特許異議申立
2024-700907
アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、アルコール飲料の香味向上方法
- 審判番号
- 2024-700907
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-208281
- 登録番号
- 7454360
- 請求日
- 2024年09月20日
- 審決日
- 2025年02月27日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.121-Y (C12G) / P1651.537-Y (C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7454360号発明「アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、アルコール飲料の香味向上方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7454360号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7454360号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和元年11月18日の出願であって、令和6年3月13日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年9月20日に特許異議申立人山内慶子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~4)がされ、同年11月21日に手続補正書(方式)及び上申書が提出されたものである。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
「[請求項1]
エキス分が3.5w/v%未満であり、アルコール度数が9%未満であるアルコール飲料であって、
オクタン酸エチルを含有し、
β-ダマセノンの含有量が5~500ppbであるアルコール飲料。
[請求項2]
前記オクタン酸エチルの含有量が10~400ppbである請求項1に記載のアルコール飲料。
[請求項3]
エキス分を3.5w/v%未満とし、アルコール度数を9%未満とし、オクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする工程を含むアルコール飲料の製造方法。
[請求項4]
エキス分が3.5w/v%未満であり、アルコール度数が9%未満であるアルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、渋雑味とエグ味とを低減させる香味向上方法であって、
前記アルコール飲料にオクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとするアルコール飲料の香味向上方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第10号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲10」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
(1)理由1-1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由1-2(甲2に基づく進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)理由1-3(甲3に基づく進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)理由2(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~4についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア オクタン酸エチルの含有量について
本件発明1はオクタン酸エチルの含有量を何も規定しないから、本件発明1はオクタン酸エチルをあらゆる含有量で含むアルコール飲料を包含する。この点、本件明細書には、オクタン酸エチルを含有しさえすれば、任意の含有量であっても発明の課題を解決できると当業者が認識できる記載はない。
イ 「まとまり」が本件発明の課題解決の有無の判断と切り離せないこと
本件明細書の実施例は、官能評価項目として「味の厚み」、「余韻」、「渋雑味・エグ味」、「まとまり」及び「飲料としての総合評価」の5つを用いており、このうち「味の厚み」、「余韻」、「渋雑味・エグ味」が本件発明の課題と直接関連する(段落[0007])。「まとまり」は本件発明の課題として直接的には記載されていないが、渋雑味やエグ味との関連性が示されており(段落[0012])、本件発明の課題が解決されたか否かを判断する上で無視できるものではない。したがって、本件発明の課題が解決されたか否かは、「味の厚み」、「余韻」、「渋雑味・エグ味」だけでなく、少なくとも「まとまり」、さらには「飲料としての総合評価」をも勘案して総合的に判断されるべきである。
ウ オクタン酸エチルの含有量が増加すれば「まとまり」と「飲料としての総合評価」が低下すること(表1及び表2)
表1によると、オクタン酸エチルの含有量が15ppb又は150ppbの場合をピークに、それを超えると「まとまり」及び「飲料としての総合評価」は段階的に低くなっている。また、表2によると、「まとまり」及び「飲料としての総合評価」はβ-ダマセノンの含有量が450ppbの場合それぞれ「0.5」及び「0.3」であり、β-ダマセノンの含有量が30ppb(サンプル2-3)の場合をピークに、それを超えると大幅に下がっている。そうすると、本件発明1に規定するエキス分、アルコール度数及びβ-ダマセノン含有量の数値範囲内で、オクタン酸エチルの含有量を表2で用いた15ppbからさらに増加させれば、「まとまり」と「飲料としての総合評価」が基準である0点を下回り、いずれマイナスの値になることは明らかである。そして、上記イで述べた理由から、これらの評価が基準点を下回ったものが本件発明の課題を解決できたと認識することはできない。したがって、オクタン酸エチルの含有量を一切規定しない本件発明1は、本件発明の課題を解決し得ない態様を包含する。
2.証拠方法
甲1:特表2016-515812号公報
甲2:特開2018-50546号公報
甲3:山本英樹,水谷政美,祝園秀樹,高山清子,藤田依里,"新しい加工用米(み系358)を用いた芋焼酎試験醸造と実用化",宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告,宮崎県工業技術センター,宮崎県食品開発センター,2017年3月,平成27年度[2015],No.60,p.51-55
甲4:エタノール換算表,令和6年9月19日印刷,印刷者:申立人
甲5:オエノングループ,"こだわりの本格焼酎で造る、確かな飲み応えのハイボール 「GODO 日本ハイボール8%」3品種新発売!",ニュースリリース,[online],2015年9月3日,オエノンホールディングス株式会社,インターネット<URL:https://www.oenon.jp/news/2015/0903-1.html>
甲6:オエノングループ,"こだわりの本格焼酎使用!ストロングタイプの焼酎ハイボール。麦焼酎ハイボール「すっきり麦ハイ」、芋焼酎ハイボール「香る芋ハイ」新発売",ニュースリリース,[online],2018年9月11日,オエノンホールディングス株式会社,インターネット<URL:https://www.oenon.jp/news/2018/0911-1.html>
甲7:ヤマエ久野株式会社 食品流通本部 酒類部,"味香り戦略研究所より、「鹿児島ハイボールさわやか」「鹿児島ハイボールまろやか」発売",焼酎紀行,ニュースNOW, 新商品情報,[online],2018年12月27日,ヤマエ久野株式会社,インターネット<URL:https://www.shochu-kikou.com/news/181227.html>
甲8:有限会社赤塚屋百貨店,"焼酎とは?",[online],有限会社赤塚屋百貨店,2024年9月19日印刷,印刷者:申立人,インターネット<URL:https://akatsukaya.info/syutendouji/006_0100koutei.html>
甲9:Manfred Moll,"BEERS & COOLERS",English edition,Intercept Ltd.,1994,p.270-275,318-319
甲10:一般社団法人アルコール協会,"エタノール水溶液の容量%と重量%との換算表",エタノールの物性値、他,[online],一般社団法人アルコール協会,2024年11月18日印刷,印刷者:申立人,インターネット<URL:https://www.alcohol.jp/expert/expert_table/10suiyouekikanzan.pdf>
証拠の表示は当審による。
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1~4についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
1.理由1-1(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
ビールのフレーバーを有する飲料の製造方法であって:
化合物の第1群から選択される少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記化合物の第1群が3-メチルブタノール、2-メチルブタノール、2,3-ブタンジオン、バニリン、2-メチルプロパノール、3-メチルブタナール、2,3-ペンタンジオン、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、フラネオール、およびエチルフラネオールからなり、前記第1群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約0.5μg/l~約5,000,000μg/lの範囲の量で添加するステップ;
化合物の第2群からの少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記第2群が2-フェニルエタノール、2-フェニル酢酸、酢酸2-フェニルエチル、ミルセンおよびリナロールからなり、前記第2群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約5μg/l~約75,000μg/lの範囲の量で添加するステップ;ならびに
アロマ化合物の第3群からの少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記第3群がホップエキス、テトラ-イソ-エキス10%、ロ-イソ-エキス10%、および異性化ホップエキス30%からなり、前記第3群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約10,000μg/l~約30,000,000μg/lの範囲の量で添加するステップ;
