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特許異議申立

2024-701023

粉末及びその製造方法

審判番号
2024-701023
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-187680
登録番号
7472956
請求日
2024年10月16日
審決日
2025年03月24日
公報発行日
2025年04月25日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】東ソー株式会社
  • 【異議申立人】藤井 正剛
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 相澤 啓祐
  • 審判官 池渕 立
分類
P1652.113-Y (C01G) / P1652.121-Y (C01G) / P1652.537-Y (C01G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
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特許第7472956号発明「粉末及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7472956号の請求項1~7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7472956号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願(特願2022-187680号。以下、「本願」という。)は、令和 4年11月24日(優先権主張令和 3年11月29日)の出願であって、令和 6年 4月15日に特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年10月16日に、請求項1~7に係る特許に対し、特許異議申立人である藤井正剛(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。また、これら発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 2mol%以上8mol%以下の安定化元素及び50ppm以下のチタン(Ti)を含み、なおかつ、活性化エネルギーが225kJ/mol以上300kJ/mol以下、塩素含有量が100ppm以上500ppm以下、BET比表面積が6m2/g以上、15m2/g以下である、ジルコニアの粉末。 【請求項2】 前記安定化元素が、イットリウム、カルシウム及びマグネシウムの群から選ばれる1以上である、請求項1に記載の粉末。 【請求項3】 塩素を含む、請求項1又は2に記載の粉末。 【請求項4】 アルミナ(Al2O3)を含む、請求項1又は2記載の粉末。 【請求項5】 平均二次粒子径は0.7μm以下である請求項1又は2に記載の粉末。 【請求項6】 一次粒子径が80nm以上、150nm以下、である請求項1又は2に記載の粉末。 【請求項7】 アクチノイド元素を含む、請求項1又は2に記載の粉末。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に公知となった下記3の甲第1~4号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)を提出し、以下の申立理由1~2により、本件特許の請求項1~7に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。 1 申立理由1(新規性、進歩性) 本件特許発明1~7は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明と甲2~4に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) (1)塩素含有量について 本件特許発明1には「塩素含有量が100ppm以上500ppm以下」であることが特定されているが、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、塩素含有量が200ppmの実施例1~4が記載されているのみである。 したがって、本件明細書の記載を参酌しても、塩素含有量を「100ppm以上500ppm以下」の範囲まで拡張ないし一般化することはできない。 (2)Ti含有量について 本件特許発明1には「50ppm以下のチタン(Ti)を含」むこと、すなわち、0ppm超50ppm以下のチタン(Ti)を含むことが特定されているが、本件明細書には、実施例としてTi含有量が24~29ppmのものが記載されているのみであり、Ti含有量が10ppm未満の比較例1は全光線透過率が35%であるから、本件課題を解決することができないものである。