特許異議申立
2024-700269
正極スクラップを用いた活物質の再使用方法
- 審判番号
- 2024-700269
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-544393
- 登録番号
- 7350185
- 請求日
- 2024年03月25日
- 審決日
- 2024年08月21日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【権利者代理人】飯田 雅人
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【異議申立人】森本 晋
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 洋
- 審判官 衣鳩 文彦
- 審判官 馬場 慎
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7350185号発明「正極スクラップを用いた活物質の再使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7350185号の請求項1~18に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7350185号(以下「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)6月29日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理 2020年7月6日 (KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、令和5年9月14日にその特許権の設定登録がされ、同年9月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~18に係る特許に対し、令和6年3月25日に特許異議申立人 森本 晋(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、同年5月30日に特許異議申立書の手続補正書が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~18に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明18」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)集電体上のリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質層を含む正極スクラップを空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解することで、前記集電体を前記活物質層から分離し、前記活物質層中の活物質を回収する段階と、
(b)回収された活物質を洗浄溶液で水洗する段階と、
(c)水洗された活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングして再使用可能な活物質を得る段階と、を含み、
前記熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比、または前記水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とモル比が、前記熱処理する前の前記正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにすることを特徴とする、正極活物質の再使用方法。
【請求項2】
(d)アニーリングされた活物質に表面コーティングする段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項3】
前記熱処理を300~650℃で10分~24時間行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項4】
前記洗浄溶液が、水または水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液であり、前記リチウム化合物水溶液が、0%超過15%以下のリチウム化合物を含有するように製造され、前記水洗を一週間以内で行うことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項5】
前記洗浄溶液は、LiFが溶ける量が0.127g/100ml(18℃)、0.134g/100ml(25℃)であるものを使用し、水洗に際し、前記活物質と前記洗浄溶液の割合を1:200以下にすることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項6】
前記水洗は、前記回収された活物質を前記洗浄溶液に含浸すると共に攪拌して行うことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項7】
前記アニーリングに使用されるリチウム前駆体が、LiOH、Li2CO3、LiNO3及びLi2Oのいずれか一つ以上であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項8】
前記リチウム前駆体を、前記活物質層に使用された原材料活物質中のリチウムと他の金属との割合に対し、損失されたリチウムの割合分を補い得る量で添加することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項9】
前記リチウム前駆体を、リチウム添加量が0.001~0.4モル比となる量で添加することを特徴とする、請求項8に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項10】
前記リチウム前駆体は、リチウムと他の金属とのモル比を1:1基準にして、リチウムを0.0001~0.1モル比となる量でさらに添加することを特徴とする、請求項8に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項11】
前記水洗する段階の後、乾燥せず、前記水洗した活物質をリチウム前駆体溶液に混合して噴霧乾燥することで前記(c)段階のリチウム前駆体の添加を行うことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項12】
前記噴霧乾燥する段階の温度が100~300℃であることを特徴とする、請求項11に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項13】
前記アニーリングを400~1,000℃の空気中で行うことを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項14】
前記アニーリングの段階の温度は、前記リチウム前駆体の融点を超過する温度であることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項15】
前記活物質層中の活物質を、粉末形態で回収し、前記バインダーや導電材の炭化によって生じる炭素成分が表面に残留しないことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項16】
前記表面コーティングの段階は、金属、有機金属及び炭素成分のいずれか一種以上を固相または液相方式で表面にコーティングした後、100~1,200℃で熱処理することを特徴とする、請求項2に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項17】
前記再使用可能な活物質は、下記の化学式1で表されることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【化1】
[図:0001414207000001.jpg]
(前記化学式1において、Mは、B、W、Al、Ti及びMgからなる群より選択される一種以上を含み、1<a≦1.1、0≦x<0.95、0≦y<0.8、0≦z<1.0、0≦w≦0.1、-0.02≦δ≦0.02、x+y+z+w=1である。)
【請求項18】
前記再使用可能な活物質は、フッ素(F)の含量が100ppm以下であることを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。」
第3 申立ての理由の概要
令和6年5月30日に提出された手続補正書により補正された特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要、及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立ての理由
(1)申立理由1(進歩性)
請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2~甲第5号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(特許法113条2号)
請求項2~18に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2~甲第9号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(特許法113条2号)
(2)申立理由2(サポート要件)
請求項1~18に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法113条4号)
2 証拠方法
甲第1号証 米国特許出願公開第2018/0212282号明細書
甲第2号証 特開平10-8150号公報
甲第3号証 特開2014-199777号公報
甲第4号証 韓国登録特許第1808121号公報
甲第5号証 SIEBER TIM et al:"Recovery of Li(Ni0.33Mn0.33Co0.33)O2 from Lithium-Ion Battery Cathodes: Aspects of Degradation", NANOMATERIALS,(スイス),12 February 2019,Vol.9,no.2,246
甲第6号証 韓国登録特許第1929961号公報
甲第7号証 韓国公開特許第2019-0106406号公報
甲第8号証 米国特許出願公開第2016/0251740号明細書
甲第9号証 特開2010-62105号公報
以下、「甲第1号証」~「甲第9号証」を、それぞれ「甲1」~「甲9」という。
第4 甲号証の記載
1 甲1に記載された事項及び甲1発明
(1)甲1には、次の事項が記載されている。なお、当審訳は、申立人が提出した甲1の訳文をもとに当審で作成した。(下線は、強調のため当審で付したものである。以下同様。)
「[0002] The present invention relates to a method for recovering a positive electrode active material from a lithium secondary battery.」
(当審訳:
[0002]本発明は、リチウム二次電池から正極活物質を回収する方法に関する。)
「[0004] As a positive electrode active material of a lithium secondary battery, lithium transition metal oxides are being used, and among these, a lithium cobalt oxide of LiCoO2, a lithium manganese oxide (LiMnO2, LiMn2O4, or the like), a lithium iron phosphate compound (LiFePO4 or the like), a lithium nickel oxide (LiNiO2 or the like), or the like is mainly being used. In addition, as a method for improving low thermal stability of LiNiO2 while maintaining an excellent reversible capacity of LiNiO2, a nickel-manganese based lithium composite metal oxide in which some of nickel (Ni) is substituted by manganese (Mn) having excellent thermal stability and a nickel-cobalt-manganese based lithium composite metal oxide in which some of nickel (Ni) is substituted by manganese (Mn) and cobalt (Co) (hereinafter simply referred to as “NCM based lithium oxide”) are being used.」
(当審訳:
[0004]リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属酸化物が用いられており、その中でもLiCoO2のリチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物(LiMnO2、LiMn2O4等)、リチウム鉄リン酸化合物(LiFeP4等)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2等)等が主に用いられている。また、LiNiO2の優れた可逆容量を維持しつつ、LiNiO2の低い熱安定性を向上させる方法として、熱安定性に優れたニッケル(Ni)の一部をマンガン(Mn)で置換したニッケル・マンガン系リチウム複合金属酸化物や、ニッケル(Ni)の一部をマンガン(Mn)およびコバルト(Co)で置換したニッケル・コバルト・マンガン系リチウム複合金属酸化物(以下、単に「NCM系リチウム酸化物」という。)が用いられている。)
「[0008] An aspect of the present invention provides a method for recovering a positive electrode active material from a lithium secondary battery, the method being capable of economically and easily recovering a positive electrode active material from a lithium secondary batteries, and achieving an excellent resistive characteristic, an electrical conductivity characteristic, and a capacity characteristic without deteriorating electrochemical performance of the recovered positive electrode active material.」
(当審訳:
[0008]本発明は、経済的かつ容易にリチウム二次電池から正極活物質を回収することができ、回収された正極活物質の電気化学的性能を劣化させることなく、優れた抵抗特性、電気伝導特性および容量特性を達成することができるリチウム二次電池から正極活物質を回収する方法を提供することを目的とする。)
「[0011] A method for recovering a positive electrode active material from a lithium secondary battery according to the present invention includes: 1) separating a positive electrode into a collector and a positive electrode part; 2) removing an organic substance by firing the separated positive electrode part; 3) washing the fired resultant and removing residual fluorine (F); and 4) adding a lithium-containing material into the washed resultant and firing to recover a lithium transition metal oxide.
[0012] First, in step 1), a positive electrode of a lithium secondary battery is separated into a collector and a positive electrode part.
[0013] The positive electrode of the lithium secondary battery is used in a state in which the collector (for example, an aluminum foil, a nickel foil, and a stainless foil) is coated with the positive electrode part including a lithium transition metal as a positive electrode active material. Therefore, in order to recover a lithium transition metal oxide from a lithium secondary battery positive electrode waste material, the positive electrode part containing the lithium transition metal oxide is required to be delaminated.