を含み、
前記フレーバー化合物が、醸造、発酵、または蒸留の必要なくビールのフレーバーを有する飲料を形成するのに十分な量で含まれる、方法。
・・・
[請求項3]
アセトアルデヒド、酪酸エチル、2-メチルプロパン酸エチル、オクタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、3-メチル酪酸エチル、2-メチル酪酸エチル、(E)-β-ダマセノン、酢酸3-メチルブチル、1,1-ジエトキシエタン、およびtrans-ケイ皮酸エチルからなる群からの少なくとも1種の化合物をある量の水に添加するステップであって、前記少なくとも1種の化合物を約0.04μg/l~約25,000μg/lの範囲の量で添加するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。」
(1-2)「 [背景技術]
[0002]
アルコール飲料を含む飲料は世界中で製造されているが、飲料の輸送にはその重量のため大きな費用がかかり得る。一般的には、飲料は約90~95%の水を含み、これは重量のかなりの部分である。従って、フレーバーの濃縮混合物への水の添加により必要に応じて飲料を形成することができれば、保存および輸送の費用のかなりの節約となる。
[0003]
さらに、バーに、ビール、ワイン、シャンパン、およびリキュールのような幅広い種類の発酵飲料をストックしておくには大きな費用およびスペースが必要となり得る。また、ビール、ワインおよびリキュールのようなさまざまなクラフト飲料を発酵させ、形成するのに必要な時間は長く、原料は高価となり得る。
[0004]
よって、さまざまなクラフトビール、ワイン、シャンパン、ならびにリキュール、とくにウイスキーおよびスコッチのような味がするさまざまな飲料を製造するためのフレーバーシステム、方法および装置が望まれている。」
(1-3)「[0027]
広範囲のフレーバーを有するさまざまなフレーバーシステム12を迅速かつ安価に製造し、次に液体ベースと組み合わせて飲料を形成することができ、これは従来通りに醸造および/もしくは発酵させたビール、ワイン、リキュールもしくは混合飲料の味およびフレーバーを模倣する、または低フレーバービールの味を向上させるものである。
[0028]
好適な実施形態では、フレーバーシステム12は、下記群:(1)チージー、スウェッティフレーバー群;(2)モルティ、バタリーおよび/もしくはスイートフレーバー群;(3)フローラルおよび/もしくはハニーフレーバー群;(4)フルーティフレーバー群;(5)スモーキー、ココナッツ、ウッディフレーバー群;(6)クックド、シーズニング、ファッティフレーバー群;(7)フェノリック/メディシナルフレーバー群;(8)酸味群;(9)甘味群;(10)塩および苦味群;(11)渋み、口当たり群;(12)苦味群;ならびに/または(13)旨味および口当たり群のそれぞれの1つ以上からの少なくとも1種のフレーバー化合物を含む。」
(1-4)「[0035]
表2に示すように、フレーバー群2は、フレーバーシステム12から形成される飲料にモルティ、バタリーおよび/またはスイートアロマを与えることができる12個の化合物を含む。・・・
[0036]
[表2]
[図:0001421373000001.jpg]
[0037]
表3に示すように、フレーバー群3は、フレーバーシステム12から形成される飲料にフローラルおよび/またはハニーアロマを与えることができる7個の化合物を含む。・・・
[表3]
[図:0001421373000002.jpg]
[0038]
表4に示すように、フレーバー群4は、フレーバーシステム12から形成される飲料にフルーティアロマを与えることができる14個の化合物を含む。・・・
[0039]
[表4]
[図:0001421373000003.jpg]
・・・
[0054]
表12に示すように、フレーバー群12は、飲料を形成するフレーバーシステム12に苦味を与えることができる10個の化合物を含む。・・・
[表12]
[図:0001421373000004.jpg]
」
(1-5)「[0061]
好適には、ビールの味および/または口当たりを有する飲料は、フレーバー群2(モルティ、バタリー、スイートフレーバー)からの少なくとも1種(例えば、少なくとも2種、少なくとも3種、または少なくとも4種)の化合物、フレーバー群3(フローラル、ハニーフレーバー)からの少なくとも1種(例えば、少なくとも2種、少なくとも3種、または少なくとも4種)の化合物およびフレーバー群12(苦味)からの少なくとも1種(例えば、少なくとも2種、少なくとも3種、または少なくとも4種)の化合物を含む。他の実施形態では、ビールフレーバーを有する飲料は、残りのフレーバー群の1つ以上からの少なくとも1種(例えば、少なくとも2種、少なくとも3種、または少なくとも4種)の化合物を含むことができる。」
(1-6)「[0066]
(実施例3)
ピルスナータイプビールは、約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約2,000μg/lの量の2-メチルブタン酸、約10,000μg/lの量の2-フェニルエタノール、約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール、約2000μg/lの量の3-メチルブタン酸、約200μg/lの量の3-メチルブタナール、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約150μg/lの量の硫化ジメチル、約200μg/lの量の酪酸エチル、約200μg/lの量のヘキサン酸エチル、約150μg/lの量のオクタン酸エチル、約500μg/lの量のフラネオール、約500μg/lの量の2-フェニル酢酸、約5μg/lの量の3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約50,000μg/lの量の2-メチルブタノール、約100μg/lの量のエチルフラネオール、約300μg/lの量のリナロール、約150μg/lの量の4-アリル-2-メトキシフェノール、約5μg/lの量の3-(メチルチオ)-1-プロパナール、約400,000μg/lの量のクエン酸、約1,500,000μg/lの量のスクロース、約1,500,000μg/lの量のカリウム、約5,000,000μg/lの量のホップエキス、約100,000μg/lの量の異性化ホップエキス30%、約100,000μg/lの量のグルタミン酸一ナトリウム、約37,500,000μg/lの量のエタノールおよび水を組み合わせることにより製造することができる。
[0067]
(実施例4)
ライトピルスナータイプビールは、約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約2000μg/lの量の2-メチルブタン酸、約10,000μg/lの量の2-フェニルエタノール、約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール、約2,000μg/lの量の3-メチルブタン酸、約200μg/lの量の3-メチルブタナール、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約150μg/lの量の硫化ジメチル、約200μg/lの量の酪酸エチル、約200μg/lの量のヘキサン酸エチル、約150μg/lの量のオクタン酸エチル、約500μg/lの量のフラネオール、約500μg/lの量の2-フェニル酢酸、約5μg/lの量の3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約50,000μg/lの量の2-メチルブタノール、約100μg/lの量のエチルフラネオール、約300μg/lの量のリナロール、約150μg/lの量の4-アリル-2-メトキシフェノール、約5μg/lの量の3-(メチルチオ)-1-プロパナール、約400,000μg/lの量のクエン酸、約1,500,000μg/lの量のスクロース、約1,500,000μg/lの量のカリウム、約5,000,000μg/lの量のホップエキス、約100,000μg/lの量の異性化ホップエキス30%、約100,000μg/lの量のグルタミン酸一ナトリウム、約33,100,000μg/lの量のエタノールおよび水を組み合わせることにより製造することができる。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の[0004](摘記1-2)には、「さまざまなクラフトビール、ワイン、シャンパン、ならびにリキュール、とくにウイスキーおよびスコッチのような味がするさまざまな飲料を製造するためのフレーバーシステム」が望まれていることが記載され、その解決手段について、[0027]~[0028](摘記1-3)には、「広範囲のフレーバーを有するさまざまなフレーバーシステム12を迅速かつ安価に製造し、次に液体ベースと組み合わせて飲料を形成することができ、・・・好適な実施形態では、フレーバーシステム12は、下記群:(1)チージー、スウェッティフレーバー群;(2)モルティ、バタリーおよび/もしくはスイートフレーバー群;(3)フローラルおよび/もしくはハニーフレーバー群;(4)フルーティフレーバー群;(5)スモーキー、ココナッツ、ウッディフレーバー群;(6)クックド、シーズニング、ファッティフレーバー群;(7)フェノリック/メディシナルフレーバー群;(8)酸味群;(9)甘味群;(10)塩および苦味群;(11)渋み、口当たり群;(12)苦味群;ならびに/または(13)旨味および口当たり群のそれぞれの1つ以上からの少なくとも1種のフレーバー化合物を含む」ことが記載されている。また、ビールの味及び/又は口当たりを有する飲料を形成する場合については、[0061](摘記1-5)及び請求項1(摘記1-1)に、「フレーバー群2(モルティ、バタリー、スイートフレーバー)からの少なくとも1種・・・の化合物、フレーバー群3(フローラル、ハニーフレーバー)からの少なくとも1種・・・の化合物およびフレーバー群12(苦味)からの少なくとも1種・・・の化合物を含む」こと、及び「他の実施形態では、ビールフレーバーを有する飲料は、残りのフレーバー群の1つ以上からの少なくとも1種・・・の化合物を含むことができる」ことが記載され、請求項3には請求項1のフレーバー化合物に加えてフレーバー群4(フルーティ)([0038]~[0039]、摘記1-4)からの少なくとも1種の化合物をを添加することをさらに含む場合の発明が記載されている。そして、[0066]~[0067](摘記1-6)には、それらの実施例として、ピルスナータイプビールの実施例3及びライトピルスナータイプビールの実施例4が記載されている。
そうすると、甲1には、実施例3及び実施例4に基づいて以下の発明が記載されている。
