特許異議申立
2025-700978
ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
- 審判番号
- 2025-700978
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-108926
- 登録番号
- 7663629
- 請求日
- 2025年10月10日
- 審決日
- 2026年01月14日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【異議申立人】廣瀬 久美
- 【異議申立人代理人】田久保 泰夫
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 水野 明梨
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7663629号発明「ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7663629号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7663629号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和5年6月30日の出願であって、令和7年4月8日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、令和7年10月10日に特許異議申立人廣瀬久美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合がある。また、本件特許発明1ないし本件特許発明5を総称し、「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
プリン体濃度が2.0mg/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、
グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、
アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、
グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上35mg/L以下である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
プリン体濃度が0.5mg/100mL以下である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項4】
プリン体濃度が2.0mg/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、製造方法。
【請求項5】
プリン体濃度が2.0mg/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、風味改善方法。」
第3 特許異議申立理由の要旨
特異議申立人が特許異議申立書において申し立てた請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
本件明細書の実施例に記載された官能評価は、基準とする試験区1の評点1.50を表す記述子がないため、当業者は本官能評価試験を再現することができない。また、評点1、2、3、4及び5の評価基準が記載される一方で、官能評価の実施にあたっては、各パネラーが小数点以下第2位までの評点を付けていると考えられるところ、このような評価が可能であるとは考えにくい。これらの理由により、当業者が本件明細書の実施例に記載された官能評価を追試又は再現することが困難であり、本件発明が奏するとされる効果を確認することができないから、当該効果を奏する発明を実施することができない。
また、本件特許と同一出願人による同日出願(甲第4号証)のそれぞれの実施例との対比から、本件明細書に記載の官能評価方法及びそれによる結果の信頼性が著しく乏しいと言わざるを得ない(そもそも、実際に官能評価を実施したのかという疑義すら生じる)。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明の課題を解決できるビールテイスト発酵アルコール飲料に係る発明を実施することができるように記載されているとはいえない。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
(1)
本件明細書の実施例に記載された官能評価は、基準とする試験区1の評点1.50を表す記述子がないため、当業者は本官能評価試験を再現することができない。また、評点1、2、3、4及び5の評価基準が記載される一方で、官能評価の実施にあたっては、各パネラーが小数点以下第2位までの評点を付けていると考えられるところ、このような評価が可能であるとは考えにくい。これらの理由により、当業者が本件明細書の実施例に記載された官能評価を追試又は再現することが困難であり、本件発明が奏するとされる効果を確認することができない。
また、本件特許と同一出願人による同日出願(甲第4号証)の実施例との対比から、本件明細書に記載の官能評価方法及びそれによる結果の信頼性が著しく乏しいと言わざるを得ない(そもそも、実際に官能評価を実施したのかという疑義すら生じる)。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明で特定される事項を備えるビールテイスト発酵アルコール飲料が本件発明の課題を解決できるとは理解し難いので、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
(2)
本件請求項1-5に係る発明は、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であることが特定されている。一方、本件明細書の実施例は、麦芽使用比率が50質量%未満の試験区がほとんどであり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下である場合の効果が立証されているとはいえない。
(3)
