特許異議申立
2024-700109
積層体
- 審判番号
- 2024-700109
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-142016
- 登録番号
- 7323030
- 請求日
- 2024年02月08日
- 審決日
- 2025年05月22日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋紡株式会社
- 【異議申立人】西田 聡子
- 審判長/審判官
- 審判長 岩谷 一臣
- 審判官 神山 茂樹
- 審判官 木原 裕二
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7323030号発明「積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7323030号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7323030号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7323030号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成30年10月16日に特許出願した特願2018-195091号の一部を新たな特許出願として令和4年9月7日に特願2022-142016号として分割出願したものであって、令和5年7月31日にその特許権の設定登録がされ、令和5年8月8日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 2月 8日 :特許異議申立人西田聡子(以下「申立人」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 6月26日付け:取消理由通知書
同年 8月20日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 9月13日 :特許権者による訂正請求書を補正する手続補正書の提出(以下、この手続補正書により補正された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
なお、令和6年9月24日付けで当審において申立人に対して訂正請求があった旨の通知を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人から応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ヒートシール層と耐熱層と無機薄膜層をそれぞれ少なくとも1層以上有する積層体であって、」と記載されているのを、
「ヒートシール層と耐熱層と酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを含む金属酸化物薄膜層をそれぞれ少なくとも1層以上有する積層体であって、」
との記載に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する)。
(2)一群の請求項
訂正前の請求項1~5について、請求項2~5はそれぞれ請求項1を引用しているものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、「無機薄膜層」を、「酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを含む金属酸化物薄膜層」に規定するものであるから、訂正前の請求項1をさらに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1における「無機薄膜層」についての特定は、本件特許明細書の段落【0036】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アの理由から明らかなように、「無機薄膜層」を特定するものであるため、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等という。本件発明1~5を「本件発明」と総称することもある。)は、それぞれ、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された以下のものである。
「【請求項1】
ヒートシール層と耐熱層と酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを含む金属酸化物薄膜層をそれぞれ少なくとも1層以上有する積層体であって、前記ヒートシール層と前記耐熱層はいずれもエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてなり、前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分として、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分として、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を含み、下記要件(1)~(5)を満たすことを特徴とする、積層体。
(1)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(2)98℃の温湯中で10秒間に亘って処理した場合における幅方向、長手方向の温湯熱収縮率がいずれも-5%以上5%以下
(3)温度23℃、相対湿度65%RH環境下での酸素透過度が0.05[cc/(m2・d・atm)]以上4[cc/(m2・d・atm)]以下
(4)熱機械分析(TMA)により、単位断面積あたりの張力1.7N/mm2(当審注:原文表記のまま)をかけながら、30℃から140℃まで10℃/分で昇温したときの、長手方向における変形率が0%以上10%以下
(5)熱機械分析(TMA)により、単位断面積あたりの張力1.7N/mm2をかけながら、30℃から160℃まで10℃/分で昇温して160℃で1分保持後、160℃から30℃まで10℃/分で冷却したときの、長手方向における変形率が-2%以上0%以下(値がマイナスの場合は収縮を示す)
【請求項2】
前記ヒートシール層又は前記耐熱層を構成する各ポリエステルを構成する成分として、テレフタル酸以外の酸成分としてイソフタル酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ヒートシール層と前記耐熱層を構成する各ポリエステル成分の全モノマー成分中、前記エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分含有量が以下の(1)~(3)を満たすことを特徴とする請求項2に記載の積層体。
(1)ヒートシール層において30モル%以上50モル%以下
(2)耐熱層において9モル%以上20モル%以下
(3)ヒートシール層と耐熱層との含有量の差が20モル%以上35モル%以下
【請求項4】
さらにオーバーコート層を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装体。」
ここで、本件異議の決定では、請求項1について、以下、
「(1)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下」を要件(1)といい、
「(2)98℃の温湯中で10秒間に亘って処理した場合における幅方向、長手方向の温湯熱収縮率がいずれも-5%以上5%以下」を要件(2)といい、
「(3)温度23℃、相対湿度65%RH環境下での酸素透過度が0.05[cc/(m2・d・atm)]以上4[cc/(m2・d・atm)]以下」を要件(3)といい、
「(4)熱機械分析(TMA)により、単位断面積あたりの張力1.7N/mm2をかけながら、30℃から140℃まで10℃/分で昇温したときの、長手方向における変形率が0%以上10%以下」を要件(4)といい、
「(5)熱機械分析(TMA)により、単位断面積あたりの張力1.7N/mm2をかけながら、30℃から160℃まで10℃/分で昇温して160℃で1分保持後、160℃から30℃まで10℃/分で冷却したときの、長手方向における変形率が-2%以上0%以下(値がマイナスの場合は収縮を示す)」を要件(5)という。
第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対して、当審において令和6年6月26日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
取消理由1(引用文献1を主引例とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明であり、本件特許の請求項1、2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