「フレーバー群2(モルティ、バタリー、スイートフレーバー)からの化合物、フレーバー群3(フローラル、ハニーフレーバー)からの化合物、フレーバー群12(苦味)からの化合物及びフレーバー群4(フルーティ)からの化合物を含有するピルスナータイプビール又はライトピルスナータイプビールであって、約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約150μg/lの量のオクタン酸エチルを含有し、約37,500,000μg/l又は約33,100,000μg/lの量のエタノール及び水を組み合わせることにより製造される、ピルスナータイプビール又はライトピルスナータイプビール(具体的な成分名及び含有量は[0066]の実施例3及び[0067]の実施例4を参照。以下、記載を省略する。)。」(以下、「甲1発明」という。)
「約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約150μg/lの量のオクタン酸エチルを含有させる工程を含み、約37,500,000μg/l又は約33,100,000μg/lの量のエタノール及び水を組み合わせることにより、甲1発明のピルスナータイプビール又はライトピルスナータイプビールを製造する方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ピルスナータイプビール又はライトピルスナータイプビール」は、本件発明1における「アルコール飲料」に相当し、甲1発明における「約37,500,000μg/l又は約33,100,000μg/lの量のエタノール及び水を組み合わせることにより製造される」は、当該濃度における100ml中のエタノール(g)で表した濃度とエタノールの質量百分率(wt%)で表した濃度がほぼ同じ数値になることを踏まえ(例えば甲4参照。)、甲10の「重量%から容量%への換算表」(3wt%は3.76vol%、4wt%は5.00vol%)を用いると約4.91v/v%又は約4.14v/v%というエタノール濃度になるから、本件発明1における「アルコール度数が9%未満である」を満たしている。また、甲1発明における「約150μg/lの量のオクタン酸エチルを含有し、」は、本件発明1における「オクタン酸エチルを含有し、」に相当し、甲1発明における「約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン」は、β-ダマセノンを含有する限りにおいて本件発明1と一致する。
そうすると、両者は、
「アルコール度数が9%未満であるアルコール飲料であって、
オクタン酸エチルを含有し、
β-ダマセノンを含有するアルコール飲料。」
の点で一致し、
相違点甲1-1:本件発明1は「エキス分が3.5w/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
相違点甲1-2:本件発明1は「β-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」と特定するのに対し、甲1発明は「約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン」を含有する点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲1-2について検討する。
イ 相違点甲1-2について
甲1発明は、実施例3及び実施例4のいずれも、20種類のフレーバー化合物とホップエキス及び異性化ホップエキスをそれぞれ特定の濃度で含有することが特定された発明であり、これら多数のフレーバー成分のうち特に「β-ダマセノン」の含有量に着目する動機付けとなる記載は甲1には見いだせない。また、甲1の[0039]の[表4]には、(E)-β-ダマセノンをビール中に含める場合の濃度範囲として0.2~10μg/l(約0.2~10ppb)という濃度範囲が記載されており、甲9にはホップに含まれる油性化合物の一つとしてβ-ダマセノン(典型的な含有量は0.001~0.03mg/l(約1~30ppb))が記載されているが、甲1発明はβ-ダマセノン以外のフレーバー化合物を多数含むものであり、フレーバー全体のバランスがとれるβ-ダマセノンの濃度として「約3μg/lの量」という濃度に設定されたものと解されるから、当業者は甲1発明におけるβ-ダマセノンの含有量を甲1の表4等に記載された濃度範囲内で自由に変更できるものとは理解しない。さらに、仮に甲1発明におけるβ-ダマセノンの含有量を甲1の表4等の記載に基づいて5ppb以上~10μg/lの範囲に変更することに想到し得るとしても、「オクタン酸エチルを含有し、さらにβ-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」ことに基づいて本件発明1が「味の厚みと余韻が増強し、雑渋み・エグ味が低減する」という効果を発揮することは、甲1及び他の全ての証拠を参照しても当業者が予測できないことである。
よって、相違点甲1-2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書21~25頁において、甲1の[0039]の[表4]及び甲9の記載等を引用し、甲1発明のβ-ダマセノンの含有量を10μg/lまで増加させることは当業者が容易に想到できたことであること、及び特許権者が本件特許に係る出願の審査段階の意見書(令和5年12月22日提出)において、甲1の[0031]の記載に基づいてした説明は誤っていることを主張しているが、甲1の[表4]及び甲9等の記載を参酌しても当業者が相違点甲1-2に係る本件発明1の発明特定事項に容易に想到し得たとはいえないことは、上記イに記載したとおりであり、特許権者が審査段階の意見書でした主張の当否によって、その結論が変わることはない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点甲1-1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明3について
ア 本件発明3と甲1製法発明との対比
上記(3)アにおける本件発明1と甲1発明との対比を踏まえて、本件発明3と甲1製法発明とを対比すると、両者は、
「アルコール度数を9%未満とし、オクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンを含有させる工程を含むアルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点甲1-1’:本件発明3は「エキス分を3.5w/v%未満とし、」と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲1-2’:本件発明3は「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲1-2’について検討する。
イ 相違点甲1-2’について
相違点甲1-2’は、実質的に相違点甲1-2と同じ内容の相違点であるから、上記(3)イに記載したことと同様のことがいえる。
よって、相違点甲1-2’に係る本件発明3の発明特定事項は、甲1製法発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 本件発明3についてのまとめ
以上のことから、相違点甲1-1’について検討するまでもなく、本件発明3は甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1製法発明との対比
上記(5)アにおける本件発明3と甲1製法発明との対比を踏まえて、本件発明4と甲1製法発明とを対比すると、両者は、
「アルコール度数が9%未満であるアルコール飲料に、オクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンを含有させるアルコール飲料の成分調整方法。」
の点で一致し、
相違点甲1-1”:本件発明4は「エキス分が3.5w/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲1-2”:本件発明4は「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲1-3”:本件発明4は「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」であるのに対し、甲1製法発明は「甲1発明のピルスナータイプビール又はライトピルスナータイプビールを製造する方法」である点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲1-2”及び相違点甲1-3”について検討する。
イ 相違点甲1-2”及び相違点甲1-3”について
相違点甲1-2”は、実質的に相違点甲1-2と同じ内容の相違点であるから、上記(3)イに記載したことと同様のことがいえる。
また、上記(3)イに記載したとおり、甲1には、「オクタン酸エチルを含有し、さらにβ-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」ことに基づいて「味の厚みと余韻が増強し、雑渋み・エグ味が低減する」という効果を得ることは記載されていないから、相違点甲1-3”に係る「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」という発明を甲1の記載から導き出すことはできないし、他の全ての証拠の記載を参酌しても、当業者が甲1に記載された事項及び他の証拠の記載に基づいて相違点甲1-3”に係る「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」に容易に想到し得たとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書19頁において甲1に「甲1香味向上方法発明」が記載されていると主張し、同27頁において、「甲1は、様々な香味特性を有するフレーバー群1~13の化合物を組み合わせ、それらの含有量を変化させることで、ビール等の香味を消費者の嗜好に応じて変更できることを開示するから(段落[0026]~[0030])、甲1香味向上方法発明は、本件発明4の構成要件4C及び4Fに規定する要件(当審注:「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、渋雑味とエグ味とを低減させる香味向上方法であって、」及び「アルコール飲料の香味向上方法。」)を実質的に満たすといえる」こと、及び「甲1香味向上方法発明において、β-ダマセノンの含有量を本件発明4の構成要件4E(当審注:「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」)に規定する数値範囲を満たすように調整することは、・・・当業者が容易に想到できた」ことを主張している。
