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特許異議申立

2025-700226

発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法

審判番号
2025-700226
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-153277
登録番号
7539805
請求日
2025年02月26日
審決日
2025年09月24日
公報発行日
2026年01月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】アサヒビール株式会社
  • 【権利者代理人】山尾 憲人
  • 【権利者代理人】西下 正石
  • 【権利者代理人】膝舘 祥治
  • 【異議申立人】西園 朋子
審判長/審判官
  • 審判長 天野 宏樹
  • 審判官 松本 陶子
  • 審判官 宮久保 博幸
分類
P1651.121-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7539805号発明「発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7539805号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕及び9について訂正することを認める。 特許第7539805号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7539805号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年9月11日の出願であって、令和6年8月16日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年8月26日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対し、令和7年2月26日に特許異議申立人 西園 朋子(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:全請求項)がされ、同年5月26日付けで取消理由が通知され、同年7月7日に特許権者 アサヒビール株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月23日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年8月27日に申立人より意見書の提出があったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、「特許第7539805号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8、9について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正の内容等 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(3)のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「3.0μg/l以上80.0μg/l以下である」とあるのを、「3.0μg/l以上40.0μg/l以下である」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~8も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項9に「3.0μg/l以上80.0μg/l以下に調節する」とあるのを、「3.0μg/l以上40.0μg/l以下に調節する」に訂正する。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度について「3.0μg/l以上80.0μg/l以下である」とあるのを、「3.0μg/l以上40.0μg/l以下である」に訂正することによって数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0034】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~8についても同様である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2に係る請求項9の訂正は、2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度について「3.0μg/l以上80.0μg/l以下に調節する」とあるのを、「3.0μg/l以上40.0μg/l以下に調節する」に訂正することによって数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2に係る請求項9の訂正は、本件特許の明細書の【0034】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 4 独立特許要件について 本件においては、訂正前のすべての請求項1~9に対して特許異議の申立てがされているので、上記訂正事項に係る訂正については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 5 訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕及び9について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕及び9について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」という。また、総称して「本件発明」という。)は、令和7年7月7日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 麦芽使用比率が60%以下であり、シトロネロール、及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含む発酵ビールテイスト飲料であって、 該シトロネロールの濃度が5.0μg/l以上20.0μg/l以下であり、 該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が3.0μg/l以上40.0μg/l以下である、発酵ビールテイスト飲料。 【請求項2】 前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が3.0μg/l以上20.0μg/l以下である、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料。 【請求項3】 前記シトロネロールの濃度が5.0μg/l以上15.0μg/l以下である、請求項1または2に記載の発酵ビールテイスト飲料。 