特許異議申立
2025-700128
包装材料およびパウチ
- 審判番号
- 2025-700128
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-176243
- 登録番号
- 7532757
- 請求日
- 2025年01月29日
- 審決日
- 2025年09月02日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【異議申立人】青山 裕樹
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 武市 匡紘
- 分類
- P1651.121-Z (B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7532757号発明「包装材料およびパウチ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7532757号の請求項1~6に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7532757号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和元年9月26日の出願であって、令和6年8月5日にその特許権の設定登録がされ、令和6年8月14日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和7年 1月29日 :特許異議申立人青山裕樹(以下「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て
令和7年 3月28日付け:取消理由通知書
令和7年 5月22日 :特許権者による意見書の提出
令和7年 6月17日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 8月12日 :特許権者による意見書(以下「意見書」という。)の提出
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1の二軸延伸プラスチックフィルムと、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、シーラントフィルムとをこの順に備え、または第1の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、シーラントフィルムとをこの順に備える包装材料であって、
前記第1の二軸延伸プラスチックフィルムが、ポリエステルを主成分とし、
前記第2の二軸延伸プラスチックフィルムが、ポリエステルまたはポリアミドを主成分とし、
前記シーラントフィルムが、ポリプロピレンを主成分とし、
前記シーラントフィルムが、ポリプロピレンとしてプロピレン・エチレンブロック共重合体を含む第1の熱可塑性樹脂と、α-オレフィン共重合体またはポリエチレンを含む第2の熱可塑性樹脂と、エラストマーである第3の熱可塑性樹脂とを含み、
前記包装材料中に二軸延伸プラスチックフィルムは2枚のみであり、
25℃の環境下で測定したときの前記包装材料の一方向の破断強度が、82.0MPa以上93.8MPa以下であり、
25℃の環境下で測定したときの前記包装材料の突き刺し強度が、16.0N以上である、包装材料。
【請求項2】
前記シーラントフィルムの前記一方向における引張伸度(%)と厚さ(μm)の積が、50000を越える、請求項1に記載の包装材料。
【請求項3】
前記シーラントフィルムの前記一方向と直交する方向における引張伸度(%)と厚さ(μm)の積が、55000を越える、請求項1または2に記載の包装材料。
【請求項4】
前記第1の二軸延伸プラスチックフィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであり、前記第2の二軸延伸プラスチックフィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムまたは二軸延伸ナイロンフィルムである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の包装材料を含む、パウチ。
【請求項6】
前記パウチの収容空間に内容物が収容されている、請求項5に記載のパウチ。」
第3 取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の請求項1~6に係る発明に対して、当審が特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
1.(進歩性)本件特許の請求項1~6に係る発明は甲第1号証、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。
証拠一覧
甲第1号証:特開2018-87028号公報
甲第2号証:特開2019-151342号公報
参考文献1:特開2022-7962号公報
