特許異議申立
2024-700215
米発酵ビールテイスト飲料およびその製法
- 審判番号
- 2024-700215
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-539651
- 登録番号
- 7340452
- 請求日
- 2024年03月07日
- 審決日
- 2025年07月30日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】反町 洋
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-YAA(C12G) / P1651.536-YAA(C12G) / P1651.537-YAA(C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7340452号発明「米発酵ビールテイスト飲料およびその製法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7340452号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2及び〔3-5〕について訂正することを認める。
特許第7340452号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7340452号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2018年(平成30年)8月31日(優先権主張 平成29年9月1日)を国際出願日とする出願であって、令和5年8月30日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年9月7日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年3月7日に特許異議申立人 田中 眞喜子(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし5)がされ、同年5月24日付けで取消理由が通知され、同年7月29日に特許権者 キリンホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年10月4日付けで特許異議申立人に審尋を行ったところ、同年同月22日に特許異議申立人より回答書が提出され、同年12月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和7年2月17日に特許権者より訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書が提出され、同年5月21日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年6月16日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7340452号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「米由来糖質材料を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)であって、
飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす、米発酵ビールテイスト飲料。」
との記載を、
「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)であって、
飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が10mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.0~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす、米発酵ビールテイスト飲料。」
に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、請求項1を引用するものを独立形式に改めた上で、
「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)であって、
飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(b’)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が2~5mg/Lである、
(c’)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす、米発酵ビールテイスト飲料。」
に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3において、
「米由来糖質材料を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)を製造する方法であって、少なくとも米由来糖質材料および水を含む混合物を発酵させる工程を含んでなり、
製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たすように調整される、方法。」
との記載を、
「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)を製造する方法であって、少なくとも米由来糖質材料および水を含む混合物を発酵させる工程を含んでなり、
製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が10mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.0~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たすように調整される、方法。」
に訂正する。
請求項3の記載を引用して特定する請求項5についても同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4において、請求項3を引用するものを独立形式に改めた上で、
「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)を製造する方法であって、少なくとも米由来糖質材料および水を含む混合物を発酵させる工程を含んでなり、
製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(b’)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が2~5mg/Lである、
(c’)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たすように調整される、方法。」
に訂正する。
請求項4の記載を引用して特定する請求項5についても同様に訂正する。
(5) 一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、請求項2は、請求項1の記載を引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項3ないし5について、請求項4及び5は、請求項3の記載を直接または間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項3ないし5に対応する訂正後の請求項3ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
なお、訂正後の請求項2については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることの求めがある。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、「米由来糖質材料」のうち「但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く」ことを特定するとともに、製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度に関し、「(b)」の場合における酢酸エチルの濃度の下限が「7mg/L以上」であったものを「10mg/L以上」とするとともに、酢酸イソアミルの濃度の下限が「0.7mg/L以上」であったものを「1.0mg/L以上」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、明細書の【0039】(【表1】)の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
