特許異議申立
2023-700391
トルクヒンジ装置
- 審判番号
- 2023-700391
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-040723
- 登録番号
- 7154560
- 請求日
- 2023年04月18日
- 審決日
- 2023年06月21日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社オースズ
- 【異議申立人】加藤電機 株式会社
- 【異議申立人代理人】伊藤 捷雄
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 平城 俊雅
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1651.113-Y (F16C) / P1651.121-Y (F16C) / P1651.537-Y (F16C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7154560号発明「トルクヒンジ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7154560号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7154560号の請求項1~4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成30年3月7日に出願され、令和4年10月7日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年4月18日に特許異議申立人加藤電機株式会社(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7154560号の請求項1~4に係る特許に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
回動中心となる軸部と、前記軸部に回動不能に装着された第一の支持部と、前記軸部に対して回動可能に装着された第二の支持部と、前記軸部に回動不能に装着されたワッシャと、押さえ手段とを有するトルクヒンジ装置であり、前記第一の支持部の摺動面、前記第二の支持部の摺動面、又は前記軸部に回動不能に装着されたワッシャの摺動面の少なくともいずれか1箇所の摺動面には、溝を有することを特徴とするトルクヒンジ装置であって、互いに摺動する面において、前記溝が意図的に形成された溝であり、前記摺動面の溝の形状は、孔状、ディンプル状、線状、錐状、柱状、又はお椀状からなる群から選択される少なくとも1種であり、一の摺動面の溝の形状は、他の摺動面の溝の形状と異なる形状であることを特徴とするトルクヒンジ装置。
【請求項2】
前記溝の形状が孔状であって、前記溝が複数ある場合、前記孔状の溝は、摺動面において、前記回動の同一円周上に設けないことを特徴とする 請求項1記載のトルクヒンジ装置。
【請求項3】
前記溝の形状が線状であって、前記線状の溝の構造は、メッシュ状、格子状、網目状、直線状、曲線状、螺旋状、又は放射線状である 請求項1又は2に記載のトルクヒンジ装置。
【請求項4】
さらに、前記軸部にはスプリングワッシャを備える 請求項1~3のいずれか1項に記載のトルクヒンジ装置。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第5号証と甲第15号証に記載されており、本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲第5号証~甲第15号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、或いは特許法第29条第2項の規定に該当し、取り消されるべきでものある。
(証拠方法)
甲第1号証:本件発明の出願時の明細書、図面、特許請求の範囲
甲第2号証:本件発明の特許公報(特許第7154560号公報)
甲第3号証:拒絶理由通知書(第1回目)
甲第4号証:拒絶理由通知書(第2回目)
甲第5号証:特開2000-46039号公報
甲第6号証:特開2001-99133号公報
