特許異議申立
2023-700848
光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
- 審判番号
- 2023-700848
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-167245
- 登録番号
- 7227693
- 請求日
- 2023年08月17日
- 審決日
- 2023年11月22日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社オハラ
- 【権利者代理人】右田 俊介
- 【権利者代理人】高橋 政治
- 【権利者代理人】水野 基樹
- 【異議申立人】森 一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.113-Y (C03C) / P1651.121-Y (C03C) / P1651.537-Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7227693号発明「光学ガラス、プリフォーム及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7227693号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7227693号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年8月31日に出願され、令和5年2月14日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~6に係る特許に対して、令和5年8月17日に特許異議申立人森一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
質量%で、
SiO2成分を1.0%超15.0%未満、
B2O3成分を5.0%超25.0%未満、
Y2O3成分を5.0%超25.0%以下、
La2O3成分を4.0%超34.0%未満、
含有し
SiO2成分とB2O3成分を合計7.0%以上32.0%以下、
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計6.0%超50.0%以下、
BaO成分を15.0%超57.0%以下 含有し、
TiO2成分の含有量が0%超23.0%以下、
ZnO成分の含有量が5.0%未満であり、
TiO2成分、ZrO2成分、WO3成分、Nb2O5成分及びTa2O5成分の合計量(質量和)が7.0%以上25.0%未満、
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の合計含有量に対する、BaO成分の含有量の比率(質量比)BaO/Ln2O3が0.50超、
1. 70以上の屈折率(nd)を有し、20以上50以下のアッベ数(νd)を有し、
相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある光学ガラス。
【請求項2】
質量比B2O3/SiO2が0.20以上である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量和(BaO+K2O)が10.0%以上57.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量比(BaO+K2O)/(SiO2+B2O3+ZnO)が0.50超5.00以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光学素子を備える光学機器。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:中国特許出願公開第101973703号公報
甲第2号証:特開2010-83702号公報
甲第3号証:実験成績証明書
甲第4号証:2006 Minerals Yearbook、2008年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第5号証:2007 Minerals Yearbook、2010年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第6号証:2008 Minerals Yearbook、2010年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第7号証:2009 Minerals Yearbook、2011年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第8号証:2010 Minerals Yearbook、2012年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第9号証:2011 Minerals Yearbook、2013年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第10号証:2012 Minerals Yearbook、2016年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第11号証:2013 Minerals Yearbook、2016年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第12号証:2014 Minerals Yearbook、2016年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第13号証:甲第4~12号証の掲載場所、[online]、Rare Earths Statistics and Information、米国地質調査所(U.S.G.S.)、インターネット<https://www.usgs.gov/centers/national-minerals-information-center/rare-earths-statistics-and-information>
甲第14号証:特開2015-127281号公報
甲第15号証:特開2016-155745号公報
