特許異議申立
2020-700508
転がり軸受
- 審判番号
- 2020-700508
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-224102
- 登録番号
- 6634785
- 請求日
- 2020年07月20日
- 審決日
- 2021年11月15日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ジェイテクト
- 【権利者代理人】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
- 【異議申立人】安藤 慶治
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 段 吉享
- 審判官 尾崎 和寛
- 分類
- P1651.121-YAA(F16C) / P1651.113-YAA(F16C) / P1651.537-YAA(F16C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号特許法120条の8特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6634785号発明「転がり軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6634785号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第6634785号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
特許第6634785号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6634785号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)11月16日の出願であって、令和元年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年 1月22日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年 7月20日 :特許異議申立人安藤慶治(以下、「申立人」 という。)による請求項1ないし3に係る特許に 対する特許異議の申立て
令和 2年 9月30日付け:取消理由通知書
令和 2年12月 3日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和 3年 1月12日 :申立人による意見書の提出
令和 3年 3月 5日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年 4月21日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和 3年 6月 9日 :申立人による意見書の提出
令和 3年 8月 4日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年10月 8日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求( 以下、この訂正請求を「本件訂正請求」とい い、この訂正請求による訂正を「本件訂正」 という。)
なお、令和 2年12月 3日になされた訂正請求及び令和 3年 4月21日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正の適否
1.本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する保持器と、を備え、前記内輪が回転輪であって前記外輪が固定輪である転がり軸受であって、
前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており、
前記外輪は、前記ハウジングの内周面にすきま嵌めの状態で組み立てられ、
前記環状溝は、径方向の静定格荷重が作用した際に当該環状溝の溝底部が前記ハウジングの内周面に接触不可能である深さを有している、転がり軸受。」
と記載されているのを、
「内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備え、前記内輪が回転輪であって前記外輪が固定輪である転がり軸受であって、
前記外輪の内周面に前記玉が転動する外輪軌道溝が設けられていて、
前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面のうち、前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する軸方向の中央部に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており、
前記外輪は、前記環状溝の軸方向両側に円筒部を有し、前記外輪は、前記円筒部の外周面から前記外輪の側面に繋がる面取りを有し、
前記環状溝は、軸受中心線を中心とする円筒面形状を有する溝底部と、当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている一対の溝側部と、を有し、前記環状溝は、前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有し、
前記玉と前記外輪軌道溝とは、前記外輪軌道溝の軸方向両側で間隔をあけて対向していて、
前記外輪は、前記ハウジングの内周面にすきま嵌めの状態で組み立てられ、
前記環状溝は、径方向の静定格荷重が作用した際に当該環状溝の溝底部が前記ハウジングの内周面に接触不可能である深さを有している、転がり軸受。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記環状溝と前記嵌め合い面との境界に、凸のアール形状を有するアール面が設けられている、請求項1に記載の転がり軸受。」と記載されているのを、「前記環状溝と前記円筒部の外周面との境界に、凸のアール形状を有するアール面が設けられている、請求項1に記載の転がり軸受。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
