特許異議申立
2026-700085
刃端を改善する処理機械および方法
- 審判番号
- 2026-700085
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-542042
- 登録番号
- 7731142
- 請求日
- 2026年01月29日
- 審決日
- 2026年05月12日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ベイパーマット リミティッド
- 【権利者代理人】弁理士法人後藤特許事務所
- 【異議申立人】中田 覚史
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 藤江 大望
- 審判官 青木 良憲
- 分類
- P1651.121-Y (B24C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7731142号発明「刃端を改善する処理機械および方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7731142号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7731142号の請求項1~12に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2021年(令和3年)1月11日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2020年1月7日(GB)グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)を国際出願日として出願され、令和7年8月21日にその特許権の設定登録がされ、同年8月29日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和8年1月29日に特許異議申立人 中田 覚史(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下「請求項○に係る発明」を「本件特許発明○」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載した次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
作業工具の刃端のK因子を調整する処理機械であって、前記処理機械は、
研磨粒子の加圧されたブラスト流をブラスト方向に向け、前記ブラスト流のブラストパターンは、エッジを有する実質的な非円形であり、前記パターンの前記エッジが、前記作業工具の前記刃端に向けられるブラストガンと、
前記作業工具の回転軸が調整可能なオフセット距離だけ前記ブラスト方向から径方向にオフセットされるように前記作業工具を固定する取付手段と、を有し、前記刃端の前記K因子は、前記ブラスト方向と前記回転軸との間の前記オフセット距離によって決定され、
前記K因子は、Sγ/Sαとして定義され、
前記Sγは、前記刃端のチッピング面とクリアランス面の頂点から前記チッピング面の丸みの終端までの距離であり、
前記Sαは、前記頂点から前記クリアランス面の前記丸みの終端までの距離である、処理機械。
【請求項2】
前記ブラストパターンは、実質的に長方形である、請求項1に記載の処理機械。
【請求項3】
前記ブラストパターンは、少なくとも2:1のアスペクト比を有する、請求項2に記載の処理機械。
【請求項4】
前記ブラストガンは、前記ブラスト流が噴出されるノズルを有し、前記ノズルの出口は、実質的に非円形である、請求項1から3のいずれか1項に記載の処理機械。
【請求項5】
前記作業工具は、ドリルビット、エンドミル、スレッドタップ、又はスロットミルである、請求項1から4のいずれか1項に記載の処理機械。
【請求項6】
前記作業工具は、丸いシャンクを備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の処理機械。
【請求項7】
前記研磨粒子は、ガラスビーズ、金属ショット、又は酸化アルミニウム粒子のうちの1つ又は複数を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の処理機械。
【請求項8】
前記オフセット距離は、前記作業工具のチッピング面に対するオフセットである、請求項1から7のいずれか1項に記載の処理機械。
【請求項9】
前記刃端に関して対称なオフセットにより、約1のK因子が実現される、請求項8に記載の処理機械。
【請求項10】
前記チッピング面に向かうオフセットにより、1より大きいK因子が実現され、前記チッピング面から離れるオフセットにより、1未満のK因子が実現される、請求項8又は9に記載の処理機械。
【請求項11】
前記処理機械によって調整可能なK因子の値の範囲は、0.4~1.9の間である、請求項1から10のいずれか1項に記載の処理機械。
【請求項12】
作業工具の刃端のK因子を調整する方法であって、前記作業工具は回転軸を有し、前記方法は、
前記作業工具をブラストチャンバ内に固定するステップであって、前記ブラストチャンバは、ブラストガンのブラストノズルからスラリーに懸濁する研磨粒子のブラスト流を噴出するウェットブラストガンを備える、ステップと、
研磨粒子の前記ブラスト流を前記作業工具の刃端に向けるステップと、
前記ブラスト流の前記ブラストノズルと前記回転軸との間の径方向距離を調整するステップと、を有し、
前記ブラストノズルは、実質的に非円形の断面のブラスト流を生成するように構成され、前記ブラストノズルは、前記回転軸に対して実質的に垂直に位置合わせされ、
前記K因子は、Sγ/Sαとして定義され、
前記Sγは、前記刃端のチッピング面とクリアランス面の頂点から前記チッピング面の丸みの終端までの距離であり、
前記Sαは、前記頂点から前記クリアランス面の前記丸みの終端までの距離である、方法。」
第3 申立ての理由
