特許異議申立
2024-700473
アンダーフィル材、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法
- 審判番号
- 2024-700473
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-202715
- 登録番号
- 7454906
- 請求日
- 2024年05月20日
- 審決日
- 2024年12月05日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社レゾナック
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】松本 文彦
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 北澤 健一
- 審判官 細井 龍史
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L) / P1651.536-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7454906号発明「アンダーフィル材、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7454906号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7454906号(以下、「本件特許」という。)は、平成28年10月14日に出願された特願2016-202715号に係る特許であって、令和6年3月14日に特許権の設定登録(請求項数14)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和6年5月20日に、本件特許の請求項1~14に係る特許に対して、特許異議申立人である松本文彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審による令和6年6月10日付けの手続補正指令書(方式)の通知に対し、申立人から令和6年6月14日に、手続補正書(方式)が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明14」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機充填剤、(E)界面活性剤及び(J)有機溶剤を含み、
硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂が、ナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂を含有し、
前記(A)エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合が、65質量%以上であり、
前記(A)エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合が、80質量%以下であり、
前記(B)硬化剤が、芳香族アミン化合物であり、
前記(E)界面活性剤が、エポキシ基と反応する官能基を有する重量平均分子量が500~5000のオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応物を含み、
前記(J)有機溶剤の含有率が、10質量%以下であるアンダーフィル材。
【請求項2】
硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度が、60℃~150℃である、請求項1に記載のアンダーフィル材。
【請求項3】
硬化物としたときの、DMA(動的粘弾性測定)で測定した25℃における貯蔵弾性率が、5GPa~10GPaである、請求項1又は請求項2に記載のアンダーフィル材。
【請求項4】
さらに(D)可撓化剤を含有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のアンダーフィル材。
【請求項5】
さらに(F)イオントラップ剤を含有する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のアンダーフィル材。
【請求項6】
さらに(G)硬化促進剤を含有する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のアンダーフィル材。
【請求項7】
さらに(H)カップリング剤を含有する、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のアンダーフィル材。
【請求項8】
さらに(I)酸化防止剤を含有する、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のアンダーフィル材。
【請求項9】
前記(J)有機溶剤の沸点が、170℃以上である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のアンダーフィル材。
【請求項10】
配線基板と、
前記配線基板上に配置され、前記配線基板と接続部を介して電気的に接続される電子部品と、
少なくとも、前記配線基板と前記電子部品との接続部を封止する請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のアンダーフィル材の硬化物と、
を備える電子部品装置。
【請求項11】
前記接続部が鉛を含まない、請求項10に記載の電子部品装置。
【請求項12】
前記接続部が銅を含む、請求項10又は請求項11に記載の電子部品装置。
【請求項13】
電子部品と配線基板とが接続部を介して電気的に接続される電子部品装置の製造方法であって、
前記電子部品における前記配線基板と対向する側の面及び前記配線基板における前記電子部品と対向する側の面の少なくとも一方の面に、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のアンダーフィル材を供給する供給工程と、
前記電子部品と前記配線基板とを前記接続部を介して接続し、かつ前記アンダーフィル材を硬化する接続工程と、を有する電子部品装置の製造方法。
【請求項14】
電子部品と配線基板とが接続部を介して電気的に接続される電子部品装置の製造方法であって、
接続された前記電子部品と前記配線基板との隙間に請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のアンダーフィル材を充填する充填工程と、
前記アンダーフィル材を硬化させる硬化工程と、を有する電子部品装置の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載された申立理由の概要及び証拠方法
令和6年6月14日提出の手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載された申立理由は、以下のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主引例とする進歩性)
請求項1~14に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1号証に記載された発明及び技術常識並びに周知技術(甲第2号証~甲第6号証の1)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
2 申立理由1-2(甲第5号証を主引例とする進歩性)
請求項1~14に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第5号証に記載された発明及び技術常識並びに周知技術(甲第1号証~甲第4号証の2、甲第6号証の1~甲第6号証の2)に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
3 申立理由2(サポート要件)
請求項1~14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
その具体的理由は以下のとおりである。
本件発明1~14の実施例は実施例3のみであるところ、グリシジルアミン型エポキシ樹脂及びナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂を所定の割合で組み合わせて用い、重量平均分子量が特定の値であるオルガノシロキサン単位のシリコーン変性エポキシ樹脂を所定の含有量で用いた例のみが示されているに過ぎない実施例3に基づいて、何らグリシジルアミン型エポキシ樹脂及びナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂の割合や、(E)界面活性剤の種類(特に、本件特許の実施例で用いたシリコーン変性エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する官能基は不明である)や界面活性剤の配合量が特定されていない本件発明1~14の範囲まで、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない。
4 申立理由3(実施可能要件)
請求項1~14に係る特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
その具体的理由は以下のとおりである。
グリシジルアミン型エポキシ樹脂及びナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂を所定の割合で組み合わせて用い、重量平均分子量が特定の値であるオルガノシロキサン単位のシリコーン変性エポキシ樹脂を所定の含有量で用いた実施例3のみから、グリシジルアミン型エポキシ樹脂及びナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂を配合する割合、(E)界面活性剤の種類(特に、本件特許の実施例で用いたシリコーン変性エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する官能基は不明である)や配合量について、どのようにすれば、本件明細書の実施例3と同様の耐温度サイクル性や良好な物性を示す液状樹脂組成物を得ることができるのか、合理的に推測することは困難であり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等が必要である。
5 申立理由4(明確性)
請求項1~14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
その具体的理由は以下のとおりである。
本件発明1は、「(J)有機溶剤を含み、」及び「前記(J)有機溶剤の含有率が、10質量%以下である」という特定事項を有するところ、「(J)有機溶剤を含み、」という必須成分である旨の特定があるにもかかわらず、「前記(J)有機溶剤の含有率が、10質量%以下である」と0質量%である場合を含む特定があり、これらは矛盾しているから、本件発明1~14は明確でない。
6 証拠方法
申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。
甲第1号証 :特開2012-149111号公報
甲第2号証 :特開平5-262855号公報
