特許異議申立
2024-700160
成形用基材
- 審判番号
- 2024-700160
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-508086
- 登録番号
- 7347496
- 請求日
- 2024年02月21日
- 審決日
- 2025年08月27日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日産自動車株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】高橋 俊一
- 【権利者代理人】伊藤 正和
- 【権利者代理人】高松 俊雄
- 【異議申立人】中谷 美弥子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.113-YAA(B29B) / P1651.121-YAA(B29B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第5項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7347496号発明「成形用基材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7347496号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7347496号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7347496号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)3月26日を国際出願日とする日本語特許出願であって、令和5年9月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和6年2月21日に特許異議申立人中谷美弥子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 6月 7日付け:取消理由通知
同年 8月 9日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月19日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年 9月11日 :意見書(申立人)
同年12月13日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和7年 2月14日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月28日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年 3月27日 :意見書(申立人)
同年 5月26日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 7月25日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
上記のとおり、特許権者から令和7年7月25日に訂正請求書が提出され、訂正の請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和6年8月9日に提出された訂正請求書及び令和7年2月14日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、いずれも取り下げられたものとみなす。
また、既に申立人に意見書の提出の機会が与えられており、下記第2のとおり、令和7年7月25日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6及び第7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したから、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときに該当し、申立人に再度の意見書の提出の機会は与えない。
以下、令和7年7月25日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7347496号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正の内容は以下のとおりである。なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
●訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「成形用基材。」とあるのを、「成形用基材(ただし、一方向に引き揃えられて平面状に配列された強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるシート状プリプレグを、複数層積み重ねたプリプレグ積層体において、
(A)前記シート状プリプレグは、強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに、前記マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂とし、かつ、
(B)前記シート状プリプレグは、前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、前記切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし、かつ、前記プリプレグ基材積層体の最表層の少なくとも片側に配設されたプリプレグ基材と、で構成されていることを特徴とするプリプレグ積層体を除く。)。」に訂正する。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。