甲第16号証:山根 正之ら編、「ガラス工学ハンドブック」、初版第1刷、1999年、株式会社朝倉書店、p.70-72
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第2号証に記載の発明及び甲第3~16号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(サポート要件違反)
請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4) 申立理由4(明確性要件違反)
請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証の実施例5の「光学ガラス」に注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる([0001]、[0003]、[0017]~[0020])。
「重量%で、SiO2成分が5.90%、B2O3成分が24.10%、Y2O3成分が6.70%、La2O3成分が23.10%、BaOが17.20%、TiO2成分が7.00%、ZnO成分が2.30%、Ta2O5成分が5.00%、ZrO2成分が4.00%、Nb2O5が5.80%からなり、1.7853のnd、41.29のνdを有する光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明のガラス組成は合計量が101.10%となっているので、全体を100%になるように組成を換算すると
「重量%で、SiO2成分が約5.84%、B2O3成分が約23.84%、Y2O3成分が約6.63%、La2O3成分が約22.85%、BaOが約17.01%、TiO2成分が約6.92%、ZnO成分が約2.27%、Ta2O5成分が約4.95%、ZrO2成分が約3.96%、Nb2O5が約5.74%からなり、1.7853のnd、41.29のνdを有する光学ガラス。」
となる。
そうすると、甲1発明の「重量%で」「SiO2成分が約5.84%」、「B2O3成分が約23.84%」、「Y2O3成分が約6.63%」、「La2O3成分が約22.85%」、「BaOが約17.01%」、「TiO2成分が約6.92%」、「ZnO成分が約2.27%」は、それぞれ、本件発明1の「質量%で」「SiO2成分を1.0%超15.0%未満」、「B2O3成分を5.0%超25.0%未満」、「Y2O3成分を5.0%超25.0%以下」、「La2O3成分を4.0%超34.0%未満」、「BaO成分を15.0%超57.0%以下」、「TiO2成分の含有量が0%超23.0%以下%」、「ZnO成分の含有量が5.0%未満」に相当する。
また、甲1発明のガラスは上記組成からなるものであり、他成分は含有しないから、Gd2O3、Yb2O3、WO3の含有量は0%となり、SiO2成分とB2O3成分の合計は約29.68%(SiO2(約5.84%)+B2O3(約23.84%))、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)は約29.48%(La2O3(約22.85%)+Gd2O3(0%)+Y2O3(約6.63%)+Yb2O3(0%))、TiO2+ZrO2+WO3+Nb2O5+Ta2O5の合計量は約21.57%(TiO2(約6.92%)+ZrO2(約3.96%)+WO3(0%)+Nb2O5(約5.74%)+Ta2O5(約4.95%))、BaO/Ln2O3は約0.58(BaO(約17.01%)/Ln2O3(約29.48%))となるため、甲1発明の上記組成は、本件発明1の「SiO2成分とB2O3成分を合計7.0%以上32.0%以下」、「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計6.0%超50.0%以下」、「TiO2成分、ZrO2成分、WO3成分、Nb2O5成分及びTa2O5成分の合計量(質量和)が7.0%以上25.0%未満」「含有」し、「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の合計含有量に対する、BaO成分の含有量の比率(質量比)BaO/Ln2O3が0.50超」との規定を満足する。
また、甲1発明の「1.7853のnd、41.29のνd」は、本件発明1の「1.70以上の屈折率(nd)を有し」、「20以上50以下のアッベ数(νd)を有し」との規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
(相違点1)
本件発明1のガラスは、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内であるのに対し、甲1発明ではその値が不明である点。
(イ) 相違点の検討
相違点1について検討すると、甲1発明の光学ガラスについて、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内であることを示す証拠はないから、相違点1は実質的なものであるし、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易想到の事項ともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、上記相違点に関して、次のことを主張している。
甲1発明のガラスは、本件特許明細書において、相対屈折率の温度係数に影響を及ぼす成分のうち、K2O含有量及び質量比B2O3/SiO2を除いて本件特許明細書記載の好ましい範囲を満たしている。そして、K2Oは「必須成分」であるとの記載はあるものの(【0032】)、実施例1~6、8、9、13、14の記載からは「任意成分」の誤記と認められるし、質量比B2O3/SiO2については、「相対屈折率の温度係数をより小さくできるため、好ましくは3.00未満」とすることが記載されてはいるが、無限大でよいことも記載されている(【0053】)。そうすると、甲1発明は、本件特許明細書に記載されている、相対屈折率の温度係数に影響を及ぼす成分の好ましい範囲又は許容範囲を満たしているため、本件発明1の相対屈折率の温度係数の数値範囲を満たす蓋然性が高い。
b 申立人の主張の検討
