特許異議申立
2022-701079
二次電池用正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池
- 審判番号
- 2022-701079
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-552659
- 登録番号
- 7062173
- 請求日
- 2022年11月04日
- 審決日
- 2024年02月15日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【権利者代理人】飯田 雅人
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【異議申立人】森本 晋
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7062173号発明「二次電池用正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7062173号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6、12、13〕、〔7-11〕について訂正することを認める。
特許第7062173号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7062173号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、2019年2月1日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2018年2月1日 韓国(KR))を国際出願日として出願したものであって、令和4年4月22日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月6日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和4年11月 4日 特許異議申立人 森本 晋による請求項1ない
し13に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 1月23日付け 取消理由通知
令和5年 4月19日 特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和5年 6月 1日 特許異議申立人による意見書の提出
令和5年 7月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和5年10月24日 特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和5年12月18日 特許異議申立人による意見書の提出
なお、先にした令和5年4月19日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年10月24日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第7062173号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし13について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「Maは、Mn及びAlよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり」と記載されているのを、「Maは、Mnであり」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「Mcは、Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり」と記載されているのを、「Mcは、Al及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に「Maは、Mn及びAlよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり」と記載されているのを、「Maは、Mnであり」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「Mcは、Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり」と記載されているのを、「Mcは、Al及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「前記第2正極活物質の結晶子サイズが200nm以上であり、」と記載されているのを、「前記第2正極活物質の結晶子サイズが200nm以上であり、前記第1正極活物質の結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満であり、」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「前記第2正極活物質は、結晶子サイズが200nm以上となるように過焼成して製造され、」と記載されているのを、「前記第2正極活物質は、結晶子サイズが200nm以上となるように過焼成して製造され、前記第1正極活物質の結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満であり、」に訂正する。
2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6、12、13について、請求項2ないし6、12、13は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1、2、5によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし6、12、13に対応する訂正後の請求項1ないし6、12、13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項7ないし11について、請求項8ないし11は請求項7を引用しているものであって、訂正事項3、4、6によって訂正される請求項7に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項7ないし11に対応する訂正後の請求項7ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る発明において、化学式1中の「Ma」について「Mn及びAlよりなる群から選択された少なくとも一つの元素」とあったのを「Mn」と訂正し、元素の選択肢の一部を削除するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、化学式1中の「Ma」についての上記限定に関して、訂正前の請求項1や本件特許明細書の段落【0030】には「Mn」も選択肢の一つとして記載されている。さらに、段落【0034】には「・・Maは、MnまたはAlであるか、Mn及びAlであってよく、このような金属元素は、活物質の安定性を向上させ、結果として電池の安定性を改善させることができる。」とも記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は上述のとおり、請求項1に係る発明において、化学式1中の「Ma」についてその選択肢の一部を削除することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1に係る発明において、化学式1中の「Mc」について「Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びCrよりなる群から選択された少なくとも一つの元素」とあったのを「Al及びCrよりなる群から選択された少なくとも一つの元素」と訂正し、元素の選択肢の一部を削除するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、化学式1中の「Mc」についての上記限定に関して、訂正前の請求項1や本件特許明細書の段落【0030】には「Al」や「Cr」も選択肢の一つとして記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項2は上述のとおり、請求項1に係る発明において、化学式1中の「Mc」についてその選択肢の一部を削除することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、請求項7に係る発明において、化学式1中の「Ma」について「Mn及びAlよりなる群から選択された少なくとも一つの元素」とあったのを「Mn」と訂正し、元素の選択肢の一部を削除するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、化学式1中の「Ma」についての上記限定に関して、訂正前の請求項7や本件特許明細書の段落【0030】には「Mn」も選択肢の一つとして記載されている。さらに、段落【0034】には「・・Maは、MnまたはAlであるか、Mn及びAlであってよく、このような金属元素は、活物質の安定性を向上させ、結果として電池の安定性を改善させることができる。」とも記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項3は上述のとおり、請求項7に係る発明において、化学式1中の「Ma」についてその選択肢の一部を削除することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
