特許異議申立
2022-701209
二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムの製造方法
- 審判番号
- 2022-701209
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-512165
- 登録番号
- 7153259
- 請求日
- 2022年12月05日
- 審決日
- 2023年06月09日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ユニチカ株式会社
- 【権利者】日本エステル株式会社
- 【権利者】ユニチカトレーディング株式会社
- 【異議申立人】石川 竜郎
- 【異議申立人】早川 いづみ
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 磯貝 香苗
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7153259号発明「二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7153259号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7153259号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)3月26日(優先権主張 令和2年3月31日及び令和2年9月30日)を国際出願日とする出願であって、令和4年10月5日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月5日に特許異議申立人 石川 竜郎(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされ、令和5年4月13日に特許異議申立人 早川 いづみ(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムを製造する方法であって、
(A)エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程、
(B)前記反応生成物を濾過し、濾液を回収する工程
(C)重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で前記濾液を重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂を得る工程、
(D)前記ポリエステル樹脂を含む出発材料を用いて未延伸フィルムを製造した後、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程、
を含むことを特徴とする二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記(A)の工程が、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール及びリサイクルポリエステル原料の全ての成分を全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35の範囲内で実施される、請求項1に記載の二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記(B)の工程において、前記濾過を濾過粒度10~25μmのフィルターで実施する、請求項1に記載の二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムの製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年12月5日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)証拠方法
甲第A1号証:特開2010-6962号公報
甲第A2号証:国際公開第2015/146496号
甲第A3号証:特開2005-171138号公報
証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年4月13日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲第B2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由B3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1ないし3
本件特許発明1ないし3において、請求項1のエチレンテレフタレートオリゴマーについて、本件特許の実施例に記載されている実施の形態は、「エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)」の一形態のみであり、それ以外のエチレンテレフタレートオリゴマーを使用した場合についても、本件特許の効果を奏することを当業者が理解することができないので、請求項1に係る発明まで内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。なぜなら、甲B3記載の発明において、ポリエステル屑の解重合物生成反応物との混合性の点から、ポリエステル屑の解重合反応生成物と混合されるアルキレンテレフタレートオリゴマーの重合度が5~10の範囲のものを用いることが特に好ましいことが記載されており、本件特許では上記の通りその範囲内の具体例しか記載されておらず、その範囲外の重合度のエチレンテレフタレートオリゴマーを用いた場合、同等の効果を奏することを当業者は通常考えられない。
イ 本件特許発明2ないし3
本件特許発明2ないし3において、請求項2の(A)の工程における全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35の範囲内であることについて、本件特許の実施例および比較例に記載されている形態はいずれも前記モル比の数値範囲内の例のみであり、該数値範囲を外れた例は記載されておらず、当業者がその効果を理解することができない。また、前記数値範囲内とすることの効果について、「上記範囲内である場合、得られる再生ポリエステル樹脂は、本発明で規定するカルボキシル末端基及びジエチレングリコールの含有量の少なくとも一方を満足しないものとなり、また平均昇圧速度も高くなる場合がある。」と記載されており、ジエチレングリコールの含有量は0.5~4モル%であることが好ましいこと、カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下が好ましいこと、平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることがそれぞれ記載されている。しかし、実施例および比較例には、前記のうちジエチレングリコールの含有量と平均昇圧速度について記載されておらず、また、カルボキシル末端基濃度については、比較例3~6および7について、いずれも 5当量/tの値であることが記載され、前記好適な数値範囲内である。この点においても、当業者がその効果を理解することができない。したがって、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35の範囲内であることは発明の詳細な説明に記載されている範囲を超えるものである。
