特許異議申立
2023-700489
光学ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランクおよび光学素子
- 審判番号
- 2023-700489
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-192239
- 登録番号
- 7170488
- 請求日
- 2023年05月12日
- 審決日
- 2023年12月26日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】HOYA株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.113-YAA(C03C) / P1651.121-YAA(C03C) / P1651.536-YAA(C03C) / P1651.537-YAA(C03C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7170488号発明「光学ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランクおよび光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7170488号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7170488号の請求項1~7、9~14に係る特許を維持する。
特許第7170488号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7170488号の請求項1~14に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成30年10月11日に出願され、令和4年11月4日にその特許権の設定登録がされ、同月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許(請求項1~14に係る特許)に対して、令和5年5月12日に特許異議申立人渡辺陽子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年8月24日付けで取消理由が通知され、同年10月24日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされた。
なお、上記のとおり訂正の請求があったので、特許法第120条の5第5項の規定に従い、申立人に意見書を提出する機会を与えたが、応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年10月24日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~14を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における
「Ta5+含有量が0~5カチオン%の範囲であり」との記載を
「Ta5+含有量が0~2カチオン%の範囲であり」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1における
「Ge4+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、」との記載を
「Ge4+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、
Ti4+含有量が14カチオン%以下であり、
Al3+含有量が0~10カチオン%以下であり、」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1における
「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が0.60~1.00の範囲であり」との記載を
「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が0.70~1.00の範囲であり」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1における
「La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))が0.50~2.50の範囲であり」との記載を
「La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))が0.50~2.30の範囲であり」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1における
「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が1.80~40.00の範囲であり」との記載を
「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.60~10.00の範囲であり」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1における
「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.00~30.00の範囲であり」との記載を
「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.40~8.00の範囲であり」に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1における
「屈折率ndが1.8000~1.9500の範囲であり、かつアッベ数νdが25.0~45.0の範囲」との記載を
「屈折率ndが1.8000~1.9400の範囲であり、かつアッベ数νdが25.0~38.0の範囲」に訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2における
「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量が、0~30カチオン%の範囲である、請求項1に記載の光学ガラス。」との記載を
「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量が30カチオン%以下であり、かつ下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす、請求項1に記載の光学ガラス。
(1)Si4+含有量が10~20カチオン%の範囲である。
(2)La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))が1.11~2.30の範囲である。」に訂正する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7における
「カチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.70~30.00の範囲」との記載を
「カチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.70~8.00の範囲」に訂正する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9における
「カチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.00~5.00の範囲である、請求項1~8のいずれか1項」との記載を
「カチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.40~5.00の範囲である、請求項1~6のいずれか1項」に訂正する。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1) 訂正事項1~6について
訂正事項1~6は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」といい、明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「本件特許明細書等」という。)の【0011】、【0019】、【0023】~【0026】、【0041】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載されたガラス組成を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項7について
訂正事項7は、本件特許明細書の【0053】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された屈折率及びアッベ数を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項8について
訂正事項8の「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量」に関する訂正事項は、請求項1の記載との不整合を解消させるためものであるし、また、訂正事項8の「Si4+含有量」、「La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))」に関する訂正事項は、本件特許明細書の【0017】、【0019】、【0085】【表2-1】のNo.1、No.2の記載に基づき、訂正前の請求項2に記載されたガラス組成を限定するものであるから、訂正事項8は、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 訂正事項9について
訂正事項9は、本件特許明細書の【0023】の記載に基づき、訂正前の請求項7に記載されたガラス組成を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5) 訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6) 訂正事項11について
訂正事項11は、本件特許明細書の【0023】の記載に基づき、訂正前の請求項9に記載されたガラス組成を限定するとともに、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。そして、本件特許の請求項1~7、9~14に係る発明(以下、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
カチオン%表示のガラス組成において、
Ta5+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、
Ge4+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、
Ti4+含有量が14カチオン%以下であり、
Al3+含有量が0~10カチオン%以下であり、
Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が0.70~1.00の範囲であり、
La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))が0.50~2.30の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.60~10.00の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.40~8.00の範囲であり、
La3+とY3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+))が0.00~1.50の範囲であり、
Si4+とB3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(Si4++B3+))が0.00~1.00の範囲であり、
Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+およびTi4+の合計含有量に対するGd3+、Nb5+およびW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.035の範囲であり、
La3+含有量に対するZn2+とBa2+との合計含有量のカチオン比((Zn2++Ba2+)/La3+)が0.00~0.25の範囲であり、
屈折率ndが1.8000~1.9400の範囲であり、かつアッベ数νdが25.0~38.0の範囲である光学ガラス。
【請求項2】
Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量が30カチオン%以下であり、かつ下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす、請求項1に記載の光学ガラス。
(1)Si4+含有量が10~20カチオン%の範囲である。
(2)La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))が1.11~2.30の範囲である。
【請求項3】
Gd3+、Nb5+およびW6+の合計含有量が、0~8カチオン%の範囲である、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量が、20~60カチオン%の範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
Si4+とB3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(Si4++B3+))が0.00~0.70の範囲である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
La3+とY3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+))が0.00~1.30の範囲である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.70~8.00の範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.40~5.00の範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
Yb3+含有量が0~1カチオン%の範囲である、請求項9に記載の光学ガラス。
【請求項11】
La3+とY3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+))が0.00~0.21の範囲である、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。」
第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和5年8月24日付けの取消理由は、概略、以下のとおりである。
ここで引用した引用文献等は、次のとおりである。
甲第1号証 特開2015-30631号公報
甲第2号証 特開2017-88482号公報
先願1 特願2018-112336号(特開2019-1941
38号(甲第3号証))