エ.訂正事項4について
訂正事項4は、請求項7に係る発明において、化学式1中の「Mc」について「Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びCrよりなる群から選択された少なくとも一つの元素」とあったのを「Al及びCrよりなる群から選択された少なくとも一つの元素」と訂正し、元素の選択肢の一部を削除するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、化学式1中の「Mc」についての上記限定に関して、訂正前の請求項7や本件特許明細書の段落【0030】には「Al」や「Cr」も選択肢の一つとして記載されている。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項4は上述のとおり、請求項7に係る発明において、化学式1中の「Mc」についてその選択肢の一部を削除することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
オ.訂正事項5について
訂正事項5は、請求項1に係る発明において、「第1正極活物質」について「結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満」であることの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、「第1正極活物質」についての上記限定に関して、本件特許明細書の段落【0070】には「実施例1・・このとき、前記第1正極活物質は、過焼成されないものとして結晶子サイズ(Crystallite size)が145nmであり、前記第2正極活物質は、過焼成されて結晶子サイズ(Crystallite size)が230nm、一次粒子の平均粒径(D50)が2μmであるものを用いた。・・」と記載され、段落【0071】には「実施例2・・このとき、前記第1正極活物質は、過焼成されないものとして結晶子サイズ(Crystallite size)が140nmであり、前記第2正極活物質は、過焼成されて結晶子サイズ(Crystallite size)が260nm、一次粒子の平均粒径(D50)が2μmであるものを用いた。・・」と記載され、第1正極活物質については「過焼成」されないことが記載されている。ここで、「第2正極活物質」に関して本件特許明細書の段落【0021】には「相対的に小粒子である前記第2活物質は過焼成され、結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm以上である。前記第2正極活物質の結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm未満である場合、圧延により正極活物質のクラック(crack)及び破損が発生し、高温寿命特性及び安定性が低下し得る。・・」と記載され、段落【0039】には「・・前記第2正極活物質は、結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm以上となるように過焼成して製造される。」と記載され、その結晶子サイズを200nm以上とするために「過焼成」することが記載されている。してみると、第1正極活物質についてはその結晶子サイズを200nm以上とするための「過焼成」はされないことから、結晶子サイズは200nm未満であると理解することができ、具体的数値としては145nm(実施例1)、140nm(実施例2)の2点しか記載されていないとしても、200nm未満であることは記載されているに等しい事項であるといえる。
したがって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるということができ、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項5は上述のとおり、請求項1に係る発明において、「第1正極活物質」について限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
カ.訂正事項6について
訂正事項6は、請求項7に係る発明において、「第1正極活物質」について「結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満」であることの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、「第1正極活物質」についての上記限定に関して、本件特許明細書の段落【0070】には「実施例1・・このとき、前記第1正極活物質は、過焼成されないものとして結晶子サイズ(Crystallite size)が145nmであり、前記第2正極活物質は、過焼成されて結晶子サイズ(Crystallite size)が230nm、一次粒子の平均粒径(D50)が2μmであるものを用いた。・・」と記載され、段落【0071】には「実施例2・・このとき、前記第1正極活物質は、過焼成されないものとして結晶子サイズ(Crystallite size)が140nmであり、前記第2正極活物質は、過焼成されて結晶子サイズ(Crystallite size)が260nm、一次粒子の平均粒径(D50)が2μmであるものを用いた。・・」と記載され、第1正極活物質については「過焼成」されないことが記載されている。ここで、「第2正極活物質」に関して本件特許明細書の段落【0021】には「相対的に小粒子である前記第2活物質は過焼成され、結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm以上である。前記第2正極活物質の結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm未満である場合、圧延により正極活物質のクラック(crack)及び破損が発生し、高温寿命特性及び安定性が低下し得る。・・」と記載され、段落【0039】には「・・前記第2正極活物質は、結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm以上となるように過焼成して製造される。」と記載され、その結晶子サイズを200nm以上とするために「過焼成」することが記載されている。してみると、第1正極活物質についてはその結晶子サイズを200nm以上とするための「過焼成」はされないことから、結晶子サイズは200nm未満であると理解することができ、具体的数値としては145nm(実施例1)、140nm(実施例2)の2点しか記載されていないとしても、200nm未満であることは記載されているに等しい事項であるといえる。
したがって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるということができ、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項6は上述のとおり、請求項7に係る発明において、「第1正極活物質」について限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
キ.特許異議申立人の主張について
訂正事項5及び訂正事項6における新規事項の有無に関して、特許異議申立人は令和5年12月18日に提出した意見書において、「・・粒径が大きく異なる正極活物質の粒子間において、一方と同様の焼成条件を他方に適用した場合に、両者ともに同様の結晶子サイズとなるとはいえないことは当業者にとって自明である。よって、第2正極活物質が過焼成により結晶子サイズが200nm以上となるからといって、粒径が大きく異なる第1正極活物質も過焼成により結晶子サイズが200nm以上になるとはいえず、過焼成しない場合に200nm未満となるともいえない。」「・・第2正極活物質の焼成条件を第1正極活物質の焼成条件にそのまま当てはめても、同程度の結晶子サイズが得られないことは、当業者にとって明らかであるため、第1正極活物質において、過焼成した場合に必ず結晶子サイズが『200以上』となるとは理解することはできない。」などと主張している。
しかしながら、そもそも第2正極活物質に対して過焼成する場合の焼成条件と、第1正極活物質に対して過焼成する場合の焼成条件とを同じにしなければならない理由はなく、第2正極活物質に対して結晶子サイズを200nm以上とするための過焼成の条件と、第2正極活物質とは粒径が異なる第1正極活物質に対して結晶子サイズを200nm以上とするための過焼成の条件とは異なることがあることは当業者であれば普通に予測し得ることであり、第1正極活物質に対する過焼成する場合の条件を第2正極活物質に対する過焼成する場合の条件と同じにすることを前提とする特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)独立特許要件について
