特許異議申立
2024-700275
遊技機
- 審判番号
- 2024-700275
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-171719
- 登録番号
- 7409812
- 請求日
- 2024年03月26日
- 審決日
- 2024年10月22日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社三共
- 【異議申立人】日本電動式遊技機特許 株式会社
- 【異議申立人代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 渋谷 知子
- 審判官 長井 真一
- 審判官 三橋 健二
- 分類
- P1651.14 -Y (A63F) / P1651.536-Y (A63F) / P1651.537-Y (A63F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第2条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7409812号発明「遊技機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7409812号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7409812号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和元年9月20日に出願した特願2019-171719号であって、令和5年12月25日にその特許権の設定登録がされ、令和6年1月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和6年3月26日に特許異議申立人日本電動式遊技機特許株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、A~Hの符号は、申立人が分説するために付した。以下、分説された本件特許発明の発明特定事項を、符号に基づき「構成A」等という。)。
「【請求項1】
A 遊技者にとって有利な有利状態に制御可能な遊技機であって、
B 遊技者にとって有利度が異なる複数の設定値を設定可能な設定手段と、
C 演出を実行可能な演出実行手段と、を備え、
D 前記演出実行手段は、
D-1 前記有利状態に制御されることを示唆する複数種類の予告演出を実行可能であり、
D-2 前記予告演出の実行前に、複数種類のうちいずれかの特別表示を表示する事前演出を実行可能であり、
D-3 前記特別表示が表示された後に、複数種類のうち前記特別表示の種類に対応する種類の関連演出を実行可能であり、
D-4 前記有利状態に制御されることを報知する第1報知演出を実行可能であり、
D-5 前記有利状態に制御されないことを報知する第2報知演出を実行可能であり、
D-6 前記第2報知演出の終了後に特定表示を実行可能であり、
D-7 いずれの種類の前記関連演出が実行されても共通の前記第1報知演出を実行可能であり、
D-8 前記設定手段により設定される設定値に応じて前記特定表示を実行可能であり、
E いずれの種類の前記関連演出が実行されるかに応じて、いずれの種類の前記予告演出が実行されるかの割合が異なり、
F 前記事前演出の演出態様は、複数あり、
G 前記事前演出の演出態様によって前記特別表示の種類が特定の種類となる割合が異なる、
H ことを特徴とする遊技機。」
2 特許異議申立ての理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件特許に対し、以下の理由を申し立てている。
(1)理由1(特許法29条1項柱書〔発明該当性違反〕)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される技術的事項は、自然法則を利用した技術的思想に該当しない。
よって、本件特許は、同法113条2号の規定に該当し、同法114条2項の規定により取り消されるべきものである。
(2)理由2(特許法36条4項1号〔実施可能要件違反〕)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
よって、本件特許は、同法113条4号の規定に該当し、同法114条2項の規定により取り消されるべきものである。
(3)理由3(特許法36条6項1号〔サポート要件違反〕)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件特許は、同法113条4号の規定に該当し、同法114条2項の規定により取り消されるべきものである。
(4)理由4(特許法36条6項2号〔明確性要件違反〕)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、特許を受けようとする発明が明確でない。
よって、本件特許は、同法113条4号の規定に該当し、同法114条2項の規定により取り消されるべきものである。
第3 当審の判断
1 理由1(特許法29条1項柱書〔発明該当性違反〕)について
(1)申立人の主張の概要
ア 本件特許の特許請求の範囲の請求項1における構成D~Gは、「演出実行手段」の機能を特定しているものの、その特定は、コンピュータソフトウエア関連の発明該当性の判断基準である、「ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されること」との確立した手法に照らせば、請求項1は、その要件を満たしていない。
イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1における構成D~Gは、人間の精神活動に基づくものであるか、人間の精神活動を前提とした人為的取決めに基づくものであり、その効果も人間の精神活動の如何によって左右されてしまうものであるから、自然法則に基づくものではない。