(4)証拠方法
甲第B1号証:特開2010-6962号公報
甲第B2号証:特公平3-31190号公報
甲第B3号証:特開2005-171138号公報
甲第B4号証:特許第3715812号公報
甲第B5号証:プラスチックフィルム-加工と応用-(第二版)、技報堂出版株式会社、2005年、98-99頁
証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。以下、順に「甲B1」のようにいう。
なお、甲B1は甲A1と同じ文献であり、以下、「甲A1」として記載する。また、甲B3は甲A3と同じ文献である。
第4 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲A1に記載された事項等
ア 甲A1に記載された事項
甲A1には、「ポリエステルの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
酸成分に対するエチレングリコールのモル比が1.3~2.0のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/またはその低重合体を溶融状態で上部に精留塔を有する反応容器に存在させ、その反応容器にポリエステル屑とエチレングリコールを連続的に供給し、205~250℃で、かつ精留塔から実質的にエチレングリコールを留出させることなく、精留塔の塔頂温度がエチレングリコールの沸点より低い温度で解重合反応を行い、次いで該反応物を重縮合反応することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
反応容器に連続的に供給するポリエステル屑とエチレングリコールのモル比(エチレングリコール/ポリエステル屑)が0.3~1.0であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
精留塔の塔頂温度が160℃に到達した時点から10~30分で解重合反応を終了させることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
重縮合反応の触媒としてチタン化合物を用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
リン換算で10~200ppmの3価のリン化合物を、得られるポリマーの目標IVに対して85~99%の時点で添加することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載のポリエステルの製造方法。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は上記従来の問題を解消、すなわち解重合反応の過程で発生するジエチレングリコールの発生を最小限に抑え、さらには省エネルギー化をはかり、かつ設備投資も少ない解重合反応を提供するとともに、その解重合方法によって得られたビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体を用いて品位の安定したポリエステルを得ることができる製造方法を提供するにある。」
・「【0037】
本発明においては、ポリエステルのIV設定値の85%以上、99%未満の段階で添加する3価のリン化合物は、得られるポリエステルに対してリン原子換算で10~200ppmとなるように添加することがポリエステルの色調や、繊維、フィルム、ボトル等への成形体の製造工程における着色を少なくするため好ましい。上記範囲より添加量が少ないと所望の目的効果を発揮するに至らず、上記範囲より添加量が多いとリン化合物の分散が不十分となるため、重縮合反応容器から安定的に吐出できなくなり、チップ形状が不均一となるため後の乾燥工程や溶融工程などでの物性変化や設備トラブルを引き起こす可能性があり、好ましくない。リン添加量は、12~150ppmが好ましく、さらに好ましくは15~100ppmである。」
・「【0050】
実施例1
精留塔、ポリエステル屑供給機、撹拌装置を備えた解重合反応容器に、モル比1.5のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体2000kgを常圧で窒素雰囲気下、220℃で存在させておく。そこへエチレングリコール/ポリエステル屑のモル比が0.5のポリエステル屑2000kgとエチレングリコール325kgを3時間かけて連続的に供給する。供給が終了した後、30分かけて反応容器温度を240℃に昇温し、昇温後は240℃に保持する。精留塔の塔頂温度が160℃に到達した後、20分で解重合反応を終了させ、ビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体を得た。この時精留塔の塔頂までエチレングリコールは到達していなかった。なお解重合反応工程は4時間20分だった。その得られたビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体をサンプリングし、そのジエチレングリコール量を測定したところ1.2重量%だった。
【0051】
このビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体を、フィルター(公称目開き40μm)を介して重縮合反応容器に移液し、リン酸を110g(得られるポリエステル中のリン酸濃度として55ppm)添加した後、6分間攪拌した。その後、三酸化アンチモンを600g(得られるポリエステル中の三酸化アンチモン濃度として300ppm)、酢酸コバルト340g(得られるポリエステル中の酢酸コバルト濃度として170ppm)、酸化チタンを6kg添加する(得られるポリエステル中の酸化チタンで0.3%)。その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応温度を240℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。所定の攪拌トルクに到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させた。ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は2時間55分だった。得られたポリエステルのポリマーL値は60、ポリマーb値は8.5、ジエチレングリコールは1.9重量%だった。」
イ 甲A1に記載された発明
甲A1に記載された事項を、特に請求項1及び実施例1に関して整理すると、甲A1には次の発明が記載されていると認める。
<甲A1発明>
