特許異議申立
2024-700074
容器及び/又は内容物の殺菌装置
- 審判番号
- 2024-700074
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-003920
- 登録番号
- 7324397
- 請求日
- 2024年01月31日
- 審決日
- 2025年10月16日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】岩崎電気株式会社
- 【権利者代理人】高橋 要泰
- 【異議申立人】柏木 香陽子
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 田口 傑
- 審判官 岩谷 一臣
- 分類
- P1651.121-ZDA(B65B) / P1651.537-ZDA(B65B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第113条、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7324397号発明「容器及び/又は内容物の殺菌装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7324397号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7324397号の請求項2~5に係る特許を取り消す。
特許第7324397号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第7324397号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7324397号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成31年1月12日の出願であって、令和5年8月2日にその特許権の設定登録がされ、同年8月10日に特許掲載公報が発行されたものである。その後、本件の異議申立に係る手続の概要は、以下のとおりである。
令和6年 1月31日 :特許異議申立人柏木香陽子(以下、「申立人」という。)による請求項1~6に対する特許異議の申立て
2月20日 :異議申立書に対する手続補正
6月 6日付け:取消理由の通知
8月 8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
10月16日 :訂正請求書に対する手続補正
11月29日付け:訂正拒絶理由の通知
12月23日 :訂正請求書に対する手続補正及び意見書の提出
令和7年 2月18日 :申立人による意見書の提出
6月 3日付け:取消理由(決定の予告)の通知
なお、令和7年6月3日付けの取消理由(決定の予告)に対し、特許権者から意見書及び訂正請求書の提出はなされなかった。
第2 令和6年12月23日付けの手続補正の許否
1 訂正拒絶理由の概要及び手続補正の内容
令和6年11月29日付けの訂正拒絶理由は、概略、訂正請求書により請求された請求項6に対する訂正事項6に関し、特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的としたものではなく、また、当該訂正により、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものであるため、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合せず、違法なものであるというものである。
そして、当該手続補正は、この訂正拒絶理由に対し、訂正事項6として請求項6を削除する訂正に訂正請求書を補正したものである。
2 判断
特許法120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定により、訂正請求書の補正は、その要旨を変更するものを禁じているところ、この手続補正は、審理対象の拡張変更を行うものではなく、これによって審理の遅延は生じ得ないから、当該手続補正を認めることとする。
第3 本件訂正について
1 訂正の内容
上記手続補正により補正された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものとして、当審において付与した。
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1における「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る容器及び/又は内容物の殺菌装置であって、」との記載を、「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る乾燥状態の空の容器の殺菌装置であって、」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1における「前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器及び/又は内容物に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行い、
前記紫外線照射手段として高圧水銀ランプを使用して乾燥状態の空の容器を殺菌処理する場合、
