特許異議申立
2025-700165
エアバッグ用基布及びその製造方法
- 審判番号
- 2025-700165
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-557061
- 登録番号
- 7529790
- 請求日
- 2025年02月06日
- 審決日
- 2025年07月04日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】齋藤 都子
- 【権利者代理人】三間 俊介
- 【異議申立人】村上 兄
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 葛原 怜士郎
- 分類
- P1651.113-YAA(D06M) / P1651.121-YAA(D06M) / P1651.536-YAA(D06M) / P1651.537-YAA(D06M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7529790号発明「エアバッグ用基布及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7529790号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6、7〕について訂正することを認める。
特許第7529790号の請求項1~5、7に係る特許を維持する。
特許第7529790号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7529790号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和3年10月13日(優先権主張 令和2年10月13日)を国際出願日とするものであって、令和6年7月29日に特許権の設定登録(特許掲載公報 令和6年8月6日発行)がされ、その特許について、令和7年2月6日に特許異議申立人村上兄(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和7年4月3日付けで取消理由が通知され、令和7年5月27日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたものである。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7529790号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項6、7について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審において訂正箇所に付したものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に、
「前記加硫セット工程において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上で加硫セット加工を行う、請求項6に記載のエアバッグ用基布の製造方法」と記載されているのを、
「以下の工程:
ポリアミドを溶融紡糸して、シクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下であるポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程、
得られたポリアミドのマルチフィラメント糸を織糸として織物を得る工程、
60℃以上の温度でアルカリ洗液を用いる精練工程、
乾燥工程、
前記織物の少なくとも片面にシリコーン塗布してシリコーン膜の層を形成する工程、及び
加硫セット工程、
を含み、
前記精練工程において、アルカリ洗液の処理浴以降に、水すすぎを行い、かつ、織物搬送の経張力を0.08N/cm以上0.8N/cm以下とし、そして
前記加硫セット工程において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上で加硫セット加工を行う、
ことを特徴とする、ポリアミドのマルチフィラメント織物のエアバッグ用基布の製造方法。」に訂正する。
(3) 一群の請求項について
訂正前の請求項6、7について、請求項7は請求項6を引用する請求項である。
そうすると、本件訂正請求は、一群の請求項〔6、7〕について請求されたものである。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、本件訂正前の請求項6に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項7の訂正は、訂正前の請求項7が請求項6を引用する形式で記載されていたところ、請求項間の引用関係を解消して独立形式での記載に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 本件訂正請求についてのまとめ
したがって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔6、7〕について訂正を認める。
第3 本件特許の請求項に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~5、7に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5、7に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリアミドのマルチフィラメント織物であるエアバッグ用基布であって、