2.一群の請求項について
(1)訂正前の請求項1ないし3について、訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、本件訂正は一群の請求項1ないし3について請求されている。
3.本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「転動体」と記載されていたのを、「玉」として、転動体が玉であることを具体的に特定するものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており、」と記載されていたのを、「前記外輪の内周面に前記玉が転動する外輪軌道溝が設けられていて、前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面のうち、前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する軸方向の中央部に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており、前記外輪は、前記環状溝の軸方向両側に円筒部を有し、前記外輪は、前記円筒部の外周面から前記外輪の側面に繋がる面取りを有し、前記環状溝は、軸受中心線を中心とする円筒面形状を有する溝底部と、当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている一対の溝側部と、を有し、前記環状溝は、前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有し、」として、外輪の内周面に玉が転動する外輪軌道溝が設けられていること、外輪が環状溝の軸方向両側に円筒部と該円筒部の外周面から外輪の側面に繋がる面取りとを有することを特定し、外輪軌道溝との関係において環状溝の軸方向位置及び軸方向幅を特定するとともに、環状溝が溝底部と一対の溝側部とを有することを特定し、さらに、玉と外輪軌道溝との間隔を具体的に特定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項追加の有無
玉及び外輪軌道溝について、願書に添付した明細書の段落【0020】には、「外輪12の内周面には、玉13が転動する外輪軌道溝(軌道面)12aが設けられている。」と記載されている。
外輪が円筒部を有することについて、願書に添付した明細書の段落【0029】には、「外輪12は、環状溝32の軸方向両側に円筒部36,37を有している。これら円筒部36,37の外周面36a,37aは、転がり軸受7の軸受中心線C0を中心とする円筒面からなり、ハウジング2(内周面3)に沿って接触可能な面となる。」と記載されている。
外輪が面取りを有することについて、願書に添付した図面の【図2】及び【図6】から、外輪が環状溝の軸方向両側に円筒部と該円筒部の外周面から外輪の側面に繋がる面取りとを有することが看取できる。
外輪軌道溝と環状溝の軸方向位置関係について、願書に添付した明細書の段落【0022】には、「また、環状溝32は、嵌め合い面22の軸方向の中央部に形成されている。そして、外輪軌道溝12aに対する玉13の接触点の径方向外側の位置が、環状溝32の軸方向の中央と一致する。」と記載されている。
環状溝が溝底部と一対の溝側部とからなることについて、願書に添付した明細書の段落【0030】には、「環状溝32の具体的構成について説明する。図2に示す形態では、環状溝32は、溝底部33と、一対の溝側部とを有しており、一対の前記溝側部は、一対のテーパー面部34,35となっている。溝底部33は、軸受中心線C0を中心とする円筒面形状を有している。この溝底部33の軸方向両側の端部33a(33b)から、テーパー面部34(35)が、円筒部36(37)の外周面36a(37a)側に向かって延びて設けられている。そして、これら一対のテーパー面部34,35によって、嵌め合い面22側(つまり、径方向外側)に向かうにしたがって環状溝32の溝幅は広くなっている。」と記載されている。
環状溝の溝幅について、願書に添付した明細書の段落【0027】には、「図2に示す環状溝32は、外輪軌道溝12aの軸方向幅Yよりも大きな溝幅X0を有しているが、外輪軌道溝12aの軸方向幅Y以下の溝幅X0を有していてもよい。」と記載されている。
玉と外輪軌道溝との間隔について、願書に添付した図面の【図2】及び【図6】から、玉と外輪軌道溝とは外輪軌道溝の軸方向両側で間隔をあけて対向していていることが看取できる。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項2において、「前記環状溝と前記嵌め合い面との境界に、凸のアール形状を有するアール面が設けられている」と記載されていたのを、「前記環状溝と前記円筒部の外周面との境界に、凸のアール形状を有するアール面が設けられている」として、アール面が設けられている部分が環状溝と円筒部の外周面との境界であることを具体的に特定するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前の請求項2に係る発明を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項追加の有無
アール面が設けられている部分に関して、願書に添付した明細書の段落【0029】には、「外輪12は、環状溝32の軸方向両側に円筒部36,37を有している。これら円筒部36,37の外周面36a,37aは、転がり軸受7の軸受中心線C0を中心とする円筒面からなり、ハウジング2(内周面3)に沿って接触可能な面となる。」と記載されており、願書に添付した明細書の段落【0045】には、「環状溝32の溝側部であるテーパー面部34,35と、嵌め合い面22(外周面36a,37a)との境界、つまり、テーパー面部34(35)と外周面36a(37a)との交差部分39a(39b)に、凸のアール形状を有するアール面40が設けられている。」と記載されている。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項追加の有無
