特許異議申立
2023-700138
ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法及びビールテイスト飲料の高級感を改善する方法
- 審判番号
- 2023-700138
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-200945
- 登録番号
- 7116536
- 請求日
- 2023年02月09日
- 審決日
- 2023年12月14日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【権利者代理人】福島 直樹
- 【異議申立人】榎本 修
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C) / P1651.536-YAA(C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7116536号発明「ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法及びビールテイスト飲料の高級感を改善する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7116536号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕及び5について訂正することを認める。
特許第7116536号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7116536号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成29年10月17日を出願日とする出願であって、令和4年8月2日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年2月9日に特許異議申立人 榎本 修(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされ、同年同月10日に特許異議申立人 山内 慶子(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされ、同年5月1日付けで取消理由が通知され、同年6月22日に特許権者 サッポロビール株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月29日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月31日に特許異議申立人Aから意見書及び上申書が提出され、同年8月1日に特許異議申立人Bから意見書が提出され、同年同月31日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年10月23日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされたものである。
なお、令和5年6月22日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、すでに特許異議申立人A及びBに意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和5年10月23日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6及び7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となるものであって、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときと判断されるから、特許異議申立人A及びBに再度の意見書の提出の機会を与えていない。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年10月23日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料を除く。)」とあるのを「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Hornindal)を用いるビール、酵母(Safale US-05)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)」と訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料を除く。)」とあるのを「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Hornindal)を用いるビール、酵母(Safale US-05)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)」と訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、令和5年5月1日付けで通知された取消理由で引用された甲第A1-1ないしA3号証に記載された発明及び同年8月31日付けで通知された取消理由(決定の予告)で引用された甲第A1-1号証に記載された発明を除くことを意図するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2ないし4についての訂正について
訂正事項1による請求項2ないし4についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2ないし4についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項5についての訂正について
訂正事項2による請求項5についての訂正は、令和5年5月1日付けで通知された取消理由で引用された甲第A1-1ないしA3号証に記載された発明及び同年8月31日付けで通知された取消理由(決定の予告)で引用された甲第A1-1号証に記載された発明を除くことを意図するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1ないし5についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2による請求項1ないし5についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1による請求項1ないし4についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、訂正事項2による請求項5についての訂正は、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし6に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕及び5について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下であり、
酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であり、
酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が、25以下であり、
2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計がビールテイスト飲料全量に対して100mg/L以上である、ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Hornindal)を用いるビール、酵母(Safale US-05)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)。
【請求項2】
発酵飲料である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
アルコール度数が1v/v%以上である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
原料中の麦芽の比率が50質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下、酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下、酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が、25以下、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計がビールテイスト飲料全量に対して100mg/L以上となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Hornindal)を用いるビール、酵母(Safale US-05)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)の製造方法。
【請求項6】
酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下、酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下、酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が、25以下、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計がビールテイスト飲料全量に対して100mg/L以上となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料を除く。)の高級感を改善する方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年2月9日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1-1号証に基づく新規性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1-1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(甲第A1-1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1-1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由A3(甲第A2号証に基づく新規性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由A4(甲第A2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由A5(甲第A3号証に基づく新規性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(6)申立理由A6(甲第A3号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(7)申立理由A7(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、本件特許発明1ないし6が解決しようとする課題は、高級感に優れたビールテイスト飲料、当該ビールテイスト飲料の製造方法及びビールテイスト飲料の高級感を改善する方法を提供することである(【0005】)。
本件特許発明1ないし6は、「2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計がビールテイスト飲料全量に対して100mg/L以上であること」という発明特定事項を備える発明であるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が高い場合においても、高級感(フルーティーな香りが分離されずに、まとまりがあること)に優れたビールテイスト飲料を提供できるとは認められない。
また、本件特許発明1ないし6は、本件特許の請求項2及び本件特許明細書の記載から、ビールテイスト飲料としてアルコール度数が非常に高いものまでを包含している発明であると解される。ここで、甲第A16号証から甲第A21号証に記載されるような、エタノールは、独特の刺激のある不快な香味を有しており、その濃度(アルコール度数)が高くなるとその影響が大きくなることから、アルコール度数が高いアルコール飲料を好ましく思わない人も存在しているという技術常識を考慮すると、ビールテイスト飲料としてアルコール度数が非常に高い場合においても、高級感(フルーティーな香りが分離されずに、まとまりがあること)に優れたビールテイスト飲料を提供できるとは認められない。
したがって、本件特許発明1ないし6は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(8)申立理由A8(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1ないし6は、酢酸イソアミルの含有量及び酢酸2-メチルブチルの含有量を所定の範囲にすることを構成としている。しかしながら、本件特許明細書には、酢酸イソアミルの含有量及び酢酸2-メチルブチルの含有量の測定方法に関しては記載がない。してみると、酢酸イソアミルの含有量及び酢酸2-メチルブチルの含有量の測定方法が明らかではないから、酢酸イソアミルの含有量及び酢酸2-メチルブチルの含有量を所定の範囲にすることを発明特定事項とする本件特許発明1ないし6は、その実施において、当業者に過度の試行を強いるものであるといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1ないし6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(9)証拠方法
甲第A1-1号証:Characterization of genotype and beer fermentation properties of Norwegian Farmhouse Ale Yeasts,Truls C.Rasmussen,Norwegian University of Science and Technology,Master thesis,2016、2016年
甲第A1-2号証:ウェブページ印刷物(甲第A1-1号証の書誌事項)(URL:https://ntnuopen.ntnu.no/ntnu-xmlui/handle/11250/2390204)、2022年12月31日(印刷日)
甲第A1-3号証:ウェブページ印刷物(甲第A1-1号証の書誌事項)(URL:https://ntnuopen.ntnu.no/ntnu-xmlui/handle/11250/2390204?show=full)、2022年12月31日(印刷日)
甲第A2号証:特許第3955414号公報
甲第A3号証:ASBC Journal,Vol.43,No.4,1985,p.179-182、1985年、American Society of Brewing Chemists,Inc.