該織物の少なくとも片面にシリコーン膜の層を有し、
該シリコーン膜量が10g/m2以上100g/m2以下であり、
シクロペンタノン類の含有量が該織物重量に対して0ppm以上250ppm以下であり、
105℃、60分の加熱前後での経緯方向それぞれの収縮寸法変化率のうち、より大きい収縮寸法変化率が0%以上1.4%以下であり、かつ、
85℃、95%相対湿度環境下400時間後の刃梳き抵抗が420N以上であることを特徴とする、エアバッグ用基布。
【請求項2】
前記織物に含まれる油剤成分量が0重量%以上0.04重量%以下である、請求項1に記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
前記織物の構成糸の重量に対して、リン原子を10ppm以上300ppm以下含有する、請求項1又は2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
前記ポリアミドの分子鎖末端において、カルボン酸末端量がアミン末端量を上回り、その差が10ミリモル当量/kg以上50ミリモル当量/kg以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
80℃、95%環境下、400時間後のFMVSS302の燃焼試験において、経緯方向ともに、以下の1)又は2):
1)基布の表裏どちらから着火した場合でも、自己消火である、
2)表裏の燃焼速度がともに100mm/分以下であり、かつ、表裏の燃焼速度の比が1.0以上3.0以下である、
を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布。」
「【請求項7】
以下の工程:
ポリアミドを溶融紡糸して、シクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下であるポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程、
得られたポリアミドのマルチフィラメント糸を織糸として織物を得る工程、
60℃以上の温度でアルカリ洗液を用いる精練工程、
乾燥工程、
前記織物の少なくとも片面にシリコーン塗布してシリコーン膜の層を形成する工程、及び
加硫セット工程、
を含み、
前記精練工程において、アルカリ洗液の処理浴以降に、水すすぎを行い、かつ、織物搬送の経張力を0.08N/cm以上0.8N/cm以下とし、そして
前記加硫セット工程において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上で加硫セット加工を行う、
ことを特徴とする、ポリアミドのマルチフィラメント織物のエアバッグ用基布の製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審において特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明の課題である「耐環境試験後のFMVSS302が定める燃焼性評価において、エアバッグ基布の樹脂塗布面着火と非塗布面着火でいずれも燃焼性が抑制されるエアバッグ基布を提供すること」(【0009】)を解決する手段として、【0020】に記載の「加硫セット加工において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上である」ことを含むことが、必須の構成要件であるところ、本件特許の請求項6に係る発明には、加硫セット加工における条件が何ら特定されておらず、本件発明の課題を解決しないものも含むものである。
2 当審の判断
(1) サポート要件の判断について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 本件発明について
ア 本件発明の課題
本件発明の課題は、「耐環境試験後のFMVSS302が定める燃焼性評価において、エアバッグ基布の樹脂塗布面着火と非塗布面着火でいずれも燃焼性が抑制されるエアバッグ基布を提供すること」(【0009】)である。
イ 本件発明の課題を解決する手段
本件特許明細書の【0055】~【0057】、【0065】の【表2】には、比較例2及び比較例3として、ピンテンター熱処理機を用いた加硫セット工程における経方向のオーバーフィード縮み分を0.5%とした以外は実施例1又は実施例8と同様にして得られた基布が記載されており、これら比較例2及び比較例3の基布は、【0065】の【表2】において、「収縮寸法変化率が1.4%以下」(【0020】)という条件を満たさないから、「湿熱処理による燃焼速度の増加が大きい。さらに、コート面を下にした燃焼速度は、織物面下にした燃焼速度を基準にして大きめで、湿熱処理後はその差が大きい」(同【0055】及び【0057】)ものである。また、比較例2及び比較例3の基布は、同【0039】に記載の「80℃、95%環境下400時間保持する湿熱処理を行う前の燃焼速度に対する、湿熱処理後の燃焼速度の増加が、40%以下であること」と、同【0040】に記載の「FMVSS302燃焼試験で、湿熱処理後における燃焼速度の評価において、織物面着火(コーティング面を上にして着火)に対するコート面着火(コーティング面を下にして着火)の燃焼速度比が3.0以下であ」ることを満たしていない。これらのことから、比較例2及び比較例3が上記(1)に示した本件発明の課題を解決していないことは明らかである。他方、比較例2及び比較例3に対し、加硫セット工程における経方向のオーバーフィード縮み分のみが異なる実施例1及び実施例8は、上記湿熱処理後の燃焼速度に関する条件を満たしている。
