特許異議申立
2023-700467
積層体の分離回収方法
- 審判番号
- 2023-700467
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-106918
- 登録番号
- 7168814
- 請求日
- 2023年05月02日
- 審決日
- 2025年02月04日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】artience株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】▲廣▼瀬 文雄
- 【権利者代理人】原 裕子
- 【異議申立人】金澤 毅
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 村守 宏文
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.113-YAA(B29B) / P1651.121-YAA(B29B) / P1651.537-YAA(B29B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第7項、特許法第126条第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7168814号発明「積層体の分離回収方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7168814号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7168814号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許第7168814号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和4年7月1日の出願であって、同年10月31日に特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年11月9日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年5月2日に特許異議申立人である金澤 毅(以下「申立人」という。)により、請求項1~10に係る特許について異議申立てがなされたものである。
2 以後の手続は、次のとおりである。
令和 5年 9月20日付け 当審から取消理由の通知
令和 5年11月24日 訂正の請求及び意見書の提出
令和 5年11月29日付け 当審から訂正請求があった旨の通知
令和 5年12月27日 申立人から意見書の提出
令和 6年 6月 5日 当審から取消理由(決定の予告)の通知
令和 6年 8月 9日 訂正の請求(以下「本件訂正請求」いい、その内容を「本件訂正」という。)及び意見書の提出
令和 6年 8月21日付け 当審から訂正請求があった旨の通知
令和 6年 9月13日 申立人から意見書の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の請求の趣旨は、「特許第7168814号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~3からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が1μm以上となるように脱離させ、」とあるのを「プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上となるように脱離させ、」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「積層体の分離回収方法であって、前記プラスチック基材層が、」とあるのを「積層体の分離回収方法であって、脱離液を回転速度80~5000rpmで撹拌させる工程を含み、前記プラスチック基材層が、」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、「前記印刷層が、前記脱離液の全質量に対して0.01質量%以上である、積層体の分離回収方法。」とあるのを「前記印刷層が、前記脱離液の全質量に対して0.01質量%以上1質量%以下であり、前記積層体が、前記脱離液の全質量に対して1質量%以上10質量%以下である、積層体の分離回収方法。」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。)。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~10について、請求項2~10はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正前の請求項1~10に対応する訂正後の請求項1~10は一群の請求項である。そうすると、本件訂正は一群の請求項ごとにされた訂正である。
3 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、プラスチック基材層からの印刷層成分の脱離に関し、訂正前の請求項1に係る発明においては体積基準におけるメジアン径(D50)が1μm以上となるように脱離させるのに対し、メジアン径が10μm以上となるように脱離させることを特定するものである。
したがって、この訂正は、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2~10は、訂正後請求項1に記載された「プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上となるように脱離させ、」との記載を引用するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張・変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2~10の記載について何ら訂正するものではなく、請求項2~10のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項1は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。
本件の出願当初明細書段落0029には、脱離した印刷層成分のメジアン径は、より好ましくは10μm以上であることが記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に係る発明においては脱離液を撹拌させる工程は特定されていなかったのに対し、「脱離液を回転速度80~5000rpmで撹拌させる工程を含」むことを特定するものである。
したがって、この訂正は、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2~10は、訂正後請求項1に記載された「脱離液を回転速度80~5000rpmで撹拌させる工程を含み、」との記載を引用するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張・変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2~10の記載について何ら訂正するものではなく、請求項2~10のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項2は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。
