特許異議申立
2026-700337
発酵ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法
- 審判番号
- 2026-700337
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-075330
- 登録番号
- 7757233
- 請求日
- 2026年04月21日
- 審決日
- 2026年08月05日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】山尾 憲人
- 【権利者代理人】佐藤 剛
- 【異議申立人】野口 真理
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 水野 明梨
- 審判官 柴田 昌弘
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7757233号発明「発酵ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7757233号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7757233号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし15に係る特許についての出願は、令和3年4月7日(優先権主張 令和2年6月3日)を出願日とする特願2021-65425号の一部を令和4年4月28日に新たな特許出願としたものであって、令和7年10月10日にその特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和8年4月21日に特許異議申立人 野口 真里(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし15に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
灰分が0.1~0.2g/100g、原麦汁エキスが10%以下、かつ、糖質が1.0g/100ml以下であり、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を含む、発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項2】
アルコール含有量が1~6%(v/v)である、請求項1に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項3】
原麦汁エキスが5~9.5%である、請求項1または2に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項4】
前記塩が、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上である、請求項1~3のいずれかに記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項5】
前記塩が、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウムおよび塩化カルシウムからなる群より選択される一以上である、請求項4に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項6】
前記塩の含有量が、0.04~0.07g/100mlである、請求項1~5のいずれかに記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項7】
麦芽使用比率が、50%以上である、請求項1~6のいずれかに記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項8】
糖質が0.7g/100ml以下である、請求項1~7のいずれかに記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項9】
灰分を0.1~0.2g/100g、原麦汁エキスを10%以下、かつ、糖質を1.0g/100ml以下になるように調整することを含み、前記灰分の調整は、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を使用することを含む、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法。
【請求項10】
灰分を0.1~0.2g/100g、原麦汁エキスを10%以下、かつ、糖質を1.0g/100ml以下に調整することを含み、前記灰分の調整は、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を使用することを含む、発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法。
【請求項11】
前記塩が、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記塩が、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウムおよび塩化カルシウムからなる群より選択される一以上である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記塩が、0.04~0.07g/100mlで添加される、請求項9~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