(2)判断
ア 特許法29条1項柱書にいう「発明」の該当性について
特許法29条1項柱書は、「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と定め、その前提となる「発明」については同法2条1項が「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定めている。
そうすると、本件特許発明が、(ア)産業上利用できる発明ではない場合、(イ)自然法則を利用した発明でない場合、(ウ)技術的思想の創作となる発明でない場合、(エ)技術的思想の創作のうち高度なものでない場合、のいずれかに該当するときは、特許法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないことになるところ、上記(1)の主張によれば、申立人は、前記(イ)又は(ウ)の場合に該当することを理由に、本件特許発明は、同法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないという旨申し立てているから、以下、この点について検討する。
請求項に記載された特許を受けようとする発明が、特許法2条1項に規定する「発明」といえるか否かは、それが、特許請求の範囲の記載や願書に添付した明細書の記載及び図面に開示された、「特許を受けようとする発明」が前提とする技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するか否かによって判断すべきものである(知財高裁令和2年6月18日判決、令和元年(行ケ)第10110号参照)。
そして、本件特許発明が、遊技者にとって有利な有利状態に制御可能であって、前記有利状態に制御されることを示唆する複数種類の予告演出を実行可能な演出実行手段を備える遊技機に関するものであることからみて、そこにおいて生じる一定の技術的課題を解決しようとしたものであり、それが全体として一定の技術的意義を有するのであれば、同発明は自然法則を利用した発明であり、かつ技術的思想の創作となる発明であると解することができる(知財高裁平成21年6月16日判決、平成20年(行ケ)第10279号参照)。
そこで、以下において、本件特許発明の技術的課題及び技術的意義の観点から、本件特許発明の発明該当性について検討する。
イ 本件特許発明の技術的意義について
(ア)本件特許発明が解決しようとする技術的課題
本件特許発明が解決しようとする技術的課題は、本件特許明細書の【0002】~【0006】の記載によれば、遊技領域に発射された遊技球が所定の入賞口に入賞すると、識別情報を可変表示し、大当りを示す表示結果が導出表示された場合に、大当り遊技を発生させるパチンコ遊技機においては、可変表示中に種々の演出が行われ、例えば、タイマの表示時間が「0」になると「チャンス」等の画像を表示させる予告演出が知られているところ、従来技術では、予告演出の興趣が不十分であったことから、予告演出の興趣を向上させることができる遊技機を提供することであると認められる。
(イ)本件特許発明の技術的意義
上記(ア)の技術的課題を解決するために本件特許発明が採用する構成について検討する。
本件特許発明の「遊技機」が備える「演出実行手段」(構成D)が実行可能な「複数種類の予告演出」は、遊技者にとって有利な有利状態に制御されることを示唆する(構成D-1)ものであるところ、前記予告演出の実行前に、複数種類のうちいずれかの「特別表示を表示する事前演出」を実行可能であり(構成D-2)、複数ある前記事前演出の演出態様によって前記特別表示の種類が特定の種類となる割合が異なっており(構成F、G)、前記特別表示が表示された後に、複数種類のうち「前記特別表示の種類に対応する種類の関連演出」を実行可能であり(構成D-3)、いずれの種類の前記関連演出が実行されるかに応じて、いずれの種類の前記予告演出が実行されるかの割合が異なる(構成E)ものである。
そうすると、「予告演出」に至るまでの演出を時系列に沿ってみると、まず「事前演出」が実行可能であり、そこで表示される「特別表示」が特定の種類となる割合は事前演出の演出態様によって異なっており、次に「関連演出」が実行可能であり、当該関連演出は前記特別表示の種類に対応するものであり、続いて「予告演出」が実行可能であり、いずれの種類の予告演出が実行されるかの割合は前記関連演出の種類に応じて異なるものであるから、「事前演出の演出態様」→「特別表示の種類」→「関連演出の種類」→「予告演出の種類」からなる演出は、確率割合を介して関連する一連の演出といえる。
この点、本件特許明細書の【0008】にも、予告演出を行う際に、事前演出の開始→事前演出中に特定表示→関連演出→予告演出、といった一連の関係性のある演出とすることができることで、予告演出が行われる前に遊技者の期待感を高めさせることができるため、予告演出の興趣を一層向上させることができることが記載されている。
以上を踏まえれば、本件特許発明は、遊技者にとって有利な有利状態に制御可能であって、前記有利状態に制御されることを示唆する複数種類の予告演出を実行可能な演出実行手段を備える遊技機において、そこにおいて生じる一定の技術的課題、すなわち予告演出の興趣を向上させることができる遊技機を提供するという課題を、「事前演出の演出態様」→「特別表示の種類」→「関連演出の種類」→「予告演出の種類」からなる、確率割合を介して関連する一連の演出を実行可能とすることで、予告演出が行われる前に遊技者の期待感を高め、予告演出の興趣を一層向上させることができる遊技機を提供するという技術的意義を有するものといえる。