本件の出願当初明細書段落0059には、脱離効率を向上させるために、脱離液の撹拌を行うことが好ましく、その場合の回転速度は80~5000rpmが好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に係る発明において、脱離液の全質量に対する印刷層の量の上限値、及び脱離液の全質量に対する積層体の量が特定されていないのに対し、当該上限値及び積層体の量を特定するものである。
したがって、この訂正は、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2~10は、訂正後請求項1に記載された「前記印刷層が、前記脱離液の全質量に対して0.01質量%以上1質量%以下であり、前記積層体が、前記脱離液の全質量に対して1質量%以上10質量%以下である」との記載を引用するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張・変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2~10の記載について何ら訂正するものではなく、請求項2~10のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項3は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。
本件の出願当初明細書段落0058には、積層体を脱離液中で分離させる際の印刷層の量に関し、脱離液の全質量に対して1質量%以下であると好ましいことが記載されている。また、同段落0057には、積層体を脱離液中で分離させる際の積層体は、脱離液の全質量に対して、好ましくは1質量%以上であること、及び好ましくは10質量%以下であることが記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(4)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであること
本件訂正請求による訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~10に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
前記第2のとおり本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下「本件訂正発明1」~「本件訂正発明10」といい、まとめて「本件訂正発明」ということもある。)は次のとおりの発明である。
「【請求項1】
少なくともプラスチック基材層及び印刷層を備える積層体を、脱離液に浸漬させ、前記印刷層を、プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上となるように脱離させ、プラスチック基材を回収する工程を含む、積層体の分離回収方法であって、
脱離液を回転速度80~5000rpmで撹拌させる工程を含み、
前記プラスチック基材層が、ポリオレフィン基材であり、
前記印刷層が、前記脱離液の全質量に対して0.01質量%以上1質量%以下であり、
前記積層体が、前記脱離液の全質量に対して1質量%以上10質量%以下である、積層体の分離回収方法。
【請求項2】
脱離した印刷層成分の、下記計算式により表されるスパン値Aが、10以下である、請求項1に記載の積層体の分離回収方法。
A=(D90-D10)/D50
D10:脱離した印刷層成分のレーザー回折式粒度分布測定により得られる体積基準粒度分布の累積10%径
D90:脱離した印刷層成分のレーザー回折式粒度分布測定により得られる体積基準粒度分布の累積90%径
【請求項3】
脱離液が、水及び界面活性剤を含有し、前記界面活性剤の含有率が、脱離液の全質量中0.001質量%以上である、請求項1又は2に記載の積層体の分離回収方法。
【請求項4】
印刷層が、着色剤、バインダー樹脂、及び分散剤を含み、前記分散剤の含有率が、前記着色剤の全質量に対して0.01質量%以上である、請求項1又は2に記載の積層体の分離回収方法。
【請求項5】
分散剤が、顔料誘導体及び/又は樹脂型分散剤を含む、請求項4に記載の積層体の分離回収方法。
【請求項6】
分散剤が、顔料誘導体を含み、前記顔料誘導体の含有率が、着色剤の全質量に対して0.01~10質量%である、請求項5に記載の積層体の分離回収方法。
【請求項7】
積層体が、脱離液の全質量に対して1.5質量%以上である、請求項1又は2に記載の積層体の分離回収方法。
【請求項8】
脱離液が塩基性水溶液であり、前記塩基性水溶液中で印刷層を脱離させてプラスチック基材を回収する工程を含む、請求項1又は2に記載の積層体の分離回収方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の積層体の分離回収方法で回収されたプラスチック基材を溶融混練することを特徴とする、成形用材料の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法により得られる成形用材料を、加熱成形することを特徴とする、成形体の製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 申立理由
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、2、3、8、9及び10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、それら発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第1号証を主たる引用例とした進歩性欠如)
ア 本件特許の請求項1、2、3、7~9及び10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、それら発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件特許の請求項4及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それら発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 本件特許の請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~10の記載は、下記ア~エの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 「印刷層を、プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が1μm以上となるように脱離させ」ること、及び、「脱離した印刷層成分の、計算式(A=(D90-D10)/D50)により表されるスパン値Aが、10以下」であることについて、脱離液が「界面活性剤」を含まないときは実現できない。
イ 「印刷層を、プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が1μm以上となるように脱離させ」ること、及び、「脱離した印刷層成分の、計算式(A=(D90-D10)/D50)により表されるスパン値Aが、10以下」であることについて、印刷層の脱離の条件として、温度、攪拌速度、サンプルサイズ、サンプル量等を規定しないときは実現できない。
ウ 「印刷層を、プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が1μm以上となるように脱離させ」ること、及び、「脱離した印刷層成分の、計算式(A=(D90-D10)/D50)により表されるスパン値Aが、10以下」であることについて、積層体が「プライマー層」を備えること、及び/又は、印刷層が「分散剤」を含むことを規定しないときは実現できない。
