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特許異議申立

2024-701165

繊維分散樹脂複合材、成形体、及び複合部材

審判番号
2024-701165
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-100884
登録番号
7495278
請求日
2024年12月03日
審決日
2025年08月29日
公報発行日
2025年11月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】古河電気工業株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人クオリオ
  • 【権利者代理人】飯田 敏三
  • 【権利者代理人】赤羽 修一
  • 【権利者代理人】田中 幸恵
  • 【異議申立人】田中 理紗
審判長/審判官
  • 審判長 松田 成正
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1651.113-YAA(B29B) / P1651.121-YAA(B29B) / P1651.537-YAA(B29B) / P1651.536-YAA(B29B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7495278号発明「繊維分散樹脂複合材、成形体、及び複合部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7495278号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。 特許第7495278号の請求項1~13に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7495278号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和2年6月10日の出願であって、令和6年5月27日にその特許権の設定登録がされ、同年6月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年12月3日に特許異議申立人田中理紗(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がされたものである。 その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和7年 3月13日付け:取消理由通知 同年 5月16日 :訂正請求書及び意見書(特許権者) 同年 5月21日付け:訂正請求があった旨の通知 (特許法第120条の5第5項) なお、令和7年5月21日付け訂正請求があった旨の通知に対し、申立人からは何ら応答がなかった。 以下、令和7年5月16日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。 第2 訂正請求について 1.訂正の内容 本件訂正請求の趣旨は、「特許第7495278号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正の内容は以下のとおりである。 なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。 ・訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に 「ポリオレフィン樹脂中に植物繊維を分散してなる繊維分散樹脂複合材であって、前記植物繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であり、下記条件で決定される前記植物繊維の長さ加重平均繊維長をLL、数平均繊維長をLNとしたとき、LLとLNが下記[式1-1]を満たす繊維分散樹脂複合材。 <条件> 前記繊維分散樹脂複合材を、該複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さについて、ISO 16065 2001で規定されたパルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法によりLLとLNを求める。 [式1-1] 1.01<LL/LN<1.30」 と記載されているのを、 「ポリオレフィン樹脂中に植物繊維を分散してなる繊維分散樹脂複合材であって、前記植物繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であり、下記条件で決定される前記植物繊維の長さ加重平均繊維長をLL、数平均繊維長をLNとしたとき、LLとLNが下記[式1-1]を満たす繊維分散樹脂複合材。 <条件> 前記繊維分散樹脂複合材を、該複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さについて、ISO 16065 2001で規定されたパルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法によりLLとLNを求める。 [式1-1] 1.02<LL/LN<1.15」 に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~13も同様に訂正する。 なお、本件訂正は一群の請求項をなす請求項1~13を訂正の単位として請求されたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記訂正事項は、本件訂正前の請求項1に記載されていた繊維の長さ加重平均繊維長LLと数平均繊維長LNとの比LL/LNの数値範囲を、願書に添付した明細書の[0012]等の記載に基づいて「1.02<LL/LN<1.15」と狭い範囲に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。また、上記訂正事項が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~13の訂正も同様である。 よって、上記訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)独立特許要件について 本件においては、訂正前の全ての請求項1~13に対して特許異議の申立てがされているので、上記訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3.訂正請求についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明13」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「[請求項1] ポリオレフィン樹脂中に植物繊維を分散してなる繊維分散樹脂複合材であって、前記植物繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であり、下記条件で決定される前記植物繊維の長さ加重平均繊維長をLL、数平均繊維長をLNとしたとき、LLとLNが下記[式1-1]を満たす繊維分散樹脂複合材。 <条件> 前記繊維分散樹脂複合材を、該複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さについて、ISO 16065 2001で規定されたパルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法によりLLとLNを求める。 [式1-1] 1.02<LL/LN<1.15 [請求項2] 前記LLと前記LNが下記[式1-3]を満たす、請求項1に記載の繊維分散樹脂複合材。 [式1-3] 1.02<LL/LN≦1.10 [請求項3] 前記植物繊維の長さ加重平均繊維長が0.25mm以上である、請求項1又は2に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項4] 前記繊維分散樹脂複合材中の前記植物繊維の含有量が5質量%以上50質量%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項5] 前記植物繊維が木質繊維を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項6] 前記木質繊維が、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンを含む、請求項5に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項7] 前記LL及びLNの測定条件において、前記繊維分散樹脂複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さが、熱キシレン溶解残さである、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項8] 前記繊維分散樹脂複合材が前記ポリオレフィン樹脂中にアルミニウムを分散してなる、請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項9] 前記繊維分散樹脂複合材が、有機酸の金属塩、有機酸、シリコーンのいずれか1種以上の化合物を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項10] 前記繊維分散樹脂複合材が、前記ポリオレフィン樹脂中に前記ポリオレフィン樹脂とは異なる樹脂からなる樹脂粒子を分散してなる、請求項1~9のいずれか1項に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項11] 前記ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部及び/又は前記植物繊維の少なくとも一部が、リサイクル材に由来する、請求項1~10のいずれか1項に記載の繊維分散樹脂複合材。 [請求項12] 請求項1~11のいずれか1項に記載の繊維分散樹脂複合材を用いた成形体。 [請求項13] 請求項12に記載の成形体と他の材料とを組合せてなる複合部材。」 第4 特許異議申立理由の概要 申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第7号証(以下、「甲1」~「甲7」という。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。 1.