[0014] In a method of delaminating the positive electrode part containing the lithium transition metal oxide, the positive electrode part may be delaminated by being immersed in a solvent which does not actually dissolve the lithium transition metal oxide.」
(当審訳:
[0011]本発明に係るリチウム二次電池から正極活物質を回収する方法は、1)正極を集電体と正極部とに分離する工程;2)分離された正極部を焼成して有機物を除去する工程;3)焼成結果を洗浄して残留フッ素(F)を除去する工程;4)洗浄結果にリチウム含有物質を添加して焼成し、リチウム遷移金属酸化物を回収する工程;を含む。
[0012]まず、工程1)において、リチウム二次電池の正極を集電体と正極部とに分離する。
[0013]リチウム二次電池の正極は、リチウム遷移金属を正極活物質として含む正極部を集電体(例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔)に被覆した状態で使用される。そのため、リチウム二次電池の正極廃材からリチウム遷移金属酸化物を回収するためには、リチウム遷移金属酸化物を含む正極部を剥離する必要がある。」
[0014]リチウム遷移金属酸化物を含む正極部を剥離する方法としては、リチウム遷移金属酸化物を実質的に溶解しない溶剤に浸漬することにより、正極部を剥離することができる。)
「[0019] In order to obtain the positive electrode part from the solvent in which the positive electrode delaminated from the collector is suspended, a method, in which the collector is removed by using gravity separation, filtering separation, centrifugal separation, magnetic separation, or the like, and then, the positive electrode part is filtered, may be performed. Examples of method for recovering the positive electrode part may include a general filtering separation method such as a pressurized filter, a central filter, and a filter press.」
(当審訳:
[0019]集電体から剥離した正極を懸濁させた溶媒から正極部を得るためには、重力分離、ろ過分離、遠心分離、磁気分離等を用いて集電体を除去した後、正極部をろ過する方法が挙げられる。正極部を回収する方法としては、加圧フィルター、セントラルフィルター、フィルタープレス等の一般的なろ過分離法が挙げられる。)
「[0022] Next, in step 2), the separated positive electrode part is fired to remove an organic substance.
[0023] Before firing the positive electrode part, the positive electrode part separated from the collector may be pulverized. The positive electrode part may be pulverized by a pulverization method by using a hammer mill, a jetmill, a disk mill, or the like.
[0024] The firing may be performed at a temperature of 300-1200° C. More preferably, the firing may be performed at a temperature of 400-900° C., and most preferably, at a temperature of 400-800° C.
[0025] The firing may be performed at a temperature within the above-mentioned range, so that the organic substance included in the positive electrode part may be burnt and removed. The organic substance may be removed by being oxidized at a temperature within the above-mentioned range and changed into a gas shape. When the firing temperature is lower than 300° C., the organic substance may not be sufficiently burnt and removed, and when the firing temperature is higher than 1,200° C., excessive energy is unnecessarily consumed relative to the burning temperature and the performance of the recovered positive electrode active material may be deteriorated. The organic substance may be burnt and removed by performing the firing for 20-600 minutes, but the firing time is not necessarily limited thereto.
[0026] Examples of the organic substance included in the positive electrode part may include binders, conductors, vehicles, other organic solvents, or the like. In this case, fluorine (F)-containing materials may be included in various organic substances. For example, polyvinylidenefluoride (PVDF), vinylidenefluoride-hexafluoropropylene copolymer (PVDF-co-HFP) or the like may be included.
[0027] As described above, most of organic substances are burnt and removed by the firing step, the fluorine (F) groups in the fluorine (F)-containing material are not burnt and removed and remain by being applied or doped onto surfaces of lithium transition metal oxides. The residual fluorine (F) group has a problem of deteriorating the electrochemical performance of the recovered positive electrode active material. That is, the fluorine (F) group is not removed after the firing and applied or doped onto the surface of the positive electrode active material, so that resistance increases, electrical conductivity decreases, capacity decreases, thereby causing difficulty in recycling as a positive electrode active material.
[0028] Accordingly, the present invention subsequently includes a step of washing the fired resultant and thereby removing residual fluorine (F).
[0029] The washing may be performed by using pure water or an acidic aqueous solution. Since the residual fluorine (F) group has a structure dissolved in the pure water or an acidic aqueous solution, the residual fluorine (F) group may be removed by washing with the pure water or acidic aqueous solution, and a positive electrode active material with excellent performance may be recovered.」
(当審訳:
[0022]次に、工程2)において、分離した正極部を焼成して有機物を除去する。
[0023]正極部を焼成する前に、集電体から剥離した正極部を粉砕してもよい。正極部は、ハンマーミル、ジェットミル、ディスクミルなどを用いて粉砕法により粉砕してもよい。
[0024]焼成温度は、300°C~1200°Cで行うことができ、より好ましくは400°C~900°C、最も好ましくは400°C~800°Cで行うことができる。
[0025]上記範囲の温度で焼成することにより、正極部に含まれる有機物を燃焼除去することができる。上記範囲の温度で酸化して気体状にすることにより有機物を除去することができる。焼成温度が300°Cより低い場合には、有機物を十分に燃焼除去することができず、1,200°Cより高い場合には、燃焼温度に対して必要以上のエネルギーを消費してしまい、回収した正極活物質の性能が低下するおそれがある。また、焼成時間を20分~600分とすることにより、有機物を燃焼除去することができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
[0026]正極部に含まれる有機物としては、バインダー、導体、ビヒクル、その他の有機溶媒等を挙げることができる。この場合、様々の有機物中にフッ素(F)含有物を含めることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-co-HFP)等を挙げることができる。
[0027]上述したように、ほとんどの有機物は焼成工程により燃焼除去されるが、フッ素(F)含有材料中のフッ素(F)基が燃焼除去されず、リチウム遷移金属酸化物の表面に塗布またはドープされることにより残留する。残留フッ素(F)基は、回収された正極活物質の電気化学的性能を低下させるという問題がある。すなわち、焼成後にフッ素(F)基が除去されずに正極活物質の表面に塗布またはドープされるため、抵抗が増加し、電気伝導率が低下し、容量が低下し、正極活物質としてのリサイクルが困難となる。
[0028]そこで、本発明は、その後、焼成物を洗浄して残留フッ素(F)を除去する工程を有する。
[0029]洗浄は、純水または酸性水溶液を用いて行うことができる。残留フッ素(F)基は、純水または酸性水溶液に溶解した構造を有するので、純水または酸性水溶液で洗浄することにより残留フッ素(F)基を除去し、性能の優れた正極活物質を回収することができる。)
「[0031] The washing may be performed at a temperature of 0-100° C., and more preferably, 10-50° C., and performed for 1-600 minutes, and more preferably, 30-120 minutes, but the washing time is not necessarily limited thereto. When the washing temperature is lower than 0° C., the fluorine (F) group is not sufficiently dissolved and may thereby remained on the surface of the positive electrode active material, and there may be a limitation of increase in the resistance of the recovered positive electrode active material. When the washing temperature is higher than 100° C., water is vaporized and the efficiency of removing the fluorine (F) group may be deteriorated.
[0032] The washing may be performed by using 50-100,000 parts by weight, and more preferably, by using 100-1000parts by weight of washing solution with respect to 100 parts by weight of the resultant. When the washing solution is less than 50 parts by weight, fluorine(F) groups are not sufficiently dissolved and may thereby remain on the surface of the positive electrode active material, and there may be a limitation of increase in the resistance of the recovered positive electrode activematerial. When the washing solution is more than 100,000 parts by weight, the productivity of washing step may be decreased, and the recovered rate of the positive electrode active material may be decreased.
[0033] Next, in step 4), a lithium-containing raw material is added to the washed resultant, is then fired to reform a lithium transition metal oxide.
[0034] As described above, the resultant, from which organic substances are removed by firing and which is obtained after washing, may include a positive electrode active material of the lithium transition metal oxide. However, in order to supplement lithium which becomes insufficient due to drop-off during the above-mentioned process, a step in which a lithium-containing raw material is added and fired is carried out.
[0035] As the lithium-containing raw material, lithium carbonate (Li2CO3), lithium hydroxide (LiOH), or the like may be used, and the lithium-containing raw material may be added in an amount of 1-40 parts by weight with respect to 100 parts by weight of the resultant, and more preferably, added in an amount of 1-30 parts by weight, and further more preferably, added in an amount of 1-10 parts by weight. Since this is for supplementing insufficient lithium, lithium-containing raw materials of more than 40 parts by weight may not be required to be added.