しかし、甲1の[表4]及び甲9等の記載を参酌しても当業者が相違点甲1-2”に係る本件発明4の発明特定事項(構成要件4E)に容易に想到し得たとはいえないことは、上記イ及び上記(3)イに記載したとおりである。また、甲1の[0026]~[0030]における「広範囲のフレーバーを有するさまざまなフレーバーシステム12」についての記載等に基づいて、相違点甲1-3”に係る「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」という技術的思想(構成要件4C及び4F)が甲1に実質的に記載されているということはできないし、さらに、甲1及び他の全ての証拠を参照しても、「オクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」ことに基づいて「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる」という効果が得られることは、当業者が予測できないことであるから、相違点甲1-2”を採用することと合わせて、相違点甲1-3”に係る「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」に当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 本件発明4についてのまとめ
以上のことから、相違点甲1-1”について検討するまでもなく、本件発明4は甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)理由1-1(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由1-1(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
2.理由1-2(甲2に基づく進歩性欠如)について
(1)甲2に記載された事項
甲2には以下の事項が記載されている。
(2-1)「[請求項1]
モノテルペンアルコール、βダマセノンおよびローズオキシドを少なくとも含んでなる焼酎であって、
アルコール度数が20度(%(v/v))である場合の含有量として、モノテルペンアルコールの含有量が800ppb以上であり、βダマセノンの含有量が32ppb以上であり、ローズオキシドの含有量が8ppb以上である、焼酎。」
(2-2)「[0005]
本発明者は、焼酎におけるモノテルペンアルコール、βダマセノンおよびローズオキシドの含有量を調整することにより、華やかな香りと甘い香味を有する焼酎が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
[0006]
従って、本発明は、嗜好性の高い焼酎およびその製法を提供することを目的とする。」
(2-3)「[0009]
本発明において「焼酎」とは、蒸留酒の一種であり、その原料および製法は酒税法において定義されている。発酵原料によって様々な種類の焼酎が知られており、具体例としては、例えば、米焼酎、麦焼酎、芋焼酎、黒糖焼酎、そば焼酎、栗焼酎、ジャガイモ焼酎、泡盛などが挙げられる。」
(2-4)「[0013]
上記のモノテルペンアルコールの含有量は、焼酎に含まれるモノテルペンアルコールの総和量(合計量)を意味するが、好ましくはリナロール、βシトロネロールおよびゲラニオールの含有量の合計量を意味する。」
(2-5)「[0017]
本発明の焼酎のアルコール度数(濃度)は、特に制限されるものではないが、例えば、焼酎のアルコール度数として一般的に認識される度数とされ、好ましくは13~36度(%(v/v))、より好ましくは20~25度(%(v/v))とされる。」
(2-6)「[0027]
実施例1:焼酎の製造および評価
本実施例では、焼酎サンプルを製造し、この焼酎サンプルについて官能評価および成分分析を行った。
・・・
[0031]
4.仕込み配合および醗酵期間
上記の玄米黒麹、原料芋および酵母を用いて、下記の表1に示す通りに前培養、1次仕込み、2次仕込みおよび3次仕込みを行った。ここで、各工程に示される原材料およびその量は、それぞれの工程に移行する際に追加で添加したものである。
[0032]
[表1]
[図:0001421373000005.jpg]
[0033]
5.蒸留
上記4における醗酵終了後に、得られたもろみを常圧蒸留に供した。留出液のアルコール濃度をモニタリングし、蒸留開始からアルコール濃度が10%に低下するまでの留出液を回収した。
[0034]
6.濾過貯蔵
得られた原酒を10℃以下での冷却濾過に供した後、タンク貯蔵した。6か月の貯蔵(熟成)終了後に、得られた焼酎サンプルを評価に供した。
・・・
[0049]
8.官能評価
(1)供試サンプル
供試サンプルとしては、以下の芋焼酎を用いた。
(i)浅黄うさぎ20度(メルシャン株式会社製・芋焼酎・ハマコマチ使用・ワイン酵母原酒不使用)。
(ii)ハマコマチ-ワイン酵母20度
ハマコマチを原料芋として使用して上記6で得られたAlc.34.1%の原酒を水(ボルビック)で20度に割水したもの。
(iii)タマアカネ-ワイン酵母20度
タマアカネを原料芋として使用して上記6で得られたAlc.32.7%の原酒を水(ボルビック)で20度に割水したもの。
(iv)伊佐小町(ハマコマチを原料芋として使用した芋焼酎・大口酒造株式会社製・25度)
市販の伊佐小町を水(ボルビック)で20度に割水したもの。
(v)茜霧島(タマアカネを原料芋として使用した芋焼酎・霧島酒造株式会社製・25度)
市販の茜霧島を水(ボルビック)で20度に割水したもの。
・・・
[0052]
9.成分分析結果と官能評価結果
成分分析の結果を以下の表7に示す。表7では、アルコール20度の上記焼酎サンプルから得られた結果に加えて、アルコール25度に割水したと仮定した場合の数値もあわせて示す。
[表7]
[図:0001421373000006.jpg]
」
(2)甲2に記載された発明
甲2の請求項1(摘記2-1)には、「モノテルペンアルコール、βダマセノンおよびローズオキシドを少なくとも含んでなる焼酎であって、アルコール度数が20度(%(v/v))である場合の含有量として、モノテルペンアルコールの含有量が800ppb以上であり、βダマセノンの含有量が32ppb以上であり、ローズオキシドの含有量が8ppb以上である、焼酎。」が記載されており、[0005](摘記2-2)には、「焼酎におけるモノテルペンアルコール、βダマセノンおよびローズオキシドの含有量を調整することにより、華やかな香りと甘い香味を有する焼酎が得られることを見出した」ことが記載されており、[0013](摘記2-4)には、「上記のモノテルペンアルコールの含有量は・・・好ましくはリナロール、βシトロネロールおよびゲラニオールの含有量の合計量を意味する」ことが記載されている。また、[0027]~[0052](摘記2-6)には、焼酎の製造及び評価を行った実施例が記載されており、[0052]の[表7]の、アルコール濃度を20度に割水した焼酎サンプルから得られた成分分析結果を参照すると、「ハマコマチ-ワイン酵母」(ハマコマチを原料芋として使用して上記6で得られたAlc.34.1%の原酒を水(ボルビック)で20度に割水したもの。)はリナロール498ppb、βシトロネロール164ppb、ゲラニオール87ppb、βダマセノン87ppb及びローズオキシド21ppbを含有し、「タマアカネ-ワイン酵母」(タマアカネを原料芋として使用して上記6で得られたAlc.32.7%の原酒を水(ボルビック)で20度に割水したもの。)はリナロール767ppb、βシトロネロール123ppb、ゲラニオール118ppb、βダマセノン32ppb及びローズオキシド9ppbを含有していたことが読み取れる。
そうすると、甲2には、アルコール20度の「ハマコマチ-ワイン酵母」及び「タマアカネ-ワイン酵母」の焼酎サンプルに基づいて以下の発明が記載されている。
「ハマコマチを原料芋として使用して製造され、リナロール498ppb、βシトロネロール164ppb、ゲラニオール87ppb、βダマセノン87ppb及びローズオキシド21ppbを含有する、アルコール濃度が20度の焼酎。」(以下、「甲2ハマコマチ発明」という。)
「タマアカネを原料芋として使用して製造され、リナロール767ppb、βシトロネロール123ppb、ゲラニオール118ppb、βダマセノン32ppb及びローズオキシド9ppbを含有する、アルコール濃度が20度の焼酎。」(以下、「甲2タマアカネ発明」という。)
また、「甲2ハマコマチ発明」と「甲2タマアカネ発明」とをまとめて「甲2発明」という。
「ハマコマチを原料芋として使用し、アルコール濃度を20度に割水し、リナロール498ppb、βシトロネロール164ppb、ゲラニオール87ppb、βダマセノン87ppb及びローズオキシド21ppbを含有するものとする工程を含む、甲2ハマコマチ発明の焼酎の製造方法。」(以下、「甲2ハマコマチ製法発明」という。)
「タマアカネを原料芋として使用し、アルコール濃度を20度に割水し、リナロール767ppb、βシトロネロール123ppb、ゲラニオール118ppb、βダマセノン32ppb及びローズオキシド9ppbを含有するものとする工程を含む、甲2タマアカネ発明の焼酎の製造方法。」(以下、「甲2タマアカネ製法発明」という。)
また、「甲2ハマコマチ製法発明」と「甲2タマアカネ製法発明」とをまとめて「甲2製法発明」という。
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2ハマコマチ発明とを対比すると、甲2ハマコマチ発明における「焼酎」は、本件発明1における「アルコール飲料」に相当する。また、甲2ハマコマチ発明における「βダマセノン87ppb」は、アルコール濃度が20度の焼酎における濃度であることを踏まえると、β-ダマセノンを含有する限りにおいて本件発明1と一致する。
そうすると、両者は、
「アルコール飲料であって、
β-ダマセノンを含有するアルコール飲料。」
の点で一致し、
相違点甲2-1H:本件発明1は「エキス分が3.5w/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-2H:本件発明1は「オクタン酸エチルを含有し、」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-3H:本件発明1は「アルコール度数が9%未満である」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ発明はアルコール濃度が20度である点
相違点甲2-4H:本件発明1は「アルコール度数が9%未満である」ことを前提として「β-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ発明はアルコール濃度が20度であるときに「βダマセノン87ppb」を含有する点
で相違する。
また、同様に、本件発明1と甲2タマアカネ発明とを対比すると、両者は、
「アルコール飲料であって、
β-ダマセノンを含有するアルコール飲料。」
の点で一致し、
相違点甲2-1T:本件発明1は「エキス分が3.5w/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲2タマアカネ発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-2T:本件発明1は「オクタン酸エチルを含有し、」と特定するのに対し、甲2タマアカネ発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-3T:本件発明1は「アルコール度数が9%未満である」と特定するのに対し、甲2タマアカネ発明はアルコール濃度が20度である点