1 申立人が特許異議申立書で主張する申立ての理由の概要
(進歩性)請求項1~12に係る発明は、甲第1~4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 証拠方法
申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)甲第1号証:Dirk Biermann、ほか4名、「Wet abrasive jet machining to prepare and design the cutting edge micro shape」、Procedia CIRP Volume 45、2016.6、pp.195-198
(2)甲第2号証:特開2004-17241号公報
(3)甲第3号証:特開2015-229240号公報
(4)甲第4号証:特開2018-126842号公報
以下、甲第○号証を「甲○」という。
第4 証拠の記載内容について
1 甲1
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア「For cutting edge preparation wet abrasive jet machining offers a number of benefits.」
<日本語訳>
(なお、甲1の日本語訳については、特許異議申立書に添付して提出した甲1の抄訳文及び特許異議申立書13~15ページにおいて申立人が記載した抄訳文に基づく。)
「切れ刃の仕上げ加工において、ウェットアブレシブジェット加工は数多くの利点をもたらす。」(p196左上欄)
イ「In the applied wet abrasive jet machining device, the pressurized water, serving as the carrier medium, gets accelerated through the jet nozzle.」
<日本語訳>
「本ウェットアブレシブジェット加工装置では、キャリア媒体として機能する加圧水が、ジェットノズルを通過する際に加速される。」(p197左中欄)
ウ「The jet medium is a suspension of water and abrasive material with a jet mass concentration of γst ≒ (当審注:~が上下に並んだ記号を「略等しい」の意味と解釈し、「≒」と表記する。以下同様。)10%. The abrasive material is new and sharp-edged aluminum oxide with a size of FEPA 220.」
<日本語訳>
「ジェット媒体は水と研磨材の懸濁液で構成され、ジェット質量濃度はγst ≒10%である。研磨材には、新品かつ鋭角なアルミナが使用され、粒度はFEPA 220に相当する。」(p196右上欄)
エ「The workpiece is led along the cutting edge horizontally aligned under the incident jet.」
<日本語訳>
「ワークピースは、入射ジェットの下方に切れ刃を水平に整列させた状態で案内される。」(p196左下欄)
オ「In contrast αat,rel(当審注:αjet,rel の誤記と認める。) has a strong impact on the resulting K. If by an inclination of the cutting edge the jet is primarily machining the flank face side, K will decrease. This is the case for positive relative jet inclination angles, illustrated in Figure 7.」
<日本語訳>
「対照的に、αjet,rel は得られるKに強い影響を及ぼす。切れ刃を傾斜させることでジェットが主に逃げ面側を加工する場合、Kは低下する。これは、図7に示すように、相対ジェット傾斜角が正の場合に該当する。」(p198左中欄)
カ「The ratio of the segment on the rake face side to the flank face side results in the form-factor K, specifying the orientation of the rounding [1].」
<日本語訳>
「すくい面側セグメントと逃げ面側セグメントの比から形状係数Kが導かれ、このKが丸み形状の配向を規定する。」(p196右中欄)
キ「The form-factor is an extremely sensitive value since it is described by the ratio of material removal from the ideal tip to flank face and the rake face side.」
<日本語訳>
「形状係数は、理想的な刃先形状からの材料除去量を、逃げ面側とすくい面側の比として表すため、極めて敏感な値である。」(p197右下欄)
ク「Sγ:cutting edge segment on rake face」
<日本語訳>
「すくい面側の切れ刃セグメント」(p195右中欄)
ケ「Sα:cutting edge segment on flank face」
<日本語訳>
「逃げ面側の切れ刃セグメント」(p195右中欄)
コ「The relative jet inclination angle refers to the wedge angle’s bisector crosswise to the edge.」
<日本語訳>
「相対ジェット傾斜角は、切れ刃に直交する方向におけるくさび角の二等分線を基準として定義される。」(p196右上欄)
サ「Fig.1
[図:0001436219000001.jpg]
」
