特許異議申立
2023-701231
ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法
- 審判番号
- 2023-701231
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-242990
- 登録番号
- 7281277
- 請求日
- 2023年11月22日
- 審決日
- 2024年02月16日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
- 【異議申立人】大塚 博明
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 中村 和正
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.121-Y (C12G) / P1651.113-Y (C12G) / P1651.536-Y (C12G) / P1651.537-Y (C12G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第39条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7281277号発明「ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7281277号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7281277号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年12月26日を出願日とする出願であって、令和5年5月17日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月22日に特許異議申立人 大塚 博明(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アルコール度数が8.5~19%であり、エキス分が0.5~4.5%であり、コハク酸の含有量が39~875ppmであり、
麦芽比率が10%以上であり、
エキス分をX%、コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすビールテイスト飲料(ただし、プリン体の含有量が1.1mg/100mL以下であるものを除く)。
【請求項2】
前記コハク酸の含有量が40~800ppmである請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
前記エキス分が0.8~4.5%である請求項1又は請求項2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
アルコール度数を8.5~19%とし、エキス分を0.5~4.5%とし、コハク酸の含有量を39~875ppmとし、麦芽比率を10%以上とするとともに、エキス分をX%、コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすようにする工程を含むビールテイスト飲料(ただし、プリン体の含有量が1.1mg/100mL以下であるものを除く)の製造方法。
【請求項5】
アルコール度数が8.5~19%であり麦芽比率が10%以上であるビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法であって、
前記ビールテイスト飲料のエキス分を0.5~4.5%とし、コハク酸の含有量を39~875ppmとするとともに、
前記ビールテイスト飲料のエキス分をX%、コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすようにするビールテイスト飲料(ただし、プリン体の含有量が1.1mg/100mL以下であるものを除く)の香味向上方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年11月22日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく先願発明と同一)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前の下記の甲第4号証に係る出願の請求項1ないし4及び8に係る発明とそれぞれ同一と認められ、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許明細書の【0007】の記載から、本件特許発明が解決しようとする課題は、飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減したビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供することにある。そして、本件特許明細書の実施例では、複数のサンプルを準備し、ビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が評価されている。
しかしながら、本件特許明細書の実施例において、各サンプルの調製の際にベース液に添加された蒸留アルコール、不揮発成分(難消化性デキストリン)及びコハク酸の量は不明であり、サンプルの麦芽比率を求めることはできず、また、プリン体の含有量も不明であると言わざるを得ない。
そうすると、本件特許明細書の実施例では、飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減したサンプルが示されているものの、当該サンプルが本件特許発明1に係るビールテイスト飲料であるかどうかを判断することができないため、本件特許明細書の実施例は、本件特許発明1に係るビールテイスト飲料が本件特許発明が解決しようとする課題を解決できることを検証しているとは言えない。
(2)本件特許明細書の【0024】には「この図1、2の結果から確認できるように、関係式(1)、(2)、(3)、(4)を満たすことによって、ビールテイスト飲料の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」を低減できることがわかる。」と記載されているが、ビールテイスト飲料におけるエキス分とコハク酸の含有量のアルコール臭に対する作用機序についての説明はない。
また、本件特許の図1は、本件特許明細書の実施例で準備されたサンプル1-1~1-3、2-1~2-2、3-1~3-5、4-1~4-4、5-1~5-2の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」に関する結果を示す図であり(【0064】)、図2は、サンプル8-1~8-6、9-1~9-8の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」に関する結果を示す図である(【0080】)。そして、これらのサンプルについて、ベース液は共通しており、この共通のベース液に対して、適宜、蒸留アルコール、不揮発成分(難消化性デキストリン)、コハク酸を添加することで調製されたサンプルであることが記載されている(【0052】及び【0053】)。
