特許異議申立
2024-700252
ポリエステル系フィルム及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700252
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-549307
- 登録番号
- 7351531
- 請求日
- 2024年03月18日
- 審決日
- 2025年03月04日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ユニチカ株式会社
- 【権利者代理人】藤井 淳
- 【異議申立人】早川 いづみ
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 岡谷 祐哉
- 審判官 小出 直也
- 分類
- P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7351531号発明「ポリエステル系フィルム及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7351531号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。
特許第7351531号の請求項1、2、4、7、9~15に係る特許を維持する。
特許第7351531号の請求項3、5、6、8に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7351531号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、令和1年9月25日を国際出願日とする特許出願であって、令和5年9月19日にその特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の請求項1~15に係る特許に対し、令和6年3月18日に特許異議申立人 早川いづみ(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 7月29日付け: 取消理由通知
同年 9月28日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年10月17日付け: 手続補正指令書(方式、特許権者宛て)
同年11月 5日 : 訂正請求書を補正する手続補正書の提出(特許権者)
同年11月18日付け: 訂正請求があった旨の通知(申立人宛て)
同年12月17日 : 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否
令和6年11月5日の訂正請求書を補正する手続補正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第133条第1項の規定により、訂正請求書について補正をすべきことを命じられた場合において、当該命じられた事項についてしたものであり、同法第131条の2第1項第3号に該当するものである。
1 訂正の内容
令和6年11月5日の手続補正によって補正された、令和6年9月28日の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の
「ポリエステル樹脂を含むポリエステル系フィルムであって、
(1)ポリエステル樹脂は、酸成分としてテレフタル酸を含有し、グリコール成分としてエチレングリコールを含有し、
(2)融点が155~210℃であり、
(3)密度が1.320~1.380であり、
(4)下式(1):厚み斑A(%)=[(Tmax-Tmin)/Tave]×100…(1)
(ただし、Tmaxはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における最大厚みを示し、Tminはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における最小厚みを示し、Taveはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における平均厚みを示す。)
にて算出した厚み斑Aが10%以下であり、
(5)シーラントのために用いられる、
ことを特徴とする延伸ポリエステル系フィルム。」
とあるのを
「ポリエステル樹脂を含むポリエステル系フィルムであって、
(1)ポリエステル樹脂は、酸成分としてテレフタル酸を含有し、グリコール成分としてエチレングリコールを含有し、前記ポリエステル樹脂において、(a)テレフタル酸は、前記ポリエステル樹脂中の全酸成分の合計量100mol%中に80~100mol%含有し、(b)エチレングリコールは、ポリエステル樹脂中の全グリコール成分の合計量100mol%中に10~85mol%含有し、
(2)融点が155~210℃であり、
(3)密度が1.320~1.370であり、
(4)下式(1):厚み斑A(%)=[(Tmax-Tmin)/Tave]×100 …(1)(ただし、Tmaxはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における最大厚みを示し、Tminはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における最小厚みを示し、Taveはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における平均厚みを示す。)にて算出した厚み斑Aが10%以下であり、
(5)シーラントのために用いられる、
ことを特徴とする延伸ポリエステル系フィルム。」
と訂正する(請求項1を引用する請求項2、4、7、9~15も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項4の「TD及びMD方向の乾熱収縮率がいずれも6.0%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。」とあるのを