シ「Fig.2
[図:0001436219000002.jpg]
」
(2)甲1の記載事項の整理
ア 上記(1)エ及びサのFig.1(b)の記載からみて、ジェットノズルの入射ジェットは、ワークピースの切れ刃に向けられているといえる。
イ 上記(1)オの記載からみて、甲1の形状係数(K)の値は、相対ジェット傾斜角によって決定されるといえ、形状係数(K)を調整するためには、切れ刃に対する入射ジェットの相対ジェット傾斜角を調整すればよいことが理解できる。
ウ 上記(1)シのFig.2(a)には「K=Sγ/Sα」と記載されている。また、上記(1)カ~ケ、及び、シのFig.2(a)のβ=62,5°の場合の記載からみて、Sγは、切れ刃のすくい面と逃げ面の頂点から前記すくい面の丸みの終端までの距離であり、Sαは、前記頂点から前記逃げ面の前記丸みの終端までの距離であることがわかる。
(3)甲1に記載された発明
上記(1)~(2)より、甲1には、ウェットアブレシブジェット加工装置及びワークピースの切れ刃の形状係数(K)を調整する方法に関する、次の2つの発明(以下、それぞれ「甲1発明1」及び「甲1発明12」という。)が記載されていると認められる。
ア 甲1発明1
「 ワークピースの切れ刃の形状係数(K)を調整するウェットアブレシブジェット加工装置であって、前記ウェットアブレシブジェット加工装置は、
研磨材の加圧された入射ジェットを入射ジェット方向に向け、前記入射ジェットが、前記ワークピースの前記切れ刃に向けられるジェットノズルを有し、前記切れ刃の前記形状係数(K)は、相対ジェット傾斜角によって決定され、
前記形状係数(K)は、Sγ/Sαとして定義され、
前記Sγは、前記切れ刃のすくい面と逃げ面の頂点から前記すくい面の丸みの終端までの距離であり、
前記Sαは、前記頂点から前記逃げ面の前記丸みの終端までの距離である、ウェットアブレシブジェット加工装置。」
イ 甲1発明12
「 ワークピースの切れ刃の形状係数(K)を調整する方法であって、前記方法は、
ジェットノズルのノズルからジェット媒体に懸濁する研磨材の入射ジェットを噴出するジェットノズルを備える、ステップと、
研磨材の前記入射ジェットを前記ワークピースの切れ刃に向けるステップと、
前記切れ刃に対する前記入射ジェットの相対ジェット傾斜角を調整するステップと、を有し、
前記形状係数(K)は、Sγ/Sαとして定義され、
前記Sγは、前記切れ刃のすくい面と逃げ面の頂点から前記すくい面の丸みの終端までの距離であり、
前記Sαは、前記頂点から前記逃げ面の前記丸みの終端までの距離である、方法。」
2 甲2
(1)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
金属製のワークに行う処理として、ノズルの噴射口からワークの表面にショットと呼ばれる多数の玉(必ずしも球形である必要はない)を高速度で噴射して多数の該ショットをワークの表面に衝突せしめ、この多数のショットの衝突によって該ワークの表面を梨子地模様とし、これによりワークの表面硬度を増加したり、疲労寿命を向上したり、耐摩耗性を向上したり、流体抵抗を減少したりするピーニング処理(ショットピーニング等とも呼ばれる)が提案されている。」
イ「【0032】
本実施例は、液体(例えば、水)にショット(例えば、ガラス玉)が混入されたスラリと加圧エアとを混合して噴射材4とし、この噴射材4をノズル1に設けた噴射口2から噴射して前記ショットをワーク3(例えば、航空機用エンジンのフィン)に衝突せしめることで該ワーク3の表面の機械的性質を変化させるピーニング処理装置であって、前記ワーク3にピーニング処理を施す処理室10が設けられ、この処理室10には、前記ワーク3を保持するワーク保持部11と、該ワーク3に噴射材4を噴射する前記ノズル1が設けられ、前記ノズル1として、巾の広いスリット状の噴射口2を有し、噴射材4が該スリット状の噴射口2の全域から平行流で噴射されるノズル1が採用されているものである。」
ウ「【0035】
ノズル1は、該ノズル1の内部の混合部(図示省略)で前記スラリと加圧エアとを混合せしめて噴射材4とした後、該噴射材4を前記スリット状の噴射口2から噴射する構成のものが採用されている。」
エ「【0040】
このノズル1は、該ノズル1を上下前後左右に移動可能で且つ上下及び左右に傾動可能なノズル移動傾動機構12に設けられている。
【0041】
ノズル移動傾動機構12は、処理室10の上壁21に沿って前後左右方向に移動可能な移動ユニット27と、移動ユニット27から垂下する状態で設けられ且つ下端部に前記ノズル1が設けられた昇降柱16と、この昇降柱16を昇降移動する昇降機構17と、移動ユニット27を前後方向及び左右方向に移動する移動機構18と、前記ノズル1を上下に傾動する上下傾動機構19と、前記ノズル1の向きを水平方向に傾動して可変する水平方向傾動機構とから構成されている。」
オ「【図3】
[図:0001436219000003.jpg]
」
カ「【図6】
[図:0001436219000004.jpg]
」
(2)甲2の記載事項の整理
ア 上記(1)イの「液体(例えば、水)にショット(例えば、ガラス玉)が混入されたスラリと加圧エアとを混合して噴射材4とし、この噴射材4をノズル1に設けた噴射口2から噴射して・・・」の記載から、加圧されたショットが混入した噴射材4は、噴射口2から噴射方向に向けられているといえる。
イ 上記(1)イ~ウ、及び、カの記載からみて、噴射材4は、スリット状の噴射口2の全域から平行流で噴射されることから、噴射材4の断面形状は、エッジを有する実質的な非円形であるといえる。
(3)甲2に記載された発明及び技術的事項
上記(1)~(2)より、甲2にはピーニング処理装置に関する次の発明(以下「甲2発明」という。)及び技術的事項(以下「甲2記載の技術的事項」という。)がそれぞれ記載されていると認められる。
ア 甲2発明
「 ワーク3の表面の機械的性質を変化させるピーニング処理装置であって、前記ピーニング処理装置は、
