、請求項1、3、5、6のいずれか1項に記載の可撓性積層体。 【請求項8】 前記繊維布帛において経糸の打ち込み密度が緯糸の打ち込み密度より大きく、経糸の打ち込み密度と緯糸の打ち込み密度の比(経糸の打ち込み密度/緯糸の打ち込み密度)が1より大きく、1.5以下である、請求項7に記載の可撓性積層体。 【請求項9】 前記樹脂層が、塩化ビニル系樹脂組成物、ポリウレタン系樹脂組成物、ポリエステル系エラストマー組成物、ポリスチレン系共重合体組成物およびオレフィン系共重合体組成物からなる群から選ばれる1つ以上の樹脂組成物を含む、請求項1、3、5~8のいずれかに記載の可撓性積層体。 【請求項10】 請求項1、3、5~9のいずれかに記載の可撓性積層体を含む防水性製品であり、 前記防水性製品は、トラック用シート、野積み用シート、テント用膜材および農業用シートからなる群から選ばれる1つ以上を含む、防水性製品。 【請求項11】 基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体の製造方法であって、 前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、 前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、前記繊維布帛において、経糸は紡績糸を80質量%以上含み、緯糸はマルチフィラメント糸を80質量%以上含み、 前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が65質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上35質量%以下である繊維布帛に対し、 前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に1層以上の樹脂層を形成させ、目付が300g/m2以上450g/m2未満、樹脂層/基布の質量比が0.5倍以上0.9倍以下である可撓性積層体を得る可撓性積層体の製造方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)について 1 取消理由の概要 取消理由(進歩性) 本件特許の請求項1、3~11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第1号証の記載、及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [引用文献一覧] 甲第1号証:特開2006-183165号公報 甲第3号証:特開平9-21069号公報 (以下、甲○号証を「甲○」等という。) 2 当審における判断 (1)引用文献の記載、引用発明 ア 甲1について 甲1には以下の記載がある。なお下線は元々付されていた箇所以外は当審が付した。また「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。 「【0001】 本発明は、繊維布帛からなる基布と、その上に形成された1層以上の軟質ポリ塩化ビニル系樹脂組成物含有防水樹脂層を含む防水被覆層とを含み、寸法安定性に優れた防水膜材に関するものである。さらに詳しく述べるならば、本発明は、トラック幌、トラックシート、および屋内向けフロアシートなどに用いたとき、使用中の寸法変化による歪み及び弛みが少なく、フラット性が良好であり、内分泌攪乱物質として疑いを持たれている化学物質を含むことなく、従来方法によって製造することが可能で、かつ、耐久性に優れた防水膜材に関するものである。 【背景技術】 【0002】 繊維布帛からなる基布に、軟質ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を含む防水被覆層を形成した防水膜材は、大型~小型テント、シート倉庫、トラック幌、トラック荷台のカバーシート、野積みシート、雨除け、建築現場の養生シート、屋内イベント向けフロアシートなど多くの分野で使用されている。」 「【0059】 実施例9 経糸としてポリエステル短繊維紡績糸条295.3dtex(20番手)双糸を用い、緯糸として、ポリエステルマルチフィラメント糸条555dtex(500d)からなる芯層と、その全周面を被覆している1.56dtex(1.4d)、繊維長さ100mmのポリエステル短繊維からなる被覆層とが、重量比:65/35で複合されているコア-スパン糸条を用い、経糸打ち込み密度:55本/25.4mm、緯糸打ち込み密度:38本/25.4mmにおいて質量250g/m2の長尺平織物を製造し、これを基布として用いた。この基布を、下記配合1のポリ塩化ビニル樹脂組成物ペーストゾルの溶剤希釈液バス中に浸漬し、これを引き上げると同時にマングルロールで圧搾し、基布中に含浸されたペーストゾルを150℃で1分間ゲル化した後、190℃で1分間熱処理を行い、さらにこれに鏡面エンボス処理を施した。