訂正事項1ないし6は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし13の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、請求項1ないし6、12、13に係る訂正事項1、2、5、及び請求項7ないし11に係る訂正事項3、4、6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6、12、13〕、〔7~11〕について訂正することを認める。
第3 当審の判断
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明13」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
第1正極活物質及び第2正極活物質を含み、
前記第1正極活物質の平均粒径(D50)は、前記第2正極活物質の平均粒径(D50)の2倍以上であり、
前記第2正極活物質の結晶子サイズが200nm以上であり、前記第1正極活物質の結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満であり、
前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質は、それぞれ独立して下記化学式1で表され、
[化学式1]
LipNi1-(x1+y1+z1)Cox1May1Mbz1Mcq1O2
前記化学式1中、Maは、Mnであり、Mbは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mcは、Al及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、0.9≦p≦1.5、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4、0≦z1≦0.1、0≦q1≦0.1であり、0<x1+y1+z1≦0.4である、二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記第2正極活物質は、一次粒子が凝集されてなる二次粒子であり、前記第2正極活物質の一次粒子の平均粒径(D50)が1μm以上である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記第2正極活物質の平均粒径(D50)は9μm以下である、請求項1または請求項2に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記第1正極活物質の平均粒径(D50)は8μmから30μmである、請求項1または請求項2に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質は、互いに同一または異なる組成のリチウム複合遷移金属酸化物である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記第1正極活物質と前記第2正極活物質は、9:1から1:9の重量比で混合されている、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
第1正極活物質及び第2正極活物質を提供した後、前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質を混合する段階を含み、
前記第1正極活物質の平均粒径(D50)は、前記第2正極活物質の平均粒径(D50)の2倍以上であり、前記第2正極活物質は、結晶子サイズが200nm以上となるように過焼成して製造され、前記第1正極活物質の結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満であり、
前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質は、それぞれ独立して下記化学式1で表され、
[化学式1]
LipNi1-(x1+y1+z1)Cox1May1Mbz1Mcq1O2
前記化学式1中、Maは、Mnであり、Mbは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mcは、Al及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、0.9≦p≦1.5、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4、0≦z1≦0.1、0≦q1≦0.1であり、0<x1+y1+z1≦0.4である、二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記第2正極活物質は一次粒子が凝集されてなる二次粒子であり、前記第2正極活物質の一次粒子の平均粒径(D50)が1μm以上である、請求項7に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記第2正極活物質の平均粒径(D50)は9μm以下である、請求項7または請求項8に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記第1正極活物質の平均粒径(D50)は8から30μmである、請求項7または請求項8に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記第1正極活物質と第2正極活物質は、9:1から1:9の重量比で混合される、請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、二次電池用正極。
【請求項13】
請求項12に記載の正極を含む、リチウム二次電池。」
2.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和5年7月31日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取り消し理由の概要は、次のとおりである。
請求項1ないし13に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明及び周知の技術事項(下記の引用例2,3に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
1.特開2013-65467号公報(甲第1号証)
2.特開2017-188421号公報(甲第3号証)
3.国際公開第2014/061653号(甲第4号証)
(2)引用例の記載事項
(2-1)引用例1
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用例1(特開2013-65467号公報、甲第1号証)には、「リチウムイオン二次電池」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在する多孔質絶縁層および前記多孔質絶縁層に含浸される非水電解質を含み、
前記正極は、正極芯材および前記正極芯材に付着した正極活物質層を含み、
前記正極活物質層は、第1活物質と第2活物質との混合物を含み、
前記第1活物質は、平均粒子径D1の二次粒子P1を含み、前記二次粒子P1は、
0.5μm≦d1≦2μmを満たす平均粒子径d1の複数の一次粒子p1の焼結体であり、
前記第2活物質は、平均粒子径D2の二次粒子P2、ただしD2<D1、を含み、前記二次粒子P2は、平均粒子径d2の複数の一次粒子p2の焼結体であり、
前記二次粒子P1の内部の空隙率が、3%~10%であり、
前記正極活物質層の活物質密度が、3.65g/cm3以上である、リチウムイオン二次電池。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項3】
20μm≦D1≦35μmを満たす、請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
4μm≦D2≦8μmを満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項6】
前記第1活物質および第2活物質が、それぞれ独立に、一般式:LixNi1-yMyO2(0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.7、Mは、Co、Mn、Fe、Ti、Al、Mg、Ca、Sr、Zn、Y、Yb、NbおよびAsよりなる群から選択される少なくとも1種)で表されるリチウムニッケル酸化物である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。」
イ.「【0016】
本発明では、リチウムイオン二次電池の高容量化を達成するために、正極活物質として、大粒径粒子の活物質と小粒径粒子の活物質とを混合して用い
、更に、正極活物質層の活物質密度を3.65g/cm3にまで高めている。高容量なリチウムイオン二次電池、特にエネルギー密度が600Wh/L以上(更には600~1000Wh/L)のリチウムイオン二次電池においては、一般に、正極活物質層の活物質密度は、極限またはそれに近い状況にまで高められている。そのため、高容量である反面、非水電解質と活物質との接触面積が制限され、レート特性を確保することが困難となっている。また、活物質層に活物質粒子が高密度に充填されているため、粒子割れが生じやすく、サイクル特性を確保することも困難となっている。
・・・・(中 略)・・・・
【0018】