甲第3号証の1:特開2013-028659号公報
甲第3号証の2:特開2012-162585号公報
甲第3号証の3:国際公開第2012/124780号
甲第3号証の4:特開2012-255147号公報
甲第3号証の5:特開2013-155363号公報
甲第4号証の1:特開2013-181161号公報
甲第4号証の2:特開2015-189847号公報
甲第5号証 :特開2007-182561号公報
甲第6号証の1:特開2010-266788号公報
甲第6号証の2:特開2012-021107号公報
甲第7号証 :特許第7454906号公報
以下、甲各号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。
第4 当審の判断
申立人がした申立ての理由によっては、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。
その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1-1(甲1を主引例とする進歩性)
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
(A)液状エポキシ樹脂、
(B)芳香族アミン系硬化剤:(A)成分中の全エポキシ基に対する(B)成分中の全アミノ基のモル比が0.7~1.2となる量、及び
(C)平均粒径が0.1~3μmのシリカである無機充填剤Aと平均粒径が5~70nmの非晶質ナノシリカである無機充填剤Bからなる無機充填剤であって、該無機充填剤Bが下記式(1)及び/又は(2)で表されるカップリング剤で該無機充填剤B100質量部に対して該カップリング剤3~20質量部の割合で表面処理されてなると共に、該無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率が0.2~10質量%である無機充填剤:(A)~(C)成分からなる組成物全体に対する含有率が50~80質量%となる量
【化1】
[図:0001418251000001.jpg]
(式中、nは1~5の整数、mは1又は2である。)を含有することを特徴とする半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面等との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、鉛フリー半田を用いた場合にリフローの温度が上昇しても不良が発生せず、更に高温多湿の条件下でも劣化せず、熱衝撃テストにおいても剥離等が発生しない半導体装置の封止材となり得る半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機器の小型化、軽量化、高性能化に伴い、半導体の実装方法もピン挿入タイプから表面実装が主流になっている。そしてベアチップ実装の一つにフリップチップ(FC)実装がある。FC実装とは、LSIチップの配線パターン面に高さ数μm程度から100μm程度のバンプといわれる電極を数個から数万個以上形成し、基板の電極部に対しバンプを接合する方式である。このため、FCの封止保護に用いる封止材料は基板とLSIチップの隙間に浸透させる必要がある。
【0003】
従来のフリップチップ用アンダーフィル材として使用される液状エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填剤を配合し、信頼性を高めるために半導体のチップや基板、バンプと線膨張係数を一致させる目的で多量の無機充填剤を配合する必要があるが、多量に無機充填剤を配合すると高粘度化するため、基板とLSIチップの隙間に侵入しにくく、生産性が非常に悪くなるといった問題点が提示されており、この改善が望まれる。
【0004】
また、半導体素子の高集積化に伴い、ダイサイズの一辺が10mmを超えるものもあり、ダイサイズの大型化が進んできている。このような大型ダイを用いた半導体装置では、半田リフロー時にダイと封止材にかかる応力が増大し、封止材とダイ及び基板の界面で剥離が生じたり、基板実装時にパッケージにクラックが入るといった問題がクローズアップされてきている。
【0005】
更に、近い将来に鉛含有半田が使用できなくなることから、鉛代替半田が多数開発されている。この種の半田は、溶融温度が鉛含有の半田より高くなることから、リフローの温度も260~270℃で検討されており、従来の液状エポキシ樹脂組成物の封止材では、より一層の不良が予想される。このようにリフローの温度が高くなると、従来において何ら問題のなかったフリップチップ型のパッケージもリフロー時にクラックが発生したり、チップ界面、基板界面との剥離が発生したり、その後の冷熱サイクルが数百回以上経過すると樹脂又は基板、チップ、バンプ部にクラックが発生するという重大な問題が起こるようになる。
・・・」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、鉛フリー半田を用いた場合にリフローの温度が従来温度240℃付近から260~270℃に上昇しても不良が発生せず、更にPCT(プレッシャークッカーテスト,121℃/2.1atm)等の高温多湿の条件下でも劣化せず、-65℃/150℃の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが発生しない半導体装置の封止材となり得る半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置を提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、鉛フリー半田を用いた場合にリフローの温度が従来温度240℃付近から260~270℃に上昇しても不良が発生せず、更にPCT(121℃/2.1atm)等の高温多湿の条件下でも劣化せず、-65℃/150℃の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが発生しない半導体装置の封止材となり得る半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置を提供することができる。」
「【0012】
〔(A)成分〕
(A)成分である液状エポキシ樹脂は、1分子内に3官能基以下のエポキシ基を持ち、常温(20~30℃)で液状のものであればよく、従来から公知のものを全て使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0013】
特に、耐熱性や耐湿性に優れるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等が好ましい。この中でも常温(20~30℃、特に25℃)で液状、回転粘度計による粘度が200Pa・s以下、特に50Pa・s以下のエポキシ樹脂が好ましい。
【0014】
また、液状エポキシ樹脂には、下記構造式(7)、(8)で示されるエポキシ樹脂を侵入性に影響を及ぼさない範囲で含有していてもよい。
【化4】
[図:0001418251000002.jpg]
【0015】
上記式(8)中、R5は水素原子、又は炭素数1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~3の一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基などが挙げられる。また、xは1~4の整数であり、特に1又は2である。」
「【0038】
なお、本発明の対象とする半導体装置は、ギャップサイズの範囲が10~200μm程度の半導体装置、特にフリップチップ型半導体装置、更にダイサイズの一辺が10mmを超えるフィリップチップ型半導体装置が好ましいが、この場合、アンダーフィル材の侵入性の向上と低線膨張化の両立を図るため、フリップチップギャップ幅(基板と半導体チップとの隙間)に対して平均粒径が約1/10以下、最大粒子径が1/2以下の無機充填剤を用いることが好ましい。」
「【0039】
〔その他の成分〕
本発明の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物には、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、シリコーン系等の低応力剤(例えば、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂とオルガノポリシロキサンとのブロック共重合体など)、カルナバワックス、高級脂肪酸、合成ワックス等のワックス類、カーボンブラック等の着色剤、ハロゲントラップ剤等の添加剤、及び溶剤を添加配合することができる。
溶剤としては、メチルエチルケトン、カルビトールアセテート等を使用することができる。」
「【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1~8、比較例1~5]
液状エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤及びその他成分を、表2,3に基づき配合し3本ロールにて均一に混練することにより、各種エポキシ樹脂組成物を得た。
〔使用した材料〕
(A)液状エポキシ樹脂
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF8170(東都化成(株)製)
・下記式(7)で表されるエポキシ樹脂:jER630LSD(三菱化学(株)製)
【化8】
[図:0001418251000003.jpg]
(B)アミン系硬化剤
・4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン(日本化薬(株)製)
(C)無機充填剤
表1に基づき、球状シリカ粒子を表面処理することにより、各種無機充填剤を得た。
なお、表1中のカップリング剤の配合量は球状シリカ粒子100質量部に対するものである。
【表1】
[図:0001418251000004.jpg]
・カップリング剤:KBM403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
・カップリング剤:KBM573、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
・カップリング剤:KBM103、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
・カップリング剤:KBM503、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
(D)その他の成分
・カップリング剤:KBM403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
・カーボンブラック:デンカブラック(電気化学工業(株)製)
・触媒:DBU(サンアプロ化成(株)製)
・溶剤:EDGAC(ダイセル化学(株)製)
【0044】
〔評価方法〕
(1)粘度
BH型回転粘度計を用いて4rpmの回転数で25℃における粘度を測定した。
【0045】
(2)Tg(ガラス転移温度)、CTE1(膨張係数)、CTE2(膨張係数)
各種組成物を、120℃/0.5時間+165℃/3時間硬化し、5mm×5mm×15mmの硬化物試験片を作製した。該試験片を用いて、TMA(熱機械分析装置)により毎分5℃の速さで昇温した時のTgを測定した。また、以下の温度範囲の膨張係数を測定した。CTE1の温度範囲は50~80℃、CTE2の温度範囲は200~230℃である。