ショットの加圧された噴射材4を噴射方向に向け、前記噴射材4の断面形状は、エッジを有する実質的な非円形であり、前記断面形状の前記エッジが、前記ワーク3に向けられるノズル1と、
前記ワーク3を保持するワーク保持部11と、を有し、前記ノズル1が上下前後左右に移動可能である、ピーニング処理装置。」
イ 甲2記載の技術的事項
「 ワーク3の表面の機械的性質を変化させるピーニング処理装置であって、前記ピーニング処理装置は、
ショットの加圧された噴射材4を噴射方向に向け、前記噴射材4の断面形状は、エッジを有する実質的な非円形であり、前記断面形状の前記エッジが、前記ワーク3に向けられるノズル1と、
前記ワーク3を保持するワーク保持部11と、を有し、前記ノズル1が上下前後左右に移動可能であること。」
3 甲3
(1)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア「【0010】
これにより、この方法は、切れ刃に沿った刃先丸みが変化する切削工具を実現する、簡単で高速且つ信頼性の高い方法を提供する。切れ刃の単位長さ当たりの一定の材料除去速度で切れ刃から材料を除去することにより、切れ刃に沿った刃物角の変化は、切れ刃に沿った刃先丸みを変化させる。切れ刃に沿った刃先丸みの得られた変化は、従って、切れ刃に沿った刃物角の変化に対応する。より大きな刃物角は、刃先丸みがより大きな半径を結果的に生じて、より強い切れ刃を形成しており、更により小さな刃物角は、刃先丸みがより小さな半径を結果的に生じて、より鋭い切れ刃を形成する。
【0011】
材料は、湿式ブラスト(吹き付け)処理、乾式ブラスト処理、ブラッシング(ブラシ研磨)、放電加工又はレーザ加工(例えば、レーザー切断)により除去されてもよい。これらの方法は、切れ刃の単位長さ当たりの一定の材料除去速度を提供するように使用されてもよいので、方法の処理パラメータは、切れ刃上で一定に維持されてもよく、処理を単純化してもよい。」
イ「【0013】
切れ刃は、切れ刃の横断面において一定の切れ刃半径を有してもよく、即ち、円形部分により形成されてもよく、あるいは、切れ刃半径は、切れ刃の断面において変化してもよく、即ち、非対称の切れ刃を形成してもよい。非対称の切れ刃は、すくい面に沿った刃先丸みの長さWにより、及び逃げ面に沿った刃先丸みの長さHにより定義されてもよく、その場合、W/H>1であることが好ましい。そのような非対称の切れ刃の例は、特許文献2に開示される。」
ウ「【0019】
切削工具は、旋削工具(一般的な旋削、ねじ切り、ボーリング、溝切り、切断等を含む)、あるいは孔明け工具、あるいは旋削又は削孔用切削インサートであってもよい。旋削及び孔明け中に、工具は、最小限の振動の安定した切削に供される。従って、これらのタイプの作業において、切削工具は、切れ刃の耐久性を危険にさらすことなく、工具の様々な部分において、より鋭い(更に従って、より脆弱な)切れ刃を利用することが有利であってもよい。断続的な機械加工作業(例えば、フライス加工)中に、振動が発生してもよく、そのことは、切削工具上全体において、より強い切れ刃を必要とする。」
エ「【図4】
[図:0001436219000005.jpg]
」
(2)甲3に記載された技術的事項
上記(1)より、甲3には次の技術的事項(以下「甲3記載の技術的事項」という。〔 〕内に甲3における根拠箇所を記載した。)が記載されている。
「 切れ刃に沿った刃先丸みが変化する切削工具を実現するために〔段落【0010】〕、切削工具の切れ刃から材料を除去する湿式ブラスト処理の装置であって〔段落【0011】〕、
非対称の切れ刃は、すくい面に沿った刃先丸みの長さWにより、及び逃げ面に沿った刃先丸みの長さHにより定義されてもよく、その場合、W/H>1であることが好ましいこと〔段落【0013】、【図4】〕。」
4 甲4
(1)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
ア「【0023】
切削工具1は、たとえばドリルビットであり、刃部10と、シャンク50とを備える。刃部10は、切削工具1における先端側に設けられており、被切削物に対する切削加工を行う部分である。シャンク50は、切削工具1における後端側に設けられており、切削工具1の使用時にチャックに取り付けられる部分である。
【0024】
刃部10は、切刃部11および21を含んでいる。切刃部11および21は、被切削物に当接する部分であり、回転軸AXを中心として螺旋状に形成されている。切刃部11および21は、回転軸AXに対して点対称である。切刃部11および21は、溝31および32の各々によって隔てられている。切刃部11および21の各々は、溝31および32によって規定されている。」
イ「【図1】
[図:0001436219000006.jpg]
」
(2)甲4に記載された技術的事項
上記(1)より、甲4には次の技術的事項(以下「甲4記載の技術的事項」という。〔 〕内に甲4における根拠箇所を記載した。)が記載されている。
「 切削工具1は、たとえばドリルビットであり、刃部10と、シャンク50とを備え〔段落【0023】、【図1】〕、刃部10は、切刃部11および21を含んでおり、切刃部11および21は、被切削物に当接する部分であり、回転軸AXを中心として螺旋状に形成されていること〔段落【0024】、【図1】〕。」
第5 当審の判断
1 本件特許発明1について
上記第3の申立ての理由として、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)では、本件特許発明1に対し、甲1を主引用例とする理由(申立書の3(4)ウ(ア-1)[第17~20ページ])と、甲2を主引用例とする理由(申立書の3(4)ウ(ア-2)[第20~21ページ])の2つが申し立てられているので、以下前者を「進歩性理由1」、後者を「進歩性理由2」として検討する。
(1)進歩性理由1(甲1を主引用例とするもの)
ア 本件特許発明1と甲1発明1の対比
