特許異議申立
2025-700618
ボールねじ用シール及びボールねじ
- 審判番号
- 2025-700618
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-062107
- 登録番号
- 7600831
- 請求日
- 2025年06月12日
- 審決日
- 2025年11月26日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本精工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】矢島 弘文
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 孝明
- 審判官 鎌田 哲生
- 審判官 小川 恭司
- 分類
- P1651.121-Y (F16H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7600831号発明「ボールねじ用シール及びボールねじ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7600831号の請求項1-3に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7600831号の請求項1-3に係る発明についての出願は、令和3年3月31日に出願され、令和6年12月9日にその特許権の設定登録がされ、令和6年12月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年6月12日に特許異議申立人矢島弘文は、特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
特許第7600831号の請求項1-3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
中央部にねじ軸が貫通する孔を有し、前記孔の縁部が前記ねじ軸を締め付ける締め代部となっている環状のボールねじ用シールであって、
前記締め代部は、
前記ねじ軸の外周面に接触する外周面接触部と、
前記ねじ軸のねじ溝の底面に接触するねじ溝接触部と、
を有し、
前記外周面接触部は、
締め代の大きさが第1所定量に設定された締め代一定部と、
前記締め代一定部の両端から延びて前記ねじ溝接触部と連続し、前記締め代の大きさが周方向に移動するにつれて変化する一対の締め代変化部と、
を有し、
前記ねじ溝接触部の前記締め代の大きさは、前記第1所定量よりも大きい第2所定量に設定され、
前記締め代変化部の前記締め代の大きさは、前記締め代一定部から前記ねじ溝接触部に向かうにつれて前記第1所定量から前記第2所定量に増加する
ボールねじ用シール。
【請求項2】
一対の前記締め代変化部は、前記外周面接触部において周方向に占める割合が同じであり、
前記ねじ溝接触部の周方向の中間点と、前記ねじ軸の軸心と、を通過する仮想線を基準として線対称となっている
請求項1に記載のボールねじ用シール。
【請求項3】
筒状のナットと、
前記ナットを貫通するねじ軸と、
前記ナットのねじ溝と、前記ねじ軸のねじ溝と、の間に配置された複数のボールと、
前記ナットの端面に装着される請求項1又は請求項2に記載のボールねじ用シールと、
を備えるボールねじ。」
3 申立理由の概要
特許異議申立人矢島弘文は、主たる証拠として特開2013-130291号公報(甲第1号証、以下「甲1」という。)及び従たる証拠として特開2005-214407号公報(甲第2号証、以下「甲2」という。)を提出し、請求項1-3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1-3に係る特許を取り消すべきである旨主張する。
4 文献の記載
(1)甲1について
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審合議体が付したものである。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールねじのナットの軸方向端部に取り付けて使用されるシールに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載されたボールねじ用シールは、複雑な構造であるか複数の部材を組み合わせたものであるため、コストの面で改善の余地がある。この発明の課題は、ナット内部の潤滑剤を保持できるとともに、ナット内部への異物の侵入を防止できるボールねじ用シールであって、簡単な構造でコストが低いものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明のボールねじ用シールは、ボールねじのナットの軸方向端部に取り付けて使用され、ボールねじのねじ軸の螺旋溝および外周面に接触させるリップ部と、リップ部の外周側に連続する基部と、を有するリング状のシールであって、前記リップ部の先端が、ねじ軸の螺旋溝に接触させる部分では軸方向でナットの外側に向き、ねじ軸の外周面に接触させる部分では軸方向でナットの内側に向き、両部分の境界が連結されていることを特徴とする。