特許異議申立理由 (1)申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如) 本件発明1~13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲2に基づく進歩性欠如) 本件発明1~13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由3(甲3に基づく進歩性欠如) 本件発明1~13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (4)申立理由4(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~13についての特許は同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 機械的特性について 本件発明の実施例における機械的物性とは、複合材を射出成形により作製した成形体に対するものである([0050]、[0051])。 ここで、甲4には、引張特性と曲げ特性は射出成形の条件に依存する結果となることが記載され、また、甲5には、短繊維入り複合材料は射出成形を行うと繊維の破断が生じるが、複合材料の機械的性質は繊維の長さに依存することが記載されている。すなわち、本件発明のような繊維分散樹脂複合材は、射出成形を行うと、射出成形の条件によって引張特性と曲げ特性が異なる結果となるものである。 そうすると、本件発明の実施例では射出成形の条件が特定されている訳ではないから、本件発明の実施例における機械的特性は、射出成形の条件により異なった結果となるものであり、したがって、本件発明1の構成では実施例に記載された機械的特性が得られないから、本件発明の課題を解決することができるものではない。 よって、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし13は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているから、サポート要件を満たしていない。 イ [式1-1]1.01<LL/LN<1.30について (ア) 繊維材1~3(実施例5、4、比較例2)について 本件明細書の実施例には、樹脂と繊維材との混練中の水添加によってLL/LNが高まることが記載されている。しかしながら、繊維材1(木粉、平均長径1.8mm、水分15%)を使用した場合のLL/LNの上限は実施例5の1.10であるから、1.10よりも大きく1.30よりは小さい範囲にLL/LNを調製する手段は記載されておらず、繊維材3(木粉、平均長径3mm、水分15%)を使用した場合のLL/LNの上限は実施例4の1.17であるから、1.17よりも大きく1.30よりは小さい範囲にLL/LNを調製する手段は記載されていない。 また、繊維材3を使用した実施例4と他の実施例とを比較すると、木粉においては平均長径が大きいものを使用することでLL/LNを高められることが示唆されているが、一方で引張強度が低下することも示唆されている。したがって、繊維材3よりも平均長径の大きい木粉を使用する場合、すなわちLL/LNが1.17を超える場合であっても機械的物性に優れた樹脂組成物が得られるという事項は、本件明細書の記載に触れた当業者であっても認識できない。 繊維材2(紙、オフィスペーパーをメッシュ径φ5mmの粉砕機で粉砕したもの)は、比較例2にLL/LNが1.35の開示があるのみであり、繊維材2を使用する場合のLL/LNの調整方法について具体的な記載が全くないから、繊維材2を使用して機械的物性に優れた樹脂組成物が得られることは、本件明細書の記載に触れた当業者であっても認識できない。 (イ)実施例及び比較例の最大値及び最小値(実施例10、4、比較例5、2)について 比較例におけるLL/LNの下限側の最大値は、比較例5の311/307=1.0130である。「1.01<LL/LN」とは例えば「LL/LN=1.015」を含むものと解されるが、LL/LNがその値を示すときに本件特許の課題が解決されるかについて実施例はなく、また、実施例におけるLL/LNの最小値が実施例10の321/306=1.0490であることからも、本件明細書の記載から認識できるものではない。 LL/LNの上限についても、実施例の最大値は実施例4の374/320=1.1688、比較例の最大値は比較例2の639/473=1.3510であるから、1.17を超え1.35末満の間で本件発明の課題が解決可能であることは本件明細書の記載からも認識できない。 (ウ)本件発明3について 本件発明3は、「前記植物繊維の長さ加重平均繊維長が0.25mm以上である」という構成を有するが、本件明細書における実施例1ないし実施例10、比較例1及び比較例3ないし比較例8はすべて、長さ加重平均繊維長は0.25mm以上である。そうすると、本件発明3の構成により、本件発明の課題が解決可能であることは本件明細書の記載からは認識できない。 したがって、本件発明3及び本件発明3を直接又は間接的に引用する本件発明4ないし13は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているから、サポート要件を満たしていない。 (5)申立理由5(実施可能要件違反) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~13についての特許は同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 機械的特性について 上記サポート要件違反のアで述べたとおり、本件発明の構成では、実施例に記載された機械的特性が得られるのかが明確ではないから、本件明細書には、本件発明の実施が可能であるのかが具体的に記載されていないため、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 イ [式1-1]1.01<LL/LN<1.30について 上記サポート要件違反のイで述べたとおり、本件明細書には、実施例に記載された以外の式1-1の範囲内の数値で、本件発明の実施が可能であるのかが具体的に記載されていないため、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 ウ 繊維材2(オフィスペーパー粉砕物)について 比較例2では繊維材2(オフィスペーパー粉砕物)が用いられているが、LL/LNは1.35となり、十分な樹脂の強化作用が得られていない。また、繊維材2を使用してLL/LNを1.35より低くする手段は、本件明細書には記載されておらず、それを推測できる記載も存在しない。例えば、実施例1及び比較例1には、混練中の水の添加によりLL/LNが高くなることが示されているが、比較例2は、水を混練中に添加していない態様であってもLL/LNが1.35と高く、繊維材2を使用してLL/LNを低下させる具体的な方法は、本件明細書には全く記載されていない。したがって、[0020]に基づいて繊維材2を使用しても、本件発明の課題が解決できることは記載されておらず、むしろ課題が解決できないことが示唆されている。 よって、本件明細書には、本件発明の実施が可能であるのかが具体的に記載されていないため、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 2.証拠方法 甲1:Anne Le Duc,Bruno Vergnes,Tatiana Budtova,"Polypropylene/natural fibres composites: Analysis of fibre dimensions after compounding and observations of fibre rupture by rheo-optics",Composites:Part A,Applied Science and Manufacturing,Elsevier B.V.,2011.11,vol.42,No.11,p.1727-1737 甲2:特開2018-9075号公報 甲3:国際公開第2019/039569号 甲4:岡田光了,福田徳生,松原秀樹,"射出成形条件が長繊維強化樹脂の機械特性と繊維長分布に及ぼす影響",あいち産業科学技術総合センター研究報告,あいち産業科学技術総合センター企画連携部企画室,2018年,p.10-13 甲5:小川俊夫,美馬正道,田矢直紀,"炭素繊維強化ナイロン66の射出成形に伴う繊維長変化",成形加工,一般社団法人プラスチック成形加工学会,1995年5月20日,vol. 7,No.5,p. 315-320 甲6:特開2012-207956号公報 甲7:特開平9-24293号公報 証拠の表示は当審による。 第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~13に係る発明についての特許に対して、令和7年3月13日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 1.取消理由1(甲1に基づく新規性欠如) 本件発明1、4~7、12及び13は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2.取消理由2(甲1に基づく進歩性欠如) 本件発明1~13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 取消理由通知に記載した取消理由についての判断 当審は、取消理由通知に記載したいずれの取消理由によっても、本件発明についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。 ・取消理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由2(甲1に基づく進歩性欠如)について 1.甲1に記載された事項 甲1には以下の事項が記載されている。甲1は外国語文献であるが、本文は日本語訳のみ示す。日本語訳は概ね申立人が提出した抄訳文に基づく。 (1-1)「要約 繊維サイズ分布と、ポリプロピレンとの配合中に繊維がどのように破壊されるかを分析した。天然亜麻と人工(再生)セルロースであるTencel(当審注:登録商標。以下、表示を省略する。)という2種類のセルロースベースの繊維を使用した。Tencelの初期繊維サイズが処理後の最終サイズに及ぼす有意な影響は観察されなかった。しかし、繊維の種類と欠陥の存在は破断に対して強い影響を与える。亜麻繊維の平均最終長の値はキンクバンド間の距離に類似していることが分かった。」(p.1727「要約」) (1-2)「1.はじめに ポリマー複合材料における強化剤としての天然繊維への関心は、過去10年間で劇的に高まった。これらの材料は、主に自動車及び建設産業における種々の応用に非常に有望であると考えられる。・・・ 本研究の目的は、セルロース系繊維の配合過程における破断メカニズムと、その破断を制御するパラメータをより深く理解することである。対象とした繊維は、4種類の異なる初期繊維径を持つ合成セルロース繊維(Tencel)と亜麻の2種類である。まず、加工後の繊維サイズ分布を分析し、異なる繊維が同一条件下でどの程度破断するかを推定した。繊維の初期長さが最終長さとアスペクト比分布に与える影響を相関させ、比較した。研究の第二部は、せん断応力下における単繊維挙動の可視化に焦点を当てた。これは、当研究室で開発された逆回転レオオプティック装置を用いて実施された。