本件特許明細書にはビールテイスト飲料におけるエキス分とコハク酸の含有量のアルコール臭に対する作用機序についての説明がなく、また、共通のベース液には、コハク酸に加えて、蒸留アルコールや不揮発成分(難消化性デキストリン)も添加されていることからすれば、本件特許明細書の実施例に接した当業者は、エキス分やコハク酸に加えて、ベース液に添加された蒸留アルコールや不揮発成分(難消化性デキストリン)も「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」に影響を及ぼす因子であると認識するのが自然であるといえる。しかし、本件特許明細書の実施例では、蒸留アルコールの含有量や難消化性デキストリンの含有量についての十分な検証がされていない。
してみれば、当業者は、蒸留アルコールの含有量や難消化性デキストリンの含有量にかかわらず、関係式(1)、(2)、(3)、(4)を満たすことによって、ビールテイスト飲料の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」を低減できることを認識できるとはいえない。
(3)本件特許明細書の実施例で準備されたサンプルNo.9-1の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」の点数や「味の厚み」の点数はパネル3名による5段階評価の平均値としてありえない数値であるように、本件特許明細書の実施例でサンプルに対して行われた評価は信頼性が確保されているとはいえない。
以上より、当業者は、本件特許明細書の記載から、本件特許発明1ないし5が本件特許発明が解決しようとする課題を解決できることを認識することができず、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
6 申立理由6(実施可能要件)
本件特許の請求項5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明5は、アルコール度数が8.5~19%であり麦芽比率が10%以上であるビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法である。
しかしながら、上記5で述べた理由と同様の理由から、本件特許明細書は、本件特許発明5に記載されたビールテイスト飲料によってビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減できることを記載しているとはいえず、当業者は、本件特許明細書を見ても、本件特許発明5を「ビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法」として使用できることを理解することができない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明5について、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されたものではなく、実施可能要件を満たしていない。
7 証拠方法
甲第1号証:J. Brew. Soc. Japan、Vol. 98、No. 9、p.639~648(2003)
甲第1-1号証:科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)のウェブページ印刷物、URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/98/9/98_9_639/_article/-char/ja
甲第2号証:食品与発酵工業、31(4)、108-112、2005
甲第2-1号証:食品与発酵工業のウェブページ印刷物、URL:http://sf1970.cnif.cn/CN/column/column4.shtml
甲第2-2号証:食品与発酵工業のウェブページ印刷物、URL:http://sf1970.cnif.cn/CN/abstract/abstract18043.shtml
甲第3号証:食品与発酵工業、34(3)、78-81、2008
甲第3-1号証:食品与発酵工業のウェブページ印刷物、URL:http://sf1970.cnif.cn/CN/abstract/abstract18457.shtml
甲第4号証:特許第6458184号公報
甲第5号証:日本醸造協會雑誌、第71巻、第7号、505~510頁、1976年
甲第6号証:科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)のウェブページ印刷物、URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/71/7/71_7_505/_article/-char/ja
甲第7号証:特開2016-208986号公報
甲第8号証:J. Brew. Soc. Japan、Vol. 98、No. 5、p.376~385(2003)
甲第8-1号証:科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)のウェブページ印刷物、URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/98/5/98_5_376/_article/-char/ja
甲第9号証:中国国家標準規格(GB規格)GB4927-2008に関する資料の印刷物、URL:https://law.resource.org/pub/cn/ibr/gb.4927.c.2008.pdf
甲第10号証:特開2017-93332号公報
甲第11号証:特開2018-14952号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「α-グルコシダーゼを利用したビールの高濃度醸造」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「5.100Lパイロットプラント試験醸造
100Lパイロットプラント試験醸造においては、ピルスナー麦芽28kg、仕込水84lの配合でステップインフュージョン法(タンパク質休止45℃・30分、45℃→65℃まで20分、糖化休止65℃・80分、65℃→76℃まで10分、76℃・10分)により製造した20%Platoの麦汁を用いた。清酒酵母K-14を用いた仕込みにはα-グルコシダーゼ剤を400mg/lになるように麦汁に添加し、α-グルコシダーゼの効果を確認する対照の仕込みとして、清酒酵母を用いてグルコアミラーゼ剤200mg/lになるように麦汁に添加した仕込み、並びに、ビール酵母NCYC1245を用いて酵素剤無添加の仕込みを行った。プラント試験における前培養麦汁使用量は10lとし、清酒酵母の前培養は原麦汁エキス分12%Platoの麦汁にα-グルコシダーゼ剤又はグルコアミラーゼ剤を添加して行った。主発酵は、初発温度15℃、最高温度18~19℃にて行った。製成酒の官能評価は、当所所員15名をパネルとして、総合評価については5点法(1:非常に良い~5:非常に悪い)により、香味の特徴についてはプロファイル法により行った。」(640頁右欄2行~642頁左欄7行)
