特許異議申立
2023-701104
合成砥石、合成砥石アセンブリ、及び、合成砥石の製造方法
- 審判番号
- 2023-701104
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-154610
- 登録番号
- 7262864
- 請求日
- 2023年10月17日
- 審決日
- 2025年08月27日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社東京ダイヤモンド工具製作所
- 【権利者代理人】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
- 【異議申立人】中田 覚史
- 審判長/審判官
- 審判長 本庄 亮太郎
- 審判官 田々井 正吾
- 審判官 刈間 宏信
- 分類
- P1651.113-YAA(B24D) / P1651.121-YAA(B24D) / P1651.536-YAA(B24D) / P1651.537-YAA(B24D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7262864号発明「合成砥石、合成砥石アセンブリ、及び、合成砥石の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7262864号の明細書、特許請求の範囲及び図面を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める。
特許第7262864号の請求項1~2、4~6に係る特許を維持する。
特許第7262864号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報の発行までの経緯
特許第7262864号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和4年9月28日の出願であって、令和5年4月14日にその特許権の設定登録がされ、同月24日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許についての特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和5年10月17日
特許異議申立人 中田覚史(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
(2)令和6年1月30日付け
取消理由通知書による取消理由の通知
(3)令和6年3月29日
特許権者 株式会社東京ダイヤモンド工具製作所(以下「特許権者」という。)による訂正請求書及び意見書の提出
(4)令和6年6月17日
申立人による意見書の提出
(5)令和6年10月23日付け
取消理由通知書による取消理由(決定の予告)の通知
(以下、当該取消理由(決定の予告)を「本件決定予告」という。)
(6)令和6年12月20日
特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
(7)令和7年1月21日付け
手続補正指令書による手続補正指令
(8)令和7年1月29日
特許権者による手続補正書の提出
(以下、当該手続補正書により補正された訂正請求書に係る訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)
(9)令和7年6月6日
申立人による意見書の提出
なお、令和6年3月29日に提出された訂正請求書に係る訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正請求の趣旨及び内容について
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める、というものである。
そして、本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所を示すために当審で付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーの少なくとも1つを含み」
と記載されているのを、
「前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含み」
に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2、4~5についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「有する」
と記載されているのを、
「有し、
前記被削物に対して乾式により化学機械研削作用を発揮する」
に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2、4~5についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記第2のフィラーを含む前記仮成型体を高温炉で焼成することは、前記高温炉内を不活性雰囲気にして前記仮成型体を焼成することを含む、請求項5に記載の合成砥石の製造方法。」
と記載されているのを
「砥粒と、
前記砥粒を分散させた状態に保持する、ビトリファイド製の結合剤と、
前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーのうちの前記第2のフィラーを少なくとも含み、前記結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラーと
を有する、表面加工を行うための合成砥石の製造方法であって、
前記砥粒、前記結合剤、及び、前記フィラーを混合させて混合材を得ること、
前記混合材を金型に充填し、ホットプレスにより仮成型すること、
前記仮成型した仮成型体を、脱型すること、
前記仮成型体を高温炉で焼成すること
を含み、
前記砥粒の砥粒率(Vg)を、0体積%より大きく、50体積%以下とし、
前記結合剤の結合剤率(Vb)を、7体積%以上で、20体積%以下とし、
前記第2のフィラーを0体積%より大きく、50体積%以下とし、前記第1のフィラー及び前記第3のフィラーを、それぞれ0体積%以上50体積%以下とし、
前記第2のフィラーを含む前記仮成型体を高温炉で焼成することは、前記高温炉内を不活性雰囲気にして前記仮成型体を焼成することを含む、合成砥石の製造方法。」
に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の【0006】に
「本発明の一態様に係る、表面加工を行うための合成砥石は、砥粒と、砥粒を分散させた状態に保持する、ビトリファイド製の結合剤と、結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラーとを有する。フィラーは、砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーの少なくとも1つを含む。」
と記載されているのを、