また、本件特許の請求項1~5に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明、下記引用文献2に記載された事項及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由2(引用文献2を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、下記引用文献2に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、以下の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
要件(1)~(5)を満たすものについて、本件特許明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいてどのように実施するか明確ではない。
記
<引用文献等一覧>
引用文献1 特開2018-1422号公報(申立人が提出した甲第1号証)
引用文献2 国際公開2018/150997号(申立人が提出した甲第2号証)
引用文献3 特開2017-213789号公報(申立人が提出した甲第3号証)
引用文献4 特開2017-65264号公報(当審において新たに提示する文献)
引用文献5 特開平7-186318号公報(当審において新たに提示する文献)
第5 取消理由の判断
1 取消理由1(引用文献1を主引例とする新規性・進歩性)について
(1)引用文献1について
ア 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付した。また、「・・・」は文章の省略を表す。以下同様。)。
(ア)「【請求項1】
少なくともエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂からなる基材フィルムに金属薄膜層を積層した積層フィルムにおいて、前記基材フィルムが下記要件(1)~(2)を満たすことを特徴とする積層フィルム。
(1)前記基材フィルムは少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、基材フィルム面のいずれか一方の表層にヒートシール層を有する。
(2)前記ヒートシール層は全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、かつヒートシール層の非晶成分量から基材フィルムのそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である。
【請求項2】
金属膜層の主たる成分がアルミニウムであることを特徴とする、請求項1に記載の積層フィルム。
・・・
【請求項4】
温度23℃、相対湿度65%RHの雰囲気下での酸素透過量が1.0ml/m2 24h MPa以上で100 ml/m2 24h MPa以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。」
(イ)「【0001】
本発明は、バリア性とヒートシール強度に優れた積層フィルムに関するものであり、特にポリエステル系フィルムとのヒートシール強度に優れたシーラント用途に好適な積層フィルム、並びにそれを用いた積層体、包装袋に関する。」
(ウ)「【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。すなわち、本発明のポリエステル系積層フィルム同士の高いヒートシール強度を有するのみならず、結晶性ポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムや結晶性ポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムとのヒートシール強度に優れ、また種々の有機化合物を吸着しにくいだけでなく、加熱時に収縮が少なく、厚み精度、遮光性、衛生性、及びガスバリア性に優れたシーラント用途に好適なポリエステル系積層フィルムを提供することが本発明の要旨である。また、本発明は、金属薄膜を含む前記のシーラント用途に好適なポリエステル系積層フィルムを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋を提供しようとするものである。」
(エ)「【0009】
本発明のポリエステル系積層フィルムは、自身同士の高いヒートシール強度を示すのみならず、結晶性ポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムや結晶性ポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムとのヒートシール強度にも優れている。また、本発明のポリエステル系積層フィルムは種々の有機化合物を吸着しにくいため、化成品、医薬品、食品といった油分や香料を含む物品を衛生的に包装することができる。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、ヒートシールを行った後でもその形状を保つことができる。加えて、本発明のポリエステル系積層フィルムは厚み精度が良いため印刷加工性が良好である。更に、金属薄膜を含むことで、高いガスバリア性と遮光性を有する。優れたガスバリア性を有することで、包材外部の酸素などによる内容物の劣化を抑制する。また、内容物の臭気が包材外部に出ることを抑制するため、溶剤等を包んだ場合に溶剤臭が外部に漂うことを防止でき、反対に香りなどを閉じ込めることができるため、内容物の香りを保つことが可能である。また、前記のポリエステル系積層フィルムを少なくとも一層として含む積層体と、それを用いた包装袋を提供できるものである。」
(オ)「【0013】
2.ポリエステル系基材フィルムを構成するポリエステル原料
2.1.ポリエステル原料の種類
本発明に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。
また、本発明に用いるポリエステルにエチレンテレフタレートユニット以外の成分として、非晶成分となりうる1種以上のモノマー成分(以下、単に非晶成分と記載する)を含むことが好ましい。これは、非晶成分が存在することによってフィルムのヒートシール強度が向上するためである。各成分の含有量はヒートシール層とそれ以外の層で異なるため、後述する。非晶成分となりうるカルボン酸成分のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
また、非晶成分となりうるジオール成分のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。
これらのなかでも、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのいずれか1種以上を用いることでフィルムの非晶性を高めてヒートシール強度を4N/15mm以上としやすくなる。ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのいずれか1種以上を用いることがより好ましく、ネオペンチルグリコールを用いることが特に好ましい。
【0014】
本発明においては、エチレンテレフタレートや非晶成分以外の成分を含んでいてもよい。ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)はポリエステル中に含有させないことが好ましい。
また、ポリエステルを構成するエチレングリコール以外のジオール成分としては、ジエチレングリコールや1,4-ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。ただし、ポリエステルには炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)を含有させないことが好ましい。
さらに、ポリエステルを構成する成分として、ε-カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを含んでいてもよい。ポリエステルエラストマーは、フィルムの融点を下げる効果があるため、特にヒートシール層に好適に使用することができる。
【0015】
本発明のポリエステル系フィルムの中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。また、フィルムのすべり性を良好にする滑剤としての微粒子を、少なくともフィルムの表層に添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができる。例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどをあげることができ、有機系微粒子としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定したときに0.05~3.0μmの範囲内で必要に応じて適宜選択することができる。