加熱処理では前記容器を少なくとも70℃とし、
紫外線処理では前記容器を少なくとも70 mJ/cm2で照射する」との記載を、
「前記殺菌装置は、前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行う装置であり、
前記加熱手段は、前記容器を90℃に加熱する手段であり、
前記紫外線照射手段は、高圧水銀ランプを使用して前記容器を少なくとも140 mJ/cm2で紫外線照射する手段である」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
ア 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項2における「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る容器及び/又は内容物の殺菌装置であって、」との記載を、「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る乾燥状態の空の容器の殺菌装置であって、」に訂正する。
(請求項2を引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
イ 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項2における「前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器及び/又は内容物に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行い、
前記紫外線照射手段としてキセノンフラッシュランプを使用して乾燥状態の空の容器を殺菌処理する場合、
加熱処理で前記容器を少なくとも50 ℃とし、紫外線処理で少なくとも42 mJ/cm2で照射する」との記載を、
「前記殺菌装置は、前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行う装置であり、
前記加熱手段は、前記容器を80~90 ℃に加熱する手段であり、
前記紫外線照射手段は、キセノンフラッシュランプを使用して前記容器を少なくとも72 mJ/cm2で紫外線照射する手段である」に訂正する。
(請求項2を引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
ア 訂正事項3-1
特許請求の範囲の請求項3における「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る容器及び/又は内容物の殺菌装置であって、」との記載を、「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る内容物が充填された容器の殺菌装置であって、」に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
イ 訂正事項3-2
特許請求の範囲の請求項3における「前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器及び/又は内容物に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行い、
前記紫外線照射手段としてキセノンフラッシュランプを使用して水分に濡れた状態の容器、内容物が充填された容器、又は内容物自体を殺菌する場合、
加熱処理で前記容器を少なくとも40 ℃とし、紫外線処理で少なくとも181 mJ/cm2で照射する」との記載を、
「前記殺菌装置は、前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行う装置であり、
前記加熱手段は、前記容器を処理槽に貯めたお湯に浸漬して40~55 ℃に加熱する手段であり、
前記紫外線照射手段は、キセノンフラッシュランプを使用して前記容器を少なくとも283 mJ/cm2で紫外線照射する手段である」に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4における「請求項1~3のいずれか一項記載の容器及び/又は内容物の殺菌装置において、前記紫外線照射は、前記容器及び/又は内容物を前記加熱手段によって加熱した直後に行われる、殺菌装置。」との記載を、「請求項1~3のいずれか一項記載の容器の殺菌装置において、前記紫外線照射は、前記容器を前記加熱手段によって加熱した直後に行われる、殺菌装置。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5における「請求項1~3のいずれか一項記載の容器及び/又は内容物の殺菌装置において、前記紫外線照射は、前記容器及び/又は内容物を前記加熱手段によって加熱すると同時に行われる、殺菌装置。」との記載を、「請求項1~3のいずれか一項記載の容器の殺菌装置において、前記紫外線照射は、前記容器を前記加熱手段によって加熱すると同時に行われる、殺菌装置。」に訂正する
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~3は独立請求項であるところ、それぞれ請求項4~6により引用されているものである。そうすると、本件訂正は、これらが組み合わさって一群の請求項である請求項〔1~6〕に対して請求されたものである。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1-1、2-1、3-1について