そうすると、Ti含有量が顕著に少ない、例えば、10ppm未満の場合には、本件課題が解決されない蓋然性が高い。 したがって、本件特許発明1で規定されているTi含有量の範囲は、本件課題を解決できない範囲まで包含しているといえるため、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。 (3)上記(1)、(2)で指摘した点は、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~7についても同様である。 (4)よって、本件特許の請求項1~7の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 3 証拠方法 甲第1号証:藤崎浩之、外2名、歯科材料に適した透光感ジルコニア焼結体用粉末「Zpex」、東ソー研究・技術報告、第56巻、2012年、57~61頁、URL:https://www.tosoh.co.jp/technology/assets/2012_03_06.pdf 甲第2号証:特開2008-81325号公報 甲第3号証:国際公開第2018/056331号 甲第4号証:東ソー株式会社製品カタログ、“TOSOH ZIRCONIA POWDER、TITLE:SPECIFICATION AND TYPICAL PROPERTIES、Grades:TZ-3Y-E,3YS-E,3YB-E,3YSB-E,3YSB-C”、pp1/2~2/2、Appendix-1 1/1、Appendix-2 1/3~3/3、“TOSOH ZIRCONIA POWDER、TITLE:QUALITY ASSURANCE METHODS、Grades:TZ-3Y-E,3YS-E,3YB-E,3YSB-E,3YSB-C”、Appendix-3 1/7~7/7、2016年9月1日、URL:https://ceramlab.at.ua/handbook/Powder-Sales-Spec-3YE-2005.pdf 第4 当審における判断 上記申立理由1~2はいずれも採用できない。その理由は以下に記載のとおりである。 1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明 (1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明 ア 甲1には、「歯科材料に適した透光感ジルコニア焼結体用粉末「Zpex」」(論文の標題)に関して、次の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。 (1ア)「 [図:0001421381000001.jpg] [図:0001421381000002.jpg] 」(57頁左欄下から3行~右欄4行) (1イ)「 [図:0001421381000003.jpg] [図:0001421381000004.jpg] [図:0001421381000005.jpg] 」(58頁左欄12行~59頁左欄1行) (1ウ)「 [図:0001421381000006.jpg] 」(58頁下部。一部のみ抜粋。) (1エ)「 [図:0001421381000007.jpg] 」(59頁右欄1~14行) (1オ)「 [図:0001421381000008.jpg] 」(59頁右欄中央) イ 甲1に記載された発明 (ア)上記ア(1ア)によれば、弊社(当合議体注:甲1の発行者である「東ソー株式会社」を表す。)によってこれまで販売されていた歯科材料用のジルコニア粉末として「TZ-3YSB-E」がある。 (イ)上記ア(1ウ)の表1は「ジルコニア粉末物性及び焼結体特性の比較」を標題としており、当該表1には、上記「TZ-3YSB-E」のジルコニア粉末が次の成分を含むことが記載されている。 Y2O3を3mol%、 Al2O3を0.25wt%、 SiO2を≦0.02wt%、 Fe2O3を≦0.01wt% (ウ)また、上記表1には次の事項が記載されている。 上記「TZ-3YSB-E」のジルコニア粉末のBETが7m2/g (エ)以上の検討によれば、「TZ-3YSB-E」に注目すると、甲1には、次のジルコニア粉末の発明が記載されているものと認められる。 「製品名が「TZ-3YSB-E」である、歯科材料用のジルコニア粉末であって、 Y2O3を3mol%、 Al2O3を0.25wt%、 SiO2を≦0.02wt%、 Fe2O3を≦0.01wt%、 含み、 BETが7m2/gである、 ジルコニア粉末。」 (以下、「甲1発明」という。) (2)甲2の記載 ア 甲2には、「ジルコニア微粉末及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (2ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、光コネクター部品,精密加工部品及び粉砕機用部材等の構造用セラミックスの原料に用いられる、とくに成形性がよく、低温焼結性にも優れたジルコニア微粉末及びそのジルコニア微粉末をスラリーにして噴霧造粒して得られるジルコニア顆粒並びにその製造方法に関するものである。」 (2イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明では、上記のような従来方法における欠点を鑑みて、上記の欠点を解消した、成形性がよく、かつ、低温焼結性にも優れ、これらに加えて焼結体にしたときの品質の信頼性にも優れたジルコニア微粉末の提供、ならびにそのジルコニア微粉末を簡易なプロセスにより製造することのできる方法の提供を目的とするものである。」 (2ウ)「【0009】 本発明のジルコニア微粉末は、安定化剤としてイットリアを2~4モル%含み、結晶子径が34~40nm、塩素含有量が0.03~0.06重量%、アルミナ含有量が0.05~0.70重量%、BET比表面積を10~20m2/g、平均粒径が0.4~0.6μmであるジルコニア微粉末からなるものである。」 (2エ)「【0016】 また、上記のジルコニア微粉末は、BET比表面積が10~20m2/g、結晶子径が34~40nm、かつ、平均粒径が0.4~0.6μmのものである。BET比表面積が10m2/gより小さく又は結晶子径が40nmよりも大きくなると焼結しにくく、一方、20m2/gよりも大きく又は30nmよりも小さくなると粒子間の凝集力が著しい強固な粉末となり、構造用ジルコニアセラミックスの原料粉末としては適さない。また、平均粒径が0.4μmよりも小さくなると粒子間の凝集力が強くなるために成形しにくく、一方、0.6μmよりも大きくなると、焼結の緻密化を阻害する硬い凝集粒子を多く含む粗粒が多くなって焼結性の悪いものとなる。より好ましいBET比表面積は12~18m2/gであり、結晶子径は34~38nmの範囲が好ましい。 【0017】 本発明のジルコニア微粉末は、塩素含有量が0.03~0.06重量%であり、より好ましい塩素含有量は0.04~0.05%である。塩素含有量が0.03%よりも小さくなると、凝集力の強い粉末となって成形しにくく、一方、塩素含有量が0.06重量%よりも大きくなると、焼結性の劣る粉末となって、上記のとおり、成形し焼結させて得られる焼結体が劣化しやすいものになる。」 (3)甲3の記載 ア 甲3には、「ジルコニア組成物、仮焼体及び焼結体並びにこれらの製造方法、並びに積層体」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (3ア)「[0173][試験例40] [電子顕微鏡による観察] 試験例20の顆粒について電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、その形状を観察した。図1にその顕微鏡写真を示す。また、顆粒を構成する粒子の形状についても観察した。図2にその顕微鏡写真を示す。比較対照として、東ソー社製TZ-3YSB-Eについても同様に顆粒及び顆粒を構成する粒子を観察した。図3及び図4にその顕微鏡写真を示す。」 (3イ)「[図3] [図:0001421381000009.jpg] 」 (3ウ)「[図4] [図:0001421381000010.jpg] 」 (4)甲4の記載 ア 甲4には、「TOSOH ZIRCONIA POWDER、TITLE:SPECIFICATION AND TYPICAL PROPERTIES」(パンフレットの標題)に関して、次の記載がある。 (4ア)「 [図:0001421381000011.jpg] 」 (4イ)「 [図:0001421381000012.jpg] 」 2 申立理由1(甲1を主引例とする新規性、進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲1発明との対比 (ア)甲1発明の「ジルコニア粉末」は、本件特許発明1の「ジルコニアの粉末」に相当する。 (イ)本件特許発明2には「イットリウム」は「安定化元素」として選ばれるものであることが特定されており、また、本件明細書の段落【0015】に「本実施形態における安定化元素量は、酸化物換算した安定化元素及びジルコニアの合計に対する、酸化物換算した安定化元素のモル割合[mol%]である。さらに、チタンを含有する粉末における安定化元素量は、TiO2換算したチタン、酸化物換算した安定化元素及びジルコニアの合計に対する、酸化物換算した安定化元素のモル割合[mol%]から求めればよい。本実施形態における安定化元素の酸化物換算は、イットリウムがY2O3、カルシウムがCaO及びマグネシウムがMgOとすればよい。」と記載されていることを踏まえると、甲1発明の「ジルコニア粉末」が「Y2O3を3mol%」含むことは、本件特許発明1の「ジルコニアの粉末」が「2mol%以上8mol%以下の安定化元素」「を含」むことに相当する。 (ウ)甲1発明の「BETが7m2/gである」ことは、本件特許発明1の「BET比表面積が6m2/g以上、15m2/g以下である」ことに相当する。 (エ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「 2mol%以上8mol%以下の安定化元素を含み、なおかつ、BET比表面積が6m2/g以上、15m2/g以下である、ジルコニアの粉末。」の点。 (相違点1) 本件特許発明1では「50ppm以下のチタン(Ti)を含」むのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされておらず、不明である点。 (相違点2) 本件特許発明1では「活性化エネルギーが225kJ/mol以上300kJ/mol以下」であるのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされておらず、不明である点。 (相違点3) 本件特許発明1では「塩素含有量が100ppm以上500ppm以下」であるのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされておらず、不明である点。 イ 相違点についての検討 事案に鑑み、上記相違点3について検討する。 (ア)本件明細書の段落【0108】には、比較例1として製品名「TZ-3YSB-E」(東ソー社製)のイットリウム含有ジルコニア粉末を採用したことが、また、同段落【0111】には次のとおり比較例1の成分分析の結果が示されている。 「【表1】 [図:0001421381000013.jpg] 」 (イ)上記表1によれば、比較例1、すなわち、「TZ-3YSB-E」のジルコニア粉末の塩素含有量は200ppm未満であることが示されている。 (ウ)甲1発明の認定の基礎となった「TZ-3YSB-E」と、上記比較例1のジルコニア粉末とは、同じ会社(東ソー株式会社)の同じ製品名のジルコニア粉末であるから、製造バッチによる組成の違いが多少あったとしても、甲1発明のジルコニア粉末の塩素含有量は、表1の比較例1の塩素含有量とほぼ同程度であるものと推定される。したがって、甲1発明の塩素含有量は、200ppm未満である蓋然性が極めて高い。 (エ)そうすると、甲1発明の塩素含有量は「200ppm未満」であるのに対して、本件特許発明1のジルコニアの粉末の塩素含有量は「100ppm以上500ppm以下」であるところ、甲1発明の塩素含有量は必ず100ppm以上であるとはいえないから、相違点3は実質的な相違点である。 (オ)そこで、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるかについて検討する。 甲1には、従来製品の「TZ-3YSB-E」は歯科材料として透光感が十分ではなかったため(上記1(1)ア(1ア)参照。)、アルミナ含有量の調整等を行うことによって(上記1(1)ア(1イ)の[2]参照。)、透光感の優れた「Zpex」を開発したことが記載されており、塩素含有量の調整を行うことは特段記載されていないため、甲1の記載全体を精査しても、甲1発明において塩素含有量を100ppm以上とする動機付けを見いだすことができず、また、塩素含有量を100ppm以上とすることにより透光感を高める効果があることについても予測可能であるとはいえない。 (カ)また、甲2には、光コネクター部品、精密加工部品及び粉砕機用部材等の構造用セラミックの原料に用いられる、成形性がよく低温焼結性に優れたジルコニア微粉末を提供することを目的として(上記1(2)ア(2ア)参照。)、塩素含有量が0.03~0.06重量%とすること(上記1(2)ア(2ウ)参照。)が記載されており、さらに、塩素含有量が0.03%よりも小さくなると、凝集力の強い粉末となって成形しにくく、0.06重量%よりも大きくなると、焼結性の劣る粉末となって、焼結体が劣化しやすいものになると記載されているが(上記1(2)ア(2エ)【0017】参照。)、甲1には、歯科材料として市販されている「TZ-3YSB-E」について、成形性や低温焼結性について改善の必要があるとの指摘はなされておらず、本願優先権主張の日当時の技術常識を考慮しても、甲1発明において、甲2の記載に基いて、塩素含有量を0.03~0.06重量%(300~600ppm)とする動機付けを見いだすことができない。 (キ)仮に、甲2の記載に基いて、甲1発明において、塩素含有量を300~600ppmとすること、特に300~500ppmとする動機付けが存在するとしても、本件特許発明1は、塩素含有量を100ppm以上500ppm以下とすることを始めとし、請求項1に記載の事項を備えることによって、38.5%以上という高い全光線透過率を実現しているものである(本件明細書の段落【0060】参照。)が、そのような高い全光線透過率が実現できることは、甲2には記載も示唆もされておらず、当業者が予測できない優れた効果であるといえる。なお、本件明細書の段落【0117】の【表3】には、「TZ-3YSB-E」のジルコニアの粉末を焼結した比較例3の焼結体の全光線透過率は35%であるのに対して、実施例9~13の焼結体は39~48%という高い値であることが示されている。 (ク)したがって、甲1発明において、塩素含有量を100ppm以上500ppm以下とすること、すなわち、相違点3に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。甲3、甲4の記載を参照しても、この判断は変わらない。 (ケ)よって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明と甲1~甲4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件特許発明2~7について 本件特許発明1を直接又は間接的に引用することにより、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~7についても、上記(1)と同様の理由によって、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明と甲1~甲4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1~7は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明と甲1~甲4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由2(サポート要件)について (1)本件明細書の記載 本件明細書には次の記載がある。 ア 「【0006】 本開示は、常圧焼結であっても、高い透光性を有する焼結体が得られ、なおかつ、工業的な製造に適したジルコニアの粉末、その製造方法、これを用いた仮焼体の製造方法、及び、これを用いた焼結体の製造方法、の少なくともいずれかを提供することを目的とする。」 イ 「【0016】 本実施形態の粉末は50ppm以下(50質量ppm以下)のチタン(Ti)を含む。焼結体の結晶粒子の粒成長を促進するため2000ppm(0.2質量%)以上のチタンをジルコニアに添加することが知られている。これに対し、本実施形態の粉末はチタンを含み(すなわち、チタンの含有量が0ppm超(0質量ppm超)であり)、かつ、実質的に焼結体の結晶粒子の粒成長を促進させない量を含有する。このような微量のチタンを含み、なおかつ、後述の活性化エネルギーを有することで、焼結過程の中でも、比較的高い温度域の熱処理における焼結が促進されやすくなる。これにより、通常の常圧焼結であっても高い透光性を有する焼結体が得られると考えられる。本実施形態の粉末が含有するチタンは原料由来のチタンであることがより好ましく、これにより、本実施形態の粉末の活性化エネルギーが得られやすくなる。本実施形態の粉末は測定限界以上(例えば、0ppm超、更には5ppm超、また更には10ppm超)のチタン、好ましくは10ppm以上又は20ppm超のチタンを含み、また、40ppm以下又は30ppm以下のチタンを含むことが好ましく、0質量ppm超50質量ppm以下、5質量ppm超40質量ppm以下、又は、10質量ppm超30質量ppm以下が挙げられる。 【0017】 本実施形態におけるチタンの含有量(以下、「チタン量」ともいう。)は、TiO 2換算したチタン、酸化物換算した安定化元素及びジルコニアの合計に対する、TiO 2換算したチタンの質量割合[ppm]である。なお、本実施形態の粉末がアルミナ等を含む場合のチタン量は、酸化物換算した金属元素、TiO 2換算したチタン、酸化物換算した安定化元素及びジルコニアの合計に対する、TiO 2換算したチタンの質量割合[ppm]であればよい。」 ウ 「【0027】 本実施形態の粉末は塩素(Cl)を含んでいてもよい。本実施形態の粉末の塩素含有量として、0質量ppm以上、0質量ppm超又は100質量ppm以上であり、また、500質量ppm以下、300質量ppm以下又は250質量ppm以下であることが例示でき、また、0質量ppm以上500質量ppm以下、又は、0質量ppm超300質量ppm以下が挙げられる。 【0028】 本実施形態における塩素量は、蛍光X線回折から求まる、粉末質量に対する塩素の質量割合[ppm]である。」 エ 「【0031】 本実施形態の粉末は活性化エネルギーが225kJ/mol以上300kJ/mol以下であるジルコニアの粉末、である。安定化元素及び微量のチタン、好ましくは原料由来のチタン、を含有し、なおかつ、このような活性化エネルギーを有することで、高温域における焼結が促進される。その結果、結晶粒径の成長に先立ち、緻密化が促進されやすくなる。活性化エネルギーは225kJ/mol以上、240kJ/mol以上又は260kJ/mol以上であり、また、300kJ/mol以下、290kJ/mol以下又は270kJ/mol以下であることが好ましい。活性化エネルギーとして225kJ/mol以上300kJ/mol以下、240kJ/mol以上290kJ/mol以下、260kJ/mol以上290kJ/mol以下、又は、260kJ/mol以上270kJ/mol以下であることが例示できる。」 