相違点甲2-4T:本件発明1は「アルコール度数が9%未満である」ことを前提として「β-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」と特定するのに対し、甲2タマアカネ発明はアルコール濃度が20度であるときに「βダマセノン32ppb」を含有する点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲2-3H及び相違点甲2-3Tについて検討する。
イ 相違点甲2-3H及び甲2-3Tについて
甲2の[0005]~[0006](摘記2-2)には、「本発明者は、焼酎におけるモノテルペンアルコール、βダマセノンおよびローズオキシドの含有量を調整することにより、華やかな香りと甘い香味を有する焼酎が得られることを見出した。・・・従って、本発明は、嗜好性の高い焼酎およびその製法を提供することを目的とする」と記載されているから、甲2に記載された発明は「焼酎」についての課題を解決しようとするものである。
また、甲2の[0009](摘記2-3)には、「本発明において「焼酎」とは、蒸留酒の一種であり、その原料および製法は酒税法において定義されている」と記載され、[0017](摘記2-4)には、「本発明の焼酎のアルコール度数(濃度)は、特に制限されるものではないが、例えば、焼酎のアルコール度数として一般的に認識される度数とされ、好ましくは13~36度(%(v/v))、より好ましくは20~25度(%(v/v))とされる。」と記載されているから、甲2に記載された発明は、原料及び製法が酒税法の「焼酎」の定義に該当するアルコール飲料であって、一般的に焼酎と認識されるアルコール度数を有するもの、具体的には13~36度(%(v/v))のアルコール度数を有する「焼酎」についての課題を解決しようとするものであると理解することができる。
そうすると、甲2の記載に接した当業者は、アルコール濃度が20度である甲2ハマコマチ発明及び甲2タマアカネ発明は、いずれも「嗜好性の高い焼酎」を提供するという課題を解決し得るものであると理解し、割水を13~36度のアルコール濃度に変更したものも同様の効果が得られると予測することができるが、一般的に「焼酎」とは認識されない13度未満のアルコール濃度に割水を変更することは、甲2に記載された発明によって解決される課題の範疇を超え、必ずしも嗜好性の高い飲料が得られるとは予測できない。
よって、甲2ハマコマチ発明又は甲2タマアカネ発明におけるアルコール度数を、相違点甲2-3H又は相違点甲2-3Tに係る9%未満に変更することは、甲2の記載から当業者が動機付けられることではない。また、他の全ての証拠を参照しても、甲2ハマコマチ発明又は甲2タマアカネ発明におけるアルコール度数を9%未満に変更することは、当業者が動機付けられることではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書35~36頁において、甲2の[0015]、[0056]、[0017]を引用し、「甲2飲料発明のアルコール度数を、甲2に開示された数値範囲よりも下げることに阻害要因は存在しない」こと、及び「アルコール度数を7~9%程度に希釈したいわゆる「焼酎ハイボール」は本願出願日前に当業者に周知であり(たとえば、甲5~7)・・・したがって、甲2及び甲5~7に記載の周知技術を踏まえれば、・・・アルコール度数を7~9%程度に下げた芋焼酎ハイボールを作成することは容易である」と主張している。
しかし、上記イに記載したとおり、甲2に記載された発明の課題に照らせば、甲2ハマコマチ発明又は甲2タマアカネ発明のアルコール度数を13度未満に下げることは、飲料の嗜好性を低下させることにつながるから当業者が動機付けられることとはいえない。また、仮に、甲5~甲7を参照した当業者が、甲2ハマコマチ発明又は甲2タマアカネ発明のアルコール度数を7~9%程度に下げた芋焼酎ハイボールを作成することに想到し得るとしても、「オクタン酸エチルを含有し、さらにβ-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」ことに基づいて本件発明1が「味の厚みと余韻が増強し、雑渋み・エグ味が低減する」という効果を発揮することは、甲2及び他の全ての証拠を参照しても当業者が予測できないことである。
よって、相違点甲2-3H及び甲2-3Tについては、甲2及び他の全ての証拠の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえず、したがって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明3について
ア 本件発明3と甲2製法発明との対比
上記(3)アにおける本件発明1と甲2ハマコマチ発明との対比を踏まえて、本件発明3と甲2ハマコマチ製法発明とを対比すると、両者は、
「β-ダマセノンを含有させる工程を含むアルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点甲2-1H’:本件発明3は「エキス分を3.5w/v%未満とし、」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-2H’:本件発明3は「オクタン酸エチルを含有させ、」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-3H’:本件発明3は「アルコール度数を9%未満とし、」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ製法発明はアルコール濃度を20度に割水する点
相違点甲2-4H’:本件発明3は「アルコール度数を9%未満」とすることを前提として「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ製法発明はアルコール濃度を20度に割水するときに「βダマセノン87ppb」を含有するものとする点
で相違する。
また、同様に、上記(3)アにおける本件発明1と甲2タマアカネ発明との対比を踏まえて、本件発明3と甲2タマアカネ製法発明とを対比すると、両者は、
「β-ダマセノンを含有させる工程を含むアルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点甲2-1T’:本件発明3は「エキス分を3.5w/v%未満とし、」と特定するのに対し、甲2タマアカネ製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-2T’:本件発明3は「オクタン酸エチルを含有させ、」と特定するのに対し、甲2タマアカネ製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-3T’:本件発明3は「アルコール度数を9%未満とし、」と特定するのに対し、甲2タマアカネ製法発明はアルコール濃度を20度に割水する点
相違点甲2-4T’:本件発明3は「アルコール度数を9%未満」とすることを前提として「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」と特定するのに対し、甲2タマアカネ製法発明はアルコール濃度を20度に割水するときに「βダマセノン32ppb」を含有するものとする点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲2-3H’及び相違点甲2-3T’について検討する。
イ 相違点甲2-3H’及び相違点甲2-3T’について
相違点甲2-3H’及び相違点甲2-3T’は、それぞれ実質的に相違点甲2-3H及び相違点甲2-3Tと同じ内容の相違点であるから、上記(3)イに記載したことと同様のことがいえる。
よって、相違点甲2-3H’及び相違点甲2-3T’に係る本件発明3の発明特定事項は、甲2製法発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 本件発明3についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明4について
ア 本件発明4と甲2製法発明との対比
上記(5)アにおける本件発明3と甲2ハマコマチ製法発明との対比を踏まえて、本件発明4と甲2ハマコマチ製法発明とを対比すると、両者は、
「アルコール飲料に、β-ダマセノンを含有させるアルコール飲料の成分調整方法。」
の点で一致し、
相違点甲2-1H”:本件発明4は「エキス分が3.5w/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-2H”:本件発明4は「オクタン酸エチルを含有させ、」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-3H”:本件発明4は「アルコール度数が9%未満である」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ製法発明はアルコール濃度を20度に割水する点
相違点甲2-4H”:本件発明4は「アルコール度数が9%未満である」ことを前提として「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」と特定するのに対し、甲2ハマコマチ製法発明はアルコール濃度を20度に割水するときに「βダマセノン87ppb」を含有するものとする点
相違点甲2-5H”:本件発明4は「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」であるのに対し、甲2ハマコマチ製法発明は「甲2ハマコマチ発明の焼酎の製造方法」である点
で相違する。
また、上記(5)アにおける本件発明3と甲2タマアカネ製法発明との対比を踏まえて、本件発明4と甲2タマアカネ製法発明とを対比すると、両者は、
「アルコール飲料に、β-ダマセノンを含有させるアルコール飲料の成分調整方法。」
の点で一致し、
相違点甲2-1T”:本件発明4は「エキス分が3.5w/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲2タマアカネ製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-2T”:本件発明4は「オクタン酸エチルを含有させ、」と特定するのに対し、甲2タマアカネ製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲2-3T”:本件発明4は「アルコール度数が9%未満である」と特定するのに対し、甲2タマアカネ製法発明はアルコール濃度を20度に割水する点
相違点甲2-4T”:本件発明4は「アルコール度数が9%未満である」ことを前提として「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」と特定するのに対し、甲2タマアカネ製法発明はアルコール濃度を20度に割水するときに「βダマセノン87ppb」を含有するものとする点
相違点甲2-5T”:本件発明4は「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」であるのに対し、甲2タマアカネ製法発明は「甲2タマアカネ発明の焼酎の製造方法」である点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲2-3H”及び相違点甲2-3T”並びに相違点甲2-5H”及び相違点甲2-5T”について検討する。
