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特許異議申立

2025-700451

熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム

審判番号
2025-700451
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-143595
登録番号
7573391
請求日
2025年04月22日
審決日
2026年02月04日
公報発行日
2026年05月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日産自動車株式会社
  • 【権利者代理人】IBC一番町弁理士法人
  • 【権利者】ルノー エス.ア.エス.
  • 【権利者代理人】IBC一番町弁理士法人
  • 【権利者】国立大学法人九州大学
  • 【権利者代理人】IBC一番町弁理士法人
  • 【異議申立人】藤田 淳
審判長/審判官
  • 審判長 平瀬 知明
  • 審判官 大山 健
  • 審判官 竹下 和志
分類
P1651.537-YAA(F24V)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7573391号発明「熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7573391号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~8〕について訂正することを認める。 特許第7573391号の請求項1~7に係る特許を維持する。 特許第7573391号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7573391号の請求項1~8に係る特許は、令和2年8月27日の出願であって、令和6年10月17日にその特許権の設定登録がされ、同月25日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和7年 4月22日 :特許異議申立人 藤田 淳(以下「申立人」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 6月25日付け:取消理由通知 同年10月17日 :日産自動車株式会社、他2名(以下「特許権者」という。)による意見書、訂正請求書の提出 同年10月29日 :特許権者による手続補正書の提出 同年12月10日 :申立人による意見書の提出 第2 本件訂正の適否 1.訂正の内容 令和7年10月29日に提出の手続補正書により補正された同月17日にした訂正の請求(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7573391号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める」ものである。 [請求項1~4について] (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金」と記載されているのを、 「2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金」(下線部は訂正した箇所を示す。訂正事項2、3についても同様。)に訂正する。(請求項1を引用する請求項4についても同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金」と記載されているのを、 「2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金」に訂正する。(請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3、4についても同様に訂正する。) [請求項5~8について] (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5に「水素吸蔵機能を有する発熱材料」と記載されているのを、 「2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金から形成される発熱材料」に訂正する。(請求項5を直接的又は間接的に引用する請求項6、7についても同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 (5)一群の請求項 訂正事項1に係る訂正前の請求項1、4について、請求項4は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正事項2に係る訂正前の請求項2~4について、請求項3、4は、請求項2を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項〔1~4〕は、一群の請求項である。 また、訂正事項3に係る訂正前の請求項5~8について、請求項6~8は、請求項5を引用しているものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項5~8に対応する訂正後の請求項〔5~8〕は、一群の請求項である。 2.訂正の適否について (1)独立特許要件 訂正前の全ての請求項である請求項1~8に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~8〕に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。 [一群の請求項〔1~4〕について] (2)訂正事項1、2について ア 訂正の目的 訂正事項1、2は、訂正前の請求項1、2の「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金」について、「水素吸蔵脱蔵特性」が具体的にどのような特性を特定又は含み得るのか不明確であるとともに「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料」がいかなる材料を意味し「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金」がどのような「水素吸蔵合金」を特定又は含み得るのか不明確であったことから、それを明確にすることを目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 訂正事項1、2に関連して、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「特許明細書等」という。)には、以下の記載がある。 (ア)「【請求項1】 水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、前記水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させ、 前記水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、前記基準温度よりも高い第1温度かつ前記基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、前記水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させ、 前記系の前記気相部を、前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、前記水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせ、 前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、前記系の前記気相部の圧力を前記基準圧力に戻し、かつ温度を前記基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる、熱エネルギー発生方法。」(下線部は当審で付した。以下同様。) (イ)「【0021】 第3ステップにおいて、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせ、振動発熱現象を確実に生じさせる。振動発熱現象は、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持して行う。第2温度および第2圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第2温度は、例えば、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)であり、第2圧力は、例えば、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)である。なお、第2温度および第2圧力を保持しても、振動発熱は、経過時間とともに振動幅が徐々に小さくなるものの、100時間程度継続する。 【0022】 [発熱材料] 発熱材料は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成される。発熱材料は、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する。本形態の発熱材料は、水素ガスの存在下で過剰熱を発生しうる限りにおいて特に限定されないが、例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、パラジウム(Pd)-二酸化ケイ素(SiO2)系、銅(Cu)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、銅(Cu)-ニッケル(Ni)-二酸化ケイ素(SiO2)系、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、アルミニウム(Al)-ニッケル(Ni)系の材料等を例示できる。」 (ウ)以上(ア)、(イ)から、訂正事項1、2は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 訂正事項1、2に係る訂正は、上記ア及びイで述べたとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1、2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 [一群の請求項〔5~8〕について] (2)訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項5の「水素吸蔵機能を有する発熱材料」を「2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金から形成される発熱材料」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 訂正事項3は、「発熱材料」が、訂正事項1、2により訂正された「水素吸蔵合金」と同様の「水素吸蔵合金」から形成された「発熱材料」であることを特定する訂正といえるから、訂正事項1、2と同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、さらに発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項4について 訂正事項4に係る訂正は、請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 3.小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~8〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 第2で説示したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~7に記載された発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される下記のとおりのものと認める(以下「本件発明1」などといい、これらを総称して「本件発明」ということがある。また、請求項8については本件訂正により削除された。)。 「【請求項1】 2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金を基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、前記水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させ、 前記水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、前記基準温度よりも高い第1温度かつ前記基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、前記水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させ、 前記系の前記気相部を、前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、前記水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせ、 前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、前記系の前記気相部の圧力を前記基準圧力に戻し、かつ温度を前記基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる、熱エネルギー発生方法。 【請求項2】 2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金を基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、前記水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させ、 前記水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、前記基準温度よりも高い第1温度かつ前記基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、前記水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させ、 前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、前記系の前記気相部を、前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、前記水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる、熱エネルギー発生方法。 【請求項3】 前記水素吸蔵合金の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、前記系の前記気相部の圧力を前記基準圧力に戻し、かつ温度を前記基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる、請求項2記載の熱エネルギー発生方法。 【請求項4】 前記水素放出と前記水素吸蔵とを反復的に行っている場合に、前記系の前記気相部の温度または圧力の上昇を感知したときに、前記系の前記気相部の温度または圧力の少なくとも一方を低下させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱エネルギー発生方法。 【請求項5】 2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金から形成される発熱材料と、 前記発熱材料を加熱するヒーターと、 前記発熱材料に対して水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、 前記発熱材料と前記水素ガスとを含む系の気相部の温度を検知する温度センサーと、 前記系の前記気相部の圧力を検知する圧力センサーと、 前記系の前記気相部の温度および圧力を制御する制御装置と、を有し、 前記制御装置は、 前記系の前記気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持した後、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、前記系の前記気相部を前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する制御を実行可能である、熱エネルギー発生システム。 【請求項6】 前記制御装置は、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始した場合に、前記系の前記気相部の温度または圧力の上昇を感知したときに、前記系の前記気相部の温度または圧力の少なくとも一方を低下させる制御を実行可能である、請求項5記載の熱エネルギー発生システム。 【請求項7】 前記制御装置は、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量の振動が振幅のしきい値未満になったときに、前記系の前記気相部の圧力を前記基準圧力に戻し、かつ温度を前記基準温度に下げて、過剰熱の発生を停止させる制御を実行可能である、請求項5または6記載の熱エネルギー発生システム。 【請求項8】 (削除)」 第4 取消理由通知の概要 1.当審が取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。 理由1(明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由2(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 (理由1) [請求項1~4、8について] (1)請求項1の「水素吸蔵脱蔵特性」が具体的にどのような特性を特定又は含み得るのか不明確である。また、請求項2~4、8についても同様に不明確である。 (2)請求項1の「水素吸蔵脱蔵特性」が不明確であることに起因して、「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料」がいかなる材料を意味し、「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金」がどのような「水素吸蔵合金」を特定又は含み得るのか不明確である。また、請求項2~4、8についても同様に不明確である。 [請求項1~4について] (3)請求項1の「水素吸蔵合金の2つ以上の合金相」、「水素吸蔵合金の1つ以上の合金相」及び「他の1つ以上の合金相」との記載における「合金相」は不明確である。また、請求項2~4についても同様に不明確である。 (理由2) [請求項1~8について] 請求項1~8に係る発明には、発明の詳細な説明の段落【0024】に記載の発熱材料についての特定及び示唆がなく、第1ステップ~第3ステップに記載の温度及び圧力についての特定及び示唆がないから、請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえない。 2.特許権者が提出した証拠 特許権者は、上記1の取消理由に対して、令和7年10月17日提出の意見書に添付して、以下の証拠を提出した。 (1)特開2006-134613号公報(乙第1号証であって、以下「乙1」という。) (2)「水中溶接4. 水中溶接切断を理解するための基礎知識(2)」、「4. 5 相変態と合金の構造」が掲載されたページ、[online]、2017年4月3日改訂、株式会社小川技研、[取得日 令和7年10月16日]、取得先<http://wwwb.pikara.ne.jp/ogawa-giken/uw_wg/uw405.html>(乙第2号証であって、以下「乙2」という。) (3)国際公開第2020/080303号(乙第3号証であって、以下「乙3」という。) 第5 乙号証に記載された事項 1.乙1について 乙1には、次の記載がある。 「【0014】 本発明において、合金相とは2種類以上の異なる成分金属元素が互いに原子スケールで混ざり合っている相を表す。 本発明の燃料電池用電極触媒において、前記白金または白金を含む貴金属合金は、白金または白金とPd,AgおよびAuから選択される一または二以上の元素を含む合金が挙げられる。」 2.乙2について 乙2には、次の記載がある。 ・「4.5 相変態と合金の構造」(1ページ2行) ・「物質の状態を示す金属用語が相です。固相、気相、液相のように使います。合金相とは、複数の金属元素が混ざり合った状態を示します。相には、化学組成と温度と圧力が影響します。」(1ページ12~18行) 3.乙3について (1)乙3の記載 乙3には、次の記載がある。 