[0036] After the lithium-containing raw material is added, the resultant may be fired at a temperature of 500-1,200° C. to reform a positive electrode active material of the lithium transition metal oxide. When the firing temperature is lower than 500° C., the raw material may remain in particles due to an insufficient reaction, so that high-temperature stability may be decreased, and bulk density and crystallizability may be decreased, so that structural stability may be decreased. When the firing temperature is higher than 1,200° C., electrochemical performance may be decreased due to particle growth.
[0037] The recovered lithium transition metal oxide may be, but not limited to: a layered compound of a lithium cobalt oxide (LiCoO2), a lithium nickel oxide (LiNiO2) or the like or a compound substituted by one or more transition metals; a lithium manganese oxide such as chemical formula Li1+x1Mn2-x1O4 (where, x1 is 0 to 0.33), LiMnO3, LiMn2O3 and LiMnO2; a lithium copper oxide (Li2CuO2); a lithium vanadium oxide such as LiV3O8 and LiV3O4; an Ni site-type lithium nickel oxide represented by a formula LiNi1-x2M1x2O2 (where, M1=Co, Mn, Al, Cu, Fe, Mg, B or Ga, and x2 is 0.01 to 0.3); a lithium manganese composite oxide represented by a formula LiMn2-x3M2x3O2 (where, M2=Co, Ni, Fe, Cr, Zn or Ta, and x3 is 0.01 to 0.1) or Li2Mn3M3O8 (where, M3=Fe, Co, Ni, Cu or Zn); a lithium manganese composite oxide represented by a formula LiNix4Mn2-x4O4 (where, x4 is 0.01 to 1.0) and having a spinel structure; LiMn2O4 in which some Li in the formula is substituted by an alkali earth metal ion; a disulfide compound; Fe2(MoO4)3; or the like.
[0038] In addition, the recovered lithium transition metal oxide may be a lithium transition metal oxide represented by formula 1 below.
LiaNixMnyCozMwO2+δ [Formula 1]
[0039] In formula 1, M includes one or more selected from the group consisting or Fe, Na, Mg, Ca, Ti, V, Cr, Cu, Zn,
[図:0001414207000002.jpg]
[0040] In addition, the recovered positive electrode active material may have a content of fluorine (F) of less than 1 wt %. More preferably, the content of fluorine (F) may be less than 0.1 wt %, or furthermore preferably, less than 0.05 wt %. As described above, the positive electrode part is fired to remove organic substances and is then fired, so that the residual fluorine (F) groups may be removed, and the content of fluorine (F) in the recovered positive electrode active material may be less than 1 wt %.
[0041] As such, according to the present invention, a positive electrode active material with less content of fluorine (F) may be recovered, and thus, when the recovered positive electrode active material is reused as a positive electrode active material, an excellent resistance characteristic, an electrical conductivity characteristic, and a capacity characteristic may be achieved.」
(当審訳:
[0031]洗浄温度は、0°C~100°C、より好ましくは10°C~50°C、洗浄時間は、1分~600分、より好ましくは30分~120分であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。洗浄温度が0°C未満であると、フッ素(F)が十分に溶解せず、正極活物質の表面に残留することがあり、回収される正極活物質の抵抗上昇に制限が生じることがある。洗浄温度が100°Cを超えると、水が蒸発し、フッ素(F)基を除去効率が低下することがある。
[0032]洗浄は、生成物100重量部に対して、洗浄液を50~100,000重量部、より好ましくは100~1000重量部使用して行うことができる。洗浄液が50重量部未満であると、フッ素(F)基が十分に溶解せず、正極活物質の表面に残存することがあり、回収される正極活物質の抵抗上昇に制限が生じることがある。洗浄液が10万重量部を超えると、洗浄工程の生産性が低下し、正極活物質の回収率が低下することがある。
[0033]次に、工程4)において、洗浄後の生成物にリチウム含有原料を添加した後、焼成してリチウム遷移金属酸化物を改質する。
[0034]上述したように、焼成により有機物を除去し、洗浄後の生成物は、リチウム遷移金属酸化物の正極活物質を含んでいてもよい。しかし、上記工程中に脱落して不足するリチウムを補うために、リチウム含有原料を添加して焼成する工程を行う。
[0035]リチウム含有原料としては、炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LIOH)等を用いることができ、生成物100重量部に対してリチウム含有原料を1重量部から40重量部まで、より好ましくは一重量部から三十重量部まで、さらに好ましくは1重量部から10重量部まで添加することができる。不足するリチウムを補うためのものであるので、40重量部を超えるリチウム含有原料を添加する必要はない。
[0036]リチウム含有原料を添加した後、500°C~1200°Cで焼成してリチウム遷移金属酸化物の正極活物質を改質してもよい。焼成温度が500°Cより低いと、反応が不十分で原料が粒子状に残存することがあり、高温安定性が低下したり、かさ密度や結晶性が低下して構造安定性が低下するおそれがある。焼成温度が1,200°Cを超えると、粒子の成長により電気化学的性能が低下するおそれがある。
[0037]回収されるリチウム遷移金属酸化物は、限定されるものではないが、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)等の層状化合物、または一以上の遷移金属で置換された化合物であってもよい。化学式Li1+x1Mn2-x1O4(ここで、x1は0から0.33である。)、LiMnO3、LiMn2O3およびLiMnO2のようなリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(Li2CuO2);LiV3O8およびLiV3O4のようなリチウムバナジウム酸化物;式LiNi1-x2M1x2O2(ここで、M1=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、B又はGa、x2=0.01乃至0.3)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物;式LiMn2-x3M2x3O2(ここで、M2=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaであり、x3は0.01から0.1である。)またはLi2Mn3M3O8(ここで、M3=Fe、Co、Ni、CuまたはZn)で表されるリチウムマンガン複合酸化物、式LiNix4Mn2-x4O4(ここで、x4は0.01から1.0である。)で表され、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物;式中の一部のLiがアルカリ土類金属イオンで置換されたLiMn2O4;ジスルフィド化合物;Fe2(MoO4)3;等である。
[0038]また、回収されたリチウム遷移金属酸化物は、下記一般式1で表されるリチウム遷移金属酸化物であってもよい。
LiaNixMnyCoZMwO2+δ(一般式1)
[0039]前記一般式1において、Mは、Fe、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaおよびBからなる群から選択される1種以上を含み、0.9<a≦2.0、0≦x≦0.95、0≦y≦0.8、0≦z≦1.0、0<w≦0.1、-0.02≦δ≦0.02、x+y+z≦1である。
[0040]また、回収された正極活物質は、フッ素(F)の含有量が1重量%未満であってもよい。より好ましくは、フッ素(F)の含有量は0.1重量%未満であり、さらに好ましくは、0.05重量%未満である。上述したように、正極部を焼成して有機物を除去した後に焼成することにより、残留フッ素(F)基を除去し、回収された正極活物質中のフッ素(F)の含有量を1重量%未満とすることができる。
[0041]このように、本発明によれば、フッ素(F)の含有量が少ない正極活物質を回収することができ、回収された正極活物質を正極活物質として再利用する際に、優れた抵抗特性、導電特性、容量特性を実現することができる。)
「Example 1
[0043]In a resin-made beaker, 50 g of a lithium secondary battery positive electrode to which a degraded positive electrode part was attached was added together with a stirring needle, the degraded positive electrode part including, on both surfaces of an aluminum collector, PVDF as a binder, carbon black as a conductor, Li0.82Ni0.6Mn0.2Co0.2O2 as a positive electrode active material. As a solvent, 100 ml of NMP was added and then stirred at 40° C. for 30 minutes. After 30 minutes, an aluminum collector was taken out from a suspension, and the positive electrode part was recovered.
[0044] The recovered positive electrode part was pulverized by using a ball mill and fired at 500° C. for 300 minutes. After firing, 500 parts by weight of pure water (25° C.) was added with respect to 100 parts by weight of the resultant and then washed for 60 minutes.