(1) 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~7、10~14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、同請求項12~14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~7、10~14に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 取消理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~6、8~14に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、同請求項12~14に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6、8~14に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 取消理由3(拡大先願同一)
設定登録時の請求項1~8、10~14に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開された先願1の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「先願明細書」などといい、まとめて「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願明細書等に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が先願1の出願人と同一でもないから、本件特許の請求項1~8、10~14に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(4) 取消理由4(明確性要件違反)
本件特許の請求項9~14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(4)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、標記特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。なお、申立人が提出した各甲号証は、前記1に示したとおりである。
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~11に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4) 申立理由4(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 当審の判断
(1) 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)及び申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
事案に鑑み、取消理由1及び申立理由1をまとめて検討する。
ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証の【特許請求の範囲】及び【実施例】(【0072】~【0087】)の記載を、実施例6の光学ガラスに注目して整理すると、甲第1号証には、「質量%で、B2O3が11.550%、La2O3が47.390%、Y2O3が9.800%、Gd2O3が3.100%、ZnOが3.210%、SiO2が6.530%、Ta2O5が8.110%、TiO2が1.980%、Nb2O5が1.280%、WO3が1.250%、ZrO2が5.800%からなる組成を有し、屈折率ndが1.88471、アッベ数νdが39.98である光学ガラス。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
(a) 両者のガラス組成を対比するにあたり、甲1発明の組成を「カチオン%」に換算すると、B3+が約33.140カチオン%、La3+が約29.181カチオン%、Y3+が約8.707カチオン%、Gd3+が約1.716カチオン%、Zn2+が約3.956カチオン%、Si4+が約10.902カチオン%、Ta5+が約3.682カチオン%、Ti4+が約2.486カチオン%、Nb5+が約0.966カチオン%、W6+が約0.541カチオン%、Zr4+が約4.722カチオン%となるし、当該組成は、Ge4+、Al3+、Bi3+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+を含有しておらず、その含有量は0カチオン%である。そして、これらの数値から、本件発明1において特定された各カチオン比を算出すると、Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が約0.623、(Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+)が約1.112、(Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が約11.029、(La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が約9.918、(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+)が約0.104、(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(Si4++B3+)が約0.090、(Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+)が約0.035、(Zn2++Ba2+)/La3+)が約0.136となる。
以上の点を踏まえると、甲1発明の組成は、本件発明1の「カチオン%表示のガラス組成において」、「Ge4+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、Ti4+含有量が14カチオン%以下であり、Al3+含有量が0~10カチオン%以下であり」、「La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))が0.50~2.30の範囲であり」、「La3+とY3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+))が0.00~1.50の範囲であり、Si4+とB3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(Si4++B3+))が0.00~1.00の範囲であり、Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+およびTi4+の合計含有量に対するGd3+、Nb5+およびW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.035の範囲であり、La3+含有量に対するZn2+とBa2+との合計含有量のカチオン比((Zn2++Ba2+)/La3+)が0.00~0.25の範囲であ」るとの規定を満足する。
(b) 甲1発明の「屈折率ndが1.88471」であることは、本件発明1の「屈折率ndが1.8000~1.9400の範囲であ」ることに相当する。
b 前記aで検討した対応関係に照らすと、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
(相違点1-1)
本件発明1は、「Ta5+含有量が0~2カチオン%の範囲」であるのに対して、甲1発明は、Ta2O5含有量が8.110質量%であり、これをTa5+含有量に換算すると、約3.682カチオン%になる点。
(相違点1-2)