(ア)甲1発明1の「ワークピース」は本件特許発明1の「作業工具」に相当し、以下同様に、「切れ刃」は「刃端」に、「形状係数(K)」は「K因子」に、「ウェットアブレシブジェット加工装置」は「処理機械」に、「研磨材」は「研磨粒子」に、「入射ジェット」は「ブラスト流」に、「入射ジェット方向」は「ブラスト方向」に、「ジェットノズル」は「ブラストガン」に、「Sγ」は「Sγ」に、「Sα」は「Sα」に、「すくい面」は「チッピング面」に、「逃げ面」は「クリアランス面」に、それぞれ相当する。
(イ)甲1発明1の「前記切れ刃の前記形状係数(K)は、相対ジェット傾斜角によって決定され」と本件特許発明1の「前記刃端の前記K因子は、前記ブラスト方向と前記回転軸との間の前記オフセット距離によって決定され」とを対比すると、甲1発明1の「相対ジェット傾斜角」は切れ刃に対する入射ジェット方向(ブラスト方向)の傾斜角であるから、両者は「前記刃端の前記K因子は、前記ブラスト方向によって決定され」という点に限り一致する。
イ 本件特許発明1と甲1発明1の一致点及び相違点
上記アの対比より、本件特許発明1と甲1発明1は、次の(ア)の一致点で一致し、(イ)の相違点1~3で相違すると認められる。
(ア)一致点
「 作業工具の刃端のK因子を調整する処理機械であって、前記処理機械は、
研磨粒子の加圧されたブラスト流をブラスト方向に向け、前記ブラスト流が、前記作業工具の前記刃端に向けられるブラストガンを有し、前記刃端の前記K因子は、ブラスト方向によって決定され、
前記K因子は、Sγ/Sαとして定義され、
前記Sγは、前記刃端のチッピング面とクリアランス面の頂点から前記チッピング面の丸みの終端までの距離であり、
前記Sαは、前記頂点から前記クリアランス面の前記丸みの終端までの距離である、処理機械。」
(イ)相違点
(イ-1)相違点1
本件特許発明1は、ブラスト流のブラストパターンが、エッジを有する実質的な非円形であり、前記パターンの前記エッジが刃端に向けられるのに対し、甲1発明1は、入射ジェットのブラストパターンが不明である点。
(イ-2)相違点2
本件特許発明1は、作業工具の回転軸が調整可能なオフセット距離だけブラスト方向から径方向にオフセットされるように前記作業工具を固定する取付手段を有するのに対し、甲1発明1は、そのような取付手段を有するか不明な点。
(イ-3)相違点3
刃端のK因子の決定に関し、本件特許発明1は、刃端のK因子が、ブラスト方向と回転軸との間のオフセット距離によって決定されるのに対し、甲1発明1は、切れ刃の形状係数(K)が、相対ジェット傾斜角によって決定される点。
ウ 相違点の検討
事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア)甲2~4について
相違点3は、甲2~4のいずれにも記載も示唆もされていないと認められるので、以下説明する。
上記第4の2(3)イのとおり、甲2記載の技術的事項は、「ワーク3の表面の機械的性質を変化させるピーニング処理装置」であって、作業工具の刃端のK因子を調整することは、記載も示唆も無く、したがって、当然に刃端のK因子を、ブラスト方向と回転軸との間のオフセット距離によって決定することについても、記載も示唆も無い。
上記第4の3(2)のとおり、甲3記載の技術的事項は、「非対称の切れ刃は、すくい面に沿った刃先丸みの長さWにより、及び逃げ面に沿った刃先丸みの長さHにより定義されてもよく、その場合、W/H>1であることが好ましいこと」であって、本件特許発明1とは、W/H(本件特許発明1のK因子に相当。)を調整することが示唆されている点では共通するといえる。しかしながら、甲3には、W/H(刃端のK因子)を、ブラスト方向と回転軸との間のオフセット距離によって決定することについては、記載も示唆も無い。
上記第4の4(2)のとおり、甲4記載の技術的事項は、「切削工具1は、刃部10とシャンク50とを備え、刃部10は、切刃部11および21を含んでおり、切刃部11および21は、回転軸AXを中心として螺旋状に形成されていること」であって、甲2と同様に、切削工具1(作業工具)の刃端のK因子を調整することは、記載も示唆も無く、したがって、当然に刃端のK因子を、ブラスト方向と回転軸との間のオフセット距離によって決定することについても、記載も示唆も無い。
(イ)申立人の主張について
申立人は、申立書において、「甲1発明においては、Sγ側、Sα側のブラスト処理量を、刃端に対する相対ノズル角度を変化させることにより行っているが、ブラスト処理の分野において、刃端に対する相対ノズル角度の変更(刃端の傾斜角度の変更、またはブラストの噴射角度の変更)と、刃端に対するブラスト位置のオフセットはいずれも「刃端に対する噴射エネルギー密度の分布を非対称にする」ための一般的な手段であり、どちらを採用してもSγ側、およびSα側における材料除去量の比率(Sγ/Sα)を調整できる。当業者にとって、刃端に対する相対ブラスト角度を変えるか、刃端に対するブラスト位置のオフセットは単なる設計的事項であり、目的とするK因子を得るために適宜選択されるものである。」旨の主張をする(申立書3(4)ウ(ア-1)の中段部分[第19ページ第9~19行目])。
しかしながら、刃端(回転軸)に対するブラスト位置(ブラスト方向)のオフセットが「刃端に対する噴射エネルギー密度の分布を非対称にする」ための一般的な手段であることを示す根拠は開示されておらず、当該事項が本件特許出願前に当業者にとって周知の事項であったと認めることはできない(本件特許明細書に「K因子の制御はより難しく、これまでは工具の回転軸に対するブラスト流の角度を調整することで試みられてきた。」(段落【0007】)、「作業工具の回転軸に対するブラストピッチ角を調整することに着目した従来技術とは異なり、本発明では、ブラスト流と作業工具の回転軸との間のオフセット距離に着目している。」(段落【0010】)と記載されているように、本件特許出願前には、刃端に対する相対ノズル角度の変更が「刃端に対する噴射エネルギー密度の分布を非対称にする」ための一般的な手段であったと認められるところ、それを覆すに足る証拠を見出すことができない。)。