イ 相違点甲2-3H”及び相違点甲2-3T” 並びに相違点甲2-5H”及び相違点甲2-5T”について
相違点甲2-3H”及び相違点甲2-3T”は、それぞれ実質的に相違点甲2-3H及び相違点甲2-3Tと同じ内容の相違点であるから、上記(3)イに記載したことと同様のことがいえる。
よって、相違点甲2-3H”及び相違点甲2-3T”に係る本件発明4の発明特定事項は、甲2製法発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、上記(3)ウに記載したとおり、甲2及び他の全ての証拠を参照しても、「オクタン酸エチルを含有し、さらにβ-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」ことに基づいて「味の厚みと余韻が増強し、雑渋み・エグ味が低減する」という効果を得ることは記載されていないから、当業者が甲2に記載された事項及び他の証拠の記載に基づいて相違点甲2-5H”又は相違点甲2-5T”に係る「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」に容易に想到し得たとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書34~35頁において甲2に「甲2香味向上方法発明」が記載されていると主張し、同35~36頁において甲2飲料発明である芋焼酎のアルコール度数を7~9%程度に下げた「芋焼酎ハイボール発明」及びその香味向上方法である「甲2芋焼酎ハイボール香味向上方法発明」が記載されていると主張し、同41頁において甲2の[0008]及び[0025]を引用し、「嗜好性の高い焼酎から得られる芋焼酎ハイボールに関する甲2芋焼酎ハイボール香味向上方法発明は、本件発明4の構成要件4C及び4Fに規定する要件(当審注:「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、渋雑味とエグ味とを低減させる香味向上方法であって、」及び「アルコール飲料の香味向上方法。」)を実質的に満たすといえる」と主張している。
しかし、上記(3)イに記載したとおり、甲2の[0005]~[0006]に記載された発明の課題に照らせば、甲2発明におけるアルコール度数を9%未満に変更することは、甲2の記載から当業者が動機付けられることではないから、甲2に「芋焼酎ハイボール発明」なる発明が記載されているとはいえないし、また、他の全ての証拠を参照しても、甲2発明におけるアルコール度数を9%未満に変更することは、当業者が動機付けられることではないから、甲2に「芋焼酎ハイボール発明」及びその香味向上方法である「甲2芋焼酎ハイボール香味向上方法発明」が記載されていることを前提とした申立人の主張は妥当ではない。
さらに、上記イに記載したとおり、甲2及び他の全ての証拠を参照しても、「オクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」ことに基づいて「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる」という効果が得られることは、当業者が予測できないことであるから、相違点甲2-3H”又は相違点甲2-3T”を採用することと合わせて、相違点甲2-5H”及び相違点甲2-5T”に係る「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」に当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 本件発明4についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)理由1-2(甲2に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由1-2(甲2に基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
3.理由1-3(甲3に基づく進歩性欠如)について
(1)甲3に記載された事項
甲3には以下の事項が記載されている。
(3-1)「加工用米み系358の焼酎麹用原料としての適性を把握するために,芋焼酎の工場規模試験醸造,成分分析および官能評価を行った.み系358の製麹はほぼ順調であり,麹は総ハゼでハゼ込みも十分で,出麹酸度も高く良質であった.み系358を用いた芋焼酎の製造における一次および二次もろみのアルコール分,純アルコール収得量等の製造経過は良好であった.また,芋焼酎の一般成分(pH,酸度,紫外部吸収,フルフラール)および主要香気成分(アルコール類,エステル類)含量について,み系358製および対照の夏の笑み製はほぼ同等であった.一方,特徴香微量成分(モノテルペンアルコール,β-ダマセノン)については,み系358製の含量が多かった.官能検査おいては,み系358製芋焼酎は「甘味がある」,「旨味がある」,「原料特性がある」等の特徴が見られ,夏の笑み製に比べて高く評価された.以上より,新しい加工用米み系358は焼酎麹用米としての醸造適性が高いと推定された.今後,栽培結果を合わせて検討し,実用化を目指していく.」(p.51要約)
(3-2)「1 はじめに
本格焼酎においては,芋,麦,米,そば等の多彩な原料を用いて個性豊かな商品が開発され,消費者に広く受け入れられてきた.宮崎県には40余りの焼酎製造場があり,平成26年の焼酎出荷金額は989億円に達しており,焼酎産業は本県屈指の主要産業である.本格焼酎の製造に不可欠なものの一つが麹であるが,その主な原料となる米の品質および必要量の確保は,焼酎業界にとって重要である.」(p.51「1 はじめに」)
(3-3)「3-2 芋焼酎の成分分析
・・・
表5に芋焼酎28度に含まれる主要香気成分のアルコール類およびエステル類濃度を示した.それぞれの成分について大きな違いは見られず,み系358製芋焼酎は主要な香気成分を十分含有することが分かった.表6に芋焼酎28度のモノテルペンアルコールおよびβ-ダマセノン濃度を示した.モノテルペンアルコールについて,み系358を用いた芋焼酎は対照に比べて濃度が高いことが分かった.モノテルペンアルコールは芋焼酎の特徴香成分であると報告されている.甘藷中には糖が結合したモノテルペン配糖体が存在し,もろみ中で麹由来のβ-グルコシダーゼで加水分解され,ゲラニオールとネロールが遊離する.一部は,蒸留工程の熱ともろみ中の酸でリナロールやα-テルピネオールに変換され,また,酵母によりシトロネロールに変換される7,8).み系358を用いた芋焼酎にはモノテルペンアルコールが多く含まれており,麹由来のβ-グルコシダーゼが甘藷の配糖体に十分に作用したと考えられ,原料特性が高い酒質であると推察された.また,β-ダマセノンは芋焼酎に含まれる温かみのある甘い香りの特徴香成分であり,芋焼酎の風味に寄与する9).み系358を用いた芋焼酎は対照に比較して含有量がやや多いことが分かった.もろみの発酵が良好であったことと,焼酎に十分な香気成分が含有されていたことから,み系358を用いた場合も麹菌の酵素生産性については問題ないと推察された.」(p.53「3-2 芋焼酎の成分分析」)
(3-4)「3-3 芋焼酎の官能評価
表7に芋焼酎28度の官能検査結果を示した.み系358製芋焼酎の平均点は1.8であり,対照の2.8および3.0と比較して評価が高かった.また,「甘味がある」,「旨みがある」,「原料特性がある」,「華やかである」等の良好なコメントが得られ,焼酎の品質が高いことが分かった.」(p.54「3-3 芋焼酎の官能評価」)
(3-5)「表5 芋焼酎28度の主要な香気成分濃度および高級アルコール比
[図:0001421373000007.jpg]
表6 芋焼酎28度のモノテルペンアルコールおよびβ-ダマセノン濃度
[図:0001421373000008.jpg]
表7 芋焼酎28度の官能検査結果
[図:0001421373000009.jpg]
」(p.54-55表5~表7)
(2)甲3に記載された発明
甲3のp.51要約(摘記3-1)には、「加工用米み系358の焼酎麹用原料としての適性を把握するために,芋焼酎の工場規模試験醸造,成分分析および官能評価を行った」と記載されており、p.53の「3-2 芋焼酎の成分分析」(摘記3-3)には、「表5に芋焼酎28度に含まれる主要香気成分のアルコール類およびエステル類濃度を示した.・・・表6に芋焼酎28度のモノテルペンアルコールおよびβ-ダマセノン濃度を示した」と記載されており、p.54の表5及び表6(摘記3-5)における「み系358製(黒麹)」欄を参照すると、カプリル酸エチルの濃度は1.2mg/Lであり、β-ダマセノンの濃度は19μg/Lであることが読み取れる。
そうすると、甲3には、加工用米み系358を焼酎麹用原料として行われた芋焼酎の工場規模試験醸造及びその成分分析結果に基づいて、以下の発明が記載されている。
「加工用米み系358を焼酎麹用原料として使用して醸造され、表5に記載された主要香気成分のアルコール類およびエステル類濃度を有し、表6に記載されたモノテルペンアルコールおよびβ-ダマセノン濃度を有し、カプリル酸エチルの濃度が1.2mg/Lであり、β-ダマセノンの濃度が19μg/Lである、アルコール濃度が28度の芋焼酎(「表5に記載された主要香気成分のアルコール類およびエステル類」及び「表6に記載されたモノテルペンアルコール」の具体的な成分名及び濃度は、表5及び表6の「み系358製(黒麹)」欄を参照。以下、記載を省略する。)。」(以下、「甲3発明」という。)
「加工用米み系358を焼酎麹用原料として使用し、醸造してアルコール濃度を28度とし、表5に記載された主要香気成分のアルコール類およびエステル類濃度を有するものとし、表6に記載されたモノテルペンアルコールおよびβ-ダマセノン濃度を有するものとし、カプリル酸エチルの濃度を1.2mg/Lとし、β-ダマセノンの濃度を19μg/Lとする工程を含む、甲3発明の芋焼酎の製造方法。」(以下、「甲3製法発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「芋焼酎」は、本件発明1における「アルコール飲料」に相当し、甲3発明における「カプリル酸エチルの濃度が1.2mg/Lであり、」は、「カプリル酸エチル」の化学構造が「オクタン酸エチル」に相当することから、本件発明1における「オクタン酸エチルを含有し、」に相当する。また、甲3発明における「β-ダマセノンの濃度が19μg/Lである、」は、アルコール濃度が28度の芋焼酎における濃度であることを踏まえると、β-ダマセノンを含有する限りにおいて本件発明1と一致する。
そうすると、両者は、
「アルコール飲料であって、
オクタン酸エチルを含有し、
β-ダマセノンを含有するアルコール飲料。」
の点で一致し、
相違点甲3-1:本件発明1は「エキス分が3.5w/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲3発明はそのように特定されていない点
相違点甲3-2:本件発明1は「アルコール度数が9%未満である」と特定するのに対し、甲3発明はアルコール濃度が28度である点