甲第1号証の比較例6~7及び実施例6~7との対比から、ビールテイスト飲料中のアセトアルデヒド含有量、及び酢酸エチル含有量は、「ビールテイスト飲料らしい味わい」(本件発明で「味の強度」と表現している指標)に影響する因子であるといえる。他方、本件請求項1-5に係る発明は、アセトアルデヒド含有量、及び酢酸エチル含有量を一切特定しておらず、これらの含有量は任意であると解される。アセトアルデヒド含有量、及び酢酸エチル含有量によっては、「味の強度」に関する課題を解決できないことが甲1から明らかである以上、本件請求項1-5に係る発明は課題を解決できない部分を含んでいることが明らかである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2022-141125号公報
甲第2号証:Watersホームページ,2007年4月,<URL:https://www.waters.com/content/dam/waters/en/app-notes/2007/720002158/720002158-ja.pdf>
甲第3号証:受験辞典ホームページ,2022年3月23日,<URL:https://univ-juken.com/sokan-keisu#i-3>
甲第4号証:特開2025-7494号公報
甲第5号証:J. Brew. Soc. Japan, Vol.72, No.3, pp.231-233 (1997)
なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載に従った。
第4 当審の判断
当審は、以下に検討するとおり、申立理由1ないし3のいずれの理由によっても、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1)甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「麦芽発酵飲料」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】
麦芽比率が10質量%以上、プリン体の含有量が2.0mg/100ml未満、及び原麦汁エキス濃度が5.0質量%以上であり、
アセトアルデヒド及び酢酸エチルを含有し、
アセトアルデヒドの含有量(X)が25.0質量ppm以下であり、
アセトアルデヒドの含有量(X)(単位:質量ppm)に対する酢酸エチルの含有量(Y)(単位:質量ppm)の比〔(Y)/(X)〕が1.5~40.0である、麦芽発酵飲料。」
「【請求項9】
麦芽使用比率が20%以上、プリン体含量が1.0mg/100ml未満である、請求項1~8のいずれか一項に記載の麦芽発酵飲料。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況において、プリン体の含有量を低減させた麦芽発酵飲料は様々検討されているが、プリン体の含有量を低減しつつも、更なる改良がなされた麦芽発酵飲料(例えば、ビールテイスト飲料らしい味わいを有し、不適な香りが抑制された麦芽発酵飲料)が求められている。」
「【0011】
本発明の麦芽発酵飲料において、麦芽比率は、ビールテイスト飲料らしい味わいに優れた麦芽発酵飲料とする観点から、10質量%以上であるが、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは22質量%以上、更に好ましくは24質量%以上、より更に好ましくは28質量%以上であり、さらに、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、又は60質量%以上としてもよく、また、100質量%以下であるが、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、又は40質量%以下としてもよい。
本明細書において、「麦芽比率」とは、平成30年4月1日が施行日の酒税法および酒類行政関係法令等解釈通達に従って計算された値を意味する。
【0012】
本発明の一態様の麦芽発酵飲料において、プロリンの含有量としては、好ましくは25mg/L以上、より好ましくは30mg/L以上、更に好ましくは35mg/L以上、より更に好ましくは40mg/L以上、特に好ましくは50mg/L以上であり、さらに、60mg/L以上、70mg/L以上、80mg/L以上、90mg/L以上、又は100mg/L以上としてもよく、また、400mg/L以下、350mg/L以下、320mg/L以下、300mg/L以下、280mg/L以下、250mg/L以下、220mg/L以下、210mg/L以下、200mg/L以下、190mg/L以下、180mg/L以下、170mg/L以下、160mg/L以下、又は150mg/L以下としてもよい。
なお、プロリンは、麦芽等の麦に比較的多く含まれており、発酵工程の前後においても含有量があまり変化しないアミノ酸の一種である。そのプロリンの含有量が上記範囲であれば、味わいがより良好な麦芽発酵飲料とすることができる。
なお、本明細書において、プロリンの含有量は、例えば、株式会社日立製作所製のアミノ酸自動分析装置L-8800A型等を用いて測定することができる。
【0013】
本発明の麦芽発酵飲料において、プリン体の含有量は、2.0mg/100mL未満であるが、好ましくは1.5mg/100mL以下、より好ましくは1.2mg/100mL以下、更に好ましくは1.0mg/100mL以下であり、さらに、1.0mg/100mL未満、0.8mg/100mL以下、0.7mg/100mL以下、0.6mg/100mL以下、0.5mg/100mL以下、又は0.5mg/100mL未満としてもよく、また、0.00mg/100mL超、0.01mg/100mL以上、0.05mg/100mL以上、0.1mg/100mL以上、0.15mg/100mL以上、又は0.2mg/100mL以上としてもよい。」
「【0033】
上述のとおり、本発明の一態様の麦芽発酵飲料は、アルコール含有麦芽発酵飲料であってもよく、ノンアルコール麦芽発酵飲料であってもよい。
アルコール含有麦芽発酵飲料である場合における、本発明の一態様の麦芽発酵飲料のアルコール度数としては、爽快な刺激を感じることができる飲料とする観点から、1.0(v/v)%以上、1.5(v/v)%以上、2.0(v/v)%以上、2.5(v/v)%以上、3.0(v/v)%以上、3.5(v/v)%以上、4.0(v/v)%以上、4.5(v/v)%以上、5.0(v/v)%以上、5.4(v/v)%以上、又は5.7(v/v)%以上としてもよく、また、飲みやすい麦芽発酵飲料とする観点から、20.0(v/v)%以下、17.0(v/v)%以下、15.0(v/v)%以下、12.0(v/v)%以下、10.0(v/v)%以下、9.0(v/v)%以下、8.0(v/v)%以下、又は7.0(v/v)%以下としてもよい。
