特許異議申立
2025-700740
高アルコールビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2025-700740
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-066194
- 登録番号
- 7618389
- 請求日
- 2025年07月18日
- 審決日
- 2026年01月07日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【異議申立人】山▲崎▼ 浩一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 植前 充司
- 審判官 宮久保 博幸
- 分類
- P1651.121-Y (C12G) / P1651.537-Y (C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7618389号発明「高アルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7618389号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7618389号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年4月1日を出願日とする出願であって、令和7年1月10日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月18日に特許異議申立人 山崎 浩一郎(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし4)がされ、同年10月31日に特許異議申立人より特許異議申立書に対する手続補正書(方式)が提出されたもの(以下、手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書のことを「異議申立書」という。)である。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
クエン酸及びフェネチルアルコールを含有し、
クエン酸の含有量が、270mg/L以上1100mg/L以下であり、
フェネチルアルコールの含有量が、40mg/L以上180mg/L以下であり、
アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、高アルコールビールテイスト飲料。
【請求項2】
クエン酸の含有量が、470mg/L以上900mg/L以下であり、
フェネチルアルコールの含有量が、60mg/L以上140mg/L以下である、請求項1に記載の高アルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である高アルコールビールテイスト飲料に、クエン酸を270mg/L以上1100mg/L以下含有させること、及びフェネチルアルコールを40mg/L以上180mg/L以下含有させること、を含む、アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である高アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である高アルコールビールテイスト飲料に、クエン酸を270mg/L以上1100mg/L以下含有させること、及びフェネチルアルコールを40mg/L以上180mg/L以下含有させること、を含む、アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である高アルコールビールテイスト飲料に果実様のジューシー感を付与する方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由2の具体的理由は、次のとおりである。
(1) 香気成分について
甲第14号証には、ビールの香気が多様な成分の複雑なバランスによって形成されていることが示されている。詳細には、甲第14号証には、既に特定されているビールの76種類の香気成分のうち大多数を占める知覚閾値以下の成分についての相互作用を検討したことが記載されており、香気成分をA,B,Cの3グループに分けてそれらを組み合わせてビールに近い味わいを再現できるかを検討している。該検討では、グループA((Odor Activity Value(OAV:濃度÷閾値)というビール中に知覚閾値の何倍の濃度で含まれるかを評価する値に注目し、この値が高く、ビールの香気に対する寄与度が高いと推定されるグループ)と、グループAの官能評価で著しく欠損していた「麦芽/穀物」の香気に寄与する成分を探索して新たに同定した24種類の香気成分からなるグループB、グループCとして残りの27種類のビールの香りも想起させない香気成分に区分して検討がされている。グループA単独での香味は非常にバランスが悪く、グループAに、グループBまたはCのいずれかを組み合わせても香味バランスが改善せず、他方A,B,Cを全て組み合わせたところ、香気の特徴は大幅に改善し、対照ビールと比較した類似度も大幅に上昇したことが記載されている。そして、「単独では香味に寄与しない50種以上の成分(閾値以下の成分、ビールの香りを想起させない香気成分を含む)の相乗的な寄与が、Group Aの突出した香りと釣り合いながらバランスをとることによつて、ビールの香りの‘構造’を完成させている」と記載されている。つまり、甲第14号証には、ビール中の多種多様な微量成分が互いにバランスを取りながら全体の香りを形成しており、特に、グループBやCの微量の有機酸やエステルが、グループAの香気成分に大きく影響を与え相乗的に寄与することでビールの香りを構成することが示されている。
そうすると、フェネチルアルコール等の香気成分のビール香気に与える影響は、他の有機酸やエステル他の香気成分とのバランスによって決まることから、他の成分の組成次第ではフェネチルアルコールの濃度変化に対するビールの風味変化の特性も大きく変わってくることが明らかである。言い換えれば、ビールの風味である「アルコール感」、「甘味」、「飲みやすさ」などの官能評価が、フェネチルアルコールの濃度だけでなく、共在する他の有機酸やエステル他の香気成分の組成によつて大きく変わってくることがこの甲第14号証により示唆されている。したがって、フェネチルアルコール以外のエステルやクエン酸以外の有機酸の組成によつて、フェネチルアルコールの濃度の変化による「アルコール感」、「甘味」、「飲みやすさ」の評点の変動に対する影響が打ち消される可能性があることは、出願時において当業者の技術常識といえるため、本件特許明細書の実施例で示された官能評価の結果は、当該実施例で用いた特定の市販のビールテイスト飲料をベース飲料として用いた場合についてのみいえるものである。