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
4.むすび
上記3.のとおり、訂正事項1ないし3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
そして、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前のすべての請求項1ないし3について特許異議の申立てがされているため、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
よって、訂正事項1ないし3に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下、各々「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備え、前記内輪が回転輪であって前記外輪が固定輪である転がり軸受であって、
前記外輪の内周面に前記玉が転動する外輪軌道溝が設けられていて、
前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面のうち、前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する軸方向の中央部に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており、
前記外輪は、前記環状溝の軸方向両側に円筒部を有し、前記外輪は、前記円筒部の外周面から前記外輪の側面に繋がる面取りを有し、
前記環状溝は、軸受中心線を中心とする円筒面形状を有する溝底部と、当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている一対の溝側部と、を有し、前記環状溝は、前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有し、
前記玉と前記外輪軌道溝とは、前記外輪軌道溝の軸方向両側で間隔をあけて対向していて、
前記外輪は、前記ハウジングの内周面にすきま嵌めの状態で組み立てられ、
前記環状溝は、径方向の静定格荷重が作用した際に当該環状溝の溝底部が前記ハウジングの内周面に接触不可能である深さを有している、転がり軸受。
【請求項2】
前記環状溝と前記円筒部の外周面との境界に、凸のアール形状を有するアール面が設けられている、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】(削除)」
第4 取消理由の概要
当審が令和3年 8月 4日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告:以下、単に「決定の予告」という。)の概要は、次のとおりである。
理由(進歩性)本件発明1及び2は、引用文献2に記載された発明並びに引用文献1及び5ないし11に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
1.特開2011-226582号公報
2.特開2006-322579号公報
3.特開2005-321006号公報
4.特開2015-161336号公報
5.特開2009-8213号公報
6.特開2014-196798号公報
7.特開平10-118903号公報
8.JISハンドブック4工具 R6004「研磨材,研削といし及び研磨布紙の用語及び記号」、財団法人日本規格協会、1996年4月20日、1010~1015ページ
9.特開平6-246547号公報
10.JISハンドブック7機械要素(ねじを除く) B1519「転がり軸受-静定格荷重」、一般財団法人日本規格協会、2014年1月31日、1243~1253ページ
11.特開2007-78137号公報
なお、引用文献1ないし6及び10は、特許異議申立書における甲第1ないし7号証である。また、引用文献7ないし9は、令和 3年 1月12日の申立人による意見書に添付した甲第8ないし10号証である。また、引用文献11は、令和 3年 6月 9日の申立人による意見書に添付した甲第11号証である。
第5 当審の判断
1.引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献2に記載された事項及び引用発明
引用文献2には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。以下同様。)。
ア「【0001】
本発明は、転がり軸受に係り、詳しくは、軌道輪と相手部材とのはめあい面に生じるクリープを防止しうる転がり軸受に関する。」
イ「【0002】
転がり軸受は、その内輪を軸に、外輪をハウジングに、それぞれ適切なはめあいで固定するか、もしくはピンや樹脂などの適宜の部材で回転防止をする必要があり、この回転防止が不充分であると、はめあい面で円周方向にクリープと呼ばれる、有害な滑りを生じる。このクリープが生じると、異常発熱、はめあい面の摩耗、摩耗粉の軸受内部への侵入、振動発生等、様々なトラブルを引き起こす。」
ウ「【0011】
本発明では、軌道面形成部位のはめあい面側には逃げ溝があって、この逃げ溝により、軌道面形成部位と相手部材(ハウジングもしくは軸)とが直接接触しないよう空間的に隔離されているから、固定輪の軌道面形成部位の弾性変位は、ほとんど相手部材に伝わらない。このため、固定輪とその相手部材とのはめあい面でのクリープの発生が抑制される。」
エ「【0014】
さらに、上記構成の転がり軸受において、逃げ溝の深さや幅は、該逃げ溝形成部位の径方向の変形量に対応して設定されて、より詳しくは、逃げ溝形成部位の径方向の最大弾性変形量(弾性的に変形しうる変形量の最大値)以下に設定されていることが望ましい。
【0015】
