特許異議申立
2024-700436
ガスバリア性積層フィルム
- 審判番号
- 2024-700436
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-071974
- 登録番号
- 7377507
- 請求日
- 2024年05月08日
- 審決日
- 2025年05月08日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ユニチカ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人森本国際特許事務所
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 【異議申立人】早川 いづみ
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 岩谷 一臣
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7377507号発明「ガスバリア性積層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7377507号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7377507号の請求項2に係る特許を維持する。
特許第7377507号の請求項1、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7377507号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成30年4月4日(優先権主張 平成29年4月5日)の出願であって、令和5年11月1日にその特許権の設定登録がされ、令和5年11月10日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年 5月 8日 :特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人1」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「申立1」という。)
令和6年 5月10日 :特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人2」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て(以下「申立2」という。)
令和6年 6月28日付け:取消理由通知書
令和6年 8月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年10月 7日 :申立人2による意見書の提出
令和6年10月11日 :申立人1による意見書の提出
令和6年11月 1日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年12月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
なお、令和6年8月27日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、当審から令和7年1月16日付けで申立人1、2に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行ったが、指定の期間内に申立人1、2からは応答がなかった。
第2 本件訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項1を引用する請求項2を独立形式に改めたうえで、本件訂正前の請求項1に記載された「無機層状化合物としての粘土鉱物」を、「平均粒子径が1000~1800nmの無機層状化合物としての粘土鉱物」に訂正し、
同じく「100℃×0%RH条件下における酸素透過度が0.1~15ml/(m2・day・MPa)であり」を、「100℃×0%RH条件下における酸素透過度が1.3~15ml/(m2・day・MPa)であり」に訂正し、
本件訂正前の請求項2に記載された「金属または酸化物の蒸着膜層上に、平均粒子径が800~3000nmの無機層状化合物と樹脂を含むコート層形成用塗工液を塗布し」を、「金属または酸化物の蒸着膜層上に、平均粒子径が1000~1800nmであり、膨潤・へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含み、イオン交換処理されたコート層形成用塗工液を塗布し」に訂正し、
本件訂正前の請求項2に記載された「コート層を積層する」を、「へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物が積層されたコート層を、金属または酸化物の蒸着膜層上に積層する」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3を削除する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~3は、請求項2、3が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~3〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、3について