「本発明の一態様に係る、表面加工を行うための合成砥石は、砥粒と、砥粒を分散させた状態に保持する、ビトリファイド製の結合剤と、結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラーとを有する。フィラーは、砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含む。」
に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の【0039】に
「ウェーハWの表面が研磨され、摩擦が生じると、ウェーハWの表面に静電気が生じ得る。このとき、導電性の第2のフィラーは、ウェーハWの表面の静電気を砥石保持部材43(図6参照)に流す。したがって、本変形例に係る合成砥石100を用いることで、ウェーハWの表面を研磨しながら、ウェーハWの表面に生じる静電気を除去することができる。この結果、ウェーハWの表面に塵埃等が付着することを防止できる。」
と記載されているのを、
「ウェーハWの表面が研磨され、摩擦が生じると、ウェーハWの表面に静電気が生じ得る。このとき、導電性の第2のフィラーは、ウェーハWの表面の静電気を砥石保持部材43(図4参照)に流す。したがって、本変形例に係る合成砥石100を用いることで、ウェーハWの表面を研磨しながら、ウェーハWの表面に生じる静電気を除去することができる。この結果、ウェーハWの表面に塵埃等が付着することを防止できる。」
に訂正する。
(7)訂正事項7
図面の図3に
[図:0001428981000001.jpg]
と記載されているのを、
[図:0001428981000002.jpg]
に訂正する。(訂正箇所は砥粒と結合剤の数値範囲欄の入替え)
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6について、請求項2~6がそれぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、全ての請求項1~6を対象としているので、請求項1~6に係る訂正事項1~4に関して、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「フィラー」が、第1~第3のフィラーのうちの少なくとも1つを含むこと、すなわち、1つ、2つ又は3つを含むことを特定していたところ、第1~第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含むことに限定するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1に係る「第1のフィラー・・・第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含み」という事項は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0051】に「・・・合成砥石100は、第1のフィラー、第2のフィラー、第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含むことも好適である。・・・」と記載されているから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1に記載された「フィラー」を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の合成砥石について、「前記被削物に対して乾式により化学機械研削作用を発揮する」ことを付加して限定するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3に記載されているから、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1に記載された合成砥石を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内において訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正でないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項6が請求項5の記載を引用し、当該請求項5が請求項1の記載を引用するように記載していたものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項6について、請求項5及び請求項1の記載を引用しないように記載するとともに、訂正前の請求項6に記載された「第2のフィラー」について、「前記第2のフィラーを少なくとも含」むことを明確にし、さらに、フィラーの「体積%」について、「前記第2のフィラーを0体積%より大きく、50体積%以下とし、前記第1のフィラー及び前記第3のフィラーを、それぞれ0体積%以上50体積%以下」に明確にするものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び同項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、請求項6について、請求項5及び請求項1の記載を引用しないように記載を訂正するものであるし、「第2のフィラー」を含むことを明確にするものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内において訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正でないことは明らかである。
したがって、訂正事項4は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正事項1により請求項1の記載が訂正されることに合わせて、本件の願書に添付した明細書の【0006】の記載を請求項1の記載に整合させるものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5は、請求項1に係る訂正事項1と同様のものであるから、訂正事項1と同様に、訂正事項5は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、本件の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0039】に「(図6参照)」と記載されていたのに対して、本件の願書に添付した図面(以下「本件図面」という。)には図6が存在しないことから、不明瞭な記載となっていたところを、「(図4参照)」と訂正することで、明細書の記載と図面の記載を整合させるものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項6は、上記アのとおり、明細書の記載と図面の記載を整合させるものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内において訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正でないことは明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、本件図面の図3には、合成砥石の組成比率[体積%]について、「砥粒」が「7~20」、「結合剤」が「0~50」と記載されていたのに対して、本件明細書の【0015】には、「図3に示すように、砥粒101の砥粒率(Vg)は、0体積%より高く50体積%以下である。結合剤102の結合剤率(Vb)は、7体積%以上20体積%以下である。」と記載されており、不整合が生じていたため不明瞭な記載であったところ、明細書の記載に合わせるように、図3の「砥粒」を「0~50」、「結合剤」を「7~20」と訂正するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項7は、上記アのとおり、明細書の記載と図面の記載を整合させるものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内において訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正でないことは明らかである。