【0007】
リップ部の先端が軸方向でナットの外側に向いている部分は、ナット内部への異物の侵入を防止する作用を有し、リップ部の先端が軸方向でナットの内側に向いている部分は、ナット内部の潤滑剤を保持する(外部へ排出させない)作用を有する。よって、この発明のボールねじ用シールは、ナット内部への異物の侵入を防止する作用とナット内部の潤滑剤を保持する作用の両方を発揮できる。また、特許文献1のシールよりも構造が簡単であり、金型を変更すれば通常のシールと同じ方法で作製できる。」
「【0010】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1に示すボールねじは、ナット1と、ねじ軸2と、ボール3と、この発明の実施形態に相当するシール4を備えている。ナット1の軸方向両端に、シール4を取り付けるための凹部11が形成されている。
ナット1の内周面に螺旋溝1aが形成され、ねじ軸2の外周面に螺旋溝2aが形成されている。ボール3は、ナット1の螺旋溝1aとねじ軸2の螺旋溝2aで形成される軌道溝の間に配置されている。
【0011】
図2~5に示すように、シール4は、ねじ軸2の螺旋溝2aおよび外周面2bに接触させるリップ部41と、リップ部41の外周側に連続する基部42と、を有する。基部42はリング状の芯金43の一方の面に形成されている。リップ部41の内周縁の正面形状は、ねじ軸2の軸直角断面形状と相似である。シール4には、取付用のボルト挿入穴として、基部42および芯金43を貫通する各3個の貫通穴42a,43aが、周方向に等間隔で形成されている。
【0012】
シール4のリップ部41は、ねじ軸2の螺旋溝2aに接触させる溝接触部分41aと、ねじ軸2の外周面2bに接触させる外周接触部分41bと、両部分41a,41bを連結する連結部41cとからなる。溝接触部分41aの先端は軸方向でナット1の外側に向き、外周接触部分41bの先端は軸方向でナット1の内側に向いている。
連結部41cは、基部42の板面(軸方向に垂直な面)に対して傾斜する面で両部分の境界を連結している。この連結部41cにより、溝接触部分41aから外周接触部分41bに向かう間に、リップ部41の先端の軸方向での向きが、ナット1の外側向きから内側向きに徐々に変化している。
【0013】
このシール4は、リップ部41の形状に対応させて金型を変更することで、通常のボールねじ用シール(リップ部の先端が周方向全体で同じ向きになっているシール)と同じ方法で作製することができる。
この実施形態のシール4によれば、先端が軸方向でナット1の外側に向いているリップ部41の溝接触部分41aで、ナット1の内部への異物侵入が防止され、先端が軸方向でナット1の内側に向いているリップ部41の外周接触部分41bで、ナット1の内部の潤滑剤が保持される。すなわち、簡単な構造で、ナット1の内部への異物侵入を防止する作用とナット1の内部の潤滑剤を保持する作用の両方を発揮できる。
【0014】
また、リップ部41の溝接触部分41aの先端が軸方向でナット1の内側に向き、外周接触部分41bの先端が軸方向でナット1の外側に向いているシールよりも、グリースの保持性能の点で優れている。
なお、この実施形態では、リップ部41の先端の向きが異なる両部分41a,41bの境界を、連結部41cにより、基部42の板面(軸方向に垂直な面)に対して傾斜する面で連結しているが、図6および7に示すように、基部42の板面に対して垂直な面(連結部41d)で連結してもよい。」
「【図2】
[図:0001430030000001.jpg]
【図3】
[図:0001430030000002.jpg]
【図4】
[図:0001430030000003.jpg]
【図5】
[図:0001430030000004.jpg]