訂正事項1、3は、それぞれ本件訂正前の請求項1、3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2を独立形式に改めた点は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2について、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項1の「無機層状化合物」について平均粒子径を限定し、「積層フィルム」における「100℃×0%RH条件下における酸素透過度」の範囲を限定し、本件訂正前の請求項2の「コート層形成用塗工液」についてその組成及び処理を限定し、「コート層」について層中の粘土鉱物の状態及び積層される箇所を限定する点は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項2のうち、「無機層状化合物」について平均粒子径を限定する点は、本件特許の明細書の【0022】の記載に、「100℃×0%RH条件下における酸素透過度」の範囲を限定する点は、本件特許の明細書の【0041】【表1】の記載、「コート層形成用塗工液」についてその組成及び処理を限定する点は、本件特許の明細書の【0008】、【0021】~【0023】の記載に、「コート層」について層中の粘土鉱物の状態及び積層される箇所を限定する点は、本件特許の明細書の【0023】の記載に、それぞれ基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求が認められたことから、本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項2の記載は、次のとおりである。
【請求項2】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、厚み0.005~0.1μmの金属または酸化物の蒸着膜層を有し、該蒸着膜層上に、平均粒子径が1000~1800nmの無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含む厚み0.10~0.30μmのコート層を少なくとも1層有する積層フィルムであって、100℃×0%RH条件下における酸素透過度が1.3~15ml/(m2・day・MPa)であり、40℃×90%RH条件下における水蒸気透過度が0.4~2.0g/(m2・day)であるガスバリア性積層フィルムを製造するための方法であって、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に形成された、金属または酸化物の蒸着膜層上に、平均粒子径が1000~1800nmであり、膨潤・へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含み、イオン交換処理されたコート層形成用塗工液を塗布し、90~130℃で乾燥熱処理して、へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物が積層されたコート層を、金属または酸化物の蒸着膜上に積層することを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法。
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審において令和6年11月1日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(サポート要件)
課題解決手段のうち、「90~130℃で乾燥熱処理」するという課題解決手段を発明特定事項として有していない本件発明1、3は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないため、本件特許は、請求項1、3に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由4(明確性)
請求項1における「平均粒子径が1000~1800nmの無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含む厚み0.10~0.30μmのコート層」の記載について、「無機層状化合物」の平均粒子径のほうが「コート層」の厚みより大きく、「無機層状化合物」が「コート層」にどのように含まれているのかが不明であるため、本件特許は、請求項1~3に係る発明が明確でなく、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1についての当審の判断
取消理由1は、本件訂正前の請求項1、3に係る発明を対象としていたところ、本件訂正により本件訂正前の請求項1、3が削除されたことにより、取消理由1は当たらないものとなった。
2 取消理由4についての当審の判断
本件訂正により、本件発明2は、「無機層状化合物」が「膨潤・へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物」であると訂正された。
これにより、「無機層状化合物としての粘土鉱物」の単位結晶層の厚みが、「コート層」の厚みよりも十分小さいものであることが特定されたため、本件発明2は明確である。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要
請求項2に係る本件特許について、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(進歩性)
ア 申立1
本件特許の請求項2に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明及び下記引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 申立2
本件特許の請求項2に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明、下記引用文献4に記載された事項及び下記引用文献5に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項2に係る発明は、下記引用文献3に記載された発明及び下記引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項2に係る発明は、次の点で発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないため、請求項2に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
主張ア コート層の厚みが0.10~0.30μmである請求項1を引用する請求項2に係る発明について、100℃×0%RH条件下における酸素透過度の値の範囲(0.1~15ml/(m2・day・MPa))全体について、具体例の裏付けをもってサポートされているとはいえない。
