特許異議申立
2024-700371
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2024-700371
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-066991
- 登録番号
- 7365450
- 請求日
- 2024年04月19日
- 審決日
- 2024年09月20日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【権利者代理人】福島 直樹
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.121-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7365450号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7365450号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7365450(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、
平成28年 4月26日にされた特許出願(特願2020-102432号)の一部を、
令和 4年 4月14日に新たな特許出願としたものであり、
令和 5年10月11日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、
令和 5年10月19日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 6年 4月19日に特許異議申立人 山内 慶子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
原料中の麦原料の比率が50質量%以上であり、糖質含有量が0.60g/100ml以下であり、酢酸イソアミル濃度が2ppm以下であり、アルコール濃度が8体積%以下である、ビールテイスト飲料(但し、原料中の麦芽の比率が100質量%であるビールを除く。)。
【請求項2】
酢酸エチルを含有し、酢酸エチルに対する酢酸イソアミルの含有質量比が0.060以下である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
麦原料が麦芽及び大麦を含み、麦芽と大麦との比率が20:80~100:0である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
アルコールチルヘイズが0.2以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
アルコール濃度が3体積%以上8体積%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
麦原料由来の食物繊維含有量が0.1g/100ml以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項7】
前記アルコールチルヘイズが一次ろ過後、48時間以内に測定された値である、請求項4に記載のビールテイスト飲料。
【請求項8】
原料中の麦原料の比率が50質量%以上であり、糖質含有量が1.0g/100ml未満、酢酸イソアミル濃度が2ppm以下、一次ろ過後48時間以内に測定されるアルコールチルヘイズが0.2以下となるように調整する工程を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和 6年 4月19日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2006-149367号公報
甲第2号証:米国特許第3717471号公報
甲第3号証:日本醸造協会誌第109巻第6号、第417~425頁
甲第4号証:ビールのはなし Part2 おいしさの科学、44頁、47頁
甲第5号証:特開2014-124154号公報
甲第6号証:「糖質と食物繊維について」一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC第一理化学検査室、URL:http://www.mac.or.jp/mail/191101/03.shtml
甲第7号証:Beer in Health and Disease Prevention,“Dietary Fiber in Beer:Content,Composition,Colonic Fermentability,and Contribution to the Diet”,2009,pp.299-307
甲第8号証:BRAUINDUSTRIE,1/2 vol.67,pp.76-79