麦芽使用比率を50%以上とすることを更に含む、請求項9~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記糖質が0.7g/100ml以下に調整される、請求項9~14のいずれかに記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和8年4月21日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。なお、申立理由の番号は、当審にて新たに付した。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし15は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし15は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし15は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2017-195801号公報
甲第2号証:特開2018-198619号公報
甲第3号証: 「第1章ビールの一般成分」、日本酸造協会雑誌(醸協)、71(7)、505-510頁、1976年
甲第4号証:岩波理化学辞典、株式会社岩波書店、第4版第7刷、127頁、1992年7月20日発行
甲第5号証:醸造物の成分、財団法人日本酸造協会、182-183および187-188頁、1999年12月10日
甲第6号証:日本食品標準成分表2015年版(七訂)、第2刷、全国官報販売協同組合、190-191頁、2016年4月22日
甲第7号証:ビールの基本技術、第四版、公益財団法人日本醸造協会、29-31頁、2014年7月15日
甲第8号証:関係法令付 酒税法及び酒類行政関係法令通達集(平成2 8年4月1日改正)、法令出版株式会社、16-17頁、平成28年7月15日発行
甲第9号証:Brewing Science and practice, Dennis E. Briggs, Chris A. Boulton, Peter A. Brookes and Roger Stevens, Woodhead Publishing Limited and CRC Press LLC, pp64-65 (2004)
甲第10号証:Editorial and General, The chemist in the brewery, Journal of the Institute of Brewing, Institute of Brewing (Great Britain), Volume 29, Issue 2, pp35-39, 1923年2月
甲第11号証:Col. J. H. Collett, The treatment of brewing waters with special reference to the elimination of carbonates, Journal of the Institute of Brewing, Institute of Brewing (Great Britain), Volume 37, Issue 3, pp274-281, 1931年5月
甲第12号証:Sara L. Matthews et al., Preparation of a Low Carbohydrate Beer by Mashing at High Temperature with Glucoamylase, Journal of the Institute of Brewing, Institute of Brewing (Great Britain), Volume107, No. 3, pp185-194, 2001年
甲第13号証:米国特許第3717471号明細書
なお、証拠の表記については、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
当審は、申立理由1ないし2-2には、以下のとおり理由がないと判断する。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)及び申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には「ビ-ルテイスト飲料の製造方法及びビールテイスト飲料」に関して、次の記載がある。下線は当審が付したものである。他の証拠についても同様である。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、糖質含有量が低減された従来のビールテイスト飲料は、十分良好な香味を有するとはいえない。例えば、上記特許文献1に記載されたビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル臭が強く、好ましい香味を有するものではない。
【0006】
本発明は、酢酸イソアミル臭が低減された、糖質含有量の低いビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することを目的とする。」
・「【0042】
本明細書における糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分を除いたものをいう。また、食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分の量を控除することにより算定される。タンパク質、脂質、灰分、水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。アルコール分の量は、水分量とともに測定することができる。具体的には、タンパク質の量は改良デュマ法による全窒素(タンパク質)の定量法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法又はレーゼゴットリーブ法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法又は硫酸添加灰化法で測定し、水分及びアルコール分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧加熱乾燥法、常圧加熱乾燥法又はプラスチックフィルム法で測定する。」