「TD及びMD方向の乾熱収縮率がいずれも6.0%以下である、請求項1,2のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。」と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項5を削除する。
(5)訂正事項5
訂正前の請求項6を削除する。
(6)訂正事項6
訂正前の請求項7の「グリコール成分として1,4-ブタンジオールをさらに含有する、請求項1~6のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。」とあるのを
「グリコール成分として1,4-ブタンジオールをさらに含有する、請求項1,2,4のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。」と訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項8を削除する。
(8)訂正事項8
訂正前の請求項9の「請求項1~8のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムと他の層とを含み、かつ、前記延伸ポリエステル系フィルムが最外層に配置されていることを特徴とする積層フィルム。」とあるのを
「請求項1,2,4,7のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムと他の層とを含み、かつ、前記延伸ポリエステル系フィルムが最外層に配置されていることを特徴とする積層フィルム。」と訂正する。
(9)訂正事項9
訂正前の請求項10の「請求項1~8のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムを含む包装体であって、包装体中に内容物が充填された状態で延伸ポリエステル系フィルムどうしがヒートシールされている包装体。」とあるのを
「請求項1,2,4,7のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムを含む包装体であって、包装体中に内容物が充填された状態で延伸ポリエステル系フィルムどうしがヒートシールされている包装体。」
と訂正する。
(10)訂正事項10
訂正前の請求項13の「ポリエステル樹脂を含む末延伸シートから請求項1~8のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを製造する方法であって、
シートの流れ(MD)方向の延伸倍率(X)とシートの巾(TD)方向の延伸倍率(Y)との積である面倍率(X×Y)が9.8~12.0又は12.0~16.5を満たし、かつ、
(1)延伸温度が
(1a)同時二軸延伸の場合は、35~110℃、
(1b)逐次二軸延伸の場合は、MDの延伸は40~63℃、TDの延伸は55~90℃
(2)MD延伸倍率(X)とTD延伸倍率(Y)との延伸倍率比(X/Y)が、
(2a)同時二軸延伸の場合は、0.90~1.15
(2b)逐次二軸延伸の場合は、0.70~0.90
となるように前記未延伸シートを延伸する工程
を含むことを特徴とするポリエステル系フィルムの製造方法。」とあるのを
「ポリエステル樹脂を含む未延伸シートから請求項1,2,4,7のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを製造する方法であって、
シートの流れ(MD)方向の延伸倍率(X)とシートの巾(TD)方向の延伸倍率(Y)との積である面倍率(X×Y)が9.8~12.0又は12.0~16.5を満たし、かつ、
(1)延伸温度が
(1a)同時二軸延伸の場合は、35~110℃、
(1b)逐次二軸延伸の場合は、MDの延伸は40~63℃、TDの延伸は55~90℃
(2)MD延伸倍率(X)とTD延伸倍率(Y)との延伸倍率比(X/Y)が、
(2a)同時二軸延伸の場合は、0.90~1.15
(2b)逐次二軸延伸の場合は、0.70~0.90
となるように前記未延伸シートを延伸する工程
を含むことを特徴とするポリエステル系フィルムの製造方法。」と訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~15について、請求項2~15は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、訂正前の請求項1~15は一群の請求項であり、訂正事項1~10による訂正は、一群の請求項についてするものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の「ポリエステル樹脂」を訂正前の請求項8で特定されるものに限定し、かつ、ポリエステル系フィルムの密度の範囲を、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0045】の記載をもとに、「1.320~1.380」から「1.320~1.370」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2~10について
訂正事項2、4、5、7による訂正は、訂正前の請求項3、5、6、8を削除するものであり、訂正事項3、6、8~10による訂正は、訂正事項2、4、5、7による訂正に伴い、引用する請求項から請求項3、5、6、8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~15に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
5 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~15に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明15」のようにいう。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】ポリエステル樹脂を含むポリエステル系フィルムであって、