[0045] With respect to 100 parts by weight of the washed resultant, 10 parts by weight of lithium carbonate (Li2CO3) was added and fired at 800° C. to obtain the positive electrode active material of lithium transition metal oxides.」
(当審訳:
実施例1
[0043]アルミニウム集電体の両面にバインダーとしてPVDF、導体としてカーボンブラック、正極活物質としてLi0.82Ni0.6Mn0.2Co0.2O2を含む劣化正極部を取り付けたリチウム二次電池正極50gを樹脂製ビーカーに撹拌針とともに添加した。溶媒としてNMP100mlを加え、40°Cで30分間撹拌した。30分後、アルミニウム集電体を懸濁液から取り出し、正極部を回収した。
[0044]回収した正極部をボールミルで粉砕し、500°Cで300分間焼成した。焼成後、生成物100重量部に対して純水(25°C)500重量部を加え、60分間洗浄した。
[0045]洗浄後、生成物100重量部に対して炭酸リチウム(Li2CO3)10重量部を加え、800°Cで焼成し、リチウム遷移金属酸化物正極活物質を得た。)
「
[図:0001414207000003.jpg]
」
(当審訳:
表2
放電
充電容量 容量
(mAh/g)0.1C (mAh/g)0.1C 効率(%) 2Cレート(%)
例1 190.2 171.1 90.0 87.8
例2 188.4 167.2 88.7 86.4
比較例 155.4 113.2 72.8 53.6
未劣化正極活物質 190.5 169.4 88.9 87.2
(LiNiO.6Mn0.2Co0.202) )
「[0051] Referring to Table 2, in Examples 1 and 2, electrochemical performance, which is the same as or similar to that of a positive electrode active material before degradation, was shown. In Example 2, electrochemical performance slightly less excellent than that in example 1 due to the influence of acid was shown, but it may be confirmed that the electrochemical performance is remarkably better than that in the comparative example in which washing was not performed.」
(当審訳:
[0051]表2を参照して、実施例1及び2において、劣化前の正極活物質と同様又はそれに近い電気化学的性能を示した。実施例2では、酸の影響により実施例1に比べて電気化学的性能が若干劣るが、洗浄を行わなかった比較例に比べて電気化学的性能が著しく良好であることが確認できる。)
(2)甲1発明
よって、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲1発明をA~Hに分説し、「構成A」などのように、以下参照する。
<甲1発明>
「A 1)正極を集電体と正極部とに分離する工程;2)分離された正極部を焼成して有機物を除去する工程;3)焼成結果を洗浄して残留フッ素(F)を除去する工程;4)洗浄結果にリチウム含有物質を添加して焼成し、リチウム遷移金属酸化物を回収する工程;を含む、リチウム二次電池から正極活物質を回収する方法であって、([0011])
B 工程1)において、リチウム二次電池の正極を集電体と正極部とに分離し、([0012])
B1 リチウム二次電池の正極は、リチウム遷移金属を正極活物質として含む正極部を集電体に被覆した状態で使用されるため、リチウム二次電池の正極廃材からリチウム遷移金属酸化物を回収するために、リチウム遷移金属酸化物を含む正極部を剥離する必要があり、([0013])
B2 リチウム遷移金属酸化物を実質的に溶解しない溶剤に浸漬することにより、正極部を剥離するものであり、([0014])
C 工程2)において、分離した正極部を焼成して有機物を除去し、([0022])
C1 正極部に含まれる有機物を燃焼除去するもので、([0025])
C2 正極部に含まれる有機物は、バインダー、導体、ビヒクル、その他の有機溶媒等であり、([0026])
C3 ほとんどの有機物は焼成工程により燃焼除去され、([0027])
D 焼成物を洗浄して残留フッ素(F)を除去する工程を有し、([0028])
D1 洗浄は、純水または酸性水溶液を用いて行うことができ、([0029])
E 工程4)において、洗浄後の生成物にリチウム含有原料を添加した後、焼成してリチウム遷移金属酸化物を改質し、([0033])
E1 上記工程中に脱落して不足するリチウムを補うために、リチウム含有原料を添加して焼成する工程であり、([0034])
E2 リチウム含有原料として、炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LIOH)等を用い、([0035])
E3 リチウム含有原料を添加した後、500°C~1200°Cで焼成してリチウム遷移金属酸化物の正極活物質を改質してもよく、焼成温度が500°Cより低いと、反応が不十分で原料が粒子状に残存することがあり、高温安定性が低下したり、かさ密度や結晶性が低下して構造安定性が低下するおそれがあり、焼成温度が1,200°Cを超えると、粒子の成長により電気化学的性能が低下するおそれがあり、([0036])
F フッ素(F)の含有量が少ない正極活物質を回収することができ、回収された正極活物質を正極活物質として再利用する際に、優れた抵抗特性、導電特性、容量特性を実現することができ、([0041])
G 回収されたリチウム遷移金属酸化物は、LiaNixMnyCoZMwO2+δで表されるリチウム遷移金属酸化物であってもよい(Mは、Fe、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaおよびBからなる群から選択される1種以上を含み、0.9<a≦2.0、0≦x≦0.95、0≦y≦0.8、0≦z≦1.0、0<w≦0.1、-0.02≦δ≦0.02、x+y+z≦1)、([0038]、[0039])
H リチウム二次電池から正極活物質を回収する方法」
2 甲2に記載された事項
(1)甲2には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、金属化合物を含む電極材料が金属箔に塗着されている金属箔塗着廃材から有用な金属化合物を効率的に回収することができる二次電池の金属箔塗着廃材の燃焼処理法に関する。」
「【0003】そして、このような正極材料は、例えばリチウムイオン二次電池の場合には、炭酸リチウムと酸化コバルトとを混合し、焼成してリチウム酸コバルトとし、次いでこのリチウム酸コバルトとアセチレンブラックやカーボン等の導電剤及びフッ素樹脂、フッ素ゴム等の結着剤とを配合し、これを有機溶剤によりスラリー状に混練し、この混練物をアルミニウム箔(以下、単に「アルミ箔」という)等の金属箔上に均一に塗布し、乾燥して溶剤を除去し、金属箔に導電剤2~10重量%及び結着剤2~10重量%を含む正極材料が塗着された金属箔塗着材を形成し、この金属箔塗着材を所定の形状に裁断し、二次電池の正極を形成している。」
「【0013】そこで、本発明者らは、金属箔塗着廃材から有用な金属化合物を如何に分離して回収するかについて鋭意研究を重ねた結果、金属箔塗着廃材を、酸素含有ガス気流中で300~600℃で燃焼処理することにより、金属箔塗着廃材の電極材料中に配合されているアセチレンブラックやカーボン等の導電剤とフッ素樹脂、フッ素ゴム等の結着剤とを選択的に分解させて除去することができ、これによって金属箔由来の金属や電極材料中の金属化合物を容易に分離して効率良く回収できることを見出し、本発明を完成した。」
「【0026】特に、金属箔塗着廃材がリチウム酸コバルト含有の正極材料を用いた二次電池製造時に発生する金属箔塗着材のスクラップである場合には、本発明の燃焼処理により回収されるリチウム酸コバルトはそのまま正極材料製造用原料の一部又は全部としてリサイクルすることができ、この場合には二次電池製造時に高価なリチウム酸コバルトを無駄なく利用することができる。
【0027】また、本発明の方法により回収される電極材料由来の金属化合物には、金属箔由来の金属の混入がなく、結果として電極材料から分離回収される金属化合物、特にコバルト化合物中にアルミニウム等の金属箔由来の金属が混入することがない。反対に、本発明の方法により回収される金属箔についても、これを電極材料由来の金属化合物が混入しない状態で回収することができ、この金属箔についてもその再利用が容易になる。
【0028】
【発明の実施の形態】本発明方法により二次電池の金属箔塗着廃材を燃焼処理してコバルト等の金属化合物を回収するに際しては、先ず、この金属箔塗着廃材をシュレッダー等で適当な大きさ、例えば数mmから数十mm角の大きさに裁断処理し、次いでこの金属箔塗着廃材を磁性容器又はステンレス製容器等からなる加熱炉の中に仕込み、加熱炉の中に十分な空気を導入しながら300~600℃に加熱し、金属箔塗着廃材の電極材料中の導電剤や結着剤が酸化され、あるいは熱分解されて、金属箔と電極材料由来の金属化合物とがそれぞれ分離した状態で回収されるまで、通常60~300分間この加熱を継続し、燃焼処理を行う。」
(2)甲2記載事項
上記記載において、回収される「金属化合物」(【0013】、【0028】)は、「リチウム酸コバルト」(【0026】)である。
よって、甲2には、次の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「金属箔塗着廃材を十分な空気を導入しながら加熱し、導電剤や結着剤が熱分解されて、金属箔と電極材料由来のリチウム酸コバルトとがそれぞれ分離した状態で回収されること」
3 甲3に記載された事項
(1)甲3には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極材から集電体及び正極活物質を分離回収する方法に関する。」
「【0003】
リチウムイオン電池の電極体は一般に、正極、セパレータ及び負極が幾十にも巻回又は積層されたスタック構造を有している。このうち、正極は典型的にはアルミニウム箔でできた正極集電体とその表面にバインダーを介して接着されたLiCoO2、LiNiO2及びLiMn2O4といったリチウム複合酸化物を材料とする正極活物質から構成されている。
【0004】
リサイクルの観点から、使用済みリチウムイオン電池に含まれる正極材やリチウムイオン電池の製造工程で発生する不要な正極材から各種金属を分離回収できるのが望ましいが、正極活物質は集電体と強固に接着されていることから、これを容易に分離回収することのできる技術が必要とされていた。」