【0046】
(3)強靭性値K1c
各種組成物を120℃/0.5時間+165℃/3時間硬化し、得られた硬化物について、ASTM#D5045に基づき、常温の強靭性値K1cを測定した。
【0047】
(4)接着力テスト
上面の直径2mm、下面の直径5mm、高さ3mmの円錐台形状のポリテトラフルオロエチレン製の型に各樹脂組成物を注入し、この上にポリイミド(PI)膜コートしたシリコンチップ又は銅プレートを載せ、150℃で3時間硬化させた。硬化後、ポリテトラフルオロエチレン製の型を外して得られた試験片を一定の速度(1mm/秒)で押すことによって、剪断接着力を測定し、初期値とした。更に、硬化させた試験片をプレッシャークッカーテスター(121℃/2.1atm)中で72時間保持した後、同様に接着力を測定した。いずれの場合も試験片の個数は5個で行い、その平均値を接着力として表記した。表2において、「0」は剥離したことを示す。
【0048】
(5)ボイドテスト
30mm×30mmのFR-4基板に、ポリイミド(PI)膜コートした10mm×10mmのシリコンチップがギャップサイズが約50μmとなるように設置されたフリップチップ型半導体装置のギャップに、各樹脂組成物を滴下して侵入させ、150℃で3時間硬化させた後、ボイドの有無をC-SAM(SONIX社製)で確認した。
【0049】
(6)熱衝撃テスト
上記方法で得られた試験用半導体装置を、30℃/65%RHの条件下に192時間置いて、最高温度265℃に設定したIRリフロー炉を5回通した後、-65℃で30分、150℃で30分を1サイクルとし、250、500、750、1,000、及び1,250サイクル後のクラックを、上記同様に調べ、クラックが観察されたチップの割合(%)を求めた。
【0050】
【表2】
[図:0001418251000005.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1には、「(A)液状エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン系硬化剤:(A)成分中の全エポキシ基に対する(B)成分中の全アミノ基のモル比が0.7~1.2となる量、及び(C)平均粒径が0.1~3μmのシリカである無機充填剤Aと平均粒径が5~70nmの非晶質ナノシリカである無機充填剤Bからなる無機充填剤であって、該無機充填剤Bが下記式(1)及び/又は(2)で表されるカップリング剤で該無機充填剤B100質量部に対して該カップリング剤3~20質量部の割合で表面処理されてなると共に、該無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率が0.2~10質量%である無機充填剤:(A)~(C)成分からなる組成物全体に対する含有率が50~80質量%となる量
【化1】
[図:0001418251000006.jpg]
(式中、nは1~5の整数、mは1又は2である。)を含有することを特徴とする半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。」(請求項1)が記載されており、実施例において、その具体例としての樹脂組成物を製造し、ボイドテストとして、30mm×30mmのFR-4基板に、ポリイミド(PI)膜コートした10mm×10mmのシリコンチップがギャップサイズが約50μmとなるように設置されたフリップチップ型半導体装置のギャップに、各樹脂組成物を滴下して侵入させ、150℃で3時間硬化させた後、ボイドの有無をC-SAM(SONIX社製)で確認したことが示されている(【0042】~【0050】【表2】)。
そこで、甲1の実施例1に着目して、【0038】の「アンダーフィル材」という記載、実施例においてエポキシ樹脂組成物をフリップチップ型半導体装置のギャップに滴下して侵入させて硬化させていることとあわせて整理すると、次の発明が記載されているといえる。
「ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF8170(東都化成(株)製)33質量部、下記式(7)で表されるエポキシ樹脂:jER630LSD(三菱化学(株)製)33質量部、
【化8】
[図:0001418251000007.jpg]
4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン(日本化薬(株)製)34質量部、無機充填剤Aとしてのa(平均粒径:2μm,表面処理KBM403(カップリング剤:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製))(1質量部)の球状シリカ粒子)237.6質量部、無機充填剤Bとしてのa(平均粒径:50nm,表面処理KBM103(5質量部)の球状シリカ粒子)2.4質量部、カップリング剤:KBM403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)1.0質量部、触媒:DBU(サンアプロ化成(株)製)0.3質量部、溶剤:EDGAC(ダイセル化学(株)製)2.0質量部を含有するアンダーフィル材であって、Tgが115℃、50~80℃の温度範囲の熱膨張係数(CTE1)が23ppm/℃であるアンダーフィル材。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「式(7)で表されるエポキシ樹脂」(当審注:構造式及びその記号の説明は省略する。以下同様。)は、本件発明1の「グリシジルアミン型エポキシ樹脂」に相当する。
また、甲1発明の「ビスフェノールF型エポキシ樹脂」及び「式(7)で表されるエポキシ樹脂」はどちらも分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂であり、甲1発明はこれら以外のエポキシ樹脂を含まないため、甲1発明において、エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合は100質量%であるから、本件発明1と同じく、「(A)エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合が、65質量%以上であ」るといえる。
さらに、甲1発明の「ビスフェノールF型エポキシ樹脂」は3官能以上のエポキシ樹脂でなく、甲1発明の「式(7)で表されるエポキシ樹脂」は3官能以上のエポキシ樹脂であり、これらは33質量部ずつ含まれ、甲1発明はこれら以外のエポキシ樹脂を含まないため、甲1発明において、3官能以上のエポキシ樹脂である「式(7)で表されるエポキシ樹脂」はエポキシ樹脂全量に占める割合が50質量%であるので、本件発明1と同じく、「(A)エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合が、80質量%以下であ」るといえる。
甲1発明の「4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン(日本化薬(株)製)」は、芳香環を有するから、本件発明1の「(B)硬化剤」である「芳香族アミン化合物」に相当する。
甲1発明の「無機充填剤Aとしてのa(平均粒径:2μm,表面処理KBM403(1質量部)の球状シリカ粒子)」、「無機充填剤Bとしてのa(平均粒径:50nm,表面処理KBM103(5質量部)の球状シリカ粒子)」は、本件発明1の「(C)無機充填剤」に相当する。
甲1発明において、「Tgが115℃」、「50~80℃の温度範囲の熱膨張係数(CTE1)」であるため、熱膨張係数(CTE1)は50~80℃というガラス転移温度以下の温度で測定したものであるから、甲1発明における「50~80℃の温度範囲の熱膨張係数(CTE1)が23ppm/℃であ」ることは、本件発明1における「硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であ」ることに相当する。
甲1発明の「溶剤:EDGAC(ダイセル化学(株)製)」は、本件発明1の「(J)有機溶剤」に相当する。そして、甲1発明の「溶剤:EDGAC(ダイセル化学(株)製)」の含有率を計算すると約0.58質量%(=2.0/(33+33+34+237.6+2.4+1.0+0.3+2.0)×100)であるから、本件発明1と同じく、「(J)有機溶剤の含有率が、10質量%以下である」といえる。
甲1発明の「アンダーフィル材」は、本件発明1の「アンダーフィル材」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機充填剤及び(J)有機溶剤を含み、
硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂が、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含有し、
前記(A)エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合が、65質量%以上であり、
前記(A)エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合が、80質量%以下であり、
前記(B)硬化剤が、芳香族アミン化合物であり、
前記(J)有機溶剤の含有率が、10質量%以下であるアンダーフィル材。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1は、「(A)エポキシ樹脂が、ナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂」を含有するのに対し、甲1発明は、ナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂を含有しない点
<相違点1-2>
本件発明1は、「(E)界面活性剤」を含み、「前記(E)界面活性剤が、エポキシ基と反応する官能基を有する重量平均分子量が500~5000のオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応物を含」むのに対し、甲1発明は、界面活性剤を含まない点
<相違点1-3>
本件発明1は、「硬化物としたときの、」「DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であ」るのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点
イ 検討
事案に鑑み、相違点1-3について検討する。
本件明細書の【0016】には、「アンダーフィル材を硬化物としたときの、DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率を0.10GPa以下とするには、エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合を80質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とすることがより好ましく、60質量%以下とすることがさらに好ましい。」という記載があるところ、この記載からは、240℃における貯蔵弾性率を0.10GPa以下とするための要件の一つとして、エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合を80質量%以下とすることが好ましいということは理解できる。
