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特許異議申立

2023-700957

ポリエステル系シーラントフィルム

審判番号
2023-700957
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-046741
登録番号
7238239
請求日
2023年09月13日
審決日
2023年12月28日
公報発行日
2024年02月22日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】東洋紡株式会社
  • 【異議申立人】野田 澄子
  • 【異議申立人】西田 聡子
審判長/審判官
  • 審判長 磯貝 香苗
  • 審判官 天野 宏樹
  • 審判官 植前 充司
分類
P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第44条第1項、特許法第2条第3項第1号
データ出所
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特許第7238239号発明「ポリエステル系シーラントフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7238239号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7238239号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月13日(優先権主張 平成28年3月18日)を国際出願日とする特願2018-505903号の一部を特許法第44条第1項の規定により令和4年3月23日に新たな特許出願としたものであって、令和5年3月6日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対して、令和5年9月13日に特許異議申立人野田澄子(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がなされ、同年同月14日に特許異議申立人西田聡子(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がなされたものである。 第2 本件発明について 本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。 「[請求項1] エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)~(5)を満たすことを特徴とするポリエステル系シーラントフィルム。 (1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。 (2)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールした後の剥離強度が4N/15mm以上25N/15mm以下である。 (3)温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差が、0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である。 (4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。 (5)タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度がいずれも、100MPa以上300MPa以下である。 [請求項2] ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル成分中に、ネオペンチルグリコール、1,4―シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、及びジエチレングリコールからなる群より選択されてなる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系シーラントフィルム。 [請求項3] ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル成分中に、1,4-ブタンジオールを含むことを特徴とする請求項1、2いずれかに記載のポリエステル系シーラントフィルム。 [請求項4] フィルムの厚みが5~200μmであることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載のポリエステル系シーラントフィルム。」 第3 特許異議申立理由の概要 1.申立人Aの申立理由 申立人Aは、証拠方法として下記(4)に示す甲第1号証~甲第10号証(以下、申立人Aが提出した甲第1号証~甲第10号証を、それぞれ「甲1A」~「甲10A」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当審が仮に付与した。 (1)申立理由1A-1(甲1Aに基づく新規性欠如) 本件発明1、2及び4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由1A-2(甲1Aに基づく進歩性欠如) ア 本件発明1、2及び4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Aに記載された発明並びに甲1A~甲7A及び甲9Aに記載された技術的事項に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 イ 本件発明3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Aに記載された発明、甲1A及び甲3A~甲9Aに記載された技術的事項及び甲2A又は甲10Aに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、その発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由2A(甲2Aに基づく進歩性欠如) ア 本件発明1、2及び4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2Aに記載された発明並びに甲1A~甲7A及び甲9Aに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 イ 本件発明3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2Aに記載された発明並びに甲1A~甲7A及び甲9Aに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、その発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (4)証拠方法 甲1A:特公昭53-24465号公報 甲2A:国際公開第2014/175313号 甲3A:特開2004-155176号公報 甲4A:特開2012-66506号公報 甲5A:中本パックス株式会社,製品カタログ "ヒートシール性のあるHS-PET" (当審注:申立人Aは発行日を不明としている。) 甲6A:日生化学株式会社,製品カタログ "ヒートシールが可能なPETフィルムHS-PET(R)" (当審注:甲6Aにおいて丸囲みのRを(R)と記載した。以下、同様に記載する。 当審注:申立人Aは発行日を不明としている。) 甲7A:菱沼一夫,"熱溶着(ヒートシール)の加熱方法の最適化",東京大学審査学位論文:[No.16508],2006年5月1日 甲8A:大須賀弘,"包装学基礎講座11 包装材料評価法の科学",初版,日本包装学会,2009年7月9日,p.174-195 甲9A:特開2016-162622号公報 甲10A:特開平6-322085号公報 2.申立人Bの申立理由 申立人Bは、証拠方法として下記(6)に示す甲第1号証~甲第6号証(以下、申立人Bが提出した甲第1号証~甲第6号証を、それぞれ「甲1B」~「甲6B」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当審が仮に付与した。 (1)申立理由1B-1(甲1Bに基づく新規性欠如) 本件発明1及び4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Bに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由1B-2(甲1Bに基づく進歩性欠如) 本件発明1~4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Bに記載された発明及び甲2Bに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由2B(甲2Bに基づく進歩性欠如) 本件発明1~4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2Bに記載された発明及び甲3B~甲6Bに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (4)申立理由3-1(実施可能要件違反)及び申立理由3-2(サポート要件違反) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~4についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~4についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 発明の詳細な説明には、本件特許発明の要件(2)~(5)に記載されるすべての物性値を同時に達成するための手段が記載されていないから、発明の詳細な説明は、特許発明1~4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、特許発明1~4は、発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 イ 発明の詳細な説明には、特定の種類及び特定量の非晶成分を含まないフィルムであっても本件特許発明の要件(2)~(5)に記載されるすべての物性値を同時に達成できることについて示されておらず、さらに、特定の種類及び特定量の非晶成分を含むフィルムについても、そのフィルムが「未延伸」であっても本件特許発明の要件(2)~(5)に記載されるすべての物性値を同時に達成できることについて示されていないから、発明の詳細な説明は、特許発明1~4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、特許発明1~4は、発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (6)証拠方法 甲1B:DuPont Teijin Films社,製品カタログ "Mylar(R)850",2005年9月26日,<URL https://doganak.com/assets/dokuman/mylar-850-1.pdf> (当審注:甲1Bにおいて丸囲みのRを(R)と記載した。以下、同様に記載する。) 甲2B:国際公開第2014/175313号 甲3B:特開2015-229242号公報 甲4B:特開2015-199336号公報 甲5B:国際公開第2014/050652号 甲6B:十時稔,"DSC(3)-高分子のガラス転移挙動編-",繊維学会誌(繊維と工業),社団法人繊維学会,2009年10月10日,vol.65,No.10 ,P-385~P-393 第4 当審の判断 当審は、申立人A及びBが申し立てたいずれの申立理由によっても、本件発明1~4についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。 1.申立理由1A-1(甲1Aに基づく新規性欠如)及び申立理由1A-2(甲1Aに基づく進歩性欠如)について (1)甲1Aに記載された事項 甲1Aには、以下の事項が記載されている。 (1A-1)「特許請求の範囲 1 ポリエチレンテレフタレートの未延伸フイルムの少なくとも片面に、主としてエチレンテレフタレート単位からなる共重合ポリエステルの未延伸フイルムをラミネートし、次いでそれをポリエチレンテレフタレートの2次転移点以上、上記共重合ポリエステルの融点以下の温度で少なくとも一方向に延伸した後、ポリエチレンテレフタレートの結晶化促進温度でありかつ上記共重合ポリエステルの融点以上の温度において熱処理し、引続きそれを急激に冷却することを特徴とするヒートシール性の優れたポリエステルフイルムの製造方法。」(特許請求の範囲) (1A-2)「本発明で使用するポリエチレンテレフタレートとは、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーのほか、少量の他の構成単位を有する実質的にエチレンテレフタレート単位からなる共重合ポリエステルを含んでいる。また上記主としてエチレンテレフタレート単位からなる共重合ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートとその融点が少なくとも10℃以上好ましくは20~70℃異なる共重合体が推奨される。例えばポリエチレンテレフタレート(融点265℃)に対してポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(共重合比80/20、融点230℃あるいは共重合比70/30、融点210℃)が挙げられる。」(第1頁右欄28行~第2頁左欄3行) (1A-3)「この延伸フイルムをポリエチレンテレフタレートの結晶化促進温度であり、かつ共重合ポリエステルの融点以上の温度において加熱し、フイルムを構成している共重合ポリエステル層を溶融させる。特にこの際加熱温度が既に形成されたポリエチレンテレフタレート層の結晶化度を著しく低下させない温度であることが肝要である。 ・・・ 更に引続きこのフイルムを急激に冷却し溶融していた共重合ポリエステル層を固化させる。この急激な冷却により共重合ポリエステル層の分子配向はほとんど消滅する。 ・・・ かくして得られたフイルムは共重合ポリエステル層の分子配向が殆ど消滅しているために共重合ポリエステルの融点以下の温度でフイルムの共重合ポリエステル層同士をヒートシールすることができヒートシールによりフイルムの物性が低下したり、接着斑を起こすこともなく、均一なヒートシールを行なうことができる。」(第2頁左欄41行~右欄27行) (1A-4)「本発明の方法で得られたフイルムではたとえヒートシール層の厚さが小さくても他の方法で得られたヒートシール層のさらに厚いフイルムに匹適するヒートシール強度を有す。 その他に本発明で得られたフイルムはガス遮断性、透明性、引張強度に優れているので好菌性食品の包装、衣類、機械類等の包装にも適する。」(第2頁右欄35~42行) (1A-5)「実施例1 固有粘度0.73dl/gのポリエチレンテレフタレートを278℃の温度で溶融押出し成形した厚さ70μの未延伸フイルムの片面にポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(共重合比80/20、固有粘度0.73dl/g)を255℃の温度で溶融押出しゴムローラーで25kg/cmのラミネート圧力で共重合体層の厚さ30μになるようにラミネートした。このラミネートフイルムを75℃の温度でフイルムの縦方向に3.2倍延伸し、次いで横方向に110℃の温度で4.5倍延伸した。さらにこの延伸フイルムを235℃の雰囲気中に10秒間通過させたのち、直ちにそれを50℃の冷却水中に浸して急冷し、厚さ9μ(共重合体層の厚さ3μ)のフイルムを得た。このフイルムの物性を第1表に示す。」(第2頁右欄末行~第3頁左欄15行) (1A-6)「なお第1表の測定項目の測定方法は下記の方法により行なった。 (1)熱収縮性(%)フイルムを150℃の熱風中で1時間処理したのちの、フイルムの長さの収縮割合 (2)ヒートシール強度(g/cm) 2枚のフイルムを150℃の温度、5kg/cm2の圧力でヒートシールしたフイルムを室温に24時間放置したのちテンシロンを用いて180度の角度に200mm/分の速度で引き剥がした際にかかる力 ・・・ (6)フイルムの引張強度(Kg/cm2) JIS-Z-1702による測定」(第3頁右欄1~21行) (1A-7)「第1表 [図:0001406730000001.jpg] 」(第3頁第1表) (1A-8)「第1表から明らかな如く本例フイルムは比較フイルムに較べてフイルムの透明性、縦横両方向のバランス性ガス遮断性、およびヒートシール性などの諸物性が優れている。」