「【0006】
また、正極材を燃焼処理する方法が知られている。特開平10-8150号公報(特許文献3)では、金属箔塗着廃材をシュレッダー等で適当な大きさ、例えば数mmから数十mm角の大きさに裁断処理した後、酸素含有ガス気流中で300~600℃で燃焼処理することにより、金属箔塗着廃材の電極材料中に配合されているアセチレンブラックやカーボン等の導電剤とフッ素樹脂、フッ素ゴム等の結着剤とを選択的に分解させて除去する方法が開示されている。」
「【0009】
このように、集電体と正極活物質を分離する技術が知られているが、集電体と正極活物質の分離回収効率に改善の余地が残されている。」
(2)甲3記載事項
上記記載において、「金属箔塗着廃材を」「燃焼処理することにより、金属箔塗着廃材の電極材料中に配合されている」「導電剤と」「結着剤とを」「分解させて除去する」(【0006】)ことは、「使用済みリチウムイオン電池に含まれる正極材やリチウムイオン電池の製造工程で発生する不要な正極材から各種金属を分離回収」(【0004】)する技術であり、「集電体と正極活物質を分離する技術」(【0009】)であるから、甲3には、次の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「金属箔塗着廃材を燃焼処理することにより、金属箔塗着廃材の電極材料中に配合されている導電剤と結着剤とを分解させて除去することにより、集電体と正極活物質を分離回収すること」
4 甲4に記載された事項
(1)甲4には、次の事項が記載されている。なお、甲4は、韓国登録特許公報であるため、訳文として提出された甲4-1の記載を摘記する。
「【0034】陽極セル回収プロセス(S40)は廃リチウム電池から抽出された陽極セルを200~500℃の放射熱に熱処理して、陽極セルを常温の水に浸漬した状態で撹拌して稀有金属を回収する過程である。先立って言及したところのように分離膜を脱離した陽極セルはアルミニウム薄板として、表面には陽極活物質であるニッケル、マンガン、リチウム、コバルトなどがコーティングされている。すなわち、アルミニウム薄板にコーティングされた陽極活物質の接着性を除去した後に再使用可能に分離させて回収しなければならない。
【0035】このために抽出された陽極セルを5~15cm2で切断する段階(S42)を経る。すなわち、陽極セルのサイズを縮小することで後続段階で発現される反応性を高めて回収率を高めることができる。切断した陽極セルは図7のようなトンネル型の炭化装置(40)に投入して200~500℃の放射熱で5~30分間熱処理して炭化する段階(S44)を経る。すなわち、アルミニウム薄板と陽極活物質間の接着性有機物質が炭化されて除去される。
【0036】続いて陽極セルを常温の水に30~90分間浸漬した状態で撹拌して陽極活物質を脱離する段階(S46)を経て、脱離されて水に沈殿された粉末の陽極活物質を肥する段階(S48)を通して回収する。ここで脱離段階(S46)と肥段階(S48)は前述の回収装置(30)と等しい装置を利用して等しい過程を通して回収した方が良い。そして陽極活物質を脱離する段階(S46)から150~200W、30~50kh超音波を放射して振動を付加するのが望ましい。
【0037】この時、陽極活物質を肥する段階(S48)以後に回収された陽極活物質を110~130℃で乾燥した後、乾燥した陽極活物質を700~900℃で30~90分間焼成する後処理段階(S49)をさらに経た方が良い。すなわち、先立って炭化段階(S44)によって接着性有機物質が陽極活物質上に炭素状態で残留している。よって陽極活物質を焼成して残留する炭素を完全に酸化させることで最終回収する陽極活物質の純度を高めることができる。」
「【0066】<稀有金属別回収率測定方法>
【0067】回収率計算方法は1個モジュールに含まれられているリチウム(Li)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)の分離前、後の含量を比較して計算した。分離の前陽極活物質の重量は431gで現われたし、陽極活物質のみを分離後、重量は367gで現われた。分離の前の陽極活物質の全体重量を考慮してリチウム(Li)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)のそれぞれ含量を分析して各元素の回収の前、100%基準にした。そして分離後の陽極活物質の全体重量を考慮してリチウム(Li)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)のそれぞれ含量を含量を分析して各元素の回収率を計算した。分析は分離の前と後の試料をそれぞれ0.500gを正確に取って王水10mlに入れてマイクロ波で180℃上で30分間溶解させて最終体積50mlとして誘導結合プラズマ(ICP)で分析した。試料数は計5回に通して分析したし、安東大学で分析した値と公認認証機関(韓国品質管理員)に依頼して分析した値を比較分析した。
【0068】<稀有金属別刺身手決と>
[図:0001414207000004.jpg]
【0069】安東大学で分析した結果として、1個モジュールに含まれた陽極活物質の金属成分を示したものである。リチウムの平均回収率は82.9%であり、コバルトの平均回収率は90.6%であり、マンガンの平均回収率は99.2%であり、ニッケルの平均回収率は81.0%として、最終目標値の70%回収率をすべて満足した。」
(2)甲4記載事項
「陽極セル回収プロセスは廃リチウム電池から抽出された陽極セルを200~500℃の放射熱に熱処理して、陽極セルを常温の水に浸漬した状態で撹拌して希有金属を回収する過程であり、熱処理してアルミニウム薄板と陽極活物質間の接着性有機物質を炭化して除去する段階を経るものであり、(【0034】、【0035】)、1個モジュールに含まれているリチウム(Li)の分離前、後の含量を比較して計算したリチウムの平均回収率は82.9%である(【0067】~【0069】)こと」
5 甲5に記載された事項
(1)甲5には、次の事項が記載されている。なお、甲5は、外国語の文献であるため、訳文として提出された甲5-1の記載を摘記する。
「NMC材料とカソード:本研究で使用したNMC材料の化学組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)によりLi0.945±0.007Ni0.336±0.001Mn0.331±0.001Co0.333±0.001O2と決定され、理想的なNMC化学最論に近い値であった。・・・(後略)・・・」(第2頁下から第1段落目)
「浸出実験:カソード箔を5×5mm2の正方形にハサミで穏やかに切断した。被覆層が損傷していたり、エッジが不均ーなものは不合格とした。秤量したNMC(カソード片または細断片)を浸出媒体に接触させた。特に記載がない限り、実験は50mLの浸出媒体を用いて25°Cで行った。すべての浸出実験はマグネチックスターラー(H+P Labortechnik AG(オーバーシュライスハイム、ドイツ))を用いて400min-1で攪拌した。浸出中に懸濁液を採取し、濾過後にICP-OESで金属濃度を分析した。」(第3頁第3段落)
「カソードが水と接触すると、最初の数分でpH値が急激に上昇する。5.8から6.5の純水のpH値は、30-60分の間に9から11の間に上昇した。pHの上昇速度と程度は、カソードの質量と水の体積との比、カソード片の大きさ、および機械的粉砕による被覆とAl基板の損傷の程度に依存した。」(第4頁下から第2段落目)
「カソードが水と接触するとすぐに、Liは時間の遅れなくカソードから放出された。室温では、Liの量は時間の経過とともに著しく増加しなかった(図3a)。放出されたLiの量はコーティング中の全Li含有量に比べて小さく、図3bに示す例のように、ほぼ1%のLi浸出効率に達した。・・・(後略)・・・」(第4頁下から第1段落目)
「
[図:0001414207000005.jpg]
図3 水中に浸漬したときの2つの異なるカソード箔からのLiの放出の初期期間。(a)時間の関数としてのLiの溶液濃度、(b)試料中の全Li含有量(カソード1試料の重量:1.1368g;カソード2試料の重量:1.1355g)に関して計算したLi浸出効率の時間依存性。」(第5頁の図3)
(2)甲5記載事項
「誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)により化学組成がLi0.945±0.007Ni0.336±0.001Mn0.331±0.001Co0.333±0.001O2であるNMC材料とカソードにおいて浸出実験を行い、カソードが水と接触すると、Liはカソードから放出され、ほぼ1%のLi浸出効率に達すること」
第5 申立理由1(進歩性)についての当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 「(a)集電体上のリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質層を含む正極スクラップを空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解することで、前記集電体を前記活物質層から分離し、前記活物質層中の活物質を回収する段階と、」「を含み、」について
(ア)甲1発明は、「正極活物質を回収する方法」(構成A)であり、「リチウム遷移金属酸化物を回収する」(構成A、B1)ものであるから、「正極活物質」は、「リチウム遷移金属酸化物」である。
また、甲1発明の「リチウム遷移金属酸化物」は、「LiaNixMnyCoZMwO2+δで表されるリチウム遷移金属酸化物であってもよい」(構成G)から、本件発明1の「リチウム複合遷移金属酸化物」に相当する。
(イ)甲1発明において、「正極部」は、「正極活物質」を含み(構成B1)、「バインダー、導体、ビヒクル、その他の有機溶媒等」の「有機物」を含む(構成C2)ものであり、「集電体に被覆した状態で使用され」る(構成B1)から、「正極活物質」、及び「バインダー」、「導体」を含む甲1発明の「正極部」は、本件発明1の「集電体上の」「正極活物質層」に相当する。
また、甲1発明の「導体」は、本件発明1の「導電材」に相当する。
(ウ)甲1発明の「正極廃材」(構成B1)は、本件発明1の「正極スクラップ」に相当する。
(エ)甲1発明は、「工程1)」において、「正極廃材」を「リチウム遷移金属酸化物を実質的に溶解しない溶剤に浸漬することにより、正極部を剥離」して「正極を集電体と正極部とに分離」(構成B~B2)し、「工程2)」において、「分離した正極部を焼成して有機物を除去する」(構成C)ものであり、有機物が除去された正極部は、前記(イ)を踏まえれば、「正極活物質」である。
そうすると、甲1発明は、「工程1)」及び「工程2)」の処理により「正極を集電体と正極部とに分離し、正極活物質を回収」するものである。