以下、甲第1号証等を「甲1」等という。
第4 当審の判断
当審合議体は、意見書の内容もふまえて合議を行い、検討の結果、周知例として特開2019-1149号公報(以下「引用文献2」という。)を加え、以下のとおり本件発明は当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明は取り消すべきものであると判断する。
1 甲1発明、甲2記載事項、技術常識、周知技術
(1)甲1発明
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与し、・・・は省略を示す(以下同様)。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の易開封袋によると、高齢者等が傷痕群を容易に視認できないため、傷痕群から離れた位置を摘持して開封を開始する場合がある。この時、周縁シール部の外縁上で前後に引き裂く力が分散して傷痕群に加わる力が小さくなり、傷痕群から容易に開封を開始できない問題があった。このため、より小さい力で容易に開封できる易開封袋が望まれている。
【0006】
本発明は、容易に開封できる易開封袋及びその梱包体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、基材層の内面側に熱接着性樹脂層を配した積層体により形成され、周縁に前記積層体を熱接着した周縁シール部を有する易開封袋において、前記周縁シール部の左右端の所定箇所に左右方向に延びた複数の線状の切込みから成る傷痕群を設け、前記傷痕群が前記周縁シール部の外縁から内縁に向かって先細り状に形成されるとともに、前記外縁上から延びる複数の前記切込みを上下に並設した第1段と、上下に並設される複数の前記切込みを前記第1段よりも前記内縁側に配した第2段とを有し、前記第1段の前記切込みの左右方向の長さが前記第2段の前記切込みの左右方向の長さよりも長いことを特徴としている。」
・「【0017】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は第1実施形態の易開封袋の正面図を示している。易開封袋1は上端に開口部1aを有する三方シール袋から成り、食品、薬剤等の包装袋に用いられる。
【0018】
易開封袋1は積層体30(図2参照)により形成された2枚のシート2の三方の周縁を周縁シール部10により熱接着して形成される。対向する左右端の周縁シール部10の上部には易開封袋1の上端から所定距離下方の所定位置に複数の切込み25から成る傷痕群20が設けられる。
【0019】
図2はシート2を形成する積層体30の断面図を示している。積層体30は外面側から順に基材層31、中間層32、バリア層33、熱接着性樹脂層34を積層して形成される。基材層31として、2軸延伸ポリプロピレンフイルム、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルム、2軸延伸ナイロンフイルム等の2軸延伸フイルムを用いることができる。また、基材層31として延伸方向を左右方向に配した一軸延伸フィルムを用いてもよい。これにより、左右方向の引き裂き直進性を向上することができる。
【0020】
中間層32として、上記の各2軸延伸フイルム等を用いることができる。バリア層33はガスバリア性を有し、アルミニウム箔等の金属箔を用いることができる。
【0021】
熱接着性樹脂層34は熱接着性を有し、2枚のシート2の熱接着性樹脂層34を熱接着して周縁シール部10が形成される。熱接着性樹脂層34として、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン-αオレフイン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン等の樹脂を用いることができる。」
・「【実施例1】
【0057】
実施例1は第1実施形態の易開封袋1により形成される。積層体30の基材層31は厚み12μmのポリエチレンテレフタレートから成っている。中間層32は厚み15μmの二軸延伸ナイロン(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、ボニールQC)から成っている。バリア層33は厚み7μmのアルミニウム箔から成っている。熱接着性樹脂層34は厚み60μmの無延伸ポリプロピレン(東レフィルム加工(株)製、トレファン(登録商標)NO ZK99S)から成っている。
・・・
【実施例2】
【0059】
実施例2は実施例1と熱接着性樹脂層34が異なり、その他は実施例1と同一である。積層体30の熱接着性樹脂層34は厚み60μmの無延伸ポリプロピレン(オカモト(株)製、NewExp-rt)から成っている。この積層体30を後述する表1において「B」と表記している。実施例2の熱接着性樹脂層34はエラストマを含有し、実施例1の熱接着性樹脂層34よりも粘性が大きくなっている。」
・「【図1】