甲第7号証:特開2001-107941号公報
甲第8号証:特開平7-145837号公報
甲第9号証:特開2002-139018号公報
甲第10号証:特開2015-224734号公報
甲第11号証:特開平7-174171号公報
甲第12号証:特開平9-62399号公報
甲第13号証;特開2000-346047号公報
甲第14号証:実願昭61-162235号(実開昭63-68532号)のマイクロフィルム
甲第15号証:特開2013-23936号公報
(以下、甲第1号証~甲第15号証をそれぞれ「甲1」~「甲15」という。)
2 請求項1の「前記摺動面の溝の形状は、孔状、ディンプル状、線状、錐状、柱状、又はお椀状からなる群から選択される少なくとも1種であり、」との記載、及び請求項3の「メッシュ状、格子状、網目状、直線状、曲線状、螺旋状、又は放射線状である」との記載は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1、3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきでものある。
3 甲各号証の記載
(1)甲5
甲5には以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。)。
ア「【0004】図2および図3は、従来の摩擦板型トルクヒンジ機構の摩擦板を示している。摩擦面に潤滑剤を長期間にわたって供給するために、摩擦板を貫通する小孔10(図2)や切欠(図示せず)を設けることにより潤滑剤保持機構を形成したり、波形に加工したスプリングワッシャの波形部12を潤滑剤保持機構として利用する(図3)こともしばしば行われている。しかし、これらの場合でも製品寿命まで、メンテナンス・フリーにて、一定のトルクを保つことができない場合も生じた。その原因を解析したところ、長期間の使用により潤滑剤を安定に保持し、供給することができないためであることが明らかになった。このような不具合は摩擦発生部に高い面圧がかかるほど顕著に生じることから、安定的なトルク性能の保持を阻害する理由が次の点にあるのではないかということを突き止めるに至った。すなわち、これらの潤滑剤保持機構は、潤滑剤保持機構自体またはシャフト孔を通じて摩擦面の反対面に通じているため、摩擦発生部に高い面圧がかかった場合、潤滑保持剤機構から反対面に潤滑剤が押し出され、潤滑保持機構に保持される潤滑剤の量が減少し、よって、潤滑剤の安定供給ができなくなる。」
イ「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本願発明は、作動が滑らかであり、任意の角度で安定的に固定でき、潤滑剤が長期に渡って安定に保持されるトルクヒンジ機構を提供することを目的とする。」
ウ「【0031】図4は、摩擦面に非貫通凹部20を有する本発明のトルクヒンジ機構の摩擦板を示している。この凹部に潤滑剤が充填される。凹部は摩擦板を貫通していないので、高い面圧がかかる場合でも潤滑剤が反対面に押し出されてしまうことがない。本願において、「貫通」凹部とは、凹部そのものが摩擦板を貫通している場合だけでなく、凹部がシャフト孔に連結し凹部に保持された潤滑剤がシャフト孔を通じて反対面に流動しうるような構造となっている場合も含む。本発明においては、摺動時には、内部圧力差により摩擦面に潤滑剤が塗布される。静止時には、保持機構内が負圧となることから潤滑剤が潤滑剤保持機構に戻り、摩擦面から潤滑剤が消失する。開閉動作を繰り返しても潤滑剤の散逸が極めて少ないために、長期間トルクの安定性が確保できる。」
エ「【0035】以上、種々の潤滑剤保持部の形状をまとめると次のようになる。非貫通型であることにより、潤滑剤の散逸を防止することができる。非貫通型には閉鎖型と開放型があるが、閉鎖型の方がくさび効果が大きい。閉鎖型には完全閉鎖型と不完全閉鎖型があるが、不完全閉鎖型の方がくさび効果がより一層大きいことがわかる。いずれの場合でも、側壁面に傾斜を設けることで、くさび効果を高めることができる。