したがって、本件特許発明により課題が解決できることが発明の詳細な説明に記載されていない。
(2) アルコール度数の範囲について
本件特許明細書の参考例1(ベース液、アルコール度数5v/v%)と参考例2(ベース液にクエン酸、フェネチルアルコールを添加、アルコール度数5v/v%)とを比較すると、クエン酸およびフェネチルアルコールを添加したことによリアルコールの辛さが悪化し、飲みやすさが低下している。すなわち、アルコール度数5v/v%では、クエン酸およびフェネチルアルコールの添加は風味に必ずしも良い影響を与えていない。
他方、アルコール度数10v/v%の試験例2~7では、クエン酸の濃度を変えた場合に624mg/Lをピークとしてアルコールの辛さは低減し飲みやすさが向上している。そして、同じくアルコール度数5v/v%の試験例8~12では、そのクエン酸濃度が624mg/Lの場合においてフェネチルアルコールの濃度を変えた場合に100mg/Lをピークとして、アルコールの幸さは低減し飲みやすさが向上している。
これらの結果から、アルコール度数を5v/v%から10v/v%に変えることで、クエン酸及びフェネチルアルコールの濃度変化が風味に与える影響は大きく異なることがわかる。
また、甲第2号証に開示される如くクエン酸は果実のジューシー感に寄与する成分であるところ、参考例1と参考例2(アルコール度数5v/v%)、試験例2と試験例5(アルコール度数10v/v%)をそれぞれ比較すると、クエン酸を同じ濃度(624mg/L)まで上げたときにアルコール度数10v/v%のほうがよリジューシー感の向上の程度が大きくなっている。
以上のように、アルコール度数が5v/v%から10v/v%に変わることで、クエン酸やフェネチルアルコールの濃度変化による風味特性が変わることから、アルコール度数を20v/v%としたときの風味特性がアルコール度数10v/v%の場合と同様であると当然に推測することはできない。
また、仮にアルコール度数が10v/v%から20v/v%に変わったときに、5v/v%から10v/v%に変わったときと同様にクエン酸やフェネチルアルコールがアルコールの辛さの低減や飲みやすさ又はジューシー感の向上の程度が大きくなると当業者が推測したとしても、クエン酸又はフェネチルアルコールの濃度が風味に与える影響の増大の程度が不明であることから、本件特許発明で規定される濃度範囲が課題を解決できる範囲に合致すると当然に推認することはできない。
したがって、本件特許の明細書に示されるアルコール度数10v/v%の実施例による結果を、20v/v%の範囲まで拡張することができるとはいえないから、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
また、本件特許明細書の参考例1(ベース液、アルコール度数5v/v%)と試験例1(ベース液にスピリッツを添加して+5v/v%に調整したアルコール度数10v/v%)とは、アルコール度数のみが異なるところ、両者の官能評価を比較すると、アルコール度数を上げるとそれに伴い不快なアルコール感を増強し、甘みが低減され、飲みやすさが劣ることがわかる。また、アルコール度数の変化はアルコールの含有量の変化に依存するから、アルコール度数20v/v%に調整した場合は、10v/v%のときよりも当然にアルコール感が一層強く感じられると想定される。そうすると、アルコール度数が大きくなった場合は、これによるアルコール感の増強による甘味及び飲みやすさへの悪影響も大きくなるところ、これを打ち消すために必要となるクエン酸やフェネチルアルコールを如何なる量で添加すればよいのか本件特許明細書からは理解することができない。そうすると、実施例のアルコール度数10v/v%の2倍の20v/v%にアルコール量を増やしたときに所望の効果を期待できるとは到底言えず、仮に効果が得られるとしてもせいぜい2倍未満、例えば本願明細書の段落0014に記載される15v/v%が本件特許発明におけるアルコール度数の上限になると推測される。
したがって、やはり、本件特許の明細書に示されるアルコール度数10v/v%の実施例による結果を、20v/v%の範囲まで拡張することができるとはいえないから、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
3 証拠方法
・甲第1号証:BRAUINDUSTRIE, Vol.80, April 1995, pp.296-297
・甲第2号証:“A1103 - Citric & Lactic Acids as Food Additives in Beer and Related Products”, Supporting document 1 Risk and Technical Assessment Report, FOOD STANDARDS Australia New Zealand, 5 September 2015, pp.1-8
・甲第3号証:W. J. KLOPPER et al.,“ORGANIC ACIDS AND GLYCEROL IN BEER”, J. Inst. Brew., Vo.92 (1986), pp.225-228
・甲第4号証:Morten C. Meilgaard, “Prediction of Flavor Differences between Beers from Their Chemical Composition”, JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY, American Chemical society, Vol.30 (1982), No.6, pp.1009-1017 and Pages of Supporting information
・甲第5号証:徳田宏晴 他、「日本の地ビールの品質特性とその変遷」、東京農業大学農学集報、東京農業大学、第57巻(2012年)、第2号、第126頁-第137頁
・甲第6号証:Sylvester Holt et al., “The molecular biology of fruity and floral aromas in beer and other alcoholic beverages”, FEMS microbiology Reviews, Vol.43, No.3, 2018.11.15, pp.193-222