この点に関し、特許異議申立人は令和7年6月16日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、本件実施例においてもセンタウロ種またはバリラ種の米を用いた一般的可能性が否定されるものではなく、当該態様と甲1発明との関係性を考えると、「本件訂正前の技術的思想は引用発明の技術的思想と顕著に異なるものではない発明に相当する」ところ、ここから本件発明においてセンタウロ種やバリラ種の態様を除く訂正は、「訂正により引用発明の技術的思想と顕著に異なるものへと変化することとなり、新たな技術的事項を導入するもの」になる旨主張する。
しかしながら、訂正事項1に係る請求項1の訂正における「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)」との訂正は、「米由来糖質材料」のうち、単に「品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く」ことを特定しているにすぎず、本件特許の明細書の記載をあわせて見ても、発酵原料が異質の材料に変更されたとは解することができないから、当該訂正により、請求項1に係る発明の技術的思想が、甲第1号証に記載された発明の技術的思想と顕著に異なるものではない発明から、甲第1号証に記載された発明の技術的思想と顕著に異なるものへと変化しているとはいえないから、新たな技術的事項を導入するものとはいえず、新規事項の追加にあたるものとはいえないものである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
他の訂正事項における同様の訂正についても、同様に判断される。
(2) 訂正事項2
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、請求項1を引用して特定していたものを独立形式で書き下すとともに、さらに、「米由来糖質材料」について「但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く」ことを特定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項2の訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項3
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、「米由来糖質材料」のうち「但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く」ことを特定するとともに、製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度に関し、「(b)」の場合における酢酸エチルの濃度の下限が「7mg/L以上」であったものを「10mg/L以上」とするとともに、酢酸イソアミルの濃度の下限が「0.7mg/L以上」であったものを「1.0mg/L以上」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項3の訂正は、明細書の【0039】(【表1】)の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項3の記載を引用して特定する請求項5についても同様である。
(4) 訂正事項4
訂正事項4に係る請求項4の訂正は、請求項3を引用して特定していたものを独立形式で書き下すとともに、さらに、「米由来糖質材料」について「但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く」ことを特定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る請求項4の訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項4の記載を引用して特定する請求項5についても同様である。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし5に対して特許異議申立がされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2及び〔3-5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項1、2及び〔3-5〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、令和7年2月17日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)であって、
飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が10mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.0~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす、米発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)であって、
飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(b’)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が2~5mg/Lである、
(c’)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす、米発酵ビールテイスト飲料。
【請求項3】
米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)を製造する方法であって、少なくとも米由来糖質材料および水を含む混合物を発酵させる工程を含んでなり、
製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が10mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.0~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たすように調整される、方法。
【請求項4】
米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)を製造する方法であって、少なくとも米由来糖質材料および水を含む混合物を発酵させる工程を含んでなり、
製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(b’)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が2~5mg/Lである、
(c’)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たすように調整される、方法。
【請求項5】
以下の工程:
(i)米、糖化酵素、タンパク質分解酵素および水の混合物を40~60℃で15~90分間保持した後、70~90℃で30~90分間保持する工程、
(ii)工程(i)で得られた混合物の温度を40~60℃に調整し、該混合物に、タンパク、糖化酵素およびタンパク質分解酵素を添加し、得られた混合物を40~60℃で30~120分間保持した後、55~75℃で5~60分間保持する工程、
(iii)工程(ii)で得られた混合物の温度を70~90℃に調整した後、固液分離処理を行い、液体を採取する工程、
(iv)工程(iii)で得られた液体を煮沸する工程、ならびに
(v)工程(iv)で得られた煮沸後の液体を冷却した後に、これをビール酵母による発酵に供する工程を含んでなり、工程(iii)以降のいずれかの段階でホップが添加される、請求項3または4に記載の方法。」
第4 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1、3及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由2の具体的理由は、次のとおりである。
「本件特許発明1、3、5では、酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度について下記(a)、(b)の濃度範囲を規定している。
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L末満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/L
(b)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/L