本発明のポリエステル系フィルムの中に粒子を配合する方法として、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とを混練押出し機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。
以下にヒートシール層に含まれる好ましい非晶成分について説明する。
【0016】
2.2.ヒートシール層に含まれるポリエステル原料の非晶成分
本発明のヒートシール層に用いるポリエステルは、非晶成分量が12モル%以上であることが好ましく、13モル%以上がより好ましく、14モル%以上が特に好ましい。また、非晶成分量の上限は30モル%である。ここでの非晶成分量とは、非晶成分となりうるカルボン酸、もしくはジオールモノマー成分量の総和を指す。これは、エステル成分1ユニット(カルボン酸モノマーとジオールモノマーがエステル結合によってつながれた1単位)につき、酸成分またはジオール成分のいずれか片方が非晶成分となりうるモノマーであれば、そのエステルユニットは非晶質であるとみなせるためである。ヒートシール層の非晶成分量が12モル%より低い場合、溶融樹脂をダイから押し出した後に例え急冷固化したとしても、後の延伸および熱固定工程で結晶化してしまうため、ヒートシール強度を4N/15mm以上とすることが困難となってしまうため好ましくない。
また、ヒートシール層の非晶成分量の合計が30モル%以上である場合、フィルムのヒートシール強度を高くすることができるものの、フィルムの厚み精度が極端に悪化するため、印刷性が悪くなってしまう。さらに、ヒートシール層の非晶成分量が30モル%以上であると、フィルムの耐熱性が低くなるため、ヒートシールするときにシール部の周囲がブロッキング(加熱用部材からの熱伝導によって、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)してしまうため、適切なヒートシールが困難となる。
【0017】
また、ヒートシール層に含まれるエチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上85モル%以下であることが好ましい。エチレンテレフタレートユニットが50モル%より少ないと、フィルムの機械強度や耐熱性などが不充分となる恐れを生じる。一方、エチレンテレフタレートユニットが85モルより多いと、相対的に非晶成分量が少なくなってしまうため、ヒートシール強度を4N/15mm以上とすることが困難となる。
さらに、本発明のヒートシール層に含まれる非晶成分量は、ヒートシール層以外の層に含まれる非晶成分量よりも4モル%以上30モル%以下(ヒートシール層に含まれる非晶成分量からヒートシール層以外の層に含まれる非晶成分量を引いたときの差が4モル%から30モル%の範囲)であることが好ましい。非晶成分量の差が4モル%より少ない場合、各層の原料組成が単一に近づくので、フィルムのヒートシール強度と収縮率を両立することができなくなる。非晶成分量の差は4.5モル%以上であるとさらに好ましい。また、ヒートシール層に含まれる非晶成分量の上限は30モル%なので、非晶成分量の差の上限は30モル%である。」
(カ)「【0025】
4.ポリエステル系基材フィルムの製膜条件
4.1.溶融押し出し
本発明のポリエステル系基材フィルムは、上記2.「ポリエステル系基材フィルムの原料を構成するポリエステル原料」で記載したポリエステル原料を、ヒートシール層とそれ以外の層で別々の押出機により溶融押し出しして未延伸の積層フィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により一軸延伸または二軸延伸することによって得ることができる。二軸延伸により得られたフィルムがより好ましい。なお、ポリエステルは、前記したように、非晶質成分となり得るモノマーを適量含有するように、ジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用することもできる。
原料樹脂を溶融押し出しするとき、各層のポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのように各層のポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して200~300℃の温度で溶融して積層フィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
その後、押し出しで溶融された積層フィルムを急冷することにより、未延伸の積層フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。フィルムは、縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか、少なくとも一方向に延伸されていればよい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする横延伸-縦延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また同時二軸延伸法でも構わない。
【0026】
4.2.縦延伸
縦方向の延伸は、無延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~90℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また90℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、ロールへのフィルムの巻き付きや連続生産によるロールの汚れやすくなるため好ましくない。
フィルム温度が65℃~90℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。また縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので5倍以下であることが好ましい。
また、縦延伸後にフィルムを長手方向へ弛緩すること(長手方向へのリラックス)により、縦延伸で生じたフィルム長手方向の収縮率を低減することができる。さらに、長手方向へのリラックスにより、テンター内で起こるボーイング現象(歪み)を低減することができる。本発明のポリエステル系フィルムは非晶原料を使用しているため、縦延伸によって生じた長手方向への収縮性がボーイング歪みに対して支配的であると考えられる。後工程の横延伸や最終熱処理ではフィルム幅方向の両端が把持された状態で加熱されるため、フィルムの中央部だけが長手方向へ収縮するためである。長手方向へのリラックス率は0%以上70%以下(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)であることが好ましい。長手方向へのリラックス率の上限は、使用する原料や縦延伸条件よって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系フィルムのおいては、長手方向へのリラックス率は70%が上限である。長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65℃~100℃以下の温度で加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる。加熱手段はロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いる事ができる。また、長手方向へのリラックスは縦延伸直後でなくとも、例えば横延伸(予熱ゾーン含む)や最終熱処理でも長手方向のクリップ間隔を狭めることで実施することができ(この場合はフィルム幅方向の両端も長手方向へリラックスされるため、ボーイング歪みは減少する)、任意のタイミングで実施できる。
長手方向へのリラックス(リラックスを行わない場合は縦延伸)の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。
【0027】
4.3.横延伸
縦延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃~110℃で3.5~5倍程度の延伸倍率で横延伸を行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75℃~120℃になるまで行うとよい。