[図:0001429027000001.jpg]
【図2】
[図:0001429027000002.jpg]
」
イ 甲1発明
上記アより、特に実施例2に着目すると、甲1には以下の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「積層体30により形成された易開封袋1であり、
積層体30は外面側から順に基材層31、中間層32、バリア層33、熱接着性樹脂層34を積層して形成され、
積層体30の基材層31は厚み12μmのポリエチレンテレフタレートから成り、中間層32は厚み15μmの二軸延伸ナイロン(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、ボニールQC)から成り、バリア層33は厚み7μmのアルミニウム箔から成り、エラストマを含有する熱接着性樹脂層34は厚み60μmの無延伸ポリプロピレン(オカモト(株)製、NewExp-rt)から成る、易開封袋1。」
(2)甲2の記載事項
ア 甲2には、以下の記載がある。
・「【0016】
図1は、本実施の形態による袋10を示す正面図である。袋10は、内容物を収容する収容部17を備える。なお、図1においては、内容物が収容される前の状態の袋10が示されている。本実施の形態による袋10は、電子レンジによって内容物が加熱される電子レンジ用パウチとして好適に使用することができるよう構成されている。」
・「【0067】
(シーラント層)
・・・
【0076】
好ましくは、シーラント層70は、プロピレン・エチレンブロック共重合体を含む単層のフィルムである。例えば、シーラント層70を含むシーラントフィルムは、プロピレン・エチレンブロック共重合体を主成分とする単層の未延伸フィルムである。プロピレン・エチレンブロック共重合体を用いることにより、シーラントフィルムの耐衝撃性を高めることができ、これにより、落下時の衝撃により袋10が破袋してしまうことを抑制することができる。また、積層体30の耐突き刺し性を高めることができる。
・・・
【0080】
単層のシーラントフィルムは、プロピレン・エチレンブロック共重合体からなる第1の熱可塑性樹脂に加えて、第2の熱可塑性樹脂を更に含んでいてもよい。第2の熱可塑性樹脂としては、α-オレフィン共重合体、ポリエチレンなどを挙げることができる。α-オレフィン共重合体は、例えば直鎖状低密度ポリエチレンである。ポリエチレンの例としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンを挙げることができる。第2の熱可塑性樹脂は、シーラントフィルムの耐衝撃性を高めることに寄与し得る。
・・・
【0087】
また、シーラント層70は、熱可塑性エラストマーを更に含んでいてもよい。熱可塑性エラストマーを用いることにより、シーラント層70の耐衝撃性や耐突き刺し性を更に高めることができる。」
・「【0094】
プロピレン・エチレンブロック共重合体を含む単層のシーラントフィルムのタイプとしては、主に2つのタイプが考えられる。
第1は、後述するZK500のような、高い引張伸度を有し、耐衝撃性を備えるタイプである。第1のタイプのシーラントフィルムは、好ましくは、熱間シール強度が低いという特性も更に備える。これにより、袋10の加熱時に収容部17の内圧が過大になることを抑制することができ、積層体30にダメージが生じることを抑制することができる。・・・
【0095】
流れ方向(MD)における第1のタイプのシーラントフィルムの引張伸度(%)とシーラントフィルムの厚み(μm)の積は、好ましくは45000以上であり、より好ましくは50000以上であり、55000以上、又は60000以上であってもよい。また、垂直方向(TD)における第1のタイプのシーラントフィルムの引張伸度(%)とシーラントフィルムの厚み(μm)の積は、好ましくは53000以上であり、より好ましくは60000以上である。シーラントフィルムが高い引張伸度を有することにより、落下時の衝撃などにより袋10が破袋してしまうことを抑制することができる。・・・」
・「【0114】
また、本実施の形態によれば、上述のように、積層体30が少なくとも2つの延伸プラスチックフィルム40,50を備える。このため、積層体30及び積層体30によって構成された袋10に耐突き刺し性を持たせることができる。積層体30の突き刺し強度は、14N以上であることが好ましく、16N以上であることがより好ましく、17N以上であることがさらに好ましく、18N以上であることが特に好ましい。」
・「【0121】
(実施例1)
第1延伸プラスチックフィルム40として、16μmの厚みを有する延伸PETフィルムを準備した。また、第2延伸プラスチックフィルム50として、12μmの厚みを有し、且つ流れ方向(MD)における引き裂き性を有する延伸PETフィルムを準備した。以下の説明において、流れ方向(MD)における引き裂き性を有する延伸PETフィルムのことを、直進カットPETとも称する。直進カットPETとしては、ユニチカ株式会社製のエンブレット(登録商標)PCを用いた。また、シーラント層70を構成するためのフィルムとして、東レフィルム加工株式会社製の未延伸ポリプロピレンフィルム ZK500を準備した。ZK500は、上述のプロピレン・エチレンブロック共重合体及びエラストマーを含む。シーラント層70の厚みは60μmであった。