甲第A4号証:特開2004-224770号公報
甲第A5号証:PubChemのウェブページの印刷物(URL:https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/12209#section=Depositor-Supplied-Synonyms&fullscreen=true)、印刷日:2023年1月8日
甲第A6号証:日本醸造協会誌、第96巻、第3号、151~164頁、2001年、財団法人日本醸造協会
甲第A7号証:日本醸造協会誌、第84巻、第11号、739~745頁、1989年、財団法人日本醸造協会
甲第A8号証:Functional Genetics of Industrial Yeasts,p.143-170(2003),Springer
甲第A9号証:醸造物の成分、第VII章 エステル、210~213頁、平成11年12月10日、財団法人日本醸造協会
甲第A10号証:ビールの化学 麦とホップが生み出すおいしさの秘密、124~125頁、2009年3月20日、株式会社講談社
甲第A11号証:特開2017-176163号公報
甲第A12号証:特表2002-509726号公報
甲第A13号証:醸造物の成分、第I章 一般成分、181~186頁、平成11年12月10日、財団法人日本醸造協会
甲第A14号証:世界ビール大百科、56~57頁、296~297頁、1997年12月10日、株式会社大修館書店
甲第A15号証:Journal of the American Society of Brewing Chemists,59:4,157-162、2001年、American Society of Brewing Chemists,Inc.
甲第A16号証:国際公開第2017/010000号
甲第A17号証:特開2011-36129号公報
甲第A18号証:特開2009-195122号公報
甲第A19号証:特開2008-48691号公報
甲第A20号証:特開2005-95068号公報
甲第A21号証:特開2003-289824号公報
甲第A22号証:日本醸造協会誌、第95巻、第11号、791~802頁、2000年、財団法人日本醸造協会
甲第A23号証:日本醸造協会誌、第95巻、第12号、856~866頁、2000年、財団法人日本醸造協会
甲第A24号証:特開2006-149367号公報
甲第A24号証:特開2011-36129号公報
甲第A22ないしA24号証は、令和5年7月31日に提出された意見書に添付されたものである。証拠の表記は、特許異議申立書A及び上記意見書に添付された証拠説明書の記載におおむね従った。以下、順に「甲A1-1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年2月10日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく新規性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲第B1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由B3(甲第B2号証に基づく新規性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由B4(甲第B2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由B5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許明細書の記載から発明の課題を解決できると認識できないこと
本件特許発明1ないし6は、ビールテイスト飲料が有する香味の中でも、高級感に改善の余地があることを見出したことに基づき為されたものであり、高級感に優れたビールテイスト飲料、当該ビールテイスト飲料の製造方法およびビールテイスト飲料の高級感を改善する方法を提供することを課題とする(【0004】、【0005】)。
しかしながら、本件特許明細書の記載および本件特許出願時の技術常識を踏まえても、当業者は、本件特許発明1ないし6が発明の課題を解決できると認識することができない。その理由は以下のとおりである。
(ア)本件特許明細書の【0049】では、「高級感」について、「フルーティーな香りが分離されずにまとまりがあること」と記載されているが、そもそも、香りが分離されるとかまとまるとか、当業者において全く意味が不明である。
(イ)各パネルの主観を極力排除するような配慮がなされていない試験例1~3の官能評価は、「高級感」という風味を客観的に正確に評価したものとはいえない。
(ウ)本件特許明細書には、実施例および比較例として用意されたビールテイスト飲料を「7段階」で評価したことが記載されているが(【0049】)、評点1~7点に相当するビールテイスト飲料がそれぞれどのような風味を呈するものなのかという判断基準が一切説明されていない。
このように、本件特許明細書に開示された実施例(試験例1~3)は、官能評価の肝ともいえる風味の判断基準や評価方法が不明であり、適切に実施されたものとはいえない。
したがって、当業者は、発明の詳細な説明および本件特許出願時の技術常識に照らし、本件特許発明1ないし6が発明の課題を解決できると理解することができない。
イ 本件特許発明1ないし6は発明の課題を解決できない態様を包含すること
2-メチルブタノールおよび3-メチルブタノールの含有量の合計の上限値を規定しない本件特許発明1ないし6は、発明の課題を解決できない態様を包含するものである。
(6)証拠方法
甲第B1号証:BRAUINDUSTRIE、1983年4月、Vol.68、574-581頁
甲第B2号証:BRAUINDUSTRIE、1995年4月、Vol.80、296-305頁
甲第B3号証:J.Am.Soc.Brew.Chem., 1982年、Vol.40, No.4, pp.119-128
甲第B4号証:醸造物の成分、210-213頁
甲第B5号証:NIST Chemistry WebBook,SRD 69
(https://webbook.nist.gov/cgi/cbook.cgi?InChI=1/C7H14O2/c1-4-6(2)5-9-7(3)8/h6H,4-5H2,1-3H3)
甲第B6号証:改訂BCOJビール分析法、「8.22 低沸点香気成分」
(https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I008880836-00)
甲第B7号証:BRAUINDUSTRIE、1982年1月、Vol.67、71-75頁
甲第B8号証:J.Am.Soc.Brew.Chem.、1994年、Vol.52, No.3, pp.127-134
甲第B9号証:日本醸造協会誌、昭和41年5月19日受理、第61巻、第8号、第726~729頁
甲第B10号証:酒類総合研究所報告、2003年、第175号、第37~40頁
(https://www.nrib.go.jp/data/nrib_reportlist.html)
甲第B11号証:Beer Advocate(https://www.beeradvocate.com/beer/profile/9/1860/)
甲第B12号証:BEER STYLES from Around the World、254-257頁、328-331頁
甲第B13号証:エタノール水溶液の容量%と比重及び重量%との関係
(http://www.alcohol.jp/expert/expert_table/09%20youryou%20jyuuryou.pdf)
甲第B14号証:BRAUINDUSTRIE、1982年2月、Vol.67、299頁
甲第B15号証:Arrete royal concernant la biere
甲第B16号証:BCOJ官能評価法、「12.香味用語法及び標本見本」、「表1 用語体系表」、「表2 香味標準見本推奨成分」
甲第B17号証:Fermentis社の「SafAleTM US-05」の製品ページ(https://fermentis.com/en/product/safale-us-05/)(検索日:令和5年7月21日)
甲第B17号証は、令和5年8月1日に提出された意見書に添付されたものである。証拠の表記は、特許異議申立書B及び上記意見書の記載におおむね従った。外国語の特殊記号は省略した。以下、順に「甲B1」のようにいう。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和5年8月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲A1-1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1-1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲A1-1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は、申立理由A1及びA2のうち本件特許発明1ないし5に対する理由とおおむね同旨である。