我々の知る限り、せん断応力下における天然繊維のその場での破断は、これまで観察された例がない。レオオプティクスは、加工中の繊維の挙動(分散、分布、破裂)を理解し、複合材料の最終的な特性を予測する上で非常に有望な方法をもたらす。」(p.1727左欄1~5行、p.1728左欄35~50行「イントロダクション」) (1-3)「2.材料及び方法 2.1.材料 複合母材として使用されるホモポリマーポリプロピレン(PP)は、Total Petrochemicals社が提供する押出グレード(PPH 5060)であり、メルトフローインデックスは6g/10分(230℃、2.16kg)である。示差走査熱量測定(Perkin Elmer DSC7)によって決定された融点は160℃である。無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン(MAPP)(Orevac CA100、Arkema社が提供)を使用して、繊維と母材との親和性を改善した。レオ光学研究に使用されるポリエチレン(PE)は、押出グレード(Total Petrochemicals社のFE8000)であり、メルトフローインデックスは1.05g/10分(190℃、2.16kg)である。 2種類のセルロース繊維を使用した。1つは、Lenzing AG(オーストリア)から提供されたLyocell法で製造されたTencel人工繊維(セルロースII)である。Tencel繊維は、N-メチルモルホリン-N-オキシドに溶解したユーカリパルプを湿式紡糸することによって製造される。最初のTencel繊維は、すべて同じ紡糸法で製造されたものであれば、長さLは異なるが、直径dは同じであった。その結果、初期アスペクト比(L/d)が異なっていた。すべての寸法を表1に示す。2、6及び8mmの繊維は、長さの偏差が最大5%であるのに対して、400μmの繊維(より長い繊維を粉砕して製造)は、Lenzingが示したように、100μmから1.5mmまでの広い長さ分布を有する。Tencel400μm繊維は「粉末」の形態であるのに対して、Tencel6mm及びTencel12mmは「硬質」ロッドであり、長さを除いて同じ外観を有する。Tencel8mm繊維は「ショートカットファイバー」と呼ばれ、綿のように見える。」(p.1728左欄下から12行~右欄15行) (1-4)「2.2.方法 2.2.1.複合材料の準備 複合材料は、ローラーローターを備えた内部ミキサー(HAAKE Rheomix 600)で処理した。充填率を80%に固定し、すべての複合材料を180℃で150rpmのローター速度で7分間調製した。混合室で測定した最高温度は206℃であった。最初に、PPのペレットを溶融し、トルクが安定するのに必要な時間である2分間、3wt%のMAPPと予備混合した。次いで、5wt%の亜麻又はTencel繊維を1回で導入し、残りの5分間混合した。第2段階で測定された比エネルギー(SME)は約250kWh/tであり、これは二軸スクリュー配合プロセスにおけるSMEとは桁違いである。」(p.1729左欄下から4行~右欄10行) (1-5)「2.2.2.繊維サイズ分布の測定 複合材料中の繊維サイズ分布を研究するために、繊維が母材から分離され、分離は後者を160℃で2時間、磁気バーで穏やかに撹拌しながらDecalinに溶解することにより行われた。Decalinの量は複合材料サンプルの重量の10倍であり、繊維の重なりを防止するために繊維濃度を5wt%から0.5wt%に減少させた。Decalinが繊維の寸法に影響を与えないことが確認された。その後、小さな繊維が失われないようにろ過は行わなかった。 溶解したポリプロピレン/Decalin/繊維懸濁液の数滴を暖かいガラスプレート上に堆積させ、高分解能3-CDD数値カメラ(JVC KY-F75U、1360×l024ピクセル)を備えた光学顕微鏡(Leica DM 4500P)を用いて分析した。画像はコントラストを高めるために偏光で撮影された。実際、セルロース繊維は、半結晶ポリマーであるセルロースの含有量が高いため、複屈折性であることが知られている。人工繊維では、セルロースは同じ方向に配向することができ、消光が起こる可能性がある。消光した繊維の数はごくわずかであり、偏光モードを用いて情報を失わなかったことが確認された。 Cartographプログラムにより、48枚の集合写真からなる10mm×10mmの高解像度マップが実現された。これらは、観察面を拡大し、サイズ分布を全体的に見ることができ、顕微鏡の視野内で長繊維と短繊維を可視化することができる。次に、400~700本の繊維の長さをEllixソフトウェアを用いて測定し、Histolabソフトウェアを用いて太さを測定した。分解能(1.32μm/ピクセル)とマップのサイズ(10mm×10mm/7520×7520ピクセル)を考慮して、長さが10μm(8ピクセル)未満、太さが5μm(4ピクセル)未満の繊維は無視することにした。また、Ellixを用いた長さ近似は、楕円の慣性モーメントを計算することからなり、得られた長さは実際の長さと比較して10-15%の誤差を含むことに留意すべきである。分布測定法の再現性が確認されており、10%程度の誤差で平均値が得られ、満足できるものである。」(p.1729右欄12行~p.1730右欄2行) (1-6)「初期のTencel2mm、Tencel6mm、Tencel400μm及び亜麻で作られた複合材料中の繊維の数で重み付けれた長さ分布を図8に示す。これらの分布から、様々な平均長が計算できる。 Ln;数値で重み付けされた平均長: [図:0001429018000001.jpg] (2) Lw;重量で加重した平均長: [図:0001429018000002.jpg] (3) ここで、Liはクラスiの繊維長であり、niは対応する繊維の数であり、Lmedは中央値であり、これは頻度分布を半分に分割する長さである。 長さ分布から得られた平均値を表3に示す。重董Lwの平均長(式(3))は、複合材料の機械的特性にとって重要となり得る少量の長繊維を考慮するのに役立つ。表3に示すように、数の平均値は大量の小さな壊れた繊維に大きく影響されるが、重量の平均値は長い繊維に重点を置いている。既に上述したように、図6bは、いくつかの非常に長い繊維が、Tencel6mmから作られた複合材料中に依然として存在することを示している。使用される繊維の種類における各複合材料の最大長Lmaxを表3に示す(グラフをオーバーロードしないように図8には示していない)。複合材料中のすべてのTencel繊維は、同様の二峰性分布を有し、第1の集団は非常に短い繊維(50μm未満)からなり、第2の集団は約150±100μmの繊維からなる。複合材料中のTencel繊維の平均長Lnを考慮すると、初期サイズの増加とともにわずかに増加しており、初期長がそれぞれ400μmおよび6mmの場合、140μmから173μmへと増加している(表3)。しかし、1回の実験から得られたLnの変動を考慮すると、この増加はごくわずかである。一般に、所与の加工条件に対して、Tencel繊維長は、生産条件によって決定される繊維固有の特性に依存するほぼ同じLn値に低減される。しかしながら、Tencel繊維の初期繊維長は、ポリマー母材中での繊維の分散を可能にするか、または良好でないため、重要な要素である(凝集体の形成、図6a-dと比較)。」(p.1732左欄6行~p.1733左欄4行) (1-7)「 [図:0001429018000003.jpg] 」(p.1733左欄 表3 囲みは申立人による。) 「表3 Tencel及び亜麻繊維を用いた複合材料における繊維長及び分散性の特徴 繊維 数平均長 加重平均長 多分散性指数 中央値の長さ 最大長 Ln(μm) Lw(μm) I=Lw/Ln Lmed(μm) Lmax(μm)」(p.1733左欄 表3のタイトル及び項目名の翻訳) 2.甲1に記載された発明 甲1の要約(摘記1-1)には、「繊維サイズ分布と、ポリプロピレンとの配合中に繊維がどのように破壊されるかを分析した。天然亜麻と人工(再生)セルロースであるTencelという2種類のセルロースベースの繊維を使用した。」と記載されており、「2.1材料」(摘記1-3)及び「2.2.1.複合材料の準備」(摘記1-4)には、ホモポリマーポリプロピレン(PP)、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン(MAPP)及びLyocell法で製造されたTencel人工繊維(セルロースII)を、ローラーローターを備えた内部ミキサーで、「最初に、PPのペレットを溶融し、トルクが安定するのに必要な時間である2分間、3wt%のMAPPと予備混合した。次いで、5wt%の亜麻又はTencel繊維を1回で導入し、残りの5分間混合」することにより調製したことが記載され、「2.2.2.繊維サイズ分布の測定」(摘記1-5)には、「複合材料中の繊維サイズ分布を研究するために、繊維が母材から分離され、分離は後者を160℃で2時間、磁気バーで穏やかに撹拌しながらDecalinに溶解することにより行われた。」こと、「溶解したポリプロピレン/Decalin/繊維懸濁液の数滴を暖かいガラスプレート上に堆積させ、高分解能3-CDD数値カメラ(JVC KY-F75U、1360×l024ピクセル)を備えた光学顕微鏡(Leica DM 4500P)を用いて分析した。」こと、「Cartographプログラムにより、48枚の集合写真からなる10mm×10mmの高解像度マップが実現された。・・・400~700本の繊維の長さをEllixソフトウェアを用いて測定し、Histolabソフトウェアを用いて太さを測定した。」ことが記載され、p.1732左欄~p.1733左欄(摘記1-6)には、「初期のTencel2mm、Tencel6mm、Tencel400μm及び亜麻で作られた複合材料中の繊維の数で重み付けれた長さ分布」から、(2)式で計算される「Ln;数値で重み付けされた平均長」及び(3)式で計算される「Lw;重量で加重した平均長」が計算できること、及びp.1733左欄の「表3 Tencel及び亜麻繊維を用いた複合材料における繊維長及び分散性の特徴」には、初期長2mmのTencel繊維を用いた複合材料の場合、Ln=164μm、Lw=189μm、Lw/Ln=1.2であったことが記載されている。 そこで、初期長2mmのTencel繊維を用いた複合材料について整理すると、甲1には以下の発明が記載されている。 「初期長2mmのTencel繊維、ホモポリマーポリプロピレン(PP)及び無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン(MAPP)を用いた複合材料であって、 ローラーローターを備えた内部ミキサーで、最初に、PPのペレットを溶融し、3wt%のMAPPと予備混合し、次いで、5wt%のTencel繊維を1回で導入し、混合して調製されたものであり、 複合材料中の繊維サイズ分布を研究するために、母材を160℃で2時間、磁気バーで穏やかに撹拌しながらDecalinに溶解し、溶解したポリプロピレン/Decalin/繊維懸濁液を高分解能3-CDD数値カメラを備えた光学顕微鏡を用いて分析し、400~700本の繊維の長さをEllixソフトウェアを用いて測定したときの、数値で重み付けされた平均長Lnが164μmであり、重量で加重した平均長Lwが189μmであり、多分散性指数I=Lw/Lnが1.2である 複合材料。」