【0036】図10は、放射線方向に長寸を有する形状の非貫通凹部が4ヶ所に設けられた摩擦板の例を示している。このような凹部を有する摩擦板は、半径方向に均一に潤滑剤を補給することができる。凹部の数が多くなるほど潤滑剤を摩擦面全面に速く行き渡らせることができる。その一方、摩擦板表面全体の面積に占める凹部の面積の割合が大きくなればなるほどトルクの発生効率が低下する。トルク発生効率が低下すると、所定のトルクを得るために、面圧を高くする必要が生じて摩擦面磨耗が増大したり、摩擦板を小型化できなくなるという不利益を生じる。凹部の面積の割合を小さく抑えたままで潤滑剤を効率的に行き渡らせるためには、凹部の形状は放射線方向に長寸であるほうが望ましい。放射線方向と垂直方向すなわち円周方向に長寸の凹部に潤滑剤が保持されていても、潤滑性能の向上にはさほど寄与しない。このような放射状に形成されている凹部の個数は特に限定されないが、2ヶ所?32ヶ所、好ましくは4?16ヶ所であることが望ましい。摩擦板表面全体の面積に占める凹部の面積は、1?50%、好ましくは5?40%、特に好ましくは10%?35%であることが望ましい。
【0037】放射線方向に沿って長寸を有する形状の非貫通凹部は特に限定されないが、たとえばリング状摩擦板の外周側と内周側で略同一の形状、すなわち対称性を有する形状であってもよい。非貫通凹部が対称性を有することで、摩擦板上に均一な潤滑剤の分布を実現することができる。
【0038】図11は、球状の非貫通凹部が多数個設けられた摩擦板の例を示している。このような凹部を有する摩擦板は、均一にしかも極めて速く潤滑剤を摩擦面に補給することができる。」
オ「【0041】非貫通凹部は、一方の摩擦板にのみ形成してもよいし、両方の摩擦板に形成してもよい。ただし、両方の摩擦板に形成した場合には、非貫通凹部の相対的な位置関係により摺動回転中にトルクの変化を生じることもある。したがって、回転途中におけるトルク変化を厳密に一定にしたい場合には、一方の摩擦板にのみ非貫通凹部を形成することが望ましい。」
カ「【0046】図12は、本発明のトルクヒンジ機構の具体的な構成を示したものである。摩擦板70とシャフト74は一体化しており、シャフトにはもう一方の摩擦板であるベースプレート72が挿通されている。摩擦板70とベースプレート72の間には潤滑剤76が挟持されている。ワッシャ80およびスプリング78で加圧することにより、摩擦板70とベースプレート72の間の摩擦でトルクが発生する。たとえばノートブック型パーソナルコンピュータの場合、シャフト74とベースプレート72の一方がディスプレイに、他方が本体部に接続されている。図17は、本発明のトルクヒンジ機構を装着した情報携帯端末として、ノートブック型パーソナルコンピュータの例を示している。この例では、摩擦板92と一体化しているシャフト90が本体部であるキーボードに連結しており、もう一枚の摩擦板であるベースプレート94と一体化しているベース96が開閉部である液晶表示装置に連結している。」
キ「 【図12】
[図:0001399433000001.jpg]
」
以上の事項を総合すると、甲5には、以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「シャフト74と、シャフト74と一体化した摩擦板70と、シャフト74に挿通されたもう一方の摩擦板であるベースプレート72と、ワッシャ80およびスプリング78とを有するトルクヒンジ機構であり、
摩擦板の摩擦面に非貫通凹部を有し、非貫通凹部は、一方の摩擦板にのみ形成してもよいし、両方の摩擦板に形成してもよいものであり、
摩擦板は、放射線方向に長寸を有する形状の非貫通凹部が4ヶ所に設けられたものや、球状の非貫通凹部が多数個設けられたものなどがあるトルクヒンジ機構。」
(2)甲6
甲6には、各フリクションプレート4,5の各一側面には、軸挿孔4a,5aを中心にして放射状に複数の油溜部4d,4d・・・,5d,5dが設けられている点が記載されている(第4ページ第5欄第49行~第6欄第2行)。
(3)甲7
甲7には、第1,第2フリクションプレート4,5の各一側面には、軸挿孔4a,5aを中心にして放射状に複数の油溜部4d,4d・・・,5d,5dが設けられている点が記載されている(【0013】)。
(4)甲8
甲8には以下の事項が記載されている。
ア「【請求項1】 厚さ方向に貫通するスリットを設けた芯板の表面に、無機質摩擦調整材及び補強材を含む有機質コーティング層よりなる摩擦層を形成してなる摩擦材と、厚さ方向に貫通するスリットを設けた芯板よりなる相手材とを備えるフェーシング材料であって、