しかしながら、貯蔵弾性率は樹脂成分の種類やその配合割合により異なるから、例えばビスフェノールF型エポキシ樹脂をナフタレン型エポキシ樹脂に代える等、エポキシ樹脂の種類が変われば貯蔵弾性率は変わり、また、例えば官能基を有するオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応物を配合することでも貯蔵弾性率は変わるといえる。さらに、フィラーの種類や配合割合も貯蔵弾性率に影響するといえるし、また、硬化の程度も貯蔵弾性率に影響するから、硬化剤の種類や配合割合によっても貯蔵弾性率は変わるものと認められる。
そうすると、甲1発明が、本件明細書の【0016】の、「3官能以上のエポキシ樹脂の割合を80質量%以下」ということを満たしているからといって、240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であるとは必ずしも認めることができず、上記相違点1-3は実質的な相違点である。
また、甲1の【0002】~【0005】、【0007】には、フリップチップの封止保護に用いる材料は基板とチップの隙間に浸透させる必要があるが、信頼性を高めるためにチップ等と線膨張係数を一致させる目的で多量の無機充填剤を配合すると高粘度化して隙間に侵入しにくくなるという問題があり、さらに、大型ダイを用いたり、リフロー温度を高くしたりすることにより、封止材の界面での剥離や、クラックが発生するという問題があったため、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、リフローの温度が上昇しても不良が発生せず、更にプレッシャークッカーテスト等の高温多湿の条件下でも劣化せず、所定の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが発生しない半導体装置の封止材となり得る半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とすることが記載されている。そして、甲1の実施例には、得られた樹脂組成物について、粘度、Tg、膨張係数、強靱性値、接着力、ボイドの有無、熱衝撃に対する信頼性を測定・評価したことが示されている(【0044】~【0050】【表2】)。しかしながら、甲1には、アンダーフィル材を硬化物としたときの貯蔵弾性率については何ら記載されていない。
そうすると、甲1には、甲1発明に係るエポキシ樹脂組成物の貯蔵弾性率に着目する動機付けがあるとはいえないから、甲1発明において、「硬化物としたときの、」「DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下」とすることは当業者が容易に想到し得たとはいえない。また、甲2~甲6の1にも、アンダーフィル材を硬化物としたときの240℃における貯蔵弾性率を0.10GPaとすることは記載されていないから、甲2~甲6の1に記載された事項を考慮しても上記判断に影響しない。
よって、甲1~甲6の1の記載を基に、甲1発明において、相違点1-3に係る本件発明1の構成を採用することが動機付けられるとはいえない。
ウ 本件発明1の効果について
本件発明1は、「本発明によれば、リフローの際のソルダーレジストのクラックの発生が抑制され、且つ耐温度サイクル特性に優れるアンダーフィル材、並びにこれにより封止された信頼性の高い電子部品装置及びその製造方法が提供される。」(本件明細書の【0010】)という効果を奏するものである。
一方、甲1には、特にクラックについて、樹脂又は基板、チップ、バンプ部に発生するものであることが示唆されているにとどまり(【0005】)、ソルダーレジストのクラックであることまでは明示的に記載されていないから、本件発明1の効果は当業者が予測し得る範囲のものとはいえない。
エ 甲1の実施例2~8を引用発明とする場合も、上記ア~ウで甲1発明について述べたのと同じ理由により、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 小括
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲1~甲6の1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(2)で述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明、及び、甲1~甲6の1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のことから、本件発明1~14に係る特許は、申立理由1-1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由1-2(甲5を主引例とする進歩性)について
(1)甲5に記載された事項及び甲5に記載された発明
ア 甲5には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
電子部品の封止に用いられる電子部品用液状樹脂組成物であって、(A)液状エポキシ樹脂、(B)液状芳香族アミンを含む硬化剤、(C)非イオン性界面活性剤、(D)無機充填剤を含有する電子部品用液状樹脂組成物。
【請求項2】
(C)成分の非イオン性界面活性剤が、エポキシ基と反応する官能基を有し、かつ重量平均分子量500以上5000以下のオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応で得られるシリコーン変性エポキシ樹脂である請求項1記載の電子部品用液状樹脂組成物。
【請求項3】
配線基板上に電子部品を直接バンプ接続する電子部品装置に用いられる請求項1又は2記載の電子部品用液状樹脂組成物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、厳しい信頼性を要求される電子部品装置の封止用に特に好適な電子部品用液状樹脂組成物、及びこの組成物で封止された素子を備えた電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランジスタ、IC等の電子部品装置の素子封止の分野では生産性、コスト等の面から樹脂封止が主流となり、エポキシ樹脂組成物が広く用いられている。この理由としては、エポキシ樹脂が作業性、成形性、電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性等の諸特性にバランスがとれているためである。COB(Chip on Board)、COG(Chip on Glass)、TCP(Tape Carrier Package)等のベアチップ実装した半導体装置においては電子部品用液状樹脂組成物が封止材として広く使用されている。また、半導体素子をセラミック、ガラス/エポキシ樹脂、ガラス/イミド樹脂またはポリイミドフィルム等を基板とする配線基板上に直接バンプ接続してなる半導体装置(フリップチップ)では、バンプ接続した半導体素子と配線基板の間隙(ギャップ)を充填するアンダーフィル材として電子部品用液状樹脂組成物が使用されている。これらの電子部品用液状樹脂組成物は電子部品を温湿度や機械的な外力から保護するために重要な役割を果たしている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら半導体の進歩は著しく、バンプ接続を行うフリップチップ方式ではバンプ数の増加に伴いバンプピッチ、バンプ高さが小さくなり、結果として狭ギャップ化が進んでいる。高集積化に伴いチップサイズも大きくなり、アンダーフィル材には狭ギャップで大面積を流動する特性が求められてきた。また、狭ギャップ化とともにバンプ数が増加し、バンプピッチも狭くなるため、アンダーフィル材の流動経路も複雑になり、ボイドが発生し易くなる。さらには、アンダーフィル材は配線基板と半導体素子の間隙を充填した後、半導体素子周辺部に一定量シミ出し、フィレットを形成するが、フィレットの形状が不均一であると温度サイクル時などにフィレットがクラックしたり、基板或いは半導体素子と剥離を生じたりすることがある。この様なボイドの発生や不均一なフィレットの形成はフリップチップ半導体装置の信頼性に大きな影響を与える。
【0005】
以上のようにアンダーフィル材を例にとると、半導体の進歩とともに電子部品用液状樹脂組成物にはいろいろな課題の解決が要求されている。本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、狭ギャップでの流動性が良好であり、ボイド発生がなく、フィレット形成性に優れた電子部品用液状樹脂組成物、及びこれにより封止された信頼性(耐湿性、耐熱衝撃性)の高い電子部品装置を提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0018】
本発明の電子部品用液状樹脂組成物は、表面張力を小さくすることで成形時のボイドを抑制し、吸湿後においても各種基材との接着力が高いため、この電子部品用液状樹脂組成物を用いて素子を封止すれば信頼性に優れる電子部品装置を得ることができるので、その工業的価値は大である。」
「【0019】
本発明で用いる(A)成分の液状エポキシ樹脂としては、一分子中に1個以上のエポキシ基を有するもので常温で液状であれば制限はなく、電子部品用液状樹脂組成物で一般に使用されている液状エポキシ樹脂を用いることができる。本発明で使用できるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、水添ビスフェノールA等のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を代表とするフェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、p―アミノフェノール、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のアミン化合物とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸により酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、流動性の観点からは液状ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、耐熱性、接着性及び流動性の観点から液状グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0020】
上記した2種のエポキシ樹脂はいずれか1種を単独で用いても2種以上を組合わせて用いてもよいが、その配合量は、その性能を発揮するために液状エポキシ樹脂全量に対して合わせて20質量%以上とすることが好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0021】
