特許異議申立
2022-701060
軸受片及び水中軸受
- 審判番号
- 2022-701060
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-200508
- 登録番号
- 7066813
- 請求日
- 2022年10月26日
- 審決日
- 2023年05月24日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】川崎重工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【権利者】株式会社ミカサ
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【異議申立人】端 雅彦
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 尾崎 和寛
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1651.113-Y (F16C) / P1651.121-Y (F16C) / P1651.536-Y (F16C) / P1651.537-Y (F16C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7066813号発明「軸受片及び水中軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7066813号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7066813号の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和2年12月2日に出願され、令和4年5月2日にその特許権の設定登録がされ、令和4年5月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年10月26日に特許異議申立人端雅彦(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和5年1月30日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は令和5年4月4日に意見書を提出した。
第2 本件発明
本件発明は、特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれの請求項に係る発明を、「本件発明1」~「本件発明3」という。)。
「【請求項1】
回転軸を軸支する水中軸受に設けられ、前記水中軸受の円筒状のブッシュの内周面に設けられる軸受片であって、
前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、
前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、
前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、
前記ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である、軸受片。
【請求項2】
前記中間部の硬度がA60以上A80以下であって、
前記先端部の半径方向の厚みと前記中間部の半径方向の厚みとを合計した厚みに対する前記中間部の半径方向の厚みの割合は、45%以上55%以下である、請求項1に記載の軸受片。
【請求項3】
回転軸を軸支する水中軸受であって、
円筒状のブッシュと、
前記ブッシュの内周面に周方向に並んで設けられ、前記ブッシュの軸方向に沿って延びる複数の軸受片と、を備え、
前記複数の軸受片は、
前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、
前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、
前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有し、
前記ブッシュの半径方向における前記複数の軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である、水中軸受。」
第3 取消理由の概要
当審において、請求項1~3に係る特許に対し令和5年1月30日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
1 本件の請求項1~3に係る特許は、特許請求の範囲の請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 本件の請求項1~3に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
甲第1号証:「海水潤滑船尾管軸受の高性能化 -環境と省エネに最適なフッ素系樹脂軸受」 吉川 文隆 日本マリンエンジニアリング学会誌 第46巻第1号(2011) 第32頁~第37頁
第4 甲第1号証の記載及び発明
甲第1号証には次の事項が記載されている。
1
「海水潤滑軸受には,古くはリグナムバイタが使われてきたが,近年では品質の安定しているゴム軸受が主流となっている.ゴム軸受は自己アライメント性や振動吸収性など,様々な特長を持ち,多くの実績を有するに至っている.しかし,たわみ量が大きいため高荷重下の大型船には向かない.そのため,大型船に対応できる海水潤滑軸受として開発されたフッ素系樹脂軸受は,大型フェリーや大型艦船を中心に使用され,耐摩耗性などゴム軸受を大幅に超える結果が出ている.また,摺動材に自己潤滑性を持つ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)を使用しているため,ゴム軸受と比べ摩擦係数が大幅に低く,燃費も大幅に軽減できる省エネ軸受でもある.