(オ)よって、本件発明1と甲1発明とは、「集電体上のリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質層を含む正極スクラップを処理することで、集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する段階と、」「を含」む点で共通するが、本件発明1は、当該段階において、「空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解する」の対して、甲1発明は、「工程1)」の「リチウム遷移金属酸化物を実質的に溶解しない溶剤に浸漬することにより、正極部を剥離」して「正極を集電体と正極部とに分離」し、及び「工程2)」の「分離した正極部を焼成して有機物を除去する」ものである。
イ 「(b)回収された活物質を洗浄溶液で水洗する段階と、」「を含み、」について
甲1発明の「焼成物」(構成D)は、「分離した正極部を焼成して有機物を除去」(構成C)した「物」であるから、前記アを踏まえれば、本件発明1の「回収された活物質」に相当する。
また、甲1発明において洗浄に用いる「純水または酸性水溶液」(構成D1)は、本件発明1の「洗浄溶液」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明とは、「回収された活物質を洗浄溶液で水洗する段階と、」「を含」む点で一致する。
ウ 「(c)水洗された活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングして再使用可能な活物質を得る段階と、」「を含み、」について
(ア)甲1発明の「洗浄後の生成物」(構成E)、添加される「リチウム含有原料」(構成E)は、それぞれ本件発明1の「水洗された活物質」、「リチウム前駆体」に相当する。
(イ)甲1発明は、「工程4)」において、「洗浄後の生成物にリチウム含有原料を添加した後、焼成してリチウム遷移金属酸化物を改質」(構成E)することにより、「正極活物質として再利用する際に、優れた抵抗特性、導電特性、容量特性を実現することができる」(構成F)ものである。
また、「リチウム遷移金属酸化物」は、「正極活物質」である(前記ア(ア))。
そうすると、甲1発明において「工程4)」により改質されたリチウム遷移金属酸化物は、再使用可能な活物質といえる。
そして、甲1発明は、「焼成」するものであり、「アニーリング」することについては、特定されていない。
(ウ)前記(ア)、(イ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、「水洗された活物質にリチウム前駆体を添加して再使用可能な活物質を得る段階と、」「を含」む点で一致するが、本件発明1は、当該段階において「アニーリング」するのに対して、甲1発明は、「焼成」するものである。
エ 「前記熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比、または前記水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とモル比が、前記熱処理する前の前記正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにすること」について
甲1発明では、当該事項は特定されていない。
オ 「正極活物質の再使用方法」について
前記ア~ウによれば、本件発明1と甲1発明とは、「正極活物質の再使用方法」である点で一致する。
カ 前記ア~オによれば、本件発明1と甲1発明とは、
「 集電体上のリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質層を含む正極スクラップを処理することで、集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する段階と、
回収された活物質を洗浄溶液で水洗する段階と、
水洗された活物質にリチウム前駆体を添加して再使用可能な活物質を得る段階と、を含む
正極活物質の再使用方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:「集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する段階」について、本件発明1は、「空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解する」の対して、甲1発明は、「工程1)」の「リチウム遷移金属酸化物を実質的に溶解しない溶剤に浸漬することにより、正極部を剥離」して「正極を集電体と正極部とに分離」し、及び「工程2)」の「分離した正極部を焼成して有機物を除去する」点
相違点2:「再使用可能な活物質を得る段階」において、本件発明1は、「アニーリング」することを特定しているのに対して、甲1発明は、「焼成」である点
相違点3:本件発明1は、「前記熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比、または前記水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とモル比が、前記熱処理する前の前記正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにすること」を特定しているのに対して、甲1発明は、当該事項を特定していない点
(2)判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
ア 甲4の適用について
(ア)甲4記載事項は、「陽極セル回収プロセスは廃リチウム電池から抽出された陽極セルを200~500℃の放射熱に熱処理して、陽極セルを常温の水に浸漬した状態で撹拌して希有金属を回収する過程であり、熱処理してアルミニウム薄板と陽極活物質間の接着性有機物質を炭化して除去する段階を経るものであり、1個モジュールに含まれているリチウム(Li)の分離前、後の含量を比較して計算したリチウムの平均回収率は82.9%であること」であるから、「活物質中のリチウムと他の金属とのモル比」を考慮するものではなく、さらには、「熱処理した後」又は「水洗した後」のモル比と、「熱処理する前」のモル比とを比較して、その減少幅を規定することを示唆するものではない。
(イ)甲1発明において、上記相違点1に関して、甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用し、「空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解する」ことで「集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する」構成とした場合、「バインダーと導電材」を「熱分解」する「熱処理」となる。
しかしながら、甲4記載事項には、「導電材」を「熱処理」して「熱分解する」ことは特定されていないから、甲1発明において甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用したものと、甲4記載事項とは、「熱処理」して「熱分解する」ものが異なるものである。
そうすると、甲1発明において甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用したものに、甲4記載事項を考慮する動機付けがあるとはいえない。
(ウ)よって、甲1発明において甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用して「空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解する」ことで「集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する」ようにしたものに、甲4記載事項を考慮する動機付けはないし、甲4記載事項には、相違点3の構成は示唆されていないから、相違点3に係る本件発明1の構成が、当業者に容易であるとはいえない。
イ 甲5の適用について
(ア)甲5記載事項は、「誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)により化学組成がLi0.945±0.007Ni0.336±0.001Mn0.331±0.001Co0.333±0.001O2であるNMC材料とカソードにおいて浸出実験を行い、カソードが水と接触すると、Liはカソードから放出され、ほぼ1%のLi浸出効率に達すること」であるから、「活物質中のリチウムと他の金属とのモル比」を考慮するものではなく、さらには、「熱処理した後」又は「水洗した後」のモル比と、「熱処理する前」のモル比とを比較して、その減少幅を規定することを示唆するものではない。
(イ)甲1発明において、上記相違点1に関して、甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用し、「空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解する」ことで「集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する」構成とした場合、「バインダーと導電材」を「熱分解」する「熱処理」となる。
しかしながら、甲5記載事項には、「バインダーと導電材」を「熱処理」して「熱分解する」ことは特定されていないから、甲1発明において甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用したものと、甲5記載事項とは、「熱処理」して「熱分解する」ものが異なるものである。
そうすると、甲1発明において甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用したものに、甲5記載事項を考慮する動機付けがあるとはいえない。
(ウ)よって、甲1発明において甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用して「空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解する」ことで「集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する」ようにしたものに、甲5記載事項を考慮する動機付けはないし、甲5記載事項には、相違点3の構成は示唆されていないから、相違点3に係る本件発明1の構成が、当業者に容易であるとはいえない。
ウ 本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1で相違するものであり、甲1発明は、本件発明1の「空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解する」「熱処理」を含まない。