したがって、訂正事項7は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
5 訂正についての付言
(1)明細書及び図面の訂正と関係する請求項について
訂正事項5に係る【0006】の訂正、訂正事項6に係る【0039】の訂正及び訂正事項7に係る図3の訂正は、いずれも、一群の請求項1~6に関係する訂正であることを付言する。
(2)別の請求単位とする求めについて
権利者は、訂正後の請求項6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めていることを付言する。
6 小括
上記4(1)~(7)のとおり、本件訂正は、訂正の要件をすべて満たすものであるから、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり、本件訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認容されたから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
砥粒と、
前記砥粒を分散させた状態に保持する、ビトリファイド製の結合剤と、
前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含み、前記結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラーと
を有し、
前記被削物に対して乾式により化学機械研削作用を発揮する、表面加工を行うための合成砥石。
【請求項2】
前記砥粒の砥粒率(Vg)が、0体積%より大きく、50体積%以下であり、
前記結合剤の結合剤率(Vb)が、7体積%以上で、20体積%以下であり、
前記第1のフィラー、前記第2のフィラー及び前記第3のフィラーは、それぞれ、0体積%以上50体積%以下である、
請求項1に記載の合成砥石。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の合成砥石と、
前記合成砥石が固定され、導電性及び前記合成砥石よりも高い熱伝導性の少なくとも一方を有する基体と
を有する、合成砥石アセンブリ。
【請求項5】
請求項1に記載の合成砥石の製造方法であって、
前記砥粒、前記結合剤、及び、前記フィラーを混合させて混合材を得ること、
前記混合材を金型に充填し、ホットプレスにより仮成型すること、
前記仮成型した仮成型体を、脱型すること、
前記仮成型体を高温炉で焼成すること
を含み、
前記砥粒の砥粒率(Vg)を、0体積%より大きく、50体積%以下とし、
前記結合剤の結合剤率(Vb)を、7体積%以上で、20体積%以下とし、
前記第1のフィラー、前記第2のフィラー及び前記第3のフィラーを、それぞれ0体積%以上50体積%以下とする、
合成砥石の製造方法。
【請求項6】
砥粒と、
前記砥粒を分散させた状態に保持する、ビトリファイド製の結合剤と、
前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーのうちの前記第2のフィラーを少なくとも含み、前記結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラーと
を有する、表面加工を行うための合成砥石の製造方法であって、
前記砥粒、前記結合剤、及び、前記フィラーを混合させて混合材を得ること、
前記混合材を金型に充填し、ホットプレスにより仮成型すること、
前記仮成型した仮成型体を、脱型すること、
前記仮成型体を高温炉で焼成すること
を含み、
前記砥粒の砥粒率(Vg)を、0体積%より大きく、50体積%以下とし、
前記結合剤の結合剤率(Vb)を、7体積%以上で、20体積%以下とし、
前記第2のフィラーを0体積%より大きく、50体積%以下とし、前記第1のフィラー及び前記第3のフィラーを、それぞれ0体積%以上50体積%以下とし、
前記第2のフィラーを含む前記仮成型体を高温炉で焼成することは、前記高温炉内を不活性雰囲気にして前記仮成型体を焼成することを含む、合成砥石の製造方法。」
第4 本件決定予告の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和6年10月23日付けで特許権者に通知した本件決定予告の概要は、次のとおりである。
1 請求項6の明確性について
本件訂正前の請求項6に係る特許は、特許請求の範囲の請求項6の記載が不備のため、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 請求項1~2及び4~5に係る発明の進歩性について
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第7号証に記載された発明及び参考資料1記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲第7号証に記載された発明、参考資料1記載の技術的事項及び甲第8号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲第7号証に記載された第5発明、参考資料1記載の技術的事項及び甲第1号証記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~2及び4~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 申立人が提出した証拠
(1)特許異議申立書に添付した証拠
甲第1号証:特開平1-271177号公報
甲第2号証:特開2019-93468号公報
甲第3号証:特開2017-1136号公報
甲第4号証:特開2004-50364号公報
甲第5号証:国際公開第2005/072912号
甲第6号証:中国特許出願公開第113997213号明細書
甲第7号証:特開2021-8016号公報
甲第8号証:特許第5640064号公報
(以下、各甲号証を「甲1」などという。)
(2)令和6年6月17日に提出した意見書に添付した証拠
参考資料1:特開2021-3795号公報
2 本件特許の請求項6の明確性について