この度の発表では,環境と省エネの観点から見ても高性能なフッ素系樹脂軸受(以下,PTFE軸受と称す)がその主旨に適していると考え,本軸受の特長を中心に紹介する.」(第32頁左欄第17行~右欄第9行)
2
「PTFE軸受の構造は基本的に従来ゴム軸受の摺動面に自己潤滑性を有した特殊PTFEを焼付接着させた構造となっており,図1に示すように, 3種類のタイプから構成されている.同図(a)をフルモールド型,(b)をセグメント型,(c)をバレル型と称して,軸径の大きさなどを考慮して,一般にはセグメント型が大径用,バレル型が中型用,フルモールド型が小径用と使い分けられている.フルモールド型はシェル込みのモールド一体成型のため,他の2種類よりは安価であるが交換時にはシェル共交換しなければならない.セグメント型はシェルが二つ割で,内径にあり溝を加工して軸受片を挿入し,コーキングによって固定し使用される.バレル型は,シェルは円筒上のもので内径に軸受片を樽状に組み込む形状となっている.」(第32頁右欄第11~末行)
3
「PTFE軸受の摺動部材であるPTFEと,緩衝材である合成ゴムの物理的性質を表1に示す.この中で注目すべき点は, PTFEの伸びが300%,曲げ強さが16.7MPaを示している点であり,これは局部荷重に対しゴムのたわみに追従すると考えられ,自己アライメント形成を容易にする重要な要素である.」
(第33頁左欄第1~6行)
4
「図1(b)
[図:0001398284000001.jpg]
」
5
「表1
[図:0001398284000002.jpg]
」
6
「図11
[図:0001398284000003.jpg]
」
図1(b)より、次の事項が認定できる。
複数の軸受片が、円筒状の「SHELL」(シェル)の内周面に周方向に並んで設けられ、複数の軸受片は、「SHELL」(シェル)の内周面に固定される「BASE PLATE」(ベースプレート)と、「BASE PLATE」(ベースプレート)と「PTFE」(四フッ化エチレン樹脂)との間に「RUBBER」(ラバー)を位置するものである。
摘記事項2及び図11より、次の事項が認定できる
軸方向に沿って延びる軸受片が、海水潤滑船尾管軸受の円筒状シェルの内径に周方向に並んで加工された複数のあり溝に挿入されている。
また、当業者における技術常識より、表1の「Hardness(A Scale)」はタイプA硬度のことであると認められる。
上記摘記事項及び認定事項より、甲第1号証には次の2つの発明が記載されているといえる(以下、それぞれの発明を「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)。
[甲1発明1]
「海水潤滑船尾管軸受の円筒状シェルの内径に加工されたあり溝に挿入し、固定された軸受片であって、
シェルの内周面に固定されるベースプレートと、
前記ベースプレートのシェル内周面側に形成されたラバーと、
前記ラバーのシェル内周面側に焼付接着された四フッ化エチレン樹脂と、からなる構造となっており、
前記ラバーのタイプA硬度が72°である、軸受片。」
[甲1発明2]
「甲1発明1をシェルの内周面に周方向に複数並んで備えた海水潤滑船尾管軸受。」
第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)特許法第36条第6項第1号について
本件の発明の詳細な説明には、「発生する振動及び騒音を抑制することができる軸受片及び水中軸受を提供すること」を目的として(明細書の段落【0006】)、ブッシュの半径方向における軸受片のばね定数を、450kN/mm以下とすることにより、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制する一方で、前記ばね定数を200kN/mm以上とすることで、軸受片が変形しすぎることなく回転軸をしっかりと支持することができるようにしたものが記載されている。
そうすると、上記「第2」で記載した、本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載されている発明であるといえる。
特許法第36条第6項第1号に規定する要件違反について、異議申立人は、特許異議申立書において概略次の主張をする。
ア 本件の発明の詳細な説明には、本件発明1~3の「前記ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である」と数値限定した臨界的意義が根拠を伴って示されていない(第18頁第18行~第19頁第14行)。
イ 本件の発明の詳細な説明の記載からは、水中軸受に配置する軸受片の数、配置された複数の内回転軸に当接する軸受片の数、軸受片の形状や寸法などのディメンション、回転軸のディメンション、回転軸に作用する荷重等が不明であるから、「軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である」とすることで「水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制することができる」と言えるものではない(第19頁第18行~第20頁第4行)。
