特許異議申立
2025-700058
積層フィルム、それを用いたフィルム積層体
- 審判番号
- 2025-700058
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-038289
- 登録番号
- 7516784
- 請求日
- 2025年01月09日
- 審決日
- 2026年01月16日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
- 【異議申立人】早川 いづみ
- 審判長/審判官
- 審判長 岩谷 一臣
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 長谷川 一郎
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7516784号発明「積層フィルム、それを用いたフィルム積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7516784号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7516784号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7516784号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和2年3月6日に出願したものであって、令和6年7月8日に特許権の設定登録がされ、令和6年7月17日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 7年 1月 9日 :特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人」という。)による請求項1~7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 7年 5月 9日付け:取消理由通知書
令和 7年 7月 8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 7年 9月 4日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
令和 7年10月10日 :特許権者による上申書の提出
令和 7年11月12日 :申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和7年9月4日の手続補正書(方式)により補正された訂正請求書による訂正の請求(当該訂正の請求による訂正自体を以下「本件訂正」という。)は、「特許第7516784号の特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は当審において訂正箇所に付したものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって」とあるのを、
「前記アンカー層の厚みが0.02μmより大きく5.00μm以下であって」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、5~7も同様に訂正する)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「又は水分散型ウレタンアクリレートである積層フィルム。」とあるのを、
「又は水分散型ウレタンアクリレートであり、前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである、積層フィルム。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、5~7も同様に訂正する)。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「前記基材フィルム(1)がポリ乳酸フィルムまたはポリオレフィンフィルムある、請求項1に記載の積層フィルム。」とあるのを、
「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であり、且つ、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって、前記無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートであり、前記基材フィルム(1)がポリオレフィンフィルムである、積層フィルム。」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、5~7も同様に訂正する)。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記アンカー層が、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなる、請求項1~3の何れかに記載の積層フィルム。」とあるのを、
「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であり、且つ、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって、前記無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートであり、前記アンカー層が、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなり、前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである、積層フィルム。」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正する)。
(5) 一群の請求項について
訂正前の請求項2~7は、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~7〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載のアンカー層の厚みが0.02~5.00μmであることについて、アンカー層の厚みが0.02μmより大きく5.00μm以下であることに限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、本件明細書の【0061】の「本アンカー層の厚さは0.02~5.00μmであるのが好ましく」なる記載、【0124】の「また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し」なる記載等に基づく訂正であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載の基材フィルムについて、その材質をプラスチックフィルムに限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書の【0002】、【0003】、【0017】、【0019】等の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
イ 申立人の主張(新規事項の追加)(申立人意見書第4ページ第2~24行)
訂正事項2に関し、申立人は申立人意見書において、以下のとおり主張する。
・基材フィルム(1)がプラスチックフィルムであることは、出願当初明細書等には記載されていない。特許権者は、明細書の段落[0002]、[0003]及び[0005]に「プラスチック基材」なる文言が記載されていることを根拠に新規事項の追加でないことを主張しているが、これら記載はあくまで背景技術に関する記載である。本件特許明細書の【発明の概要】の欄(【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】、【発明の効果】、【発明の実施するための形態】、【実施例】、【産業上の利用可能性】の欄)には、「プラスチック基材」なる文言は一切記載されておらず、基材フィルムが「プラスチック基材」であることや、基材フィルムに「プラスチック基材」が含まれることも記載されていない。さらに、フィルムにはプラスチック以外のもの(例えばガラスフィルム)が存在すことも技術常識である。
したがって、訂正事項2は、新規事項を追加するものである。
ウ 申立人の主張(新規事項の追加)の検討
願書に添付した明細書の【0002】、【0003】、【0005】の記載からみて、本件発明においては、基材としてプラスチックを前提としていることが理解できる。