・・・
【0123】
ZK500は、一般的な未延伸ポリプロピレンフィルムに比べて高い引張伸度を有する。具体的には、流れ方向(MD)におけるZK500の引張伸度は、厚みが50μmの場合に1180%であり、厚みが60μmの場合に1100%である。また、垂直方向(TD)におけるZK500の引張伸度は、厚みが50μmの場合に1240%であり、厚みが60μmの場合に1150%である。従って、流れ方向におけるZK500の引張伸度(%)と厚み(μm)の積は、厚みが50μmの場合に59000であり、厚みが60μmの場合に66000である。また、垂直方向におけるZK500の引張伸度(%)と厚み(μm)の積は、厚みが50μmの場合に62000であり、厚みが60μmの場合に69000である。」
・「【0128】
〔引き裂き性の評価〕
続いて、シーラント層70を介して接合した2枚の積層体30を、図10に示すように、幅W1が15mm、長さW2が100mmとなるように切り出して、試験片110を作製した。試験片110の幅W1の方向は、図1に示す第2方向D2に平行である。また、試験片110の長さW2の方向は、第2延伸プラスチックフィルム50を成膜する際の流れ方向(MD)に平行であり、また、図1に示す第1方向D1に平行である。続いて、図10に示すように、試験片110の幅W1の方向における中央に切れ込み28を形成した。続いて、切れ込み28を起点として、長さW2の方向において試験片110を手で引き裂いた。結果、途中で積層体30のシーラント層70が伸びることなく、試験片110を長さW2の方向で引き裂くことができた。」
・「【0129】
(実施例2)
第1延伸プラスチックフィルム40として、ポリアミドを主成分として含み、15μmの厚みを有する延伸プラスチックフィルムを用いたこと以外は、実施例1の場合と同様にして、積層体30を作製した。第1延伸プラスチックフィルム40としては、具体的には、厚み2μmのPETからなる第1層41、厚み11μmのナイロン-6からなる第2層42、および厚み2μmのPETからなる第3層43を含み、共押し出しによって作製された共押しフィルムを用いた。
・・・
【0132】
(実施例3)
第1延伸プラスチックフィルム40として、12μmの厚みを有する延伸PETフィルムを用い、第2延伸プラスチックフィルム50として、ポリアミドを、具体的にはナイロンを主成分として含み、15μmの厚みを有し、且つ、流れ方向(MD)における引き裂き性を有する延伸プラスチックフィルムを用いたこと以外は、実施例1の場合と同様にして、積層体30を作製した。以下の説明において、流れ方向(MD)における引き裂き性を有する延伸ナイロンフィルムのことを、直進カットナイロンとも称する。直進カットナイロンとしては、興人フィルム&ケミカルズ株式会社製のボニールCLを用いた。」
・「【0145】
実施例1~4と比較例1の比較から分かるように、シーラント層70に隣接する第2延伸プラスチックフィルム50として、流れ方向(MD)における引き裂き性を有する延伸プラスチックフィルムを用いることにより、積層体30を引き裂く際にシーラント層70が伸びてしまうことを抑制することができた。なお、引き裂き性に関して、実施例1~3においては、試験片110を長さW2の方向で全域にわたってスムーズに引き裂くことができたので、評価結果を「good」とした。・・・」
・「【図11】
[図:0001429027000003.jpg]
」
イ 甲2記載事項
上記アより、甲2には以下の事項が記載されている(以下「甲2記載事項1」等という。)。
・「シーラント層70は単層のフィルムであり、プロピレン・エチレンブロック共重合体からなる第1の熱可塑性樹脂と、α-オレフィン共重合体、ポリエチレンなどの第2の熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーを含んでもよく、これらを含むことで、耐衝撃性や耐突き刺し性を高めることができること。」(甲2記載事項1)
・「電子レンジ用パウチとして使用される袋10は、耐衝撃性を高めることにより、落下時の衝撃により袋10が破袋してしまうことを抑制することができるとともに、耐突き刺し性を高めることができること。」(甲2記載事項2)
・「東レフィルム加工株式会社製の未延伸ポリプロピレンフィルム ZK500(以下「ZK500」という。)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体及びエラストマーを含み、厚みが60μmの場合、流れ方向(MD)における引張伸度は1100%であり、垂直方向(TD)における引張伸度は1150%であること。」(甲2記載事項3)