そうすると、上記アに示した本件発明の課題を解決する手段として、同【0020】に記載の「加硫セット加工において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上である」ことを含むことが、必須の構成要件であるといえる。
ウ 本件発明7について
本件訂正が認められたことにより、本件発明6は削除され、本件発明7は独立形式での記載に改められた。そして、本件発明7は「加硫セット加工において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上である」ことを発明特定事項に備えたものであり、上記アに示した課題に対し、課題を解決するための手段が反映されたものである。
よって、本件発明7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものである。
第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
(1) 申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。
(2) 申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。
(3) 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、明細書の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当するので、取り消されるべきものである。
本件特許明細書の【0031】には「精練工程では、織物組織を緩めることでシクロペンタノンの除去を促進できる。精練浴中での織物の把持について、幅方向では把持せずに搬送するのが好ましい。経糸方向では、搬送張力を0.8N/cm以下にするのが好ましく、一層好ましくは0.5N/cm以下である。搬送中に織物たるみなくしわ発生を回避するためには0.08N/cm以上の経張力とするのが好ましい。」と記載されている。
一方、本件特許明細書の実施例11(参考例11)では、経糸方向の搬送能力が1.5N/cmであり上記上限を超えているにもかかわらず、織物中のシクロペンタノン類の含有量が190ppmとなっている。
そうすると、本件特許明細書の記載は、本件特許発明1~5(つまり、シクロペンタノン類の含有量が織物重量に対して0ppm以上250ppm以下であるもの)をどのようにして製造するのか判然とせず、当業者に過度の試行錯誤を要求するものであるといえる。
よって、本件特許明細書の記載は、実施可能要件を満たさない。
(特許異議申立書27ページ)
(4) 申立人が提出した証拠
甲第1号証:特開2012-52280号公報
甲第2号証:国際公開第2015/137495号
甲第3号証:特開2017-172092号公報
甲第4号証:特開2011-52366号公報
甲第5号証:国際公開第2009/119302号
甲第6号証:特開2012-7289号公報
(以下、甲第○号証を「甲○」という。)
2 当審の判断
本件発明1~5、7について、取消理由通知で通知しなかった上記申立理由1、申立理由2及び申立理由3について検討しても、以下に示すように理由がないと判断する。
(1)申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
ア 甲1について
(ア) 甲1の記載
甲1には以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。
「【請求項1】
合成繊維からなる織物であって、織物の分解糸の総繊度が200~320dtex、織物を構成する織糸の引抜抵抗が経緯とも50~250N/cm/cm、織物の引張強さが経および緯方向ともに550~800N/cm、引張試験における荷重300Nでの伸び率が経および緯方向の和で30~45%、ASTM D4032剛軟度が3.0~7.5N、および単位面積あたり重量が130~190g/m2であることを特徴とするエアバッグ用織物。」
「【0006】
本発明の目的は、低繊度の織糸から構成され、軽量で収納性に優れていながら、耐圧性に優れ、高速展開が可能であり、さらには拘束性能が向上したエアバッグを構成し得るエアバッグ用織物を提供することである。」
「【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のエアバッグ用織物は合成繊維からなるものである。合成繊維はポリアミドやポリエステルの長繊維が好ましい。特に好ましくは、ポリアミド繊維で、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド4・6、それらの共重合体およびそれらの混合物からなる繊維が挙げられる。なかでも、主としてポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなるポリアミド6・6繊維が好ましい。ポリヘキサメチレンアジパミド繊維とは100%のヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とから構成される融点が250℃以上のポリアミド繊維を指す。本発明で用いられるポリアミド6・6繊維は、融点が250℃未満とならない範囲で、ポリヘキサメチレンアジパミドにポリアミド6、ポリアミド6・I、ポリアミド6・10、ポリアミド6・Tなどを共重合、あるいはブレンドしたポリマーからなる繊維でもよい。」