そうすると、甲1発明には、本件発明1で特定される「熱処理した後」または「熱処理する前」が存在しないから、甲1において、工程1)~工程4)の各工程の前後で「活物質中のリチウムと他の金属とのモル比」を特定できたとしても、当該モル比は、「前記熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比、または前記水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とモル比」及び「前記熱処理する前の前記正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比」に対応するものではない。
よって、甲1発明において、「前記熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比、または前記水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とモル比が、前記熱処理する前の前記正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにすること」が容易であるとはいえない。
エ 他の証拠方法である甲6~9をみても、上記相違点3に係る本件発明1の構成は記載されておらず、また、当業者に自明な事項であるともいえない。
オ 前記ア~エより、甲1発明において相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
カ 小括
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲第2~甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、上記相違点3に係る本件発明1の構成について、以下のとおり主張する。
「分離(処理)前後のリチウムの減少率(幅)の計算結果から、甲第4号証では、本件特許発明1と同様に、陽極セルを200~500℃で熱処理(本件特許の構成Aの熱処理条件に対応)して、陽極セルを常温の水に浸漬した状態で撹拌する処理(本件特許発明の構成Bに対応)を行った正極活物質において、処理後の陽極セル中の「リチウム/他の金属とのモル比」が、処理前の陽極セル中の「リチウム/他の金属とのモル比」に対して「8.62%」程度減少することが読み取れる。
よって、甲第1~3号証に記載の発明は、上記甲第4号証に記載の事項を参酌すると、本件特許発明1の構成D(熱処理した後の活物質中のリチウム/他の金属のモル比、または水洗した後の活物質中のリチウム/他の金属のモル比が、熱処理する前の正極スクラップ中の活物質中のリチウム/他の金属のモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにする)を満たす蓋然性が高いといえる。」(申立書37頁~38頁)
しかしながら、前記(2)ア(ウ)のとおり、甲1発明において甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用したものに、甲4記載事項を考慮する動機付けはないし、甲4記載事項には、相違点3の構成は示唆されていないから、申立人の上記主張は採用できない。
イ また、上記相違点3に係る本件発明1の構成について、以下のとおり主張する。
「甲第1~3号証に記載の発明において、甲5号証に記載される技術的事項(水洗により、全Li量に対して、約1%のLiが減少)を参酌しても、熱処理した後、及び、水洗した後のリチウム/他の金属とのモル比の減少幅は、20%以内である可能性が高く、本件特許発明1の構成Dを満たす蓋然性が高いといえる。」(申立書38頁~39頁)
しかしながら、前記(2)イ(ウ)のとおり、甲1発明において甲2記載事項、又は甲3記載事項を適用したものに、甲5記載事項を考慮する動機付けはないし、甲5記載事項には、相違点3の構成は示唆されていないから、申立人の上記主張は採用できない。
ウ さらに、上記相違点3に係る本件発明1の構成について、以下のとおり主張する。
「甲1号証の実施例1において、最終的に得られた正極活物質の組成が化学量論比と同一又は近いものであるとした場合、水洗した後の活物質中のリチウム/他の金属のモル比が、熱処理する前の正極スクラップ中の活物質中のリチウム/他の金属のモル比に対して、約10%の減少幅となり、甲1発明は、本件特許発明1の構成Dを満たす蓋然性が高いといえる。」(申立書39頁)
しかしながら、前記(2)ウのとおり、甲1発明には、本件発明1で特定される「熱処理した後」または「熱処理する前」が存在しないから、甲1において、工程1)~工程4)の各工程の前後で「活物質中のリチウムと他の金属とのモル比」を特定できたとしても、当該モル比は、「前記熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比、または前記水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とモル比」及び「前記熱処理する前の前記正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比」に対応するものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
2 本件発明2~18について
本件発明2~18は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2~18と甲1発明とは、少なくとも、前記1(1)カに示した相違点1~3において相違するものであり、相違点3は、前記1(2)と同様の理由により、当業者が容易になし得たものではない。
3 申立理由1のまとめ
よって、申立理由1は理由がない。
第6 申立理由2(サポート要件)について
1 申立理由2(サポート要件)は、具体的に次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1~16、18では、正極活物質層を構成する「リチウム複合遷移金属酸化物」について、その組成を特定するものでなく、本件特許の請求項17では、「Niの割合(x)は、「0≦x<0.95」と非常に広い範囲が特定されている。
一方、本件特許明細書では、「例えば、NCM系活物質においてNiの含量が比較的高い組成の場合、水洗時間が長くなるにつれてリチウム消失量が増加するため、なるべく水洗時間を長くしないことが望ましい。そのため、一日間以内、または1時間以内にすることが望ましい。Niの含量が比較的に低い組成の場合、水洗時間が一週間を越えないと、リチウム消失が相対的に少ない。」(段落[0063])ことが記載され、Niの含有量が低い組成では、水洗工程におけるリチウムの減少量が少ないことが記載されている。
また、甲第5号証でも、NMC材料として、Li(Ni0.33Mn0.33Co0.33)O2を用いた場合の水へのLiの溶出量は、1%程度であることが記載されている(甲第5号証の第4頁下から第1段落、及び、第5頁の図3)。
本件特許の実質的な解決課題は「水洗工程において、残留時に抵抗として作用し得るLiFを除去しながらも活物質のリチウム損失を最小化すること」であると解されるが、Niの含有量が低い組成の活物質では、もともと溶出するリチウム量が少ないため、「水洗工程における活物質のリチウム損失を最小化する」という課題が存在せず、また、本件特許発明1の構成D(前記熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比、または前記水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とモル比が、前記熱処理する前の前記正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少量を有する)を当然満たすといえる。
したがって、本件特許発明1~18は、リチウム複合遷移金属酸化物のニッケルの含有量を特定しない、又は、非常に広いニッケル範囲を含むため、このようなリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質層を有するすべての態様において、本件発明の課題を解決できると当業者が認識することはできない。(申立書48~50頁)
(2)本件特許の請求項1~18では、本件特許の請求項1に記載される「正極活物質層」中のフッ素の含有量について、特定していない。
本件特許の解決課題は「水洗工程において、残留時に抵抗として作用し得るLiFを除去しながらも活物質のリチウム損失を最小化すること」であると解されるが、「正極活物質層」中のフッ素化合物の含有量が少ない場合、溶出するフッ素量も少なく、最終的に得られる正極活物質のLiFの含有量も少ないといえる。
したがって、本件特許発明1~18は、「正極活物質層」中のフッ素の含有量を特定しないものであり、このようなフッ素の含有量を特定しない「正極活物質層」のすべてにおいて、本発明の課題を解決できるとは当業者が認識できるとはいえない。(申立書50頁)
2 本件特許明細書の記載事項
(1)本件発明の課題
本件特許の発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0008】の記載から、「正極スクラップから活物質を回収して再使用する方法を提供することを目的とする」ことであると認められる。
(2)課題を解決する手段
課題を解決する手段について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の正極活物質の再使用方法は、(a)集電体上のリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質層を含む正極スクラップを空気中で熱処理して活物質層中のバインダーと導電材を熱分解することで、集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する段階と、(b)回収された活物質を洗浄溶液で水洗する段階と、(c)水洗された活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングして再使用可能な活物質を得る段階と、を含む。ここで、熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比、または水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とモル比が、熱処理する前の正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにする。」
「【0054】
本発明において、熱処理は、活物質層中のバインダーを熱分解するために行う。この際、熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比が、熱処理する前の正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにすることが望ましい。より望ましくは、10%以内の減少幅であり得る。20%よりも大きい減少幅を有する場合、追ってリチウム前駆体のように追加的に補充すべき物質の量が増加して望ましくない。10%以内の減少幅であれば、リチウム前駆体の添加量を最小化できる程度である。勿論、0%に近い減少幅を有するようにすると、リチウム前駆体を添加しなくてもよいが、熱処理時に不可避なリチウム損失が発生するため、0%に近い減少幅を有させることは難しい。本発明の熱処理条件を最適化して減少幅を20%以内、より望ましくは10%以内、最も望ましくは3%以内にし得る(実験例1参考)。」