具体的には、本発明では、正極芯材およびこれに付着した正極活物質層を含む正極において、正極活物質層に、第1活物質と第2活物質との混合物を含ませている。また、正極活物質層の活物質密度は3.65g/cm3以上にまで高められている。ここで、第1活物質は、平均粒子径D1の二次粒子P1を含み、二次粒子P1は平均粒子径d1(0.5μm≦d1≦2μm)の複数の一次粒子p1の焼結体である。二次粒子P1の内部の空隙率は3%~10%に制御されている。また、第2活物質は、平均粒子径D2の二次粒子P2(ただしD2<D1)を含み、二次粒子P2は平均粒子径d2の複数の一次粒子p2の焼結体である。
・・・・(中 略)・・・・
【0020】
二次粒子の破壊強度を高め、粒子割れを抑制するとともに、正極の活物質密度を高める観点から、二次粒子P1の平均粒子径D1は、20μm≦D1≦35μmを満たすことが好ましい。また、二次粒子P2の平均粒子径D2は、4μm≦D2≦8μmを満たすことが好ましい。
・・・・(中 略)・・・・
【0022】
第1活物質および第2活物質としては、それぞれ独立に、例えば、一般式:LixNi1-yMyO2(0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.7、Mは、Co、Mn、Fe、Ti、Al、Mg、Ca、Sr、Zn、Y、Yb、NbおよびAsよりなる群から選択される少なくとも1種)で表されるリチウムニッケル酸化物が好適である。第1活物質および第2活物質の組成は、同じでもよく、互いに異なってもよい。また、第1活物質と第2活物質の組成が同じでも、活物質粒子内での元素の分布は異なっていてもよい。」
ウ.「【0033】
二次粒子P1の平均粒子径D1は、体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)であり、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求めることができる。正極活物質層の活物質密度を高めることを容易にする観点から、D1は、例えば10μm以上、15μm以上または20μm以上であることが好ましい。一方、正極活物質層の厚みに対して、活物質粒子の最大粒子径(50μm未満が好ましい)が大きくなりすぎないように、D1は45μm以下、40μm以下または35μm以下とすることが好ましい。D1の好ましい範囲については、これらの上限と下限を任意に組み合わせることができる。例えば、D1は20μm≦D1≦35μmを満たすことが好ましい。これにより、大粒径粒子により形成される隙間に小粒径粒子が充填されやすくなり、活物質密度を向上させることが容易となる。
・・・・(中 略)・・・・
【0038】
二次粒子P2の平均粒子径D2は、体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)であり、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求めることができる。正極活物質層の活物質密度を高めることを容易にする観点から、D2は、例えば3μm以上、4μm以上または5μm以上であることが好ましい。D2を3μm以上とすることで、第2活物質だけが弱い力で凝集するのを抑制でき、活物質密度の低下を防止しやすい。一方、大粒径粒子の活物質である第1活物質の間に第2活物質を充填しやすくする観点から、D2は、例えば8μm以下、7μm以下または6μm以下が好ましい。D2の好ましい範囲については、これらの上限と下限を任意に組み合わせることができる。」
エ.「【0073】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
(a)正極の作製
正極活物質として、組成がLiNi0.80Co0.15Al0.05O2の大粒径粒子である第1活物質と、同じく組成がLiNi0.80Co0.15Al0.05O2の小粒径粒子である第2活物質との混合物を用いた。
・・・・(中 略)・・・・
【0081】
(正極合剤ペースト)
第1活物質および第2活物質は、いずれも全体が一次粒子の焼結体からなる二次粒子であり、その平均粒子径はそれぞれ27μmおよび5μmであった。遊離した一次粒子はほとんど見られなかった。これらを第1活物質の質量W1と第2活物質の質量W2との比(W1/W2)が8/2となるように混合し、正極活物質とした。
・・・・(中 略)・・・・
【0097】
《実施例3》
第1活物質の前駆体である水酸化物の酸化焼成において、焼成温度を950℃に変更したこと以外、実施例1と同様に電池を作製した。得られた第1活物質の断面SIM像を図5に示す。」
オ.「【0111】
【表1】
[図:0001410185000001.jpg]
【0112】
表1中、第1活物質および第2活物質の二次粒子P1、P2の平均粒子径をD1、D2、第1活物質の質量(W1)と第2活物質の質量(W2)との比をW1:W2、NiとCoとAlとの合計に対するLiのモル比をLi/NiCoAl、第1活物質の一次粒子p1の平均粒子径をd1で示す。」
上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・上記引用例1に記載の「リチウムイオン二次電池」は、上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」の記載によれば、正極活物質層に、第1活物質と第2活物質との混合物を含んでなるものである。第1活物質は、平均粒子径D1の二次粒子P1を含み、第2活物質は、平均粒子径D2の二次粒子P2を含み、D2<D1すなわち第1活物質は大粒径粒子であり、第2活物質は小粒径粒子である。
・上記「ア.」の【請求項3】~【請求項4】、「イ.」の段落【0020】、「ウ.」の記載によれば、第1活物質の平均粒子径D1(D50)は20μm≦D1≦35μmを満たし、また、第2活物質の平均粒子径D2(D50)は4μm≦D2≦8μmを満たすものであり、上記「エ.」、「オ.」の記載によれば、実施例3では、第1活物質の平均粒子径D1(D50)が27μmであり、第2活物質の平均粒子径D2(D50)が5μmである。
・上記「ア.」の【請求項6】、「イ.」の段落【0022】の記載によれば、第1活物質及び第2活物質の組成は同じでもよく、一般式:LixNi1-yMyO2(0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.7、Mは、Co、Mn、Fe、Ti、Al、Mg、Ca、Sr、Zn、Y、Yb、NbおよびAsよりなる群から選択される少なくとも1種)で表されるものであり、上記「エ.」の記載によれば、実施例3では、第1活物質の組成がLiNi0.80Co0.15Al0.05O2であり、前記第2活物質の組成が同じくLiNi0.80Co0.15Al0.05O2である。
以上のことから、特に実施例3に係るリチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質に着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「大粒径粒子である第1活物質と小粒径粒子である第2活物質との混合物を含み、
前記第1活物質は平均粒子径D1(D50)が27μmの二次粒子であり、前記第2活物質は平均粒子径D2(D50)が5μmの二次粒子であり、
前記第1活物質の組成がLiNi0.80Co0.15Al0.05O2であり、前記第2活物質の組成が同じくLiNi0.80Co0.15Al0.05O2である、リチウムイオン二次電池用の正極活物質。」
さらに、上記正極活物質の製造方法に着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明’」という。)も記載されている。
「大粒径粒子である第1活物質と小粒径粒子である第2活物質とを混合する段階を含み、
前記第1活物質は平均粒子径D1(D50)が27μmの二次粒子であり、前記第2活物質は平均粒子径D2(D50)が5μmの二次粒子であり、
前記第1活物質の組成がLiNi0.80Co0.15Al0.05O2であり、前記第2活物質の組成が同じくLiNi0.80Co0.15Al0.05O2である、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法。」
(2-2)引用例2
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用例2(特開2017-188421号公報、甲第3号証)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0013】
具体的に、本発明に係る非水電解質二次電池用の正極活物質粒子は、六方晶層状岩塩構造を有する正極活物質粒子であって、組成式がLix(Ni1-y-zCoyMnz)O2-δ(1.00≦x≦1.07、0.10≦y≦0.40、0.10≦z≦0.40、0.3≦y+z≦0.7)であり、当該正極活物質粒子を正極に用い、負極としてLiを用いて非水電解質二次電池を組んで、60℃環境下で4.6Vまで0.2Cレート(電流密度16mA/g)で初期充電を行い、横軸に電圧を示し、縦軸に初期充電容量を電圧で微分した値であるdQ/dVを示したグラフ(dQ/dV曲線)を作成したとき、該グラフ内で電圧が4.3V以上4.52V以下の範囲における面積の大きさが35mAh/g以下であることを特徴とする。