エ 「印刷層が、着色剤、バインダー樹脂、及び分散剤を含」むことについて、積層体が「プライマー層」を備えることを規定しないと実現できない。
2 当審が通知した取消理由の概要
令和5年9月20日付けの取消理由通知及び令和6年6月5日付けの取消理由通知(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
取消理由1:(新規性)本件特許の下記の請求項1~3、7~9に係る発明は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」ともいう。)の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:(進歩性)本件特許の下記の請求項1~10に係る発明は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明並びに甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証、参考資料2に記載された技術事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 証拠方法及びその記載事項
1 証拠方法
(1)特許異議の申立書と共に申立人が提示した証拠(以下、申立人が提示した甲第1号証~甲第6号証を「甲1」~「甲6」という。)
甲1:国際公開第2021/230032号
甲2:真田俊之、外1名、“流体物理洗浄(1) 基本概念と微粒子の付着力”、THE CHEMICAL TIMES、関東化学株式会社、2015年4月、No.2(通巻236号)、p.17-23
甲3:国際公開第2021/081288号
甲4:特許第7078189号公報
甲5:国際公開第2021/192749号
甲6:国際公開第2022/044941号
(2)申立人が意見書と共に提示した証拠
参考文献1:入夏裕一、“古紙パルプ脱墨技術の基礎”、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、2002年7月、第56巻、第7号、p.30-38
参考文献2:Hatice Gecol et al., "Deinking of Water-Based ink Printing from Plastic Film Using Nonionic surfactants", Journal of Surfactants and Detergents, 2002年10月, Vol.5, No.4, p.363-374
参考文献3:特表2017-525811号公報
参考資料1:"PET Standard Laboratory Processing Practices", [online], 2019年9月17日(公表日又は改訂日), The Association of Plastic Recyclers, [令和5年12月19日検索], インターネット
<URL:https://plasticsrecycling.org/images/Design-Guidance-Tests/APR-PET-P-00-practices.pdf>
参考資料2:Elizabeth Beaudoin et al., " De-inking HDPE Plastic Film", [online], 2005年5月2日, [令和5年12月19日検索], インターネット
<URL:https://www.ou.edu/class/che-design/a-design/projects-2005/De-inking%20Final%20Report.pdf>
(3)当審が新たに引用した証拠
文献A:橋爪清、“有機顔料講座(7) 有機顔料の粒子の大きさと性質”、色材、1967年、40巻、第12号、p.608-613(本件出願時の技術常識を示した文献)
2 証拠方法の記載事項について
甲1、甲2及び文献Aの記載は次のとおりである。なお、甲3~甲6、参考文献1~3、参考資料1、2の摘記は省略する。
(1)甲1には、次の記載がある。
「[0008] 従来技術における洗浄剤の多くは、配管内の乾いた塗料を溶解する、もしくはエッチングレジスト樹脂を溶解するために開発された洗浄剤であり、フィルムをはじめとするプラスチック基材上に印刷されたインキ膜を剥離又は除去させる目的ではなく、またそれらの洗浄剤にそのような効果はなかった。また、高品質の再生プラスチックを得るため、更に洗浄剤を再利用するためには、インキ膜を剥離又は除去したのちに、プラスチック基材とインキ膜のそれぞれを洗浄剤から分離・回収する必要があるが、従来技術の多くは、その洗浄対象がプラスチック基材上にインキ膜が設けられたプラスチック積層体ではなかったため、プラスチック基材と剥離又は除去されたインキ膜のそれぞれを回収することを考慮されていない。
[0009] そこで、本発明が解決しようとする課題は、プラスチック基材上に印刷されたインキ膜を容易に剥離又は除去することができるインキ膜の剥離又は除去方法及び該方法に適用できるインキ洗浄剤に関するものである。また、本発明が解決しようとする課題は、プラスチック基材上に印刷されたインキ膜を容易に剥離又は除去することができ、且つ、剥離又は除去されたインキ膜を容易に回収可能なインキ膜回収方法を提供することにある。」
「[0016] 本発明により、インキ膜が設けられたプラスチック基材からインキ膜を容易に剥離又は除去することができ、単層フィルムを回収分別再利用することができる。
[0017] 本発明により、インキ膜を有するプラスチック基材からインキ膜を容易に分離(剥離)と同時に沈殿させることができるか、若しくは、インキ膜を有するプラスチック基材からインキ膜を容易に除去し、且つ洗浄剤の上澄みに局在化させることができるため、プラスチック基材とインキ膜のそれぞれを回収分別再利用することができる。そのため、インキが付着していないプラスチック基材を容易に回収することができ、再生プラスチックの品質を向上することができる。また、インキ膜の回収プロセスを容易にすることができ、洗浄剤の再利用を簡素化することができる。」
「[0020] そこで、本発明者らは種々のインキ洗浄剤を検討した結果、ノニオン系界面活性剤、及び水を含有するインキ洗浄剤を用いることで、25℃程度の比較的低温条件においてもインキ膜を有するプラスチック基材からインキ膜を剥離又は除去することができることを見出した。
[0021] また、HLB値が12.5以上であるノニオン系界面活性剤、及び水を含有するインキ洗浄剤を用いることで、インキ膜を有するプラスチック基材からインキ膜を容易に分離(剥離)と同時に沈殿することができ、インキ膜を容易に回収することができることを見出した。」
「[0034] ここで、インキ膜の剥離とはインキ膜の剥離工程において、プラスチック基材から剥離されたインキ膜がインキ洗浄剤中で溶解していない状態のことをいう。
HLB値が12.5以上であるノニオン系界面活性剤を用いることにより、インキ膜を溶解せずに剥離することができる。そのため、洗浄剤の透明性を維持できるので、プラスチック基材やインキ膜の回収作業を行いやすく、また、プラスチック基材を回収する際に、プラスチック基材にインキ成分やインキ溶解物が付着することを防止することができる。また、インキ塗膜が溶解しないため、フィルムは綺麗な状態で回収することができ、かつ洗浄剤は特別なリサイクル工程なく再利用することができる。更に、剥離したインキ膜は洗浄剤中に沈降するので回収が容易となる。」
「[0046] (他の洗浄剤)