「[請求項1] 230℃以上の融点を有する第1の金属と、 前記第1の金属よりも高い融点を有する第2の金属と、 を含み、 この際、前記第1の金属または前記第2の金属の少なくとも一方が、前記第2の金属の融点未満の温度で銀よりも大きい水素溶解度を有し、かつ、前記第1の金属または前記第2の金属の少なくとも一方の水素化物が、CaH2の標準生成エンタルピー以上の標準生成エンタルピーを有し、 前記第2の金属の融点未満の温度において、前記第1の金属および前記第2の金属が水素ガスと接触することにより発熱する、発熱材料。 [請求項2] 前記第1の金属と前記第2の金属とが、組成比の異なる複数の相を有する合金の状態で存在している、請求項1に記載の発熱材料。 ・・・」 「[0011] なお、本発明に係る発熱材料が非常に大量の熱(過剰熱)を発生しうるメカニズムは完全には明らかとはなっていない。ただし、本発明者らは、上記メカニズムに関して、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、上述したような大量の発熱が生じるものと推測している。 [0012] [発熱材料] 図1は、本発明の一実施形態に係る発熱材料を模式的に表す断面図である。図1に示す発熱材料10は、第1の金属であるアルミニウム(Al)(融点:660.3℃)20と、第2の金属であるニッケル(Ni)(融点:1455℃)30との合金40を含んでいる。、本実施形態において、アルミニウム(Al)20とニッケル(Ni)30との合金40は、組成比の異なる複数の相を有している。・・・ ・・・ [0014] (金属の種類) 本形態に係る発熱材料は、少なくとも2種の金属を含むものである。本形態に係る発熱材料に含まれる金属のうち、より低い融点を有するものを「第1の金属」と称し、より高い融点を有するものを「第2の金属」と称する。・・・」 「[0017] 第1の金属および第2の金属の具体的な種類について特に制限はなく、上記の規定を満足しうる組み合わせから任意に選択可能である。そして、ある金属が「第1の金属」に該当するか「第2の金属」に該当するかは、組み合わされる他の金属との関係で決定される相対的なものである。このため、これらの金属の組み合わせによっては、ある金属が「第1の金属」に該当する場合と、「第2の金属」に該当する場合の双方の可能性が存在する。一例としては、第1の金属として、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、鉛(Pb)が挙げられる。また、第2の金属として、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、カルシウム(Ca)が挙げられる。これらの金属を用いると、発熱量の大きい発熱材料を構成することが可能であるため、好ましい。また、加熱温度が比較的低い場合であっても発熱材料として機能しうるという観点からは、融点が比較的低いスズ(Sn)を第1の金属として用いることが好ましい。また、発熱量が大きいという観点からは、アルミニウム(Al)を第1の金属として用いることも好ましい。さらに、「第1の金属-第2の金属」の組み合わせとしては、ニッケル-ジルコニウム、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、アルミニウム-マンガン、アルミニウム-亜鉛、スズ-チタン、アルミニウム-カルシウムなどが挙げられるが、特に発熱量の大きい発熱材料を構成することが可能であるという観点からは、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、スズ-チタンの組み合わせが好ましく、アルミニウム-ニッケル、スズ-チタンの組み合わせがより好ましく、アルミニウム-ニッケルの組み合わせが特に好ましい。なお、これら以外の金属や、これら以外の組み合わせが用いられてもよいことはもちろんである。」 「[0019] ここで、本形態に係る発熱材料は、第2の金属の融点未満の温度に加熱されて用いられる。このため、外殻体の構成材料はシリカに限定されず、水素ガス(H2)雰囲気下、上記温度において化学的に安定であり、かつ、水素ガス(H2)を透過する多孔質体であればよい。このような外殻体の構成材料としては、入手や製造の容易性の観点から、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、チタニア、ゼオライト等の金属酸化物が好ましく、なかでもシリカまたはジルコニアが好ましい。また、活性炭などの多孔質炭素炭素材料や、多孔質炭化ケイ素・窒化ケイ素、多孔性金属、多孔性金属錯体(MOF)なども外殻体を構成する無機多孔質体として用いられうる。」 「[0036] ・・・本発明に係る発熱材料による大量の発熱は水素ガス(H2)の存在下でのみ生じることから、本発明者らは、上記発熱のメカニズムとして、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、上述したような大量の発熱が生じるものと推測している。」 「[0041] [実施例1および実施例2] 以下の手法により、発熱材料(1)を調製し、示差走査熱量(DSC)測定を行った。 [0042] (発熱材料(1)の調製) まず、第1の金属として、アルミニウム(Al)(融点:660.3℃)粉末(純度99.5%)を準備した。また、第2の金属として、ニッケル(Ni)(融点:1455℃)粉末を準備した。このアルミニウム(Al)粉末20mgと、ニッケル(Ni)粉末20mgとを秤量し、乳鉢および乳棒を用いて1~2分間混合して、金属粉末の混合物の状態の発熱材料(1)を調製した。 ・・・ [0045] 図5Aおよび図5Bに示すように、発熱材料(1)の温度を700℃または800℃まで上げた場合には、H2フローの場合にHeフローの場合と比較して非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)が継続的に確認された。すなわち、発熱材料(1)は、第2の金属であるニッケル(Ni)の融点未満の温度において、これらの金属が水素ガス(H2)と接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示す材料であることが確認された。・・・」 「[0048] [実施例3] 以下の手法により、発熱材料(2)を調製し、示差走査熱量(DSC)測定を行った。 [0049] (発熱材料(2)の調製) アルミニウム(Al)粉末に代えて、ジルコニウム(Zr)粉末を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、発熱材料(2)を調製した。ここで、ジルコニウム(Zr)の融点は1855℃であることから、発熱材料(2)においてはニッケル(Ni)が第1の金属であり、ジルコニウム(Zr)が第2の金属である。 ・・・ [0051] 発熱材料(2)の温度を(Zr)の融点未満である700℃まで上げた場合には、H2フローの場合にHeフローの場合と比較して非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)が継続的に確認された。すなわち、発熱材料(2)もまた、第2の金属であるジルコニウム(Zr)の融点未満の温度において、これらの金属が水素ガス(H2)と接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示す材料であることが確認された。・・・」 「[0052] [実施例4] 以下の手法により、発熱材料(3)を調製し、示差走査熱量(DSC)測定を行った。 [0053] (発熱材料(3)の調製) ニッケル(Ni)粉末に代えて、チタン(Ti)粉末を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、発熱材料(3)を調製した。ここで、チタン(Ti)の融点は1668℃であることから、発熱材料(3)においてはアルミニウム(Al)が第1の金属であり、チタン(Ti)が第2の金属である。 ・・・ [0055] 発熱材料(3)の温度をチタン(Ti)の融点未満である700℃まで上げた場合には、H2フローの場合にHeフローの場合と比較して非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)が継続的に確認された。すなわち、発熱材料(3)もまた、第2の金属であるチタン(Ti)の融点未満の温度において、これらの金属が水素ガス(H2)と接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示す材料であることが確認された。・・・」 「[0056] [実施例5] 以下の手法により、発熱材料(4)を調製し、示差走査熱量(DSC)測定を行った。 [0057] (発熱材料(4)の調製) アルミニウム(Al)粉末に代えて、スズ(Sn)粉末を用いたこと以外は、上述した実施例4と同様の手法により、発熱材料(4)を調製した。ここで、チタン(Ti)の融点は1668℃であることから、発熱材料(4)においてはスズ(Sn)が第1の金属であり、チタン(Ti)が第2の金属である。 ・・・ [0059] 発熱材料(4)の温度をチタン(Ti)の融点未満である700℃まで上げた場合には、H2フローの場合にHeフローの場合と比較して非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)が継続的に確認された。すなわち、発熱材料(4)もまた、第2の金属であるチタン(Ti)の融点未満の温度において、これらの金属が水素ガス(H2)と接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示す材料であることが確認された。・・・」 「[0060] [実施例6] 以下の手法により、発熱材料(5)を調製し、示差走査熱量(DSC)測定を行った。 [0061] (発熱材料(5)の調製) チタン(Ti)粉末に代えて、マンガン(Mn)粉末を用いたこと以外は、上述した実施例4と同様の手法により、発熱材料(5)を調製した。ここで、マンガン(Mn)の融点は1246℃であることから、発熱材料(5)においてはアルミニウム(Al)が第1の金属であり、マンガン(Mn)が第2の金属である。 ・・・ [0063] 発熱材料(5)の温度をマンガン(Mn)の融点未満である700℃まで上げた場合には、H2フローの場合にHeフローの場合と比較して非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)が継続的に確認された。すなわち、発熱材料(5)もまた、第2の金属であるマンガン(Mn)の融点未満の温度において、これらの金属が水素ガス(H2)と接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示す材料であることが確認された。