・・・・(中 略)・・・・
【0018】
本発明に係る正極活物質粒子は、結晶子サイズが200nm以上900nm以下であり、且つ平均二次粒子径(D50)が3μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0019】
結晶子サイズは200nmより小さいときは正極活物質粒子自体が不安定となってしまう。900nmより大きいときは電池に用いた際に電池特性が悪化してしまう。より好ましい範囲は200~600nmである。また、平均二次粒子径(D50)は3μmより小さいときは電池に用いる場合に密度が小さくなりすぎて実用的ではない。20μmより大きいときは電池特性が不安定となってしまう。従って、上記範囲内であることが好ましい。ここで、粒度分布はバイモーダルであってもよい。その際における平均二次粒子径(D50)も3~20μmとなる。好ましい平均二次粒子径(D50)は5~18μmである。」
イ.「【0038】
また、本実施形態に係る正極活物質粒子では、結晶子サイズは200~
900nmで、且つ平均二次粒子径は3μm~20μmである。結晶子サイズは200nmより小さいときは不安定となってしまう。900nmより大きいときは電池特性が悪化してしまう。より好ましい範囲は200~600nmであり、更により好ましくは200~400nmである。」
上記「ア.」及び「イ.」の記載を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「組成式がLix(Ni1-y-zCoyMnz)O2-δ(1.00≦x≦1.07、0.10≦y≦0.40、0.10≦z≦0.40、0.3≦y+z≦0.7)である非水電解質二次電池用の正極活物質粒子の結晶子サイズについて、200nmより小さいときは正極活物質粒子自体が不安定となってしまうことから、200nm以上であることが好ましいこと」
(2-3)引用例3
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用例3(国際公開第2014/061653号、甲第4号証)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[0003] 従来、4V級の電圧をもつ高エネルギー型の
リチウムイオン二次電池に有用な正極活物質としては、スピネル型構造のLiMn2O4、ジグザグ層状構造のLiMnO2、層状岩塩型構造のLiCoO2、LiNiO2等が一般的に知られており、なかでもLiNiO2を用いたリチウムイオン二次電池は高い充放電容量を有する電池として注目されてきた。しかし、この材料は、充電時の熱安定性及び充放電サイクル耐久性に劣る為、更なる特性改善が求められている。
・・・・(中 略)・・・・
[0005] またLi-Ni複合酸化物は、粉末を構成する一次粒子径が小さい為、充填密度の高いLi-Ni複合酸化物を得るにはそれらが密に凝集した二次粒子を形成するように物性を制御する必要がある。しかし、二次粒子が形成されたLi-Ni複合酸化物は、電極作成時のコンプレッションによって二次粒子破壊が発生して表面積が増加し、高温充電状態保存時に電解液との反応が促進され電極界面に形成した不導体膜によって二次電池としての抵抗が上昇するといった特徴がある。またLi-Ni複合酸化物は、Li-Co複合酸化物と比較して、低い温度から酸素放出を伴う分解反応が始まり、放出された酸素が電解液の燃焼を引き起こし、電池の温度が急激に上昇したり、電池が爆発したりする危険性がある。そこで、高温保存時の熱安定性を改善するためには、放電容量が低下しない程度に結晶子サイズ(一次粒子径)を効率的に大きくして、電解液との反応を抑える、あるいは結晶構造を安定化させる必要がある。」
イ.「[0040] 本発明に係るLi-Ni複合酸化物粒子粉末のX線回折のリートベルト解析から得られる結晶子サイズは500nm以下であることが好ましい。結晶子サイズが500nmより大きい場合には、リチウムイオンの拡散抵抗が高くなり、初期の放電容量が低下するため好ましくない。結晶子サイズの下限値は通常100nmである。結晶子サイズは、好ましくは100nm以上、450nm以下であり、より好ましくは200nm以上
、400nm以下である。」
上記「ア.」及び「イ.」の記載を総合勘案すると、引用例3には、次の技術事項が記載されている。
「リチウムイオン二次電池に有用なLi-Ni複合酸化物からなる正極活物質について、高温保存時の熱安定性を改善するためには、結晶子サイズを効率的に大きくして、電解液との反応を抑える、あるいは結晶構造を安定化させる必要があり、より好ましくは結晶子サイズは200nm以上であること。」
(3)取消理由についての当審の判断
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
a.引用発明における大粒径粒子である「第1活物質」、小粒径粒子である「第2活物質」は、それぞれ本件発明1でいう「第1正極活物質」、「第2正極活物質」に相当し、「第1活物質」の平均粒子径D1(D50)は27μm、「第2活物質」の平均粒子径D2(D50)は5μmであるから、「第1活物質」の平均粒子径D1(D50)は、「第2活物質」の平均粒子径D2(D50)の5倍以上であり、本件発明1で特定する「2倍以上」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明1と引用発明とは「第1正極活物質及び第2正極活物質を含み、前記第1正極活物質の平均粒径(D50)は、前記第2正極活物質の平均粒径(D50)の2倍以上」である点で一致する。
b.本件発明1では「前記第2正極活物質の結晶子サイズが200nm以上であり、前記第1正極活物質の結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満」であることを特定するのに対し、引用発明はそのような特定を有していない点で相違する。
c.引用発明における「第1活物質」の組成及び「第2活物質」の組成はいずれも「LiNi0.80Co0.15Al0.05O2」であり、本件発明1で特定する「化学式1」中、p=1、x1=0.15、y1=0.05、z1=0、q1=0、x1+y1+z1=0.2の場合に相当し、それぞれ本件発明1の「化学式1」について特定する「0.9≦p≦1.5」、「0<x1≦0.4」、「0<y1≦0.4」、「0≦z1≦0.1」、「0≦q1≦0.1」、「0<x1+y1+z1≦0.4」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明1と引用発明とは「前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質は、それぞれ独立して下記化学式1で表され、
[化学式1]
LipNi1-(x1+y1+z1)Cox1May1Mbz1Mcq1O2
前記化学式1中、Maは、所定の元素であり、Mbは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mcは、Al及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、0.9≦p≦1.5、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4、0≦z1≦0.1、0≦q1≦0.1であり、0<x1+y1+z1≦0.4」である点で共通する。
ただし、化学式1中の所定の元素である「Ma」について、本件発明1では「Mn」であることを特定するのに対し、引用発明ではAlである点で相違する。
d.そして、引用発明における「リチウムイオン二次電池用の正極活物質」は、本件発明1でいう「二次電池用正極活物質」に相当する。
したがって上記「a.」ないし「d.」によれば、本件発明1と引用発明とは、
「第1正極活物質及び第2正極活物質を含み、
前記第1正極活物質の平均粒径(D50)は、前記第2正極活物質の平均粒径(D50)の2倍以上であり、
前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質は、それぞれ独立して下記化学式1で表され、
[化学式1]
LipNi1-(x1+y1+z1)Cox1May1Mbz1Mcq1O2
前記化学式1中、Maは、所定の元素であり、Mbは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mcは、Al及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、0.9≦p≦1.5、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4、0≦z1≦0.1、0≦q1≦0.1であり、0<x1+y1+z1≦0.4である、二次電池用正極活物質。」
である点で一致し、次の点で相違するといえる。
[相違点1]
本件発明1では「前記第2正極活物質の結晶子サイズが200nm以上であり、前記第1正極活物質の結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満」であることを特定するのに対し、引用発明はそのような特定を有していない点。
[相違点2]
化学式1中の所定の元素である「Ma」について、本件発明1では「Mn」であることを特定するのに対し、引用発明ではAlである点。