本発明で使用するインキ膜の洗浄剤は、無機塩基(以下、化合物(a)と称する)、一般式(2)で表されるアルキレングリコールアルキルエーテル(以下、化合物(b)と称する)、及び沸点150~200℃の1級あるいは2級モノアルカノールアミン(以下、化合物(c)と称する)のいずれかの化合物を含有することが好ましい。ノニオン系界面活性剤と化合物(a)~(c)を併用することにより、除去効果の向上や、除去時間を短縮することができる。中でも、化合物(a)を含有することが好ましく、また、化合物(b)~(c)のうち少なくともいずれか1種を化合物(a)に適宜に組合せて使用することも好ましい。
[0047] (化合物(a))
化合物(a)即ち無機塩基は、前記インキ洗浄剤全量に対し0.1~10質量%含有することが好ましい。無機塩基として具体的には水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられ、これら化合物の水溶液を使用することが好ましい。水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液は0.1質量%~10質量%の濃度の水溶液が好ましく、0.1質量%~5質量%の濃度の水溶液がより好ましい。またpHは10以上が好ましい。」
「[0079] (回収設備)
インキ膜を回収する設備や方法は特に限定されるものではない。HLB値が12.5以上のノニオン系界面活性剤を用いた場合は、剥離したインキ膜は洗浄剤中に沈降することから、沈降物を取り除く公知の方法を適宜利用できる。具体的には、例えば、濾過機、遠心分離機などを用いることができる。本発明のインキ洗浄剤を用いて剥離したインキ膜の大きさは、インキ膜の剥離工程において使用した剥離設備の条件によって変わるが、洗浄剤に浸漬しただけの条件であると、最長部の平均が例えば10μm以上、100μm以上、さらには1000μm以上の破片となり、沈降している。そのため、1μm程度、更にもっと目の粗いフィルターを用いても十分分離可能であり、沈降物の回収を容易に行える。」
「[0082] (インキ膜を有するプラスチック基材)
本発明のインキ膜回収方法、インキ膜除去方法に用いられるインキ膜を有するプラスチック基材は、プラスチック基材にインキ膜が付着しているものであれば特に限定されるものではない。インキ膜は、例えば、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、オフセット印刷機、インクジェット印刷機等を使用し、有機溶剤型印刷インキ、水性型又は活性エネルギー線硬化型インキを印刷された印刷インキである。複数のインキ種を用いる「多色印刷」のインキ膜であってもよい。
[0083] インキの種類は特に限定されるものではなく、本発明のインキ洗浄剤を用いることによりインキの種類を問わずインキ膜を剥離できる。本発明のインキ洗浄剤が水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の併用によりアルカリ性を示す場合は、アルカリに弱い樹脂を含むインキ、例えばインキに使用している樹脂に硝化綿を含むことや、酸価を持つ樹脂を含むことが、より剥離しやすくなるため好ましい。
プラスチック基材は、素材、形状など特に限定されるものではなく、また、単層構造であっても、異種プラスチックが積層されたプラスチック積層体であってもよい。プラスチック基材はフィルムやフィルムの積層体であることが好ましい。フィルムの種類は様々であり、例えばポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン(発泡スチロール)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂からなるものがある。」
「[0096] 本発明のインキ膜回収方法及びインキ膜除去方法について、具体的態様の一例を述べて詳細に説明する。
[0097] (工程1:インキ膜の除去工程)
まず、インキ膜が設けられたプラスチック基材をインキ洗浄剤に浸漬する。浸漬する時間は、60分以内の範囲であることが多い。なお本発明においては、インキ膜がフィルムから100%完全に除去する必要はなく、後述の工程2でフィルムを回収しその後のリサイクル工程において不都合がない程度であれば、ある程度のインキ膜がフィルムに残存していてもよい。具体的には積層フィルムから75質量%以上のインキ膜が除去されていればよく、80質量%以上のインキ膜が除去されていれば好ましい。インキ膜が剥離又は除去されていれば、浸漬時間は30分以内でもよいし、15分以内でもよい。
[0098] 工程1において、インキ洗浄剤に浸漬する回数は1回でも数回に分けて行ってもよい。浸漬回数を1回行ったのち、分離したフィルムやインキ膜を回収する工程2を行ってもよいし、浸漬回数を数回行ったのち工程2を行ってもよい。また工程1において複数浸漬を行う場合は、インキ洗浄剤の種類や濃度を変更したりしてもよい。また工程の間に、水洗や水切り、脱水、乾燥など、公知の工程を適宜加えてもよい。
[0099] 工程1において、前述した湿式破砕機や超音波洗浄機を用いてもよい。
[0100] (工程2-1:分離したフィルム及びインキ膜の回収工程)
工程1においてHLB値が12.5以上のノニオン系界面活性剤を用いた場合、プラスチック基材から分離したインキ膜は、インキ洗浄剤に溶解せずにインキ洗浄剤中で残渣となって沈降している。即ち工程1におけるインキ洗浄剤中には、剥離したフィルムと、印刷インキなどの残渣が浮遊したり沈降したりしている状態となっている。これらを洗浄液から取り出した後、分別して回収する。
[0101] 具体的な方法の一例としては、例えば、浮上選別において、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン等の比重の軽いプラスチックと(浮物)、ポリオレフィンより比重の重いポリエステル、ナイロン等の縮合合成系フィルム、もしくは剥離したインキ等の質量物を選別し、質量物を取り除く。
例えば、水よりも比重が軽いPP,PEなどは浮遊し、水よりも比重の重いフィルムやインキ膜のみが沈降するため、フローテータなどで比重の軽いフィルムだけを容易に回収することもできる。
[0102] 次に、洗浄脱水工程で回収したプラスチックを洗浄・脱水し、遠心分離で比重の異なるプラスチックを分別する。例えば水に沈む比重1以上の塩化ビニル樹脂やポリエチレンテレフタレート等を含むプラスチック分離物と、塩化ビニル樹脂を含まないポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂を含むプラスチック分離物に分けることができる。
[0103] さらなる分別は、浮遊分別で使用する液体、例えば水と有機溶剤や塩との配合比率を適宜変更することにより比重を変化させることで可能である。
[0104] 比重分離で荒い分別回収したのちに、プラスチックの固有帯電特性を利用した静電分離などを用いて高度分別をしても良い。
[0105] 具体的な方法の一例としては、あらかじめ帯電したプラスチック混合物を電圧の印加された平行平板電極間に落下することで分離する方法である。比重分離では分離困難な比重差の小さいプラスチックの組合せも分別することができる。」
「[0114] (工程4:プラスチック分離物の乾燥)
工程2-1又は2-2において分離したプラスチック分離物各種を分取後、残留水分を除去するために減圧加熱乾燥、熱風乾燥、加圧圧縮乾燥から選ばれるいずれか1つ以上のフィルム乾燥を行う。これらを組み合わせて使用することができる。工程5でのリサイクルペレットを作製する事前処理として、フィルムの乾燥後もしくは乾燥中にブリケットマシンのような加圧圧縮機を用いてブリケットを作製してもよい。
[0115] (工程5:リサイクルペレットの作製)
工程4で乾燥されたフィルム片もしくはブリケットを1軸および2軸の成型機に投入し、リサイクルペレットを作製する。混錬機条件は特に限定されないが、リサイクル前の樹脂性能を大きく劣化させないために、180~280℃で運転することが好ましい。」