当該訂正事項は、訂正前の請求項1~3について、殺菌ないし加熱処理の対象の記載が整合しておらず、発明が明確でないとする趣旨の取消理由通知に対し、その対象を請求項1及び2については「乾燥状態の空の容器」と、また、請求項3については「内容物が充填された容器」と限定しつつ明確化したものである。そうするとこの訂正の目的は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
そして、これらの訂正は、それぞれ願書に添付した明細書の【0027】等の記載に基づくものであるから、新規事項の追加ではなく、また、この訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
(2)訂正事項1-2、2-2、3-2について
当該訂正事項は、訂正前の請求項1~3について、殺菌装置としての構造又は構成が明確でないとする趣旨の取消理由通知に対し、その点を明確化するとともに、加熱温度及び紫外線照射強度を限定したものである。そうするとこの訂正の目的は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
そして、これらの訂正は、訂正事項1-2については願書に添付した明細書の【表3】のサンプルNo.13~15の記載に、訂正事項2-2については同【表5】のサンプルNo.17、18の記載に、訂正事項3-2については同【0065】及び【表6】のサンプルNo.10、15に基づくものであるから、新規事項の追加ではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
(3)訂正事項4、5について
当該訂正事項は、取消理由に対応し「容器及び/又は内容物」を「容器」に限定するとともに明確化を図ったものである。そうするとこの訂正の目的は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
そして、この訂正は、新規事項の追加ではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。
(4)訂正事項6について
当該訂正事項は、請求項6を削除するものであるから、請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないことは明らかである。
4 本件訂正についてのむすび
以上のとおり、訂正事項1~6は、それぞれ、特許法120条の5第2項ただし書第1又は3号に掲げる事項を目的とするものである。また、訂正事項1~6は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第4 本件発明
上記第3のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る乾燥状態の空の容器の殺菌装置であって、
前記殺菌装置は、前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行う装置であり、
前記加熱手段は、前記容器を90℃に加熱する手段であり、
前記紫外線照射手段は、高圧水銀ランプを使用して前記容器を少なくとも140mJ/cm2で紫外線照射する手段である、殺菌装置。
【請求項2】
加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る乾燥状態の空の容器の殺菌装置であって、
前記殺菌装置は、前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行う装置であり、
前記加熱手段は、前記容器を80~90 ℃に加熱する手段であり、
前記紫外線照射手段は、キセノンフラッシュランプを使用して前記容器を少なくとも72 mJ/cm2で紫外線照射する手段である、殺菌装置。
【請求項3】
加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る内容物が充填された容器の殺菌装置であって、
前記殺菌装置は、前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行う装置であり、
前記加熱手段は、前記容器を処理槽に貯めたお湯に浸漬して40~55 ℃に加熱する手段であり、
前記紫外線照射手段は、キセノンフラッシュランプを使用して前記容器を少なくとも283 mJ/cm2で紫外線照射する手段である、殺菌装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の容器の殺菌装置において、
前記紫外線照射は、前記容器を前記加熱手段によって加熱した直後に行われる、殺菌装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項記載の容器の殺菌装置において、
前記紫外線照射は、前記容器を前記加熱手段によって加熱すると同時に行われる、殺菌装置。」
第5 取消理由の概要
当審が通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
・取消理由3(サポート要件)
本件発明2~5は、以下の点で特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許がなされたものであるから、特許法第113条4号に該当し取り消すべきものである。