前記摩擦材のスリットは芯板の半径方向に形成されており、相手材のスリットは芯板の円周方向に形成されていることを特徴とするフェーシング材料。」
イ「【0002】
【従来の技術】従来、この種の摩擦材料は、一般に、摩擦性能を奏するフィラーやファイバーを含む組成物を抄造又はロール、プレス成形によりシート状にし、これを芯板となる金属板材に接着し、得られたシート状の摩擦材を打ち抜きや切り出し法で、円形又はリング形状といった所望形状のフェーシング材の形に加工して製造される。
【0003】ところで、フェーシング材は、油中で使用されるため、加圧時に油分を摩擦面から排除するために、油溝を形成する必要がある。従来、フェーシング材の油溝は芯板上のシート状摩擦素材をカットしたり、芯板そのものを凹凸状にプレスして溝加工を施している。」
ウ「【0018】 摩擦材の芯板
長さ5~20mm,幅1~4mm程度のスリットを、5~30本程度半径方向に放射状に均等配置にて形成するのが好ましい。このスリットは図1(a)に示す如く、芯板の外周縁部より内側の位置まで延在するものとし、芯板の外周縁部まで延在しないものとすることにより、芯板強度を高めることができ好ましい。
【0019】 相手材の芯板
長さ5~20mm,幅1~5mm程度のスリットを芯板の中心から25~50mm程度の範囲に4~10本程度一重ないし三重程度に均等配置にて形成するのが好ましい。」
エ「【0029】
【作用】本発明の方法によれば、油溝としてのスリットを芯板のプレス加工時に形成することができ、別途油溝形成のための加工が不要となる。このスリットの形成に際しては、従来の凹溝による油溝のように、加工時の材料の逃げによる摩擦面の非平坦化の問題が生起することもなく、また、油分の移動効率も良く、摩擦特性の向上に有効である。」
オ「【0041】
【発明の効果】以上詳述した通り、本発明のフェーシング材料及びその製造方法によれば、摩擦係数が良好で摩擦性能に優れ、また、摩擦面の剥離の問題がなく、耐摩耗性、機械的強度、耐久性に優れたフェーシング材を、容易かつ低コストにて製造することができる。」
カ「【図1】
[図:0001399433000002.jpg]
」
以上の事項を総合すると、甲8には、以下の事項(以下「甲8記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「厚さ方向に貫通するスリットを設けた芯板の表面に、無機質摩擦調整材及び補強材を含む有機質コーティング層よりなる摩擦層を形成してなる摩擦材と、厚さ方向に貫通するスリットを設けた芯板よりなる相手材とを備えるフェーシング材料であって、
前記摩擦材のスリットは芯板の半径方向に形成されており、相手材のスリットは芯板の円周方向に形成されていることを特徴とするフェーシング材料。」
(5)甲9
甲9には、以下の事項が記載されている。
「【0013】指示記号6のものは、ブレーキディスクであり、このブレーキディスク6は円盤状の例えば、PBT製のもので、とくに図8乃至図10に示したように、中心部に近い部分を形成するその中心部軸方向に略矩形状の変形孔6aを設けた円筒部6bと、この円筒部6bより外側に位置する部分の薄肉部6cとから成り、薄肉部6cの両側対向位置に180°の間隔を置いて肉厚部6d,6dが設けられ、この各肉厚部6d,6dにはさらに凹部6e,6e・6e,6eから成るクリック停止部が設けられている。尚、このクリック停止部は凸部で形成されても良い。」
(6)甲10
甲10には、以下の事項が記載されている。
「【0025】
上述したように、上方羽根板31の軸支持部231と下方羽根板31の軸支持部231との間には、カラー部材40を介在させるようにしている。従って、ドアパネル20の開閉に伴って軸支持部231が相対回転した場合にも、金属部分が直接摺動することがなく、異音の発生を防止することができるとともに、ドアパネル20を開閉する際の操作に大きな力を要しない。しかも、カラー部材40に複数の貫通孔42を設けるようにしているため、ヒンジ軸32に塗布したグリスが下方に垂れてきた場合には、これらの貫通孔42が油溜めとして機能することになり、軸支持部231の周囲への漏出を防止しつつ、カラー部材40の端面40aと軸支持部231の端面232との間に常時グリスを留めておくことができるようになる。これにより、カラー部材40の周囲にグリスが漏出して塵埃が付着するおそれもなくなり、ドアの美観を維持することができるとともに、カラー部材40が早期に摩耗する事態を防止することができ、長期にわたってドアパネル20の円滑な開閉動作を維持することが可能となる。」