・「3.100Lパイロットプラント試験醸造
α-グルコシダーゼを用いた並行複発酵型式のビール醸造の有効性と、その製成ビールの品質を確認するために、100Lパイロットプラントにて清酒酵母を用いて原麦汁エキス分20%Platoの高濃度醸造を行った。対照として、清酒酵母を用いてグルコアミラーゼを添加した仕込みとビール酵母NCYC1245を用いた仕込み(酵素剤無添加)を行った。」(644頁右欄19~26行)
・「仕込みのアルコール分等の経日変化をFig.6に、製成酒の分析と官能審査結果をTable1にそれぞれ示した。」(644頁右欄31~33行)
・「官能評価においては、酵素剤を用いて清酒酵母により醸造したビールは、有機酸と香気成分含量を反映して、清酒様香味の吟醸酒を想起させる、全く新しいタイプのものであり、ビール酵母を用いたものより少し評価は高かった。プロファイル法の項目では、特にエステル香味と酸味の指摘が対照のものより多く、エステル香味と酸味の指摘数は、対照のビール酵母を用いた製成酒はそれぞれ審査員15人中6人と8人であったのに対し、α-グルコシダーゼ添加による製成酒はそれぞれ14人と10人、グルコアミラーゼ添加による製成酒はそれぞれ13人と13人であった。清酒酵母を用いて醸造したビールは、使用酵素剤の違いにより酢酸含量は大きく異なったにも関わらずその総合評価は大差無かったが、清酒酵母の使用による香味の特性が強く評価されたためと考えられた。」(646頁右欄10行~647頁左欄10行)
・「表1 それぞれが400mg/l及び200mg/lのピッチングレートで添加されるα-グルコシダーゼ又はグルコアミラーゼを用いた清酒酵母K-14での100Lパイロットスケール醸造で得られた完成ビールの分析結果。官能評価は、15人の評価者により5点法(1:非常に良い~5:非常に悪い)によって行われた。
[図:0001407882000001.jpg]
」(647頁表1の一部。表1は英語表記のため、日本語訳を摘記する。)
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「アルコールが11.04v/v%であり、真正エキスが4.09w/w%であり、コハク酸が285mg/lであるビール、又は
アルコールが11.07v/v%であり、真正エキスが3.90w/w%であり、コハク酸が255mg/lであるビール。」
<甲1製法発明>
「甲1発明の製造方法。」
また、甲1の記載から「ビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法」に対応する発明を認定することはできない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「ビール」は、「アルコールが11.04v/v%であり、真正エキスが4.09w/w%であり、コハク酸が285mg/lである」又は「アルコールが11.07v/v%であり、真正エキスが3.90w/w%であり、コハク酸が255mg/lである」から、本件特許発明1における「アルコール度数が8.5~19%であり、エキス分が0.5~4.5%であり、コハク酸の含有量が39~875ppmであり」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アルコール度数が8.5~19%であり、エキス分が0.5~4.5%であり、コハク酸の含有量が39~875ppmである、
ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、「麦芽比率が10%以上」とあるのに対して、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては、「エキス分をX%、コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たす」のに対して、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-3>
本件特許発明1においては、「ビールテイスト飲料」が「プリン体の含有量が1.1mg/100mL以下であるものを除く」のに対して、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点1-2について先に検討する。
甲1及び他の証拠には、甲1発明において相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減」(本件特許明細書の【0009】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、「ビールを割水により9%のアルコール度数に希釈し、それによって本件特許発明1の(1)、(2)、(3)及び(4)の関係式を全て満たすビールに導くことは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない」と主張するが、甲1及び8のいずれにも、甲1発明において、アルコール度数を敢えて9%に希釈することの動機付けとなる記載はないし、そのようにした場合に、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減」という本件特許発明1の効果が得られることを予測させる記載もない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1製法発明を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明4は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
上記(1)イで述べたとおり、甲1の記載から「ビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法」に対応する発明を認定することはできないから、本件特許発明5は、甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「様々なオリジナルエキス濃度由来のビール中有機酸含有量の分析」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲2は外国語文献のため、訳文のみ摘記する。