また、申立人は、「また、甲1発明は、ロボットガイド式のノズル制御が前提とされており、ノズル角度だけでなく、ノズル位置も自由に制御可能と推察される。当業者は、刃先の形状や治具の制約、加工対象のアクセス性などに応じて、相対ノズル角度の変更と、ノズル位置のオフセットのいずれかまたは両者を組み合わせて用いることを容易に想到し得る。」旨の主張をする(申立書3(4)ウ(ア-1)の中段部分[第19ページ第20~25行目])。
しかし、前述の通り、刃端に対する噴射エネルギー密度の分布を非対称にするために、工具の回転軸に対するブラスト方向のオフセットをすることは、甲2~4のいずれにも開示されておらず、また、周知の事項であったことを裏付ける示唆もなかったことから、仮に甲1発明1がノズル位置(ノズル方向)のオフセットが可能な構成であったとしても、甲1発明1においてそれを実施する動機付けはない。
さらに、申立人は、「また、甲2発明において「ノズル1は、該ノズル1を上下前後左右に移動可能で且つ上下及び左右に傾動可能」と記載がされているように、甲2発明におけるノズルによれば、本件特許発明1における「作業工具の回転軸が調整可能なオフセット距離だけ前記ブラスト方向から径方向にオフセット」できる。
甲2発明は、ブラスト処理の分野に属する発明であり、甲1発明と技術分野を一にするものであることから、第2発明(当審注:「甲2発明」の誤記と認める。)の記載事項を甲1発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものである。」旨の主張をする(申立書3(4)ウ(ア-1)の後半部分[第19ページ下から第13~6行目])。
しかし、仮に甲1発明1に当該甲2発明を適用できたとしても、前述と同様の理由で、甲1発明1において、作業工具の回転軸が調整可能なオフセット距離だけブラスト方向から径方向にオフセットさせる動機付けはない。
エ 進歩性理由1についてのまとめ
上記ウで検討したとおり、相違点3については、甲2~4のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、当業者にとって周知の事項であるともいえないから、相違点1~2について検討するまでもなく、甲1発明1に、甲2~甲4記載の技術的事項を適用しても、本件特許発明1を容易に想到できるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、進歩性理由1によっては、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)進歩性理由2(甲2を主引用例とするもの)
ア 本件特許発明1と甲2発明の対比
(ア)甲2発明の「噴射材4」は本件特許発明1の「ブラスト流」に相当し、以下同様に、「噴射方向」は「ブラスト方向」に、「断面形状」は「ブラストパターン」に、「ノズル1」は「ブラストガン」に、それぞれ相当する。
(イ)甲2発明の「ワーク3」と本件特許発明1の「作業工具」とを対比すると、両者は「対象物」という点に限り一致し、甲2発明の「ワーク3の表面の機械的性質を変化させるピーニング処理装置」と本件特許発明1の「作業工具の刃端のK因子を調整する処理機械」とを対比すると、両者は「対象物の表面の性質を変化させる処理装置」という点に限り一致する。
(ウ)甲2発明の「ショット」と本件特許発明1の「研磨粒子」とを対比すると、両者は「衝突粒子」という点に限り一致する。
(エ)甲2発明の「前記ワーク3を保持するワーク保持部11」と本件特許発明1の「前記作業工具の回転軸が調整可能なオフセット距離だけ前記ブラスト方向から径方向にオフセットされるように前記作業工具を固定する取付手段」とを対比すると、両者は「前記対象物を固定する手段」という点に限り一致する。
イ 本件特許発明1と甲2発明の一致点及び相違点
上記アの対比より、本件特許発明1と甲2発明は、次の(ア)の一致点で一致し、(イ)の相違点1~5で相違すると認められる。
(ア)一致点
「 対象物の表面の性質を変化させる処理装置であって、前記処理装置は、
衝突粒子の加圧されたブラスト流をブラスト方向に向け、前記ブラスト流のブラストパターンは、エッジを有する実質的な非円形であり、前記パターンの前記エッジが、前記対象物に向けられるブラストガンと、
前記対象物を固定する手段と、を有する、処理装置。」
(イ)相違点
(イ-1)相違点1
処理装置に関し、本件特許発明1は、作業工具の刃端のK因子を調整する処理機械であるのに対し、甲2発明は、ワーク3の表面の機械的性質を変化させるピーニング処理装置である点。
(イ-2)相違点2
衝突粒子に関し、本件特許発明1は、研磨粒子であるのに対し、甲2発明は、ショットであり研磨粒子であるか不明な点。
(イ-3)相違点3
本件特許発明1は、エッジが作業工具の刃端に向けられるのに対し、甲2発明は、エッジがワーク3に向けられる点。
(イ-4)相違点4
固定する手段に関し、本件特許発明1は、作業工具の回転軸が調整可能なオフセット距離だけブラスト方向から径方向にオフセットされるように前記作業工具を固定する取付手段であるのに対し、甲2発明は、ワーク3を保持するワーク保持部11である点。
(イ-5)相違点5
本件特許発明1は、刃端のK因子が、ブラスト方向と回転軸との間のオフセット距離によって決定され、前記K因子は、Sγ/Sαとして定義され、前記Sγは、前記刃端のチッピング面とクリアランス面の頂点から前記チッピング面の丸みの終端までの距離であり、前記Sαは、前記頂点から前記クリアランス面の前記丸みの終端までの距離であるのに対し、甲2発明は、刃端がなく刃端のK因子について不明な点。
ウ 相違点の検討
相違点1について検討する。
(ア)甲2発明に基づく容易想到性について
上記第4の2(3)アのとおり、甲2発明は、「ワーク3の表面の機械的性質を変化させるピーニング処理装置」であって、上記第4の2(1)アのとおり、多数のショットをワークの表面に衝突せしめ、この多数のショットの衝突によって該ワークの表面を梨子地模様とし、これによりワークの表面硬度を増加したり、疲労寿命を向上したり、耐摩耗性を向上したり、流体抵抗を減少したりするものである。つまり、甲2発明においては、本件特許発明1のように、研磨粒子を用いて作業工具の刃端を研磨することにより、刃端のK因子を調整することは、全く想定されていない。