なお、本明細書において、アルコール度数は、体積/体積基準の百分率((v/v)%)で示されるものとする。また、飲料のアルコール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。」
「【0080】
実施例1~11、比較例1~12
粉砕した大麦麦芽等を含む穀物原料を温水120Lが入った仕込槽に投入した後、段階的に温度を上げて保持し、ろ過して麦芽粕を除去し、麦汁を得た。その後、当該麦汁を煮沸釜に投入し、麦芽比率が表1~3に記載の値になるように糖液を添加し、さらにホップを投入して、温水で100Lに調整して煮沸処理を行った。煮沸処理後に固液分離処理を行い、得られた清澄な麦汁を冷却し、酸素による通気を実施することで酵母添加前の発酵前液を得た。
【0081】
このようにして得られた発酵前液にビール酵母(下面発酵酵母)を添加して約1週間発酵させた後、さらに約1週間の熟成期間を経て、酵母をろ過で除去して、さらに、必要に応じてプリン体の吸着処理を行いつつ、エキス調整水、アセトアルデヒド、及び酢酸エチルを必要に応じて添加をして、表1~3に示す、プリン体の含有量、原麦汁エキス濃度、糖質含有量、アセトアルデヒドの含有量(X)、及び酢酸エチルの含有量(Y)を有する麦芽発酵飲料(ビールテイスト飲料)をそれぞれ調製した。」
「【0086】
【表1】
[図:0001432101000001.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に、実施例6に着目して整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。
「麦芽使用比率が60質量%であり、プリン体の含有量が1.0mg/100mLであり、プロリンの含有量が206mg/Lである、麦芽発酵飲料(ビールテイスト飲料)。」(以下、「甲1飲料発明」という。)
「麦芽使用比率が60質量%であり、プリン体の含有量が1.0mg/100mLであり、プロリンの含有量が206mg/Lである、麦芽発酵飲料(ビールテイスト飲料)の製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
「麦芽発酵飲料を、ビールテイスト飲料らしい味わいを有し、不適な香りが抑制されるように改良する方法であって、麦芽使用比率が60質量%、プリン体の含有量が1.0mg/100mL、プロリンの含有量が206mg/L、に調整する麦芽発酵飲料(ビールテイスト飲料)を改良する方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1飲料発明とを対比する。
甲1飲料発明は「プリン体の含有量が1.0mg/100mL」であり、「麦芽使用比率が60質量%」であるから、本件特許発明1の「プリン体濃度が2.0mg/100mL以下」、「麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下」との発明特定事項を満たす。
甲1飲料発明は、「麦芽発酵飲料(ビールテイスト飲料)」であり、実施例6の工程からみて、発酵後のアルコールは除去されていないから、本件特許発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「プリン体濃度が2.0mg/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。」
(相違点)
・相違点1
本件特許発明1は「アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下である」と特定するのに対し、甲1飲料発明にはそのような特定がされていない点。
・相違点2
本件特許発明1は「グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下である、」と特定するのに対し、甲1飲料発明にはそのような特定がされていない点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲第1号証には、ビールテイスト飲料中のグリシンおよびアラニンの濃度について、記載も示唆もされておらず、また、他の証拠の記載をみても、甲1飲料発明におけるグリシン及びアラニンの濃度が相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすとも言えない。よって、相違点2は、実質的な相違点である。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1飲料発明において、グリシン及びアラニンの濃度に着目し、それらの濃度を相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けもない。
よって、甲1飲料発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととは言えない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1飲料発明ではなく、甲1飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、以下の通り主張している。
「甲2より、一般的なビール中のグリシン濃度は11.1~45.5mg/L程度、アラニン濃度は15.0~108.7mg/L程度であることが理解できる(ビールテイスト発酵アルコール飲料に該当しないサンプル7を除く。)。
そうすると、甲1発明1及び甲1発明2も同程度のグリシン濃度及びアラニン濃度であると解されるので、甲1発明1及び甲1発明2と本件請求項1に係る発明は、「グリシン濃度が5.5mg/L以上であ」る点、及び「アラニン濃度が4.4mg/L以上であ」る点では、相違しない。」
「また、甲2に基づき、一般的なビール中のグリシン及びアラニンの合計濃度に対してプロリン濃度をプロットした散布図を以下に示す。
[図:0001432101000002.jpg]