異議申立人の特許異議申立書における上記ア及びイの主張についての当審の判断は以下のとおりである。
アについて
特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることという、いわゆるサポート要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載において、当該記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであれば足り、特許請求の範囲の記載において発明特定事項として数値が規定されている場合、その数値の臨界的意義までは求められていない。
そして、上記のとおり、本件の発明の詳細な説明には、ブッシュの半径方向おける軸受片のばね定数を450kN/mm以下とすることにより、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制する一方で、前記ばね定数を200kN/mm以上とすることで、軸受片が変形しすぎることなく回転軸をしっかりと支持することができるようにしたことが記載されており、請求項1に記載された数値範囲であれば発明の課題を解決できることが当業者に理解できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
イについて
円筒状のブッシュの内周面に周方向に複数の軸受片を並んで設けた回転軸を軸支する水中軸受においては、回転軸の直径が大きくなれば軸受片の数を多くすることができ、回転軸の直径が小さくなれば軸受片の数を少なくすることができることから、回転軸の直径が変わっても1つの軸受片にかかる力は大きくは変わらないといえ(この点にいては、令和5年4月4日に提出された意見書第3頁第7行~第12行において特許権者も主張している。)、水中軸受に配置する軸受片の数、配置された複数の内回転軸に当接する軸受片の数、軸受片の形状や寸法などのディメンション、回転軸のディメンション、回転軸に作用する荷重等を規定しなくても、軸受片のばね定数を450kN/mm以下とすることにより、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制する一方で、前記ばね定数を200kN/mm以上とすることで、軸受片が変形しすぎることなく回転軸をしっかりと支持することができるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(2)特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
a 甲1発明1の「海水潤滑船尾管軸受」は、船舶の船尾軸(プロペラ軸)を軸支するものであるといえるから、本件発明1の「回転軸を軸支する水中軸受」に相当する。
甲1発明1の「円筒状シェル」は、本件発明1の「円筒状のブッシュ」に相当し、甲1発明1の「円筒状シェルの内径に加工されたあり溝に挿入し、固定」することは、円筒状シェルの内周面に設けることといえるから、本件発明1の「円筒状のブッシュの内周面に設け」ることに相当する。
甲1発明1の「軸受片」は、本件発明1の「軸受片」に相当する。
したがって、甲1発明1の「海水潤滑船尾管軸受の円筒状シェルの内径に加工されたあり溝に挿入し、固定された軸受片」は、本件発明1の「前記水中軸受の円筒状のブッシュの内周面に設けられる軸受片」に相当する。
b 甲1発明1の「ベースプレート」は、本件発明1の「土台部」に相当する。
甲1発明1の「ラバー」は、「前記ベースプレートのシェル内周面側に形成され」るゴムで形成されたものであり、また、「前記ラバーのシェル内周面側」には、「四フッ化エチレン樹脂」が「焼付接着され」ているから、四フッ化エチレン樹脂とベースプレートとの中間に位置している中間部といえ、本件発明1の「ゴムで形成された中間部」または「中間部」に相当する。
甲1発明1の「四フッ化エチレン樹脂」は、フッ素樹脂で、「前記ラバーのシェル内周面側に焼付接着された」ものであり、軸受片の最もシェル内周面側に形成されることにより軸に面するものといえるから、本件発明1の「先端部」に相当する。
したがって、甲1発明1の「シェルの内周面に固定されるベースプレートと、前記ベースプレートのシェル内周面側に形成されたラバーと、前記ラバーのシェル内周面側に焼付接着された四フッ化エチレン樹脂と、からなる構造となって」いることは、本件発明1の「前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有」することに相当する。
c 以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明1との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点1]
「回転軸を軸支する水中軸受に設けられ、前記水中軸受の円筒状のブッシュの内周面に設けられる軸受片であって、
前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、
前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、