したがって、本件特許発明は特許法2条1項でいう「発明」に該当するので、本件特許は同法29条1項柱書に違反してなされたものとはいえない。
ウ 申立人の主張に対して
申立人は、(ア)本件特許発明は、特許請求の範囲における「演出実行手段」の機能の特定が「ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築され」ている、というコンピュータソフトウエア関連の発明該当性の基準を満たしてない、(イ)本件特許発明は、人間の精神活動に基づくものであるか、人間の精神活動を前提とした人為的取決めに基づくものであり、その効果も人間の精神活動の如何によって左右されてしまうものであるから、自然法則に基づくものではないから、「自然法則を利用した創作」に該当しない、という旨主張する。
しかし、前記(ア)について、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載があるとおり、遊技機は、演出制御基板に演出制御用CPU、ROM、RAM、表示制御部、乱数回路、及び、I/Oを搭載し、演出制御用CPUは、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより、表示制御部とともに演出を実行するための処理を行い、このとき、ROMが記憶する各種データ(各種テーブルなどのデータ)を用い、RAMをメインメモリとして使用する(【0079】、【0080】)ものであることは、本件特許の出願当時の技術常識であり、請求項1に構成D~Gとして特定される遊技機の「演出実行手段」の機能は、演出制御基板の演出制御用CPUによって実現され、具体的な演出内容は、「大当り」とするか否かの事前決定結果等に基づき乱数値を用いて決定された変動パターンにより、飾り図柄の可変表示の態様(リーチの有無等)、飾り図柄の可変表示中の演出内容(リーチ演出の種類等)が指定されることで定まり(【0110】、【0111】)、飾り図柄の可変表示は、変動パターンに基づいてリーチ演出や各種予告演出などの実行の有無やその態様や実行開始タイミングなどが決定され、その決定結果等を反映した演出制御パターン(表示制御部に演出の実行を指示するための制御データの集まり)に基づいて、飾り図柄の可変表示の実行開始を表示制御部に指示し、表示制御部が画像表示装置において、飾り図柄の可変表示を開始させる(【0130】)といったことも、本件特許の出願当時の技術常識であるから、当業者は、特許請求の範囲に記載の「遊技機」が備える「演出実行手段」の機能の特定から、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置が構築されていることを理解することができる。
また、上記(イ)について、パチンコ遊技機における演出の効果が人間の精神活動の如何によって左右される部分があるとしても、本件特許発明において、「事前演出の演出態様」→「特別表示の種類」→「関連演出の種類」→「予告演出の種類」からなる一連の演出を実行可能とすることで、予告演出しかない場合に比べて遊技者の期待感を煽る演出の時間を長くすることができ、事前演出を含めた予告演出に関わる演出が多様になるという技術的効果を奏する。
したがって、申立人の主張には理由がない。
(3)小括
以上により、本件特許発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しないということができない。
よって、本件特許は、同法113条2号の規定に該当するものではなく、同法114条2項の規定により取り消されるべきものではない。
2 理由2(特許法36条4項1号〔実施可能要件違反〕)について
(1)申立人の主張の概要
本件特許の特許請求の範囲の請求項1における構成D~Gは、「演出実行手段」の機能を示すものの、その特定は、「ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されることをいう」としているコンピュータソフトウエア関連の実施可能要件を判断する確立した手法に照らせば、その要件を満たしていない。
(2)判断
ア 判断基準
特許法36条4項1号に規定する実施可能要件については、明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、特許請求の範囲に記載された発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討すべきである。
イ 検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明に、遊技機は、演出制御基板に演出制御用CPU、ROM、RAM、表示制御部、乱数回路、I/Oを搭載し、演出制御用CPUは、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより、表示制御部とともに演出を実行するための処理を行い、このとき、ROMが記憶する各種データ(各種テーブルなどのデータ)を用い、RAMをメインメモリとして使用するものであることが記載されているように(【0079】、【0080】)、請求項1に構成D~Gとして特定される「演出実行手段」の機能は、演出制御基板の演出制御用CPUによって実現されるものであり、具体的な演出内容は、「大当り」とするか否かの事前決定結果等に基づき乱数値を用いて決定された変動パターンにより、飾り図柄の可変表示の態様(リーチの有無等)、飾り図柄の可変表示中の演出内容(リーチ演出の種類等)が指定され(【0110】、【0111】)、飾り図柄の可変表示は、変動パターンに基づいてリーチ演出や各種予告演出などの実行の有無やその態様や実行開始タイミングなどが決定され、その決定結果等を反映した演出制御パターン(表示制御部に演出の実行を指示するための制御データの集まり)に基づいて、飾り図柄の可変表示の実行開始を表示制御部に指示し、表示制御部が画像表示装置において、飾り図柄の可変表示を開始させる(【0130】)ことが記載されており、また、かかる事項は、本件特許の出願当時の遊技機の分野における技術常識である。