・「要約 6.0、6.5、7.0、7.5、8.0および10.0°Pのビールを同じ原料比率で下面発酵法により醸造した。試料の総酸度は原酒濃度が高くなるにつれて増加し、原酒濃度が7.5°Pより低くなるとビールの酸味が明らかになった。逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)により、シュウ酸、酒石酸、ピルビン酸、リンゴ酸、モノケトグルタル酸、乳酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸の10種類の有機酸が検出され、その総量は738.17~799.50mg/Lで、試料間の有機酸含量の差は明らかであった。コハク酸が最も高く、次いでクエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、乳酸、シュウ酸の順であった。シュウ酸とピルビン酸の含量は、オリジナルエキス濃度が高くなるにつれて増加したが、7.0、7.5、8.0、10.0°Pビールの乳酸含量は同程度であり、6.0と6.5°Pビールの乳酸含量は急激に増加した。この結果から、ビール酵母の酸産生はオリジナルエキス濃度と発酵度に影響されることがわかった。
キーワード ビール、逆相高速液体クロマトグラフィー、有機酸、原液濃度、発酵度」(要約)
・「1 材料と方法
1.1 材料
原材料:麦芽、米、カラメル麦芽、ホップ。主原料と副原料の比率はサンプル間で同じであった。
菌株:ビール酵母(S.uvarum):実験室で保管。」(108頁左欄22~26行)
・「
[図:0001407882000002.jpg]
」(109頁左欄表1)
・「
[図:0001407882000003.jpg]
」(110頁右欄表2)
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2発明」「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「原料として麦芽、米、カラメル麦芽、ホップを使用し、オリジナルエキスが6.0、6.5、7.0、7.5、8.0又は10.0°Pであって、下記表1及び2に記載の成分を含むビール。
[図:0001407882000004.jpg]
[図:0001407882000005.jpg]
」
<甲2製法発明>
「甲2発明の製造方法。」
また、甲2の記載から「ビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法」に対応する発明を認定することはできない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「ビール」は、コハク酸含有量が183.53~240.28mg/Lであるから、本件特許発明1における「コハク酸の含有量が39~875ppmであり」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「コハク酸の含有量が39~875ppmである、
ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1においては、「アルコール度数が8.5~19%」とあるのに対して、甲2発明においては、アルコール体積分率が2.2~4.8%である点。
<相違点2-2>
本件特許発明1においては、「エキス分が0.5~4.5%」とあるのに対して、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2-3>
本件特許発明1においては、「麦芽比率が10%以上」とあるのに対して、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2-4>
本件特許発明1においては、「エキス分をX%、コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たす」のに対して、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2-5>
本件特許発明1においては、「ビールテイスト飲料」が「プリン体の含有量が1.1mg/100mL以下であるものを除く」のに対して、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点2-1について検討する。
甲2及び他の証拠には、甲2発明において相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減」という効果は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、「ビールにアルコールを添加し、それによって本件特許発明1の「アルコール度数が8.5~19%であり」との構成要件を満たすビールテイスト飲料に導くことは、甲第10号証に接した当業者であれば容易に想到し得たことである。」と主張するが、甲2及び10のいずれにも、4.8%以下のアルコール度数である甲2発明において、敢えてアルコールを添加することの動機付けとなる記載はないし、そのようにした場合に、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減」という本件特許発明1の効果が得られることを予測させる記載もない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲2製法発明を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明4は、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
上記(1)イで述べたとおり、甲2の記載から「ビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法」に対応する発明を認定することはできないから、本件特許発明5は、甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「発酵度の異なる低濃度ビールにおける有機酸と緩衝特性の研究」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲3は外国語文献のため、訳文のみ摘記する。
・「要約:下面発酵方法を使用して4種類の7°Pビールを醸造した(発酵度はそれぞれ57.6%、63.4%、67.9%、72.5%)。RP-HPLCを使用してビール中の9つの主要な有機酸を検出し、ビールの緩衝能を測定した。完成したビール中の有機酸と緩衝特性の相関関係をSAS9.0統計ソフトウェアを使用して分析したところ、モノケトグルタル酸、乳酸、緩衝特性には有意な相関があり、相関係数はそれぞれ-0.96280、-0.98527(P<0.05)であり;フマル酸とコハク酸は一般に緩衝特性に関連しており、相関係数はそれぞれ0.90269と0.92811(P<0.10)であった。
キーワード ビール、発酵度、有機酸、緩衝能」(要約)
・「1 材料と方法
1.1 材料
原材料:麦芽、米、ホップ。
酵母(Saccharomyces uvarum):山東農業大学食品理工学部の研究室保存」(78頁左欄下から2行~右欄3行)
