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特許異議申立

2023-701007

光学ガラスの製造方法

審判番号
2023-701007
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-012897
登録番号
7257345
請求日
2023年09月21日
審決日
2024年06月25日
公報発行日
2024年09月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社オハラ
  • 【権利者代理人】右田 俊介
  • 【権利者代理人】高橋 政治
  • 【権利者代理人】水野 基樹
  • 【異議申立人】森 一郎
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 小野 久子
  • 審判官 増山 淳子
分類
P1651.16 -YAA(C03C) / P1651.113-YAA(C03C) / P1651.121-YAA(C03C) / P1651.537-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第184条の13、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7257345号発明「光学ガラスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7257345号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第7257345号の請求項1-4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7257345号の請求項1~4に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、令和2年1月29日(優先権主張 平成31年4月4日)の出願であって、令和5年4月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許1~4に対して、令和5年9月21日に特許異議申立人 森 一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和6年1月17日付けで取消理由が通知され、同年2月20日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされた。 なお、令和6年2月20日の訂正の請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和6年2月20日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~4を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」と記載されているのを「混合した前記原材料を白金坩堝に投入し、水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」に訂正し、さらに、「屈折率(nd)が1.75以上であり」と記載されているのを「屈折率(nd)が1.80以上であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~4も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」と記載されているのを「混合した前記原材料を白金坩堝に投入し、水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」に訂正し、さらに、「屈折率(nd)が1.75以上であり」と記載されているのを「屈折率(nd)が1.80以上であり」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3~4も同様に訂正する。)。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1における「水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」を「混合した前記原材料を白金坩堝に投入し、水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」とする訂正事項は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」といい、明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「本件特許明細書等」という。)の【0066】、【0073】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」について、「原材料を混合する工程」との関係を明確にするとともに、「ガラスを熔解する工程」において「白金坩堝」を使用することを限定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項1における、「屈折率(nd)が1.75以上であり」を「屈折率(nd)が1.80以上であり」とする訂正事項は、本件特許明細書の【0067】、【0079】の実施例2-9等の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「屈折率(nd)」を「1.75以上」から「1.80以上」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2における「水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」を「混合した前記原材料を白金坩堝に投入し、水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」とする訂正事項は、本件特許明細書の【0066】、【0073】の記載に基づき、訂正前の請求項2に記載された「水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程」について、「原材料を混合する工程」との関係を明確にするとともに、「ガラスを熔解する工程」において「白金坩堝」を使用することを限定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項2における、「屈折率(nd)が1.75以上であり」を「屈折率(nd)が1.80以上であり」とする訂正事項は、本件特許明細書の【0067】、【0079】の実施例2-9等の記載に基づき、訂正前の請求項2に記載された「屈折率(nd)」を「1.75以上」から「1.80以上」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)独立特許要件について 本件特許1~4の全てについて特許異議の申立てがされたので、訂正後の請求項1~4に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明) 前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりのものである。そして、請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 原材料を混合する工程と、 混合した前記原材料を白金坩堝に投入し、水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程と、を含み、 前記原材料が還元剤を1%以下含有することを特徴とし、 屈折率(nd)が1.80以上であり、質量%で、Nb2O5成分が15%以下またはTiO2成分が40%以下であり、PbO成分を実質的に含有しない光学ガラスの製造方法。 【請求項2】 原材料を混合する工程と、 混合した前記原材料を白金坩堝に投入し、水分の供給を行わずにガラスを熔解する工程と、を含み、 前記原材料が還元剤を1%以下と脱泡剤を含有することを特徴とし、 屈折率(nd)が1.80以上であり、質量%で、Nb2O5成分が15%以下またはTiO2成分が40%以下であり、PbO成分を実質的に含有しない光学ガラスの製造方法。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の光学ガラスの製造方法であって、 前記光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、 La2O3成分 30~65%、 B2O3成分 1~25%、 SiO2成分 15%以下、 TiO2成分 25%以下、 Y2O3成分 15%以下、 含有することを特徴とする、光学ガラスの製造方法。 【請求項4】 請求項1又は2に記載の光学ガラスの製造方法であって、 前記光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、 SiO2成分 5~75%、 含有することを特徴とする、光学ガラスの製造方法。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由について 1 特許異議申立理由の概要 申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 甲第1号証:国際公開第2019/142936号 (国際出願番号:PCT/JP2019/001644号) 甲第2号証 特開平3-93645号公報 甲第3号証 特開平5-58669号公報 甲第4号証 特開昭60-42245号公報 甲第5号証 特開昭60-171244号公報 甲第6号証 特開昭61-163138号公報 甲第7号証 特開平8-259257号公報 甲第8号証 特開2009-269771号公報 甲第9号証 特開2013-63887号公報 甲第10号証 国際公開第2017/175552号 甲第11号証 特開2014-105155号公報 甲第12号証 知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10042号判決 甲第13号証 知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10189号判決 甲第14号証 特開2005-272183号公報 (1) 申立理由1(拡大先願要件違反) 設定登録時の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願の優先日前の他の特許出願であって、その優先日後に国際公開がされた甲第1号証に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「先願明細書」などといい、まとめて「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が上記日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の優先日当時において、本件特許出願の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、その特許は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される第29条の2の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如) 設定登録時の請求項1、3、4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当する、又は、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第1、3~11号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 取消理由の概要 当審が特許権者に通知した、令和6年1月17日付けの取消理由は、概略、以下のとおりである。 (1)取消理由1(甲第2号証を主たる証拠とした新規性欠如) 設定登録時の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)取消理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如) 設定登録時の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)取消理由3(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記3(4)ア(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件をたしていない特許出願に対してされたものである。 3 当審の判断 事案に鑑み、特許異議申立理由及び取消理由をまとめて検討する。 (1)先願明細書等及び各甲号証の記載事項 ア 先願明細書等(甲第1号証)の記載事項 先願明細書等(甲第1号証)には、「紫外線透過ガラスおよび成形品」(発明の名称)に関し、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付与した。以下、同様。)。 (ア)「[0001] 本発明は、紫外線透過率が良好なガラスおよびそれを用いた成形品に関する。」 (イ)「[0006] 本発明は、紫外線、特に、産業利用の期待が大きい波長250nm~370nm、の透過率が高く、紫外光の通過する距離が長い製品としても、その透過率を高い水準で保持可能なガラス材料の提供を目的とする。」 (ウ)「[0028] このような紫外線透過ガラスの組成としては、多成分系酸化物からなるガラスであって、上記規定の内部透過率を満たすものであれば、特に限定されるものではない。ただし、複数種の酸化物化合物を含んでなる多成分系酸化物からなるものであるため、石英ガラスは含まない。 [0029] このような紫外線透過ガラスの組成系としては、具体的には、ホウケイ酸ガラス、ケイ酸ガラス、リン酸ガラス、フツリン酸ガラス等を母組成とするガラスが挙げられる。」 (エ)「[0032] また、鉄成分としては、ガラス中に含まれる鉄成分の価数をFe3+からFe2+に還元させることが好ましい。紫外線を大きく吸収するFe3+量を減らすことで紫外線透過率を向上させることができる。このような鉄の価数を調整する方法については、後で詳細に説明するが、ガラス溶融時にガラス原料やガラスカレットに還元剤となる成分を添加する、ガラス溶融時における雰囲気を非酸化性にする、等により可能である。この時、得られたガラス成形品はFe2+レドックスが高いガラスとなる。Fe2+レドックスとは、Fe2+量の全鉄含有量に対する比で、それぞれのFe2O3換算量の比として求められるものである。」 (オ)「[0035] 近紫外域の透過率を向上させるためには、例えば、紫外線透過ガラス中に、酸化物基準のモル%表示で、Bi2O3、TiO2、WO3、Gd2O3の含有量を3モル%以下にすることが好ましく、1モル%以下にすることがより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。また、深紫外域の透過率を向上させるためには、上記の制限に加えてさらに、紫外線透過ガラス中に、酸化物基準のモル%表示で、Nb2O5、Ta2O5の含有量を3モル%以下にすることが好ましく、1モル%以下にすることがより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。」 (カ)「[0037] この紫外線透過ガラスについて、より具体的なガラス組成については、例えば、次のガラス組成1およびガラス組成2が好ましいものとして挙げられる。ここで、ガラス組成1は、屈折率ndが1.7以上となるような高い組成の例示であり、ガラス組成2は、屈折率ndが1.7未満となるような低い組成の例示である。 [0038] (ガラス組成1) 本ガラス組成1は、酸化物基準のモル%表示で、B2O3:10~80%、SiO2:0~25%、La2O3:2~32%、Y2O3:0~20%を含有する組成である。」 (キ)「[0054] 本ガラス組成1において、Sb2O3はガラスを酸化させるため、深紫外線透過率を上げるためには含有量を低減させることが好ましく、0.1%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは実質的に含有させない。 [0055] 本ガラス組成1では、環境面での負荷を減少させるため、PbO、As2O3は不可避な混入を除き、いずれも実質的に含有しないことが好ましい。Fは揮発性を示すため、脈理や光学特性の変動を抑えたい場合はFも含有させないことが好ましい。」 (ク)「[0067] 本紫外線透過ガラスは、光学系に使われるために紫外線透過率が高いほど好ましい。外部透過率について着色度λ70、λ5を指標として表すと、ガラス厚み10mmで外部透過率70%を示す波長λ70は305nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、295nm以下が特に好ましく、285nm以下がもっとも好ましい。また、ガラス厚み10mmで外部透過率5%を示す波長λ5は240nm以下が好ましく、235nm以下がより好ましく、230nm以下が特に好ましく、220nm以下がもっとも好ましい。」 (ケ)「[0069] [紫外線透過ガラスの製造方法] 本実施形態の紫外線透過ガラスの製造方法は、上記実施形態の紫外線透過ガラスを製造する方法である。この紫外線透過ガラスの製造方法は、基本的な操作は、従来公知のガラスの製造方法に基づくものであり、ガラス原料またはガラスカレットを溶融し、これにより得られたガラス溶融液を冷却して固化させるものである。その際、本実施形態においては、ガラス中の鉄含有量を低減するとともに、得られるガラス中に含まれる成分の酸化還元状態を制御して、良好な紫外線透過特性を得られるようにすることが好ましい。」 (コ)「[0072] ガラス原料またはガラスカレットに還元剤を含有させるとき、還元剤としては、得られるガラス中に残るものについては、ガラス原料として考慮し、ガラス中に残らないものは、ガラス原料に対して、外添するものとして考慮する。ここで用いる還元剤としては、ガラス中に残るものとしては、SnO2、SnO、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、フッ化物(フッ化アルミニウムやフッ化ランタン等)、揮発してガラス中に残らないものとしては、炭素(C)等が挙げられる。炭素(C)は、炭素粉やショ糖などの炭水化物として加えることができる。 [0073] ここで還元剤として、SnO2およびSnOから選ばれる酸化スズを少なくとも1つ含んだものを用いる場合、SnO2とSnOの合量である酸化スズの含有量について、大気雰囲気で溶融を行う場合には、ガラス中で0.3質量%超、3質量%以下となる量を添加することが好ましい。含有量が0.3質量%以下では紫外線透過率を向上させる効果が不十分であり、好ましくは0.35質量%以上になるように添加する。3質量%超では逆に透過率が下がってしまい、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下になるように添加する。 [0074] 一方で、SnO2とSnOの合量である酸化スズの含有量について、非酸化性雰囲気で溶融を行う場合には、0質量%超、0.3質量%以下となる量を添加することが好ましい。0質量%超を添加することで紫外線透過率をより向上でき、好ましくは0.01質量%以上を添加する。0.3質量%以上に添加すると透過率が下がってしまう。好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下になる量を添加する。ガラス中で酸化スズはSn2+とSn4+の価数で存在しているが、上記の通り、溶解雰囲気に合わせて酸化スズの添加量を決めることにより、ガラスが還元状態で安定して保たれるため、ガラス成形品でSn2+量が一般の溶解方法よりも多く検出される。 [0075] 還元剤として、炭素(C)を用いる場合、ガラス溶融の雰囲気、溶融時間に合わせて添加量を決めればよいが、例えば、非酸化性雰囲気ではガラス100質量%に対して0.2質量%以上、1質量%以下を外添することが好ましい。なお、この場合、ガラスの製造操作時に二酸化炭素となって揮散していくため、得られる紫外線透過ガラスにおいて、還元剤由来の炭素成分は残っていない。」 (サ)「[0078] この成形品は、紫外光を透過させる部材として特に限定されずに用いることができる。この用途としては、例えば、水殺菌装置、紫外線硬化型樹脂の硬化装置、紫外線センサー等のカバーガラス、紫外線LED(紫外線発光ダイオード)の封止材料、紫外線を使用する照明器具、紫外線の透過機能が求められるレンズや光学フィルター等の光学素子、フォトレジスト露光用材料、ビームシェイパーや切削非球面レンズ等の石英製の光学部品の代替、紫外線透過の光ファイバーに用いられるコア材(コアとクラッドの屈折率差を大きくできるため、開口角が広くでき、出力を向上できる)、レーザーダイオード(LD)や発光ダイオード(LED)等のレンズ付きカバーガラス、レンズアレイ、等が挙げられる。」 (シ)「[0081] (例1-1) 表1に示す組成のガラスが得られるように各々相当する硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸などの原料を秤量し、十分混合した後、白金製坩堝に投入し、大気中1300℃で3時間加熱、溶解した。ガラス原料は、鉄やチタンといった不純物含有量が低いものを選んで使用した。」 (ス)「[0083] (例1-2) 還元剤としてSnO2を添加して、表1に示す組成となるようにガラス原料を秤量した。例1-1と同様な溶解方法および成形方法により、鉄含有量が1.5質量ppm以下、Fe3+強度が0.0215以下のガラス2を得た。」 (セ)「[0096] [表1] [図:0001414188000001.jpg] 」 イ 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、「紫外線透過ガラス」(発明の名称)に関し、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付与した。以下、同様。)。 (ア)「2.特許請求の範囲 1.下記組成ガラスを溶融して作製した耐ソラリゼーション性に優れた紫外線高透過ガラス; SiO2 1~27重量% B2O3 15~40重量% BaO 6~45重量% La2O3 7~45重量% MgO 0~10重量% CaO 0~30重量% SrO 0~11重量% ZnO 0~40重量% ZrO2 0~ 8重量% Y2O3 0~ 3重量% Na2O 0~ 5 重量% K2O 0~ 5重量% Al2O3 0~ 5重量% Fe <3ppm Cr <3ppm 還元性添加物 <0.2 重量% ただし、Fe、Crおよびその他の遷移金属の含量は3ppmより少ない。 2.還元性添加物がSiであり、その添加量がSi<0.1重量%である請求項1記載のガラス。」 (イ)「本発明は、紫外域における透過率が大きく、なおかつ紫外線照射による透過率の劣化のない(あるいは極めて少ない)光学ガラス、さらに詳しくはアッベ数νdが47~61、屈折率ndが1.63~1.76であり、かつ10mm厚で80%以上の透過率が得られる波長が320nm以下である光学ガラスを提供することを目的とする。」(第3頁左下欄第17行~右下欄第3行) (ウ)「還元性添加物としてはSi、C等が挙げられ、それらの物質は、原料中および工程(るつぼ)から混入した不純物(鉄、クロム等)を低原子価状態に還元し、紫外域での透過率向上の働きをする。それらの使用量は、0.2wt%までの量であり、Siについては0.1wt%までの量が好ましい。還元性物質を0.2wt%以上使用すると、それらの物質がガラス中に未溶融物として残り、逆に紫外線透過率の劣化をもたらす。」(第4頁右下欄第1~9行) (エ)「光学ガラスの製造は、ガラス原料(粉体)を1回溶融、混合して得られる溶融物を所望の型に流し込み、冷却固化形成することを行ないうる。別の方法としてガラス原料(粉体)を粗溶解し、カレット(ガラス粒子)を一旦作り、光学恒数を合わせる為に、その後仕上げ溶融することも行なわれる。前者の製法の場合には、るつぼとして高純度なセラミックスのものを使用する。後者の製法の場合も、粗溶解には高純度なセラミックスるつぼを使用し、仕上げ溶解に中性、或は還元性雰囲気下で高純度な白金るつぼを使用することが好ましい。このように高純度セラミックスを使用するのは、本発明は還元剤を使用するため、粗溶解では白金るつぼを使用しにくいためである。」(第4頁右下欄第17行~第5頁左上欄第10行) (オ)「本発明の耐ソラリゼーションに優れた紫外線透過ガラスを、表1および表2に示した組成、条件下で以下のようにして作製した。 尚、ガラス原料中のFe、Crおよびその他の遷移金属の合計含量は3ppm以下で行った。 (1)一回溶融 表1中最上段の数字1~14は、一回溶融してガラスを製造した場合の実施例を示す。 表1に示す組成ガラスを、ガラス量として100gを石英るつぼ中、1250~1350℃の温度で溶融、攪拌後、予熱した鋳型に流し込み成形、徐冷することによって製造した。 (2)2回溶融 表1中、最上段の数字1-R~14-Rは2回溶融してガラスを製造した場合の実施例を示す。 2回目の溶融は、溶融時に非酸化性雰囲気を使った。ガラスは上記(1)で使用した同様の組成のガラスを非酸化性雰囲気下、白金るつぼ中1200~1300℃の温度で溶融、攪拌後、予熱した鋳型に流み成形し、徐冷して製造した。」(第5頁右下欄第19行~第6頁左上欄第18行) (カ)「また(nd-1)の値は(nd-1)*10000の値を表す。」(第6頁左下欄第1~2行) (キ)「 [図:0001414188000002.jpg] 」(第6頁右下欄) ウ 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には以下の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、屈折率(Nd)約1.63~1.75、アッベ数(νd)約45~60の範囲の光学恒数と555~640℃の範囲の屈伏点(At)を有する化学的耐久性に優れたB2O3-La2O3-ZrO2および/またはTa2O5-SrO-Li2O系の光学ガラスに関する。」 (イ)「【0012】なお、本発明の光学ガラスに所望の特性を損なわない範囲でNb2O5、TiO2、WO3およびPbO等の成分を添加し得る。また、脱泡清澄剤としてSb2O3、As2O3および弗素(F)等の成分を適量添加し得る。」 