【請求項4】 リナロールを含み、シトロネロールの濃度とリナロールの濃度との比率が、0.1~0.5である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。 【請求項5】 前記シトロネロールが、ホップ、ホップエキス及びホップ香料から成る群から選択される少なくとも一種に由来する、請求項1~4のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。 【請求項6】 前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度(μg/l)と麦芽使用比率(%)との比率が0.06以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。 【請求項7】 前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物は、添加された香料に由来するものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。 【請求項8】 スピリッツを含む請求項1~7のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。 【請求項9】 麦芽使用比率が60%以下であり、シトロネロール、及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含む発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、 該シトロネロールの濃度を5.0μg/l以上20.0μg/l以下に調節する工程、及び 該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度を3.0μg/l以上40.0μg/l以下に調節する工程を包含する、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。」 第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要 申立人が申し立てた請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。 1 申立理由1(進歩性) 本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載の発明及び周知技術、並びに甲第1号証~甲第3号証及び甲第5号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件発明1ないし9についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 具体的理由はおおむね次のとおりである。 (1)ATHPの濃度 本件発明1の構成要件1FではATHPの濃度を3.0μg/l以上80.0μg/l以下と規定している。 一方、本件特許明細書の実施例において、発明の効果を有することが裏付けられている範囲は、表1、2、3のいずれにおいてもATHP濃度が3~l0μg/lの範囲に限られる。 本件発明が解決すべき課題は「ホップ香気が付与された、麦芽使用比率が低い発酵ビールテイスト飲料において、香味バランスに優れたものを提供する」とされている(本件特許明細書[0013])。 ATHPの濃度が高いと渋みが強くなることが本件特許明細書に示されている(本件特許明細書[0034])ところ、ATHPの濃度が10.0μg/lを超える領域において、香味バランスが優れたものが得られていることが裏付けられていない。 表1、2、3のいずれにおいてもATHP濃度がl00μg/lの場合は渋み評価が1であり香味バランスの評価が不良であることが示されている。 本件発明1の構成要件1Fで規定されるATHP濃度の上限値である80.0μg/lは、効果が裏付けられている10.0μg/lとの差が70.0μg/lある一方で、香味バランス不良であるl00μg/lとの差は20.0μg/lしかない。 構成要件1Fで規定されるATHP濃度の上限値は、発明の解決すべき課題が解決できない領域により近いところに設定されており、上限値付近においてまで課題が解決できることを当業者は認識できないため、本件発明1はサポート要件違反の取消理由を有する。本件発明2~9についても同様の取消理由を有する。 (2)糖質濃度 本件特許明細書において具体的に認識されている発明は、低糖質の発酵ビールテイスト飲料、糖質ゼロの発酵ビールテイスト飲料である。本件特許明細書の実施例において、表1では糖質濃度1.5g/100ml、表2及び表3では糖質濃度0g/100mlである発酵ビールテイスト飲料の実施例が示されている。一方、本件発明1においては糖質濃度に関する規定が無く、本件発明1には糖質濃度が高い発酵ビールテイスト飲料が含まれている。 糖質濃度が1.5g/100mlを超えて高い発酵ビールテイスト飲料においても、ATHPの濃度及びシトロネロールの濃度に関する規定を満たせば香味バランスに優れたものとすることができるのかが不明である。 発明の効果を有することが裏付けられている範囲は、糖質濃度が1.5g/100ml以下の範囲に限られるのであり、このような特定がされていない本件発明1はサポート要件違反の取消理由を有する。本件発明2~9についても同様の取消理由を有する。 (3)ATHPの添加 本件特許明細書の実施例では、比較例の発酵ビールテイスト飲料に対してATHPを添加することでATHP濃度を増加させて、ATHP濃度が本件発明1の範囲に含まれる発酵ビールテイスト飲料を得ている(本件特許明細書[0058]等)。添加以外の方法でATHPの濃度が調整された実施例は記載されていない。 本件特許明細書[0042]には、「ATHPの濃度は使用する麦芽の量を増減する、麦芽を加熱する温度又は時間を増減する等の方法で調節することができる」と記載されている。ここで、使用する麦芽の量を増減させたり、麦芽を加熱する温度又は時間を増減させた場合には、ATHPの濃度が変化する他に、他の成分の生成量、濃度も合わせて変化するはずである。これらの場合では、ATHPの濃度が本件発明1で規定する範囲に調整されたとしても、他の成分の濃度変化の影響によって香味バランスが悪くなり本件発明が解決すべき課題が解決されない場合があるというべきである。 すなわち、本件特許明細書の実施例は、ATHPの添加によりATHPの濃度のみを変化させてATHPの濃度の影響のみが強く反映された状態で、香味バランスが良好になるATHPの濃度範囲を定めたものに過ぎないといえる。 本件特許明細書の実施例により課題を解決できることが裏付けられているのは、ATHPの添加によりATHPの濃度範囲を調整したという、特定の条件下に限られるのであるから、本件発明1の発明特定事項として、この前提条件としての「ATHPが添加されてATHPの濃度が調整された発酵ビールテイスト飲料」という事項が加えられるべきであり、このような特定がされていない本件発明1はサポート要件違反の取消理由を有する。