これにより基布に軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物が320g/m2付着して、基布の両面に防水樹脂層からなる防水被覆層を形成し、合計質量570g/m2の防水膜材を作製した。・・・」 「【0063】 実施例12 実施例9と同様にして防水膜材を製造した。但し基布として、経糸にポリエステル短繊維紡績糸条295.3dtex(20番手)双糸を配置し、緯糸にポリエステルマルチフィラメント糸条555dtex(500d)を配置し、経糸打ち込み密度が55本/25.4mm、緯糸打ち込み密度が38本/25.4mm、質量220g/m2の長尺平織物を用いた。得られた防水膜材の合計質量は550g/m2であった。この連続加工において、基布の長手方向には基布幅1m当り300Nの張力がかけられていたが、幅方向は解放状態であり張力はかけられていなかった。この防水膜材を各種試験に供した結果を表3に示す。」 上記記載を参照し、特に実施例12に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「経糸にポリエステル短繊維紡績糸条295.3dtex(20番手)双糸を配置し、緯糸にポリエステルマルチフィラメント糸条555dtex(500d)を配置し、経糸打ち込み密度が55本/25.4mm、緯糸打ち込み密度が38本/25.4mm、質量220g/m2の長尺平織物を製造し、これを基布として用い、 この基布に軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物を付着して、基布の両面に防水樹脂層からなる防水被覆層を形成して作製した、合計質量550g/m2の防水膜材。」 イ 甲3について 甲3には以下の記載がある。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、トラックシ-ト、トラック幌、テント、工事用シ-ト、ハッチカバ-、野積みシ-ト等に好適な防水加工布に関する。」 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】紡績糸からなる防水加工布の場合、強力を高くするためには紡績糸を太くしたり、布帛密度を高める必要があり、その結果、防水性を得るためにはある程度多量の樹脂を付与する必要が生じる。従って、防水布が重くなり取扱性が悪化することとなる。一方、フィラメント糸を用いた防水加工布の場合、高い強力が得られ、しかも繊維の樹脂の付着量を減らして軽量化を計ることも可能であるが、糸表面に毛羽がほとんど存在しないため、布帛と樹脂との接着性に問題が生じる。・・・本発明は、以上の問題を鑑み、強力が高く耐摩耗性に優れ、しかも軽量で取扱性に優れた防水加工布を提供することを目的とする。」 「【0008】かかるコア-ヤ-ンを用いて編物、織物等の布帛とするが、強度の点では織物とするのが好ましい。布帛の目付けは200g/m2以下となるようにするのが好ましい。布帛の重量が重すぎると、樹脂が付与された防水加工布の重量が大きくなり、防水性及び軽量性の双方の性能を満足するのが困難となる。 【0009】得られた布帛に対し、熱可塑性樹脂を被覆して防水加工布とする。防水加工布の目付けは400g/m2以下とする必要がある。本発明によれば、樹脂付着量を減らして目付けを400g/m2以下とした場合においても、優れた防水性が得られるとともに優れた強力及び耐久性が得ることができる。紡績糸又はフィラメント糸を多量に用いた場合には本発明の効果は得られない。400g/m2をこえると軽量性の点で問題が生じる。樹脂の塗布量は200g/m2以下とするのが好ましく、防水加工布の引張強力は100kg/3cm以上、引裂強力は8kg以上とするのが好ましい。用いる樹脂は、塩化ビニル、アクリル、酢酸ビニル、ウレタン等の熱可塑性樹脂が好ましく、特に塩化ビニル樹脂が好ましい。」 以上の記載を参照すると、甲3には以下の技術的事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されている。 「布帛に熱可塑性樹脂を被覆した防水加工布において、防水性及び軽量化の観点から、布帛の目付けを200g/m2以下、防水加工布の目付けを400g/m2以下、樹脂の塗布量を200g/m2以下とすることが好ましいこと。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲1発明の「ポリエステル短繊維紡績糸条295.3dtex(20番手)双糸」である「経糸」は、要するに紡績糸が100重量%ということができるから、本件発明1の「紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、」「紡績糸を80質量%以上含」む「経糸」に相当する。 同様に、甲1発明の「ポリエステルマルチフィラメント糸条555dtex(500d)」である「緯糸」は、本件発明1の「紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、「マルチフィラメント糸を80質量%以上含」む「緯糸」に相当する。 