(以下、「甲1発明」という。) 3.本件発明1について (1)本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「初期長2mmのTencel繊維」は、セルロース繊維の一種であるから、本件発明1における「植物繊維」に相当し、甲1発明における「ホモポリマーポリプロピレン(PP)」は、本件発明1における「ポリオレフィン樹脂」に相当し、甲1発明における「ローラーローターを備えた内部ミキサーで、最初に、PPのペレットを溶融し、3wt%のMAPPと予備混合し、次いで、5wt%のTencel繊維を1回で導入し、混合して調製された」及び「複合材料」は、その調製方法からみて、それぞれ本件発明1における「ポリオレフィン樹脂中に植物繊維を分散してなる」及び「繊維分散樹脂複合材」に相当し、甲1発明における前記「5wt%のTencel繊維」は、本件発明1における「植物繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満」を満たしている。また、甲1発明における「複合材料中の繊維サイズ分布を研究するために、母材を160℃で2時間、磁気バーで穏やかに撹拌しながらDecalinに溶解し、溶解したポリプロピレン/Decalin/繊維懸濁液を高分解能3-CDD数値カメラを備えた光学顕微鏡を用いて分析し、400~700本の繊維の長さをEllixソフトウェアを用いて測定した」は、本件発明1における「繊維長測定方法」の「<条件>」と、「前記繊維分散樹脂複合材を、該複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さについて」繊維長を測定している限りにおいて一致し、甲1発明における「数値で重み付けされた平均長Ln」及び「重量で加重した平均長Lw」は、甲1に記載された(2)式及び(3)式を参酌すると、それぞれ本件発明1における「数平均繊維長をLN」及び「長さ加重平均繊維長をLL」に相当し、甲1発明における「多分散性指数I=Lw/Lnが1.2である」は、本件発明1における「[式1-1] 1.01<LL/LN<1.30」と、LL/LNを求めた限りにおいて一致する。 そうすると、両者は、 「ポリオレフィン樹脂中に植物繊維を分散してなる繊維分散樹脂複合材であって、前記植物繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であり、下記条件で決定される前記植物繊維の長さ加重平均繊維長をLL、数平均繊維長をLNとしたとき、LLとLNからLL/LNを求めた、繊維分散樹脂複合材。 <条件> 前記繊維分散樹脂複合材を、該複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さについて、LLとLNを求める。」 の点で一致し、 相違点甲1-1:LL及びLNを決定する条件について、本件発明1は「ISO 16065 2001で規定されたパルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法によりLLとLNを求める」と特定するのに対し、甲1発明においてはそのように特定されていない点 相違点甲1-2:本件発明1は「[式1-1] 1.02<LL/LN<1.15」を満たすと特定するのに対し、甲1発明においてはLw/Lnが1.2である点 で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 (2)相違点甲1-1について まず、相違点甲1-2に係る比の値の比較の前提となる、相違点甲1-1の測定条件について検討する。 相違点甲1-1に係る「ISO 16065 2001で規定されたパルプ-光学的自動分析法」は、当該規格を参照すると、測定部に試料のパルプ繊維懸濁液が導かれ、測定部の片側に配置された均一な光源と、もう一方の側に配置された感光素子によりパルプ繊維の投影長さが検出されるという方法であるから、甲1発明における「溶解したポリプロピレン/Decalin/繊維懸濁液を高分解能3-CDD数値カメラを備えた光学顕微鏡を用いて分析し、400~700本の繊維の長さをEllixソフトウェアを用いて測定」する方法は、複合材から溶かし出した繊維を光学的に直接観察して長さを測定する点で、相違点甲1-1に係る測定方法と軌を一にする方法である。 また、本件明細書の[0014]には、「複合材の表面やそれをスライスやプレス等で薄膜としたものを観察すること」及び「X線CT等の透過断層画像の解析」との比較において、「本発明者らは、複合材中のセルロース繊維の繊維長分布を正確に測定」した旨が記載されているところ、甲1発明における測定条件も、複合材から溶かし出した繊維を光学的に直接観察して長さを測定する点で、「複合材の表面やそれをスライスやプレス等で薄膜としたものを観察すること」及び「X線CT等の透過断層画像の解析」よりも「セルロース繊維の繊維長分布を正確に測定」することができることが技術的に明らかであるし、実際、甲1のp.1730左欄末行~右欄2行(摘記1-5)には、「分布測定法の再現性が確認されており、10%程度の誤差で平均値が得られ、満足できるものである。」と記載されている。 そうすると、甲1発明における繊維長測定方法は、繊維長分布の正確な測定を行うことができる光学的測定方法である点で本件発明1における測定方法と共通し、測定結果は両者において本質的に一致するといえる。 よって、相違点甲1-1は、本件発明1と甲1発明との間に物理的な構成上の相違をもたらすものではないから、実質的な相違点ではなく、仮に相違するとしても、ISOの規格に照らし当業者が容易に想到し得たことである。 (3)相違点甲1-2について 相違点甲1-1で検討したことを踏まえると、本件発明1におけるLL/LNと甲1発明におけるLw/Lnは、その数値を直接対比することができるものである。よって、相違点甲1-2は実質的な相違点であることが明らかである。 また、甲1は、「イントロダクション」(摘記1-2)に記載されるように、ポリマー複合材料における強化剤としての「セルロース系繊維の配合過程における破断メカニズムと、その破断を制御するパラメータを理解する」ことを目的として、「4種類の異なる初期繊維径を持つ合成セルロース繊維(Tencel)と亜麻」について、複合材料への「加工後の繊維サイズ分布を分析」し「繊維の初期長さが最終長さとアスペクト比分布に与える影響を相関させ、比較した」論文であるが、p.1733の表3(摘記1-7)に示された分析結果によれば、多分散性指数I=Lw/Lnの最小値は1.2(甲1発明)であり、相違点甲1-2に係る1.02<Lw/Ln<1.15を満たす例は記載されていない。また、甲1の他の記載を参照しても、上記多分散性指数Iに着目し、その数値範囲を相違点甲1-2に係る1.02<Lw/Ln<1.15に調整することを動機付ける記載はない。 さらに、甲4には、「射出成形条件が長繊維強化樹脂の機械特性と繊維長分布に及ぼす影響」と題し、成形材料として炭素繊維を30wt%含んだポリアミド6のLFT(長繊維強化樹脂)を使用し、射出成形機を用いて種々の成形条件で射出成形を行い、成形物を溶解し、射出前後の繊維長(数平均繊維長Ln、重量平均線維長Lw)を測定し、その比Lw/Lnを求めたことが記載され、甲5には、「炭素繊維強化ナイロン66の射出成形に伴う繊維長変化」と題し、炭素繊維含有率を重量含有率で0、5、10、15、20、25、30wt%となるように炭素繊維強化ナイロン(炭素繊維充填率30wt%)とナイロン66を配合し所定の成形条件で成形し、成形物を溶解させて繊維を取りだし、繊維長さ(数平均線維長Ln、重量平均繊維長Lw)を算出し、それらの比Lw/Lnを求めたことが記載されているが、いずれも甲4発明とは樹脂及び繊維の種類並びに成形条件が異なり、特定の数値範囲のLw/Lnを採用することを動機付ける記載もないから、当業者が甲1発明に甲4及び甲5に記載された成形条件を適用する動機はなく、かつ、甲1発明においてLw/Lnに着目し、その数値範囲として相違点甲1-2に係る「1.02<Lw/Ln<1.15」という特定の範囲を採用する動機も生じない。 加えて、その他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲1発明において相違点甲1-2に係る「1.02<Lw/Ln<1.15」という発明特定事項を採用する動機は見いだせない。そして、本件発明1が発揮する「繊維による樹脂の強化作用が十分に引き出され、引張強度、曲げ強度などの機械的物性に優れる」との効果は、当業者が予測することができないものである。 よって、相違点甲1-2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1及び他の全ての証拠の記載に基づいても、当業者が容易に想到し得たものではない。 (4)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の37~38頁において、「本件発明1には記載不備が存在し、本件発明1の[式1-1]を満たせば、本件発明1の課題が解決するものではない」こと、及び「甲1、甲4及び甲5に記載された技術常識」によれば、「繊維材料や測定方法は異なるものの、本件発明1のような繊維分散樹脂複合材において、LL/LNが本件発明1の[式1-1]を満たすような値となる複合材は普通に採用されるもの」であると主張している。 しかし、上記(3)に記載したとおり、甲1と甲4及び甲5とは、樹脂及び繊維の種類並びに成形条件が異なるから組み合わせる動機を欠くものであり、また、それらの記載を参酌しても、当業者がLw/Lnの特定の値を樹脂及び繊維の種類によらない「技術常識」として認識していたとはいえず、実際、甲1、甲4及び甲5に記載された実測値をみても、相違点甲1-2に係る「1.02<LL/LN<1.15」が、繊維分散樹脂複合材において普遍的に採用される数値範囲であるとは認められない。 また、後記するとおり、本件発明1に記載不備が存在するとはいえないし、当業者が相違点甲1-2に係る本件発明1の発明特定事項に容易に想到することができない以上、本件発明1の課題解決性を検討するまでもなく、本件発明1の新規性及び進歩性についての判断が覆ることはない。 よって、申立人の主張を採用することはできない。 (5)本件発明1についてのまとめ 以上のことから、本件発明1は甲1発明、すなわち甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4.本件発明2~13について 本件発明2~13は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記3.で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明4~7、12及び13は、いずれも甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明2~13は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5.