「[0150] 次に、インキ膜の回収方法を検討した。
[0151] (積層フィルムに使用するフィルム)
OPP:2軸延伸ポリプロピレンフィルム 20um
CPP:無延伸ポリプロピレンフィルム 35um
VMCPP:アルミ蒸着無延伸ポリプロピレンフィルム 25um
(印刷インキ)
INK21:DICグラフィックス社製グラビアインキ グロッサ BM709白
INK22:DICグラフィックス社製グラビアインキ グロッサ 507藍S2
INK23:DICグラフィックス社製グラビアインキ ファインラップ NTV白RD-2
(反応性接着剤)
AD21:溶剤型接着剤 ディックドライ LX-401AとSP-60との2液型接着剤 (エーテル系接着剤)
AD22:無溶剤接着剤 ディックドライ 2K-SF-400AとHA-400Bとの2液型接着剤(エステル系接着剤)
(積層フィルムの製造方法)
積層フィルムは、下記印刷方法により対象とするフィルムに印刷後、下記ラミネート方法により対象とするフィルムを貼りあわせて作成した。フィルムの層構成や反応性接着剤、印刷インキの種類は表1の組み合わせにより行った。
[0152] (印刷方法)
印刷インキであるグラビアインキは、プルーファーを用いて各インキをフィルム「Film1」に展色した。
[0153] (ラミネート方法)
印刷インキを展色したフィルム「Film1」の印刷インキの展色面に、反応性接着剤「AD」をラミネーターで固形分3g/m2の塗膜量になるように塗布し、フィルム「Film2」と貼り合わせた。貼り合わせた積層フィルムは、40℃で72時間エージング反応させた。表12に示す積層フィルム「LAM21」~「LAM26」を得た。なお空欄は、構成が存在しないことを示す。
[0154][表12]
[図:0001422373000001.jpg]
[0155] 積層フィルム「LAM21」 ~「LAM26」を2cm×6cmのサイズにカットし試験片を得た。
[0156] (洗浄剤温度)
剥離工程に用いる洗浄剤の液温は50℃とした。
[0157] (洗浄工程)
PRO21:ニクニ製 サンカッタ C125H を使用し、0.1m3/minで圧送した。
PRO22:超音波洗浄機を使用し、28kHzで5分間浸漬した。
PRO23:ホモディスパーを使用し、2000rpmで10分間攪拌した。
PRO24:洗浄剤に15分間静かに浸漬した。
[0158] (インキ洗浄剤)
水と、表13に示す界面活性剤を0.3質量%と、水酸化ナトリウムを2質量%とを混合してインキ洗浄剤を調整した。
[0159][表13]
[図:0001422373000002.jpg]
[0160] (積層フィルムからのインキ除去性)
表14~17の結果21は、積層フィルムからのインキ除去状態を示している。各洗浄工程で積層フィルムを洗浄し乾燥したのちに、印刷部のインキ除去性について、光学顕微鏡を用いて撮影された写真の画像処理にて面積を算出し、以下式を用いてインキ除去率を求めることで判定した。
インキ除去率(%)=(1-洗浄後のインキ付着面積/洗浄前のインキ付着面積)×100
○:印刷部の100%が除去。
〇△:印刷部の75~99%が除去。
△:印刷部もしくは積層部の50~74%が除去。
× :印刷部もしくは積層部の0~49%が除去。
[0161] (インキ膜の剥離性)
表14~17の結果22は、剥離工程後に洗浄剤を1時間静置した際のインキ膜の溶解もしくは剥離状態を示している。インキ膜の剥離試験後の洗浄剤について、全量1μmフィルター濾過を行い、インキ膜の溶解もしくは剥離状態を評価した。
○ :剥離したインキ膜は、フィルターで捕捉され、濾液は無色透明である。
× :溶解したインキ膜は、フィルターでは捕捉できずに、濾液は着色している。
[0162][表14]
[図:0001422373000003.jpg]
[0163][表15]
[図:0001422373000004.jpg]
[0164][表16]
[図:0001422373000005.jpg]
[0165][表17]
[図:0001422373000006.jpg]
[0166] HLB値が12.5以上であるSUR27~29は、積層フィルム構成であるLAM21~23でインキ膜剥離をすることができた。一方、12.5未満であるSUR21~26は、結果2においてフィルターでは捕捉できずに、濾液は着色していることから、剥離することができなかったことがわかった。このことから、HLB値が12.5以上のインキ膜洗浄剤を用いることにより、膜として剥離できるので、フィルターを用いて簡便にインキ膜やインキ洗浄剤の回収を行えることがわかった。
[0167] HLB値が12.5以上であるSUR27は、全ての洗浄工程であるPRO21~24で、積層フィルム構成であるLAM21からインキ膜剥離をすることができたが、洗浄剤の液温が20℃では剥離することができなかった。一方、比較例2-2では、洗浄剤の液温が50℃でもインキ膜を剥離することができなかった。比較例2-3において洗浄剤の温度を70℃にした場合でもインキ膜の剥離は不十分であったことから、本発明のインキ膜洗浄剤を用いることにより、25℃以上という比較的低い温度で、且つ15分という短時間でインキ膜を剥離することができることがわかった。
[0168] 湿式破砕機は、HLB値が12.5以上であるSUR27を用いた場合、積層フィルム構成であるLAM24~26でインキ膜剥離をすることができた。」
(2)甲2には、次の記載がある。
「図3に重力とファンデルワールス力の比較を示す。ミリメートルよりも小さな世界では、重力よりも桁違いにファンデルワールス力が大きくなる。そのため、微細な粒子を載せた板をひっくり返しても粒子は落ちない。
[図:0001422373000007.jpg]
」(第19頁右欄20~24行、図3)
「付着力は粒子径が小さい程、小さくなるのである。ナノスケールでは、桁違いに小さい。」(第23頁左欄第17~19行)
(3)文献Aには、次の記載がある。
「2.2 透明度
透明度は光の散乱によって決まり,光散乱が低いほど透明度は大になる。光散乱は顔料の屈折率に著しい影響を受ける。有機顔料の屈折率は無機顔料の屈折率より一般的に低い。図-23)の点線で示したのは屈折率>2の無機顔料についてのモデル図である。光散乱(Hiding Power)は,最初粒径が大になるにしたがい増大し,max.をつくり,さらに粒径が大になると減少する。チタン白の最大散乱を示す粒径は0.25μである。」(2.2 透明度の項)
「
[図:0001422373000008.jpg]
」(図-2)
第6 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1(前記第5の2(1)参照)の段落0009、0017には、「プラスチック基材上に印刷されたインキ膜を容易に剥離又は除去することができ、且つ、剥離又は除去されたインキ膜を容易に回収可能なインキ膜回収方法を提供すること」により、「インキ膜を有するプラスチック基材からインキ膜を容易に分離(剥離)と同時に沈殿させることができる」ため、「プラスチック基材とインキ膜のそれぞれを回収分別再利用することができる。そのため、インキが付着していないプラスチック基材を容易に回収することができ、再生プラスチックの品質を向上することができる。」ことが記載されている。