・甲第7号証:Peter Schieberle, “Primary odorants of pale lager beer”, Z lebensm Unters Forsch, Springer-Verlag, (1991) 193, pp.558-565
・甲第8号証:John Londesborough et al., “Analysis of Beers from an 1840s' Shipwreck”, JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY, American Chemical Society, 2015, 63, pp.2525-2536
・甲第9号証:C. E. Fabre et al., “2-Phenylethyl Alcohol: An Aroma Profile”, Perfumer and Flavorist, Allured Publishing Corp., Vo.23 (1998), pp.43-45
・甲第10号証:C. E. Fabre et al., “Production of 2-Phenylethyl Alcohol by Kluyveromyces marxianus”, Biotechnology Progress, Vol.14 (2008), Issue 2, pp.270-274 の要旨公開ウェブページ、2025年7月4日(出力日)、<URL:https://aiche.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1021/bp9701022>
・甲第11号証:特許第6567396号公報
・甲第12号証:特許第6567134号公報
・甲第13号証:SEGEBARTH Nicolas et al., “Analysis and Characterisation of Alcoholic products (ACAP) FISCALIS Project Group - Final Report”, European Commission, Joint Research Centre (JRC), Institute for Health and Consumer Protection, European Commission Joint Research Centre, 2008, pp.1-5
・甲第14号証:岸本徹、「ビールの香り:その‘構造’を解き明かす 76成分によるビール香気の再構築」、化学と生物、日本農芸化学会、第56巻(2018)、第10号、第659頁-第664頁
第4 当審の判断
当審は、以下に検討するとおり、いずれの異議申立理由も、その理由がないものと判断する。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、ベルギービールの成分分析を行った結果が示されている。なお、甲第1号証は外国語文献のため、抄訳のみ摘記する。
「
[図:0001431157000001.jpg]
[図:0001431157000002.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載の、「ワトニーズスコッチ」とのブランド名のベルギービールについて整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。
「アルコールの濃度が6.88g/100g、クエン酸の濃度が278mg/L、2-フェニルエタノールの濃度が79.2mg/Lである、ベルギービール。」(以下、「甲1発明」という。)
「アルコールの濃度を6.88g/100g、クエン酸の濃度を278mg/L、2-フェニルエタノールの濃度を79.2mg/Lに調整する、ベルギービールの製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
なお、甲第1号証の記載から、「高アルコールビールテイスト飲料に果実様のジューシー感を付与する方法」に対応する発明を認定することができない。
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明のベルギービールは、「クエン酸」と「2-フェニルエタノール」を含むものであるところ、「2-フェニルエタノール」は「フェネチルアルコール」のことであるから、本件特許発明1の「クエン酸」、「フェネチルアルコール」に相当する。
また、甲1発明のベルギービールは「クエン酸の濃度が278mg/L、2-フェニルエタノールの濃度が79.2mg/Lである、」であるから、本件特許発明1の「クエン酸の含有量が、270mg/L以上1100mg/L以下であり、」「フェネチルアルコールの含有量が、40mg/L以上180mg/L以下であり、」との特定事項を満たす。
さらに、甲1発明の「ベルギービール」は、本件特許発明1の「高アルコールビールテイスト飲料」のうち、「ビールテイスト飲料」との限りにおいて相当する。
してみると、両者の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「クエン酸及びフェネチルアルコールを含有し、
クエン酸の含有量が、270mg/L以上1100mg/L以下であり、
フェネチルアルコールの含有量が、40mg/L以上180mg/L以下である、
ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1
本件特許発明1は「アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である、高アルコールビールテイスト飲料」と特定するのに対し、甲1発明は「アルコールの濃度が6.88g/100g」である点。
上記相違点1について検討する。
甲1発明のアルコール濃度は「6.88g/100g」であるところ、アルコール度数に換算すると「8.46v/v%」に相当する。
そして、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明においてアルコール度数をより高いものとする動機付けがない。
してみると、甲1発明において、アルコール度数を高いものに変更し、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(特許異議申立人の主張について)