本件発明2~9についても同様の取消理由を有する。 3 証拠方法 ・甲第1号証:「BEERS & COOLERS」English edition, 1994年, Intercept Ltd., p.275, 276, 310 ・甲第2号証:R. Tressl et al., 「Bildung von Verbindungen mit brotigem Aromacharakter in Malz und Bier」EBC Congress 1981, European Brewery Convention, p.391-403 ・甲第3号証:醗造物の成分,財団法人日本醸造協会,平成11年12月10日発行,p.262 ・甲第4号証:特開2016-149975号公報 ・甲第5号証:Keisuke Okada et al., “Investigation of Conditions for the Formation of 2-Acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridine and its Tautomers, a Novel Aroma Compound of Beer, and its Control during the Brewing Process”, American Society of Brewing Chemists, 2023年6月26日, p.1-33 ・甲第6号証:Paulina Martusevice et al., “Analysis of mousy off-flavor compound 2-Acetyl-tetrahydropyridine using Liquid Chromatography Mass Spectrometry with Electrospray Ionization in sour beer”, MethodsX, Elsevier, Vol.12, 102643, 2024年3月5日,p.1-9 ・甲第7号証:特開2017-79695号公報 なお、証拠の表記については、特許異議申立書における記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第5 令和7年5月26日付けで通知した取消理由の概要 令和7年5月26日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。 なお、取消理由には、申立理由2の(1)が包含される。 1 取消理由(サポート要件) 本件特許の請求項1、3~9についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ・本発明の課題は、ホップ香気が付与された、麦芽使用比率が低い発酵ビールテイスト飲料において、香味バランスに優れたものを提供することであるところ、本件特許の明細書における2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物(ATHP)の好ましい濃度範囲の記載及び実施例の評価結果に接した当業者は、ATHPの濃度について3~20μg/lの場合に本発明の課題を解決できる一方、100μg/lの場合には香味バランスが悪く本発明の課題を解決できないことを理解できる。 ここで、本件特許の請求項1で規定されるATHP濃度の上限値である80.0μg/lは、一般記載である【0034】において好適な濃度の上限として記載された値であるものの、実施例において本発明の課題を解決できることが裏付けられている値である10.0μg/lよりも、本発明の課題を解決できない値であるl00μg/lにより近い値であり、出願時の技術常識を参酌しても80.0μg/lとl00μg/lとの間で評価が急激に悪化すると理解することはできないから、上限値付近においても課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえない。 そうすると、ATHPの濃度につき、本件特許発明1の範囲であれば、本発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとは、出願時の技術常識を参酌しても認められない。請求項1と同様の発明特定事項を有する請求項9及び請求項2を直接又は間接的に引用しない請求項3~8についても同様である。 よって、本件特許発明1、3~9のすべての範囲にまで発明の詳細な説明に開示された発明を拡張ないし一般化できるものとは認められず、本件特許発明1、3~9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものであるとはいえない。 第6 当審の判断 当審は、取消理由及び申立理由1、2によって、本件発明1~9についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。 取消理由についての判断は申立理由2の(1)の判断と重複するため、申立理由2についての判断とまとめて示す。 1 取消理由及び申立理由2(サポート要件)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件発明の課題について 本件明細書の【0011】~【0013】等の記載からみて、本件発明1ないし9の課題は「ホップ香気が付与された、麦芽使用比率が低い発酵ビールテイスト飲料において、香味バランスに優れたものを提供すること」にあるものと認められる。 (3)本件明細書の記載について 麦芽使用比率について、本件明細書の【0026】には「本発明の発酵ビールテイスト飲料は、麦芽使用比率が60%以下、50%以下、24%以下、又は10%以下の発酵ビールテイスト飲料である。麦芽使用比率とは、デンプン質原料の重量に対する麦芽の重量の比率である。発酵ビールテイスト飲料は、麦芽を使用しないで製造されたものであってもよい。麦芽使用比率は、低くなるほどコク感が低減し易く、酸味が目立ち易く、本発明の効果を発揮し易くなる。」との記載があり、シトロネロールの濃度について、【0030】には「本発明のビールテイスト飲料において、シトロネロールの濃度は5.0μg/l以上である。シトロネロールの濃度が5.0μg/l未満であると、ビールに特有な爽快な香りを感じ難くなる。シトロネロールの濃度は、例えば、5.0~20.0μg/l、好ましくは、6.5~15.0μg/l、より好ましくは、8.0~12.0μg/lである。シトロネロールの濃度が高すぎると、酸味を感じ易く、香味バランスが悪くなる。」との記載があり、2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物(ATHP)の濃度について、【0034】には「本発明のビールテイスト飲料において、ATHPの濃度は3.0μg/l以上である。ATHPの濃度が3.0μg/l未満であると、酸味を感じ易く、香味バランスが悪くなる。ATHPの濃度は、例えば、3.0~80.0μg/l、好ましくは、5.0~40.0μg/l、より好ましくは、5.0~20.0μg/lである。