特許異議申立
2024-700055
自動車用防眩性・遮熱性シートおよび自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス
- 審判番号
- 2024-700055
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-124411
- 登録番号
- 7318376
- 請求日
- 2024年01月24日
- 審決日
- 2024年04月16日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】堀 恵子
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 小野 久子
- 分類
- P1651.113-Y (C03C) / P1651.121-Y (C03C) / P1651.537-Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7318376号発明「自動車用防眩性・遮熱性シートおよび自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7318376号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7318376号の請求項1~4に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、令和1年7月3日に出願され、令和5年7月24日にその特許権の設定登録がされ、同年8月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~4に対して、令和6年1月24日に特許異議申立人堀恵子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。そして、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
防眩性・遮熱性シートと該防眩性・遮熱性シートを挟む2枚の透明板とを有する自動車用防眩性・遮熱性合わせガラスであって、
明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有し、前記防眩性・遮熱性シートは屈折率が異なる2層以上の誘電体層を含むことを特徴とする自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス。
【請求項2】
前記防眩性・遮熱性シートは、分光反射率の最大値が12%以上である、請求項1に記載の防眩性・遮熱性合わせガラス。
【請求項3】
前記防眩性・遮熱性シートは屈折率が異なる誘電体層が交互に4~50層積層された積層部を有する、請求項1又は2に記載の防眩性・遮熱性合わせガラス。
【請求項4】
明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有し、屈折率が異なる2層以上の誘電体層を含むことを特徴とする自動車用防眩性・遮熱性シート。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 特開2008-200924号公報
甲第2号証 特開2014-59437号公報
1 申立理由1(新規性・進歩性欠如)
本件発明1~4は、甲第1証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1~4は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2(明確性要件違反)
本件特許1~4は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 申立理由3(サポート要件違反)
本件特許1~4は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
1 申立理由1(新規性・進歩性欠如)について
(1) 甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、「積層フィルム」(発明の名称)に関して次の事項が記載されている。
「【請求項1】
樹脂Aからなる層(A層)と樹脂Bからなる層(B層)を少なくとも有する積層数が30以上の積層フィルムであって、波長850~1000nmの帯域の平均反射率が60%以上であり、かつ酸化タングステン化合物を0.01g/m2以上10g/m2以下含んでなることを特徴とする積層フィルム。」
「【請求項5】
A層がポリエチレンテレフタレートを主成分とする層であり、B層が酸成分としてシクロヘキサンジカルボン酸、ジオール成分としてスピログリコールを共重合した成分を有するポリエステルであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の積層フィルムを含んでなることを特徴とする熱線カットフィルム。」
「【0006】
本発明の課題は、かかる問題を解決し、着色が少なく可視光線での透過率が高いとともに、赤外線のカット効率の高い積層フィルムを提供するものであり、・・・窓ガラスや車載ガラスの熱線カットフィルムとして好適である。」
「【0012】
本発明の積層フィルムでは、樹脂Aからなる層(A層)と樹脂Bからなる層(B層)を少なくとも有する積層数が30以上の積層フィルムを含んでいなければならないが、より好ましくはA層とB層が交互に積層され、積層数が200以上である積層フィルムを含んでなると良い。・・・」
「【0019】
本発明では、樹脂Aがポリエチレンテレフタレートであり、樹脂Bがポリエチレンテレフタレートにシクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステルであることが好ましい。・・・
特に、本発明では、A層がポリエチレンテレフタレートを主成分とする層であり、B層がシクロヘキサンジカルボン酸およびスピログリコールを共重合したポリエステルであることが好ましい。・・・