本件明細書の段落0038の記載によれば、本件実施例の官能評価においてビールらしい香味が感じられるサンプルは4以上の評価とされており、4末満のサンプルでは課題を解決できないと解される。また、本件明細書の表1では、酢酸エチルの濃度の増減に概ね比例して評価スコアが増減すること、及び酢酸イソアミルの濃度の増減に概ね比例して評価スコアが増減することが理解できる。
ここで、本件明細書の表1の試験区6では、酢酸エチル濃度が10mg/L、酢酸イソアミル濃度が1mg/Lの評価スコアが4.0となっており、合格点ギリギリのラインであることが示されている。してみると、上記(b)で規定される範囲内であっても、試験区6より酢酸エチル及び/又は酢酸イソアミルが低濃度の場合(例えば、酢酸エチル濃度が7mg/L以上10mg/L未満と酢酸イソアミル濃度が0.7mg/L以上1mg/L未満の組み合せなど)には、所望の課題を解決できるとは理解できない。
(本件明細書の表1)
[図:0001428988000001.jpg]
同様に、本件明細書の表1の試験区2(酢酸エチル濃度5.5mg/L、酢酸イソアミル濃度1mg/L、評価スコア3.3)及び試験区3(酢酸エチル濃度5.5mg/L、酢酸イソアミル濃度1.5mg/L、評価スコア4.3)との結果からは、上記(a)で規定される下限値近辺(例えば、酢酸エチルの濃度が5mg/Lと酢酸イソアミルの濃度が1.2mg/Lの組み合わせなど)においては所望の課題を解決できるとは理解できない。
このように、本件特許発明1、3、5で規定される範囲内には所望の課題を解決できない組み合せが相当数存在するものであるから、本件特許発明1、3、5はサポート要件を欠くものである。特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第4号に該当する。」
4 証拠方法
・甲第1号証:Heidi Mayer et al, “Development of an all rice malt beer: A gluten free alternative”, LWT-Food Science and Technology, (2016), Vol.67, pp.67-73
・甲第2号証:特開平10-229868号公報
・甲第3号証:特開2006-149367号公報
・甲第4号証:特願2019-539651号の令和4年11月4日付け意見書(参考資料を除く)
・甲第5号証:特開平6-30756号公報
なお、証拠の記載については、おおむね特許異議申立書の記載に従った。
また、特許異議申立人は意見書において、次の申立理由も主張している。
5 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は、次のとおりである。
「上記意見書(合議体注:令和7年2月17日に特許権者が提出した意見書のこと)によれば、米芽ビールでは、酢酸エチル、酢酸イソアミル以外にも飲料物の風味に影響を与える多数の物質が存在すること、米品種が変わることで風味に影響を与える多数の物質の含有量が全く異なり、ビール飲料として全く別物になるとされており(上記意見書の9頁)、即ち、酢酸エチル、酢酸イソアミルの濃度が同等でも米品種が変われば全く別物になる旨を主張されている。
しかしながら、本件実施例において米の品種は記載されておらず、本件明細書では段落0014に「米はいずれの品種のものであってもよい」との記載があるだけであり、訂正後の成分濃度範囲内で所望の効果が得られる米品種に関するアナウンスは存在しない。そうすると、当業者は本件訂正発明の実施にあたり、訂正後の成分濃度範囲内で所望の効果が得られる米の品種を逐一確認する必要があり、これには過度の試行錯誤が必要である。
また、所望の効果が得られる米の品種を逐一確認しようとしても、そもそも本件実施例の米品種が不明である以上、本件実施例の追試は不可能である。例えば、所望の官能評価スコアである「4.0」を確認しようとする場合、試験区6の追試により所望の「ビールらしい香味」の程度を確認することが考えられるが、試験区6と同じ酢酸エチル濃度、酢酸イソアミル濃度であっても、米品種が変わることにより「全く別物」になってしまうとすれば、そもそも本件実施例の試験区6のサンプルを調製することは自体、第三者には不可能であり、所望の「ビールらしい香味」が得られていることの確認も不可能であるから、本件訂正発明は実施することができない。
従って、本件訂正発明はいずれも実施可能要件に違反する。」
6 証拠方法
・甲第6号証:「世界のお米について JAコラム」、JA北新潟ウェブページ、URL:https://ja-kitaniigata.or.jp/news_column/4897/(検索日:令和7年6月6日)
なお、証拠の表記については、概ね意見書における記載に従った。
第5 令和6年12月12日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の概要
本件特許の請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が令和6年12月12日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1-1及び申立理由2が包含される。
1 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1、3及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
本件特許の発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「グルテンを含まず且つビールらしい香味が増強された米発酵ビールテイスト飲料及びその製法を提供すること」(【0008】)であって、「グルテンを含まず、ビールらしい香味が増強されるとともに、米ぬか様の香りなどの米由来の香りが抑制される」(【0010】)ものといえる。
そして、実施例の試飲サンプルの官能評価に関し、「ビールらしい香味が増強されるとともに、米ぬか様の香りなどの米由来の香りが抑制される」ものとしては、具体的には「ビールらしい香味が感じされるサンプルを、その香味の強さに応じてスコア4~5.5とするように各パネルに指示した」(【0038】)と記載されていることから見て、発明の課題を解決できていると認識されるのは、実施例等における官能評価のスコアが4以上であることを要するものといえる。
そこで、実施例の記載をみるに、表1の記載から、酢酸エチルの濃度が上昇するにつれて評価スコアは上昇すること、酢酸イソアミルの濃度が上昇するにつれて評価スコアが上昇することがそれぞれ認識できる。
そして、試験区6においては、酢酸エチルの濃度が10mg/Lかつ酢酸イソアミルの濃度が1mg/Lの場合、評価スコアが4.0であるとされる。
以上の記載を総合すると、例えば、酢酸エチルの濃度が10mg/Lであっても、酢酸イソアミルの濃度が1mg/Lよりも小さい場合、あるいは、酢酸エチルの濃度が10mg/Lよりも小さく、酢酸イソアミルの濃度が1mg/Lである場合、さらには、酢酸エチルの濃度が10mg/Lよりも小さくかつ酢酸イソアミルの濃度が1mg/Lよりも小さい場合には、評価スコアが4.0よりも下回るであろうことが当業者であれば認識できる(実際、酢酸エチル、酢酸イソアミルの濃度が小さくなった場合には評価スコアが低くなっていることは試験区1、2、5からも認識できる)。
してみると、本件特許発明1、3及び5において、「(b)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである」ものは、評価スコアが4.0よりも小さい、すなわち、発明の課題を解決できると認識できない場合を含むものであるといわざるを得ない。
よって、本件特許発明1、3及び5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものとはいえない。
第6 当審の判断
以下の検討のとおり、当審は、令和6年12月12日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由、及び、特許異議申立人が特許異議申立書及び意見書で主張する申立理由では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 令和6年12月12日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由についての判断
(1) 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)について
ア 甲第1号証の記載事項等
(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「Development of an all rice malt beer: A gluten free alternative」に関し、次の記載がある。なお、甲第1号証は外国語書面であるため、以下、訳文のみ摘記する。
A 「2.材料および方法
2.1.米