また、【0017】には「本積層フィルムを構成する本基材フィルムは・・・材質及び構成を限定するものではない。」と、【0019】には「・・・本基材フィルムは、例えば、ポリ乳酸フィルムまたはポリオレフィンフィルムであるのが好ましい。但し、これらに限定するものではない。」と記載されていることから、基材としてことさら特定の種類の樹脂を念頭に置いたものではないことも理解できる。
そうすると、本件発明においては、基材として特定の種類の樹脂ではなく、広くプラスチックフィルムを採用することを念頭に置いたものであると整合的に理解され、また、そのように理解することが合理的である。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1を直接的に引用する訂正前の請求項2を、独立形式の請求項とするとともに、訂正前の請求項2の「前記基材フィルム(1)がポリ乳酸フィルムまたはポリオレフィンフィルムある」とあるのを、「前記基材フィルム(1)がポリオレフィンフィルムある」とすることでさらに限定したものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであると同時に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項1を直接的に引用する訂正前の請求項3を、独立形式の請求項とするとともに、訂正前の請求項3のアンカー層、基材フィルムについて、それぞれ「ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く」、「プラスチックフィルムである」と限定したものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであると同時に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項4のうち、アンカー層について、「ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く」とする訂正は、アンカー層を形成する材料のうちの一種類を単に除くものであって、そのことによって新たな技術的事項が導入されるものとはいえず、さらに、基材フィルムについて「プラスチックフィルムである」と限定する点は、上記(2)と同様の理由により、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であり、且つ、前記アンカー層の厚みが0.02μmより大きく5.00μm以下であって、前記無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートであり、前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである、積層フィルム。
【請求項2】
基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であり、且つ、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって、前記無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートであり、前記基材フィルム(1)がポリオレフィンフィルムである、積層フィルム。
【請求項3】
アンカー層の動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)のピーク温度が60.0℃以上である、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であり、且つ、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって、前記無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートであり、前記アンカー層が、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなり、前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである、積層フィルム。
【請求項5】
前記アンカー層が、イソシアネート化合物を含む、請求項1~4の何れかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載の積層フィルムの最表面に、接着剤層を介して、基材フィルム(2)が貼り合わされてなる構成を備えたフィルム積層体。
【請求項7】
基材フィルム(2)が生分解性フィルム又はポリオレフィンフィルムである、請求項6に記載のフィルム積層体。」
第4 取消理由通知の概要
当審において特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。なお以下において、申立人が提出した甲第○号証を「甲○」という。
1 取消理由1(進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、以下の甲1に記載された発明、甲1に記載された事項及び周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・本件特許は、積層フィルムにおいて、耐熱性に劣る基材フィルムを用いることが課題の前提であると理解されるところ、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3~6は、耐熱性に優れた基材フィルムを用いたものも包含するものであるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3~6は、当業者が本件発明課題を解決できると認識できる範囲のものではない。
3 引用文献一覧
甲1:特開2003-62923号公報(当審拒絶理由通知における引用文献1)
甲3:国際公開第2016/013624号(当審拒絶理由通知における引用文献2)
甲4:国際公開第2016/136768号(当審拒絶理由通知における引用文献3)
甲5:特開2019-150994号公報(当審拒絶理由通知における引用文献4)
第5 当審における判断
当審合議体は、以下のとおり、上記取消理由で通知した理由によっては、訂正後の請求項1~7に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
1 甲号証に記載された発明及び技術事項
(1) 甲1記載の発明
ア 甲1には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付与し、「・・・」は文章の省略を表す。以下同様。)。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生分解性フィルム積層体に関するものであり、より特定的には、透明無機薄膜層を設けた生分解性ポリ乳酸フィルム積層体に関する。さらには、本発明により得られた生分解性フィルム積層体を用いた袋状物に関する。
・・・
【0004】しかしながら、ポリ乳酸フィルムに上記透明絵無機膜を設けようとすると、無機膜層とポリ乳酸フィルムとの接着性が低く、無機膜層とポリ乳酸フィルム間で層間剥離離し、ガスバリア性包装体としての機能を十分果たせないことがあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】この発明の主目的は、層間接着力が高く、なおかつ生分解性の高い透明無機膜層を持つフィルム積層体を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、透明無機膜層(A)、L-乳酸とD-乳酸のモル比(L/D)が1~9、反応性又は極性基濃度が100~500当量/106gである脂肪族ポリエステルを含むことを特徴とするアンカー層(B)、生分解性フィルム層(C)、が積層されたことを特徴とする生分解性フィルム積層体である。また、本発明は上記の生分解性積層体を用いたことを特徴とする袋状物である。」
「【0047】アンカーコートフィルム(VII)の製造例
厚さ50μmのポリL乳酸フィルムの片面に、バイロン200(共重合ポリエステル、東洋紡績株式会社製)1重量部、コロネートL(日本ポリウレタン株式会社製)0.1部、ジブチルスズラウレート0.02部、トルエン20重量部およびメチルエチルケトン20重量部からなる塗液をグラビアコーターで、乾燥膜厚が0.02μmになるように塗布してアンカー剤層を形成し、アンカーコートフィルム(VII)を得た。」
「【0052】酸化珪素/酸化アルミニウム2元系膜の製造
蒸着源として、3-5mm程度の大きさの粒子状のAl2O3(純度99.5%)とSiO2(純度99.9%)を用い、電子ビーム蒸着法で、前記アンカーコートフィルム上に酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜の形成を行った。・・・」
「【0060】
[図:0001434137000001.jpg]