ア 紫外線照射量について、本件発明2の「72mJ/cm2」を超える部分、及び本件発明3の「283mJ/cm2」を超える部分は、それぞれ発明の詳細な説明において当業者が本件発明の課題を解決できるように記載された範囲を超えるものである。
イ 請求項2、3を引用する本件発明4、5についても同様である。
第6 当審における判断
上記取消理由3について、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
そこで、当該観点に基づき検討する。
1 本件発明の課題
本件発明の課題に関し、本件の明細書には以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を意味する(以下、本決定において同様)。
「【0005】
・・・紫外線殺菌処理の殺菌対象菌の特性として、熱には比較的弱いが紫外光に比較的強い耐性を持つ菌も存在する。逆に、熱には比較的強いが紫外光に比較的弱い菌も存在する。
・・・
【0008】
これに対応して、紫外線照射のみで殺菌処理を行おうとする場合、ランプ灯数の増加、照射時間の増加などが考えられるが、殺菌装置の大型化、コストアップ、殺菌対象物の変形・劣化など熱的影響が懸念される。更に、大きな紫外線照射量を得るため、ランプに大きな負荷を掛けると、ランプ寿命が非常に短くなる欠点も有していた。
【0009】
従来、このような紫外線に耐性を持つ菌(黒カビ等)に対しては、スチームによる加熱殺菌処理や殺菌溶液(過酸化水素水、次亜塩素酸溶液、酢酸溶液等)を使用した薬液殺菌処理を行っていた。しかし、このような湿式の薬液殺菌処理は、中和工程、洗浄工程、乾燥工程等が付随し、これらの設備が必要となる。
【0010】
食品分野や医療分野では、薬液殺菌処理工程を廃止したいとの要望もある。熱殺菌処理と紫外線殺菌処理を組み合わせ、全体として殺菌処理システムとすることで、工程及び設備を簡素化することが望ましい。・・・
【0011】
そこで、本発明者等は、熱殺菌処理と紫外線照射による殺菌処理の併用した殺菌処理システムを検討することにした。しかし、本発明者等が行った実験結果によると、熱殺菌処理と紫外線照射殺菌処理とを順次別個に行っても、熱殺菌効果と紫外線殺菌効果とを単純に加算した結果とは成らなかった。
次の段階で、加熱された状態の殺菌対象物(容器等)に対して紫外線照射処理を行ってみると、予期せぬ顕著な殺菌効果が得られることが分かった。
そこで、本発明は、この知見に基づき、容器及び/又は内容物に関して、熱殺菌処理によって加熱された状態の殺菌対象物に対して紫外線照射処理を行う殺菌装置を提供することを目的とする。」
これらの記載に鑑みれば、本件発明は、加熱された状態の殺菌対象物に対して紫外線照射処理を行うことで、より効果的な殺菌処理を行うことを課題とするものであると解される。
2 課題解決手段
当該課題に照らし、第1実施形態を検討するに、加熱温度を90℃とし、紫外線照射量を140mJ/cm2以上にすれば、優位に不活化効果が得られることが理解できる。しかし、紫外線照射量が280mJ/cm2から420mJ/cm2に上昇しても不活化効果が4.7から4.6に降下していることが見て取れ(【表3】)、照射線量が多ければ殺菌効果が上がるという単純なものではなく、逆に低下することもあることが理解される。また、同様のことは、加熱温度25℃における照射量280mJ/cm2と420mJ/cm2との間や、【図1A】からも見て取れる。すなわち、本件発明では、一定以上の不活化効果を得るために、単に加熱温度や紫外線照射量を組合せその値を個別に増加させるのではなく、特定の加熱温度及び紫外線照射量の組み合わせを得ることが課題解決において必須の要素の一つであると認められる。
3 判断
本件発明2に関し、第2実施形態においては、加熱温度を80~90℃とし、紫外線照射量の積算光量を72mJ/cm2とした場合、不活化効果が最も高くなっている(【表5】)。しかし、発明の詳細な説明では、第2実施形態においてこれ以上高い紫外線放射量を照射した場合の不活化効果については記載も示唆もされていない上、上記2の理解に立脚すれば、これ以上紫外線照射量を増やしたとしても、不活化効果がより高くなる、あるいは高いまま維持されるとは必ずしも解されない。
もっとも、紫外線照射手段が第1実施形態では高圧水銀ランプである一方、第2実施形態ではキセノンフラッシュランプであるが、発明の詳細な説明において、ランプの違いによってどのような特性の変化を生じるか、少なくとも第1実施形態と第2実施形態に関連した記載ないし示唆となるようなものは、発明の詳細な説明から読み取ることができない。
同様、第3実施形態についても、加熱温度40℃及び55℃において、紫外線照射量を283mJ/cm2とした場合の不活化効果が最も高くなっているが、これ以上の紫外線照射量でどのようになるかは不明である。
そうすると、本件発明2において紫外線照射量が「72mJ/cm2」を超える部分、及び本件発明3において紫外線照射量が「283mJ/cm2」を超える部分については、発明の詳細な説明において当業者が本件発明の課題を解決できるように記載された範囲を超えるものである。
また、請求項2及び3の記載を直接引用する本件発明4及び5についても同様である。
4 小括