また、段落[0011]の「シール4は、ねじ軸2の螺旋溝2aおよび外周面2bに接触させるリップ部41と、リップ部41の外周側に連続する基部42と、を有する。基部42はリング状の芯金43の一方の面に形成されている。リップ部41の内周縁の正面形状は、ねじ軸2の軸直角断面形状と相似である。」との記載から、シール4の形状はリング状であるといえる。そして、「リング」とは「輪。環。」(広辞苑第7版)を意味するから、シール4が、ねじ軸が貫通する穴を有することは明らかである。
したがって、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「中央部にねじ軸2が貫通する穴を有し、内周縁がねじ軸2に接触するリップ部41となっているリング状のボールねじ用シール4であって、
前記リップ部41は、
前記ねじ軸2の外周面2bに接触する外周接触部分41bと、
前記ねじ軸2の螺旋溝2aに接触するナット1の内部への異物侵入が防止される溝接触部分41aと、
を有するボールねじ用シール4。」
(2)甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0003】
しかしながら、上述した従来の技術においては、シール体のねじ軸との摺接部がねじ軸と一様に接触するように形成されているため、摺接部の接触代を大きくすると摺接部による摺動抵抗が増大し、摺動抵抗を適度にするために摺接代を少なくすると軸軌道溝の防塵性が確保できないために摺動抵抗の低減と防塵性を両立させることが困難であるという問題がある。
【0004】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ボールねじ装置のシール体による摺動抵抗を適度に維持しながら防塵性を高める手段を提供することを目的とする。」
「【0009】
2はボールねじ装置1のねじ軸であり、合金鋼や炭素鋼等の鋼材で製作され、その外周面には略半円弧形状の円弧面に成形された軸軌道溝3が一定のリードで螺旋状に形成されている。
4はボールねじ装置1のナットであり、合金鋼や炭素鋼等の鋼材で製作され、その内周面には軸軌道溝3と対向する略半円弧形状のナット軌道溝5が軸軌道溝3と同じリードで形成されている。
【0010】
6はボールであり、合金鋼等の鋼材またはセラミック材等で製作された球体であって、軸軌道溝3とナット軌道溝5の間に複数装填される。
7はシール体であり、天然ゴムや合成ゴム等の弾性材料で製作され、ナット4の移動方向の前後端部に設けられたシール装着部8に補強板9を介して止めビス10により取付けられ、接触式のシールを構成している。
【0011】
なお、図1において、シール体7は説明のために断面とはせずに実体で示してある。
上記のねじ軸2の軸軌道溝3とこれに対向するナット4のナット軌道溝5の間に複数のボール6と所定の量の潤滑剤、例えばグリースが封入される。
これにより、軸軌道溝3とナット軌道溝5とがボール6を介して螺合し、ねじ軸2を回転させることによってボール6が図示しないリターンチューブにより形成される循環路を循環しながらナット4が軸方向に移動し、移動方向の前後端部に配置されたシール体7がねじ軸2の外周面2aや軸軌道溝3に摺接してナット4とねじ軸2の間を密封し、内部からの潤滑剤の漏洩および外部からの塵芥の侵入を防止する。
【0012】
図2において、11はシール体7の外周面摺接部であり、シール体7のねじ軸2の外周面2aに摺接し、摺動抵抗を適度なものとした接触シールを構成するために適切な外周接触代(ねじ軸2の外径と外周面摺接部の内径との差の半分をいう。)が設定されている。
12はシール体7の溝摺接部であり、軸軌道溝3の軸直角方向の断面形状に沿った図2に破線で示す略半円弧状の突出部であって、外周接触代と同程度の溝部接触代を有している。
【0013】
13は溝摺接部12に形成されたシール片であり、図3に示す軸軌道溝3の溝底中心3aを中央として溝摺接部12のナット4の移動方向前方に位置する軸軌道溝3の前方円弧面3bに摺接する側に形成された略円弧状の片状部材である。
このように、本実施例の溝摺接部12は、図3に示す軸軌道溝3の溝底中心3aを中央として2つに分割され、その前方円弧面3bに摺接する側にシール片13が形成されている。
【0014】
このため、図3に2点鎖線で示すナット4をねじ軸2に螺合させたときに、シール片13は前方円弧面3bの傾斜に沿ってナット4の方向、つまり移動方向とは反対方向に曲折し、その軸軌道溝3側の全ての側面が前方円弧面3bに摺接する。
また、軸軌道溝3の前方円弧面3bと溝底中心3aを挟んだ反対側、つまりナット4の移動方向後方に位置する後方円弧面3cには、2分割された溝摺接部12のシール片13が形成されていない側の溝摺接部12の半分(片側端部12aという。)が後方円弧面3cの傾斜に沿ってナット4の反対方向、つまり移動方向に曲折し、溝摺接部12の片側端部12aが溝部接触代により後方円弧面3cに摺接する。