(7)甲11
甲11には、以下の事項が記載されている。
「【0030】図12a,12b,図13は、環状部861の他側に摩擦面862の硬度及び面粗度を考慮し略一定厚の粗材に圧潰加工を施すことによつて断面864を形成した更なる例であり、多数の凹窪部864aが略一定厚の他側864に圧潰加工されている。この凹窪部864aは、図12aの如く略四角形で面積及び配置更には深さ等は必要に応じて設定されており、例えば摩擦面862の硬度及び面粗度分布を考慮して変えても良い。又、凹窪部864aの形状は図13の如く円でもよく、三角形(図示せず)その他を必要に応じて選定すれば良い。図13に示す凹窪部864aは円柱形状のみならず、球形状でも良い。」
(8)甲12
甲12には、以下の事項が記載されている。
「【0013】 ・・・そして、第1フリクションワッシャー11が当接する軸受プレート5bの摺動面には、とくに図5と図6に示したような、細い多数の凹凸15a,15b・・・から成るナナコメ加工15が施してあり、このナナコメ加工の部分15と第1フリクションワッシャー11との間、及びスプリングワッシャー13と第2フリクションワッシャー12との間には、図示してない潤滑剤が塗布されている。・・・」
(9)甲13
甲13には、以下の事項が記載されている。
「【0011】これにより、回転シャフト1は、所定の回転トルクを加えた時のみに回転することができ、ディスプレー体21を任意の位置で停止させることができる。装置本体取付け板3の両面には、図3に示すように、波形の油溝3bが内周部から外周部、外周部から内周部に向けて連続して形成されている。」
(10)甲14
甲14には、油溝がスパイラル状である点が記載されている(実用新案登録請求の範囲)。
(11)甲15
甲15には、以下の事項が記載されている。
ア「【0019】
トルクヒンジ14,18は、図4に例示するように、リンク板20と一体作動する制動円板58,60と、可動天板5または固定天板7つまり軸22と一体作動するワッシャ62,64とを有し、リンク板20に保持リング54,56を設置することにより、該制動円板の外周に保持リング54,56が全面的に配置される。制動円板58,60は耐磨耗性のエンジニアリングプラスチック製であるから、トルクヒンジ14を長期間使用することが可能である。図4では、リンク板20の両側に制動円板58,60を配置しているけれども、該制動円板を片側だけに配置する構成にしてもよい。軸22に通す皿バネ63は、図4では1枚であるけれども、2枚または3枚以上使用することもでき、ナット65の代わりにかしめ止めなどで全体を固着してもよい。
【0020】
トルクヒンジ14,18において、制動円板58およびワッシャ62の外径は通常等しく、直径7?8mm以上であれば製作可能である。制動円板58およびワッシャ62をリンク板20の保持リング16内に嵌装した後に、トルクヒンジ14の全体を締め付けると、制動円板58の側面とワッシャ62の側面とが摩擦面となり、リンク板20を任意の回動位置で静止できる。
イ「【0029】
横長のリンク板20は、図6に示すように、天板5,7の端縁内に対称に設けた矩形孔21内に密に配置する。リンク板20には、第1トルクヒンジ14の軸22を嵌入する貫通孔24と、第2トルクヒンジ18の軸26を嵌入する貫通孔28とを形成し、両貫通孔の水平間隔は天板表面から貫通孔中心までの垂直距離の約2倍である。リンク板20の周囲は、貫通孔24と同心の半円形の左周辺30と、直線状の上側辺32および下側辺34と、貫通孔28と同心の半円形の右周辺36とからなる。可動天板5の完全閉鎖状態において、リンク板20の左周辺30は可動天板5の内側壁38と接し、該リンク板の下側辺34は可動天板5の内底壁40および固定天板7の内底壁44と近接し、且つ該リンク板の右周辺36は固定天板7の内側壁42と接する。
【0030】