以上のとおりであるから、本件発明2~5は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許がなされたものである。
第7 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった取消理由について
1 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、概略以下の取消理由を主張する。
(1)取消理由1(明確性要件)
本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、以下の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・請求項1に記載された「乾燥状態の空の容器を殺菌処理する場合、加熱処理では前記容器を少なくとも70℃とし、紫外線処理では前記容器を少なくとも70mJ/cm2で照射する」、請求項2に記載された「乾燥状態の空の容器を殺菌処理する場合、加熱処理で前記容器を少なくとも50℃とし、紫外線処理で少なくとも42mJ/cm2で照射する」、請求項3に記載された「水分に濡れた状態の容器、内容物が充填された容器、又は内容物自体を殺菌する場合、加熱処理で前記容器を少なくとも40℃とし、紫外線処理で少なくとも181mJ/cm2で照射する」、請求項4に記載された「前記紫外線照射は、前記容器及び/又は内容物を前記加熱手段によって加熱した直後に行われる」、請求項5に記載された「前記紫外線照射は、前記容器及び/又は内容物を前記加熱手段によって加熱すると同時に行われる」は、使用方法又は使用時の条件設定を記載しているのみで、「物」の発明として不明瞭である。
(2)取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、当該請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
<刊行物>
・甲1:特開2002-80017号公報(申立人が提出した甲第1号証)
・甲2:特許第5043273号公報(同甲第2号証)
・甲3:特表2010-507503号公報(同甲第3号証)
・甲4:特開2018-193091号公報(同甲第4号証)
2 取消理由1、2についての判断
事案に鑑み、以下、本件発明1について判断する。
(1)取消理由1(明確性要件)について
本件訂正により、本件発明1について、「場合」という記載がなくなり、「乾燥状態の空の容器」の殺菌装置として、「加熱手段」及び「紫外線照射手段」という物により構成されることが明らかとなった。
そのため、本件発明1に関する当該取消理由1はその理由がなくなった。
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 各甲号証について
(ア)甲1に記載の発明
甲1の特に請求項1、5、7及び【0151】の記載から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「容器の下面又は下面近傍以外の部分を保持して当該容器を搬送する容器搬送手段と、
上記容器の搬送ライン上若しくは当該搬送ラインの近傍に設置されると共に、上記容器の下面及び/又は下面近傍に対して紫外線を照射して当該容器の表面を紫外線により殺菌する紫外線殺菌手段及び上記容器の下面及び/又は下面近傍に対して熱を加えて当該容器の表面を熱により殺菌する加熱殺菌手段とを設け、
殺菌対象に対する上記加熱殺菌手段による殺菌効果が持続している間に上記紫外線殺菌手段による殺菌が行われるようにし、
上記紫外線殺菌手段は、波長が180nmから400nmまでの範囲内にある紫外線を放射する紫外線殺菌手段であり、当該紫外線殺菌手段による上記容器に対する紫外線の照射量は5.0×104μW・s/cm2以上であり、
上記加熱殺菌手段による上記殺菌対象に対する加熱は、電磁波の照射により当該殺菌対象を55℃以上に熱して行う、
殺菌装置。」
(イ)甲2に記載の発明
甲2の特に請求項6から、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「充填装置によって容器に内容物を充填使用される前において、使用される容器等の対象付着物の殺菌すべき部位を55℃から85℃までの範囲内において5分乃至6分加熱して当該対象付着物に付着しているかび類及び/又は芽胞状態にある菌類の殺菌対象に温度による刺激を与える加熱手段と、
上記温度の刺激を有する上記殺菌対象に対して波長が180nmから480nmまでの範囲内にある紫外線を1.5×105μW・s/cm2以上照射する紫外線照射手段と、を設けた
かび類及び/又は芽胞状態にある菌類の殺菌装置。」
(ウ)周知技術
甲4の【0066】、【0067】の記載からみて、以下の点は周知技術である。
「紫外線照射手段として、高圧水銀ランプ、キセノンフラッシュランプを用いること。」
イ 甲1発明を主引例とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比するに、甲1発明の「加熱殺菌手段」は本件発明1の「加熱手段」に相当し、以下同様に、「紫外線を照射して当該容器の表面を紫外線により殺菌する紫外線殺菌手段」は「紫外線を照射する紫外線照射手段」に、「容器」は「容器」に相当する。