・「
[図:0001407882000006.jpg]
」(79頁表2)
・「
[図:0001407882000007.jpg]
」(80頁表4)
イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特にサンプル2に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、順に「甲3発明」「甲3製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「原料として麦芽、米、ホップを使用し、真正エキスが2.00±0.02質量%であり、エタノールが2.51±0.03体積%であり、コハク酸の含有量が52.74±3.61mg/Lであるビール。」
<甲3製法発明>
「甲3発明の製造方法。」
また、甲3の記載から「ビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法」に対応する発明を認定することはできない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「ビール」は、「真正エキスが2.00±0.02質量%であり、」「コハク酸の含有量が52.74±3.61mg/Lである」から、本件特許発明1における「エキス分が0.5~4.5%であり、コハク酸の含有量が39~875ppmであり」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エキス分が0.5~4.5%であり、コハク酸の含有量が39~875ppmである、
ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1においては、「アルコール度数が8.5~19%」とあるのに対して、甲3発明においては、「エタノールが2.51±0.03体積%」とある点。
<相違点3-2>
本件特許発明1においては、「麦芽比率が10%以上」とあるのに対して、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3-3>
本件特許発明1においては、「エキス分をX%、コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たす」のに対して、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3-4>
本件特許発明1においては、「ビールテイスト飲料」が「プリン体の含有量が1.1mg/100mL以下であるものを除く」のに対して、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点3-1について検討する。
甲3及び他の証拠には、甲3発明において相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲3発明において、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減」(本件特許明細書の【0009】)という効果は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、「ビールにアルコールを添加し、それによって本件特許発明1の「アルコール度数が8.5~19%であり」との構成要件を満たすビールテイスト飲料に導くことは、甲第10号証に接した当業者であれば容易に想到し得たことである。」と主張するが、甲3及び10のいずれにも、2.51±0.03%のアルコール度数である甲3発明において、敢えてアルコールを添加することの動機付けとなる記載はないし、そのようにした場合に、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減」という本件特許発明1の効果が得られることを予測させる記載もない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲3製法発明を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明4は、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
上記(1)イで述べたとおり、甲3の記載から「ビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法」に対応する発明を認定することはできないから、本件特許発明5は、甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(甲4に基づく先願発明と同一)について
(1)甲4に基づく先願発明
本件特許の出願前を出願日とする甲4の出願の請求項1ないし9に係る発明(以下「先願発明1」ないし「先願発明9」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
アルコール度数が8.5%以上であり、エキス分が0.8~4.5%であり、コハク酸の含有量が40~800ppmであり、麦芽比率が10%以上であり、
蒸留アルコールを含み、発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数が1%以上であり、
前記エキス分をX%、前記コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすビールテイスト飲料。
【請求項2】
エキス分が1.8~3.5%である請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
コハク酸の含有量が200~600ppmである請求項1又は請求項2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
アルコール度数を8.5%以上、エキス分を0.8~4.5%、コハク酸の含有量を40~800ppm、麦芽比率を10%以上とするとともに、前記エキス分をX%、前記コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすようにする工程を含むとともに、
蒸留アルコールを含ませる工程と、発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数を1%以上とする工程と、を含むビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
エキス分を1.8~3.5%とする請求項4に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
コハク酸の含有量を200~600ppmとする請求項4又は請求項5に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