・「【0049】
ビールテイスト飲料は、着色料、果汁、酸化防止剤、香料、塩類、酸味料、ミネラル等を含んでもよい。」
・「【0053】
(実施例1)
麦原料として粉砕した大麦麦芽17kg、仕込水68L、大麦麦芽に対して約1.3w/w%の多糖分解酵素を含む原料を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)に、冷麦汁量に対して0.15w/v%(375U/ml)のグルコアミラーゼ、同0.15w/v%(2.55U/ml)のβ-アミラーゼ、同0.08w/v%(2.40U/ml)のプルラナーゼを投入した。ビール酵母を摂種し、所定期間発酵させ、アルコール濃度約5体積%のビールテイスト飲料を得た。」
・「【0056】
(糖質量)
得られたビールテイスト飲料の水分、アルコール分、タンパク質、灰分の量をそれぞれ測定した。水分とアルコール分は常圧加熱乾燥法により測定した。タンパク質量は、改良デュマ法により全窒素(タンパク質)の定量法により測定した。灰分量は、直接灰化法により測定した。ビールテイスト飲料中の脂質量を0g/100ml、食物繊維量を0.1g/100mlとみなし、ビールテイスト飲料の重量から、水分、アルコール分、タンパク質量、灰分量及び0.1g/100mlを引いた値をビールテイスト飲料の糖質量(g/100ml)として算定した。」
・「【0060】 【表1】
[図:0001439248000001.jpg]
【0061】
発酵時に添加する酵素としてトランスグルコシダーゼのみを用いた比較例1~3と比較して、実施例1~3で得られたビールテイスト飲料は、酢酸イソアミル臭が少なく、飲用時のスムースさ及びキレに優れていた。また、実施例1~3のビールテイスト飲料は、アルコールチルヘイズ値が低く、混濁耐久性に優れることが示された。実施例1~3の中では、原料中の麦芽使用比率が高いほど、官能評価結果がより良好であった。」
イ 甲1に記載された発明
甲1の【0060】に記載された【表1】から、実施例1のビールテイスト飲料は、灰分が0.15g/100mlであり、糖質が0.68g/100mlであるといえる。そうすると、甲1に記載された事項を、特に、実施例1について整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1飲料発明」、「甲1製法発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1飲料発明>
「麦原料として粉砕した大麦麦芽17kg、仕込水68L、大麦麦芽に対して約1.3w/w%の多糖分解酵素を含む原料を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造し、得られた糖化液を濾過して得た麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却し、得られた発酵前液(冷麦汁)に、冷麦汁量に対して0.15w/v%(375U/ml)のグルコアミラーゼ、同0.15w/v%(2.55U/ml)のβ-アミラーゼ、同0.08w/v%(2.40U/ml)のプルラナーゼを投入し、ビール酵母を摂種し、所定期間発酵させて得た、灰分が0.15g/100mlであり、糖質が0.68g/100mlであり、アルコール濃度約5体積%である、ビールテイスト飲料。」
<甲1製法発明>
「麦原料として粉砕した大麦麦芽17kg、仕込水68L、大麦麦芽に対して約1.3w/w%の多糖分解酵素を含む原料を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造し、得られた糖化液を濾過して得た麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却し、得られた発酵前液(冷麦汁)に、冷麦汁量に対して0.15w/v%(375U/ml)のグルコアミラーゼ、同0.15w/v%(2.55U/ml)のβ-アミラーゼ、同0.08w/v%(2.40U/ml)のプルラナーゼを投入し、ビール酵母を摂種し、所定期間発酵させる、灰分が0.15g/100mlであり、糖質が0.68g/100mlであり、アルコール濃度約5体積%である、ビールテイスト飲料の製造方法。」
<甲1方法発明>
「麦原料として粉砕した大麦麦芽17kg、仕込水68L、大麦麦芽に対して約1.3w/w%の多糖分解酵素を含む原料を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造し、得られた糖化液を濾過して得た麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却し、得られた発酵前液(冷麦汁)に、冷麦汁量に対して0.15w/v%(375U/ml)のグルコアミラーゼ、同0.15w/v%(2.55U/ml)のβ-アミラーゼ、同0.08w/v%(2.40U/ml)のプルラナーゼを投入し、ビール酵母を摂種し、所定期間発酵させる、 灰分を0.15g/100ml、かつ、糖質を0.68g/100mlになるよう調整することを含む、アルコール濃度約5体積%のビールテイスト飲料の酢酸イソアミル臭を低減する方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下「本件特許の発明の詳細な説明」という。)の【0002】には「「アルコール飲料」とは、エチルアルコールを実質的な量で含有する飲料をいう。酒税法では、体積アルコール度数1%以上の飲料を酒類としている。」と記載されており、甲1飲料発明は「アルコール濃度約5体積%である、ビールテイスト飲料 」であるから、「ビールテイストアルコール飲料」であるといえ、同【0002】には「「ビール」および、ビール同様の発酵工程を経て製造された発泡酒を総称して、発酵ビールテイストアルコール飲料という。」と記載されており、甲1飲料発明は、ビール同様の発酵工程を経て製造されたものであるといえるから「発酵ビールテイストアルコール飲料」であるといえる。