(イ)判断
そこで、まず上記相違点1について検討する。
正極活物質の結晶子サイズ、特にその下限値について、例えば引用例2には、組成式がLix(Ni1-y-zCoyMnz)O2-δ(1.00≦x≦1.07、0.10≦y≦0.40、0.10≦z≦0.40、0.3≦y+z≦0.7)である非水電解質二次電池用の正極活物質粒子の結晶子サイズについて、200nmより小さいときは正極活物質粒子自体が不安定となってしまうことから、200nm以上であることが好ましいことが記載(上記(2-2)を参照)され、引用例3には、リチウムイオン二次電池に有用なLi-Ni複合酸化物からなる正極活物質について、高温保存時の熱安定性を改善するためには、結晶子サイズを効率的に大きくして、電解液との反応を抑える、あるいは結晶構造を安定化させる必要があり、より好ましくは結晶子サイズは200nm以上であることが記載(上記(2-3)を参照)されているように、リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質の安定化等のためにその結晶子サイズを200nm以上とすることは周知といえる技術事項である。
しかしながら、これら引用例2、3には、正極活物質が大粒径粒子の活物質と小粒径粒子の活物質の混合物である場合に、小粒径粒子の活物質のみについて結晶子サイズを200nm以上とすることまでは記載も示唆なく、引用発明に対して上記周知の技術事項を適用した場合、大粒径粒子である第1活物質及び小粒径粒子である第2活物質の双方について結晶子サイズを200nm以上とすることが導き出せるにすぎず、小粒径粒子である第2活物質のみについて結晶子サイズを200nm以上とすること、すなわち相違点1に係る構成とすることまでは導き出すことはできない。
なお、特許異議申立人が提示した甲第2号証(国際公開第2017/187638号)には、NMC複合酸化物を合成する場合に、平均一次粒子径および結晶粒子は焼成条件(焼成温度、焼成時間)を調節することで制御することができるという周知ともいえる技術事項が記載(段落[0043]を参照)されているにすぎず、かかる甲第2号証の記載を参照したとしても、引用発明において相違点1に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点2)について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし6、12、13について
請求項2ないし6、12、13は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点1に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし6、12、13は、引用例1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明7について
(ア)対比
本件発明7と引用発明’とを対比する。
a.引用発明’における大粒径粒子である「第1活物質」、小粒径粒子である「第2活物質」は、それぞれ本件発明7でいう「第1正極活物質」、「第2正極活物質」に相当し、引用発明’においても、第1活物質と第2活物質とを混合するにあたって、第1活物質及び第2活物質をそれぞれ提供する必要があることは自明なことである。
そして、引用発明’における「第1活物質」の平均粒子径D1(D50)は27μm、「第2活物質」の平均粒子径D2(D50)は5μmであるから、「第1活物質」の平均粒子径D1(D50)は、「第2活物質」の平均粒子径D2(D50)の5倍以上であり、本件発明7で特定する「2倍以上」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明7と引用発明’とは「第1正極活物質及び第2正極活物質を提供した後、前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質を混合する段階を含み、前記第1正極活物質の平均粒径(D50)は、前記第2正極活物質の平均粒径(D50)の2倍以上」である点で一致する。
b.本件発明7では「前記第2正極活物質は、結晶子サイズが200nm以上となるように過焼成して製造され、前記第1正極活物質の結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満」であることを特定するのに対し、引用発明’はそのような特定を有していない点で相違する。
c.引用発明’における「第1活物質」の組成及び「第2活物質」の組成はいずれも「LiNi0.8080Co0.15Al0.05O2」であり、本件発明7で特定する「化学式1」中、p=1、x1=0.15、y1=0.05、z1=0、q1=0、x1+y1+z1=0.2の場合に相当し、それぞれ本件発明7の「化学式1」について特定する「0.9≦p≦1.5」、「0<x1≦0.4」、「0<y1≦0.4」、「0≦z1≦0.1」、「0≦q1≦0.1」、「0<x1+y1+z1≦0.4」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明7と引用発明’とは「前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質は、それぞれ独立して下記化学式1で表され、
[化学式1]
LipNi1-(x1+y1+z1)Cox1May1Mbz1Mcq1O2
前記化学式1中、Maは、所定の元素であり、Mbは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mcは、Al及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、0.9≦p≦1.5、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4、0≦z1≦0.1、0≦q1≦0.1であり、0<x1+y1+z1≦0.4」である点で共通する。
ただし、化学式1中の所定の元素である「Ma」について、本件発明7では「Mn」であることを特定するのに対し、引用発明’ではAlである点で相違する。
d.そして、引用発明’における「リチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法」は、本件発明7でいう「二次電池用正極活物質の製造方法」に相当する。
したがって上記「a.」ないし「d.」によれば、本件発明7と引用発明’とは、
「第1正極活物質及び第2正極活物質を提供した後、前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質を混合する段階を含み、
前記第1正極活物質の平均粒径(D50)は、前記第2正極活物質の平均粒径(D50)の2倍以上であり、
前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質は、それぞれ独立して下記化学式1で表され、
[化学式1]
LipNi1-(x1+y1+z1)Cox1May1Mbz1Mcq1O2
前記化学式1中、Maは、所定の元素であり、Mbは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mcは、Al及びCrよりなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、0.9≦p≦1.5、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4、0≦z1≦0.1、0≦q1≦0.1であり、0<x1+y1+z1≦0.4である、二次電池用正極活物質の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違するといえる。
[相違点3]
本件発明7では「前記第2正極活物質は、結晶子サイズが200nm以上となるように過焼成して製造され、前記第1正極活物質の結晶子サイズは、前記第2正極活物質の結晶子サイズよりも小さく200nm未満」であることを特定するのに対し、引用発明’はそのような特定を有していない点。
[相違点4]
化学式1中の所定の元素である「Ma」について、本件発明7では「Mn」であることを特定するのに対し、引用発明’ではAlである点。
(イ)判断
そこで、まず上記相違点3について検討する。
正極活物質の結晶子サイズ、特にその下限値について、例えば引用例2には、組成式がLix(Ni1-y-zCoyMnz)O2-δ(1.00≦x≦1.07、0.10≦y≦0.40、0.10≦z≦0.40、0.3≦y+z≦0.7)である非水電解質二次電池用の正極活物質粒子の結晶子サイズについて、200nmより小さいときは正極活物質粒子自体が不安定となってしまうことから、200nm以上であることが好ましいことが記載(上記(2-2)を参照)され、引用例3には、リチウムイオン二次電池に有用なLi-Ni複合酸化物からなる正極活物質について、高温保存時の熱安定性を改善するためには、結晶子サイズを効率的に大きくして、電解液との反応を抑える、あるいは結晶構造を安定化させる必要があり、より好ましくは結晶子サイズは200nm以上であることが記載(上記(2-3)を参照)されているように、リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質の安定化等のためにその結晶子サイズを200nm以上とすることは周知といえる技術事項である。