本件発明1は、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が0.70~1.00の範囲であり」、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.60~10.00の範囲であり、Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.40~8.00の範囲であ」るのに対して、甲1発明では、これらのカチオン比は特定されておらず、光学ガラスの組成から算出した当該カチオン比が、それぞれ、約0.623、約11.029、約9.918になる点。
(相違点1-3)
本件発明1は、「アッベ数νdが25.0~38.0の範囲である」のに対して、甲1発明は、アッベ数νdが39.98である点。
(イ) 相違点の検討
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
甲1発明の光学ガラスの組成から算出した「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))」、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))」、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))」の各数値は、本件発明1で特定された範囲を外れているため、相違点1-2は、実質的なものである。
また、甲第1号証には、光学ガラスの組成について、これらのカチオン比を特定範囲に調整する技術思想は記載も示唆もされていないから、甲1発明において、相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるといえない。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるといえないし、また、甲1発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件発明2~7、9~14について
本件発明2~7、9~11は、本件発明1のガラス組成をさらに限定するものであるし、本件発明12~14は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~7、9~14は、甲1発明であるといえないし、また、甲1発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 取消理由1及び申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由1に理由はない。
(2) 取消理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)及び申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
事案に鑑み、取消理由2及び申立理由2をまとめて検討する。
ア 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
甲第2号証の【特許請求の範囲】及び【実施例】(【0070】~【0096】)の記載を、実施例54の光学ガラスに注目して整理すると、甲第2号証には、「モル%で、B2O3が21.59%、La2O3が20.05%、SiO2が13.72%、ZnOが8.47%、TiO2が23.07%、ZrO2が6.81%、Y2O3が6.29%からなる組成を有し、屈折率ndが1.943、アッベ数νdが32.2である光学ガラス。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲2発明との対比
a 本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
(a) 両者のガラス組成を対比するにあたり、甲2発明の組成を「カチオン%」に換算すると、B3+が約29.19カチオン%、La3+が約27.11カチオン%、Si4+が約9.27カチオン%、Zn2+が約5.73カチオン%、Ti4+が約15.60カチオン%、Zr4+が約4.60カチオン%、Y3+が約8.50カチオン%となるし、当該組成は、Ta5+、Ge4+、Al3+、Nb5+、W6+、Bi3+、Gd3+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+を含有しておらず、その含有量は0カチオン%である。そして、これらの数値から、本件発明1において特定された各カチオン比を算出すると、Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が1.00、(Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+)が約1.08、(Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が約2.47、(La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が約2.28、(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+)が約0.16、(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(Si4++B3+)が約0.15、(Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+)が0.00、(Zn2++Ba2+)/La3+が約0.21となる。
以上の点を踏まえると、甲2発明の組成は、本件発明1の「カチオン%表示のガラス組成において、Ta5+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、Ge4+含有量が0~2カチオン%の範囲であり」、「Al3+含有量が0~10カチオン%以下であり、Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が0.70~1.00の範囲であり、La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))が0.50~2.30の範囲であり」、「La3+とY3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+))が0.00~1.50の範囲であり、Si4+とB3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(Si4++B3+))が0.00~1.00の範囲であり、Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+およびTi4+の合計含有量に対するGd3+、Nb5+およびW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.035の範囲であり、La3+含有量に対するZn2+とBa2+との合計含有量のカチオン比((Zn2++Ba2+)/La3+)が0.00~0.25の範囲であ」るとの規定を満足する。
(b) 甲2発明の「アッベ数νdが32.2である」ことは、本件発明1の「アッベ数νdが25.0~38.0の範囲である」ことに相当する。
b 前記aで検討した対応関係に照らすと、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
(相違点2-1)
本件発明1は、「Ti4+含有量が14カチオン%以下」であるのに対して、甲2発明は、TiO2含有量が23.07モル%であり、これをTi4+含有量に換算すると、約15.60カチオン%になる点。
(相違点2-2)