ATHPの濃度が高すぎると渋味が目立ち香味バランスが悪くなる。特にその濃度が1ppmを超えると、非特許文献1にある通り、加熱したパン様のオフフレーバーとなる。」との記載がある。また、ATHPの濃度の調節方法について、【0042】には、「ATHPの濃度は、例えば、使用する麦芽の量を増減する、麦芽を加熱する温度又は時間を増減する等の方法で調節することができる。ATHPの濃度は、例えば、中間製造物又は最終製造物にATHPそのものを添加することで調節してもよい。」との記載がある。 そして、【0047】~【0082】には参考例、比較例及び実施例の発酵ビールテイスト飲料について、製造方法、成分含有量及び官能評価結果が記載されており、表1~3に示された評価結果から、麦芽使用比率が50%以下であり、シトロネロールの濃度が5~10μg/lであり、ATHPの濃度が3~10μg/lである実施例では酸味、コク及び渋味の評価のいずれも3以上(酸味が弱い、コクが強い、渋味が弱い)であり麦芽使用比率が70%である参考例1と同様の香味バランスに優れた発酵ビールテイスト飲料が得られたのに対し、シトロネロール及びATHPの濃度のいずれかが実施例と異なる各例では酸味、コク及び渋味の評価のいずれかが2以下(酸味が強い、コクが弱い、渋味が強い)となり香味バランスが良好でない発酵ビールテイスト飲料となったことが読み取れる。 (4)サポート要件の判断 上記(3)の実施例における官能評価結果の記載と、一般記載における成分の含有量及び作用効果についての記載等を参酌すると、当業者は、麦芽使用比率が60%以下の発酵ビールテイスト飲料において、シトロネロールの濃度が5.0μg/l以上20.0μg/l以下であり、2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が3.0μg/l以上40.0μg/l以下である、との特定事項を満たすことで、シトロネロールによる香気が付与されながらも酸味が弱く、コクが強く、渋味が弱い、香味バランスに優れた発酵ビールテイスト飲料が得られ、発明の課題を解決できるものと認識することができる。 そして、本件発明1は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる特定事項の全てを有するものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 請求項1と同様の発明特定事項を備える本件発明9、並びに請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明2~8も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (5)申立人の主張について 申立人は、本件特許のサポート要件に関して上記第4 2のように主張しているので、その各点について以下、検討する。 ア ATHPの濃度について 申立人は、本件発明1で規定されるATHP濃度の上限値について、上記第4 2(1)のとおり主張している。 しかしながら、本件訂正請求による訂正後の本件発明1は、ATHP濃度の上限値について40.0μg/lと特定しており、この値は、発明の課題を解決できることが裏付けられている10.0μg/lとの差が30.0μg/lであり、発明の課題を解決できない値である100μg/lとの差である60.0μg/lの半分の値である。そうすると、ATHPの濃度につき、本件発明1の範囲であれば渋味は実施例に準ずる弱い範囲にあり、当業者が発明の課題を解決できると認識できるといえる。よって、上記の点に関する申立理由及びそれに基づく取消理由は解消した。 この点につき、申立人は、令和7年8月27日に提出した意見書において、 「実施例によって裏付けられたATHP濃度の範囲は、3.0μg/l~10.0μg/lであり、その数値幅(上限値-下限値)は7.0μg/lに過ぎない。・・・これを、3.0~40.0μg/lにまで拡張したなら、その範囲は37.0μg/lとなり、実施例で裏付けられた数値幅の5倍以上となる、実施例で裏付けられた数値幅の5倍以上の数値幅にまで、課題を解決できることが当業者に理解できるとして拡張できるとする理由が無いことは明らかである。審判官殿が認められた、実施例で裏付けられた数値幅の2倍超の程度までが、課題を解決できることが当業者に理解できるとして拡張できる妥当な範囲というべきである。」 との点を主張している。 しかしながら、上記(4)のとおり、発明の詳細な説明の一般記載(【0034】等)及び実施例、比較例の記載に接した当業者は、ATHP濃度が3.0μg/l以上であれば酸味を感じることが抑制され、ATHP濃度が40.0μg/l以下であれば、渋味が目立つことなく酸味抑制の作用効果が得られると認識することができる。また、申立人は実施例で裏付けられた数値幅の2倍が課題解決可能性の範囲である旨主張しているが、実施例と比較例の渋味の評価結果等を参酌すれば当業者は実施例で示された10.0μg/lの2倍の濃度において課題解決を妨げるほどATHPに由来する渋味が目立つことはなく、40.0μg/l程度までは課題解決可能と認識することができるから、単に数値幅の倍数にのみ着目した申立人の主張は本件明細書の記載に基づくものとはいえず、技術的な根拠を欠くものであるから採用することはできない。本件発明2~9についても同様である。 イ 糖質濃度について 申立人は、本件発明の発酵ビールテイスト飲料の糖質濃度について、上記第4 2(2)のとおり主張している。 当該主張について検討する。本件明細書の【0027】には、本発明の発酵ビールテイスト飲料の具体例として「低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料」等が挙げられ、【0028】には、「ある一形態において、発酵ビールテイスト飲料は、糖質含有量が3.0g/100ml以下、好ましくは2.0g/100ml以下、より好ましくは1.0g/100ml以下の低糖質発酵ビールテイスト飲料である。」との記載がある。しかしながら、これらの低糖質もしくは糖質ゼロの発酵ビールテイスト飲料は、本件発明の効果がより顕著となる発酵ビールテイスト飲料として例示されたものに過ぎず、本件明細書において発酵ビールテイスト飲料の糖質含有量は、発明の課題と直接関係するものではない。そして、本件明細書の実施例では、糖質濃度が1.5g/100mlの例(表1)及び糖質濃度が0g/100mlの例(表2、3)のいずれにおいても同様に本件発明1の特定事項を満たすことで発明の課題を解決できることが示されている。そうすると、本件特許の発明の詳細な説明に接した当業者であれば、発酵ビールテイスト飲料の糖質濃度に関わらず、本件発明1の特定事項を満たすことで発明の課題を解決できることを認識できる。 これに対し、申立人の主張は、発酵ビールテイスト飲料の糖質濃度が高い場合に発明の課題を解決しえないとする具体的な根拠を示すものではなく、採用できない。本件発明2~9についても同様である。 ウ ATHPの添加について 申立人は、本件発明の発酵ビールテイスト飲料のATHPの濃度の調製方法について、上記第4 2(3)のとおり主張している。 