また、本発明の電子部品用液状樹脂組成物には、本発明の効果が達成される範囲内であれば固形エポキシ樹脂を併用することもできるが、成形時の流動性の観点から併用する固形エポキシ樹脂はエポキシ樹脂全量に対して20質量%以下とすることが好ましい。さらに、これらのエポキシ樹脂の純度、特に加水分解性塩素量はICなど素子上のアルミ配線腐食に係わるため少ない方が好ましく、耐湿性の優れた電子部品用液状樹脂組成物を得るためには500ppm以下であることが好ましい。ここで、加水分解性塩素量とは試料のエポキシ樹脂1gをジオキサン30mlに溶解し、1N-KOHメタノール溶液5mlを添加して30分間リフラックス後、電位差滴定により求めた値を尺度としたものである。」
「【実施例】
【0055】
次に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例および比較例において行った特性試験の試験方法を以下にまとめて示す。なお、使用した電子部品用液状樹脂組成物の諸特性及び含浸時間、ボイドの観察、各種信頼性の評価は以下の方法及び条件で行った。(5)~(9)の含浸時間、ボイドの観察、信頼性の評価に使用した半導体装置は次の2種類のフリップチップBGAを使用した。
【0057】
(Non low-k仕様フリップチップBGA)
諸元は、チップサイズ20×20×0.55tmm(回路はアルミのデイジーチェーン接続、パッシベーション:日立化成デュポンマイクロシステムズ製ポリイミド膜商品名HD4000)、バンプ:はんだボール(Sn-Ag-Cu、Φ80μm、 7,744pin、)、バンプピッチ:190μm、基板:FR-5(日立化成工業製ソルダーレジスト商品名SR7000、60×60×0.8tmm)、チップ/基板間のギャップ:50μmである。
【0058】
(Low-k仕様フリップチップBGA)
諸元は、チップサイズ20×20×0.55tmm(誘電率2.7の誘電体層を3層形成、回路はアルミのデイジーチェーン接続、パッシベーション:ポリイミド膜HD4000,日立化成デュポンマイクロシステムズ製商品名)、バンプ:はんだボール(Sn-Ag-Cu、Φ80μm、7,744pin、)、バンプピッチ:190μm、基板:FR-5(日立化成工業製ソルダーレジスト商品名SR7000、60×60×0.8tmm)、チップ/基板間のギャップ:50μmである。
【0059】
半導体装置は、上記BGAへ電子部品用液状樹脂組成物をディスペンス方式でアンダーフィルし、165℃、2時間の加熱条件で硬化することで作製した。また、各種試験片の硬化条件も165℃、2時間とした。
【0060】
(1)粘度
電子部品用液状樹脂組成物の25℃での粘度をE型粘度計(コーン角度3°、回転数5rpm)を用いて測定した。
【0061】
(2)表面張力
電子部品用液状樹脂組成物の25℃での表面張力を表面張力測定器DCAT11(英弘精機株式会社製)を用い、プレート法(19.9mm×10mm×0.2mm、白金-イリジウム製ウィルヘルミプレート)により測定した。
【0062】
(3)接着力・SR接着力
ソルダーレジストSR7000(日立化成工業製商品名)の表面に電子部品用液状樹脂組成物を直径3mm高さ3mmに成形した試験片を作製し、ボンドテスターDS100型(DAGE製)を用いて、ヘッドスピード50μm/sec、25℃の条件でせん断応力をかけ、成形品がソルダーレジストから剥離する強度を測定した。この測定は、試験片成形直後、及び130℃、85%RHのHAST(高度加速寿命試験、Highly Accelerated Temperature and Humidity Stress Test)条件下で150h処理後に行った。
【0063】
(4)PI接着力
感光性ポリイミドHD4000(日立化成デュポンマイクロシステムズ製商品名)の表面に電子部品用液状樹脂組成物を直径3mm高さ3mmに成形した試験片を作製し、ボンドテスターDS100型(DAGE製)を用いて、ヘッドスピード50μm/sec、25℃の条件でせん断応力をかけ、成形品が感光性ポリイミドから剥離する強度を測定した。この測定は、試験片成形直後、及び130℃、85%RHのHAST条件下で150h処理後に行った。
【0064】
(5)含浸時間
半導体装置を110℃に加熱したホットプレート上に置き、デイスペンサーを用いて電子部品用液状樹脂組成物の所定量をチップの側面(1辺)に滴下し、樹脂組成物が対向する側面に浸透するまでの時間を測定した。
【0065】
(6)ボイド観察
電子部品用液状樹脂組成物をアンダーフィル及び硬化した半導体装置の内部を超音波探傷装置AT-5500(日立建機製)で観察し、ボイドの有無を調べた。
【0066】
(7)耐リフロー性
電子部品用液状樹脂組成物をアンダーフィル及び硬化した半導体装置を120℃/12時間加熱乾燥した後、85℃、60%RH下で168時間吸湿させ、遠赤外線加熱方式のリフロー炉(予熱150℃~180℃で50秒、ピーク温度260℃、250℃以上の加熱時間40秒)中を3回通した後、内部を超音波探傷装置で観察し、樹脂硬化物とチップ及び基板との剥離、樹脂硬化物のクラックの有無を調べ不良パッケージ数/評価パッケージ数で評価した。
【0067】
(8)耐温度サイクル性
電子部品用液状樹脂組成物をアンダーフィル及び硬化した半導体装置を-50℃~150℃、各30分のヒートサイクルで1000サイクル処理し、導通試験を行いアルミ配線及びパッドの断線不良を調べ、不良パッケージ数/評価パッケージ数で評価した。
【0068】
(9)耐湿信頼性
電子部品用液状樹脂組成物をアンダーフィル及び硬化した半導体装置を130℃、85%RHのHAST条件下で150h処理後、アルミ配線及びパッドの断線有無を導通試験より確認し、不良パッケージ数/評価パッケージ数で評価した。
【0069】
(実施例1~13、比較例1~6)
(A)液状エポキシ樹脂としてビスフェノールFをエポキシ化して得られるエポキシ当量160の液状ジエポキシ樹脂(エポキシ樹脂1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER806)、アミノフェノールをエポキシ化して得られるエポキシ当量95の3官能液状エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER630)を用意した。
【0070】
(B)硬化剤として活性水素当量45のジエチルトルエンジアミン(液状アミン1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jERキュアW)、活性水素当量63のジエチル-ジアミノ-ジフェニルメタン(液状アミン2、日本化薬株式会社製商品名カヤハードA-A)、比較のために、活性水素当量63のテトラメチル-ジアミノ-ジフェニルメタン(固形アミン、日本化薬株式会社製商品名カヤボンドC-200S)、酸無水物当量168の液状酸無水物(日立化成工業株式会社製商品名HN5500)を用意した。
【0071】
(C)非イオン性界面活性剤としてポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(ビックケミー製商品名BYK-377、界面活性剤1)、アラルキル変性シリコーン系界面活性剤(ビックケミー製商品名BYK-323、界面活性剤2)、水酸基当量750、重量平均分子量1600のフェノール変性シリコーン(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名BY16-799)とビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(jER806)を重量比1/1で加熱混融して得られたシリコーン変性エポキシ樹脂(界面活性剤3)、活性水素当量130、重量平均分子量470のフェノール変性シリコーン(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名BY16-871)とビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER806)を重量比1/1で加熱混融して得られたシリコーン変性エポキシ樹脂(界面活性剤4)、水酸基当量3500、重量平均分子量8500のカルビノール変性シリコーン(東レ・ダウコーニング・シリコーン製商品名BY16-004)とビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER806)を重量比1/1で加熱混融して得られたシリコーン変性エポキシ樹脂(界面活性剤5)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製商品名ペグノールL-4、界面活性剤6)を用意した。
【0072】
可撓化剤としてジメチル型固形シリコーンゴム粒子の表面がエポキシ基で修飾された、平均粒径2μmの球状のシリコーン微粒子(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名トレフィルE-601)、硬化促進剤として2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、シランカップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ株式会社製商品名サイラエースS510)、着色剤としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA‐100)、イオントラップ剤としてビスマス系イオントラップ剤(東亞合成株式会社製商品名IXE-500)、(D)無機充填剤として平均粒径1μmの球状溶融シリカを用意した。
【0073】
これらをそれぞれ下記表1から表3に示す組成で配合し、三本ロール及び真空擂潰機にて混練分散した後、実施例1~13及び比較例1~6の電子部品用液状樹脂組成物を作製した。なお表1~3中の配合単位は質量部であり、また空欄は配合無しを表す。
【表1】
[図:0001418251000008.jpg]
【表2】
[図:0001418251000009.jpg]
・・・
【0074】
各種評価結果を表4から表6に示す。
【表4】
[図:0001418251000010.jpg]
【表5】
[図:0001418251000011.jpg]
・・・」
イ 甲5に記載された発明
甲5には、「電子部品の封止に用いられる電子部品用液状樹脂組成物であって、(A)液状エポキシ樹脂、(B)液状芳香族アミンを含む硬化剤、(C)非イオン性界面活性剤、(D)無機充填剤を含有する電子部品用液状樹脂組成物。」(請求項1)が記載されており、実施例において、その具体例としての電子部品用液状樹脂組成物を製造し、当該樹脂組成物をアンダーフィルして半導体装置を作製したことが示されている(【0055】~【0074】【表4】【表5】)。
そこで、甲5の実施例3に着目すると、次の発明が記載されているといえる。