例えば、甲3に記載されるとおり、「相関の有無は散布図で視覚的に、相関の強弱は相関係数で定量的に判断できます」(甲3第3頁第1行)。上記散布図から、一般的なビール中のグリシン及びアラニンの合計濃度と、プロリン濃度との間に正の相関があることが視覚的に確認できる。また、線形近似した際のR2値は0.5684であり、線形近似であることからR2値は甲3に記載の相関係数rを2乗した値と同値であり、相関係数r(R2値の平方根)は0.754である。これは、強い正の相関があることを意味する(甲3第5頁の参照)。」
「甲1発明1及び甲1発明2は、プロリン濃度が206mg/Lであるので、近似式(y=3.4232x+97.515)に代入してグリシン及びアラニンの合計濃度を算出すると、31.7mg/Lとなる。
そうすると、甲1発明1及び甲1発明2と本件請求項1に係る発明は、「グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下である」点でも相違しないので、相違点2は実際には相違点ではない。」
「なお、甲1発明1及び甲1発明2は、所定の条件で発酵を行うとともにプリン体の吸着処理等を行い、プリン体の含有量、糖質含有量を調整したものであることから、甲2に記載されるような“一般的なビール”中のプロリン、グリシン及びアラニンの濃度とは異なるという疑義が生じるかもしれないので、この点について以下補足説明を行う。」
「したがって、「プリン体の活性炭による吸着処理」を経たとしてもプロリン、グリシン及びアラニンの濃度はほとんど変化せず、“一般的なビール”の濃度と変わらない。」
しかしながら、甲1飲料発明は、必要に応じてプリン体の吸着処理を行いつつ、エキス調整水、アセトアルデヒド、及び酢酸エチルを必要に応じて添加するという工程によって製造されたものであり、甲第2号証に記載の一般的なビールと同一ではなく、グリシン及びアラニンの濃度が一致するとは言えない。甲第2号証にはグリシン及びアラニンの濃度が本件特許発明1の発明特定事項を満たさない例も記載されていることからみても、甲第2号証の記載は、甲1飲料発明のグリシン及びアラニンの濃度が、本件特許発明1の発明特定事項を満たす根拠とはならない。また、甲第2号証に記載の一般的なビールを元に、甲第3号証の記載を参考に得られた近似式が、一般的なビールではない甲1飲料発明において、適応できる根拠はない。仮に適応できたとしても、甲第2号証に記載のビールは、それぞれ近似式から外れる値を示しており、甲1飲料発明のグリシン及びアラニンの合計濃度が、本件特許発明1の発明特定事項を満たす根拠とはなり得ない。
さらに、甲1飲料発明を製造するために用いられた「吸着処理」が、活性炭によるものか否かも不明である。また、甲第5号証には清酒の醸造工程において、活性炭を用いた場合の、アミノ酸の吸着率が記載されている(甲第5号証の第1図)が、甲第5号証には「活性炭は、ほとんどの物質を吸着する能力を持っているが、その吸着の順位には選択性があり」と記載されており(甲第1号証の第1頁左欄第3~4行)、アミノ酸の吸着率は、溶液中のアミノ酸以外の物質によって左右されると考えられるため、ビールの吸着処理におけるアミノ酸の吸着率が同一であるとは言えない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
ウ 本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲1飲料発明ではなく、甲1飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2、3は、甲1飲料発明ではなく、また、本件特許発明2、3は、甲1飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1製法発明とを対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲1飲料発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「プリン体濃度が2.0mg/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下である、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点3
本件特許発明4は「アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下である」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がされていない点。
・相違点4
本件特許発明4は「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がされていない点。
事案に鑑み、相違点4について検討する。
甲第1号証には、ビールテイスト飲料中のグリシンおよびアラニンの濃度について、記載も示唆もされておらず、また、他の証拠の記載をみても、甲1製法発明におけるグリシン及びアラニンの濃度が相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たすとも言えない。よって、相違点4は、実質的な相違点である。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1製法発明において、グリシン及びアラニンの濃度に着目し、それらの濃度を相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たす範囲に調整する動機付けもない。
よって、甲1製法発明において、相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととは言えない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
オ 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明の「ビールテイスト飲料らしい味わいを有し、不適な香りが抑制されるように改良する方法」は、本件特許発明5の「風味改善方法。」に相当する。その他、両者の間には、本件特許発明1と甲1飲料発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「プリン体濃度が2.0mg/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下である、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法。」