(第4頁左欄1~4行) (2)甲1Aに記載された発明 甲1Aの特許請求の範囲(摘記1A-1)には、「ポリエチレンテレフタレートの未延伸フイルムの少なくとも片面に、主としてエチレンテレフタレート単位からなる共重合ポリエステルの未延伸フイルムをラミネートし、次いでそれをポリエチレンテレフタレートの2次転移点以上、上記共重合ポリエステルの融点以下の温度で少なくとも一方向に延伸した後、ポリエチレンテレフタレートの結晶化促進温度でありかつ上記共重合ポリエステルの融点以上の温度において熱処理し、引続きそれを急激に冷却することを特徴とするヒートシール性の優れたポリエステルフイルムの製造方法」が記載されており、共重合ポリエステルとしては第1頁右欄36行~第2頁左欄3行(摘記1A-2)に、「ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(共重合比80/20、融点230℃あるいは共重合比70/30、融点210℃)」が例として挙げられている。また、実施例1(摘記1A-5)として、「固有粘度0.73dl/gのポリエチレンテレフタレートを278℃の温度で溶融押出し成形した厚さ70μの未延伸フイルムの片面にポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(共重合比80/20、固有粘度0.73dl/g)を255℃の温度で溶融押出しゴムローラーで25kg/cmのラミネート圧力で共重合体層の厚さ30μになるようにラミネートした。このラミネートフイルムを75℃の温度でフイルムの縦方向に3.2倍延伸し、次いで横方向に110℃の温度で4.5倍延伸した。さらにこの延伸フイルムを235℃の雰囲気中に10秒間通過させたのち、直ちにそれを50℃の冷却水中に浸して急冷し、厚さ9μ(共重合体層の厚さ3μ)のフイルムを得た」ことが記載されており、第1表(摘記1A-7)及び第3項右欄(摘記1A-6)の測定方法の記載を参照すると、実施例1で得られたフイルムは熱収縮性(150℃の熱風中で1時間処理したのちの、フイルムの長さの収縮割合)が1%以下、ヒートシール強度(2枚のフイルムを150℃の温度、5kg/cm2の圧力でヒートシールしたフイルムを室温に24時間放置したのちテンシロンを用いて180度の角度に200mm/分の速度で引き剥がした際にかかる力)が400g/cm、引張強度(JIS-Z-1702による測定)がタテ1120kg/cm2、ヨコ1030kg/cm2であったことが読み取れる。 そうすると、甲1Aには、実施例1に基づき以下の発明が記載されている。 「固有粘度0.73dl/gのポリエチレンテレフタレートを278℃の温度で溶融押出し成形した厚さ70μmの未延伸フイルムの片面に、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(共重合比80/20、固有粘度0.73dl/g)を255℃の温度で溶融押出し、ゴムローラーで25kg/cmのラミネート圧力で共重合体層の厚さ30μmになるようにラミネートし、このラミネートフイルムを75℃の温度でフイルムの縦方向に3.2倍延伸し、次いで横方向に110℃の温度で4.5倍延伸し、さらにこの延伸フイルムを235℃の雰囲気中に10秒間通過させたのち、直ちにそれを50℃の冷却水中に浸して急冷して得られた、厚さ9μm(共重合体層の厚さ3μm)、熱収縮性(150℃の熱風中で1時間処理したのちの、フイルムの長さの収縮割合)が1%以下、ヒートシール強度(2枚のフイルムを150℃の温度、5kg/cm2の圧力でヒートシールしたフイルムを室温に24時間放置したのちテンシロンを用いて180度の角度に200mm/分の速度で引き剥がした際にかかる力)が400g/cm、引張強度(JIS-Z-1702による測定)がタテ1120kg/cm2、ヨコ1030kg/cm2である、ヒートシール性の優れたポリエステルフイルム。」(以下、「甲1A発明」という。) (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲1A発明との対比 本件発明1と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明における「ヒートシール性の優れたポリエステルフイルム」は、本件発明1における「ポリエステル系シーラントフィルム」に相当し、甲1A発明の製造原料として「固有粘度0.73dl/gのポリエチレンテレフタレート」及び「ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(共重合比80/20、固有粘度0.73dl/g)」が用いられていることからみて、甲1A発明における「ポリエステルフイルム」は、本件発明1における「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され」との特定事項を満たす。 また、甲1A発明における「共重合体層」は、甲1Aの第2頁右欄21~27行(摘記1A-3)に「共重合ポリエステルの融点以下の温度でフイルムの共重合ポリエステル層同士をヒートシールすることができ」ると記載されていることから、本件発明1における「ヒートシール層」に相当し、甲1A発明の製造工程及び得られたフイルムの層構成が、「固有粘度0.73dl/gのポリエチレンテレフタレートを278℃の温度で溶融押出し成形した厚さ70μmの未延伸フイルムの片面に、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(共重合比80/20、固有粘度0.73dl/g)を255℃の温度で溶融押出し、ゴムローラーで25kg/cmのラミネート圧力で共重合体層の厚さ30μmになるようにラミネートし、このラミネートフイルムを75℃の温度でフイルムの縦方向に3.2倍延伸し、次いで横方向に110℃の温度で4.5倍延伸し、さらにこの延伸フイルムを235℃の雰囲気中に10秒間通過させたのち、直ちにそれを50℃の冷却水中に浸して急冷して得られた、厚さ9μm(共重合体層の厚さ3μm)」であることは、本件発明1における「(1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。」に相当する。 そうすると、両者は、 「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)を満たすことを特徴とするポリエステル系シーラントフィルム。 (1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。」 の点で一致し、 相違点1A-1:本件発明1は「(2)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールした後の剥離強度が4N/15mm以上25N/15mm以下である。」と特定するのに対し、甲1A発明は「ヒートシール強度(2枚のフイルムを150℃の温度、5kg/cm2の圧力でヒートシールしたフイルムを室温に24時間放置したのちテンシロンを用いて180度の角度に200mm/分の速度で引き剥がした際にかかる力)が400g/cm」である点 相違点1A-2:本件発明1は「(3)温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差が、0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である。」と特定するのに対し、甲1A発明はそのように特定されていない点 相違点1A-3:本件発明1は「(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。」と特定するのに対し、甲1A発明は「熱収縮性(150℃の熱風中で1時間処理したのちの、フイルムの長さの収縮割合)が1%以下」である点 相違点1A-4:本件発明1は「(5)タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度がいずれも、100MPa以上300MPa以下である。」と特定するのに対し、甲1A発明は「引張強度(JIS-Z-1702による測定)がタテ1120kg/cm2、ヨコ1030kg/cm2」である点 で相違する。そこで、上記相違点について検討する。 イ 相違点1A-2について 事案に鑑み、相違点1A-2について検討する。 (ア)新規性について 甲1Aには、「温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差」について記載されておらず、実施例1の第1表(摘記1A-7)にも「可逆熱容量差」の測定値は記載されていない。 また、本件明細書の[0015]には、「可逆熱容量差」に関して、「フィルムを構成する高分子の高次構造は結晶相と非晶相に分かれている」こと、「非晶相はさらにその柔軟性によって剛直非晶と可動非晶に分けられる」こと、「可動非晶は、これら3相の中で最も柔らかい成分」であること、「ヒートシール層の可動非晶量を所定の範囲内に制御することにより、好適なヒートシール強度を確保できること」及び「可動非晶量の指標となる可逆熱容量差ΔCpが0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下であることが好ましい」ことが記載されているが、甲1Aには非晶相が剛直非晶と可動非晶に分けられることについて記載されておらず、甲1Aの第2頁右欄21~25行(摘記1A-3)における「共重合ポリエステル層の分子配向が殆ど消滅しているために共重合ポリエステルの融点以下の温度でフイルムの共重合ポリエステル層同士をヒートシールすることができ」るとの記載も、可動非晶量を具体的な範囲に特定するものではないから、可動非晶量に対応するとされる可逆熱容量差を「0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下」という具体的な範囲に特定することは実質的にも記載されていないといえる。 そうすると、相違点1A-2は実質的な相違点である。 (イ)進歩性について また、申立人Aが提出した他の全ての証拠を参照しても、甲1A発明における可逆熱容量差を「0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下」という具体的な範囲に特定する動機は見いだせない。 ウ 申立人Aの主張について (ア)新規性欠如について 申立人Aは、令和5年9月13日に提出した特許異議申立書(以下、「申立書A」という。)の第28頁において、「本件明細書の段落0012の記載からすれば、可逆熱容量差は、ポリエステルにエチレンテレフタレートユニット以外の非晶成分を含有させることにより高めることができ」ること、及び「甲1発明のポリエステルフィルムにおけるイソフタレートの含有割合は、本件明細書の実施例3のポリエステルフィルム6(ヒートシール層)におけるイソフタレートの含有割合と同程度であるから、甲1発明のポリエステルフィルムの可逆熱容量差の値は、前記ポリエステルフィルム6の可逆熱容量差の値0.29J/g・Kと同程度である」ことを主張している。 しかし、ヒートシール性フィルムの結晶状態は原料の成分組成及び製造条件の全部が反映された結果として決まるものであるから、イソフタレートの含有割合はフイルムの結晶状態に影響を及ぼす要因の一つにすぎず、「甲1発明のポリエステルフィルムにおけるイソフタレートの含有割合は、本件明細書の実施例3のポリエステルフィルム6(ヒートシール層)におけるイソフタレートの含有割合と同程度である」ことをもって直ちに甲1A発明のヒートシール層の可逆熱容量差の値が「前記ポリエステルフィルム6の可逆熱容量差の値0.29J/g・Kと同程度である」ということはできない。 また、申立人Aは申立書Aの第28頁において、「本件明細書の段落0015及び実施例の記載からすれば、可逆熱容量差とヒートシール強度とは相関があり、ヒートシール強度(ヒートシールした後の剥離強度)が4N/15mm以上25N/15mm以下の範囲内であれば、可逆熱容量差は0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下の範囲内に収まる」こと、及び「甲1発明のポリエステルフィルムは、本件特許発明1で特定する測定条件で測定した場合のヒートシール強度が、4N/15mm以上25N/15mm以下の範囲内に収まる蓋然性が極めて高いため、可逆熱容量差も0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下の範囲内に収まる蓋然性が極めて高い」と主張している。 しかし、ヒートシール強度はフィルム中の成分の分布、フィルムの表面状態なども含めた、原料の成分組成及び製造条件の全部が反映された結果として決まるものであるから、仮に甲1A発明のヒートシール強度を推測できたとしても、ヒートシール強度の値から遡って可逆熱容量差の値を一意に特定することはできず、甲1A発明の可逆熱容量差が0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下の範囲内に収まるとはいえない。 よって、申立人Aの主張はいずれも採用することができない。 (イ)進歩性欠如について 申立人Aは、申立書Aの第29頁において、「甲1発明において、ポリエステルフィルムの用途に応じて、ヒートシール層におけるイソフタレートの含有割合を増やす・・・ことにより、ヒートシール強度を・・・調整し・・・それにより(上記で述べたように、ヒートシール強度が4N/15mm以上25N/15mm以下の範囲内であれば、可逆熱容量差は0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下の範囲内に収まるといえる。)、結果的にヒートシール層の可逆熱容量差の値を0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下の範囲内にすることは当業者において容易に想到し得る」こと、当該構成により「当業者が予想し得ない格別顕著な作用効果が奏されるものでもない」こと、及び可逆熱容量差が0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である場合とそうでない場合とで効果に顕著な差異が生じることについては何ら証明されていないことを主張している。 しかしながら、甲1の第2欄36行~第3欄第3行(摘記1A-2)の「ポリエチレンテレフタレートとその融点が少なくとも10℃以上好ましくは20~70℃異なる共重合体が推奨される。例えばポリエチレンテレフタレート(融点265℃)に対してポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(共重合比80/20、融点230℃あるいは共重合比70/30、融点210℃)が挙げられる。」との記載をもって、甲1A発明におけるポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体のイソフタレート比率を30に変更したとしても、上記(ア)にて検討したとおり、当該可逆熱容量差は原料ポリエステルの成分組成及び製造条件の全てが反映された結果として得られる物性値であることから、イソフタレートの含有割合の調整によって、直ちに甲1A発明の可逆熱容量差を0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下の数値範囲内にすることはできない。 さらに、ヒートシール強度と可逆熱容量差とが一意に関連付けられるものでないことも、前記(ア)にて検討したとおりである。 したがって、甲1A発明において、相違点1A-2に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 そして、本件発明1は相違点1A-2に係る構成を含む全ての構成要件を備えることにより、本件明細書の[0008]に記載された「高いヒートシール強度を示すのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくいため、化成品、医薬品、食品といった油分や香料を含む物品を衛生的に包装することができる。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下でも収縮が少ない。また、前記のポリエステル系フィルムを加工しても破断等の問題が発生しにくい」という効果を発揮するものと認められ、可逆熱容量差の上限値及び下限値において効果に顕著な差異が生じるか否かによって進歩性の判断が変わるものではない。 