・「積層体30の突き刺し強度として、16N以上であることがより好ましいこと。」(甲2記載事項4)
また、甲2の段落【0076】、【0087】、【0094】、及び甲2記載事項3より以下の事項が把握できる。
・「ZK500はプロピレン・エチレンブロック共重合体及びエラストマーを含むことから、耐衝撃性及び耐突き刺し性が高いシーラントフィルムであること。」(甲2記載事項5)
(3)技術常識
ア 参考文献1には、以下の記載がある。
・「【0217】
上記のようにして形成したバリアコート層上に、シーラント層として、厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、ZK500、融点164℃、プロピレン-エチレンブロックコポリマー、ポリエチレン、及び熱可塑性エラストマー含有)をポリウレタン接着剤(三井化学(株)製、タケラックA-969V/タケネートA-5(配合比3/1))を介してドライラミネートし、40℃にて24時間静置し、本発明の積層体を得た。なお、ポリウレタン接着剤により形成される接着層の厚さは、1μmであった。 積層体におけるポリプロピレンの含有量は、92質量%であった。」
イ 本件発明において第1~第3の熱可塑性樹脂を含むシーラントフィルムとして、いずれの実施例においてもZK500を採用していることや、本件特許の出願時から上記参考文献1の公開時までの間にZK500の成分が変更された等の特段の事情は認められないことを踏まえれば、上記アより、以下の事項は本件特許の出願時点において技術常識(以下「技術常識」という。)であるといえる。
・「ZK500は、プロピレン-エチレンブロックコポリマー、ポリエチレン、及び熱可塑性エラストマーを含有していること。」
(4)周知技術
ア 引用文献2には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第1基材層と、第2基材層と、シーラント層とをこの順に備える積層体であって、
前記第1基材層は、バイオマス由来のエチレングリコールをジオール単位とし、化石燃料由来のテレフタル酸をジカルボン酸単位とするポリエチレンテレフタレートを含み、
前記第2基材層は、ポリアミド又はポリブチレンテレフタレートを含む、積層体。
・・・
【請求項3】
前記第1基材層と前記第2基材層との間、又は前記第2基材層と前記シーラント層との間に位置し、無機物を含むバリア層を更に備える、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項 4】
前記バリア層は、金属箔を含む、請求項3に記載の積層体。」
・「【0054】
[シーラント層]
・・・
【0055】
シーラント層を構成する材料の融点は、150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。シーラント層の融点を高くすることにより、包装袋のレトルト処理を高温で実施することが可能になり、このため、レトルト処理に要する時間を短くすることができる。なお、シーラント層を構成する材料の融点は、第1基材層や第2基材層などの基材層を構成する樹脂の融点より低い。
【0056】
好ましくは、シーラント層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体を含む。例えば、シーラント層を構成するフィルムは、プロピレン・エチレンブロック共重合体を主成分とする無延伸フィルムである。プロピレン・エチレンブロック共重合体を用いることにより、シーラント層の耐衝撃性を高めることができ、これにより、落下時の衝撃により包装袋が破袋してしまうことを抑制することができる。また、積層体の耐突き刺し性を高めることができる。
【0057】
また、シーラント層は、熱可塑性エラストマーを更に含んでいてもよい。熱可塑性エラストマーを用いることにより、シーラント層の耐衝撃性や耐突き刺し性を更に高めることができる。」
イ 上記アより、以下の事項は周知の事項(以下「周知技術」という。)であるといえる。
・「レトルト処理に用いられる金属箔を有する包装体において、シーラント層にプロピレン・エチレンブロック共重合体や熱可塑性エラストマーを含ませることで、耐衝撃性や耐突き刺し性を高めること。」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「二軸延伸ナイロン(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、ボニールQC)から成」る「中間層32」は、本件発明1の「第2の二軸延伸プラスチックフィルム」に相当し、以下同様に、
「アルミニウム箔から成」る「バリア層33」は、「金属箔層」に、
「無延伸ポリプロピレン(オカモト(株)製、NewExp-rt)から成る」「熱接着性樹脂層34」は、「シーラントフィルム」に、
「易開封袋1」は、「包装材料」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「ポリエチレンテレフタレートから成」る「基材層31」と、本件発明1の「第1の二軸延伸プラスチックフィルム」とは、「第1のプラスチックフィルム」の限りで一致する。