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審による判断
当審は以下に述べるように申立理由1ないし2によっては本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、「良好な醸造香を有するビールテイスト発酵飲料の製造方法」に関し、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
炭素源、窒素源、水および所望によりホップを含む原料からなる発酵原液をアルコール発酵させて発酵飲料を製造する方法において、原料に窒素源としてとうもろこしタンパク分解物を含めることにより香味の優れた発酵飲料を製造する方法。
【請求項2】
発酵飲料がビールテイスト発酵飲料である請求項1記載の方法。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味の優れたビールテイスト発酵飲料とその製造方法に関する。」
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は酢酸イソアミルを豊富に含む嗜好性の高い発酵飲料、特にビールテイスト発酵飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、麦芽など麦由来の成分の使用比率が低い場合においても、酢酸イソアミルを豊富に含む嗜好性の高い醸造酒を製造できる方法であれば、ビール様アルコール飲料の原料として使用可能であると考え、原料中の分枝アミノ酸に着目し、とうもろこしタンパク分解物を原料として選択した。
【0009】
通常、ビールテイスト発酵飲料の原料に、麦以外の穀物を用いると、穀物由来の独特の臭いが強くなり、ビール様の好ましい風味が損われる。しかしながら、本発明者らは、穀物のタンパク分解物は麦以外のものでも穀物由来の独特の臭いを生じること無しに、ビールテイスト発酵飲料の原料として用い得ることを見出した。
【0010】
そこで、各種穀物のタンパク分解物について、アミノ酸組成や香味への影響などを詳細に検討した。その結果、とうもろこしタンパク分解物が分枝アミノ酸の1つであるロイシンを麦芽などに比べ豊富に含むこと、および、これを発酵液のアミノ酸源として添加し酵母発酵した場合、飲料中の酢酸イソアミル含量は非常に高くなること、さらには、麦芽を全くまたは少量しか原料に使用しなくても発酵飲料にビール様の風味を与えうることを見出した。
【0011】
したがって、本発明は、とうもろこしタンパク分解物を原料の一部に用いることを特徴とする発酵飲料の製造方法、より詳細には、炭素源、窒素源、水、所望によりホップを含む原料からなる発酵原液をアルコール発酵させて発酵飲料を製造する方法において、原料にとうもろこしタンパク分解物を含めることにより香味の優れた発酵飲料を製造する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、香味の優れたビールテイスト発酵飲料とその製造方法が提供される。特に、主な炭素源として糖類を用いるビールテイストの発酵飲料において、主な窒素源として、ロイシンを多く含むとうもろこしタンパク分解物を用い、更に、酵母エキスなどの増殖発酵助剤を用いることで、酢酸イソアミル含量の高い、香味の優れた発酵飲料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発酵飲料
本発明の発酵飲料は酵母による発酵工程を経て製造される飲料を全て包含する。本発明が提供する発酵飲料、そのなかでもビールテイスト発酵飲料とは、炭素源、窒素源、ホップ類などを原料とし、酵母で発酵させた飲料であって、ビールのような風味を有するものをいう。通常は麦芽および大麦、米、とうもろこしなどの穀物類を糖化して得た糖液や、糖類そのものから得た糖液などに、酵母を添加し発酵させる工程を経るが、窒素源としては、麦芽以外の植物由来のタンパク質もしくはその加水分解物を利用する場合もある。ビールテイスト発酵飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽発酵飲料)などが挙げられる。」
「【0018】
したがって、ビールテイスト発酵飲料である本発明の態様において、製造原料にビール同様に麦芽を含めてもよいが、麦芽や麦を全く使用しなくても、あるいはそれらを固形分換算で原料の50重量%以下、好ましくは25重量%以下しか使用しなくても、ビールに匹敵する優れた香味のビールテイスト飲料が製造できる。」
「【0025】