本件発明1は、ガラス成分の含有量や質量比の数値範囲を示したガラス組成を特定しつつ、当該ガラス組成の範囲内において、相対屈折率の温度係数等の物性を満たす光学ガラスを特定するものである。そして、本件特許明細書に記載された相対屈折率の温度係数に影響を及ぼす成分の好ましい範囲を満たせば、本件発明1の相対屈折率の温度係数を満足するものでもないから、甲1発明のガラス組成が、本件特許明細書の前記好ましい範囲又は許容範囲を満たしていることをもって、本件発明1の物性を満足しているということはできない。
したがって、前記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
甲第2号証の実施例2-10に示すガラス組成(表2)に、添加剤をNo.1に示す量(表8)で添加した「光学ガラス」に注目すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる(【0010】、【0011】、【0041】~【0042】、【0050】、【0056】)。
「ガラス成分として、質量%で、SiO2成分が8.0%、B2O3成分が15.6%、Y2O3成分が5.0%、La2O3成分が21.3%、BaOが22.0%、TiO2成分が13.1%、ZnO成分が3.9%、WO3成分が4.5%、CaO成分が2.0%、Li2O成分が0.5%、Al2O3成分が4.1%からなり、1. 86の屈折率(nd)、32.7のアッベ数(νd)を有する光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「SiO2成分が8.0%」、「B2O3成分が15.6%」、「La2O3成分が21.3%」、「BaOが22.0%」、「TiO2成分が13.1%」、「ZnO成分が3.9%」は、それぞれ、本件発明1の「SiO2成分を1.0%超15.0%未満」、「B2O3成分を5.0%超25.0%未満」、「La2O3成分を4.0%超34.0%未満」、「BaOを15.0%超57.0%以下」「含有し」、「TiO2成分の含有量が0%超23.0%以下」、「ZnO成分の含有量が5.0%未満」に相当する。
また、甲2発明のガラスは、上記組成からなるものであり、他成分は含有しないから、Gd2O3、Yb2O3、ZrO2、Nb2O5、Ta2O5の含有量は0%となり、SiO2成分とB2O3成分の合計は23.6%(SiO2(8.0%)+B2O3(15.6%))、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)は26.3%(La2O3(21.3%)+Gd2O3(0%)+Y2O3(5.0%)+Yb2O3(0%))、TiO2+ZrO2+WO3+Nb2O5+Ta2O5の合計量は17.6%(TiO2(13.1%)+ZrO2(0%)+WO3(4.5%)+Nb2O5(0%)+Ta2O5(0%))、BaO/Ln2O3が0.84(BaO(22.0%)/Ln2O3(26.3%))となるため、甲2発明の上記組成は、本件発明1の「SiO2成分とB2O3成分を合計7.0%以上32.0%以下、」、「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計6.0%超50.0%以下」、「TiO2成分、ZrO2成分、WO3成分、Nb2O5成分及びTa2O5成分の合計量(質量和)が7.0%以上25.0%未満」「含有」し、「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の合計含有量に対する、BaO成分の含有量の比率(質量比)BaO/Ln2O3が0.50超」との規定を満足する。
また、甲2発明の「1. 86の屈折率(nd)、32.7のアッベ数(νd)」は、本件発明1の「1.70以上の屈折率(nd)を有し」「20以上50以下のアッベ数(νd)を有し」との規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
(相違点2)
本件発明1のガラスはY2O3成分を5.0%超25.0%以下含有するのに対し、甲2発明はY2O3成分を5.0%含有する点。
(相違点3)
本件発明1のガラスは、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内であるのに対し、甲2発明ではその値が不明である点。
(イ) 相違点の検討
相違点2、3について検討すると、少なくとも、相違点2は実質的なものである。
次に、相違点2、3に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性について検討する。本件発明1が容易想到であるといえるためには、甲2発明において、Y2O3成分を5.0%超含有するように組成を変更すること、及び、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)とすることが容易想到であるといえることが必要である。
しかし、甲第2号証には、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)を調整するという技術思想については記載も示唆もなく、甲第4~16号証についても同様である。また、甲第3号証は本件特許出願前の刊行物等ではない。そうすると、甲2発明において、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が「+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)」を満たすように、「Y2O3成分を5.0%超」含有するように組成変更することは、当業者にとって、容易想到の事項であるといえない。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第2~16号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲第2~16号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