甲1発明は、「積層体30は外面側から順に基材層31、中間層32、バリア層33、熱接着性樹脂層34を積層して形成され」ているから、甲1発明の「易開封袋1」と、本件発明1の「第1の二軸延伸プラスチックフィルムと、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、シーラントフィルムとをこの順に備え」る「包装材料」とは、「第1のプラスチックフィルムと、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、シーラントフィルムとをこの順に備え」る「包装材料」の限りで一致する。そして、甲1発明の「易開封袋1」と、本件発明1の「包装材料」とは、少なくとも「第1のプラスチックフィルムと、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、シーラントフィルムとをこの順に備え」る点で一致していることから、甲1発明の「易開封袋1」は、本件発明1の「第1のプラスチックフィルムと、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、シーラントフィルムとをこの順に備え、または第1のプラスチックフィルムと、金属箔層と、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、シーラントフィルムとをこの順に備える包装材料」の点で一致する。
甲1発明の「基材層31」は、「ポリエチレンテレフタレートから成」るから、「ポリエステルを主成分と」するものである。
甲1発明の「中間層32」は、「二軸延伸ナイロン(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、ボニールQC)から成」るから、「ポリエステルまたはポリアミドを主成分と」するものである。
甲1発明の「熱接着性樹脂層34」は、「無延伸ポリプロピレン(オカモト(株)製、NewExp-rt)から成る」から、「ポリプロピレンを主成分と」するものである。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「第1のプラスチックフィルムと、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、シーラントフィルムとをこの順に備え、または第1のプラスチックフィルムと、金属箔層と、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、シーラントフィルムとをこの順に備える包装材料であって、
前記第1のプラスチックフィルムが、ポリエステルを主成分とし、
前記第2の二軸延伸プラスチックフィルムが、ポリエステルまたはポリアミドを主成分とし、
前記シーラントフィルムが、ポリプロピレンを主成分とする、包装材料。」
[相違点]
[相違点1]
第1のプラスチックフィルムに関し、本件発明1は「二軸延伸」されたプラスチックフィルムであるのに対し、甲1発明では、ポリエチレンテレフタレートから成る基材層31は二軸延伸されたものであるか否か不明な点。
[相違点2]
延伸フィルムに関し、本件発明1は「前記包装材料中に二軸延伸プラスチックフィルムは2枚のみであ」るのに対し、甲1発明では、厚み15μmの二軸延伸ナイロン(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、ボニールQC)である中間層32以外に延伸フィルムを有しているか不明な点。
[相違点3]
シーラントフィルムに関し、本件発明1は「前記シーラントフィルムが、ポリプロピレンとしてプロピレン・エチレンブロック共重合体を含む第1の熱可塑性樹脂と、α-オレフィン共重合体またはポリエチレンを含む第2の熱可塑性樹脂と、エラストマーである第3の熱可塑性樹脂とを含」むのに対し、甲1発明では、熱接着性樹脂層34はエラストマを含有する無延伸ポリプロピレンから成る点。
[相違点4]
包装材料に関し、本件発明1は「25℃の環境下で測定したときの前記包装材料の一方向の破断強度が、82.0MPa以上93.8MPa以下であり、25℃の環境下で測定したときの前記包装材料の突き刺し強度が、16.0N以上である」のに対し、甲1発明では、一方向の破断強度と突き刺し強度が不明な点。
(2)判断
上記各相違点について判断する。
ア 相違点1、2について
相違点1と相違点2は関連するものであるため、まとめて検討を行う。
甲1には、基材層31として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルムを用いることが記載されている(段落【0019】)。