以上を踏まえれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、構成D~Gで特定される機能を有する「演出実行手段」を備える本件特許発明の遊技機を製造し、使用することができる程度に、明確かつ十分に記載されているものと認められる。
よって、本件特許発明について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしている。
(3)小括
以上により、本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないということはできない。
よって、本件特許は、同法113条4号の規定に該当するものではなく、同法114条2項の規定により取り消されるべきものではない。
3 理由3(特許法36条6項1号〔サポート要件違反〕)について
(1)申立人の主張の概要
ア 本件特許の特許請求の範囲の請求項1は、「演出実行手段」について特定の機能が実行可能であることを特定しているが、それは「演出実行手段」が特定の機能を実行しない場合を含意しており、どのような場合に特定の機能を実行し、どのような場合に当該機能を実行しないかが明らかである必要がある。
本件特許の発明の詳細な説明の以下の記載、
「【0005】
しかしながら、従来技術では、予告演出の興趣が不十分であった。
【0006】
この発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、予告演出の興趣を向上させることができる遊技機を提供することを目的とする。
【0008】
このような構成によれば、予告演出までに一連の関係性のある演出を行うことができる。具体的には、予告演出を行う際に、事前演出の開始→事前演出中に特定表示→関連演出→予告演出、といった一連の関係性のある演出とすることができる。これにより、予告演出が行われる前に遊技者の期待感を高めさせることができるため、予告演出の興趣を一層向上させることができる。」
との記載から把握される発明の解決すべき課題及びその効果からすると、前記一連の関係性のある演出ができるようになる解決手段を提示する必要があるが、請求項1には、「演出実行手段」が特定の機能を実行可能であることが記載されているだけで、実行する場合としない場合のそれぞれの条件は不明であり、また、各機能が実行されない場合も含むにもかかわらず、なぜ、前記一連の関係性のある演出ができるようになるのか、当業者であっても見当をつけることができず、理解が困難である。
したがって、特許請求の範囲の請求項1は、明細書に記載された前記一連の関係性のある演出ができるものだけでなく、その他の発明を含み得る記載であって、発明の詳細な説明に記載された発明の概念を超えるものであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないものである。
イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「事前演出」及び「関連演出」について、
「D-2)前記予告演出の実行前に、複数種類のうちいずれかの特別表示を表示する事前演出を実行可能であり、
D-3)前記特別表示が表示された後に、複数種類のうち前記特別表示の種類に対応する種類の関連演出を実行可能であり、」
「D-7)いずれの種類の前記関連演出が実行されても共通の前記第1報知演出を実行可能であり、」
「E)いずれの種類の前記関連演出が実行されるかに応じて、いずれの種類の前記予告演出が実行されるかの割合が異なり、
F)前記事前演出の演出態様は、複数あり、
G)前記事前演出の演出態様によって前記特別表示の種類が特定の種類となる割合が異なる、」
との記載があるが、「事前演出」及び「関連演出」が実行可能であるということは、「事前演出」及び「関連演出」が当該演出を実行しない場合を含意しており、どのような場合に当該演出を実行し、どのような場合に実行しないのかが明らかである必要がある。
しかし、本件特許の発明の詳細な説明には、「事前演出」及び「関連演出」が実行されない場合の例は一切記載されていない。
本件特許の発明の詳細な説明には、「事前演出」及び「関連演出」について、それらが実行されない場合の例が示されていないのに対して、特許請求の範囲は、そのような例が含まれるものであって、発明の詳細な説明に記載された発明の概念を超えるものであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないものである。
(2)判断
ア 判断基準
特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 検討
本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、遊技領域に発射された遊技球が所定の入賞口に入賞すると、識別情報を可変表示し、大当りを示す表示結果が導出表示された場合に、大当り遊技を発生させるパチンコ遊技機では、可変表示中に種々の演出が行われ、例えば、タイマの表示時間が「0」になると「チャンス」等の画像を表示させる予告演出が知られているところ、従来技術では、予告演出の興趣が不十分であったことから、予告演出の興趣を向上させることができる遊技機を提供することであると認められる(【0002】~【0006】)。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0007】には、本件特許発明が採用しているのと同じ構成が当該発明の課題を解決できるものとして記載された上で、同【0008】には、予告演出を行う際に、事前演出の開始→事前演出中に特定表示→関連演出→予告演出、といった一連の関係性のある演出とすることができることで、予告演出が行われる前に遊技者の期待感を高めさせることができるため、予告演出の興趣を一層向上させることができるという、課題を解決するための原理が記載されている。