そして、甲1飲料発明は「灰分が0.15g/100mlであ」り、甲1飲料発明の比重は約1であるといえるから、本件特許発明1の「灰分が0.1~0.2g/100g 」という発明特定事項を満たし、甲1飲料発明は「糖質が0.68g/100mlであ 」るから、本件特許発明1の「糖質が1.0g/100ml以下であ」るという発明特定事項を満たす。
そうすると、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「灰分が0.1~0.2g/100g 、かつ、糖質が1.0g/100ml以下である、発酵ビールテイストアルコール飲料。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1-1-1>
本件特許発明1は「原麦汁エキスが10%以下」であるのに対し、甲1飲料発明は原麦汁エキスの値が不明である点。
<相違点1-1-2>
本件特許発明1は「リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を含む 」ものであるのに対し、甲1飲料発明は上記の塩を含むか否かが不明である点。
イ 当審の判断
事案に鑑み、上記相違点1-1-2について検討する。
甲1には、ビールテイスト飲料が「塩類」や「ミネラル」を含んでもよいことが記載されているものの、甲1飲料発明が「リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩」(以下「本件特許発明1の塩」という。)を含むことは記載されていないし、甲1及び他の証拠をみても、甲1飲料発明が本件特許発明1の塩を含む蓋然性が高いと判断する理由も見当たらない。
よって、相違点1-1-2は実質的な相違点である。
そして、甲1及び他の証拠をみても、甲1飲料発明において、本件特許発明1の塩を含むものとする動機がなく、本件特許発明1は、これにより、低糖質であっても、味がきりっとひきしまった、さらには、呈味のバランスの取れた発酵ビールテイストアルコール飲料を提供することができるという、その構成から予測することができた範囲を超えた顕著な効果を奏する。
よって、甲1飲料発明において、相違点1-1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1飲料発明ではなく、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書(43-44頁)において、相違点1-1-2について以下の主張をしている。
甲5及び甲6に記載されているとおり、ビールには各種無機成分が含まれ、そのような無機成分には塩化カルシウム等の無機塩が含まれていることは、醸造業界において周知の事項であったから、甲1飲料発明には、塩化カルシウム等の無機塩が必然的に含まれているといえる。
したがって、相違点1-1-2は実質的な相違点ではない。
仮に本件特許発明1と甲1飲料発明とが相違点1-1-2において相違するとしても、甲1にはビールテイスト飲料が塩類やミネラル等を含みうることが記載されている(甲1の【0049】)。そして、ビールの品質の観点からリン酸二水素カリウム等の無機塩(ミネラル)を用水に添加して水質調整することは、甲7~11に記載されているとおり、ビール醸造では周知の事項であり、極めて通常な手順といえ、さらに、低糖質のビールテイスト飲料の製造においては用水に塩化カルシウム等の無機塩を添加して水質調整することが実際に行われていた(甲12及び甲13)。さらに、添加した無機塩は灰分としてカウントされ、糖質濃度の算出に有利に働くため、低糖質のビールテイスト飲料である甲1飲料発明において無機塩を添加する強い動機付けがあるといえる。
したがって、甲1飲料発明において、リン酸二水素カリウム等の本件特許発明1の塩を含むものとすることは当業者が容易に想到し得る程度の事項である。
(イ)特許異議申立人の主張に対する当審の判断
甲5には、ビール中の無機成分量は無機塩量で500~2000ppmといわれていることが記載され、主な陽イオン、陰イオン及び微量金属元素が例示されているものの、本件特許発明1の塩を含むことは記載されていない。そして、甲6には、ビール及び発泡酒に含まれる無機質の含有量が記載されているものの、本件特許発明1の塩を含むことは記載されていない。
したがって、甲5及び甲6の記載をみても、甲1飲料発明が、本件特許発明1の塩を含むとはいえず、本件特許発明1の塩を含む蓋然性が高いともいえない。
そして、以下に記載するとおり、甲7ないし11の記載をみても、甲1飲料発明において、本件特許発明1の塩を添加する動機があるとはいえず、甲12及び13に、低糖質ビールの調整において塩化カルシウムや硫酸マグネシウムを添加することが記載されているとしても、甲12及び13に記載された低糖質ビールと甲1飲料発明との関係が不明であるから、甲12及び甲13の記載から、甲1飲料発明において本件特許発明1の塩を添加する動機があるとはいえない。そして、本件特許発明1は、灰分が0.1~0.2g/100g 、原麦汁エキスが10%以下、かつ、糖質が1.0g/100ml以下であることに加えて、本件特許発明1の塩を含むことにより、低糖質であっても、味がきりっとひきしまった、さらには、呈味のバランスの取れた発酵ビールテイストアルコール飲料を提供することができるという、その構成から予測することができた範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