3種類のイタリア産の米サンプルをこの試験に使用して、全ての米は2011に収穫した。第1のサンプルはSardinia産のCentauro(8.51%タンパク質乾燥質量)であり、第2のサンプルは北イタリア産のCentauro(7.62%タンパク質d.m.)であり、第3のサンプルはBalilla(7.44%タンパク質d.m.)であった。それぞれの米サンプルを、著者の以前の文献(Mayer et al., 2014)に記載されるようにCustom Laboratory Products (Keith, UK)の自動マイクロ米芽処理システム中、米(paddy rice)として同じように米芽処理した。
2.2.醸造
2.2.1.米ワート作製
前述の米芽サンプル(3kg)を、20Lの試験スケール醸造所(Braumeister,Speidel, Ofterdingen, Germany)で同じように処理した。米芽を、ローラー間の隙間が0.5mmの2ローラーミル(Engl-Maschinen GmbH, Schwebheim, Germany)で粉砕した。1:4の比の米芽グリスト対醸造水(3kgの米芽対12Lの水)を使用して、85mg/LのCaまでCaC12 x 2H20を補充した。米芽グリストを水と混合した後、乳酸を用いてpHをすぐに5.3に調整した。3種類の米芽サンプルには同じ注入マッシングプログラムを使用した。
米芽酵素について最適なpHおよび温度条件は、α-グルコシダーゼ(55℃、pH4.5(Iwata et al., 2003))、プルラナーゼ(60℃、pH5.5(Iwata et al., 2002)または55℃、pH6.0(Yamasaki et al., 2008))以外、我々の知る限りでは文献に記載されていなかった。そのため全ての温度静止は経験的に開発した。温度を1℃/minずつ高めて、その後の温度静止を維持して、マッシングを行った:30分45℃、45分65℃、60分74℃、10分78℃。α-グルコシダーゼに最適な55℃での温度静止は、米芽ワートにおける既に高い量のグルコースのために回避した(Mayer et al., 2014)。ヨウ素溶液を用いた糖化試験は、74℃での温度静止の開始後、10分おきに行った。74℃に達した1時間後に全てのサンプルは完全に糖化され、その後温度を78℃まで上げた。
マッシングの10分後、濾過のために米芽ワートをロータリング醸造桶に移した。全てのサンプルについてのロータリング時間は約1時間であった。78℃で、4Lの水で2回および2Lの水で1回スパージングを行った。マッシュを60分間煮沸した。この段階の開始時に、ホップペレット(品種Perle、7.7α酸)を添加して、15国際苦味単位(IBU)を達成した。米芽ワート煮沸の最終部分でのホップ添加は、ホップからの香気化合物の発生を最小にするために回避した。煮沸およびホットトリューブ(hot trub)の排除後、米芽ワートを13℃に冷却した。次いで、酵母投入の前に米芽ワートのエアレーションを行った。
2.2.2.発酵
米芽ワート1L当たりlgの酵母を使用して、13℃で酵母投入を行った。滅菌水での再水和の後に市販される(Saflager S-23, Fermentis, Marcq-en-Baroeul Cedex, France)ドライ底面発酵酵母を導入して、米芽ワート中107細胞/mLを達成した。 底面発酵酵母の使用により、典型的な米芽香気のより良い同定が可能になった。発酵温度は13℃で6日間維持した。次いで、2℃に冷却した後、タンクの底から酵母を廃棄した。熟成を10日間続けた。熟成の終了後、ビールを分析した。」(p.68 「Materials and methods」の「2.1 Rice」及び「2.2 Brewing」の項)
B 「
[図:0001428988000002.jpg]
」(p.71 Table 3)
C 「表4は、米芽ワートからビールヘの、1アミノ酸の強力な低下を示す。全ての3種類のビール中最も高い量で存在するアミノ酸は、米芽ワート中と同様に、アルギニンであった。アミノ酸は非揮発性であり、味の活性化合物である。例えばアルギニンは苦味を有する。ビール中のそれらの濃度は非常に低く閾値限界未満であるが、全ての単一の味および香気化合物と同様に、それらは、他の味の質との相互作用を有する。このような相乗的およびマスキング効果により、多くの化合物は、ビールを特徴付ける異なる風味を生じ得る(Schoenberger,2004)。この理由で、最も重要な揮発性香気活性化合物をビール中で決定して、麦芽を原料とした下面発酵ビールと比較した(表3)。高級アルコールなどのこれらの化合物は、原料に由来するかまたは醸造プロセスの間に形成される。ビールにおいて非常に望ましい他の発酵副生成物である芳香活性エステルは少量で存在し、それらの濃度が麦芽を原料とした下面発酵ビールについての文献(Mitteleuropaeische Brautechnische Analysenkommission, 2013)に記載される範囲内であったとしても、酢酸イソアミルだけは少し低かった。」(p.70 右欄下から14行目ないしp.71左欄下から7行目)
D 「4.結論
結論として、大麦麦芽ビールと同様の、全て米芽由来のアルコール飲料を最初に作製するという、この試験の主要な目的が達成された。得られたビールサンプルは、麦芽を原料とした下面発酵ビールと同等の揮発性化合物の含有量を示した。米芽ビールの官能プロフィールは、香り、味および口当たりにおいて大麦麦芽ビールと同様であったが、確実により平坦であった。さらに、色は非常に薄く、泡はすぐに潰れた。米芽ビールのこれらの官能的特徴は、将来必ず改善できるだろう。この試験は、しばしば大麦麦芽醸造に使用されるが米芽酸造には必須である最適化された酸性マッシングプログラムを適用する従来の方法で、試験工場において行われた。今日まで100%米芽ビールの製造を妨げていた米デンプンの不完全な糖化および米芽ワート中の通常低いタンパク質分解生成物含有量などの主要な障害は、この方法で解消された。適切な糖化および十分に改変された米芽の使用が決定的であった。おそらくは米芽ワートの低い粘性および濾過に理想的である籾殻のために、ロータリングは問題なく起こった。酵母栄養摂取に必要なタンパク質分解産物が十分であったために、その後の発酵は定期的に起こった。有望な結果を伴って、最終生成物に対して官能分析を行った。オフフレーバーは現れず、ビール様の特徴を有する飲料が確認され、これはセリアック病に苦しむ人の食事の良好な代用品となる。将来は、米芽のより高いキルニング温度により、または異なる酵母株、ホップ品種もしくは成分の割合により、官能プロフィールは改善されるだろう。」(p.72ないし73 「4.Conclusions」の項)
(イ) 甲第1号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に上記「2.材料および方法」の項及び表3の記載を中心に整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認める。
「3種類のイタリア産の米サンプル(第1のサンプルはSardinia産のCentauro(8.51%タンパク質乾燥質量)であり、第2のサンプルは北イタリア産のCentauro(7.62%タンパク質d.m.)であり、第3のサンプルはBalilla(7.44%タンパク質d.m.))を米芽処理し、
得られた米芽を、ローラー間の隙間が0.5mmの2ローラーミル(Engl-Maschinen GmbH, Schwebheim, Germany)で粉砕し、醸造水、CaC12× 2H20、乳酸を用いて調整し、次いで、α-グルコシターゼを添加し、糖化処理を行い、その後、ホップペレットを添加した後、煮沸し、米芽ワートを得、
得られた米芽ワートに酵母を投入し発酵させ、さらに熟成させて得られた、飲料中の酢酸エチルの量が13.8mg/L、12.0mg/L、9.9mg/Lであり、かつ、酢酸イソアミルの濃度が0.62mg/L、0.33mg/L、0.15mg/Lである、米芽ビール。」(以下、「甲1ビール発明」という。)
「甲1ビール発明の製造方法。」(以下、「甲1ビール製法発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1ビール発明とを対比する。
甲1ビール発明の「米芽」、「ホップペレット」及び「米芽ビール」は、それぞれ、本件特許発明1の「米由来糖質原料」、「ホップ(ホップの加工品を含む)」及び「米発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1ビール発明の米芽ビールの原料は、「米芽」を発酵原料とし、「ホップペレット」を添加したものであって、麦由来原料や発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を用いたものではないから、本件特許発明1の「米由来糖質材料・・・を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)であって、」との特定事項を満たす。