・・・」 (2)乙3の記載から理解できる事項 上記(1)の[実施例1]~[実施例6]に係る実験及び実験結果についての記載、及び段落[0011]、[0012]、[0014]、[0017]、[0036]等の記載から、第1の金属及び第2の金属をそれぞれ、アルミニウム(Al)及びニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)及びニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)及びチタン(Ti)、スズ(Sn)及びチタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びマンガン(Mn)とし、第1の金属及び第2の金属とが組成比の異なる複数の相を有する合金の状態として存在する発熱材料についても、それぞれの第2の金属(より高い融点を有する金属)の融点未満の温度において実験を行った結果、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵及び脱蔵が繰り返されて、非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)が確認されたことが理解できる。 そうすると、乙3から、 「第1の金属及び第2の金属が水素ガスと接触することにより発熱する発熱材料であって、組成比の異なる複数の相を有する合金の状態で存在し、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する発熱材料において、第1の金属及び第2の金属をそれぞれ、アルミニウム(Al)及びニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)及びニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)及びチタン(Ti)、スズ(Sn)及びチタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びマンガン(Mn)として、発熱材料を調製したところ、それぞれ、第2の金属(より高い融点を有する金属)の融点未満の温度において、これらの金属が水素ガスと接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示す材料であることが確認された。」ことが理解できる。 第6 理由1(明確性)についての当審の判断 1.取消理由通知で通知した理由1(明確性)について (1)取消理由通知で通知した理由1(明確性)の概要 取消理由通知に記載した理由1の取消理由の概要は概ね以下のとおりである。 [訂正前の請求項1~4、8について] ア 請求項1の「水素吸蔵脱蔵特性」が具体的にどのような特性を特定又は含み得るのか不明確である。また、請求項2~4、8についても同様に不明確である。 イ 請求項1の「水素吸蔵脱蔵特性」が不明確であることに起因して、「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料」がいかなる材料を意味し、「水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金」がどのような「水素吸蔵合金」を特定又は含み得るのか不明確である。また、請求項2~4、8についても同様に不明確である。 [訂正前の請求項1~4について] ウ 請求項1の「水素吸蔵合金の2つ以上の合金相」、「水素吸蔵合金の1つ以上の合金相」及び「他の1つ以上の合金相」との記載における「合金相」は不明確である。また、請求項2~4についても同様に不明確である。 (2)判断 ア 上記(1)ア及びイの取消理由について検討する。 本件発明1~4について、本件訂正の訂正事項1、2により、訂正前の請求項1、2における「水素吸蔵脱蔵特性」との用語は用いずに、「水素吸蔵合金」が「2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金」と特定された。 そして、本件発明1~4における上記「水素吸蔵合金」が第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるほどに不明確であるとはいえない。 なお、申立人が明確性要件違反を主張する本件発明5~7についても、訂正前の請求項5における「発熱材料」が、本件訂正の訂正事項3により、訂正事項1、2により訂正された「水素吸蔵合金」と同様の「水素吸蔵合金」から形成された「発熱材料」であることを特定する訂正がなされたところ、同様の理由により不明確であるとはいえない。 したがって、本件発明1~7は、上記(1)ア及びイの取消理由によっては取り消すことができない。 イ 上記(1)ウの取消理由について検討する。 特許権者は、「合金相」の定義について、乙1及び乙2を提出した。 そして、乙1及び乙2の記載(上記第5の1及び2を参照。)から、「合金相」とは「2種類以上の異なる成分金属元素が互いに原子スケールで混ざり合っている相」であることや「複数の金属元素が混ざり合った状態を示」すものであることが理解できる。 さらに、特許明細書等の段落【0032】に「図5は、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金の状態図・・・」、段落【0033】に「図5の状態図に示すように、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金は多数の相を有しているため、温度および組成によっては相変化する。」との記載があり、下記図5には、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金が「Ni10Zr7」及び「NiZr2」を含む、複数の異なる合金相を有することが図示されているともいえる。 [図:0001435191000001.jpg] そうすると、本件発明1~4について、「合金相」の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるほどに不明確であるとはいえない。 なお、申立人が明確性要件違反を主張する本件発明5~7についても、同様の理由により「合金相」の記載が不明確であるとはいえない。 したがって、本件発明1~7は、上記(1)ウの取消理由によっては取り消すことができない。 2.申立人が特許異議申立書において主張した事項の明確性について 本件発明の明確性について、申立人が特許異議申立書において明確性要件違反であると主張した事項についても合わせて検討する。 (1)申立人が明確性要件違反を主張した事項の概要 [訂正前の請求項1~8について] 請求項1~8に記載された「基準温度」、「基準圧力」、「前記基準温度よりも高い第1温度」、「前記基準圧力よりも高い第1圧力」、「前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度」及び「前記第1圧力よりも低い第2圧力」の数値、数値範囲が不明である。 (2)判断 ア 「基準温度」及び「基準圧力」について 本件発明1~7における「基準温度」及び「基準圧力」は、特許明細書等の段落【0018】に「基準温度および基準圧力は、いわゆる常温および常圧であり、具体的には、基準温度は25℃、基準圧力は0.1MPa(約1atm)である。」と記載されているように、一般的に、常温及び常圧を意味し、「略25℃」及び「略0.1MPa(略1atm)」と解して差し支えないから、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるほどに不明確であるとはいえない。 イ 「前記基準温度よりも高い第1温度」、「前記基準圧力よりも高い第1圧力」、「前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度」及び「前記第1圧力よりも低い第2圧力」について 本件発明1~7における「前記基準温度よりも高い第1温度」、「前記基準圧力よりも高い第1圧力」、「前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度」及び「前記第1圧力よりも低い第2圧力」との記載により、「第1温度」、「第1圧力」、「第2温度」及び「第2圧力」のそれぞれが、「基準温度よりも高い」こと、「基準圧力よりも高い」こと、「基準温度よりも高く第1温度よりも低い」こと及び「第1圧力よりも低い」ことが明確に理解できるから、「第1温度」、「第1圧力」、「第2温度」及び「第2圧力」のそれぞれについて、具体的な数値又は数値範囲が特定されていないとしても、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるほどに不明確であるとはいえない。 したがって、本件発明1~7は、申立人が特許異議申立書において明確性要件違反であると主張した事項によっても取り消すことはできない。 3.小括 以上のとおりであるから、理由1(明確性)について、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人が特許異議申立書において主張した事項によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 第7 理由2(サポート要件)についての当審の判断 1.規範 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 2.発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0004】 過剰熱を利用しうることについては特許文献1に開示されているものの、発熱材料が過剰熱を発生しうるメカニズムは完全には明らかとはなっていない。このため、過剰熱を確実に発生させることが難しいのが実情である。 【0005】 そこで、本発明は、過剰熱の発生を確実なものとしうる熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システムを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本願発明が属する水素吸蔵材料の分野においては、水素の吸蔵量、吸脱蔵のしやすさ、および発熱量の大きさに注目して研究が進められており、過渡的な発熱現象については十分な検討が進められていなかった。