「【0029】
本発明の織物は、製織にあたって、経糸などに集束性向上のための糊を用いてもよい。また、経糸集束性向上の油剤成分を付与してもよい。ここで付与された油剤成分は、最終的にエアバッグ用織物にわずかに含有されてもよいが、摩擦抵抗が小さすぎて織糸の引抜抵抗を下げないようにすべきであり、製織後の精練工程で概ね除去することが好ましい。」
「【0031】
得られた織物は、経糸糊剤を用いた場合は、精練洗浄される。また、過剰な油剤成分や汚れの除去の精練洗浄をすることができる。精練工程では、温水浴でアルカリ洗浄や界面活性剤洗浄が行われる。この精練工程はできるだけ低温で行い、合成繊維の収縮力発現を抑えておくことが好ましい。また、むしろ、精練せずに織物に仕上げることも好ましい。ウォータージェット織機によって油剤成分が概ね脱落し、油剤成分付着量が適度になった織物を精練せずにエアバッグ用織物に仕上げるのも好ましい。本発明に必要な含有物の量を制御しやすいし、経済的でもある。
【0032】
次いで、織物を乾燥し、熱固定を行ってエアバッグ用織物に仕上げることができる。織物の乾燥および熱固定では織物幅方向と経糸方向の送りについてそれぞれ収縮量や張力を制御することが好ましい。たとえば、テンター乾燥機などが用いられる。織物の引張試験における特定荷重伸び率を低く保つためには、加熱処理しながらも収縮するに任せず張力をかけながら加工することが好ましい。加熱温度は高温で十分収縮力を発現させた方が織糸の拘束構造が発達するため、多段の熱処理を行い、最終的に180℃以上とすることが好ましい。また、緊張加熱処理はテンター法など経緯方向に張力制御して緊張加工できる方法が好ましい。特に、経緯とも収縮条件よりも拡張条件が好ましい。経方向送りはオーバーフィードをできるだけ少なく、また、緯方向は幅入れの収縮条件ではなく、逆に、拡張方向の緊張条件が好ましい。経緯の拡張量は、寸法比の経緯合計において、マイナス2%(収縮)以上でプラス5%(拡張)程度までの拡張条件が好ましい。さらには、加熱処理直後も張力をかけながら急速冷却することが好ましい。特に、冷却時には、定長保持では織物がたるむ挙動があり、張力を保持して冷却することで、織糸の相互拘束構造が強固になり、相互に織目を覆うため、境界部の負荷後通気度を下げることに寄与する。冷却においてもテンター法など経緯方向に張力制御して緊張加工できる方法が好ましく、0%を超え5%程度までの拡張条件が好ましい。
【0033】
本発明のエアバッグ用織物は、平滑剤や帯電防止剤を主成分とした整経油剤や製織工程油剤が残留するなどして油剤成分として織物に対して0.01から1.2重量%含有することが好ましい。0.05から1.0重量%含有することがより好ましい。一層好ましくは0.1から0.7重量%である。ここにいう油剤成分とは、有機溶媒ヘキサンにて織物から抽出されるものであり、織物の重量に対する抽出物の重量の百分率である。油剤成分の含有量が0.01重量%以上であれば、織物の引裂き強力を維持、向上させることができる。特に、油剤成分中の界面活性剤成分は、ポリアミド繊維中の環状ユニマーのブリードアウトを助け、ポリアミド繊維の表面において、環状ユニマーと油剤成分が一体となって繊維同士のすべりを適度に促し、引張強度や引裂き強度の維持、向上に寄与する。すなわち、エアバッグ用織物として展開時のガス耐圧性の向上が期待できるため、展開時のバースト防止に寄与する。一方で、油剤成分の織物中含有量を1.2重量%以下とし、付与量と精練除去量から含有量を制御し、織物中の織糸の引抜抵抗を適切に維持することができる。また、織物が燃焼性試験(FMVSS302)において不合格にならないように過剰な油剤成分の含有量にならないように制御することが出来る。
【0034】
本発明のエアバッグ用織物は、樹脂やエラストマーのコーティングを施さずエアバッグに用いられることができる。織物には最終的にカレンダー加工を施しても良いが、引裂き強力の低下を招かぬような注意が必要であり、好ましくはカレンダー加工を施さずに用いることができる。また、本発明のエアバッグ用織物は、さらに樹脂やエラストマーのコーティングを施してエアバッグに用いられることができる。特に、コーティング量が5~25g/m2程度の軽量コーティングが好ましく、軽量コーティングで非通気性を獲得することができる。」
「【0047】
[実施例1]
ヘキサメチレンとアジピン酸の中和塩を含む水溶液に、重合触媒の次亜燐酸ナトリウムを加え、連続重合装置にて縮重合し、熱安定剤の沃化銅/沃化カリウム水溶液を添加して後期重合した後に樹脂チップとした。引き続いて固相重合を行い、95.5%硫酸への1g/100ml溶解液で相対粘度ηrが3.1のポリアミド6・6ポリマーを得た。
溶融紡糸の際に環状ユニマーを添加して紡糸し、繊度235dtex、フィラメント数72本のポリアミド6・6繊維を製織用原糸とした。原糸強度は10.0cN/dtexであり、一定荷重時伸び率は8.0%、沸水収縮率は10.3%であった。この原糸を撚糸せず、アクリル系糊付けを施し、ウォータージェットルームにて平織物を得た。次いで、この織物をソーダ灰10g/L含む70℃温水で精練し、次いでピンテンターを用いて経方向に2%のオーバーフィード、緯方向つまり幅方向に0%のストレッチで140℃の2分間、次いで、経方向に2%のオーバーフィード、緯方向つまり幅方向に0%のストレッチで180℃の2分間処理後急冷してヒートセットした。その後、15℃のシリンダー冷却を経て、さらに、常温のピンテンターにて経方向に1%の緊張フィード、緯方向つまり幅方向に1%のストレッチで4分間処理した。このようにして、経糸と緯糸の織密度がともに73.5本/2.54cmのノンコートエアバッグ用織物を得た。