取消理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由2(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1、4~7、12及び13は、いずれも甲1に記載された発明ではないから特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~13は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、取消理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由2(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~13についての特許を取り消すことはできない。 第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての判断 当審は、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由はいずれも理由がないものと判断する。 上記第4の1.に記載した特許異議申立理由のうち、取消理由通知で採用しなかった理由は、(2)申立理由2~(5)申立理由5である。以下、検討する。 1.申立理由2(甲2に基づく進歩性欠如)について (1)甲2に記載された事項 甲2には以下の事項が記載されている。 (2-1)「[請求項1] セルロースと樹脂とを含有するセルロース樹脂複合体において、前記セルロース樹脂複合体が、無水カルボン酸を重合体成分として含有する高分子と、モノアルデヒド及びジアルデドの群から選ばれる少なくとも1種のアルデヒドが付加されているセルロースを含有することを特徴するセルロース樹脂複合体。」 (2-2)「[0003] セルロースの用途の一つとして、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系の汎用樹脂と複合させたセルロース樹脂複合体を、プレス成形体、押出成形体、射出成形体等の構造体として用いる用途がある。しかし、親水性の高いセルロース結晶体表面と、疎水性の強いポリオレフィンとでは、親和性が低く、セルロース結晶体はポリオレフィン中で良好な分散状態を取ることができず、凝集してしまい、強度の高いセルロース樹脂複合体を得ることは難しかった。 ・・・ [発明が解決しようとする課題] [0006] 本発明の課題は、強度特性の優れたセルロース樹脂複合体を提供することである。」 (2-3)「[0013] 本発明において、樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンのブロックポリマー、ブテンや1-ヘキセン、1-オクテンなどのαオレフィンとポリプロピレンとの共重合ポリオレフィン等が挙げられる。好ましい樹脂としては、ポリプロピレン、少量のポリエチンを含有するポリプロピレンなどが挙げられる。 [0014] 本発明において、セルロースとしては、針葉樹、広葉樹等から得られる木材系パルプ;これらの再生品である古紙パルプ;綿から得られるコットンやリンター、イネから得られるワラ、バンブーから得られるタケ、マニラ麻から得られるアバカ、インド麻から得られるジュート、麻から得られるヘンプなどの非木系パルプ;更に食品加工時に廃棄されるシリアル繊維を用いたパルプなどが挙げられる。 [0015] パルプとは、植物の構造体に含まれるセルロース、リグニン、ヘミセルロース、油分などの内、リグニンや油分を除いたもの、又はヘミセルロースの含有量を最小化したものである。用途によっては、漂白されて白色化されている。パルプの繊維径は15μm以上500μm以下であることが好ましく、繊維長は1mm以上20mm以下であることが好ましい。これらのパルプを化学的又は機械的に粉砕して、1mm以下に微粒子化したものや、一部ナノセルロース化した微細なミクロフィブリル化セルロースも利用できる。 [0016] 本発明において、無水カルボン酸を重合体成分として含有する高分子とは、酸変性ポリオレフィン、又は無水マレイン酸とα-オレフィンとの共重合体である。本発明において、無水カルボン酸を重合成分として含有する高分子は、ポリオレフィンと相溶するという性質を有する。 ・・・ [0023] 本発明において、アルデヒドは、無水カルボン酸を重合成分として含有する高分子を触媒として、セルロース骨格のグルコースユニットにおける6位の水酸基とのアセタール化によって、セルロースに付加されて、セルロース表面を疎水化することによって、セルロースとポリオレフィンとの密着性を向上させる効果を達成する。 ・・・ [0026] セルロースの含有量としては、少なすぎると効果が発揮せず、多すぎると成形性の低下を招くので、セルロース樹脂複合体の総量に対して、好ましくは5質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。また、製造段階の後段で再度樹脂を添加して混練するようなマスターバッチ的に利用する場合には、好ましくは40質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは50質量%以上80質量%以下である。 [0027] 本発明のセルロース樹脂複合体は、セルロース、樹脂、無水カルボン酸を重合成分として含有する高分子、及びアルデヒドを、二軸混練機、ヘンシェルミキサー等で混練して得られる。しかし、セルロース原料に水を含む場合には、混練場から発生する水蒸気を逃す必要があるので、ベント付きの二軸混練機などを使用することが好ましい。混練温度は、樹脂の融点近傍かそれ以上が好ましく、190℃以上230℃以下がより好ましい。混練によって得られたセルロース樹脂複合体は、プレス成形機、押出成形機、射出成形機等の成形機によって、プレス成形体、押出成形体、射出成形体等の構造体とすることができる。」 (2-4)「[実施例] [0028] 次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。 [0029] (セルロース(パルプ解繊品)の作製) リンターパルプシートを、水中に浸し、3質量%の濃度でミキシングし、更に遠心分離機で脱水して、セルロース含有量50質量%のパルプ解繊品1を作製した。平均繊維長は1.2mmであった。リンターパルプシートを槇野産業製ハンマークラッシャーで粗粉砕した後、槇野産業製DD―2型粉砕機で乾式解繊を行い、これをパルプ解繊品2とした。平均繊維長は1.0mmであった。次に、パルプ解繊品1とパルプ解繊品2を比率が1:2となるようにニーダーで混合して、非凝集性のパルプ解繊品3を作製した。水分量は78質量%、平均繊維長は1.1mmであった。 [0030] (実施例1) 以下の材料をベント付きの二軸混練機で混練し、セルロース樹脂複合体を作製した。混練時の最大温度は220℃であった。 [0031] パルプ解繊品3(含水状態) 19.2質量部 酸変性ポリプロピレン(東洋紡製、商品名:ハードレン(登録商標)H1000P) 1.0質量部 ポリプロピレン(プライムポリマー製、ホモタイプPP、商品名:BC06C) 83.5質量部 オクタナールジメチルアセタール 0.5質量部 [0032] 次に、JIS規格K7171に従い、幅10mm、厚み4mmダンベル片を作製し、万能材料試験機(株式会社ティー・エス・イー、装置名:オートコム(登録商標、AutoCOM)AC-100)を用いて、試験速度2mm/min、支点間距離64mmで、曲げ特性を測定し、結果を表1に示した。 ・・・ [0034] [表1] [図:0001429018000004.jpg] 」 (2)甲2に記載された発明 甲2には、請求項1(摘記2-1)に記載された樹脂複合体について、その構成成分及び製造方法([0013~[0027]、摘記2-3)が具体的に記載され、対応する実施例([0029]~[0034]、摘記2-4)も記載されている。よって、甲2には請求項1に基づく以下の発明が記載されている。 「セルロースと樹脂とを含有するセルロース樹脂複合体において、前記セルロース樹脂複合体が、無水カルボン酸を重合体成分として含有する高分子と、モノアルデヒド及びジアルデドの群から選ばれる少なくとも1種のアルデヒドが付加されているセルロースを含有するセルロース樹脂複合体。」(以下、「甲2発明」という。) (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲2発明との対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「セルロース」は、本件発明1における「植物繊維」に相当し、甲2発明における「樹脂」は、本件発明1における「ポリオレフィン樹脂」と「樹脂」である限りにおいて一致し、甲2発明における「セルロース樹脂複合体」は、本件発明1における「繊維分散樹脂複合材」に相当する。 そうすると、両者は、 「樹脂中に植物繊維を分散してなる繊維分散樹脂複合材。」 の点で一致し、 相違点甲2-1:本件発明1は樹脂を「ポリオレフィン樹脂」と特定するのに対し、甲2発明はそのように特定されない点 相違点甲2-2:本件発明1は「前記植物繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲2発明はそのように特定されない点 相違点甲2-3:本件発明1は「下記条件で決定される前記植物繊維の長さ加重平均繊維長をLL、数平均繊維長をLNとしたとき、LLとLNが下記[式1-1]を満たす繊維分散樹脂複合材。 <条件> 前記繊維分散樹脂複合材を、該複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さについて、ISO 16065 2001で規定されたパルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法によりLLとLNを求める。 [式1-1] 1.02<LL/LN<1.15」 と特定するのに対し、甲2発明はそのように特定されない点 で相違する。 そこで、事案に鑑み、上記相違点甲2-3について検討する。 イ 相違点甲2-3について 甲2には、セルロース樹脂複合体中のセルロース繊維の繊維長について着目した記載はない。また、[0015](摘記2-3)及び[0029](摘記2-4)には、樹脂と混練する前のセルロース繊維の平均線維長が記載されているが、[0027](摘記2-3)に記載された一般的な混練条件及び成形についての記載や、[0030]~[0032]に記載された実施例の混練条件及び試験片の作製方法、試験片の曲げ特性(曲げ強度、曲げ弾性率)の記載と合わせても、複合体中のセルロース繊維の繊維長を求めることはできない。さらに、甲2の[0006](摘記2-2)には、甲2発明の解決しようとする課題が「強度特性の優れたセルロース複合体を提供すること」であると記載されているが、当該課題をセルロース繊維の繊維長と結びつけた記載はない。