主張イ 請求項1を引用する請求項2に係る発明の態様として、コート層が複数存在し、コート層全体の厚みが(0.10~0.30μm)×(コート層の数)となるものについては、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
(4)申立理由4(実施可能要件)
コート層の厚みが0.10~0.30μmである請求項1を引用する請求項2に係る発明について、100℃×0%RH条件下における酸素透過度の値の範囲(0.1~15ml/(m2・day・MPa))のうち、特に下限値に近い範囲の値を有するガスバリア性積層フィルムについては、これを製造しようとするのは、当業者であっても過度の試行錯誤を要するから、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、請求項2に係る発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に適合しないため、請求項2に係る特許は、同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<引用文献等一覧>
引用文献1 特開平7-251475号公報(申立人1が提出した甲第1号証、申立人2が提出した甲第1号証)
引用文献2 国際公開第2013/042654号(申立人1が提出した甲第2号証)
引用文献3 特開平11-257574号公報(申立人1が提出した甲第3号証)
引用文献4 特開平7-33909号公報(申立人2が提出した甲第2号証)
引用文献5 特開2016-117201号公報(申立人2が提出した甲第3号証)
2 申立理由1についての当審の判断
申立理由1は、甲1を主引例として上記のとおり申立1、申立2を趣旨とする申立がなされているため、まとめて判断する。
(1)引用文献1に記載された発明
引用文献1(【請求項1】~【請求項3】、【請求項5】、【請求項6】、【請求項8】、【0001】、【0009】、【0028】~【0032】)には、次の発明が記載されている。
「樹脂フィルムの少なくとも一方の面に形成された金属または酸化物の薄膜層上に、粒径が5μm以下、アスペクト比が50以上5000以下の無機層状化合物と樹脂を含む樹脂組成物からなる層を少なくとも1層積層してなる積層フィルム(【請求項1】)を製造するための方法であって、
積層フィルムは、
無機層状化合物が、溶媒に膨潤・へき開し(【請求項2】)、
無機層状化合物が、膨潤性をもつ粘土鉱物であり(【請求項3】)、
(無機層状化合物/樹脂)の体積比が(5/95)~(90/10)の範囲であり(【請求項5】)、
樹脂が高水素結合性樹脂であり(【請求項6】)、
高水素結合性樹脂が、ポリビニルアルコールまたは多糖類であり(【請求項8】)、
金属または酸化物の薄膜の膜厚みは、10nm以上300nm以下であり(【0028】)、
金属または酸化物の薄膜の形成方法は、真空蒸着法であり(【0029】)、
樹脂フィルムには、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートが用いられ(【0030】)、
無機層状化合物を含む層の塗膜厚は、1nm以上1μm以下である(【0032】)、
ガスバリアー性に優れた積層フィルムであって(【0001】)、
金属または酸化物の薄膜層上に、無機層状化合物と樹脂よりなる組成物の塗工液を塗布、乾燥、熱処理を行い(【0031】)、
無機層状化合物の粒径が3μm以下である(【0009】)、
積層フィルムの製造方法。」(以下「引用発明1」という。)
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートが用いられ」る「樹脂フィルム」は本件発明2の「ポリエステルフィルム」に相当する。
(イ)引用発明1の「真空蒸着法」を「形成方法」とする「金属または酸化物の薄膜」は本件発明2の「金属または酸化物の蒸着膜層」に相当する。
(ウ)引用発明1の「溶媒に膨潤・へき開し」、「膨潤性をもつ粘土鉱物であ」る「無機層状化合物」は、本件発明2の「膨潤・へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物」に相当する。
(エ)引用発明1の「無機層状化合物が、膨潤性をもつ粘土鉱物であり、(無機層状化合物/樹脂)の体積比が(5/95)~(90/10)の範囲であり、樹脂が高水素結合性樹脂であり、高水素結合性樹脂が、ポリビニルアルコールまたは多糖類であ」る「無機層状化合物と樹脂を含む樹脂組成物からなる層」は本件発明2の「無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含む」「コート層」に相当する。
(オ)引用発明1の「ガスバリアー性に優れた積層フィルム」は本件発明2の「ガスバリア性積層フィルム」に相当する。
(カ)引用発明1において、「金属または酸化物の薄膜層」が「樹脂フィルムの少なくとも一方の面に形成された」ものであり、「金属または酸化物の薄膜層上に、無機層状化合物と樹脂よりなる組成物の塗工液を塗布、乾燥、熱処理を行」うことと、本件発明2において、「金属または酸化物の蒸着膜層上に、平均粒子径が1000~1800nmであり、膨潤・へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含み、イオン交換処理されたコート層形成用塗工液を塗布し、90~130℃で乾燥熱処理して、へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物が積層されたコート層を、金属または酸化物の蒸着膜層上に積層する」こととは、上記(ウ)、(エ)も踏まえれば、金属または酸化物の蒸着膜層上に、膨潤・へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含むコート層形成用塗工液を塗布し、乾燥熱処理して、へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物が積層されたコート層を、金属または酸化物の蒸着膜層上に積層する限りで一致する。