甲1発明の「経糸打ち込み密度が55本/25.4mm、緯糸打ち込み密度が38本/25.4mm、質量220g/m2の長尺平織物を製造し」てなる「基布」は、本件発明1の「経糸および緯糸を含む織物であ」る「繊維布帛」ないし「基布」に相当する。 甲1発明の「防水樹脂層からなる防水被覆層」は、「基布の両面」に設けられているから、本件発明1の「前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層」に相当する。また、甲1発明の「防水膜材」は、本件発明1の「可撓性積層体」に相当する。 以上を踏まえると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点1] 「基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体であって、 前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、 前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、前記繊維布帛において、経糸は紡績糸を80質量%以上含み、緯糸はマルチフィラメント糸を80質量%以上含む、可撓性積層体。」 [相違点1-1] 本件発明1は、「前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が65質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上35質量%以下」であるのに対し、甲1発明は、かかる構成を有するか不明な点。 [相違点1-2] 本件発明1では、「可撓性積層体の目付が300g/m2以上450g/m2未満」であるのに対し、甲1発明では、「防水膜材」が「合計質量550g/m2」である点。 [相違点1-3] 可撓性積層体について、本件発明1では、「樹脂層/基布の質量比が0.5倍以上0.9倍以下」であるのに対し、甲1発明では、かかる構成を有するか不明な点。 イ 判断 事案に鑑み相違点1-3について検討する。 甲1には、甲1発明に関する【0059】に「実施例9・・・質量250g/m2の長尺平織物を製造し、これを基布として用いた。・・・基布に軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物が320g/m2付着して、基布の両面に防水樹脂層からなる防水被覆層を形成し、合計質量570g/m2の防水膜材を作製した。」と記載されており、当該記載に基づくと、樹脂層/基布の質量比は1.28(=320/(570-320))と計算でき、相違点1-3に係る数値範囲外である。そして、甲1のほか、申立人が提出する他の証拠のいずれにも、樹脂層/基布の質量比を調整することについては記載も示唆もされていないし、甲1発明において、樹脂層/基布の質量比を「0.5倍以上0.9倍以下」とする動機付けもない。 そして、本件発明1は、樹脂層/基布の質量比を特定の数値範囲内とすることにより、「得られる可撓性積層体は軽量性に優れ、トラック用シートや各種テント用幌として使用した場合、作業性に優れるものとなる。」(【0033】)との作用効果を有するものである。 ウ 小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明3、5~10について 本件発明3、5~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明11について 本件発明11は本件発明1を製造方法のカテゴリーで表現したものであるところ、甲1発明との相違点及びその判断は、上記(2)で示したことと同様である。 よって、本件発明11は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)まとめ したがって、本件発明1、3、5~10は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立理由の概要 申立理由1(甲2を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1、11に係る発明は、甲2に記載された発明、及び甲3~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [証拠方法一覧] 甲1:特開2006-183165号公報 甲2:実願昭50-42285号(実開昭51-124169号)のマイクロフィルム 甲3:特開平9-21069号公報 甲4:特開平5-34093号公報 甲5:特開平8-291471号公報 甲6:特開平9-227662号公報 甲7:特公昭60-32753号公報 2 当審における判断 (1)甲2に記載された発明 甲2の明細書6ページ下から8行~7ページ7行を参照すると、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 「20番手のポリエステル短繊維糸と250デニールのポリエステルマルチフィラメント糸とを用いて、経糸および緯糸に短繊維糸4本置きに長繊維糸1本を織込んだ密度55×55/インチの織物を製織し、ここで、短繊維糸が約80%、長繊維糸が約20%に相当しており、 得られた織物にポリ塩化ビニル樹脂を塗布量350g/m2(固形分)で両面コーチングし、テンターで乾燥熱処理して防水加工して得た、帆布。