「【0056】
熱処理時間は、バインダーが充分に熱分解される程度に維持する。例えば、提示した熱処理温度で10分~24時間維持する。望ましくは、30分間以上にする。熱処理時間が長くなるほどバインダーの熱分解が起こる時間が長くなるが、一定時間以上になれば、熱分解効果に差がなくなる。そして、リチウム減少の面で望ましくない。熱処理時間を10分~24時間にすると、熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比が、熱処理する前の正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにすることができる。熱処理装備は、多様な形態のファーネス(furnace)であり得る。例えば、ボックス型のファーネスであってもよく、生産性を考慮すると、連続的な処理が可能なロータリキルン(rotary kiln)であり得る。」
「【0060】
段階S30の熱処理は、空気中で行うことが重要である。還元気体または非活性気体雰囲気で熱処理を行うと、バインダーと導電材が熱分解されず、炭化される。炭化されると、炭素成分が活物質の表面に残留するようになり、再使用活物質の性能を低下させるようになる。空気中で熱処理を行うと、バインダーや導電材中の炭素物質は、酸素と反応してCO、CO2ガスに燃焼して除去されるため、バインダーと導電材の残留なくほとんど除去される。」
「【0063】
水洗は、このようなリチウム化合物水溶液に回収された活物質を浸漬しておくことで行い得る。浸漬後一週間、望ましくは一日間、より望ましくは1時間以内で水洗を行い得る。一週間以上に水洗する場合、リチウムの過多溶出によって容量低下が発生する恐れがある。水洗時間は、リチウムの消失を考慮して決定し得る。例えば、NCM系活物質においてNiの含量が比較的高い組成の場合、水洗時間が長くなるにつれてリチウム消失量が増加するため、なるべく水洗時間を長くしないことが望ましい。そのため、一日間以内、または1時間以内にすることが望ましい。Niの含量が比較的に低い組成の場合、水洗時間が一週間を越えないと、リチウム消失が相対的に少ない。したがって、一週間以内、望ましくは一日間以内、または1時間以内で水洗を行うことが望ましい。水洗は、水または水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液のような洗浄溶液に活物質を浸漬しておくこと、浸漬した状態で攪拌することなどを含む。なるべく攪拌を並行した方がよい。洗浄溶液で攪拌せず浸漬のみを行うと、水洗工程が遅くなり、リチウム溶出の原因になり得る。攪拌を並行すると、工程時間を最小化することができるため、攪拌は洗浄溶液の含浸と共に行うことが望ましい。水洗後、単に乾かすための乾燥を行ってもよく、乾燥せず以下の他の例として提示する噴霧乾燥段階を行ってもよい。先ず、水洗後にすぐ乾燥を行う場合には、濾過後にオーブン(convection type)で空気中で行い得る。
【0064】
水洗の理油は、回収された活物質の表面に存在し得るLiFと金属フッ化物(metal fluoride)を除去して表面を改質するためである。段階S30の熱処理の間には、活物質層中のバインダーと導電材がCO2とH2Oになりながら気化して除去され、この過程でCO2とH2Oが活物質表面のリチウムと反応してLi2CO3、LiOHを形成するか、またはPVdFのようなバインダーに存在していたフッ素(F)が正極活物質を構成する金属元素と反応してLiFまたは金属フッ化物を形成し得る。LiFまたは金属フッ化物が残留していれば、活物質の再使用時に電池特性が劣化する。本発明においては、段階S40のように水洗段階を追加して、熱処理段階S30で再使用活物質の表面に生成されている反応物を除去することで、再使用活物質の表面に異物が残留しないようにする。」
「【0066】
段階S40では、特に、水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比が、熱処理する前の正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにすることが望ましい。より望ましくは、10%以内の減少幅であり得る。20%よりも大きい減少幅を有すると、追ってリチウム前駆体のように追加的に補充すべき物質の量が増加するため、望ましくない。10%以内の減少幅であれば、リチウム前駆体の添加量を最小化できる程度である。勿論、0%に近い減少幅を有するようにすると、リチウム前駆体を添加しなくてもよいが、LiFの除去のための水洗時、リチウム損失が不可避に発生するため、0%に近い減少幅を有させることは不可能である。本発明では、水洗条件を最適化して、減少幅を20%以内、より望ましくは10%以内、最も望ましくは9%にし得る(実験例1参考)。」
「【0069】
次に、水洗された活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングする(段階S50)。
【0070】
前段階であるS30、S40を経る間、活物質中のリチウム損失が最小になるようにしたが、不可避なリチウム損失が発生し得る。段階S50では、そのようなリチウム損失量を補う。リチウム前駆体の追加は、固相または液相で行い得る。アニーリングに使用されるリチウム前駆体は、LiOH、Li2CO3、LiNO3及びLi2Oのいずれか一つ以上であり得る。」
「【0076】
段階S50では、アニーリングによって活物質の結晶構造を回復して再使用活物質の特性を一度も使用していないフレッシュな活物質の水準に回復または改善する。前段階であるS30、S40を経る間、活物質の表面に変形構造が現われ得る。例えば、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物である活物質は、段階S40でNiが水分によって岩塩(rock salt)化[NiCO3・2Ni(OH)2)H20]し、スピンネル構造が形成され得る。この状態で電池を製造すると、容量減少などの電池特性が悪くなり得る。本発明においては、段階S50によって結晶構造を回復させる。例えば、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物である活物質をさらに六方晶構造に回復させる。これによって、フレッシュな活物質と類似の水準に初期特性を回復または改善できる。」
「【0083】
このような段階S50によって再使用可能な活物質を得ることができる。」
「【0094】
このように、本発明によると、集電体の分離のための熱処理工程及び水洗工程における活物質のリチウム損失を最小化することができる。熱処理工程を最適化することでリチウムの損失を最小化するだけでなく、集電体が熱処理によって活物質と反応または析出される量を最小化することができる。また、水洗工程では、活物質と洗浄溶液との割合を調整することによって、残留時に抵抗として作用し得るLiFを除去しながらも、活物質のリチウム損失を最小化することができる。再使用活物質を得る過程でリチウム元素の損失を最大に防ぐため、一度も使用していないフレッシュな活物質の組成と大きく相違しない。それにもかかわらず足りないリチウムは追加的なリチウム前駆体の添加工程によって行われ、この際、リチウム前駆体の添加量が最小化するため、工程及びコストの面で望ましい。」
3 当審の判断
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)前記2(2)の本件特許明細書の記載から、「熱処理工程」及び「水洗工程」において、「熱処理した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比が、熱処理する前の正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有するようにする」、又は、「水洗した後の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比が、熱処理する前の正極スクラップ中の活物質中のリチウムと他の金属とのモル比に対して20%以内の減少幅を有する」ようにして、「リチウム前駆体を添加してアニーリングする」ことで、リチウム前駆体の添加量を減少させて、前記課題(前記2(1))を解決していると当業者は認識できる。
そして、本件発明1は、これらの事項を特定するものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明において、前記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものといえる。
また、本件発明2~18は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである。
よって、本件発明1~18は、発明の詳細な説明に記載したものである。
4 申立人の主張について
(1)前記1(1)の主張について
本件特許明細書【0063】(前記2(2))の記載をみると、「Niの含量が比較的に低い組成の場合、水洗時間が一週間を越えないと、リチウム消失が相対的に少ない。したがって、一週間以内、望ましくは一日間以内、または1時間以内で水洗を行うことが望ましい。」と記載されるものであり、当該記載は、「Niの含量が比較的に低い組成の場合」、「水洗時間が一週間を越えないと、リチウム消失が相対的に少ない」から、「水洗時間」は、リチウム消失が相対的に少ない「一週間以内、望ましくは一日間以内、または1時間以内で水洗を行う」ことを記載したものと解されるから、「Niの含量が比較的に低い組成の場合」であっても、水洗工程においてリチウム消失することを前提として、水洗時間を決定していると認められる。
そうすると、本件特許明細書には、Niの含量の高低によらず、水洗工程においてリチウム消失することを前提として、水洗時間を決定することが記載されるものであり、「Niの含有量が低い組成の活物質では、もともと溶出するリチウム量が少ないため、「水洗工程における活物質のリチウム損失を最小化する」という課題が存在せず」との主張は、採用することができない。
(2)前記1(2)の主張について
正極活物質中のフッ素化合物の含有量が少ない場合であっても、熱処理によりLiFが形成されることは明らかである。
そうすると、正極活物質層中のフッ素化合物の含有量の多少によらず、水洗工程はLiFを除去するものといえるから、「フッ素の含有量を特定しない「正極活物質層」のすべてにおいて、本発明の課題を解決できるとは当業者が認識できるとはいえない」との主張は採用することができない。
5 申立理由2のまとめ
よって、申立理由2は理由がない。
第7 まとめ
前記第5及び第6によれば、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700269