よって、申立人Aの主張は採用することができない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、相違点1A-2は実質的な相違点であり、また、甲1A発明及び甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。そして、本件発明1は甲1Aから当業者が予測し得ない顕著な効果を発揮するものである。 よって、相違点1A-1、相違点1A-3及び相違点1A-4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1Aに記載された発明ではなく、かつ、甲1A発明及び甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。 (5)申立理由1A-1(甲1Aに基づく新規性欠如)及び申立理由1A-2(甲1Aに基づく進歩性欠如)のまとめ 以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲1Aに記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~4は、いずれも甲1Aに記載された発明及び甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由1A-1(甲1Aに基づく新規性欠如)及び申立理由1A-2(甲1Aに基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。 2.申立理由2A(甲2Aに基づく進歩性欠如)について (1)甲2Aに記載された事項 甲2Aには、以下の事項が記載されている。 (2A-1)「請求の範囲 [請求項1] エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が12モル%以上30モル%以下であるポリエステル樹脂で形成されたポリエステル系フィルムであって、一軸又は二軸に延伸されており、下記要件(1)~(4)を満たすことを特徴とするシーラント用途のポリエステル系フィルム。 (1)ポリエステル系フィルム同士を130℃でヒートシールした時のヒートシール強度が、2N/15mm以上20N/15mm以下 (2)ポリエステル系フィルムと他の結晶性のポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムを130℃でヒートシールした時のヒートシール強度が、2N/15mm以上8N/15mm以下 (3)ポリエステル系フィルムと他の結晶性のポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムを130℃でヒートシールした時のヒートシール強度が2N/15mm以上20N/15mm以下 (4)DSC測定による結晶融解熱容量ΔHmが10(J/g)以上~40(J/g)以下 [請求項2] 請求項1に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルムを少なくても1層として有していることを特徴とする積層体。」 (2A-2)「[0001] 本発明は、ヒートシール強度に優れたポリエステル系フィルムに関するものであり、特にポリエステル系フィルムとのヒートシール強度に優れたシーラント用のポリエステル系フィルム、並びにそれを用いた積層体、包装袋に関する。」 (2A-3)「[0006] 本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。即ち、本発明のポリエステル系フィルム同士の高いヒートシール強度を有するのみならず、他の無延伸ポリエステル系フィルムや他の二軸延伸ポリエステル系フィルムとのヒートシール強度に優れ、また種々の有機化合物を吸着し難く衛生性に優れたシーラント用途のポリエステル系フィルムを提供しようとするものである。また、前記のシーラント用途のポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋を提供しようとするものである。」 (2A-4)「[0009] 本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール性に優れたフィルムである。特に結晶性のポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルム、無延伸のポリエステル系フィルムとのヒートシール性が良好なシーラント用途のフィルムである。また、種々の有機化合物を吸着し難いので、包装袋として適したシーラント材を提供できる。印刷されていても、されていなくても構わない。また、他のフィルムとヒートシールやラミネートして積層させて包装袋として使用されることも好ましい。以下、本発明のポリエステル系フィルムについて説明する。」 (2A-5)「[0010] 本発明のポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましい。本発明において、ポリエステルを構成する他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。」 (2A-6)「[0012] ポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。 [0013] 本発明で用いるポリエステルは、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の環状ジオールや、炭素数3~6個を有するジオール(例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)のうちの1種以上を含有させて、ガラス転移点(Tg)を60~70℃に調整したポリエステルが好ましい。」 (2A-7)「[0014] また、ポリエステルは、全モノマー成分中(ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中)の非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が15モル%以上、好ましくは16モル%以上、より好ましくは17モル%以上、特に好ましくは18モル%以上である。また非晶質成分となり得るモノマー成分の合計の上限は30モル%である。 [0015] ポリエステルフィルムの結晶融解熱容量は、フィルムを構成する樹脂組成及び、熱固定温度や延伸倍率などの製膜条件により制御することができる。この結晶融解熱容量とは詳しくは後述するが、DSC測定により得られる値であり、フィルム中の結晶(製膜時の配向結晶及び、昇温中の冷結晶化)存在量の目安となる値である。非晶質成分が15モル%以下である場合、フィルムを構成する樹脂中の結晶質成分が多いため、溶融樹脂をダイから押し出した後に、例え急冷固化したとしても結晶化の速度が高すぎて的確な結晶化の制御ができなくなる。従ってこのような場合、熱固定温度や延伸倍率などの製膜条件を変更しても結晶化度を低く抑えることが不可能となり、結晶融解熱容量を、40(J/g)以下とすることが難しいため好ましく無い。また非晶成分の合計の上限は特に限定されないが、30モル%以下とすることが好ましい。非晶質成分が30モル%以上である場合、製膜条件を適宜選択することにより、フィルムの結晶融解熱容量を、40(J/g)以下とすることはできるものの、フィルムの厚みムラが増大し、生産性が悪くなる。また、非晶質成分が30モル%以上であると、耐熱性が低くなり、ヒートシール時にシール部の周囲がブロッキングしてしまう(加熱用部材からの熱伝導によって、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)ため、適切なヒートシールが難しくなるので好ましく無い。」 (2A-8)「[0017] 非晶質成分となり得るモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。これらの中でも、ポリエステルフィルムの非晶質成分となり得るモノマーとして、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸を用いた場合、フィルム製膜時において熱溶融状態から急冷固化した時に、結晶化度の上昇が抑制され、結晶化度が低い状態となる。そのため、その後の製膜工程における熱固定温度や延伸倍率などの製膜条件を適宜変更して、結晶化度を低く抑えることが可能となり、結晶融解熱容量を、40(J/g)以下とすることが容易となるため好ましい。」 (2A-9)「[0022] 次に本発明のシーラント用途のポリエステル系フィルムに当たって必要な特性を説明する。 まず、本発明のポリエステル系フィルムは、130℃で当該ポリエステル系フィルム同士をヒートシールした際のヒートシール強度が2N/15mm以上20N/15mm以下であることが好ましい。このヒートシール強度が2N/15mm未満では、容易に剥離されるので好ましくない。このヒートシール強度は2.5N/15mm以上が好ましく、3N/15mm以上がより好ましい。ヒートシール強度は大きいことが好ましいが、現状得られる上限は20N/15mm程度である。 [0023] ヒートシール強度の高いフィルムにするには結晶化度が低いことが望ましい。結晶化度が低い(即ち、非晶が多い)と、加熱により非晶が柔らかくなりヒートシール強度が増すと考えられる。一般的にフィルムは延伸により結晶化度が高くなるので、そのためヒートシールするシーラント材には、ポリプロピレン等の無延伸フィルムが多く用いられてきた。しかし、無延伸フィルムは生産性や機械強度が延伸フィルムに対して劣る。そこで発明者らは延伸しても結晶化度が低いフィルムにすることで、延伸してもヒートシール強度が良好になるのではないかと考えて取り組んだ。その結果、ポリエステルフィルムの原料として非晶性のモノマーを一定割合で使用し、DSC測定による結晶融解熱容量ΔHmの測定値を特定の範囲にコントロールすることで、延伸してもヒートシール強度が良好である、結晶化度が十分低いフィルムを得られることが分かった。」 (2A-10)「[0027] また本発明のポリエステル系フィルムにおいてフィルムの厚みは特に限定されないが、3μm以上200μm以下が好ましい。フィルムの厚みが3μmより薄いとヒートシール強度の不足や印刷等の加工が困難になるおそれがありあまり好ましくない。またフィルム厚みが200μmより厚くても構わないが、フィルムの使用重量が増えてケミカルコストが高くなるので好ましくない。フィルムの厚みは5μm以上190μm以下であるとより好ましく、7μm以上180μm以下であるとさらに好ましい。」 (2A-11)「[0032] 縦方向の延伸は、無延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸に当たっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~90℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸し難くなり(すなわち、破断が生じやすくなる)好ましくない。また90℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、連続生産によるロールの汚れ方が早くなり好ましくない。 [0033] フィルム温度が前記範囲になったら、縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。また縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸し難くなる(所謂破断が生じる)ので5倍以下であることが好ましい。縦延伸後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。 [0034] 次にテンター内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃~100℃で3.5~5倍程度の延伸倍率で、横延伸を行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75℃~110℃になるまで行うとよい。」 (2A-12)「[0037] 中間ゾーンの通過後は、熱処理を160℃以上で行うことが好ましい。従来、130℃より高い温度で熱処理を行うと、製膜工程においてポリエステルフィルムの結晶化が進行し、DSC測定による結晶融解熱容量ΔHmが上昇する。従って本発明のポリエステルフィルム同士、本発明のポリエステル系フィルムと他の結晶性のポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルム及びポリエステル系フィルムと他の結晶性のポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムをヒートシールした時のいずれにおいても、十分なヒートシール強度が得られなくなるため、熱処理温度は130℃以下で行うことが好ましいと考えられていた。しかしながら、融解開始温度より高温である160℃以上で熱処理を行うことにより、これまでの予想とは逆にポリエステルフィルムの結晶化度が低下し、ヒートシール強度が上昇することが分かった。これは、融解開始温度より高温で熱処理を行うことにより、フィルム中の分子鎖の配向性が乱れ、結果として結晶化度が低下する。その結果、160℃以上という高温で熱処理するにもかかわらず、ΔHmを低下させることが可能となったものと予想される。さらには、160℃以上の高温で熱処理することにより、130℃以下の熱処理では不可能であった、収縮率の低下防止や良好なデッドホールド性等の特性も備え、理想的なフィルムを得ることが可能となった。 また、熱処理ゾーンの通過時間は、2秒以上20秒以下が好ましい。熱処理ゾーンでの滞留時間は長い方が好ましく、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることが更に好ましいが、20秒程度で充分である。」 (2A-13)「[0040]<ポリエステル原料の調製> 合成例1 撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステルはポリエチレンテレフタレートである。 [0041] 合成例2 合成例1と同様にして、表1に示したポリエステル(B)~(E)を得た。表中、TPAはテレフタル酸、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(E)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。ポリエステルB,C,D,Eの固有粘度は、それぞれ、0.72dl/g,0.80dl/g,1.20dl/g,0.75dl/gであった。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。各ポリエステルの組成を表1に示す。 [0042][表1] [図:0001406730000002.jpg] 」 (2A-14)「[0043] ポリエステル系フィルムの評価方法を以下に示す。 [0044] [ヒートシール強度] JIS Z1707に準拠してシール強度測定実施した。具体的な手順を簡単に以下に記す。ヒートシーラーにて、サンプルのコート処理やコロナ処理等を実施していない面同士を接着。該接着サンプルを、引張強度試験機(東洋測機社製:商品名テンシロンUTM)を使用して、T時剥離強度の測定を行った。この時のシール圧力は10N/cm2、シール時間は2秒、シール温度は130℃と150℃で測定引張速度は200mm/分、試験片幅は15mm幅である。単位はN/15mmで示す。」 (2A-15)「[0050] [実施例1] 上記したポリエステルAとポリエステルBとポリエステルDとポリエステルEを質量比5:66:24:5で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ420μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/min.であった。しかる後、その未延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が78℃になるまで予備加熱した後に3.5倍に延伸した。しかる後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。 [0051] そして縦延伸後の冷却されたフィルムを、横延伸機に導いた。横延伸機ではまずフィルム温度が90℃になるまで予備加熱して、85℃で4倍に横方向に延伸した。