アルコール度数が8.5%以上のビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法であって、
前記ビールテイスト飲料のエキス分を0.8~4.5%、コハク酸の含有量を40~800ppmとするとともに、
前記エキス分をX%、前記コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすようにするビールテイスト飲料の香味向上方法。
【請求項8】
前記ビールテイスト飲料の麦芽比率を10%以上とする請求項7に記載のビールテイスト飲料の香味向上方法。
【請求項9】
前記ビールテイスト飲料に蒸留アルコールを含ませるとともに、発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数を1%以上とする請求項7又は請求項8に記載のビールテイスト飲料の香味向上方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と先願発明1を対比すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エキス分が0.5~4.5%であり、コハク酸の含有量が39~875ppmであり、
麦芽比率が10%以上であり、
エキス分をX%、コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明1においては、「アルコール度数が8.5~19%」とあるのに対して、先願発明1においては、「アルコール度数が8.5%以上」とある点。
<相違点4-2>
本件特許発明1においては、「ビールテイスト飲料」が「プリン体の含有量が1.1mg/100mL以下であるものを除く」のに対して、先願発明1においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点4-1について検討する。
本件特許明細書の【0014】より、ビールテイスト飲料のアルコール度数が所定値以下であることによって、バランスのとれた香味となるから、相違点4-1は、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないし、先願発明1の発明特定事項を本件特許発明1において上位概念として表現したことによる差異であるともいえないし、単なるカテゴリー表現上の差違であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は先願発明1と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明1は先願発明2ないし4及び8と同一であるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、「アルコール度数が8.5~19%」という発明特定事項を有しているものであるのに対し、先願発明2及び3はいずれも上記発明特定事項を有していない。
したがって、本件特許発明2及び3は先願発明2及び3のいずれとも同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明2及び3は先願発明1、4及び8と同一であるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と先願発明4を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明4は先願発明4と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明4は先願発明1ないし3及び8と同一であるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5と先願発明8を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明5は先願発明8と同一であるとはいえない。
また、同様に、本件特許発明5は先願発明1ないし4と同一であるとはいえない。
(6)取消理由4についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし5は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
5 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0007】によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減したビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0008】、【0014】、【0018】、【0021】、【0023】、【0027】、表1、8及び9には、本件特許発明1ないし5に対応する記載がある。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0051】ないし【0081】には本件特許発明の実施形態について説明があり、【0009】には本件特許発明による発明の効果が記載されている。
そうすると、当業者は、本件特許発明1ないし5の構成を備えることにより、発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
なお、特許異議申立人は、上記第3 5のとおり主張するが、本件特許発明1ないし5がサポート要件を満たすのは上記検討のとおりであって、特許異議申立人の主張の当否はこのような判断を何ら左右しない。
(3)申立理由5(サポート要件)についてのむすび
本件特許発明1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5によっては取り消すことはできない。
6 申立理由6(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明5は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件特許発明5の各発明特定事項について具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明5を使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明5に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
なお、特許異議申立人は、上記第3 6のとおり主張するが、本件特許発明5が実施可能要件を満たすのは上記検討のとおりであって、特許異議申立人の主張の当否はこのような判断を何ら左右しない。
(3)申立理由6(実施可能要件)についてのむすび
本件特許発明5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由6によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701231