【0048】
このエアバッグ用織物の織物分解糸(フィラメント糸)につき、総繊度、引張強さ、一定荷重時伸び率、さらに、織糸引抜抵抗、また、織物の引張強さ、特定荷重伸び率、織密度、特定縫目負荷通気度、剛軟度、単位面積当たり重量、油剤含有量、環状ユニマー含有量等を表2に示す。
このエアバッグ用織物からエアバッグを縫製し、展開速度評価、高速バースト圧評価、インパクター試験、収納性評価を行なった。この結果も表2に示す。
展開ガスのロス無く展開速度は速く、高速バースト圧評価では高圧の破袋圧を示し、インパクター試験では早期拘束挙動を示した。」
「【0050】
[実施例3]
実施例1のヒートセット織物に対して、無溶媒の付加反応型シリコーンをエアナイフコーターで20g/m2塗布し、180℃で2分間の加硫をピンテンターで経方向が1%のオーバーフィード、緯方向が0%ストレッチで行い、この後に、15℃のシリンダー冷却を行った。さらに、常温のピンテンターにて経方向に1%の緊張フィード、緯方向つまり幅方向に1%のストレッチで4分間処理した。こうしてコーティングエアバッグ用織物を得た。織物の性状と各種評価結果を表2に示す。表2では織物の単位面積当たり重量はコーティングを除いた重量を記している。
展開ガスのロス無く展開速度は速く、高速バースト圧評価では高圧の破袋圧を示し、インパクター試験では早期拘束挙動を示した。」
(イ) 甲1に記載の発明
上記(ア)の記載を踏まえ、甲1の【0050】に記載の実施例3に着目すると、以下の甲1発明1、及び甲1発明2が記載されている。
a 甲1発明1
「ヘキサメチレンとアジピン酸の中和塩を含む水溶液に、重合触媒の次亜燐酸ナトリウムを加え、連続重合装置にて縮重合し、熱安定剤の沃化銅/沃化カリウム水溶液を添加して後期重合した後に樹脂チップとし、
引き続いて固相重合を行い、95.5%硫酸への1g/100ml溶解液で相対粘度ηrが3.1のポリアミド6・6ポリマーを得て、
溶融紡糸の際に環状ユニマーを添加して紡糸し、繊度235dtex、フィラメント数72本のポリアミド6・6繊維を製織用原糸とし、
原糸強度は10.0cN/dtexであり、一定荷重時伸び率は8.0%、沸水収縮率は10.3%であり、
この原糸を撚糸せず、アクリル系糊付けを施し、ウォータージェットルームにて平織物を得て、
次いで、この織物をソーダ灰10g/L含む70℃温水で精練し、次いでピンテンターを用いて経方向に2%のオーバーフィード、緯方向つまり幅方向に0%のストレッチで140℃の2分間、次いで、経方向に2%のオーバーフィード、緯方向つまり幅方向に0%のストレッチで180℃の2分間処理後急冷してヒートセットし、
ヒートセット織物に対して、無溶媒の付加反応型シリコーンをエアナイフコーターで20g/m2塗布し、180℃で2分間の加硫をピンテンターで経方向が1%のオーバーフィード、緯方向が0%ストレッチで行い、この後に、15℃のシリンダー冷却を行い、
常温のピンテンターにて経方向に1%の緊張フィード、緯方向つまり幅方向に1%のストレッチで4分間処理して得たコーティングエアバッグ用織物。」
b 甲1発明2
「ヘキサメチレンとアジピン酸の中和塩を含む水溶液に、重合触媒の次亜燐酸ナトリウムを加え、連続重合装置にて縮重合し、熱安定剤の沃化銅/沃化カリウム水溶液を添加して後期重合した後に樹脂チップとし、
引き続いて固相重合を行い、95.5%硫酸への1g/100ml溶解液で相対粘度ηrが3.1のポリアミド6・6ポリマーを得て、
溶融紡糸の際に環状ユニマーを添加して紡糸し、繊度235dtex、フィラメント数72本のポリアミド6・6繊維を製織用原糸とし、
原糸強度は10.0cN/dtexであり、一定荷重時伸び率は8.0%、沸水収縮率は10.3%であり、
この原糸を撚糸せず、アクリル系糊付けを施し、ウォータージェットルームにて平織物を得て、
次いで、この織物をソーダ灰10g/L含む70℃温水で精練し、次いでピンテンターを用いて経方向に2%のオーバーフィード、緯方向つまり幅方向に0%のストレッチで140℃の2分間、次いで、経方向に2%のオーバーフィード、緯方向つまり幅方向に0%のストレッチで180℃の2分間処理後急冷してヒートセットし、
ヒートセット織物に対して、無溶媒の付加反応型シリコーンをエアナイフコーターで20g/m2塗布し、180℃で2分間の加硫をピンテンターで経方向が1%のオーバーフィード、緯方向が0%ストレッチで行い、この後に、15℃のシリンダー冷却を行い、
常温のピンテンターにて経方向に1%の緊張フィード、緯方向つまり幅方向に1%のストレッチで4分間処理し、コーティングエアバッグ用織物を得る方法。」
イ 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「溶融紡糸の際に環状ユニマーを添加して紡糸し、繊度235dtex、フィラメント数72本のポリアミド6・6繊維を製織用原糸とし」た「コーティングエアバッグ用織物」は、本件発明1の「ポリアミドのマルチフィラメント織物であるエアバッグ用基布」に相当する。