さらに、甲1ビール発明における酢酸エチルの濃度は、「13.8mg/L、12.0mg/L、9.9mg/L」であるから、本件特許発明1の(b)における「酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満」との特定事項を満たす。
してみると、本件特許発明1と甲1ビール発明との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「米由来糖質材料を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)であって、
飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(b)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満である、
米発酵ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1-1
米由来糖質材料に関し、本件特許発明1は「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)」と特定するのに対し、甲1ビール発明は「イタリア産の米サンプル(第1のサンプルはSardinia産のCentauro(8.51%タンパク質乾燥質量)であり、第2のサンプルは北イタリア産のCentauro(7.62%タンパク質d.m.)であり、第3のサンプルはBalilla(7.44%タンパク質d.m.))」であると特定する点。
・相違点1-2
酢酸イソアミルの濃度に関し、本件特許発明1は「1.0~5mg/L」であると特定するのに対し、甲1ビール発明は「0.62mg/L、0.33mg/L、0.15mg/L」であると特定する点。
相違点1-1について検討する。
甲1ビール発明は「イタリア産の米サンプル(第1のサンプルはSardinia産のCentauro(8.51%タンパク質乾燥質量)であり、第2のサンプルは北イタリア産のCentauro(7.62%タンパク質d.m.)であり、第3のサンプルはBalilla(7.44%タンパク質d.m.)」を用いたもの、つまり、センタウロ種やバリラ種の米を用いたものであるところ、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1ビール発明において、センタウロ種やバリラ種以外の米に変更する動機付けはない。
また、仮に甲1ビール発明において、「イタリア産の米サンプル(第1のサンプルはSardinia産のCentauro(8.51%タンパク質乾燥質量)であり、第2のサンプルは北イタリア産のCentauro(7.62%タンパク質d.m.)であり、第3のサンプルはBalilla(7.44%タンパク質d.m.)」という特定に代えて、他の品種の米とした場合、酢酸エチルの濃度の点においてもその濃度は不明となるため、本件特許発明1と対比した場合、新たな相違点となり、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1ビール発明において酢酸エチルの濃度に関する当該相違点を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえないものとなる。
したがって、甲1ビール発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1ビール発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(特許異議申立人の意見書における主張について)
特許異議申立人は、令和7年6月16日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、「甲1発明において、センタウロ種、バリラ種以外の品種であっても、十分に糖化された米麦芽であれば使用できることは当然に理解できることであり、相違点1-2については当業者が適宜なし得たことに過ぎない」(意見書第3頁)旨主張する。
しかしながら、上記検討のとおり、甲1発明において米サンプルをセンタウロ種、バリラ種以外の品種とすると、酢酸イソアミルの濃度のみならず、酢酸エチルの濃度も不明となるものであり、全ての証拠の記載を見ても、甲1ビール発明において酢酸エチルの濃度に関する当該相違点を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
さらに検討するに、甲第1号証の第68頁左欄第11行ないし第48行には、甲第1号証が、実験室で行われた乙第3号証(Heidi Mayer et al,“Production of a Saccharifying Rice Malt for Brewing Using Different Rice Varieties and Malting Parameters”, Journal of Agricultural and Food Chemistry, ACS Publications, Vol.62 (2014), No.23, pp.5369-5377)と同様の米麹ビールが、醸造所条件下でも得られるかどうかを検討したものであるとの記載があり、甲第1号証の第67頁左欄には、「米芽の主な問題点は、マッシング中に糖化が完了しないこと」との記載があり、また、第68頁左欄には、「その前提条件は、最近の研究(Mayer,Marconi,Regnicoli,Perretti, & Fantozzi,2014)で報告されたように、よく改良され糖化する米芽と最適化されたマッシング条件である」との記載があり、乙第3号証では、様々な米を原料として米麹ビールの生成を試み、センタウロ種及びバリラ種は外因性酵素を必要としない伝統的な方法による米麹ビールの生成が可能であり、完全なマッシングが行われたことが記載(乙第3号証の「2. EXPERIMENTAL SECTION」の項及び「3. RESULTS AND DISCUSSION」の項)されており、かつ、甲第1号証においても、センタウロ種及びバリラ種は外因性酵素を必要としない伝統的な方法による米麹ビールの生成が、完全なマッシングが行われ、唯一可能であった旨の記載もある(甲第1号証の第68頁左欄第11行ないし第17行)。これらの記載からすると、米種により糖化が容易かどうかの違いがあり、センタウロ種及びバリラ種は、甲第1号証において外因性酵素を用いることなく完全な糖化が可能であるため、伝統的な方法で米麹ビールを製造可能な唯一の米種であるものと認識されているといえる。してみると、甲第1号証の記載からは、甲1ビール発明において米種をセンタウロ種、バリラ種以外の品種に変更することの動機付けはないものといえ、この点からも、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1ビール発明とを対比すると、上記(ア)と同様の関係がいえるから、両者は少なくとも次の点で相違する。
・相違点1-3
米由来糖質材料に関し、本件特許発明2は「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)」と特定するのに対し、甲1ビール発明は「イタリア産の米サンプル(第1のサンプルはSardinia産のCentauro(8.51%タンパク質乾燥質量)であり、第2のサンプルは北イタリア産のCentauro(7.62%タンパク質d.m.)であり、第3のサンプルはBalilla(7.44%タンパク質d.m.))」であると特定する点。
相違点1-3について検討する。
相違点1-3は、上記相違点1-1と同旨であり、上記(ア)のとおり判断される。
したがって、甲1ビール発明において、相違点1-3に係る本件特許発明2の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、本件特許発明2は、甲1ビール発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1ビール製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の関係がいえるから、両者は少なくとも次の点で相違する。
・相違点1-4
米由来糖質材料に関し、本件特許発明3は「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)」と特定するのに対し、甲1ビール製法発明は「イタリア産の米サンプル(第1のサンプルはSardinia産のCentauro(8.51%タンパク質乾燥質量)であり、第2のサンプルは北イタリア産のCentauro(7.62%タンパク質d.m.)であり、第3のサンプルはBalilla(7.44%タンパク質d.m.))」であると特定する点。
相違点1-4について検討する。
相違点1-4は、上記相違点1-1と同旨であり、上記(ア)と同様に判断される。