エ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3) 申立理由3(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そこで、これを本件発明1に当てはめると、本件発明1は、前記第2に記載したとおり、ガラス組成の範囲(組成要件)と、「1.70以上の屈折率(nd)を有し、20以上50以下のアッベ数(νd)を有し、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある」こと(物性要件)を特定した発明といえるところ、このような組成要件と物性要件により特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、組成要件により特定される光学ガラスが、発明の詳細な説明に記載されていることに加えて、組成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって物性要件を満たすものであることを、発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が認識できることを要する。
以下、この観点で検討を行う。
イ サポート要件適合性の判断
(ア) 本件発明の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0005】~【0007】の記載からして、本件発明の課題は、高屈折率高分散の光学特性を有し、且つ、相対屈折率の温度係数が低い値をとり、温度変化による結像特性への影響の補正に寄与できる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供することであるといえる。
(イ) 特許請求の範囲の記載について
特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記第2に記載したとおりであって、本件発明1は、ガラス組成の範囲(組成要件)と、「1.70以上の屈折率(nd)を有し、20以上50以下のアッベ数(νd)を有し、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある」こと(物性要件)を特定した発明といえる。
(ウ) 発明の詳細な説明の記載について
a 本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0065】~【0069】には、本件発明1の物性要件に関して、屈折率(nd)は1.70を下限とし、アッベ数(νd)は20を下限とし50を上限とする範囲にあることが好ましいこと(【0065】)、相対屈折率の温度係数(dn/dT)が+3.0×10-6(℃-1)を上限とし、-10.0×10-6(℃-1)を下限とする範囲にあることが好ましいこと(【0067】)が記載されており、このような物性により、本件発明の課題を解決できるものといえる。
b また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例欄(【0071】~【0082】)には、実施例1~17として、SiO2成分を9.70~17.40%、B2O3成分を4.70~10.41%、Y2O3成分を0~15.37%、La2O3成分を4.11~38.05%含有し、SiO2成分とB2O3成分を合計16.78~22.62%、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計11.12~41.48%、BaO成分を19.29~47.74%、TiO2成分を0~13.20%、ZnO成分を0~1.77%未満含有し、 TiO2成分、ZrO2成分、WO3成分、Nb2O5成分及びTa2O5成分の合計量(質量和)が10.35~30.84%、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の合計含有量に対する、BaO成分の含有量の比率(質量比)BaO/Ln2O3が0.53~2.69のガラス組成を有し、屈折率(nd)が1.760~1.890、アッベ数(νd)が31.7~44.0、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+2.8×10-6~-1.5×10-6(℃-1)である光学ガラスが記載されている。
そして、実施例1~17の光学ガラスは、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が、前記物性を満たしていることからして、本件発明の課題を解決できるものといえ、さらに、実施例1~17のガラス組成の範囲内であれば、高い蓋然性をもって前記物性を満たしていると当業者が認識できる。
c 加えて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0025】~【0063】には、ガラス成分について、各成分の役割や、各成分の含有量や質量和、質量比の好ましい範囲が記載され、SiO2成分を1.0%超15.0%未満(【0030】)、B2O3成分を5.0%超25.0%未満(【0031】)、Y2O3成分を5.0%超25.0%以下(【0035】)、La2O3成分を4.0%超34.0%未満(【0033】)、SiO2成分とB2O3成分を合計7.0%以上32.0%以下(【0025】)、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計6.0%超50.0%以下(【0026】)、BaO成分を15.0%超57.0%以下(【0027】)、TiO2成分を0%超23.0%以下(【0028】)、ZnO成分を5.0%未満(【0029】)含有し、TiO2成分、ZrO2成分、WO3成分、Nb2O5成分及びTa2O5成分の合計量(質量和)を7.0%以上25.0%未満(【0057】)、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の合計含有量に対する、BaO成分の含有量の比率(質量比)BaO/Ln2O3を0.50超(【0052】)とすることが好ましいことが記載されており、前記a及びbで検討した事項も併せ考えれば、これらの成分の含有量、質量和及び質量比の範囲内であれば、高い蓋然性をもって前記物性要件を満たすことを当業者であれば認識できる。
(エ) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