(1)本件決定予告では、本件訂正前の請求項6の「第1のフィラー、・・・第2のフィラー、及び、・・・第3のフィラーの少なくとも1つを含み、前記結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラー」という記載は、請求項6に係る合成砥石が、第2のフィラーを含まない場合があることを意味すると解されるのに対して、請求項6の「前記第2のフィラーを含む前記仮成型体を高温炉で焼成することは、・・・焼成することを含む」という記載は、請求項6に係る合成砥石が、第2のフィラーを含むことを意味すると解されるため、請求項6に係る合成砥石は、第2のフィラーを含むものに限定されるのか、それとも、第2のフィラーを含まない場合も含まれるのか、明確でないと判断した。
(2)本件特許の請求項6の記載は、上記第3の請求項6に示すとおりであり、「第1のフィラー、・・・第2のフィラー、及び、・・・第3のフィラーのうちの前記第2のフィラーを少なくとも含み、前記結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラー」という記載や、「前記第2のフィラーを0体積%より大きく、50体積%以下とし」という記載、及び「前記第2のフィラーを含む前記仮成型体を高温炉で焼成することは、・・・焼成することを含む」という記載は、いずれも、請求項6に係る合成砥石が、第2のフィラーを含むものに限定されることを意味する点で一致するから、請求項6の「第2のフィラー」に係る記載は明確であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている。
(3)したがって、本件決定予告の請求項6の明確性の理由により、本件特許の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
3 本件発明1~2及び4~5の進歩性について
(1)本件発明1の進歩性
ア 本件発明1の記載
本件発明1は、上記第3の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
イ 甲7の記載事項及び甲7発明
(ア)甲7の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、シリコンウェーハ等の被削物の表面をグライディング加工するための合成砥石に関する。」
「【0003】
近年、ポリッシング工程の代わりに、乾式のケミカルメカニカル研削(以下、「CMG」と称する。)による表面加工を行う方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。CMG工程では、研磨剤(砥粒)を硬質樹脂等の樹脂結合剤で固定化した合成砥石を用いる。そして、ウェーハ及び合成砥石を回転させながら合成砥石をウェーハに押圧させる(例えば、特許文献2参照)。ウェーハ表面の凸部は、合成砥石との摩擦により微細な加工起点が加熱・酸化されて脆くなって剥がれ落ちる。このようにして、ウェーハの凸部だけが研削され、平坦化される。」
「【0006】
上述した合成砥石は、次のような問題があった。すなわち、上述したようにCMG工程では、固体間の化学反応を利用して材料除去を加工原理としているため、反応熱が十分に上昇しないと加工速度が上昇しなかった。また、合成砥石から遊離した研磨剤が合成砥石又はウェーハの回転に伴う遠心力で排出され、研削作用に関与せず、加工速度が低下するという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、研削加工における高い研削効率を実現する合成砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る合成砥石は、被削材に対し化学機械研削作用を有する研磨剤と、摩擦促進剤と、前記研磨剤と前記摩擦促進剤を結合する結合剤とを備えている。」
「【発明の効果】
【0010】
研削加工における摩擦による発熱を促進し、短時間で温度上昇を図ることで、高い研削効率を実現することが可能となる。」
「【0015】
砥石駆動機構40は、回転モータ部41を備えている。回転モータ部41は、下方に突出した回転軸42を備えている。回転軸42の先端部には円板状のホイール保持部材43が取り付けられている。ホイール保持部材43には、図2に示すように、円板状の合成砥石100が着脱自在に取り付けられている。合成砥石100の装着には、合成砥石100に設けられたネジ孔に、ホイール保持部材43側からボルトをネジ込んで装着する。
【0016】
合成砥石100は、図3に示すように、ウェーハSに対し化学機械研削作用を有する研磨剤101を有し、この研磨剤101内に摩擦促進剤102を分散して結合剤103によって結合し、気孔を形成して形成されている。研磨剤101は、被削材の材質によって適宜選択されるものであり、ウェーハSがシリコン材製の場合には、平均粒径が10μm以下の酸化セリウムを主成分とすることが好ましい。なお、酸化セリウムの他、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化チタン、酸化クロムも適用でき、これらの混合物でも良い。
(当審注:「この研磨剤101内に摩擦促進剤102を分散して結合剤103によって結合し」という記載は、図4の記載からみて、「この合成砥石100内に摩擦促進剤102を分散して結合剤103によって結合し」という記載の誤記と認める。)
【0017】
摩擦促進剤102は、ウェーハSよりも低いモース硬度で、かつ、高い摩擦係数を有する繊維物質を主成分とする。繊維物質は、ウィスカ(結晶表面から外側に向けて髭状に成長した結晶)、ファイバのいずれか又は混合物を適用できる。ウィスカとしては、機械的強度の大きな酸化物系ウィスカ及び炭化物系ウィスカが好ましい。ファイバとしては、セルロースファイバ及びカーボンファイバが好ましい。結合剤103は、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の有機化合物系樹脂又は低融点ガラス質結合剤を主成分としている。
【0018】
なお、合成砥石100の組成は例えば、研磨剤101が40~55体積%、摩擦促進剤102が1~5体積%、結合剤103が9~30体積%である。また、合成砥石100の気孔率は10~50体積%である。気孔には、摩擦促進剤102が充填される。
【0019】
このように構成された合成砥石100は、CMG装置10に取り付けられて、次のようにしてウェーハSを研削する。すなわち、合成砥石100をホイール保持部材43に取り付ける。次に、搬送ロボットによりウェーハSをテーブル23に取り付ける。」
「【0021】
この時の合成砥石100とウェーハSとの関係を図4に示す。加工が開始されると、合成砥石100とウェーハSが摺動し、結合剤103に外力が作用する。この外力が連続して作用することで結合剤103が緩み、研磨剤101及び軟質の摩擦促進剤102がウェーハS上に脱落する。遊離した研磨剤101は、繊維状の摩擦促進剤102に絡まり、合成砥石100とウェーハSとの隙間において摺動される。研磨剤101は化学研磨作用を有しており、ウェーハS表面に長く滞留することで化学研磨作用の機会頻度の向上につながる。
【0022】