加えて、他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲2発明において相違点甲2-3に係る長さ加重平均繊維長LL及び数平均繊維長LNに基づく比LL/LNを「1.02<LL/LN<1.15」とすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。そして、本件発明1が発揮する「繊維による樹脂の強化作用が十分に引き出され、引張強度、曲げ強度などの機械的物性に優れる」との効果は、当業者が予測することができないものである。 よって、相違点甲2-3に係る本件発明1の発明特定事項は、甲2及び他の全ての証拠の記載に基づいても、当業者が容易に想到し得たものではない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の43~44頁において、「本件発明1には記載不備が存在し、本件発明1の[式1-1]を満たせば、本件発明1の課題が解決するものではない」こと、及び「甲1、甲4及び甲5に記載された技術常識」によれば、「繊維材料や測定方法は異なるものの、本件発明1のような繊維分散樹脂複合材において、LL/LNが本件発明1の[式1-1]を満たすような値となる複合材は普通に採用されるもの」であると主張している。 しかし、上記イに記載したとおり、甲2には複合体中のセルロース繊維の繊維長に着目する記載はなく、また、上記第6の3.(4)に記載したとおり、甲1、甲4及び甲5の記載を参酌しても申立人が主張する「技術常識」があったとは認められないから、相違点甲2-3に係る「1.02<LL/LN<1.15」という発明特定事項は、甲2及び他の全ての証拠の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。さらに、当業者が相違点甲2-3に係る本件発明1の発明特定事項に容易に想到することができない以上、本件発明1の課題解決性を検討するまでもなく、本件発明1の進歩性についての判断が覆ることはない。 よって、申立人の主張を採用することはできない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明、すなわち甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2~13について 本件発明2~13は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記(3)で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明2~13はいずれも甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)申立理由2(甲2に基づく進歩性欠如)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1~13は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由2(甲2に基づく進歩性欠如)により本件発明1~13についての特許を取り消すことはできない。 2.申立理由3(甲3に基づく進歩性欠如)について (1)甲3に記載された事項 甲3には以下の事項が記載されている。 (3-1)「[請求項1] ポリプロピレン樹脂を含むポリオレフィン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリオレフィン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、 23℃の水に20日間浸漬したときの吸水率Aとセルロース有効質量比の関係が下記[式Ia]を満たす、セルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材。 [式Ia] (吸水率A[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01」 (3-2)「[0012] 本発明は、ポリオレフィン樹脂中に、特定量のセルロース繊維が十分均一な状態で分散してなり、吸水性が抑えられ、引張強度、曲げ強度等の機械強度に優れた樹脂製品の原料として有用なセルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材、この複合材を用いたペレット及び成形体を提供することを課題とする。また本発明は、当該セルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材を得るのに好適な、セルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材の製造方法を提供することを課題とする。 また、本発明は、ポリオレフィン樹脂中に、特定量のセルロース繊維が十分均一な状態で分散してなり、所定温度の高温下においても吸水しにくく、引張強度、曲げ強度等の機械強度に優れた樹脂製品の原料として有用なセルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材、この複合材を用いたペレット及び成形体を提供することを課題とする。また本発明は、当該セルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材を得るのに好適な、セルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材の製造方法を提供することを課題とする。」 (3-3)「[0023] 本発明の複合材は、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合を70質量部以下とする。この割合を70質量部以下とすることにより、この複合材の調製における溶融混練により、セルロース繊維をより均一に分散させることができ、得られる複合材の吸水性をより抑えることが可能となる。吸水性をより抑え、また後述する耐衝撃性をさらに高める観点から、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合は、好ましくは50質量部未満である。 また、本発明の複合材は、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合は、1質量部以上である。この割合を1質量部以上とすることにより、後述する曲げ強度等の機械特性をより向上させることができる。この観点からは、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合は5質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。また引張強度をより向上させる点も考慮すれば、当該割合は25質量部以上であることが好ましい。」 (3-4)「[0033] 本発明の複合材に含まれるセルロース繊維は、繊維長1mm以上のものを含むことが好ましい。繊維長1mm以上のセルロース繊維を含むことにより、引張強度、曲強度等の機械強度をより向上させることができる。 本発明の複合材は、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が25質量%以上50質量%未満であり、引張強度が30MPa以上であることが好ましい。」 (3-5)「[0051][複合材の製造方法] 本発明の製造方法は、次の(I)~(VI)のいずれかを含む。 (I)セルロース繊維付着ポリオレフィン薄膜片を水の存在下で溶融混練し、次いで当該溶融混練物とポリプロピレン樹脂とを混合して混練すること。 前記セルロース繊維付着ポリオレフィン薄膜片は、乾燥質量比の平均として、ポリオレフィン樹脂の量よりもセルロース繊維の量が少量であることが好ましい。 (II)セルロース繊維付着ポリオレフィン薄膜片と、ポリプロピレン樹脂とを混合し、水の存在下で溶融混練すること。 前記セルロース繊維付着ポリオレフィン薄膜片は、乾燥質量比の平均として、ポリオレフィン樹脂の量よりもセルロース繊維の量が少量であることが好ましい。 (III)ポリオレフィンラミネート加工紙、及び/又は、当該ポリオレフィンラミネート加工紙からなる飲料・食品パックを、水の存在下で溶融混練し、次いで当該溶融混練物とポリプロピレン樹脂とを混合して混練すること。 (IV)ポリオレフィンラミネート加工紙、及び/又は、当該ポリオレフィンラミネート加工紙からなる飲料・食品パックと、ポリプロピレン樹脂とを混合し、水の存在下で溶融混練すること。 [0052] <溶融混練> 本発明の製造方法では、上記(I)~(IV)における溶融混練は、撹拌羽根を有するバッチ式混練装置を用いて、水の存在下で行う。この混練装置としては、バッチ式閉鎖型混練装置やニーダーを挙げることができる。 ここで「溶融混練」とは、原料中のポリオレフィン樹脂が溶融する温度で混練することを意味する。好ましくは、セルロース繊維が変質しない温度で溶融混練する。「セルロース繊維が変質しない」とは、セルロース繊維が著しい変色や燃焼、炭化を生じないことを意味する。 上記溶融混練における温度(溶融混練物の温度)は110~280℃とすることが好ましく、130~220℃とすることがより好ましい。 また、高温下の吸水特性に優れた複合材を得る点からは、上記溶融混練における温度(溶融混練物の温度)150~280℃とすることが好ましく、160~250℃とすることがより好ましい。 水の存在下で溶融混練することにより、せん断力の負荷と熱水の作用(熱水による物理的作用と化学的作用(加水分解作用)を含む)により、セルロース繊維の固着状態ないし熱融着状態を効率的に解きほぐすことができ、さらに、例えば、セルロース繊維同士のネットワーク状のからみ合いも効果的に解きほぐすことができ、セルロース繊維をポリオレフィン樹脂中に、均一に分散させることが可能となる。」 (3-6)「[0081][試験例1] ポリエチレンラミネート加工紙(紙、ポリエチレン薄膜層及びアルミニウム薄膜層を有する)の損紙を、回転刃式の粉砕機(ホーライ社製)を使用して粉砕したものと、ポリプロピレン1(BC6、日本ポリプロ(株)製)と、水とを、表1-1に示す配合比で混合した。この混合物を、バッチ式閉鎖型混練装置(バッチ式高速撹拌装置)に投入し、装置の撹拌羽根の回転速度を回転羽根の先端の周速で40m/秒として高速攪拌することにより、水の存在下で溶融混練した。こうしてセルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材を作製した。 なお、混練の終了は、バッチ式混練装置に設置された温度計により測定される装置チャンバー内の材料温度が、表1-2に示す温度に達した時点とした。 各複合材を上述した方法により測定して決定された、各複合材中のセルロース有効質量比(%)とポリオレフィン樹脂の含有量(質量%)を表1-2上段に示した。