【0061】表2、表3でSiは酸化珪素系蒸着膜、Alは酸化アルミニウム系蒸着膜、Si-Alは酸化珪素/酸化アルミニウム2元系蒸着膜を表す。」
イ 甲1に記載された発明
上記アから、比較例1に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。なお、括弧内の段落は、理解促進のために特に参考になる箇所を参照として付したものである。
「ポリL乳酸フィルムの片面に、バイロン200(共重合ポリエステル、東洋紡績株式会社製)1重量部、コロネートL(日本ポリウレタン株式会社製)0.1部、ジブチルスズラウレート0.02部、トルエン20重量部およびメチルエチルケトン20重量部からなる塗液をグラビアコーターで、乾燥膜厚が0.02μmになるように塗布してアンカー剤層を形成し、アンカーコートフィルムを得て、(【0047】)
アンカーコートフィルム上に酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜からなる無機薄膜層の形成を行った、(【0052】、【0060】表3、【0061】)
生分解性フィルム積層体。(【0001】)」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 周知技術
ア 甲3の記載
「[0004] 本発明が解決しようとする課題は、優れたガスバリア性を維持しつつ、製造直後から高いガスバリア性を示し、かつ優れた耐熱水性を有するフィルムを提供することにある。
課題を解決するための手段
[0005] 本発明者らは、上記課題が、プラスチック基材の少なくとも一方の面に形成した酸化珪素薄膜面上に、ポリウレタン系樹脂とシランカップリング剤の混合物の水性分散液を塗布してなる樹脂層を有するガスバリア性積層フィルムによって解決されることを見出し、本発明をなすに至った。」
「[0074]実施例1~4
ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETと略す。三菱化学(株)製 「ノバペックス」)を溶融押出してシートを形成し、延伸温度95℃、延伸比3.3で長手方向に延伸した後、延伸温度110℃、延伸比3.3で横方向に延伸することにより、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムを得た。そのフィルムの片側表面に、イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業製「コロネートL」)と飽和ポリエステル(東洋紡績製「バイロン300」)とを1:1質量比で配合した混合物を塗布乾燥して厚さ0.1μmのアンカーコート層を形成した。
次いで、真空蒸着装置を使用して1×10-5Torrの真空下でSiOを加熱方式で蒸発させ、アンカーコート層上に厚さ約20nmの、酸化珪素の無機層を形成した。
その後、ポリウレタン系樹脂(c1-1)及びシランカップリング剤(c2)の質量比、乾燥後のコート層の厚さが表1に記載の通りとなるようにポリウレタン系樹脂(c1-1)の水性分散液にシランカップリング剤(c2)を混合し、調製して得られた塗工液を無機層面上にバーコーターで塗布し、80℃2分間送風乾燥させ、ガスバリア性積層フィルムを得た。・・・」
イ 甲4の記載
「[0001] 本発明は、食品、医薬品、工業製品等の包装分野に用いられる積層フィルムに関する。詳しくは、被覆層、金属酸化物層、及び保護層を備えた積層フィルムであって、金属酸化物層の層間密着性を高めることができ、レトルト処理など殺菌処理を施しても良好なガスバリア性と密着性(ラミネート強度)を発現させうる積層フィルムに関する。」
「[0011] 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、基材フィルムの両面または片面に少なくとも被覆層を設けた積層フィルムにおいて、該被覆層が架橋剤とそれに反応しうる官能基を有するポリウレタン樹脂(B)の混合組成物であれば、被覆層の上に金属酸化物層を形成して積層フィルムとした際に、常態においては勿論のことレトルト処理を施した後にも、ガスバリア性に優れ、層間剥離が生じない良好な密着性を発現させることができることを見出した。さらに、前記金属酸化物層の上に、ポリウレタン樹脂(D)を含む保護層を設けることにより、ガスバリア性のよりいっそうの向上、印刷加工を施した際のガスバリア性低下の抑制が可能であることを見出し、本発明を完成した。」
「[0058][保護層]
本発明の積層フィルムは、前記金属酸化物層の上方に、以下に詳述する保護層用樹脂組成物から形成された保護層を有する。
金属酸化物層は完全に密な膜ではなく、微小な欠損部分が点在している。金属酸化物層上に後述する特定の保護層用樹脂組成物を塗工して保護層を形成することにより、金属酸化物層の欠損部分に保護層用樹脂組成物中の樹脂が浸透し、結果としてガスバリア性が安定するという効果が得られる。・・・」
「[0060] 次に、保護層を形成する保護層用樹脂組成物の構成成分について詳細に説明する。
(ポリウレタン樹脂(D))
本発明のポリウレタン樹脂(D)を含むディスパージョン(以下、ポリウレタン樹脂(D)含有ディスパージョンという)は、ポリウレタン樹脂(水性ポリウレタン樹脂)を水分散させることにより得られ、・・・」
「[0067]・・・一方、ポリウレタンディスパージョン骨格に予めシラノール基を含有させておくことで、前述の煩雑さや間違いが防げる利点がある。
[0068] ポリウレタン樹脂(D)中の含有シラノール基量がシラノール基に含まれるSi元素の量としてポリウレタン樹脂(D)を構成する樹脂1kg当たり700mg未満では架橋構造の形成が不十分となり、レトルト処理を行った際の樹脂自体の劣化が起こるため、レトルト処理後の密着性やガスバリア性の低下の原因となる。・・・」
「[0073][その他の層]
本発明の積層フィルムには、上記基材フィルム、被覆層、金属酸化物層、保護層のほかに、必要に応じて、公知のガスバリア性を有する積層フィルムが備えている種々の層を設けることができる。
例えば、本発明の積層フィルムを包装材料として用いる場合には、シーラントと呼ばれるヒートシール性樹脂層を含むことが好ましい。ヒートシール性樹脂層は通常、金属酸化物層側に設けられるが、基材フィルムの外側(被覆層形成面の反対側の面)に設けることもある。ヒートシール性樹脂層の形成は、通常押出しラミネート法あるいはドライラミネート法によりなされる。・・・」
「[0094]<保護層形成に用いた各材料の調整>
(ポリウレタン樹脂(D-1)の重合)
・・・平均粒子径70nmのポリウレタン樹脂(D-1)含有ディスパージョンを得た。得られたポリウレタン樹脂(D-1)のSi含有量(仕込み計算による)は1200mg/1kg、メタキシリレン基含有量(仕込み計算による)は32質量%であった。」
ウ 甲5の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層体の製造方法に関し、詳しくは、ポリウレタン樹脂を含むコーティング組成物を用いるガスバリア性積層体の製造方法に関する。」
「【0006】
本発明は、ガスバリア性に優れるとともに、無機質層およびポリウレタン層の密着性に優れるガスバリア性積層体の製造方法である。」
「【0203】
そのため、ガスバリア性積層体1は、ガスバリア性が要求される包装材料、具体的には、医薬品などの包装材料、食品包装材料、光学フィルム、工業用フィルムなどにおいて好適に使用され、とりわけ、食品包装材料として、好適に使用される。」
「【0222】
・・・
表2~表4に記載の割合で、イオン交換水を撹拌しながら2-プロパノールを添加し、さらに、主剤としてのポリウレタンディスパージョン(上記の合成例で得られたPUD)を添加し、混合した。次いで、得られた混合液に、表2~表4に記載の割合で、硬化剤としてのKBM-403(エポキシシラン、商品名KBM-403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製)を添加し、5分間混合した。
【0223】
これにより、コーティング組成物を得た。各コーティング組成物中の固形分割合を、表2~表4に示す。
【0224】
・ガスバリア性積層体の製造
基材としてのポリエステルフィルム(商品名E5102、厚み12μm、東洋紡社製)の一方面に、連続式真空蒸着機(アルバック社製)を用いて、表2~表4に記載の酸化アルミニウム(Al2O3)または酸化ケイ素(SiO2)を蒸着(1×10-5Pa真空条件下、IB方式)させ、厚み10nmの無機質層(金属蒸着層)を得た。
【0225】
次いで、無機質層の一方面に、上記で得られたコーティング組成物を、乾燥厚み0.7g/m2となるようにバーコーターを用いてコーティングし、110℃で1分間乾燥させ、表2~表4に記載の条件で養生させることにより、ポリウレタン層を形成した。」
エ 周知技術