本件発明1の組成要件は、前記第2のとおりのものであるところ、当該組成要件は、前記(ウ)cで検討した各成分の含有量、質量和及び質量比の範囲内であるし、また、本件発明1の物性要件は、前記(ウ)aで検討した物性であるから、本件発明1の組成要件により特定されるガラスは、発明の詳細な説明に記載されているといえるし、さらに、当該組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもって本件発明1の物性要件を満たすことを当業者であれば認識できる。
(オ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されものである。また、本件発明2~6も事情は同じであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、以下のa及びbの主張をしている。
a 本件発明2の「B2O3/SiO2が0.2以上」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0030】には、SiO2を0超%含有することによって化学的耐久性が高まることが記載されており、【0031】には、B2O3を28.0%以下にすることで化学的耐久性の悪化を抑えられることが記載されており、【0053】には、B2O3/SiO2を大きくすることで、ガラスの化学的耐久性を高められることが記載されている。そうすると、【0030】、【0031】の記載からは、SiO2が多くB2O3が少ない、すなわちB2O3/SiO2が小さい方が化学的耐久性が高いと解されるが、【0053】にはB2O3/SiO2を大きくすることで、ガラスの化学的耐久性を高められると記載されており、これらの記載が矛盾するため、「B2O3/SiO2が0.2以上」について根拠がなく、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
b 発明の詳細な説明の【0032】には、K2Oが必須成分であることが記載されているが、これが誤記でないならば、本件発明1~6ではK2Oが必須成分とされていないため、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
(イ) 申立人の主張の検討
a 上記(ア)aの主張について
本件発明1は上記イで検討したとおり、本件発明の課題を解決するものであり、発明の詳細な説明に記載されたものである。そうすると、本件発明1を引用する本件発明2は、当然に、本件発明の課題を解決するものであり、発明の詳細な説明に記載されたものである。
そして、本件特許明細書の【0030】に記載されているのは、「SiO2を0超%含有すること」によって化学的耐久性が高まることであって、「SiO2の含有量が増加すること」によって化学的耐久性が高まることではないし、【0031】に記載されているのは「B2O3を28.0%以下にすること」で化学的耐久性の悪化を抑えられることであって「B2O3含有量を減少させること」で化学的耐久性の悪化を抑えられることではない。そうすると、申立人の「B2O3/SiO2が小さい方が化学的耐久性が高いと解される」という主張は前提において誤っている。
したがって、上記主張は採用できない。
b 上記(ア)bの主張について
本件特許明細書の実施例には、K2Oを含有しないものが多数記載されており、【0032】のK2Oが必須成分であるとの記載は誤記と解される。したがって、上記主張は前提を欠いているため、採用できない。
エ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
(4) 申立理由4(明確性要件違反)について
ア 申立人の指摘事項
(ア) 本件発明1には「Y2O3成分を5.0%超25.0%以下」、「La2O3成分を4.0%超34.0%未満」、「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計6.0%超50.0%以下」との特定がある。「Y2O3成分を5.0%超25.0%以下」、「La2O3成分を4.0%超34.0%未満」からは、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の下限は9.0%となるところ、「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計6.0%超50.0%以下」との記載と矛盾し、その下限が不明である。
(イ) 本件発明1には「SiO2成分を1.0%超15.0%未満」、「B2O3成分を5.0%超25.0%未満」と特定されており、B2O3/SiO2は5.0/15.0=0.33超が下限となるところ、本件発明1を引用する本件発明2では質量比B2O3/SiO2が0.20以上とされており、記載が矛盾するため、その下限が不明である。
(ウ) 本件発明1には「BaO成分を15.0%超」と特定されているところ、本件発明1を引用する本件発明3では質量和(BaO+K2O)が10.0%以上とされており、記載が矛盾するため、その下限が不明である。
イ 明確性要件違反についての検討
本件特許発明1~6の「酸化物換算組成」は、特定された成分の各含有量範囲、及び、特定された成分質量比の数値範囲の全てを満たす組成であることを、当業者であれば理解できる。したがって、(ア)の「Y2O3成分を5.0%超25.0%以下」、「La2O3成分を4.0%超34.0%未満」、「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計6.0%超50.0%以下」、(イ)の「SiO2成分を1.0%超15.0%未満」、「B2O3成分を5.0%超25.0%未満」、「質量比B2O3/SiO2が0.20以上」、(ウ)の「BaO成分を15.0%超」、「質量和(BaO+K2O)が10.0%以上」のいずれも、これらの特定事項の各数値範囲のうち、全てを満たす数値範囲を示していることは明らかであるから、上記指摘事項は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどのものとはいえない。
したがって、申立人の論拠は採用できない。
ウ 申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4は理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700848