よって、本件特許発明3は、甲1ビール製法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1ビール製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の関係がいえるから、両者は少なくとも次の点で相違する。
・相違点1-5
米由来糖質材料に関し、本件特許発明4は「米由来糖質材料(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)」と特定するのに対し、甲1ビール製法発明は「イタリア産の米サンプル(第1のサンプルはSardinia産のCentauro(8.51%タンパク質乾燥質量)であり、第2のサンプルは北イタリア産のCentauro(7.62%タンパク質d.m.)であり、第3のサンプルはBalilla(7.44%タンパク質d.m.))」であると特定する点。
相違点1-5について検討する。
相違点1-5は、上記相違点1-1と同旨であり、上記(ア)と同様に判断される。
よって、本件特許発明4は、甲1ビール製法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ) 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明3または本件特許発明4の発明特定事項の全てを有するものである。
そして、上記(ウ)及び(エ)のとおり、本件特許発明3及び本件特許発明4は甲1ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明5も甲1ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由1についてのまとめ
上記イのとおりであるから、取消理由1では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 取消理由2(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
ウ サポート要件についての判断
本件特許の発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「グルテンを含まず且つビールらしい香味が増強された米発酵ビールテイスト飲料およびその製法を提供すること」(【0008】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者らは、米発酵ビールテイスト飲料において、酢酸エチルと酢酸イソアミルの濃度を所定の範囲に調整することにより、ビールらしい香味が強調された米発酵ビールテイスト飲料が得られることを見出した」(【0007】)との記載、「本発明の米発酵ビールテイスト飲料は、米由来糖質材料を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない米発酵ビールテイスト飲料であって、飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が所定の条件を満たすものである」(【0011】)との記載、「本発明における「米発酵ビールテイスト飲料」とは、ビール(麦芽およびホップを原料として用い、ビール酵母による発酵によって得られるアルコール飲料)と同様の風味を有する、米由来糖質材料を発酵原料とする発酵飲料を意味する」(【0012】)との記載、「本発明に用いられる米由来糖質材料は、酵母による発酵の発酵原料として用いることのできる糖質を含有する米由来の材料であればよく、例えば、精米、玄米、発芽米、もみ付米等の米そのものや米粉、米シロップ等の米加工物などが挙げられる。また、米はいずれの品種のものであってもよい」(【0014】)との記載、「本発明の米発酵ビールテイスト飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度は、以下の条件:
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす」(【0015】)との記載、「本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の米発酵ビールテイスト飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度は、以下の条件:
(b’)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が2~5mg/Lである、
(c’)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす」(【0016】)との記載があり、具体的な実施例において官能評価の結果が示されており、酢酸エチル濃度が5.5mg/Lの際に、酢酸イソアミル濃度が1.5mg/L以上の際に評価スコアが4.3以上であること、酢酸エチル濃度が10mg/Lの際に、酢酸イソアミル濃度が1.0mg/L以上の際に評価スコアが4.0以上であること、酢酸エチル濃度が16.6mg/Lの際に、酢酸イソアミル濃度が0.4mg/L以上の際に評価スコアが4.3以上であること、酢酸エチル濃度が25mg/Lの際に、酢酸イソアミル濃度が0.4mg/L以上の際に評価スコアが5.5以上であることも示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、米発酵ビールテイスト飲料において、米由来糖質材料を発酵原料とし、飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が所定の条件を満たすものであって、その条件が、
「米発酵ビールテイスト飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度は、以下の条件:
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が10mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.0~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす」か、
「米発酵ビールテイスト飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度は、以下の条件:
(b’)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が2~5mg/Lである、
(c’)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす」
との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし5はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえる。
エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、意見書において、「米芽ビールでは、酢酸エチル、酢酸イソアミル以外にも飲料物の風味に影響を与える多数の物質が存在すること、米品種が変わることで風味に影響を与える多数の物質の含有量が全く異なり、ビール飲料として全く別物となるとされており(上記意見書(合議体注:令和7年2月17日に特許権者が提出した意見書)の9頁)、即ち、酢酸エチル、酢酸イソアミルの濃度が同等でも米品種が変われば全く別物になる旨主張されている。
してみると、本件実施例の試験区6~8で用いた米品種以外の場合には、上記訂正後の濃度範囲内であっても官能評価スコアが4.0以上となっているかは全く不明であるといえる」(意見書第4頁)旨主張する。
しかしながら、当該主張は、具体的に課題を解決し得ないとする証拠を示すものではなく、上記ウの判断に影響するものではない。
オ 取消理由2についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、取消理由2では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
2 令和6年12月12日付け取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)について
ア 甲第2号証の記載事項等
(ア) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「アルコール飲料の製造方法」に関し、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、米100%のビール様の新規なアルコール飲料を製造する方法に関するものである。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】米の消費拡大手段として、一般的な粳米を米主原料としてビール様のアルコール飲料を製造しようとして、単に大麦を籾米に置き換えた場合、必ずしも風味豊かなアルコール飲料が製出することができない。また工業的生産にも適しない。即ち、籾米は大麦のように発芽後に粉砕しても、その殻の除去が困難であること、また米芽を単に焙燥して、その粉砕液をもって糖化液とした場合でも、米芽の酵素活性が麦より低いため、必ずしも風味豊かな飲料を得ることができない。またホップの苦みは米の風味と合わない。そこで本発明は、米100%を主原料とするビール風のアルコール飲料の製造方法を提案したものである。」