甲7には、醸造用水の酸度を上げるために、石膏や塩化カルシウムを添加することが記載されており、これらが麦汁中のリン酸塩と作用して酸度を上げることが記載されているものの、酢酸イソアミル臭の低減を課題とする甲1引用発明において、醸造用水の酸度を上げる動機は見当たらない。
甲8は、酒類の原料として取り扱わない物品を例示したものであり、甲1飲料発明においてこれらの物品を添加する動機は見当たらない。
甲9には、硫酸カルシウム及び/又は塩化カルシウムの添加(バートナイゼーション)は一般的であり、脱ミネラル化や逆浸透処理水をベースとして使用する場合、含まれるすべての塩類が後から添加されたものであることが記載されているものの、甲1飲料発明が脱ミネラル化や逆浸透処理水をベースとして使用したものであるか否かは不明であり、甲1飲料発明において、硫酸カルシウム等を添加する動機があるとはいえない。
甲10には、大多数の醸造者は、特定の種類のビールを製造する際には、水に含まれる硫酸ナトリウムや炭酸ナトリウムを分解するために醸造用水を塩化カルシウムで処理するか、あるいはペールエールには石膏を、マイルドエールにはコクを出すために塩化物を添加するなどして、水質を改善すべきだと考えているからである、と記載されているが、甲1飲料発明が甲10に記載された「特定の種類のビール」に該当するか否かは不明であるから、甲1飲料発明において、塩化カルシウム等を添加する動機があるとはいえない。
甲11には、石灰、マグネシア、ソーダ塩基の相互の割合は、最終平衡点に実質的な影響を及ぼすこと、塩化カルシウムがほとんどすべての用水処理混合物の成分であること、が記載されているものの、甲1飲料発明において甲11に記載された用水処理混合物を使用する動機は見当たらない。
エ 本件特許発明1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1飲料発明ではなく、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有し、さらに限定するものである。
そうすると、本件特許発明2ないし8は、甲1飲料発明と少なくとも上記相違点1-1-1及び1-1-2において相違し、上記(2)と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし8は、甲1飲料発明ではなく、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明9について
本件特許発明9と甲1製法発明とを上記(2)アを踏まえて対比すると、両者は以下の点において一致する。
<一致点>
「灰分を0.1~0.2g/100g 、かつ、糖質を1.0g/100ml以下に調整することを含む、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1-9-1>
本件特許発明9は、製造する発酵ビールテイストアルコール飲料の「原麦汁エキスを10%以下」に調整することを含むのに対し、甲1製法発明はそのように特定していない点。
<相違点1-9-2>
本件特許発明9は「灰分の調整は、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を使用することを含む 」ものであるのに対し、甲1製法発明はそのように特定していない点。
事案に鑑み、上記相違点1-9-2について検討する。上記相違点1-9-2は、上記相違点1-1-2と同様の内容であるから、上記(2)イ及びウと同様に判断される。
すなわち、本件特許発明9は、甲1製法発明ではなく、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明10について
甲1方法発明は「発酵ビールテイストアルコール飲料の酢酸イソアミル臭を低減する方法 」であり、「発酵ビールテイストアルコール飲料」の呈味を改善するものであるといえるから、本件特許発明10の「発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法」という発明特定事項を満たすといえる。
本件特許発明10と甲1方法発明とを上記(2)アを踏まえて対比すると、両者は以下の点において一致する。
<一致点>
「灰分を0.1~0.2g/100g、かつ、糖質を1.0g/100ml以下に調整することを含む、発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1-10-1>
本件特許発明10は、呈味を改善する発酵ビールテイストアルコール飲料の「原麦汁エキスを10%以下」に調整することを含むのに対し、甲1方法発明はそのように特定していない点。
<相違点1-10-2>
本件特許発明10は「灰分の調整は、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を使用することを含む 」ものであるのに対し、甲1方法発明はそのように特定していない点。
事案に鑑み、上記相違点1-10-2について検討する。上記相違点1-10-2は、上記相違点1-1-2と同様の内容であるから、上記(2)イ及びウと同様に判断される。
すなわち、本件特許発明10は、甲1方法発明ではなく、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明11ないし15について
本件特許発明11ないし15は、請求項9又は10の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明9又は10の発明特定事項を全て有し、さらに限定するものである。