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み精度が悪化するだけでなく、ヒートシール強度や収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0028】
4.4.最終熱処理
中間ゾーンの通過後は最終熱処理ゾーンにて、横延伸温度以上180℃以下で熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は横延伸温度以上でなければ熱処理としての効果を発揮しない。この場合、フィルムの80℃温湯収縮率が15%よりも高くなってしまうため好ましくない。熱処理温度が高くなるほどフィルムの収縮率は低下するが、180℃よりも高くなるとフィルムのヘイズが15%よりも高くなって透明性を保てなくなってしまうため好ましくない。
最終熱処理の際、テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向のリラックス)によって幅方向の収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上10%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うことが好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの幅方向への収縮率)の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系基材フィルムにおいては、幅方向へのリラックス率は10%が上限である。
また、最終熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、ポリエステル系基材フィルムロールが得られる。」
(キ)「【0029】
5.金属薄膜の成膜条件
十分なガスバリア性と遮光性を発現するためには、前記ポリエステル系基材フィルムロールに金属薄膜を成膜することが必要である。金属薄膜層は、加工性などより主たる成分がアルミニウムからなる薄膜層が好ましい。また、本特性が失われない範囲で他成分が含まれてもよい。薄膜の膜厚としては、特に限定するものではないが、ガスバリア性の点からは、10~120nmが好ましく、更に好ましくは20~100nmである。10nmより薄いと十分なバリア性が発現しにくく、また、遮光性が悪化する。また100nmより厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上効果はなく、製造コストの点で却って不利となる。
本発明の目的を損なわない限り公知の製造方法が使える。例えば真空蒸着法、スパッター法、イオンブレーティングなどのPVD法(物理蒸着法)、あるいは、CVD法(化学蒸着法)などが挙げられる。特に生産の速度や安定性の面から真空蒸着法が好ましい。加熱方式としては、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱等を用いることができる。また、基板にバイアス等を加えたり、基板温度を上昇、あるいは、冷却したり等、本発明の目的を損なわない限りにおいて、成膜条件を変更してもよい。」
イ 引用文献1に記載された発明
上記アを総合的に勘案すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「ポリエステル樹脂からなる基材フィルムとアルミニウムからなる金属薄膜層を少なくとも有するポリエステル系積層フィルムであって、
基材フィルムは、ヒートシール層とヒートシール層以外の層を有し、
前記基材フィルムはエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてなり、
前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分は、ジオール成分のモノマーとして、非晶成分となりうるネオペンチルグリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを含み、非晶成分以外の成分である1,4-ブタンジオール及びジエチレングリコールを含み、
ヒートシール層の非晶成分量から基材フィルムのヒートシール層以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下であり、
金属薄膜層はPVD法やCVD法で製造されており、
温度23℃、相対湿度65%RHの雰囲気下での酸素透過度が1.0[ml/m2 24h MPa]以上100[ml/m2 24h MPa]以下であるポリエステル系積層フィルム。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「ポリエステル系積層フィルム」は、本件発明1の「積層体」に相当し、同様に「ヒートシール層」は「ヒートシール層」に相当する。
引用発明1の「アルミニウムからなる金属薄膜層」は、本件発明1の「酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを含む金属酸化物薄膜層」と、「無機薄膜層」という限りで一致する。
引用発明1において、ヒートシール層とヒートシール層以外の層の関係について、「ヒートシール層の非晶成分量から基材フィルムのヒートシール層以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下」なので、ヒートシール層以外の層は、ヒートシール層より、非晶成分の割合が少ないことが分かる。一方、「ヒートシール層の非晶成分量が30モル%以上であると、フィルムの耐熱性が低くなる」という記載(上記(1)ア(オ))からみて、非晶成分量が増えると耐熱性が低くなることが理解され、これは、ヒートシール層以外の層でも妥当すると考えられる。してみれば、ヒートシール層よりも非晶成分量が少ないヒートシール層以外の層は、ヒートシール層より耐熱性があるといえるので、引用発明1の「ヒートシール層以外の層」は、本件発明1の「耐熱層」に相当する。
引用発明1の「ポリエステル樹脂からなる基材フィルムとアルミニウムからなる金属薄膜層を少なくとも有」し、「基材フィルムは、ヒートシール層とヒートシール層以外の層を有」することは、本件発明1の「ヒートシール層と耐熱層と酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを含む金属酸化物薄膜層をそれぞれ少なくとも1層以上有する」ことと、「ヒートシール層と耐熱層と無機薄膜層をそれぞれ少なくとも1層以上有する」限りで一致する。
引用発明1の「基材フィルムは、ヒートシール層とヒートシール層以外の層を有し、前記基材フィルムはエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてな」ることは、本件発明1の「前記ヒートシール層と前記耐熱層はいずれもエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてな」ることに相当する。
引用発明1の「前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分は、ジオール成分のモノマーとして、非晶成分となりうるネオペンチルグリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを含み、非晶成分以外の成分である1,4-ブタンジオール及びジエチレングリコールを含」むことは、本件発明1の「前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分として、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分として、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を含」むことに相当する。
引用発明1の酸素透過量の単位「ml/m2 24h MPa」と、本件発明1の酸素透過度の単位[cc/(m2・d・atm)]について、「ml=cc」、「24h=d」及び「1MPa=9.87atm」であることは技術常識であるから、引用発明1の「1.0ml/m2 24h MPa以上100ml/m2 24h MPa以下」は、「0.1[cc/(m2・d・atm)]以上10.1[cc/(m2・d・atm)]以下」へと換算できる。
以上のことから、本件発明1と引用発明1とは、以下の点で一致し、少なくとも以下の相違点1を含むものである。
[一致点]