また、セルロース有効質量比(%)とポリオレフィン樹脂の含有量(質量%)を用いて上述した方法で算出した、セルロース繊維とポリオレフィン樹脂との合計量を100質量部としたときの各成分の量(質量部)を表1-2中段に示した。さらに、評価結果等を表1-2下段に示す。 [0082][表1-1] [図:0001429018000005.jpg] [0083][表1-2] [図:0001429018000006.jpg] [0084] 表1-2に示されるように、溶融混練を加水せずに行った場合には、複合材を塊の状態で得ることができなかった(比較例1)。 これに対し、水の存在下で溶融混練することにより、吸水率Aが抑えられた複合材を得ることができた(実施例1~3)。また、この実施例1~3の比較から、溶融混練において材料温度を抑えることにより(即ち、溶融混練における到達温度を好ましい範囲である150~280℃の範囲とすることにより)、得られる複合材を、80℃の高温水に浸漬させても吸水しにくい物性にできることがわかる(実施例1及び2と実施例3との比較)。ここで、溶融混練において材料温度が300℃まで上昇させた実施例3では、得られた複合材を構成する樹脂の分子量パターンが「Mz/Mw≧4」を満たしていない。つまり、高分子量成分の分解されていることがわかる。結果、実施例3の複合材は、実施例1及び2の複合材に比べると、機械強度に劣るものとなった。」 (2)甲3に記載された発明 甲3には、請求項1(摘記3-1)に記載されたセルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材について、その構成成分及び製造方法([0023](摘記3-3)、[0033](摘記3-4)、[0051]~[0052](摘記3-5)など)が具体的に記載され、対応する実施例([0081]~[0084](摘記3-6)など)も記載されている。よって、甲3には請求項1に基づく以下の発明が記載されている。 「ポリプロピレン樹脂を含むポリオレフィン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリオレフィン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、 23℃の水に20日間浸漬したときの吸水率Aとセルロース有効質量比の関係が下記[式Ia]を満たす、セルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材。 [式Ia] (吸水率A[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01」(以下、「甲3発明」という。) (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲3発明との対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「セルロース繊維」は、本件発明1における「植物繊維」に相当し、甲3発明における「ポリプロピレン樹脂を含むポリオレフィン樹脂」は、本件発明1における「ポリオレフィン樹脂」に相当し、甲3発明における「セルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材」は、本件発明1における「繊維分散樹脂複合材」に相当する。。 そうすると、両者は、 「ポリオレフィン樹脂中に植物繊維を分散してなる繊維分散樹脂複合材。」 の点で一致し、 相違点甲3-1:本件発明1は「前記植物繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であり、」と特定するのに対し、甲3発明は「前記ポリオレフィン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、」と特定する点 相違点甲3-2:本件発明1は「下記条件で決定される前記植物繊維の長さ加重平均繊維長をLL、数平均繊維長をLNとしたとき、LLとLNが下記[式1-1]を満たす繊維分散樹脂複合材。 <条件> 前記繊維分散樹脂複合材を、該複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さについて、ISO 16065 2001で規定されたパルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法によりLLとLNを求める。 [式1-1] 1.02<LL/LN<1.15」 と特定するのに対し、甲3発明はそのように特定されない点 で相違する。 そこで、事案に鑑み、上記相違点甲3-2について検討する。 イ 相違点甲3-2について 甲3には、セルロース樹脂複合体中のセルロース繊維の繊維長について着目した記載はない。また、[0012](摘記3-2)には、甲3発明が「ポリオレフィン樹脂中に、特定量のセルロース繊維が十分均一な状態で分散してなり、吸水性が抑えられ、引張強度、曲げ強度等の機械強度に優れた樹脂製品の原料として有用なセルロース繊維分散ポリオレフィン樹脂複合材、この複合材を用いたペレット及び成形体を提供することを課題とする」ことが記載され、[0033](摘記3-4)には、「複合材に含まれるセルロース繊維が繊維長1mm以上のものを含むことが好まし」く、「繊維長1mm以上のセルロース繊維を含むことにより、引張強度、曲強度等の機械強度をより向上させることができる」ことが記載されているが、実施例で製造された複合材中の繊維長は確認されていない。さらに、他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲3発明において相違点甲3-2に係る長さ加重平均繊維長LL及び数平均繊維長LNに基づく比LL/LNを「1.02<LL/LN<1.15」とすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。そして、本件発明1が発揮する「繊維による樹脂の強化作用が十分に引き出され、引張強度、曲げ強度などの機械的物性に優れる」との効果は、当業者が予測することができないものである。 よって、相違点甲3-2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲3及び他の全ての証拠の記載に基づいても、当業者が容易に想到し得たものではない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の49頁において、上記1.(3)に記載した甲2発明についての主張と同様の主張をしているが、甲3発明においても同様の理由により申立人の主張を採用することができない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明、すなわち甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2~13について 本件発明2~13は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記(3)で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明2~13はいずれも甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)申立理由3(甲3に基づく進歩性欠如)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1~13は、いずれも甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由3(甲3に基づく進歩性欠如)により本件発明1~13についての特許を取り消すことはできない。 3.申立理由4(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件発明の課題について 本件明細書の[0005]等の記載から見て、本件発明1~13の課題は「繊維による樹脂の強化作用を十分に引き出し、引張強度、曲げ強度などの機械的物性に優れた繊維分散樹脂複合材、この複合材を用いた成形体ないし複合部材を提供すること」にあるものと認められる。 (3)本件明細書の記載について 本件明細書の[0009]~[0023]には、繊維分散樹脂複合材における繊維長の測定方法、繊維の加重平均線維長LL、数平均線維長LN、繊維長分布の指標となるそれらの比LL/LNの各定義及び好ましい範囲、繊維の含有量、繊維の具体例などが記載され、[0014]には、繊維分散樹脂複合材を、複合材中の樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さ(不溶分)について、ISO16065 2001(JIS P8226 2006)で規定されたパルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法を採用することにより、複合材中のセルロース繊維の繊維長分布を正確に測定することができることが記載され、[0012]及び[0017]には、LL/LNに関する[式1-1]の関係を満たすことにより複合材及び成形品の機械的強度の向上が実現する作用機序が記載されている。また、[0024]~[0029]には、繊維分散樹脂複合材における樹脂及びその含有量について記載され、[0041]~[0043]には、繊維分散樹脂複合材の調製方法について、繊維長分布の調整方法も含め具体的に記載されている。さらに、[0046]~[0071]には実施例が記載されており、全ての実施例及び比較例について製造方法が具体的に開示されるとともに、LL、LN、LN/LN、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、MFRの測定値が記載され([表1]~[表3])、[0062]、[0067]、[0071]には、繊維材の含有量を揃えLL/LNを変更した実施例と比較例との対比に基づいて、LL/LNが所定の数値範囲にある複合材は機械強度が向上することが記載されている。 (4)サポート要件についての判断 本件明細書の一般記載に基づいて、当業者は複合材中の繊維の繊維長の正確な測定方法を理解し、測定により求められたLLとLNの比LL/LNが所定の範囲にある場合に、複合材の機械強度の向上が実現される機序を理解することができる。また、実施例及び比較例の記載に基づいて、繊維含有量及びLL/LNなどを適宜調整した複合材を実際に製造することができ、LL/LNが所定の範囲にある実施例では機械強度の向上が実現され、発明の課題が解決されることを確認できる。そうすると、当業者は、 「ポリオレフィン樹脂中に植物繊維を分散してなる繊維分散樹脂複合材であって、前記植物繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であり、下記条件で決定される前記植物繊維の長さ加重平均繊維長をLL、数平均繊維長をLNとしたとき、LLとLNが下記[式1-1]を満たす繊維分散樹脂複合材。 <条件> 前記繊維分散樹脂複合材を、該複合材中のポリオレフィン樹脂を可溶な溶媒中に浸漬して得られる溶解残さについて、ISO 16065 2001で規定されたパルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法によりLLとLNを求める。 [式1-1] 1.01<LL/LN<1.30」 は発明の課題を解決できると認識することができる。 そして、本件発明1は、当業者が発明の課題を解決できると認識することができる上記発明をさらに限定した発明であるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件発明2~13についても、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (5)申立人の主張について 申立人は、上記第4 1.(4)のように主張しているが、いずれの主張も採用することはできない。 ア 機械的特性について 本件明細書の[0017]には、「本発明の複合材は、一定以上の機械強度が必要とされる成形品(樹脂製品)の構成材料として好適である。本発明の複合材は、複合材中の繊維が上記[式1-1]の関係を満たし、機械強度に優れる。この理由は定かではないが、緩やかな変形と、高速の変形に対する繊維による補強作用が、それぞれ繊維の特定の長さに依存しており、繊維の繊維長分布を特定範囲としながらも、繊維長に適度なばらつきをもたせることにより、機械強度の向上が実現されるものと推定される。」と記載されており、「複合材」と「成形品」の両方に言及されていることを踏まえ、当業者は、同段落における機械強度の向上が実現される機序の説明が成形後の成形品にも当てはまると理解することができる。また、[0012]における「本発明の複合材は、1.01<LL/LN<1.30を満たすことにより、繊維による強化作用を十分に引き出すことができ、複合材の機械強度を効果的に高めることができる」ことの具体的な説明も、成形品における繊維長に同様に当てはまると理解することができる。さらに、実施例における繊維長は、[0049]に「複合材の成形シートから0.1~1gを切だし試料とし、・・・長さ加重平均繊維長、数平均繊維長、重さ加重平均繊維長を決定した。」と記載されていることから、成形品における繊維長の測定値と理解することができるから、対応する成形品の機械的性質と合わせることにより、当業者は、成形条件が反映された結果としての繊維長の分布と成形品の機械的性質との関係を確認し、[0017]及び[0012]の繊維長分布に関する記載が複合材及び成形品のいずれにも妥当することを理解することができる。よって、当業者は、本件発明1が発明の課題を解決することができると認識することができ、請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件発明2~13についても同様である。 イ [式1-1]1.01<LL/LN<1.30について (ア)繊維材1~3(実施例5、4、比較例2)について 本件明細書の[0012]及び[0017]には、LL/LNが繊維長の分布の広がりを示す指標となり、LL/LNに関する[式1-1]の関係を満たすことにより複合材及び成形品の機械的強度の向上が実現する作用機序が記載されている。また、[0009]には、繊維の含有量を1質量%以上70質量%未満とすることにより、「溶融混練条件によって繊維の繊維長分布を制御でき、また繊維を高度な均一性で分散させることが可能となり、繊維による樹脂の強化作用を十分に引き出すことができる」ことが記載されている。さらに[0041]~[0043]には、樹脂と繊維の混練条件により、得られる複合材中の繊維の繊維長分布を調整することができること、及び好ましく採用される水添加、混練温度、混練時間等の具体的な混練条件が記載され、[0054]~[0071]には、[0020]に記載された植物繊維に属する木粉を用いた実施例が記載されている。これらの一般記載及び実施例の記載に接した当業者は、実施例で用いられた木粉(繊維材1及び3)に限らず、[0020]に例示された植物繊維を用い、その繊維長及び繊維長分布を溶融混練条件の調整等によって制御することにより、LL/LNが1.01超、1.30未満である繊維分散樹脂複合材及び成形体を製造することができ、それにより本件発明の課題を解決し得ると認識することができる。また、申立人は、本件発明1のうち実施例以外の材料及び製造方法で調製された複合材では発明の課題を解決できないことを、具体的な証拠又は理論的な説明に基づいて示していない。さらに、申立人は「1.17よりも大きく1.30よりは小さい範囲にLL/LNを調整する手段は記載されていない」とも主張しているが、本件訂正により本件発明1におけるLL/LNの数値範囲は「1.02<LL/LN<1.15」に減縮されたから、申立人の上記主張は本件訂正により理由がなくなったといえる。 (イ)実施例及び比較例の最大値及び最小値(実施例10、4、比較例5、2)について 本件明細書の[0067]には、樹脂と繊維材の配合量比がいずれも40:60である比較例5と実施例7とを比較することが記載されており、実施例7の方が機械的特性に優れていることが読み取れるから、当業者は、実施例の結果が[0012]及び[0017]に記載された複合材及び成形品中の繊維長分布と機械的強度の向上実現の作用機序の記載と整合していることを確認できる。また、同様に、[0071]には、樹脂(フィルム粉砕物)と繊維材の配合量比がいずれも40:60である実施例10と比較例8とを比較することが記載されており、実施例10の方が機械的特性に優れていることが読み取れるから、[0012]及び[0017]の記載と整合していることを確認できる。さらに、実施例4及び比較例2の機械的特性の傾向も、[0012]及び[0017]の記載と整合していることを確認できる。そうすると、本件明細書の一般記載及び実施例の記載に接した当業者は、上記(4)に記載したとおり1.01<LL/LN<1.30の範囲において発明の課題を解決し得ると認識することができ、さらに限定された本件発明1も発明の課題を解決し得るものと認識することができる。また、本件訂正により本件発明1におけるLL/LNの数値範囲は「1.02<LL/LN<1.15」に減縮されたから、申立人の主張は本件訂正により理由がなくなったといえる。 (ウ)本件発明3について 上記(4)に記載したとおり、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明1が発明の課題を解決できるものと認識することができるから、請求項1を直接又は間接的に引用して特定され、本件発明1がさらに減縮された本件発明3も、本件発明1と同様の理由により発明の課題を解決し得るものと認識することができる。請求項3を直接又は間接的に引用して特定される本件発明4~13も同様である。 (6)申立理由4(サポート要件違反)についてのまとめ 以上のことから、本件発明1~13は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、申立理由4(サポート要件違反)により本件発明1~13についての特許を取り消すことはできない。 4.申立理由5(実施可能要件違反)について (1)実施可能要件の判断手法 物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。 (2)本件明細書の記載事項 本件明細書には、上記3.(3)に記載した事項が記載されている。 (3)実施可能要件についての判断 当業者は本件明細書における繊維分散樹脂複合材の原料、配合量比、製造方法及び複合材中の繊維長の測定方法の記載、並びに実施例の記載等に基づいて、本件発明1に相当する繊維分散樹脂複合材を生産することができる。また、上記3.(4)における検討を踏まえると、当業者は本件発明1の繊維分散樹脂複合材を、機械的物性に優れた繊維分散樹脂複合材として使用することができると理解することができる。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があるから、当業者が本件発明1を生産し、かつ、本件発明1を使用することができる程度の記載があるといえる。請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件発明2~13についても、本件発明1と同様の理由により、当業者が本件発明2~13を生産し、かつ、本件発明2~13を使用することができる程度の記載があるといえる。 したがって、本件発明1~13について、実施可能要件を充足する。 (4)申立人の主張について 申立人は、上記第4 1.(5)のように主張しているが、いずれの主張も採用することはできない。 ア 機械的特性について 上記3.(4)及び(5)アで検討したことを踏まえると、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の繊維分散樹脂複合材を製造することができ、また、機械的物性に優れた繊維分散樹脂複合材として使用することができるものと理解することができる。請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件発明2~13についても同様である。 イ [式1-1]1.01<LL/LN<1.30について 上記3.(4)並びに(5)イ(ア)及び(イ)で検討したことを踏まえると、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の繊維分散樹脂複合材を製造することができ、また、機械的物性に優れた繊維分散樹脂複合材として使用することができるものと理解することができる。請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件発明2~13についても同様である。 ウ 繊維材2(オフィスペーパー粉砕物)について 上記3.(4)並びに(5)イ(ア)で検討したことを踏まえると、本件明細書の記載に接した当業者は、実施例で用いられた木粉(繊維材1及び3)に限らず、[0020]に例示された植物繊維を用い、その繊維長及び繊維長分布を溶融混練条件の調整等によって制御することにより、本件発明1の繊維分散樹脂複合材を製造することができ、また、機械的物性に優れた繊維分散樹脂複合材として使用することができるものと理解することができる。請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件発明2~13についても同様である。 (5)申立理由5(実施可能要件違反)についてのまとめ 以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、申立理由5(実施可能要件違反)により本件発明1~13についての特許を取り消すことはできない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1~13についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-701165

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