そうすると、本件特許発明11ないし15は、甲1製法発明又は甲1方法発明と少なくとも上記相違点1-9-1及び1-9-2又は上記相違点1-10-1及び1-10-2において相違し、上記(4)又は(5)と同様に判断される。
よって、本件特許発明11ないし15は、甲1製法発明又は甲1方法発明ではなく、甲1製法発明又は甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由1及び申立理由2-1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1ないし15は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、かつ、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由1及び申立理由2-1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2-2(甲2を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「低糖質発酵飲料及びその製造方法」に関して、次の記載がある。
・「【請求項1】
原麦汁エキスが6.0重量%以上であり、糖質が0.7 g/100ml以下である発酵飲料。
【請求項2】
原麦汁エキスが6.2重量%以上であり、糖質が0.5 g/100ml以下である請求項1に記載の発酵飲料。
【請求項3】
原麦汁エキスが6.7重量%以下である請求項1または2に記載の発酵飲料。
【請求項4】
原麦汁エキスが6.5重量%以下である請求項3に記載の発酵飲料。
【請求項5】
糖質が0.3g/100ml以下である請求項1~4のいずれかの項に記載の発酵飲料。
【請求項6】
原料麦芽の一部として、高温高圧水蒸気処理を行った麦芽穀皮を使用することを特徴とする請求項1~5のいずれかの項に記載の発酵飲料。
【請求項7】
原料麦芽の一部として、EBCカラー20から400の範囲内である色麦芽を使用することを特徴とする請求項1~5のいずれかの項に記載の発酵飲料。
【請求項8】
発酵飲料がビールテイスト飲料であることを特徴とする請求項1~7のいずれかの項に記載の発酵飲料。
【請求項9】
発酵飲料が発泡酒である請求項8に記載の発酵飲料。
・・・
【請求項13】
少なくとも原料麦芽と水とを含む液を準備する工程、 この液に糖化酵素を添加し、原料麦芽由来の糖質を糖化酵素によって資化性の高い糖質に変換して糖化液を得る工程、 得られた糖化液に、資化性の高い糖類をさらに添加して発酵原液を得る工程、及び 得られた発酵原液を発酵させる工程、 を含む請求項1~12のいずれかの項に記載の発酵飲料の製造方法。 ・・・」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵飲料及びその製造方法に関し、さらに詳細には、原麦汁エキス値により表される濃醇さやうま味を保持しつつ、糖質を低下させて糖質による後味のキレの悪さを低減させることにより香味を向上させた麦芽発酵飲料及びその製造方法に関する。」
・「【0009】
本発明者らは、ビールテイスト飲料中の原麦汁エキスに対する糖質の割合を変える手段について鋭意検討した結果、麦汁中の成分組成を変化させることにより発酵後のビールテイスト飲料の原麦汁エキスに対する糖質の割合を変化させることができることを見出した。これにより、原麦汁エキスにより表される濃醇さやうま味を保ちながら、糖質由来の後味のキレの悪さを低減させることができ、香味が格段に向上したビールテイスト飲料を得ることができた。詳細には、発酵飲料中の原麦汁エキスを6.0重量%以上とし、かつ糖質を0.7 g/100ml以下とすることにより、発酵飲料の濃醇さやうま味を保ちながら、糖質由来の後味のキレの悪さを低減させた発酵飲料を製造することに成功した。」
・「【0032】
(発酵飲料)
本発明における発酵飲料としては、その原料や製法によって、穀物醸造酒及び果実醸造酒等があげられるが、発酵飲料であればどのような酒類でも良く、特に限定されるものではない。つまり、本発明の発酵飲料は、酵母による発酵工程を経て製造される飲料を全て包含する。例えば、発泡酒、ビール、低アルコール発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の発酵飲料)、雑酒、リキュール類、スピリッツ類が挙げられる。本発明でいうビールテイスト飲料とは、炭素源、窒素源、ホップ類などを原料とし、酵母で発酵させた飲料であって、ビールのような風味を有するものをいう。ビールテイスト飲料としては、例えば、発泡酒、ビール、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽発酵飲料)などが挙げられる。本発明はビールテイスト飲料の製法に適している。酒税法上の名称においてビール、発泡酒、リキュール類、その他雑酒などの多様な呼び名の酒類が存在するが、全てのビールテイスト飲料に適用することが可能であり、特に限定されるものではない。
【0033】
本発明の発酵飲料のアルコール分は特に限定されないが、1~15%(v/v)であることが望ましい。特にビールや発泡酒といったビールテイスト飲料として消費者に好んで飲用されるアルコール飲料と同程度のアルコール濃度、すなわち、1~6%(v/v)の範囲であることが望ましいが特に限定されるものではない。」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項8を引用する請求項9及びこれを引用する請求項13について整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2飲料発明」及び「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2飲料発明>