【0015】
なお、図2において説明のために破線で示した片側端部12aは、実体を示している。
また、図3はナット4の移動方向の前方、つまりナット4の前端部に取付けられたシール体7の溝摺接部12の摺接状態を示しているが、ナット4の移動方向の後方、つまりナット4の後端部に取付けられるシール体7は上記とは逆に前記のナット4の後端部が前端部として移動する時、つまり図3に示す後方円弧面3cを前後円弧面と、前方円弧面3bを後方円弧面として移動する時に上記と同様になるように取付けられる。
【0016】
従って、前端部のシール体7と後端部のシール体7は勝手違いに製作される。この場合にシール体7の厚さ方向の形状が前後対称である場合は、後端部にシール体7を止めビス10で取付けるときに裏返して取付ければよい。
上記の構成の作用について説明する。
本実施例のシール体7を取付けたナット4をねじ軸2にボール6を介して螺合させてナット4を移動させると、その移動方向前方、つまりナット4の移動方向の前端部に取付けられたシール体7の溝摺接部12においては、溝摺接部12の片側端部12aはナット4の移動方向に曲折して溝部接触代により後方円弧面3cを摺接しながら移動方向に移動する。
【0017】
また、シール片13はナット4の移動方向とは反対方向に曲折してその軸軌道溝3側の全ての側面を前方円弧面3bに摺接しながら移動方向に移動する。
この時、溝摺接部12の片側端部12aはナット4の移動方向に曲折しているので、外部から侵入しようとする塵芥を掬い上げるように作用して外部からの塵芥の侵入を防止すると共に溝部接触代が摺動抵抗を適度なものとするように設定されているので、摺動抵抗は適度なものに維持される。
【0018】
また、シール片13はナット4の移動方向とは反対方向に曲折しているために外部からの塵芥を掻き込むように作用するが、軸軌道溝3側の全ての側面を前方円弧面3bに摺接するようにして広い接触領域が形成されているので、外部からの塵芥の侵入を防止することができる共に、シール片13が片状部材であるので、その剛性が低く、摺動抵抗はシール片13が設けられている溝摺接部12の溝部接触代による摺動抵抗と略同等に抑制される。」
「【図2】
[図:0001430030000005.jpg]
【図3】
[図:0001430030000006.jpg]
」
また、段落[0012]及び[0013]の記載から、外周面摺接部11には、摺動抵抗を適度なものとした接触シールを構成するために適切な外周接触代を有しており、溝摺接部12には、溝部接触代を有し、また、外部接触代と溝部接触代は同じであることがわかる。
また、段落[0013]には、溝摺接部12が2つに分割され、前方円弧面3bに摺接する側にシール片13が形成されていることが記載されている。そうすると、シール片13を有する部分の接触代は溝摺接部12の溝部接触代よりも大きいといえる。
さらに、図2から外周面摺接部11に接続して溝摺接部12が設けられていることが看取される。
そして、段落[0012]、[0013]及び図2から、シール片13の接触代の大きさは、溝部接触代よりも、シール片13の略円弧の径方向の長さ分だけ大きいことがわかる。
したがって、甲2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「ボールねじ装置1に使用されるシール体7であって、
ねじ軸2の外径と外周面摺接部の内径との差の半分の外周接触代に設定された外周面摺接部11と、
前記外周面摺接部11に接続し、前記外周接触代と同程度の溝部接触代を有する溝摺接部12と、前記溝摺接部に形成された略円弧状のシール片13と、を有し、
前記シール片13の接触代の大きさは、前記溝部接触代よりも前記略円弧の径方向の長さ分だけ大きく、
前記略円弧状のシール片13の接触代の大きさは、前記溝部接触代から、前記略円弧に沿って増加する
シール体7。」
5 当審合議体の判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「ねじ軸2」は、本件発明の「ねじ軸」に相当し、以下同様に「穴」は「孔」に、「内周縁がねじ軸2に接触するリップ部41」は「前記孔の縁部が前記ねじ軸を締め付ける締め代部」に、「リング状」は「環状」に、「ボールねじ用シール4」は「ボールねじ用シール」に、「ねじ軸2の外周面2b」は「ねじ軸の外周面」に、「外周接触部分41b」は「外周面接触部」に、「ねじ軸2の螺旋溝2a」は「ねじ軸のねじ溝」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「前記ねじ軸2の螺旋溝2aに接触するナット1の内部への異物侵入が防止される溝接触部分41a」は、本件発明の明細書の段落[0008]、[0032]及び[0033]に記載されている異物侵入の防止という効果が共通するから、本件発明の「ねじ軸のねじ溝の底面に接触するねじ溝接触部」に相当する。