本願の発明者らは、水素吸蔵材料からなる発熱材料の過渡的な発熱現象について鋭意研究したところ、過剰熱がパルス的に発生すること、および発熱振動現象が材料の相変化により発生することを見出した。そして、発熱材料に対する操作方法を特定することによって、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。」 「【発明の効果】 【0009】 本発明に係る熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システムによれば、パルス的に発生する過剰熱を確実に発生させることが可能となる。」 「【0014】 本発明の一形態は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を用いる熱エネルギー発生方法である。熱エネルギー発生方法において、まず、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させる(第1ステップ)。 【0015】 次に、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる(第2ステップ)。 【0016】 そして、系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる(第3ステップ)。本形態に係る水素吸蔵合金は、水素ガス(H2)の存在下で加熱されることによって、非常に大きな発熱量を外部に放出する。このような水素吸蔵合金は、発熱材料として、熱エネルギー発生システムに好適に適用される。 【0017】 なお、発熱材料が非常に大量の熱(過剰熱)を発生しうるメカニズムは完全には明らかとはなっていない。ただし、本発明者らは、上記メカニズムに関して、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、上述したような大量の発熱が生じるものと推測している。 【0018】 基準温度および基準圧力は、いわゆる常温および常圧であり、具体的には、基準温度は25℃、基準圧力は0.1MPa(約1atm)である。 【0019】 第1ステップにおいて、水素吸蔵合金に対して前処理(真空脱気および加熱離脱)を実施し、合金表面からの不純物を取り除く。前処理は、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して行う。温度は、特に限定されないが、例えば、約200℃である。圧力は、特に限定されないが、例えば、真空(1.0×10-2Paオーダー)である。加温および減圧を保持する時間についても特に限定されないが、例えば、50~100分である。 【0020】 第2ステップにおいて、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる。水素吸蔵は、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して行う。第1温度および第1圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第1温度は、例えば、400~800℃であり、第1圧力は、例えば、0.1MPa(abs)(約1atm)よりも高く、1MPa(abs)(約10atm)以下の範囲の圧力である。第1温度および第1圧力を保持する時間は使用する水素吸蔵合金の水素吸蔵速度特性によって異なるため特に限定されないが、例えば、1~60時間である。 【0021】 第3ステップにおいて、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせ、振動発熱現象を確実に生じさせる。振動発熱現象は、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持して行う。第2温度および第2圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第2温度は、例えば、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)であり、第2圧力は、例えば、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)である。なお、第2温度および第2圧力を保持しても、振動発熱は、経過時間とともに振動幅が徐々に小さくなるものの、100時間程度継続する。 【0022】 [発熱材料] 発熱材料は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成される。発熱材料は、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する。本形態の発熱材料は、水素ガスの存在下で過剰熱を発生しうる限りにおいて特に限定されないが、例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、パラジウム(Pd)-二酸化ケイ素(SiO2)系、銅(Cu)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、銅(Cu)-ニッケル(Ni)-二酸化ケイ素(SiO2)系、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、アルミニウム(Al)-ニッケル(Ni)系の材料等を例示できる。 ・・・ 【0024】 パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の一例として、メルトスピニング法を用いて、パラジウム(Pd):ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)=4:31:65の原子比で作成した合金を450℃、60時間空気中で焼成することにより、発熱材料を調製した。発熱材料は、例えば、厚さが約35μm、長さが30~300μmの大きさの板形状を有する。」 「【0027】 図3に示すように、発熱材料の温度を450℃まで上げた場合には、H2フローの場合に非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)が継続的に確認された。さらに、振動的な発熱が発生しており、過剰熱がパルス的に発生することが確認された。すなわち、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の発熱材料は、水素ガス(H2)と接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示し、かつ、周期的または非周期的な発熱を振動的に繰り返す材料であることが確認された。」 「【0038】 本発明者らは、発熱材料の振動発熱現象が生じるメカニズムに関して、おおむね以下のように推測している。 【0039】 (1)2相の水素吸蔵合金に対し、高圧(例えば、1MPa)、高温(例えば、800℃)下で、水素を吸蔵させる。水素を吸蔵した状態がエネルギー的に安定した状態である。 【0040】 (2)上記(1)からエネルギー状態をずらし(圧力を常圧(0.1MPa)程度に下げる、温度を200℃などの中温度に下げる)、エネルギー的に不安定な状態Aをつくる。 【0041】 (3)相1と相2とでは、水素吸脱蔵のスピードがもともと異なっている。つまり、相1および相2は、それぞれエネルギー的にバランスする点(平衡点)が異なっている。このため、片方の相(相1)が水素を放出しても、もう片方(相2)は吸蔵し、片方(相1)が水素を放出できなくなるまで続き、平衡状態からずれた状態Bとなり反応がとまる。 【0042】 (4)ここから逆に、水素の放出(相2)と、水素の吸蔵(相1)とが始まり、平衡に向かう。しかし、平衡を通り過ぎ、状態Aでとまる。つまり、エネルギー状態は、状態A→平衡→状態B→平衡→状態A→・・・(繰り返し)・・・→最終的に平衡(これが80h~100h程度継続する)。 【0043】 (5)水素を放出するときに発熱するため、発熱がパルス的に発生する。これによって、発熱材料の振動発熱現象が生じる。」 「【0050】 [熱エネルギー発生システム] ・・・ 【0051】 図1は、本発明の一実施形態に係る熱エネルギー発生システム10の概略を示すブロック図である。 【0052】 図1に示すように、熱エネルギー発生システム10は、水素吸蔵機能を有する発熱材料20と、発熱材料20を加熱するヒーター30と、発熱材料20に対して水素ガスを供給する水素ガス供給装置40と、発熱材料20と水素ガスとを含む系の気相部の温度を検知する温度センサー50と、系の気相部の圧力を検知する圧力センサー60と、系の気相部の温度および圧力を制御する制御装置70と、を有する。制御装置70は、系の気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持した後、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、系の気相部を基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する制御を実行可能である。」 「【0066】 図13は、熱エネルギー発生システム10の動作の一実施形態を説明するフローチャートである。 【0067】 まず、出口側バルブ24を閉じ、入口側バルブ23を開き、発熱材料20に対して前処理(真空脱気および加熱離脱)を実施し、合金表面からの不純物を取り除く(ステップS10)。前処理は、基準温度(25℃)および基準圧力(0.1MPa(約1atm))に対し加温および減圧して行う。温度は、例えば、約200℃である。圧力は、例えば、真空(1.0×10-2Paオーダー)である。加温および減圧を保持する時間は、例えば、50~100分である。 【0068】 前処理が終了すると、出口側バルブ24を閉じ、入口側バルブ23を開き、水素ガス供給装置40から、水素ガス(H2)(または重水素ガス(D2))を発熱材料20に加圧供給する(ステップS11)。制御装置70は、発熱材料20と水素ガスとを含む系の気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持する(ステップS12)。このステップS12において、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素が吸蔵される。第1温度は、400~800℃の範囲であり、例えば、800℃である。第1圧力は、0.1MPa(abs)(約1atm)よりも高く、1MPa(abs)(約10atm)以下の範囲の圧力であり、例えば、1MPa(abs)(約10atm)である。