更に、本発明においては、必要に応じて、色素や泡形成剤、香料、水溶性食物繊維などを添加することができる。色素についてはビール様の色を与えるために使用するものであり、カラメル色素などをビール様の色彩を呈する量添加する。ビール様の泡を形成させるため、大豆サポニン、キラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、牛血清アルブミン等のタンパク質系物質などを適宜使用する。ビール様の風味付けのためにビール風味を有する香料を適量使用することができる。さらに難消化性デキストリン、ポリデキストロース、水溶性トウモロコシ繊維などの水溶性食物繊維を必要により添加することができる。
低糖質または低カロリー発酵飲料
本発明の発酵飲料の好ましい態様の一つは、低糖質または低カロリー発酵飲料である。
【0026】
本発明の方法を用いて得られる発酵飲料は、そのまま飲用することができるが、糖質やカロリーをできるだけ摂取せずに楽しむことが可能な発酵飲料を製造するために、これを希釈して、低糖質ビールテイスト発酵飲料を製造することができる。それは、本発明で発酵原料中に使用するとうもろこしのタンパク分解物はイソロイシンを豊富に含有し、醸造中に酢酸イソアミルが豊富に生成するためである。特に、酢酸イソアミルが発酵物上清中に、2.0ppmを超え且つ10.0ppm未満まで含まれるように条件を設定して発酵を行うと、得られた発酵飲料を5~8倍に希釈しても、香味の優れた発酵飲料となることが判明した(特願2005-157921)。希釈は水により行うが、このとき低糖質発酵飲料に不足する呈味物質を補うため、酸味料、甘味料、苦味料、アルコールを一緒に添加してもよく、あるいは呈味物質の補足は、希釈操作後に別途行うこともできる(特願2005-157921)。
【0027】
糖質の低下は希釈による方法の代わりに、または希釈による方法と組み合わせて、炭素源として酵母が資化しやすい3糖類、2糖類および単糖類の比率を高めた(例えば全炭素源の80%以上にした)、発酵原料を用いることで行うことも可能である。
【0028】
低糖質とは、発酵飲料中の糖質濃度が、固形分換算で0.8重量%、特に0.5重量%未満であることを意味する。低糖質であることが好ましい発酵飲料には、清酒、ワイン、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類、雑酒、ビールテイスト発酵飲料などが含まれる。特に発泡酒、ビールテイスト発酵飲料が好ましく、特にビールテイスト発酵飲料が好ましい。」
「【0061】
実施例7 低糖質、低カロリー飲料の製造例
仕込水85kgに対し、四糖類以上の糖組成が7%の糖シロップ(加藤化学製)を15kg、とうもろこしタンパク分解物200g(0.2重量%)、酵母エキス200g(0.2重量%)、とうもろこしの繊維画分を高温高圧処理したコーン穀皮加工品0.01重量%、カラメル色素200g、ペレットホップ160gを加えた。これらを60分間煮沸した後、静置してホップ粕」を除き、発酵原液を得た。この発酵原液に、ビール酵母(Weihenstephan-34株)を生菌数20×106cells/mlになるように添加し、温度13℃にて8日間発酵させた。炭素源資化終了後、ろ過により酵母を取り除き、発酵液に対し4倍容量の脱気水にて希釈し、得られた発酵飲料を瓶に充填した。この発酵飲料の発酵終了時(希釈前)、および瓶充填時(希釈後)での酢酸イソアミル含量をAnalytica-EBC法に則り、ガスクロマトグラフィーにて測定した。また、製品の糖濃度をBCOJ法により測定した。カロリーおよびアルコール濃度は定法により測定した。
【0062】
なお、本実施例で用いたとうもろこしタンパク分解物およびとうもろこしの繊維画分を高温高圧処理したコーン穀皮加工品は、本出願と同日に本出願人によりされた特許出願(発明の名称:分画したコーンを用いた発酵飲料)の実施例3および実施例4でそれぞれ製造されたものである。
結果を表7に示す。
【0063】
【表7】
[図:0001415320000001.jpg]
【0064】
糖質、カロリーを下げるために4倍希釈したにもかかわらず生成した酢酸イソアミルは希釈後でも1.2ppmと、通常市販ビール並の値となり本発明が実際の発酵飲料製造に適用できることが示された。」
イ 甲1に記載された発明
上記アより、甲1の実施例7を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1飲料発明」、「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1飲料発明>
「原料として糖シロップ、とうもろこしタンパク分解物、酵母エキス、とうもろこしの繊維画分を高温高圧処理したコーン殻皮加工品、カラメル色素、及びペレットホップを用いて、ビール酵母を用いた発酵を行った後、濾過により酵母を取り除き、得られた発酵液に4倍容量の脱気水で希釈して瓶に充填してなる低糖質・低カロリーのビールテイスト発酵飲料であって、酢酸イソアミル1.2ppm、糖濃度0.46w/w%、アルコール1.5v/v%のビールテイスト発酵飲料。」