「ヒートシール層と耐熱層と無機薄膜層をそれぞれ少なくとも1層以上有する積層体であって、前記ヒートシール層と前記耐熱層はいずれもエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてなり、前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分として、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分として、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を含む積層体。」
[相違点1]
本件発明1の積層体は、要件(1)~(5)を満たすものであるのに対して、引用発明1の積層フィルムは、は要件(1)、(2)、(4)、(5)を満たすか不明であり、また、要件(3)は一部範囲が重なってはいるものの、数値範囲としては異なる点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
引用文献1には、少なくとも要件(4)、(5)について、記載も示唆もされていない。その上で、引用発明1は、薄膜層をPVD法やCVD法により形成するものではあるが、引用文献1にはその製膜条件等について具体的な記載は見られない。そして、当該形成手法おける具体的な製膜条件によって、要件(4)、(5)の当否が左右されることは明らかであって、単にPVD法やCVD法を採用すれば当該要件(4)、(5)を満たすことになるとは認められない。そうすると、引用発明1において、要件(4)、(5)を満たす蓋然性が高いものとは認められない。
また、提出されたその他の証拠を含め、取消理由通知書で引用されたいずれの文献にも、少なくとも要件(4)、(5)について記載も示唆もない。
ウ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明1ではないし、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2~5は、引用発明1ではないし、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
2 取消理由2(引用文献2を主引例とする進歩性)について
(1)引用文献2について
ア 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の記載がある。
(ア)「[0001] 本発明は、ヒートシール強度に優れたポリエステル系のシーラントに関するものであり、特にカールがなく、折れ性に優れたポリエステル系のシーラント、及びそれを用いた積層体、並びにそれらを用いた包装袋に関する。」
(イ)「[0002] 従来、食品、医薬品および工業製品に代表される流通物品の多くに、シーラントフィルムをヒートシール又はラミネートして得られた積層フィルムが、包装袋や蓋材等の包装材として用いられている。包装材の最内面(内容物と接する面)には、高いシール強度を示すポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、アイオノマー、EMMA等のコポリマー樹脂からなるシーラント層が設けられている。これらの樹脂は、ヒートシールにより高い密着強度を達成することができることが知られている。」
(ウ)「[0003] しかし特許文献1に記されているようなポリオレフィン系樹脂からなる無延伸のシーラントフィルムは、油脂や香料等の有機化合物からなる成分を吸着しやすいため、内容物の香りや味覚を変化させやすいという欠点を持っている。そのため、化成品、医薬品、食品等の包装にポリオレフィン系樹脂からなるシーラント層を最内層として使用するのは適さないケースが多い。」
(エ)「[0026] 3.ポリエステル系シーラントを構成するポリエステル原料
3.1.ポリエステル原料の種類
本発明に用いるポリエステルは、ヒートシール層と耐熱層のいずれもエチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。ここで、「主たる構成成分とする」とは、全構成成分量を100モル%としたとき、50モル%以上含有することをさす。
また、本発明に用いるヒートシール層と耐熱層を構成するポリエステルにエチレンテレフタレート以外の成分を1種以上含むことが好ましい。エチレンテレフタレート以外の成分が存在することによってΔCpが増加してヒートシール強度が向上するためである。耐熱層においては、エチレンテレフタレート以外の成分は少ない方が好ましいが、エチレンテレフタレート以外の成分を含むことによって、ヒートシール層との収縮率差を少なくして曲率半径を大きくする(すなわちカールを小さくする)ことができる。各成分の含有量はヒートシール層と耐熱層で異なるため後述する。エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸以外の成分となりうるジカルボン酸モノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸が挙げられる。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)はポリエステル中に含有させないことが好ましい。
[0027] また、エチレンテレフタレートを構成するエチレングリコール以外の成分となりうるジオールモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。ただし、ポリエステルには炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)を含有させないことが好ましい。
さらに、ポリエステルを構成する成分として、ε-カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを含んでいてもよい。ポリエステルエラストマーは、フィルムの融点を下げる効果があるため、特にヒートシール層に好適に使用することができる。
[0028] これらのなかでも、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を用いることでヒートシール層のΔCpを高めてヒートシール強度を8N/15mm以上としやすくなるので好ましい。ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのいずれか1種以上を用いることがより好ましく、ネオペンチルグリコールを用いることが特に好ましい。
・・・
[0030] 以下、ヒートシール層と耐熱層に含まれる好ましい成分について説明する。
3.2.ヒートシール層に含まれるポリエステル原料の成分量
本発明のヒートシール層に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸およびエチレングリコール以外の成分となるジカルボン酸モノマーおよび/又はジオールモノマーの含有量が30モル%以上であることが好ましく、32モル%以上がより好ましく、34モル%以上が特に好ましい。また、前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の上限は50モル%である。
ヒートシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが30モル%より低い場合、溶融樹脂をダイから押し出した後に例え急冷固化したとしても、後の延伸および熱固定工程で結晶化してしまうためΔCpが低下してしまい、ヒートシール強度を8N/15mm以上とすることが困難となってしまうため好ましくない。一方、ヒートシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが50モル%以上である場合、フィルムのヒートシール強度を高くすることができるものの、ヒートシール層の耐熱性が極端に低くなるため、ヒートシールするときにシール部の周囲がブロッキング(加熱用部材からの熱伝導によって、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)してしまうため、適切なヒートシールが困難となる。エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーの含有量は48モル%以下であるとより好ましく、46%以下であると特に好ましい。
[0031] 3.3.耐熱層に含まれるポリエステル原料の成分量
本発明の耐熱層に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸およびエチレングリコール以外の成分となるジカルボン酸モノマーおよび/又はジオールモノマーの含有量が9モル%以上であることが好ましく、10モル%以上がより好ましく、11モル%以上が特に好ましい。また、前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の上限は20モル%である。耐熱層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが9モル%より低い場合、曲率半径が小さくなってしまうため好ましくない。耐熱層とヒートシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の差が大きくなると、熱固定中の各層における熱収縮率差が大きくなってしまい、たとえ熱固定後の冷却を強化してもヒートシール層側への収縮が大きくなり、曲率半径が小さくなってしまう。