そうすると、特許請求の範囲に記載された本件特許発明は、発明の詳細な説明の上記【0007】に記載された発明で、発明の詳細な説明の上記【0008】の記載により当業者が予告演出の興趣を向上させるという課題を解決するための原理からみて当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
ウ 申立人の主張に対して
申立人は、(ア)特許請求の範囲の請求項1には、特許請求の範囲には「演出実行手段」について特定の機能が実行可能であることが記載されているものの、実行する場合としない場合のそれぞれの条件が不明であり、また、各機能が実行されない場合も含むにもかかわらず、なぜ一連の関係性のある演出ができるようになるのか当業者であっても見当をつけることができない、(イ)特許請求の範囲の請求項1には、「事前演出」及び「関連演出」について実行可能であることが記載されているものの、どのような場合に当該演出を実行し、どのような場合に実行しないのかが明らかである必要があるが、本件特許の発明の詳細な説明には、「事前演出」及び「関連演出」を実行されない場合の例は一切記載されていない、という旨主張する。
しかし、前記(ア)について、本件特許発明が解決しようとする課題は、予告演出の興趣を向上させることであり、予告演出を行う際に、事前演出の開始→事前演出中に特定表示→関連演出→予告演出、といった一連の関係性のある演出とすることができることで、予告演出が行われる前に遊技者の期待感を高めさせることができるため、予告演出の興趣を一層向上させることができるという課題を解決するための原理に照らせば、本件特許発明の「演出実行手段」が一連の関係性のある演出を実行可能であり、当該一連の関係性のある演出を現実に実行する場合があれば、当該場合において予告演出の興趣が向上することは明らかであり、前記(イ)についても同様に、本件特許発明の「演出実行手段」が「事前演出」及び「関連演出」を実行可能であり、当該「事前演出」及び「関連演出」を現実に実行する場合があれば、当該場合において予告演出の興趣が向上することは明らかである。
したがって、申立人の主張には理由がない。
(3)小括
以上により、本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。
よって、本件特許は、同法113条4号の規定に該当するものではなく、同法114条2項の規定により取り消されるべきものではない。
4 理由4(特許法36条6項2号〔明確性要件違反〕)について
(1)申立人の主張の概要
本件特許の発明の詳細な説明の上記【0005】、【0006】、【0008】に記載の発明の解決すべき課題及びその効果からすると、前記一連の関係性のある演出ができるようになる解決手段を呈示する必要があるが、特許請求の範囲の請求項1には、「演出実行手段」が特定の機能を実行可能であることが記載されているだけで、実行する場合としない場合のそれぞれの条件は不明であり、また、各機能が実行されない場合も含むにもかかわらず、なぜ、前記一連の関係性のある演出ができるようになるのか、当業者であっても見当をつけることができず、理解が困難である。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1は、明細書に記載された前記一連の関係性のある演出ができるものであるために必要な要件が記載されているか否かの判断ができないし、各要件と発明の詳細な説明に記載された事項との対応関係も不明瞭であるから、同請求項1の記載は、明確であるとはいえない。
(2)判断
本件特許発明が解決しようとする課題は、予告演出の興趣を向上させることであり、予告演出を行う際に、事前演出の開始→事前演出中に特定表示→関連演出→予告演出、といった一連の関係性のある演出とすることができることで、予告演出が行われる前に遊技者の期待感を高めさせることができるため、予告演出の興趣を一層向上させることができるという課題を解決するための原理に照らせば、本件特許発明の「演出実行手段」が一連の関係性のある演出を実行可能であり、当該一連の関係性のある演出を現実に実行する場合があれば、当該場合において予告演出の興趣が向上するから、特許請求の範囲の請求項1において、本件特許発明の「演出実行手段」が一連の関係性のある演出を実行する場合と実行しない場合のそれぞれの条件が特定されることまでは必須ということはできない。そして、本件特許発明の「演出実行手段」の各機能が実行されず、前記一連の関係性のある演出ができない場合があるとしても、本件特許発明の「演出実行手段」の各機能が実行され、前記一連の関係性のある演出ができる場合があれば予告演出の興趣を向上させるという課題が解決できるから、「演出実行手段」の各機能が実行されない場合に前記一連の関係性のある演出ができる必要はなく、申立人の主張のように、本件特許発明の構成が不明確であるということはできない。
(3)小括
以上により、本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、特許を受けようとする発明が明確でないということはできない。
よって、本件特許は、同法113条4号の規定に該当するものではなく、同法114条2項の規定により取り消されるべきものではない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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