「【0007】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施形態について説明する。本発明の米100%を主原料とするビール風のアルコール飲料は、基本的には従前のビール醸造方法と同様に米芽製造工程、米汁(米モルト)製造工程、発酵工程、包装工程からなる。
【0008】米芽製造工程は、原材料として、通常の粳米の玄米を使用する。玄米は充分な発芽力を備えているので、発芽条件を満たす状況下におくと発芽する。尚発芽時に、ストレプトコッカス等の乳酸菌の106 /ml菌液を米に給水させる水の1~0.1%量添加すると、乳酸菌が発芽のきっかけとなる加酸化水素を生成するので、発芽時期を揃えることができる利点がある。
【0009】従って前記処理した玄米を水温10~20℃の水中に一晩浸漬し、水切りを行った後、約20℃程度室温で、且つ高湿度状況下に放置しておくと、2~3日で発芽し、芽長は、0.5~1mm程度となる。次に前記の米芽を乾燥(水分15~16%)して、不活性ガス雰囲気下に一定時間保持(30℃で6時間程度)させる。この嫌気雰囲気下(窒素置換等の状態)では、高水分状態の発芽米が著しく酵素活性を高める。前記の嫌気処理を終了すると、焙燥(乾燥及び焙焦:80~85%)して水分含有率3%程度とする。
【0010】前記の焙燥を以て米芽製造工程は終了し、前記の焙燥米芽は、乾燥によって発芽の溶解作用が止められ、貯蔵性が付与されたもので、充分保存が可能な状態となり、適時、次の米汁(米モルト)製造工程に使用する。
【0011】米汁(米モルト)製造工程は、焙燥米芽の粉砕と、所謂仕込と称される米汁(米モルト)製出からなる。始めに焙燥米芽を、粉砕機で200メッシュの篩を通過する程度に細かく粉砕する。尚米芽の一部は、焙燥せす非加熱状態としておく。この米芽は大量の乳酸菌が発生していてその腐敗が防止されていると共に、酵素源ともなる。そこで焙燥粉砕米芽を10倍量の水を加えて加熱して糊状(デンプンのα化を行う)にし、焙燥粉砕米芽の一割程度の非加熱米芽(粉砕しておくほうが好ましい)を必要に応じて添加し、60~50℃まで冷却する。
【0012】更に両者を混合して次の糖化工程に進むものであるが、前記の混合液(粉砕米芽1:水7~8程度)に、必要に応じて白米を蒸して糊状とした副資材の添加混合を行う。但し副資材の混合比率は、混合液の酵素濃度が0.05~0.1%量が確保される程度とする。この混合液に必要に応じて糖化酵素(グルコアミラーゼ)や、蛋白分解酵素(プロテアーゼ)を添加し、45~50℃で60分程度の煮沸を行ってタンパク質の分解をなし、更に60℃で2時間のデンプンの糖化処理を行う。尚前記の非加熱米芽の混合や、副資材の混合は必要に応じて行うものであるが、好ましくは、非加熱粉砕米芽のみの混合が望ましい。
【0013】糖化工程が終了すると、濾過(200メッシュ)を行い、95℃で30分或は100℃で15分の煮沸を行った後に50~60℃程度までに冷却して米汁(米モルト)を製出する。
【0014】前記の米汁(米モルト)を発酵させる発酵工程は、米汁(米モルト)を適宜な発酵槽(主発酵槽)内に収納し、下面発酵のビール酵母を添加し、8~10℃で1週間程度或は5℃で3週間から1か月の前発酵を行う。特に主発酵開始前に、米汁(米モルト)へ茶葉若しくは茶葉抽出物(茶葉を煎じた液体)を添加しておく。これは飲料に日本風の適宜な苦みを付与するためである。この茶葉抽出物の他に、ホップやコーヒーその他の苦み源となる食材を添加しても良い。そして前発酵が終了すると、後発酵槽に写し、0~2℃で約1~2カ月の熟成(本発酵)を行う。
【0015】発酵工程が終了した発酵液は、米風味を残した4~6%程度のアルコール度の発泡酒であり、これを沈殿濾過除菌して生飲料として瓶詰出荷しても良いし、また濾過した後に加熱殺菌を施して瓶詰出荷しても良い。勿論瓶詰前に必要に応じて飲料内に炭酸ガスをより以上溶け込ませるようにしても良い。」
(イ) 甲第2号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に発明の実施の形態の項における記載を中心に整理すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。
「米100%を主原料とするビール風のアルコール飲料であって、茶葉抽出物の他に、ホップやコーヒーその他の苦み源となる食材を添加し得られた、ビール風のアルコール飲料。」(以下、「甲2発明」という。)
「米芽製造工程、米汁(米モルト)製造工程、発酵工程、包装工程を経て製造される、甲2発明の製造方法。」(以下、「甲2製法発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ビール風のアルコール飲料」は、本件特許発明1の「米発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲2発明のビール風のアルコール飲料における主原料は「米100%」であるから、甲2発明の「ビール風のアルコール飲料」は、本件特許発明1の「米由来糖質材料・・・を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない」との特定事項を満たすとともに、「発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料」にあたらないことも明らかである。
してみると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「米由来糖質材料を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない、ホップ(ホップの加工品を含む)を原料として使用した米発酵ビールテイスト飲料(発芽させていないエンドウから抽出したタンパク質の酵素分解物を原料として使用した発泡性アルコール飲料を除く)。」
(相違点)
・相違点2-1
米由来糖質材料に関し、本件特許発明1は「(但し、品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く)」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-2
本件特許発明1は「飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が10mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.0~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
相違点2-1について検討する。
甲第2号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2発明において用いる「米」として、「品種がセンタウロ種またはバリラ種である米由来の材料を除く」ものとする動機付けがない。
したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
次に、相違点2-2について検討する。
甲第2号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2発明における酢酸エチルの濃度及び酢酸イソアミルの濃度は明らかではなく、また、甲2発明において酢酸エチルの濃度及び酢酸イソアミルの濃度に着目し、調整する動機付けがない。
してみると、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は特許異議申立書において、酢酸エチルの濃度は、甲第1号証を参照しつつ、5~40mg/Lの範囲内にある蓋然性が高いこと、酢酸イソアミルの濃度は、甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第5号証を引用しつつ、米発酵ビールテイスト飲料における酢酸イソアミルの濃度を1.5~4.8mg/L程度に調整することは当業者が容易になし得たことである旨主張する。
しかしながら、甲2発明における米の品種は不明であり、また、甲第2号証の【0007】ないし【0015】に記載の発明の実施の形態として記載されている甲2発明の製法と甲第1号証における製法は同じでもないから、甲2発明のビール風のアルコール飲料の酢酸エチルの濃度が甲第1号証の記載の濃度範囲である蓋然性が高いということはできない。