一方、耐熱層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが20モル%以上である場合、ヒートシールの際にかかる熱によって穴あきが生じるといったように、シーラントの耐熱性が低下してしまうため好ましくない。前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーの含有量は19モル%以下であるとより好ましく、18%以下であると特に好ましい。また、曲率半径を制御するための前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量は、上記の各層単体での量に加えて、ヒートシール層と耐熱層との差が20モル%以上35モル%以下であるとより好ましく、21モル%以上34モル%以下であるとさらに好ましい。」
(オ)「[0032]4.ポリエステル系フィルムの製膜条件
4.1.溶融押し出し
本発明のポリエステル系シーラントは、上記3.「ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル原料」で記載したポリエステル原料を、ヒートシール層と耐熱層で別々の押出機により溶融押し出しして未延伸の積層フィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により一軸延伸または二軸延伸することによって得ることができる。二軸延伸により得られたフィルムがより好ましい。なお、ポリエステルは、前記のように、エチレンテレフタレート以外の成分となり得るモノマーを適量含有するように、ジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用することもできる。原料樹脂を溶融押し出しするとき、各層のポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのように各層のポリエステル原料乾燥させた後、押出機を利用して200~300℃の温度で溶融して積層フィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
その後、押し出しで溶融された積層フィルムを急冷することにより、未延伸の積層フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。フィルムは、縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか、少なくとも一方向に延伸されていればよい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする横延伸-縦延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また同時二軸延伸法でも構わない。
[0033]4.2.縦延伸
縦方向の延伸は、無延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~90℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また90℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、ロールへのフィルムの巻き付きや連続生産によるロールの汚れやすくなるため好ましくない。
フィルム温度が65℃~90℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。また縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので5倍以下であることが好ましい。
[0034] また、縦延伸後にフィルムを長手方向へ弛緩すること(長手方向へのリラックス)により、縦延伸で生じたフィルム長手方向の収縮率を低減することができる。さらに、長手方向へのリラックスにより、テンター内で起こるボーイング現象(歪み)を低減することができる。後工程の横延伸や最終熱処理ではフィルム幅方向の両端が把持された状態で加熱されるため、フィルムの中央部だけが長手方向へ収縮するためである。長手方向へのリラックス率は0%以上70%以下(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)であることが好ましい。長手方向へのリラックス率の上限は、使用する原料や縦延伸条件よって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系シーラントにおいては、長手方向へのリラックス率は70%が上限である。長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65℃~100℃以下の温度で加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる。加熱手段はロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いる事ができる。また、長手方向へのリラックスは縦延伸直後でなくとも、例えば横延伸(予熱ゾーン含む)や最終熱処理でも長手方向のクリップ間隔を狭めることで実施することができ(この場合はフィルム幅方向の両端も長手方向へリラックスされるため、ボーイング歪みは減少する)、任意のタイミングで実施できる。長手方向へのリラックス(リラックスを行わない場合は縦延伸)の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。
[0035]4.3.横延伸
縦延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃~110℃で3~5倍程度の延伸倍率で横延伸を行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75℃~120℃になるまで行うとよい。
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み精度が悪化するだけでなく、ヒートシール強度や収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
[0036]4.4.最終熱処理
中間ゾーンの通過後は最終熱処理ゾーンにて、横延伸温度以上250℃以下で熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は横延伸温度以上でなければ熱処理としての効果を発揮しない。この場合、フィルムの80℃温湯収縮率が5%よりも高くなってしまうため好ましくない。熱処理温度が高くなるほどフィルムの収縮率は低下するが、250℃よりも高くなるとフィルムのヘイズが15%よりも高くなったり、最終熱処理工程中にフィルムが融けてテンター内に落下してしまったりするため好ましくない。
最終熱処理の際、テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向へのリラックス)によって幅方向の収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上10%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うことが好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの幅方向への収縮率)の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系シーラントにおいては、幅方向へのリラックス率は10%が上限である。また、最終熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
[0037]4.5.冷却