「原麦汁エキスが6.0重量%以上6.7重量%以下であり、糖質が0.7g/100mlであり、発泡酒である、発酵ビールテイスト飲料。」
<甲2製法発明>
「少なくとも原料麦芽と水とを含む液を準備する工程、この液に糖化酵素を添加し、原料麦芽由来の糖質を糖化酵素によって資化性の高い糖質に変換して糖化液を得る工程、得られた糖化液に、資化性の高い糖類をさらに添加して発酵原液を得る工程、及び得られた発酵原液を発酵させる工程、を含む、甲2飲料発明の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。」
そして、甲2に記載された発明は「原麦汁エキス値により表される濃醇さやうま味を保持しつつ、糖質を低下させて糖質による後味のキレの悪さを低減させることにより香味を向上させた麦芽発酵飲料及びその製造方法に関する」ものであるから(甲2の【0001】)、麦芽発酵飲料の呈味を改善するものといえ、甲2には次の発明(以下「甲2方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2方法発明>
「原麦汁エキスを6.0重量%以上6.7重量%以下、かつ、糖質を0.7g/100mlに調整することを含む、発泡酒である、発酵ビールテイスト飲料の呈味改善方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許の発明の詳細な説明の【0002】には「本明細書において、便宜上、「ビール」及び「発泡酒」を総称して、ビールテイストアルコール飲料という。」と記載されており、甲2飲料発明は「発泡酒である、発酵ビールテイスト飲料 」であるから、「ビールテイストアルコール飲料」であるといえ、同【0002】には「「ビール」および、ビール同様の発酵工程を経て製造された発泡酒を総称して、発酵ビールテイストアルコール飲料という。」と記載されており、甲2飲料発明は、甲2の【0032】の記載からみて、ビール同様の発酵工程を経て製造されたものであるといえるから、「発酵ビールテイストアルコール飲料」であるといえる。
そして、甲2飲料発明は「原麦汁エキスが6.0重量%以上6.7重量%以下であ」るから、本件特許発明1の「原麦汁エキスが10%以下」という発明特定事項を満たし、甲2飲料発明は「糖質が0.7g/100mlである」から、本件特許発明1の「糖質が1.0g/100ml以下であ」るという発明特定事項を満たす。
そうすると、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「原麦汁エキスが10%以下、かつ、糖質が1.0g/100ml以下である、発酵ビールテイストアルコール飲料。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点2-1-1>
本件特許発明1は「灰分が0.1~0.2g/100g」であるのに対し、甲2飲料発明は灰分の含有割合が、含むか否かも含め、不明である点。
<相違点2-1-2>
本件特許発明1は「リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を含む 」ものであるのに対し、甲2飲料発明は上記の塩を含むか否かが不明である点。
イ 当審の判断
事案に鑑み、上記相違点2-1-2について検討する。
甲2には、甲2飲料発明が本件特許発明1の塩を含むことは記載されていないし、甲2及び他の証拠をみても、甲2飲料発明が本件特許発明1の塩を含む蓋然性が高いと判断する理由も見当たらない。
よって、相違点2-1-2は実質的な相違点である。
そして、甲2及び他の証拠をみても、甲2飲料発明において、本件特許発明1の塩を含むものとする動機がなく、本件特許発明1は、これにより、低糖質であっても、味がきりっとひきしまった、さらには、呈味のバランスの取れた発酵ビールテイストアルコール飲料を提供することができるという、その構成から予測することができた範囲を超えた顕著な効果を奏する。
よって、甲2飲料発明において、相違点2-1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2飲料発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書(60-62頁)において、相違点2-1-2について以下の主張をしている。
甲2飲料発明は発泡酒を含むビールテイスト飲料であるところ、甲5及び甲6に記載されているとおり、発泡酒には各種無機成分が含まれ、そのような無機成分には塩化カルシウム等の無機塩が含まれていることは、醸造業界において周知の事項であったから、甲2飲料発明には、塩化カルシウム等の無機塩が必然的に含まれているといえる。
したがって、相違点2-1-2は実質的な相違点ではない。
仮に本件特許発明1と甲2飲料発明とが相違点2-1-2において相違するとしても、甲1には低糖質のビールテイスト飲料が塩類やミネラル等を含みうることが記載されており(甲1の【0049】)、ビールの品質の観点からリン酸二水素カリウム等の無機塩(ミネラル)を用水に添加して水質調整することは、甲7~11に記載されているとおり、ビール醸造では周知の事項であり、極めて通常な手順といえ、さらに、低糖質のビールテイスト飲料の製造においては用水に塩化カルシウム等の無機塩を添加して水質調整することが実際に行われていたし(甲12及び甲13)、添加した無機塩は灰分としてカウントされ、糖質濃度の算出に有利に働くため、低糖質のビールテイスト飲料である甲1飲料発明において無機塩を添加する強い動機付けがあるといえる。
したがって、塩類及びミネラルに関する甲1の記載事項と本件特許出願時の周知技術を考慮すれば、当業者は甲2飲料発明において、リン酸二水素カリウム等の本件特許発明1の塩を含むものとすることは当業者が容易に想到し得る程度の事項である。