前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有する
軸受片。」
[相違点1]
本件発明1では、「ブッシュの半径方向における軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下」とされているのに対し、甲1発明1では、ラバーのタイプA硬度が72°であるものの、軸受片のシェルの半径方向におけるばね定数については特定されていない点。
(イ)判断
甲1発明1において、軸受片のシェルの半径方向におけるばね定数が200kN/mm以上450kN/mm以下であることは、海水潤滑船尾管軸受の軸受片であれば当然備えているべき事項であるとはいえないから、上記相違点1は実質的な相違点であるといえる。
したがって、本件発明1は、甲1発明1であるとはいえない。
本件発明1が特許法第29条第1項第3号に該当することについて、異議申立人は、特許異議申立書において概略次の主張をする。
a 「ばね定数」が「200kN/mm以上450kN/mm以下である」点について、数値限定した臨界的意義が根拠を伴って示されていないから、上記相違点1は、技術的意義が不明な構成を限定したといえるものであり、本質的に特許発明を構成する構成要素として捉えることができず、実質的な相違点とはなり得ない(第26頁第1行~第8行)。
b 本件発明1の「前記ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である」とする構成について、本件特許明細書の記載によれば、中間部(ゴム)の硬度をA60以上A80以下とし、中間部(ゴム)の厚みを、先端部の半径方向の厚みと中間部の半径方向の厚みを合計した厚みTに対する中間部の半径方向の厚みtの割合を45%以上55%以下とすることにより、半径方向における軸受片のばね定数を200kN/mm以上450kN/mm以下とすることができるということを読み取ることができ、「中間部の硬度及び厚みの設定」と「軸立片のばね定数」が関連付けられている。
一方で、甲第1号証には、「中間部(RUBBER) の硬度がA72であり、先端部(PTFE) の半径方向の厚みと中間部(RUBBER) の半径方向の厚みとを合計した厚みに対する中間部(RUBBER)半径方向の厚みの割合は、略50%である」なる構成が開示されており、本件発明1と甲1発明1は、ともに、先端部は同じフッ素樹脂で形成され、中間部は同じゴムで形成されているので、甲第1号証の「中間部(RUBBER) の硬度がA72であり、先端部(PTFE) の半径方向の厚みと中間部(RUBBER) の半径方向の厚みとを合計した厚みに対する中間部(RUBBER) の半径方向の厚みの割合は、略50%である」によって、実質的に本件発明1の「前記プッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である」ことが達成されることが実質的に記載されている。
してみると、上記相違点は、甲第1号証に記載された「軸受片」に内在しているとみることができるので、実質的な相違点とはならない(第26頁第9行~第27頁第12行)。
異議申立人の特許異議申立書における上記a及びbの主張についての当審の判断は以下のとおりである。
aについて
本件の発明の詳細な説明には、ブッシュの半径方向おける軸受片のばね定数について、従来の750kN/mmでは、振動及び騒音抑制に関し課題があったところ、ばね定数を、450kN/mm以下とすることにより、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制する一方で、前記ばね定数を200kN/mm以上とすることで、軸受片が変形しすぎることなく回転軸をしっかりと支持することができるようにしたと、その数値の技術的根拠及び作用効果が記載されているといえる。してみると、本件発明1の「前記ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kNmm以上450kN/mm以下である」とする発明特定事項は、その技術的意義が明確であり、しかも、当該発明特定事項により水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制する一方で、軸受片が変形しすぎることなく回転軸をしっかりと支持することができるという作用効果を奏するものであるから、上記相違点は実質的な相違点であるといえる。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
bについて
甲第1号証の図1bにおける寸法関係がどこまで正確に記載されているものであるか、甲第1号証の図1b以外の記載を参酌しても明確であるとはいえないから、甲第1号証の軸受片の先端部(四フッ化エチレン樹脂)の半径方向の厚みと中間部(ラバー)の半径方向の厚みとを合計した厚みに対する中間部(ラバー)の半径方向の厚みの割合について、甲第1号証の記載から必ずしも明確に導き出されるものではない。