上記ア~ウに示されるように、次の事項は周知技術である。
「包装用ガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア性を向上させるため、無機物層の上に水分散性ポリウレタンを用いた架橋樹脂層を設けること」
2 取消理由1(進歩性)
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「ポリL乳酸フィルム」は、本件発明1の「基材フィルム」に相当し、以下同様に「アンカー剤層」は「アンカー層」に、「無機薄膜層」は「無機物層」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「ポリL乳酸フィルムの片面に」「アンカー剤層を形成し、アンカーコートフィルムを得て、アンカーコートフィルム上に酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜からなる無機薄膜層の形成を行った生分解性フィルム積層体」と、本件発明1の「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」とは、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜からなる無機薄膜層」は、本件発明1の「無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であ」ることを満たす。
甲1発明の「ポリL乳酸フィルム」は、プラスチックフィルムといえるから、本件発明1の「前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点1]
「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである、積層フィルム。」
[相違点1-1]
本件発明1は、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」であり、「前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートである」のに対して、甲1発明は、無機薄膜層の上にこのような架橋樹脂層を有していない点。
[相違点1-2]
本件発明1は、「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であるのに対して、甲1発明の「アンカー剤層」がそのようなものであるのか不明な点。
[相違点1-3]
本件発明1は、「アンカー層の厚みが0.02μmより大きく5.00μm以下」であるのに対して、甲1発明は、「アンカーコートフィルム」が「乾燥膜厚が0.02μmになるように塗布してアンカー剤層を形成し」て得られたものである」点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
上記1(2)エで示したとおり、包装用ガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア性を向上させるため、無機物層の上に水分散性ポリウレタンを用いた架橋樹脂層を設けることは周知技術である。
しかしながら、水分散性ポリウレタン樹脂は、通常は生分解性があるとはいえない。
そして、甲1発明は、上記1(1)アのとおり、生分解性フィルム積層体に関する発明であるから、ここに生分解性がない当該周知技術をあえて採用することは、動機づけがなく、むしろ阻害事由があるといえる。
また、その他、当該相違点1-1に係る構成を開示ないし示唆しているものと認めるに足る証拠もない。
よって、甲1発明において、周知技術を適用して、当該相違点1-1に係る本件発明1の構成を得ることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書及び申立人意見書において次のような主張をする(特許異議申立書第33ページ第6~10行、申立人意見書第3ページ第8~21行)。
・甲3~甲5の記載から明らかなように、包装用ガスバリア性フィルムにおいて、無機物層の上に水分散性ポリウレタンを用いた架橋樹脂層を設けることは周知技術であるから、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて容易になされた発明である。
・甲1発明に生分解性を有しない層を積層することについて、特許権者が主張しているのは、おそらく、生分解性のものと生分解性が認められないものを共に用いると、全体として完全な生分解性ではなくなるということと思われるが、全体として完全な生分解性でなければ価値が無いということはなく、例えば、50%の構成物が生分解性のものであれば50%は生分解をするので、環境負荷低減につながる。逆に、生分解性フィルムが生分解性を有しないものと共には使用できないとすると、著しく使用範囲が制限され現実的でない。
よって、生分解性が認められない樹脂を主成分とする架橋樹脂層を生分解性フィルム積層体に設けることは不合理ではない。
エ 申立人の主張の検討
生分解性フィルムにおいて、一定程度の生分解性で足りる場合が仮にあるとしても、上記イで検討したとおり、甲1発明において、生分解性を低下させてまであえて当該周知技術を採用する動機づけはなく、むしろ阻害事由があると言わざるを得ない。
よって、この点に関する申立人の上記主張は採用できない。
オ 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) 本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「ポリL乳酸フィルム」は、本件発明2の「基材フィルム」に相当し、以下同様に「アンカー剤層」は、「アンカー層」に、「無機薄膜層」は「無機物層」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「ポリL乳酸フィルムの片面に」「アンカー剤層を形成し、アンカーコートフィルムを得て、アンカーコートフィルム上に酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜からなる無機薄膜層の形成を行った生分解性フィルム積層体」と、本件発明2の「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」とは、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「アンカーコートフィルム」が「乾燥膜厚が0.02μmになるように塗布してアンカー剤層を形成し」て得られたものであることと、本件発明2の「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であり、且つ、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μm」であることとは、「アンカー層の厚みが0.02~5.00μm」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜からなる無機薄膜層」は、本件発明2の「無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であ」ることを満たす。
以上のことから、本件発明2と甲1発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点2]
「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって、前記無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上である、積層フィルム。」
[相違点2-1]
本件発明2は、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」であり、「前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートである」のに対して、甲1発明は、無機薄膜層の上にこのような架橋樹脂層を有していない点。
[相違点2-2]
本件発明2は、「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であるのに対して、甲1発明の「アンカー剤層」がそのようなものであるのか不明な点。
[相違点2-3]
基材フィルムについて、本件発明2は、「ポリオレフィンフィルムである」のに対して、甲1発明は、「ポリL乳酸フィルム」である点。
イ 判断
相違点2-1について検討する。
上記(1)イで検討したことと同様である。