第1および第2トルクヒンジ14,18は、ともに同一の構造であるので、図4では第1トルクヒンジ14について説明する。トルクヒンジ14では、軸22(または26)の下方部を可動天板5のプレート12の貫通孔45に回転自在に嵌合し、止めリング46で脱落を防止し、さらに該軸はプレート12に対して直角に配置する。軸22には、前方部に雄ねじ山48を刻設する。軸22は、軸方向に沿って周面の両側を平行に切削した非円形軸である(図6参照)。軸22には、まずPTFE製の滑り円板50およびワッシャ52を挿通する。
【0031】
トルクヒンジ14に関して、リンク板20の両面には、それぞれ保持リング54,56を貫通孔24と同心状に配置して固着する(図6参照)。制動円板58,60は、それぞれ保持リング54,56内に嵌装し、各制動円板と接触するワッシャ62,64はリング54,56の内径よりも小さい外径を有する。ワッシャ64の上方には、さらに少なくとも1枚(通常は3枚)の皿バネ63を軸22に通し、該軸をナット65で締め付ける。滑り円板50およびワッシャ52,62,64には、軸22の非円形断面に対応する非円形貫通孔を設ける。また、制動円板58,60には、軸22と挿通可能な円形の中心孔61を設け、該中心孔はリンク板20の貫通孔24と同径である。」
ウ「【図4】
[図:0001399433000003.jpg]
」
以上の事項を総合すると、甲15には、以下の発明(以下「甲15発明」という。)が記載されていると認められる。
「軸22と、軸22を嵌入する貫通孔24を有するリンク板20と、軸22を回転自在に嵌合する貫通孔45を有するプレート12と、リンク板20と一体作動する制動円板58、60と、軸と一体作動するワッシャ62、64と、ナット65を有する第1のトルクヒンジ14。」
第4 当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
ア 対比・判断
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「シャフト74」、「摩擦板70」、「ベースプレート72」、「ワッシャ80」、「スプリング78」、「トルクヒンジ機構」は、それぞれ、本件発明1の「軸部」、「第一の支持部」、「第二の支持部」、「ワッシャ」、「押さえ部材」、「トルクヒンジ装置」に相当する。
そして、甲5発明の「摩擦板70」は、シャフト74と一体化したものであるから、シャフト74(軸部)に回転不能に装着されたものといえる。また、甲5発明の「ベースプレート72」は、シャフト74に挿通されているから、シャフト74に対して回動可能に装着されたものといえる。しかしながら、甲5発明の「ワッシャ80」が、シャフト74に回動不能に装着されたかどうかは不明である。
よって、甲5発明の「シャフト74と、シャフト74と一体化した摩擦板70と、シャフト74に挿通されたもう一方の摩擦板であるベースプレート72と、ワッシャ80およびスプリング78とを有するトルクヒンジ機構」と、本件発明1の「回動中心となる軸部と、前記軸部に回動不能に装着された第一の支持部と、前記軸部に対して回動可能に装着された第二の支持部と、前記軸部に回動不能に装着されたワッシャと、押さえ手段とを有するトルクヒンジ装置」とは、「回動中心となる軸部と、前記軸部に回動不能に装着された第一の支持部と、前記軸部に対して回動可能に装着された第二の支持部と、前記軸部に装着されたワッシャと、押さえ手段とを有するトルクヒンジ装置」という限りにおいて一致する。
また、甲5発明の「摩擦面」、「非貫通凹部」は、それぞれ、本件発明1の「摺動面」、「溝」に相当する。そして、甲5発明における「摩擦板」は、「摩擦板70」と、「もう一方の摩擦板であるベースプレート72」を意味するものであるから、甲5発明の「摩擦板の摩擦面に非貫通凹部を有し、非貫通凹部は、一方の摩擦板にのみ形成してもよいし、両方の摩擦板に形成してもよい」とは、「摩擦板70」や「ベースプレート72」の少なくともいずれか1箇所の摩擦面に非貫通凹部を設けることである。