第1温度および第1圧力を保持する時間は、1~60時間であり、例えば、1時間である。 【0069】 第1温度および第1圧力を保持する時間の経過後、入口側バルブ23を閉じ、出口側バルブ24を開き、発熱材料20と水素ガスとを含む系の気相部を基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する(ステップS13)。このステップS13において、発熱材料20の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とが反復的に行われる。これによって、発熱材料20は、振動発熱現象が生じ始まる(図3を参照)。第2温度は、例えば、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)の範囲であり、例えば、450℃である。第2圧力は、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)の範囲であり、例えば、0.1MPa(abs)(約1atm)である。 【0070】 制御装置70は、発熱材料20が周期的あるいは非周期的な発熱を振動的に繰り返し始めたか否かを判断する(ステップS14)。この判断を行うのは、発熱材料20の振動発熱現象が安定して発生するまで待機し、発熱装置21で発生した過剰熱を熱消費部90に供給するためである。ステップS14の判断は、具体的には、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始したか否かを判断する。発熱材料20の充填量、ヒーター30に供給した電力量は既知である。また、発熱材料20の比熱も既知である。例えば、主成分のニッケル(Ni)およびジルコニウム(Zr)の比熱Cpはそれぞれ、440[J/(kg*K)]、301[J/(kg*K)]であるので、組成に応じて発熱材料20の比熱を算出できる。制御装置70は、あるサンプリング期間内Δt[sec]の温度上昇量ΔT【K]を計測値から得て、組成に応じた比熱Cpを用いて、発熱材料20の単位質量あたりの発熱量[W/kg]=Cp*ΔT/Δtにより算出する。振幅のしきい値は、例えば、10mW/gである。 【0071】 発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで(ステップS14:NO)、系の気相部は、第2温度かつ第2圧力の雰囲気下に維持される(ステップS13)。 【0072】 一方、制御装置70は、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始したと判断すると(ステップS14:YES)、発熱材料20の振動発熱現象が安定して発生しているため、発熱装置21は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱を継続する(ステップS15)。発熱装置21で発生した過剰熱は、熱消費部90に供給され、熱消費部90において利用される。 【0073】 発熱装置21で発生した過剰熱を熱消費部90において利用していると、振動発熱は、経過時間とともに振動幅が徐々に小さくなる。長期間(例えば、3か月等)経過すると、発熱材料20は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱が収束し、発熱しなくなる。 【0074】 制御装置70は、発熱材料20が周期的あるいは非周期的な発熱を収束させたか否かを判断する(ステップS16)。ステップS16の判断は、具体的には、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値未満になったか否かを判断する。振幅のしきい値は、例えば、10mW/gである。 【0075】 発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を継続しているとき(ステップS16:NO)、発熱装置21は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱を続ける(ステップS15)。 【0076】 一方、制御装置70は、発熱材料20の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値未満になったと判断すると(ステップS16:YES)、発熱材料20は、周期的あるいは非周期的な振動的な発熱が収束し、発熱しなくなっているため、発熱装置21の停止処理を行う(ステップS17)。制御装置70は、入口側バルブ23を開き、不活性ガス供給装置80から、窒素ガス(N2)を発熱材料20に加圧供給する。これにより、処理を終了する。」 「【0085】 以上説明したように、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金を用いる熱エネルギー発生方法は、まず、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させる(第1ステップ)。次に、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる(第2ステップ)。そして、系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる(第3ステップ)。 【0086】 このように構成した熱エネルギー発生方法によれば、前処理を含めた制御が特定されるため、パルス的に発生する過剰熱を確実に発生させることができる。水素吸蔵合金を発熱材料20として用いることによって、非常に大きな発熱量を利用することが可能となる。 【0087】 熱エネルギー発生方法において、水素放出と水素吸蔵とを反復的に行っている場合に(第3ステップ)、系の気相部の温度または圧力の上昇を感知したときに、系の気相部の温度または圧力の少なくとも一方を低下させる。このように構成することによって、水素吸蔵合金の振動発熱現象を助長し、周期的あるいは非周期的な振動的な過剰熱を長期にわたって継続させることができる。従来、過剰熱がパルス的に発生することは知られていなかったため、温度や圧力を一定に保とうとする操作では過剰発熱を積極的に得られなかった。上記のように構成することによって、発生した過剰熱をさらに大きく引き出すことができる。」 「図12 [図:0001435191000002.jpg] 」 3.発明の課題 段落【0004】及び【0005】から、発明の詳細な説明には、発明の課題として、「過剰熱を確実に発生させること。」が記載されていると認められる。 4.発明の課題を解決できると認識できる範囲 (1)発明の詳細な説明の記載から理解できる事項 ア 課題を解決するための手段について 段落【0006】に「本願の発明者らは、水素吸蔵材料からなる発熱材料の過渡的な発熱現象について鋭意研究したところ、過剰熱がパルス的に発生すること、および発熱振動現象が材料の相変化により発生することを見出した。そして、発熱材料に対する操作方法を特定することによって、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。」、段落【0009】に「本発明に係る熱エネルギー発生方法および熱エネルギー発生システムによれば、パルス的に発生する過剰熱を確実に発生させることが可能となる。」及び段落【0087】に「従来、過剰熱がパルス的に発生することは知られていなかったため、温度や圧力を一定に保とうとする操作では過剰発熱を積極的に得られなかった。上記のように構成することによって、発生した過剰熱をさらに大きく引き出すことができる。」と記載されていることに基づいて、発明の詳細な説明から、「過剰熱がパルス的に発生すること、及び発熱振動現象が材料の相変化により発生すること、並びに発熱材料に対する操作方法を特定すること」が課題を解決するための手段であると認めることができる。 イ 過剰熱がパルス的に発生すること、及び発熱振動現象が材料の相変化により発生することについて 上記アの課題を解決するための手段における、「過剰熱がパルス的に発生すること、および発熱振動現象が材料の相変化により発生すること」について、段落【0039】~【0043】から、発明の詳細な説明には、「2つの合金相を有する水素吸蔵合金に対し水素を吸蔵させエネルギー的に安定した状態とした後、エネルギー状態をずらしてエネルギー的に不安定な状態をつくることで、合金相の1つが水素を放出し、他の1つが水素を吸蔵する状態と、合金相の他の1つが水素を放出し、1つが水素を吸蔵する状態とが繰り返されて、水素を放出するときに発熱するため発熱がパルス的に発生し、発熱材料の振動発熱現象が生じること」が開示されているといえる。 ウ 発熱材料に対する操作方法について 上記アの課題を解決するための手段における、「発熱材料に対する操作方法」について、発明の詳細な説明には具体的に以下の事項が記載されている。 (ア)「発熱材料」について 段落【0024】から、発明の詳細な説明には、具体的に、「パラジウム(Pd):ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)=4:31:65の原子比で作成した合金を450℃、60時間空気中で焼成した発熱材料」を用いた実験を行ったことが理解できる。 (イ)「操作方法」について 段落【0067】~【0069】から、発明の詳細な説明には、具体的に、上記(ア)の発熱材料に対して、以下のa~cのステップの操作を行ったことが理解できる。 