(1)ポリエステル樹脂は、酸成分としてテレフタル酸を含有し、グリコール成分としてエチレングリコールを含有し、前記ポリエステル樹脂において(a)テレフタル酸は、前記ポリエステル樹脂の全酸成分の合計量100mol%中に80~100mol%含有し、(b)エチレングリコールはポリエステル樹脂中の全グリコール成分の合計量100mol%中に10~85mol%含有し、
(2)融点が155~210℃であり、
(3)密度が1.320~l.370であり、
(4)下式(1):
厚み斑A(%)=[(Tmax-Tmin)/Tave]×100 …(1)
(ただし、Tmaxはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における最大厚みを示し、Tminはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における最小厚みを示し、Taveはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90゜及び135゜)における平均厚みを示す。)
にて算出した厚み斑Aが10%以下であり、
(5)シーラントのために用いられる、
ことを特徴とする延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項2】ガラス転移温度が30~68℃である、請求項1に記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】TD及びMD方向の乾熱収縮率がいずれも6.0%以下である、請求項1,2のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】グリコール成分として1,4-ブタンジオールをさらに含有する、請求項1,2,4のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項8】(削除)
【請求項9】請求項1,2,4,7のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムと他の層とを含み、かつ、前記延伸ポリエステル系フィルムが最外層に配置されていることを特徴とする積層フィルム。
【請求項10】請求項1,2,4,7のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムを含む包装体であって、包装体中に内容物が充填された状態で延伸ポリエステル系フィルムどうしがヒートシールされている包装体。
【請求項11】包装体内部が真空である、請求項10に記載の包装体。
【請求項12】内容物として繊維状物質を含み、包装体が断熱材として用いられる請求項10又は11に記載の包装体。
【請求項13】ポリエステル樹脂を含む未延伸シートから請求項1,2,4,7のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを製造する方法であって、
シートの流れ(MD)方向の延伸倍率(X)とシートの巾(TD)方向の延伸倍率(Y)との積である面倍率(X×Y)が9.8~12.0又は12.0~16.5を満たし、かつ、
(1)延伸温度が
(1a)同時二軸延伸の場合は、35~110℃、
(1b)逐次二軸延伸の場合は、MDの延伸は40~63℃、TDの延伸は55~90℃
(2)MD延伸倍率(X)とTD延伸倍率(Y)との延伸倍率比(X/Y)が、
(2a)同時二軸延伸の場合は、0.90~1.15
(2b)逐次二軸延伸の場合は、0.70~0.90
となるように前記末延伸シートを延伸する工程
を含むことを特徴とするポリエステル系フィルムの製造方法。
【請求項14】前記の延伸が同時二軸延伸である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】延伸を行うに先立って、予め未延伸シートをMD方向に1.05~1.20倍で延伸する予備延伸工程をさらに含む、請求項13又は14に記載の製造方法。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要及び証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和6年3月18日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由は次のとおりである。
申立理由1(実施可能要件)
本件特許の訂正前の請求項1~15に係る発明についての特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は次のとおりである。
(1)本件発明1の延伸ポリエステル系フィルムは、逐次二軸延伸におけるMD延伸温度は「40~63℃」で、TD延伸温度は「55℃~90℃」でなければ製造できないことが分かる。一方、本件発明1の延伸ポリエステル系フィルムは、製造時の延伸温度が規定されておらず、逐次二軸延伸では、MD延伸温度が「40~63℃」且つTD延伸温度が「55℃~90℃」以外の延伸温度で、如何にして製造することができるのか不明である。(申立書p18~19、項目(ア-1))
(2)比較例A6は(本件明細書に記載された)本件発明の達成手段を備えているにも拘わらず、融点が請求項1に規定される範囲から外れており、本件発明1~15は、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。(申立書p19~21の項目(ア-2))
(3)比較例B6は(本件明細書に記載された)本件発明の達成手段を備えているにも拘わらず、ガラス転移温度が本件発明2に規定される範囲から外れており、本件発明2~15は、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。(申立書p21の項目(ア-3))
(4)実施例B9は発明の詳細な説明に記載された本件発明の延伸ポリエステル系フィルムを製造する為の組成と製膜条件により製造されている。しかし、伸長時破断強度は本件発明3の構成要件を満たしておらず、本件発明3~15は、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。(申立書p22の項目(ア-4))