しかしながら、これら引用例2、3には、正極活物質が大粒径粒子の活物質と小粒径粒子の活物質の混合物である場合に、小粒径粒子の活物質のみについて結晶子サイズを200nm以上とすることまでは記載も示唆なく、引用発明’に対して上記周知の技術事項を適用した場合、大粒径粒子である第1活物質及び小粒径粒子である第2活物質の双方について結晶子サイズを200nm以上とすることが導き出せるにすぎず、小粒径粒子である第2活物質のみについて結晶子サイズを200nm以上とすること、すなわち相違点3に係る構成とすることまでは導き出すことはできない。
なお、特許異議申立人が提示した甲第2号証(国際公開第2017/187638号)には、NMC複合酸化物を合成する場合に、平均一次粒子径および結晶粒子は焼成条件(焼成温度、焼成時間)を調節することで制御することができるという周知ともいえる技術事項が記載(段落[0043]を参照)されているにすぎず、かかる甲第2号証の記載を参照したとしても、引用発明’において相違点3に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点4)について検討するまでもなく、本件発明7は、引用例1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.本件発明8ないし11について
請求項8ないし11は請求項7を引用するものであり、少なくとも上記相違点3に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明7についての判断と同様の理由により、本件発明8ないし11は、引用例1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ.特許異議申立人の主張について
上記「ア.本件発明1について」に記載した相違点1についての判断、及び「ウ.本件発明7について」に記載した相違点3についての判断に関して、特許異議申立人は令和5年12月18日に提出した意見書において次のような主張をしている。
(ア)引用例1の段落【0034】には、第1活物質(大粒径粒子)の一次粒子p1の平均粒子径について「0.5μm≦d1≦2μm」とすることが記載され、d1が0.5μm未満になると、二次粒子P1の破壊強度が不十分になり、粒子割れが発生しやすくなること、d1が2μmを超えると、電荷移動抵抗が低下し、負極側へ放出されるリチウムイオンが多くなり、サイクル特性が低下しやすくなることが記載されている。一方、本件特許の実施例及び比較例では、過焼成を行った第2正極活物質は結晶子サイズが「230nm」、一次粒子径が「2μm」であり、過焼成を行わない第2正極活物質は結晶子サイズが「130nm」、一次粒子径が「0.5μm」であることが記載されている。よって、引用発明において、粒子割れの発生の抑制と、電荷移動抵抗の低下とのバランスを考慮して、第1活物質の一次粒子径を0.5μm以上2μm以下の範囲で調整することにより、結晶子サイズを200nm前後の範囲で変更することは当業者にとって単なる設計変更である。
(イ)引用例2、3の記載から、結晶子サイズが200nm以上の正極活物質粒子においては、平均二次粒子径が3μm以上20μm以下、又は、1μm以上20μm程度が好ましく、20μm超える場合、工業的に生産が困難であり、電池特性が不安定となることが読み取れる。よって、引用発明では第1活物質が平均粒径D1(D50)が27μmの二次粒子であり、第2活物質が平均粒子径D2(D50)が5μmの二次粒子であるため、引用発明に引用例2、3の周知技術(正極活物質の安定化等のためにその結晶子サイズを200nm以上とする技術)を組み合わせようとした場合、二次粒子径が3~20μmの範囲である第2活物質のみに引用例2、3の周知技術を適用することは当業者にとって容易である。
そこで上記主張について検討する。
(ア)の主張について
特許異議申立人の上記主張によれば、第1活物質(大粒径粒子)の一次粒子径が0.5μm以上2μm以下の範囲の場合、それに対応する結晶子サイズは130nm以上230nm以下の範囲ということになり、必ずしも200nm未満とする必要があるわけではないことに加えて、引用例1の段落【0040】には「一次粒子p2の平均粒子径d2は、特に制限されないが、例えば一次粒子p1の平均粒子径d1と同程度でよい。」と記載され、第2活物質(小粒径粒子)の一次粒子径も第1活物質(大粒径粒子)と同程度とされることも記載されており、あえて第1活物質の一次粒子径のみを調整し、その結晶子サイズが200nm未満となるように変更すべき動機があるとはいえない。
(イ)の主張について
引用例2、3に記載された平均二次粒子径の範囲はあくまでも好ましい値の範囲にすぎず、またそもそも一次粒子が凝集した「二次粒子」の径であり、「結晶子サイズ」と密接な技術的関係があるわけではないといえ、引用発明に引用例2、3の周知技術(正極活物質の安定化等のためにその結晶子サイズを200nm以上とする技術)を組み合わせる際に、当業者といえどもあえて二次粒子径の値に着目して第2活物質のみに選択的に適用しようとまでは想到し得ないことである。
よって、特許異議申立人の相違点1及び相違点3についての判断に関する主張はいずれも採用することはできない。
カ.まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
3.令和5年7月31日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
令和5年7月31日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1-1)申立理由1(明確性要件)
請求項1ないし13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1-2)申立理由2(サポート要件)
請求項1ないし13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)申立理由についての当審の判断
(2-1)申立理由1(明確性要件)について
特許異議申立人は以下のような明確性要件についての記載不備を主張している。
ア.訂正前の請求項1において、「前記第2正極活物質の結晶子サイズが200nm以上」であると特定されている。ここで、本件特許明細書の段落【0022】には、結晶子サイズはXRD測定データを用いてシェラーの式を介して導出され得ることが記載されている。しかしながら、シェラーの式を用いて結晶子サイズを算出する場合、どの結晶面のピークの半値幅を用いるかを特定する必要があり(例えば甲第5号証(特許第6108141号公報)の段落【0033】~【0034】を参照)、計算に用いる結晶面によって、シェラーの式から算出される結晶子サイズは異なることが当業者にとって技術常識であるところ、本件特許明細書の記載を参酌してもどの結晶面を用いるのか不明なため、請求項1の「結晶子サイズ」の算出方法が不明であり、当該「結晶子サイズ」は一義的に決定されているとはいえず不明確である。訂正前の請求項7についても同様である。
イ.訂正前の請求項1において、化学式1中のMa、Mb及びMcについて「Maは、Mn及びAlよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mbは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mcは、Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びCrよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり」と特定されている。ここで、化学式1において、「Al」は、Ma、Mcの両方で記載され、「Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMo」は、Mb、Mcの両方に記載されており、正極活物質がこれらの元素を含む場合、Ma、Mb及びMcのいずれに該当するのかが不明である。訂正前の請求項7についても同様である。
ウ.訂正前の請求項7において、「前記第2正極活物質は、結晶子サイズが200nm以上となるように過焼成して製造され」と特定されている。ここで、本件特許明細書の段落【0021】、【0042】の記載によれば、過焼成とは、例えば一般的な正極活物質の焼成温度である「約800から1000℃」の範囲より約50℃ほど増加させた温度、すなわち「約850から1050℃」で焼成することをいうとも読み取れる。しかしながら、上記焼成範囲の中でも「850℃~1000℃」の範囲は、本件特許明細書に記載される一般的な正極活物質の焼成温度と重複する範囲であるため、この温度範囲で焼成する場合、過焼成しているのか、過焼成していないのかは不明であり、また、「一般的な正極活物質の焼成温度」をどのように決めるのかも不明であって、請求項7でいう「過焼成」が何を意味しているのかが不明である。
そこで、上記主張について検討する。
「ア.」の主張について