エ 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には以下の事項が記載されている。 (ア)「(発明の技術分野) 本発明は高い粘性を有し、直接成形可能な高屈折率低分散光学ガラスに関する。」(第1頁左下欄第16~18行) (イ)「本発明に係るガラスは各成分の原料として、各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物などを使用し、所望の割合に秤取し、必要ならば清澄剤を加え、粉末で充分混合して調合原料と成し、これを1300℃~1500℃に加熱した電気炉に投入し、溶融、清澄剤攪拌均一化を行ない、得られた溶融ガラスを特定形状の鋳型に流し込み直接プレス成形し、徐冷して製造することができる。もちろん、従来法でガラス塊を得ることもできる。」(第2頁右下欄第15行~第3頁左上欄第4行) オ 甲第5号証の記載事項 甲第5号証には以下の事項が記載されている。 「本発明の光学ガラスは、P2O5原料として正燐酸、五酸化燐、メタ燐酸塩等を適宜選択し、これに酸化物、炭酸塩、硝酸塩および弗化物等の原料を混合して、これを約1100~1300℃で溶融し、十分な攪拌と泡切れを行なった後、適当な温度に下げて金型に鋳込んで徐冷することにより容易に製造することができる。」(第4頁右上欄第15行~左下欄第1行) カ 甲第6号証の記載事項 甲第6号証には以下の事項が記載されている。 「本発明に係る光学ガラスは、例えば、各成分の原料として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物等を使用し、所望の割合に秤量し、均一に混合して調合原料となし、これを1200℃~1400℃に加熱した電気炉中の白金るつぼに投入し、熔融、清澄、撹拌し、均一化してから鉄製の鋳型に鋳込んで製造することができる。」(第3頁右下欄第7~13行) キ 甲第7号証の記載事項 甲第7号証には以下の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、SiO2-B2O3-Li2O-ZnO-La2O3を基本組成系からなり、屈折率(nd)が約1.67~1.78、アッベ数(νd)が約48~55である光学ガラスに関する。さらに、本発明による光学ガラスは、低温でのプレス成形が可能であり、特にモールド成形に有用な光学ガラスに関する。」 (イ)「【0015】As2O3、Sb2O3は脱泡剤としてして用いるが、1wt%以下で十分な効果を得ることができる。また、Sb2O3は1wt%を越えるとガラスに着色が認められる。以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。」 ク 甲第8号証の記載事項 甲第8号証には以下の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 本発明は、光学ガラス、光学素子及び光学機器に関する。」 (イ)「【0057】 Sb2O3成分は、溶融ガラスを脱泡する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Sb2O3成分の含有率を1.0%以下にすることで、可視短波長における透過率を悪化し難くし、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くし、Sb2O3成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb2O3成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。Sb2O3成分は、原料として例えばSb2O3、Sb2O5、Na2H2Sb2O7・5H2O等を用いてガラス内に含有することができる。」 ケ 甲第9号証の記載事項 甲第9号証には以下の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。」 (イ)「【0072】 SnO2成分は、溶融ガラスの酸化を低減して溶融ガラスを清澄し、且つガラスの光照射に対する透過率を悪化し難くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SnO2成分の含有量を5.0%以下にすることで、溶融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を生じ難くすることができる。また、SnO2成分と溶解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が低減されるため、溶解設備の長寿命化を図ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSnO2成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、さらに好ましくは1.0%、最も好ましくは0.5%をそれぞれ上限とする。SnO2成分は、原料として例えばSnO、SnO2、SnF2、SnF4等を用いてガラス内に含有することができる。 【0073】 Sb2O3成分は、溶融ガラスを脱泡する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Sb2O3成分の含有量を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb2O3成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb2O3成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。Sb2O3成分は、原料として例えばSb2O3、Sb2O5、Na2H2Sb2O7・5H2O等を用いてガラス内に含有することができる。 【0074】 なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb2O3成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。」 コ 甲第10号証の記載事項 甲第10号証には以下の事項が記載されている。 (ア)「[0001] 本発明は、光学ガラス、プリフォーム材及び光学素子に関する。」 (イ)「[0055] SnO2成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減して清澄し、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。 他方で、SnO2成分の含有量を3.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を低減できる。