2 取消理由4(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明1及び5における「ノルウェーファームハウスエール酵母を用いるビール」がどのような酵母を用いたビールなのか明確であるとはいえない。
(2)本件特許発明1及び5における「高濃度ビール」の意味が明確であるとはいえない。
第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 取消理由1(甲A1-1に基づく新規性・進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項等
ア 甲A1-1に記載された事項等
(ア)甲A1-1に記載された事項
甲A1-1には、「ノルウェーのファームハウスエール酵母の遺伝子型及びビール醸造特性の特徴付け」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲A1-1は外国語文献のため訳文のみを摘記した。他の外国語文献についても同様。
・「
[図:0001407817000001.jpg]
[図:0001407817000002.jpg]
[図:0001407817000003.jpg]
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」
(イ)甲A1-1に記載された発明
a 甲A1飲料発明1及び甲A1製法発明1
甲A1-1に記載された事項を、特にビール実験1及び2に関して整理すると、甲A1-1には次の発明(以下、「甲A1飲料発明1」及び「甲A1製法発明1」という。)が記載されていると認める。
<甲A1飲料発明1>
「原料として、55.00Lの水、合計25.00gの水調整剤、10.00kgのペール麦芽(穀類)、0.60kgのカラメル/クリスタル麦芽(穀類)、0.50kgのフレーク状トウモロコシ(穀類)、0.50kgのフレーク状オーツ麦(穀類)、合計230.00gのホップ、3.00個の清澄剤、1.0pkgの酵母(Hornindal+cont)を用い、発酵温度を19℃として製造されたペールエールであって、
酢酸イソアミルの濃度が10.5ppmであり、酢酸活性アミルの濃度が1.0ppmであり、イソアミルアルコールの濃度が154.2ppmであり、活性アミルアルコールの濃度が61.0ppmであり、アルコール度数(ABV)が5.1%である、ペールエール。」
<甲A1製法発明1>
「甲A1飲料発明1の製造方法。」
b 甲A1飲料発明2及び甲A1製法発明2
甲A1-1に記載された事項を、特にビール実験3に関して整理すると、甲A1-1には次の発明(以下、「甲A1飲料発明2」及び「甲A1製法発明2」という。)が記載されていると認める。
<甲A1飲料発明2>
「原料として、50.00Lの水、7.40kgのペール麦芽(穀類)、7.40kgのピルスナー麦芽(穀類)、100.00gのホップを用い、酵母(Safale US-05)を用い、発酵温度を19℃として製造されたHonndalsolであって、
酢酸イソアミルの濃度が17.7ppmであり、酢酸活性アミルの濃度が1.3ppmであり、イソアミルアルコールの濃度が221.5ppmであり、活性アミルアルコールの濃度が94.0ppmであり、アルコール度数(ABV)が5.8%である、Honndalsol。」
<甲A1製法発明2>
「甲A1飲料発明2の製造方法。」
イ 甲A2に記載された事項
甲A2には、「酒類の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「【0002】
【従来の技術】
イソアミルアルコール(3-メチルブタノール)、活性アミルアルコール(2-メチルブタノール)、イソブタノールなどの高級アルコールおよびその酢酸エステルは酒類の重要な香味成分であり、その組成比によって酒類の香味に大きな変化が生じるので、酒類製造においては最も注目すべき物質である。そのため、高級アルコールを増加させること、あるいはその組成比を変えることによって、香味のバランスの異なる酒類を製造することが研究されてきた。」
ウ 甲A4に記載された事項
甲A4には、「フェルラ酸誘導体含有化粧料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0011】
・・・(略)・・・活性アミル(2-メチルブチル)・・・(略)・・・」
エ 甲A5に記載された事項
甲A5には、おおむね次の事項が記載されている。
・「42.酢酸2-メチルブチル(酢酸活性アミル)」(第1ページ下から第3行)
(2)本件特許発明1について
ア 甲A1飲料発明1との対比・判断
本件特許発明1と甲A1飲料発明1を対比する。
甲A1飲料発明1における「ペールエール」は本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
水溶液において「ppm」と「mg/L」の値がほぼ等しいことは技術常識であるから、甲A1飲料発明1における「酢酸イソアミルの濃度が10.5ppmであり」は本件特許発明1における「酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下であり」という発明特定事項を充足する。
甲A4の【0011】によると「活性アミル」は「2-メチルブチル」と称され、甲A5によると、「酢酸活性アミル」は「酢酸2-メチルブチル」と称されるから、甲A1飲料発明1における「酢酸活性アミルの濃度が1.0ppmであり」は本件特許発明1における「酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であり」という発明特定事項を充足する。
甲A2の【0002】によると、「活性アミルアルコール」は「2-メチルブタノール」と称され、「イソアミルアルコール」は「3-メチルブタノール」と称されるから、甲A1飲料発明1における「イソアミルアルコールの濃度が154.2ppmであり、活性アミルアルコールの濃度が61.0ppmであり」は本件特許発明1における「2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計がビールテイスト飲料全量に対して100mg/L以上である」という発明特定事項を充足する。
甲A1飲料発明1において、「酢酸イソアミル」及び「酢酸活性アミル」の濃度の合計に対する「活性アミルアルコール」及び「イソアミルアルコール」の濃度の合計の比は、(61.0ppm+154.2ppm)/(10.5ppm+1.0ppm)=18.7であり、25以下の数値を示している。このため、甲A1飲料発明1は本件特許発明1における「酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が、25以下であり」という発明特定事項を充足する。
甲A1飲料発明1は「小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料」、「酵母(Safale US-05)を用いるビール」、「BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール」及び「醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビール」ではないから、甲A1飲料発明1における「ペールエール」は本件特許発明1における「(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Hornindal)を用いるビール、酵母(Safale US-05)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)」という発明特定事項のうち、「(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Safale US-05)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)」という条件を満足する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下であり、
酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であり、
酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が、25以下であり、
2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計がビールテイスト飲料全量に対して100mg/L以上である、ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Safale US-05)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A1-1>
本件特許発明1においては、「酵母(Hornindal)を用いるビール」「を除く」と特定されているのに対し、甲A1飲料発明1においては、「酵母(Hornindal+cont)を用い」と特定されている点。
そこで、相違点A1-1について検討する。