なお、上記訂正事項に係る訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、本件訂正により対応する訂正後の請求項1~4に訂正される。
よって、本件訂正は一群の請求項1~4について請求されたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記訂正事項に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「成形用基材」という発明特定事項から、「一方向に引き揃えられて平面状に配列された強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるシート状プリプレグを、複数層積み重ねたプリプレグ積層体において、
(A)前記シート状プリプレグは、強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに、前記マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂とし、かつ、
(B)前記シート状プリプレグは、前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、前記切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし、かつ、前記プリプレグ基材積層体の最表層の少なくとも片側に配設されたプリプレグ基材と、で構成されていることを特徴とするプリプレグ積層体」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、上記訂正事項に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4についても同様である。
よって、上記訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1~4に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~4を訂正する上記訂正事項に係る訂正については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
二次元に配向した強化繊維と、該強化繊維に含浸された樹脂と、を備えた成形用基材であって、
前記強化繊維は、互いに異なる3つ以上の配向角度で配向しており、
前記配向角度のうち1つまたは2つの配向角度で配向した前記強化繊維は連続繊維であり、
前記1つまたは2つの配向角度以外の配向角度で配向した前記強化繊維は、各繊維が前記成形用基材内において分断された状態で前記1つまたは2つの配向角度以外の配向角度で配向した不連続繊維であり、
前記連続繊維が形成する全ての層の各々において、前記連続繊維は1つの配向角度で配向されている、成形用基材(ただし、一方向に引き揃えられて平面状に配列された強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるシート状プリプレグを、複数層積み重ねたプリプレグ積層体において、
(A)前記シート状プリプレグは、強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに、前記マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂とし、かつ、
(B)前記シート状プリプレグは、前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、前記切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし、かつ、前記プリプレグ基材積層体の最表層の少なくとも片側に配設されたプリプレグ基材と、で構成されていることを特徴とするプリプレグ積層体を除く。)。
[請求項2]
前記配向角度のうち2つの配向角度で配向した前記強化繊維が連続繊維であり、前記2つの配向角度以外の配向角度で配向した前記強化繊維は不連続繊維であり、前記2つの配向角度の差の絶対値が85°以上95°以下である、請求項1に記載の成形用基材。
[請求項3]
前記不連続繊維である強化繊維は、各々の配向角度に対応する方向に引き揃えられ、前記樹脂とともに、前記連続繊維である強化繊維と交差しない層を形成している、請求項1または2に記載の成形用基材。
[請求項4]
互いに異なる配向角度で配向した前記不連続繊維である強化繊維は、それぞれ別の層を形成している、請求項3に記載の成形用基材。」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書と共に証拠方法として下記2.に示す甲第1号証(以下、「甲1」という。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。また、申立人は、令和7年3月27日に提出した意見書と共に、証拠方法として下記2.に示す甲第2号証(以下、「甲2」という。)を提出し、依然として特許異議申立理由が解消していない旨を主張している。
なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
(1)申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2.証拠方法
甲1:特開2007-261141号公報
甲2:特開2014-210932号公報
第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
本件発明1~4についての特許に対して、令和7年5月26日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