なお、この点について特許異議申立人は異議申立書において、甲第11号証ないし甲第13号証を挙げつつ、アルコール度数の高いビールテイスト飲料の需要があること、8~20v/v%もの高アルコール度数が引用者にポジティブな印象を与えることが知られていること、蒸留アルコールを添加してアルコール度数を高める手段も周知であることから、甲1発明において、アルコール度数を10~20v/v%とすることに何ら困難性はない旨主張する(異議申立書第25頁)。
しかしながら、甲1発明のベルギービールは、「ワトニーズスコッチ」とのブランド名の上市された製品であり、甲第1号証には、その分析結果が示されているにすぎない。してみると、特許異議申立人が主張する事項がすでに知られているとしても、甲1発明のベルギービールにおいて、そのアルコール度数を変更する動機付けとはなり得ないから、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、更に限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえるから、両者の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「ビールテイスト飲料に、クエン酸を270mg/L以上1100mg/L以下含有させること、及びフェネチルアルコールを40mg/L以上180mg/L以下含有させること、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点2
本件特許発明3は「アルコール度数が10v/v%以上20v/v%以下である高アルコールビールテイスト飲料」と特定するのに対し、甲1製法発明は「アルコールの濃度が6.88g/100g」である点。
上記相違点2について検討する。
相違点2は、上記相違点1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明3は、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明4について
上記(1)イのとおり、甲第1号証の記載から、「高アルコールビールテイスト飲料に果実様のジューシー感を付与する方法」に対応する発明を認定することができない。
したがって、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立理由1についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1では、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 特許請求の範囲の記載
上記第2のとおりである。
(3) サポート要件についての判断
本件特許発明における発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「果実様のジューシー感が付与された高アルコールビールテイスト飲料を提供すること」(【0005】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「特定量のクエン酸、及び特定量のフェネチルアルコールを含有させた高アルコールビールテイスト飲料は、果実様のジューシー感が感じられることを見出した。本発明は、この新規な知見に基づくものである」(【0004】)との記載、「本発明に係る高アルコールビールテイスト飲料は、特定量のクエン酸、及び特定量のフェネチルアルコールを含有するため、果実様のジューシー感が感じられる」(【0007】)との記載、「本明細書において、「高アルコールビールテイスト飲料」は、アルコール度数の高いビールテイスト飲料を意味する。高アルコールビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、7v/v%以上であって・・・(中略)・・・よい」(【0014】)との記載、「本実施形態に係る高アルコールビールテイスト飲料のクエン酸含有量は、270mg/L以上1100mg/L以下であればよい」(【0019】)との記載、「フェネチルアルコールは、2-フェニルエタノールとも称される化合物である。本実施形態に係る高アルコールビールテイスト飲料のフェネチルアルコール含有量は、40mg/L以上180mg/L以下であればよい」(【0021】)との記載があり、具体的な実施例を通じた検討結果も示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「アルコール度数が7v/v%以上」の高アルコールビールテイスト飲料において、「クエン酸含有量は、270mg/L以上1100mg/L以下」であり、「フェネチルアルコール含有量は、40mg/L以上180mg/L以下」との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明は、上記の発明の課題を解決できると認識できる発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
(4) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は上記第3の2(1)及び(2)のとおり、ビールの香気は多様な成分の複雑なバランスによって形成されているものであり、実施例で具体的に検討したビールテイスト飲料をベース飲料とした場合以外のものに対してまで、その官能評価の結果を拡張・一般化できないこと、さらには、具体的に検証しているのは、アルコール濃度が5v/v%と10v/v%の比較のみであるから、アルコール濃度が20v/v%の範囲まで拡張することはできないことなどを主張する。
しかしながら、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、上記(3)で摘記した記載があり、かつ、アルコール濃度とクエン酸、フェネチルアルコールの割合を変化させた際の具体的な検討がなされている。
これらの記載からすれば、当業者であれば定性的な傾向は推認できると考えられるところ、特許異議申立人の主張は、様々な要因が影響すると主張するにとどまるものであり、具体的に効果を奏し得ないとする証拠を提示するものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
(5) 申立理由2についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、申立理由2では、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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