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲2発明の「20番手のポリエステル短繊維糸と250デニールのポリエステルマルチフィラメント糸とを用いて、」「短繊維糸4本置きに長繊維糸1本を織込んだ」「経糸」は、本件発明1の「紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含」む「経糸」に相当する。 同様に、甲2発明の「20番手のポリエステル短繊維糸と250デニールのポリエステルマルチフィラメント糸とを用いて、」「短繊維糸4本置きに長繊維糸1本を織込んだ」「緯糸」は、本件発明1の「紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含」む「緯糸」に相当する。 甲2発明の「短繊維糸が約80%、長繊維糸が約20%に相当して」いることは、本件発明1の「前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が65質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上35質量%以下であ」ることを満たす。 甲2発明の「経糸および緯糸に短繊維糸4本置きに長繊維糸1本を織込んだ密度55×55/インチの織物」は、本件発明1の「経糸および緯糸を含む織物であ」る「繊維布帛」ないし「基布」に相当する。 甲2発明の「得られた織物にポリ塩化ビニル樹脂を塗布量350g/m2(固形分)で両面コーチングし」てなる層は、本件発明1の「前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層」に相当する。 甲2発明の「帆布」は、本件発明1の「可撓性積層体」に相当する。 以上を踏まえると、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点2] 「基布となる繊維布帛と、前記繊維布帛の少なくとも一方の表面上に形成された1層以上の樹脂層を含む可撓性積層体であって、 前記繊維布帛は、経糸および緯糸を含む織物であり、 前記経糸および緯糸は、紡績糸およびマルチフィラメント糸からなる群から選ばれる1つ以上を含み、 前記繊維布帛の質量を100質量%としたとき、紡績糸の含有量が65質量%以上80質量%以下であり、マルチフィラメント糸の含有量が20質量%以上35質量%以下である、可撓性積層体。」 [相違点2-1] 本件発明1は、「前記経糸は紡績糸を80質量%以上含み、前記緯糸はマルチフィラメント糸を80質量%以上含」むのに対し、甲2発明はかかる構成を有するか不明な点。 [相違点2-2] 本件発明1は、「前記可撓性積層体の目付が300g/m2以上450g/m2未満であ」るのに対し、甲2発明は、かかる構成を有するか不明な点。 [相違点2-3] 本件発明1は、「樹脂層/基布の質量比が0.5倍以上0.9倍以下である」のに対し、甲2発明は、かかる構成を有するか不明な点。 イ 判断 事案に鑑み相違点2-3について検討する。 甲2発明の帆布は、「20番手のポリエステル短繊維糸と250デニールのポリエステルマルチフィラメント糸とを用いて、経糸および緯糸に短繊維糸4本置きに長繊維糸1本を織込んだ密度55×55/インチ」で製織した織物に、「ポリ塩化ビニル樹脂を塗布量350g/m2(固形分)で両面コーチングし」てなるものであるところ、ポリ塩化ビニル樹脂の層と織物の質量比は不明であるし、当該質量比が相違点2-3に係る本件発明1の数値範囲内である蓋然性が高いともいえない。 そして、甲2のほか、申立人が提出する他の証拠のいずれにも、樹脂層/基布の質量比が「0.5倍以上0.9倍以下」とすることは記載も示唆もされていないし、甲2発明において樹脂層/基布の質量比を調整する動機づけも見いだせない。 ウ 小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明11について 本件発明11は本件発明1を製造方法のカテゴリーで表現したものであるところ、甲2発明との相違点及びその判断は、上記(2)で示したことと同様である。 よって、本件発明11は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1、3、5~11に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1、3、5~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700484

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