a 段落【0067】から、基準温度(25℃)および基準圧力(0.1MPa(約1atm))に対し約200℃に加温および真空に減圧して、水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させるステップ(以下「水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させるステップ」を「第1ステップ」という。) b 段落【0068】から、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高い、400~800℃の範囲であり例えば800℃である第1温度、かつ基準圧力よりも高い、0.1MPa(abs)(約1atm)よりも高く1MPa(abs)(約10atm)以下の範囲の圧力であり例えば1MPa(abs)(約10atm)である第1圧力に加温および加圧して、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させるステップ(以下「水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させるステップ」を「第2ステップ」という。) c 段落【0069】から、系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)の範囲であり例えば450℃である第2温度、かつ第1圧力よりも低い、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)の範囲であり例えば0.1MPa(abs)(約1atm)である第2圧力に維持して、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせるステップ(以下「水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせるステップ」を「第3ステップ」という。) エ 過剰熱を発生する「その他の水素吸蔵合金」及び「その他の発熱材料」について (ア)上記ウ(ア)の発熱材料は、「パラジウム(Pd):ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)=4:31:65の原子比で作成した合金を450℃、60時間空気中で焼成した発熱材料」であるが、段落【0022】には、「発熱材料は、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成される。発熱材料は、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する。本形態の発熱材料は、水素ガスの存在下で過剰熱を発生しうる限りにおいて特に限定されないが、例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、パラジウム(Pd)-二酸化ケイ素(SiO2)系、銅(Cu)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、銅(Cu)-ニッケル(Ni)-二酸化ケイ素(SiO2)系、ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系、アルミニウム(Al)-ニッケル(Ni)系の材料等を例示できる。」と記載されている。 (イ)そして、上記第5の3.(2)に示したとおり、乙3の記載から「第1の金属及び第2の金属が水素ガスと接触することにより発熱する発熱材料であって、組成比の異なる複数の相を有する合金の状態で存在し、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する発熱材料において、第1の金属及び第2の金属をそれぞれ、アルミニウム(Al)及びニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)及びニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)及びチタン(Ti)、スズ(Sn)及びチタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びマンガン(Mn)として、発熱材料を調製したところ、それぞれ、第2の金属(より高い融点を有する金属)の融点未満の温度において、これらの金属が水素ガスと接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示す材料であることが確認された。」ことが理解できる。 (ウ)上記(ア)、(イ)からすると、水素ガスの存在下で過剰熱を発生する水素吸蔵合金及び発熱材料は、「パラジウム(Pd):ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)=4:31:65の原子比で作成した合金を450℃、60時間空気中で焼成した発熱材料」には限定されず、「第1の金属及び第2の金属をそれぞれ、アルミニウム(Al)及びニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)及びニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)及びチタン(Ti)、スズ(Sn)及びチタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びマンガン(Mn)として調製された発熱材料であって、第1の金属及び第2の金属が組成比の異なる複数の相を有する合金の状態として存在する発熱材料」(以下「その他の水素吸蔵合金及び発熱材料」という。)についても、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、それぞれ、第2の金属(より高い融点を有する金属)の融点未満の特定の温度において、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生することが理解できる。 オ 「その他の水素吸蔵合金及び発熱材料」に対して、第1~第3ステップを実行するための操作について (ア) 段落【0019】に「第1ステップにおいて、水素吸蔵合金に対して前処理(真空脱気および加熱離脱)を実施し、合金表面からの不純物を取り除く。前処理は、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して行う。温度は、特に限定されないが、例えば、約200℃である。圧力は、特に限定されないが、例えば、真空(1.0×10-2Paオーダー)である。」、段落【0020】に「第2ステップにおいて、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる。水素吸蔵は、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して行う。第1温度および第1圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第1温度は、例えば、400~800℃であり、第1圧力は、例えば、0.1MPa(abs)(約1atm)よりも高く、1MPa(abs)(約10atm)以下の範囲の圧力である。」及び段落【0021】に「第3ステップにおいて、水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせ、振動発熱現象を確実に生じさせる。振動発熱現象は、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持して行う。第2温度および第2圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第2温度は、例えば、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)であり、第2圧力は、例えば、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)である。」と記載されている。 (イ)乙3から「それぞれ、第2の金属(より高い融点を有する金属)の融点未満の温度において、これらの金属が水素ガスと接触することにより非常に大きい発熱現象(過剰熱の発生)を継続的に示す」ことが理解でき、乙2に「合金相とは、複数の金属元素が混ざり合った状態を示します。相には、化学組成と温度と圧力が影響します。」(上記第5の2を参照。)の記載がある。 (ウ)上記(ア)、(イ)からすると、「その他の水素吸蔵合金及び発熱材料」については、上記ウ(イ)のa~cで特定される「温度」及び「圧力」とは異なる、水素吸蔵合金及び発熱材料(第1の金属と第2の金属)ごとの所定の「温度」及び所定の「圧力」に操作して、不純物の離脱させる、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる、及び水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせる(第1~第3ステップを実行する)必要があると理解できるというべきである。すなわち、「その他の水素吸蔵合金及び発熱材料」に対する、第1~第3ステップを実行するための操作とは、それぞれ、不純物の離脱させる、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる、及び水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせるように、所定の「温度」及び所定の「圧力」に操作することであると認められる。 カ 以上から、発明の詳細な説明などから理解できる、課題を解決するための「発熱材料に対する操作方法」とは、「その他の水素吸蔵合金及び発熱材料を含む水素吸蔵合金及び発熱材料に対して、不純物の離脱させる、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる、及び水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせるように、所定の温度及び所定の圧力に操作すること」であると認めることができる。 (2)発明の課題を解決できると認識できる範囲 以上、上記(1)イ、カによれば、「過剰熱を確実に発生させること。」(上記3)との課題に対して、発明の詳細な説明などから、発明の課題を解決できると認識できる範囲は、 ア 2つの合金相を有する水素吸蔵合金に対し水素を吸蔵させエネルギー的に安定した状態とした後、エネルギー状態をずらしてエネルギー的に不安定な状態をつくることで、合金相の1つが水素を放出し、他の1つが水素を吸蔵する状態と、合金相の他の1つが水素を放出し、1つが水素を吸蔵する状態とが繰り返されて、水素を放出するときに発熱するため発熱がパルス的に発生し、発熱材料の振動発熱現象が生じることであり、 イ その他の水素吸蔵合金及び発熱材料を含む水素吸蔵合金及び発熱材料に対して、不純物の離脱させる、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる、及び水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせるように、所定の温度及び所定の圧力に操作すること であると認めることができる。 5.判断 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明又はその示唆及び技術常識により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か検討する。 (1)本件発明1~4について 発明の詳細な説明などから発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記4(2)のとおりである。 