<甲1製法発明>
「甲1飲料発明の製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1飲料発明とを対比する。
甲1飲料発明における「酢酸イソアミル1.2ppm」は、本件特許発明1における「酢酸イソアミル濃度が2ppm以下」との特定事項を満たす。
また、甲1飲料発明における「アルコール1.5v/v%」は、本件特許発明1における「アルコール濃度が8体積%以下」との特定事項を満たす。
さらに、甲1飲料発明における「ビールテイスト発酵飲料」は、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料(但し、原料中の麦芽の比率が100質量%であるビールを除く。)。」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1飲料発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「酢酸イソアミル濃度が2ppm以下であり、アルコール濃度が8体積%以下である、ビールテイスト飲料(但し、原料中の麦芽の比率が100質量%であるビールを除く。)。」
<相違点1-1>
本件特許発明1は、「原料中の麦原料の比率が50質量%以上」との特定を有するのに対し、甲1飲料発明はそのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「糖質含有量が0.60g/100ml以下」との特定を有するのに対し、甲1飲料発明はそのような特定がない点。
相違点1-1について検討する。
甲1飲料発明におけるビールテイスト飲料は、麦原料を使用していない。よって、相違点1-1は実質的な相違点である。
そして、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1飲料発明において、原料中の麦原料の比率を50質量%以上とする動機となる記載はない。
特許異議申立人は特許異議申立書(第19頁下から7行~第21頁第18行)において、「甲1の背景技術【0002】~【0005】」に記載のとおり、麦芽などの麦の使用量が少ない発酵飲料は酢酸イソアミルなどのエステル香が減少してしまうという従来からの問題、および、酢酸イソアミルを豊富に含む嗜好性の高い発酵飲料の提供という課題(【0005】)によれば、発酵飲料中のエステル(酢酸イソアミル)の含有量を増やす麦原料の比率を増やすことは、強く動機付けられる」、「甲1の【0018】には、ビールテイスト発酵飲料である本発明の態様において、製造原料にビール同様に麦芽を含めても良いが、麦芽麦を全く使用しなくても、あるいはそれらを固形分換算で原料の50重量%以下、好ましくは25重量%以下しか使用しなくても、ビールに匹敵する優れた香味のビールテイスト飲料が製造できる。」との記載があ」り「麦芽や麦を全く使用しない態様、麦芽等を50重量%以下しか使用しない態様の記載があることから」甲1記載の「製造原料にビール同様に麦芽を含めた態様とは、麦芽や麦を原料の50重量%以上用いる態様に他ならない。」「甲1の【0018】には、原料中の麦芽又は麦の比率を50重量%以上100重量%未満とすることの開示があるといえる。」と主張している。
しかしながら、甲1【請求項1】には「原料に窒素源としてとうもろこしタンパク分解物を含めることにより香味の優れた発酵飲料を製造する」ことが記載され、甲1【請求項10】には「原料に窒素源としてとうもろこしタンパク分解物を含めることにより、製造される発酵飲料中の酢酸イソアミル量を増加させる」とあり、甲1【0017】には「本発明の発酵飲料の優れた香味は、とうもろこしタンパク分解物中のロイシンから発酵中に産生する酢酸イソアミルの香りに由来」し、甲1【0018】「したがって、ビールテイスト発酵飲料である本発明の態様において、製造原料にビール同様に麦芽を含めてもよいが、麦芽や麦を全く使用しなくても、あるいはそれらを固形分換算で原料の50重量%以下、好ましくは25重量%以下しか使用しなくても、ビールに匹敵する優れた香味のビールテイスト飲料が製造できる。」と記載されていることから考えると、甲1には、甲1飲料発明において、原料中の麦原料の比率を高くし、これを50重量%以上とする動機がなく、他の全ての証拠をみても、そのように調整する動機がない。