そうすると、本件発明2と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、金属または酸化物の蒸着膜層を有し、該蒸着膜層上に、無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含むコート層を少なくとも1層有する積層フィルムであるガスバリア性積層フィルムを製造するための方法であって、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に形成された、金属または酸化物の蒸着膜層上に、膨潤・へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含むコート層形成用塗工液を塗布し、乾燥熱処理して、へき開させた無機層状化合物としての粘土鉱物が積層されたコート層を、金属または酸化物の蒸着膜層上に積層するガスバリア性積層フィルムの製造方法。」
[相違点1]
本件発明2は、「蒸着膜層」が「厚み0.005~0.1μm」であるのに対して、引用発明1は「金属または酸化物の薄膜の膜厚みは、10nm以上300nm以下」である点。
[相違点2]
本件発明2は、「無機層状化合物」の「平均粒子径が1000~1800nm」であるのに対して、引用発明1は、「無機層状化合物の粒径が3μm以下である」点。
[相違点3]
本件発明2は、「コート層」が「厚み0.10~0.30μm」であるのに対して、引用発明1は「無機層状化合物を含む層の塗膜厚は、1nm以上1μm以下」である点。
[相違点4]
本件発明2は、「積層フィルム」が「100℃×0%RH条件下における酸素透過度が1.3~15ml/(m2・day・MPa)」であるのに対して、引用発明1は100℃×0%RH条件下における酸素透過度が不明である点。
[相違点5]
本件発明2は、「積層フィルム」が「40℃×90%RH条件下における水蒸気透過度が0.4~2.0g/(m2・day)」であるのに対して、引用発明1は40℃×90%RH条件下における水蒸気透過度が不明である点。
[相違点6]
コート層の積層に関して、本件発明2は、「イオン交換処理されたコート層形成用塗工液を塗布し、90~130℃で乾燥熱処理して」いるのに対して、引用発明1は、「無機層状化合物と樹脂よりなる組成物の塗工液を塗布、乾燥、熱処理を行」うものであるが、イオン交換処理の有無、乾燥熱処理の温度が不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
引用文献1には、「無機層状化合物」の「粒径」に関して、「本発明に使用可能な「無機層状化合物」は後述する方法により測定したアスペクト比が50以上5000以下で粒径が5μm以下であるものならば特に限定されない。・・・フィルムとした際の製膜性ないし成形性の点からは、後述する方法により測定した「粒径」が5μm以下であることが好ましい。この粒径が5μmを越えると、樹脂組成物としての製膜性ないし成形性が低下する傾向が生じる。樹脂組成物の透明性の点からは、この粒径は3μm以下であることが好ましい。本発明のフィルムを透明性が重視される用途(例えば食品用途)に用いる場合には、この粒径は1μm以下であることが、特に好ましい。」(【0009】)と記載されている。
一方、本件明細書には、「無機層状化合物」の「平均粒子径」に関して、「コート層形成用塗工液に含まれる無機層状化合物は、平均粒子径が、800~3000nmであることが必要であり、中でも1000~1800nmであることが好ましい。
つまり、本発明は、コート層形成用塗工液中に含まれる無機層状化合物として、平均粒子径が比較的大きいものを使用し、かつ、後述する、塗膜を乾燥させる乾燥熱処理を比較的高温で行うことにより、高温条件下で優れた酸素バリア性を発現できるコート層が得られることを見出したものである。」(【0022】)と記載されている。
すなわち、本件発明2は、「高温条件下で優れた酸素バリア性を発現できるコート層」を得るために、「無機層状化合物」について「平均粒子径が1000~1800nm」としたものである。
そうすると、引用発明1は、樹脂組成物の透明性の点から無機層状化合物の粒径を3μm以下とするものであるから、数値範囲として重なる部分があったとしても、高温条件下で優れた酸素バリア性を発現できるコート層とするために、「平均粒子径が1000~1800nm」とすることは、当業者であっても容易に想到できたものであるとはいえない。
また、引用文献2には、セルロース膜の優れたバリア性を高湿度下でさらに向上するために([0009])、基材の面上に、セルロース繊維と無機層状化合物と水溶性高分子を含むバリア層を設けた([0026])ガスバリア積層体([0001])において、膨潤した状態での無機層状化合物の平均粒子径は0.5μm以上10μm以下であることが好ましく([0045])、膨潤した無機層状化合物の平均粒子径が3μmから7μmの範囲であると、透明性も高く、分散性が高くなるため、バリア性も良好で、密着も膜の強度も高くなり、より好ましい([0046])としたもの、すなわち、バリア層の透明性及びバリア性の観点から、「膨潤した無機層状化合物の平均粒子径が3μmから7μmの範囲」であるものが記載されている。
引用文献4には、優れたガスバリヤ性とともに耐水性を向上させるために(【0007】)、無機層状化合物と高水素結合性樹脂と水素結合性基用架橋剤とを含む樹脂組成物よりなるフィルムにおいて、無機層状化合物を、粒径が5μm以下、アスペクト比が50~5000のものとし(【0008】)、粒径が3μm以下であれば、透明性においても良好となり好ましい(【0009】)こと、すなわち、透明性の観点から、「無機層状化合物の粒径が3μm以下」であるものが記載されている。
しかしながら、高温条件下で優れた酸素バリア性を発現できるコート層を得るために、無機層状化合物の平均粒子径を1000~1800nmとすることは、引用文献2、4には記載も示唆もされていない。
また、ガスバリア性積層フィルムの製造方法において、高温条件下で優れた酸素バリア性を発現できるコート層を得るために、無機層状化合物の平均粒子径を1000~1800nmとすることが記載・示唆された証拠は、本件特許異議の申立てで提出された他の全証拠を勘案しても見いだせない。
ウ 小括
よって、本件発明2は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立理由2についての当審の判断