イ また、甲1の段落0096~0105には、インキ膜回収方法及びインキ膜除去方法について、「工程1:インキ膜の除去工程」として、「インキ膜が設けられたプラスチック基材をインキ洗浄剤に浸漬する」こと、「工程2-1:分離したフィルム及びインキ膜の回収工程」において、「プラスチック基材から分離したインキ膜は、インキ洗浄剤に溶解せずにインキ洗浄剤中で残渣となって沈降し」、「インキ洗浄剤中には、剥離したフィルムと、印刷インキなどの残渣が浮遊したり沈降したりしている状態となって」おり、「これらを洗浄液から取り出した後、分別して回収する」こと、「具体的な一例としては、例えば、浮上選別において、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン等の比重の軽いプラスチックと(浮物)」、「剥離したインキ等の質量物を選別し質量物を取り除く」こと、「工程4:プラスチック分離物の乾燥」において、「分離したプラスチック分離物各種を分取後」、「フィルム乾燥を行う」こと、「工程5:リサイクルペレットの作製」において、「工程4で乾燥されたフィルム片」を「1軸および2軸の成型機に投入し、リサイクルペレットを作製する」こと、「混錬機条件は特に限定されないが、リサイクル前の樹脂性能を大きく劣化させないために、180~280℃で運転する」ことが記載されている。
ウ そして、甲1の段落0150~0168にはインキ膜の回収方法の具体的な実施例が記載されており、そのうちの実施例2-6では、前記「工程1」のインキ膜が設けられたプラスチック基材として、「2軸延伸ポリプロピレンフィルム」(OPP)上に印刷インキとして「DICグラフィックス社製グラビアインキ グロッサ BM709白」(INK21)からなるグラビアインキを用いてインキ膜を設けた積層フィルム「LAM21」を作製し2cm×6cmのサイズにカットした試験片を、「ダウケミカル社製 TritonX-100(HLB値13.4)」(SUR27)からなる「界面活性剤を0.3質量%」と、「水」と、「水酸化ナトリウムを2質量%とを混合して」調整したインキ洗浄剤に浸漬し、「ホモディスパーを使用し、2000rpmで10分間攪拌した」(PRO23)後、「積層フィルムからのインキ除去性」、「インキ膜の剥離性」を評価したことが記載されている。
エ すると、甲1には次の発明(以下「甲1Az発明」及び「甲1Bz発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1Az発明)
「ダウケミカル社製 TritonX-100(HLB値13.4)からなる界面活性剤を0.3質量%、水酸化ナトリウムを2質量%、及び、水を混合して調整したインキ洗浄剤を使用し、印刷インキとしてDICグラフィックス社製グラビアインキ グロッサ BM709白からなるグラビアインキを用いて、プラスチック基材である2軸延伸ポリプロピレンフィルム上にインキ膜を設けた積層フィルムの2cm×6cmのサイズにカットしたものを前記インキ洗浄剤に浸漬し、ホモディスパーを使用して2000rpmで10分間攪拌し、プラスチック基材からインキ膜を分離させる工程と、前記インキ洗浄剤から分離したフィルム及びインキ膜を回収する工程とを含む、積層フィルムの分離回収方法」
(甲1Bz発明)
「甲1Az発明で回収されたプラスチック基材を乾燥したものを1軸および2軸の成型機に投入し、180~220℃の混錬機条件で運転して得られる、リサイクルペレットの製造方法」
(2)対比・判断
ア 本件訂正発明1
(ア)本件訂正発明1と甲1Az発明とを対比すると、甲1Az発明の「プラスチック基材」、「インキ膜」及び「プラスチック基材上にインキ膜を設けた積層フィルム」は、それぞれ本件訂正発明1の「プラスチック基材層」としての「ポリオレフィン基材」、「印刷層」及び「プラスチック基材層及び印刷層を備える積層体」に相当し、甲1Az発明の「プラスチック基材」が「2軸延伸ポリプロピレンフィルム」であることは、本件訂正発明1の「プラスチック基材層」が「ポリオレフィン基材」であることに相当する。
甲1Az発明の「インキ洗浄剤」は、本件訂正発明1の「脱離液」に相当し、甲1Az発明の「積層フィルムの2cm×6cmのサイズにカットしたものを前記インキ洗浄剤に浸漬し、プラスチック基材からインキ膜を分離させる工程と、前記インキ洗浄剤から分離したフィルム及びインキ膜を回収する工程」は、本件訂正発明1の「積層体を、脱離液に浸漬させ、前記印刷層を、プラスチック基材層から脱離させ、プラスチック基材を回収する工程」に相当し、甲1Az発明の「インキ洗浄液」を「ホモディスパーを使用して2000rpmで10分間攪拌」する工程は、本件訂正発明1の「脱離液を回転速度80~5000rpmで攪拌させる工程」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲1Az発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
少なくともプラスチック基材層及び印刷層を備える積層体を、脱離液に浸漬させ、前記印刷層を、プラスチック基材層から脱離させ、プラスチック基材を回収する工程を含む、積層体の分離回収方法であって、
脱離液を回転速度80~5000rpmで撹拌させる工程を含み、
前記プラスチック基材層が、ポリオレフィン基材である、積層体の分離回収方法。
<相違点1>
本件訂正発明1では、「印刷層を、プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上となるように脱離させ」るのに対して、甲1Az発明では、そのような特定がされていない点
<相違点2>
本件訂正発明1では、「印刷層が、脱離液の全質量に対して0.01質量%以上1質量%以下」であるのに対して、甲1Az発明では、そのような特定がされていない点
<相違点3>
本件訂正発明1では、「積層体が、脱離液の全質量に対して1質量%以上10質量%以下」であるのに対して、甲1Az発明では、そのような特定がされていない点
(イ)相違点1についての検討
A 甲1の段落0079には、「HLB値が12.5以上のノニオン系界面活性剤を用いた場合は、剥離したインキ膜は洗浄剤中に沈降することから、沈降物を取り除く公知の方法・・・濾過機、遠心分離機などを用いることができ・・・本発明のインキ洗浄剤を用いて剥離したインキ膜の大きさは・・・洗浄剤に浸漬しただけの条件であると、最長部の平均が例えば10μm以上、100μm以上、さらには1000μm以上の破片となり、沈降している・・・ため、1μm程度、更にもっと目が粗いフィルターを用いても十分分離可能であり、沈降物の回収を容易に行える」と記載されている。
しかしながら、同段落には、「インキ膜の剥離工程において使用した剥離設備の条件によって変わる」とも記載されており、甲1Az発明に対応する実施例2-6の「ホモディスパーを使用して2000rpmで10分間攪拌」する条件において、剥離したインキ膜の衝突頻度が高くなり、その寸法が小さくなる傾向にあることは当業者に明らかであるから、剥離したインキ膜が最長部の平均が10μm以上の破片として沈降するものと当業者が直ちに認識できるものではない。また、甲1の段落0161及び0162の表14には、実施例2-6について、「インキ膜の剥離試験後の洗浄液について、全量1μmフィルター濾過を行い、インキ膜の溶解もしくは剥離状態を評価した」ところ、「剥離したインキ膜は、フィルターで捕捉され、濾液は無色透明」であったことが示されているものの、「1μmフィルター」で捕捉されたことをもって直ちに剥離したインキ膜の体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上であると当業者が認識できるものではないし、そのように推認できる本件出願時の技術常識も見当たらない。
B 甲1の段落0034には、「HLB値が12.5以上であるノニオン系界面活性剤を用いることにより、インキ膜を溶解せずに剥離できる・・・ため・・・プラスチック基材を回収する際に、プラスチック基材にインキ成分やインキ溶解物が付着することを防止することができる」こと、「更に、剥離したインキ膜は洗浄剤中に沈降するので回収が容易となる」ことが記載されており、すなわち、HLB値が12.5以上であるノニオン系界面活性剤を用いることで、インキ膜を溶解せずに剥離でき、剥離したインキ膜は沈降して容易に回収でき、さらに、プラスチック基材にインキ成分やインキ溶解物が付着することを防止できることが記載されている。