(5)実施例B10は発明の詳細な説明に記載された本件発明の延伸ポリエステル系フィルムを製造する為の組成と製膜条件により製造されている。しかし、乾熱収縮率は本件発明4の構成要件を満たしておらず、本件発明4~15は、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。(申立書p22の項目(ア-5))
(6)実施例B8、B9、B11は発明の詳細な説明に記載された本件発明の延伸ポリエステル系フィルムを製造する為の組成と製膜条件により製造されている。しかし、突刺強度は本件発明5の構成要件を満たしておらず、本件発明5~15は、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。(申立書p22~23の項目(ア-6))
(7)実施例B7~B11は発明の詳細な説明に記載された本件発明の延伸ポリエステル系フィルムを製造する為の組成と製膜条件により製造されている。しかし、120℃×10日間の熱処理後におけるシール強度は本件発明6の構成要件を満たしておらず、本件発明6~15は、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。(申立書p23の項目(ア-7))
申立理由2(サポート要件)
本件特許の訂正前の請求項1~15に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は次のとおりである。
(1)本件発明1~12の延伸ポリエステル系フィルムは、逐次二軸延伸におけるMD延伸温度は「40℃~63℃」で、TD延伸温度は「55℃~90℃」でなければ製造できないので、それ以外の延伸温度で製造された延伸ポリエステルフィルムまで拡張ないし一般化することはできない。(申立書p24の項目(イ-1))
(2)比較例B2、B5、B7~B9の結果からみて、本件発明の延伸ポリエステル系フィルムは、樹脂組成として1,4-ブタンジオールが必須であり、1,4-ブタンジオールの含有量が規定されていない本件発明1~15は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(申立書p24~25の項目(イ-2))
(3)比較例B3の延伸ポリエステル系フィルムは、本件発明1、2の構成要件を満たしているが、突刺強度、高温環境下のシール強度に劣り、発明の課題を解決しておらず、本件発明1、2は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(申立書p25の項目(イ-3))
2 取消理由の概要
当審が令和6年7月29日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(実施可能要件)
本件特許の訂正前の請求項1~15に係る発明についての特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は、以下のとおりである。
(1)発明の詳細な説明の記載は、訂正前の本件発明1のうち、訂正前の本件発明8の条件を満たさない部分について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
(2)発明の詳細な説明の記載は、訂正前の本件発明3、5又は6のうち、実施例で具体的に製造例が確認されたもの以外の部分について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。(申立理由1の(4)、(6)、(7)と同様)
取消理由2(サポート要件)
本件特許の訂正前の請求項1、2、4、7~12に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は、申立理由2の(3)と同様である。
取消理由3(明確性)
本件特許の訂正前の請求項6~15に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は、以下のとおりである。
本件発明6で特定される「120℃×10日間の熱処理後におけるシール強度」がどのヒートシール温度で測定した値のことを意味するのか不明確である。
3 証拠方法
甲第1号証:特願2020-549307号(本件特許が付与された出願)の令和5年7月27日付けの本件特許の特許権者が提出した意見書
第5 当審の判断
本件発明3、5、6、8に係る特許に対する特許異議の申立ては、本件発明3、5、6、8が訂正により削除され、申立ての対象を欠くこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
そして、当審は、取消理由1~3及び申立書に記載した申立理由1、2によっては、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
1 取消理由1及び申立理由1(実施可能要件)について
取消理由1と申立理由1はいずれも実施可能要件違反をいうものであるから、併せて検討する。
(1)実施可能要件の判断基準
本件発明1、2、4、7、9~12は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。また、本件発明13~15は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
以下、この観点に沿って検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件発明1は第3で示したとおりであり、要件(1)~(5)を満たす延伸ポリエステルフィルムである。
このうち、要件(1)はポリエステル樹脂の構造を特定するものであり、それに関する記載は本件明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)の【0019】~【0021】にあり、要件(1)を満たす延伸ポリエステルフィルムを生産するためには、(a)テレフタル酸及び(b)エチレングリコールが規定された含有量となるようにポリエステル樹脂を製造すればよいことは、当業者が容易に理解することである。