本件発明1は、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.60~10.00の範囲であり、Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.40~8.00の範囲であ」るのに対して、甲2発明では、これらのカチオン比は特定されておらず、光学ガラスの組成から算出した各カチオン比がそれぞれ、約2.47、約2.28になる点。
(相違点2-3)
本件発明1は、「屈折率ndが1.8000~1.9400の範囲であ」るのに対して、甲2発明は、屈折率ndが1.943である点。
(イ) 相違点の検討
事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
甲2発明の光学ガラスの組成から算出した「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))」、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))」の各数値は、本件発明1で特定された範囲を外れているため、相違点2-2は、実質的なものである。
また、甲第2号証には、光学ガラスの組成について、これらのカチオン比を特定範囲に調整する技術思想は記載も示唆もされていないから、甲2発明において、相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるといえない。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるといえないし、また、甲2発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件発明2~7、9~14について
本件発明2~7、9~11は、本件発明1のガラス組成をさらに限定するものであるし、本件発明12~14は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~7、9~14は、甲2発明であるといえないし、また、甲2発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 取消理由2及び申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、取消理由2及び申立理由2に理由はない。
(3) 取消理由3(拡大先願同一)について
ア 先願明細書等に記載された発明(先願発明)
先願明細書等の【特許請求の範囲】及び【実施例】(【0078】~【0109】)の記載を、実施例116の光学ガラスに注目して整理すると、先願明細書等には、「質量%で、SiO2が8.00%、B2O3が14.80%、Al2O3が8.00%、La2O3が46.00%、Y2O3が12.00%、ZrO2が6.20%、TiO2が5.00%からなる組成を有し、屈折率ndが1.82、アッベ数νdが42.2である光学ガラス。」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と先願発明との対比
a 本件発明1と先願発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
(a) 両者のガラス組成を対比するにあたり、先願発明の組成を「カチオン%」に換算すると、Si4+が約10.94カチオン%、B3+が約34.94カチオン%、Al3+が約12.90カチオン%、La3+が約23.21カチオン%、Y3+が約8.73カチオン%、Zr4+が約4.14カチオン%、Ti4+が約5.14カチオン%となるし、当該組成は、Ta5+、Ge4+、Nb5+、W6+、Bi3+、Gd3+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+を含有しておらず、その含有量は0カチオン%である。そして、これらの数値から、本件発明1において特定された各カチオン比を算出すると、Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が1.00、(Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+)が約1.44、(Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が約8.92、(La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+)が約6.21、(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+)が0.00、(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(Si4++B3+)が0.00、(Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+)が0.00、(Zn2++Ba2+)/La3+が0.00となる。
以上の点を踏まえると、先願発明の組成は、本件発明1の「カチオン%表示のガラス組成において、Ta5+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、Ge4+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、Ti4+含有量が14カチオン%以下であり」、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比(Ti4+/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が0.70~1.00の範囲であり、La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(La3++Gd3++Y3+))が0.50~2.30の範囲であり、Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するSi4+とB3+との合計含有量のカチオン比((Si4++B3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.60~10.00の範囲であり、Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.40~8.00の範囲であり、La3+とY3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計含有量のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(La3++Y3+))が0.00~1.50の範囲であり、Si4+とB3+との合計含有量に対するMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+のカチオン比((Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+)/(Si4++B3+))が0.00~1.00の範囲であり、Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+およびTi4+の合計含有量に対するGd3+、Nb5+およびW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.035の範囲であり、La3+含有量に対するZn2+とBa2+との合計含有量のカチオン比((Zn2++Ba2+)/La3+)が0.00~0.25の範囲であ」るとの規定を満足する。
(b) 先願発明の「屈折率ndが1.82」であることは、本件発明1の「屈折率ndが1.8000~1.9400の範囲であ」ることに相当する。