当該主張について検討する。本件明細書の【0042】には、ATHPの濃度の調節は、麦芽の量を増減する、麦芽を加熱する温度又は時間を増減する等の方法で行ってもよく、中間製造物又は最終製造物にATHPそのものを添加することで行ってもよいことが記載され、【0047】~【0082】には、実施例として、ホップの使用量によりシトロネロールの濃度を調整し、ATHPを添加することでATHPの濃度を調整して各実施例の発酵ビールテイスト飲料を得たことが記載されている。発明の詳細な説明の上記記載に接した当業者は、ATHPの濃度調整の方法に関わらず発酵ビールテイスト飲料においてシトロネロール及びATHPの濃度が本件発明1で特定される範囲に調整されていれば発明の課題を解決でき、また、ATHPの濃度の調整方法については適宜に選択できることを認識できる。そうすると、ATHPの濃度をどのような方法で調整するかが本件発明1の発明特定事項に加えられなくても、本件発明1は発明の課題を解決できると認識することができるものである。 これに対し、申立人は、ATHPの濃度を調整するために使用する麦芽の量や、麦芽を加熱する温度又は時間を増減させた場合には、ATHP以外の他の成分の濃度も変化し、その影響によって香味バランスが悪くなり発明の課題が解決されない場合がある旨を主張している。しかしながら、シトロネロールの濃度及び/又はATHPの濃度のみが変更された実施例及び比較例の評価結果に基づいて、当業者は麦芽使用比率60%以下の発酵ビールテイスト飲料においてシトロネロール及びATHPがそれらの濃度に応じて本件明細書に記載されたとおりの作用効果を発揮し、発明の課題解決に寄与することを理解することができ、実施例とは異なる成分が共存する発酵ビールテイスト飲料においてもシトロネロール及びATHPは同様の作用効果を発揮するものと理解することができるから、ATHPの添加条件を特段明記しなくとも本件発明1は発明の課題を解決できると当業者は認識する。また、申立人の主張は、添加以外の方法によってATHPの濃度を調整した場合に発明の課題を解決しえないとする根拠を、具体的なデータ等を挙げて示すものでもない。よって、申立人の主張は採用できない。本件発明2~9についても同様である。 (6)取消理由及び申立理由2についてのまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当しない。 よって、取消理由及び申立理由2によって本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1(進歩性)について (1)甲4の記載事項等 ア 甲4の記載事項 甲4には「低糖質ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法」に関し、次の記載がある。下線は予め付されたものと当審で付したものである。 「【請求項1】 麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.05mg/ml以上である、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料。 【請求項2】 麦芽使用比率が3分の2未満である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。 【請求項3】 全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率が2.7%以上である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。 【請求項4】 分子量10~20kDaのペプチド濃度が0.11mg/ml以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。 【請求項5】 グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が5.6mg/ml以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、香味が改善された低糖質ビールテイストアルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、低糖質ビールテイストアルコール飲料の風味改善剤と風味改善方法を提供することも目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、低糖質ビールテイストアルコール飲料において、特定分子量のペプチドがビールらしい柔らかなテクスチャーやスムーズな味の流れを付与するとともに、雑味の低減や調和の取れた味わいの付与に寄与することを見出した。本発明者らはまた、特定分子量のペプチドの濃度を特定の濃度範囲内にすることで、よりビールらしい調和感のある味わいが実現できることを見出した。本発明者らはさらに、ビールテイストアルコール飲料の風味改善に寄与するペプチドを具体的に特定した。本発明はこれらの知見に基づくものである。」 「【0022】 本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽以外に、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。すなわち、本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽、未発芽の麦類(好ましくは、未発芽大麦)およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。」 「【0041】 実施例1:ペプチド画分のビールテイストアルコール飲料への添加と官能評価 (1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造 パイロットプラントでビールテイストアルコール飲料の製造を行った。50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽15.0質量部、大麦18.7質量部、酵素製剤を投入して70分保持後65℃に昇温して130分保持してさらに78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップを投入して100℃で60~70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整した。この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行った。さらに、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイストアルコール飲料(麦芽使用比率50%未満の発泡酒)を得た。」 「【0053】 実施例2:低糖質ビールテイストアルコール飲料の成分分析と官能評価 (1)低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造 パイロットプラントで低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造を行った。