また、要件(5)は「シーラントのために用いられる」という用途を限定するものであり、シーラントについての記載は発明の詳細な説明の【0082】にあり、要件(5)を満たす延伸ポリエステルフィルムをどのように使用するかは、当業者が容易に理解することである。
そこで、要件(2)~(4)について検討する。
発明の詳細な説明には、「本発明者は、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の製法によって特性値を有する延伸ポリエステル系フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0012】)と記載され、その「特定の製法」が【0056】~【0077】に記載され、その製法により「前記のような物性をもつフィルムをより確実に製造することができる」(【0056】)こと、「特定の製法」の条件により、例えば「予備延伸」や「面倍率(X×Y)」、「弛緩熱処理温度」等の条件により、本件発明1の(3)の要件である「密度」が調節できること(【0065】、【0068】、【0074】)、同時二軸延伸や予備延伸により、フィルムの4方向における厚み斑(本件発明1の(4)の要件)を調節できること(【0062】、【0063】、【0065】)が記載されている。
また、本件発明1の(2)の要件である融点は、テレフタル酸含有量、エチレングリコール含有量、1,4-ブタンジオールの含有量等により調節できることが記載されている(【0019】、【0021】、【0022】)。
そして、【0090】~【0117】には、本件発明1の要件を満たす延伸ポリエステル系フィルムの具体的な製造例が実施例A1~A10、B1~B11として21例の記載がある。
また、本件発明2の「ガラス転移温度」は、ポリエステル樹脂の共重合成分を変えることにより調節可能であり(【0046】)、例えばイソフタル酸等を共重合させることにより調節できること(【0020】)が記載されている。
本件発明4の「TD及びMD方向の乾熱収縮率」は、延伸倍率や弛緩熱処理温度により調節できることが記載されている(【0071】、【0074】)。
本件発明7、9~12はポリエステル系フィルムの構造や用途を特定するものであり、発明の詳細な説明の【0022】、【0079】、【0082】、【0087】に具体的な記載があり、その記載に基づいて当業者が容易に生産し、使用することができる。
本件発明13~15は、【0056】~【0077】に具体的な記載があり、その記載に基づいて当業者が容易にその方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、2、4、7、9~15について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(3)取消理由1、申立理由1の(4)、(6)、(7)について
取消理由1の概要は第4の2で示したとおりであり、以下に再掲する。
(ア)発明の詳細な説明の記載は、訂正前の本件発明1のうち、訂正前の本件発明8の条件を満たさない部分について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
(イ)発明の詳細な説明の記載は、訂正前の本件発明3、5又は6のうち、実施例で具体的に製造例が確認されたもの以外の部分について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない(申立理由1の(4)、(6)、(7)と同様)。
これに対し、本件発明1は本件訂正により訂正前の本件発明8の条件を満たすものに限定された。
また、本件訂正により、本件発明3、5及び6は削除された。
よって、取消理由1及び申立理由1の(4)、(6)、(7)によっては、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
(4)申立理由1の(1)~(3)、(5)について
申立理由1の(1)~(3)、(5)の概要は上記第4の1で示したとおりであり、以下、順に検討する。
ア 申立理由1の(1)について
「本件発明1の延伸ポリエステル系フィルムは、逐次二軸延伸におけるMD延伸温度は「40~63℃」で、TD延伸温度は「55℃~90℃」でなければ製造できないことが分かる。」との主張については、発明の詳細な説明の【0072】に、「延伸温度については、MDの延伸は、通常40~65℃で行うことが好ましく、特に45~63℃であることがより好ましい。また、TDの延伸は、通常55~90℃で行うことが好ましく・・・」と記載されるように、あくまでも延伸温度の好ましい範囲にすぎない。
そして、本件発明1の延伸ポリエステル系フィルムの製造に適した条件は、上記【0072】も含め、発明の詳細な説明の【0056】~【0077】に記載されており、逐次二軸延伸におけるMD、TDの好ましい延伸温度も記載されているから、その記載に従って本件発明1の延伸ポリエステルフィルムを製造することができる。
また、物の発明において実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があればよいのであって、その物を製造方法によって特定しなければならないということはない。
したがって、申立理由1の(1)によっては、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
イ 申立理由1の(2)について
発明の詳細な説明の【0074】には、弛緩熱処理温度が100~180℃とすることが好ましく、180℃を超えると結晶化が大きく進行することが記載されており、比較例A6は、好ましい弛緩熱処理温度の範囲を外れた結果、結晶化が大きく進行し、その結果融点が高くなったことを示すものである。
そうすると、当業者は比較例A6の製造条件ではなぜ本件発明1の融点を満たすことができないのか、また、どのような製造条件であれば本件発明1の融点を満たすことができるのか、理解することができる。