他方、本件発明1、2及びそれらを引用する本件発明3、4には、「熱エネルギー発生方法」について「2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金を基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して、前記水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させ、」「前記水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、前記基準温度よりも高い第1温度かつ前記基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、前記水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させ、」「前記系の前記気相部を、前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力に維持して、前記水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせ」ることが特定されている。 したがって、本件発明1、2及びそれらを引用する本件発明3、4に係る発明と発明の詳細な説明の記載とを対比すると、本件発明1、2及びそれらを引用する本件発明3、4に係る発明は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件発明1~4は、サポート要件に適合する。 (2)本件発明5~7について 本件発明5及びそれを引用する本件発明6、7に係る発明には、「熱エネルギー発生システム」について「2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金から形成される発熱材料と、 前記発熱材料を加熱するヒーターと、 前記発熱材料に対して水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、 前記発熱材料と前記水素ガスとを含む系の気相部の温度を検知する温度センサーと、 前記系の前記気相部の圧力を検知する圧力センサーと、 前記系の前記気相部の温度および圧力を制御する制御装置と、を有し、 前記制御装置は、 前記系の前記気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持した後、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、前記系の前記気相部を前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する制御を実行可能である」ことが特定されている。 そして、「2つ以上の合金相を有する水素吸蔵合金であって、所定の温度および圧力条件下において、前記合金相の1つ以上が水素を放出し、他の1つ以上が水素を吸蔵する特性を有し、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金から形成される発熱材料」に対して、不純物の離脱させ(水素化物合金状態にする)、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる、及び水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせるように、所定の温度及び所定の圧力に操作することは、この発熱材料が有する作用・機能に係る特定事項により示唆されているといえるし、「ヒーター」、「水素ガス供給装置」、「温度センサー」、「圧力センサー」を備え、「制御装置」により「前記系の前記気相部を基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力の雰囲気下に所定時間以上維持した後、前記発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅のしきい値以上の振動を開始するまで、前記系の前記気相部を前記基準温度よりも高く前記第1温度よりも低い第2温度かつ前記第1圧力よりも低い第2圧力の雰囲気下に維持する制御を実行可能である」との特定事項からも示唆されているといえる。 したがって、本件発明5及びそれを引用する本件発明6、7に係る発明と発明の詳細な説明の記載とを対比すると、本件発明5及びそれを引用する本件発明6、7に係る発明は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件発明5~7は、サポート要件に適合する。 6.申立人の主張について (1)申立人の主張の概要 申立人は、令和7年12月10日提出の意見書の3~5ページにおいて、サポート要件違反(理由2)について、主に次のとおり、本件発明はサポート要件を充足していない旨を主張した。 ア 特許明細書等の開示によれば、本件発明は、特定の発熱材料に対して「過剰熱がバルス的に発生すること、および発熱振動現象が材料の相変化により発生することを見出し」、「発熱材料に対する操作方法を特定することによって」、「過剰熱を確実に発生させる」という課題を解決するものであると認められる。そして、特定の発熱材料について、パラジウム(pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の材料が、水素吸蔵脱蔵特性が異なる2つ以上の材料を有する水素吸蔵合金から形成され、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する材料として開示されている。 そうすると、「過剰熱を確実に発生させる」という課題を解決するためには、「発熱材料」が上記のような特定の発熱材料であることが必要である。乙3には、記載されている多様な水素吸蔵合金について、過剰熱がパルス的に発生すること、発熱振動現象が生じること、また、圧力(水素分圧)と発熱量との関係は、開示も示唆もされていないから、乙3が本件特許の出願時の技術常識であると考えたとしても、特許明細書等の段落【0024】に記載の発熱材料以外の材料を用いた場合に、「過剰熱を確実に発生させる」という課題が解決できるとは認められない。 イ 本件の特許明細書等の開示より、「過剰熱を確実に発生させる」という課題を解決するためには、「第1温度」及び「第1圧力」が、発熱材料に水素を吸蔵させてエネルギー的に安定した状態とする条件である必要があり、「第2温度」及び「第2圧力」が、振動発熱現象が生じる条件である必要があると認められる。 しかしながら、本件発明1~7において、「第1温度」、「第1圧力」、「第2温度」、「第2圧力」の数値範囲が一義的に特定されておらず任意の数値範囲を含んでいるから、「第1温度」及び「第1圧力」が発熱材料に水素を吸蔵させてエネルギー的に安定した状態とすることができない条件を含み、「第2温度」及び「第2圧力」が、振動発熱現象が生じる状態とすることができない条件を含んでいる。 よって、乙3が本件特許の出願時の技術常識であると考えたとしても、本件の特許明細書等の第1ステップ~第3ステップで特定されている特定の温度及び特定の圧力以外の温度及び圧力を適用した場合に、「過剰熱を確実に発生させる」という課題が解決できるとは認められない。 (2)検討 ア (1)アについて検討する。 上記4.(1)エで示したとおり、水素ガスの存在下で過剰熱を発生する発熱材料は、「パラジウム(Pd):ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)=4:31:65の原子比で作成した合金を450℃、60時間空気中で焼成した発熱材料」(段落【0024】に記載の発熱材)には限定されず、「その他の水素吸蔵合金及び発熱材料」も水素ガスの存在下で過剰熱を発生すると理解できる。 さらに、本件発明には、いずれも「この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金」との水素吸蔵合金の作用・機能に係る特定事項が特定されていることに鑑みれば、過剰熱を発生しない水素吸蔵合金及び発熱材料は含まないと解釈すべきである。 以上から、申立人の主張は採用できない。 イ (1)イについて検討する。 上記4.(1)オ(ウ)に示したとおり、「その他の水素吸蔵合金及び発熱材料」に対する、第1~第3ステップを実行するための操作とは、それぞれ、不純物の離脱させる、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる、及び水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせるように、所定の「温度」及び所定の「圧力」に操作することであると認められるから、本件発明の「第1温度」、「第1圧力」、「第2温度」、「第2圧力」の数値は、水素吸蔵合金の2つ以上の合金相に水素を吸蔵させる、及び水素吸蔵合金の1つ以上の合金相の水素放出と、他の1つ以上の合金相の水素吸蔵とを反復的に行わせるような、水素吸蔵合金及び発熱材料ごとの所定の「温度」及び所定の「圧力」であると認められる。 さらに、本件発明には、いずれも「この水素化物合金の相転移の繰り返しによって前記水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する水素吸蔵合金」との水素吸蔵合金の作用・機能に係る特定事項が特定されていることに鑑みれば、過剰熱がパルス的に発生しない、発熱振動現象が材料の相変化により発生しない、及び過剰熱を発生しないような操作は含まないと解釈すべきである。 以上から、申立人の主張は採用できない。 7.小括 以上のとおりであるから、理由2(サポート要件)について、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人が特許異議申立書において主張した事項によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 第8 まとめ 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書において主張した事項によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項8に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700451

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