仮に、甲第1号証に、「先端部(四フッ化エチレン樹脂)の半径方向の厚みと中間部(ラバー) の半径方向の厚みとを合計した厚みに対する中間部(ラバー)の半径方向の厚みの割合は、略50%である」ことが記載されているといえるとして以下検討する。
ばね定数をK、ばねを構成する物質のヤング率をE、荷重を受ける断面積(受圧面積)をA、ばねの長さをLとした場合、ばね定数Kは、K=E*A/Lで定義される(特許異議申立書第20頁第23行~第25行を参照。)。この点については、特許権者も「ばね定数は、中間部の硬度と厚みだけでなく、例えば水中軸受の半径方向に対して垂直な方向における中間部の断面積等にも依存します。」(令和5年4月4日に提出された特許権者の意見書第4頁第4行~第6行を参照。)と主張している。
したがって、甲第1号証の軸受片において、ばね定数は中間部(ラバー)の硬度と厚みからのみ算出されるものではなく、中間部(ラバー)における荷重を受ける受圧面積にも依存するものであるといえる。
そうだとすれば、甲第1号証に、「中間部(ラバー)のタイプA硬度が72°である」ことが記載されているとして、タイプA硬度とヤング率が換算可能であり、ヤング率よりばね定数が算出可能であるとしても、直ちに、甲1発明1の軸受片のシェルの半径方向におけるばね定数が、本件発明1のばね定数の「200kN/mm以上450kN/mm以下」であることを満足するものとなっているとまでいうことはできない。
また、甲第1号証には、海水潤滑船尾管軸受の高性能化に関し、軸受片のばね定数を考慮すべきであるとの記載もないし、示唆もされていないから、甲第1号証に記載されている中間部(ラバー)のタイプA硬度から軸受片のばね定数を規定するという技術思想は記載されていない。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに限定したものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲1発明1であるとはいえない。
ウ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲1発明2とを対比する。
上記ア(ア)aでの対比、並びに、甲第1号証の図1b及び図11(回転軸の軸方向に沿った軸受片が周方向に複数並んで円筒状シェルの内周面に設けられている)を踏まえると、甲1発明2の「海水潤滑船尾管軸受の円筒状シェルの内径に加工されたあり溝に挿入し、固定された軸受片」は、本件発明3の「前記ブッシュの内周面に並んで設けられ、前記ブッシュの軸方向に沿って延びる複数の軸受片」に相当する。
さらに、上記ア(ア)bでの対比を踏まえると、本件発明3と甲1発明2との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点2]
「回転軸を軸支する水中軸受であって、
円筒状のブッシュと、
前記ブッシュの内周面に周方向に並んで設けられ、前記ブッシュの軸方向に沿って延びる複数の軸受片と、を備え、
前記複数の軸受片は、
前記ブッシュの内周面に固定される土台部と、
前記回転軸に面し、フッ素樹脂で形成された先端部と、
前記土台部と前記先端部との間に位置し、ゴムで形成された中間部と、を有する
軸受片。」
[相違点2]
本件発明3では、「ブッシュの半径方向における軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下」とされているのに対し、甲1発明2では、ラバーのタイプA硬度72°であるものの、軸受片のシェルの半径方向におけるばね定数については特定されていない点。
(イ)判断
相違点2は、相違点1と実質的に同じである。
したがって、上記ア(イ)と同様の理由により、本件発明3は甲1発明2であるとはいえない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第2号について
異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明1~3の構成要件の「前記プッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である」という点について、本件特許明細書には、「ばね定数」がどのように定義されるものであり、「軸受片のばね定数」がどのような測定装置を用いて、どのようにして求めることができるのかが全く開示されておらず、本件発明1の構成要件の「前記ブッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である」という数値の技術的意義を明確に特定することができないから、特許を受けようとする発明が不明確である旨主張している(第20頁第6行~第21頁第28行)。
しかしながら、上記1(2)ア(イ)で記載した式で定義されているように、ばね定数を算出する際の断面積Aは、荷重が作用する断面積であり、軸受片においては、軸受片全体の断面積であることは明らかである。そして、実際のばね定数は、ばねに負荷を加えた時の荷重をばねの変位量で割るなどして算出するものであり、水中軸受に使用される軸受片であれば、使用条件などに基づいて想定される軸受片にかかる平均面圧から軸受片にかかる荷重を算出でき、また、その荷重を軸受片にかけた場合の軸受片の変位量も当業者における技術的知見を以てすれば測定可能であり、その結果、軸受片のばね定数が算出できることは当業者には明かであるといえる。