したがって、申立理由1の(2)によっては、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
ウ 申立理由1の(3)について
比較例B6はポリエステルを構成する酸成分としてε-CLを15mol%含んでおり、発明の詳細な説明の【0020】にはテレフタル酸以外の酸成分としε-カプロラクトンも記載されているものの、ガラス転移温度範囲の観点からイソフタル酸が好ましいことが記載されており、【0046】にはポリエステル樹脂の共重合成分を変えることによりガラス転移温度を調節可能なことが記載されているから、当業者は比較例B6の製造条件ではなぜ本件発明2のガラス転移温度を満たすことができないのか、また、どのような製造条件であれば本件発明2のガラス転移温度を満たすことができるのか、理解することができる。
したがって、申立理由1の(3)によっては、本件発明2、4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
エ 申立理由1の(5)について
「乾熱収縮率」は、延伸倍率比(X/Y)、面倍率(X×Y)、弛緩熱処理温度等を所定の範囲とすることにより達成できるものであり(発明の詳細な説明の【0071】、【0074】)、そのことは実施例により具体的に確認されている。
そして、実施例B10は【0074】に記載された、好ましい弛緩熱処理温度の範囲(120~160℃)を外れるものである。
そうすると、当業者は実施例B10の製造条件ではなぜ本件発明4の乾熱収縮率を満たすことができないのか、また、どのような製造条件であれば本件発明4の乾熱収縮率を満たすことができるのか、理解できるといえる。
したがって、申立理由1の(5)によっては、本件発明4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
(5)申立人の主張について
申立人は、令和6年12月17日提出の意見書において、申立理由1の(2)と同様のことを主張するが、上記(4)イで述べたとおりであるから、申立人の主張は採用することができない。
(6)取消理由1、申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、取消理由1、申立理由1によっては、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2、申立理由2(サポート要件)について
取消理由2と申立理由2はいずれもサポート要件違反をいうものであるから、併せて検討する。
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
(2)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の【0011】の記載からみて、「高温環境下で長期間使用してもシール強度を保持することができるとともに、高い突刺強度を有し、ピンホール発生が抑制されたシーラントフィルムを提供すること」であると認められる。
(3)サポート要件の検討
本件発明1は上記第3で示したとおりのものであり、構成要件(1)~(5)を満たす延伸ポリエステル系フィルムであるところ、発明の詳細な説明には、構成要件(1)に関して、「テレフタル酸含有量が全酸成分の80mol%未満であると、結晶性が低下する傾向にあり、融点を有さなくなるほか、密度が低くなる傾向にある。また、樹脂の十分な乾燥が困難となり、製膜工程上のトラブルが生じたり、高温環境下にてシール強度が低下することがある。」(【0019】)こと、「エチレングリコールの含有量が全グルコール成分の10mol%未満となる場合又は85mol%を超える場合、融点が高くなり、ヒートシールが困難となる場合があるほか、シール強度が低下する場合がある。」(【0021】)ことが記載されている。
また、構成要件(2)に関して、発明の詳細な説明には「融点が155℃未満であると、伸長時破断強度、突刺強度等が低下するおそれがある。融点が210℃を超えると、シール強度等が低下する傾向にある。」(【0044】)ことが記載されている。
構成要件(3)に関して、発明の詳細な説明には「本発明フィルムの密度が1.320g/cm3未満であると、結晶化が低く、突刺強度が低下し、ピンホールが発生しやすくなる。一方、ポリエステル系フィルムの密度が1.380g/cm3を超えると、高温環境下でのシール強度が低下し、さらには突刺強度も低下する。」(【0045】)ことが記載されている。
構成要件(4)に関して、発明の詳細な説明には「厚み斑が10%以下である場合、フィルム表面の厚みのバラツキが非常に小さいものとなり、例えば真空断熱材として使用する場合においても長期間良好なシール強度を維持できる。厚み斑が10%を超える場合、厚み精度が低いため、シール強度が部分的に弱い個所ができ、真空断熱材として長期間の使用に適さなくなるおそれがある。」(【0054】)ことが記載されている。
そして、発明の詳細な説明の【0090】~【0117】には、本件発明1の要件を全て満たす実施例A1~A10、B1~B11のポリエステル系フィルムが、シール強度220℃における常温でのシール強度が5.0N/cm以上、120℃×10日間処理後のシール強度が4.0N/cm以上、突刺強度の値が4.0N/μm以上であることが示されており、「高温環境下で長期間使用してもシール強度を保持することができるとともに、高い突刺強度を有し、ピンホール発生が抑制されたシーラントフィルムを提供すること」という本件発明の課題を解決できることが理解できる。
そうすると、本件発明1の要件を満たすことで、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識することができるといえるから、本件発明1及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明2、4、7、9~12は、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件発明13は本件発明1、2、4、7のいずれかのポリエステル系フィルムを製造する方法であって、そこに記載された工程(1)及び(2)を含む方法によって本件発明1、2、4、7のいずれかのポリエステルフィルムが製造できることは発明の詳細な説明の【0056】~【0077】に記載され、その方法によって本件発明1、2、4又は7のポリエステルフィルムを製造した具体例が実施例A1~A10、B1~B11として記載されており、それらは上記のとおり本件発明の課題を解決するものである。