b 前記aで検討した対応関係に照らすと、本件発明1と先願発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
(相違点3-1)
本件発明1は、「Al3+含有量が0~10カチオン%以下」であるのに対して、先願発明は、Al2O3含有量が8.00質量%であり、これをAl3+含有量に換算すると、約12.90カチオン%になる点。
(相違点3-2)
本件発明1は、「アッベ数νdが25.0~38.0の範囲である」のに対して、先願発明はアッベ数νdが42.2である点。
(イ) 相違点の検討
先願発明における、Al2O3含有量から換算したAl3+含有量、及び、アッベ数は、本件発明1で特定された範囲を外れているため、相違点3-1及び3-2は、いずれも実質的なものであるし、具体化する際の微差程度の事項であるともいえない。
したがって、本件発明1は、先願発明と同一であるといえない。
ウ 本件発明2~7、10~14について
本件発明2~7、10、11は、本件発明1のガラス組成をさらに限定するものであるし、本件発明12~14は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~7、10~14は、先願発明と同一であるといえない。
エ 取消理由3についての結論
以上のとおりであるから、取消理由3に理由はない。
(4) 取消理由4(明確性要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
取消理由4は、要するに、訂正前の請求項9に係る発明は、請求項7の記載を直接的又は間接的に引用するところ、請求項9に記載された「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))」の数値範囲(2.00~5.00)が、請求項7に記載された当該カチオン比の数値範囲(2.70~30.00)を外れる範囲を有するため、請求項9~14に係る発明は明確でない、というものである。
イ 明確性要件違反についての検討
前記第3に示したとおり、請求項9の記載は、「Ti4+、Nb5+、W6+およびBi3+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+およびY3+の合計含有量のカチオン比((La3++Gd3++Y3+)/(Ti4++Nb5++W6++Bi3+))が2.40~5.00の範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学ガラス。」に訂正され、請求項7の記載を引用しないものとなったため、請求項7の記載との不整合に起因する前記アの記載不備はないものとなった。
したがって、本件発明9に係る請求項9の記載は、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であるとはいえないから、明確性要件を満足する。また、請求項9の記載を引用する本件発明10~14についても同様である。
ウ 取消理由4についての結論
以上のとおりであるから、取消理由4に理由はない。
(5) 申立理由3(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。以下、この観点で検討を行う。
イ サポート要件適合性の判断
(ア) 本件発明の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0002】~【0005】の記載からして、本件発明の課題は、「ガラス組成において高価なガラス成分が占める割合が低く、屈折率が高く、かつ低分散性を有する光学ガラスを提供する」ことにあるといえる。
(イ) 特許請求の範囲の記載について
特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記第3に記載したとおりであって、本件発明1は、ガラス組成の範囲(組成要件)と、「屈折率ndが1.8000~1.9400の範囲であり、かつアッベ数νdが25.0~38.0の範囲である」こと(物性要件)を特定した発明といえる。
(ウ) 発明の詳細な説明の記載について
a 発明の詳細な説明の【0053】~【0060】には、光学ガラスの物性について記載され、屈折率ndが1.8000~2.0000の範囲であり、かつアッベ数νdが25.0~45.0の範囲の光学ガラスが、高屈折率低分散ガラスであり、光学素子用材料としての有用性の観点から、屈折率ndの好ましい範囲は1.8000以上1.9400以下であり、アッベ数νdの好ましい範囲は25.0以上38.0以下であることが記載されている(【0053】)。
b そして、発明の詳細な説明の【0011】~【0052】には、ガラス成分について、各成分の役割や、各成分の含有量、合計含有量、カチオン比の好ましい範囲が記載され、低コスト化の観点から、Ta5+含有量が0~5カチオン%の範囲であること(【0011】)、Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+及びTi4+の合計含有量に対するGd3+、Nb5+及びW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.080の範囲であること(【0012】)、Gd3+及びW6+の合計含有量(Gd3++W6+)が8カチオン%以下であること(【0013】)、Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+及びTi4+の合計含有量に対するGd3+及びW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.080の範囲であること(【0014】)、Gd3+含有量が8カチオン%以下であること(【0020】)、Nb5+含有量が8カチオン%以下であること(【0026】)、W6+含有量が8カチオン%以下であること(【0026】)、Nb5+及びW6+の合計含有量(Nb5++W6+)が8カチオン%以下であること(【0027】)、Gd3+、Nb5+及びW6+の合計含有量(Gd3++Nb5++W6+)が8カチオン%以下であること(【0028】)、Ge4+含有量が10カチオン%以下であること(【0046】)が記載されている。
c 前記a及びbの記載事項を併せ考えると、光学ガラスが、前記bのガラス組成の範囲であるとともに、屈折率ndが1.8000以上1.9400以下、アッベ数νdが25.0以上38.0以下であるとの物性を有することにより、本件課題を解決できるものといえる。
d また、発明の詳細な説明の実施例欄(【0075】~【0093】)には、B3+含有量が30.72~32.05カチオン%、La3+含有量が26.68~29.80カチオン%、Si4+含有量が10.80~11.40カチオン%、Zn2+含有量が2.31~6.32カチオン%、Ti4+含有量が8.31~12.60カチオン%、Zr4+含有量が4.83~4.92カチオン%、Gd3+含有量が0.00~0.30カチオン%、Nb5+含有量が0.00~3.29カチオン%、W6+含有量が0.00カチオン%、Y3+含有量が6.73~8.72カチオン%、Ca2+含有量が0.00カチオン%、Ba2+含有量が0.00カチオン%、Ta5+含有量が0.00カチオン%、Sb3+含有量が0.00~0.01カチオン%の各数値範囲内であって、Gd3+、Nb5+及びW6+の合計含有量(Gd3++Nb5++W6+)が0.00~3.29カチオン%、Gd3+及びW6+の合計含有量(Gd3++W6+)が0.00~0.30カチオン%、Nb5+及びW6+の合計含有量(Nb5++W6+)が0.00~3.29カチオン%、Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+及びTi4+の合計含有量に対するGd3+、Nb5+及びW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.034、Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+及びTi4+の合計含有量に対するGd3+及びW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.003の各数値範囲内となるガラス組成を有し、屈折率ndが1.90772~1.92136、アッベ数νdが34.46~35.68の各数値範囲内である光学ガラスが記載されており、当該実施例の光学ガラスは、そのガラス組成が前記bに示した組成範囲を満たし、さらに、屈折率nd及びアッベ数νdも前記aに示した物性を満していることからして、本件発明の課題を解決できるものといえる。