甲1発明1の「ヒートセット織物に対して、無溶媒の付加反応型シリコーンをエアナイフコーターで20g/m2塗布し」た構成は、本件発明1の「該織物の少なくとも片面にシリコーン膜の層を有し、該シリコーン膜量が10g/m2以上100g/m2以下であ」る構成に相当する。
(イ) 一致点及び相違点
上記(ア)より、本件発明1と甲1発明1は次の点で一致し、相違する。
a 一致点
[一致点1]
「ポリアミドのマルチフィラメント織物であるエアバッグ用基布であって、
該織物の少なくとも片面にシリコーン膜の層を有し、
該シリコーン膜量が10g/m2以上100g/m2以下である、エアバッグ用基布。」
b 相違点
[相違点1]
エアバッグ用基布について、本件発明1は、「シクロペンタノン類の含有量が該織物重量に対して0ppm以上250ppm以下であ」るのに対して、甲1発明1は、シクロペンタノン類の含有量について記載されていない点。
[相違点2]
エアバッグ用基布について、本件発明1は、「105℃、60分の加熱前後での経緯方向それぞれの収縮寸法変化率のうち、より大きい収縮寸法変化率が0%以上1.4%以下であ」るのに対して、甲1発明1は、収縮寸法変化率について記載されていない点。
[相違点3]
エアバッグ用基布について、本件発明1は、「85℃、95%相対湿度環境下400時間後の刃梳き抵抗が 420N以上である」のに対して、甲1発明1は、刃梳き抵抗について記載されていない点。
(ウ) 判断
まず、上記相違点1~3は実質的なものである。
次に、上記相違点1について検討する。
甲1発明1のエアバッグ用基布は、シクロペンタノン類の含有量について何ら特定されていない。また、甲1発明1は、上記(ア)の【0006】に示したように、「低繊度の織糸から構成され、軽量で収納性に優れていながら、耐圧性に優れ、高速展開が可能であり、さらには拘束性能が向上したエアバッグを構成し得る」ことを目的とするものであり、発明の詳細な説明を参酌しても、シクロペンタノン類の含有量に関連する記載はない。そうすると、甲1発明1においてシクロペンタノン類の含有量が該織物重量に対して0ppm以上250ppm以下を満たすようにすることは当業者といえども想到することはない。加えて、甲1発明1が当該数値範囲を満たすものと判断する根拠もない。
また、シクロペンタノン類の含有量に着目することは、甲2~甲6にも記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1は甲1発明1でない。また、本件発明1の上記相違点1に係る構成は、甲1発明1及び甲2~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲2~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 申立人の主張について
申立人は、異議申立書において、上記相違点1に係る構成要件Dについて以下のように主張する(異議申立書19ページ)。
「甲1には、エアバッグ用織物におけるシクロペンタノン類の含有量は明記されていない。
本件特許明細書の段落0019には「基布の織物中シクロペンタノン類の含有量を、構成糸重量に対して250ppm以下とするには、製織後の精練でアルカリ洗液を用い35℃以上の温度で精練することが好ましい。」と記載されている。この記載によれば、アルカリ洗液を用い35℃以上の温度で精練された織物であれば、構成要件Dを満たすと認定できる。
甲1の実施例1では、アルカリ洗液である、ソーダ灰10g/L含む70℃温水で精練したことが記載されていることから、甲1に記載のエアバッグ用織物は構成要件Dを満たす蓋然性が極めて高いといえる。」
しかしながら、本件特許明細書の【0028】には、「溶融紡糸工程における滞留時間(ポリアミド樹脂が溶融され、紡糸口金から吐出されるまでの時間)は短いほど好ましい。滞留時間は30分以下であることが好ましく、15分以下であることがより好ましく、0.5分以上7分以下であることがさらに好ましい。溶融温度においてポリマー中のシクロペンタノン類が増加するため、短時間であることが好ましい。また、溶融紡糸工程において、溶融部には1軸又は2軸のエクストルーダーが用いられることが好ましい。このエクストルーダーによってポリアミド樹脂に適度な圧力を加えながらポリマー配管、ギヤポンプ、紡糸パックへ導くことができるため、これら流路において異常滞留を起こすことが無く、ポリアミドの熱分解によるシクロペンタノン類の増大が抑えられるため好ましい。」と記載され、同【0029】には、「ポリアミド繊維として、上記の適切な製法によってポリマー中のシクロペンタノン類の量が少ないことが重要である。」と記載されている。これらの記載を踏まえれば、エアバッグ用基布におけるシクロペンタノン類の含有量を所定値以下とするためには、ポリアミドのマルチフィラメント織物における糸を、申立人が主張するアルカリ洗液を用い35℃以上の温度で精練することのほか、上記【0028】及び【0029】の記載から導出される適切な条件で得る必要があると理解できる。
これに対し、甲1発明1は、溶融紡糸について、環状ユニマーを添加して紡糸し、繊度235dtex、フィラメント数72本のポリアミド6・6繊維を製織用原糸とすることを特定するのみであり、甲1に溶融紡糸に関する特段の記載はない。
そうすると、甲1発明1が、本件発明1の「シクロペンタノン類の含有量が該織物重量に対して0ppm以上250ppm以下であ」る構成を満たす蓋然性が高いとは認められない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