また、甲第3号証、甲第5号証ともに、100%米原料を用いたビールテイスト飲料に関するものではなく、甲2発明とは原料が異なるものであるから、甲2発明における酢酸イソアミルの濃度を導出する根拠とはならない。さらに、他の証拠の記載を見ても、甲2発明における酢酸イソアミルの濃度を導出することはできないし、さらに、甲2発明において酢酸イソアミルの濃度に着目し調整する動機付けを与えるものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも次の点で相違する。
・相違点2-3
本件特許発明2は「飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(b’)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が2~5mg/Lである、
(c’)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たす」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
相違点2-3について検討する。
相違点2-3は、飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度を特定するという点で、上記相違点2-2と同様の相違点であり、上記(ア)と同様に判断される。
よって、本件特許発明2は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲2製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも次の点で相違する。
・相違点2-4
本件特許発明3は「製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(a)酢酸エチルの濃度が5mg/L以上、7mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.2~5mg/Lである、
(b)酢酸エチルの濃度が10mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が1.0~5mg/Lである、
(c)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.4~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たすように調整される」と特定するのに対し、甲2製法発明にはそのような特定がない点。
相違点2-4について検討する。
相違点2-4は、上記相違点2-2と同旨であり、上記(ア)のとおり判断される。
よって、本件特許発明3は、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲2製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも次の点で相違する。
・相違点2-5
本件特許発明4は「製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度が、
(b’)酢酸エチルの濃度が7mg/L以上、15mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が2~5mg/Lである、
(c’)酢酸エチルの濃度が15mg/L以上、40mg/L未満であり、かつ酢酸イソアミルの濃度が0.7~5mg/Lである、
のいずれかの条件を満たすように調整される」と特定するのに対し、甲2製法発明にはそのような特定がない点。
相違点2-5について検討する。
相違点2-5は、飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度を特定するという点で、上記相違点2-2と同様の相違点であり、上記(ア)と同様に判断される。
よって、本件特許発明4は、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ) 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明3又は本件特許発明4の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。
そして、上記(ウ)及び(エ)のとおり、本件特許発明3及び本件特許発明4は、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明5もまた、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由1-2についてのまとめ
上記イのとおりであるから、申立理由1-2では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 申立理由3(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1及び2は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。
また、本件特許発明3ないし5は、上記第3のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか。その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、米由来糖質材料を発酵原料とし、かつ麦由来原料を発酵原料としない米発酵ビールテイスト飲料およびその製法に関する」(【0002】)との記載があり、「本発明者らは、米発酵ビールテイスト飲料において、酢酸エチルと酢酸イソアミルの濃度を所定の範囲に調整することにより、ビールらしい香味が強調された米発酵ビールテイスト飲料が得られることを見出した」(【0007】)ことが記載されている。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の発明の具体的説明の項には、「米由来糖質材料」に関する記載(【0014】)、製造される飲料中の酢酸エチルの濃度および酢酸イソアミルの濃度の調整方法に関する記載(【0020】)、米発酵ビールテイスト飲料の製法に関する記載(【0020】ないし【0026】)があり、さらに、具体的な実施例の記載(【0027】ないし【0044】)もある。
これらの記載からみると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1及び2において特定される「米発酵ビールテイスト飲料」を生産することができる具体的な記載があり、また、本件特許発明3ないし5において特定される「米発酵ビールテイスト飲料を製造する方法」についての具体的な記載があるといえるから、本件特許発明1ないし5に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たすといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は意見書において、要するに、米の品種が異なると成分濃度が変わるため、確認には過度の試行錯誤を要する点(以下、「主張1」という。)、所望の官能評価スコアとなるサンプルを調製することが困難である点(以下、「主張2」という。)を主張する。
そこで順次検討する。
・主張1について
上記イで検討したとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、具体的な製造方法についての記載があり、また、酢酸エチル及び酢酸イソアミルの濃度を測定する方法についても【0019】に記載があることから見て、当業者は、原料米の品種が異なってもそれらの成分濃度を特定することができ、その確認において、過度の試行錯誤を要するとはいえない。
・主張2について
本件特許発明1ないし5は、特許異議申立人の主張する「官能評価スコア」を特定事項として含むものではなく、酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度範囲が特定されているものであり、当該濃度範囲を満たす米発酵ビールテイスト飲料を製造することができることは、すでに上記イ及び上記主張1についての項で検討したとおりである。
すなわち、「官能評価スコア」は、実施可能要件の判断基準に照らして、その結論に影響を及ぼすものではない。
なお、上記1(2)のとおり、本件特許発明1ないし5は、官能評価スコアが4.0以上であると当業者が認識できるものである。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張1及び主張2はいずれも採用できない。
エ 申立理由3についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由3では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700215