そうすると、仮に、ブラスト処理で刃端のK因子を調整することが、甲1及び甲3に記載されているように本件特許出願前から周知の事項であったとしても、甲2発明のピーニング処理装置を、作業工具の刃端のK因子を調整する処理機械に変更する動機付けがあるとはいえない。
(イ)申立人の主張について
申立人は、申立書において、「本件特許発明1では、K因子の調整方法、およびK因子の一般的定義を発明特定事項としているが、これらは、処理機械としての「モノ」の発明における構成上の特徴ではない。ブラスト処理でK因子を調整すること、K=Sγ/Sαであること、およびSγ、Sαがいかなるものであるかは、甲1発明、および甲3発明に記載がされているように、ブラスト処理の分野において周知事項である。
本件特許発明1における「モノ」の発明としての構成は、・・・いずれも甲2発明に記載がされている。」旨の主張をする(申立書3(4)ウ(ア-1)の中段部分[第21ページ第11~28行目])。
しかし、上記(ア)のとおり、甲2発明のピーニング処理装置を、作業工具の刃端のK因子を調整する処理機械に変更する動機付けはないのであるから、甲2発明は少なくとも作業工具の刃端のK因子を調整する処理機械の構成を備えておらず、本件特許発明1における「モノ」の発明としての構成をいずれも備えているとはいえない。
エ 進歩性理由2についてのまとめ
上記ウで検討したとおり、相違点1については、甲2発明から変更する動機付けがないことから、相違点2~5について検討するまでもなく、甲2発明に基づいて、本件特許発明1を容易に想到できるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、進歩性理由2によっては、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
本件特許発明1は、進歩性理由1及び進歩性理由2のいずれによっても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しない。
2 本件特許発明2~11について
本件特許発明2~11は、本件特許発明1に対して、さらに何らかの技術的事項を追加したものである。よって、上記1(1)に示した理由と同様の理由により、本件特許発明2~11は、上記甲1発明1及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。
したがって、本件請求項2~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しない。
3 本件特許発明12について
(1)本件特許発明12と甲1発明12の対比
ア 甲1発明12の「ワークピース」は本件特許発明12の「作業工具」に相当し、以下同様に、「切れ刃」は「刃端」に、「形状係数(K)」は「K因子」に、「ジェットノズル」は「(ウェット)ブラストガン」に、「ノズル」は「ブラストノズル」に、「ジェット媒体」は「スラリー」に、「研磨材」は「研磨粒子」に、「入射ジェット」は「ブラスト流」に、「Sγ」は「Sγ」に、「Sα」は「Sα」に、「すくい面」は「チッピング面」に、「逃げ面」は「クリアランス面」に、それぞれ相当する。
イ 甲1発明12の「前記切れ刃に対する前記入射ジェットの相対ジェット傾斜角を調整するステップ」と本件特許発明12の「前記ブラスト流の前記ブラストノズルと前記回転軸との間の径方向距離を調整するステップ」を対比すると、前者は、切れ刃に対する入射ジェット(ブラスト流)の方向を調整するステップであり、後者は、回転軸に対するブラスト流の方向の径方向距離を調整するステップであると理解できるから、両者は「前記ブラスト流の方向を調整するステップ」という点に限り一致する。
(2)本件特許発明12と甲1発明12の一致点及び相違点
上記(1)の対比より、本件特許発明12と甲1発明12は、次のアの一致点で一致し、イの相違点1~4で相違すると認められる。
ア 一致点
「 作業工具の刃端のK因子を調整する方法であって、前記方法は、
ブラストガンのブラストノズルからスラリーに懸濁する研磨粒子のブラスト流を噴出するウェットブラストガンを備える、ステップと、
研磨粒子の前記ブラスト流を前記作業工具の刃端に向けるステップと、
前記ブラスト流の方向を調整するステップと、を有し、
前記K因子は、Sγ/Sαとして定義され、
前記Sγは、前記刃端のチッピング面とクリアランス面の頂点から前記チッピング面の丸みの終端までの距離であり、
前記Sαは、前記頂点から前記クリアランス面の前記丸みの終端までの距離である、方法。」
イ 相違点
イ-1 相違点1
本件特許発明12は、作業工具が回転軸を有するのに対し、甲1発明12は、ワークピースが回転軸を有するか不明な点。
イ-2 相違点2
本件特許発明12は、作業工具をブラストチャンバ内に固定するステップであって、前記ブラストチャンバは、ウェットブラストガンを備える、ステップを有するのに対し、甲1発明12は、ブラストチャンバを有するか不明な点。
イ-3 相違点3
ブラスト流の方向を調整するステップに関し、本件特許発明12は、ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整するのに対し、甲1発明12は、切れ刃に対する入射ジェットの相対ジェット傾斜角を調整する点。
イ-4 相違点4
本件特許発明12は、ブラストノズルが、実質的に非円形の断面のブラスト流を生成するように構成され、前記ブラストノズルは、回転軸に対して実質的に垂直に位置合わせされるのに対し、甲1発明12は、ノズルがそのように構成されているか不明な点。
(3)相違点の検討
事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア)甲2~4について