【0020】
本発明に用いられる積層フィルムでは、B層に比較してA層の屈折率が高い方が好ましく、具体的にはA層の面内平均屈折率とB層の面内平均屈折率の差が、0.03以上であることが好ましい。・・・」
「【0039】
本発明の積層フィルムは、熱線カットフィルムとしても好適である。熱線カットフィルムとは窓ガラスや自動車用ガラスなどに貼り合わせ、近赤外線や赤外線をカットし、屋外からの熱の流入を抑制したり、室内からの熱漏れを抑制する機能を有するフィルムである。・・・」
イ 前記アの記載事項を「車載ガラスの熱線カットフィルム」及び「熱線カットフィルムを貼り合わせた自動車用ガラス」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
(甲1発明1)
「樹脂Aからなる層(A層)と樹脂Bからなる層(B層)を少なくとも有する積層数が30以上の積層フィルムであって、波長850~1000nmの帯域の平均反射率が60%以上であり、かつ酸化タングステン化合物を0.01g/m2以上10g/m2以下含んでなり、A層がポリエチレンテレフタレートを主成分とする層であり、B層が酸成分としてシクロヘキサンジカルボン酸、ジオール成分としてスピログリコールを共重合した成分を有するポリエステルからなる層であり、B層に比較してA層の屈折率が高い積層フィルムを含む、車載ガラスの熱線カットフィルム。」
(甲1発明2)
「甲1発明1の熱線カットフィルムを貼り合わせた自動車用ガラス。」
(2) 本件発明4について
事案に鑑み、まず、本件発明4について検討する。
ア 本件発明4と甲1発明1との対比
甲1発明1の「車載ガラスの熱線カットフィルム」は、本件発明4の「自動車用」「遮熱性シート」に相当する。
また、甲1発明1の「樹脂Aからなる層(A層)と樹脂Bからなる層(B層)を少なくとも有する積層数が30以上の積層フィルム」は、「A層がポリエチレンテレフタレートを主成分とする層であり、B層が酸成分としてシクロヘキサンジカルボン酸、ジオール成分としてスピログリコールを共重合した成分を有するポリエステルからなる層であり、B層に比較してA層の屈折率が高い」ことから、本件発明4の「屈折率が異なる2層以上の誘電体層」に相当する。
したがって、本件発明4と甲1発明1とは、以下の点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
(相違点1)
本件発明4は、「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」しているのに対して、甲1発明1は、この点が明らかでない点。
(相違点2)
本件発明4は、「防眩性」を備えているのに対して、甲1発明1では、この点が明らかでない点。
イ 相違点1の検討
甲1発明1の「A層がポリエチレンテレフタレートを主成分とする層であり、B層が酸成分としてシクロヘキサンジカルボン酸、ジオール成分としてスピログリコールを共重合した成分を有するポリエステルからなる層」からなる「積層数が30以上の積層フィルム」が、「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」するとの特性、すなわち、相違点1に係る本件発明4の発明特定事項を満足することを示す証拠はないから、相違点1は実質的なものである。
また、甲第2号証には、「熱線カットフィルム」について記載されているところ、当該フィルムが「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」するとの特性を備えることは記載されていないから、甲第2号証の記載を参酌しても、甲1発明1において、相違点1に係る本件発明4の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるともいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張の概要
申立人は、甲第1号証には、「積層フィルム」に用いられる樹脂として、樹脂Aにポリエチレンテレフタレート、樹脂Bにポリエチレンテレフタレートにシクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステルが好ましいこと(【0019】)、及び、「積層フィルム」の積層数は30以上が好ましいこと(【0012】)が記載されており、これらの樹脂や積層数は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0030】及び【0031】に例示された樹脂や、実施例(【0050】~【0062】)のフィルム7の層数と同一又は類似したものであるから、甲第1号証に記載された「積層フィルム」は、相違点1に係る本件発明4の発明特定事項を満足する蓋然性が高い旨を主張している(特許異議申立書第11~15頁の「ウ 理由1について」参照)。
(イ) 申立人の主張の検討
樹脂の光学特性は、樹脂の基本骨格のみで定まるものでなく、樹脂の分子量によって変化するし、また、共重合した樹脂であれば、各成分の割合によっても変化するものである。さらに、積層フィルムの光学特性は、各層の樹脂の種類や積層数に加えて、各層及び全体の厚さにも影響されるものである。
これらの事項を踏まえると、甲第1号証に記載された「積層フィルム」が、本件特許明細書に例示された樹脂や層数と同一又は類似しているとしても、本件発明4の「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」するとの特性となっているということはできない。
したがって、申立人の前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明といえないし、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明2との対比
甲1発明2の「熱線カットフィルムを貼り合わせた自動車用ガラス」は、前記(2)アでの検討を踏まえると、本件発明1の「遮熱性シート」「有する自動車用」「遮熱性」「ガラス」に相当する。