一方、摩擦促進剤102は、ウェーハS表面及び研磨剤101と擦れあうことで微視的な凝着と剥離を繰り返す。この動作がブレーキ作用となることで摩擦熱が発生する。摩擦熱は、研磨剤101及び結合剤103とウェーハSとの間でも生じているため、その摩擦熱に加わることとなる。図4中Hは、合成砥石100とウェーハSとの隙間で生じた摩擦熱がウェーハS表面からウェーハS内部に拡がる様子を示している。」
「【0026】
このようにして摩擦促進剤102を用いてウェーハS表面の温度上昇による化学反応を促進し、研削効率が上昇させることで、CMG装置10及び合成砥石100によるウェーハSの表面研削の加工時間を短縮させることができる。」
図4の記載
「
[図:0001428981000003.jpg]
」
(イ)甲7の記載事項から理解できる事項
甲7の記載事項から、以下の事項を理解することができる(括弧内に甲7の記載箇所を付記する。)。
a 甲7には、シリコンウェーハ等の被削物の表面をグライディング加工するための合成砥石(【0001】)が記載されるところ、従来の乾式のCMG(ケミカルメカニカル研削)の合成砥石は、固体間の化学反応を利用して材料除去を行うため、反応熱が十分に上昇しないと加工速度が上昇しないという課題(【0006】)があった。甲7の合成砥石は、被削材に対して化学機械研削作用を有する研磨剤と、摩擦促進剤と、前記研磨剤と前記摩擦促進剤を結合する結合剤とを備える(【0008】)ことで、研削加工における摩擦による発熱を促進し、短時間で温度上昇を図ることで、高い研削効率を実現するものである(【0010】)。
b 甲7の合成砥石は、被削材がシリコン材製のウェーハSの場合には、研磨剤101は、平均粒径が10μm以下の酸化セリウムを主成分とし(【0016】)、摩擦促進剤102は、ウェーハSよりも低いモース硬度で、かつ、高い摩擦係数を有する繊維物質を主成分とし(【0017】)、結合剤103は、低融点ガラス質結合剤を主成分とする(【0017】)。
c 合成砥石100の組成は、例えば、研磨剤101が40~55体積%、摩擦促進剤102が1~5体積%、結合剤103が9~30体積%であり、気孔率は10~50体積%であるところ、気孔には、摩擦促進剤102が充填される(【0018】)。
また、研磨剤101は、合成砥石100の内部で分散していることを理解できる(図4)から、結合剤103は、研磨剤101を分散させた状態に保持しているといえる。同様に、摩擦促進剤102は、合成砥石100の内部で分散していることを理解できる(【0016】)から、摩擦促進剤102は、結合剤103中に分散させた状態に配置されているといえる。
d 加工が開始されると、合成砥石100とウェーハSが摺動し、結合剤103に外力が連続して作用することで、結合剤103が緩み、研磨剤101及び軟質の摩擦促進剤102がウェーハS上に脱落する(【0021】及び図4)。
遊離した研磨剤101は、繊維状の摩擦促進剤102に絡まり、合成砥石100とウェーハSとの隙間において摺動され、化学研磨作用を有する研磨剤101が、ウェーハS表面に長く滞留することで化学研磨作用の機会頻度の向上につながる(【0021】及び図4)。
また、摩擦促進剤102は、ウェーハS表面及び研磨剤101と擦れあうことで微視的な凝着と剥離を繰り返し、この動作がブレーキ作用となることで生じる摩擦熱や、研磨剤101及び結合剤103とウェーハSとの間で生じる摩擦熱(【0022】)により、ウェーハS表面の温度上昇による化学反応を促進し、研削効率が上昇することで、加工時間を短縮できる(【0026】)。
(ウ)甲7発明
上記(ア)及び(イ)に係る事項を本件発明1の記載に合わせて整理すると、甲7には次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているということができる。
「平均粒径が10μm以下の酸化セリウムを主成分とする研磨剤101と、
前記研磨剤101を分散させた状態に保持する、低融点ガラス質結合剤を主成分とする結合剤103と、
ウェーハSよりも低いモース硬度で、かつ、高い摩擦係数を有する繊維物質を主成分とし、前記結合剤103中に分散させた状態に配置される摩擦促進剤102と、
を有し、
シリコン材製のウェーハSに対して化学機械研磨作用を有する、表面をグライディング加工するための合成砥石100。」
ウ 参考資料1記載の技術的事項
(ア)参考資料1の記載事項から理解できる事項
参考資料1の記載事項から、以下の事項を理解することができる(括弧内に参考資料1の記載箇所を付記する。)。
a 参考資料1には、シリコンウェーハ等の被削物の表面をグライディング加工するための合成砥石(【0001】)が記載されており、従来の乾式のCMG(ケミカルメカニカル研削)の合成砥石は、CMG工程が進むと、合成砥石から研磨剤が脱落し、研磨作用面が平滑になり、樹脂結合剤と被削物との接触機会が増えることで、研磨剤と被削材との間の接触圧が低下して、加工能率が著しく低下し、また、摩擦熱が過大となって、焼けやスクラッチを生じるという課題(【0006】)があった。参考資料1の合成砥石は、被削材に対し化学機械研削作用を有し、平均粒子径が5μmより小さい研磨剤と、前記研磨剤より平均粒子径が大きい球状充填剤と、前記研磨剤と前記球状充填剤を一体的に結合する樹脂結合剤とを備える(【0008】)ことで、加工が進行しても研磨剤と被削物との接触圧を十分に維持して加工能率を維持し、しかも樹脂結合剤と被削物との接触面積を一定以下に抑制することで被削物面の品質低下及びスクラッチの発生を防止するものである(【0009】)。
b 参考資料1の合成砥石は、被削材がシリコンの場合は酸化セリウムの研磨剤101が適用可能であり(【0031】)、研磨剤101の平均粒径は5μmより小さく(【0008】)、球状充填剤102としては、粒子径20μmの球状シリカゲルを用い、樹脂結合剤103としては、フェノール樹脂を用いる(【0018】)。
c 球状充填剤102は研磨剤101よりも平均粒径が大きいため、加工中の合成砥石100とウェーハWとは、ほとんど球状充填剤102の頂点を介して接触することになり、合成砥石100の母材MとウェーハWとは直接接触せず、隙間Sが生じる(【0026】及び図3)。
加工が開始されると、母材Mに外力が連続して作用することで、研磨剤101を保持する樹脂結合剤103が緩み、母材Mから研磨剤101が脱落する(【0027】及び図3)。
遊離した研磨剤101は、隙間Sにおいて、球状充填剤102に吸着した状態となるため、加工中の研磨剤101とウェーハWとは、ほとんど球状充填剤102の頂点を介して接触することになり、研磨剤101とウェーハWとの実接触面積は大幅に小さくなって、作用圧力は高まり、高い加工能率で研削加工が進む(【0027】)。
d また、隙間Sによって、ウェーハWの表面付近の空気は外気との循環が促進され、加工面は冷却され、研磨剤101によって生じたスラッジは、隙間Sを介してウェーハWから外部に排出されるから、ウェーハWの表面が傷つくことを防止でき、摩擦熱によるウェーハWの表面の焼けやスクラッチを防止できる(【0028】)。
(イ)参考資料1記載の技術的事項
上記(ア)に係る事項を整理すると、参考資料1には次の技術的事項(以下「参考資料1記載の技術的事項」という。)が記載されているということができる。