その後、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、熱処理ゾーンへ導き、95℃の温度で10秒間に亘って熱処理することによって厚み30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。ヒートシール強度、保香性、吸着性のいずれにも優れたフィルムであった。 [0052][実施例2] 未延伸フィルムの厚みを420μmから280μmに変更し、二軸延伸後のフィルム厚みが30μmから20μmになった以外は実施例1と同様の方法で厚み20μmの二軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。実施例1と同様に優れたフィルムであった。 [0053][実施例3] 未延伸フィルムの厚みを420μmから180μmに変更し、縦方向の延伸倍率を3.5倍から1.5倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚み30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。実施例1よりも更にヒートシール強度が高い点で好ましいフィルムであった。 [0054][実施例4] 横方向に延伸後の熱処理温度を95℃から120℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚み30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。130℃でのヒートシール強度が実施例1よりやや低いが、総合的には好ましいフィルムであった。 [0055][実施例5] 未延伸フィルムの厚みを420μmから120μmに変更し、縦方向に延伸しないで、横延伸の温度を85℃から75℃に変更した以外は実施例1と同様に厚み30μmの一軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。実施例1よりも更にヒートシール強度が高い点で好ましいフィルムであった。 [0056][実施例6] 原料Bと原料Cを入れ替えた以外は実施例1と同様の方法で厚み30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。ヒートシール強度が高く実施例1と同様に優れたフィルムであった。 [0057][実施例7] 原料Aと原料Bの比率を変更し、非晶質成分のモノマー量を変更した以外は実施例1と同様の方法で厚み30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。ヒートシール強度は実施例1に比較して若干低いが、実用上は問題無いフィルムであった。 [0058][実施例8] 原料Aの使用を無くし、原料Bの比率を高くし、非晶質成分のモノマー量を変更した以外は実施例1と同様の方法で厚み30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。実施例1よりもヒートシール強度が高い点で好ましいフィルムであった。 [0059][実施例9] 横方向に延伸後の熱処理温度を95℃から170℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚み30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。130℃でのヒートシール強度が実施例1よりやや低いが、総合的には好ましいフィルムであった。」 (2A-16)「[0062][表2] [図:0001406730000003.jpg] 」 (2A-17)「[0063][表3] [図:0001406730000004.jpg] 」 (2)甲2Aに記載された発明 甲2Aの請求項1(摘記2A-1)には、「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が12モル%以上30モル%以下であるポリエステル樹脂で形成されたポリエステル系フィルムであって、一軸又は二軸に延伸されており、下記要件(1)~(4)を満たすことを特徴とするシーラント用途のポリエステル系フィルム。 (1)ポリエステル系フィルム同士を130℃でヒートシールした時のヒートシール強度が、2N/15mm以上20N/15mm以下 (2)ポリエステル系フィルムと他の結晶性のポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムを130℃でヒートシールした時のヒートシール強度が、2N/15mm以上8N/15mm以下 (3)ポリエステル系フィルムと他の結晶性のポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムを130℃でヒートシールした時のヒートシール強度が2N/15mm以上20N/15mm以下 (4)DSC測定による結晶融解熱容量ΔHmが10(J/g)以上~40(J/g)以下」が記載されている。 また、甲2Aの[0040]~[0042]の[表1](摘記2A-13)には、所定のジカルボン酸成分及び多価アルコール成分を重縮合することにより、表1に示す組成を有するポリエステル原料A~Eを製造したことが記載され、[0050]~[0058](摘記2A-15)には、実施例1~9として、上記のポリエステル原料を[0062]の[表2](摘記2A-16)に記載された質量比で混合し、所定の製造工程を経て二軸延伸フィルムロールを得たこと、得られたフィルムの特性を評価した結果が[0063]の[表3](摘記2A-17)に記載され、ヒートシール強度の評価方法は[0044](摘記2A-14)に記載され、ヒートシール強度、保香性、吸着性のいずれにも優れたフィルムであったことが記載されている。 そうすると、甲2Aの実施例1~9は、いずれも甲2Aの請求項1に係る発明の「シーラント用途のポリエステル系フィルム」の実施例に相当するものであり、各実施例についての具体的な記載に基づいて、甲2Aには以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリエステルA(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がEG99モル%及びDEG1モル%)とポリエステルB(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がEG68モル%、NPG30モル%及びDEG2モル%)とポリエステルD(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がBD100モル%)とポリエステルE(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がEG99モル%及びDEG1モル%であり、滑剤添加量が7000ppm)を質量比5:66:24:5で混合して押出機に投入し、しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ420μmの未延伸フィルムを得て、しかる後、その未延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が78℃になるまで予備加熱した後に3.5倍に延伸し、しかる後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却し、そして縦延伸後の冷却されたフィルムを、横延伸機に導き、横延伸機ではまずフィルム温度が90℃になるまで予備加熱して、85℃で4倍に横方向に延伸し、その後、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、熱処理ゾーンへ導き、95℃の温度で10秒間に亘って熱処理することによって得られた、厚み30μm、ヒートシール強度(JIS Z1707に準拠して、サンプルのコート処理やコロナ処理等を実施していない面同士をヒートシーラーで、シール圧力は10N/cm2、シール時間は2秒、シール温度は130℃と150℃で接着し、該接着サンプルを、引張強度試験機(東洋測機社製:商品名テンシロンUTM)を使用して、測定引張速度は200mm/分、試験片幅は15mm幅でT時剥離強度の測定を行い、単位はN/15mmで示す。他の実施例も同様。)が10.1N/15mm(130℃)及び18.5N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例1発明」という。) 「未延伸フィルムの厚みを420μmから280μmに変更し、二軸延伸後のフィルム厚みが30μmから20μmになった以外は実施例1と同様の方法で得られた、厚み20μm、ヒートシール強度が8.7N/15mm(130℃)及び11.4N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例2発明」という。) 「未延伸フィルムの厚みを420μmから180μmに変更し、縦方向の延伸倍率を3.5倍から1.5倍に変更した以外は実施例1と同様の方法で得られた、厚み30μm、ヒートシール強度が13.1N/15mm(130℃)及び19.2N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例3発明」という。) 「横方向に延伸後の熱処理温度を95℃から120℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で得られた、厚み30μm、ヒートシール強度が8.1N/15mm(130℃)及び19.5N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例4発明」という。) 「未延伸フィルムの厚みを420μmから120μmに変更し、縦方向に延伸しないで、横延伸の温度を85℃から75℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で得られた、厚み30μm、ヒートシール強度が14.5N/15mm(130℃)及び19.5N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例5発明」という。) 「原料Bと原料C(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がEG67モル%、CHDM30モル%及びDEG3モル%)を入れ替えた以外は実施例1と同様の方法で得られた、厚み30μm、ヒートシール強度が12.5N/15mm(130℃)及び21N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例6発明」という。) 「原料Aと原料Bの質量比を21:50に変更し、非晶質成分のモノマー量を変更した以外は実施例1と同様の方法で得られた、厚み30μm、ヒートシール強度が5.5N/15mm(130℃)及び11N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例7発明」という。) 「原料Aの使用を無くし、原料B、D、Eの比率を80:15:5とし、非晶質成分のモノマー量を変更した以外は実施例1と同様の方法で得られた、厚み30μm、ヒートシール強度が17.5N/15mm(130℃)及び23N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例8発明」という。) 「横方向に延伸後の熱処理温度を95℃から170℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で得られた、厚み30μm、ヒートシール強度が9N/15mm(130℃)及び16.8N/15mm(150℃)である、シーラント用途のポリエステル系フィルム。」(以下、「甲2A実施例9発明」という。) (3)本件発明1について ア 甲2A実施例1発明に基づく進歩性 (ア)本件発明1と甲2A実施例1発明との対比 本件発明1と甲2A実施例1発明とを対比すると、甲2A実施例1発明における「シーラント用途のポリエステル系フィルム」は、本件発明1における「ポリエステル系シーラントフィルム」に相当し、甲2A実施例1発明の製造原料として「ポリエステルA(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がEG99モル%及びDEG1モル%)とポリエステルB(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がEG68モル%、NPG30モル%及びDEG2モル%)とポリエステルD(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がBD100モル%)とポリエステルE(酸成分がTPA100モル%、多価アルコール成分がEG99モル%及びDEG1モル%であり、滑剤添加量が7000ppm)を質量比5:66:24:5で混合」した「混合樹脂」が用いられていることからみて、甲2A実施例1発明における「ポリエステル系フィルム」は、本件発明1における「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され」との特定事項を満たす。 また、甲2A実施例1発明のフィルムは、ヒートシール強度の測定において、「JIS Z1707に準拠して、サンプルのコート処理やコロナ処理等を実施していない面同士をヒートシーラーで、シール圧力は10N/cm2、シール時間は2秒、シール温度は130℃と150℃で接着」することができるものであるから、本件発明1における「ヒートシール層」に相当するとともに、甲2A実施例1発明の製造工程及び得られたフイルムの層構成(厚み)からみて、本件発明1における「(1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。」との特定事項を満足する。 そうすると、両者は、 「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)を満たすことを特徴とするポリエステル系シーラントフィルム。 (1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。」 の点で一致し、 相違点2A-1:本件発明1は「(2)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールした後の剥離強度が4N/15mm以上25N/15mm以下である。」と特定するのに対し、甲2A実施例1発明は「ヒートシール強度(JIS Z1707に準拠して、サンプルのコート処理やコロナ処理等を実施していない面同士をヒートシーラーで、シール圧力は10N/cm2、シール時間は2秒、シール温度は130℃と150℃で接着し、該接着サンプルを、引張強度試験機(東洋測機社製:商品名テンシロンUTM)を使用して、測定引張速度は200mm/分、試験片幅は15mm幅でT時剥離強度の測定を行い、単位はN/15mmで示す。)が10.1N/15mm(130℃)及び18.5N/15mm(150℃)である」点 相違点2A-2:本件発明1は「(3)温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差が、0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である。」と特定するのに対し、甲2A実施例1発明はそのように特定されていない点 相違点2A-3:本件発明1は「(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。」と特定するのに対し、甲2A実施例1発明はそのように特定されていない点 相違点2A-4:本件発明1は「(5)タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度がいずれも、100MPa以上300MPa以下である。」と特定するのに対し、甲2A実施例1発明はそのように特定されていない点 で相違する。そこで、上記相違点について検討する。 (イ)相違点2A-3及び相違点2A-4について 事案に鑑み、相違点2A-3及び相違点2A-4について検討する。 甲2Aには、「80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率」及び「タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度」について記載されておらず、[0063]の[表3](摘記2A-17)にも「熱収縮率」及び「引張破壊強度」の測定値は記載されていない。 