また、仮に甲1飲料発明において、原料中の麦原料の比率を50質量%以上に変更した場合には、酢酸イソアミル濃度も変動する。すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明【0060】【表1】に記載されている本願実施例・比較例から理解されるように、麦原料を使用した場合、添加される酵素の種類及び添加量によっては、酢酸イソアミル濃度が2ppmを超える場合もあることが理解される。そして、甲1飲料発明において、原料中の麦原料の比率を50質量以上とし、かつ、酢酸イソアミル濃度を2ppm以下とするように調整する動機となる記載は甲1及び他のいずれの証拠にも存在しない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし7は、甲1飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明8について
本件特許発明8と甲1製法発明とを対比すると、上記アと同様の対応関係を有する。
そうすると、本件特許発明8と甲1製法発明の一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「酢酸イソアミル濃度が2ppm以下となるように調整する工程を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」
<相違点1-3>
本件特許発明8は、「原料中の麦原料の比率が50質量%以上」との特定を有するのに対し、甲1製法発明はそのような特定がない点。
<相違点1-4>
本件特許発明8は、「糖質含有量が1.0g/100ml未満」となるように調整する工程を含むとの特定を有するのに対し、甲1製法発明はそのような特定がない点。
<相違点1-5>
本件特許発明8は、「一次ろ過後48時間以内に測定されるアルコールチルヘイズが0.2以下」となるように調整する工程を含むとの特定を有するのに対し、甲1製法発明はそのような特定がない点。
相違点1-3は、上記アの相違点1-1と同旨であり同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1についてのまとめ
本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は特許法第113条第2号に該当しない。
よって、申立理由1によって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2の記載事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には、「低糖質ビールの製造」に関して次の事項が記載されている。なお、甲2は外国語文献であるため、日本語訳文を摘記する。
「本発明は、標準的な醸造方法から逸脱する必要がなく、ビールの風味を損なう可能性のある物質の添加を必要としない、低炭水化物ビールを製造するための非常に単純かつ効率的なプロセスを提供する。」(第1欄第54~58行)
「実施例2
実施例1の麦芽ブレンドは、大規模なビール製造に使用された。麦芽は、約80%が2mmの篩開口部を有するNo.10 U.S. Sieve Seriesふるい上に保持されるように粉砕した。
3400ポンドの第1の量の麦芽を、85バレルの水と、5ポンドのタンパク質分解酵素マッシングサプリメント(Mashase,ファイザー製)とを混合し、撹拌しながら38℃で1時間保持した。次いでマッシュをローター槽に流し込み、仕込開始前に15分間放置した。仕込んだ麦汁を10分間循環させ、デンプンを糖化するために、麦汁を約65℃に維持するために釜を加熱した。仕込み中に、麦汁に、2900ポンドのグルコースと、1ポンドの糖化酵素(HT-1000,マイルズラボラトリーズ製)を添加した。ローター槽内の液面は約30分で穀物床まで下がり、その後38℃の醸造用水を加えて、釜内に合計約140バレルの麦汁を得た。麦汁が165バレルとなるように、追加の醸造用水を釜に直接加えた。
麦汁を1時間30分間煮沸し、その間に36ポンドのホップを加え、30分間煮沸した後に、12ポンドのホップを加え、1時間25分後に24ポンドのホップを加えた。麦汁は約12℃まで冷却した。麦汁は、8.9°Platoのエキス濃度と0.47%のタンパク質含有量を有していた。
3400ポンドの第2の量の麦芽を、第1の量と同様の方法で抽出した。抽出後、最初の50バレルの抽出物を収集した。2700ポンドのグルコースおよび0.75ポンドの糖化酵素(HT-1000)を抽出液に添加し、約65℃に保持し、デンプンの糖化を行った。水を加えて麦汁の総量を約160バレルとし、第1の麦汁と同様に、麦汁を沸騰させてホップを添加した。第2の麦汁は、7.4 °Platoのエキス濃度と、0.31%のタンパク質含有量を有していた。
第1の麦汁と第2の麦汁を合わせた総量は300バレルとした。合わせた麦汁のタンパク質含有量は0.40%、エキス濃度は8.15°Platoであった。合わせた麦汁に5ポンドの糖化酵素(Brewers Fermex、Wallerstein Company)を添加し、ビール酵母を用いて麦汁を1バレル当たり1ポンドの割合でピッチングした。麦汁を9~11℃の温度で9日間発酵させ、その後2日間放置し、その後一部を濾過して分析用に瓶詰めした。ビールの分析結果を表3に示す。)」(第6欄第9~56行)