上記のように逃げ溝の深さや幅が限定されていると、高荷重により、固定輪の逃げ溝形成部位がハウジング等の相手部材の側に大きく変形すると、この変形部分が相手部材に受け止められることになり、それ以上の逃げ溝形成部位の過度の変形が抑制されるので、高荷重による逃げ溝形成部位の塑性変形や破損を未然に防止することができ、したがって、高荷重での軸受の使用が可能になる。」
オ「【0018】
図1において、符号1は、深溝玉軸受の全体を示し、この深溝玉軸受1は、外輪2と、内輪3と、玉4と、保持器5と、シール6とを備えている。本実施形態では、外輪2が固定輪であって、ハウジング7の嵌合孔の内周に嵌合されている。内輪3は、回転輪として回転駆動される軸8の外周面に嵌着されている。
【0019】
外輪2は、内周に玉4が転動する軌道面2aを有し、ハウジング7とのはめあい面である外周面には、逃げ溝9が全周にわたって形成されている。この逃げ溝9は、外輪2とハウジング7との間に生じるクリープを防止するためのもので、前記軌道面2aに径方向に対応する位置に設けられており、その幅Wbは、前記軌道面2aの幅Waより小さい値に設定されている(Wa>Wb)。
【0020】
また、逃げ溝9の深さDは、外輪軌道面2aへの玉4の圧接により変形する逃げ溝9形成部位(外輪2の幅方向各部位のうち、逃げ溝9が形成されている部位)の径方向の変形量に対応して設定されており、より具体的には、逃げ溝9形成部位の径方向の最大弾性変形量以下の深さとなっている。要するに、外輪軌道面2aへの玉4の圧接転動により逃げ溝9形成部位が径方向に変形した場合、その変形量が所定量(逃げ溝9の深さD分の量)を越えると、逃げ溝9形成部位の一部がハウジング7に接触し、受け止められるようになっている。具体的には、深溝玉軸受では、逃げ溝9の深さDは、最小0.01mm、最大1.0mmの範囲内に設定される。」
カ「【0022】
上記構成の深溝玉軸受1において、大きな回転荷重の下で内輪3が回転すると、玉4の転動に伴い、外輪2、特に、その軌道面2aの形成部位が波打つように脈動変位するが、軌道面2a形成部位の外周側には逃げ溝9があって、この逃げ溝9により、軌道面2a形成部位とハウジング7とは空間的に隔離されているから、軌道面2a形成部位の脈動変位は、ほとんどハウジング7に伝わらず、外輪2とハウジング7との間でのクリープの発生が抑制される。」
キ「【0024】
さらに、高荷重が加わると、外輪2の逃げ溝9形成部位がハウジング7側に大きく変形しようとするが、逃げ溝9の深さDが限定されているために、変形部分は逃げ溝9内を通り越してハウジング7の内周面に受け止められることになり、それ以上の逃げ溝9形成部位の変形が抑制される。これで、逃げ溝9形成部位の塑性変形や破損が防止され、高荷重での軸受の使用が可能になる。」
ク「【図1】
[図:0001381639000001.jpg]
」
ケ 摘記事項クの【図1】から、外輪2における玉4が転動する軌道面2aは、溝状であることが看取できる。
コ 摘記事項イの段落【0002】には「はめあい面で円周方向にクリープと呼ばれる、有害な滑りを生じる。」と記載されており、摘記事項オの段落【0019】には「ハウジング7とのはめあい面である外周面には、逃げ溝9が全周にわたって形成されている。この逃げ溝9は、外輪2とハウジング7との間に生じるクリープを防止するためのもので・・・」と記載されており、ハウジング7と外輪2の外周面との間の円周方向の有害な滑り(クリープ)を防止することが記載されていると認められるため、外輪2はその外周面を円筒形状の外周面とする円筒形状であると認められる。そして、摘記事項クの【図1】を考慮すると、外輪2は逃げ溝9の軸方向両側に円筒部を有すると認められる。
サ 摘記事項クの【図1】から、外輪は、円筒部の外周面から外輪の側面に繋がる面取りを有することが看取できる。
シ 摘記事項オの段落【0019】の「ハウジング7とのはめあい面である外周面には、逃げ溝9が全周にわたって形成されている。この逃げ溝9は、外輪2とハウジング7との間に生じるクリープを防止するためのもので・・・」との記載及び摘記事項クの【図1】から、外輪2の外周面の全周にわたって形成された逃げ溝9は、深さDの溝底部を有するとともに、当該溝底部の軸方向両側の端部には、外輪2の外周面のうちハウジング7とのはめあい面まで延びる一対の溝側部を有し、溝底部と一対の溝側部とが形成されていることが認められる。
上記摘記事項ア~ク及び認定事項ケ~シから、引用文献2には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。
[引用発明]
「内輪3と、外輪2と、前記内輪3と前記外輪2との間に介在している複数の玉4と、前記複数の玉4を保持する保持器5と、を備え、前記内輪3が回転輪であって前記外輪2が固定輪である深溝玉軸受1であって、
前記外輪2の内周に前記玉4が転動する溝状の軌道面2aを有し、
前記外輪2が取り付けられるハウジング7とのはめあい面のうち、前記溝状の軌道面2aの径方向に対応する位置に、クリープ防止用の逃げ溝9が全周にわたって形成されており、
前記外輪2は、前記逃げ溝9の軸方向両側に円筒部を有し、前記外輪2は、前記円筒部の外周面から前記外輪2の側面に繋がる面取りを有し、
前記逃げ溝9は、溝底部と、当該溝底部の軸方向両側の端部に外輪2のハウジング7とのはめあい面まで延びる一対の溝側部とを有し、前記逃げ溝9は、前記溝状の軌道面2aの幅Waより小さい幅Wbを有し、
前記外輪2は、前記ハウジング7の嵌合孔の内周に嵌合され、
前記逃げ溝9は、前記溝状の軌道面2aへの前記複数の玉4の圧接により変形する逃げ溝9形成部位の径方向の最大弾性変形量以下の深さDを有しており、高荷重が加わることにより、前記逃げ溝9形成部位の径方向の変形量が前記深さDを超えると、前記逃げ溝9形成部位の一部が前記ハウジング7に接触し、受け止められる、深溝玉軸受1。」
(2)引用文献11に記載された事項
引用文献11には、以下の事項が記載されている。
ア「【0044】
このように、本実施形態では、深溝玉軸受120の外輪121の外周面の外輪軌道面位置bに、ハウジング127と非接触で、頂点が湾曲形状の三角形断面の周方向溝124が形成されるので、荷重負荷によって、外輪121の外周面の形状が円周方向に波状に変形した際に、この変形が嵌めあい面に及ぼす影響を抑制することができ、部品点数を増やすことなく、外輪121とハウジング127との間のクリープの発生を防止することができる。」