低糖質ビールテイストアルコール飲料の使用原料中の麦芽比率は25%未満とした。 【0054】 低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造においては、主原料として、大麦麦芽を使用し、副原料として、大麦および液糖のいずれかまたは両方を使用した。糖化に際しては酵素製剤を用い、糖化の温度、時間を調整し、濾過することで、異なる組成の麦汁を得た。すなわち、糖化の温度帯は、50、60、あるいは65℃など、50~65℃の中で選択した。糖化の時間は、それぞれの温度工程において、5分から140分の間で調整した。また、原料の熱処理温度は70から100℃の中から選択した。具体的には以下のようにして麦汁を得た。 【0055】 (ア)サンプルNo.5の糖化条件 50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽11.4質量部、大麦12.1質量部、酵素製剤を投入して60分保持してさらに65℃に昇温して90分保持した後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。 【0056】 (イ)サンプルNo.6の糖化条件 50℃の湯100質量部に対して、大麦26.2質量部、酵素製剤を投入して60分保持後60℃に昇温して30分保持してさらに70℃に昇温して30分保持したものをA醪とした。また、別の釜で、50℃の湯85.7質量部に大麦麦芽24.8質量部、酵素製剤を投入して60分保持したものB醪とした。得られたA醪とB醪を直ちに混合させて65℃とした。その後、65℃で90分保持した後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。 【0057】 (ウ)サンプルNo.7、8の糖化条件 50℃の湯100質量部に対して、大麦21.1質量部と酵素製剤を投入して60分保持してさらに65℃に昇温して90分保持したものをA醪とした。別の釜で50℃の湯93質量部に大麦麦芽19.4質量部、酵素製剤を投入し60分保持後65℃に昇温して90分保持したものをB醪とした。得られたA醪およびB醪を直ちに混合し、AB混合醪として78℃に昇温して5分保持後、濾過して麦汁を得た。 【0058】 上記の麦汁調製工程(ア)、(イ)および(ウ)に続いて、得られたそれぞれの麦汁にホップおよび液糖をさらに投入して100℃で60~70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整した。この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行った。さらに、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄な低糖質ビールテイストアルコール飲料(発泡酒、サンプルNo.5~8)を得た。 【0059】 また、麦芽使用比率25%未満の市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料(発泡酒および新ジャンル系アルコール飲料)をサンプルNo.1~4としてそれぞれ分析試験に供した。なお、サンプルNo.1および2は発泡酒、サンプルNo.3および4はリキュール系新ジャンル飲料である。 【0060】 (2)グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度の分析 低糖質ビールテイストアルコール飲料サンプルは、本方法による糖質濃度が0.1~1.0mg/mlの範囲となるよう、適宜5~10倍希釈した後、グルコアミラーゼと緩衝液(リゾプス由来精製酵素、最終濃度 20U/ml、生化学バイオビジネス社製、100mM酢酸Na pH4.5)を添加して40℃、48時間で反応させた後、市販のグルコース測定キット(グルコースC-IIテストワコー、和光純薬工業社製)を用いてグルコースとして測定した。なお、ポジティブコントロールとして、0.5~2.0mg/mlの所定濃度のアミロースEX-I(グルコースの平均重合度:18、和光純薬社製)を用いて、本方法にてグルコース濃度を測定した結果、グルコースは93%の回収率であり、グルコアミラーゼに感受性の糖質の定量法として十分な精度と考えられた。 【0061】 (3)栄養表示基準に基づく糖質濃度の分析 栄養表示基準に基づく糖質濃度の測定は公知の五訂日本食品標準成分表分析マニュアルに記載の方法に従って行った。すなわち、当該試料の質量から、水分(減圧加熱・乾燥助剤添加法)、タンパク質(自動分析装置による方法)、脂質(ソックスレー抽出法(3))、灰分(マッフル炉による燃焼法)および食物繊維量(プロスキー変法(1)HPLC法)を除いて算出する方法にて測定した。 【0062】 (4)10~20kDaペプチド量の分析 (ア)ゲル濾過分画用のサンプル調製 パイロットプラントで製造した製品サンプルおよび市販品は、計量して凍結乾燥した。乾燥物を50mMリン酸緩衝液(150mM NaCl含む)で溶解して2.5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。 【0063】 (イ)HPLCゲル濾過分画 HPLCゲル濾過分画の条件は以下の通りであった。 <HPLCゲル濾過分画条件> カラム:Superdex 75 10/300(GEヘルスケア社製) サンプル注入量:100μL 溶離液組成:50mMリン酸、20%(v/v)アセトニトリル、150mM NaCl 流速:0.5mL/分(流速一定) 検出波長:215nm 分画プログラム: 【0064】 【表3】 [図:0001431142000001.jpg] 【0065】 (ウ)分画範囲の設定 上記HPLCゲル濾過分画条件記載のカラム、溶離液、流速、検出波長において、分子量既知のペプチドを0.1~5mg/mLで適宜超純水に溶解したものを50μL注入してHPLC分析を行い、保持時間を確認した(表4)。その保持時間、分子量から検量線(図3)を作成し、分子量範囲と分画範囲を決定した。 【0066】 【表4】 [図:0001431142000002.jpg] 【0067】 (エ)分画液のLowry法によるタンパク定量 タンパク定量は、実施例1に記載のLowry法により行った。なお、得られた吸光度とBSA濃度から検量線を作成し、分画液のペプチド量(BSA換算)を計算し、分画液量、濃縮倍率から、当該画分の製品相当ペプチド濃度(mg/ml)を算出した。 【0068】 (オ)10~20kDaペプチドの定量 10~20kDaペプチド濃度は、上記HPLCゲル濾過分画における、検量線から決定した分子量10~20kDaの範囲である画分3に含まれるタンパク濃度を、製品相当ペプチド濃度(mg/ml)に換算して求めた。また、10~20kDaペプチド量が全タンパク量の中に占める比率、すなわち10~20kDaのペプチド比率は、以下の算出式にて求めた。 