相違点甲3-3:本件発明1は「アルコール度数が9%未満である」ことを前提として「β-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」と特定するのに対し、甲3発明はアルコール濃度が28度であるときに「β-ダマセノンの濃度が19μg/Lである」点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲3-2について検討する。
イ 相違点甲3-2について
甲3のp.51の「1 はじめに」(摘記3-2)には、[0005]~[0006](摘記2-2)には、「本格焼酎の製造に不可欠なものの一つが麹であるが,その主な原料となる米の品質および必要量の確保は,焼酎業界にとって重要である.」と記載されており、p.53の「3-2 芋焼酎の成分分析」(摘記3-3)及びp.54の「3-3 芋焼酎の官能評価」(摘記3-4)では、いずれも芋焼酎28度の成分分析及び官能評価が行われており、p.51の要約(摘記3-1)には、芋焼酎28度の製造、成分分析及び官能評価を総括して、「加工用米み系358の焼酎麹用原料としての適性を把握するために,芋焼酎の工場規模試験醸造,成分分析および官能評価を行った.」こと、及び「芋焼酎の一般成分(pH,酸度,紫外部吸収,フルフラール)および主要香気成分(アルコール類,エステル類)含量について,み系358製および対照の夏の笑み製はほぼ同等であった.一方,特徴香微量成分(モノテルペンアルコール,β-ダマセノン)については,み系358製の含量が多かった.官能検査おいては,み系358製芋焼酎は「甘味がある」,「旨味がある」,「原料特性がある」等の特徴が見られ,夏の笑み製に比べて高く評価された.以上より,新しい加工用米み系358は焼酎麹用米としての醸造適性が高いと推定された.」と記載されているから、甲3は、み系358という加工用米が、「本格焼酎」に当たるアルコール濃度28度の「芋焼酎」を工場規模で醸造、製造することに適した性質を有していることを論じた研究報告であると解される。
また、甲3には、芋焼酎をアルコール濃度28度未満に割水することは記載されておらず、仮に、芋焼酎をアルコール濃度28度未満に割水すれば、「甘味がある」、「旨味がある」、「原料特性がある」等の高い官能評価をもたらしている特徴香微量成分(モノテルペンアルコール,β-ダマセノン)の濃度が薄くなることは明らかであり、まして、アルコール度数9%未満にまで割水すれば、在来の加工米と比較して醸造適性が高いという結論を導き出す根拠が薄弱となることが明らかである。
そうすると、甲3発明の芋焼酎を、「本格焼酎」とは認識されないアルコール度数9%未満に割水することは、甲3の記載から当業者が動機付けられることではない。
さらに、仮に甲3発明の芋焼酎をアルコール度数9%未満に割水することに想到し得るとしても、「オクタン酸エチルを含有し、さらにβ-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」ことに基づいて本件発明1が「味の厚みと余韻が増強し、雑渋み・エグ味が低減する」という効果を発揮することは、甲3及び他の全ての証拠を参照しても当業者が予測できないことである。
よって、相違点甲3-2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲3発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書35~36頁において、甲2の[0015]、[0056]、[0017]を引用し、「アルコール度数はアルコール飲料の種類や消費者の嗜好に照らし当業者が適宜決定する事項に過ぎない」こと、及び「アルコール度数を7~9%程度に希釈したいわゆる「焼酎ハイボール」は本願出願日前に当業者に周知であり(たとえば、甲5~7)・・・したがって、甲2及び甲5~7に記載の周知技術を踏まえれば、甲3で製造した芋焼酎を水や炭酸水で希釈し・・・アルコール度数を7~9%程度に下げた芋焼酎ハイボールを作成することは容易である」と主張している。
しかし、上記イに記載したとおり、甲3の研究報告の趣旨に照らせば、甲3発明のアルコール濃度を「本格焼酎」といえない9%未満に下げることは、当業者が動機付けられることとはいえない。また、仮に、甲5~甲7を参照した当業者が、甲3発明のアルコール濃度を7~9%程度に下げた芋焼酎ハイボールを作成することに想到し得るとしても、「オクタン酸エチルを含有し、さらにβ-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」ことに基づいて本件発明1が「味の厚みと余韻が増強し、雑渋み・エグ味が低減する」という効果を発揮することは、甲3及び他の全ての証拠を参照しても当業者が予測できないことである。
よって、相違点甲3-2については、甲3及び他の全ての証拠の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえず、したがって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点甲3-1及び相違点甲3-3について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明3について
ア 本件発明3と甲3製法発明との対比
上記(3)アにおける本件発明1と甲3発明との対比を踏まえて、本件発明3と甲3製法発明とを対比すると、両者は、
「オクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンを含有させる工程を含むアルコール飲料の製造方法。」
の点で一致し、
相違点甲3-1’:本件発明3は「エキス分を3.5w/v%未満とし、」と特定するのに対し、甲3製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲3-2’:本件発明3は「アルコール度数を9%未満とし、」と特定するのに対し、甲3製法発明はアルコール濃度を28度とする点
相違点甲3-3’:本件発明3は「アルコール度数を9%未満」とすることを前提として「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」と特定するのに対し、甲3製法発明はアルコール濃度を28度とするときに「β-ダマセノンの濃度を19μg/Lとする」点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲3-2’について検討する。
イ 相違点甲3-2’について
相違点甲3-2’は、実質的に相違点甲3-2と同じ内容の相違点であるから、上記(3)イに記載したことと同様のことがいえる。
よって、相違点甲3-2’に係る本件発明3の発明特定事項は、甲3製法発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 本件発明3についてのまとめ
以上のことから、相違点甲3-1’及び相違点甲3-3’について検討するまでもなく、本件発明3は甲3製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明4について
ア 本件発明4と甲3製法発明との対比
上記(5)アにおける本件発明3と甲3製法発明との対比を踏まえて、本件発明4と甲3製法発明とを対比すると、両者は、
「アルコール飲料にオクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンを含有させるアルコール飲料の成分調整方法。」
の点で一致し、
相違点甲3-1”:本件発明4は「エキス分が3.5w/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲3製法発明はそのように特定されていない点
相違点甲3-2”:本件発明4は「アルコール度数が9%未満である」と特定するのに対し、甲3製法発明はアルコール濃度を28度とする点
相違点甲3-3”:本件発明4は「アルコール度数が9%未満である」ことを前提として「β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」と特定するのに対し、甲3製法発明はアルコール濃度を28度とするときに「β-ダマセノンの濃度を19μg/Lとする」点
相違点甲3-4”:本件発明4は「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」であるのに対し、甲3製法発明は「甲3発明の芋焼酎の製造方法」である点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲3-2”及び相違点甲3-4”について検討する。
イ 相違点甲3-2”及び相違点相違点甲3-4”について
相違点甲3-2”は、実質的に相違点甲3-2と同じ内容の相違点であるから、上記(3)イに記載したことと同様のことがいえる。
よって、相違点甲3-2”に係る本件発明4の発明特定事項は、甲3製法発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、上記(3)イに記載したとおり、甲3及び他の全ての証拠を参照しても、「オクタン酸エチルを含有し、さらにβ-ダマセノンの含有量が5~500ppbである」ことに基づいて「味の厚みと余韻が増強し、雑渋み・エグ味が低減する」という効果を得ることは記載されていないから、当業者が甲3に記載された事項及び他の証拠の記載に基づいて相違点甲3-4”に係る「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」に容易に想到し得たとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書44頁において甲3に「甲3香味向上方法発明」が記載されていると主張し、同45頁において甲3飲料発明である芋焼酎のアルコール度数を7~9%程度に下げた「甲3芋焼酎ハイボール発明」及びその香味向上方法である「甲3芋焼酎ハイボール香味向上方法発明」が記載されていると主張し、同49頁において甲3のp.55左欄4(4)(当審注:「4 まとめ」の(4)官能検査の評価結果についてまとめた記載である。)を引用し、「嗜好性の高い焼酎から得られる芋焼酎ハイボールに関する甲3芋焼酎ハイボール香味向上方法発明は、本件発明4の構成要件4C及び4Fに規定する要件(当審注:「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、渋雑味とエグ味とを低減させる香味向上方法であって、」及び「アルコール飲料の香味向上方法。」)を実質的に満たすといえる」と主張している。
しかし、上記(3)イに記載したとおり、甲3の研究報告の趣旨に照らせば、甲3発明のアルコール濃度を「本格焼酎」といえない9%未満に下げることは、当業者が動機付けられることとはいえないから、甲3に「甲3芋焼酎ハイボール発明」及びその香味向上方法である「甲3芋焼酎ハイボール香味向上方法発明」が記載されていることを前提とした申立人の主張は妥当ではない。