(イ)特許異議申立人の主張に対する当審の判断
甲5及び甲6の記載事項は、上記1(2)ウ(イ)で検討したとおりであり、甲5及び甲6には、発酵ビールテイストアルコール飲料が本件特許発明1の塩を含むことは記載されていない。
したがって、甲5及び甲6の記載をみても、甲2飲料発明が、本件特許発明1の塩を含むとはいえず、本件特許発明1の塩を含む蓋然性が高いともいえない。
そして、上記1(2)ウ(イ)に記載したのと同様の理由により、甲7ないし11の記載をみても、濃醇さやうま味を保持しつつ、後味の切れの悪さを低減することを課題とする甲2飲料発明において、本件特許発明1の塩を添加する動機があるとはいえず、甲12及び甲13の記載から、甲2飲料発明において本件特許発明1の塩を添加する動機があるとはいえない。そして、本件特許発明1は、灰分が0.1~0.2g/100g、原麦汁エキスが10%以下、かつ、糖質が1.0g/100ml以下であることに加えて、本件特許発明1の塩を含むことにより、低糖質であっても、味がきりっとひきしまった、さらには、呈味のバランスの取れた発酵ビールテイストアルコール飲料を提供することができるという、その構成から予測することができた範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
エ 本件特許発明1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲2飲料発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有し、さらに限定するものである。
そうすると、本件特許発明2ないし8は、甲2飲料発明と少なくとも上記相違点2-1-1及び2-1-2において相違し、上記(2)と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし8は、甲2飲料発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明9について
本件特許発明9と甲2製法発明とを上記(2)アを踏まえて対比すると、甲2製法発明は、甲2飲料発明の発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法であり、「原麦汁エキスを10%以下、かつ、糖質を1.0g/100ml以下」に調整することを含むといえるから、両者は以下の点において一致する。
<一致点>
「原麦汁エキスを10%以下 、かつ、糖質を1.0g/100ml以下に調整することを含む、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点2-9-1>
本件特許発明9は、製造する発酵ビールテイストアルコール飲料の「灰分を0.1~0.2g/100g」に調整することを含むのに対し、甲2製法発明はそのように特定していない点。
<相違点2-9-2>
本件特許発明9は「灰分の調整は、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を使用することを含む 」ものであるのに対し、甲2製法発明はそのように特定していない点。
事案に鑑み、上記相違点2-9-2について検討する。上記相違点2-9-2は、上記相違点2-1-2と同様の内容であるから、上記(2)イ及びウと同様に判断される。
すなわち、本件特許発明9は、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明10について
本件特許発明10と甲2方法発明とを上記(2)アを踏まえて対比すると、両者は以下の点において一致する。
<一致点>
「原麦汁エキスを10%以下 、かつ、糖質を1.0g/100ml以下に調整することを含む、発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点2-10-1>
本件特許発明10は、呈味を改善する発酵ビールテイストアルコール飲料の「灰分を0.1~0.2g/100g」に調整することを含むのに対し、甲2方法発明はそのように特定していない点。
<相違点2-10-2>
本件特許発明10は「灰分の調整は、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される一以上の塩を使用することを含む 」ものであるのに対し、甲2方法発明はそのように特定していない点。
事案に鑑み、上記相違点2-10-2について検討する。上記相違点2-10-2は、上記相違点2-1-2と同様の内容であるから、上記(2)イ及びウと同様に判断される。
すなわち、本件特許発明10は、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明11ないし15について
本件特許発明11ないし15は、請求項9又は10の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明9又は10の発明特定事項を全て有し、さらに限定するものである。
そうすると、本件特許発明11ないし15は、甲2製法発明又は甲2方法発明と少なくとも上記相違点2-9-1及び2-9-2又は上記相違点2-10-1及び2-10-2において相違し、上記(4)又は(5)と同様に判断される。
よって、本件特許発明11ないし15は、甲2製法発明又は甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由2-2についてのまとめ
したがって、本件特許発明1ないし15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由2-2によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700337