「酸成分に対するエチレングリコールのモル比が1.5のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/またはその低重合体を溶融状態で上部に精留塔を有する反応容器に存在させ、その反応容器にポリエステル屑とエチレングリコールを連続的に供給し、205~250℃で、かつ精留塔から実質的にエチレングリコールを留出させることなく、精留塔の塔頂温度がエチレングリコールの沸点より低い温度で解重合反応を行い、得られたビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体をフィルター(公称目開き40μm)を介して重縮合反応容器に移液し、リン酸、三酸化アンチモン、酢酸コバルト、酸化チタンを添加後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応温度を240℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げ、所定の攪拌トルクに到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、カッティングしてポリマーのペレットを得る、ポリエステルの製造方法。」
(2)甲B2に記載された事項等
ア 甲B2に記載された事項
甲B2には、「ポリエステル屑の解重合方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「特許請求の範囲
1 エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル屑を解重合するに際し、酸成分に対するグリコール成分の当量比が1.3~2.0のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/またはその低重合体を溶融状態で反応容器に存在させ、エチレングリコールとポリエステル屑を同時かつ連続的に添加し、かつ撹拌しながら解重合反応系を215~250℃で酸成分に対するグリコール成分の当量比を1.3~2.0に維持して解重合した後、反応物の一部を重合反応系に供給することを特徴とするポリエステル屑の解重合方法。」(第1欄第1~12行)
・「[従来技術とその問題点]
ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートはその優れた特性により繊維、フイルム、プラスチツク等として広く用いられているが、これらの製造工程において発生する繊維状、フイルム状、樹脂状などのポリエステル屑の有効利用はコストなどの点で工業的に極めて重要な問題である。従来、ポリエステル屑の利用法としては、例えば、特開昭48-61447号公報にはポリエステル屑を過剰のエチレングリコール(以下EGと略す)により解重合した後、得られたBHTを直接重縮合して再生ポリエステルを得る方法が提案されているが、この方法は解重合工程においてポリエステル屑とEGを解重合反応系に一括投入して解重合しているため、投入したポリエステル屑が内部で固化し、攪拌ができない。そのため、解重合系が不均一となり解重合時間が長くなること、また、使用するEGの量が多いため、経済的に不利になるばかりでなく反応物にはジエチレングリコール(以下DEGと略す)等の不純物が副生し、その結果得られるポリエステルの物理的性質、特に軟化点を著しく低下させ、品位の低いポリエステルしか得られない等の欠点があつた。このような従来の技術においては、ポリエステル屑を効率的に解重合し、かつ品質特性の良好な再重合ポリエステルとする技術は完成されていない状況にある。
[発明の目的]
本発明の直接的な目的は、ポリエステル屑を解重合してBHTを得るのに際し、EGの使用量を減らし、解重合工程で副生するDEG等の不純物の生成を極力抑えると同時に解重合時間の短縮をはかり、かつ高品位のBHTに変換しこのBHTを縮重合して得られるポリエステルの品位を高めることにある。」(第2欄第1行~第3欄第14行)
・「実施例 1
蒸気還流装置、攪拌装置、屑供給機の下部と解重合缶との間に窒素ガスを供給する装置を備えた屑供給機、および加熱装置を備えた解重合反応容器にテレフタル酸に対するEGの当量比が1.5のBHT2142部を仕込み220℃で加熱溶解する。次いで、攪拌を行ないながら、該加熱溶液中に約0.5g/個の顆粒からなるポリエチレンテレフタレート屑1850部、エチレングリコール292部を40分かけて連続的に添加しつつ、屑中の水分を還流により、反応系外に抜きだしながらEGを還流しつつ解重合を終了した。屑供給中は屑供給機の下部に窒素ガスを供給した。解重合完了まで反応系は220℃で、かつテレフタル酸成分に対するEGの当量比を1.5とした。次に得られた反応物の半分量である2142部を、重合反応器に移し、リン酸0.37部、三酸化アンチモン0.555部を加えて60分かけて温度290℃、圧力0.05mmHgとし、その後120分重合を行ない固有粘度(25℃におけるオルソクロルフエノール中)0.650でかつ軟化点257℃、色調(b値)が4.5のポリエステルを得た。」(第5欄第42行~第6欄第18行)
イ 甲B2に記載された発明
甲B2に記載された事項を、特に特許請求の範囲及び実施例1に関して整理すると、甲B2には次の発明が記載されていると認める。
<甲B2発明>
「エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル屑を解重合するに際し、酸成分に対するグリコール成分の当量比が1.5のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/またはその低重合体を溶融状態で反応容器に存在させ、エチレングリコールとポリエステル屑を同時かつ連続的に添加し、かつ攪拌しながら解重合反応系を215~250℃で酸成分に対するグリコール成分の当量比を1.5に維持して解重合した後、反応物の一部を重合反応器に移し、リン酸0.37部、三酸化アンチモン0.555部を加えて60分かけて温度290℃、圧力0.05mmHgとし、その後120分重合を行なう、ポリエステルの製造方法。」
2 申立理由A1及びB1(甲A1に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A1発明を対比する。
甲A1発明の「酸成分に対するエチレングリコールのモル比が1.5のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/またはその低重合体を溶融状態で上部に精留塔を有する反応容器に存在させ、その反応容器にポリエステル屑とエチレングリコールを連続的に供給し、205~250℃で、かつ精留塔から実質的にエチレングリコールを留出させることなく、精留塔の塔頂温度がエチレングリコールの沸点より低い温度で解重合反応を行い」は、本件特許発明1の「(A)エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程」に相当する。
甲A1発明は「得られたビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体をフィルター(公称目開き40μm)を介して重縮合反応容器に移液」するものであるから、本件特許発明1の「(B)前記反応生成物を濾過し、濾液を回収する工程」との特定事項を満たす。