(相違点)
・相違点5
本件特許発明5は「アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下である」と特定するのに対し、甲1方法発明にはそのような特定がされていない点。
・相違点6
本件特許発明5は「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」と特定するのに対し、甲1方法発明にはそのような特定がされていない点。
事案に鑑み、相違点6について検討する。
相違点6は、相違点4と実質的に同様であるから、相違点6は、実質的な相違点であり、容易とも言えない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1方法発明ではなく、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)申立理由1のまとめ
上記のとおり、本件発明1~5は、いずれも甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、申立人が主張する申立理由1によって、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載事項
本件明細書の【0005】には「本発明は、プリン体濃度が低減されつつも、味の強度、味の余韻およびバランスが良好な新規なビールテイスト発酵アルコール飲料の提供を目的とする。」との記載、【0006】には「本発明者らは、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において、グリシン濃度、アラニン濃度およびそれらの合計濃度が所定値となるようにすることで、プリン体濃度が低減されつつも、味の強度、味の余韻およびバランスが良好なものとなることを見出した。」との記載、【0021】には「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造において、グリシンおよびアラニンを添加する場合、これらは食品製造に適しているものであればよく、その形態も、水性溶媒に容易に溶解するものであればよく、液状、粉末状、固形状またはそれらの組合せ等のいかなる形態のものであってもよい。」との記載、【0024】には「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、プリン体濃度が所定の範囲内に低減され、かつ、グリシン濃度、アラニン濃度およびそれらの合計濃度が所定値となるように含有させる限り、その製造手順に制限はなく、・・・プリン体含量の低減は後記の公知の方法に従って行うことができる。このようにして得られたプリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料に、グリシン濃度、アラニン濃度およびそれらの合計濃度が所定値となるようグリシンおよびアラニンを添加し、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料とすることができる。」との記載がある。
また、本件明細書の実施例には、【0047】に試験サンプルの調製方法として「酵素を用いて麦芽を糖化し、濾過することにより麦汁を得た。得られた麦汁にホップと資化性糖を主体として含む液糖とを添加し、100℃で煮沸した。次いで、麦汁を静置して凝固したタンパク質(トリューブ)を分離した後、冷却して発酵前液を得た。得られた発酵前液に下面発酵酵母を添加し、主発酵および後発酵を行い、発酵液を得た。得られた発酵液を低温で貯蔵して発酵を停止させ、濾過することにより、ビールテイスト発酵アルコール飲料(麦芽使用比率53%)を得た。そして、このビールテイスト発酵アルコール飲料を希釈するとともに、醸造用エタノール(95%)、グリシンおよびアラニンを添加することによりベース飲料(表2に示す試験区1)を調製した。このベース飲料に醸造用エタノール(95%)、グリシンおよびアラニンを添加することにより表2に示す試験区2~18の各試験サンプルを調製した。」と記載されている。
さらに、試験区2~18の各試験サンプルの官能評価の結果として、グリシン及びアラニンのそれぞれの濃度及び両者の合計濃度が所定値にある場合に、味の強度、味の余韻及びバランスのいずれも、試験区1のベース飲料と比較して良好な結果が得られたことが記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
当業者は、上記(2)に示した本件明細書の記載事項に基づいて、プリン体濃度が低減され、かつ、グリシン及びアラニンのそれぞれの濃度及び両者の合計濃度が調整されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができ、また、その製造にあたり麦芽使用比率及びアルコール濃度を任意に設定することができる。さらに、グリシン及びアラニンのそれぞれの濃度及び両者の合計濃度が所定値とすることで、製造されたビールテイスト発酵アルコール飲料の、味の強度、味の余韻およびバランスを、良好なものとすることができる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~3に関し、その物を生産し、かつ、その物を使用することができる程度に具体的に記載されており、本件特許発明4に関し、その物を生産する方法を使用することができること、及び、その方法により生産した物の使用等をすることができる程度に具体的に記載されており、また、本件特許発明5に関し、その方法を使用することができる程度に具体的に記載されているものといえる。よって、本件特許発明1~5に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たす。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 2のように主張しているので、その各点について以下、検討する。
ア 評点1.50の記述子が明確でないとの点について