よって、甲1発明において、周知技術を適用して、相違点2-1に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、当業者が甲1発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記(1)オ又は(2)ウで判断したように、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4) 本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「ポリL乳酸フィルム」は、本件発明4の「基材フィルム」に相当し、甲1発明の「無機薄膜層」は「無機物層」に相当する。
甲1発明の「アンカー剤層」は、本件発明4の「アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)」と、「アンカー層」の限りにおいて一致する。
甲1発明の「ポリL乳酸フィルムの片面に」「アンカー剤層を形成し、アンカーコートフィルムを得て、アンカーコートフィルム上に酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜からなる無機薄膜層の形成を行った生分解性フィルム積層体」と、本件発明4の「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」とは、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「アンカーコートフィルム」が「乾燥膜厚が0.02μmになるように塗布してアンカー剤層を形成し」て得られたものであることと、本件発明4の「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であり、且つ、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μm」であることとは、「アンカー層の厚みが0.02~5.00μm」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜からなる無機薄膜層」は、本件発明4の「無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であ」ることを満たす。
甲1発明の「ポリL乳酸フィルム」は、プラスチックフィルムといえるから、本件発明4の「前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである」に相当する。
以上のことから、本件発明4と甲1発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点3]
「基材フィルムの少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって、前記無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上である、積層フィルム。」
[相違点3-1]
本件発明4は、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」であり、「前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートである」のに対して、甲1発明は、無機薄膜層の上にこのような架橋樹脂層を有していない点。
[相違点3-2]
本件発明4は、「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であるのに対して、甲1発明の「アンカー剤層」がそのようなものであるのか不明な点。
[相違点3-3]
アンカー層について、本件発明4は、「アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)」であるのに対して、甲1発明は、「アンカー剤層」である点。
イ 判断
相違点3-1について検討する。
上記(1)イで検討したことと同様である。
よって、甲1発明において、周知技術を適用して、相違点3-1に係る本件発明4の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、当業者が甲1発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5) 本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明1、2又は本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記(1)イ、(2)イ、又は(4)イで判断したように、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6) 取消理由1のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
3 取消理由2(サポート要件)
(1) サポートの考え方
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できる認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) サポート要件の判断
ア 本件発明が解決しようとする課題
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【背景技術】・・・
【0006】
他方、生分解性フィルムであるポリ乳酸フィルムのガスバリア性を高めるべく、種々の提案がなされている。 例えば、ポリ乳酸フィルムの結晶、非晶領域の割合を調整することで、密着性とガスバリア性との両立を図ることが開示されている(特許文献4)。
【0007】
また、ポリ乳酸フィルムの面配向、結晶融解熱量を特定範囲にすることでガスバリア性と透明性との両立を図ることが開示されている(特許文献5)。
【0008】
さらに、ポリ乳酸フィルム上にシランカップリング剤を含むアンカー層を設けることで層間密着性が良好であるガスバリア性フィルムが開示されている(特許文献6)。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
無機物層を有するガスバリア性積層フィルムに関しては、上述のように、ガスバリア性を高めるために種々の検討がなされてきた。しかし、製造工程や使用時に熱が掛かると、ガスバリア性が低下する場合が認められた。特にポリ乳酸フィルムやポリオレフィンフィルムなど、耐熱性に劣るフィルムを基材フィルムとして使用した場合、この傾向が強く、熱が掛かるとガスバリア性が低下するという課題が顕著であった。
【0011】
本発明の目的は、基材フィルムの少なくとも片面側に無機物層を備えた積層フィルムに関し、ポリ乳酸フィルムやポリオレフィンフィルムなど、耐熱性に劣るフィルムを基材フィルムとして使用した場合であっても、ガスバリア性の低下を防ぐことができる新たな積層フィルム、並びに、これを用いたフィルム積層体を提供することにある。」
上記記載から、「ポリ乳酸フィルムやポリオレフィンフィルムなど、耐熱性に劣るフィルムを基材フィルムとして使用した場合であっても、ガスバリア性の低下を防ぐことができる新たな積層フィルム、並びに、これを用いたフィルム積層体」を「提供する」ことが、本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件発明課題」という。)であると認められる。
イ 検討
本件発明は、上記課題に対し、本件明細書の【0014】、【0065】、【0150】、【0151】等の記載から明らかなように、基材フィルム(1)と無機物層との間に、120℃における貯蔵弾性率が10.0MPa以上の材料を、0.02μm以上5.00μm以下の厚さのアンカー層を設けることにより、耐熱性に乏しい基材フィルム上に無機物層を形成しても、良好なバリア性と密着性を得たものであることが理解できる。
さらに、本件明細書の【0151】には、良好なバリア性が発現されるメカニズムとして、「アンカー層の弾性率が一定値以上であり、且つ特定の厚さ以上であれば、基材フィルムの収縮しようとする力に対抗できる力をアンカー層自体に持たせることができ、加熱時における基材フィルムの収縮をアンカー層が緩和させることができるものと推察される。」と記載されている。
これらの記載に基づけば、本件発明の課題解決手段は、当該条件を満足するアンカーコート層を設けたことにあり、ポリ乳酸フィルムやポリオレフィンフィルム以外のフィルムを基材フィルムとして使用した場合であっても、効果の程度に差はあるとしても、熱処理時の基材フィルムの変形をアンカー層が緩和し、ガスバリア性を高めることが技術的に推認できる。
そうすると、本件特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、いわゆるサポート要件に適合する。
(ア) 申立人の主張について