(1)引用文献3に記載された発明
引用文献3(【請求項1】、【請求項5】、【0008】、【0010】、【0011】、【0025】、【0031】、【0042】、【0045】、【0047】)には、次の発明が記載されている。
「熱融着層、基材層、薄膜層およびガスバリア性樹脂組成物層からなり、薄膜層とガスバリア性樹脂組成物層が直接積層されたガスバリア性樹脂積層体(【0042】)を製造するための方法であって、
ガスバリア性樹脂積層体は、
基材層には、ポリエチレンテレフタレートが使用され(【0045】)、
金属薄膜層や酸化物の化合物からなる薄膜層と、樹脂および無機層状化合物とからなるガスバリア性樹脂組成物層とをそれぞれ少なくとも1層有し(【請求項1】、【0008】)、
薄膜層は、蒸着により得られたものであり(【請求項5】)、
無機層状化合物は、粘土系鉱物であり(【0011】)、
樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)又は多糖類であり(【0025】)、
ガスバリア性樹脂組成物層は、(無機層状化合物/樹脂)が重量比で5/95~90/10の範囲である(【0031】)、
ガスバリア性樹脂積層体であり、
無機層状化合物の粒径が3μm以下であり(【0010】)、
樹脂と無機層状化合物からなる樹脂組成物の塗工液を塗布、乾燥、熱処理行う方法で積層する(【0047】)、
ガスバリア性樹脂積層体の製造方法。」(以下「引用発明3」という。)
(2)本件発明2について
本件発明2と引用発明3とは、少なくとも上記相違点2と同様の点で相違し、当該相違点についての判断は、上記2(2)イで説示したとおりである。
よって、本件発明2は、引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 申立理由3についての当審の判断
(1)本件発明が解決しようとする課題について
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】の記載によると、本件発明の解決しようとする課題は「高温条件下で優れた酸素バリア性を有し、さらには水蒸気バリア性能にも優れた積層体であって、真空断熱材の外被材として使用することが好適なガスバリア性積層フィルムを提供すること」(以下「本件課題」という。)である。
(2)本件課題を解決するための手段に関する発明の詳細な説明の記載
ア 課題を解決するための手段(下線は、当審で付与した。)
「【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ポリエステルフィルム基材上に、金属または酸化物薄膜層を有し、さらに同層上に、無機層状化合物と樹脂を含むコート層を有する積層フィルムを、特定の製造方法で製造することにより、高温条件下においても著しく優れた酸素バリア性を有し、また優れた水蒸気バリア性をも有することを見出し本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、厚み0.005~0.1μmの金属または酸化物の蒸着膜層を有し、該蒸着膜層上に、無機層状化合物としての粘土鉱物と樹脂としてのポリビニルアルコールまたは多糖類を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95~90/10で含む厚み0.10~0.30μmのコート層を少なくとも1層有する積層フィルムであって、100℃×0%RH条件下における酸素透過度が0.1~15ml/(m2・day・MPa)であり、40℃×90%RH条件下における水蒸気透過度が0.4~2.0g/(m2・day)であることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
(2)上記(1)記載のガスバリア性積層フィルムを製造するための方法であって、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に形成された、金属または酸化物の蒸着膜層上に、平均粒子径が800~3000nmの無機層状化合物と樹脂を含むコート層形成用塗工液を塗布し、90~130℃で乾燥熱処理して、コート層を積層することを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法。
(3)上記(1)記載のガスバリア性積層フィルムを含む真空断熱材。」
イ 発明の効果
「【0009】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、金属または酸化物の薄膜層を有し、この薄膜層上に、無機層状化合物と樹脂を含むコート層を有しており、100℃の高温条件下においても高い酸素バリア性能を有する。また基材としてポリエステルフィルムを使用しているため、基材の寸法変化によって薄膜層に割れが発生することがなく、水蒸気バリア性にも優れている。このため、本発明のガスバリア性積層フィルムは、真空断熱材の外被材として好適に使用することができる。」
ウ 発明を実施するための形態
「【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材フィルムはポリエステルフィルムであることが必要である。
・・・
【0011】
本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、金属または酸化物の薄膜層を有している。・・・
【0012】
また、蒸着膜層の厚さは、0.0005~2μmが好ましく、0.001~1μmがより好ましく、0.005~0.1μmがさらに好ましい。蒸着膜層は、厚さが2μmを超えると、曲げなどによってクラックが発生しやすくなったり、界面での剥離が起こったりするので好ましくなく、薄すぎると蒸着膜層によるバリア機能が発現しないおそれがある。
・・・
【0014】
また、本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの面に形成された薄膜層上に、無機層状化合物と樹脂を含むコート層を少なくとも1層有している。
・・・
【0016】