10~20kDaのペプチド比率(%)=10~20kDaペプチド量(mg/製品ml)/全タンパク量(mg/製品ml)×100 【0069】 (5)低糖質ビールテイストアルコール飲料の官能評価 製造して得られた低糖質ビールテイストアルコール飲料、および市販品のビールテイストアルコール飲料に関して、8名の訓練されたパネラーによって官能評価した。評価項目は以下のとおりとした。 【0070】 評価項目1として、ビールらしい味わい(ビールにあるような柔らかくスムーズなテクスチャーが感じられる、調和がとれている)を1点(ビールらしくない)~9点(ビールらしい)の9段階で官能評価した。また、評価項目2として、スムーズな味の流れ(飲み始め、味の中盤、余韻といった飲み込んだときの味の抑揚の流れ方)を1点(弱い)~9点(強い)の9段階で官能評価した。また、評価項目3として、口内に残るざらつき(渋みや舌に残るざらざらした感触といった雑味)を1点(弱い)~9点(強い)の9段階で官能評価した。成分分析の結果および官能評価の結果は表5および図4~8に示される通りであった。 【0071】 【表5】 [図:0001431142000003.jpg] 【0072】 表5に示されるように、麦芽比率25%未満の市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料であるサンプルNo.1は、ビールらしい味わいが3.0、スムーズな味の流れは3.0と低くなり、口内に残るざらつきは5.0であった。また、大豆タンパク分解物、水溶性食物繊維および高甘度甘味料であるアセスルファムKなどを一部または全部含む、市販の低糖質ビールテイストアルコール飲料であるサンプルNo.2~4では、サンプルNo.1に比較して、ビールらしい味わいが3.2~3.5と高くなっているのに対して、スムーズな味の流れは3.4~3.8と低くなり、口内に残るざらつきが5.6~5.8と高くなった。 【0073】 一方、麦芽比率25%未満のサンプルNo.5およびNo.6では、サンプルNo.1に比較して、ビールらしい味わいが3.1~3.7と高めとなり、スムーズな味の流れは3.9~4.8と高めとなり、口内に残るざらつきが4.4~4.9と低めであり、香味評価が良好になる傾向が認められた。すなわち、10~20kDaのペプチド濃度が0.05mg/mL製品以上であり、10~20kDaのペプチド比率が2.7%以上であり、かつ、グルコアミラーゼ感受性の糖質の濃度が4.9mg/ml以下の場合に、好ましい官能評価結果が得られることが分かった。」 イ 甲4に記載された発明 上記アの記載、特に実施例2のサンプルNo.5として調製された低糖質ビールテイストアルコール飲料(【0053】、【0055】、【0058】、【0071】の【表5】等)について整理すると、甲4には次の発明が記載されていると認める。 「50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽11.4質量部、大麦12.1質量部、酵素製剤を投入し、糖化して得た麦汁にホップおよび液糖をさらに投入して100℃で60~70分煮沸した後、麦汁静置を行ってトリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得て、得られた発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵を行い、低温で貯蔵、濾過して得た、麦芽使用比率25%未満の低糖質ビールテイストアルコール飲料。」(以下、「甲4発明」という。) 「50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽11.4質量部、大麦12.1質量部、酵素製剤を投入し、糖化して麦汁を得る工程と、 得られた麦汁にホップおよび液糖をさらに投入して100℃で60~70分煮沸した後、麦汁静置を行ってトリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得る工程と、 得られた発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵を行い、低温で貯蔵、濾過する工程からなる、麦芽使用比率25%未満の低糖質ビールテイストアルコール飲料の製造方法。」(以下、「甲4製法発明」という。) (2)対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「低糖質ビールテイストアルコール飲料」は、発酵前液に下面発酵酵母を添加し発酵を行って得たものであるから、本件発明1の「発酵ビールテイスト飲料」に相当する。 また、甲4発明の麦芽使用比率は25%未満であるから、本件発明1の「麦芽使用比率が60%以下であり、」との特定事項を満たす。 してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。 (一致点) 「麦芽使用比率が60%以下である、発酵ビールテイスト飲料。」 (相違点) ・相違点1 発酵ビールテイスト飲料に含まれる成分について、本件発明1は「シトロネロール、及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含」み、「該シトロネロールの濃度が5.0μg/l以上20.0μg/l以下であり、」「該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が3.0μg/l以上40.0μg/l以下である、」と特定するのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点。 相違点1について検討する。 甲4には、シトロネロールの含有量及び2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の含有量について、何ら記載も示唆もされていない。また、甲4及び他の全ての証拠の記載をみても、甲4発明において、上記特定の化合物に着目し、さらに両化合物の量を特定の範囲に調整し相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けはない。 この点について、申立人は、甲1及び甲2に、ビール中の成分として2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物(ATHP)が含まれることが記載され、甲3に、ホップ由来成分としてシトロネロールが5.0μg/l以上20μg/l以下の濃度で含まれるビールの例が記載され、甲5に、麦芽を使用して得られた通常のビールにおいてATHPの濃度が5.7ppbであったことが記載され、甲6に、ネズミ臭が生じる程度に保管されたビールにおいてATHPの濃度が3.0μg/l以上80.0μg/l以下となったものがあることが記載されていることを挙げ、これらの各証拠の記載に基づき発酵ビールテイスト飲料の成分の濃度を調整し、本件発明1の特定事項を満たすものとすることに困難性はない旨を主張している(特許異議申立書16~17頁)。 上記主張について検討する。 