●取消理由(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由についての判断
当審は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1~4についての特許を取り消すことはできないと判断する。なお、上記第4及び第5に記載したとおり、いずれも甲1に基づく理由(新規性欠如、進歩性欠如)であるから、まとめて判断を示すこととする。
1.甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
一方向に引き揃えられて平面状に配列された強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるシート状プリプレグを、複数層積み重ねたプリプレグ積層体において、
(A)前記シート状プリプレグは、強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに、前記マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂とし、かつ、
(B)前記シート状プリプレグは、前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、前記切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし、かつ、前記プリプレグ基材積層体の最表層の少なくとも片側に配設されたプリプレグ基材と、で構成されていることを特徴とするプリプレグ積層体。」
(1-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0010]
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、良好な流動性と複雑形状への追従性とを有すると共に、繊維強化プラスチックとした場合に優れた力学物性とその低バラツキ性および優れた寸法安定性を発現し得るプリプレグ積層体ならびに繊維強化プラスチックを提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
[0011]
本発明は、係る課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。即ち、
(1)一方向に引き揃えられて平面状に配列された強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるシート状プリプレグを、複数層積み重ねたプリプレグ積層体において、
(A)前記シート状プリプレグは、強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに、前記マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂とし、かつ、
(B)前記シート状プリプレグは、前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、前記切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし、かつ、前記プリプレグ基材積層体の最表層の少なくとも片側に配設されたプリプレグ基材と、で構成されていることを特徴とするプリプレグ積層体。
・・・
[発明を実施するための最良の形態]
[0013]
本発明は、前記従来技術の問題点、すなわち連続する強化繊維の繊維方向と直交する方向に切れ目を入れたプリプレグ基材を加熱、成形した繊維強化プラスチックは、マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂をとし、繊維長が12から25mm程度の短繊維を強化繊維としたSMC成形品に比べると、遙かに高い引張強度、引張弾性率等の力学特性を示すが、それでも切り込みの全くない連続繊維のみを強化繊維とするプリプレグ基材を加熱成形した繊維強化プラスチックに比べると、特に引張強度、曲げ強度および曲げ弾性率が低いと言う問題を改善すべく鋭意検討したところ、繊維強化プラスチックに曲げ負荷等の外力が作用した時に、最も負荷が大きい表層部分にだけ切れ目のない連続繊維で補強されたプリプレグを配置することによって、上記問題点を一挙に解決できることを究明したものである。
・・・
[0018]
プリプレグ積層基材2は、いずれもプリプレグ基材の強化繊維(図2符号7参照)に対して繊維方向と直交する方向または所定角度を持って切り込み6を入れたプリプレグ基材2a~2dを積層してなるもので、最終製品の繊維強化プラスチックとした場合に前述した強化繊維の流動性および成形型の凹凸表面への追従効果を発揮するものである。また、プリプレグ基材3、4は、表面に切れ目を有するプリプレグの弱点であった引張強度、曲げ強度および曲げ弾性率を補うため、強化繊維に切れ目を入れていない連続繊維のみで構成したものである。図では、プリプレグ基材3、4は、連続繊維のタテ糸とヨコ糸からなる織物の態様とした基材である。」
(1-3)「[0036]
また、プリプレグ積層基材2を構成するプリプレグ基材2a~2dのパターンとしては、2~6パターンの複数のものを含むことが好ましい。すなわち、強化繊維が0/90゜方向ばかりではなく±45゜様な斜行方向を有するパターンがこの範囲内であると、パターンが一つだけである欠点を他のパターンを有するプリプレグ基材が互いに補い合い、強化繊維の流動性において、より等方性を発現することができる。しかし、構成プリプレグ基材のパターンが1つだけの場合、切り込みにより切断されない繊維が存在し、繊維の流動性が著しく低下する。一方、該切り込みからなる列のパターンが7以上ある場合、繊維の流動制御が困難になり、設計どおりの成形体の成形が困難となる。
・・・
[0038]