コート層に含まれる、無機層状化合物と樹脂との組成比(体積比)は、特に限定されないが、体積比(無機層状化合物/樹脂)が5/95~90/10であることが好ましく、・・・また、体積比(無機層状化合物/樹脂)が5/95より小さいと、コート層は、ガスバリア性能が十分でなくなり、90/10より大きいと、コート層の製膜性が良好ではなくなる。
【0017】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、真空断熱材用途として、100℃×0%RH条件下における酸素透過度が20ml/(m2・day・MPa)以下であることが必要であり、・・・酸素透過度が20ml/(m2・day・MPa)より大きくなると、真空度が低下することによって断熱性能が低下する。
・・・
【0018】
そして、本発明のガスバリア性積層フィルムは、40℃×90%RH条件下における水蒸気透過度が2.0g/(m2・day)以下であることが必要であり、・・・水蒸気透過度が2.0g/(m2・day)より大きくなると、上記の酸素透過度と同様に、真空度の低下により、断熱性能の低下が生じる。
【0019】
コート層の厚みは、0.10~0.50μmであることが好ましく、・・・コート層は、厚みが0.10μm未満であると、高温条件下でのガスバリア性の発現が不十分となりやすい。一方、厚みが0.50μmを超えるコート層の形成は、塗工液の乾燥能力に限界があり、生産効率が低下することがある。
【0020】
次に、本発明のガスバリア性積層フィルムの製造方法について説明する。まず、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、金属または酸化物の薄膜層を有するものとして、金属の蒸着膜層を有するポリエステルフィルムを使用することが好ましく、該蒸着フィルムの蒸着膜層上に、無機層状化合物と樹脂を含むコート層形成用塗工液を塗布する。
・・・
【0022】
コート層形成用塗工液に含まれる無機層状化合物は、平均粒子径が、800~3000nmであることが必要であり、・・・。
つまり、本発明は、コート層形成用塗工液中に含まれる無機層状化合物として、平均粒子径が比較的大きいものを使用し、かつ、後述する、塗膜を乾燥させる乾燥熱処理を比較的高温で行うことにより、高温条件下で優れた酸素バリア性を発現できるコート層が得られることを見出したものである。
・・・
【0025】
そして、コート層形成用塗工液を塗布後に、塗膜を乾燥させる熱処理を行うが、このときの乾燥熱処理温度は、90~130℃であることが必要であり、・・・乾燥熱処理温度が90℃未満であると、得られるコート層は、乾燥不良により、高温条件下でのガスバリア性を発現することができない。一方、乾燥熱処理温度が130℃を超えると、基材が寸法変化しやすくなり、蒸着割れの原因となることがある。また、乾燥熱処理の時間は、2~10秒であることが好ましい。」
エ 実施例
「【0041】
【表1】
[図:0001425732000001.jpg]
」
(3)明細書に記載された本件課題を解決するための手段
発明の詳細な説明の上記(2)ア~エの記載によると、本件課題を解決するための手段は、「ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、厚み0.0005μmを下限とする金属または酸化物の蒸着膜層を有し、該蒸着膜層上に、無機層状化合物と樹脂を体積比(無機層状化合物/樹脂)=5/95以上で含む厚み0.10μm以上のコート層を少なくとも1層有し、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に形成された、金属または酸化物の蒸着膜層上に、平均粒子径が800~3000nmの無機層状化合物と樹脂を含むコート層形成用塗工液を塗布し、90~130℃で乾燥熱処理して、コート層を積層したものであり、100℃×0%RH条件下における酸素透過度が20ml/(m2・day・MPa)以下であり、40℃×90%RH条件下における水蒸気透過度が2.0g/(m2・day)以下である」こと(以下「課題解決手段」という。)である。
(4)発明の課題を解決するための手段が反映されているか否かについて
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すると、本件発明2は、上記した課題解決手段を発明特定事項として有している。
したがって、本件発明2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(5)申立人1の主張について
ア 上記主張アについて
本件訂正により、本件発明2における「100℃×0%RH条件下における酸素透過度」の値の範囲の下限が、実施例として開示された1.3ml/(m2・day・MPa)となった(【0041】【表1】の実施例2、3)ため、当該主張は当たらなくなった。
イ 上記主張イについて
本件明細書には、「コート層の厚みは、0.10~0.50μmであることが好ましく、・・・コート層は、厚みが0.10μm未満であると、高温条件下でのガスバリア性の発現が不十分となりやすい。」(【0019】)と記載されており、コート層が複数ある場合も、本件課題を解決できることが理解できる。
(6)申立理由3のまとめ
したがって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載したものである。
5 申立理由4についての当審の判断
本件訂正により、本件発明2における「100℃×0%RH条件下における酸素透過度」の値の範囲の下限が、実施例として開示された1.3ml/(m2・day・MPa)となった(【0041】【表1】の実施例2、3)。
したがって、申立理由4についての申立人1の主張は当たらないものとなった。
第7 むすび
以上のとおり、請求項2に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。さらに、他に請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1、3に係る特許は、本件訂正により削除されたことにより、申立人1、2による特許異議の申立てについて、請求項1、3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700436