「シリコン材製のウェーハWに対して化学機械研磨作用を有する、表面をグライディング加工するための合成砥石において、
平均粒子径が5μmより小さい酸化セリウムの研磨剤101と、
研磨剤101を保持する樹脂結合剤103と、
粒子径20μmの球状シリカゲルを用いることで、
合成砥石100の母材MとウェーハWとの間に隙間Sが生じ、
加工で作用する外力で合成砥石100から脱落した研磨剤101が球状充填剤102に吸着して球状充填剤102の頂点を介してウェーハWと接触することで、作用圧力が高まって、高い加工能率で研削加工が進み、
隙間Sによって、ウェーハWの表面付近の空気は外気との循環が促進されて、加工面は冷却され、研磨剤101によって生じたスラッジは隙間Sを介してウェーハWから外部に排出されることで、ウェーハWの表面が傷つくことを防止でき、摩擦熱によるウェーハWの表面の焼けやスクラッチを防止できること。」
エ 本件発明1と甲7発明の対比
本件発明1と甲7発明を対比すると、甲7発明の「平均粒径が10μm以下の酸化セリウムを主成分とする研磨剤101」が、本件発明1の「砥粒」に相当することは明らかであり、以下同様に、「前記研磨剤101を分散させた状態に保持する」ことが、「前記砥粒を分散させた状態に保持する」ことに、「低融点ガラス質結合剤を主成分とする結合剤103」が「ビトリファイド製の結合剤」に、「シリコン材製のウェーハSに対して化学機械研磨作用を有する」ことが「前記被削物に対して乾式により化学機械研削作用を発揮する」ことに、「表面をグライディング加工する」ことが「表面加工を行う」ことに、「合成砥石100」が「合成砥石」に、それぞれ相当する。
また、甲7発明の「ウェーハSよりも低いモース硬度で、かつ、高い摩擦係数を有する繊維物質を主成分とし、前記結合剤103中に分散させた状態に配置される摩擦促進剤102」と、本件発明1の「前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含み、前記結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラー」を対比すると、「前記結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラー」という点では一致する。
したがって、本件発明1と甲7発明は、以下の点で一致し、以下の相違点1で相違する。
[一致点]
両発明は、
「砥粒と、
前記砥粒を分散させた状態に保持する、ビトリファイド製の結合剤と、
前記結合剤中に分散させた状態に配置されるフィラーと
を有し、
前記被削物に対して乾式により化学機械研削作用を発揮する、表面加工を行うための合成砥石。」
である点。
[相違点1]
本件発明1のフィラーは、「前記砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含」むものであるのに対して、甲7発明のフィラーは、「ウェーハSよりも低いモース硬度で、かつ、高い摩擦係数を有する繊維物質を主成分とする摩擦促進剤102」であって、当該摩擦促進剤102は、砥粒に比べて平均粒径が大きいものではなく、導電性を有するものではなく、被削物に比べて硬いものでもない点。
オ 相違点1の検討
相違点1について検討すると、甲7発明のような、化学機械研削作用を発揮する合成砥石において、砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー、導電性を有する第2のフィラー、及び、被削物に比べて硬い第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含むように構成することは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載されていない。
また、参考資料1記載の技術的事項(上記ウ(イ))には、化学機械研削作用を発揮する合成砥石において、酸化セリウムの研磨剤101(砥粒)に比べて平均粒径が大きい球状シリカゲルを含むように構成することが示されており、当該球状シリカゲルを甲7発明に適用すれば、本件発明1の「第1のフィラー」に相当するといえる。
しかし、シリカゲルが導電性を有するとはいえないから、当該球状シリカゲルを甲7発明に適用しても本件発明1の「第2のフィラー」には相当しない。また、シリカゲルの成分であるシリカ(SiO2)のモース硬度が「7」であるのに対して、甲7発明の被削材であるシリコン(Si)のモース硬度も同じく「7」であることは技術常識であるから、当該球状シリカゲルを甲7発明に適用しても本件発明1の「第3のフィラー」には相当しない。
さらに、参考資料1には、球状シリカゲルのほかに、導電性を有するフィラーや、被削物に比べて硬いフィラーを付加することは記載されていない。
したがって、相違点1は、甲7発明、参考資料1記載の技術的事項、並びに甲1~甲6及び甲8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
カ 令和7年6月6日に提出された意見書の主張について
(ア)相違点1についての申立人の主張の概要
申立人は、令和7年6月6日に提出された意見書(以下「申立人意見書」という。)において、上記相違点1について、以下のように主張している。
a 砥粒に比べて平均粒径が大きいフィラーは、令和6年1月30日付け取消理由通知書で引用された甲2の「SiO2砥粒」や、参考資料1の「球状シリカゲル」に示すように周知技術であり、また、砥粒に比べて平均粒径が大きいフィラーと、被削物(Si)に比べて硬いフィラーは甲3の「ホウ素化合物」や甲8の「フィラーとしてのAl2O3」に開示されており、周知技術である。(申立人意見書の15ページ11行~18ページ下から5行)
b 甲7には、研磨剤101として、酸化セリウムのほか、酸化ケイ素(SiO2)を混合させることの開示があり(甲7の【0016】)、甲7発明に対して、甲2に示す砥粒に比べて平均粒径が大きい「SiO2砥粒」をフィラーとすることで、本件発明1は容易に想到できる。(申立人意見書の18ページ下から4行~19ページ2行)
c また、本件発明1は、甲7発明、甲2及び参考資料1、並びに甲3及び甲8に示す周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。(申立人意見書の19ページ2~5行)
d また、本件発明1は、甲2に記載された発明に甲7発明を組み合わせることで容易に想到できたものであり、甲2に記載された発明に、甲7及び参考資料1、並びに甲3及び甲8に示す周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。(申立人意見書の19ページ6~11行)
(イ)相違点1についての申立人の主張の検討
a 申立人は、甲7発明に対して、甲2の「SiO2砥粒」を適用することで、相違点1が容易に想到できる旨を主張している(上記(ア)b)が、甲2の「SiO2砥粒」の粒径は3μmであり(甲2の【0147】)、甲7発明の酸化セリウムを主成分とする研磨剤101の平均粒径10μmよりも小さいから、甲7発明に対して、甲2の「SiO2砥粒」を適用しても、相違点1に係る「砥粒に比べて平均粒径が大きい第1のフィラー」という構成には至らない。