ウ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イと同様の理由により、本件発明2~5は甲1発明1でなく、甲1発明1及び甲2~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明7について
(ア) 対比
本件発明7と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2の「固相重合を行い、95.5%硫酸への1g/100ml溶解液で相対粘度ηrが3.1のポリアミド6・6ポリマーを得て、溶融紡糸の際に環状ユニマーを添加して紡糸し、繊度235dtex、フィラメント数72本のポリアミド6・6繊維を製織用原糸と」する工程は、本件発明7の「ポリアミドを溶融紡糸して、シクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下であるポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程」と、「ポリアミドを溶融紡糸して、ポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程」である限りにおいて一致する。
甲1発明2の「原糸を撚糸せず、アクリル系糊付けを施し、ウォータージェットルームにて平織物を得」る工程は、本件発明7の「得られたポリアミドのマルチフィラメント糸を織糸として織物を得る工程」に相当する。
甲1発明2の「織物をソーダ灰10g/L含む70℃温水で精練」する工程は、本件発明7の「60℃以上の温度でアルカリ洗液を用いる精練工程」に相当する。
甲1発明2の「ピンテンターを用いて経方向に2%のオーバーフィード、緯方向つまり幅方向に0%のストレッチで140℃の2分間、次いで、経方向に2%のオーバーフィード、緯方向つまり幅方向に0%のストレッチで180℃の2分間処理後急冷してヒートセット」する工程は、本件発明7の「乾燥工程」に相当する。
甲1発明2の「ヒートセット織物に対して、無溶媒の付加反応型シリコーンをエアナイフコーターで20g/m2塗布」する工程、「180℃で2分間の加硫をピンテンターで経方向が1%のオーバーフィード、緯方向が0%ストレッチで行」う工程は、それぞれ本件発明7の「前記織物の少なくとも片面にシリコーン塗布してシリコーン膜の層を形成する工程」、「加硫セット工程」に相当する。
甲1発明2の「ポリアミド6・6繊維を製織用原糸と」し、「コーティングエアバッグ用織物を得る方法」は、本件発明7の「ポリアミドのマルチフィラメント織物のエアバッグ用基布の製造方法」に相当する。
(イ) 一致点及び相違点
上記(ア)より、本件発明7と甲1発明2は次の点で一致し、相違する。
a 一致点
[一致点2]
「以下の工程:
ポリアミドを溶融紡糸して、ポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程、
得られたポリアミドのマルチフィラメント糸を織糸として織物を得る工程、
60℃以上の温度でアルカリ洗液を用いる精練工程、
乾燥工程、
前記織物の少なくとも片面にシリコーン塗布してシリコーン膜の層を形成する工程、及び
加硫セット工程、
を含む、ポリアミドのマルチフィラメント織物のエアバッグ用基布の製造方法。」
b 相違点
[相違点4]
ポリアミドを溶融紡糸して、ポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程について、本件発明7は、ポリアミドのマルチフィラメント糸が「シクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下である」のに対して、甲1発明2は、シクロペンタノン類の含有量について記載されていない点。
[相違点5]
精練工程について、本件発明7は、「アルカリ洗液の処理浴以降に、水すすぎを行い、かつ、織物搬送の経張力を0.08N/cm以上0.8N/cm以下」であるのに対して、甲1発明2は、水すすぎと織物搬送の経張力について記載されていない点。
[相違点6]
加硫セット工程について、本件発明7は、「160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上で加硫セット加工を行う」のに対して、甲1発明2は、オーバーフィードについて記載されていない点。
(ウ) 判断
上記相違点4について検討する。
甲1発明2の溶融紡糸したポリアミド6・6繊維の製織用原糸において、シクロペンタノン類の含有量について何ら特定されていない。また、甲1発明2は、上記(ア)の【0006】に示したように、「低繊度の織糸から構成され、軽量で収納性に優れていながら、耐圧性に優れ、高速展開が可能であり、さらには拘束性能が向上したエアバッグを構成し得る」ことを目的とするものであり、発明の詳細な説明を参酌しても、シクロペンタノン類の含有量に関連する記載はない。そうすると、甲1発明2において、溶融紡糸したポリアミド6・6繊維の製織用原糸におけるシクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下を満たすようにすることは当業者といえども想到することはない。加えて、甲1発明2が当該数値範囲を満たすものと判断する根拠もない。
また、シクロペンタノン類の含有量に着目することは、甲2~甲6にも記載も示唆もされていない。