甲A1発明は「得られたビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体をフィルター(公称目開き40μm)を介して重縮合反応容器に移液し、リン酸、三酸化アンチモン、酢酸コバルト、酸化チタンを添加後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応温度を240℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げ、所定の攪拌トルクに到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ」るものであるから、本件特許発明1の「(C)重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で前記濾液を重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂を得る工程」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程、
(B)前記反応生成物を濾過し、濾液を回収する工程
(C)重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で前記濾液を重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂を得る工程、
を含むことを特徴とする製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A1>
本件特許発明1は「(D)前記ポリエステル樹脂を含む出発材料を用いて未延伸フィルムを製造した後、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程を含む」「二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムの製造方法」であるのに対し、甲A1発明はポリエステルの製造方法である点。
イ 判断
相違点A1について検討する。
甲A1及び他の証拠には、甲A1発明を、低温環境下での優れた耐屈曲性を有する二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムの提供、及び、厚みが50μm以下の薄いフィルムであっても長期連続運転が可能なポリエステル樹脂フィルムの製造方法の提供を目的として、二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムの製造方法に適用する動機付けとなる記載はない。
したがって、甲A1発明において、相違点A1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、低温環境下での優れた耐屈曲性等の優れた物性を有する二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムを効率よくかつ確実に製造することができ、厚みが50μm以下であっても、高い延伸速度で長期に亘って連続生産が可能である(本件特許の発明の詳細な説明の【0019】ないし【0022】)という、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし3について
本件特許発明2ないし3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由A1及びB1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A1及びB1によっては取り消すことはできない。
3 申立理由B2(甲B2に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B2発明を対比する。
甲B2発明の「エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル屑を解重合するに際し、酸成分に対するグリコール成分の当量比が1.5のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/またはその低重合体を溶融状態で反応容器に存在させ、エチレングリコールとポリエステル屑を同時かつ連続的に添加し、かつ攪拌しながら解重合反応系を215~250℃で酸成分に対するグリコール成分の当量比を1.5に維持して解重合した」は、本件特許発明1の「(A)エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程」に相当する。
甲B2発明は「反応物の一部を重合反応器に移し、リン酸0.37部、三酸化アンチモン0.555部を加えて60分かけて温度290℃、圧力0.05mmHgとし、その後120分重合を行なう」ものであり、圧力0.05mmHg=0.05×133.3=6.665Paである。そうすると、甲B2発明は、本件特許発明1の「(C)重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で前記濾液を重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂を得る工程」と、「(C)重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で」、(A)で得られた反応生成物由来の液を「重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂を得る工程」との限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程、
(C)重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で、(A)で得られた反応生成物由来の液を重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂を得る工程、
を含むことを特徴とする製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B2-1>
本件特許発明1は「(D)前記ポリエステル樹脂を含む出発材料を用いて未延伸フィルムを製造した後、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程を含む」「二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムの製造方法」であるのに対し、甲B2発明はポリエステルの製造方法である点。
<相違点B2-2>
本件特許発明1は「(B)前記反応生成物を濾過し、濾液を回収する工程」を含み、(C)で「前記濾液を重縮合反応に供する」のに対し、甲B2発明はこのような特定がない点。
イ 判断
相違点B2-1について検討する。
甲B2及び他の証拠には、甲B2発明を、低温環境下での優れた耐屈曲性を有する二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムの提供、及び、厚みが50μm以下の薄いフィルムであっても長期連続運転が可能なポリエステル樹脂フィルムの製造方法の提供を目的として、二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムの製造方法に適用する動機付けとなる記載はない。