さらに、上記イに記載したとおり、甲3及び他の全ての証拠を参照しても、「オクタン酸エチルを含有させ、β-ダマセノンの含有量を5~500ppbとする」ことに基づいて「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる」という効果が得られることは、当業者が予測できないことであるから、相違点甲3-2”を採用することと合わせて、相違点甲3-4”に係る「アルコール飲料の味の厚みと余韻とを増強させ、雑渋みとエグ味とを低減させる香味向上方法」に当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 本件発明4についてのまとめ
以上のことから、相違点甲3-1”及び相違点甲3-3”について検討するまでもなく、本件発明4は甲3製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)理由1-3(甲3に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲3記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由1-3(甲3に基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
2.理由2(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の[0007]等の記載からみて、本件発明1及び2が解決しようとする課題は「味の厚みと余韻とが増強され、雑渋味とエグ味とが低減されたアルコール飲料を提供すること」にあり、本件発明3が解決しようとする課題は「味の厚みと余韻とが増強され、雑渋味とエグ味とが低減されたアルコール飲料の製造方法を提供すること」にあり、本件発明4が解決しようとする課題は「味の厚みと余韻とが増強され、雑渋味とエグ味とが低減されるアルコール飲料の香味向上方法を提供すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載事項
本件明細書の[0005]には、エキス分の低いアルコール飲料の香味について検討したところ、アルコール飲料のエキス分が低いと、「味の厚み」が感じ難いだけでなく、香味全体として後引くような「余韻」も感じ難いこと、及びアルコールに由来する「雑渋味とエグ味」が目立ってしまうことが確認されたことが記載されており、[0017]には、エキス分が所定値未満、好ましくは3.5w/v%未満であることによって、上記の課題が明確に現れることとなることが記載されている。また、課題解決手段について、[0012]には、オクタン酸エチルをエキス分の低いアルコール飲料に含有させることによって、味の厚みと余韻とを増強させ、渋雑味とエグ味とを低減させることができること、[0014]には、β-ダマセノンを、エキス分が低いとともに前記したオクタン酸エチルを含むアルコール飲料に含有させることによって、味の厚みの増強効果、余韻の増強効果、渋雑味とエグ味の低減効果を、其々、大幅に向上させることができること、[0019]には、アルコール度数が所定値以下、好ましくは9v/v%未満であることによって、前記したオクタン酸エチルやβ-ダマセノンに基づく効果を十分に発揮させることができることが記載されている。さらに、実施例として、[0041]の[表1]及び[0046]には、アルコール度数を5v/v%、エキス分を1.2w/v%とし、オクタン酸エチルの含有量を0~300ppbとし、β-ダマセノンを含まないサンプル1-1~1-5の官能評価を行った結果、「オクタン酸エチルの含有量が増加するにしたがい、「味の厚み」と「余韻」が増強し、「渋雑味・エグ味」が低減することが確認できた」ことが記載され、[0042]の[表2]及び[0047]には、アルコール度数を5v/v%、エキス分を1.2w/v%、オクタン酸エチルの含有量を15ppbとし、β-ダマセノンの含有量を0~450ppbとしたサンプル2-1~2-5の官能評価を行った結果、「オクタン酸エチルを含有させた状態で、さらにβ-ダマセノンの含有量が増加するにしたがい、「味の厚み」と「余韻」がさらに増強し、「渋雑味・エグ味」がさらに低減することが確認できた」ことが記載され、[0043]の[表3]及び[0048]には、アルコール度数を5v/v%とし、エキス分を0.3~3.2w/v%とし、オクタン酸エチルの含有量を15ppb、β-ダマセノンの含有量を30ppbとしたサンプル3-1~3-5の官能評価を行った結果、「エキス分が所定値以下であれば、オクタン酸エチルとβ-ダマセノンに基づく効果(「味の厚み」と「余韻」の増強、「渋雑味・エグ味」の低減、「まとまり」の良化、「飲料としての総合評価」の良化)が発揮されることが確認できた」ことが記載され、[0044]の[表4]及び[0049]には、アルコール度数を3~9v/v%とし、エキス分を1.2w/v%、オクタン酸エチルの含有量を15ppb、β-ダマセノンの含有量を30ppbとしたサンプル4-1~4-5の官能評価を行った結果、「アルコール度数が所定値未満であれば、オクタン酸エチルとβ-ダマセノンに基づく効果(「味の厚み」と「余韻」の増強、「渋雑味・エグ味」の低減、「まとまり」の良化、「飲料としての総合評価」の良化)が発揮されることが確認できた」ことが記載されているから、上記[0012]、[0014]、[0017]及び[0019]に記載されたとおりに、各成分が実際に課題解決に寄与することが裏付けられている。
(4)サポート要件についての判断
以上のような本件明細書の記載に接した当業者は、サンプル1-1に代表されるエキス分が所定値未満でありアルコール度数が所定値以下であるアルコール飲料は、「味の厚み」が感じ難く、香味全体として後引くような「余韻」を感じ難く、アルコールに由来する「雑渋味とエグ味」が目立ってしまうという課題を有すること、表1により裏付けられるとおり、オクタン酸エチルをエキス分の低いアルコール飲料に含有させることによって、味の厚みと余韻とを増強させ、渋雑味とエグ味とを低減させることができること、表2により裏付けられるとおり、β-ダマセノンをエキス分が低いとともに前記したオクタン酸エチルを含むアルコール飲料に含有させることによって、味の厚みの増強効果、余韻の増強効果、渋雑味とエグ味の低減効果を、其々、大幅に向上させることができること、そして、表3及び表4により裏付けられるとおり、β-ダマセノン及びオクタン酸エチルの両者を含有させることによる効果は、エキス分が3.5w/v%未満、アルコール度数が9v/v%未満のアルコール飲料で発揮され、それにより上記課題が解決されることを理解することができる。
そうすると、当業者は、
「エキス分が3.5w/v%未満であり、アルコール度数が9%未満であるアルコール飲料であって、
オクタン酸エチルを含有し、
β-ダマセノンを含有するアルコール飲料。」
の範囲で本件発明の課題が解決されると認識することができる。
本件発明1は上記範囲に包含されものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
請求項1を引用する本件発明2、及び本件発明1と同様の成分組成の特定を備える本件発明3及び4についても、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、上記第3 1.(4)ア~ウのように主張しているが、いずれの主張も次のとおり採用することはできない。
ア オクタン酸エチルの含有量について
上記(3)及び(4)に記載したとおり、本件明細書の[0012]には、オクタン酸エチルをエキス分の低いアルコール飲料に含有させることによって、味の厚みと余韻とを増強させ、渋雑味とエグ味とを低減させることができることが記載されており、また、[0041]の[表1]及び[0046]には、アルコール度数を5v/v%、エキス分を1.2w/v%とし、オクタン酸エチルの含有量を0~300ppbとし、β-ダマセノンを含まないサンプル1-1~1-5の官能評価を行った結果が記載され、「オクタン酸エチルの含有量が増加するにしたがい、「味の厚み」と「余韻」が増強し、「渋雑味・エグ味」が低減する」という効果が得られることを確認できるから、当業者は、エキス分及びアルコール濃度が所定値未満であるアルコール飲料にオクタン酸エチルを含有させれば、オクタン酸エチルの含有量が0の場合よりも「味の厚み」と「余韻」が増強し、「渋雑味・エグ味」が低減することを理解することができる。さらに、[0014]、[0042]の[表2]及び[0047]の記載と合わせれば、当業者は、β-ダマセノンの併用によってオクタン酸エチルを含有することによる効果を大幅に向上させることができると理解できる。よって、当業者は、オクタン酸エチルを含有することを発明特定事項として含む本件発明1は、発明の課題を解決し得るものと認識することができる。
イ 「まとまり」が本件発明の課題解決の有無の判断と切り離せないこと
上記(2)に記載したとおり、本件明細書の[0007]等の記載からみて、本件発明1及び2が解決しようとする課題は「味の厚みと余韻とが増強され、雑渋味とエグ味とが低減されたアルコール飲料を提供すること」にあるものと認められる。そして、実施例においては、本件発明の課題とされている「味の厚み」、「余韻」及び「雑渋みとエグ味」に直接対応する評価項目である「味の厚み」、「余韻」、「渋雑味・エグ味」について官能評価が行われているから、上記課題が解決されたか否かは、当該「味の厚み」、「余韻」及び「渋雑味・エグ味」の3項目の官能評価の結果によって過不足なく判断することができる。よって、課題が解決されたか否かの判断において、「まとまり」及び「飲料としての総合評価」を勘案する必要はない。
ウ オクタン酸エチルの含有量が増加すれば「まとまり」と「飲料としての総合評価」が低下すること(表1及び表2)
上記イに記載したとおり、発明の課題が解決されたか否かの判断において、「まとまり」及び「飲料としての総合評価」を勘案する必要はない。また、表1及び表2における「味の厚み」、「余韻」及び「雑渋みとエグ味」の評価結果を参酌すると、上記アに記載したとおり、「オクタン酸エチルの含有量が増加するにしたがい、「味の厚み」と「余韻」が増強し、「渋雑味・エグ味」が低減する」という効果が得られることを確認することができ、申立人が主張する「オクタン酸エチルの含有量を・・・15ppbからさらに増加」させたときも、その効果は連続するものと期待できる。さらに、申立人は、オクタン酸エチルの含有量が15ppbを超えたとき、本件明細書で説明されている効果の傾向と異なり、発明の課題が解決されるとはいえないほど「味の厚み」、「余韻」又は「雑渋みとエグ味」の評価結果が低下することを、具体的な実験データにより示している訳でもない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(6)理由2(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~4は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由2(サポート要件違反)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~4についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。
また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700907