・・・図1に示すように、プリプレグ積層基材2は、前述のプリプレグ基材2a~2dを順次積層し、一体化したものであるが、積層構成としては、用途に応じてそれぞれに適した積層構成とすればよく、特に制限はないが中でも積層体の繊維配向が[0/±45/90]s、[60/0/-60]等の如く疑似等方積層が、得られる成形体を均等な物性とし、反りの発生抑制効果が大である。さらに、積層して一体化させることにより、成形時の取扱い性が向上し、更に設計通りの積層構成を保ったままで成形することができる。
[0039]
次に、本発明のプリプレグ積層体1の構成基材であるプリプレグ基材3、4について説明する。
[0040]
プリプレグ基材3、4は、前述したように、プリプレグ積層基材2の欠点である短繊維構成のための力学特性低下を改善するために設けるものである。すなわち、切り込み6a、6bのない連続した繊維のみを強化繊維とするプリプレグ基材で構成されたプリプレグ積層基材の場合は、前述の通り、形状追随性、即ち賦形性が悪く、成形形状に制限を有するという問題があるため、本発明では図1に示すように、厚み方向の中心部分は切り込みが入ったプリプレグ積基材2で構成し、曲げ負荷が作用した時、最も負荷が大きい表層部分にだけ切れ目のない連続繊維補強プリプレグを配置する。この連続繊維補強プリプレグ3、4は、必ずしもプリプレグ積層基材2の両面に配置する必要はなく、用途や負荷条件によっては片側だけに配置しても大きな改善に繋がる。
[0041]
また、この連続繊維補強プリプレグ3、4の積層枚数は、プリプレグ基材の条件(繊維の品種や目付など)や成形形状などによって異なるが、例えば目付が200g/m2以上の場合は、片側で8層以下、好ましくは4層以下が好適である。なお、目付としては、150~450g/m2の範囲のものが好ましい。150g/m2未満では、強化繊維の量が少ないため補強効果が低下したり、繊維が過度に流動し易いことから繊維の乱れを生じ易く、450g/m2を超えると基材の剛性が高くて複雑形状に追随し難いからである。
[0042]
更に、このプリプレグ基材3、4の形態としては、平織、綾織、繻子織等の織組織を有する織物や、一方向基材が挙げられる。なお、繊維が曲がっているマット状基材は不適である。」
(1-4)「[0054]
(実施例1)
図2において、プリプレグ5として、一方向に引き揃えられた炭素繊維7にエポキシ樹脂が含浸され、表面がシリコーンコーティング処理された厚さ100μmの離型紙上に巻き取られたプリプレグ(東レ(株)製品P3052S-15:繊維重さ150g/mで、樹脂含有率33wt%、厚み0.15mm)を得た。そして、このプリプレグ5に対し、自動裁断機を用いて図2に示すような切り込み6a、6bを炭素繊維の繊維方向と直交する方向に断続的に入れたプリプレグ基材2cを得た。
[0055]
切り込みの長さL(La=Lb)は、10.5mmであり、所望繊維長さL2は30mmである。また、隣り合う切り込み6bの列は、切り込み6aの列に対して、繊維直交方向に10mmずれている。すなわち、切り込み列のパターンは、切り込み6aと切り込み6bとからなる2パターンである。更に、隣り合う列の切り込みは切り込みの重なり幅L1として0.5mmずつ切り込み合っている。また、任意の1つの切り込みにより切断された繊維本数は23,625本である。エポキシ樹脂の25℃雰囲気下における粘度は、2×104Pa・sであり、該基材はタック性を有していた。上記切り込み入りのプリプレグ基材から、繊維長手方向と、繊維長手方向から45゜回転してずらした方向に、それぞれ外形寸法が250mm×250mmの大きさに切り出し、各プリプレグ基材を16層疑似等方([45/0/-45/90]2S)に積層した。
[0056]
次に、その16層からなるプリプレグ積層基材の両側表層に、外形寸法が300×300mmの大きさで平織からなる連続繊維強化プリプレグ(東レ(株)製品F6343B-05)を各々1plyずつ配置したプリプレグ積層体を作製した。その積層体を、キャビティ部分の外形寸法が300mm×300mmの金型上に配置した後、加熱型プレス成型機により、6MPaの加圧下、150℃×30分間の条件にて硬化せしめ、300mm×300mm×2.1mmの平板状の成形体を得た。」
(1-5)「[0058]
(実施例2)
本実施例では、それぞれの切り込みの長さを12mmとし、隣り合う列の切り込みが互いにL1=2mm切り込んでおり、また、任意の1つの切り込みにより切断された繊維本数を27000本としたこと以外は、実施例1と同様(16層疑似等方積層)にして、切り込みを有するプリプレグ積層基材を作製した。
[0059]
次に、該プリプレグ積層基材の両側表層に、300×300mmの大きさで一方向からなる連続繊維強化プリプレグ(東レ(株)製品P3052S-15)を各々2plyずつ(表面側[0/90]、裏面側[90/0])配置したプリプレグ積層体を作製した。このプリプレグ積層体を実施例1と同様の金型、加熱型プレス機を用い、実施例1と同様の成形条件でホットプレス成形した。その結果、外形寸法が300mm×300mm×2.2mmの平板状の成形体を得た。得られた成形体は繊維のうねりを伴うことなく、成形体端部まで切り込み入りプリプレグの繊維が均等かつ充分に流動していた。また、反りもなく良好な平面平滑性であった。
[0060]
そして、この成形体の機械特性を連続繊維方向に負荷を掛けて前述の方法によって評価した結果、引張強度は640MPa、引張弾性率は51GPaと実施例1に比べ、高い値であり、曲げ強度は840MPa、曲げ弾性率は62GPaと非常に高い値であった。」
(1-6)「[0064]
[表1]
[図:0001428986000001.jpg]
」
2.甲1に記載された発明
甲1の請求項1(摘記1-1)には、「一方向に引き揃えられて平面状に配列された強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるシート状プリプレグを、複数層積み重ねたプリプレグ積層体において、