なお、令和6年1月30日付けの取消理由通知書における第1の1(2)イ及びウでは、甲2のダイヤモンド砥粒の平均粒径2.5μm(甲2の【0147】)に対して、「SiO2砥粒」の平均粒径3μmが大きいことを指摘したものである。
また、SiO2は、導電性を有するとはいえないし、甲7発明の被削材であるシリコンと同じモース硬度「7」である(上記オ)から、甲2には、相違点1に係る「導電性を有する第2のフィラー」や、「被削物に比べて硬い第3のフィラー」という構成が示されているとはいえない。
したがって、甲7発明に甲2の「SiO2砥粒」を適用することで、相違点1が容易に想到できる旨の主張は採用できない。
b 申立人は、甲7発明、甲2及び参考資料1、並びに甲3及び甲8に示す周知技術に基づいて、相違点1が容易に想到できる旨を主張している(上記(ア)c)が、甲7発明の化学機械研削(ケミカルメカニカル研削、CMG)は、固体間の化学反応を利用して材料除去を行うことを加工原理としている(甲7の【0006】)ため、砥粒の硬度は、被削材の硬度よりも高くする必要がない。これは、甲7発明の被削材であるシリコンのモース硬度が「7」であるのに対して、甲7発明の砥粒の主成分である酸化セリウムのモース硬度が「6」であることからも明らかである。
これに対して、甲3及び甲8の研削は、固体間の化学反応を利用するものではなく、機械的な研削を行うことを加工原理とするものであるから、当業者が、加工原理の異なる研削におけるフィラーを甲7発明に適用する動機があるとはいえない。
むしろ、甲7には、被削材であるシリコンのウェーハよりも低いモース硬度のフィラー(摩擦促進剤102)を用いること(甲7の【0017】)が開示されているから、甲7発明に対して、「被削物に比べて硬い第3のフィラー」を適用することには、阻害要因があるというべきである。
また、甲7発明に甲2を適用しても、相違点1に係る第1~第3のフィラーのいずれの構成にも至らないことは、上記aで説示するとおりである。
したがって、甲7発明、甲2及び参考資料1、並びに甲3及び甲8に示す周知技術に基づいて、相違点1が容易に想到できる旨の主張は採用できない。
c 申立人は、甲2に記載された発明に甲7発明を組み合わせることなどを主張している(上記(ア)d)が、甲7発明の化学機械研削は、固体間の化学反応を利用して材料除去を行うことを加工原理としているのに対して、甲2の研削は、機械的な研削を行うことを加工原理とするものであるから、当業者が、加工原理の異なる甲7発明の研削を組み合わせる動機があるとはいえない。
したがって、甲2に記載された発明に甲7発明を組み合わせることなどの主張は採用できない。
キ 本件発明1の進歩性の小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲7発明、参考資料1記載の技術的事項、並びに甲1~甲6及び甲8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2及び4~5の進歩性について
本件発明2及び4~5は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、本件発明1と同様に、甲7発明、参考資料1記載の技術的事項、並びに甲1~甲6及び甲8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明1~2及び4~5の進歩性のむすび
以上のとおりであるから、本件決定予告の本件発明1~2及び4~5の進歩性の理由により、本件特許の請求項1~2及び4~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 本件決定予告で採用しなかった特許異議申立理由及び申立人意見書で主張する理由について
1 本件決定予告で採用しなかった特許異議申立理由の概要
特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載された特許異議申立理由のうち、本件決定予告で採用しなかった理由の概要は、以下のとおりである。
(1)請求項1に係る発明の新規性及び進歩性の理由
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1~甲8のいずれかに記載された発明であるか、甲1~甲6又は甲8のいずれかに記載された発明を主たる引用発明とし、甲1~甲8に記載された発明を副引用発明として適用することで、容易に発明をすることができたものである。(申立書25~39ページ)
(2)請求項2に係る発明の新規性及び進歩性の理由
本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲1~甲2、甲5又は甲7~甲8のいずれかに記載された発明であるか、甲1~甲2、甲5又は甲8のいずれかに記載された発明を主たる引用発明とし、甲1~甲8に記載された発明を副引用発明として適用することで、容易に発明をすることができたものである。(申立書39~45ページ)
(3)請求項3に係る発明の新規性及び進歩性の理由
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲7に記載された発明であるか、甲7に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1~甲6及び甲8に記載された発明を副引用発明として適用することで、容易に発明をすることができたものである。(申立書45~46ページ)
(4)請求項4に係る発明の新規性及び進歩性の理由
本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲1、甲5又は甲7~甲8のいずれかに記載された発明であるか、甲1、甲5又は甲8のいずれかに記載された発明を主たる引用発明とし、甲1~甲8に記載された発明を副引用発明として適用することで、容易に発明をすることができたものである。(申立書46~49ページ)
(5)請求項5に係る発明の新規性及び進歩性の理由
本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、甲1又は甲6のいずれかに記載された発明を主たる引用発明とし、甲1~甲2、甲5又は甲7に記載された発明を副引用発明として適用することで、容易に発明をすることができたものである。(申立書49~52ページ)
(6)請求項6に係る発明の進歩性の理由
本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1、甲5~甲6に記載された発明を副引用発明として適用することで、容易に発明をすることができたものである。(申立書52~53ページ)
2 申立人意見書で主張する理由の概要
(1)請求項1~2及び4~5の実施可能要件の理由
請求項1には、合成砥石のフィラーが、第1~第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含むことが特定されているが、本件明細書には、3種類のフィラーの具体的な好ましい配合比率や実施形態、実施例等の記載はないし、第1~第3のフィラーのうち、2つを選択した場合の配合比率や製造方法等に関しても全く記載がないから、当業者は、3種類のフィラーのうち、どの2つを選択すれば好適であるか判断できない。