したがって、甲B2発明において、相違点B2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、低温環境下での優れた耐屈曲性等の優れた物性を有する二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムを効率よくかつ確実に製造することができ、厚みが50μm以下であっても、高い延伸速度で長期に亘って連続生産が可能であるという、甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし3について
本件特許発明2ないし3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由B2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B2によっては取り消すことはできない。
4 申立理由B3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0010】ないし【0016】によると、本件特許発明1ないし3の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「リサイクル原料を使用していない二軸延伸ポリエステルフィルムと同等又はそれ以上の優れた物性、特に低温環境下での優れた耐屈曲性を有する二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムを提供する」こと、及び、「リサイクルポリエステル原料を用いても、厚みが50μm以下の薄いフィルムであっても長期連続運転が可能な製造方法を提供する」ことである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0018】には、本件特許発明1ないし3に対応する記載があり、【0055】ないし【0114】には、本件特許発明1ないし3の製造方法に関する記載がある。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0020】には「特に、本発明の二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムは、リサイクル原料を特定の工程で処理されており、異物混入量が少なく、降温結晶化温度が特定の範囲であるポリエステル樹脂を含むことから、厚みが50μm以下であっても、高い延伸速度で長期に亘って連続生産が可能であり、そのフィルムの表面結晶化度が低く抑えられている。このため、リサイクル原料を含まないポリエステル樹脂よりも低温環境下での耐屈曲性に優れ、MD及びTD方向の引張伸度もリサイクル原料を使用していないポリエステル樹脂フィルムと同等に優れているものである。」と記載され、【0062】には「解重合反応に際しては、リサイクルポリエステル原料単独で解重合反応に供することもできるが、本発明ではエチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することが望ましい。リサイクルポリエステル原料を利用した従来法においては、リサイクルポリエステル原料のみを用いて解重合を行っているのに対し、本発明においてはエチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料の解重合反応を行い、好ましくはエチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール及びリサイクルポリエステル原料の全ての成分における「全グリコール成分/全酸成分」のモル比が特定の範囲内になるようにリサイクルポリエステル原料を投入し、解重合反応を行うことが望ましい。このようにすることにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われるため、後述の濾過工程において、これらの異物を効果的に取り除くことができる。そして、後述の重縮合工程において、ジエチレングリコールの含有量及びカルボキシル末端基濃度が特定範囲のものであり、かつ、異物の混入量が比較的少ない再生ポリエステル樹脂を得ることが可能となる。」と記載され、【0086】には「重縮合反応においては、温度260℃以上及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重縮合反応温度が260℃未満であったり、あるいは重縮合反応時の圧力が1.0hPaを超えると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣り、再生ポリエステル樹脂中のカルボキシル末端基濃度が低すぎるものとなる。」と記載され、【0120】ないし【0175】において、「エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料を解重合反応に供する」、「反応生成物を濾過し、濾液を回収する」及び「重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で前記濾液を重縮合反応に供する」の条件を満たす実施例が、上記条件を満たさない比較例3ないし6と比べて、樹脂の高温結晶化温度が160~180℃と高く、ポリエステル樹脂フィルムの二軸延伸による製造において長期の連続生産性に優れ、かつ、引っ張り伸度が高く、低温環境下での対屈曲性に優れたポリエステル樹脂フィルムが得られたことを確認している。
そうすると、当業者は、「(A)エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料を解重合反応に供することにより反応生成物を得る工程、
(B)前記反応生成物を濾過し、濾液を回収する工程
(C)重合触媒の存在下で温度260℃以上及び圧力1.0hPa以下で前記濾液を重縮合反応に供することによりポリエステル樹脂を得る工程、
(D)前記ポリエステル樹脂を含む出発材料を用いて未延伸フィルムを製造した後、前記未延伸フィルムを二軸延伸する工程、
を含むことを特徴とする二軸延伸ポリエステル樹脂系フィルムの製造方法」(以下、「本件製造方法」という。)は、発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし3に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、上記第3 2(3)のア、イのとおり主張する。
しかしながら、上記(2)で検討したとおり、本件特許発明1ないし3の発明の課題は、上記(2)の本件製造方法により解決できると認識できるものであり、上記第3 2(3)イの主張は本件製造方法とは関係がない。
また、上記第3 2(3)のア、イのいずれの主張も、本件製造方法を充足していても発明の課題を解決し得ないとする具体的な証拠を提示するものではない。
よって、特許異議申立人Bの主張は採用できない。
(5)申立理由B3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B3によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-701209