しかしながら、インキ膜の剥離性、回収性、プラスチック基材への付着性の向上のために、剥離したインキ膜のD50を制御することについてなんら記載も示唆もされていない。
C また、甲2(前記第5の2(2)参照)には、「ミリメートルよりも小さな世界では、重力よりも桁違いにファンデルワールス力が大きくな」り、「付着力は粒子径が小さい程、小さくなる」ことが記載されているものの、当該記載は、粒子径とファンデルワールス力による付着力の相関関係について説示するにとどまるものである。
すなわち、甲1Az発明において、剥離したインキ膜の粒子径がプラスチック基材への付着性に影響することまでは当業者が推認できるとしても、そこから、甲1Az発明の「脱離液を回転速度80~5000rpmで撹拌させる」条件下において、剥離したインキ膜の粒子径をD50が10μm以上と設定し、その条件を達成し得る具体的な制御手段を想起することは、当業者にとって容易ではない。
C そうすると、前記相違点1は実質的な相違点であるし、当業者が甲1Az発明及び甲1、甲2に記載された技術事項から容易に想到し得るものではない。
(ウ)申立人の主張について
A 申立人は、令和6年9月13日に提出した意見書において、前記相違点1に関する以下の主張を行っている。
「甲1Az発明(実施例2-6) においては、積層フィルム「LAM21」を作製し2cm×6cmのサイズにカットした試験片をインキ洗浄剤中でホモディスパーを使用し、2000rpmで10分間攪拌しているところ、本件訂正発明1においては、段落[0137]、[0138]、[0142]に記載のように、「1cm×1cmの大きさに切り出したサンプル」を用いて、2000rpmの条件で攪拌開始から2時間攪拌後、メジアン径を測定し、メジアン径が10μm以上の脱離した印刷層成分を得ている。以上から明らかなとおり、甲1Az発明(実施例2-6) においては、本件訂正発明1と比べて、試験片(サンプル)サイズ(面積)が12倍も大きい一方、攪拌時間は12分の1と大幅に短い。試験片サイズが大きいと試験片の液中での動きが弱くなることから、試験片の衝突が起こりにくいことに照らせば、甲1Az発明(実施例2-6) において剥離したインキ膜のメジアン径は10μm以上である蓋然性が高いといえる。」(以下「主張1」という。)
「また、甲1Az発明(実施例2-6) においては、「○:剥離したインキ膜は、フィルターで捕捉され、濾液は無色透明である。」という結果が示されている(段落[0161]、[0162]等参照)ことからすれば、前記フィルターに捕捉されたインキ膜は肉眼で視認可能であると考えられ、肉眼で視認可能な大きさが0.1mm(100μm)程度であることに照らせば(下記参照)、剥離したインキ膜は、少なくとも0.1mm(100μm)以上の大きさを有し、メジアン径が10μm以上である蓋然性が高いといえる。肉眼で視認可能な大きさが0.1mm(100μm)程度であることは、例えばオリンパス社のHP・・・などにも示されているように、一般に知られている。」(以下「主張2」という。)
そこで、前記主張1、2について検討する。
B 主張1について
(A)本件訂正発明1は、「プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上となるように脱離させ」ることを発明特定事項として含むものである。
また、本件特許の明細書には、「脱離層の印刷層成分のメジアン径を1μm以上となるように脱離させるためには、攪拌速度等の脱離試験時の条件を選択する、脱離液に界面活性剤を含有させる、印刷層中に分散剤を含有させるといった手段が例示されるが、これに限定されるものではなく、各手段は適切に組み合わせることが好ましい」(段落0025)、「脱離液は、水と界面活性剤を含有することが好ましい・・・これは、界面活性剤の作用により、脱離液が・・・接着剤層等の脱離層中に浸透しやすくなり、脱離性が促進するためと考えられ・・・脱離液中で脱離した印刷層成分のメジアン径を1μm以上に制御しやすい」(段落0032)、「界面活性剤のHLB・・・が7以上であることで、優れた脱墨性と再付着性とを発揮する・・・また、界面活性剤は、アルキレンオキサイド(以下、AOともいう)を付加した構造であることで、脱墨性や再付着性が良好となる」(段落0034~0035)、「印刷層は、着色剤の分散剤として、顔料誘導体及び/又は樹脂型分散剤を含有することで・・・脱離液中で脱離した印刷層成分のメジアン径を1μm以上に制御しやすい」(段落0064)、「顔料誘導体の総量は、着色剤全体に対して・・・0.01~10質量%であることにより、脱離した印刷層成分のメジアン径を1μm以上に制御しやすく・・・樹脂型分散剤の総量は、着色剤全体に対して・・・0.01質量%以上であると・・・脱離液中で脱離した印刷層成分のメジアン径を1μm以上に制御しやすい」(段落0068~0070)と記載されている。
さらに、本件特許の明細書中に記載された実施例では、脱離液を500rpm、1000rpm又は2000rpmで撹拌する条件下において、脱離液として、界面活性剤(POEステアリルエーテル(HLB:13.9))を0.001質量%、0.1質量%又は10質量%含むもの(脱離液A2~A4)を採用し、且つ、積層体として、印刷層に分散剤を段落0068に記載された好適な配合量(着色剤に対して樹脂型分散剤を5%、顔料誘導体を0%、0.01%又は2%)で含むインキ(R2~R6)を用いたもの(積層体L2~L8)又は印刷層に加え、プライマー層、接着剤層(脱離層)を有するもの(積層体L1~L5)を採用した場合(実施例1~4、6、8、9、11~13)に、脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)が10μm以上であり、再付着性が良好(A(優)又はB(良))であること、その一方で、脱離液として、界面活性剤を含まないもの(A1)を採用した場合(実施例7、10)、及び、積層体として、印刷層に分散剤を段落0068に記載された好適な配合量(着色剤に対して樹脂型分散剤を5%、顔料誘導体を11%)を超えて含むインキを用いたものを採用した場合(実施例5)には、脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)が10μm未満であり、再付着性が少し劣る(C(可))ことが実証されている。
そうすると、本件訂正発明1の「プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上となるように脱離させ」るとの発明特定事項は、それ以外の発明特定事項によりおのずと満たされるような作用効果を単に記載したものではなく、例えば、脱離液に界面活性剤(HLB値7以上)を含有させる、積層体の印刷層に分散剤を好適な配合量で含むインキを用いる、積層体にプライマー層、接着剤層等の脱離層を設ける等の手段を組み合わせて、それ単独で満たす必要のある発明特定事項であることは明らかである。
(B)他方、甲1Az発明に対応する実施例2-6では、脱離液として「ダウケミカル社製 TritonX-100(HLB値13.4)からなる界面活性剤を0.3質量%」含むものを採用し、積層フィルムとして「印刷インキとしてDICグラフィックス社製グラビアインキ グロッサ BM709白からなるグラビアインキ」を採用するものであるが、甲1Az発明を認定した実施例2-6が、印刷インキに分散剤を所定量で含むこと、積層フィルムにプライマー層、接着剤層等の脱離層を設けること、まして、脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)を10μm以上とするその他手段を有することについて記載も示唆もされていない。