(A)前記シート状プリプレグは、強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに、前記マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂とし、かつ、
(B)前記シート状プリプレグは、前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、前記切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし、かつ、前記プリプレグ基材積層体の最表層の少なくとも片側に配設されたプリプレグ基材と、で構成されていることを特徴とするプリプレグ積層体。」が記載されており、発明の詳細な説明には、請求項1に記載された発明の解決しようとする課題、課題解決の作用機序、課題解決手段を構成する強化繊維、マトリックス樹脂及びそれらから構成されるプリプレグ基材、プリプレグ基材に設けられる切り込み、プリプレグ基材の積層方向のパターン等についての一般的な説明が例示を伴って具体的に記載されており、[0051]~[0065]には請求項1に記載された発明の実施例が記載されている。
そうすると、甲1には、請求項1に基づいて以下の発明が記載されている。
「一方向に引き揃えられて平面状に配列された強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるシート状プリプレグを、複数層積み重ねたプリプレグ積層体において、
(A)前記シート状プリプレグは、強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに、前記マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂とし、かつ、
(B)前記シート状プリプレグは、前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、前記切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし、かつ、前記プリプレグ基材積層体の最表層の少なくとも片側に配設されたプリプレグ基材と、で構成されているプリプレグ積層体。」(以下、「甲1発明」という。)
3.本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「強化繊維」及び「炭素繊維」は、いずれも本件発明1における「強化繊維」に相当し、甲1発明における「マトリックス樹脂が含浸」及び「プリプレグ積層体」は、それぞれ本件発明1における「含浸された樹脂」及び「成形用基材」に相当する。
甲1発明における「強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに」及び「切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし」は、本件発明1における「強化繊維は連続繊維であり」に相当し、甲1発明における「前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れた」は、本件発明1における「強化繊維は、各繊維が前記成形用基材内において分断された状態で・・・不連続繊維であり」に相当する。
そうすると、両者は、
「強化繊維と、該強化繊維に含浸された樹脂と、を備えた成形用基材であって、
前記強化繊維は、連続繊維と、
各繊維が前記成形用基材内において分断された状態である不連続繊維を備える、
成形用基材。」
の点で一致し、
相違点1:本件発明1は強化繊維が「二次元に配向」し、「前記強化繊維は、互いに異なる3つ以上の配向角度で配向しており、」と特定するのに対し、甲1発明は強化繊維の配向方向が特定されない点
相違点2:本件発明1は「前記配向角度のうち1つまたは2つの配向角度で配向した前記強化繊維は連続繊維であり、
前記1つまたは2つの配向角度以外の配向角度で配向した前記強化繊維は、各繊維が前記成形用基材内において分断された状態で前記1つまたは2つの配向角度以外の配向角度で配向した不連続繊維であり、」と特定するのに対し、甲1発明は強化繊維の配向方向が特定されない点
相違点3:本件発明1は「前記連続繊維が形成する全ての層の各々において、前記連続繊維は1つの配向角度で配向されている」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されない点
相違点4:本件発明1は「成形用基材(ただし、一方向に引き揃えられて平面状に配列された強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されてなるシート状プリプレグを、複数層積み重ねたプリプレグ積層体において、
(A)前記シート状プリプレグは、強化繊維を連続した炭素繊維とするとともに、前記マトリックス樹脂を熱硬化性樹脂とし、かつ、
(B)前記シート状プリプレグは、前記連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、前記切り込みを入れないで連続した炭素繊維を強化繊維とし、かつ、前記プリプレグ基材積層体の最表層の少なくとも片側に配設されたプリプレグ基材と、で構成されていることを特徴とするプリプレグ積層体を除く。)。」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
(2)相違点4について
相違点4に係る「成形用基材(ただし、・・・を除く。)。」という事項は、本件発明1から甲1発明を除くことを意味するから、相違点4は本件発明1と甲1発明との間の実質的な相違点であることが明らかである。