「(A)液状エポキシ樹脂として、ビスフェノールFをエポキシ化して得られるエポキシ当量160の液状ジエポキシ樹脂(エポキシ樹脂1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER806)70質量部、アミノフェノールをエポキシ化して得られるエポキシ当量95の3官能液状エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER630)30質量部、(B)硬化剤として活性水素当量45のジエチルトルエンジアミン(液状アミン1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jERキュアW)34質量部、水酸基当量750、重量平均分子量1600のフェノール変性シリコーン(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名BY16-799)とビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(jER806)を重量比1/1で加熱混融して得られたシリコーン変性エポキシ樹脂(界面活性剤3)1質量部、シランカップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ株式会社製商品名サイラエースS510)3質量部、着色剤としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA‐100)1質量部、イオントラップ剤としてビスマス系イオントラップ剤(東亞合成株式会社製商品名IXE-500)3質量部、(D)無機充填剤として平均粒径1μmの球状溶融シリカ213質量部を含有するアンダーフィル材」(以下、「甲5発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明を対比する。
甲5発明の「アミノフェノールをエポキシ化して得られるエポキシ当量95の3官能液状エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER630)」は、本件発明1の「グリシジルアミン型エポキシ樹脂」に相当する。
また、甲5発明の「ビスフェノールFをエポキシ化して得られるエポキシ当量160の液状ジエポキシ樹脂(エポキシ樹脂1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER806)」、「アミノフェノールをエポキシ化して得られるエポキシ当量95の3官能液状エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER630)」はどちらも分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂であり、甲5発明はこれら以外のエポキシ樹脂を含まないため、甲5発明において、エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合は100質量%であるから、本件発明1と同じく、「(A)エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合が、65質量%以上であ」るといえる。
さらに、甲5発明の「ビスフェノールFをエポキシ化して得られるエポキシ当量160の液状ジエポキシ樹脂(エポキシ樹脂1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER806)」は3官能以上のエポキシ樹脂でなく、甲5発明の「アミノフェノールをエポキシ化して得られるエポキシ当量95の3官能液状エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER630)」は3官能以上のエポキシ樹脂であり、前者は70質量部、後者は30質量部含まれ、甲5発明はこれら以外のエポキシ樹脂を含まないため、甲5発明において、3官能以上のエポキシ樹脂である「アミノフェノールをエポキシ化して得られるエポキシ当量95の3官能液状エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER630)」はエポキシ樹脂全量に占める割合が30質量%であるので、本件発明1と同じく、「(A)エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合が、80質量%以下であ」るといえる。
甲5発明の「(B)硬化剤として」の「活性水素当量45のジエチルトルエンジアミン(液状アミン1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jERキュアW)」は、芳香環を有するから、本件発明1の「(B)硬化剤」である「芳香族アミン化合物」に相当する。
甲5発明の「(D)無機充填剤として」の「平均粒径1μmの球状溶融シリカ」は、本件発明1の「(C)無機充填剤」に相当する。
甲5発明の「水酸基当量750、重量平均分子量1600のフェノール変性シリコーン(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名BY16-799)とビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(jER806)を重量比1/1で加熱混融して得られたシリコーン変性エポキシ樹脂(界面活性剤3)」は、本件発明1の「エポキシ基と反応する官能基を有する重量平均分子量が500~5000のオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応物を含」む「(E)界面活性剤」に相当する。
甲5発明の「アンダーフィル材」は、本件発明1の「アンダーフィル材」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲5発明は、
「(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機充填剤及び(E)界面活性剤を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含有し、
前記(A)エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合が、65質量%以上であり、
前記(A)エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合が、80質量%以下であり、
前記(B)硬化剤が、芳香族アミン化合物であり、
前記(E)界面活性剤が、エポキシ基と反応する官能基を有する重量平均分子量が500~5000のオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応物を含む、アンダーフィル材。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点5-1>
本件発明1は、「(A)エポキシ樹脂が、ナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂」を含有するのに対し、甲5発明は、ナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂を含有しない点
<相違点5-2>
本件発明1は、「(J)有機溶剤を含み、」「前記(J)有機溶剤の含有率が、10質量%以下である」のに対し、甲5発明は、有機溶剤を含まない点
<相違点5-3>
本件発明1は、「硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であ」るのに対し、甲5発明は、そのような特定がない点
<相違点5-4>
本件発明1は、「硬化物としたときの、」「DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であ」るのに対し、甲5発明は、そのような特定がない点
イ 検討
事案に鑑み、相違点5-3及び相違点5-4についてまとめて検討する。
本件明細書の【0016】には、「アンダーフィル材を硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数を30ppm/℃以下とするには、エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合を65質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましい。アンダーフィル材を硬化物としたときの、DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率を0.10GPa以下とするには、エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合を80質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とすることがより好ましく、60質量%以下とすることがさらに好ましい。」という記載があるところ、この記載からは、ガラス転移温度以下の熱膨張係数を30ppm/℃以下とするための要件の一つとして、エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合を65質量%以上とすることが好ましく、また、240℃における貯蔵弾性率を0.10GPa以下とするための要件の一つとして、エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合を80質量%以下とすることが好ましいということは理解できる。
しかしながら、熱膨張係数や貯蔵弾性率は樹脂成分の種類やその配合割合により異なるから、例えばビスフェノールF型エポキシ樹脂をナフタレン型エポキシ樹脂に代える等、エポキシ樹脂の種類が変われば熱膨張係数や貯蔵弾性率は変わるといえる。さらに、フィラーや硬化剤の種類や配合割合も熱膨張係数や貯蔵弾性率に影響を与える。
そうすると、甲5発明が、本件明細書の【0016】の、「分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合を65質量%以上」、「3官能以上のエポキシ樹脂の割合を80質量%以下」ということを満たしているからといって、ガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であるとは必ずしも認めることができず、上記相違点5-3及び上記相違点5-4は実質的な相違点である。
また、甲5の【0004】~【0005】には、アンダーフィル材には狭ギャップで大面積を流動する特性が求められ、ボイドの発生や不均一なフィレットの形成はフリップチップ半導体装置の信頼性に大きな影響を与えるため、狭ギャップでの流動性が良好であり、ボイド発生がなく、フィレット形成性に優れた電子部品用液状樹脂組成物、及びこれにより封止された信頼性(耐湿性、耐熱衝撃性)の高い電子部品装置を提供することを目的とすることが記載されている。そして、甲5の実施例には、得られた電子部品用液状樹脂組成物について、粘度、表面張力、接着力、成形性(含浸時間、ボイド)、信頼性(耐リフロー性、耐温度サイクル性、耐湿性)を測定・評価したことが示されている(【0060】~【0068】、【0074】【表4】【表5】)。しかしながら、甲5には、アンダーフィル材の硬化物における熱膨張係数に関して、「無機充填剤の・・・配合量が20質量%未満では熱膨張係数の低減効果が低くなる傾向があり」(【0037】)と記載されるにとどまり、また、アンダーフィル材の硬化物における貯蔵弾性率については何ら記載されていない。
そうすると、甲5には、甲5発明に係る電子部品用液状樹脂組成物の熱膨張係数や貯蔵弾性率を所定の値とする動機付けがあるとはいえないから、甲5発明において、「硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であ」るとすることは当業者が容易に想到し得たとはいえない。また、甲1~甲4の2、甲6の1~甲6の2にも、アンダーフィル材を硬化物としたときの、ガラス転移温度以下の熱膨張係数を30ppm/℃以下とし、かつ、240℃における貯蔵弾性率を0.10GPa以下とすることは記載されていないから、甲1~甲4の2、甲6の1~甲6の2に記載された事項を考慮しても上記判断に影響しない。