また、その余の対応関係は、前記(2)アのとおりである。
したがって、本件発明1と甲1発明2とは、以下の点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
(相違点3)
本件発明1は、「遮熱性シートを挟む2枚の透明板とを有する」「合わせガラス」であるのに対して、甲1発明2は、「熱線カットフィルムを貼り合わせた」「ガラス」である点。
(相違点4)
本件発明1は、「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」しているのに対して、甲1発明2は、この点が明らかでない点。
(相違点5)
本件発明1は、「防眩性」を備えているのに対して、甲1発明2は、この点が明らかでない点。
イ 相違点4の検討
事案に鑑み、相違点4について検討すると、前記(2)イの相違点1について検討したのと同様な理由により、相違点4は実質的な相違点であるといえるし、また、甲1発明2において、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるといえない。
ウ 小括
したがって、相違点3、5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明といえないし、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(4) 本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の全ての発明特定事項を含みさらに限定を付すものであるから、前記(3)で検討したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明といえないし、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(5) 申立理由1についての結論
以上の検討のとおり、申立理由1に理由はない。
2 申立理由2(明確性要件違反)について
(1) 具体的な指摘事項
申立人の主張する申立理由2は、要するに、本件発明1及び4の「波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」するとの発明特定事項について、この「分光反射率の最大値」が、いかなる波長範囲内の最大値を示しているのかが明らかでないから、本件発明1~4に係る特許請求の範囲の記載は不明確である、というものである(特許異議申立書第15~17頁の「エ 理由2(明確性要件違反)について」参照)。
(2) 明確性要件適合性の判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「可視光透過率は、JIS R3106:1998に準拠して、赤外反射測定機を用いて測定することができる」こと(【0020】)、及び、「反射率の最大波長および反射率の最大値は、可視光透過率と同様にして測定される」こと(【0024】)が記載され、そして、JIS R3106:1998において、可視透過率の測定波長範囲は380~780nmであることが示されている。
これらの事項を併せ考えれば、本件発明1及び4の「波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」するとの発明特定事項における「分光反射率の最大値」は、波長380~780nmの範囲内の最大値を示していると解するのが自然であり、本件発明1及び4の前記発明特定事項は、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であるとはいえない。
本件発明1に係る請求項1の記載を引用する本件発明2及び3についても同様である。
したがって、本件発明1~4は明確である。
(3) 申立理由2についての結論
以上の検討のとおり、申立理由2に理由はない。
3 申立理由3(サポート要件違反)について
(1) サポート要件適合性の判断
ア 本件発明の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】及び【0010】の記載からして、本件発明の課題は、「暗所での防眩性と遮熱性とに優れた自動車用防眩性・遮熱性シートおよび自動車用防眩性・遮熱性合わせガラスを提供する」ことといえる。
イ 特許請求の範囲の記載について
特許請求の範囲の記載は、前記第2に示したとおりであって、本件発明1は、「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」することが特定された「自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス」の発明であるし、また、本件発明4は、「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」することが特定された「自動車用防眩性・遮熱性シート」の発明である。
ウ 発明の詳細な説明の記載について
(ア) 発明の詳細な説明には、暗所での防眩性に関して、「暗い所では可視光透過率を小さくしてより暗くした方が、明順応・暗順応を考慮すると眩しさを効果的に抑制することができると考えられる」こと(【0006】)、「人間の目は、波長毎に光を感じる強さ(視感度)が異なり、明所であれば一般に、550nmを中心とした波長の光に敏感であるとされており、暗所では一般に、これは短波長側にシフトしている。そうすると、暗所において視感度が高い波長の光の強度を選択的に低減させることができれば、暗所における光から感じる眩しさをより効果的に抑制できると考えられる」こと(【0012】)、及び、「反射率の最大波長は、暗所における視感度が高い範囲にあることが望ましく、好ましくは波長400~500nm、より好ましくは波長410~490nmである」こと(【0024】)が記載されている。