また、甲1の[0010](摘記1-2)には、甲1に記載された発明の解決しようとする課題が「良好な流動性と複雑形状への追従性とを有すると共に、繊維強化プラスチックとした場合に優れた力学物性とその低バラツキ性および優れた寸法安定性を発現し得るプリプレグ積層体ならびに繊維強化プラスチックを提供すること」にあることが記載され、[0011]には、課題解決手段が甲1の請求項1に記載されたプリプレグ積層体すなわち甲1発明、並びにその下位概念に当たるプリプレグ積層体及びそれらを加熱・硬化せしめてなる繊維強化プラスチックであることが記載されている。そうすると、甲1の記載に接した当業者は、甲1に記載された発明の課題を解決する手段として、甲1発明に包含されるプリプレグ積層体を用いることを動機付けられるにすぎず、したがって、相違点4に係る「成形用基材(ただし、・・・を除く。)。」を満たす成形用基材を採用することに想到することはできない。
さらに、甲1の[0013](摘記1-2)には、「従来技術の問題点、すなわち連続する強化繊維の繊維方向と直交する方向に切れ目を入れたプリプレグ基材を加熱、成形した繊維強化プラスチックは、・・・切り込みの全くない連続繊維のみを強化繊維とするプリプレグ基材を加熱成形した繊維強化プラスチックに比べると、特に引張強度、曲げ強度および曲げ弾性率が低いと言う問題を改善すべく鋭意検討したところ、繊維強化プラスチックに曲げ負荷等の外力が作用した時に、最も負荷が大きい表層部分にだけ切れ目のない連続繊維で補強されたプリプレグを配置することによって、上記問題点を一挙に解決できることを究明した」と記載されており、[0018]にも、切り込みを入れたプリプレグ基材の積層体が成形型の凹凸表面への追従効果を発揮し、表面に配置した連続繊維のみで構成したプリプレグ基材が、弱点であった引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率を補うという課題解決の機序が記載されている。そうすると、申立人が令和7年3月27日に意見書とともに提出した甲2に、「成形材料」の発明に関し、「連続強化繊維を有する繊維材料から成る成形材料であって、該連続強化繊維の少なくともいくつかは、それらの長さに沿う少なくとも一つの地点で切断される成形材料」(甲2の[0007])が記載され、図9に、連続繊維層が不連続繊維層の内層として位置する積層構造が例示されているとしても、甲1の課題解決手段である「最も負荷が大きい表層部分にだけ切れ目のない連続繊維で補強されたプリプレグを配置する」ことに代えて、甲2に記載された「連続繊維層が不連続繊維層の内層として位置する積層構造」を採用することは当業者が容易に想到し得ることではなく、したがって、相違点4に係る「成形用基材(ただし、・・・を除く。)。」を満たす成形用基材を採用することに当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和7年3月27日に提出した意見書において、令和7年2月14日に提出された訂正請求書による訂正請求を前提として、
ア「本件訂正発明1は、上記除くクレームによって辛うじて新規性を有すると判断され得る場合であっても、プリプレグおよび繊維強化プラスチックに関連する甲1発明とは技術的思想としては顕著に異なるとはいえないため、本来的に進歩性を有するものでもない」こと、
イ「甲1発明においては、両側表層部分または片側表層部分に積層する連続繊維プリプレグの枚数は単なる設計事項であって、8層まで積層し得ることが具体的に例示もされている」から「依然として甲1記載の発明と相違点がなく、新規性がない。また、もし仮に相違するとしても、当業者であれば、甲1発明に基づいて容易に想到し得る」こと、
ウ「本件発明1は「厚み方向の中心部分にも連続繊維が形成する層を設け」という発明特定事項を備えておらず、特許権者の主張は請求項1の記載に基づくものではない」こと、
エ「本件特許権者は、さらに、「厚み方向の中心部分にも連続繊維が形成する層を設けることを特定する」よう訂正することが考えられる」が、「このような訂正は、新たな技術的事項を導入するもの」であるし、「仮に、そのような訂正がされたとしても、連続繊維プリプレグと切込プリプレグとの使い分けで引張特性や曲げ特性を調整可能であることは当業者には設計事項の範疇である」こと(参考資料として甲2提出)
と主張している。
しかし、イについては、本件訂正により甲1発明を除くことが特定されたことにより、上記(2)に記載したとおり、甲1に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の主張は成り立たなくなった。
また、エについては、上記第2に記載したとおり、本件訂正は新規事項を追加するものではなく、また、上記(2)に記載したとおり、甲2の記載を参酌しても、当業者が甲1発明に基づいて相違点4に係る「成形用基材(ただし、・・・を除く。)。」を満たす成形用基材に容易に想到し得たとはいえない。
さらに、ア及びウの主張は、上記(2)に記載した判断を覆すに足る具体的な理由を示すものではない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(4)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4.本件発明2~4について
本件発明2~4は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記3.で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4はいずれも甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~4は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(甲1に基づく進歩性欠如)、申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2(甲1に基づく進歩性欠如))のいずれによっても、本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700160