したがって、本件発明と甲1発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
[一致点]
「中央部にねじ軸が貫通する孔を有し、前記孔の縁部が前記ねじ軸を締め付ける締め代部となっている環状のボールねじ用シールであって、
前記締め代部は、
前記ねじ軸の外周面に接触する外周面接触部と、
前記ねじ軸のねじ溝の底面に接触するねじ溝接触部と、
を有するボールねじ用シール。」
[相違点]
本件発明1は、
「前記外周面接触部は、締め代の大きさが第1所定量に設定された締め代一定部と、前記締め代一定部の両端から延びて前記ねじ溝接触部と連続し、前記締め代の大きさが周方向に移動するにつれて変化する一対の締め代変化部と、を有し、前記ねじ溝接触部の前記締め代の大きさは、前記第1所定量よりも大きい第2所定量に設定され、前記締め代変化部の前記締め代の大きさは、前記締め代一定部から前記ねじ溝接触部に向かうにつれて前記第1所定量から前記第2所定量に増加する」のに対し、甲1発明はリップ部41について、外周接触部分41bと、溝接触部分41aの締め代の大きさが不明である点で相違する。
上記相違点について検討すると、甲2には、上記4(2)で検討した技術的事項が記載されているが、甲1発明に甲2に記載された技術的事項を適用できたとしても、依然として「外周面接触部」が「締め代変化部」を有している点、及び「前記締め代変化部の前記締め代の大きさは、前記締め代一定部から前記ねじ溝接触部に向かうにつれて前記第1所定量から前記第2所定量に増加する」点が相違点として残る。
よって、本件発明は、甲1発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。
(2)請求項2及び3に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに「一対の前記締め代変化部は、前記外周面接触部において周方向に占める割合が同じであり、前記ねじ溝接触部の周方向の中間点と、前記ねじ軸の軸心と、を通過する仮想線を基準として線対称となっている」という技術的事項を追加したものであり、請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、「筒状のナットと、前記ナットを貫通するねじ軸と、前記ナットのねじ溝と、前記ねじ軸のねじ溝と、の間に配置された複数のボールと、前記ナットの端面に装着される請求項1又は請求項2に記載のボールねじ用シールと、を備える」という技術的事項を追加したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、請求項2及び3に係る発明、引用発明1及び甲2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人矢島弘文は、「溝接触部分41aの締め代の大きさを外周接触部分41bの締め代よりも大きくするのは容易に想到できる。そして、その際、締め代が溝接触部分41aと外周接触部分41bに連続する連結部41cの締め代の大きさを外周接触部分41bから溝接触部分41aに向かうにつれて第1所定量から第2所定量に増加させることも容易に想到できる」(申立書14頁下から3行~15頁4行)と主張している。
しかしながら、締め代については甲2に記載されているものの、上記4(2)で検討した通り、甲2における締め代は、外周面摺接部11と、それに接続する外周面摺接部11において同程度且つ一定であり、溝摺接部12にシール片13を形成することで、当該シール片13の径方向長さだけ締め代が大きくなっているものであって、外周面摺接部11にシール片13を形成することは合理的ではないし、一定としている外周面摺接部11の締め代の大きさを変更すべき理由もない。、また、「締め代が溝接触部分41aと外周接触部分41bに連続する連結部41cの締め代の大きさを外周接触部分41bから溝接触部分41aに向かうにつれて第1所定量から第2所定量に増加させる」ことが技術常識である証拠もないから、かかる主張には理由がない。
以上の通り、請求項1-3に係る発明は、引用発明1及び甲2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700618