よって、甲5発明の「摩擦板の摩擦面に非貫通凹部を有し、非貫通凹部は、一方の摩擦板にのみ形成してもよいし、両方の摩擦板に形成してもよい」点と、本件発明1の「前記第一の支持部の摺動面、前記第二の支持部の摺動面、又は前記軸部に回動不能に装着されたワッシャの摺動面の少なくともいずれか1箇所の摺動面には、溝を有する」点とは、「前記第一の支持部の摺動面、前記第二の支持部の摺動面、又は前記軸部に装着されたワッシャの摺動面の少なくともいずれか1箇所の摺動面には、溝を有する」という限りにおいて一致する。
そして、甲5発明の非貫通凹部が、意図的に形成されたものであることは明らかであり、甲5発明の「非貫通凹部」の形状である「放射線方向に長寸を有する形状」、「球状」は、それぞれ、本件発明1の「溝の形状」である「線状」、「孔状」に相当する。
よって、甲5発明の「摩擦板は、放射線方向に長寸を有する形状の非貫通凹部が4ヶ所に設けられたものや、球状の非貫通凹部が多数個設けられたものなどがある」点は、本件発明1の「前記溝が意図的に形成された溝であり、前記摺動面の溝の形状は、孔状、ディンプル状、線状、錐状、柱状、又はお椀状からなる群から選択される少なくとも1種であ」る点に相当する。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは、
「回動中心となる軸部と、前記軸部に回動不能に装着された第一の支持部と、前記軸部に対して回動可能に装着された第二の支持部と、前記軸部に装着されたワッシャと、押さえ手段とを有するトルクヒンジ装置であり、前記第一の支持部の摺動面、前記第二の支持部の摺動面、又は前記軸部に装着されたワッシャの摺動面の少なくともいずれか1箇所の摺動面には、溝を有するトルクヒンジ装置であって、前記溝が意図的に形成された溝であり、前記摺動面の溝の形状は、孔状、ディンプル状、線状、錐状、柱状、又はお椀状からなる群から選択される少なくとも1種であるトルクヒンジ装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
「ワッシャ」に関して、本件発明1は「軸部に回動不能に装着された」のに対し、甲5発明は、そのように特定されていない点。
[相違点2]
「溝」に関して、本件発明1は「互いに摺動する面において」形成された溝であり、「一の摺動面の溝の形状は、他の摺動面の溝の形状と異なる形状である」のに対し、甲5発明は、異なる溝の形状は開示されているものの、その溝が「互いに摺動する面」の「一方の摺動面」と「他の摺動面」であるかは不明である点。
上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
甲8記載の事項には、「摩擦材のスリットは芯板の半径方向に形成されており、相手材のスリットは芯板の円周方向に形成されている」点が記載されており、「摩擦材」と「相手材」は互いに摺動するものと解されるから、甲8記載の事項には、一の摺動面のスリットの形状が、他の摺動面のスリットの形状と異なる点が開示されているといえる。
しかしながら、甲8記載の事項の「スリット」と、甲5発明の「非貫通凹部20」(溝)とは技術的に異なるものである。
すなわち、甲5発明は、潤滑剤が長期に渡って安定に保持されるように摩擦面に「非貫通凹部20」(溝)を設けたものであり、凹部は摩擦板を貫通していないので潤滑剤が反対面に押し出されてしまうことがないというものであるのに対し(上記第3の3(1)イ、ウ参照)、甲8記載の事項は、フェーシング材は、油中で使用されるため、加圧時に油分を摩擦面から排除するために、油溝を形成する必要があり、その油溝としてのスリットをプレス加工時にスリットを形成したものであるから、当該「スリット」は、潤滑剤保持のためのものではない。(上記第3の3(4)イ、エ参照)。
したがって、本件発明1の摩擦材の互いに摺動する面において、一の摺動面の溝の形状を、他の摺動面の溝の形状と異なる形状とした点は、甲5発明、甲8記載の事項のいずれにも開示されていない。また、甲5発明に甲8記載の事項を適用する動機付けもないから、甲5発明を上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
さらに、甲6、7、9~15のいずれを考慮しても上記相違点2に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明ではなく、甲5発明及び甲6~15に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