両者の間には相違点A1-1があるから、本件特許発明1は甲A1飲料発明1であるとはいえない。
また、甲A1飲料発明1において、「酵母(Hornindal)」を用いないとすることの動機付けとなる記載は、甲A1にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲A1飲料発明1において、相違点A1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「高級感に優れたビールテイスト飲料を提供することができる」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0011】)という効果は、甲A1飲料発明1並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲A1飲料発明1並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 甲A1飲料発明2との対比・判断
本件特許発明1と甲A1飲料発明2を対比する。
甲A1飲料発明2における「Honndalsol」は、ノルウェーの伝統的なビールであるから、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
水溶液において「ppm」と「mg/L」の値がほぼ等しいことは技術常識であるから、甲A1飲料発明2における「酢酸イソアミルの濃度が17.7ppmであり」は本件特許発明1における「酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下であり」という発明特定事項を充足する。
甲A4の【0011】によると「活性アミル」は「2-メチルブチル」と称され、甲A5によると、「酢酸活性アミル」は「酢酸2-メチルブチル」と称されるから、甲A1飲料発明2における「酢酸活性アミルの濃度が1.3ppmであり」は本件特許発明1における「酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であり」という発明特定事項を充足する。
甲A2の【0002】によると、「活性アミルアルコール」は「2-メチルブタノール」と称され、「イソアミルアルコール」は「3-メチルブタノール」と称されるから、甲A1飲料発明2における「イソアミルアルコールの濃度が221.5ppmであり、活性アミルアルコールの濃度が94.0ppmであり」は本件特許発明1における「2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計がビールテイスト飲料全量に対して100mg/L以上である」という発明特定事項を充足する。
甲A1飲料発明2において、「酢酸イソアミル」及び「酢酸活性アミル」の濃度の合計に対する「活性アミルアルコール」及び「イソアミルアルコール」の濃度の合計の比は、(94.0ppm+221.5ppm)/(17.7ppm+1.3ppm)=16.6であり、25以下の数値を示している。このため、甲A1飲料発明2は本件特許発明1における「酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が、25以下であり」という発明特定事項を充足する。
甲A1飲料発明2は「小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料」、「酵母(Hornindal)を用いるビール」、「BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール」及び「醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビール」ではないから、甲A1飲料発明2における「Honndalsol」は本件特許発明1における「(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Hornindal)を用いるビール、酵母(Safale US-05)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)」という発明特定事項のうち、「(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Hornindal)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)」という条件を満足する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下であり、
酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であり、
酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が、25以下であり、
2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計がビールテイスト飲料全量に対して100mg/L以上である、ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料、酵母(Hornindal)を用いるビール、BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール、及び、醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビールを除く。)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A1-2>
本件特許発明1においては、「酵母(Safale US-05)を用いるビール」「を除く」と特定されているのに対し、甲A1飲料発明2においては、「酵母(Safale US-05)を用い」と特定されている点。
そこで、相違点A1-2について検討する。
両者の間には相違点A1-2があるから、本件特許発明1は甲A1飲料発明2であるとはいえない。
また、甲A1飲料発明2において、「酵母(Safale US-05)」を用いないとすることの動機付けとなる記載は、甲A1にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲A1飲料発明2において、相違点A1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「高級感に優れたビールテイスト飲料を提供することができる」という効果は、甲A1飲料発明2並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲A1飲料発明2並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1飲料発明1又は甲A1飲料発明2であるとはいえないし、甲A1飲料発明1又は甲A1飲料発明2並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明5について
ア 甲A1製法発明1との対比・判断
本件特許発明5と甲A1製法発明1を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲A1飲料発明1の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者の間には少なくとも相違点A1-1と同じ相違点がある。
そして、該相違点についての判断は、上記(1)アと同じである。
すなわち、本件特許発明5は甲A1製法発明1であるとはいえないし、甲A1製法発明1並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 甲A1製法発明2との対比・判断
本件特許発明5と甲A1製法発明2を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲A1飲料発明2の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者の間には少なくとも相違点A1-2と同じ相違点がある。
そして、該相違点についての判断は、上記(1)イと同じである。
すなわち、本件特許発明5は甲A1製法発明2であるとはいえないし、甲A1製法発明2並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし5は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由4(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件の判断
ア まず、取消理由4で指摘した点について検討する。
(ア)「ノルウェーファームハウスエール酵母」という発明特定事項について
本件訂正により、本件特許の請求項1及び5には、「ノルウェーファームハウスエール酵母」という記載は無くなり、「酵母(Hornindal)」及び「酵母(Safale US-05)」という記載が加わった。
したがって、「ノルウェーファームハウスエール酵母」という記載に起因する不明確さは無くなった。