また、甲2Aの[0037](摘記2A-12)には、「160℃以上の高温で熱処理することにより、130℃以下の熱処理では不可能であった、収縮率の低下防止や良好なデッドホールド性等の特性も備え、理想的なフィルムを得ることが可能となった」ことが記載されているから、甲2A実施例1発明は熱収縮率の低下が抑制されたものであるが、甲2A実施例1発明が「80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下」という数値範囲を満たすかどうかは依然として不明である。なお、甲2Aは、本件明細書の[0003]中で特許文献3として説明され、「特許文献3の実施例1のフィルムをシーラントとして使用し、真夏の車内(約80℃)といった高温環境下に放置すると、シーラントが収縮することによって元の形状を保てないという問題があった」、すなわち、甲2A実施例1発明は約80℃で熱収縮すると記載されている。 さらに、甲2Aの[0023](摘記2A-9)には、「無延伸フィルムは生産性や機械強度が延伸フィルムに対して劣る。そこで発明者らは延伸しても結晶化度が低いフィルムにすることで、延伸してもヒートシール強度が良好になるのではないかと考えて取り組んだ」ことが記載されているが、ヒートシール強度の改善と同時に、引張破壊強度を「タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度がいずれも、100MPa以上300MPa以下」に改善したことは記載されていない。 そうすると、甲2Aには、フィルムの熱収縮率及び引張破壊強度を相違点2A-3及び相違点2A-4に相当する範囲に特定することは実質的にも記載されていないといえる。 そして、申立人が提出した他の全ての証拠を参照しても、甲2A実施例1発明における熱収縮率及び引張破壊強度を「80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下」及び「タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度がいずれも、100MPa以上300MPa以下」という具体的な範囲に特定する動機となる記載はなく、相違点2A-3及び相違点2A-4に係る構成を含む本件発明1の(1)~(5)を同時に満たすフィルムを当業者が容易に想到し得たとは認められない。 また、本件発明1は相違点2A-3及び相違点2A-4に係る構成を含む全ての構成要件を備えることにより、本件明細書の[0008]に記載された「高いヒートシール強度を示すのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくいため、化成品、医薬品、食品といった油分や香料を含む物品を衛生的に包装することができる。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下でも収縮が少ない。また、前記のポリエステル系フィルムを加工しても破断等の問題が発生しにくい」という効果を発揮するものと認められる。 (ウ)申立人Aの主張について 申立人Aは申立書Aの第43頁において、「甲1発明のポリエステルフィルムは、本件特許発明1の発明特定事項E及びFを満足するものである」こと、及び「甲2発明は、ヒートシール性に優れたポリエステル系フィルムとすることを目的とするものであり(段落0009)、ヒートシール性をさらに向上させる強い動機付けがあり、ヒートシール性に優れたポリエステルフィルムに係る甲1発明に接した当業者において、甲2発明に、甲1発明に係る技術事項を適用して、ポリエステル系フィルムの材料を適宜調整したり、延伸倍率や熱処理温度等を適宜調整することにより、フィルムを150℃の熱風中で1時間処理したのちの、フィルムの長さの収縮割合である熱収縮性が1%以下、かつ引張強度がタテ1120kg/cm2(=112MPa)及びヨコ1030kg/cm2(=103MPa)になるようにして、結果的に本件特許発明1の発明特定事項E及びFを満足するものとすることは容易に想到し得る」ことを主張している。 しかし、ヒートシール性フィルムの性質は、原料の成分組成及び製造条件の全部が反映された結果として決まるものであるところ、甲2A実施例1発明とは成分組成及び製造工程が異なる甲1A発明についての技術的事項を甲2A実施例1発明に適用することは当業者が容易に想到し得ることではないし、仮に適用することができるとしても、甲1Aには甲2A実施例1の成分組成及び製造工程のどの点をどのように調整すればフィルムの熱収縮率及び引張破壊強度を相違点2A-3及び相違点2A-4に相当する範囲に調整できるかは具体的に記載されておらず、かつ、熱収縮率、引張破壊強度に加えてヒートシール強度及び可逆熱容量差に関する相違点2A-1及び相違点2A-2も同時に解消する動機となる記載も具体的な方法も記載されていないから、甲2A実施例1発明と甲1Aとを組み合わせても、当業者が相違点2A-3及び相違点2A-4に係る構成に容易に想到し得たとはいえない。 また、申立人Aは申立書Aの第43~44頁において「シーラントフィルムにおいて、熱収縮率が大きくなりすぎると、フィルムをヒートシールした際に収縮が大きくなりすぎてシール面に悪影響が生じやすくなること、また、熱収縮率が0%を下回ればフィルムをヒートシールした際にフィルムが伸びてシール面に悪影響がでること、また、フィルムの引張強度が低くなりすぎると、フィルムをヒートシールした際に破断が生じやすくなることは当業者において自明であり、発明特定事項E及びFによって当業者が予想し得ない格別な作用効果が奏されるものでもない」こと、及び「本件明細書において、「80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である」場合とそうでない場合、及び「タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度がいずれも、100MPa以上300MPa以下である」場合とそうでない場合とで効果に顕著な差異が生じることについては何ら証明されていないため、発明特定事項E及びFとすることによって顕著な効果が奏されるとは認められない」と主張している。 しかし、相違点2A-3及び相違点2A-4に係る構成に容易に想到し得ない以上、熱収縮率及び引張破壊強度の上限値及び下限値において効果に顕著な差異が生じるか否かによって進歩性の判断が変わるものではない。 よって、申立人Aの主張はいずれも採用することができない。 (エ)小括 以上のことから、相違点2A-3及び相違点2A-4は実質的な相違点であり、甲2A実施例1発明及び甲1A~甲9Aに記載された事項に基づいて当業者が相違点2A-3及び相違点2A-4に係る構成に容易に想到し得たこととは認められない。そして、本件発明1は甲2A、甲1A及び甲3A~甲9Aから当業者が予測し得ない顕著な効果を発揮するものである。 よって、相違点2A-1及び相違点2A-2について検討するまでもなく、本件発明1は甲2A実施例1発明及び甲1A~甲9Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 甲2A実施例2発明~甲2A実施例9発明に基づく進歩性 本件発明1と甲2A実施例2発明~甲2A実施例9との一致点及び相違点は、いずれの場合も甲2A実施例1発明の場合と同様に考えることができるから、甲2A実施例1発明の場合と同様の理由により本件発明1は甲2A実施例2発明~甲2A実施例9発明及び甲1A~甲9Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、本件発明1は甲2Aに記載された発明及び甲1A~甲9Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。 (5)申立理由2A(甲2Aに基づく進歩性欠如)のまとめ 以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲2Aに記載された発明及び甲1A~甲9Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由2A(甲2Aに基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。 3.申立理由1B-1(甲1Bに基づく新規性欠如)及び申立理由1B-2(甲1Bに基づく進歩性欠如)について (1)甲1Bに記載された事項 甲1Bには、以下の事項が記載されている。日本語訳は申立人Bが提出した翻訳文に基づく。図表以外の原文は省略した。 (1B-1)(日本語訳)「製品の説明:Mylar(R)850は、共押出しされた片面ヒートシール可能なポリエステルフィルムです。Mylar(R)850は、それ自身にヒートシールすることが可能であり、また、熱成形されたAPET/CPETトレイとAPETコーティングされたボードに良好にヒートシールします。Mylar(R)850はまた、PVdC、PVC、紙、アルミホイルなど、他の様々な基材 にもヒートシールされますが、ポリオレフィンにはシールされません。Mylar(R)850のプレーンな(ヒートシールしない)表面は、標準的なポリエステルフィルムの特性を示します。 Mylar(R)850は、15ミクロンと20ミクロンの厚さでご入手頂けます。Mylar(R)850AFは30ミクロンの厚さでご入手頂けます。別添のデータシートをご参照ください。)」(第1頁本文1~6行) (1B-2)「 [図:0001406730000005.jpg] 」(第1頁本文7~8行) (図横の日本語訳) (1B-2)「上段:透明PETフィルム、下段:共押出APETヒートシール層」 (1B-3)(日本語訳)「代表的な用途:Mylar(R)850は、単一のウェブ(図1)又はラミネートの一部(図2)として、APET/CPETトレイに蓋をするための優れたフィルムです。このような包装体は、オーブン用デュアル調理製品によく使用されます。Mylar(R)850は、Form-Fill-Seal機器及びブリスターパックにも使用できます。その優れた保香特性により、芳香剤やトイレブロックなどの芳香製品の包装に最適です。」(第1頁本文9~12行) (1B-4)(日本語訳)「実用情報:Mylar(R)850は、140℃から220℃までの極めて広いヒートシール範囲を有し、優れたホットタック特性を備えています。」(第1頁本文のPractical Information) (1B-5)「 [図:0001406730000006.jpg] 」(第2頁上欄の表Typical Properties) (日本語訳(一部)) (1B-5) 第2頁の表「代表的な特性」の左欄の第3、10、12~13、16及び18行には、フィルム厚さ、収縮(190℃で5分)、ヒートシール強度:シール対シール、シーリング温度範囲、引張破壊強度」の性質名が記載されている。 (2)甲1Bに記載された発明 甲1Bの「製品の説明」(摘記1B-1)には、帝人デュポンフィルム社の商品名「Mylar(R)850」という製品が、「共押出しされた片面ヒートシール可能なポリエステルフィルム」であることが記載され、当該説明の下の図(摘記1B-2)には、フィルムの上段が透明PETフィルムであり、下段が共押出APETヒートシール層である旨の説明が記載されている。また、第2頁の「代表的な特性」の表(摘記1B-5)には、Mylar(R)850の熱収縮(ASTM D1204-78 190℃ 5分)がMD方向3%、TD方向3%であること、及びシール対シールのヒートシール強度(140℃、40psi、1秒)が800g/25mmであること、及び引張破壊強度(ASTM D882-83)がMD方向165MPa、TD方向230MPaであることが記載されている。 そうすると、甲1Bには以下の発明が記載されていると認められる。 「上段が透明PETフィルムであり、下段が共押出APETヒートシール層である、共押出しされた片面ヒートシール可能なポリエステルフィルムであって、熱収縮(ASTM D1204-78 190℃ 5分)がMD方向3%、TD方向3%であり、シール対シールのヒートシール強度(140℃、40psi、1秒)が800g/25mmであり、引張破壊強度(ASTM D882-83)がMD方向165MPa、TD方向230MPaである、Mylar(R)850という商品名のフィルム。」(以下、「甲1B発明」という。 (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲1B発明との対比 本件発明1と甲1B発明とを対比すると、甲1B発明における「Mylar(R)850という商品名のフィルム」は、「上段が透明PETフィルムであり、下段が共押出APETヒートシール層である」から、本件発明1における「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され」に相当し、甲1B発明における「ヒートシール可能なポリエステルフィルム」は、本件発明1における「ポリエステル系シーラントフィルム」に相当する。 また、甲1B発明の「共押出しされた片面ヒートシール可能な」及び「上段が透明PETフィルムであり、下段が共押出APETヒートシール層である」点は、本件発明1における「(1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。」に相当する。 そうすると、両者は、 「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)を満たすことを特徴とするポリエステル系シーラントフィルム。 (1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。」 の点で一致し、 相違点1B-1:本件発明1は「(2)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールした後の剥離強度が4N/15mm以上25N/15mm以下である。」と特定するのに対し、甲1B発明は「シール対シールのヒートシール強度(140℃、40psi、1秒)が800g/25mm」である点 相違点1B-2:本件発明1は「(3)温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差が、0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である。」と特定するのに対し、甲1B発明はそのように特定されていない点 相違点1B-3:本件発明1は「(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。」と特定するのに対し、甲1B発明は「熱収縮(ASTM D1204-78 190℃ 5分)がMD方向3%、TD方向3%」である点 相違点1B-4:本件発明1は「(5)タテ、ヨコ両方向の引張破壊強度がいずれも、100MPa以上300MPa以下である。」と特定するのに対し、甲1B発明は「引張破壊強度(ASTM D882-83)がMD方向165MPa、TD方向230MPa」である点 で相違する。そこで、上記相違点について検討する。 イ 相違点1B-2について 事案に鑑み、相違点1B-2について検討する。 (ア)新規性について 甲1Bには、「温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差」について記載されておらず、「典型的な特性」表(摘記1B-5)にも「可逆熱容量差」の測定値は記載されていない。 また、1.(3)イ「相違点1A-2について」に記載したとおり、本件明細書には「可逆熱容量差」が「可動非晶量の指標」であり、「可逆熱容量差ΔCpが0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下であることが好ましい」ことが記載されているが、甲1BにはAPETヒートシール層における非晶性成分について具体的な言及はなく、非晶相が剛直非晶と可動非晶に分けられることについても記載されていないから、可動非晶量に対応するとされる可逆熱容量差を「0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下」という具体的な範囲に特定することは実質的にも記載されていないといえる。 そうすると、相違点1B-2は実質的な相違点である。 (イ)進歩性について また、申立人Bが提出した甲2Bにも、可逆熱容量差についての具体的な記載はなく、甲1B発明における可逆熱容量差を「0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下」という具体的な範囲に特定する動機は見いだせない。 