a 申立人は、特許異議申立書及び申立人意見書において概ね以下のとおり主張する(特許異議申立書第41ページ第18行~第42ページ第10行、申立人意見書第6ページ第21~第7ページ第3行)。
・明細書に記載されているポリマ一種は、耐熱性に劣るポリ乳酸とポリオレフィンのみである。そして、本件特許発明の「熱処理時の基材フィルムの変形をアンカー層によって緩和させる」(【0062】)という記載からすると、熱寸法安定性の高いポリマ一種の基材フィルムの場合はそもそも本件特許発明の課題が存在しない。そして、本件発明1の基材フィルムはポリマ一種が限定されておらず、基材フィルムがポリ乳酸フィルムまたはポリオレフィンフィルムに限定されていない部分を含むからサポート要件を満たしていない。
(イ) 申立人の主張の検討
上記イで検討したとおり、本件特許請求の範囲に記載された発明は、本件発明の課題解決手段が反映されたものであり、これは、程度の差こそあれ基材フィルムの材質にかかわらない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 取消理由2のまとめ
したがって、本件特許請求の範囲に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。
第6 取消理由通知で採用しなかった申立理由について
1 申立理由の概要
(1)申立理由1(進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲3~5に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア アンカー層の貯蔵弾性率に関する実施可能要件違反(特許異議申立書第38ページ第19行~第39ページ第12行)
本件特許発明1のアンカー層の貯蔵弾性率は10.0MPa以上であるが、実施例では15.lMPaのものしか製造されていない。そして、本件特許明細書には、アンカー層の貯蔵弾性率を大きくするにはどのようにするのか、小さくするにはどのようにするのかについて記載がない。段落番号【0064】に、「本アンカー層に上記粘弾性を付与するため」には、「本アンカー層が、硬化性樹脂が硬化してなる硬化物を含有するようにするのが好ましい。よって、本アンカー層を、熱又は光硬化性樹脂を含有する樹脂組成物を本基材フィルム上にコートして、当該熱又は光硬化性樹脂を熱又は光で硬化させて形成するのが好ましい。」や、「中でも、熱硬化性樹脂として、イソシアネート系化合物を選択して用いるのが特に好ましい。」ことが記載されている。しかしながら、貯蔵弾性率が10MPa未満(本件特許発明1の範囲外)の3.5MPaと6.6MPaである比較例1及び2のアンカー層もこの方法で製造されている(【0132】、【0133】、【0135】、【0141】、【0142】、【表1】)。即ち、明細書記載の本件特許発明のアンカー層の製造方法で本件特許発明1が実施できていない。
以上より、貯蔵弾性率が10.0MPa以上15.lMPa未満と、15.1MPa超のアンカーコート層を如何に製造するのかが不明であり、本件特許発明1は実施可能要件を満たしていない。また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7に係る発明の本件特許発明2~7も同様に実施可能要件を満たしていない。
イ アンカー層の損失正接のピーク温度に関する実施可能要件違反(特許異議申立書第39ページ第13行~第40ページ第5行)
本件特許発明3のアンカー層の動的粘弾性測定における損失正接(tanθ)のピーク温度は60.0℃以上であるが、実施例ではピーク温度が86.4℃のものしか製造されていない。そして、本件特許明細書には、アンカー層の損失正接のピーク温度を大きくするにはどのようにするのか、小さくするにはどのようにするのかについて記載がない。段落番号【0064】に、「本アンカー層に上記粘弾性を付与するためには」、「本アンカー層が、硬化性樹脂が硬化してなる硬化物を含有するようにするのが好ましい。よって、本アンカー層を、熱又は光硬化性樹脂を含有する樹脂組成物を本基材フィルム上にコートして、当該熱又は光硬化性樹脂を熱又は光で硬化させて形成するのが好ましい。」や、「中でも、熱硬化性樹脂として、イソシアネート系化合物を選択して用いるのが特に好ましい。」ことが記載されている。しかしながら、損失正接のピーク温度が60.0℃未満(本件特許発明3の範囲外)の56.5℃である比較例2もこの方法で製造されている(【0133】、【0135】、【0142】、【表1】)。即ち、明細書記載の方法で本件特許発明3が実施できていない。
よって、損失正接のピーク温度が60.0℃以上86.4℃末満と、86.4℃超のアンカーコート層を如何に製造するのかが不明であり、本件特許発明3は実施可能要件を満たしていない。また、請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4~7に係る発明の本件特許発明4~7も同様に実施可能要件を満たしていない。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア アンカー層の貯蔵弾性率に関するサポート要件違反(特許異議申立書第40ページ第7~24行)
本件特許発明1のアンカー層の貯蔵弾性率は10.0MPa以上であるが、実施例で発明の課題が解決できることが示されているのは、貯蔵弾性率が15.1MPaの場合のみである。そして、10.0MPaと15.lMPaでは相当の差がある。よって、本件特許明細書の「熱処理時の基材フィルムの変形をアンカー層によって緩和させる」(【0062】)という記載からすると、貯蔵弾性率が10.0MPa以上で15.lMPaより低い範囲では発明の課題が解決できるとは認識できない。よって、本件特許発明1は、サポート要件を満たしていない。
さらに、本件特許発明1ではアンカー層の貯蔵弾性率の上限が規定されていない。アンカー層の貯蔵弾性率が高い程アンカー層が硬いものとなり接着機能に劣ることが技術常識であるので、アンカー層の貯蔵弾性率が15.lMPaよりもかなり高い場合はそもそもアンカー層として機能しない。よって、アンカー層の貯蔵弾性率が15.lMPaよりもかなり高い場合は発明の課題が解決できることを認識できないので、アンカー層の貯蔵弾性率の上限が規定されていない本件特許発明1は、この点からもサポート要件を満たしていない。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7に係る発明の本件特許発明2~7も同様にサポート要件を満たしていない。
イ アンカー層の損失正接のピーク温度に関するサポート要件違反(特許異議申立書第40ページ第25行~第41ページ17行)
本件特許発明3のアンカー層の損失正接のピーク温度は60.0℃以上であるが、実施例で発明の課顆が解決できることが示されているのは、損失正接のピーク温度が86.4℃のものみである。そして、60.0℃と86.4℃では相当の差がある。よって、本件特許明細書の「熱処理時の基材フィルムの変形をアンカー層によって緩和させる」(【0062】)という記載からすると、損失正接のピーク温度が60.0℃以上で86.4℃よりも低い範囲では発明の課題を解決できるとは認識できない。よって、本件特許発明3は、サポート要件を満たしていない。
さらに、本件特許発明3ではアンカー層の損失正接のピーク温度の上限が規定されていない。アンカー層の貯蔵弾性率が高い程アンカー層が硬いものとなり接着機能に劣ることが技術常識であるので、アンカー層の損失正接のピーク温度が86.4℃よりかなり高い場合は、そもそもアンカー層として機能しない。よって、アンカー層の損失正接のピーク温度が86.4℃よりかなり高い場合は発明の課題が解決できることを認識できないので、アンカー層の損失正接のピーク温度の上限が規定されていない本件特許発明3は、この点からもサポート要件を満たしていない。
また、請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4~7に係る発明の本件特許発明4~7も同様にサポート要件を満たしていない。
[証拠一覧]
甲2:特開平6-328646号公報
甲3:国際公開第2016/013624号
甲4:国際公開第2016/136768号
甲5:特開2019-150994号公報
甲6:新 包材構成100問100答、初版、株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス、2015年1月15日、p.35
2 当審における判断
当審合議体は、以下のとおり、上記申立理由によっては、訂正後の請求項1~7に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
(1)申立理由1(進歩性)について
ア 甲2記載の発明について