イ「【0046】
更に、周方向溝124の形状を頂点が湾曲形状の三角形断面とし、しかも周方向溝124の最大深さDeを5~20μmと微小に設定しているので、矩形断面の周方向溝に比べて、軸受の剛性低下を抑制することができる。なお、周方向溝124の断面形状は、頂点が湾曲形状の三角形断面に代えて、図14(b)に示すように、円弧断面としてもよく、或いは図14(c)に示すように、短辺側両隅部が湾曲形状の台形断面としてもよい。」
ウ「【図13】
[図:0001381639000002.jpg]
」
エ「【図14】
[図:0001381639000003.jpg]
」
オ 摘記事項アから、摘記事項ウの【図13】及び摘記事項エの【図14】(a)における周方向溝124の形状のものは、クリープの発生を防止するものであると認められる。
カ 摘記事項イから、周方向溝124の変形例として、「短辺側両隅部が湾曲形状の台形断面」(【図14】(c)のもの)を採用し得ることが把握できる。
キ 一般に台形において短辺は長辺と平行なものであるから、摘記事項エの【図14】(c)における周方向溝124の台形断面の短辺は、深溝玉軸受120の軸受中心線を中心とする円筒面を形成しているものといえる。更に、該周方向溝124の台形断面の一対の脚部は、台形の短辺から長辺に向かって広がるように形成されるものであるから、摘記事項エの【図14】(c)の周方向溝124は、軸受中心線を中心とする円筒面形状を有する溝底部(台形断面の短辺)と、当該溝底部の軸方向両側の端部(短辺側両隅部)から延びるとともに、外輪121とハウジング127嵌め合い面側に向かうにしたがって前記周方向溝124の溝幅を広くするように傾いている一対の溝側部(台形断面の一対の脚部)と、を有すると認められる。
(3)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
ア「【0036】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。図1(A)は、第1の発明にかかる転がり軸受を用いた転がり軸受装置の断面図、同図(B)は、そのIB部拡大図である。転がり軸受5はラジアル型であって、内輪1、外輪2、および内外輪1,2の各軌道面1a,2a間に介在する転動体3を有する。図例の転がり軸受5は深溝玉軸受であり、転動体3はボールからなる。各転動体3は、保持器4の円周方向に並ぶポケット4a内に保持される。この転がり軸受1は、前記内輪1の内周に嵌合する軸6と組み合わされて、転がり軸受装置を構成する。なお、図2以下の各図に示すラジアル型の転がり軸受5では、保持器4の図示を省略してある。」
イ「【0050】
図8は、第2の発明にかかる転がり軸受を用いた転がり軸受装置の断面図である。転がり軸受5は、深溝玉軸受からなるラジアル型の軸受であって、外輪2の外周に嵌合するハウジング7と組み合わされて、転がり軸受装置を構成する。外輪2の外径面は、軸方向中央部に凹曲面状の環状凹部20が形成された中央凹み形状とされている。すなわち、軸方向中央部の外径が両端部21の外径よりも小さい形状とされている。両端部21はハウジング7と接触する部分である。外輪2の外径面の端部21から端面にかけては、円弧状の面取り部21aとされている。外輪1の外径面を構成する母線22は、環状凹部20を成す部分から両端部を成す部分にかけて軸受中心線Oに対する勾配が滑らかに変化する曲線である。言い換えると、母線22の環状凹部20を成す部分と、ハウジング7と接触する部分とが、互いの接続部であるC点で滑らかに繋がっている。
【0051】
この転がり軸受は、図12(A),(B)のような外輪静止・外輪静止荷重の状況下、または図13(A),(B)のような外輪回転・外輪静止荷重の状況下で用いられる。すなわち、静止荷重が作用する軌道輪が外輪2とされる。外輪2はハウジング7に対して、すきまばめ、またはとまりばめ(軽度のしまりばめを含む)にしてある。
【0052】
この転がり軸受は、外輪2の外径面を上記形状としたことにより、外輪2の外径面における軸方向両端部21がハウジング7の内径面に接触する。そのため、外輪2の外径面の軸方向中央部がハウジング7と接触する場合(図示せず)と比較して、転動体3と外輪2の接触点Cからハウジング7と外輪2の接触点Dまでの距離cが長くなる。サンブナンの原理より、上記距離cが長くなれば、転動体3と外輪2との転がり接触による、外輪2の外径面での周方向の応力分布の不均一性が緩和され、均一に近くなる。周方向の応力分布が均一に近ければ、外輪2の外径面の局所的な伸縮がきわめて少ないため、ハウジング7と外輪2との間にすきまがあっても、両者間ですべりがほとんど生じない。その結果、外輪2の外径面やハウジング7の内径面における摩耗等の損傷が防がれる。
【0053】
外輪2の外径面を構成する母線22は、環状凹部20を成す部分とハウジング7と接触する部分とが滑らかに繋がっているため、外輪2がハウジング7に対してエッジ接触することを避けられる。また、外輪2の外径面の一部に応力集中が生じることを防げる。
【0054】
図9は、第2の発明にかかる転がり軸受の異なる実施形態を示す。この転がり軸受5は、内輪1の軸方向幅寸法L1よりも、外輪2の軸方向幅寸法L2を長くしてある。外輪2の軸方向幅寸法L2を長くすれば、転動体3と外輪2の接触点Cからハウジング7と外輪2の接触点Dまでの距離cをさらに長くすることができる。それにより、外輪2の外径面での周方向の応力分布がさらに均一に近づき、外輪2の外径面の局所的な伸縮をより一層抑えられ、ハウジング7と外輪2との間のすべりを抑える効果が大きくなる。」
ウ「【図8】
[図:0001381639000004.jpg]
」
エ「【図9】
[図:0001381639000005.jpg]
」
オ 摘記事項イの段落【0050】の「外輪2の外径面は、軸方向中央部に凹曲面状の環状凹部20が形成された中央凹み形状とされている。」との記載及び摘記事項ウ、エから、【図8】及び【図9】における環状凹部20はハウジング7との嵌め合い面の側に向かうにしたがって内幅が広くなるように傾いている内面を有すると認められる。