そして、本件発明1は相違点1B-2に係る構成を含む全ての構成要件を備えることにより、本件明細書の[0008]に記載された「高いヒートシール強度を示すのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくいため、化成品、医薬品、食品といった油分や香料を含む物品を衛生的に包装することができる。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下でも収縮が少ない。また、前記のポリエステル系フィルムを加工しても破断等の問題が発生しにくい」という効果を発揮するものと認められる。 ウ 申立人Bの主張について (ア)新規性欠如について 申立人Bは、令和5年9月14日に提出した特許異議申立書(以下、「申立書B」という。)の第20頁において、「要件[e]自体は温度変調DSCによって測定される、フィルムの材料についての分析値に過ぎず、その値自体は特許発明1のシーラントフィルムとしての効果に関するものではない」こと、「要件[e]の可逆熱容量差は「好適なヒートシール強度を確保」するためのパラメーターであるところ、特許発明1において、その「可逆熱容量差」を制御したとされることによって得られるヒートシール強度(剥離強度)は・・・ヒートシールの用途に通常用いられるフィルムであれば当然に満たす程度のものに過ぎない」こと、及び「甲第1号証に記載されるMylar(R)850のフィルムのような通常ヒートシール用途に用いられるものであれば、その可逆熱容量差は、特許発明1の要件[e]を当然に満たすものと考えられる」ことを主張している。 しかし、ヒートシール強度はフィルム中の成分の分布、フィルムの表面状態なども含めた、原料の成分組成及び製造条件の全部が反映された結果として決まるものであるから、仮に甲1B発明のヒートシール強度を推測できたとしても、ヒートシール強度の値から遡って可逆熱容量差の値を一意に特定することはできず、甲1B発明の可逆熱容量差が0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下の範囲内に収まるとはいえない。 よって、申立人Bの主張は採用することができない。 (イ)進歩性欠如について 申立人Bは、申立書Bの第22頁において、「要件[e]の可逆熱容量差について、仮に、甲第1号証に記載のフィルムがこの数値範囲を満たさないものであったとしても、前述の通り「可逆熱容量差」はフィルムの材料についての分析値に過ぎず、その値自体は特許発明1のシーラントフィルムとしての効果に関するものではないため、その値自体に基づいて進歩性が肯定されるものではない」こと、及び「(本件の)特許の請求項1では、フィルムの材料についての分析値をパラメーターとして要件[e]として規定されているものの、その要件を設けたことによってフィルム自体について何ら有利な効果をもたらすものではなく、従来のフィルムとの関係において何ら技術的な意義を有しない要件である。従って、仮に甲第1号証に記載のフィルムが特許発明1の要件[e]を満たさないとしても、当該要件自体に技術的意義は存在せず、進歩性をもたらすものではない」ことを主張している。 しかし、本件発明1の「可逆熱容量差」は、シーラントフィルムの性質に影響を及ぼす構成要件の一つであるから、技術的意義が存在しないとはいえず、甲1B発明及び甲2に記載された事項に基づいて相違点1B-2に係る構成に当業者が容易に想到し得ない以上、進歩性は肯定される。 よって、申立人Bの主張は採用することができない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、相違点1B-2は実質的な相違点であり、また、甲1B発明及び甲2Bに記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。 そして、本件発明1は甲1B及び甲2Bから当業者が予測し得ない顕著な効果を発揮するものである。 よって、相違点1B-1、相違点1B-3及び相違点1B-4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1Bに記載された発明ではなく、かつ、甲1B発明及び甲2Bに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。 (5)申立理由1B-1(甲1Bに基づく新規性欠如)及び申立理由1B-2(甲1Bに基づく進歩性欠如)のまとめ 以上まとめると、本件発明1及び4は、いずれも甲1Bに記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~4は、いずれも甲1Bに記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由1B-1(甲1Bに基づく新規性欠如)及び申立理由1B-2(甲1Bに基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。 4.申立理由2B(甲2Bに基づく進歩性欠如)について (1)甲2Bに記載された事項 甲2Bは甲2Aと同じ文献であり、2.(1)「甲2Aに記載された事項」に摘記したとおりの事項が記載されている。 (2)甲2Bに記載された発明 甲2Bには、その請求項1(摘記2A-1)に記載された事項により特定される発明(以下、「甲2B発明」という。)が記載されているものと認められる。 (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲2B発明との対比、判断 本件発明1と甲2B発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は2.(3)ア(ア)「本件発明1と甲2A実施例1発明との対比」に記載した一致点及び相違点2A-1~2A-4と概ね同様であるから、相違点についての判断も同じである。 イ 申立人Bの主張について 申立人Bは、申立書Bの第27~28頁において、「甲第3号証には、可逆熱容量差△Cpが0.45J/(g・℃)よりも小さいと高熱収縮率を達成できないことが記載されている(段落0016)。・・・高い熱収縮率を有しないフィルムにおいては、可動非晶が剛直非晶に変化していることが示唆される」こと、「特許発明 1(特許明細書の段落0006、特許発明1の要件[f]参照)において、熱処理を行いながら可逆熱容量差△Cpを、甲第3号証に記載される下限値の0.45J/(g・℃)よりも小さい値である「0.18]/g・K以上0.35J/g・K以下」として可動非晶の割合を制御することによって、加熱時の収縮率を要件[f]に規定するような低い範囲を達成することは、甲第3号証の記載内容に触れた当業者にとって容易である」こと、「甲第3号証には、最終熱処理において熱処理やリラックス処理を行うこと(段落0046)、熱処理(リラックス処理)温度は65℃~40℃が好ましいこと(段落0047)、実施例1では10%横方向(フィルム幅方向)にリラックスを実施したこと(段落0064)が記載されている。また、甲第4号証では、熱処理温度がTg+50℃より高いと可動非晶が少なくなって熱収縮率が小さくなること(段落0066)、最終熱処理工程においては長手方向のリラックス率が21%未満であると、剛直非晶から可動非晶への変化量が少なくなること(段落0079)が記載されている。従って、甲第3号証や甲第4号証の記載内容に触れた当業者にとって、要件[f]・・・となるように、適切な熱処理条件を調整することに何ら困難性はない」ことを主張している。 しかし、2.(3)ア(イ)「相違点2A-3及び相違点2A-4について」に記載したように、甲2Bの記載から甲2B発明が「80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下」という数値範囲を満たすかどうかは不明であり、甲3及び甲4と組み合わせても当業者が「高い熱収縮率を有しないフィルム」の構成を採用することは動機付けられないものである。 また、申立人Bは、申立書Bの第28~29頁において、「甲第6号証には、少なくともナイロン6繊維の高強度化には、総剛直成分量を高めて可動非晶量を減少させる必要があることが記載されている(第35頁(p-391)左欄第7~9行)。つまり、特許発明の共重合ポリエステルにおいて、引張破断強度を高めるためには、延伸処理後の熱処理工程にて高温下で結晶化度を高めるだけは不十分であり、非晶成分のうちの剛直非晶の割合を多くすることが求められることが理解できる」こと、及び「甲第3号証や甲第4号証には、延伸処理された共重合ポリエステルについて、結晶化を抑制しつつ剛直非晶を維持させるための熱処理条件が記載されている。・・・従って、甲第3号証や甲第4号証の記載内容に触れた当業者にとって、甲第2号証の非晶成分を共重合されたポリエステルフィルムを用いて、延伸処理後の熱処理条件(温度とリラックス)を適切に調整することによって、非晶成分に起因するヒートシール性を維持したまま、可逆熱容量の数値範囲を適宜設定し、さらに熱処理条件を最適化することによって、低収縮率、さらに引張破断強度に優れたフィルムを得ることについて困難性はない」と主張している。 しかし、甲3B及び甲4Bは、「熱収縮性ポリエステル系フィルム及び包装体」(発明の名称)が記載された文献であり、仮に甲2Bと組み合わせても、甲2B発明において熱収縮率及び引張破壊強度を相違点2A-3及び相違点2A-4に相当する範囲に調整することは動機付けられるものではなく、かつ、熱収縮率、引張破壊強度に加えてヒートシール強度及び可逆熱容量差に関する相違点2A-1及び相違点2A-2も同時に解消する動機となる記載も具体的な方法も記載されていないから、甲2B発明と甲3B及び甲4Bとを組み合わせても、当業者が相違点2A-3及び相違点2A-4に係る構成に容易に想到し得たとはいえない。 よって、申立人Bの主張はいずれも採用することができない。 ウ 本件発明1についてのまとめ よって、本件発明1は甲2B発明及び甲3B~甲6Bに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。 (5)申立理由2B(甲2Bに基づく進歩性欠如)のまとめ 以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲2Bに記載された発明及び甲3B~甲6Bに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由2B(甲2Bに基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。 5.申立理由3-1(実施可能要件違反)について (1)実施可能要件の判断手法 物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。 (2)本件明細書の記載 本件明細書には、以下のような事項が記載されている。 「[発明が解決しようとする課題] [0006] 本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。すなわち、高いヒートシール強度を有するのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくく、加熱時に収縮が少なく、引張強度の高いシーラント用途に好適なポリエステル系フィルムを提供することが本発明の要旨である。また、本発明は、前記のシーラント用途に好適なポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋を提供しようとするものである。」 「[発明の効果] [0008] 本発明のポリエステル系フィルムは、高いヒートシール強度を示すのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくいため、化成品、医薬品、食品といった油分や香料を含む物品を衛生的に包装することができる。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下でも収縮が少ない。また、前記のポリエステル系フィルムを加工しても破断等の問題が発生しにくい。さらに、前記のポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体と、それを用いた包装袋を提供できるものである。」 「[0010] 本発明のポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)~(4)を満たすことを特徴とするポリエステル系フィルムである。 (1)少なくとも一層のヒートシール層を有し、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該ヒートシール層を有する。 (2)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールした後の剥離強度が4N/15mm以上25N/15mm以下である。 (3)温度変調DSCから測定されるポリエステル系フィルムのヒートシール層のガラス転移温度前後の可逆熱容量差が、0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下である。 (4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも-10%以上10%以下である。 (5)引張破壊強度が80MPa以上300MPa以下である。 [0011] 前記の要件を満たす、本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール性に優れたポリエステル系フィルムであり、シーラント用途に好適である。また、種々の有機化合物を吸着し難いので、包装袋として適したシーラント材を提供できる。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下でもその形状を保つことができる。加えて、本発明のポリエステル系フィルムは引張強度が高いため、加工性が良好である。 特に、前記のヒートシール性と低収縮性及び、ヒートシール性と高い引張強度はそれぞれ2律背反の特性であり、これらの特性を全て満足できるポリエステル系フィルムは従来にはなかった。以下、本発明のポリエステル系フィルムについて説明する。」 「[0012] 1.ヒートシール層を構成するポリエステル原料の種類 本発明のヒートシール層に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。 また、本発明に用いるポリエステルにエチレンテレフタレートユニット以外の成分として、非晶成分となりうる1種以上のモノマー成分(以下、単に非晶成分と記載する)を含むことが好ましい。これは、非晶成分の存在により、後述する可逆熱容量差が、延伸や熱固定といった製膜工程中でも低下しにくくなり、ヒートシール強度が向上するためである。非晶成分となりうるカルボン酸成分のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。 また、非晶成分となりうるジオール成分のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。 これらの非晶性カルボン酸成分、ジオール成分のうち、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールを用いることが好ましい。これらの成分を用いることで、フィルムの可逆熱容量差を高めてヒートシール強度を向上させやすくなる。 本発明においては、エチレンテレフタレートや非晶成分以外の成分を含んでいてもよい。ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)はポリエステル中に含有させないことが好ましい。 また、上記以外でポリエステルを構成する成分としては、1,4-ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。この中でも1,4-ブタンジオールを含有することが好ましい。さらに、ポリエステルを構成する成分として、ε-カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを含んでいてもよい。これらの成分は、フィルムの可逆熱容量差を高めるだけでなく、フィルムの融点を下げる効果があるため、ヒートシール層の成分として好ましい。ただし、ポリエステルには炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)はフィルムの強度を著しく下げてしまうため、含有させないことが好ましい。」 