甲2の【0019】、実施例1に着目すると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「厚さが50μmで二軸延伸ポリエステルフイルムの片面に、イソシアネート系化合物(日本ポリウレタン工業株式会社製コロネートL)10%、飽和ポリエステル(東洋紡績株式会社製バイロン200)をメチルエチルケトンとトルエンを1:1で溶解させた20%溶液を90%の比率で混合した塗液をグラビアコーターで塗布乾燥硬化して厚さ0.5μm(固形分厚さ)のオリゴマー封止層を形成して、オリゴマー封止ポリエステルフイルムを得て、得られたオリゴマー封止ポリエステルフイルムのオリゴマー封止層の面上にアルミニウムを蒸発源として1×10-4Torrの真空中で厚さ500Åに真空蒸着してアルミニウム蒸着膜を形成し、次いでこのアルミニウム蒸着膜の面上に、アクリルポリオール(固形分のみ)65%、イソシアネート系化合物5%、メチルエチルケトン15%、トルエン15%とからなる塗液をグラビアコーターで塗布乾燥硬化して厚さ1μmの蒸着面保護膜を形成したフイルム。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲2発明の「二軸延伸ポリエステルフイルム」は、本件発明1の「基材フィルム」及び「プラスチックフィルム」に相当し、以下同様、「オリゴマー封止層」は、「アンカー層」に、「アルミニウム蒸着膜」は、「無機物層」に、それぞれ相当する。
甲2発明の「二軸延伸ポリエステルフイルムの片面に、」「オリゴマー封止層を形成して、オリゴマー封止ポリエステルフイルムを得て、得られたオリゴマー封止ポリエステルフイルムのオリゴマー封止層の面上に」、「アルミニウム蒸着膜を形成し」た「フイルム」と、本件発明1の「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」とは、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」である限りにおいて一致する。
甲2発明の「厚さ0.5μm(固形分厚さ)のオリゴマー封止層」は、本件発明1の「前記アンカー層の厚みが0.02μmより大きく5.00μm以下であ」ることを満たす。
以上のことから、本件発明1と甲2発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点4]
「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の厚みが0.02μmより大きく5.00μm以下であって、前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである、積層フィルム。」
[相違点4-1]
本件発明1は、「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上である」のに対して、甲2発明の「オリゴマー封止層」がそのようなものであるのか不明な点。
[相違点4-2]
本件発明1は、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」であり、「前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートである」のに対して、甲2発明は、無機薄膜層の上にこのような架橋樹脂層を有していない点。
[相違点4-3]
本件発明1は、「無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であ」るのに対して、甲2発明は、そのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
相違点4-1について検討する。
甲2発明のオリゴマー封止層について、120℃における貯蔵弾性率(E’)をどの程度とするかは、特定されておらず、その示唆もない。
この点、本件明細書の【0131】には、アンカーコート液1の調製について、「非晶性ポリエステル樹脂(東洋紡(株)製 バイロン200)とイソシアネート化合物(東ソー(株)製 コロネートL)を10:1質量比になるように配合し、アンカーコート液1を調製した。」と記載されており、一見、甲2発明におけるオリゴマー封止層と同様の成分、比率により調製しているように見える。しかし、甲2発明では、「イソシアネート系化合物(日本ポリウレタン工業株式会社製コロネートL)10%」に対し、「飽和ポリエステル(東洋紡績株式会社製バイロン200)をメチルエチルケトンとトルエンを1:1で溶解させた20%溶液を90%の比率で混合した」ものであるから、本件発明1のアンカーコート液1と異なるものである。
そうすると、甲2発明のオリゴマー封止層の120℃における貯蔵弾性率(E’)について、10.0MPa以上である蓋然性が高いとは言い難い。
その他、各証拠を精査しても、当該点については記載も示唆もない。
よって、甲2発明において、相違点4-1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において次のように主張する(特許異議申立書第34ページ第10行~第35ページ第9行)。
・甲第2号証には、オリゴマー封止層(アンカーコート層に相当)の貯蔵弾性率の記載は無いが、甲第2号証の実施例1のオリゴマー封止層は、本件特許の実施例1~6のアンカー層と同じ成分を用いているので、120℃における貯蔵弾性率も本件特許の実施例1~6と同程度と考えられる。よって、甲第1号証には、本件特許発明1の「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上である」構成が記載されている。
(エ) 申立人の主張の検討
当該主張については、上記(イ)のとおりであるから、申立人の上記主張は採用できない。
(オ) 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明2について
(ア) 対比
本件発明2と甲2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲2発明の「二軸延伸ポリエステルフイルム」は、本件発明2の「基材フィルム」に相当し、以下同様、「オリゴマー封止層」は「アンカー層」に、「アルミニウム蒸着膜」は「無機物層」にそれぞれ相当する。
甲2発明の「二軸延伸ポリエステルフイルムの片面に、」「オリゴマー封止層を形成して、オリゴマー封止ポリエステルフイルムを得て、得られたオリゴマー封止ポリエステルフイルムのオリゴマー封止層の面上に」、「アルミニウム蒸着膜を形成し」た「フイルム」と、本件発明2の「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」とは、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」である限りにおいて一致する。
甲2発明の「厚さ0.5μm(固形分厚さ)のオリゴマー封止層」は、本件発明2「前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであ」ることを満たす。
甲2発明の「二軸延伸ポリエステルフイルム」と、本件発明2の「ポリオレフィンフィルム」とは、「フィルム」の限りにおいて一致する。
以上のことから、本件発明2と甲2発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点5]
「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって、前記基材フィルム(1)がフィルムである、積層フィルム。」
[相違点5-1]
本件発明2は、「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上である」のに対して、甲2発明の「オリゴマー封止層」がそのようなものであるのか不明な点。
[相違点5-2]
本件発明2は、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」であり、「前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートである」のに対して、甲2発明は、無機薄膜層の上にこのような架橋樹脂層を有していない点。
[相違点5-3]
本件発明2は、「無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であ」るのに対して、甲2発明は、そのような特定がなされていない点。
[相違点5-4]
基材フィルム(1)について、本件発明2は、「ポリオレフィンフィルム」であるのに対して、甲2発明は、そのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
相違点5-1について検討する。
上記イ(イ)で検討したことと同様である。