当業者が、本件発明1を実施する場合、フィラーを2種類又は3種類にするかや、その組み合わせをどうするか、それぞれの配合比率をどうするかを検討する必要があり、過度な試行錯誤を強いられることになるから、請求項1~2及び4~5に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(申立人意見書9~10ページ)
(2)請求項2及び4~5の明確性の理由
請求項1には、合成砥石のフィラーが、第1~第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含むことが特定されているが、請求項2及び5では、2種類のフィラーが0体積%の場合を包含していて矛盾するから、請求項2及び4~5に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(申立人意見書10ページ)
(3)請求項6の進歩性の理由
甲5には、ビトリファイドダイヤモンド砥石の焼成を650℃以上の高温で、例えば窒素雰囲気下で行われることが記載されている(甲5の[0002])から、本件発明6は、甲5と甲1、甲2~甲4及び甲7の少なくとも1つの組み合わせにより容易に発明をすることができたものであり、請求項6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(申立人意見書19~20ページ)
3 本件決定予告で採用しなかった特許異議申立理由の検討
(1)本件発明1の新規性及び進歩性について
本件発明1と甲7発明を対比すると、相違点1が存在し(上記第5の3(1)エ)、当該相違点1に係る構成は、申立人が提出したいずれの証拠にも記載されていない(上記第5の3(1)オ)。
したがって、本件発明1は、甲1~甲8のいずれかに記載された発明ではない。
また、甲1~甲6又は甲8のいずれかに記載された発明を主引用発明として、本件発明1と対比すると、少なくとも相違点1が存在し、相違点1は、甲1~甲8及び参考資料1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件発明1に係る発明の新規性及び進歩性の理由により、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
(2)本件発明2及び4~5の新規性及び進歩性について
本件発明2及び4~5は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、本件発明1と同様に、本件発明2及び4~5の新規性及び進歩性の理由により、請求項2及び4~5に係る特許を取り消すことはできない。
(3)請求項3に係る発明の新規性及び進歩性について
本件訂正により、請求項3は削除されたから、特許異議申立理由の対象が存在しない。
(4)本件発明6の進歩性について
本件発明6は、上記第3の請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、「導電性を有する第2のフィラー」を含み、「前記第2のフィラーを含む前記仮成型体を高温炉で焼成することは、前記高温炉内を不活性雰囲気にして前記仮成型体を焼成することを含む」合成砥石の製造方法であるが、導電性を有するフィラーを含む仮成型体を高温炉で焼成する際に、高温炉内を不活性雰囲気にして焼成することは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載されていない。
申立人が主張する、甲5の「ビトリファイドダイヤモンド砥石」は、ダイヤモンドであって、ダイヤモンドが導電性を有するものでないことは技術常識であるから、甲5には、本件発明6の「導電性を有する第2のフィラー」に係る構成が示されていない。
したがって、本件発明6の進歩性の理由により、請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立人意見書で主張する理由の検討
(1)請求項1~2及び4~5の実施可能要件の理由について
本件明細書に接した当業者であれば、第1のフィラーが存在すれば、加工点での作用圧力が高まり、高い加工能率で研削加工できる(本件明細書【0028】)という技術的な意義を理解でき、第2のフィラーが存在すれば、被削物の静電気が除去されて、塵埃等の付着が防止できる(本件明細書【0039】)という技術的な意義を理解でき、第3のフィラーが存在すれば、被削物の裏面にゲッタリングサイトが形成されて、ゲッタリング効果が生じる(本件明細書【0049】)という技術的な意義を理解できるといえる。
当業者であれば、本件発明1を実施する際には、これらの3つの技術的な意義を考慮して、第1~第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含むように適宜に選択して構成すればよいのであって、それらの配合比率を決定することが過度な試行錯誤とはいえないから、本件特許に係る発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~2及び4~5を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、請求項1~2及び4~5の実施可能要件の理由により、それらの特許を取り消すことはできない。
(2)請求項2及び4~5の明確性の理由について
請求項2は、請求項1を引用するように記載されており、請求項1には、第1~第3のフィラーのうちの2つ又は3つを含むことが特定されているから、請求項2及び5に「前記第1のフィラー、前記第2のフィラー及び前記第3のフィラーは、それぞれ、0体積%以上」と記載されていても、当業者は、合成砥石に含めるように選択した2つ又は3つのフィラーの体積%が「0」であると理解することはない。
したがって、請求項2及び4~5の記載は明確であり、請求項2及び4~5の明確性の理由により、それらの特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明6の進歩性について
上記3(4)のとおり、本件発明6の進歩性の理由により、請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件決定予告及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由並びに申立人意見書の理由によっては、本件特許の請求項1~2及び4~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~2及び4~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項3は、上記第2及び第3のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による請求項3に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701104