相違点3は、甲2~4のいずれにも記載も示唆もされていないと認められるので、以下説明する。
上記第4の2(3)イのとおり、甲2記載の技術的事項は、「ワーク3の表面の機械的性質を変化させるピーニング処理装置」であって、作業工具の刃端のK因子を調整することは、記載も示唆も無く、したがって、当然にブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整するステップについても、記載も示唆も無い。
上記第4の3(2)のとおり、甲3記載の技術的事項は、「非対称の切れ刃は、すくい面に沿った刃先丸みの長さWにより、及び逃げ面に沿った刃先丸みの長さHにより定義されてもよく、その場合、W/H>1であることが好ましいこと」であって、本件特許発明12とは、W/H(本件特許発明12のK因子に相当。)を調整することが示唆されている点では共通するといえる。しかしながら、甲3には、W/H(刃端のK因子)を調整するための、ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整するステップについては、記載も示唆も無い。
上記第4の4(2)のとおり、甲4記載の技術的事項は、「切削工具1は、刃部10とシャンク50とを備え、刃部10は、切刃部11および21を含んでおり、切刃部11および21は、回転軸AXを中心として螺旋状に形成されていること」であって、甲2と同様に、切削工具1(作業工具)の刃端のK因子を調整することは、記載も示唆も無く、したがって、当然にブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整するステップについても、記載も示唆も無い。
(イ)申立人の主張について
申立人は、申立書において、「甲1発明においては、Sγ側、Sα側のブラスト処理量を、刃端に対する相対ノズル角度を変化させることにより行っているが、ブラスト処理の分野において、刃端に対する相対ノズル角度の変更(刃端の傾斜角度の変更、またはブラストの噴射角度の変更)と、刃端に対するブラスト位置のオフセットはいずれも「刃端に対する噴射エネルギー密度の分布を非対称にする」ための一般的な手段であり、どちらを採用してもSγ側、およびSα側における材料除去量の比率(Sγ/Sα)を調整できる。当業者にとって、刃端に対する相対ブラスト角度を変えるか、ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整する、つまりは、ブラストノズルと刃端との相対位置を調整することは単なる設計的事項であり、目的とするK因子を得るために適宜選択されるものである。」旨の主張をする(申立書3(4)ウ(シ-1)の中段部分[第26ページ下から8行~第27ページ第4行目])。
しかしながら、ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離の調整、すなわち、刃端(回転軸)に対するブラスト位置(ブラスト方向)の相対位置の調整(オフセット量の調整)が「刃端に対する噴射エネルギー密度の分布を非対称にする」ための一般的な手段であることを示す根拠は開示されておらず、当該事項が本件特許出願前に当業者にとって周知の事項であったと認めることはできない。
また、申立人は、「甲1発明は、ロボットガイド式のノズル制御が前提とされており、ノズル角度だけでなく、ノズル位置も自由に制御可能と推察される。当業者は、刃先の形状や治具の制約、加工対象のアクセス性などに応じて、相対ノズル角度の調整と、ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整のいずれか、または両者を組み合わせて用いることを容易に想到し得る。」旨の主張をする(申立書3(4)ウ(シ-1)の中段部分[第27ページ第5~10行目])。
しかし、前述の通り、刃端に対する噴射エネルギー密度の分布を非対称にするために、ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整することは、甲2~4のいずれにも開示されておらず、また、周知の事項であったことを裏付ける示唆もなかったことから、仮に甲1発明12が、ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整することが可能な構成であったとしても、甲1発明12においてそれを実施する動機付けはない。
さらに、申立人は、「甲2発明において「ノズル1は、該ノズル1を上下前後左右に移動可能で且つ上下及び左右に傾動可能」と記載がされているように、甲2発明におけるノズルによれば、本件特許発明12における「ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整する」ことができる。
甲2発明は、ブラスト処理の分野に属する発明であり、甲1発明と技術分野を一にするものであることから、第2発明(当審注:「甲2発明」の誤記と認める。)の記載事項を甲1発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものである。」旨の主張をする(申立書3(4)ウ(シ-1)の後半部分[第27ページ第11~18行目])。
しかし、仮に甲1発明12に当該甲2発明を適用できたとしても、前述と同様の理由で、甲1発明12において、ブラスト流のブラストノズルと回転軸との間の径方向距離を調整する動機付けはない。
(4)小括
上記(3)で検討したとおり、相違点3については、甲2~4のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、当業者にとって周知の事項であるともいえないから、相違点1~2及び4について検討するまでもなく、甲1発明12に、甲2~甲4記載の技術的事項を適用しても、本件特許発明12を容易に想到できるとはいえない。
したがって、本件請求項12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2026-700085