よって、甲2発明において、相違点5-1に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(ウ) 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イ(オ)又はウ(ウ)で判断したように、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 本件発明4について
(ア) 対比
本件発明4と甲2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲2発明の「二軸延伸ポリエステルフイルム」は、本件発明4の「基材フィルム」及び「プラスチックフィルム」に相当し、以下同様、「アルミニウム蒸着膜」は、「無機物層」に相当する。
甲2発明の「オリゴマー封止層」は、本件発明4の「アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)」と、「アンカー層」の限りにおいて一致する。
甲2発明の「二軸延伸ポリエステルフイルムの片面に、」「オリゴマー封止層を形成して、オリゴマー封止ポリエステルフイルムを得て、得られたオリゴマー封止ポリエステルフイルムのオリゴマー封止層の面上に」、「アルミニウム蒸着膜を形成し」た「フイルム」と、本件発明4の「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」とは、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」である限りにおいて一致する。
甲2発明の「厚さ0.5μm(固形分厚さ)のオリゴマー封止層」は、本件発明4の「アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであ」ることを満たす。
以上のことから、本件発明4と甲2発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点6]
「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層、無機物層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムであり、前記アンカー層の厚みが0.02~5.00μmであって、前記基材フィルム(1)がプラスチックフィルムである、積層フィルム。」
[相違点6-1]
本件発明4は、「アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上である」のに対して、甲2発明の「オリゴマー封止層」がそのようなものであるのか不明な点。
[相違点6-2]
本件発明4は、「基材フィルム(1)の少なくとも片面側に、アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルム」であり、「前記架橋樹脂層の主成分樹脂としてのバインダー樹脂が、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂又は水分散型ウレタンアクリレートである」のに対して、甲2発明は、無機薄膜層の上にこのような架橋樹脂層を有していない点。
[相違点6-3]
本件発明4は、「無機物層を構成する主材としての無機物は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上であ」るのに対して、甲2発明は、そのような特定がなされていない点。
[相違点6-4]
アンカー層について、本件発明4は、「アンカー層(ただし、ジブチルスズラウレートを含む塗液から形成されるものを除く)」のに対して、甲2発明は、「アンカー剤層」である点。
(イ) 判断
相違点6-1について検討する。
上記イ(イ)で検討したことと同様である。
よって、甲2発明において、相違点6-1に係る本件発明4の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(ウ) 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
カ 本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明1、2又は本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イ(オ)、ウ(ウ)又はオ(ウ)で判断したように、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
キ 以上より、申立理由1(進歩性)には理由がない。
(2)申立理由2(実施可能要件)について
ア 物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。以下、この観点に立って検討する。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明を参照すると、本件発明に係るアンカーの層貯蔵弾性率や動的粘弾性測定における損失正接(tanθ)のピーク温度に相関する粘弾性ついて、【0064】に「本アンカー層に上記粘弾性を付与するためには、例えば、本アンカー層が、硬化性樹脂が硬化してなる硬化物を含有するようにするのが好ましい。よって、本アンカー層を、熱又は光硬化性樹脂を含有する樹脂組成物を本基材フィルム上にコートして、当該熱又は光硬化性樹脂を熱又は光で硬化させて形成するのが好ましい。但し、本アンカー層に上記粘弾性を付与する方法をこの方法に限定するものではない。
中でも、熱硬化性樹脂として、イソシアネート系化合物を選択して用いるのが特に好ましい。」と記載され、【0059】、【0060】にはアンカー層に含む具体的な樹脂及びその含有量が示されており、当業者はアンカー層の貯蔵弾性率や動的粘弾性測定における損失正接(tanθ)のピーク温度について、アンカー層に含む樹脂の材質や種類、含有量により変わり、それら樹脂の材質や種類、含有量により適宜調整できると理解できる。
そして本件明細書の【0131】~【0133】にアンカーコート液1~3の調製の具体例が記載されている。
そうすると、アンカー層の120℃における貯蔵弾性率(E’)が10.0MPa以上であるもの、アンカー層の動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)のピーク温度が60.0℃以上であるものについて、当業者は、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造し、使用することができるから、発明の詳細な説明は、明確かつ十分に記載されているものといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 以上より、申立理由2(実施可能要件)には理由がない。
(3) 申立理由3(サポート要件)について
上記第5の3(2)アに示した本件発明の課題を解決できると当業者であれば認識できるから、本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものである。
ア アンカー層の貯蔵弾性率に関するサポート要件違反について
本件明細書の【0135】~【0147】の実施例1~6において、アンカー層の貯蔵弾性率は15.1MPaの場合が示されているが、【0151】の良好なバリア性が発現されるメカニズムの記載等に基づけば、アンカー層の貯蔵弾性率が10.0MPa以上であれば、熱処理時の基材フィルムの変形をアンカー層が緩和し、ガスバリア性を高めることが技術的に推認できる。
また、本件発明1においてアンカー層の貯蔵弾性率の上限値が特定されていなとしても、積層体のアンカー層として機能する樹脂層の貯蔵弾性率であれば、必ずしも上限を特定しなくても、当業者であれば、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものである。
イ アンカー層の損失正接のピーク温度に関するサポート要件違反について
(ア) 上記第5の3(2)イのとおり、本件発明は、基材フィルムと無機物層との間に、120℃における貯蔵弾性率が10.0MPa以上の材料を、0.02μm以上5.00μm以下の厚さのアンカー層を設けることにより、良好なバリア性と密着性を得たものである。すなわち、本件発明は、アンカー層の損失正接のピーク温度に関する特定を待つまでもなく、その課題を解決できると認識されるものである。
(イ) よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 以上より、申立理由3(サポート要件)には理由がない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1~7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700058