よって、甲1~甲6の2の記載を基に、甲5発明において、相違点5-3及び5-4に係る本件発明1の構成を採用することが動機付けられるとはいえない。
ウ 本件発明1の効果について
本件発明1は、「本発明によれば、リフローの際のソルダーレジストのクラックの発生が抑制され、且つ耐温度サイクル特性に優れるアンダーフィル材、並びにこれにより封止された信頼性の高い電子部品装置及びその製造方法が提供される。」(本件明細書の【0010】)という効果を奏するものである。
一方、甲5には、特にクラックについて、樹脂硬化物のクラックであることや(【0066】)、フィレットにクラックが生じることが記載ないし示唆されているにとどまり(【0004】)、ソルダーレジストのクラックであることまでは明示的に記載されていないから、本件発明1の効果は当業者が予測し得る範囲のものとはいえない。
エ 甲5の実施例6~10を引用発明とする場合も、上記ア~ウで甲5発明について述べたのと同じ理由により、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 小括
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明、及び、甲1~甲6の2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(2)で述べたのと同じ理由により、甲5に記載された発明、及び、甲1~甲6の2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のことから、本件発明1~14に係る特許は、申立理由1-2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)について
申立理由2は、要するに、本件明細書は、何らグリシジルアミン型エポキシ樹脂及びナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂の割合や、(E)界面活性剤の種類(特に、本件特許の実施例で用いたシリコーン変性エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する官能基は不明である)や界面活性剤の配合量が特定されていない本件発明1~14の範囲まで、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない、というものである。
(1)本件明細書に記載された事項
本件明細書には、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半導体技術の進歩は著しく、半導体及び配線基板の大型化並びに配線基板の薄型化が進んでいる。そのため、バンプ接続を行うフリップチップ方式では、アンダーフィル材の硬化物のリフロー温度における弾性率が高いとバンプの膨張にアンダーフィル材の硬化物が追随できず、配線基板上に形成されたソルダーレジストに応力が集中しやすい。ソルダーレジストに応力が集中することで、リフローの際のバンプの膨張に起因して配線基板上のソルダーレジストにクラックが発生する場合がある。
アンダーフィル材の硬化物の弾性率はアンダーフィル材に含まれる無機充填剤を減量することで低くすることができるが、無機充填剤を減量しすぎると熱膨張係数が増大し、温度サイクル試験においてアンダーフィル材の硬化物の膨張、収縮等に起因した不具合を起こすことがある。
【0007】
以上のように、半導体技術の進歩とともにアンダーフィル材には種々の課題の解決が要求されている。
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、リフローの際のソルダーレジストのクラックの発生が抑制され、且つ耐温度サイクル特性に優れるアンダーフィル材、並びにこれにより封止された信頼性の高い電子部品装置及びその製造方法を提供することを目的とする。」
「【0034】
((E)界面活性剤)
本開示のアンダーフィル材には、成形の際のボイドの発生の低減及び各種被着体への濡れ性の向上による接着力の向上の観点から、各種界面活性剤を配合することができる。
界面活性剤としては、特に制限はないが、非イオン性の界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン系界面活性剤、アルキルアルカノールアミド系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アラルキル変性シリコーン系界面活性剤、ポリエステル変性シリコーン系界面活性剤、ポリアクリル系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの界面活性剤はビックケミー・ジャパン株式会社、花王株式会社等から市販品が入手可能である。
【0035】
また、界面活性剤としてシリコーン変性エポキシ樹脂を添加することができる。シリコーン変性エポキシ樹脂はエポキシ基と反応する官能基を有するオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応物として得ることができる。シリコーン変性エポキシ樹脂は、常温(25℃)で液状であることが好ましい。ここでエポキシ基と反応する官能基を有するオルガノシロキサンを例示すれば、アミノ基、カルボキシ基、水酸基、フェノール性水酸基、メルカプト基等を1分子中に1個以上有するジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサンなどが挙げられる。該オルガノシロキサンの重量平均分子量としては、500~5000の範囲が好ましい。オルガノシロキサンの重量平均分子量が500以上であれば、エポキシ樹脂等との相溶性が向上しすぎることがなく添加剤としての効果が発揮されやすい傾向にある。オルガノシロキサンの重量平均分子量が5000以下であれば、エポキシ樹脂等に非相溶となりにくいため、アンダーフィル材を硬化する際にシリコーン変性エポキシ樹脂がアンダーフィル材から分離又はしみ出しが生じにくく、接着性又は外観を損なう問題を生じにくい傾向にある。
オルガノシロキサンの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定される分子量分布から標準ポリスチレンの検量線を使用して換算して求められる。」
「【0055】
アンダーフィル材を硬化物としたときのTMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数は30ppm/℃以下であり、28ppm/℃以下であることが好ましく、26ppm/℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であれば、リフローの際のバンプクラックの発生が抑制され、且つ耐温度サイクル特性が向上する。TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数は15ppm/℃以上であってもよい。
アンダーフィル材を硬化物としたときのDMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率は0.10GPa以下であり、0.09GPa以下であることが好ましく、0.08GPa以下であることがより好ましく、0.07GPa以下であることがさらに好ましい。240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であれば、リフローの際のソルダーレジストのクラックの発生が抑制され、且つ耐温度サイクル特性が向上する。DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率は0.02GPa以上であってもよい。
アンダーフィル材を硬化物としたときのTMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度は、60℃~150℃が好ましく、70℃~140℃がより好ましく、70℃~130℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度が60℃以上であれば、高温でのバンプの保護性が高く断線が生じにくくなる傾向にある。またガラス転移温度が150℃以下であると常温(25℃)での反りが大きくなりにくい傾向にある。
アンダーフィル材を硬化物としたときのDMA(動的粘弾性測定)で測定した25℃における貯蔵弾性率は、5GPa~10GPaであることが好ましく、5.5GPa~9.5GPaであることがより好ましく、6GPa~9GPaであることがさらに好ましい。25℃における貯蔵弾性率が5GPa以上であれば、高温でのバンプの保護性が高く断線が生じにくくなる傾向にある。また25℃における弾性率が10GPa以下であると常温(25℃)での反りが大きくなりにくい傾向にある。」
「【0068】
【表1】
[図:0001418251000012.jpg]
【0069】
なお、表1における各成分の配合量の単位は質量部である。また、表1中「当量比」は、「硬化剤の当量数(活性水素の当量数)/エポキシ樹脂の当量数(エポキシ基の当量数)」を表す。
【0070】
各種評価結果をまとめて下記表2に示した。
【0071】
【表2】
[図:0001418251000013.jpg]
【0072】
実施例1~5においては、TMAで測定したガラス転移温度が60℃~150℃、熱膨張係数が30ppm/℃以下、DMAで測定した25℃における貯蔵弾性率が5GPa~10GPa、そして240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下となった。
240℃における貯蔵弾性率が0.40GPaの比較例1は、耐温度サイクル性に優れるものの、ソルダーレジストクラックが発生した。高温での貯蔵弾性率が高いとリフロー温度においてはんだの膨張をアンダーフィル材の硬化物が吸収できず、ソルダーレジストに応力がかかったためと考えられる。
熱膨張係数が36ppm/℃の比較例2は、ソルダーレジストクラックは発現しなかったものの、温度サイクルが500サイクルで剥離が観察された。熱膨張係数が大きいと温度サイクルによるアンダーフィル材の硬化物の膨張及び収縮量が大きく、収縮時にチップ界面とアンダーフィル材が剥離したためと考えられる。」
(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点に立って判断する。
(3)本件発明の課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の「リフローの際のソルダーレジストのクラックの発生が抑制され、且つ耐温度サイクル特性に優れるアンダーフィル材、並びにこれにより封止された信頼性の高い電子部品装置及びその製造方法を提供すること」(【0007】)であると解される。
(4)本件発明1について