XRD測定データを用いてシェラーの式を介して結晶子サイズを導出する際に、XRD測定データに複数のピークが現れる場合には、特に断りがない限り、最も大きなピークであるメインピークを用いるのが技術常識であるといえるところ、本件発明1、7における正極活物質(第1正極活物質、第2正極活物質)のように化学式1で表されるリチウム複合遷移金属酸化物においては通常、(003)面のピークがメインピークとなることは当業者にとって自明なことである(例えば特許第7214690号公報の段落【0016】、【0023】の記載、特許第7183812号公報の段落【0030】、【0038】の記載も参照)。してみると、本件特許明細書にはどの結晶面のピークを用いるのかについて特に断りがないことから、当業者であれば、結晶子サイズを(003)面のメインピークを用いてシェラーの式を介して導出しているものと理解することができるといえ、本件特許明細書にどの結晶面のピークを用いたかの明記がないからといって、請求項1、7の「結晶子サイズ」の算出方法が不明であり、当該「結晶子サイズ」が一義的に決定されていないとまではいえない。
ここで、特許異議申立人は令和5年12月18日に提出した意見書において、甲第5号証(特許第6108141号公報)、参考文献1(国際公開第2017/221554号)、参考文献2(特開2004-335278号公報)、及び参考文献3(特開2017-117529号公報)等では、特に結晶子サイズが200nm未満である正極活物質において、シェラーの式を用いて結晶子径を測定する際は、(003)面だけでなく、(104)面、(111)面を対象とすることが記載されている。また、参考文献5(M. Y. Song et al. Journal of Applied Electrochemistry,36:801-805,2006)、参考文献6(M. S. Idris and A. R. West, Journal of The Electrochemical Society,159(4)A396-A401,2012)に記載のように、焼成条件によりXRDパターンのピーク強度が異なり、(003)面へのピーク強度と(104)面のピーク強度の比が1前後の範囲で変化することは当業者にとって技術常識であり、さらに、上記参考文献6、参考文献7(特表2015-535801号公報)及び参考文献8(国際公開第2017/061633号)に記載のように、(104)面のピーク強度と比較して(003)面のピーク強度の方がカチオンミキシングにより変動しやすいことも当業者にとって技術常識であり、加えて、参考文献4(特開平11-25957号公報)では(003)面のピーク強度よりも(104)面のピーク強度が大きいことが記載され、参考文献9(特開2016-110889号公報)でも(003)面の回折ピーク強度と(104)面の回折ピーク強度との比が0.92以上1.02以下であることが記載されており、NCM系正極活物質において必ずしも(003)面の回折ピークがメインピークとなるともいえない。以上から、前回提出の意見書にて特許権者が主張するように「シェラーの式を用いてNCM系正極活物質の結晶子サイズを導出することは、(003)面のメインピークを対象とするのが当業界においては自明に知られている技術常識」であるとはいえない旨、さらに主張している。
しかしながら、上記甲第5号証の段落【0035】には、(003)面のピークから算出される結晶子サイズαと、(104)面のピークから算出される結晶子サイズβとの比であるα/βの値が1よりも大きいほどZ軸に対して平行に結晶子が異方成長したものであることを示し、α/βの値が1に近づくほど結晶子が等方成長したものであることを示し、α/βを1.60以上2.40以下とすることが記載され、上記参考文献4でも表1に示された実施例5~23のうち、ピーク強度比I(003)/I(104)の値が1以下である実施例はわずか3つにすぎず、他のほとんどは1より大きいものである。また、上記参考文献7の図2(A)~(C)にはLiCoO2におけるカチオンミキシングに関するX線開設パターンシミュレーションが示されているところ、カチオンミキシングは充放電に伴う劣化として生じるものであって、本件発明に係る正極活物質としては使用される前(劣化する前)の状態のものが想定されるべきものであり、図2(A)~(C)で言えば、カチオンミキシング0%の(A)の場合が相当するといえ、(003)面のピークがメインピークとなっている。さらに、上記参考文献8の段落[0045]~[0046]には、(003)面と(104)面のピーク強度の比「(003)/(104)」が1.2以上であり、このピーク強度比が大きいほど乱れの少ない層状岩塩型構造であることが記載されているところであり、焼成条件などによっては(003)面のピーク強度よりも(104)面のピーク強度が大きくなる場合があるとしても、当業者であれば、特に断りがない限りは通常、メインピークとなる(003)面のピークを用いて結晶子サイズを導出しているものと理解することができることは上述したとおりである。
よって、特許異議申立人のさらなる上記主張を踏まえても、上記「ア.」の主張は採用できない。
「イ.」の主張について
本件発明1、7には化学式1中のMa、Mb及びMcについて「Maは、Mnであり、Mbは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり、Mcは、Al及びCrよりなる群から選択された少なくとも一つの元素であり」と記載されており、本件訂正請求による訂正によって、Maは「Mn」であり、Mcは「Al及びCrよりなる群から選択された少なくとも一つの元素」であることが特定され、MaとMcとの間、MbとMcとの間で重複する元素は存在しないものとなった。
よって、もはや上記「イ.」の主張は根拠がなく、採用できない。
「ウ.」の主張について
そもそも本件発明7には「前記第2正極活物質は、結晶子サイズが200nm以上となるように過焼成して製造され」と記載されており、さらに本件特許明細書の段落【0021】にも「相対的に小粒子である前記第2活物質は過焼成され、結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm以上である。前記第2正極活物質の結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm未満である場合、圧延により正極活物質のクラック(crack)及び破損が発生し、高温寿命特性及び安定性が低下し得る。・・」と記載され、段落【0039】にも「・・前記第2正極活物質は、結晶子サイズ(Crystallite size)が200nm以上となるように過焼成して製造される。」と記載されているように、ここでいう「過焼成」とは、結晶子サイズを200nm以上とするための焼成を意味するものと理解することできる。
よって、上記「ウ.」の主張は採用できない。
以上のとおり、特許異議申立人の明確性要件についての主張はいずれも採用することはできず、また、本件特許明細書の記載を考慮し、出願当時の技術常識に照らして、本件請求項1ないし13に係る発明が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではないから、本件請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
(2-2)申立理由2(サポート要件)について
特許異議申立人は以下のようなサポート要件についての記載不備を主張している。
本件特許明細書の段落【0011】や【0088】によれば、大粒子及び小粒子のバイモーダルを用いた場合にのみ、エネルギー密度の向上、粒子破損の程度が減少する等の効果を奏することが記載されている。ここで、バイモーダルとは、正極活物質の粒度分布において「二峰性」のピークを有するものであると解され、本件特許明細書の記載からは、「エネルギー密度の向上」という本件発明の画題を解決するためには、「バイモーダル」(二峰性)の粒度分布を有する正極活物質であることが必須であるといえる。しかしながら、訂正前の請求項1ないし13に係る発明では、正極活物質の粒度分布に関しては平均粒径(D50)が異なる第1正極活物質及び第2正極活物質を含む、又は、混合することが特定されているのみであり、粒度分布が「バイモーダル」(二峰性)であることの特定はなく、平均粒径(D50)が異なる粒子を含む、又は、混合した場合であっても、混合する粒子の粒度分布が広い場合や、混合する重量比によっては混合後の粒度分布が「バイモーダル」になるとは限らない。したがって、訂正前の請求項1ないし13に係る発明は、粒度分布が「バイモーダル」でない正極活物質である場合を含むものであるが、このような正極活物質にまで、本件発明の課題を解決できるとは当業者が認識できるとはいえない。
そこで、上記主張について検討する。
特許異議申立人は、混合する粒子の粒度分布が広い場合や混合する重量比によっては混合後の粒度分布が「バイモーダル」になるとは限らないなどと主張しているが、バイモーダルとはならず厳密にモノモーダルとなるのは、2つの粒子の粒度分布が同じピーク高さ、同じ広がりで重なり合うような極めて特別な場合であって通常想定されないことであり、平均粒径が2倍以上異なる粒子を混合する場合には通常バイモーダルになるものと解される。
よって、特許異議申立人の明確性要件についての主張は採用することはできず、本件請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし13に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701079