「真正エキス,パーセント 1.12
アルコール, パーセント 3.49
色度,°Lov 2.7
pH 4.00
タンパク質,パーセント 0.21
還元糖,パーセント マルトース 0.39
デキストリン,パーセント 0.05
R.D.F,パーセント 85.2
泡,シグマ 81
灰分,パーセント 0.10
炭水化物/タンパク質 比 3.6/1
カロリー/12オンス(calc.) 102.6
炭水化物のカロリー/オンス(calc.) 0.96」(第6欄 TABLE 3)
イ 甲2に記載された発明
上記アより、甲2の実施例2を中心に整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2飲料発明」、「甲2製法発明」のようにいう。)が記載されていると認める。
<甲2飲料発明>
「3400ポンドの第1の量の麦芽を、85バレルの水と、5ポンドのタンパク質分解酵素マッシングサプリメント(Mashase,ファイザー製)とを混合し、撹拌して38℃で1時間保持し、ローター槽に流し込み、仕込開始前に15分間放置した麦汁を10分間循環させ、2900ポンドのグルコースと、1ポンドの糖化酵素(HT-1000,マイルズラボラトリーズ製)を添加し、麦汁を約65℃に維持し、麦汁が165バレルとなるように、追加の醸造用水を釜に加え、当該麦汁を1時間30分間煮沸し、36ポンドのホップを加え、30分間煮沸し、12ポンドのホップを加え、1時間25分後に24ポンドのホップを加え、麦汁は約12℃まで冷却して165バレルの第1の麦汁を得、
3400ポンドの第2の量の麦芽を、第1の麦汁と同様に抽出し、抽出後、最初の500バレルを収集し、2700ポンドのグルコースおよび0.75ポンドの糖化酵素(HT-1000)を抽出液に添加し、約65℃に保持し、デンプンの糖化を行い、水を加えて麦汁の総量を約160バレルとし、第1の麦汁と同様に、麦汁を沸騰させてホップを添加して第2の麦汁を得、
第1の麦汁と第2の麦汁を合わせた総量は300バレルとし、合わせた麦汁に5ポンドの糖化酵素(Brewers Fermex、Wallerstein Company)を添加し、ビール酵母を用いて麦汁を1バレル当たり1ポンドの割合でピッチングし、麦汁を9~11℃の温度で9日間発酵させ、その後2日間放置して製造された、以下分析値を有するビール。
真正エキス,パーセント 1.12
アルコール, パーセント 3.49
色度,°Lov 2.7
pH 4.00
タンパク質,パーセント 0.21
還元糖,パーセント マルトース 0.39
デキストリン,パーセント 0.05
R.D.F,パーセント 85.2
泡,シグマ 81
灰分,パーセント 0.10
炭水化物/タンパク質 比 3.6/1
カロリー/12オンス(calc.) 102.6
炭水化物のカロリー/オンス(calc.) 0.96」
<甲2製法発明>
「甲2飲料発明を製造する方法。」
(2)検討
本件特許発明1と甲2飲料発明とを対比する。
甲2飲料発明における「 アルコール, パーセント 3.49」は、重量パーセントであるのか体積パーセントであるのか判然としないが、いずれであったとしても、本件特許発明1における「アルコール濃度が8体積%以下」との特定事項は満たす。
甲2飲料発明における原料は、3400ポンドの麦芽と2900ポンドのグルコースと合計72ポンドのホップから165バレルの第1の麦汁を得、3400ポンドの麦芽と2700ポンドのグルコースと合計72ポンドのホップから135バレルの第2の麦汁を得、これを発酵させているから、原料中の麦原料の比率は、[3400/(3400+2900+72)]×[165/(165+135)]+[3400/(3400+2700+72)]×[135/(165+135))=54.13重量%である。
よって、甲2飲料発明は本件特許発明1における「原料中の麦原料の比率が50質量%以上」との特定事項を満たす。
また、甲2飲料発明の「ビール」は、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料(但し、原料中の麦芽の比率が100質量%であるビールを除く。)。」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2飲料発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「原料中の麦原料の比率が50質量%以上であり、アルコール濃度が8体積%以下である、ビールテイスト飲料(但し、原料中の麦芽の比率が100質量%であるビールを除く。)。」
<相違点2-1>