(C)そうであれば、主張1が述べるとおり、甲1Az発明に対応する実施例2-6は、本件訂正発明1に対応する実施例(実施例1~4、6、8、9、11~13)と比べて、試験片(サンプル)サイズ(面積)が12倍も大きい一方、攪拌時間は12分の1と大幅に短く、試験片の衝突が起こりにくいと考え得るとしても、前記本件訂正発明1に対応する実施例は、脱離液に界面活性剤を含有させることに加え、積層体の印刷層に分散剤を所定量で含むインキを用いるか、積層体にプライマー層、接着剤層等の脱離層を設けるものであり、脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)を10μm以上とする観点でより好適な態様であるといえるし、逆に、実施例5は、脱離液にHLB値13.4の界面活性剤を含み、積層体として印刷層に分散剤を含むインキを用いる態様であるにもかかわらず、脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)が10μm未満であることが実証されているところ、試験片のサイズ及び撹拌時間の違いをもって直ちに、「甲1Az発明(実施例2-6) において剥離したインキ膜のメジアン径は10μm以上である蓋然性が高い)と解することはできない。
(D)よって、前記申立人の主張1は採用できない。
C 主張2について
甲1Az発明に対応する実施例2-6では、「剥離したインキ膜は、フィルターで捕捉され、濾液は無色透明」であることから、フィルターで捕捉されたインキ膜は不透明なもの又は着色したものとして視認されるものと考えられる。しかしながら、例えば文献A(前記第5の2(1)参照)において、「透明度は光の散乱によって決まり・・・チタン白の最大散乱を示す粒径は0.25μである」と記載されているように、物体の粒径が肉眼で視認可能な100μm未満であっても、少なくとも不透明なもの又は着色したものとして視認可能であることは本件出願時の技術常識から明らかである。
そうであれば、甲1Az発明に対応する実施例2-6では、「剥離したインキ膜は、フィルターで捕捉され、濾液は無色透明」であることをもって直ちに、「剥離したインキ膜は、少なくとも0.1mm(100μm)以上の大きさを有し、メジアン径が10μm以上である蓋然性が高い」と解することはできない。
よって、前記申立人の主張2は採用できない。
(エ)してみれば、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲1,甲2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2~10
本件訂正発明2~10は、本件訂正発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記アで検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲1、2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
2 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった申立理由3(サポート要件違反)について
(1)本件訂正発明の課題
本件訂正発明の課題は、本件特許の明細書の段落0008の記載からみて、少なくとも「脱離処理中の印刷層の量が多い条件においても、印刷層や接着剤層の脱離性に優れ、さらに、脱離した印刷層成分の再付着が抑制された、プラスチックリサイクルに適した積層体の分離回収方法を提供すること」であると認める。
(2)当審の判断
本件訂正発明は、「脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)を10μm以上となるように脱離させ」るとの発明特定事項を含むものである。
そして、本件特許の明細書には、「発明者らは、脱離液に対する印刷層の量が多い条件下において、脱離後の印刷層成分のメジアン径(D50)を1μm以上となるように脱離させることにより、印刷層の優れた脱離性を維持しつつ、再付着を効率的に抑制できることを見出した。これは、脱離後の印刷層成分の脱離液中における運動性や、表面の極性が適切に制御されることに起因すると考えられる」(段落0024)と記載されている。(下線は当審による。)
また、前記1(2)ア(ウ)B(A)で示したとおり、脱離液に界面活性剤(HLB値7以上)を含有させる、積層体の印刷層に分散剤を好適な配合量で含むインキを用いる、積層体にプライマー層、接着剤層等の脱離層を設ける等の手段を組み合わせることで、脱離後の印刷層成分のメジアン径(D50)を1μm以上となるように脱離させることも記載されている。
さらに、積層体の分離回収の実施例として、脱離液に対する印刷層の量(質量%)が0.015、0.11又は0.12で、脱離液を500rpm、1000rpm、2000rpm又は4000rpmで撹拌する条件下において、脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)を10μm以上に調整した実施例1~4、6、8、9、11~13では、十分な剥離性を有し(少なくとも、C(可):撹拌開始から1時間後の基材において、印刷層の90%以上が剥離している。)、再付着性が良好(A(優)又はB(良))であることが実証されている。
そうすると、脱離処理中の印刷層の量が多い条件においても、本件訂正発明、特に「脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)を10μm以上となるように脱離させ」る工程により前記課題を解決できることは明らかである。
よって、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書において、前記第4の1(3)ア~エのように主張し、また、令和6年9月13日提出の意見書において、次のように主張している。
「本件特許明細書には、撹拌条件として回転速度「2000rpm」の実施例しか存在せず、「攪拌により脱離片が積層体と衝突すると、物理的な衝撃により脱離片が粉砕される」ことに照らせば、「回転速度80~5000rpm」の範囲内であれば、常にメジアン径が10μm以上となるように脱離できて本件訂正発明1の上記課題を解決できることを理解することはできない。」
イ そこで検討すると、前記1(2)ア(ウ)B(A)で検討したとおり、「プラスチック基材層から脱離した印刷層成分の体積基準におけるメジアン径(D50)が10μm以上となるように脱離させ」ることは、本件訂正発明の発明特定事項であり、それ以外の発明特定事項によりおのずと達成される付随的なものではなく、脱離液に界面活性剤(HLB値7以上)を含有させる、積層体の印刷層に分散剤を好適な配合量で含むインキを用いる、積層体にプライマー層、接着剤層等の脱離層を設ける等の手段を組み合わせることでなし得ることは、本件特許の明細書の記載から明らかである。
ウ また、本件訂正発明の具体化に際し、印刷層の脱離の条件、例えば、温度、撹拌速度、サンプルサイズ、サンプル量等は、本件特許の明細書の実施例の記載を参考にしつつ適宜調整し得るものである。
エ そうすると、申立人が主張するように、本件訂正発明において、脱離液が界面活性剤を有すること、積層体が「プライマー層」を備えること、及び/又は、印刷層が「分散剤」を含むこと、さらに、温度、サンプルサイズ、サンプル量等の脱離条件が特定されていないとしても、前記(2)で検討したとおり、本件訂正発明、特に「脱離した印刷層成分のメジアン径(D50)を10μm以上となるように脱離させ」る工程により、前記課題を解決できることは明らかである。
(4)小括
してみれば、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700467