次に、本件発明1と甲15発明とを対比する。
甲15発明の「軸22」、「リンク板20」、「プレート12」、「ワッシャ62、64」、「ナット65」は、それぞれ、本件発明1の「軸部」、「第一の支持部」、「第二の支持部」、「ワッシャ」、「押さえ手段」に相当する。
そして、甲15発明は、「制動円板58、60」や「ワッシャ62、64」の摩擦面に溝を有することは開示されていないから、本件発明1と甲15発明とは、少なくとも、本件発明1が、「互いに摺動する面において」、「一の摺動面の溝の形状は、他の摺動面の溝の形状と異なる形状である」のに対し、甲15発明は、そのような構成を有していない点で相違する(以下「相違点3」という)。
上記相違点3について検討すると、上記相違点2における検討と同様の理由により、甲15発明及び甲8記載の事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではなく、甲5~7、9~14のいずれを考慮しても、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲15発明ではなく、甲15発明及び甲5~14に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 小括
本件発明1は、甲5発明、又は甲15発明ではなく、甲5~甲15に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1にさらに限定を付加したものであるから、上記(1)で検討したとおり、甲5~甲15に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 特許法第36条第6項第1号について
(1)請求項1の記載について
請求項1の「前記摺動面の溝の形状は、孔状、ディンプル状、線状、錐状、柱状、又はお椀状からなる群から選択される少なくとも1種であり、」との記載について検討する。
本件特許の明細書には、次のとおり記載されている。
「【0024】
また、本願発明のトルクヒンジ装置の好ましい実施態様において、前記第一の支持部の摺動面、前記第二の支持部の摺動面、又は前記軸部に回動不能に装着されたワッシャの摺動面の溝の構造は、潤滑剤を摺動面にできるだけ多く、かつ、まんべんなく蓄えるという観点から、孔状、ディンプル状、線状、錐状、柱状、又はお椀状からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。孔状溝はグリス等を多く蓄えることができ格子状溝は摺動面にまんべんなくグリスを蓄えることができるという観点から、前記摺動面の溝の構造は、孔状、線状を好ましく使用することができる。」
したがって、請求項1の上記記載は、本件特許の明細書に記載されている。
なお、申立人は、本件特許の明細書の【0035】、【0041】の実施例に記載されていないと主張するが(特許異議申立書第10、11ページ)、上記のとおり【0024】に記載されているから、上記主張は採用できない。
よって、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(2)請求項3の記載について
請求項3の「メッシュ状、格子状、網目状、直線状、曲線状、螺旋状、又は放射線状である」との記載について検討する。
本件特許の明細書には、次のとおり記載されている。
「【0027】
また、本願発明のトルクヒンジ装置の好ましい実施態様において、前記線状の溝は、溝内の潤滑剤を摺動面内でより一層分散させて、潤滑剤を蓄えるとともに、トルクヒンジ装置の耐久性を向上させるという観点から、メッシュ状、格子状、網目状、直線状、曲線状、螺旋状、又は放射線状であることを特徴とする。」
したがって、請求項3の上記記載は、本件特許の明細書に記載されている。
なお、申立人は、本件特許の明細書の【0034】の実施例に記載されていないと主張するが(特許異議申立書第11ページ)、上記のとおり【0027】に記載されているから、上記主張は採用できない。
よって、本件特許の請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700391