最終熱処理通過後は冷却ゾーンにて、10℃以上30℃以下の冷却風でフィルムを冷却することが好ましい。このとき、テンター出口のフィルムの実温度が、ヒートシール層もしくは耐熱層いずれか低い方のガラス転移温度より低い温度になるよう、冷却風の温度を下げたり風速を上げたりして冷却効率を向上させることが好ましい。なお実温度とは、非接触の放射温度計で測定したフィルム表面温度のことである。テンター出口のフィルムの実温度がガラス転移温度を上回ると、クリップで把持していたフィルム両端部が解放されたときにフィルムが熱収縮してしまう。このとき、フィルムは熱収縮率の大きいヒートシール層へカールしてしまうため、曲率半径が小さくなり好ましくない。冷却ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度がガラス転移温度に到達しないまま冷却ゾーンを通過してしまうため、曲率半径が小さくなってしまう。通過時間は長ければ長いほど冷却効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、ポリエステル系フィルムロールが得られる。」
(カ)「[0048] <ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル(A)の組成を表1に示す。
[0049][合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(F)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(F)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。ポリエステル(B)~(F)の組成を表1に示す。
[0050][表1]
[図:0001426798000001.jpg]
」
(キ)「[0051][実施例1]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルEとポリエステルFを質量比10:60:24:6で混合し、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルEとポリエステルFを質量比57:31:6:6で混合した。
ヒートシール層及び耐熱層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270℃で溶融させた。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムは片側がヒートシール層、もう片側が耐熱層(ヒートシール層/耐熱層の2種2層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、ヒートシール層と耐熱層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整した。
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が78℃になるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸した。縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで100℃に設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が105℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、200℃で5秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを30℃の冷却風で5秒間冷却した。このとき、テンター出口のフィルム実温度は35℃であった。両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
[0052][実施例2~8、比較例1~3]
実施例2~8、比較例1~3も実施例1と同様の方法でヒートシール層と耐熱層を積層させ、原料の配合比率、縦延伸、長手方向へのリラックス、横延伸、最終熱処理、冷却条件を種々変更したポリエステル系シーラントを製膜し、評価した。各実施例のフィルム製造条件と特性を表2、3に示す。
・・・
[0054][表2]
[図:0001426798000002.jpg]
」
(ク)「[請求項1] ヒートシール層と耐熱層の各層を少なくとも1層以上有しており、各層ともエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系成分からなり、以下の(1)~(6)を満たすことを特徴とするポリエステル系シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が8N/15mm以上20N/15mm以下
(2)ヒートシール層を温度変調DSCによって測定したとき、ガラス転移開始温度から140℃までの可逆熱容量差(ΔCp)が0.5J/g/K以上1.1J/g/K以下
(3)耐熱層を温度変調DSCによって測定したときのΔCpが0.1J/g/K以上0.6J/g/K未満
(4)折りたたみ保持角度が20度以上60度以下
(5)長手方向、幅方向いずれか小さい方の曲率半径が50mm以上300mm以下(6)80℃温湯中に10秒間浸漬した後の収縮率が、長手方向、幅方向ともに-5%以上5%以下
[請求項2] 前記ヒートシール層と前記耐熱層を構成する各ポリエステル系成分を構成するモノマー成分中、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分がネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系シーラントフィルム。
[請求項3] 前記ヒートシール層と前記耐熱層を構成する各ポリエステル系成分の全モノマー成分中、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分含有量が以下の(1)~(3)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル系シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層において30モル%以上50モル%以下
(2)耐熱層において9モル%以上20モル%以下
(3)ヒートシール層と耐熱層との含有量の差が20モル%以上35モル%以下」
イ 引用文献2に記載された発明
上記アを総合的に勘案すると、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「ヒートシール層と耐熱層の各層を少なくとも1層以上有しており、前記ヒートシール層と前記耐熱層はいずれもエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてなり、前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分として、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分として、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を含み、
以下の(1)を満たすポリエステル系シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が8N/15mm以上20N/15mm以下」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明2を対比する。
引用発明2の「ヒートシール層」は本件発明1の「ヒートシール層」に相当し、同様に「耐熱層」は「耐熱層」に相当する。
引用発明2の「ヒートシール層と耐熱層の各層を少なくとも1層以上有」する「ポリエステル系シーラントフィルム」は、本件発明1の「ヒートシール層と耐熱層と酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを含む金属酸化物薄膜層をそれぞれ少なくとも1層以上有する積層体」と、「ヒートシール層と耐熱層をそれぞれ少なくとも1層以上有する積層体」という限りで一致する。
引用発明2の「前記ヒートシール層と前記耐熱層はいずれもエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてな」ることは、本件発明1の「前記ヒートシール層と前記耐熱層はいずれもエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてな」ることに相当する。
引用発明2の「前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分として、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分として、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を含」むことは、本件発明1の「前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分として、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分として、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を含」むことに相当する