また、SnO2成分と熔解設備(特にPt等の貴金属)の合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図れる。従って、SnO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.1%未満とする。 SnO2成分は、原料としてSnO、SnO2、SnF2、SnF4等を用いることができる。 [0056] Sb2O3成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。 他方で、Sb2O3量が多すぎると、可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、Sb2O3成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%未満とする。 Sb2O3成分は、原料としてSb2O3、Sb2O5、Na2H2Sb2O7・5H2O等を用いることができる。 [0057] なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb2O3成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。」 サ 甲第11号証の記載事項 甲第11号証には以下の事項が記載されている。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、固体レーザアプリケーション、とりわけ短パルス高ピークパワー(high peak power:高強度)レーザアプリケーションに使用されるガラスに関する。とりわけ、本発明は、固体レーザガラス媒質、特にリン酸塩系ガラス組成物においてレーザ発振イオンとして使用される希土類イオンの発光帯域幅を広げる方法に関する。」 (イ)「【0036】 上記の実施の形態では、As2O3及びSb2O3が、清澄剤及び/又は太陽光遮蔽剤(antisolarants)として使用される。それ故、これらの清澄剤/太陽光遮蔽剤の総量は0.1mol%~1.0mol%である。」 (2)申立理由1(拡大先願要件違反)について ア 先願明細書等に記載された発明 前記(1)ア(ケ)、(シ)、(ス)によれば、「紫外線透過ガラスの製造方法」において、「ガラス原料」を「混合した後、白金製坩堝に投入し」「溶解」する「操作」が記載されている([0069]、[0081]、[0083])。 前記(1)ア(ス)、(セ)によれば、前記「紫外線透過ガラスの製造方法」において、「還元剤としてSnO2を添加」すること、及び表1の「例1-2」のガラス原料が、「SnO2」を「0.5」「質量%」含むことが記載されている([0083]、[0096]の表1)。 前記(1)ア(ス)、(セ)によれば、表1の「例1-2」のガラス原料が、「SiO2」を「2.65」「質量%」、「B2O3」を「35.1」「質量%」、「La2O3」を「47.58」「質量%」、「Y2O3」を「14.18」「質量%」、及び「SnO2」を「0.5」「質量%」含み、その他の成分を含まず、「例1-2」で得た「ガラス」の「屈折率nd」が「1.74」であることが記載されている([0083]、[0096]の表1)。 これらの記載を、「例1-2」の「紫外線透過ガラスの製造方法」に注目して整理すると、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 「ガラス原料を混合した後、白金製坩堝に投入し、溶解する操作を含み、前記ガラス原料が2.65質量%のSiO2、35.1質量%のB2O3、47.58質量%のLa2O3、14.18質量%のY2O3、0.5質量%の還元剤であるSnO2からなり、屈折率ndが1.74であるガラスが得られる、紫外線透過ガラスの製造方法。」 イ 本件発明1について (ア)本件発明1と先願発明との対比 a 本件発明1と先願発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。 (a)先願発明の「ガラス原料を混合した後、白金製坩堝に投入し、溶解する操作」は、本件発明1の「原材料を混合する工程と、混合した前記原材料を白金坩堝に投入し」、「ガラスを熔解する工程」に相当する。 (b)先願発明の「前記ガラス原料が」「0.5質量%の還元剤であるSnO2」を含み、その他の還元剤を含まないことは、本件発明1の「前記原材料が還元剤を1%以下含有すること」に相当する。 (c)先願発明の「紫外線透過ガラス」は、上記(1)ア(ク)の「本紫外線透過ガラスは、光学系に使われる」との記載([0067])、及び同(サ)の「光学素子」や「光学部品」に「用いることができる」との記載([0078])から、本件発明1の「光学ガラス」に相当する。 (d)先願発明の「紫外線透過ガラス」は、そのガラス原料にNb2O5成分、TiO2成分、PbO成分を含有しないから、先願発明の「紫外線透過ガラスの製造方法」は、本件発明1の「質量%で、Nb2O5成分が15%以下またはTiO2成分が40%以下であり、PbO成分を実質的に含有しない光学ガラスの製造方法」に相当する。 b 上記aの対応関係に照らすと、本件発明1と先願発明とは、 「原材料を混合する工程と、 混合した前記原材料を白金坩堝に投入し、ガラスを熔解する工程と、を含み、 前記原材料が還元剤を1%以下含有し、 質量%で、Nb2O5成分が15%以下またはTiO2成分が40%以下であり、PbO成分を実質的に含有しない光学ガラスの製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件発明1は、「ガラスを熔解する工程」において、「水分の供給を行わ」ないのに対して、先願発明では、「ガラスを熔解する工程」において、水分の供給を行っているか否かが不明である点。 <相違点2> 本件発明1は、屈折率(nd)が「1.80以上」であるのに対して、先願発明では、屈折率ndが「1.74」である点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。 先願発明の屈折率ndである「1.74」は、本件発明1の屈折率(nd)の「1.80以上」という数値範囲に含まれないから、上記相違点2は実質的なものであるし、具体化する際の微差程度の事項であるともいえない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が先願発明と同一であるとはいえない。 (ウ)申立人の主張について 申立人は、先願明細書等の記載から、 「屈折率ndが1.7以上の下記ガラス組成1のガラス原料を混合した後、溶融し、これにより得られたガラス溶融液を冷却して固化させる紫外線透過ガラスの製造方法。 (ガラス組成1) 酸化物基準のモル%表示で、 TiO2:0~3%、Nb2O5:0~3%、B2O3:10~80%、SiO2:0~25%、La2O3:2~32%、Y2O3:0~20%、Sb2O3:0~0.1%を含有し、 PbOは実質的に含有せず、 還元剤として、0.3質量%超、3質量%以下の酸化スズを含有、又はガラス100質量%に対して0.2質量%以上1質量%以下の炭素(C)を外添する。」 との発明を認定した上で、ガラス組成1の「屈折率ndが1.7以上」は、設定登録時の請求項1に係る発明の「屈折率(nd)が1.75以上」を満たす旨主張しているが(異議申立書第10頁第14~26行、第14頁第17~19行)、先願明細書等には、ガラス組成1を満足し、屈折率(nd)が1.75以上の具体例は示されていないため、申立人の上記主張は採用できない。 ウ 本件発明2について 本件発明2と先願発明とを対比すると、少なくとも上記イ(ア)bと同じ相違点で相違するから、当該相違点についての判断も上記イ(イ)と同様である。 したがって、本件発明2は、先願発明と同一であるとはいえない。 エ 本件発明3、4について 本件発明3、4は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明3、4と先願発明とを対比すると、少なくとも上記イ(ア)bと同じ相違点で相違するから、当該相違点についての判断も上記イ(イ)と同様である。 したがって、本件発明3、4は、先願発明と同一であるとはいえない。 オ 申立理由1についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。 (3)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)、取消理由1(甲第2号証を主たる証拠とした新規性欠如)、及び取消理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について ア 甲第2号証に記載された発明 前記(1)イ(エ)、(オ)によれば、「光学ガラスの製造」において、「ガラス原料」を「混合」し、「白金るつぼ中」「で溶融すること」が記載されている(第4頁右下欄第17行~第5頁左上欄第10行、第5頁右下欄第18行~第6頁左上欄第18行)。 前記(1)イ(ア)、(ウ)、(オ)、(キ)によれば、前記「光学ガラスの製造」において、「原料中」に「還元性添加物」が含有されること、「還元性添加物」としては「Si」「等が挙げられ」ること、及び表1の実施例「7-R」のガラスが、「Si」を「0.01」含むことが記載されている(特許請求の範囲1、2、第4頁右下欄第1行~右下欄第9行、第5頁右下欄第19行~第6頁左上欄第18行、表1)。 前記(1)イ(ア)、(ウ)によれば、「還元性添加物」である「Si」の含有量について、「Si<0.1重量%である」、「Siについては0.1wt%までの量が好ましい」(特許請求の範囲2、第4頁右下欄第1~9行)と記載されていることから、上記実施例「7-R」のガラスの「Si」の含有量の単位は、「重量%」であると解される。 前記(1)イ(オ)、(キ)によれば、表1の実施例「7-R」のガラスが、「SiO2」を「2」、「B2O3」を「33」、「BaO」を「6」、「La2O3」を「39」、「ZnO」を「15」、及び「ZrO2」を「5」含み、他の成分を含まない「組成ガラス」から「製造」されたものであることが記載されている(特許請求の範囲1、表1)。 前記(1)イ(ア)によれば、「ガラス」中の「SiO2」、「B2O3」、「BaO」、「La2O3」、「ZnO」、及び「ZrO2」の含有量の単位は、「重量%」と記載されていることから(特許請求の範囲1)、上記実施例「7-R」のガラスの「SiO2」、「B2O3」、「BaO」、「La2O3」、「ZnO」、及び「ZrO2」の含有量の単位は、「重量%」であると解される。 前記(1)イ(イ)、(キ)によれば、「屈折率ndが1.63~1.76であ」る光学ガラスが得られること、表1の実施例「7-R」のガラスの「nd-1」が「7489」であることが記載されており、前記(1)イ(カ)に記載された式によれば、上記実施例「7-R」のガラスの屈折率「nd」は、1.7489である(第3頁左下欄第16行~右下欄第3行、第6頁左下欄第1~2行、表1)。 これらの記載を、実施例「7-R」の「光学ガラスの製造」方法に注目して整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 甲2発明 「ガラス原料を混合し、白金るつぼ中で溶融する工程を含み、前記ガラス原料が、2重量%のSiO2、33重量%のB2O3、6重量%のBaO、39重量%のLa2O3、15重量%のZnO、5重量%のZrO2、0.01重量%の還元性添加物であるSiからなり、屈折率ndが1.7489である光学ガラスが得られる、光学ガラスの製造方法。」 イ 本件発明1について (ア)本件発明1と甲2発明との対比 a 本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。 (a)甲2発明の「ガラス原料を混合し、白金るつぼ中で溶融する工程」は、本件発明1の「原材料を混合する工程と、混合した前記原材料を白金坩堝に投入し」、「ガラスを熔解する工程」に相当する。 (b)甲2発明の「還元性添加物」は、本件発明1の「還元剤」に相当する。 (c)甲2発明の「前記ガラス原料が還元性添加物であるSiを0.01重量%含有」することは、上記(a)、(b)の対応関係を踏まえると、「前記原材料が還元剤を1%以下含有すること」に相当する。 (d)甲2発明の「光学ガラス」は、そのガラス原料に、Nb2O5成分、TiO2成分、PbO成分を含有しないから、甲2発明の「光学ガラスの製造方法」は、本件発明1の「質量%で、Nb2O5成分が15%以下またはTiO2成分が40%以下であり、PbO成分を実質的に含有しない光学ガラスの製造方法」に相当する。 b 上記aの対応関係に照らすと、本件発明1と甲2発明とは、 「原材料を混合する工程と、 混合した前記原材料を白金坩堝に投入し、ガラスを熔解する工程と、を含み、 前記原材料が還元剤を1%以下含有し、 質量%で、Nb2O5成分が15%以下またはTiO2成分が40%以下であり、PbO成分を実質的に含有しない光学ガラスの製造方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違している。 <相違点3> 本件発明1は、「ガラスを熔解する工程」において、「水分の供給を行わ」ないのに対して、甲2発明では、「ガラスを熔解する工程」において、水分の供給を行っているか否かが不明である点。 <相違点4> 本件発明1は、「屈折率(nd)が1.80以上であ」るのに対して、甲2発明では、「屈折率(nd)が1.7489である」点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、はじめに、上記相違点4について検討する。 甲2発明の屈折率(nd)の「1.7489」は、本件発明1の屈折率(nd)の「1.80以上」という数値範囲に含まれないから、上記相違点4は実質的なものである。 また、甲第2号証では、「屈折率ndが1.63~1.76」の光学ガラスを得ることを目的としているから(上記(1)イ(イ)第3頁左下欄第17行~右下欄第3行)、甲第3~11号証の記載にかかわらず、甲2発明において、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるともいえない。 よって、相違点3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるといえず、また、甲2発明及び甲第3~11号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものといえない。 なお、甲第1号証は、本件特許出願の優先日後に公開されたものであるから、甲第1号証の記載事項は、進歩性の判断に採用することはできない。 ウ 本件発明2について 本件発明2と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記イ(ア)bと同じ相違点で相違するから、当該相違点についての判断も上記イ(イ)と同様である。 したがって、本件発明2は、甲2発明及び甲第3~11号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものといえない。 エ 本件発明3、4について 本件発明3、4は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明3、4と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記イ(ア)bと同じ相違点で相違するから、当該相違点についての判断も上記イ(イ)と同様である。 したがって、本件発明3、4は、甲2発明であるといえず、また、甲2発明及び甲第3~11号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものといえない。 オ 申立理由2及び取消理由1、2についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由2及び取消理由1、2に理由はない。 (4)申立理由3(サポート要件違反)及び取消理由3(サポート要件違反)について ア 取消理由通知における具体的な指摘事項 「ガラスを熔解する過程で酸化してガラス中に溶け出した白金によるガラスの着色を抑制しながら、可視光の透過率が高」い「光学ガラスを得る」との本件発明の課題(【0003】、【0006】)は、ガラスを熔解する過程で白金坩堝を使用する場合には存在するものの、その他の坩堝、例えば石英坩堝などの坩堝では存在しない課題であるといえるから、ガラスを熔解する過程で白金坩堝以外の坩堝を使用する場合、本件発明の解決しようとする課題を解決するものであると当業者が認識することができるとは認められない。 他方、設定登録時の請求項1に係る発明は、ガラスを熔解する過程で使用する坩堝の材質は特定されておらず、上記課題が存在しない場合を含むものであるから、当業者において、発明の詳細な説明の記載又は出願時の技術常識に照らして、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない。 設定登録時の請求項2に係る発明についても、ガラスを熔解する過程で使用する坩堝の材質が特定されていないことから、事情は同じであり、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものではない。 設定登録時の請求項3、4に係る発明は、設定登録時の請求項1又は2を引用するものであって、事情は同じであるから、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものではない。 したがって、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 イ 当審の判断 本件訂正によって、本件発明1において、ガラスを熔解する過程で使用する坩堝の材質が「白金」に特定されたため、上記課題が存在しない場合を含まないこととなったから、当業者において、発明の詳細な説明の記載又は出願時の技術常識に照らして、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 本件発明2についても、ガラスを熔解する過程で使用する坩堝の材質が「白金」に特定されたことから、事情は同じであり、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。 本件発明3、4は、本件発明1又は2を引用するものであって、事情は同じであるから、上記と同じ理由により、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。 ウ 申立人の主張について 申立理由3(サポート要件違反)のうち、取消理由通知で採用しなかった申立人の主張は、設定登録時の請求項1の組成要件で特定される光学ガラスが、高い蓋然性をもって当該請求項1の物性要件を満たしうるものであることを当業者が認識し得ないから、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、サポート要件を満たさない、というものである(特許異議申立書第18頁第12行~第20頁下から第8行(エ-2 物性要件))。 上記主張について検討すると、当該主張は、本件発明1は、組成要件のすべての範囲で物性要件を満たすことを前提とするものであるところ、本件発明1は、組成要件と物性要件の両方を満たすガラスを特定するものであるから、その前提において誤りがあるといわざるを得ない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 エ 申立理由3及び取消理由3についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由3及び取消理由3に理由はない。 第5 むすび 以上の検討のとおり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701007

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