e 加えて、発明の詳細な説明の各成分の役割や、各成分の含有量、合計含有量、カチオン比の好ましい組成範囲に関する記載(【0011】~【0052】)をもとに、光学ガラス分野の当業者が通常行う試行錯誤により、前記実施例を起点にして、当該組成範囲内において、前記物性を満たす具体的組成に到達可能であることも理解できる。
(エ) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
a 本件発明1の組成要件は、前記第3のとおりのものであって、前記(ウ)bで検討した各成分の含有量、合計含有量、カチオン比の好ましい組成範囲を満たしているし、その物性要件は、前記(ウ)aに示した物性を満たしているから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
b また、本件発明1の組成要件は、Ta5+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、Ge4+含有量が0~2カチオン%の範囲であり、Si4+、B3+、Zn2+、La3+、Y3+、Zr4+及びTi4+の合計含有量に対するGd3+、Nb5+及びW6+の合計含有量のカチオン比((Gd3++Nb5++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))が0.000~0.035の範囲であることが特定されている。そして、当該カチオン比から算出される、Gd3+、Nb5+及びW6+の合計含有量(Gd3++Nb5++W6+)は0~3.38カチオン%になるし、また、上記カチオン比の「Gd3+、Nb5+及びW6+の合計含有量」を「Gd3+及びW6+の合計含有量」に限定したカチオン比((Gd3++W6+)/(Si4++B3++Zn2++La3++Y3++Zr4++Ti4+))や、前記Gd3+、Nb5+及びW6+の合計含有量(Gd3++Nb5++W6+)を限定した合計含有量(Gd3++W6+、又は、Nb5++W6+)が、上述した数値範囲を超えないことは明らかである。
したがって、本件発明1の組成要件は、前記(ウ)bに示した低コスト化に好ましい成分の含有量、合計含有量、カチオン比の範囲を満たしているし、また、本件発明1の物性要件は、前記(ウ)aで検討した高屈折率、低分散に関する物性を満たしているから、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らして本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
(オ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものである。また、本件発明2~5も事情は同じであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
ウ 申立人の主張についての検討
申立人は、特許異議申立書において、設定登録時の特許請求の範囲の記載に関して、(i)請求項1に記載された組成及び物性の数値範囲は、本件特許明細書の実施例の組成及び物性に係る数値範囲よりも広すぎること、(ii)請求項1に記載された組成及び物性の数値範囲における上限と下限に特別な意義を有さないこと、及び、(iii)請求項1に係る発明に対応する、Ta5+、Ge4+又はYb3+を含有する光学ガラスの具体例が、本件特許明細書の実施例に記載されていないことを論拠として、請求項1~14に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、「発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである旨を主張している(第64頁第18行~第69頁第19行)。
しかしながら、前記(ii)の主張については、前記イ(ウ)a及びbで検討したとおり、発明の詳細な説明には、光学ガラスの物性範囲、組成範囲、及び、各成分の役割について記載されているから、当該主張は採用できない。
また、前記(i)及び(iii)の主張については、前記イ(ウ)e、(エ)aで検討したとおり、発明の詳細な説明の記載をもとに、実施例を起点として、本件発明1の組成要件の範囲内において、物性要件を満たす具体的な組成に到達可能であることを理解できるから、当該主張も採用できない。
エ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
(6) 申立理由4(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件違反についての検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記(5)イ(ウ)dで検討したとおりの実施例が記載されているし、また、前記(5)イ(ウ)bで検討したとおり、各成分の役割や、各成分の含有量、合計含有量、カチオン比の好ましい範囲が記載されているから、これらの記載に基いて、当業者が過度な試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができるものといえる。
また、本件発明2~7、9~14についても事情は同じである。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1~7、9~14を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
イ 申立人の主張についての検討
申立人は、特許異議申立書において、本件特許明細書の実施例には、設定登録時の請求項1に係る発明の各構成要件に特定された範囲のごく一部を備えた光学ガラスを具体的に製造したことが開示されているにすぎず、設定登録時の請求項1に係る発明の光学ガラスを作るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いることになるから、本件特許明細書には、当業者が設定登録時の請求項1~14に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張している(第69頁第20行~第70頁第9行)。
しかしながら、前記アで検討したとおりであるから、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4は理由がない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1~7、9~14に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1~7、9~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項8に係る特許は、前記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項8に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700489