オ 「【0099】 <粉末の作製> 実施例1 ジルコンサンドを水酸化ナトリウム水溶液で溶融後、塩酸で分解し、オキシ塩化ジルコニウム溶液を得た。塩化アンモニウム、塩化イットリウム純水及び得られたオキシ塩化ジルコニウムを混合し、オキシ塩化ジルコニウム濃度0.3mol/L、塩化アンモニウム濃度0.5mol/L及び塩化イットリウム濃度0.0064mol/Lである原料水溶液を得た。原料水溶液のpHが4.5±0.5となるようにpHを測定しながら、該原料水溶液を撹拌しながら、これにアンモニア濃度0.1mol/Lのアンモニア水(NH4OH)を滴下した。アンモニア水の滴下後の原料水溶液を130℃で50時間加熱することでジルコニアゾルを生成させ、ジルコニアゾル溶液を得た。得られたジルコニアゾル溶液に液にアンモニア濃度0.1mol/Lのアンモニア水を添加することで共沈物を得た。アンモニア水の添加は、反応液を撹拌しながら、なおかつ、反応液のpHが5~6となる様に添加速度を適宜調整しながら行った。得られた共沈物を濾過、水洗及び乾燥させ、乾燥粉末を得た。次いで、大気雰囲気、1010℃で2時間、乾燥粉末を熱処理した。 … 【0101】 本実施例の粉末は、BET比表面積が11.2m2/g、平均一次粒子径が115nm、平均二次粒子径が0.44μm、及び、単斜晶率が6%であった。 【0102】 実施例2 原料水溶液の塩化イットリウム濃度を0.0114mol/Lとしたこと、及び、仮焼熱処理温度を1050℃としたこと以外は、実施例1と同様な方法で本実施例の粉末及び焼結体を得た。 【0103】 本実施例の粉末は、BET比表面積が9.2m2/g、平均一次粒子径が116nm、平均二次粒子径が0.44μm、及び、単斜晶率が0%であった。 【0104】 実施例3 仮焼温度を1050℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で熱処理して得られた粉末(粉末1)、実施例3(当合議体注:実施例2の誤記と認められる)と同様な方法で熱処理して得られた粉末(粉末2)を、仮焼粉末1:仮焼粉末2が49:51(質量比)となるように混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、本実施例の粉末を得た。 【0105】 本実施例の粉末は、BET比表面積が9.8m2/g、平均一次粒子径が123nm、平均二次粒子径が0.44μm、及び、単斜晶率が3%であった。 【0106】 実施例4 熱処理温度を1100℃としたこと、並びに、該熱処理後の粉末、0.24質量%のアルミナ粉末及び純水を混合して、固形分濃度50質量%のスラリーをボールミルで処理した以外は実施例1と同様の方法で本実施例の粉末を得た。 【0107】 本実施例の粉末は、BET比表面積が8.1m2/g、平均一次粒子径が130nm、平均二次粒子径が0.47μm、及び、単斜晶率が7%であった。 【0108】 比較例1 市販の3mol%イットリウム含有ジルコニア粉末(製品名:TZ-3YSB-E、東ソー社製)を本比較例の粉末とした。 【0109】 比較例2 市販の3mol%イットリウム含有ジルコニア粉末(製品名:TZ-3YS、東ソー社製)に、チタン含有量が45ppmとなるようにチタニア(TiO2)を混合した。 【0110】 これらの実施例及び比較例の結果を下表に示す。 【0111】 【表1】 [図:0001421381000014.jpg] 」 カ 「【0116】 <仮焼体及び焼結体の作製> 実施例9乃至13、並びに、比較例3及び4 実施例1乃至4及び8、並びに、比較例で得られた粉末を、それぞれ、金型プレスにより成形圧力20MPaで成形した後に、200MPaの成形圧力で静水圧プレスして成形体を得た。この成形体を50℃/時間の速度で昇温して1000℃で2時間仮焼して仮焼体を得た。その後、600℃/時間の速度で昇温して以下に示す焼結温度で2時間焼成して焼結体を得た。 【0117】 【表3】 [図:0001421381000015.jpg] 【0118】 実施例の焼結体はいずれも35%超の高い全光線透過率を有しており、更に、アルミナを含まない実施例9乃至11の焼結体の全光線透過率は39%以上であった。また、実施例12及び13から、バインダーの有無による全光線透過率、曲げ強度及び劣化層の厚みに対する影響はほとんどないことが確認できる。」 (2)サポート要件についての当審における判断 ア 上記(1)アによれば、本件特許発明が解決しようとする課題の一つは、常圧焼結であっても、高い透光性を有する焼結体が得られ、なおかつ、工業的な製造に適したジルコニアの粉末を提供することと認められる(以下、単に「課題」という。)。 イ 上記(1)イ、エによれば、本件特許発明のジルコニアの粉末は、安定化元素及び50質量ppm(以下、単に「ppm」と記載する。)の微量のチタンを含有し、なおかつ、225kJ/mol以上300kJ/mol以下の活性化エネルギーを有することで、焼結過程の中でも、比較的高い温度域の熱処理における焼結が促進されやすくなることにより、通常の常圧焼結であっても高い透光性を有する焼結体が得られるものである。 