また、本件訂正により加わった「酵母(Hornindal)」及び「酵母(Safale US-05)」という記載の意味するものは、当業者に明らかであり、不明確なものではない。
(イ)「高濃度ビール」という発明特定事項について
本件訂正により、本件特許の請求項1及び5に「1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で醸造用酵母としてサッカロマイセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)を用いる高濃度ビール」という記載は無くなり、「醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビール」という記載が加わった。
したがって、「1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で醸造用酵母としてサッカロマイセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)を用いる高濃度ビール」という記載に起因する不明確さは無くなった。
そして、本件訂正により加わった「醸造用酵母を用いて、・・・(略)・・・高濃度ビール」が、麦汁が高濃度のビールを意味することは、当業者に明らかであり、不明確なものではない。
イ そして、他に、本件特許の請求項1ないし5にそれ自体不明確な記載はなく、また、本件特許の請求項1ないし5の記載は発明の詳細な説明の記載とも整合している。
ウ したがって、本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないので、本件特許発明1ないし5は明確である。
(3)取消理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由4によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由についての当審の判断
取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由は、次のとおりである。
・申立理由A1(甲A1に基づく新規性)及び申立理由A2(甲A1に基づく進歩性)のうち本件特許発明6に対する理由
・申立理由A3(甲A2に基づく新規性)及び申立理由A4(甲A2に基づく進歩性)
・申立理由A5(甲A3に基づく新規性)及び申立理由A6(甲A3に基づく進歩性)
・申立理由A7(サポート要件)
・申立理由A8(実施可能要件)
・申立理由B1(甲B1に基づく新規性)及び申立理由B2(甲B1に基づく進歩性)
・申立理由B3(甲B2に基づく進歩性)及び申立理由B4(甲B2に基づく進歩性)
・申立理由B5(サポート要件)
以下、申立理由A1(甲A1に基づく新規性)及び申立理由A2(甲A1に基づく進歩性)のうち本件特許発明6に対する理由、申立理由A3(甲A2に基づく新規性)及び申立理由A4(甲A2に基づく進歩性)、申立理由A5(甲A3に基づく新規性)及び申立理由A6(甲A3に基づく進歩性)、申立理由B1(甲B1に基づく新規性)及び申立理由B2(甲B1に基づく進歩性)、申立理由B3(甲B2に基づく進歩性)及び申立理由B4(甲B2に基づく進歩性)、申立理由A7(サポート要件)及び申立理由B5(サポート要件)並びに申立理由A8(実施可能要件)の順に検討する。
1 申立理由A1(甲A1に基づく新規性)及び申立理由A2(甲A1に基づく進歩性)のうち本件特許発明6に対する理由について
甲A1には、「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料を除く。)の高級感を改善する方法」について何ら記載も示唆もない。そうすると、甲A1に記載された事項からは、本件特許発明6と対比・判断することができる発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明6は甲A1に記載された発明であるとはいえないし、甲A1に記載された発明並びに甲A1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、本件特許発明6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A1及びA2のうち本件特許発明6に対する理由によっては取り消すことはできない。
2 申立理由A3(甲A2に基づく新規性)及び申立理由A4(甲A2に基づく進歩性)について
(1)甲A2に記載された発明
甲A2に記載された事項を、特に【0025】ないし【0030】に記載された実施例2に関して整理すると、甲A2には次の発明(以下、「甲A2飲料発明」及び「甲A2製法発明」という。)が記載されていると認める。
なお、「酢酸イソアミル」の濃度が「約5.1ppm」であり、「イソアミルアルコール」の濃度が「約95ppm」であり、「活性アミルアルコール(2-メチル-1-ブタノール)」の濃度が「約20ppm」であることは、図5の形質転換株IB1株の折れ線グラフの横軸が約175時間の時点での縦軸の値から看取した。
<甲A2飲料発明>
「ビール酵母BH225株の形質転換株IB1株を用いて製造されたビールであって、酢酸イソアミルの濃度が約5.1ppmであり、イソアミルアルコールの濃度が約95ppmであり、活性アミルアルコール(2-メチル-1-ブタノール)の濃度が約20ppmである、ビール。」
<甲A2製法発明>
「甲A2飲料発明の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲A2飲料発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点A2>
本件特許発明1においては、「BAP2遺伝子の発現レベルを高めることにより、分枝アミノ酸の取り込みが強化された酵母を用いるビール」「を除く」と特定されているのに対し、甲A2飲料発明においては、「ビール酵母BH225株の形質転換株IB1株を用い」と特定されている点。
そこで、相違点A2について検討する。
両者の間には相違点A2があるから、本件特許発明1は甲A2飲料発明であるとはいえない。
また、甲A2飲料発明において、相違点A2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲A2にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲A2飲料発明において、相違点A2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「高級感に優れたビールテイスト飲料を提供することができる」という効果は、甲A2飲料発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲A2飲料発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A2飲料発明であるとはいえないし、甲A2飲料発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲A2製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲A2飲料発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者の間には少なくとも相違点A2と同じ相違点がある。
そして、該相違点についての判断は、上記(1)と同じである。
すなわち、本件特許発明5は甲A2製法発明であるとはいえないし、甲A2製法発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明6について
甲A2には、「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料を除く。)の高級感を改善する方法」について何ら記載も示唆もない。そうすると、甲A2に記載された事項からは、本件特許発明6と対比・判断することができる発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明6は甲A2に記載された発明であるとはいえないし、甲A2に記載された発明並びに甲A2及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)申立理由A3及びA4についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A3及びA4によっては取り消すことはできない。
3 申立理由A5(甲A3に基づく新規性)及び申立理由A6(甲A3に基づく進歩性)について
(1)甲A3に記載された発明
甲A3に記載された事項を、特に第180ページ表II及び第181ページ頁表IIIに記載された1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールに関して整理すると、甲A3には次の発明(以下、「甲A3飲料発明」及び「甲A3製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A3飲料発明>
「醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、
酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビール。」
<甲A3製法発明>
「甲A3飲料発明の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲A3飲料発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点A3>
本件特許発明1においては、「醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビール」「を除く」と特定されているのに対し、甲A3飲料発明においては、「醸造用酵母を用いて、高濃度麦汁を、1%(w/v)酵母エキスが添加された嫌気性条件下で発酵された高濃度ビールであって、酢酸イソアミルの含量が6.82mg/Lであり、アミルアルコールの含量が147.65mg/Lであり、アルコール濃度が9.0%(w/v)である、高濃度ビール」と特定されている点。
そこで、相違点A3について検討する。
両者の間には相違点A3があるから、本件特許発明1は甲A3飲料発明であるとはいえない。
また、甲A3飲料発明において、相違点A3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲A3にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲A3飲料発明において、相違点A3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「高級感に優れたビールテイスト飲料を提供することができる」という効果は甲A3飲料発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲A3飲料発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A3飲料発明であるとはいえないし、甲A3飲料発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲A3製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲A3飲料発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者の間には少なくとも相違点A3と同じ相違点がある。
そして、該相違点についての判断は、上記(1)と同じである。
すなわち、本件特許発明5は甲A3製法発明であるとはいえないし、甲A3製法発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明6について
甲A3には、「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料を除く。)の高級感を改善する方法」について何ら記載も示唆もない。そうすると、甲A3に記載された事項からは、本件特許発明6と対比・判断することができる発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明6は甲A3に記載された発明であるとはいえないし、甲A3に記載された発明並びに甲A3及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)申立理由A5及びA6についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A5及びA6によっては取り消すことはできない。
4 申立理由B1(甲B1に基づく新規性)及び申立理由B2(甲B1に基づく進歩性)について
(1)甲B1に記載された発明
甲B1に記載された事項を、特に第575ページの表の「Whitebread Pale Ale」に関して整理すると、甲B1には次の発明(以下、「甲B1飲料発明」及び「甲B1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B1飲料発明>
「酢酸イソアミルの含有量が5.2mg/Lであり、
イソアミルアルコールの含有量が133.2mg/Lである、
ビール。」
<甲B1製法発明>
「甲B1飲料発明の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲B1飲料発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点B1>
本件特許発明1においては、「酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であり」と特定されているのに対し、甲B1飲料発明においては、そのようには特定されていない点。
そこで、相違点B1について検討する。
両者の間には相違点B1があるから、本件特許発明1は甲B1飲料発明であるとはいえない。
また、甲B1飲料発明において、相違点B1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲B1にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲B1飲料発明において、相違点B1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「高級感に優れたビールテイスト飲料を提供することができる」という効果は甲B1飲料発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲B1飲料発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人Bは、「甲1発明において、酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であることは明記されていない。
しかし、令和4年3月1日発送の拒絶理由通知書の項目(A)で指摘されたとおり、天然のエステルは酢酸2-メチルブチルおよび酢酸3-メチルブチル(酢酸イソアミル)の混合物であり、通常のビールにおいて、酢酸2-メチルブチルと酢酸イソアミルとは混合物として含まれている(甲3・第123頁左欄下から4行目~右欄21行目)。また、これらは発酵中に酵母によって生成される成分であるから(甲4・第210頁左欄1~2行目)、当該混合物中に含まれる酢酸2-メチルブチルと酢酸イソアミルの割合は一定である。
そして、本件明細書の【0046】~【0047】に記載の試験用ビールには酢酸イソアミルが4.3mg/L、酢酸2-メチルブチルが0.3mg/L含まれていることを踏まえると、甲1発明にもこれと同程度の比率で酢酸イソアミルと酢酸2-メチルブチルが含まれている。なお、特許権者は令和4年4月11日提出の意見書において上記指摘に対する反証を行っていない。
そうすると、甲1発明の酢酸イソアミル含有量は5.2mg/Lであるから、甲1発明に含まれる酢酸2-メチルブチルは、約0.4mg/L(5.2×0.3/4.3)と算出できる。
よって、甲1発明は本件発明1の構成要件1Bを満たす。
仮に、甲1発明の酢酸2-メチルブチル含有量が、約0.4mg/Lでなかったとしても、甲4には、一般的なビールにおける酢酸2-メチルブチル(Active amyl acetate、甲5を参照)の含有量が0.64mg/Lであることが記載されている。
・・・(略)・・・
したがって、甲1発明において、当業者が通常の製法を用いれば酢酸2-メチルブチルの含有量は0.64mg/L程度となるといえるから、当該含有量を構成要件1Bが規定する0.4mg/L以上5mg/L以下に調整することは容易に想到できたことである。」(特許異議申立書Bの第13ないし15ページ。なお摘記に際し、空白行は省略した。)旨主張する。
そこで、上記主張について検討する。
酢酸2-メチルブチルと酢酸イソアミルが発酵中に酵母によって生成される成分であるとしても、ビールテイスト飲料の原料及び酵母の種類並びに発酵条件によらずに、生成された酢酸2-メチルブチルと酢酸イソアミルの割合が一定であるという根拠は示されていない(特許権者が反証を行っているかどうかは関係がない。)。
したがって、「酢酸2-メチルブチルと酢酸イソアミルの割合は一定である」として、甲B1飲料発明に含まれる酢酸2-メチルブチルを約0.4mg/Lであると算出することはできない。
また、甲B-1に記載されていない甲B-1飲料発明の“酢酸2-メチルブチルの含有量”が甲B4に記載された値であるという証拠もなければ、甲B4に記載された値に調整する動機もないから、甲B1飲料発明において、酢酸2-メチルブチルの含有量を0.4mg/L以上5mg/L以下に調整することは容易に想到できたことであるともいえない。