引用発明2の「ポリエステル系シーラントフィルム」が「(1)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が8N/15mm以上20N/15mm以下」であることは、本件発明1の「積層体」が「(1)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下」であることを満たす。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
[一致点]
「ヒートシール層と耐熱層をそれぞれ少なくとも1層以上有する積層体であって、前記ヒートシール層と前記耐熱層はいずれもエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルにより形成されてなり、前記各層を構成する各ポリエステルを構成する成分として、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分として、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を含み、下記の要件(1)を満たす積層体。
(1)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下」
[相違点2]
本件発明1は「酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを含む金属酸化物薄膜層」を有するとともに要件(2)~(5)を満たすのに対して、引用発明2は薄膜層を有しておらず、上記要件(2)~(5)を満たすか不明である点。
イ 判断
上記相違点2について検討する。
引用発明2は、そもそも金属酸化物薄膜層を有しておらず、また、当該金属酸化物薄膜層を備える点について、引用文献2には記載も示唆もない。さらに、仮に引用発明2に金属酸化物薄膜層を設けるとしても、当該薄膜層の製膜条件によって、要件(4)、(5)の当否が左右されることは明らかであるから、引用発明2に金属酸化物薄膜層を設け、さらに要件(4)、(5)を得ることは、当業者が容易に想到し得たものでもない。
また、提出されたその他の証拠を含め取消理由通知書で引用されたいずれの文献にも、少なくとも要件(4)、(5)について記載も示唆もない。
ウ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2~5は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
取消理由3(実施可能要件)について
特許権者からの意見書では、「本件特許明細書の段落[0047]には、「無機材料の蒸着の際、フィルムには熱がかかり、さらに巻き出しロールと巻き取りロールの間で張力も加えられる。」と「また、フィルムにかかる張力が高すぎると、フィルムが伸長変形しやすくなるため好ましくない。一方、フィルムにかかる張力が低すぎると、フィルムが加熱されたことで生じる熱収縮を抑制できなくなり、やはり変形が大きくなるため好ましくない。フィルムにかかる単位断面積(幅×厚み)あたりの張力は、0.2N/mm2以上3N/mm2以下であると好ましく、0.6N/mm2以上2.6N/mm2以下であるとより好ましく、1N/mm2以上2.2N/mm2以下であるとさらに好ましい。」が記載されています。
上記のとおり、ヒートシール層と耐熱層を有する積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステル原料組成と該フィルムの製膜条件のみならず、蒸着工程において前記積層ポリエステルフィルムに熱がかけられた状態でフィルムに張力が作用しており、該張力は前記積層ポリエステルフィルムの長手方向に作用するので、該蒸着工程の条件が要件(4)及び(5)の値に影響を与えることは明らかです。」(4ページ14行~28行)と主張するとともに、「本件特許の段落[0030]~[0045]に記載のポリエステル組成とポリエステル樹脂層の製膜条件等、及び段落[0046]、[0047]に記載の無機薄膜層の成膜条件、[0060]~[0065]に記載の実施例の具体例を参酌することにより、当業者は本件特許発明を実施することができますので、 実施可能要件を満足するものであると思料いたします。」(9ページ4行~9行)と主張しており、上記主張を参酌すれば、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
第6 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
(1)申立理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件特許明細書には、本件の課題の1つに「高いヒートシール強度」があるが、当該課題を解決するための手段が反映されていない。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、当業者が請求項1~5に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明は、ヒートシール層における、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分の含有量を特定していないので、ヒートシール層における、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分の含有量が30モル%より低い態様(以下「態様A」という。)を包含するものの、発明な詳細な説明には、態様Aについて記載されておらず、当業者が態様Aをどのように実施(製造)するかを理解できない。
(3)申立理由3(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
本件発明の積層体は、「ヒートシール層」と「耐熱層」を有するが、両層の機能的特性(ヒートシール性又は耐熱性)に関する定義が不明確であり、ヒートシール層と耐熱層がそれぞれいかなるものであるかを明確に把握することができない。
2 当審における判断
(1)申立理由1(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされているところ、以下、この規範に沿って検討する。
本件特許明細書(【0012】、【0015】等)には、本件の課題の1つに「高いヒートシール強度」があると認められるところ、当該課題を解決するための手段として、請求項1には要件(1)が規定されているので、当該課題を解決するための手段が反映されている。
してみれば、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)について
物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることが必要であるところ、以下、この規範に沿って検討する。
本件特許明細書には、【0030】~【0045】にポリエステル組成とポリエステル樹脂層の製膜条件等、【0046】、【0047】に無機薄膜層の成膜条件、【0060】~【0065】に実施例の具体例が記載され、これにより本件発明の実施が可能であることは明らかである。中でも、【0034】の記載からみて、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分の含有量によってヒートシール強度を調整することが具体的な数値とともに述べられており、そうすると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
そうすると、態様Aの実施(製造)が具体的に記載されていないことをもって、実施可能要件を満たさないということはできない。
(3)申立理由3(明確性要件)
明確性要件は、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものであるところ、以下、この規範に沿って検討する。
「ヒートシール層」及び「耐熱層」は一般的な技術用語であるところ、特に本件発明の「耐熱層」は、「ヒートシール層」との比較において位置づけられており、「ヒートシール層」より融点が高い層を意味することは直ちに理解できる。
そうすると、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるともいえない。
(4)小括
よって、申立人が主張する上記申立理由1~3には理由がない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700109