カ 摘記事項ウ、エから、環状凹部20が外輪2の軌道面2aの軸方向幅より大きい溝幅を有することが看取できる。
2.対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
引用発明の「内輪3」は、本件発明1の「内輪」に相当する。
引用発明の「外輪2」は、本件発明1の「外輪」に相当する。
引用発明の「玉4」は、本件発明1の「玉」に相当する。
引用発明の「保持器5」は、本件発明1の「保持器」に相当する。
引用発明の「深溝玉軸受1」は、本件発明1の「転がり軸受」に相当する。
引用発明の「溝状の軌道面2a」は、本件発明1の「外輪軌道溝」に相当し、引用発明の「前記外輪2の内周に前記玉4が転動する溝状の軌道面2aを有」することは、本件発明1の「前記外輪の内周面に前記玉が転動する外輪軌道溝が設けられてい」ることに相当する。
引用発明の「ハウジング7」は、本件発明1の「ハウジング」に相当する。
引用発明の「クリープ防止用の逃げ溝9」は、「全周にわたって形成され」ているものであるから、環状に形成されているといえるため、本件発明1の「クリープ抑制用の環状溝」に相当する。
引用発明の「前記外輪2は、前記逃げ溝9の軸方向両側に円筒部を有し、前記外輪2は、前記円筒部の外周面から前記外輪2の側面に繋がる面取りを有し」ていることは、本件発明1の「前記外輪は、前記環状溝の軸方向両側に円筒部を有し、前記外輪は、前記円筒部の外周面から前記外輪の側面に繋がる面取りを有し」ていることに相当する。
引用発明の「溝底部」は、逃げ溝9が「全周にわたって形成され」ているものであるから、本件発明1の「軸受中心線を中心とする円筒面形状を有する溝底部」に相当する。
引用発明の「前記外輪2が取り付けられるハウジング7とのはめあい面のうち、前記溝状の軌道面2aの径方向に対応する位置」は、本件発明1の「前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面のうち、前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する軸方向の中央部」との対比において、「前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面のうち、前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する位置」である限りにおいて共通する。
引用発明の「当該溝底部の軸方向両側の端部に外輪2のハウジング7とのはめあい面まで延びる一対の溝側部」は、本件発明1の「当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている一対の溝側部」との関係において、「当該溝底部の軸方向両側の端部から延びている一対の溝側部」である限りにおいて共通する。
引用発明の「前記溝状の軌道面2aの幅Wa」は、本件発明1の「前記外輪軌道溝の軸方向幅」に相当する。そして、引用発明の「前記逃げ溝9」の「幅Wb」は、本件発明1の「前記環状溝」の「溝幅」に相当する。これら幅Wa及び幅Wbから、引用発明における「前記逃げ溝9は、前記溝状の軌道面2aの幅Waより小さい幅Wbを有」することは、本件発明1の「前記環状溝は、前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有」することとの対比において、「前記環状溝は、前記外輪軌道溝の軸方向幅より小さい溝幅を有」する限りにおいて共通する。
引用発明の「前記外輪2は、前記ハウジング7の嵌合孔の内周に嵌合され」ることは、本件発明1の「前記外輪は、前記ハウジングの内周面にすきま嵌めの状態で組み立てられ」ることとの対比において、「前記外輪は、前記ハウジングの内周面に組み立てられ」ている限りにおいて共通する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備え、前記内輪が回転輪であって前記外輪が固定輪である転がり軸受であって、
前記外輪の内周面に前記玉が転動する外輪軌道溝が設けられていて、
前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面のうち、前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する位置に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており、
前記外輪は、前記環状溝の軸方向両側に円筒部を有し、前記外輪は、前記円筒部の外周面から前記外輪の側面に繋がる面取りを有し、
前記環状溝は、軸受中心線を中心とする円筒面形状を有する溝底部と、当該溝底部の軸方向両側の端部から延びている一対の溝側部と、を有し、前記環状溝は、前記外輪軌道溝の軸方向幅より小さい溝幅を有し、
前記外輪は、前記ハウジングの内周面に組み立てられている、転がり軸受。」
<相違点1>
本件発明1は、環状溝が「前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する軸方向の中央部」に設けられているのに対し、
引用発明は、逃げ溝9が「前記溝状の軌道面2aに径方向に対応する位置」に設けられているが、溝状の軌道面2aにおける軸方向の中央部と特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有」する環状溝において一対の溝側部が「当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている」のに対し、
引用発明は、「前記溝状の軌道面2aの幅Waより小さい幅Wbを有」する逃げ溝9において一対の溝側部が逃げ溝9の溝幅を広くするものでない点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記玉と前記外輪軌道溝とは、前記外輪軌道溝の軸方向両側で間隔をあけて対向してい」るのに対し、