本件明細書には、「アンダーフィル材を硬化物としたときのTMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数は30ppm/℃以下であり、・・・ガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であれば、リフローの際のバンプクラックの発生が抑制され、且つ耐温度サイクル特性が向上する。・・・アンダーフィル材を硬化物としたときのDMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率は0.10GPa以下であり、・・・240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であれば、リフローの際のソルダーレジストのクラックの発生が抑制され、且つ耐温度サイクル特性が向上する。」と記載され(【0055】)、アンダーフィル材を硬化物としたときの、「TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下」とし、「DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下」とすることにより、本件発明の課題を解決できることが記載されている。そして、実施例・比較例には、熱膨張係数が30ppm/℃以下、240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であった実施例3は、ソルダーレジストクラックが無く、1000サイクル終了時点で剥離が生じなかったのに対し、240℃における貯蔵弾性率が0.40GPaの比較例1は、ソルダーレジストクラックが発生し、熱膨張係数が36ppm/℃の比較例2は、500サイクルで剥離が観察されたことが示されているから、具体的に確認することができる(【0071】【表2】、【0072】)。
そうすると、本件明細書には、本件発明1が「硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率が0.10GPa以下であ」ることにより、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
(5)本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(4)で述べたのと同様に、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明2~14が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されている。
(6)申立人の主張について
申立人は、申立書の第117頁下から第1行~第118第7行において、「ここで、甲第3号証の1の実施例9~11(【表1】、【表3】)に記載されているように、グリシジルアミン型エポキシ樹脂及びナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂の含有量が異なれば、液状樹脂組成物の耐温度サイクル特性が変わることが技術常識である。また、甲第4号証の1の【0055】、甲第4号証の2の【0049】、甲第5号証の【0075】などに記載されているように、シリコーン変性エポキシ樹脂の含有量、オルガノシロキサン単位の量などによって、硬化物の応力、基板への接着性などの物性が変わることも技術常識である。」と主張しているが、特に240℃における貯蔵弾性率に具体的にどの程度の影響を与えるかまでは不明である。
また、申立人は、申立書の第118頁第14行~第15行において、「(E)界面活性剤の種類(特に、本件特許の実施例で用いたシリコーン変性エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する官能基は不明である)」と主張しているので検討すると、本件明細書の【0034】に記載されているように、本件発明1の「(E)界面活性剤」は、「成形の際のボイドの発生の低減及び各種被着体への濡れ性の向上による接着力の向上の観点」から配合されるものであり、また、本件明細書の【0035】には、「界面活性剤としてシリコーン変性エポキシ樹脂を添加することができる。シリコーン変性エポキシ樹脂はエポキシ基と反応する官能基を有するオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応物として得ることができる。・・・該オルガノシロキサンの重量平均分子量としては、500~5000の範囲が好ましい。オルガノシロキサンの重量平均分子量が500以上であれば、エポキシ樹脂等との相溶性が向上しすぎることがなく添加剤としての効果が発揮されやすい傾向にある。オルガノシロキサンの重量平均分子量が5000以下であれば、エポキシ樹脂等に非相溶となりにくいため、アンダーフィル材を硬化する際にシリコーン変性エポキシ樹脂がアンダーフィル材から分離又はしみ出しが生じにくく、接着性又は外観を損なう問題を生じにくい傾向にある。」と記載され、界面活性剤が、エポキシ基と反応する官能基を有する重量平均分子量500~5000のオルガノシロキサンとエポキシ樹脂との反応物を含むことにより、界面活性剤としての効果が発揮されやすく、界面活性剤がアンダーフィル材から分離又はしみ出しにくく、接着性又は外観を損なう問題が生じにくいことが示されているのみであり、界面活性剤と本件発明の課題との関係については記載されていないから、「(E)界面活性剤」によって課題の解決が大きく左右されるとは解されない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
(7)まとめ
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由2によっては、本件特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(実施可能要件)について
申立理由3は、要するに、グリシジルアミン型エポキシ樹脂及びナフタレンジオールをエポキシ化したエポキシ樹脂を配合する割合、(E)界面活性剤の種類(特に、本件特許の実施例で用いたシリコーン変性エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する官能基は不明である)や配合量について、どのようにすれば、本件明細書の実施例3と同様の耐温度サイクル性や良好な物性を示す液状樹脂組成物を得ることができるのか、合理的に推測することは困難であり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等が必要である、というものである。
(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
これは、当業者が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、物の発明については、その物を作れ、かつ、その物を使用することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。そこで、この点について以下に検討する。
(2)本件発明1について
本件明細書には、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」について【0014】~【0020】に説明があり、特に、【0016】には、「アンダーフィル材を硬化物としたときの、TMA(熱機械分析)で測定したガラス転移温度以下の熱膨張係数を30ppm/℃以下とするには、エポキシ樹脂全量に占める、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合を65質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましい。アンダーフィル材を硬化物としたときの、DMA(動的粘弾性測定)で測定した240℃における貯蔵弾性率を0.10GPa以下とするには、エポキシ樹脂全量に占める、3官能以上のエポキシ樹脂の割合を80質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とすることがより好ましく、60質量%以下とすることがさらに好ましい。」と記載され、分子中に芳香環を含むエポキシ樹脂の割合とガラス転移温度以下の熱膨張係数の関係や、3官能以上のエポキシ樹脂の割合と240℃における貯蔵弾性率の関係について記載されている。また、本件明細書には、本件発明1の「(E)界面活性剤」について【0034】~【0037】に説明があり、特に【0035】には、「エポキシ基と反応する官能基」として「アミノ基、カルボキシ基、水酸基、フェノール性水酸基、メルカプト基等」と例示されており、実施例3においてアンダーフィル材を作製したことも示されている。
このような本件明細書の一般的記載と実施例3とから、当業者が本件発明1のアンダーフィル材を作製し、その性能の確認作業を行うことは通常の試行錯誤の範囲内で行い得るものであって、過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
そうすると、発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明1のアンダーフィル材を製造及び使用することができる程度に記載されていると解される。
(3)本件発明2~14について
申立理由3は、発明の詳細な説明は本件発明1について当業者が実施できる程度に記載されていないから、本件発明1を直接又は間接的に引用する他の発明についても実施できる程度に記載されていないというものであるが、上記(2)で述べたように、発明の詳細な説明は、本件発明1について当業者が実施できる程度に記載されているから、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~14についても実施することができると解される。
(4)まとめ
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由3によっては、本件特許を取り消すことはできない。
5 申立理由4(明確性)について
申立理由4は、要するに、本件発明1は、「(J)有機溶剤を含み、」という必須成分である旨の特定があるにもかかわらず、「前記(J)有機溶剤の含有率が、10質量%以下である」と0質量%である場合を含む特定があり、これらは矛盾しているから、本件発明1~14は明確でない、というものである。
(1)本件発明1について
本件発明1は、「(J)有機溶剤を含み、」と特定していることから、有機溶剤を含むことは明らかである。
したがって、本件発明1は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(2)本件発明2~14について
申立理由4は、本件発明1が明確でないから、本件発明1を直接又は間接的に引用する他の発明も明確でないというものであるが、上記(1)で述べたように、本件発明1は明確であるから、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~14は明確である。
(3)まとめ
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由4によっては、本件特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~14に係る特許は、申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない
また、他に、請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700473