甲1発明において、甲1の記載に基づいて、基材層31に用いるポリエチレンテレフタレートとして、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートを用いることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、基材層31として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートを採用した場合、易開封袋1が有する延伸プラスチックフィルムは、基材層31と中間層32の2枚のみである。
イ 相違点3について
甲1発明の易開封袋1は食品や薬剤等の包装袋であり、食品の包装袋において、耐衝撃性や耐突き刺し性が求められることは、甲2記載事項2にも示すように、当業者にとって自明な事項である。
すると甲1発明において、耐衝撃性や耐突き刺し性を高めるために、熱接着性樹脂層34として、エラストマを含有する「無延伸ポリプロピレン(オカモト(株)製、NewExp-rt)」を用いることに換え、甲2記載事項5のように、耐衝撃性及び耐突き刺し性が高いシーラントフィルムとして知られている、プロピレン・エチレンブロック共重合体及びエラストマーを含むZK500を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、上記1(3)イで示した技術常識を踏まえると、ZK500は、第2の熱可塑性樹脂であるポリエチレンを含んでいるといえる。
ウ 相違点4について
(ア)本件発明の包装材について
本件発明の明細書の実施例1(段落【0103】)では、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名「E5100」、東洋紡株式会社製)、厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)、厚さ7μmのアルミニウム箔、厚さ60μmのZK500をこの順に積層した包装材料であり、段落【0118】、【表1】の評価結果では、実施例1の包装材料のX方向の破断強度は92.3MPa、Y方向の破断強度は82.5MPaであり、突き刺し強度は18.4Nである。なお、本件発明の実施例1では印刷層や接着剤層を有しているが、破断強度や突き刺し強度へ与える影響は軽微と考えられるため、これらの層の有無により以下の判断は左右されない。
(イ)上記ア、イを踏まえると、甲1発明において、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートとZK500を採用することは当業者にとって容易想到であるところ、その場合、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート、厚さ15μmの二軸延伸ナイロン(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、ボニールQC)、厚さ7μmのアルミニウム箔、厚さ60μmのZK500をこの順に積層した易開封袋1となり、そうすると二軸延伸ポリエチレンテレフタレートを除き、それ以外は本件発明の実施例1と同じ素材、同じ厚みのフィルムが用いられていることになる。
すると、甲1発明において二軸延伸ポリエチレンテレフタレートとZK500を採用したものも、本件発明の実施例1と同様の破断強度や突き刺し強度を備える蓋然性が高いといえる。
(ウ)仮に、破断強度や突き刺し強度が、本件発明の実施例1の値と異なるとしても、甲2記載事項4のように、突き刺し強度として16N以上となるように、各フィルムの厚み等を調整することは、当業者が容易になし得たことである。
また、耐衝撃性や耐突き刺し性だけでなく、破断強度が大きい方が好ましいことは明らかであり、各フィルムの厚さ等を調整することで、破断強度として、82.0MPa以上93.8MPa以下となるようにすることは、当業者が適宜設計すべき事項である。
エ 相違点についてのまとめ
本件発明1の奏する作用効果は、甲1発明及び甲2記載事項2、4、5の奏する作用効果から予測される範囲内のものであり、格別顕著なものということはできない。
よって、本件発明1の上記相違点に係る構成は、甲1発明及び甲2記載事項2、4、5に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。
オ 特許権者の意見について
(ア)特許権者は意見書において、「甲1の無延伸ポリプロピレン(オカモト(株)製、NewExp-rt)を甲2のZK500に代えることは、以下の点から後知恵であるものと思料します。
まず、甲1発明においては、無延伸ポリプロピレンにポリエチレンを含ませることについて、明らかにされておらず、また何ら言及していません。