引用発明は、玉4と溝状の軌道面2aとが、そのように構成されているとは、特定されていない点。
<相違点4>
本件発明1は、外輪がハウジングの内周面に「すきま嵌めの状態」で組み立てられるのに対し、
引用発明は、外輪2のハウジング7の嵌合孔への嵌合が、すきま嵌めであるとは特定されていない点。
<相違点5>
本件発明1は、環状溝が、「径方向の静定格荷重が作用した際に当該環状溝の溝底部が前記ハウジングの内周面に接触不可能である深さを有している」のに対し、
引用発明は、逃げ溝9が、「前記溝状の軌道面2aへの前記複数の玉4の圧接により変形する逃げ溝9形成部位の径方向の最大弾性変形量以下の深さDを有しており、高荷重が加わることにより、前記逃げ溝9形成部位の径方向の変形量が前記深さDを超えると、前記逃げ溝9形成部位の一部が前記ハウジング7に接触し、受け止められる」ものであって、逃げ溝9形成部位の径方向の深さDが、最大弾性変形量との関係で定められ、静定格荷重によって定められるものではない点。
イ 判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
引用文献11には、上記第5.1.(2)の摘記事項ア~エ及び認定事項オ~キに示したとおり、軸受中心線を中心とする円筒面形状を有する溝底部(台形断面の短辺)と、当該溝底部の軸方向両側の端部(短辺側両隅部)から延びるとともに、外輪121とハウジング127嵌め合い面側に向かうにしたがって前記周方向溝124の溝幅を広くするように傾いている一対の溝側部(台形断面の一対の脚部)と、を有する周方向溝124が記載されているが、外輪軌道面121aの軸方向幅と周方向溝124の溝幅との関係が記載されていない。
また、引用文献1には、上記第5.1.(3)の摘記事項ア~エ及び認定事項オ~カに示したとおり、ハウジング7との嵌め合い面の側に向かうにしたがって内幅が広くなるように傾いている内面を有する環状凹部20が記載されており、環状凹部20が外輪2の軌道面2aの軸方向幅より大きい溝幅を有することは記載されているものの、環状凹部20が外輪2の軌道面2aの軸方向幅以下の溝幅を有することは記載されていない。また、引用文献1の各摘記事項からすれば、引用文献1に記載のものは、転動体3と外輪2の接触点Cからハウジング7と外輪2の接触点Dまでの距離を長くするというものであるから、環状凹部20の溝幅を外輪2の軌道面2aの軸方向幅以下とする構成を示唆するものでもない。
そうすると、引用文献1及び11は、「前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有」する環状溝において一対の溝側部が「当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている」という構成を開示するものではなく、引用文献1又は11に記載された技術的事項を引用発明に適用しても、相違点2に係る本件発明1の構成とすることはできない。
さらに、引用文献3ないし10は、「前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有」する環状溝において一対の溝側部が「当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている」という構成を開示するものではないし、他に「前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有」する環状溝において一対の溝側部が「当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている」という構成が本願の出願前に周知技術または技術常識であったとする証拠もないことから、引用発明を相違点3に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことということはできない。
してみると、本件発明1は、相違点1、3ないし5を検討するまでもなく、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項の全てを含むものである。
そして、上記(1)で述べたとおり、本件発明1が引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできないのであるから、本件発明2が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではないことが明らかである。
3.申立人の意見について
申立人は、令和 3年 6月 9日に意見書、甲第11号証(引用文献11)を提出した上で、当該意見書において以下のア、イように主張している。
ア 引用文献1について
引用文献1の図8、9には、ハウジング7との嵌め合い面の側に向かうにしたがって内幅が広くなるように傾いている内面を有する環状凹部20が記載されている。
引用文献1の段落【0053】には、外輪2の外径面を構成する母線22の、環状凹部20を成す部分とハウジング7と接触する部分とが滑らかに繋がっていることにより、外輪2の外径面に応力集中が生じるのを防ぐことができることが記載されており、引用文献1の図8、9の環状凹部20の内面が、ハウジング7との嵌め合い面の側に向かうにしたがって内幅が広くなるように傾いているのも、外輪2の外径面に応力集中が生じるのを防ぐためであると理解される。
引用発明と引用文献1に記載された発明は、共に、転がり軸受けの技術分野に属する発明であり、引用発明の「逃げ溝9」と引用文献1に記載された「環状凹部20」はクリープ抑制という機能の点で共通するものであり、引用発明の「逃げ溝9」に、引用文献1に記載されたハウジング7との嵌め合い面の側に向かうにしたがって内幅が広くなるように傾いている内面を有する構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである(第3ページ第1行~第4ページ第2行。)。
イ 甲第11号証(引用文献11)について