よって、本件発明7の上記相違点4に係る構成は、甲1発明2及び甲2~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1発明2及び甲2~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 申立人の主張について
申立人は、異議申立書において、上記相違点4に係る構成要件Kについて以下のように主張する(異議申立書24ページ)
「構成要件Kに関し、甲1には製織用原糸としたポリアミド6・6繊維におけるエアバッグ用織物におけるシクロペンタノン類の含有量は明記されていない。
本件特許明細書の段落0023(当審注:「段落0023」は「段落0027」の誤記。)には「溶融温度以下で行う固相重合法は、ポリマー自体の熱劣化も抑えることが可能であり、ポリマー中のシクロペンタノン類を増大させないために好ましい方法である。」と記載されている。この記載によれば、固相重合を行うことによりポリアミド6・6繊維におけるシクロペンタノン類の含有量を構成要件Kを満たす範囲とすることができると認定できる。
甲1の実施例1では固相重合によるポリアミド6・6ポリマーを剛性していることから、甲1の実施例1で得られたポリアミド6・6繊維は構成要件Kを満たす蓋然性が高いといえる。」
しかしながら、上記イ(エ)で示したように、シクロペンタノン類の含有量を所定値以下とするために、ポリアミドのマルチフィラメント織物における糸を、申立人が主張する固相重合を行うことのほか、本件特許明細書の【0028】及び【0029】の記載から導出される適切な条件で得る必要があると理解できる。
これに対し、甲1発明2は、溶融紡糸について、環状ユニマーを添加して紡糸し、繊度235dtex、フィラメント数72本のポリアミド6・6繊維を製織用原糸とすることを特定するのみであり、甲1に溶融紡糸に関する特段の記載はない。
そうすると、甲1発明2が、本件発明7のポリアミドのマルチフィラメント糸が「シクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下である」ことを満たす蓋然性が高いとは認められない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
(2) 申立理由3(実施可能要件)について
ア 実施可能要件についての検討
実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載がなければならない。以下検討する。
本件特許明細書には、上記第4の2(2)アに示した課題が記載されており、発明を実施するための形態が【0014】~【0040】に記載されている。また、同【0041】~【0065】には実施例が記載され、エアバッグ用基布におけるシクロペンタノン類の含有量、シリコーン塗布量、収縮寸法変化率、刃梳き抵抗の数値例、及びこれらの数値を得る製造方法が示されている。そして、同【0064】の【表1】及び【0065】の【表2】には、同【0048】に記載された湿熱処理後の燃焼速度増加、及び湿熱処理後の表裏の燃焼速度比(C/W比)が、同【0039】及び【0040】に記載された、難燃焼性を維持できる範囲に含まれた実施例が示されており、これらの記載を参酌することで、当業者は本件発明を実施することができる。
したがって、本件特許明細書の記載は、当業者がその記載及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~5に係る発明を実施することができる程度の記載があるといえる。
イ 申立人の主張について
申立人は、上記1(3)のとおり主張するところ、要するに、本件特許明細書の【0062】及び【0065】の【表2】に示された実施例11が、同【0031】に記載された、シクロペンタノンの除去を促進できる精練工程における搬送張力の範囲である0.8N/cm以下の範囲を満たしていないため、本件発明1~5の製造に際し過度の試行錯誤を要求されるというものである。
しかしながら、本件発明1~5は、実施例11を含むものではない。すなわち、本件発明1~5は、本件発明1における「85℃、95%相対湿度環境下400時間後の刃梳き抵抗が420N以上である」のに対して、実施例11は刃梳き抵抗が400Nであるため、本件発明1~5は、実施例11を含まない。そうすると、実施例11が、本件特許明細書の【0031】に記載された搬送張力の範囲を満たしていないことは、本件発明1~5の実施において過度の試行錯誤を要求されるか否かについて直接関連していないため、上記申立人の主張は採用できない。
加えて、上記アに示したように、本件特許明細書には、発明を実施するための形態と実施例が記載されており、例えば、同【0064】の【表1】及び【0065】の【表2】に示される実施例1~3、5~10を参照し、本件発明1~5を実施することができる。
以上より、実施に際して過度の試行錯誤を要するとはいえず、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、申立人の実施可能要件の申立理由は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~5、7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1~5、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項6に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700165