次に、甲1発明の易開封袋においては、バリア層として、アルミニウム箔を含んでいます。アルミニウム箔を含んでいると、電子レンジで加熱したときに火花が発生するおそれがありますので、甲1発明の易開封袋は、電子レンジでは使用できない仕様となっています。これに対し、甲2は、電子レンジでの使用を前提としたものでありますので、蒸気抜き機構を備えるものであり、またアルミニウム箔を含まないものであります。甲1発明の易開封袋の破断強度は、厚み12μmのポリエチレンテレフタレートと厚み15μm二軸延伸ナイロンの基材2層に加えてアルミニウム箔を含んでいるので、電子レンジでの使用を目的としたアルミニウム箔のような金属箔を含まない袋の破断強度よりも大きくなります。ここで、甲1発明の易開封袋は、アルミニウム箔を含んでいますが、甲1には、アルミニウム箔のような金属箔を含む袋において、袋の機械的強度を向上させて、袋が落下したときの破袋を抑制することについては、何ら考慮されておらず、また、甲2も、電子レンジでの使用を前提としていますので、アルミニウム箔のような金属箔を含む袋のみならず、アルミニウム箔のような金属箔を含む袋において、袋の機械的強度を向上させて、袋が落下したときの破袋を抑制することについては、何ら考慮されていません。・・・
したがって、たとえ、甲2において、ZK500が高い引張伸度を有し、耐衝撃性を有することが開示されていたとしても、本件特許発明に想到するためには、第1の二軸延伸プラスチックフィルムと、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、シーラントフィルムとをこの順に備え、または第1の二軸延伸プラスチックフィルムと、金属箔層と、第2の二軸延伸プラスチックフィルムと、シーラントフィルムとをこの順に備える包装材料において、機械的強度を高め、かつピンホールの発生を抑制するという課題を設定した上で、当該課題を解決するための新たな試行錯誤が必要となるのであって、甲1において、エラストマーを含み、かつ厚み60μmの無延伸ポリプロピレン(オカモト(株)製、NewExp-rt)を用いることに換え、甲2の東レフィルム加工株式会社製の未延伸ポリプロピレンフィルムであるZK500を採用することは当業者が容易になし得たことであるとする審判官の主張は、特許法審査基準「第III部 第2章 第2節 進歩性」の「3.3 進歩性の判断における留意事項」に記載されている(ii)引用発明の認定の際に、請求項に係る発明に引きずられてしまうことに該当し、本件特許に係る発明を知得した上での後知恵にほかならないものであります。」(意見書第3ページ第12行~第4ページ第14行)と主張する。
(イ)上記1(4)イで示した周知技術を踏まえると、レトルト処理に用いられる金属箔を有する包装体において、耐衝撃性や耐突き刺し性等の機械的強度を高めることは周知の課題である。すると、包装体の耐衝撃性や耐突き刺し性等を高めることは、甲2記載事項2のような電子レンジ用パウチ特有の課題ではなく、周知技術として示されるようにレトルト処理に用いられる包装体であっても当然求められる特性である。
したがって、甲1には、金属箔を含む袋において、機械強度を向上させることが記載されていないからといって、甲1発明で機械的強度を向上させることが考慮されていないとの特許権者の主張を採用することはできない。
また、甲2記載事項1や周知技術に示すように、シーラント層が含有する組成物を調整することで、耐衝撃性や耐突き刺し性を調整することも、本件出願時に広く知られていたことを踏まえると、包装体の機械的強度を高めるために、シーラント層の組成を調整することは、当業者が通常行うことにすぎず、そのような課題を解決するための新たな試行錯誤が必要との特許権者の主張は採用することはできない。
3 本件発明2、3について
甲2記載事項3のように、厚さ60μmのZK500の流れ方向(MD)における引張伸度は1100%であり、垂直方向(TD)における引張伸度は1150%であることから、その積はそれぞれ、66000と69000である。
したがって、本件発明2、3は甲1発明及び甲2記載事項2~5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 本件発明4について
上記2(2)で検討したように、甲1発明の基材層31として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートを採用した場合、甲1発明は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートと、二軸延伸ナイロン(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、ボニールQC)を有するものである。
したがって、本件発明4は甲1発明及び甲2記載事項2~5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 本件発明5、6について
甲1発明の易開封袋1は内容物を収容するパウチである。
したがって、本件発明5、6は甲1発明及び甲2記載事項2~5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 小括
上記2~5より、本件発明1~6は、甲1発明及び甲2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700128