甲第11号証の図13、14(c)、段落【0014】、段落【0042】~【0046】には、外輪121の外周面のうち、軸方向において外輪軌道面121aと重なる外輪軌道面位置bに、外輪121とハウジング127との間のクリープの発生を防止するための周方向溝124を形成し、その周方向溝124の形状を台形断面とすることで、矩形断面の周方向溝に比べて、軸受の剛性低下を抑制することができる点が記載されている。
そうすると、引用発明の「逃げ溝9」においても、軸受の剛性低下を抑制するため、逃げ溝9の形状を台形断面とすることは、当業者が容易に想到し得たことである(第4ページ第3行~第14行。)。
ウ 上記申立人の主張について検討する。
(ア)引用文献1について
上記第5.2.(1)イに記載したとおり、引用文献1には、ハウジング7との嵌め合い面の側に向かうにしたがって内幅が広くなるように傾いている内面を有する環状凹部20が記載されており、環状凹部20が外輪2の軌道面2aの軸方向幅より大きい溝幅を有することは記載されているものの、環状凹部20が外輪2の軌道面2aの軸方向幅以下の溝幅を有することは記載されていない。また、引用文献1に記載のものは、転動体3と外輪2の接触点Cからハウジング7と外輪2の接触点Dまでの距離を長くするというものであるから、環状凹部20の溝幅を外輪2の軌道面2aの軸方向幅以下とする構成を示唆するものでもない。
よって、上記申立人の主張を採用することはできない。
(イ)甲第11号証(引用文献11)について
上記第5.2.(1)イに記載したとおり、甲第11号証(引用文献11)には、軸受中心線を中心とする円筒面形状を有する溝底部(台形断面の短辺)と、当該溝底部の軸方向両側の端部(短辺側両隅部)から延びるとともに、外輪121とハウジング127嵌め合い面側に向かうにしたがって前記周方向溝124の溝幅を広くするように傾いている一対の溝側部(台形断面の一対の脚部)と、を有する周方向溝124が記載されているが、外輪軌道面121aの軸方向幅と周方向溝124の溝幅との関係が記載されておらず、「前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有」する環状溝において一対の溝側部が「当該溝底部の軸方向両側の端部から延び前記嵌め合い面側に向かうにしたがって前記環状溝の溝幅を広くするように傾いている」という構成を開示するものではない。
よって、上記申立人の主張を採用することはできない。
したがって、引用文献1及び甲第11号証(引用文献11)を参酌しても、申立人の意見を採用することはできない。
4.決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号について
申立人は、特許異議申立書において、甲第3号証(引用文献3)を提示して、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と同一である旨を主張する。また、甲第4号証(引用文献4)を提示して、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1に係る発明は、甲第4号証に記載された発明と同一である旨を主張する。
しかしながら、本件訂正により、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており」と記載されているものが、「前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面のうち、前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する軸方向の中央部に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており」と訂正され、本件発明1と甲第3号証に記載された発明とでは環状溝の軸方向における位置が異なるものとなったため、本件発明1は甲第3号証に記載された発明と同一でない。
また、本件訂正により、「前記環状溝は、前記外輪軌道溝の軸方向幅以下の溝幅を有し」と特定され、本件発明1と甲第4号証に記載された発明とでは環状溝の溝幅が異なるものとなったため、本件発明1は甲第4号証に記載された発明と同一でない。
よって、上記申立人の主張を採用することはできない。
(2)特許法第36条第6項第2号について
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1の「クリープ抑制用の環状溝」との記載は、「クリープ抑制用」がいかなる構成を特定したものか不明確であり、環状溝の位置、寸法などの構成について何ら特定されていない旨を主張する。
しかしながら、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1には「前記環状溝は、径方向の静定格荷重が作用した際に当該環状溝の溝底部が前記ハウジングの内周面に接触不可能である深さを有している」との記載があるところ、本件訂正により、「前記外輪が取り付けられるハウジングとの嵌め合い面のうち、前記外輪軌道溝の径方向外側に対応する軸方向の中央部に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており」と特定され、クリープ抑制用の環状溝について、その深さ及び外輪軌道溝に対する軸方向における位置が特定されることになったため、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。
よって、上記申立人の主張を採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものであるから同法第113条第4号に該当せず、また、同法第29条第1項第3号の発明ではなく同法同条第2項の規定により特許を受けることができない発明でもないから同法第113条第2号にも該当しないので、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により、請求項3に係る特許は削除されたので、請求項3に係る特許に対して申立人がした特許異議の申立ては申立ての対象が存在しないため不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700508