よって、特許異議申立人Bの主張は採用できない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B1飲料発明であるとはいえないし、甲B1飲料発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲B1製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲B1飲料発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者の間には少なくとも相違点B1と同じ相違点がある。
そして、該相違点についての判断は、上記(1)と同じである。
すなわち、本件特許発明5は甲B1製法発明であるとはいえないし、甲B1製法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明6について
甲B1には、「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料を除く。)の高級感を改善する方法」について何ら記載も示唆もない。そうすると、甲B1に記載された事項からは、本件特許発明6と対比・判断することができる発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明6は甲B1に記載された発明であるとはいえないし、甲B1に記載された発明並びに甲B1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)申立理由B1及びB2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B1及びB2によっては取り消すことはできない。
5 申立理由B3(甲B2に基づく進歩性)及び申立理由B4(甲B2に基づく進歩性)について
(1)甲B2に記載された発明
甲B2に記載された事項を、特に第291ページの表の「Watneys Scotch」に関して整理すると、甲B2には次の発明(以下、「甲B2飲料発明」及び「甲B2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B2飲料発明>
「酢酸イソアミルの含有量が5.1mg/Lであり、
イソアミルアルコールの含有量が125.7mg/Lである、
ビール。」
<甲B2製法発明>
「甲B2飲料発明の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲B2飲料発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点B2>
本件特許発明1においては、「酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であり」と特定されているのに対し、甲B2飲料発明においては、そのようには特定されていない点。
そこで、相違点B2について検討する。
両者の間には相違点B2があるから、本件特許発明1は甲B2飲料発明であるとはいえない。
また、甲B2飲料発明において、相違点B2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲B2にはなく、他の証拠にもない。
したがって、甲B2飲料発明において、相違点B2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「高級感に優れたビールテイスト飲料を提供することができる」という効果は甲B2飲料発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲B2飲料発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人Bは、「甲2発明において、酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下であることは明記されていない。
しかし、「第4」「2」「(2)」「イ」で説明したとおり、天然のエステルは酢酸2-メチルブチルおよび酢酸3-メチルブチル(酢酸イソアミル)の混合物であり、通常のビールにおいて、酢酸2-メチルブチルと酢酸イソアミルとは混合物として含まれていること、これらの成分が発酵中に酵母によって生成される成分であり、当該混合物中に含まれる酢酸2-メチルブチルと酢酸イソアミルの割合は一定であることを踏まえると、甲2発明にも酢酸イソアミルと酢酸2-メチルブチルが一定の割合で混合物として含まれる。
そして、甲2発明の酢酸イソアミル含有量は5.1mg/Lであるから、甲2発明に含まれる酢酸2-メチルブチルは、約0.4mg/L(5.1×0.3/4.3)と算出できる。
よって、甲2発明は本件発明1の構成要件1Bを満たす。
仮に、甲2発明の酢酸2-メチルブチル含有量が、約0.4mg/Lでなかったとしても、「第4」「2」「(2)」「イ」で述べたとおり、甲4には、一般的なビールにおける酢酸2-メチルブチル(Active amyl acetate、甲5を参照)の含有量が0.64mg/Lであることが記載されている。
したがって、甲2発明において、当業者が通常の製法を用いれば酢酸2-メチルブチルの含有量は0.64mg/L程度となるといえるから、当該含有量を構成要件1Bが規定する0.4mg/L以上5mg/L以下に調整することは容易に想到できたことである。」(特許異議申立書Bの第32及び33ページ。なお摘記に際し、空白行は省略した。)旨主張する。
そこで、上記主張について検討するに、上記主張は上記4(2)の主張と同様であるから、その判断も同様である。すなわち、「酢酸2-メチルブチルと酢酸イソアミルの割合は一定である」として、甲B2飲料発明に含まれる酢酸2-メチルブチルを約0.4mg/Lであると算出することはできないし、甲B2飲料発明において、酢酸2-メチルブチルの含有量を0.4mg/L以上5mg/L以下に調整することは容易に想到できたことであるともいえない。
よって、特許異議申立人Bの主張は採用できない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B2飲料発明であるとはいえないし、甲B2飲料発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲B2製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲B2飲料発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者の間には少なくとも相違点B2と同じ相違点がある。
そして、該相違点についての判断は、上記(1)と同じである。
すなわち、本件特許発明5は甲B2製法発明であるとはいえないし、甲B2製法発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明6について
甲B2には、「ビールテイスト飲料(但し、小麦麦芽を原料とするビールテイスト飲料を除く。)の高級感を改善する方法」について何ら記載も示唆もない。そうすると、甲B2に記載された事項からは、本件特許発明6と対比・判断することができる発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明6は甲B2に記載された発明であるとはいえないし、甲B2に記載された発明並びに甲B2及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)申立理由B3及びB4についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B3及びB4によっては取り消すことはできない。
6 申立理由A7(サポート要件)及び申立理由B5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
発明の詳細な説明の【0005】によると、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題は「高級感に優れたビールテイスト飲料」を提供することであり、本件特許発明5の解決しようとする課題は「高級感に優れたビールテイスト飲料の製造方法」を提供することであり、本件特許発明6の解決しようとする課題は「ビールテイスト飲料の高級感を改善する方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