申立人は、本件明細書の実施例における官能評価の評点1.50は、「全く感じられない」と「あまり感じられない」との中間に位置する評点であるが、それがどういった記述子によって表されるかが明確に記載されていない限り、当業者は本官能評価試験を再現することができない、との点を主張している。
上記主張について検討する。
本件特許の明細書の【0048】には「試験区1の各評価項目の評点を1.50と設定し」と記載されており、試験区1の官能評価結果を基準として、評点1.50を設定することは明確である。
してみると、【0048】の記載および【0049】の【表1】に記載の評価基準から、評点1.50は「全く感じられない」と「あまり感じられない」とのちょうど中間であって、試験区1の官能評価結果によって定義される評点であると、パネラーは明確に認識することができるものであり、本官能評価試験は、訓練されたパネラーにより再現することができるものであるといえる。
なお、上記(2)及び(3)のとおり、本件明細書には、本件特許発明1~5を実施することが可能な程度に具体的な記載があり、少なくとも本件特許発明1~4については、官能評価の結果にかかわらず実施可能である。
また、本件特許発明5は「風味改善方法。」であるところ、【0048】及び実施例の記載からみて、グリシン濃度及びアラニン濃度を特定の範囲とすることで、試験区1の官能評価結果を基準として風味が改善されていることは明らかであるから、請求人が主張するように一部の記述子の記載がないとしても、本件特許発明5を実施することができないとまではいえない。
イ 他の主張について
申立人は、表2に示される官能評価結果から、パネラーが小数点第2位までの数値で評価を行ったと理解されるが、このような評価が可能であるとは考えにくい、との点、同一出願人による同日出願の実施例において「甘味の強度」が「味の強度」に代わっているとの点をあげ、実施可能要件違反である旨主張するが、実施可能要件は上記(1)の判断手法に従い、上記(3)のとおり判断されるものであり、特許異議申立人の上記主張は、いずれも上記(3)の判断に影響しない。
ウ 申立人の主張についてのまとめ
上記ア、イのとおり、上記第3 2における申立人の主張は採用することができない。
(5)申立理由2についてのまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立人が主張する申立理由2によって、本件特許発明1~5についての特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の【0005】等の記載からみて、本件発明1~5の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「プリン体濃度が低減されつつも、味の強度、味の余韻およびバランスが良好な新規なビールテイスト発酵アルコール飲料の提供」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載について
本件明細書には、上記2(2)のとおりの記載がある。
(4)サポート要件についての判断
上記2(2)に示した本件明細書の記載から、プリン体濃度を2.0mg/100mL以下とし、さらにグリシン濃度を5.5mg/L以上、アラニン濃度を4.4mg/L以上、グリシンおよびアラニンの合計濃度を20mg/L以上130mg/L以下とすることにより、プリン体濃度が低減されているにもかかわらず、味の強度、味の余韻およびバランスが良好なビールテイスト発酵アルコール飲料とすることができると認識できる。
さらに、実施例において、プリン体濃度0.36mg/100mLの各試験区のサンプルについて、「グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下である」条件を満たす試験区2、4~9、12~17では「味の強度」「味の余韻」「バランス」のいずれの評価値も、試験区1と比較して高かったのに対し、グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/Lを下回る試験区1、3、11では「甘味」「味の余韻」「バランス」のいずれの評価値も低く、試験区1と同程度であったことが記載されている。
上記記載における各成分の含有量及び技術的意義についての記載と、実施例における官能評価結果の記載を参酌すると、プリン体濃度2.0mg/100mL以下のビールテイスト発酵アルコール飲料において、グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下であるとの特定事項を満たすことで、糖質濃度が低減されつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好なビールテイスト発酵アルコール飲料を提供でき、発明の課題を解決できるものと認識することができる。
そして、本件特許発明1~5は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、本件特許発明1~5は、いずれも発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件特許発明1~5に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許のサポート要件に関して第3 3(1)~(3)のように主張する。
しかしながら、実施例の記載からは、グリシンとアラニンの濃度を変えることによる傾向が示されているものといえるから、評点の付し方の点を根拠とする特許異議申立人の上記主張は採用できない。
また、他の出願との記載の関係は、サポート要件の判断とは関係がない。
さらに、特許異議申立人は、本件特許発明において具体的に効果を奏し得ないとする根拠を提示するものでもないから、特許異議申立人の上記主張は、いずれも採用できない。
(6)申立理由3についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明1~5は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立人が主張する申立理由3によって、本件特許発明1~5についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由によって、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700978