したがって、本件発明1~3の構成要件の「前記プッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である」という構成は明確であり、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすといえる。
なお、異議申立人は、本件発明1~3の「ばね定数」が静的ばね定数を指すのか動的ばね定数を指すのか不明である旨も主張しているが、ばね定数の表記にあたり振動条件などが示されていない場合は静的ばね定数であることが一般的であり、そして、本件の明細書において、ばね定数の設定にあたっての振動条件などの記載が一切無いことからすれば、本件発明1の「ばね定数」は静的ばね定数のことと解するのが自然である。
(2)特許法第36条第4項第1号について
異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明1の構成要件の「前記プッシュの半径方向における当該軸受片のばね定数は、200kN/mm以上450kN/mm以下である」という点について、本件特許明細書には、「軸受片のばね定数」をどのように測定し、どのように算出するのかが明らかにしておらず、これにより、「軸受片」を具体的にどのように構成すればよいのかが明らかでないので、本件発明1~3を実施することはできないから、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨主張している(第22頁第2行~第25行)。
しかしながら、上記1(2)ア(イ)及び上記(1)で述べたように、ばね定数の定義、軸受片におけるばね定数の算出方法は当業者には明らかであるから、当業者が本件発明1~3の軸受片を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすといえる。
(3)特許法第29条第2項について
本件発明1及び2と甲1発明1との間には、少なくとも上記1(2)ア(ア)の相違点1が存在し、本件発明3と甲1発明2との間には、上記1(2)ウ(ア)の相違点2が存在し、そして、相違点1と相違点2は実質的に同じである。
相違点1及び2について検討する。
甲第1号証には、軸受片のシェルの半径方向におけるばね定数について200kN/mm以上450kN/mm以下とする点については、何ら記載されていなし、示唆もされていない。
また、甲第1号証には、海水潤滑船尾管軸受の高性能化に関し、軸受片の断面積等に依存するバネ定数について考慮すべきであるとの記載もないし示唆もされていないから、甲第1号証に記載されている中間部(ラバー)のタイプA硬度から軸受片のばね定数を規定するという技術思想は記載されているとはいえず、甲第1号証に記載されている中間部(ラバー)のタイプA硬度から軸受片のばね定数を所定の範囲に規定することは、当業者であっても容易には想到し得ない。
したがって、甲1発明1において、相違点1に係る本件発明1ないし2の構成となすこと、また、甲1発明2において、相違点2に係る本件発明3の構成となすことは当業者であっても容易に想到しうるものではない。
本件発明1~3が特許法第29条第2項に該当することについて、異議申立人は、特許異議申立書において概略次の主張をする。
本件発明1~3のばね定数の数値範囲に技術的意義は無いことから、甲第1号証の軸受片が有するばね定数を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮といえる(第28頁第6行~第30頁第21行)。
異議申立人の特許異議申立書における上記の主張についての当審の判断は以下のとおりである。
甲第1号証には、海水潤滑船尾管軸受の円筒状シェルの内径に加工されたあり溝に挿入し固定された軸受片のRUBBERのばね定数を、海水潤滑船尾管軸受に発生する振動及び騒音を抑制する目的で最適化するとの技術的思想は記載も示唆もされていない。
してみると、本件発明1~3において、「ブッシュの半径方向おける軸受片のばね定数を、200kN/mm以上450kN/mm以下とする」ことによって、そのばね定数の範囲において、水中軸受に発生する振動及び騒音を抑制することができ、且つ、軸受片が変形しすぎることなく回転軸をしっかりと指示することができる(明細書の段落【0008】【0023】【0025】参照。)という、甲第1号証に記載の発明と比較して当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されることとなるといえる。
したがって、甲1発明1において、相違点1に係る本件発明1ないし2の構成となすこと、また、甲1発明2において、相違点2に係る本件発明3の構成となすことは当業者であっても容易に想到しうるものではなく、異議申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1~3に係る特許は、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-701060