発明の詳細な説明の【0006】ないし【0010】には、本件特許発明1ないし6に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0020】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料中の酢酸イソアミルの含有量は5mg/L以上20mg/L以下である。・・・(略)・・・ビールテイスト飲料に含まれる酢酸イソアミルの含有量が上記範囲内であると、ビールテイスト飲料の高級感がより改善されることとなる。」と記載され、同【0023】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料中の酢酸2-メチルブチルの含有量は0.4mg/L以上5mg/L以下である。・・・(略)・・・ビールテイスト飲料に含まれる酢酸2-メチルブチルの含有量が上記範囲内であると、ビールテイスト飲料の高級感がより改善されることとなる。」と記載され、同【0029】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計((2-メチルブタノール+3-メチルブタノール)/(酢酸イソアミル+酢酸2-メチルブチル))が、25以下である。・・・(略)・・・酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が、上記範囲内であると、ビールテイスト飲料の高級感がより改善されることとなる。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0045】ないし【0057】には、「酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下」、「酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下」及び「酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が25以下」の3つの条件を満たすビールテイスト飲料の実施例が、そうでない比較例と比べて、高級感がより改善されていることを確認する記載がある。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、「酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下」、「酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下」及び「酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が25以下」の3つの条件を満たすビールテイスト飲料、その製造方法及び上記3つの条件を満たすようにビールテイスト飲料を調整する方法は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4は上記発明の課題を解決できると認識できるビールテイスト飲料をさらに限定したものであり、本件特許発明5は上記発明の課題を解決できると認識できるビールテイスト飲料の製造方法をさらに限定したものであり、本件特許発明6は上記発明の課題を解決できると認識できるビールテイスト飲料を調整する方法をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人A及びBの主張について
ア 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの申立理由A7における主張について検討する。
上記(2)のとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、「酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下」、「酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下」及び「酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が25以下」の3つの条件を満たすビールテイスト飲料、その製造方法及び上記3つの条件を満たすようにビールテイスト飲料を調整する方法は発明の課題を解決できると認識できる。
すなわち、当業者は、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が比較的高い場合においても、上記3つの条件を満たす場合には、程度の差はあれ、課題を解決できると理解する。また、当業者は、アルコール度数が非常に高い場合においても、上記3つの条件を満たさないものと比べれば、程度の差はあれ、課題を解決できると理解する。
また、上記3つの条件を満たしていても課題を解決できないことを示す具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、特許異議申立人Aの申立理由A7における主張は採用できない。
イ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bの申立理由B5における主張について検討する。
(ア)申立理由B5のアの主張について
特許異議申立人Bは、「本件特許明細書の記載から発明の課題を解決できると認識できない」ことの理由として、(ア)ないし(ウ)の点を挙げている(上記第4 2(5)ア参照。)。
しかし、仮に、上記(ア)ないし(ウ)の点で、発明の詳細な説明に多少説明が不足するものであったとしても、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載から、「酢酸イソアミルの含有量が5mg/L以上20mg/L以下」、「酢酸2-メチルブチルの含有量が0.4mg/L以上5mg/L以下」及び「酢酸イソアミル及び酢酸2-メチルブチルの含有量の合計に対する、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの含有量の合計が25以下」の3つの条件を満たすビールテイスト飲料、その製造方法及び上記3つの条件を満たすようにビールテイスト飲料を調整する方法は発明の課題を解決できると認識できるものである。
すなわち、上記(ア)ないし(ウ)の点は、サポート要件の判断を左右するものではない。
したがって、申立理由B5のアの主張は採用できない。
(イ)申立理由B5のイの主張について
申立理由B5のイの主張は、特許異議申立人Aの申立理由A7における主張と同様であり、採用できない。
(4)申立理由A7及びB5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A7及びB5によっては取り消すことはできない。
7 申立理由A8(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし4は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。また、本件特許発明5は物を生産する発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。さらに、本件特許発明6は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明の【0013】ないし【0044】には、本件特許発明1ないし6の各発明特定事項について、その技術的意義を含め具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0045】ないし【0057】には、本件特許発明1ないし6の実施例について、具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし4を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえ、また、本件特許発明5の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえ、さらに、本件特許発明6の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし6に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの申立理由A8における主張について検討する。
発明の詳細な説明の【0022】に「酪酸イソアミルの含有量は、例えば、BCOJビール分析法(財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集1996年4月1日発行)の「8.22 低沸点香気成分」の方法にしたがい、FID検出器付きガスクロマトグラフ(装置名:Agilent 6890ガスクロマトグラフ)を用いて求めることができる。」と記載され、同【0025】に「酪酸2-メチルブチルの含有量は、例えば、HS-GC-MS法によって測定することができる。測定に用いるカラムは酢酸イソアミルと分離できるものが好ましい。酢酸2-メチルブチルの定量は標準点添加法、若しくは酪酸2-メチルブチル又は酢酸イソアミルの安定同位体を内部標準に用いた内部標準法で実施することが好ましい。」と記載されている。
そして、上記記載における「酪酸」が「酢酸」の誤記であることは、その前後の文章から当業者に明らかであるから、発明の詳細な説明に、酢酸イソアミルの含有量及び酢酸2-メチルブチルの含有量の測定方法に関して記載がないとはいえない。
そもそも、酢酸イソアミルや酢酸2-メチルブチルの含有量の測定方法は当業者に周知である。
したがって、特許異議申立人Aの申立理由A8における主張は採用することができない。
(4)申立理由A8についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A8によっては取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700138