本件特許発明1は、「糖質含有量が0.60g/100ml以下」との特定を有するのに対し、甲2飲料発明はそのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1は、「酢酸イソアミル濃度が2ppm以下」との特定を有するのに対し、甲2飲料発明はそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
甲2には、甲2飲料発明における酢酸イソアミルの濃度について何ら記載されていない。したがって、相違点2-2は実質的な相違点である。
そして、甲2及び他の全ての証拠をみても、甲2飲料発明において、相違点2-2に係る酢酸イソアミル濃度を2ppm以下に調整する動機となる記載はない。
特許異議申立人は、特許異議申立書(第36頁下から第10行~第37頁第13行)において、酢酸イソアミルは、発酵中に酵母によって生産されるエステル類として知られ(甲3)、甲1の【0064】には、糖質、カロリーを下げるために4倍も希釈したにもかかわらず生成した酢酸イソアミルは希釈後でも1.2ppm、通常のビール並みの値であった旨記載され、甲8には米国産のライトビール(Amerikanische Leichtbiere)の酢酸イソアミルの含有量が1.0~1.8mg/l(ppm)であることが記載されているから、甲1や甲8の記載に基づき、甲2発明のビールに香味を付与するために、酢酸イソアミル濃度を「1.2ppm」程度もしくは、「1.0~1.8ppm」程度に調整しようと動機付けられると主張している。
しかしながら、甲1に記載されている低糖質、低カロリーの発酵ビールテイスト飲料は、糖シロップ、とうもろこしタンパク質分解物、とうもろこしの繊維画分を高温高圧処理したコーン殻皮加工品を原料としたものであって、甲2飲料発明のような麦原料を多く使用した発酵ビールテイスト飲料ではないことから、甲2飲料発明に、原料組成が大きく異なる甲1の発酵ビールテイスト飲料の酢酸イソアミル濃度を適用する動機がない。
また、甲8に記載された米国産ライトビールは、酢酸イソアミル濃度の分析値のみが開示されているものであって、原料及び製造方法について何等手がかりとなる記載はなく、甲8に記載された米国産ライトビールの酢酸イソアミル濃度を甲2飲料発明に適用する動機はない。
そして、甲2には酢酸イソアミルに関する着眼はなく、甲2及び他の全ての証拠をみても、甲2飲料発明において、酢酸イソアミル濃度を2ppm以下に調整しようとする動機となる記載はない。また、甲2には、甲2飲料発明のような麦芽比率の高い発酵ビールにおいて、酢酸イソアミルの濃度を低く抑えるための酵母の工夫や製造方法に関する事項についても何ら記載はないから、甲2飲料発明の酢酸イソアミル濃度が「1.2ppm程度」や「1.0~1.8ppm程度」であって、2ppm以下であった蓋然性が高いともいえない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし7は、甲2飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明8について
本件特許発明8と甲2製法発明とを対比すると、上記アと同様の対応関係を有する。
そうすると、本件特許発明8と甲2製法発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「原料中の麦原料の比率が50質量%以上である、ビールテイスト飲料の製造方法。」
<相違点2-3>
本件特許発明8は、「糖質含有量が1.0g/100ml未満」となるように調整する工程を含むとの特定を有するのに対し、甲2製法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-4>
本件特許発明8は、「酢酸イソアミル濃度が2ppm以下」となるように調整する工程を含むとの特定を有するのに対し、甲2製法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-5>
本件特許発明8は、「一次ろ過後48時間以内に測定されるアルコールチルヘイズが0.2以下」となるように調整する工程を含むとの特定を有するのに対し、甲2製法発明はそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-4について検討する。
相違点2-4は、上記アの相違点2-2と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2についてのまとめ
本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、申立理由2によって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700371