「[0014] 2.ポリエステル系フィルムの層構成 本発明のポリエステル系フィルムは、上述のヒートシール層を少なくとも一層含んで、かつフィルム面のどちらか表層にヒートシール層を有することが必要である。本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール層だけの単層であっても構わないし、2層以上の積層構成であってもよい。フィルムを積層構成とする場合は、ヒートシール層がフィルム面の少なくともどちらか一方の表層になければならない。フィルムの積層は、マルチマニホールドTダイやインフレーション法による共押出しや、ウェットまたはドライラミネート、ホットメルトによる接着等、公知の方法を用いることができる。ヒートシール層は無延伸、一軸延伸、二軸延伸のいずれであっても構わないが、強度の観点からは少なくとも一方向に延伸されていること(一軸延伸)が好ましく、ニ軸延伸であることがより好ましい。ニ軸延伸の場合の好適な製造方法は後述する。 ヒートシール層以外の層に用いる原料種は、ヒートシール層と同じポリエステルを用いることが可能である。例えば、前述のヒートシール層に好適な構成成分からなるポリエステルを使用し、ヒートシール層とは異なる組成のポリエステル層を設けることができる。ヒートシール層以外の層に用いるポリエステル原料は、非晶成分量が25モル%以下であることが好ましい。ヒートシール層以外の層の非晶成分量が25モル%より多い場合、フィルムの機械強度や耐熱性が低くなってしまう。 また、ヒートシール層以外の層は無延伸、一軸延伸、二軸延伸のいずれであっても構わないが、強度の観点からは少なくとも一方向に延伸されていること(一軸延伸)が好ましく、ニ軸延伸であることがより好ましい。ニ軸延伸の場合の好適な製造方法は後述する。 さらに、本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール層、それ以外の層に関わらず、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることも可能であり、本発明の要件を逸しない範囲で任意に設けることができる。」 「[0015] 3.ポリエステル系フィルムの特性 次に、本発明のポリエステル系フィルムをシーラントとして使用するために必要な特性を説明する。 3.1.ヒートシール強度 まず、本発明のポリエステル系フィルムは、ヒートシール層同士を温度160℃、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が4N/15mm以上25N/15mm以下であることが好ましい。 ヒートシール強度が4N/15mm未満であると、シール部分が容易に剥離されるため、包装袋として用いることができない。ヒートシール強度は5N/15mm以上が好ましく、6N/15mm以上がより好ましい。ヒートシール強度は大きいことが好ましいが、現状得られる上限は25N/15mm程度である。 3.2.可逆熱容量差 本発明のポリエステル系フィルムのヒートシール層は、温度変調DSCによるヒートオンリーモードで測定したガラス転移温度(Tg)前後の可動非晶量の指標となる可逆熱容量差ΔCpが0.18J/g・K以上0.35J/g・K以下であることが好ましい。 以下、可動非晶の概念とヒートシール強度との関係について説明する。 ヒートシールはヒートシール層を加熱することにより軟化または融解させる、すなわち構成成分である高分子の配列を変えることで成り立つ技法である。熱によって軟化または融解を起こしやすいのは、分子鎖の拘束が弱い非晶成分との認識が一般的である。従来、フィルムを構成する高分子の高次構造は結晶相と非晶相に分かれていると考えられており、単に非晶成分量を増加させれば非晶相が増加してヒートシール強度が高くなると考えられてきた。しかしながら本発明者らが検討したところ、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムでは、非晶成分量を単に増やすのみでは増量分に見合ったヒートシール強度の増大が見られず、特に二軸延伸フィルムにおいてはその傾向が顕著であることが判明した。これらのことから、下記の可動非晶の量がヒートシール強度に寄与しているのではないかと考えた。 非晶相はさらにその柔軟性によって剛直非晶と可動非晶に分けられることがわかっている(例えば、非特許文献1)。可動非晶は、これら3相の中で最も柔らかい成分であり、昇温過程でTgを境にして固相から液相へ変化するため熱容量が増大する。一方、剛直非晶や結晶は、融点まで固相から相変化することはないので、Tg前後の熱容量差が可動非晶量に相当する。可動非晶量が多ければ、熱よって分子鎖が動きやすくなる、すなわち軟化しやすくなるため、ヒートシール層同士の食い込みや融着が大きくなり、結果としてヒートシール強度が高くなると考えられる。ヒートシール層の可動非晶量を所定の範囲内に制御することにより、好適なヒートシール強度を確保できることを本発明者らは見出した。 可逆熱容量差ΔCpが0.18J/g・K未満であると、ヒートシール層として必要な可動非晶量を満たすことができず、ヒートシール強度が4N/15mmを下回ってしまう。一方、ヒートシール層の可逆熱容量差ΔCpは高いほどヒートシール強度が向上して好ましい。 ただし、ヒートシール層のΔCpが高くなりすぎると、耐熱性が低くなり、ヒートシール時にシール部の周囲がブロッキングしてしまう(加熱用部材からの熱伝導によってい、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)ため、適切なヒートシールが困難となる。好ましい可逆熱容量差ΔCpの上限は0.4J/g・Kである。 [0016] 3.3.収縮率 本発明のポリエステル系フィルムは、80℃の温湯中に10秒間に亘って処理した場合における幅方向、長手方向の温湯熱収縮率がいずれも0%以上15%以下でなくてはならない。 収縮率が15%を超えると、フィルムをヒートシールしたときに収縮が大きくなり、シール後の平面性が悪化してしまう。温湯熱収縮率の上限は14%以下であるとより好ましく、13%以下であるとさらに好ましい。一方、温湯熱収縮率がゼロを下回る場合、フィルムが伸びることを意味しており、収縮率が高い場合と同様にフィルムが元の形状を維持できにくくなるため好ましくない。 3.4.フィルム厚み 本発明のポリエステル系フィルムの厚みは特に限定されないが、3μm以上200μm以下が好ましい。フィルムの厚みが3μmより薄いとヒートシール強度の不足や印刷等の加工が困難になるおそれがありあまり好ましくない。またフィルム厚みが200μmより厚くても構わないが、フィルムの使用重量が増えてケミカルコストが高くなるので好ましくない。フィルムの厚みは5μm以上160μm以下であるとより好ましく、7μm以上120μm以下であるとさらに好ましい。」 「[0018] 3.7.引張破壊強度 本発明のポリエステル系フィルムは、フィルムの長手方向、幅方向少なくともいずれか一方の引張破壊強度が80MPa以上300MPa以下であることが好ましい。引張破壊強度が80MPaを下回ると、ヒートシールや印刷等の加工を行うときに変形や破断が生じやすくなるので好ましくない。引張破壊強度は、90MPa以上がより好ましく、100MPa以上がさらに好ましい。引張破壊強度は高いほどフィルムが強靭となるため好ましいが、本発明のポリエステル系フィルムでは300MPaを超えることは難しいため、上限を300MPaとしている。」 「[0019] 4.ポリエステル系フィルムの製造方法 4.1.共押出しによる製膜 4.1.1.溶融押し出し 本発明のポリエステル系フィルムは、上記1.「ヒートシール層を構成するポリエステル原料の種類」で記載したポリエステルを原料として用いる。本発明では、ポリエステル原料を溶融押し出しして得た未延伸フィルムをシーラント層として用いることが可能である。ただしこの場合、フィルムの強度を高めるため、上記3.「ポリエステルフィルムの層構成」に挙げた方法で、少なくとも一方向に延伸されているポリエステルフィルムと積層させることが好ましい。また、本発明では、ポリエステル原料を溶融押し出しして得た未延伸フィルムを、以下に示す所定の方法により一軸延伸または二軸延伸することによって得ることもできる。溶融押出しの時点でシーラント層以外にも層を設ける場合、各層で別々の押出機により溶融押出しを行い、未延伸の積層フィルムを得る。なお、ポリエステルは前記したように、非晶質成分となり得るモノマーを適量含有するよう、ジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用することもできる。 原料樹脂を溶融押し出しするとき、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのように各層のポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して200~300℃の温度で溶融して未延伸フィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。 その後、押し出しで溶融された樹脂を急冷することにより、未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。フィルムは、縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか、少なくとも一方向に延伸されていること、すなわち一軸延伸又は二軸延伸が好ましい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする横延伸-縦延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また同時二軸延伸法でも構わない。」 「[0020] 4.1.2.縦延伸 縦方向の延伸は、未延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~90℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また90℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、ロールへのフィルムの巻き付きや連続生産によるロールの汚れやすくなるため好ましくない。 フィルム温度が65℃~90℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。また縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので5倍以下であることが好ましい。 また、縦延伸後にフィルムを長手方向へ弛緩すること(長手方向へのリラックス)により、縦延伸で生じたフィルム長手方向の収縮率を低減することができる。さらに、長手方向へのリラックスにより、テンター内で起こるボーイング現象(歪み)を低減することができる。本発明のポリエステル系フィルムは非晶原料を使用しているため、縦延伸によって生じた長手方向への収縮性がボーイング歪みに対して支配的であると考えられる。後工程の横延伸や最終熱処理ではフィルム幅方向の両端が把持された状態で加熱されるため、フィルムの中央部だけが長手方向へ収縮するためである。長手方向へのリラックス率は0%以上70%以下(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)であることが好ましい。長手方向へのリラックス率の上限は、使用する原料や縦延伸条件よって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系フィルムのおいては、長手方向へのリラックス率は70%が上限である。長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65℃~100℃以下の温度で加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる。加熱手段はロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いる事ができる。また、長手方向へのリラックスは縦延伸直後でなくとも、例えば横延伸(予熱ゾーン含む)や最終熱処理でも長手方向のクリップ間隔を狭めることで実施することができ(この場合はフィルム幅方向の両端も長手方向へリラックスされるため、ボーイング歪みは減少する)、任意のタイミングで実施できる。 長手方向へのリラックス(リラックスを行わない場合は縦延伸)の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。」 「[0021] 4.1.3.横延伸 縦延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃~110℃で3.5~5倍程度の延伸倍率で横延伸を行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75℃~120℃になるまで行うとよい。 横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み精度が悪化するだけでなく、ヒートシール強度や収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。」 「[0022] 4.1.4.最終熱処理 中間ゾーンの通過後は最終熱処理ゾーンにて、横延伸温度以上 180℃以下で熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は横延伸温度以上でなければ熱処理としての効果を発揮しない。この場合、フィルムの80℃温湯収縮率が15%よりも高くなってしまうため好ましくない。熱処理温度が高くなるほどフィルムの収縮率は低下するが、180℃よりも高くなるとフィルムのヘイズが15%よりも高くなって透明性を保てなくなってしまうため好ましくない。 最終熱処理の際、テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向へのリラックス)によって幅方向の収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上10%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うことが好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの幅方向への収縮率)の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系フィルムにおいては、幅方向へのリラックス率は10%が上限である。 また、最終熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。 後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、ポリエステル系フィルムロールが得られる。」 「[0033] <ポリエステル原料の調製> [合成例1] 撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。 [合成例2] 合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(F)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(E)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、B:0.78dl/g,C:0.73dl/g,D:0.73dl/g,E:0.80dl/g、F:0.75dl/gであった。」 「[0034] [表1] [図:0001406730000007.jpg] 」 「[0035] 以下に各フィルムの製膜方法について記載する。 (ポリエステルフィルム1の製膜) ヒートシール層(A層)の原料として、ポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:66:24:5で混合した。 A層の混合原料を二軸スクリュー押出機に投入後、270℃で溶融させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによってA層のみの未延伸フィルムを得た。 冷却固化して得た未延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸した。縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで90℃に設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。 リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が95℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。 その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、125℃で5秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。製造条件を表2に示す。」 「[0036] (ポリエステルフィルム2の製膜) A層の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:78:12:5で混合し、それ以外の層(B層)の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:54:36:5で混合した。 A層及びB層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270℃で溶融させた。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムの両表層はA層、中心層はB層(A層/A層/A層の2種3層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、A層とB層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整した。 その後、最終熱処理温度を140℃、幅方向へのリラックスを15%とした以外はポリエステルフィルム1と同様の条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ30μmの二軸延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。」 「[0037] (ポリエステルフィルム3の製膜) A層、B層ともにポリエステルフィルム2と同じ混合比率の原料を用い、実施例2と同様に溶融押し出しして未延伸の積層フィルムを得た。 その後、最終熱処理温度を100℃、幅方向へのリラックス率を0%とした以外は、全てポリエステルフィルム1と同様の条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ30μmの二軸延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。」 「[0038] (ポリエステルフィルム4の製膜) A層の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比10:75:10:5で混合し、それ以外の層(B層)の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比55:30:10:5で混合した。これらの原料をそれぞれ、ポリエステルフィルム2と同様に溶融押し出しして未延伸の積層フィルムを得た。 その後、縦延伸温度を90℃、横延伸温度を100℃、最終熱処理温度を115℃とした以外は、全て実施例1と同様の条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ30μmの二軸延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。 (ポリエステルフィルム5の製膜) A層の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比32:53:10:5で混合し、ポリエステルフィルム1と同様の方法で溶融押出ししてA層のみの未延伸フィルムを得た。 その後、ポリエステルフィルム4と同様の条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ30μmの二軸延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。」 「[0039] (ポリエステルフィルム6の製膜) A層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルDとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:86:2:2:5で混合し、ポリエステルフィルム1と同様の方法で溶融押出ししてA層のみの未延伸フィルムを得た。両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ20μmの未延伸フィルムが得られた。製造条件を表2に示す。 (ポリエステルフィルム7の製膜) A層の原料としてポリエステルCとポリエステルFを質量比95:5で混合し、後の工程はポリエステルフィルム6と同様の条件で製膜してA層のみの未延伸フィルムを得た。製造条件を表2に示す。 (ポリエステルフィルム8の製膜) B層の原料としてポリエステルAとポリエステルFを質量比95:5で混合し、ポリエステルフィルム1と同様の方法で溶融押し出しした。その後、ポリエステルフィルム4と同じ方法で縦延伸を行い、長手方向へのリラックス処理は行わずにフィルムをテンターへ導いた。その後、横延伸温度を110℃、最終熱処理温度を220℃とした以外はポリエステル1と同様の条件で製膜して、B層のみの二軸延伸フィルムを得た。製造条件を表2に示す。」 「[0040] [表2] [図:0001406730000008.jpg] 」 「[0041] 〔評価フィルム〕 (実施例1) 実施例1は、ポリエステルフィルム1をヒートシール層とし、ポリエステルフィルム8をそれ以外の層として積層させて評価フィルムを作製した。2つのフィルムは、ドライラミネーション用接着剤(三井化学社製タケラック(登録商標)A-950)を用いて接着させた。得られた積層フィルムの評価結果を表3に示す。 以下、実施例3は全て参考例1と読み替える。 (実施例2~4) 実施例2~4も実施例5と同様の方法でヒートシール層とそれ以外の層を積層させた。 実施例2、3、4のヒートシール層としてポリエステルフィルム3、6、7をそれぞれ用い、それ以外の層はいずれもポリエステルフィルム8を用いた。得られた積層フィルムの評価結果を表3に示す。 (実施例5~8) 実施例5、6、7、8は、ポリエステルフィルム1、2、4、5をそれぞれ単体で用いた。各フィルムの評価結果を表3に示す。[0042] (比較例1~3) 比較例1、2、3は、ポリエステルフィルム3、6、8をそれぞれ単体で用いた。各フィルムの評価結果を表3に示す。」 「[0043] [表3] [図:0001406730000009.jpg] 」 「[0044] [フィルムの評価結果] 表3より、実施例1から4までのフィルムはいずれもヒートシール層の可逆熱容量差ΔCpが所定の範囲となり、ヒートシール強度、収縮率、厚みムラ、引張破壊強度、高温環境下に放置した後の外観、保香性、吸着性に優れており、良好な評価結果が得られた。なお、図1中のチャートに乱れがなく、Tg付近でベースラインがシフトしているので、DSCの測定が正常に行えたことが確認できた。 また、実施例5から8までのフィルムは、高温環境下に放置した後の外観が実施例1~4に対して多少劣るものの、ヒートシール強度の測定が可能であり、使用には問題のないフィルムであった。これらはいずれもヒートシール層の可逆熱容量差ΔCpが所定の範囲となり、ヒートシール強度、収縮率、厚みムラ、引張破壊強度、保香性、吸着性に優れていた。 一方、比較例1のフィルムは、ヒートシール層のΔCpを満たしており、厚みムラ、引張破壊強度、保香性、吸着性には優れるものの、収縮率が高いためヒートシール後の平面性が悪く、ヒートシール強度を測定できなかった。さらに、高温環境下に放置した後の外観も低い評価となった。 また、比較例2のフィルムもヒートシール層のΔCpを満たしており、ヒートシール強度、収縮率、厚みムラ、保香性、吸着性には優れるが、引張破壊強度が低いため、本発明の要件を満足しなかった。 比較例3のフィルムはヒートシール層のΔCpが低いため、ヒートシールしてもフィルムがすぐに剥離してしまい、ヒートシール強度はゼロとなってしまった。」 (3)実施可能要件についての判断 本件明細書の[0006]には、本件発明が「高いヒートシール強度を有するのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくく、加熱時に収縮が少なく、引張強度の高いシーラント用途に好適なポリエステル系フィルムを提供すること」を課題とするものであること、[0010]~[0011]には、本件発明1の要件を満たすフィルムによって上記課題が解決されることが記載されている。 そして、その製造方法について、[0012]には、「ヒートシール層を構成するポリエステル原料の種類」、[0014]には「ポリエステル系フィルムの層構成」が記載され、[0015]~[0018]には「ポリエステル系フィルムの特性」及びフィルム特性の数値限定の理由等が「ヒートシール強度」、「可逆熱容量差」、「収縮率」、「フィルム厚み」、「引張破壊強度」等について個別に記載され、[0018]~[0022]には、「ポリエステル系フィルムの製造方法」を構成する「溶融押し出し」、「縦延伸」、「横延伸」、「最終熱処理」の各工程について、温度、延伸倍率、リラックス率、処理時間等が具体的に記載されている。 また、[0033]~[0044]には、実施例及び比較例として、ポリエステル原料の調製方法、製膜方法、及び各実施例及び比較例で得られたフィルムの特性が記載され、本件発明1の構成要件を全て満たす実施例を実際に製造することができること、及び実施例のフィルムは「高いヒートシール強度を有するのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくく、加熱時に収縮が少なく、引張強度の高い」ものであるからシーラント用途に好適に使用することができることを当業者は理解することができる。さらに、実施例及び比較例における原料及び製造条件の変更と得られるフィルムの特性の変化、一般記載における説明、及び本件特許の出願時の技術常識を参酌することにより、当業者は本件発明1の発明特定事項を備えるポリエステルフィルム全体を製造することができ、「高いヒートシール強度を有するのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくく、加熱時に収縮が少なく、引張強度の高い」ヒートシール性フィルムとして使用できるものと理解することができる。 そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があるから、本件発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分な記載があるといえる。 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4についても、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分な記載があるといえる。 (4)申立人Bの主張について 申立人Bは、申立書Bの第31~34頁において、「特許明細書には、可動非晶量(又は可逆熱容量差)を所定の範囲内に制御するための手段について何ら記載されていない」こと、「請求項1には原材料、成分、各成分の量、製造条件等が全く特定されておらず、要件[d]~[g]の物性値をすべて同時に達成するための手段について請求項1には、何ら規定されていない。そうすると、当業者といえども、発明の詳細な説明の記載から、請求項1のように原材料、成分、各成分の量、製造条件等が全く特定されていないポリエステル系フィルム全般において要件[d]~[g]の物性値をすべて同時に充足するフィルムを製造する条件を認識することは困難であり、過度の試行錯誤を要するものである。」こと、及び「特許明細書には、特定の種類及び特定量の非晶成分を含まないフィルムであっても特許発明1を実施できることについて示されておらず、さらに、特定の種類及び特定量の非晶成分を含むフィルムであっても、そのフィルムが「未延伸」であっても延伸フィルムと同様に特許発明1を実施できることについて示されていない。また、特許発明1は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えたものである。」ことを主張している。 しかし、上記(3)に記載したとおり、本件明細書の実施例、比較例及び一般記載並びに出願時の技術常識を参酌することにより、当業者は本件明細書に記載された一般的なヒートシール性ポリエステルフィルム原料の範囲であれば、実施例以外の原料を用いても、実施例で採用された製造方法及び一般記載に記載された製造方法についての説明を参考にして本件発明1の発明特定事項を備えたフィルムを製造することができ、かつ使用することができると理解することができる。また、実施例以外の態様での実施が困難であることを窺わせる具体的な証拠は示されていない。 よって、申立人Bの主張は採用することができない。 (5)申立理由3-1(実施可能要件違反)についてのまとめ 以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、申立理由3-1(実施可能要件違反)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。 6.申立理由3-2(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件発明の課題について 本件発明の課題は、本件明細書の[0006]等の記載から見て、「高いヒートシール強度を有するのみならず、種々の有機化合物を吸着しにくく、加熱時に収縮が少なく、引張強度の高いシーラント用途に好適なポリエステル系フィルムを提供すること」にあるものと認められる。 (3)本件明細書の記載 本件明細書には、上記5.(2)「本件明細書の記載」に引用した事項が記載されている。 (4)サポート要件についての判断 本件明細書の[0010]~[0011]には、本件発明1の要件を満たすフィルムによって上記課題が解決されることが記載されているところ、上記5.(3)「本件発明1についての判断」に記載したように、本件明細書にはその原料及び製造工程についての個別具体的な一般記載があり、さらに、実施例及び比較例における原料及び製造工程の変更とフィルム特性の変化、並びに本件特許の出願時の技術常識を参酌すると、当業者は本件発明1の発明特定事項を備えるヒートシールフィルムは、実施例と同様に発明の課題を解決できるものと理解することができる。 そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4についても、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (5)申立人Bの主張について 申立人Bは、申立書Bの第31~34頁において、上記5.(4)「申立人Bの主張」に引用したとおりの主張をしているものの、実施例以外の態様では発明の課題を解決できないことを窺わせる具体的な証拠は示していない。 そして、上記(4)に記載したとおり、本件明細書の実施例、比較例及び一般記載並びに出願時の技術常識を参酌することにより、当業者は本件明細書に記載された一般的なヒートシール性ポリエステルフィルム原料の範囲であれば、実施例以外の原料を用いても、実施例で採用された製造方法及び一般記載に記載された製造方法についての説明を参考にして本件発明の課題を解決し得るフィルムを製造することができると認識することができるから、本件発明1~4は当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、申立人Bの主張は採用することができない。 (6)申立理由3-2(サポート要件違反)についてのまとめ 以上のことから、本件発明1~4は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、申立理由3-2(サポート要件違反)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、本件発明1~4についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700957

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