(イ) また、発明の詳細な説明には、遮熱性に関して、「遮熱性能Ttsは、好ましくは64%以下、より好ましくは62%以下、更に好ましくは60%以下である。遮熱性能Ttsは、ISO13837:2008に準拠して測定する。具体的には、Tts=27.6+0.724×(日射透過率)-0.276×(日射反射率)の式から算出される」こと(【0021】)が記載され、さらに、遮熱性能Ttsが太陽光線による熱が室内に伝わる割合を表しており、その値が小さいほど太陽光線による熱を遮る効果が高いことは技術常識である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の事項を併せ考えれば、「自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス」及び「自動車用防眩性・遮熱性シート」が、明所の可視光透過率が暗所の可視光透過率より大きく、遮熱性能Ttsが64%以下であり、波長400~500nmの範囲に反射率の最大値を有するとの特性を備えることにより、本件発明の課題を解決できるとものといえる。
(エ) 加えて、発明の詳細な説明には、「多積層光干渉を利用することにより、反射率の最大波長を短波長側にシフトさせることで、暗所における可視光透過率を小さくすることが可能となる。さらには、短波長を反射させることで、遮熱性も向上することを見出した」こと(【0012】)、「多積層光干渉を利用する積層シートとしては、例えば、屈折率が相異なる誘電体層が交互に積層された積層部を有するものが挙げられる。交互に積層される誘電体層の数としては、特に限定されず、例えば、4~50、好ましくは6~30である。また、各層の厚さは、例えば、5~1000nm、好ましくは10~900nmである。積層シート全体の厚さは、例えば、40nm~100μm、好ましくは120nm~60μmである。屈折率の差は、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.4以上である。屈折率の差が大きい場合は積層する層の数が少なくても本発明の効果を得ることができ、反対に屈折率の差が小さい場合は積層する層の数を多くする必要がある」こと(【0025】)、「このような多積層光干渉を利用するシートとしては、例えば、(1)樹脂を積層したもの(例えば、特開2017-181889号公報)、(2)金属酸化物を積層したもの、(3)金属化合物粒子が分散された樹脂を積層したもの、などが挙げられる」こと(【0026】)、及び、「基材フィルムは、可視光線を透過させるように透明樹脂から構成されて」、「基材フィルムとして使用される透明樹脂としては」、「1軸および2軸延伸したポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系の樹脂が好ましい」こと(【0034】)が記載され、さらに、実施例欄には、層数4~10、総厚み220~537nmの範囲内のZrO2/SiO2積層膜及び一軸延伸PET基材からなる防眩性・遮熱性フィルムを備えた防眩性・遮熱性合わせガラスについて、最大反射波長λmaxが426~541nmの範囲、遮熱性能Ttsが57.0~62.0の範囲、暗所可視光透過率-明所可視光透過率が-12.0~1.5の範囲になることも具体的に記載されている(【0050】~【0062】)。
(オ) 前記(エ)の記載事項を踏まえれば、当該技術分野の当業者が通常行う試行錯誤により、前記実施例を起点にして、積層膜の材料、層数や各層又は全体の厚さを調整して、前記(ウ)に示した特性を満たす積層膜に到達可能であることも理解できる。
エ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
本件発明1及び4は、前記イのとおり、「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」するとの特性を備えることが特定されているから、前記ウでの検討を踏まえれば、本件発明1及び4は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
また、本件発明1に係る請求項1の記載を引用する本件発明2及び3についても同様である。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
(2) 申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
申立人は、(i)本件特許明細書の実施例には、防眩性・遮熱性フィルムの基材又は多積層材料の特性が記載されていないとの不備があること、及び、(ii)実質的に特定の材料の組み合わせしか開示していない本件特許明細書の記載からでは、広範囲の種類の材料を用いても、本件発明1及び4の「明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有」するとの特性を満たすことが理解できないことを論拠として、材質がいかなるものであっても、上記特性を満足すれば、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえないから、本件発明1~4に係る特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張している(特許異議申立書第17~23頁の「オ 理由3(サポート要件違反)について」参照)。
イ 申立人の主張の検討
前記(1)で検討したとおり、本件発明1~4は、防眩性・遮熱性シートの材質がいかなるものであっても、上記特性を満足すれば、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものである。
また、前記(1)ウ(オ)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に基づき、当該実施例の特性の積層膜に到達可能であることも理解できる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3) 申立理由3についての結論
以上の検討のとおり、申立理由3に理由はない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700055