ウ 上記(1)オの表1に記載された実施例1~4のジルコニアの粉末は、いずれも、安定化元素であるイットリウムの酸化物を含有し(含有量は2mol%以上8mol%以下)、チタンの含有量は50ppm以下であり、また、活性化エネルギーが225kJ/mol以上300kJ/mol以下のものであるところ、上記(1)カの表3に記載のとおり、これら実施例1~4の粉末を焼成して得られた実施例9~12の焼結体の全光線透過率はいずれも39%以上であり、市販の3mol%イットリウム含有ジルコニア粉末(製品名:TZ-3YSB-E、東ソー社製、比較例1)を焼成して得られた比較例3の焼結体の全光線透過率35%よりも高い透光性を実現しているものである。 また、段落【0116】には、実施例9~12における焼結時の圧力について具体的な記載はないものの、上記課題に関して常圧焼結とすることが記載されていることから、実施例9~12においても、当然、大気圧(常圧)において焼結しているものと推認される。 そうすると、実施例1~4のジルコニアの粉末は、常圧焼結であっても、従来の市販品よりも高い透光性を有する焼結体が得られるものであるから、上記課題を解決し得るものである。 エ そして、本件特許発明1は、「安定化元素及び50ppm以下のチタン(Ti)を含み、なおかつ、活性化エネルギーが225kJ/mol以上300kJ/mol以下」との条件を備えたジルコニアの粉末であるから、上記課題を解決し得るものであるといえる。 オ 塩素含有量についての申立理由2の(1)の主張について 上述のとおり焼結した場合に高い透光性を有する実施例1~4のジルコニアの粉末は、塩素を200ppm含有するものであるが、上記(1)ウによれば、本件特許発明のジルコニアの粉末は、塩素を含んでもよく、その含有量は、100質量ppm以上500質量ppm以下であることができるものであるから、本件特許発明1は、塩素含有量として、上記実施例1~4と同じ200ppmの場合のみならず、100ppm以上200ppm未満や200ppm超500ppm以下の場合であっても同様に、上記課題を解決し得るものといえる。 この点について、申立人は、申立理由2の(1)において、塩素含有量が200ppmの実施例1~4が記載されているのみであるから、本件明細書の記載を参酌しても、塩素含有量を「100ppm以上500ppm以下」の範囲まで拡張ないし一般化することはできないと主張しているのみであり、塩素含有量が100ppm以上200ppm未満や200ppm超500ppm以下の場合に、本件特許発明1が上記課題を解決できないことを示す、具体的な試験結果や理論的な根拠を提示しているわけでもないから、申立人による、塩素含有量についての申立理由2の(1)の主張を採用することができない。 カ チタン含有量についての申立理由2の(2)の主張について 上述のとおり焼結した場合に高い透光性を有する実施例1~4のジルコニアの粉末は、チタンを24~29ppm含有するものであるが、上記(1)イによれば、本件特許発明のジルコニアの粉末は、0質量ppm超50質量ppm以下の微量のチタンを含み、所定の活性化エネルギーを有することで、焼結過程の中でも、比較的高い温度域の熱処理における焼結が促進されやすくなることにより、通常の常圧焼結であっても高い透光性を有する焼結体が得られると、所定量のチタンを含有することによって上記課題が解決される機序が説明されていることから、上記実施例1~4のように24~29ppmの範囲のチタンを含む場合のみならず、0ppm超50ppm以下の範囲のチタンを含む場合においても同様に上記課題を解決し得るものといえる。 この点について、申立人が、申立理由2の(2)において、チタン含有量が10ppm未満である比較例1の粉末を焼結した比較例3の焼結体は全光線透過率が35%であって、本件課題を解決することができないものであることからすると、Ti含有量が顕著に少ない、例えば、10ppm未満の場合には、本件課題が解決されない蓋然性が高いと主張している点について検討するに、比較例1の粉末を焼結した比較例3の全光線透過率が35%と低いのは、塩素含有量が200ppm未満(「<200」)と低いことが原因であるとも考えられるから、チタンの含有量が顕著に少ない場合に必ず全光線透過率が低くなると結論付けることはできない。 よって、申立人による、チタン含有量についての申立理由2の(2)の主張を採用することができない。 (3)小括 したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、請求項1を引用する請求項2~請求項7に係る特許についても同様の理由によって取り消すことができない。 第5 結び 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-701023

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