申立人が指摘する各証拠の記載をみると、甲3(第13表)にはビール中に検出されたシトロネロールについて記載され、その含有量はビールによって異なることが理解できるものの、麦芽使用比率の低い発酵ビールテイスト飲料においてシトロネロールの含有量を特定の濃度範囲となるよう調整することを動機付ける記載はない。また、甲1(310頁)及び甲2(397、401頁)にはビール中の芳香成分としてATHPが記載されているものの、その含有量については記載されておらず、麦芽使用比率の低い発酵ビールテイスト飲料においてATHPの含有量を特定の濃度範囲となるよう調整することを動機付ける記載もない。甲5(7、12頁)には、麦芽を使用して得られた通常のビールにおいてATHPの濃度が5.7ppbであったことや、ノンアルコール/低アルコールビールや低炭水化物ビールにおいてビールらしいフレーバーを付加するためにATHPを増強しうることが記載されているものの、麦芽使用比率の低い発酵ビールテイスト飲料においてシトロネロールとATHPの含有量をそれぞれ特定の濃度範囲となるよう調整することを動機付ける記載はない。甲6(要約、7頁Table 3)には、保管されたビールにおけるATHPの濃度について記載されているものの、ATHPはビールの劣化により生じるオフフレーバー化合物とされており、麦芽使用比率の低い発酵ビールテイスト飲料においてATHPの含有量を特定の濃度範囲となるよう調整することを動機付ける記載はない。 そうすると、甲1ないし甲3、甲5及び甲6の記載を参酌しても、甲4発明において、シトロネロールの含有量及びATHPの含有量をともに特定の濃度範囲となるよう調整し、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けは見出せない。よって、申立人の主張は採用できない。 そして、本件発明1は、相違点1に係る発明特定事項を有することにより、ホップ香気が付与された、麦芽使用比率が低いビールテイスト飲料において、酸味が抑制され、コク感が強化されて、香味バランスに優れたものが提供される(【0023】)との、いずれの証拠の記載からも予測できない格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲4発明並びに甲4及び他の全ての証拠の記載に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明2~8について 本件発明2~8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。 よって、本件発明2~8は、甲4発明並びに甲4及び他の全ての証拠の記載に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件発明9について 本件発明9と甲4製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は以下の点で相違する。 ・相違点2 本件発明9は、製造される発酵ビールテイスト飲料に「シトロネロール、及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含」み、「該シトロネロールの濃度を5.0μg/l以上20.0μg/l以下に調整する工程、」及び「該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度を3.0μg/l以上40.0μg/l以下に調整する工程」を包含するのに対し、甲4製法発明はそのように特定されていない点。 相違点2について検討する。 相違点2は、上記アにおける相違点1と同旨であり、同様に判断される。 よって、本件発明9は、甲4製法発明並びに甲4及び他の全ての証拠の記載に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)申立理由1についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。 よって、申立理由1によって本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。 3 取消理由及び申立理由についてのまとめ 上記1及び2のとおりであるから、取消理由及び申立理由1、2によっては、本件発明1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 第7 結語 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700226

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    同じ当事者: アサヒビール株式会社、西園 朋子
  • 2026-700337異議申立 / 2026-08-05 / 維持発酵ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法
    同じ当事者: アサヒビール株式会社
  • 2025-700516異議申立 / 2026-03-26 / 訂正認容酸化グラフェン分散液および酸化グラフェン分散液の製造方法
    同じ当事者: 西園 朋子
  • 2025-700749異議申立 / 2025-09-08 / 維持ビール様発泡性飲料
    同じ当事者: アサヒビール株式会社
  • 2024-700236異議申立 / 2025-06-09 / 訂正認容発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法
    同じ当事者: アサヒビール株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)127件(121・C12C、537・C12C)
  • 2023-700091異議申立 / 2026-03-25 / 維持ビールテイスト飲料
    共通の審決分類: 121・C12C、537・C12C
  • 2025-700556異議申立 / 2026-03-18 / 訂正認容プリン体濃度が低減されたビールテイスト飲料およびその製造方法
    共通の審決分類: 121・C12C、537・C12C
  • 2025-700403異議申立 / 2026-03-06 / 訂正認容ビールテイスト飲料
    共通の審決分類: 121・C12C、537・C12C
  • 2025-700978異議申立 / 2026-01-14 / 維持ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
    共通の審決分類: 121・C12C、537・C12C
  • 2025-700533異議申立 / 2025-08-25 / 維持ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
    共通の審決分類: 121・C12C、537・C12C

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