そうすると、本件発明13の要件を満たすことで、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるといえるから、本件発明13及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明14、15は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(4)取消理由2、申立理由2の(3)について
取消理由2、申立理由2の(3)の概要は、比較例B3は訂正前の本件発明1、2、4、7、8の要件を満たしているが、本件発明の課題を解決するものではないから、本件発明1、2、4、7、8の要件を満たすだけでは、本件発明の課題を解決できるとはいえない、というものである。
しかし、本件訂正によって、本件発明1の密度の上限値が1.370に限定され、比較例B3(密度1.373)は本件発明1の範囲外となった。
そして、本件発明1、2、4又は7の要件を満たす実施例のポリエステルフィルムは、本件発明の課題を解決できるものであり、本件発明1、2、4又は7の要件を満たすことにより、本件発明の課題を解決できることが理解できる。
よって、取消理由2及び申立理由2の(3)によっては、本件発明1、2、4、7及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明9~12に係る特許を取り消すことはできない。
(5)申立理由2の(1)、(2)について
申立理由2の(1)、(2)の概要は上記第4の1で示したとおりであり、以下、順に検討する。
ア 申立理由2の(1)について
上記(3)で述べたように、本件発明1の構成を有していれば本件発明の課題を解決することができるものと認められるから、上記延伸温度の範囲外であっても、得られた延伸ポリエステルフィルムが本件発明1、2、4、7、9~12の要件を満たすものであれば、本件発明の課題を解決できるといえる。
よって、申立理由2の(1)によっては、本件発明1、2、4、7、9~12に係る特許を取り消すことはできない。
イ 申立理由2の(2)について
発明の詳細な説明には、実施例A10として、1,4-ブタンジオールを含有しない延伸ポリエステルフィルムの製造例が記載されており、そのフィルムは常温でのシール強度(200℃)が4.3N/cmという強度を示すものである。
そして、発明の詳細な説明の【0050】には、「本発明フィルムのシール強度は4.5N/cm以上であることが好ましく」と記載されているものの、あくまでも好ましい範囲にすぎないし、実施例A10は常温でのシール強度(220℃)は5.0N/cmであり、【0050】に記載された好ましい要件を満たしている。また、実施例A10は、常温でのシール強度(200℃)が4.3N/cm、120℃×10日間処理後のシール強度が4.0N/cmであり、比較例A7(常温で4.4N/cm、120℃×10日間処理後で2.8N/cm)と比べても高温環境下で処理した後もシール強度の低下が抑えられているから、「高温環境下で長期間使用してもシール強度を保持することができる」という本件発明の課題を解決することができているものと認められる。
このような実施例A10の記載を考慮すると、本件発明において、1,4-ブタンジオールが必須であるとまではいえない。
よって、申立理由2の(2)によっては、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
(6)申立人の主張について
申立人は、令和6年12月17日に提出した意見書において、申立理由1の(2)に関して、さらに以下の点を主張する。
実施例A10に1,4-ブタンジオールを含まないポリエステル樹脂を用いた例が記載されているが、常温でのシール温度(200℃)は4.3N/cmであり、【0050】には「本発明フィルムのシール強度は・・・4.5N/cm未満では十分なシール強度が得られず」と記載されており、実施例A10のシール強度が不十分であり発明の課題が解決されていないことが分かる。よって、実施例A10は、本件発明において樹脂成分として1,4-ブタンジオールを特定量含有することが必須要件ではないことを示しているわけではない。(意見書の項目(3))
しかし、上記主張については、上記(5)イで述べたとおりであるから、申立人の主張は採用することができない。
(7)取消理由2、申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、取消理由2、申立理由2によっては、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由3(明確性)について
取消理由3は、訂正前の本件発明6及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明7~15は明確性要件を満たさない、というものであるが、本件訂正によって本件発明6は削除された。
よって、取消理由3によっては、本件発明7、9~15に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許は、当審で通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
そして、他に本件発明1、2、4、7、9~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、上記第5のとおり、本件発明3、5、6、8に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700252