甲1発明の「殺菌装置」は、「加熱殺菌手段」と「紫外線殺菌手段」を有し、「容器」の殺菌を行うものであるから、これは、本件発明1の「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る乾燥状態の空の容器の殺菌装置」との関係において、「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る容器の殺菌装置」に限り一致する。
甲1発明の「殺菌装置」は、「殺菌対象に対する上記加熱殺菌手段による殺菌効果が持続している間に上記紫外線殺菌手段による殺菌が行われる」ものであるところ、技術常識に鑑みれば、「加熱殺菌手段による殺菌効果が持続している間」とは、その加熱された状態が持続している間であると理解できる。そうすると、これは、本件発明1の「前記殺菌装置は、前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行う装置」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点は、次のとおりである。
[一致点]
「加熱手段と、紫外線を照射する紫外線照射手段とから成る容器の殺菌装置であって、
前記殺菌装置は、前記加熱手段によって加熱された状態の前記容器に対して、前記紫外線照射手段により紫外線照射を行う装置である、
殺菌装置。」
一方、本件発明1と甲1発明との相違点は、以下のとおりである。
[相違点1-1]
殺菌対象となる容器について、本件発明1では「乾燥状態の空の容器」としているのに対して、甲1発明の「容器」は、乾燥状態の空の容器であるか不明である点。
[相違点1-2]
本件発明1では、「前記加熱手段は、前記容器を90℃に加熱する手段であり、前記紫外線照射手段は、高圧水銀ランプを使用して前記容器を少なくとも140mJ/cm2で紫外線照射する手段である」としているのに対して、甲1発明では、「加熱殺菌手段」及び「紫外線殺菌手段」を有しているものの、加熱温度が55℃以上、紫外線の照射量が5.0×104μW・s/cm2以上、すなわち50mJ/cm2以上とされており、その加熱温度、紫外線の照射量に違いがあり、また、紫外線照射手段として高圧水銀ランプを用いていない点。
(イ)判断
当該相違点1-1、1-2は関連するため、まとめて検討する。
まず、本件の第1実施形態の実験結果である【表3】を参酌するに、殺菌対象を乾燥状態の空の容器に相当する黒カビを付着させたPET板(【0029】)とした場合、加熱温度が90℃であると、紫外線照射処理の積算光量280において不活化効果が最も高く、また逆に、紫外線照射処理の積算光量が420の場合、加熱温度90℃よりも70℃の方が不活化効果が高いことが見て取れる。さらに、紫外線照射処理の積算光量が140である場合、加熱温度25℃、70℃、90℃で比較すると、90℃で優位に不活化効果が高くなることが見て取れる。
すなわち、加熱温度や紫外線照射量をそれぞれ個別に調整すればよいというものではなく、特定の温度及び紫外線照射量を組み合わせ、これらを併用することで、大きな不活化効果が得られることが理解できる。
さらに、高圧水銀ランプを用いた第1実施形態(【表3】)と、キセノンフラッシュランプを用いた第2実施形態の実験結果(【表4】、【表5】)を見ると、黒カビを付着させたPET板という同じ対象に対する殺菌であっても、紫外線照射手段の違いにより、不活化効果が高くなる温度及び紫外線照射量が異なることが理解できる。
また、同じキセノンフラッシュランプを用い、殺菌対象を乾燥状態の空の容器相当とした第2実施形態(【表4】、【表5】)と、同内容物が充填された容器相当とした第3実施形態(【表6】)とを比較すると、紫外線照射手段が同じであっても、乾燥した容器であるか内容物が充填された容器であるか、その違いで高い不活化効果が得られる加熱温度及び紫外線照射処理量が異なることが理解できる。
これらの事項に鑑みれば、本件発明1は、殺菌対象を乾燥状態の空の容器とした上で 紫外線照射手段に高圧水銀ランプを採用し、加熱温度を90℃、紫外線照射量を少なくとも140mJ/cm2とすることで、相乗的な不活化効果を得ているものであり、これは、本件明細書の【0011】の記載とも整合的である。
そして、当該点について、甲1~4においては記載も示唆も見られない。
そうすると、甲1発明に基づいて当該相違点1-1、1-2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 甲2発明を主引例とする場合
本件発明1と甲2発明とを対比すると、これらの発明は、上記イ(ア)と同じ相違点を有するものである。そして、これに対する判断は、同(イ)のとおりである。
エ 取消理由2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、取消理由2(進歩性)によりその特許を取り消すことはできない。
第8 まとめ
以上のとおり、請求項2~5に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
また、請求項1に係る発明は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他にこれを取り消すべき理由は発見しない。
さらに、申立人による請求項6に係る特許に対する特許異議の申立は、本件訂正により請求項6が削除され、その対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700074